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2022年11月4日金曜日

ウクライナ報道官「領土占領の状況、日本と酷似」―【私の論評】北方領土に住むロシア人、ウクライナ人の生活は破綻寸前!返還シナリオは机上の空論ではない(゚д゚)!

ウクライナ報道官「領土占領の状況、日本と酷似」

ウクライナのオレグ・ニコレンコ外務報道官

 ウクライナのオレグ・ニコレンコ外務報道官が4日までに、首都キーウ(キエフ)市内で産経新聞の単独インタビューに応じた。ニコレンコ氏は日本のウクライナ支援に「心から感謝する」と表明し、両国がともにロシアに不当に領土を占拠されているとして、北方領土問題の解決に向けて2国間の協力強化を呼び掛けた。露軍がウクライナの民間施設への攻撃を強めている現状については、「ウクライナ人に対するジェノサイド(集団殺害)」だと糾弾した。

 ニコレンコ氏は、日本が「技術、人道両面でウクライナを支援し、対露制裁にも積極的に取り組んでいる」と述べ、「心から感謝している」と表明した。

 またゼレンスキー大統領が10月7日に「ロシアが不法占拠している北方領土を含む、日本の主権と領土の一体性を支持する」と表明したことに関して、「日本をめぐる状況は(ロシアに)領土を占領された現在のウクライナと酷似している」と指摘。北方領土問題も、「国際法が侵害された事例であり、解決が必要だ」と主張した。

 ウクライナは現在、2014年にロシアに併合された南部クリミア半島の奪還に向けた国際会合「クリミア・プラットフォーム」を主導しているが、同会議で得た知見を「北方領土問題の解決にも活用できるのではないか」と述べ、両国間の協力強化を呼び掛けた。 一方、日本政府がロシア極東の石油・天然ガス開発事業に出資を継続する意向を示していることに関しては、「ロシアビジネスに関する一般論」だと前置きしつつ、「ロシアは原油や天然ガスを国際市場で売った資金で、ウクライナ人を殺している。われわれは、ロシアと商売をすることは間違っていると考えている」と述べた。

 10月10日以降、露軍がキーウを含むウクライナ全土の電力インフラなどへの攻撃を激化させている現状については「人々が生き延びるために必要なすべを奪おうとしている」と断じ、「ウクライナ人に対するジェノサイドに行きつく行為だ」と非難した。

 プーチン露大統領については、「戦場でウクライナ軍に勝利できないから、軍事とは関係がない施設を攻撃(して戦果を主張)することで、国民の目から自国の損失を隠そうとしている」と批判。「モスクワ(ロシア政府)が他の旧ソ連諸国の国民に指示できるという病的な考え」をプーチン氏が持ち続けており、「そのために、われわれが巨大な損失を被っている」と語った。(キーウ 黒川信雄)

【私の論評】北方領土に住むロシア人、ウクライナ人の生活は破綻寸前!返還シナリオは机上の空論ではない(゚д゚)!

上の記事に出てくる、クリミアプラットフォーム(ウクライナ語: Кримська платформа, 英語: Crimea Platform, クリミア・タタール語: Qırım platforması)は、ウクライナとその大統領、ウォロディミル・ゼレンスキーの外交イニシアチブです。

クリミアプラットフォーの事務局開設

2021年8月23日の会議で始動され包括的なアプローチを強く求めている国際的枠組です。ロシアによって2014年に併合された南部クリミア半島の奪還を求める国際プラットフォームです。

 大統領は、ドンバスの平和とクリミアの脱占領は、重要な優先課題だと強調し、「残念ながら、ノルマンディ・フォーマットの議題にはクリミア問題はなかった。

しかし、クリミア問題は、これまでも今も今後も、私たちの議題であり続ける。クリミアが占領され、ウクライナ人やクリミア・タタール人が恒常的な迫害を受け続けている限り、世界はクリミアを忘れてはならない」と強調しました。

その上で大統領は、ブダペスト覚書の安全保証について話すだけでは領土は帰ってこないとし、「私たちは、(返還のための)新しい効果的手段を模索している。クリミア問題を国際議題に押し戻すためだ。私たちは、『クリミア・プラットフォーム』というフォーマットを作っている。同プラットフォームは、クリミア住民の人権と半島脱占領のための国際的努力を調整するものだ。私は、すでに欧州連合(EU)、英国、カナダ、トルコ、その他のパートナーとこのイニシアティブについて協議した。その内の多くが、積極的に参加する準備がある」と伝えましたた。

ちなみに、ノルマンディー・フォーマットは、ノルマンディーコンタクトグループとも呼ばれ、ドンバス戦争とより広範なロシアウクライナ戦争を解決するために集まった国々のグループです。グループを構成する4か国、ドイツ、ロシア、ウクライナ、フランスは、フランスのノルマンディーでのD-Day祝賀会の70周年の際に最初に非公式に会合を開催しています。設立は、2014年6月6日です。

ノルマンディ・フォーマット4国(独仏宇露)首脳会議。12月9日のパリ。

岸田総理大臣は、第2回クリミア・プラットフォーム首脳会合へオンラインにより、出席しています。

8月23日、ウクライナ政府は、第2回クリミア・プラットフォーム首脳会合をオンラインで開催し、ウクライナからヴォロディミル・ゼレンスキー大統領(H.E. Mr. Volodymyr ZELENSKYY, President of Ukraine)及び関係閣僚、並びに関係国政府・国際機関の首脳等が出席しました。

同首脳会合に際し、岸田文雄内閣総理大臣が、概要以下のビデオ・メッセージを送る形で参加しました。

メッセージの内容の概要は以下です。
(1)ロシアによるウクライナ侵略は、欧州のみならず、アジアを含む国際秩序の根幹を揺るがす暴挙です。日本は、クリミアを含めたウクライナの主権及び領土一体性を一貫して支持し、一方的な現状変更の試みには断じて反対します。
(2)日本は、強力な対露制裁を講じるとともに、人道支援、財政支援、装備品等の提供、物資輸送支援等のウクライナ支援を実施してきました。今後も、先般のG7エルマウ・サミットにおいて発表した追加支援を含め、総額約11億ドルの支援を実施していきます。
(3)ロシアによるウクライナ侵略が長期化する中、国際社会が結束して対応することが重要です。今週末のTICAD8の機会を捉えたアフリカ諸国への働き掛けなど、これからも、我が国独自の取組を全力で進めていきます。
(4)日本は明年、G7の議長国を務めますが、ウクライナにおける一刻も早い平和の回復及び復興の実現に向け、国際社会と緊密に連携しつつ、また日本の経験を活かし、最大限の努力、積極的な貢献を続けていきます。
以下にビデオ・メッセージの動画を掲載します。


先日辞任したばかりの英国のトラス首相が外相のときの4月に、ロシア軍について、2月24日の侵攻開始以降に占領した地域だけでなく、南部クリミアや東部ドンバス地域の一部など8年前に併合した地域からも撤退すべきと発言していました。この発言は、プーチンにとってはかなりショッキングなものだったようです。

日本もロシアに対しては、英国なみの対応をすべきでしょう。特に日本はG7では唯一ロシアとの間に領土問題を抱えている国です。しかも、ロシアにより不当に占拠されているのです。

日本としては、ロシア軍について、2月24日の侵攻開始以降に占領した地域だけでなく、南部クリミアや東部ドンバス地域の一部など8年前に併合した地域からも撤退はもとより、北方領土からも撤退すべきと主張すべきでしょう。

これは、夢物語とか仮の話ということではなく、十分にありえることです。今回のロシアのウクライナ侵攻に対する西側諸国などによる制裁などで、プーチン政権が窮地に陥り、ロシアは北方領土どころでなくなる可能性が高いです。

そうなった時、北方領土に住む約2万人のロシア人、ウクライナ人(ソ連邦時代に移り住んだ人が多い、人口の約4割を占める)島民は食料品などの生活必需品の調達もままならず、孤立状態に陥ることが予想されます。その後は日本に支援を求めてくる可能性が極めて高いです。

2014年北方領土で集会を開くウクライナ出身者ら

日本が人道支援名目で北方領土に介入し経済支援すれば、ロシア人、ウクライナ人島民は日本の支援なしで生活できなくなります。“ロシア離れ”が進んだ島民たちによる住民投票で独立宣言がなされれば、あとは独立した北方領土を日本が受け入れるかたちで返還が実現する可能性があります。

経済制裁の影響ですでに北方領土に住むロシア人の生活が破綻寸前であり、この返還シナリオは決して机上の空論ではありません。ただ、日本にとってはただ黙って棚ぼたのように戻ってくるのと、ロシアは撤退すべきと主張した上で戻ってくるのでは意味合いが全く違います。無論後者のほうが日本の世界における存在感は高まります。

ウクライナの報道官が語るように、現在は日本にとっても北方領土を取り戻す絶好の機会といえます。クリミアプラットフォームのやり方は、日本にも大いに参考になるに違いありません。

そうして、これを日本がやり遂げれば、日本の世界での存在感は高まるのは、間違いありませんし、世界の多くの国が軍事的に現状変更をすれば、必ずそれに対する報いを受けなければならないときがくることを知ることになります。

北方領土に関しては、GDPが韓国なみの貧乏国ロシアは、ロシアとしては超破格の数千億の支援をしていました。数千億と聞くと、かなりの支援と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、日本では普通の都道府県等に対する支援に相当する程度すぎないのですが、人口二万人の北方領土に対する支援は、将来も見越してのことだったと思われます。これらも無意味になるのです。

日本ならば、これをはるかに上回る支援ができます。生活環境が整備され、産業の振興も行われということになれば、北方領土のロシア人やウクライナ人はこれを歓迎するでしょう。

これは、中国のような国に現状変更をすることは、結局高い代償を払わなければならないことになることを思い知らせることになります。

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2022年9月17日土曜日

比の潜水艦導入に仏が前向き―【私の論評】国軍近代化を目指している、フィリピンのマルコス政権に日本も協力すべき(゚д゚)!

比の潜水艦導入に仏が前向き

フランスとスペインが共同開発したスコルペヌ型潜水艦


【まとめ】

・フィリピンがフランスから潜水艦2隻を導入することについて、両国政府間で協議が開始。

・米がフィリピンへの通常型潜水艦供与に乗り出せば、フランスはまたもや米との潜水艦導入競争に直面する可能性も。

・南シナ海の海洋権益を主張してフィリピンと領有権問題が生じている中国からは、潜水艦導入への猛反発が予想される。

 フィリピン海軍の長年の夢である潜水艦の保有に関してフランスが前向きであることが明らかになった。東南アジアではインドネシア、マレーシア、シンガポール、ベトナム、ミャンマーの5カ国が潜水艦を導入し実際に運用している。

 このように東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟10カ国のうちすでに半数の国が潜水艦を導入しており、フィリピンはかねてから潜水艦取得に意欲をみせていたが、なかなか実現していなかった。

 9月13日にフランスは「フィリピン海軍の潜水艦を艦隊に含めた近代化計画に関してフィリピンを支援しかつ協力する準備が整っている」と前向きの姿勢を示し、フランスからの潜水艦導入が本格的に動き出す可能性が出てきた。

 フィリピンは南シナ海で中国との間で領有権問題を抱え、中国海軍艦艇や海警局船舶などによる領海侵犯や排他的経済水域(EEZ)内での違法操業などに長年悩まされているという問題がある。

 またフランス側にも2021年9月16日にオーストラリアがすでにフランスと契約していた潜水艦12隻の導入計画を破棄した。

 この時フランス政府は「我々は裏切られた」と怒りを爆発させた経緯がある。オーストラリアはその後米に原子力潜水艦を発注する事態に直面し、フランスとしては新たな契約先を模索しているという事情があり、フランスとフィリピン双方の思惑が一致した結果となったとの見方が有力だ。

★在比フランス大使が言及

 フィリピンの現地報道などによると、9月13日に在フィリピン・フランス大使館のミシェル・ボッゴズ大使がフィリピン海軍記念日の記念式典後の記者会見で「フランスはフィリピンと緊密に協力して戦略的な関係を構築することにコミットしているので準備はできている」として両国政府間ですでに潜水艦2隻の導入に関して協議を始めていることを明らかにした。

 具体的にはフランスの造船会社「ネイバル・グループ」との間で潜水艦とその関連施設を設計・建造することで協議が進んでいるという。

 さらにフランス側は「要員を派遣して潜水艦乗組員の教育、訓練、技術移転をすることも検討している」として全面的に支援する姿勢を示している。

 フィリピン政府はまだ潜水艦導入に関してフランス政府となんら合意、調印、契約には至っていないが、フランス側の積極的な「売り込み」に具体的な検討に着手する可能性が高いとみられている。

 フィリピンは2018年にロシアとの間で潜水艦導入を検討したことがあり2021年にも韓国との間で検討されたものの、いずれも正式な契約には至らなかった経緯があるという。

★米と競争か フランスの通常型潜水艦

 フランスがオーストラリアに総額500億ドルともいわれる潜水艦12隻の導入計画をキャンセルされた背景には、フランスの潜水艦は通常型潜水艦で原潜に比較すると潜水時間が限定的で長期間の潜航はできないことがあるのは間違いない。

 さらに米英豪による軍事同盟である「AUKUS」が2021年9月15日に設立が発表され、その直後にオーストラリアはフランスとの契約を破棄し、その後米原潜の導入を決めた。

 これは、南シナ海や太平洋での潜水艦作戦には長期潜航可能な原潜が必要との判断によるものとされている。

 もっともその理由以外に、遥か彼方のフランスより太平洋や南シナ海で共同訓練や作戦行動を共にする米海軍との関係を重視した結果の選択といわれている。

 フィリピン海軍が原潜を運用することはかなり非現実的だが、今後の進展次第では米がフィリピン海軍の近代化を含めて通常型潜水艦供与に乗り出してくる可能性も否定できず、フランスはオーストラリアに続いてフィリピンでも米との潜水艦導入競争に直面する可能性も予想されている。

★ASEANの潜水艦事情

 ASEAN各国ではシンガポールが6隻のスウェーデン製潜水艦を有用しているほか、インドネシアが韓国、西ドイツ、自国製の5隻を保有、マレーシアがフランスから2隻を導入、ベトナムは6隻をロシアから導入しているとされ、ミャンマーも2021年に中国製1隻を導入したとされている。

 このようにASEAN各国海軍の潜水艦戦力はその多くが旧式の通常型潜水艦とはいえ一定の能力を維持している。

 今後フィリピンがフランスから潜水艦を導入すればASEANでは最新鋭の潜水艦となる可能性が高く、南シナ海で一方的に広大な海域での海洋権益を主張してベトナム、マレーシア、ブルネイ、フィリピンとの間で領有権問題が生じ、一部の島嶼や環礁に港湾施設や空港、レーダーサイトなどの軍事施設を建設している中国が、フィリピンの潜水艦導入計画に対して猛反発してくることが予想されている。

【私の論評】国軍近代化を目指している、フィリピンのマルコス政権に日本も協力すべき(゚д゚)!

フィリピンは群島国家であり同時に海洋国家であり、特に南シナ海では中国との間で領有権を巡る争いを抱えており、海軍力の近代化、整備がドゥテルテ政権の喫緊の課題となっていました。

ドゥテルテ・フィリピン大統領と安倍総理

2018年にはフィリピンの国防相が「ロシアあるいは韓国」を念頭にして潜水艦導入計画があることを示唆したものの、その後計画は一向に具体化していませんでした。今回フランス製潜水艦導入が実現すればフィリピン海軍としては史上初の潜水艦保有となります。

フィリピンやインドネシアという群島国家、さらにマレー半島とボルネオ島に領土を持つマレーシア、南シナ海に面したベトナムなど東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国には海洋権益保護や海上警戒警備のために海軍力の整備近代化、多角的な運用が求められている国が存在します。

しかし潜水艦となるとシンガポール、マレーシア、インドネシア、ベトナムがそれぞれ新造艦や中古艦を保有しているものの、フィリピンはこれまで保有していなかったという経緯があります。

ASEANの潜水艦保有国の中でシンガポール以外のマレーシア、ベトナムは南シナ海で中国と直接領有権問題を抱え、インドネシアは南シナ海南端のインドネシア領ナツナ諸島の北方海域に広がる排他的経済水域(EEZ)への中国漁船の侵入、不法操業という問題に直面しています。

こうしたことから東で太平洋に面し、西で南シナ海に面しながら唯一潜水艦を持たないフィリピン政府や海軍にとって「潜水艦保有」は長年の宿願でした。

2018年6月にはフィリピンのデルフィン・ロレンザーナ国防相が潜水艦導入計画で「ロシアと韓国を視野に入れている」と発言したことが地元紙に報じられました。

ロレンザーナ国防相は「海軍近代化プログラムの中で潜水艦を導入する方針を決めた」と改めて強調し「ロシア、韓国そしてそれ以外の国も視野に入れている。潜水艦の建造には5~8年かかるため、なるべく早く発注したい」との意向を明らかにしました。

この時もロレンザーナ国防相は「隣国であるマレーシア、シンガポール、インドネシア、ベトナムは潜水艦を保有しているのに、フィリピンだけが持っていない。フィリピンの安全保障のためにも潜水艦は必要だ」として、潜水艦保有への熱い思いを語っていました。

フランスの造船会社「ネイバル・グループ」関係者は潜水艦導入計画が今後具体化すれば「乗組員の教育訓練に加えて潜水艦の運用、修理点検整備など全ての面でフィリピン海軍と協力関係を築くことができる」として全面的にサポートする姿勢を強調していました。

ただ、ドゥテルテ政権は他の主要ASEAN加盟国と同様に深刻なコロナ禍とそれに伴う経済不況に直面していました。新型コロナウイルスの感染者数、感染死者数ではフィリピンは域内でインドネシアに次ぐワースト2を記録し続けていました。

こうした未曾有の事態で一般国民がコロナ感染とそれに伴う失業や生活困窮などに喘ぐなか「いくら国防のためとはいえ潜水艦導入を今積極的に進める必要が本当にあるのか」との意見も根強く、結局はドゥテルテ政権では実現しませんでした。

自国の防衛力強化に関して、新マルコス政権は、ラモス政権期に制定されながら予算不足により空文化していた国軍近代化法を更新、空軍力と海軍力の強化に力点を置いた国軍近代化を目指すことになりました。

この海軍力の強化の一環として行われるのが、今回のフィリピンにおける潜水艦導入のフランスとの協議ということができます。


フィリピンの安全保証は、我が国にとっても重要です。日本のシーレンはフィリピンと台湾の間に位置します。日本では、台湾有事は日本の有事ということがいわれていますが、フィリピン有事も我が国に深刻な悪影響を及ぼすのは確実です。

そのため、フィリピンが潜水艦を保有するということは、我が国の安全保証にも寄与することとなり、我が国にとっても歓迎すべきことです。

フィリピと日本との間でも安全保障協力を進めています。2014年のシャングリラ・ダイアログにおける当時の安倍首相の演説は、海洋における法の支配を強調する内容であり、中国を名指しこそしないものの、南シナ海における中国の行動に焦点を当てる内容であり、当時のアキノ政権の立場と共鳴するものでありました。

2014年のシャングリラ・ダイアログにおける当時の安倍首相の演説

これ以降は、海上法執行機関に対する巡視船供与や専門家派遣に加え、防衛装備品移転や輸出が実現するなど、日比間の安全保障協力が強化されてきました。また、2012年の巨大台風ハイエンからの復興支援においては、自衛隊の艦艇が、第二次世界大戦の激戦地レイテに寄港し、復興支援に従事するなど、災害援助においても自衛隊の役割が拡大したといえます。

そうして、今年4月には、日本とフィリピンの初めての「2プラス2」が開催されました。日本側から林外務大臣と岸防衛大臣が、フィリピン側からロクシン外相とロレンザーナ国防相が出席し、東京都内で行われました。

冒頭、林大臣は「中国による力を背景とした一方的な現状変更の試みは東シナ海や南シナ海でも継続しており、われわれは国際秩序に対する多くの挑戦に直面している」と述べました。

協議で取りまとめられた共同声明では、海洋進出を強める中国を念頭に、東シナ海や南シナ海の状況に深刻な懸念を表明し、緊張を高める行為に強く反対しました。

そして、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻をめぐり、悲惨な人道上の影響が出ていると非難するとともに、こうした侵攻は、力による一方的な現状変更を認めない国際秩序の根幹を危うくし、ヨーロッパにとどまらずアジアにも影響を及ぼすという認識を共有しました。

また、日本・フィリピン両国の間で防衛装備品や技術の移転を進めるとともに、自衛隊とフィリピン軍との間で物品などの相互提供を円滑にするための枠組みについて検討を始めるなど、防衛協力を強化していくことで一致しました。

日本は、今後もフィリピンのマルコス政権と安全保障面で協力し、 インド太平洋地域の安定に寄与していくべきです。

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2022年9月6日火曜日

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エリザベス・トラス氏

 英国の与党保守党の新党首に選出されたエリザベス・トラス外相(47)は6日、エリザベス女王(96)の任命を受け新首相に就任する。マーガレット・サッチャー元首相、テリーザ・メイ前首相に続き、英国史上3人目の女性首相となる。日本政府は、外交・安全保障、経済面などで英国との関係強化を進めており、「日英同盟の絆」の復活が注目される。航空自衛隊の次期戦闘機の共同開発も加速しそうだ。

 「この厳しい時代を乗り越え、経済を成長させ、英国の潜在能力を発揮させるため、大胆な行動を起こす」

 トラス氏は党首選出後、ツイッターでこう決意表明した。

 首相への任命は、エリザベス女王が滞在する北部スコットランドのバルモラル城で行われる。任命後はロンドンに戻り、首相として初の演説に臨む。

 トラス氏は、「小さな政府」を志向して「英国病」と呼ばれた経済を新自由主義的な政策で立て直した「サッチャリズム」を信奉。党首選討論会でも、「最も尊敬する政治家はサッチャー氏」と明言するなど、「新・鉄の女」と評されている。

 岸田文雄首相は5日、自身のツイッターに「心から祝意を表します。トラス党首が強いリーダーシップの下、英国を導いていくことを期待しています」と投稿した。

 日英関係は近年、安全保障や経済分野での連携を強めている。

 昨年8月には、英海軍の最新鋭空母「クイーン・エリザベス」を中核とする空母打撃群と海上自衛隊が沖縄南方で共同訓練を行い、同9月に、米海軍横須賀基地(神奈川県横須賀市)に入港した。空自のF2戦闘機の後継機も、日英で共同開発する方針。英国は今年6月、東京電力福島第1原発事故後に導入した日本産食品の輸入規制を撤廃した。

 『日本が感謝された日英同盟』(産経新聞出版)という著書がある軍事ジャーナリストの井上和彦氏は「トラス氏が選ばれた背景には、欧州連合(EU)離脱以来、英国のリーダーには外交力が求められている側面がある。こうしたなか、安全保障上、最も重要な戦闘機を日英で共同開発するメリットは大きい。今後、共同開発する装備品が広がる可能性もある。これらを世界に販売して経済的利益も得られる。日英両国とも『日英同盟の時代』は絶頂期だった。利害が一致こそすれ、衝突することがなかった。『第2次日英同盟』が期待される」と語った。

【私の論評】トラス首相は前首相と同じか、それ以上に中露に厳しく対峙する(゚д゚)!

新首相がまず直面する課題は、ウクライナ侵攻への対処となります。ジョンソン政権は8月下旬、最新型無人機2千機を含む5400万ポンド(約87億円)相当の追加支援を発表。英国の軍事援助は米国に次ぐ2位の累計約23億ポンドに上り、英国は米国とともにウクライナ支援を牽引してきました。

トラス氏は党首選で「露軍をウクライナ全土から押し出さなければならない」と述べ、支援を拡大すると強調。「民主主義国家を弱体化させようとするロシアの企てを明らかにする」として、露内部の情報収集も強化する姿勢も示しました。

ウクライナ侵攻の影響は国民生活を直撃していま。エネルギーを中心に物価高騰が収まらず、7月のインフレ率は10%に達し、1982年以来約40年ぶりの高水準を記録。2022年後半にも景気後退入りする恐れが強まりました。


「経済がさらに悪化すれば、ウクライナ支援の勢いが鈍る」(保守党党員)との懸念もくすぶりだしています。トラス氏は対策として年間300億ポンド規模の減税を公約に掲げました。法人税率引き上げを凍結する方針も示していますが、減税で消費が刺激されれば逆にインフレを招く恐れがあります。

サッチャー誕生のきっかけとなった1970年代のインフレは25%に達し、4つの政権と4人の首相が交代した。光熱費、食費は300%近く上昇した。金利が17%に達した時、インフレは初めて終焉したが、その代償として大量の失業者が街にあふれました。

トラス氏がインフレ退治を怠って慢性化させれば、英国経済は大ダメージを受けます。トラス氏はかつて核軍縮運動に参加し、オックスフォード大学では弁論団体オックスフォード・ユニオンで自由民主党のリーダーを務めたこともある。リベラルから保守への変節と首相就任を一番嘆いているのは左翼でリーズ大学名誉教授の父ジョン・トラス氏なのかもしれないです。

ジョンソン政権は昨春発表した新たな外交・安全保障政策指針に、中国の影響力拡大をにらんで、インド太平洋地域への関与強化を明記。日本との連携も重視してきました。ところが、ウクライナ侵攻や経済低迷が長引けば、「インド太平洋に関与しようという英国の野心が抑制される可能性がある」(英王立国際問題研究所のデビッド・ローレンス特別研究員)とも分析されまています。

国内では中国に対する経済的依存からの脱却の可否も注目されています。通信機器や衣料品などの対中依存は高まっており、物品・サービスの中国からの年間輸入額(21年)はジョンソン氏が首相に就任した19年から150億ポンド以上増えました。

英メディアによると、トラス氏は中国を国家安全保障に対する「脅威」と定義し、対中依存脱却に注力する方針です。中国を含めた権威主義国家への技術輸出を制限するほか、中国当局への利用者情報の流出が懸念される動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」など、中国系IT企業の取り締まりを強化する考えも示しています。

サッチャー氏(左)とトラス氏

旧ソ連から「鉄の女」と恐れられた故マーガレット・サッチャー首相を意識するトラス氏は昨年12月、権威主義国家の中国とロシアを念頭に「今こそ自由世界は反撃し、経済とテクノロジーの力を使って恐怖ではなく自由を促進する時だ」と呼びかけました。

トラス氏は中露の冒険主義を抑える方法として西側が安全保障だけでなく、経済、テクノロジーで団結する「自由のフロンティア」を築き、「同じ考えを持つ」世界中の国々が協力する必要性を強調する。保守党下院議員には、首相になった暁には中国新疆ウイグル自治区での少数民族弾圧を「ジェノサイド(民族浄化)」と公式に認めると約束したとされます。


対中国抑止のために日米と連携したインド太平洋戦略の継承も焦点となっています。世界で影響力の拡大を目指す「グローバル・ブリテン」戦略を発展させられるかが問われます。

トラス氏の外相時代の発言など、【私の論評】にその内容を含む記事をいくつか掲載しましたが、中露に対しては「地政学的」な立場からその危険性を主張しています。

トラス首相はジョンソン前首相と同じく、あるいはそれ以上に中露に厳しく対峙するのは間違いなさそうです。

【私の論評】

英は「自由で開かれたインド太平洋」の良きパートナー【私の論評】日本は、ロシアはウクライナだけではなく北方領土からも撤退すべきと主張すべき(゚д゚)!


英国政府、TPP参加で“中国包囲網” 日米豪印「クアッド」にも参加検討 識者「親中懸念のバイデン米政権の不安埋めてくれる」 ―【私の論評】日本と英国は、ユーラシアのランドパワーに対峙している(゚д゚)!

2022年5月29日日曜日

穀物2200万トン輸出出来ず、港湾封鎖で ウクライナ大統領―【私の論評】ウクライナが穀物が輸出出来ないから世界も日本も大変だと思えば、プーチンの術策にはまるだけ(゚д゚)!

穀物2200万トン輸出出来ず、港湾封鎖で ウクライナ大統領

ロシア軍の攻撃によって破壊された穀物の貯蔵施設=25日、ウクライナ・ドンバス地方

 ウクライナのゼレンスキー大統領は29日までに、侵攻したロシア軍によるウクライナの主要港湾の封鎖で本来なら黒海やアゾフ海を通じて輸出されるはずの穀物の約半分の量が貯蔵庫内に滞留している状態にあることを明らかにした。

 【映像】元米特殊部隊員、ウクライナでの戦いを語る

 インドネシアの外交問題のシンクタンクがオンライン形式で開いた会合で述べた。輸出出来ず滞っている穀物は2200万トン相当と指摘。世界規模での食糧の安全保障の確保にとって大惨事となりかねない要因になっているとも訴えた。

 また、飢餓の被害者が今年は新たに5000万人増える可能性に言及した国連の分析に触れ、「低く見積もった数字」とし、実際はより多くなるであろうことを示唆。今年7月には多数の国で昨年の収穫分の在庫が尽きるだろうとし、「大惨事の現実的な到来が明白になるだろう」と予想した。

 ゼレンスキー大統領はインドネシアが今年11月に同国バリ島で開く主要20カ国・地域首脳会議(G20サミット)への招待を受け入れる意向も表明。その上で同サミットには「友好国家」だけ集まるべきだとし、ロシアを除外するよう主催国に暗に促した。

【私の論評】ウクライナが穀物が輸出出来ないから世界も日本も大変だと思えば、プーチンの術策にはまるだけ(゚д゚)!

ロシアのプーチン大統領は28日、フランスのマクロン大統領、ドイツのショルツ首相と電話協議した。ロシア側によるとプーチン氏はウクライナ侵攻に伴う食料問題の解決に向けて、黒海の港からウクライナ産を含む穀物輸出などを検討する用意があると表明。同時に米欧の対ロシア制裁の解除が必要だと主張しました。

プーチン氏は独仏首脳に対し、穀物価格の高騰など世界的な食料危機を「西側諸国の誤った経済政策や対ロ制裁の結果だ」と批判しました。米欧による制裁が強化されるなか、食料供給への協力と引き換えに制裁解除を促したかたちです。

確かに、ロシアもウクライナも小麦の大輸出国(それぞれ国としては第1位と第5位)となっている。ただし、EU諸国をまとめると、EUが6100万トンで首位、続いてロシア(3700万トン)、アメリカ(2600万トン)、カナダ(2600万トン)、ウクライナ(1800万トン)と続きます。

1973年の食料危機が旧ソ連の穀物大量買い付けによって引き起こされたように、かつてロシアは世界最大の小麦輸入国だったのであり、輸出国となったのは、2000年代以降です。このため、黒海周辺の両国は、新興輸出国と言われます。

また、両国の小麦は、品質的には、米国等に劣り、仕向け先としては中東が主です。ただし、両国が、戦争による物流の混乱などにより小麦を輸出することが困難になると、世界全体の小麦供給量が減少し、高品質な小麦を含めて、価格水準は上昇します。


また、ロシアのウクライナ侵攻後、原油価格が大きく上昇している。トウモロコシからエタノールというガソリンの代替品が作られます。原油価格が上がってガソリン価格が上がると、代替品であるエタノールへの需要も高まり、その価格も上がります。そうなると、エタノールの原料であるトウモロコシの価格が上がり、その代替品である他の穀物価格に波及していきます。2008年には、このような事態が起きました。このように、原油価格と穀物価格が連動するようになっています。また、ウクライナは世界第4位のトウモロコシ輸出国でもあります。

何人かの民間エコノミストが、テレビに出演して、小麦の用途は裾野が広く、パン、ラーメン、うどん、スパゲッティなどさまざまな食品の原料なので、家計が影響を受けると指摘していました。

しかし、これは本当なのでしょうか。今回と同様、2008年小麦の国際価格が2~3倍に上昇し、パンなどの価格も上がったとき、食料品全体の消費者物価指数は、2.6%上がっただけでした。2012年ころ穀物価格が騰貴したときも、食料品の消費者物価指数はほとんど変化していません。4月の消費者物価指数は、2.1%の上昇に過ぎません。

大きな理由は、小麦の輸入額は、日本全体の飲食料費支出の0.2%に過ぎないことです。我々が払う飲食料費の9割は、加工、流通、外食に帰属します。農産物への帰属はわずかで、特に小麦を含めた輸入農産物への支出は2%です。

さらに、先ほどの、原油と穀物(ガソリンとエタノール)のように、消費には代替性がある。牛肉の値段が上がると、豚肉の消費を増やそうとする。我々は、パンやラーメンなどの小麦製品だけを食べているのではない。パンの値段が上がれば、その代替品である米の消費が増える。2008年には、それまで減少していた米の消費が増加した。さらに、最近は米粉も普及しており、これによってパンなどもつくることができます。

財やサービスに代替性があり、消費者が、一定の所得を前提に、財やサービスの相対価格を考慮して、適正な財の組み合わせを決定することは、ミクロ経済学の初歩です。食料の消費や需給を検討する際に、「代替性」は重要なキーワードです。

なお、2008年米の消費が増えたのは、スーパーの棚にフリカケが並んだからだという(珍)説が、農水省の中でもっともらしく伝わり、かなりの職員が信じていたようです。実際にはパンなどの小麦製品の価格が上がったから、相対的に価格が低下した米の消費が増えたのです。

米の消費が増えたのでスーパーはフリカケの販売を増やしました。因果関係は逆です。この説が正しいなら、フリカケをたくさん売れば米の消費は簡単に増やせることになります。残念ながら、農水省の職員のほとんども、経済学を知らないで、農業政策を作っているようです。

これは、このブログでもよく取り上げているように、経済学を知らないで、財政政策を作る財務省職員と似たりよったりです。日本の省庁の職員に共通するのは、経済学を知らないといことかもしれません。

以下の図は、小麦輸出国の生産と輸出の関係を示しています。主要な輸出国において、輸出が生産に占める割合が大きいことに気づかれるでしょう。この割合は、ロシアで43%、ウクライナでは73%にも達します。アメリカ、カナダ、オーストラリアなど日本が輸入している国も同様です。

100万トン

これらの輸出国が、小麦を輸出できなかったとすると、国内で小麦があふれることになります。小麦価格は大幅に低下すると同時に、サイロに収納できない小麦が農家の庭先に野積みされることになります。

かつて手痛いダメージを受けたアメリカが輸出制限をすることはないでしょう。1979年アフガンに侵攻したソ連を制裁するため、アメリカはソ連への穀物輸出を禁止しました。しかし、ソ連はアルゼンチンなど他の国から穀物を調達し、アメリカ農業はソ連市場を失いました。あわてたアメリカは、翌年禁輸を解除したのですが、深刻な農業不況に陥り、農家の倒産・離農が相次ぎました。

最近の米中貿易戦争で、中国がアメリカ産大豆の関税を大幅に引き上げたときにも、輸出できなくなったアメリカの中西部の農家は多額の政府援助に頼らざるを得なくなりました。

輸出できなくなったり、輸出制限を行ったりすると、アメリカが経験したと同様のことがロシアやウクライナに起きることになります。

しかし、これまでロシアは国際的な穀物価格が高騰した際、輸出制限を行ってきました。自由に輸出が行われると、価格の低い自国から国際市場に穀物が供給され、国内の供給が減少し、価格も国際価格と同水準になるまで上昇します。

このとき、所得の高いアメリカやカナダなどと異なり、ロシアのように、所得が低く(年収100万円前後)、そのかなりを食料品に割いている国では、穀物価格上昇に国民が耐えられなくなるからです。輸出を制限すると、国内価格を国際価格よりも低く抑えることができます。

ロシア政府は3月14日、ベラルーシやカザフスタンなどの近隣諸国への小麦など穀物の輸出を一時的に制限することを決めました。大幅なルーブル安で生活物資の価格が高騰しています。自給できる小麦などの穀物価格は低く抑え、国民生活の負担をできる限り少なくしようとしたのでしょう。

ロシアにとってベラルーシは、ウクライナ侵攻の直前まで共同軍事演習を行い、またウクライナへの派兵を要請したという報道がなされるくらいの同盟国です。そのベラルーシへの輸出を制限しなければならないことは、ロシアの国民生活が相当厳しい状況に追い込まれていることを示唆しています。

一方ウクライナは、たしかにせっかく戦争下で小麦を作っても輸出できないですから、小麦農家は大変でしょうが、できれば政府が買い取って備蓄用に保存するような措置が望ましいと思います。ただ、戦争によって農家だけではなく、他の職業の人々も、酷い目にあっているのですから、農家だけに手厚い保護をすることは難しいでしょう。

こうなった責任はすべてロシアにあるわけですから、農家も含めて、戦後にはロシアに賠償させるなどのことをすべきでしょう。ただ、ロシアに請求してもそのようなことはしないでしょうから、世界中の国々が制裁で凍結したロシアの資産をそれに用いるべきと思います。

フランスのマクロン大統領、ドイツのショルツ首相も当然のことながら、自国のインテリジェンスを通じてこの位のことは理解しているでしょう。

先にも掲載したように、プーチン氏は、米欧による制裁が強化されるなか、食料供給への協力と引き換えにフランス、ドイツに対して制裁解除を促したかたちですが、プーチン氏もこのような状況については、当然ドイツも、フランスも知っていると認識しているでしょうから、試しに言ってみたくらいのことなのだと思います。

それにひきかえ、上でも述べたように飢餓の被害者が今年は新たに5000万人増える可能性に言及した国連は分析しているようで、これは「低く見積もった数字」とし、実際はより多くなるであろうことを示唆しているというのですから、これは一体どうしたことなのでしょうか。

そもそも2018年時点で、世界では9人に1人、約8億もの人々が飢餓に苦しんでいます。もともとこのような状態なのに、ウクライナの小麦の輸出が滞ったことだけにより、急激に飢餓被害者が増えるとも考えられません。

そもそも、最近の国連は中国等の影響が強まっているとされています。最近でも、28日まで6日間の日程で行われたバチェレ国連人権高等弁務官の新疆(しんきょう)ウイグル自治区訪問に、人権活動家などは早くも厳しい目を向けています。これについては、アメリカのブリケン国務長官も批判しています。

バチェレ国連人権高等弁務官

これには、同自治区への訪問を「調査ではない」とする中国側の意向に同調するようなバチェレ氏の発言が報じられ、実効性への疑念が強まったためです。中国側は、強権的な少数民族政策を正当化すべくプロパガンダを積極化させるとみられます。

日本では、経済も世界情勢もよくわかっていないような民間エコノミストがテレビに出演して、語ったり、国連関係機関などか何かを公表すると、無条件で信じる傾向が強いです。特に、ワイドショー民といういわれる、高齢でテレビなどが主な情報源の人たちには、そういう人か多いようです。

やはり、自ら統計などを見たりすれば、そのようなことは防げると思います。インターネットが発達した現在、そのようなことはさほど難しいことではありません。

それをしないで、ウクライナが穀物2200万トン輸出出来ないから世界が大変だー、日本も大変だーなどと信じ込んでしまえば、それこそロシアのプロパガンダに加担することになります。

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2022年5月17日火曜日

韓国で早くも「反日」暴挙 林外相の訪韓中に竹島EEZで無断調査 地下構造や資源探査か 「尹大統領は決して“親日”ではない」―【私の論評】日本は、ロシアと韓国の過去の「力による現状変更」も許さず厳しい制裁措置を実行すべき(゚д゚)!

韓国で早くも「反日」暴挙 林外相の訪韓中に竹島EEZで無断調査 地下構造や資源探査か 「尹大統領は決して“親日”ではない」

尹大統領(左)に岸田首相の親書を手渡した林外相=10日、ソウル

 新たな「反日」暴挙なのか。韓国が不法占拠する島根県・竹島南方の日本の排他的経済水域(EEZ)内で、韓国側の調査船が無許可で海洋調査を実施したようなのだ。韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)新政権は、日韓関係の改善を呼びかけるが、今回のタイミングを見る限り、岸田文雄政権を軽んじ、挑発した可能性すらある。

 産経新聞の17日朝刊によると、問題の調査は、韓国国営企業から委託されたノルウェー船籍の調査船「ジオ・コーラル」が実施した。竹島の南方約100キロの海域で、船尾からケーブルのようなものを引き、日韓の地理的中間線の日本側への侵入を繰り返したという。海域の地下構造や資源を探査した疑いがあるという。

 現場では、海上保安庁の巡視船が無線で委託元などについて聞き取り、「わが国の同意を得ない調査は認められない」と注意した。

 日本政府による外交ルートでの韓国への対応は明らかになっていないが、問題は調査船が活動したタイミングだ。

 産経新聞は、調査は尹氏が就任したタイミングで実施され、林芳正外相は訪韓中だったと報じた。林氏は9日、岸田首相の親書を抱えて、尹大統領の就任式(10日)に出席するために訪韓している。

 韓国側の調査船が活動した海域に近い日本のEEZ内では、石油・天然ガス開発の国内最大手「INPEX」(インペックス)が今月5日、天然ガスなどの商業生産化を調査する試掘を始めている。

 一連の韓国側の動きは偶然とは考えられない。どう見るか。

 朝鮮近現代史研究所所長の松木國俊氏は「韓国側の動きはタイミングを含め、尹氏の『竹島問題で日本に譲らない』という姿勢を示す意図があったのではないか。尹政権は決して『親日』ではない。文在寅(ムン・ジェイン)前大統領は強硬な『反日』で日韓関係を最悪な状態にしたが、尹氏は関係改善をチラつかせる巧妙な『反日』と見るべきだ。日本の国内世論が分断される恐れもある。岸田政権は手ごわい相手だと認識し、毅然(きぜん)とした対応をすべきだ」と語った。

■韓国による主な「反日」暴挙

□韓国国会議長(当時)による「天皇陛下(現上皇さま)への謝罪要求」

□韓国海軍駆逐艦による海上自衛隊哨戒機へのレーダー照射事件

□日韓の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の破棄決定

□いわゆる「元徴用工」訴訟をめぐる異常判決

□自衛隊旗(旭日旗)への侮辱

□不法占拠する島根県・竹島への韓国警察庁長官上陸

□世界文化遺産への「佐渡島の金山」推薦に反発

□林芳正外相の訪韓中に、島根県・竹島周辺のEEZ内で無断海洋調査の動き

【私の論評】日本は、ロシアと韓国の過去の「力による現状変更」も許さず厳しい制裁措置を実行すべき(゚д゚)!

昨日当ブログでは、英国トラスト外相の「ロシアをウクライナ全土から押し出すために、これまで以上に、より早く行動し続ける」という発言は、ロシア軍について、2月24日の侵攻開始以降に占領した地域だけでなく、南部クリミアや東部ドンバス地域の一部など8年前に併合した地域からも撤退すべきとの考えを示唆したものとみられることから、日本もロシアは北方領土から撤退すべきと主張すべきであるとしました。

その部分を以下に引用します。
日本としては、ロシア軍について、2月24日の侵攻開始以降に占領した地域だけでなく、南部クリミアや東部ドンバス地域の一部など8年前に併合した地域からも撤退はもとより、北方領土からも撤退すべきと主張すべきでしょう。

そうして、これは全くあり得ない話ではありません。このブログでも以前も指摘したように、ロシアのウクライナ侵攻は日本が北方領土をとりもどす機会にもなり得るのです。

今回のロシアのウクライナ侵攻に対する西側諸国などによる制裁などで、プーチン政権が窮地に陥り、状況が一変する可能性があります。今後、プーチン政権が崩壊すればロシア各地で分離独立運動が激しくなり、ロシア連邦は多数の国家に分割されるでしょう。

そうなった時、北方領土に住む約2万人のロシア人、ウクライナ人(ソ連邦時代に移り住んだ人が多い)島民は食料品などの生活必需品の調達もままならず、孤立状態に陥ることが予想されます。その後は日本に支援を求めてくる可能性が極めて高いです。

日本が人道支援名目で北方領土に介入すれば、ロシア人、ウクライナ人島民は日本の支援なしで生活できなくなります。“ロシア離れ”が進んだ島民たちによる住民投票で独立宣言がなされれば、あとは独立した北方領土を日本が受け入れるかたちで返還が実現する可能性があります。

経済制裁の影響ですでに北方領土に住むロシア人の生活が破綻寸前であり、この返還シナリオは決して机上の空論ではありません。ただ、日本にとってはただ黙って棚ぼたのように戻ってくるのと、日本がロシアは撤退すべきと主張した上で戻ってくるのでは意味合いが全く違います。無論後者のほうが日本の世界における存在感は高まります。

日本がこう主張すれば、ロシアは大反発するでしょうが、英国は大歓迎でしょう。英国の賛同を得れば、他の西側諸国も賛同する可能性は高いです。今回のウクライナ侵略による制裁として、ロシアはウクライナだけではなく、北方領土も失うということになれば、「力による現状変更」は絶対に許されないことが、理念ではなく事実として世界が認識することになります。

日本としては、北方領土のみならず、不当に韓国に占拠されている「竹島」から、韓国が撤退すべきと主張すべきです。無論、北朝鮮に対しても拉致被害者の変換を主張すべきです。両方ても「力による現状変更」です。国家による犯罪です。

その他にも、南シナ海の中国が環礁を埋め立ててつくった軍事基地などに関しても、周辺諸国で領有権を主張する国は、中国の南シナ海における実行支配をやめるように主張すべきでしょう。

第二次世界大戦中からそれ以降にかけて、不当に他国占拠されたような地域を持つ国々はこのような主張をすべきです。そうして、「力による現状変更」は絶対に許されないことが、理念ではなく事実として世界が認識させるようにするのです。

無論、ただ主張するだけでは、理念を主張するのと何の変わりもありません。ただ、目の前にロシアという現実があります。ロシアは経済制裁と、西側諸国などによる軍事支援で、北方領土に住むロシア人の生活が破綻寸前になっいます。

これと同じようなことを、第二次世界大戦中以降に「力による現状変更」を行った国々に対してできる仕組みを構築するのです。

国際システムにおける「現状」(Status-quo)とは、国境の画定、2国間・多国間で形成された合意や規範、現存する国際法や国際制度・規範などを広く包摂する概念です。これを大きく分類すると、領土と主権に関する現状、国際法・条約・協定や地域枠組みなどの制度に関する現状、及び安全保障や自由貿易の秩序をめぐる望ましい力の分配、規範や行動に関する現状などがあります。


そうして「現状維持」が重要であるとされる理由は、国際システムが概ね良好な状態にあると見なし、平和の維持とルールに基づく競争を担保し、国家の行動に予測可能性をもたらすからです。

そうして、特に、ある国が武力で現状変更しようとした場合は、その被害を受けている国に対する支援をすぐにできる枠組みを構築し、すでに現状変更されている場合は、それに対する経済的な報復の枠組みも最初から構築し、すみやかに実施できるようにするのです。

統治の役割は、国債社会のために意味ある決定と方向付けを行うことです。国際社会のエネルギーを結集することです。問題を浮かびあがらせることです。選択を提示することです。

過去の経験則から、統治と実行を両立させようとすれば、統治の能力が麻痺します。しかも、決定のための機関に実行させても、貧弱な実行しかできません。それらの機関は、実行に焦点を合わせていないし、体制がそうなっておらず、そもそも関心が薄いです。

国連が機能しないのは、統治と実行が曖昧なところがあるのが大きな原因の一つです。これを分離させた新しい組織を構築した上で、「力による現状変更」に対する制裁を速やかに実行できるようにするのです。

日本としては、こうした国際組織の構築を提言すべきとは思いますが、それと平行し、ロシアや韓国、北朝鮮に対して現状変更を許さないという姿勢をはっきりさせ、元に戻さなければ、制裁を続けるべきです。

日本は比較的経済は大きいですし、技術水準なども高く、ロシアも韓国、北朝鮮も日本の技術や素材に頼っているところが大きいです。日本が単独で、ロシアや韓国、北朝鮮に対して制裁をしてもかなり効き目があります。ロシアや北朝鮮に制裁をして韓国にしないということでは、筋が通りません。

「現状変更は許さない」と岸田首相は、他国との首脳会談で発言しています。許さないというのなら、ロシアと韓国の過去の「現状変更」も許すべきではありません。このようなことを許そておけば、これからも世界で「現状変更」を企む、中国のような国がはびこることになります。

ウクライナに対しては武器の供与もすべきです。韓国に対しては、貿易管理などの曖昧な言い方ではなく、経済安全保証の一環として、はっきりと「経済制裁」をすべきです。そうして「竹島」を返還するまで継続すべきです。

また、尖閣を中国が奪取しようとした場合、ASW(対潜水艦戦闘)が中国よりも格段に優れた日本は、潜水艦で中国の艦艇や航空機などの侵入を防ぐことができます。これにより、たとえ人民解放軍や民兵が尖閣諸島に上陸しても、補給を絶って無力化できます。国際法的には何の問題もありません。ただ、法的な不備などは解消しておくべきでしょう。

こうしたことでノウハウと実績を蓄積し、「力による現状変更」を許さない仕組みや組織を提言すべきです。G7としては唯一、ロシアと韓国との間に領土問題を抱え、北朝鮮との間で「拉致問題」を抱える日本こそ、こうしたことを実行すべきです。

ロシアのウクライナへの侵攻、北方領土問題、竹島問題、拉致問題などを別ものと考えるべきではありません。その根底は同じく「力による現状変更」なのです。現在進行しているか、過去の問題かの違いだけではあり、これはいずれも明白な国際法違反です。

尖閣問題はこれから「力による現状変更」がこれから起きるかもしれず、それが起こりそうになれば、日本はそれを防ぐべきですし、起きてしまえば、原状復帰すべきです。

さらに、憲法9条を国際法の観点からみれば、世界の他の多くの国々が似たような日本の憲法9条とおなじような国連憲章やパリ不戦条約を源とする、平和条項を持ちながら、軍隊を持ち、自衛権も有しているのと同じく、日本も軍隊を持ち自衛権を有しているのは疑いようもないの事実であり、国内法をその観点からつくりなおしていくべきです。

ただし、誤解を招かないため、そうして現行の日本憲法は実質的に日本ではなく米国によって制定されたものであるため、それを改善したり、作り変えたりすることには大賛成です。

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2022年5月16日月曜日

英は「自由で開かれたインド太平洋」の良きパートナー―【私の論評】日本は、ロシアはウクライナだけではなく北方領土からも撤退すべきと主張すべき(゚д゚)!

英は「自由で開かれたインド太平洋」の良きパートナー

岡崎研究所

 英国のトラス外相は4月27日、ロンドン市長官邸で『地政学の復帰(The return of geopolitics)』と題する講演を行い、ロシアによるウクライナ侵略を受け、これまでの自由主義陣営のアプローチが失敗したことを率直に認め、侵略者に対抗する自由主義陣営の取り組みを再活性化することを説いている。


 演説は、北大西洋条約機構(NATO)の集団防衛の強化など、広範な内容を含むが、ここでは、インド太平洋に関連する部分を中心に、主要点を下記の通りご紹介する。

・われわれは、新しいアプローチを必要としている。それは、強固な安全保障と経済的安全保障を融合させ、より強固なグローバルな同盟関係を構築し、自由主義国家がより積極的で自信に満ち、地政学を認識するものだ。

・われわれは、欧州大西洋の安全保障かインド太平洋の安全保障かという誤った選択を拒絶する。現代の世界では双方とも必要だ。

・われわれは、日豪のような同盟国と協力して、インド太平洋における脅威に先手を打ち、太平洋地域を確実に守る必要がある。台湾のような民主主義国が自衛できるようにしなければならない。

・自由貿易はルールに則って行われなければならない。グローバル経済にアクセスできるか否かは、ルールを守っているか否かによるべきだ。(ウクライナを侵略したロシアへの経済制裁により)われわれは、経済的アクセスが自明のものではないことを示している。

・各国はルールに従って行動しなければならない。これには中国も含まれる。

・中国の台頭は不可避ではない。ルールに従って行動しなければ、中国の台頭は続かない。

・中国は主要7カ国(G7)との貿易を必要としている。G7は世界経済の半分を占めている。我々には選択肢がある。われわれは、国際的なルールが破られた時に、どのような選択をする用意があるかを、ロシアの事例で示した。短期的な経済的利益よりも安全保障と主権の尊重を優先する用意があることも示した。

・わずかな「のけ者」を除き、世界のほとんどが主権を尊重しており、われわれは新旧の同盟国や友邦との協力を緊密化している。同様の積極的なアプローチは、ライバルを抑制し、繁栄と安全保障の強力な推進力となり得る。それゆえ、われわれはインドやインドネシアなどとの自由貿易協定や環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定(CPTPP、TPP11)への参加など、新たな貿易リンクを築いている。

・悪意のあるアクターが多国間機関を弱体化させようとしている世界では、二国間および複数国間グループがより大きな役割を果たす。NATO、G7、英連邦などのパートナーシップは不可欠だ。

・われわれは、英国主導の「合同遠征軍」、ファイブ・アイズ、米豪とのAUKUSパートナーシップといった世界中の他の関係とともに、NATO同盟を強化し続けるべきである。そして、日本、インド、インドネシアなどの国々との関係を深化させ続けることを望んでいる。

(出典:‘The return of geopolitics: Foreign Secretary's Mansion House speech at the Lord Mayor's 2022 Easter Banquet’, Liz Truss, GOV.UK, April 27)

*   *   *   *   *   *   *

 トラス外相のロジックは明快で、自由主義国家がより積極的に行動し、経済および安全保障のパートナーシップによるネットワークを通じて、自由と民主主義が強化され、侵略者が封じ込められるような、ルールに基づく世界を目指している。そのために、軍事力、経済安全保障、グローバルな連携の深化を3つの柱に据えている。演説の内容は、もとより日本としても賛同できるものである。
 
 トラス外相は、その文脈において、インド太平洋地域では中国がルールを破っているとして、厳しい警告を発している。特に、守るべき民主国家として台湾の名を挙げていることは、強いメッセージと言える。

日本が掲げる「自由で開かれたインド太平洋」にも合致

 英国は既に、米英豪の安全保障枠組み「AUKUS(オーカス)」に参加し、日本とも安全保障協力を進め、インド太平洋に空母打撃軍を含む艦隊を派遣し、インド太平洋地域で合同軍事演習に数多く参加し、TPP11への参加も申請するなど、インド太平洋におけるプレゼンスを強めてきた。ただ、ロシアによるウクライナ侵略を受け、英国はインド太平洋に手が回らない、あるいは手を伸ばし過ぎるべきではない、という意見も見られる。

 トラス外相の演説は、こうした意見への反論としても意味が大きいと思われる。ルールに基づいた国際秩序維持の観点からも、地政学的観点からも、英国がインド太平洋におけるプレゼンスを弱めるとは想定しがたい。

 英国の方針は、日本が掲げる「自由で開かれたインド太平洋」とも合致しており、英国は心強いパートナーである。トラス外相の演説の後、5月5日に英国で行われた日英首脳会談においても、岸田文雄首相とジョンソン首相は、「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向け日英が緊密に連携していくことを改めて確認した。

 首脳会談では、自衛隊と英国軍の共同運用・演習の際の両者の法的地位や手続き等を定めた「日英円滑化協定」の署名を急ぐことでも合意した。日英間で結ばれれば、日本にとっては同盟国である米国は別として、豪州に次ぎ2国目の円滑化協定となり、日英防衛協力の深化の象徴となろう。

【私の論評】日本は、ロシアはウクライナだけではなく北方領土からも撤退すべきと主張すべき(゚д゚)!

4月27日、ロンドン市長官邸で講演を行ったリズ・トラスト英国外相

英国のリズ・トラス外相は27日の『地政学の復帰(The return of geopolitics)』の講演で、ロシアに対しては、ロシア軍を「ウクライナ全土から」押し出さなければならないと発言しました。ウクライナの勝利は西側諸国にとって「戦略的急務」となっていると語りました。

英国はこれまで、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領のウクライナ侵攻を「失敗させ、そう見せる必要がある」と述べるにとどまっていました。この日のトラスト氏の発言は、ウクライナでの戦争をめぐる英国の目標を、これまでで最も明確に示したものといえます。

トラス外相は、西側の同盟諸国はウクライナへの支援を「倍増」しなくてはならないと強調。「ロシアをウクライナ全土から押し出すために、これまで以上に、より早く行動し続ける」と述べました。

これは、ロシア軍について、2月24日の侵攻開始以降に占領した地域だけでなく、南部クリミアや東部ドンバス地域の一部など8年前に併合した地域からも撤退すべきとの考えを示唆したものとみられます

侵攻開始から1カ月の節目に、ロシアはその目的を「ドンバスの解放」と位置付けました。ここでいうドンバスとは主に、ウクライナのルハンスクとドネツクの両州を指しています。

これらの地域の3分の1以上はすでに、2014年に始まった紛争で親ロシア派の武装組織が制圧しています。


トラス氏の野心的な目標は、全ての西側諸国と共有されているわけではありません。武力によってであれ交渉によってであれ、達成は難しいとの懸念があるためです。

フランスやドイツの政府関係者からは、戦争の目的を明確にすればロシアを挑発するリスクがあるという慎重な声も出ています。それらの関係者は、ウクライナ防衛という表現に絡めて話をすることを好んでいます。

トラス外相の発言は、目標を高く設定することで、ウクライナが今後、交渉の場に立った際に、政治的和解についてより有利に立てるようにしたいという西側諸国の思いを反映しています。

トラス外相はまた、西側諸国は「経済的影響力」を使って、ロシアを西側の市場から排除すべきだと述べました。

上の記事にもあるとおり「グローバル経済へのアクセスは、ルールにのっとっているかで決められるべきだ」とトラス氏は指摘しました。

最大野党・労働党のデイヴィッド・ラミー影の外相は27日、トラス氏の演説は、保守党政府の10年超にわたる防衛・安全保障政策の「失敗を認めたように思える」と指摘しました。

トラス氏は演説の中で、西側諸国はロシアのさらなる侵攻を防ぐための対策を講じるべきだと訴えました。

これには防衛費の増額も含まれるとし、北大西洋条約機構(NATO)が各国の拠出目標として設定している国内総生産(GDP)2%という数値は「上限ではなく下限と見るべきだ」と述べました。

さらに、ロシアから脅威を受けている国々に対する武器供与にも積極的な姿勢を示しました。

「ウクライナだけでなく、西バルカン諸国やモルドヴァ、ジョージアといった国々が、主権と自由を維持する耐久力と能力を持てるようにするべきだ」

また、スウェーデンやフィンランドがNATO加盟を選んだ場合には「迅速に統合させることが必要だ」と述べました。

「ウクライナの戦争は我々の戦争、全員の戦争だ。ウクライナの勝利は、我々全員の戦略的急務になっているからだ」

「重火器、戦車、戦闘機……倉庫の奥まで探し回って、生産能力を高める必要がある。そのすべてをする必要がある」

「私たちは慢心できない。ウクライナの運命はまだ拮抗(きっこう)している。はっきりさせておきたいのは、もしプーチン大統領が成功すれば欧州全体に甚大な悲劇が起こり、世界中に恐ろしい影響が出るということだ」

トラスト外相の講演が行われたロンドン市長公宅マンションハウス

プーチン大統領は27日、ウクライナに介入する国は「電光石火」の対応に直面することになると警告しました。

議会での演説でプーチン氏は、「我々にはあらゆる手段がある。(中略)我々はそれを鼻にかけるのではなく、必要に応じて使用する」と述べました。

プーチン氏の言う「手段」は、弾道ミサイルや核兵器を指しているとみられます。

ただ、英国は核保有国でもあります。ロシアにとっては英国を刺激することは得策ではないのは明らかですが、プーチンがわざわざこのような発言をするということは、かなり追い詰められているとみて間違いないでしょう。

ロシア軍について、2月24日の侵攻開始以降に占領した地域だけでなく、南部クリミアや東部ドンバス地域の一部など8年前に併合した地域からも撤退すべきとのトラスト外相の発言は、プーチンにとってはかなりショッキングなものだったようです。

日本もロシアに対しては、英国なみの対応をすべきでしょう。特に日本はG7では唯一ロシアとの間に領土問題を抱えている国です。しかも、ロシアにより不当に占拠されているのです。

日本としては、ロシア軍について、2月24日の侵攻開始以降に占領した地域だけでなく、南部クリミアや東部ドンバス地域の一部など8年前に併合した地域からも撤退はもとより、北方領土からも撤退すべきと主張すべきでしょう。

そうして、これは全くあり得ない話ではありません。このブログでも以前も指摘したように、ロシアのウクライナ侵攻は日本が北方領土をとりもどす機会にもなり得るのです。

今回のロシアのウクライナ侵攻に対する西側諸国などによる制裁などで、プーチン政権が窮地に陥り、状況が一変する可能性があります。今後、プーチン政権が崩壊すればロシア各地で分離独立運動が激しくなり、ロシア連邦は多数の国家に分割されるでしょう。

そうなった時、北方領土に住む約2万人のロシア人、ウクライナ人(ソ連邦時代に移り住んだ人が多い)島民は食料品などの生活必需品の調達もままならず、孤立状態に陥ることが予想されます。その後は日本に支援を求めてくる可能性が極めて高いです。 

日本が人道支援名目で北方領土に介入すれば、ロシア人、ウクライナ人島民は日本の支援なしで生活できなくなります。“ロシア離れ”が進んだ島民たちによる住民投票で独立宣言がなされれば、あとは独立した北方領土を日本が受け入れるかたちで返還が実現する可能性があります。

経済制裁の影響ですでに北方領土に住むロシア人の生活が破綻寸前であり、この返還シナリオは決して机上の空論ではありません。ただ、日本にとってはただ黙って棚ぼたのように戻ってくるのと、日本がロシアは撤退すべきと主張した上で戻ってくるのでは意味合いが全く違います。無論後者のほうが日本の世界における存在感は高まります。

日本がこう主張すれば、ロシアは大反発するでしょうが、英国は大歓迎でしょう。英国の賛同を得れば、他の西側諸国も賛同する可能性は高いです。今回のウクライナ侵略による制裁として、ロシアはウクライナだけではなく、北方領土も失うということになれば、「力による現状変更」は絶対に許されないことが、理念ではなく事実として世界が認識することになります。

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2022年4月13日水曜日

北海道にロシア兵が上陸し 東京がブラックアウトしない限り ニッポンは危機に気づかないのかも―【私の論評】ロシアの北海道への領土的野心と、略奪などに備えよ(゚д゚)!

北海道にロシア兵が上陸し 東京がブラックアウトしない限り ニッポンは危機に気づかないのかも


「人殺し」に助けてもらうのか

破壊されたロシアの人員輸送車

ウクライナ危機のニュースに毎日接しているうちに戦争がだんだん他人事ではなくなってくる。共産党の志位委員長が、有事の際に自衛隊が「国民の命を守るのは当然」と発言し、自衛隊を違憲だとする共産党の立場と矛盾すると批判された。


自衛隊のことを「人殺し」と呼ぶくせに、身の危険を感じたら助けてくれと言うのは虫が良いのではないかと思うが、ある意味正直でもある。むしろ「憲法9条を守ってさえいれば平和は守られる」といまだに言っている人達の方がヤバいかもしれない。

 「平和を愛する諸国民の公正と信義を信頼して、われらの安全と生存を維持しようと決意した」という日本国憲法の有名な前文があるのだが、残念ながらロシアはもちろん、北朝鮮も「平和を愛する諸国民」ではない。中国も、たぶん、違うだろう。

ウクライナ危機が打ち砕いた幻想

だからウクライナのように核を放棄し、どこの軍事同盟にも属さないと、「平和を愛さない諸国民」に侵略される恐れがあることが今回わかった。つまりウクライナ危機は日本における「9条神話」という幻想を打ち砕いてしまったのだ。

 先日あるロシアの政治家が「ロシアは北海道の権利を持っている」という発言をしたというニュースを見てぞっとした。「あの土地は元々俺たちのものだ」といセリフは専制国家が侵略する時に必ず使うキーワードだからだ。 ウクライナ危機はもう一つの幻想も打ち砕いた。

それは「再生エネルギーさえあれば原発も、そして石炭火力もいらない」という欧州発の間違った考え方だ。 先月日本では地震で一部の火力発電所が停まり、そこに悪天候が重なって初の「電力需給ひっ迫警報」が出た。今後ロシアからの石油や天然ガスが止まれば日本の電力危機はさらに深刻になる。

 「ロシアは戦費調達にあなた方を利用している」とゼレンスキー・ウクライナ大統領に議会で演説され、国際的に大恥をかいたドイツは、安保もエネルギーも大幅な政策転換を迫られている。 軍事費についてはGDP比2%に大幅引き上げすることを決めたが、脱原発の流れはまだ止まっておらず、現時点では石炭火力発電の廃止を先送りするくらいしかできないようだ。

危機に気づかないニッポン大丈夫か?

では日本はどうなのか。安倍元首相が今年度5.4兆円の防衛費を来年度は6兆円越えにしたらどうかと提案したら、野党からは「不誠実だ」などの批判の声が上がった。ドイツみたいにGDP2%(日本なら10兆円)にしろと言っているわけでもないのに「不誠実」と叱られる、これが日本だ。

 エネルギーに関しても岸田首相は「原発はベースロード電源であり重要だ」という従来の答弁を繰り返すだけで、積極的な原発再稼働にカジを切るわけでも、小型モジュール炉の導入による「新設」に言及するわけでもない。

 わが日本は大丈夫なのだろうか。やはり北朝鮮のミサイルが九州の端っこに落ちるとか、ロシア兵が間違って北海道に上陸するとか、あるいはある日突然、大停電で東京がブラックアウトになるとか、そういうとんでもないことが起こらない限り、平和で、安全で、豊かな国ニッポンに住んでいる我々は本当の「危機」に気づかないのではないだろうか。

【執筆:フジテレビ 上席解説委員 平井文夫】

【私の論評】ロシアの北海道への領土的野心と、略奪などに備えよ(゚д゚)!

上の記事では、ニッポン人という表記がありますが、これはどういう、意味なのでしょう。このブログでも過去に「ニッポン人」とか「日本人」という表記をしたことがあります。

その時には「日本人」とは日本の過去の伝統を受け継いだ人のことであり、「ニッポン人」とはそうではない人のことをいうというような定義をして用いました。

上の記事の平井氏も、そのような意味で用いているのだと思います。そうして、平井氏がわざわざ「ニッポン人」として、批判したのは、日本にはこの「ニッポン人」とは異なる、危機を危機として認識する「日本人」も存在していることから、その「日本人」をも否定することを避けるためにわざわざ「ニッポン人」という言葉を用いたのだと思います。

平井氏が「豊かな国ニッポン」と表記したのも、日本の伝統をすっかり忘れてしまい、サファリパークのライオンのようになってしまっている日本を憂いたからこそ、この言葉を使っているのでしょう。

私自身は、自分のことを「日本人」だと思っています。だかこそ、このブログで従来から中露の危険については、随分前から指摘してきました。このブログを最初に書き始めたのは、2007年のことです。

最初はブログのタイトル「犬とレストランとイタリア料理」通りの内容からはじめましたが、あの民主党が政権をとったころから、かなりの危機感を感じたため、時事的な内容が増え、その後それがほとんどとなり、現在に至っています。

これからも、「日本人」的価値観で、時事問題を扱い、日常に潜む様々な危機を明るみに出していこうと思います。

そうした観点からすると最近一番気になるのが、ロシアの元上院議長が「ロシアは北海道を領有する権利を持つ」と発言でしょう。ロシアから平和条約締結交渉を一方的に蹴っ飛ばされるなど、日ロ関係が急速に悪化する中、波紋が広がっています。

問題発言の主はプーチン体制下で2011年まで上院議長を務め、現在は下院第3勢力の左派系野党「公正ロシア」の党首を務めるセルゲイ・ミロノフ議員。いわゆる体制内野党のトップです。


ロシアのネットメディア「レグナム」が配信したインタビュー記事(4日付)で、「どの国でも隣国に対して領有権を主張でき、国益の観点からそうする正当な理由がある。これまでクリル諸島(北方領土と千島列島)を欲しがっていたのは日本だけだった」と持論を展開。

先立つ1日には「日本はクリル諸島に関して常にロシアにクレームをつけているが、一部の専門家によれば、ロシアは北海道の完全な権利を有しているという」とツイートしていました。

 ウクライナで想定外の苦戦にあえぐロシアに二正面で構える余裕はないとはいえ、気味の悪さは拭えない。 

これに対して防衛省関係者は「万が一、ロシア軍が北海道侵攻を企てたとすれば、専守防衛が国是である以上、海岸線では防御できない。自衛隊は旭川-帯広ラインで押し戻すのが精いっぱいです」と語っています。

ただ、これについては従来からこのブログでは反論をしてきました。まずは、現在のロシア軍は、海上輸送能力が脆弱であり、北海道に大部隊を一度に送り込むことはできません。そのため、日本の自衛隊が上陸位置をあらかじめ察知すれば、その都度撃破されるということになります。

現在もそうなのですが、ソ連の時代も海上輸送力が脆弱であったため、結局ソ連が北海道に上陸する可能性は実はかな低かったといわれています。

さらに、日本はロシアに比較すると、対潜水艦戦闘力がかなり強く、特に潜水艦のステルス性においては、ロシアを大きく引き離しており、海戦においては日本が圧倒的に有利です。そうなると、ロシア軍が北海道侵攻を目指して大艦隊を送り込んできたとしても、そのほとんどは撃沈されてしまいます。

それでも、多大な犠牲を出しながらも、ロシア軍が北海道に部隊を上陸させたとしても、日本が北海道を潜水艦で包囲すると、補給部隊は北海道に近づくこともできず、近づけば撃沈されてしまいます。北海道に上陸したロシア軍部隊は、弾薬、食糧などを補充できなくなり、お手上げになります。

しかし、だからといって安心というわけではありません。上記のように、仮にロシア軍が北海道に侵攻して、負けたとしても、北海道の住民や自衛隊は大きな被害を被ることは避けられないからです。

それこそ、現在のウクライナのような状況になるでしょう。多くの人が犠牲になることが予想されます。やはり、最初から侵攻などされないほうが良いに決まっています。

近海では米ロが一触即発状況です。そうでなくても、ウクライナ戦争の影響で、北海道周辺は緊張が高まっています。このブログでも紹介したように、ロシアはカムチャツカ半島に拠点を置く太平洋艦隊の潜水艦基地ルィバチに、核兵器を積んだ弾道ミサイル原子力潜水艦(SSBN)を配備。オホーツク海を潜航し、日本列島の近くを行き来しています。

これについてはも、対潜水艦戦闘力に優れた日本の自衛隊は、哨戒能力も高く、その動向を詳細に把握しているでしょう。これについては、日本は冷戦時に多数の最新鋭の哨戒機を米国から購入し、哨戒任務にあたり、その情報を米国と共有し、実質的にソ連の原潜をオホーツク海に封じ込めたという歴史があります。

これにより、日本の対潜哨戒能力は飛躍的に向上氏、今やその能力は米国とならび世界トップクラスです。そうして、いまでも日本の自衛隊はロシア軍の潜水艦や艦艇に目を光らせています。

そのため、ロシア原潜も迂闊な動きはできません。ただ、将来的にプーチンがウクライナに侵攻したように、ロシア軍が北海道には絶対に侵攻してこないなどという保証はありません。

ウクライナ戦争をめぐり、米国が主導するNATO(北大西洋条約機構)の直接介入を阻止したいプーチン政権は核使用をチラつかせていますが、米国への対抗措置のひとつがオホーツク海からワシントンへの核ミサイル攻撃です。そうしたことから、北方領土や千島列島で軍事演習を繰り返しています。

在日米軍は当然、そうした動きを監視しています。ウクライナ戦争が米ロ戦争に拡大した場合、SSBNを沈めることが在日米軍の最大の役割になるからです。これに対しても、日本の自衛隊はその卓越した対潜哨戒能力を生かして、米国に大きな貢献をしているのは間違いないでしょう。

そのたいめ、滅多なことでは、ロシアが米国や日本に対して核攻撃をするということはないでしょうが、まかり間違ってロシア軍が北海道に侵攻するということでもあれば、戦況はロシア軍にとって圧倒的に不利な状況になりますから、それを打開するために戦術核を使うということは十分にありえることです。

そうなれば、日本が多大な被害を被るのは間違いないです。これは、避けるべきです。これについては、高橋洋一氏が興味深い主張をしています。その動画を以下に掲載します。


詳細はこの動画をご覧いただくものとして、高橋洋一氏は、まずは最近のロシアの動向に対抗して、日本はオホーツク海で大規模な軍事演習を行うべきことを主張しています。ロシアは最近北方領土でミサイル発射の軍事演習を行っています。これに対して、日本側が何もしないということではなく、これに対応して日本側も大規模な軍事演習を行うべというのです。

これは、外交上の常識として当然実施すべきものです。それと、古い日露間の条約では、樺太、千島列島の交換することを決めているわけですから、そこにまで戻って千島列島の全変換の交渉をすべきだとも語っています。これも外交上の常識といえます。

ただ、高橋氏は「岸田政権」には無理だろうと語っています。自民党内の保守系議員の方、なんとか頑張ってこれを実現していただきたいものです。

そうして、上の平井氏の記事で気になるのが、「ロシア兵が間違って北海道に上陸」という部分です。

これについては、前例があります。昨年民間のロシア人が国後島から、北海道まで泳いで渡っています。それに、2017年に松前小島に上陸した北朝鮮木造船の漁船員が泥棒をして逮捕されたという事件もありました。

目を海外に広げると、そのようなことは多くあります。北朝鮮の暴風軍団が最近そのようなことで逮捕されています。これは、朝鮮人民軍第11軍団としても知られる山岳戦、夜戦、後方撹乱などに長けた北朝鮮の特殊部隊です。

先月、咸鏡北道(ハムギョンブクト)や両江道(リャンガンド)の国境地帯に派遣されたのですが、新型コロナウイルス対策としての国境警備の強化、国境警備隊の勤務状態の監視などが目的と見られています。そんな暴風軍団のある兵士が、犯罪目的で一時的に脱北する事件が起きました。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じました。

北朝鮮暴風軍団

逮捕後の身体検査で、現金500元(約7700円)と中国の長白山ブランドのタバコ2カートンを隠し持っているのを発見されました。取り調べでこの兵士は、強盗目的で密かに国境を越えて中国に渡ったと自白しました。

中朝国境地帯の中国側では脱北兵士による凶悪犯罪が相次いでいました。

2014年12月には、吉林省和龍市の村の民家に北朝鮮軍の兵士が押し入り、4人を殺害し、カネを奪って逃げる事件が起きました。2015年4月にも同じ和龍市で北朝鮮軍の兵士が強盗殺人事件を起こしています。

強盗までに至らなくとも、川沿いにある食堂にやってきて食べ物、ビール、タバコをねだりに来るといいます。断ると嫌がらせをされるため、食堂のオーナーは応じざるを得ないそうです。

その後、国境警備の強化で脱北兵士による犯罪が減少した模様ですが、現地では、暴風軍団のせいで同様の事件がまた増えるのではないかとの懸念が高まっています。

これについては、前例があります。昨年民間のロシア人が国後島から、北海道まで泳いで渡っています。それに、2017年に松前小島に上陸した北朝鮮木造船の漁船員が泥棒をして逮捕されたという事件もありました。

目を海外に広げると、そのようなことは数多くあります。北朝鮮の暴風軍団が最近そのようなことで逮捕されています。これは、朝鮮人民軍第11軍団としても知られる山岳戦、夜戦、後方撹乱などに長けた北朝鮮の特殊部隊です。

先月、咸鏡北道(ハムギョンブクト)や両江道(リャンガンド)の国境地帯に派遣されたのですが、新型コロナウイルス対策としての国境警備の強化、国境警備隊の勤務状態の監視などが目的と見られています。そんな暴風軍団のある兵士が、犯罪目的で一時的に脱北する事件が起きました。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じました。

逮捕後の身体検査で、現金500元(約7700円)と中国の長白山ブランドのタバコ2カートンを隠し持っているのを発見されました。取り調べでこの兵士は、強盗目的で密かに国境を越えて中国に渡ったと自白しました。

中朝国境地帯の中国側では脱北兵士による凶悪犯罪が相次いでいました。

2014年12月には、吉林省和龍市の村の民家に北朝鮮軍の兵士が押し入り、4人を殺害し、カネを奪って逃げる事件が起きました。2015年4月にも同じ和龍市で北朝鮮軍の兵士が強盗殺人事件を起こしています。

強盗までに至らなくとも、川沿いにある食堂にやってきて食べ物、ビール、タバコをねだりに来るといいます。断ると嫌がらせをされるため、食堂のオーナーは応じざるを得ないそうです。

その後、国境警備の強化で脱北兵士による犯罪が減少した模様だが、現地では、暴風軍団のせいで同様の事件がまた増えるのではないかとの懸念が高まっています。

北朝鮮は、中国に比較すると、かなり貧乏であり、それがこの事件の誘引にもなっていると思われます。

中露は北朝鮮ほどには貧乏ではありませんが、それでも個人あたりの所得は100万円前後であり、日本と比較すればかなり低いです。中露人にとって、日本は天国のように豊かな国です。日本の家電品や身の回りののは、彼らにとっては宝の山です。

ロシア兵は、ウクライナで略奪をし、それをウクライナの郵便局から、ロシアに送っているとか、ウクライナ軍が傍受したロシア兵の会話では略奪を自慢しているものもあるといわれています。


ロシア軍がせめてこなくても、北方領土と北海道は泳いで渡れるほど近いですから、ロシア軍の不心得者が、やってきて略奪などをする可能性は否定できません。私はロシア軍の北海道侵攻より、こちらのほうがはるかに可能性が高いと思いますし心配です。

ロシアは財政難でロシア人の生活はますます苦しくなります。そうなると、ロシア軍の規律も緩んでくるおそれがあります。こうした略奪行為が大規模化する可能性はあります。それがエスカレートして、強姦、殺人にも発展しかねません。

そうして、中露北は日本に近く、いつ狼藉者が侵入してくるかわかったものではありません。さらには、ロシア経済が疲弊すれば、ロシア人難民が日本に大挙して押しよせてくることもあり得ます。ゼロコロナ対策で大混乱する中国や、北朝鮮からも来ることもあり得ます。こういうことにも、日本は対処すべきでしょう。

そのためには、防衛費の増加は無論のこと、こうしたことにも的確に対応できるよう、法改正も必要です。犠牲が出てからでは遅すぎるのです。

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2022年4月7日木曜日

中国による侵攻への準備を見せる台湾の離島軍事演習―【私の論評】台湾の大繁栄とロシアのウクライナ侵攻の大失敗が、習近平の企みを打ち砕く(゚д゚)!

中国による侵攻への準備を見せる台湾の離島軍事演習

岡崎研究所

 3月16日付のロイター通信が、台湾が馬祖列島の東引島で実弾演習を最近実施したことを取り上げ、その背景と東引島の戦略的意味を解説する記事を出している。


 3月16日、台湾国防当局は、台湾の最北端に位置する離島・東引島(Dong In Dao)で軍事演習を行ったことを公表した。台湾国防省は、台湾対岸の福州沖にある金門島、馬祖島に近接した東引島での演習は「通常業務」であったと述べている。

 この演習は、ロシアのウクライナ侵略後に中国がロシアと同様の動きをすることを警戒して、台湾国防当局が行った軍事演習であったにちがいない、とロイターの解説記事は述べているが、その通りだろうと思われる。

 ウクライナへのロシアの侵略が、中国の言う「一つの中国」の原則に如何なる影響を及ぼすことになるのか予断しがたい面はあるが、今回の軍事演習は蔡英文政権下において中国解放軍に対する警戒心が強まりつつあることの具体的現れの一つとみるべきだろう。

 金門島、馬祖島はもともと、第二次大戦後、国民党政府軍が大陸を追われ、台湾に亡命政権をつくった頃より、台湾政府が全島を要塞化してきた島嶼である。なかでも東引島は馬祖島列島の北部に位置し、対岸の福州に近く、1950年代から台湾防衛の最前線に当たってきた。

 東引島の軍隊は台湾の自作の対艦ミサイル(Hsiung Feng〈雄風〉II)、地対空ミサイル(Sky Bow〈天弓〉II)を装備しており、「最も戦略的に重要な」離島になっている、という。約1500人の一般市民が住むこの島は、中国が台湾を攻撃する場合、東部の浙江省から南に向かう中国軍にとって、重要な通路に当たる。

 中国の人民解放軍が台湾を攻撃する場合、「東引のミサイル基地は最初の標的の一つになるだろう」というのが、台湾の軍事専門家の見方であるという。「この島は台湾海峡北部の支配の鍵」と言われる所以だ。

 2月4日の北京オリンピックの開会に際し、プーチンと習近平は北京で首脳会談を行い、中露共同声明を発出した。この共同声明は、相互に「核心的利益」なるものを支持しあっている。すなわち、ロシアは「一つの中国の原則」を支持すると述べ、「台湾は中国の固有の領土」であり、如何なる形であれ台湾の独立に反対することを確認する、と述べた。そして、ウクライナの名前は明記しないまでも、中露双方は「北大西洋条約機構(NATO)の拡大に反対する」と書き込んだ。

 さらに、「中露両国の友情に限界はなく、協力に禁止区域はない」、とも記述した。その際、プーチンがウクライナへの軍事侵攻をどの程度具体的に習に話したかわからないが、この共同声明から見る限り、中露両首脳にとって、ウクライナへの侵略行為と台湾への行動という二点は連動していることが明白だ。

それでも、台湾侵攻は起こり得る

 ロシアのウクライナへの侵略行為はいつ、どのように終結するのか。習近平から見れば、ロシアの侵略行動の結果、ウクライナが短期間に降伏するのであれば、台湾についても中国は同様に、これを好機とみて、あまり時間を空けずに台湾併合への行動をとることを考えたかもしれない。しかし、プーチンの誤算はいまやだれの目にも明らかだろう。プーチンやロシアに科された経済上、軍事上その他の制裁措置から見て、習近平としても今の状況下で、台湾併合への具体的動きを取れば、結果的に世界の多くの国々を敵にまわす可能性が出てきたことに内心衝撃を受けているかもしれない。

 かといって、中国共産党にとって「核心的利益」たる台湾統一へのスローガンを放棄することもありえないだろう。このような状況下において、台湾当局としては、「台湾関係法」をもつ米国の支援に期待しつつも、いざとなれば、自らが可能な限り自らを守るための準備を行わなければならない、という厳しい現実に直面している。最近の東引島における台湾の軍事演習はそのための準備の一例を示すものに他ならないと考えられる。

【私の論評】台湾の大繁栄とロシアのウクライナ侵攻の大失敗が、習近平の企みを打ち砕く(゚д゚)!

東引島といっても、地理的にピンと来ない方も多いでしょうから、以下に地図を掲載しておきます。下の地図で、馬祖列島はすべて台湾領です。金門島も台湾領です。廈門は、中国福建省に属します。馬祖列島といい、金門島といい、台湾ではなく、大陸中国にかなり近いことにあらためて驚かされます。


台湾の呉ショウ燮(ゴ・ショウショウ) 外交部長(外相)は「中国の “台湾侵攻”費用は、ロシアのウクライナ侵攻より、費用がかなりかかるだろう」という警告のメッセージを発しました。

呉外交部長は、きのう3日報道された英国日刊紙“ザ・タイムズ”の日曜版“サンデータイムズ”とのインタビューで「台湾と中国の間には海があり、台湾が全世界のハイテク供給網において重要な役割を果たしているという点などを根拠に、先のように語った」と“自由時報”など台湾メディアがきょう(4日)伝えました。

呉外交部長は「中国がロシアのウクライナ侵攻を見守りながら、台湾への侵攻能力と国際社会の反応について再評価した可能性が高い」と語りました。つづけて「引き続き、非対称戦略の発展と全民防衛能力強化に力を注ぐと同時に、米国などの国々と安保対話を続けていく」と語りました。

また「ロシアのウクライナ侵攻後、ジョー・バイデン米大統領は歴代の高位官僚たちで構成された代表団を台湾に派遣し、台湾への支持を示してくれた」と強調しました。 呉外交部長は「中国はこの1年の間、1000機ちかい軍用機による “台湾防空識別区域(ADIZ)への進入”というグレー地帯戦術以外にも、これまでとは異なる情報戦・認知戦(cognitive warfare)などの安保脅威を行なっており、このような経験をヨーロッパ諸国と積極的に共有している」と語りました。

台湾呉外交部長

一方、米国の外交専門誌“フォーリン・ポリシー(FP)”は「米ウィリアム・アンド・メアリー大学の教授・研究・国際政策(TRIP)プロフェクトが、昨年5月からことし3月までに平均800余人の国際関係学者を対象に調査した結果、『中国は台湾に侵攻しないだろう』という回答が70%を占めた」と報道した。 また「もし中国が台湾に侵攻すると仮定した場合、90%以上は『対中制裁に賛成する』とし、80%は『台湾への軍事支援拡大を支持する』と答えた」と伝えました。

私は、このブログでは、中国による台湾侵攻はしばらくはないだろうということを主張してきました。そのため、この調査結果十分に頷けるものです。

中国軍の資料などから、中国軍は最初にミサイルで台湾沿岸部を狙い、空港や通信施設、レーダー設備、物資輸送の結節点、政府機関などを重点的に攻撃し、その後、大規模な上陸作戦を展開する計画だとされています。

しかし、近年の研究で、台湾や米国、日本は中国が攻撃を始める60日余り前に攻撃準備の情報を把握できると見積もられています。台湾侵攻程度の大作戦になれば、その全貌を隠し果せることなどできません。

この期間中に、台湾は軍の指揮・管制施設を山中に移転させたり、海中に機雷を仕掛けたりするなど、中国の侵攻に備えることが十分できます。

さらに、台湾の地形からいっても、中国軍が上陸しうる場所は台湾西部に13カ所しかありません。さらに、台湾の沿岸部の街には化学工場が多くあり、ここをミサイル攻撃すれば、中国軍は有毒ガスの脅威にさらされる可能性があります。

中国軍が上陸に成功したとしても、台湾各地の都市やジャングルに散らばる250万人の予備兵と戦う必要があります。中国は、海上輸送力が脆弱であり、一度に輸送できる部隊は、10万人以下の数万単位です。中国には空挺部隊もありますが、その規模は3万人です。

そうなると、中国は最大でも一度には10万以下の部隊しか台湾に送り込むことかできず、これは台湾軍に逐次撃破されてしますます。

それに実際に中国の台湾侵攻がはじまりそうになれば、日米やEUも台湾に支援を行うでしょう。支援だけではなく、日米が軍事的にも介入した場合、このブログでも何度か主張したように、日米は中国よりも圧倒的にASW(対潜水艦戦闘)力に優れているため、台湾を攻撃する艦船のほとんどは台湾に到着する前に撃沈されてしまうことになります。

それでも中国が甚大な被害を受けても陸上部隊を台湾に上陸させたとしても、米国が台湾を複数の攻撃型原潜で包囲した場合、台湾に近づく補給船や、航空機はことごとく破壊され、台湾に上陸した部隊への補給が途絶え、上陸部隊はお手上げになってしまいます。

ただ、ロシアのウクライナ侵攻についても、多くの識者が「ありえる」と予想していた一方、多くの軍事専門家は、ロシアがウクライナ全土を制圧するのは不可能とみており、そのため侵攻もないだろうし、あったとしても東部一部だけだろうと見ていたのも事実です。

ロシアは東部ドネツクだけではなく、首都キーフやハリキウおよび南部にも侵攻しました。しかし、当初の予想通りかなり苦戦しています。この点プーチンには何らかの誤算があったものと考えられます。

習近平が何らかの誤算をすれば、プーチンと同じように、台湾に武力侵攻する可能性はあります。そうなると、習近平も台湾侵攻でかなり苦戦することになるでしょう。最終的には、軍事目的を達成できずに終わる可能性が高いです。しかし、それでも台湾に被害が出るのは間違いなく、やはり最初から習近平が台湾に軍事侵攻させないようにするべきです。

中国は米国が同盟国との一枚岩を誇示することに激しく反発し、日本については米国の「奴隷」、カナダのトルドー首相については米国の「走狗」と強く批判しています。

西側の結束のほころびを誘おうと中国が練っているのは、米国の同盟国に対して個別に中国と関係を強めるよう働き掛けることです。まず、経済的なメリットを提示し、それでも反中国の協調行動から手を引かないなら、懲罰を与えるという戦略です。

新疆問題で中国の当局者に制裁を科したEUに対しては、不相応なほど厳しい対抗措置を講じており、EUが待望の末にようやく大筋合意した投資協定が破棄される恐れもあります。

民間シンクタンク、欧州外交評議会(ECFR)のアジア・プログラム・ディレクター、ヤンカ・エルテル氏は、中国政府は米国とEUの連合によって核心的利益を脅かされるのであれば、EUとの経済利益は犠牲にする覚悟だとみています。

そうしたメッセージを強調するかのように、習近平氏は最近、ドイツのメルケル首相(当時)との電話会談で、EUが自らの「独立性」に関して正しい判断をするよう望むと伝えました。

ただ、中国はなおも欧州の技術や投資が必要であるのは間違いないです。中国の技術力は進んだとされている一方で、中国は自身の力では、欧米の一歩先を行くことはできても、その先へ進むことはまだできません。一方欧米は、自力で何歩も先へ進み、それどころか、現状の技術力とは断絶したような新しい領域にまで自力で到達することができます。

平たくいうと、中国は今まで聞いたもの見たものの発展系は創造できますが、今まで聞いたことがない、見たことがない領域には踏み込めません。それは、中国には平和賞や文学賞を除いてノーベル賞受賞者がいないことをみても理解できます。

そのため、中国は、中国と競うよりは手を組む方が得だと米国を納得させるのをあきらめたわけではないようです。これは先週に米国のケリー気候変動問題担当特使に対し、22─23日に米国が主催する気候変動サミットに関し、中国として支援する姿勢を見せたことからもよく分かる。

米国が中国を敵とするより友人扱いする方が、米国の利益になると認められるようになることを中国は願っているようです。

ただ、プーチンと同じように勘違いして、台湾に武力侵攻すれば、その道は閉ざされることになります。

日米及びその同盟国は、プーチンが誤算して、ウクライナに侵攻したように、習近平が誤算して台湾に侵攻しないように策を巡らすべきでしょう。

そのためには、中国が軍事的に台湾に侵攻すれば、どのようなことになるかを知らしめるのも一つの方法だと思います。だからこそ、私はこのブログで、中国が台湾に軍事侵攻すれば、大失敗するであろうことを主張してきたのです。

中国の台湾侵攻を懸念するのは悪くはないとは思いますが、それが度が過ぎて、多くの人が、中国が台湾に侵攻すれば、いともたやすく台湾を負かして、台湾を占拠できると思い込めば、それは中国を利することにもなりかねません。本当に台湾の軍事力がその程度でならいたしかありませんが、そうではないことを周知するのは正しいことだと思います。

中国人民解放軍海軍陸戦隊

世界は台湾対して軍事だけではなく、経済的にも支援すべきでしょう。特に経済的には、ただ資金を提供するだけではなく、台湾が経済的にも社会的にも繁栄するような様々な支援をすべきです。

台湾が繁栄し、高度な社会を築き、文化的にも繁栄すればするほど、大陸中国の人々は自分たちの体制が間違いであることに気づき、やがて中共は内部から崩壊するでしょう。

そうして、もう一つの方法としては、世界は、ロシアのウクライナ侵攻は、誰が見ても完璧な失敗だったということを中国に思い知らせるべきです。そのためにも、世界一致協力して、ロシアのウクライナ侵攻を是が非でも大失敗に導かなければならないのです。


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