2022年8月14日日曜日

トランプ前大統領に〝スパイ容疑〟機密文書11件を押収 「捜査は不当」と大激怒 「共和党潰し」の声も 「韓国のようで、異例ずくめ」―【私の論評】米民主党はトランプ弾劾に続き、スパイ容疑でトランプ氏を貶めようとしたが、失敗に終わる(゚д゚)!

トランプ前大統領に〝スパイ容疑〟機密文書11件を押収 「捜査は不当」と大激怒 「共和党潰し」の声も 「韓国のようで、異例ずくめ」

マルアラーゴ

 ドナルド・トランプ前米大統領に、スパイ法違反容疑が直撃している。米連邦捜査局(FBI)は、トランプ氏が退任時に重要な国家機密を持ち出した容疑で、フロリダ州の邸宅「マールアラーゴ」の家宅捜索を行い、11件もの機密文書を押収していたという。FBIによる、前大統領への強制捜査は極めて異例で、2024年の次期大統領選への出馬に意欲を示しているトランプ氏は捜査は不当だなどと激怒している。まるで隣国のような騒動だが、一体何が起きているのか。


 米紙ウォールストリート・ジャーナル(電子版)や、米紙ワシントン・ポスト(同)などの報道によると、FBIは8日、フロリダ州パームビーチにあるトランプ氏の邸宅「マールアラーゴ」の家宅捜索を行い、11点の書類などを押収した。捜索時は、トランプ氏は不在だったという。

 容疑は、国立公文書館(NARA)に引き渡すことが義務付けられている大統領在任中の機密文書を、トランプ氏側が保管しているというもの。フロリダ州の連邦裁判所が、捜索令状や付属文書を公開した。

 約20箱分の押収物品には、米国の最高機密文書にあたる文書も含まれているといい、押収品のリストには、写真がまとめられたバインダー、手書きのメモなどのほか、フランス大統領に関する情報と分類されたものもあった。

 トランプ氏は家宅捜索を受け、「すべて機密解除された文書だ」と反論する声明を発表した。「(マールアラーゴは)現在、包囲され、捜索され、占拠されている」「関連する政府機関と協力しており、この抜き打ちの家宅捜索は必要でも適切でもなかった」と、怒りをぶちまけた。

 ワシントン・ポストは、今回の捜索について、核兵器に関連する機密文書を捜すためだったが、実際に押収したかは不明だと報じている。

 核兵器に関する機微な情報が含まれる文書は、限られた政府関係者しか触れることができない。もし、トランプ氏が外部に持ち出して機密漏洩(ろうえい)があれば、敵対国を利するうえ、他国の不安も招くという指摘がある。

 こうしたなか、メリック・ガーランド司法長官は11日の記者会見で、「捜索令状を申請する決定は、私自身が承認した」と明言した。容疑については明かさなかったが、「前大統領が捜索を公に認めたことや、公益性」を考慮して、捜査状況を公表したと説明した。

 今回の捜索をめぐっては、支持率低下が著しいジョー・バイデン大統領(民主党)の政権側が、11月の中間選挙や次期大統領選を見据えながら、「トランプ潰し」「共和党潰し」を狙ったとの指摘もある。バイデン氏は2020年の大統領選で、共和党候補のトランプ氏を接戦の末、破った。

 共和党の一部や、トランプ支持者は「FBIの政治利用」と猛烈に批判しているが、ガーランド氏は先の会見で、「司法省がこのような決定を軽々しく行うことはない」と強調した。

 トランプ支持者とみられる人物の過激事件も発生した。

 米中西部オハイオ州シンシナティのFBI事務所に11日、武装した男が侵入を試みて逃走、警察との銃撃戦の末、射殺された。男はトランプ氏の熱烈な支持者だったとみられる。

■島田教授「政争の一面」

 トランプ氏は、大統領在任中も過激な言動で注目を集め、熱狂的な支持者らが連邦議会議事堂に乱入する事件も起きている。今回のFBIの捜索への報復を叫ぶ声も一部で強まっており、緊張が高まっている。

 米国政治に詳しい福井県立大学の島田洋一教授は「今回の捜査は、政争の一面がある。背景には、バイデン氏の次男、ハンター氏が役員を務めていたウクライナ企業などから得た報酬をめぐる疑惑がある。米議会では、共和党がハンター疑惑を徹底追及する構えで、その前にバイデン氏側が政敵に攻撃を仕掛けたかたちだ。大統領が退任時に文書を持ち出すことは過去にもあり、さまざまな手続きで適正な管理が行われてきた。捜査の是非で米国世論が分断され、党派で激しく対立している。辞めた大統領を捜査する動きは、さながら韓国のようで、異例ずくめだ」と語っている。

【私の論評】米民主党はトランプ弾劾に続き、スパイ容疑でトランプ氏を貶めようとしたが、失敗に終わる(゚д゚)!


米連邦捜査局(FBI)が8日、ドナルド・トランプ前大統領のフロリダ州パームビーチ「マールアラーゴ」別荘を家宅捜索したのに続き、10日(現地時間)には検察がトランプ氏を呼んで捜査しました。

そもそも、自分が大統領時代の公文書を、退任してからも、一定期間保管しているというのは、トランプ氏だけではなく、自らが関わった外交上の問題などについて曖昧な部分を確認して、何か新たな問題が発生したとき備え等や、将来の回想録などの準備として、歴代の大統領が実施してきたことです。オバマ氏もそうしていました。

今回のこのような暴挙によって246年の米国史上初めて元大統領が刑事起訴される可能性が高まり、マールアラーゴとニューヨークのトランプタワーなどではバイデン大統領の支持者とトランプ氏の支持者がそれぞれ賛否デモを行いました。

FBIによる強制捜査を受けて、トランプ氏の邸宅「マールアラーゴ」には複数の支持者が集まった。8日

ニューヨークタイムズ(NYT)・CNBCなどによると、トランプ氏はこの日、ニューヨーク州の検察当局で行われた約6時間ほど調査で「自身の証人になることを強要されてはならない」という修正憲法第5条を根拠に黙秘権を行使しました。トランプ氏はすべての質問に「同じ(Same Answer)」という言葉を440回以上繰り返したといいます。

トランプ氏は調査前に立場を表明し「人種差別論者のニューヨーク州司法長官に会うことになった」とし「米国史上最大の魔女狩りの一環」と主張しました。民主党支持者の黒人女性レティシア・ジェームズ・ニューヨーク州司法長官が政治的な理由で自身を標的捜査するという意味です。

ニューヨーク州の検察当局は、トランプ一家が保有不動産の資産価値を脱税のために縮小し、銀行の融資を受ける過程では膨らませたという容疑を過去3年間にわたり捜査してきました。

捜査をめぐり米メディアの意見も分かれました。ワシントンポストのコラムニスト、イシャン・サルア氏は9日、「米国、元指導者を捜査する民主国家に合流」というコラムで「米国に前例がないだけで、健全な民主主義国家が元指導者を調査して有罪で収監するのは正常」とし「誰も法の上に存在しないというのは民主主義国家の基本」と指摘しました。

続いて韓国の李明博(イ・ミョンバク)朴槿恵(パク・クネ)元大統領に対する処罰に言及しながら「韓国は米国のように政治的に二極化したが、元大統領に対する怒りを眠らせ、保守から進歩、また保守への平和で民主的な政権交代を成し遂げた」とし「米国人はこれに注目すべき」と強調しました。ブルームバーグ通信のコッシュ氏は「元国家首班が法の審判台に立つのは民主主義の尺度になる」と評価しました。

李明博元大統領(左)と朴槿恵元大統領

一方、ウォールストリートジャーナル(WSJ)はこの日、[FBIの危険なトランプ捜索」と題した社説で「家宅捜索が11月の中間選挙を約90日後に控えて行われ、政治的な目的が疑われる」とし「ガーランド司法長官が米国を危険な道に導いている」と批判しました。

WSJは「トランプ氏が容疑を晴らすことになれば『殉教者』のイメージで2024年の大統領選挙に出馬し、自身に否定的だった共和党員の支持まで受けることができるだろう」と予想しました。NYTも「トランプ氏が『魔女狩りされた殉教者』イメージを固めるかもしれない」とし「今回の捜査が『弱者』である前大統領に対する政治報復として映り、支持層結集の好材料になる可能性がある」と指摘しました。

今年の米中間選挙は11月8日に行われ、連邦議会の選挙では上院の100議席のうち35議席と下院の435議席すべてが改選される予定で、現在、上下両院ともに主導権を握る与党・民主党が議席を維持できるかが最大の焦点です。

ただ、バイデン大統領の支持率は今月4日時点の各種世論調査の平均で39.6%と、アメリカ国内で続く記録的なインフレなどを背景に低迷しています。


中間選挙は歴史的に政権与党に厳しい結果になることが多く、今回も与党・民主党の苦戦を予想する見方が広がっています。

米国では物価の高騰が市民生活を直撃し、国民の不満がバイデン政権に向かっていて、特定の支持政党がないいわゆる無党派層や民主党支持層の間でも支持が揺らいでいます。

中間選挙で与党・民主党の苦戦を予想する見方が広がるなか、攻勢を強めているのが共和党のトランプ前大統領です。

220人以上の候補者に推薦を出して勢力を広めつつ、共和党内の「反トランプ派」には「刺客候補」をぶつけて再選を阻んできました。近く、2年後の大統領選に向けた出馬宣言をするかどうかも注目されています。

 「また1人、弾劾(だんがい)者を倒した」。今月10日、トランプ氏は祝福の言葉をSNSに投稿しました。

ワシントン州における下院議員候補を決める予備選で、7選を狙った共和党のボイトラー下院議員が敗れたためだ。代わって当選したのは、トランプ氏が送り込んだ「刺客候補」でした。

昨年1月の議会襲撃事件を受け、民主党はトランプ氏の弾劾(だんがい)訴追を提案しました。これに共和党から賛成した下院議員が10人。これらの議員が「裏切り者」として狙い撃ちにされているのです。

10人のうち、予備選を勝ち抜いて11月の中間選挙に出馬できる議員は2人にとどまります。3人は予備選で「刺客」に敗れ、4人は不出馬を決めました。

そして最後の1人が、リズ・チェイニー下院議員だ。ブッシュ(子)政権の副大統領だったディック・チェイニー氏を父に持ち、自らも過去3回の選挙で圧勝してきました。

ところがトランプ氏を批判したことで状況は一変しました。16日に投開票されるワイオミング州予備選に向けて、世論調査では「刺客候補」にリードを許す苦しい展開となっています。

リズ・チェイニー氏

中間選挙をめぐり、トランプ氏は刺客候補を含む220人以上(上下院、州知事選など)の候補者たちに推薦を出してきました。

このようなトランプ氏の動きに、脅威をいだき、とにかくトランプ大統領再選絶対阻止の構えのなかで、今回のスパイ法違反容疑の件が浮上してきています。これは、露骨なトランプ叩きの一環と断言しても良いでしょう。

民主党のどのレベルがこのようなことを実行する決定をしたのか、わかりませんか、相当ハイレベルなところでの決定であることは間違いなです。そうでないと、FBIや司法省を動かすことはできません。

しかし、このようなことをしても、トランプ氏をスパイ容疑で逮捕するのは、かなり難しいでしょう。なにしろ、トランプ氏は大統領のときに、スパイなどの取締を強化した張本人です。そのような人物を、スパイ容疑で逮捕するのは至難の業でしょう。

ただ、民主党はそれを認識した上で、そのようなことをした可能性が高いです。このブログでも指摘したように、民主党はそのようなことは不可能と知った上で、トランプ氏を弾劾しようとしました。これは、当然のことながら失敗しました。

そのようなことをなぜしたのかとえば、弾劾できるできないは別にして、トランプ氏にマイナスのイメージを植え付けようとしたのでしょう。とにかく、トランプ氏大統領再選の芽を摘んでおきたいというのが本音でしょう。

民主党は、トランプ氏を本気でスパイ容疑で逮捕させようとしているわけではないのでしょう。本気だとすれば、弾劾の時のように相当いかれていると言わざるを得ません。これも、やはりトランプ氏にマイナスのイメージを植え付ける一環だと考えられます。

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2022年8月13日土曜日

オリビア・ニュートン・ジョンさん、豪州で国葬 遺族が申し入れ受け入れる―【私の論評】世界標準では、国葬に対して異議を唱えることかできるのは遺族のみ(゚д゚)!

オリビア・ニュートン・ジョンさん、豪州で国葬 遺族が申し入れ受け入れる

在りし日のオリビア・ニュートン・ジョンさん

 オーストラリアで故オリビア・ニュートン・ジョンさんの国葬が執り行われることが明らかになった。73歳で帰らぬ人となった世界的歌手の遺族が、国葬の申し入れを承諾したという。

  甥のトッティ・ゴールドスミスさんは、同国の報道番組に「私達はそれを受け入れます。私達の家族に代わってだけでなく、オーストラリアもそれを必要としていると思います。彼女はとても愛されていましたから」「私達の国がそれを必要としていることから、私達はそれを受け入れることにしました」と話している。

 日時や会場など詳細については明らかにされていないが、遺族とビクトリア州のダニエル・アンドリュース首相や関係部署の間で話し合いが続いているという。

  アンドリュース首相は先日、公式な追悼式典を行うことを発表していた。

【私の論評】世界標準では、国葬に対して異議を唱えることかできるのは遺族のみ(゚д゚)!

オリビア・ニュートン・ジョンさんは、「カントリー・ロード」など日本でも大ヒットを飛ばし、2021年には日本の勲章の一つ「旭日小綬章」を授与されていました。

追悼の意味も含めて、以下にオリビア・ニュートン・ジョンさんの動画を掲載させていただきます。本当に懐かしいです。あらためて、ご冥福をお祈りさせていただきます。


上の記事で国葬について、遺族の語ったところがあります。
甥のトッティ・ゴールドスミスさんは、同国の報道番組に「私達はそれを受け入れます。私達の家族に代わってだけでなく、オーストラリアもそれを必要としていると思います。彼女はとても愛されていましたから」「私達の国がそれを必要としていることから、私達はそれを受け入れることにしました」と話している。

これからもわかると思いますが、普通国葬に意義を唱えることができるのは、遺族だということです。そうして、おそらく、国葬を中止するには、一人や二人の遺族ではなく、圧倒的多数の遺族が反対する場合に限ると思います。それも、何か特殊な場合に限ると思います。これは社会常識だと思います。

岸田首相は記者会見(7月14日)で、国葬儀について以下のように述べています。
国葬儀、いわゆる国葬についてですが、これは、費用負担については国の儀式として実施するものであり、その全額が国費による支弁となるものであると考えています。 
そして、国会の審議等が必要なのかという質問につきましては、国の儀式を内閣が行うことについては、平成13年1月6日施行の内閣府設置法において、内閣府の所掌事務として、国の儀式に関する事務に関すること、これが明記されています。 
よって、国の儀式として行う国葬儀については、閣議決定を根拠として、行政が国を代表して行い得るものであると考えます。これにつきましては、内閣法制局ともしっかり調整をした上で判断しているところです。こうした形で、閣議決定を根拠として国葬儀を行うことができると政府としては判断をしております。
アンドリュース首相が、オリビア・ニュートン・ジョンさんの公式な追悼式典を実施すると述べていたように、国葬儀はあくまでも政府による公式な追悼式典であり、これには内閣設置法という明確な法的根拠があります。

これは追悼式典であり、お葬式ではありません。安倍元首相の場合は、すでに葬式は終わっています。オリビア・ニュートン・ジョンさんもすでに終了しているでしょう。

安倍元総理の追悼式典を実施することには、明確な法的根拠もあり、遺族の反対もないということであれば、これに反対する意味など全くありません。というより、遺族以外の人がこれに反対するなどということは、お過度違いというか無礼です。

このあたりの背景について、以下の動画で高橋洋一氏が語っています。


来月27日に行われる安倍元総理大臣の「国葬」に反対する市民グループが、予算の執行などをさせないよう求めた仮処分の申し立てについて、東京地方裁判所は「『国葬』によって思想や良心の自由が侵害されるとはいえない」として、退ける決定をしました。

当然といえば、当然です。仮にオーストラリアで、ニュートンジョンさんの遺族でもない人が、国葬反対などと叫んでみても、誰にも相手にされないでしょう。

それは、日本でも同じことです。安倍元総理の遺族でもない人が、国葬反対などと叫んでみても、本来誰にも相手にされないのが、世界標準なのです。

このようなことを言うと反発する人もいるかもしれませんが、たとえば社葬を例にとると理解しやすいと思います。

これについては詳細は以下の記事をご覧になってください。
社葬とは?社葬の種類・個人葬との違い・税法上の取り扱いなど
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下に一部を引用します。
社葬とは、会社が運営主体となって執り行われる葬儀のことです。社葬と聞くと大きな会社が執り行うイメージがありますが、社葬には税制上のメリットなどもあり、中小企業や自営業の方にもおすすめの形式です。
一般葬も社葬も、故人の死を悼み、遺族の悲しみを慰めるという目的は同じですが、社葬を執り行うことにはそのほかにも大切な目的があります。

社葬は、社内外に故人の功績を称え、故人の会社に対する想いを引き継いでいく意思をアピールする場でもあります。また、代表者が亡くなった場合は、後継者が取引先や社員など、関係者に対して事業の承継を宣言する場でもあります。

今後の体制が盤石であるということを示すためにも、社葬を滞りなく運営することが重要です。社葬が、今後の会社のイメージを左右することもあります。
ますば、社葬に関して、社外の人が反対するのは変ですし、会社内では、最終意思決定は取締役会などで決められると思います。これに対して、異議を申し立てる人がいるとすれば、遺族くらいしかいないと思います。社員で異議を唱える風変わりな人などは、いないのが普通だと思います。

それに、中小企業などは別にして、大企業の場合は、遺族による葬儀が終わったあとに、社葬が行われるのが普通です。

チエル株式会社の社葬の看板

日本は、民主国家であるため、国葬儀に絶対反対というのであれば、それを阻止する方法はあります。裁判に訴えようとする人もいますが、政府の式典に関する法的根拠は内閣府設置法に定めてあるので、この内閣設置法に明らかに反していない限り、それは司法が関与すべきではないと判断するのが普通です。

それでも絶対反対というのであれば阻止する方法はあります。国葬に反対する国会議員を4分の1以上集め国会を召集し、議員の過半数を固め内閣不信任を成立させ解散に追い込みます。その後、反対する野党で政権交代を果たします。その後に、新政権で中止の閣議決定をします。そうすば、阻止できますが、まずは無理でしょう。

私自身は、安倍元総理の国葬儀は、オリンピックと同じようなことになると思います。オリンピックの開催には反対意見も多かったのですが、実際に観客なしという変則的な形であっても開催されてしまうと、テレビは普通に報道しましたし、ほとんどの人がそれなりにテレビなどで観戦していました。

開催された後でも声高に反対を叫ぶ人はあまりいませんでした。

安倍元総理の国葬儀も同じことだと思います。多くの国々からハイクラスの弔問客が訪れれば、これはテレビなどでも普通に報道されるでしょう。これは、世界中のマスメディアがとりあげるでしょう。日本のメディアも熱心にとりあげることになるでしょう。

ハイレベルの弔問客の多さに、多くの人は改めて、安倍元総理の業績の大きさに気付かされるでしょう。さらに、岸田政権と他国のハイレベル弔問客との会談が催されるでしょう。あるいは、弔問客同士の会議も開催されるかもしれません。これが良い結果を生み出せば、これも報道されることになるでしょう。

このような中、反対の声を上げ続ける人も一部いるでしょうが、なにやら場違い感を与えるだけになるでしょう。

安倍元総理を極悪人だと思っていた、ワイドーショー民である老人たちも、考えを改めるかもしれないとも思ったのですが、これは無理でしょう。

ワイドーショーでは、国葬が執り行わている間でも「安倍批判」「統一教会批判」を行うコメンテーターも存在するでしょう。

ますますワイドショーにのめりこみ、テレビや新聞の情報操作により歪められた現実の妄想世界に没入し、「アベガー、アベガー」と叫び、認知症を悪化させることになるかもしれません。こういう人たちにつける薬はないのかもしれません。

岸田政権としては、この機会を逃さず、せっかく安倍元総理が築いた各国との良い関係を継続できるように努力していただきたいものです。

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2022年8月12日金曜日

エストニアとラトビア、中国との経済枠組みを離脱 リトアニアに続く―【私の論評】国内投資で失敗続きの中国が、国際投資の離れ業などできないことは、最初からわかりきっていた(゚д゚)!

エストニアとラトビア、中国との経済枠組みを離脱 リトアニアに続く

バルト三国

バルト3国のエストニアとラトビアは11日、中国との経済的な協力枠組みからの離脱を決めたと発表した。枠組みにはかつて中東欧などの17カ国と中国が参加していたが、リトアニアが昨年離脱を宣言しており、これでバルト3国全てが離脱することになった。

 枠組みは2012年に始まり、巨大経済圏構想に関する経済協力などを掲げていた。エストニアとラトビアの外務省は「中国とは今後、国際ルールに基づく秩序と人権を尊重した協力を通じ、建設的で実利的な関係を築く努力を続ける」との声明を出した。ラトビアは「現在の外交、通商政策の優先順位を考慮して決定した」としている。

【私の論評】国内投資で失敗続きの中国が、国際投資の離れ業などできないことは、最初からわかりきっていた(゚д゚)!

昨年リトアニアが、中国との経済枠組から離脱したことは、このブログにも掲載しました。その記事のリンクを以下に掲載します。
リトアニアでも動き出した台湾の国際的地位向上―【私の論評】国際社会からの共感とNATOによる兵力配備がリトアニアの安全保障の根幹(゚д゚)!

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事からリトアニアが離脱した経緯に関わる部分を引用します。

リトアニアは先にも掲載したように、2012年に開始された「中・東欧サミット」、いわゆる「17+1」の参加国でした。同サミットは、EU加盟国のポーランド、チェコ、スロバキア、ハンガリー、ブルガリア、ルーマニア、クロアチア、スロベニア、リトアニア、ラトビア、エストニアの11か国とEU非加盟国のセルビア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、北マケドニア、アルバニア、モンテネグロの5か国の合計16か国でスタートし、2019年にギリシアが加わり17か国となりました。

中国が一帯一路の一環として、これら諸国との貿易、投資を増大させることが期待されていました。しかしながら、今年5月にリトアニアは、「期待していたほどの経済的メリットを得られない」として、「17+1」の枠組みからの離脱を明らかにしました。台湾代表処の設置は、これに引き続くものであり、単純に、台湾からの経済メリットのほうが中国より大きいと判断したかのように見えますがそうではありません。

リトアニア国防省は、今後10年間を対象とする「脅威評価2019」という文書を公表しています。旧ソビエト連邦の共和国として、長年独立運動を実施していた歴史から、脅威評価のほとんどはロシアで占められています。

しかしながら、脅威として名指しされていた国は、ロシアの他は中国のみです。ロシアの脅威が政治、経済、軍事と幅広く述べられているのに対し、中国からの脅威は、情報活動の拡大ででした。中国は、香港や台湾に対する中国の主張を正当化する勢力の拡大を図っており、今後このような活動がリトアニアを含むEU諸国で広がってくるであろうという評価です。

「17+1」が経済的繁栄を目指すものではなく、中国の影響力拡大に使われているというのがリトアニアの見方です。今年5月リトアニア議会は中国のウィグル人に対する扱いを「ジェノサイド」として、国連の調査を要求する決議を行いました。リトアニアでは1990年の独立に際し、ソ連軍により市民が虐殺されるという事件が起こっており、共産党に対する嫌悪感も相まって、反中国に傾いたという事ができます。
今回は、リトアニアに続き、エストニアとラトビアも離脱ということで、全バルト三国が離脱したのです。

リトアニアの首都ヴィリニュス ゴシック建築と近代的ビルが混在して立ち並ぶ

こうした背景には、上で述べたようなものもありますが、それ以外にもやはり経済的な背景もあると考えられます。それについても、このブログに掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
中東欧が台湾への接近を推し進める―【私の論評】中国が政治・経済の両面において強い影響力を誇った時代は、徐々に終わりを告げようとしている(゚д゚)!
世界各国地域の一人当たりGDPのトップ30を見ると、米国は約6.3万ドルで世界第9位、西側に属した日本は約3.9万ドルで第26位、同じくドイツは第18位、フランスは第21位、英国は第22位、イタリアは第27位、カナダも第20位と、米ソ冷戦で資本主義陣営(西側)に属した主要先進国(G7)はすべて30位以内にランクインしています。

一方、米ソ冷戦で共産主義陣営(東側)の盟主だったロシアは約1.1万ドルで第65位、東側に属していたハンガリーは約1.6万ドルで第54位、ポーランドは約1.5万ドルで第59位とランク外に甘んじている。また、世界第2位の経済大国である中国は約9,600ドルで第72位に位置しており、人口が13億人を超える巨大なインドも約2,000ドルで第144位に留まっています。

中国は人口が多いので、国全体ではGDPは世界第二位ですが、一人あたりということになると未だこの程度なのです。このような国が、他国の国民を豊かにするノウハウがあるかといえば、はっきり言えば皆無でしょう。

そもそも、中国が「一帯一路」で投資するのを中東欧諸国が歓迎していたのは、多くの国民がそれにより豊かになることを望んでいたからでしょう。

一方中国には、そのようなノウハウは最初からなく、共産党幹部とそれに追随する一部の富裕層だけが儲かるノウハウを持っているだけです。中共はそれで自分たちが成功してきたので、中東欧の幹部たちもそれを提供してやれば、良いと考えたのでしょうが、それがそもそも大誤算です。中東欧諸国が失望するのも、最初から時間の問題だったと思います。

「16+1」は、中国と中東欧の16ヵ国の対話・協調を促進するための枠組みであり、年に1度の首脳会合を通じて様々な合意を生み出すものとされていました。元々は「17+1」でした。ギリシャは遅れて入ったので、「+1」されています。後にチェコが離脱したので現在は「16+1」とされています。
しかし「16+1」を通じた中国の対中・東欧投資は、多額のコミットがなされたものの、その多くが実現されず、実現されても大幅に遅れたり、当初の想定を遙かに超える莫大な費用がかかることが明らかとなったりしてきました。

インフラ工事のための労働力も全て中国から調達したため、中・東欧現地の雇用も促進されませんでした。「16+1」の枠組みを用いて中国と協議を行い、中国の市場開放を促すことを試みていたバルト諸国なども、頑なに市場開放に応じない中国の態度に失望を隠さなくなりました。
そもそも、一人あたりのGDPの低く国際投資のノウハウに乏しい中国が、中国よりは一人あたりのGDPが高いバルト三国に投資したとしても、バルト三国の国民が豊になることなどありません。

ちなみに、以下に中国とバルト三国の一人あたりのGDP の比較を掲載します。単位はドルです。
中国 12,359 ラトビア 20,581 エストニア 27,282     リトアニア 23,473
中国というと経済大国というイメージが強いですが、一人あたりのGDPではこの程度(世界65位)なのです。人口が 14億人もいるので、国単位としては、大きい経済であるというだけです。

中央東欧諸国では、一人あたりのGDPでは、中国を凌ぐ国も多くあります。このような国々では、  今後もバルト三国のように枠組みから抜ける国も続くでしょう。

今後は、中東欧だけではなく、世界中の中国から投資を受けている国のうち、まずは一人あたりのGDPが中国との経済枠組みから抜け出ていくことでしょう。

そうなると、いわゆる貧乏国だけが、一帯一路などの枠組みに残ることになります。そうなると、中国は投資をしても、元をとることすらできなくなる可能性があります。

中国は、国内投資でも失敗続きです。不動産バブルの崩壊はすでに報じられているところですが、高速鉄道の投資においても、大失敗しています。

2月に開かれた北京冬季五輪のために中国が整備した高速鉄道(中国版新幹線)の新路線が、需要不足で1日1往復だけの運行になっています。駅前の商業施設は閉鎖中。国家の威信をかけたプロジェクトが有効活用されていません。

 中国は北京と河北省張家口に分散する五輪会場を約1時間で結ぶ新路線を建設。中国メディアによると総投資額は580億元(約1兆2千億円)。「万里の長城」の地下深くを通る全長約12キロのトンネルを貫通させ、「ハイテク五輪」の象徴として自動運転システムも導入しました。

 大会中は1日17往復ほど運行。最高時速350キロで大会関係者や報道陣を運び、国際的に注目されました。

中国版新幹線「高速鉄道」を運営する国有企業、中国国家鉄路集団の路線延伸がとまりません。景気底上げを目指す政府の意向をくみ、2035年に路線を現在より7割増やす方針だというのです。

ただ、無軌道な拡大で不採算路線が増え、足元の負債総額は120兆円の大台に達しました。今後さらに70兆円超の建設費がかかるとみられます。

中国の高速鉄道の借金が120兆円を超える!事業は赤字続き

さらに恐ろしいのは、これが高速鉄道ばかりでなく、高速道路や国際空港でも同じように債務を増やしていることです。
 
中国の道路は、一般道はもちろん高速道路が実に立派です。貧困地域である河南、貴州や、人より羊が圧倒的に多いウイグルであっても片側3車線という立派さです。

また、発着が1日に1便のみだったり、人影さえ見ない国際空港が300を超えるとも言われています。その1つは、江沢民元国家主席が妾に会うために建設させたと噂になっているものまであります。それぐらい、中国は“隠れ不良債権”が山となっているのが実情です。

中国の「過剰債務」が表ざたになれば、世界経済はパニックを起こしかねないです。

巨大国有企業が抱える「国の隠れ債務」が、中国経済のリスク要因となる懸念があります。

国内投資でも失敗続きの中国が、国際投資の離れ業などできないことは、最初からわかりきったことだったといえると思います。


巨額貸し倒れリスクに怯える中国、これが「第二のスリランカ候補国リスト」だ―【私の論評】中国は民主化しなければ、閉塞感に苛まされるだけになる(゚д゚)!


2022年8月11日木曜日

内閣改造でなぜロシア協力相を続ける必要があるのか―【私の論評】岸田政権が派閥力学と財務省との関係性だけで動けば来年秋ころには、自民党内で「岸田バッシング」の声が沸き起こる(゚д゚)!

内閣改造でなぜロシア協力相を続ける必要があるのか

樫山幸夫 (元産經新聞論説委員長)

内閣改造でも「ロシア経済分野協力担当相」ポストが存続した

 侵略国との経済協力をまだ継続するのか。

 10日に行われた内閣改造で、「ロシア経済分野協力担当相」ポストの存続が明らかになった。日本はロシアのウクライナ侵入を受けて強い制裁を課し、共同経済活動も見合わせている。その一方で、「協力」を推進するというのだから、矛盾はなはだしいというほかはない。

 ロシアからは足元を見られ、 連携してきた主要7カ国(G7)からは疑念の目を向けられるだろう。 懸念されていた対露制裁からの日本の落伍が現実になるのだろうか。
ロシアを刺激したくなかった?

 松野博一官房長官が10日午後、新しい閣僚名簿を読み上げた。西村康稔経済産業相のくだりで、他の兼任ポストとともに、「ロシア経済分野協力担当」と明確に述べた。過去の資料でも誤って読み上げたのかとも思ったが、訂正されることはなかった。

 同日午後にアップされた時事ドットコムは、サハリン2からの日本向け天然ガス供給をめぐって、「ロシアが日本に揺さぶりをかけており、先方を刺激するのは得策ではないと判断した」と報じた。

 この方針について、同日夕に記者会見した岸田文雄首相の口から何の説明もなく、メディア側から質問もでなかった。官邸詰めの記者は不思議に感じなかったようだ。

 同日夜、就任会見した西村新経産相は、冒頭発言でこのポストに触れ「ウクライナ情勢を踏まえた日露経済分野における協力プランに参加した企業への対応」と述べたにとどまった。

経済協力見合わせなのに何を担当?

 ロシア経済分野協力担当相は2016年9月に新設された。この年5月、安倍晋三首相(当時)がプーチン大統領に、エネルギー開発、医療・など8項目の経済協力を提案、合意した経緯があり、これら事業を促進することが目的だった。

 同年12月には、安倍首相の地元、山口・長門で行われた日露首脳会談で、北方領土での風力発電、養殖漁業など5項目の共同経済活動開始でも合意した。安倍政権が、ロシアとの経済協力に前のめりになった年であり、北方領土交渉を促進するという思惑からだった。

 しかし、ロシアとの経済協力に慎重な意見が国内にあり、北方領土での共同事業にしても、日本固有の領土であるにもかかわらず、いずれの法律を適用すべきかなどで対立、進展を見ていなかった。そうした中で、ことし2月、ロシアのウクライナ侵略が始まった。

 その直後、の3月2日、岸田首相が参院予算委で「ロシアとの経済分野の協力に関する政府事業は当面見合わせることを基本とする」と表明。松野官房長官も同月11日の衆院内閣委で、「幅広い分野で関係全体を発展させるよう粘り強く平和条約交渉を進めてきたが、ウクライナ情勢を踏まえれば、これまで通りはできない。8項目を含む協力事業は当面見合わせる」と説明した。

 見合わせている事業のために担当相を存続させて何をさせようというのだろう。兼任とはいえ理解不能だ。「見合わせ」は一時的であり、時機を見て復活させようという思惑なのか。

これまでは、強い制裁を課してきたが

 今回のロシアによるウクライナ侵略を受けて日本は当初から、対露制裁、ウクライナ支援でG7各国とよく協調してきた。

 ウクライナに対して、食糧、シェルターなど2億ドルにのぼる人道支援、3億ドルの円借款に加え、防衛装備品の供与を断行。防弾チョッキ、ドローン 防衛装備品にヘルメット、双眼鏡など攻撃用武器との境界が微妙な物品も含まれた。

 ロシアに対しては、最恵国待遇除外、プーチン大統領らロシア要人の資産凍結など矢継ぎ早に行い、もっとも強い手段として、東京のロシア大使館員8人を「ペルソナ・ノン・グラータ」(好ましからぬ人物」として追放した。ロシア外交官を日本政府が一挙に8人もの多数を、しかも、制裁の一環として追放するのははじめてだった。 

 ロシアの侵略直後、日本はどの程度の制裁を打ち出せるか懸念する向きが少なくなかった。

 というのも、2014年、ロシアがクリミアを併合したときの日本の制裁は、ビザ発給緩和の停止、関係者23人へのビザ停止など軽微な内容だったからだ。しかし、日本がとった措置は、こうした懸念を払しょくするに十分だった。

 それだけに、今回の「ロシア経済分野協力担当相」の存続は、「やはり」という疑念を再び呼ぶことになるだろう。

サハリン1、2の権益維持も念頭か?

 日本政府は石油などロシア極東の資源開発事業「サハリン1」、天然ガス開発事業「サハリン2」について、従来通り堅持したい方針を示している。これに対し、プーチン大統領は制裁への報復として、サハリン1の株式取引を禁じ、サハリン2をロシアの新会社に譲渡するよう命じた。

 萩生田光一経産相(当時)は8月8日、サハリン1について、「われわれはいままでの方針を維持する」と述べ、サハリン2については、日本の商社に対して、ロシアが設立したあらたな運営会社に出資継続を求めた。

 担当相ポストの継続は、こうした方針とも関係があるのかもしれない。西村経産相は就任会見で、同様に権益維持の方針を表明したが、冒頭に「参加した企業への対応」と述べたのは、商社への働きかけを指しているとみられる。

 しかし、日本が事業を継続した場合、各国からの非難は免れないだろう。ロシアのウクライナ侵略直後、米国のエクソンモービル、英国石油大手のシェルがそれぞれ「サハリン1」、「サハリン2」からの撤退を決めている経緯からだ。

 日本国内でも侵略開始の翌日の2月25日、自民党の佐藤正久外交部会長が党内の会合で「片方で制裁と言いながら、片方で共同経済活動を続けたら、各国は日本をもう信用しない」と強い調子で中止を主張、与党内で同調が広がっていた。

再び制裁の「弱い部分」になるのか

 1989年の中国の天安門事件をめぐって各国は強い制裁を課した。日本も同調したが、日中国交正常化20年の1992年、天皇(現上皇)の訪中を契機に制裁解除の先鞭をつけた。中国とは地政学的に各国と異なる立場にある日本独自の判断だった。

 当時、中国外相だった銭其琛氏は回想録の中で、西側の制裁の輪の中でもっとも弱かったのは日本であり、そこに狙いをつけたと告白。結果的に利用された日本側は悔しさを隠せなかった。

 日本は今度は対露制裁で「もっとも弱い部分」になるのだろうか。銭其琛氏の回想をよもや忘れまい。

【私の論評】岸田政権が派閥力学と財務省との関係性だけで動けば来年秋ころには、自民党内で「岸田バッシング」の声が沸き起こる(゚д゚)!

高市早苗氏が、経済安全保障担当大臣になったこと、 第2次岸田改造内閣の閣僚応接室での席次が10日、決まり「ナンバー2」とされる岸田首相の左隣には、首相と昨年の総裁選で争った高市経済安全保障相が座ることになったことをもって、日本のロシアや中国、北朝鮮、韓国などに対する制裁等が厳しくなると考える人もいるようですが、どうもそうとはいえないようです。

第2次岸田改造内閣が発足し、初めての閣議に臨む岸田首相(中央)ら(10日夜、首相官邸で)
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岸田総理大臣は昨日の内閣改造・党役員人事で、浜田靖一元防衛大臣を再起用する方針を固めました。

正式決定は昨日の午後のはずなのですが、午前中にすでにこれはもう公表されていました。 従来は、「本当にくるのかこないのか」ということで、閣僚候補者は電話の前で待機し、スーツを用意するかしないかと大騒ぎでした。実際、サプライズがあったり、番狂わせのようなことがありました。これは小泉政権の2001年くらいからそのような感じでした。

なにやら、今回の組閣の公表は、20年以上前の組閣のようです。しかし今回は派閥均衡により、随分前から決まっていたのでしょう。

高市早苗氏

高市早苗政調会長を経済安全保障担当大臣に、河野太郎広報本部長をデジタル大臣に充てました。また、寺田稔総理補佐官を総務大臣として初入閣させています。加藤勝信前官房長官は厚生労働大臣に、西村康稔前経済再生担当大臣は経済産業大臣として再入閣しました。 留任は松野博一官房長官、鈴木俊一財務大臣、林芳正外務大臣、斉藤鉄夫国土交通大臣、山際大志郎経済再生担当大臣です。

経済安全保障担当大臣や、デジタル大臣は、内閣府大臣というものです。少子化や経済安保、地方創生など。内閣府大臣は通常の大臣とは少し違うと考えるべきです。名称は、同じ大臣なのですが、実内閣府大臣には人事権がないのです。だから 内閣府特命担当などとも呼ばれるのです。 特命担当の大臣には人事権はなく、それを誰が持っているかと言うと、官房長官なのです。

すると役人は、「この大臣は人事を行う人ではない」という対処するのです。だから、そこに骨を埋めるつもりの人はまずいません。

人事はまったく別系統なので、高市さんと、自分の人事には直接関係ないのです。役人は、自分が出世するのかどうか、自分の人事を中心に、それを目標にする人が多いのです。  ですから、この大臣にいくら言っても人事は関係ないと思うと、それなりの扱いをするのです。

もともと総務大臣などの省庁の大臣をしていた、高市氏や河野氏のよう人が、内閣府担当大臣になるのは実質的な格下げと言って良いです。省庁大臣というのは、総務省や防衛省など、人事ができる大臣なのです。

このブログでも述べてきたように、組織において最大のコントロール手段は人事なのです。人事ができるから、組織の人間をコントロールできるのです。そういう大臣を務めていた人に内閣府大臣を担当させるということは、閣内に入れたとは言っても、手足を取ってしまったということです。

そのまま一議員としてではなく、閣内で反旗を翻すわけにはいかなくなります。 おまけに周りに手下がいません。いない状態にさせるには内閣府大臣が適当なのです。はっきり言ってしまえば、飼い殺しの状態です。この難局に高市氏や河野氏をこうした状態に追いやっておいてよいのでしょうか。 

現在日本を取り巻く環境が厳しいなかで、外交安全保障が気になるところですが。外務・防衛閣僚協議(2プラス2)などにおいて、外務大臣と防衛大臣は重要なのですが、外務大臣は生え抜きの親中派の林外務大臣でそのままです。

岸首相自身は、台湾派であり、第一次岸田内閣においては、親中派の林外務大臣と親台湾の岸防衛大臣とでバランスが取れていたとも言えるのですが、今回はそれが崩れて防衛大臣は浜田靖一氏です。

浜田靖一防衛大臣

浜田氏は、浜田幸一さんの息子さんですが、浜田幸一さんのようなイメージはまったくなく、温厚で穏やかな方です。どちらかと言うと、この方は石破茂さんに近いです。

参院選自民党の公約です、ロシアのウクライナ侵攻を踏まえ防衛費は北大西洋条約機構(NATO)諸国が掲げる国内総生産(GDP)比2%以上を念頭に置くと明記しましたが、これに財源論の話が出てきていて、「何らかの税金で手当てしない限りはできない」ということが骨太の方針にも載せるべきという議論がありました。

また、国債にすべきという議論もありましたが、財源については秋に議論を深めるということになりました。

 国債ということになると、現在の枠組みでは、海上保安庁の船は建設国債が使えます。しかし、海上自衛隊には使えないのです。どうして使えないのか意味不明です。 耐用年数が海上保安庁の方は長いから、耐用年数があって資産としてあるからということで、海上保安庁の船は建設国債を使ってもいいというロジックのようです。

しかし、有事になった場合、海上自衛隊と海上保安庁の艦艇のどちらが先に攻撃を受ける可能性が高いかといえば、最初に攻撃を受けるのは、前線に出ている海上保安庁なのです。

尖閣諸島などで、最前線の現場に出ているのが海上保安庁の艦艇であり、背後にいるのが海上自衛隊の艦艇です。有事になったとき、海上保安庁の船が速やかにどこかへ退出できるとは思えません。

既に、来年度予算をどうするのかという概算要求の話も出ていますが、自民党国防部会によれば、防衛費の予算要求5.5兆円などと従来とほとんど変わっていないではない数字が出ています。 

それでは防衛費をGDP比2%まで増やすことはできないでしょう。防衛費2%の議論においては、財務省が怪しげな手を使ってきているのですが、これは北大西洋条約機構(NATO)基準というもので、入れるときに海上保安庁の予算を一緒に加えて計算するのです。

こういうときに海上保安庁に関しては、適当に数字をかさ上げして入れたりするのです。本来海上保安庁の予算と、防衛省の予算は別の扱いでしたが、財務省はこのような操作を平気でやってのけるのです。

財務省からはこれから、そのような紛らわしい数字が多数出てくることが予想されますので、惑わされないようにすべきです。

ただ、今回のような閣僚人事だと、防衛省の方からもそういうものが出てきそうで、本当に困ったものです。今回防衛大臣人が変わったことで事務次官も変わりました。 

事務次官については防衛省側は、今年(2022年)は安保3文書(「国家安全保障戦略(国家安保戦略)」「防衛計画の大綱(防衛大綱)」「中期防衛力整備計画(中期防)」<国家安全保障会議(NSC)・閣議決定文書)の改訂があるから、「それまでは同じ人でやりたいのです」と言っていたのを、内閣人事局が変えたとされています。 

海上保安庁も菅政権までは、3代続けて制服組が長官だったのですが。 今回は国交省の事務キャリアである背広組です。

先の今回の組閣の公表は、20年以上前の組閣のようだと述べましたが、それだけではなくまるですべてが一昔に戻ったようです。

先の、話のなかで海保の予算が優遇されているかというと、まったくそんなことはなく、「海上保安庁は国交省のなかだから、国交省の予算でやってくださいね」ということになりそうです。そうすると旧建設、旧運輸の予算の取り合いのなかで、「そこまでは予算を削れませんよ」というようなことで、海保に十分な予算が割かれないということにもなりかねません。

 財務省は、国内総生産(GDP)を計算するときに上乗せしたり、様々な操作をするでしょう。都合よく数字を変えるのが財務省のテクニックなのです。 

財務省においては、ダブルスタンダード、トリプルスタンダードが平気でまかり通っています。 それをマスコミの人がわからずに騙され、それをそのままオウム返しのように報道します。

財務省は「防衛費は、5.5兆円ですが、海保の分を入れると実は6兆円に近いです」とか、「GDPの数字上からすれば、防衛費2%に向けて順調にいっています」などというようなトリックを用いることになるでしょう。

米国の定評あるビューリサーチセンターの調査では、9割近くの日本国民が中国の印象について好ましくない答えており、岸田政権があくまで親中路線を貫くというのなら、多くの有権者が離反することになるでしょう。

それに、米国は超党派で中国に対峙する体制になっていますから、米国も良い顔はしないでしよう。あまりに、岸田政権が親中派的な行動をすれば、日本の個人や組織にセカンダリー・サンクション(二次制裁)を課すことになるかもしれません。そうなれば、せっかく安倍元総理が築いた、世界における日本の存在感を毀損することになります。

さらに、昨日も述べたように、今後現状のまま、まともな経済対策をせず、しかも来年4月の黒田総裁の辞任にともない日銀総裁に、いわゆる反リフレ派の人間を据え、日銀が再度金融引締路線に戻れば、秋には失業率が本格的にあがりはじめますし、経済も本格的に悪くなります。そうなれば、内閣指示率はかなり低下するでしょう。

この内閣の陣容をみていると、あらためて昨日この記事に書いた結論である「マクロ経済の原則を理解せず、派閥の力学と財務省との関係性だけで動けば岸田政権は2年目を迎えることなく、崩壊することになる」ことになりそうです。来年の秋ころには、自民党内に「岸田バッシング」の声が沸き起こりそうてす。

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2022年8月10日水曜日

給与引き上げは「夢のまた夢」...最低賃金31円増が「上げすぎ」である理由―【私の論評】アベノミクスを踏襲せず、派閥の力学だけで動けば岸田政権は2年目を迎えることなく、崩壊する(゚д゚)!

高橋洋一の霞ヶ関ウォッチ
給与引き上げは「夢のまた夢」...最低賃金31円増が「上げすぎ」である理由

岸田文雄首相

  最低賃金は過去最大の31円引き上げとなった。それに対し、日本商工会議所の三村明夫会頭は、「企業物価の高騰を十分に価格転嫁出来ていない企業にとっては、非常に厳しい結果」とした。

最低賃金を上げるには、まず雇用の確保が先決

 最低賃金については、どのような伸び率にするか、マクロ経済雇用の観点から合理的に考えられる。マクロ経済で総供給と総需要の差であるGDPギャップが分かれば、その半年先の失業率はある程度予測できる。失業率が分かれば、雇用状況を反映した賃金も分かる。こうした関係を整理すると、最低賃金の上昇率は、5.5%から前年の失業率を差し引いた程度だ。

 これで分かると思うが、最低賃金を上げるには、まず雇用の確保が先決だ。雇用の確保のためには、GDPギャップを縮小させなければいけない。これがマクロ経済学からの基本である。

 旧民主党政権は最低賃金で失敗した。2010年の最低賃金は引き上げるべきでなかったが、左派政権であることの気負いと経済政策音痴から、引き上げ額17円、前年比で2.4%も最低賃金を引き上げてしまった。前年の失業率が5.1%だったので、それから導かれる無理のない引き上げ率はせいぜい0.4%程度だった。

 今回はどうか。2021年の失業率は2.8%、これを単純に当てはめると、最低賃金は2.7%増、金額では25円引き上げがギリギリのところだ。

 しかも、失業率2.8%は実力より低い可能性がある。というのは、コロナ対策で雇用の確保を最優先したため、雇用調整助成金を充実させたので本来の失業率はもっと高い可能性もある。となると、20円程度の引き上げなので、今回は上げすぎだ。

雇用確保し、経済成長に比し相対的に人手不足になってから賃金上昇

 まず最低賃金を政策的に引き上げて、全体の賃金引き上げに繋げるというのは、政策的に間違いだ。雇用の確保を行った後、経済成長に比し相対的に人手不足になってから、賃金は上昇していくものだ。

 学者の中には、労働生産性を上げることが賃金上昇という人もいるが、それはミクロ的な見方だ。相対的に労働生産性の高い人ほど高い賃金が得られるが、マクロとして全体の底上げにならず、マクロ経済成長の下で人手不足が賃上げには必要だ。これは、いわゆる「合成の誤謬」と言われるもので、ミクロでは正しいが、マクロでは思わぬ逆効果をもたらすものだ。

 いずれにしても、岸田政権はマクロ経済の意識が欠けていて、最低賃金を実力以上に引き上げた。適切な補正予算を打たずにGDPギャップを放置しているのは、ウクライナ情勢を受けてのエネルギー価格や原材料価格の転嫁もできず、賃上げに向けての大きな懸念だ。これでは、成長も不十分で雇用の確保もまともにできず、ひいては給与の引き上げは夢のまた夢の話だ。

 冒頭に述べたが、三村会頭は、政府に環境整備を要請している。それは秋の大型補正だが、岸田政権でできるだろうか。それが出来れば、多くが好転する。

++ 高橋洋一プロフィール
高橋洋一(たかはし よういち) 元内閣官房参与、元内閣参事官、現「政策工房」会長
1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2006年からは内閣参事官も務めた。07年、いわゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。10年から嘉悦大学教授。20年から内閣官房参与(経済・財政政策担当)。21年に辞職。著書に「さらば財務省!」(講談社)、「国民はこうして騙される」(徳間書店)、「マスコミと官僚の『無知』と『悪意』」(産経新聞出版)など。

【私の論評】アベノミクスを踏襲せず、派閥の力学だけで動けば岸田政権は2年目を迎えることなく、崩壊する(゚д゚)!

7/8、安倍元首相が暗殺者の放った凶弾に倒れました。安倍元首相は2012年に「大胆な金融政策」、「機動的な財政出動」、「民間投資を喚起する成長戦略」を3本の矢とする経済政策「アベノミクス」を打ち出し、日本経済の再建に貢献しました。第2次安倍内閣の期間中(2012/12/26~20/9/16)に日経平均株価は129.4%上昇し中曽根内閣(1982/11/27~87/11/6)の187.2%以来の上昇率を記録しました。


首相退任後も自民党内での影響力を保持し、2021/11に自民党内の最大派閥の清和政策研究会の会長に就任。岸田首相に対し、「アベノミクス」の根幹を成す積極的な財政出動や防衛費の大幅増を主張するなど存在感がありました。安倍元首相の死は、経済政策にどのような影響を与えるでしょうか。

現在、自民党内では、財政政策を巡る路線対立があります。その中で安倍元首相は財政政策検討本部の最高顧問に就任。積極財政派のキーパーソンでした。骨太の方針を巡っても積極財政の立場から注文をつけていたようです。今回の内閣改造・党役員人事で安倍元首相が後ろ盾だったとされる積極財政派の高市政調会長は経済安保相に起用されたものの、萩生田氏が政調会長に起用されました。このことや、その後の財政政策検討本部の扱い等から方向性を探ってみます。

地元で演説する在りし日の安倍元首相

一方、金融政策では岸田首相自身が金融緩和策維持を示唆する発言をしており、早々に方針転換する可能性は低いと見られます。ただ岸田政権はリフレ派の片岡審議委員の後任に非リフレ派の高田氏を当てており、2023/4に任期終了の黒田総裁の後任に非リフレ派がなり、金融緩和策の維持が危ぶまれることも十分に考えられます。

とは言いながら、緊縮財政と金融引締めを同時に実施した場合、深刻な景気後退は避けられず、岸田派が最大派閥でないこともあり、支持率低下等が岸田政権の基盤を直撃する可能性もありそうです。

その為、岸田政権が財政再建を志向する場合、過去の消費税導入や引上げの前例に習い、金融政策による支援と一時的な財政支出により、好景気を演出した後に増税への準備に移ると考えます。岸田政権は財政出動に比較的消極的な点がリスクですが、岸田首相による前例踏襲に期待したいです。

第二次岸田政権の内外の懸案は山積みになっていますが、最初にクリアしなければならないのは、2022年度第2次補正予算の編成です。直近の日本経済は、物価高で実質所得が前年比マイナスに転落し、個人消費の先行きは決して明るくないです。

また、世界景気の減速から後退への懸念がマーケットでささやかれる中で、日本の外需が成長をけん引する姿も描きにくい。そこで需給ギャップのマイナスを一気に埋めるべきだと自民党内の財政拡張派のメンバーは強く主張しています。20兆円規模の「真水」が必要という声が一定の支持を得ています。

これは、内閣府が計算したもので、上の高橋洋一氏の30兆よりは少ないです。これについては、内閣府はGDPが最大のところを少し低めに見積もっているのです。内閣府の推計だと、失業が多い時点でのGDPを基準として推計しているようです。コロナ前の景気が良いときは、日本のGDP550兆くらいでしたから、本来はこれを基準とすべきです。

しかし、内閣府はそうではなく、失業率が少し高いところを基準としているため、需給ギャップは少なくなります。

そのため、過去には実績値が、内閣府の推計値を上回れば普通、物価が上がるはずなに物価が上がらないという状況になったのです。

すぐに「これは想定しているところが低過ぎる」とわかります。高橋洋一氏はそれを補正して計算したとしています。そうすると35兆円くらいになるのです。

コロナが万円し始めた頃から、菅政権が終わるまでの間、合計で100兆円の補正予算を打ちました。これは、受給ギャップに見合う予算であったためと雇用調整助成金制度により、安倍・菅両政権のときには、他の先進国がかなり失業率が増えたにもかかわらず、2%台で失業率が水居ました。

それは現在の岸田政権でも続いています。ただし、これは岸田政権の成果というよりは、菅政権の成果です。なぜそのようなことをはっきり言えるかといえば、失業率は典型的な遅行指標であり、現在の雇用政策が効果がみえてくるのは、半年後だからです。

岸田政権が成立したばかりのころにも、需給ギャップが存在しており、本来これにみあった対策をしていれば、経済が伸びていた可能性があります。

ところが、安倍・菅政権において行われた大規模な財政支出により失業率を低く抑えてきたことなど理解せず、岸田政権発足後にすぐに大型の経済対策を打たなかったことなど忘れ、過去の大規模な財政支出が、日本の潜在成長率の引き上げに結びついて来なかったことに対し、疑念を持つという「鳥頭」のマクロ経済音痴議員が多数自民党内には存在します。

こういう議員たちは、足元の潜在成長率は0.1─0.2%に低下しており、岸田政権が大規模な財政支出を未だ実行していなことを忘れ、従来と同様の財政支出を繰り返しても同じ結果になりかねないと考えているようです。大馬鹿です。

岸田首相は経済成長と財政再建の両立に理解を示しており、補正予算編成でも、財政赤字の急膨張につながるような増刷しても赤字になるはずもない国債の大増発にはくみしていないようです。

萩生田光一政調会長

そこで注目されるのが、政調会長に就任した萩生田氏の存在です。萩生田氏が岸田首相の意をくんで財政支出の大膨張に異を唱えれば、補正予算は小規模規模に収まることになるでしょう。そうではなく、安倍・菅路線を踏襲するのであれば、少なくとも、内閣府の試算による受給ギャップ20兆円の補正にこだわるでしょう。

20兆円は少ないですが、真水の20兆円ならば見込みはあります。来春にでもまた、15兆円程度の真水の補正予算を組めば何とかなります。萩生田光一政調会長は10日の記者会見で、自身の強みについて「総裁にならって『聞く力』を発揮し、ときには『聞かない力』も発揮しながら方向性を決めていく。結果を出すことに全力を尽くしたい。胆力があると自分でも思っているので、我慢して仕事に没頭していきたい」と述べました。

萩生田政調会長がマクロ経済政策の原則を重視して動けば、今秋の補正予算はまともになる可能性がでてくると思います。

ただし、今秋10兆円程度で着地する結果になれば、今回の人事は財務省の圧力が岸田首相の行動をかなり制御できることになったとみるべきです。

そうなれば、今後経済は伸びず、まもなく失業率が上がり始めるでしょう。さらに、来春黒田総裁の退任にともない、岸田政権が反リフレ派の総裁を任命して、日銀が金融引締に転じることになれば、失業率はさらにあがり、経済もマイナスに転じ、岸田政権の支持率はかなり下がることになるでしょう。

それでも、マクロ経済政策の姿勢を改めなければ、経済は落ち込み続け、失業率もあがり、岸田政権の支持率は下がり続け、岸田政権は2年目を迎えることなく、崩壊することになるでしょう。

マクロ経済の原則を理解せず、派閥の力学と財務省との関係性だけで動けばそうなります。派閥の力学と財務省との関係性だけでは、マクロ経済は変えられません。ただし、マクロ経済音痴の岸田首相にあっても、政治家の勘にある程度は期待できるかもしれません。

岸田首相の勘により官僚的な前例踏襲主義に重きをおき、アベノミクスを踏襲するであろう萩生田政調会長に経済運営を託すようにすれば、岸田長期政権の道が開かれる可能性もあります。

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2022年8月9日火曜日

ペロシ訪台の陰で“敗北”した人民解放軍―【私の論評】海中の戦いでも負けていたとみられる中国海軍(゚д゚)!

ペロシ訪台の陰で“敗北”した人民解放軍

澁谷司(アジア太平洋交流学会会長)




【まとめ】
  • 「台湾関係法」によって米国は台湾の防衛を支持するという厳粛な誓いを立てた。
  • 現時点で中国の戦闘機や空母などが臨時転用や機動展開の能力に欠けているので、米軍と対抗するのは難しい。
  • ペロシ議長が台湾訪問後の実弾演習はあくまでも習政権が“面子”を保つための行動。

今年(2022年)8月2日、ナンシー・ペロシ米下院議長が台湾を訪問した。ペロシ議長の訪台に関しては様々な議論がある。同2日付『ワシントン・ポスト』紙に、議長本人が自らの信念を吐露(a)しているので、一部紹介したい。

(「台湾関係法」によって)米国は台湾の防衛を支持するという厳粛な誓いを立てた。私達は、弾力性のある島、台湾の側に立たなければならない。台湾は現在、新型コロナのパンデミックに対処し、環境保全と気候変動を擁護するリーダーである。また、台湾は平和、安全保障、経済的ダイナミズムのリーダーであるし、台湾は、起業家精神、革新の文化、そして世界が羨む技術力を持っている。

以上のように、台湾を持ち上げた。けれども、周知の如く、ペロシ訪台は、中国側の反発を招く結果となった。

ここでは、軍事的観点から、その訪台を考えてみよう。最近、『中国瞭望』に掲載された沈舟の論考(b)が優れているので、大雑把に抄訳する。

今回、ペロシ訪台の際、米軍が護衛する動きを見せた。そこで、台湾海峡で、米中間に緊張状態が生じている。

7月28日、中国国防部報道官は、記者会見で(ペロシ訪台を)「絶対に容認せず、断固として反対する」などと話した。この発言を聞く限り、中国軍には十分な対応時間があったと思われる。極端な話、中国戦闘機が台湾海峡「中央線」を越えてペロシ機を迎撃することも、“理論上”可能だった。

8月2日、中国軍は主に第4.5世代戦闘機「J-16」(第4世代「J-15」の改良型)等21機を投入し台湾西南防空識別圏に進入したが、「中央線」を越えていない。ペロシ機は台北松山空港に着陸予定だったので、もし中国戦闘機が本当に同機を迎撃するつもりなら、あるいは、少なくとも接近するつもりなら、台湾東部の台北付近の空域か、台湾北部の空域に現れるはずだった。しかし、中国戦闘機は台湾の同空域を封鎖するような動きを見せていない。

実際、東部戦区の安徽省蕪湖市には、第5世代戦闘機「J-20」が駐留している。だが、台湾海峡方面への移動が間に合わなかったという。これは中国軍の同戦闘機が、臨時転用や機動展開の能力に欠けていることを反映しているのかもしれない。

また、8月2日までに、空母2隻、遼寧号が青島港を、山東号が三亜港を出港したと伝えられた。ところが、台湾海峡到達に間に合わなかったのである。こちらは、中国海軍が空母を迅速に展開できないことを示す象徴的な出来事となった。

中国初の空母「遼寧号」

一方、米軽空母トリポリは、第5世代戦闘機「F-35B」を搭載して日本の周辺部から南下し、沖縄、宮古海峡、台湾北東部の空域を制圧した。中国軍の第4.5世代戦闘機「J-16」等では、米軍の「F-35B」に対抗するのは難しいだろう。

また、米原子力空母ロナルド・レーガンは南シナ海からフィリピン海に入り、台湾南東部の海域と空域を制圧している(ただし、ひょっとして、7月28日の米中首脳会議で、ペロシ訪台の際、解放軍は一切、手を出さないという“合意”がなされていた可能性も捨て切れない)。

さて、8月2日、新華社は、突然、台湾周辺6地域を区切り、中国軍が8月4日から7日まで、これらの海域と空域で実弾演習を行うと発表した。しかし、ペロシ議長は8月3日、すでに台湾訪問を終えている。これは、あくまでも習政権が“面子”を保つための行動だろう(なお、その軍事演習については別稿に譲りたい)。

中国は極超音速中距離ミサイル「東風17号」等、台湾海峡周辺でミサイル試射の準備を進めている。だが、今度の海峡危機で、中国軍は自らの軍事能力を露呈してしまった感は否めない。

ところで、近頃、中国の短編動画プラットフォームで、ある動画が流れた(c)。この映像は、ペロシ議長が無事、台湾を訪問したが、中国軍機が同行しなかった事について、中国軍関係者が解説したモノとされる。

実は、ペロシ議長機が無事に台北松山空港に到着した時、中国軍の(第5世代戦闘機)「Su-35」は離陸したばかりだったという。

実際、中国戦闘機が台湾付近上空を飛行している間、台湾はペロシ議長の到着を生中継していた。これも米軍の強力な電子対策能力を証明するものだろう。

軍事筋によると、台湾はペロシ機の機種、位置、人員をあえて世界に発信した。台湾は電子遮蔽、電子対決能力が極めて高く、中国軍では敵わないという事を示している。

他方、米空母等から発する電磁波が、中国の「北斗衛星導航系統」(中国が独自に展開している衛星測位システム)を撃破したという。

結局、今度の台湾海峡危機で、中国軍は米軍に“敗北”したと言えるかもしれない。

〔注〕

(a)「オピニオン ナンシー·ペロシ: 議会代表団を率いて台湾に行く理由」
(https://www.washingtonpost.com/opinions/2022/08/02/nancy-pelosi-taiwan-visit-op-ed/)。

(b)「ペロシの台湾訪問が、中国軍の正体を暴露する」(2022年8月2日付)
(https://news.creaders.net/china/2022/08/02/2511135.html)。

(c)『万維読者網』
「中国、米中電子戦の敗北 ペロシが無事に到着した理由は」(2022年8月4日付)
(https://news.creaders.net/china/2022/08/04/2511560.html)。


【私の論評】海中の戦いでも負けていたとみられる中国海軍(゚д゚)!

先日は、このブログで、中国の台湾周辺での軍事演習に反応して、多くの国々がこれを脅威に感じ、これに備えようとし、大国は小国に勝てないというパラドックスの新たな事例がまた生み出されていくことになるであろうと主張したばかりです。

上の記事によれば、今度の台湾海峡危機で、中国軍は米軍に“敗北”したといっても良い状況であり、中国にとっては、まさに踏んだり蹴ったりの様相を呈してきたようです。

この事実を反映してか、米国防次官は、台湾侵攻「2年以内はない」の評価維持すると表明しています。


「今、我々にとって重要なことは、中国政府に理解させることです。米軍は国際水域のどこでも飛行・航行し、それには台湾海峡も含まれます」 

カール国防次官は8日、会見で数週間以内にアメリカ軍が台湾海峡を通過するとの見通しを明らかにしました。そして、中国軍の多数の航空機や艦艇が台湾海峡の中間線を越えていることについて、台湾支配という目標に向け、少しずつ現状を変える「サラミ戦術だ」と警戒感を示しました。

 一方で、中国による台湾侵攻の可能性を「今後2年はない」としてきたアメリカ軍の見通しについて、「変更はない」としています。

台湾は世界の半導体供給の最重要拠点であり、中国が演習を継続すれば「台湾だけでなく世界経済に影響を及ぼす時期がありうる」とも指摘。「米国の政策は『自由で開かれたインド太平洋』の現状を堅持すること」とし、「航行の自由作戦」で台湾海峡の艦船通過を今後も継続すると強調しました。

バイデン米大統領も8日、中国が台湾周辺の軍事演習を継続している状況を「懸念している」と述べました。

中国軍が4日から台湾近海で実施していた「重要軍事演習」は7日に最終日を迎え、爆撃機や地上部隊などが連携し、対地攻撃や長距離対空攻撃を行う訓練を実施しました。中国軍は8日も引き続き、台湾周辺の海空域で実戦に向けた統合演習を実施したと発表し、早くも台湾周辺での演習の常態化を進めている。

中国軍で台湾を担当する「東部戦区」によると、7日には爆撃機などが地上のミサイル部隊と連携。対空迎撃訓練や、一斉発射で迎撃を難しくする飽和攻撃を多種類のミサイルで行う精密打撃訓練を実施しました。8日には海空統合で、対潜訓練などを重点的に行ったといいます。有事の際に台湾周辺海域に集結する米軍潜水艦への対処を念頭に置いている可能性があります。

ここで、軍事筋が注目するのは、やはり対潜訓練でしょう。このブログでは、現在の海戦の主役は潜水艦であることを述べてきました。

米国の著名な戦略家ルトワック氏も引用しているように、昔から「艦艇には2種類しかない、一つは水上艦艇であり、もう一つは潜水艦である。水上艦艇は現在ではミサイル等の標的でしかないが、潜水艦は違う、現代の海戦の主役は潜水艦である」と言われています。

台湾近海に米軍が巨大攻撃型原潜を潜ませていれば、中国にとってはかなりの脅威です。この一隻で米国は台湾海峡危機を勝利に結びつけることができます。

オハイオ級であれば、トマホーク巡航ミサイルを154基も搭載できます。これは米誘導ミサイル駆逐艦の1.5倍以上、米海軍の最新鋭攻撃型潜水艦の4倍近いです。

オハイオ級攻撃型原潜 ミサイル発射口 中国のサイトより 一部秘密保持のめ米国側のぼかしが入っている

これが一斉に中国の軍のレーダー施設、監視衛星の地上施設にめがけて、発射され破壊れば中国軍は米軍の位置を確認できなくなります。米軍はインテリジェンスにより、これらの位置を把握しているものとみられます。

さらに攻撃型原潜は今や水中のミサイル基地と言ってもよいくらいで、これに続き対艦ミサイルを打ち込めば、中国海軍は崩壊します。

実際、ルトワック氏は台湾危機には、このような原潜を2〜3隻派遣すれば十分に対応できるとしています。実際は1隻でもできるのでしょうが、24時間体制で監視し確実に攻撃をする体制にするには余裕をみて2〜3隻派遣しなければならないという意味なのだと思います。

中国軍はこのような脅威についても当然認識していると思われます。ただ、中国海軍のASW(対潜戦)能力は米国に比較して、かなり劣っていますから、これに有効に対応することはできません。

ペロシ訪台中に米軍は当然のことながら、攻撃型原潜を台湾海峡のいずれかに潜ませていたでしょうが、中国としては中国軍が目立った動きをすれば、米国側を刺激することになりかねず、ペロシが台湾を去ってから数日後の8日になって、しかも予定では7日で終わるはずたったものを8日になってようやっと海空統合で、対潜訓練などを重点的に行ったのです。

これは、米国を刺激したくないか、あるいは米国側に中国のASWが未だに弱いことを再確認されたくないという考えの現れであるとも解釈できます。もし、中国側がASWに自信があるといのなら、もっと早い時点で実施して、米側にこれみよがしに見せつけたと考えられます。

いやそれどころか、すでに台湾や尖閣に侵攻どころか、第二列島線を確保していたかもしれません。それが未だにできない中国には、何か弱点があるのであり、それがASWであると考えられます。

このあたりは、潜水艦の行動はいずれの国も隠すのが普通なので、表にはでてきませんが、私は米軍は当然のことながら、台湾付近で攻撃型原潜が監視にあたっていたものと推察します。

そうして、ペロシ訪台の陰で海中の戦いでも中国は米国に“敗北”していたと推察します。

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2022年8月8日月曜日

英国情報機関が見るウクライナ戦争の行方―【私の論評】ロシア軍が失速寸前とみられる中、戦争は新たな局面に入りつつある(゚д゚)!

英国情報機関が見るウクライナ戦争の行方

岡崎研究所

 7月22日付のワシントン・ポスト紙(WP)は、同紙インテリジェンス・国家安全保障担当リポーターであるシェーン・ハリスなどの「英情報トップが、ロシアはウクライナでまもなく〝勢いを失う〟と言う。MI6の長、リチャード・モアはまたロシアの侵攻を〝壮大な失敗〟と描写した」という記事を掲載した。

MI6の建物とウクライナ国旗

 英国の情報機関MI6のモア長官は、ウクライナでのロシアの軍事作戦は物資と兵員の不足で、ここ数週間で勢いを失うことになりそうであると、アスペン安全保障会議において述べた。彼は控えめに見積もってもロシア軍は1万5000人くらいの兵士を失っており、これはアフガニスタンでの10年の戦争でロシア軍が被った損害とほぼ同数であると指摘した。

 このアスペン安全保障会議でのモアMI6長官の発言は注目に値する。英国の情報機関は情報の収集および分析において一般的に優れており、かつ外部に対する発言には慎重であるからである。もちろん情報源については明らかにしていないが、ロシア軍内の情報も勘案し、総合判断したものであろう。

 プーチンの病気については、パーキンソン病である、血液関係のガンであるなどのうわさがあるが、CIAもMI6も否定しているので、そういう噂は根拠がないと考えてよい。

 ウクライナに対するロシアの攻勢が「勢い」を失う可能性はモア長官の指摘通りあろう。特に兵員の補充が困難になっているのではないか。ウクライナに投入された兵力は通常のロシア軍の兵力の相当な部分であった。例えば、わが国の北方領土、択捉島よりもかなりの数の将校や兵士が行っている。

ロシアの兵力、世論の実態は?

 プーチンは当初から徴兵兵士はウクライナに送っていないと主張し、その真実性については疑問も提起されているが、契約軍人をふくめ職業軍人が主として派遣されているということであろう。戦争を宣言し、総動員令を発出すればこの問題は解決されるが、これまでの経緯に鑑みそうはできず、せいぜい予備役招集にとどまっている。

 武器の枯渇の問題も、イランからの無人機入手に見られるようにある。ウクライナ側がロシアの領土内攻撃を自制しているので、ロシアが戦闘で敗北することはないが、ロシア国内での戦争反対論は経済制裁に起因する困難もあり、徐々に強まっていくだろう。

 例えば、ロシアの大富豪、エリツィンの娘婿のデリパスカが経済的困難が大きすぎると戦争に反対している。世論調査会社レバダセンターの調査結果では、プーチン支持が80%くらいで非常に高いが、この結果に重きはおかない。何故なら、ロシアのような政治体制では世論調査に本音で答えることは、ロシア人はあまりしないからである。

 大祖国戦争で2600万人の犠牲を出しつつ、ナチスドイツに勝利したロシアの粘り強さは、防衛戦争ではなく、かつ兄弟殺しの面もあるウクライナ戦争においては発揮されないだろう。モア長官が言及しているアフガン戦争が先例としての価値が大きいと思われる。

【私の論評】ロシア軍が失速寸前とみられる中、戦争は新たな局面に入りつつある(゚д゚)!

米国のバーンズ中央情報局(CIA)長官は先月20日、ロシアによるウクライナ侵攻でのロシア側の死者数がこれまでで1万5000人に達したとの推計を明らかにしました。負傷者数は4万5000人に上る可能性があるといいます。ロイター通信が報じました。

バーンズ長官は米西部コロラド州で開かれたフォーラムで推計について説明し、ロシア側にとって「重大な一連の損失だ」と指摘。さらに「ロシアよりはやや少ないかもしれないが、ウクライナ側も同様に被害に遭っている」と語りました。

ロシア側の死者数を巡っては、英国防省が5月、約1万5000人が死亡したとされる旧ソ連によるアフガニスタン侵攻(1979~89年)に匹敵するとの推計を公表。ウクライナメディアによると、ウクライナ軍は今月20日現在で「ロシア側の損失」が3万8750人だと発表しています。

一方、ロシア軍は、3月下旬にウクライナ戦線で1351人の自国兵が死亡したと公表した後、死者数の発表を控えています。

最新の数字では、欧米の複数の当局者は4日、2月24日のウクライナ侵攻開始以降、ロシア軍の兵士最大2万人が死亡したとの推計をCNNに示したされています。

 負傷した兵士の数は5万5000人で、死傷者数の総計は約7万5000人に上るといいます。 複数の当局者はCNNの取材に対し、戦闘ペースの鈍化に伴い、死傷者数の増加ペースも落ちていると指摘しました。 

それでも最大2万人の死者が出ている状況であり、総計の死傷者数が7万5000人に上るとの見方は正しいと思われるとしていまする

複数の筋から少なくとも1万5千人の死者が、出ているのは間違いないようです。

オルガ・カチューラ大佐

8月5日付『ザ・テレグラフ』紙(1961年創刊)は、「ウクライナ人殺害を“自慢”していたロシア軍女性将校が死亡」と題して、ウクライナ戦争で初めてロシア軍女性将校が死亡したと報じました。

ロシア地元メディアによると、“ウクライナ人を殺害するのは何と楽しいことかと自慢”していた一個師団司令官が、ロシア軍内で最初に死亡した女性将校となりました。

オルガ・カチューラ大佐(52歳)で、ウクライナ東部ドネツク州ホルリウカ市において車で移動中にウクライナ軍のミサイル攻撃を受けて死亡したといいます。

彼女はロシアの傀儡政権であるドネツク人民共和国(DPR、2014年一方的に独立宣言した親ロシア反政府組織)に所属する大佐で、DPRはウクライナ市民を狙って砲撃しているとして西側諸国から糾弾されていました。

ウクライナ軍の戦略通信部はかつて、ウクライナ軍に汚名を着せるため、彼女が率いる部隊がウクライナ軍の制服をまとって市民を攻撃していたと非難しています。

ドネツク州出身の彼女は、悪名高い親ロシア派の反乱軍指導者のイゴール・ベズラー少佐(56歳)が率いる部隊に所属するまでは、長い間警察官の職に就いていました。

そして今年1月、ウクライナ西部在の裁判所から、彼女が不出頭のまま、市民を巻き込んだテロ行為に加わった罪で禁固12年の有罪判決が出されました。

ウクライナ情報部によると、彼女が2014~2015年の間、ウクライナ東南部ドンバス地方で発生した大規模戦闘の際に市民に向けて大砲を撃ち込むよう命令を下し、多くの犠牲者を出したことが上記の有罪判決に繋がっているといいます。

彼女はかつて、ロシアのテレビ局のインタビューに答えて、“ウクライナ人との戦闘を楽しんでいる”と豪語していました。

しかし、亡くなる1週間前のインタビューでは、自分は“ウクライナと戦っているのではなく、北大西洋条約機構(NATO)軍と戦っている”と主張していました。

なお、ウラジーミル・プーチン大統領(69歳)は8月4日、ロシア軍の最高の栄誉となる“ロシアの英雄賞”を授けることを決めました。

8月4日付『ザ・サン』紙(1963年創刊)は、「プーチン、ロシア軍で初めて女性将校を喪失」と、“邪悪な女性将校”と呼ばれた一個師団女性司令官が死亡したと報じています。

プーチン大統領は8月4日、ウクライナ軍によるロケット弾攻撃で死亡したオルガ・カチューラ大佐に、ロシア軍の最高の栄誉となる“ロシアの英雄賞”を授けることを決定しました。

同大佐は、ウクライナ戦争で死亡した97人目の将校とされています。

ロシアはウクライナでまもなく〝勢いを失う〟可能性もあるなか、米シンクタンク、戦争研究所(ISW)は23日の日次リポートで、ウクライナ軍は南部ヘルソン州ですでに反転攻勢を開始した可能性があると指摘。今月15日以降にドンバス地方の主要な前線でロシア軍の砲撃が著しく減ったのは高機動ロケット砲システム「HIMARS」の効果だとし、HIMARSがロシア軍の前線に武器を供給していた数十の兵器庫を破壊したと分析した。

HIMARS

ISWは25日、ヘルソン州のロシア軍とドニエプル川東岸の供給ラインを結ぶ全ての橋をウクライナ軍が損傷させたとも報告した。

ゼレンスキー大統領は21日、安全保障担当幹部らとの会合後、「前線で軍を進軍させ、占領者に新たに重大な損失を負わせる大きな見込みがある」と述べた。さらにウォールストリート・ジャーナル(WSJ)が22日に掲載したインタビューで同大統領は、5-6月には1日100-200人に上っていた戦場での死傷者数が最近は30人前後にまで減少したと説明。ロシアに領土の割譲を認める休戦協定は結ばないと、あらためて強調した。

英スコットランドのセントアンドルーズ大学で戦略研究を専門とするフィリップス・オブライエン教授は、戦争が新たな段階に入りつつあることをこれら全てが示唆していると指摘。ロシア軍が電撃的にキーウ占領を目指し失敗した第1段階、勝利への道を進もうと東部の一部で撤退したのを第2段階と位置付け、「ドンバス地方でロシア軍の軍事力低下が続き、基本的に戦線が膠着(こうちゃく)するなら、ウクライナ軍による撃退は可能になるのかが問われることになる」と語りました。

同盟国から弾薬や装甲車両、対空システムなどの供給をまず確保することなしにロシアの支配地域を奪還できる能力がウクライナ軍にあるのかは判然としません。ロシアの侵攻が2月24日に始まって以来、ウクライナは数多くの反撃を試みてきましたが、総じて小規模にとどまっています。

英国防省は6日、ロシア軍が兵力や装備をウクライナ南部の占領地に集結させてウクライナ軍による反撃強化に備えており、激戦地が南部に移って、双方の攻防が新たな局面に入りつつあるとの分析を明らかにしました。南部ザポリージャ原発では5日、2度にわたる砲撃があり、双方が相手による攻撃だと非難しました。欧州最大規模の原発で大惨事が発生する危険性が増しています。 


英国防省はザポリージャ州付近からヘルソン州にかけてのドニプロ川沿いの約350キロ・メートルの区間を激戦地として挙げました。2月24日の侵略開始以降、主要な激戦地は東部となってきました。

ザポリージャ原発は露軍が占拠し、要塞(ようさい)化を進めています。

ウクライナの国営原子力企業「エネルゴアトム」はSNSで、原発が5日午後2時半頃と夕方、原発を占拠している露軍の攻撃を受け、高圧線や一部施設が損傷したと発表。露軍が、原発に配備した地対空ミサイルで原発が立地するエネルホダル市の変電所なども破壊し、大規模な停電と断水が起きたと訴えました。

6日の投稿では原発の状況に関し、「火災発生や放射性物質飛散の危険性が依然ある」と説明しました。

一方、露国防省は5日、緊急声明で、一連の攻撃はウクライナ軍によるものだと発表し、ゼレンスキー政権による「核テロ」だと主張しました。ウクライナ国防省情報総局は7月下旬、原発付近の露軍駐屯地を自爆型無人機で襲撃したことを認めていました。露軍には反転攻勢をけん制しつつ、ウクライナ非難の世論作りにつなげる思惑があるようです。

今後いずれの時点で、ロシア軍が失速するのかが、注目されます。ただ、失速したとしても、それですぐにウクライナ軍が勝利というわけではなく、ロシア軍は戦線を維持しつつも、新たな攻撃ができない状態に陥り、ウクライナ軍も大攻勢をかけるというよりは、散発的な攻撃で終わり、長い間膠着状態が続くようになるのではないかと思います。

ロシア軍が疲弊しているのは確かですが、ウクライナ軍も疲弊していることを忘れるべきではありません。多くの国民にとって戦争の犠牲者が身近になる中、アレストビッチ大統領府顧問は6月、侵攻開始以降、1万人の将兵が死亡したと認めざるを得ませんでした。

ウクライナが本格的に攻勢に打って出るのは、同盟国から弾薬や装甲車両、対空システムなどの供給をまず確保し終わり、これらのメンテナンスができる体制を整え、弾薬部品の輸送経路を確保し、さらにこれらを扱う兵員の訓練も終えてからということになると思います。そうなると、戦争は年をまたぐことになるでしょう。

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2022年8月7日日曜日

台湾 軍による沿岸での「重砲射撃訓練」開始へ 中国軍に対抗か―【私の論評】大国は小国に勝てないというパラドックスに気づいていない、愚かな中国(゚д゚)!

台湾 軍による沿岸での「重砲射撃訓練」開始へ 中国軍に対抗か


 台湾が陸軍による沿岸での射撃訓練を行うと発表しました。中国の大規模な軍事演習に対抗する狙いがあるとみられます。

  台湾の陸軍は、8月9日と11日に台湾の南部沿岸周辺で「重砲射撃訓練」を行うと発表しました。

  中国軍による台湾周辺での大規模な軍事演習が行われたことを受け、部隊の戦闘能力をテストする予定だということです。

  また、台湾の海軍からは対艦ミサイルの写真が公開され、台湾海峡の状況を24時間体制で監視しているとする声明が発表されました。 

 台湾当局は、中国政府に対して「理性的に自制をするように」と呼び掛け、日本を含めた周辺諸国に台湾への理解と支援を求めています。

【私の論評】大国は小国に勝てないというパラドックスに気づいていない、愚かな中国(゚д゚)!

中国がペロシ米下院議長の訪台に反発し軍事的な圧力を強めていますが、しかしこれはもともと中国が一つの中国を主張するだけではなく、台湾に軍事侵攻する旨を明らかにしており、これに対する対抗措置として、ペロシ氏が実行したものです。

中国はこれを無視して、一方的にペロシ氏を非難しています。これに対して台湾が反発するのは当然で、これは中国も織り込み済みなのでしょうが、中国は、国際政治のパラドックスに関しては、過去の反省も、現状の分析もしていないようであり、今回の台湾を脅す軍事演習は、中国にとってさらに悪い結果を招くであろうことを理解していないようです。

米国の戦略家ルトワック氏は、そもそも昔から大国は、小国に勝てないということを主張しています。確かに、そういわれてみればそうです。米国もベトナムには勝てませんでした。ロシアに侵攻されたジョージアは一部取られたとはいえ、独立を保っています。アフガニスタンからは、過去には英国、ソ連が、昨年は米国が撤退を余儀なくされました。ウクライナ侵攻でロシアは苦戦しています。

米国の戦略家ルトワック氏は、そもそも中国は「大国は小国に勝てない」という「戦略の論理」を十分に理解していないと前から主張していました。

ある大国がはるかに国力に乏しい小国に対して攻撃的な態度に出たとします。その次に起こることは何でしょうか。

周辺の国々が、大国の「次の標的」となることを恐れ、また地域のパワーバランスが崩れるのを警戒して、その小国を助けに回るという現象があらわれるのです。その理由は、小国は他の国にとっては脅威とはならないのですが、大国はつねに潜在的な脅威だからです。

米国はベトナム戦争に負けましたが、ベトナムは小国だったがために中国とソ連の支援を受けることができたのです。

しかも共産国だけではなく資本主義国からも間接的に支援を受けています。たとえば英国は朝鮮戦争で米国側を支援したのですが、ベトナム戦争での参戦を拒否しています。

米国が小さな村をナパーム弾で空爆する状況を見て、小国をいじめているというイメージが生まれ、最終的には米国民でさえ、戦争を拒絶するようになってしまいました。

『戦争の恐怖』1972年6月8日、AP通信ベトナム人カメラマンだった、ニック・ウット氏撮影。
南ベトナム軍のナパーム弾で、火傷を負った子供らが逃げてくる場面を捉えたもの

つまり国というものは、強くなったら弱くなるのです。戦略の世界は、普通の生活とは違ったメカニズムが働いているのです。

こうした事例は、最近でもありました。それは、リトアニアです。

リトアニアと中国の関係が急速に悪化したのは、2021年7月にリトアニアが「台湾」の名称で台湾当局の代表処を設置することを認めた以降です。中国外交部はこれを強く批判、駐リトアニア大使を召還する決定を行っています。

リトアニアは、同年8月23日に国防省の調査報告として国内の5G関連移動通信体(モバイルデバイス)のサイバーセキュリティ上の評価を公表している。その中で、中国企業であるHuawei(ファーウェイ)、Xiaomi(シャオミ)及びOnePlus(ワンプラス)について、併せて10のサイバーセキュリティ上のリスクがあるとし、その内4つは製造時に実装されたものであると結論付けています。

2021年9月16日、EUは「インド太平洋戦略」を公表しました。経済の相互依存状況、地球規模の課題解決等を考えると、EUとインド太平洋の未来は密接に結びついているとし、中国の軍事力増強が南シナ海や台湾海峡を緊張状態にしているとの認識のもと、EUが積極的にインド太平洋地域に係るという方針を示しています。

その戦略として、「同じ志を持つパートナー」との協力を強化するとしている。戦略文書では、「同じ志を持つパートナー」として、日本、インド、オーストラリア、米国、韓国と並んで台湾を挙げています。同戦略には、インド太平洋における海洋安全保障のため、EU諸国が同地域に海洋プレゼンスを示すことに加え、「デジタルパートナーシップ」の作成にも言及されています。

EUはインフラ接続に関し、中国の「一帯一路イニシアチブ」の代案となる「グローバルゲートウェイ」を公表している。デジタルガバナンスに関し、インド太平洋方面の諸国と連携を深め、これを足掛かりに、すでにガバナンスが定着しているオーストラリア、韓国、米国、カナダ等との連携を強化することを目指しています。

海洋プレゼンスの強化に関しては、英仏の空母機動部隊やドイツ海軍艦艇のインド太平洋方面行動は、EUの戦略文書を先取りした行動でした。同年11月5日に、ドイツ海軍艦艇が約20年ぶりに日本に寄港したが、ドイツ外務省報道官によれば、ドイツ政府が申し入れていた同艦の上海寄港は中国が受け入れを拒否したとしています。

中国が、ドイツ海軍艦艇のインド太平洋展開を自国に対する圧力と認識し、不快感を示したものでしょう。同年10月21日に、EU議会でEUと台湾の関係を強化すべきという法案が580対26という大差で可決された背景には、EUのインド太平洋戦略の影響があります。

同年10月30日、中国外務省報道官は、リトアニアとEUに対中関係を悪化させるべきではないと警告を発している。中国がリトアニアとEUの動きを結託したものとみている証左です。

それにもかかわらず、同年11月3日、EU議会の代表者は台湾を訪問、蔡英文総統と会談し「あなた方は孤立無援ではない」とのメッセージを伝えたと報道されています。小国リトアニアと大国中国の対立はEU対中国の対立に変化しました。

同年11月3日付のGlobal Times紙(中国環球時報英語版)は、台湾を訪問した代表団は一部の反中国派議員であり、騒ぎ立てることにより自らの存在感を示そうとしているだけであり、相手にするのは時間と資源の無駄であるとの論評を掲載しています。

同紙は、中国政府の方針を代弁することが多く、中国としては、EUとの対立を、控えめに扱うことにより沈静化を図っていく方針であることを示すものでしょう。小国リトアニアに、台湾という名前を冠した連絡事務所を設置させないという中国の目的は果たすことができず、結果的には中国は勝つことができなかったのです。

リトアニアが中国からの圧力に屈しなかった理由は、EUがリトアニア側についたという事が大きいが、中国への経済依存度も低く、距離的にも中国から遠いという背景があることも事実です。

しかしながら、台湾が中国と対峙する場合、教訓とすべき事項も多いです。その一つは、「同じ志を持つパートナーとの連携」強化です。もちろん米台関係が基軸であることは確かですが、EUがインド太平洋戦略において台湾を米国や英国、日本、オーストラリアと並んでEUの「同志」と位置付けていることを重視すべきです。

アフガニスタンからの米軍の撤退に見られるように、最終的な価値基準は国益です。米台、日台のみに依存する安全保障は心もとないです。価値観を共有する国々との関係を強化することはもちろんのこと、軍事だけではなく、経済、外交、科学技術あらゆる分野で安全保障を担保する方策を講じる必要があります。

そうして、台湾はその方向に進みつつあるようです。すでに、中米の島嶼国セントビンセント・グレナディーンのラルフ・ゴンザルベス首相が7日朝、台湾に到着しました。桃園国際空港で談話を発表し、中国に対し台湾周辺での軍事演習をやめるよう呼び掛けました。

ラルフ・ゴンザルベス首相

中華民国(台湾)と外交関係を結ぶセントビンセント・グレナディーン。ゴンザルベス氏は政府の招待を受けて来訪し、12日まで滞在します。談話では、台湾が厳しい状況に直面する中、訪台できたことを喜び、攻撃や暴力による圧力は受け入れられないとの立場を示しました。ゴンザルベス氏の訪台は具体的な行動によって台湾との関係の強固さを示すだけでなく、台湾への支持を示す意義もあるとした。

また、リトアニア運輸通信省のバイシウケビチウテ副大臣らで構成される代表団も7日、台湾入りした。

リトアニア運輸通信省のバイシウケビチウテ副大臣

英下院外交委員会の代表団が、おそらく今年11月か12月初旬に台湾を訪問する計画だと、英紙ガーディアンが1日に報じていました。 報道によると、同委は今年の早い段階で訪台を計画していたのですが、代表団の1人が新型コロナウイルスに感染して延期していました。 報道によると、訪台は当初計画段階で、英国が台湾を支持していることを示す目的があったといいます。

今後、様々な国々の代表が台湾を訪れることになるでしょう。

外務省は6日、中国による台湾周辺での大規模軍事演習を巡り、林外相と米国のブリンケン国務長官、オーストラリアのペニー・ウォン外相が「即刻中止」を求める声明を発表しました。

声明では、中国の軍事演習について、「国際的な平和と安定に深刻な影響を与える」と懸念を表明。中国の弾道ミサイル5発が初めて日本の排他的経済水域(EEZ)内に落下したことに関しては、「緊張を高め、地域を不安定化している」と非難しました。

私は、この日米豪を含む多数の国が、いずれ近いうちに、中国の演習に対抗して、台湾防衛を目的とした、かなり大規模な軍事演習をすると思います。

中国の今回の暴挙に反応して、多くの国々がこれを脅威に感じ、これに備えようとするでしょう。

そうして、大国は小国に勝てないというパラドックスの新たな事例がまた生み出されていくことになるでしょう。

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