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2024年5月17日金曜日

日本 アメリカ 韓国の海保機関が初の合同訓練へ 中国を念頭か―【私の論評】アジア太平洋地域の海上保安協力と中国海警局の動向

 日本 アメリカ 韓国の海保機関が初の合同訓練へ 中国を念頭か

まとめ

  • 日本、アメリカ、韓国の海上保安機関が来月上旬に日本海で初の合同訓練を行い、中国の海洋進出に対応するための連携を強化する。
  • この訓練は捜索と救助の手法や能力の確認を目的とし、3か国は将来的に東南アジアや太平洋島しょ国の海上保安機関とも連携していく方針です。
日米韓首脳会議

 日本、アメリカ、韓国の海上保安機関が来月上旬に初の合同訓練を日本海で行う予定です。

 これは、中国の海洋進出を念頭に置いた連携強化が目的です。訓練は福井県と京都府沖で行われ、日本の海上保安庁、アメリカの沿岸警備隊、韓国の海洋警察庁が参加し、捜索と救助の手法や能力を確認します。

 先月には3か国の海上保安機関が連携強化の文書に署名しており、今後も東南アジアや太平洋島しょ国への支援で協力する方針です。去年の首脳会談で「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けた協力が確認されており、中国を念頭に置いた連携強化が進められています。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】アジア太平洋地域の海上保安協力と中国海警局の動向

まとめ
  • 日本の海上保安庁は、アジア太平洋地域での国際的な捜索救助や海賊対策訓練に参加し、他国との協力を深めている。
  • 米国の沿岸警備隊は、南シナ海での航行の自由作戦や違法漁業対策、フィリピンやベトナムへの海上保安支援を行い、地域の安全保障に貢献している。
  • 韓国の海洋警察庁は、災害支援や国際共同訓練、不法漁業取り締まりを通じて、地域の海上安全保障と協力関係を強化している。
  • 中国海警局は、東シナ海や南シナ海での活動を活発化させ、準軍事組織として再編成され、他国との対立を引き起こしている。
  • 地域の対抗措置として、日米韓などの国々は海上法執行機関の活動を強化し、平和的手段で中国の現状変更の試みに対抗し、法の支配に基づく秩序維持を目指している。

日本の海上保安庁、韓国の海洋警察庁、米国の沿岸警備隊は、それぞれ自国の沿岸警備を主目的としていますが、合同訓練を行うことには大きな意義があります。

海上保安庁の巡視艦

まず、日本の海上保安庁について説明します。

同庁の艦船は、日本近海以外のアジア太平洋地域にも派遣されることがあります。例えば、他国の船舶や航空機が遭難した際には、国際的な捜索救助活動に参加するために艦船を派遣します。また、海賊対策や海上治安の向上を目的とした国際訓練や演習にも積極的に参加し、他国の海上保安機関との協力関係を深めています。これにより、海上保安庁は国際社会での海上安全と治安の維持に大きく貢献しています。

米国沿岸警備隊の艦艇

次に、米国の沿岸警備隊について見てみましょう。

米国の沿岸警備隊は、アジア太平洋地域におけるプレゼンスを大幅に強化しています。南シナ海での航行の自由作戦への参加や、太平洋の島しょ国での違法漁業対策の協力、フィリピンやベトナムなどの国々への海上保安能力構築支援などがその主な活動です。南シナ海では、中国の海洋進出や領土主張に対抗し、国際法に基づく自由な航行を実践しています。また、パラオ、フィジー、パプアニューギニアなどの島しょ国と協力し、違法かつ無報告無規制の漁業活動の監視と取り締まりを行っています。

フィリピンやベトナムでは、共同訓練や情報共有、捜索救助能力の向上を通じて現地の海上保安機関を支援しています。これらの活動により、米国の沿岸警備隊はアジア太平洋地域全体の海上安全保障、法の支配、持続可能な資源管理、域内協力の促進に大きく貢献しています。

韓国海洋警察の艦艇

韓国の海洋警察庁も同様に、アジア太平洋地域での活動を強化しています。

韓国の海洋警察庁は、自然災害支援や国際共同訓練、不法漁業取り締まりなどの活動を行っています。2013年のフィリピン台風災害時には救援物資の輸送と現地での捜索救助を支援し、RIMPAC(環太平洋合同演習)などの多国間合同訓練にも参加しています。

さらに、他国の海上保安機関と協力し、共同パトロールや情報共有を行うことで、地域全体での不法漁業対策と海洋資源保護にも貢献しています。これにより、韓国の海洋警察庁は、災害支援、訓練、取り締まり活動を通じて、アジア太平洋地域の海上安全保障と国際協力の強化に寄与しています。

中国の海警局の活動についても触れておく必要があります。

中国は、近年、東シナ海や南シナ海における領有権主張を強化し、海警局を準軍事組織として再編成しました。この改革により、中国海警局は人民解放軍海軍から装備や訓練、作戦指揮の支援を受けるようになりました。具体的には、中国海警局は国家移民管理総局から分離され、中央軍事委員会と公安部の共同統括下に置かれました。この改革の目的は、海上における法執行能力と軍民一体の対応力を強化することにあります。

中国海警局は、尖閣諸島周辺や南シナ海での活動を通じて領有権を主張しています。また、インドネシア周辺やマーシャル諸島近海でも活動しています。

例えば、2019年にはインドネシアの排他的経済水域(EEZ)内に中国海警局船が不法に入域し、操業中の中国漁船を護衛する事案がありました。2022年には、マーシャル諸島の排他的経済水域内で活動する中国海警局の船舶が確認されました。このように、中国海警局は自国近海に加え、東シナ海、南シナ海、インド洋、太平洋の広範囲で活動の場を広げており、他の沿岸国との対立が生じています。

これに対抗するため、アジア太平洋地域の国々は海上法執行機関の活動範囲を広げ、存在感を高めています。例えば、韓国は不法漁業対策を強化し、米国は航行の自由作戦を実施しています。これにより、中国の現状変更の試みに対抗し、地域の海上安全保障と秩序維持を目指しています。

つまり、中国海警局の活動が梃子となり、アジア太平洋諸国は地域に軍事的プレゼンスを高め、様々な協力を強化する必要に迫られているのです。日米韓などの国々が海上保安機関の活動範囲を広げ、地域での存在感を高めている主な目的は、中国による一方的な現状変更の試みに対抗することにあります。

ただし、こうした取り組みは、軍事的な侵攻や武力行使を意図したものではなく、共同訓練や海上パトロール、能力構築支援など、平和的手段による対応にとどまっています。アジア太平洋地域の国々の試みは、中国による武力的な一方的現状変更を抑止し、法の支配に基づく地域秩序を維持することを目指した、防衛的かつ抑制的な対応です。

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2024年5月16日木曜日

狡猾な朝日新聞 政治記者なら百も承知も…報じる「選挙対策 かさむ出費」とを大悪事、合唱し続ける本当の狙い―【私の論評】政治資金問題は、民主主義体制である限り完璧にはなくなることはない

花田紀凱 天下の暴論プラス

まとめ
  • 朝日新聞が政治資金に関する問題を取り上げ、特に選挙対策での費用増加を指摘。
  • 議員たちは地元対策や事務所運営のために多額の政治資金を必要としている。
  • 政治資金報告書への不記載を朝日が「安倍派裏金1億円超」と報道し政治の混乱と憲法改正議論の停滞状況を生み出した。
  • メディアの報道姿勢が政治資金問題を煽り、政治風土や政治家と有権者との関係を無視しているとの問題提起。
  • 現在の政治的混乱の責任は、政治資金、パーティーでの政治資金集めを、あたかも、大悪事を働いたかのように報じ続けた朝日、その他のメディアにある。

月間『Hanada』の編集長花田紀凱氏

 5月12日に掲載された朝日新聞の記事は、政治改革2024を主題とし、「選挙対策 かさむ出費」というタイトルで、政治活動に関わる多額の費用に焦点を当てた。記事では、特に選挙対策での費用増加が問題とされ、地元会合などでの「会費」が膨らむ実態や、有権者からの金品要求の事例が紹介されている。また、政治資金の規制強化についての議論が進んでいる状況も触れられている。

 この記事の中で、西田昌司参議院議員は、会合への出席による費用が年間数百万円に上るとしている。さらに、前自民党衆院議員の長尾たかし氏や経済安保担当大臣の高市早苗氏、自民党参議院議員の和田政宗氏の発言から、政治家が政治資金集めに苦労している現状がわかる。これらの発言からは、地元対策や事務所運営に必要な費用が、議員の手取りとは比較にならないほど高額であることが浮き彫りにした。

 しかし、朝日新聞が「安倍派裏金1億円超」と報じたことを発端に、新聞、テレビ、ネットが「裏金」報道に飛びつき、本当は免許不携帯程度の罪ともいえる政治資金報告書の不記載を大罪のように扱った。このような報道姿勢が、結果として政治の大混乱を引き起こし、憲法改正の議論を停滞させた。

 こうした報道は、従来から指摘されている日本の政治風土や政治家と有権者との微妙な関係等から選挙対策には巨額の費用がかかることを無視し、意図的に問題を煽っている。今回の日本政治の大混乱は、安倍派憎し、自民党憎しで、知っていながら政治資金、パーティーでの政治資金集めを、あたかも、大悪事を働いたかのように報じ続けた朝日、その他のメディアにある。

 今さら「選挙対策 かさむ出費」もないだろう。

 朝日は狡猾だ。

 この記事は、元記事の要約です。詳細は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】政治資金問題は、民主主義体制である限り完璧にはなくなることはない

まとめ
  • 今回の政治資金不記載問題は、過去に逮捕者が出た重大な政治資金関連事件と比較すると軽い問題であるといえる。
  • 過去の重大な政治資金関連事件には、ロッキード事件、リクルート事件、金丸信事件、佐川急便事件などがあり、これらの事件は政治と企業間の不透明な関係や政治資金の透明性の欠如を浮き彫りにした。
  • 政治資金の問題は与党議員だけでなく、野党議員にも指摘されており、外国人からの政治献金問題や政治資金収支報告書に関する不適切な記載が問題となっている。
  • 政治資金に関する問題は、日本政治の敏感なテーマとして残り、選挙対策費用の莫大なかかり方が根本的な問題であり是正されるべきだ。
  • ただし、民主主義体制においては政治資金に関する問題がなくなることはなく、これは民主的な体制の特性として受け入れなければないところがある。
今回の政治資金不記載問題が、免許不携帯くらいの罪という花田氏の見解は、正しいかどうかは良くはわかりませんが、それにしても、過去の逮捕者も出た政治資金に関連する事件と比較すれば、今回の不記載問題は確かに軽いものといえると思います。

過去の政治資金に関連する事件をあげます。

政治資金規正法違反事件(ロッキード事件)
1976年に発覚したロッキード事件は、アメリカの航空機メーカー、ロッキード社が日本の政治家や官僚に賄賂を支払っていたスキャンダルです。この事件で最も有名なのは、元首相の田中角栄が賄賂を受け取ったとして逮捕され、政治資金規正法違反で有罪判決を受けたことです。この事件は、日本政治の腐敗の深刻さを浮き彫りにし、政治改革の必要性を強調することとなりました。
田中角栄氏
リクルート事件
リクルート事件は、1980年代後半に発生した政財界を巻き込んだ贈収賄事件です。リクルート社が、未公開株を政治家、官僚、企業幹部などに有利な条件で提供し、その後の株価上昇によって巨額の利益を得させたことが問題となりました。この事件により、多くの政治家や官僚が辞職に追い込まれ、中曽根康弘内閣の退陣にも繋がったとされています。この事件は、政治とビジネスの不透明な関係を象徴するものとして、日本社会に大きな衝撃を与えました。
金丸事件(金丸信事件)
金丸信事件は、1990年代初頭に発覚した政治資金スキャンダルです。金丸信(当時の自由民主党副総裁)が、建設会社から巨額の資金を受け取っていたことが明らかになりました。これは、建設業界からの政治献金として、または土木工事の受注をめぐる贈収賄として行われたものでした。金丸はこの資金を私的に使用した疑い(税金逃れを含む)が持たれ、最終的に脱税で有罪判決を受けました。この事件は、政治と企業の癒着や、政治資金の透明性の欠如が日本政治の大きな問題であることを浮き彫りにしました。

 佐川急便事件

1993年に発覚したこの事件は、佐川急便が政治家に対して違法な献金を行っていた疑惑が中心です。この事件では、政治資金規正法違反の疑いで複数の政治家が逮捕されました。この事件は、政治と企業間の不透明な金銭のやり取りを国民に知らしめ、政治資金の透明性を高めるきっかけとなりました。
以上の事件では、政治資金のやりとりに明らかに問題があり、また金額も大きく、これに関わった政治家が逮捕されています。

これらに比較すれば、今回の政治資金不記載問題は、かなり軽いものといえます。免許証不携帯程度かどうかは別にして、

これらの事件は、政治資金の透明性を高め、政治家と企業間の不適切な関係を防ぐための法律や規制の強化を促すきっかけとなりました。しかし、依然として政治資金に関する問題は日本政治の敏感なテーマとして残っています。

さらに、政治資金問題は与党議員のそれが強調されますが、野党議員にも問題が指摘さています。

菅直人
菅(かん)直人氏は、2010年から2011年にかけて日本の首相を務めました。その在任中、外国人からの政治献金を受け取っていた問題が浮上しました。日本の政治資金規正法では、外国人や外国企業からの政治献金を禁止しています。この規制は、外国の影響力から日本の政治を保護するために設けられています。これに関して、菅氏は献金の事実を認め、受け取った献金を返還するとともに、公に謝罪しました。
前原誠司
前原誠司氏は民主党(当時)所属の政治家で、2011年に外務大臣を務めていた時期に、外国人からの政治献金が明らかになりました。

日本の政治資金規正法は確かに、政治家や政党が外国人や外国企業から政治献金を受け取ることを禁じています。前原氏は、外国人からの献金を受け取っていた事実が明らかになった後、これを認め、2011年3月に外務大臣を辞任しました。
小沢一郎
小沢一郎氏(当時民主党所属)は、土地取引に関連する政治資金の問題で何度か訴追されました。これは、政治資金収支報告書に記載されていない大金が動いていたことから発覚しました。小沢氏は最終的に無罪判決を受けましたが、この問題は日本政治における政治資金の透明性や管理の重要性を改めて国民に意識させることとなりました。
鳩山由紀夫
鳩山由紀夫元首相は、政治資金収支報告書において、母親からの巨額の個人献金を正しく報告していなかった問題がありました。この問題は、政治資金の透明性に関する議論を呼び起こしました。
辻元清美
辻元清美(立憲民主党)は過去に、政治資金収支報告書において、オフィスの家賃に関する不適切な記載が問題となりました。この問題は、政治資金の適切な管理と透明性に関する重要性を示す事例の一つです。

辻元清美氏

山井和則
山井和則(立憲民主党)は、政治資金収支報告書において、政治活動とは無関係の支出が記載されていた問題が発覚しました。具体的には、飲食店での支出などが政治活動として適切でないと指摘されました。
蓮舫の二重国籍問題と政治資金問題
蓮舫(立憲民主党)は、二重国籍問題とは別に、政治資金の管理に関しても注目されました。彼女の政治資金収支報告書において、特定の支出の詳細が不明確であると指摘されたことがあります。
山尾志桜里(菅野志桜里)
山尾志桜里(当時民進党、後に立憲民主党)は、2017年に政治資金収支報告書に記載されていない出費が発覚しました。これには、政治活動とは関連性が低いとされるバーでの支出が含まれていました。山尾氏は、これらの支出について説明を行い、政治資金の適正な管理を求める声が高まりました。
以上あげたのは、一部に過ぎません、まだまだあります。しかし、朝日をはじめとするマスコミは与党の議員の問題ばかりを強調しています。

この問題の本質は、個々の議員の選挙対策費が莫大にかかることだと思います。現在であれば、インターネットを効果的に用い、選挙活動にあまりお金をかけず、効果的な選挙活動ができるのではないかと思います。さらに、会合への出席による費用が年間数百万円などを法律などで禁じるという手もあると思います。

しかし、これもやり過ぎれば、選挙の意味が薄れてきます。絶対に正しい究極の理想の選挙だけを追い求めていけば、とんでもないことになりかねません。

何から何まで禁じてしまうということになると、それこそ全体主義や独裁国家のようになりかねません。たとえば、北朝鮮では議員の政治資金など問題にはなりません。

北朝鮮には日本でいえは、国会に相当するような最高人民会議がありますが、実質的には労働党一党支配の下での形式的な存在にすぎません。北朝鮮では選挙そのものが承認装置に過ぎず、個々の議員による本来の選挙活動や選挙対策費はほとんど発生していないと考えられます。独裁体制下の見せかけの選挙では、民主的な選挙制度における課題は生じていないといえるでしょう。

北朝鮮最高人民会議

いかなる民主主義国において、政治家や政党が選挙運動を行うためには多額の資金が必要不可欠です。しかし、その資金調達をめぐっては、企業や団体からの寄付、個人の寄付、公的資金など、出入り源の透明性が常に問題視されてきました。

特に大口の寄付は、利権との癒着や不正を生む温床となりかねません。さらに規制を設けても、議員個人の選挙対策費が莫大にのぼるケースも後を絶ちません。このように、資金の流れが不透明化しやすい構造的な要因から、民主主義国においては政治資金問題が完全に解消されることは難しいと考えられています。

重要なのは、可能な限り透明性を確保し、不正や腐敗を未然に防ぐ仕組みを整備することにあります。

結局のところ、民主主義体制においては政治資金に関しては、問題になり続けるということであり、それが全くなくなることはないです。無論、大きな問題になることは避けるべきでしょう。しかし、どんなに透明性や、公明正大性を追求したとしても、問題はある程度残り続けるでしょう。

政治資金問題が全くない体制というのは、決して理想的な民主的な体制とはいえないのです。

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2024年5月14日火曜日

「リパトリ減税」効果は期待薄 円安対策として注目も…「30万円還元」や「消費税ゼロ」など本格対策からの目くらましだ―【私の論評】リパトリ減税は円高是正に効果なし!為替レートの中長期動向と適切な政策は?

高橋洋一「日本の解き方」

 円安対策として注目されている「リパトリ減税」は、企業や投資家が海外から資金を本国に還流する際の法人税を減税する制度だ。しかし、すでに外国子会社からの配当に関する95%非課税措置があるため、リパトリ減税の実際の対象額は限られ、法人税減収額はせいぜい数千億円程度にとどまる可能性がある。そのため、リパトリ減税の効果はほとんど期待できない。

 本格的な円安対策としては、日本政府が保有する外国為替資金特別会計(外為特会)の「含み益」を国民に還元すべき。円安によって日本の外貨準備の円換算額が増加し、数十兆円の含み益が生じている。この含み益を活用すれば、国民一人当たり20万円から30万円の現金支給が可能になるか、あるいは消費税率を2年程度ゼロにできる。

 歴史的に見ても、円安は日本の経済成長を後押ししてきた。円安のメリットを最大限に享受しているのは日本政府だ。したがって、政府がその利益を国民に還元すれば、円安へのマイナスイメージは和らぐはずだ。リパトリ減税は本格的な対策からの目くらまし策に過ぎず、国民の目をそらすための施策にすぎないようにみえる。

 この記事は、元記事の要約です。詳細は、元記事を語等になって下さい。

【私の論評】リパトリ減税は円高是正に効果なし!為替レートの中長期動向と適切な政策は?

まとめ

  • リパトリ減税(リパトリエーション減税)が円高是正に明確な効果があった歴史的事例はない。
  • アメリカ、イギリス、オーストラリア、日本などでも過去に類似策を試みたが、その実効性には議論の余地がある。
  • 民間企業は既に自主的なリパトリエーション(資金還流)を行っている場合があり、政府の減税策の効果には限界がある。
  • リパトリ減税は為替レートに直接影響を与えるものではない。為替レートは中長期的には両国の通貨発行残高比率に収束する。
  • 現状では消費税減税を優先し、補助金支給とバランスを取る政策運営が賢明である。
レパトリ減税で国民はウハウハにならない

リパトリ減税は、正しくはリパトリエーション減税(repatriation tax holiday)です。現状の日本では、これが功を奏して円高が是正されることはないでしょうし、古今東西でこれがはっきり成功したという事例はありません。

米国のレーガン政権時代(1980年代)に実施された「税源浸食防止法」。海外に留保されている企業利益の本国還流を促進するため、一時的な減税措置を講じた。しかし、その実際の効果については明確ではありません。

イギリス(2009年)とオーストラリア(2019年)では、外国子会社から本国への配当に対する軽減税率などの優遇措置を導入しましたが、その効果については見解が分かれています。
 
日本でも過去に類似の政策は試みられたものの、大きな成果は見られなかったとされています。

このように、リパトリ減税自体が大きな成功を収めた先例は見つからず、その実効性については依然として議論が続いている状況と言えます。

また民間企業は、すでに自主的にリパトリエーション(資金の本国還流)を行っている場合があります。具体的には、以下のようなケースが考えられます。

  • 海外子会社からの配当 海外子会社の利益を、配当金として本社に送金する形でリパトリエーションを行う。
  • 外貨建て資産の売却 海外で保有する外貨建て資産(有価証券など)を売却し、円換算後の資金を国内に持ち帰す。
  • 現地法人の資金調達 海外現地法人が、現地での増資や借入などで調達した資金の一部を本社に送金する。

こうした自主的なリパトリエーションは、企業の資金ニーズや為替リスク回避の観点から、日常的に一定程度行われていると考えられます。たとえば、過去に北朝鮮から頻繁にミサイルが発射されたときに、円安ではなく、円高になったことがありますが、これは企業のよる自主的なリパトリがあったのではないかといわれています。

したがって、政府によるリパトリ減税はあくまでインセンティブ付与の意味合いが強く、民間企業がすでにリパトリエーションを実施していることは事実です。減税があっても、リパトリを行う資金が当初から少なければ、大きな効果は期待できません。

つまり、リパトリ減税の効果には一定の限界があり、民間企業の実態を踏まえた上で、政策を検討する必要があることが分かります。

さらに、リパトリ減税が円安是正につながるという考えには、為替という観点からみても妥当性はありません。

リパトリ減税は、企業の海外利益や資金を国内に還流させることを目的としていますが、それ自体は為替レートに直接影響を与えるものではありません。

そもそも、為替レートそのものは、中長期的以下の式で決まるものです。

世界に流通している円の総量÷世界に流通しているドルの総量(円/ドル)

中長期的な為替レートの動きは、それぞれの通貨の発行残高や流通量に収束していく傾向があると考えられています。これは「購買力平価説」と呼ばれる理論に基づいています。

購買力平価説の基本的な考え方は、2つの通貨の為替レートは、それぞれの国の物価水準を反映して決まるというものです。つまり、長期的には為替レートは以下の式に収束するとされています。

為替レート(円/ドル) = (日本の物価水準) / (米国の物価水準)

この式を変形すると、為替レート(円/ドル) = (日本の物価水準) / (米国の物価水準)

≒ (日本の通貨供給量) / (米国の通貨供給量) ≒ (日本の通貨発行残高) / (米国の通貨発行残高)

となり、結局のところ、為替レートは両国の通貨発行残高の比率、つまり「世界に流通している円の総量÷世界に流通しているドルの総量」に収束していくと考えられています。

中長期的な為替レートの動きは、この比率の方向に向かう傾向があると言えます。ただし、これは理論的な見方であり、実際の為替レートは短期的には様々な要因で変動します。

購買力平価説は理論モデルの1つであり、実際の為替レートは短期的には様々な要因(金利、経常収支、投機的な資金の動きなど)で変動します。中長期的なトレンドに収束するまでには調整の時間がかかります。

一時的な円高介入や減税措置などの政策は、短期的には為替レートに影響を与える可能性があります。しかし、中長期的に見れば、そうした一時的な政策効果は徐々に薄れ、為替レートは結局のところ、両通貨の発行残高の比率に収束していくと理解できます。

これは購買力平価説に基づく理論的な見方ですが、実際の為替レートの動きを中長期的に観察すると、この理論が概ね当てはまることが分かります。一時的な乖離はあっても、最終的には通貨供給量の比率に収束する傾向が見て取れます。

円高や為替を巡っては、いわゆる「とんでも理論」がマスコミ等で流布されていますが、それは上のツイートと同じくらい馬鹿げたものです。

やはり、高橋洋一氏が言うように、円高対策としてのリパトリ減税は、単なる目くらましすぎません。政府が実施すべきは、このような効果がはっきりしない政策よりも、外貨準備の円換算額が増加し、数十兆円の含み益を活用して、消費税減税をすべきです。

総合的に判断すれば、現状は個人消費の下支えが急務と考えられることから、今こそ消費税減税を優先すべきです。ただし、減税による減収分の財源確保は先にも述べたように円安による税収増や含み益があります。

当面の個人消費喚起の観点から、消費税減税を優先し、可能な範囲で補助金支給も組み合わせる、バランスの取れた政策運営が賢明と考えられます。

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2024年5月6日月曜日

「X国の独裁者の親族」米国防総省、30代女性を「機密」資格で失格に 金正恩氏と血縁か―【私の論評】日本で早急にセキュリティークリアランス制度を導入すべき理由

「X国の独裁者の親族」米国防総省、30代女性を「機密」資格で失格に 金正恩氏と血縁か

まとめ
  • 米国防総省のセキュリティークリアランス審査で、30代の女性が北朝鮮の指導者と血縁関係にあるとして最高機密レベルの資格を拒否された
  • その女性は、北朝鮮の金正恩総書記の伯母の娘である可能性が指摘されている
  • 両親とともに1990年代に北朝鮮から米国に亡命し市民権を取得したが、血縁関係が問題視された

 米国防総省のセキュリティー・クリアランス審査において、30代の女性が「X国の独裁者と血縁関係にある」ことを理由に最高機密レベルの資格を認められなかったことを報じている。

 この女性は、北朝鮮の金正恩総書記の近親者である可能性が指摘されている。具体的には、金正恩の伯母であるヨンスク氏の娘との説がある。

 審査記録によると、この女性はX国(おそらく北朝鮮)で生まれ、両親とともに1990年代に米国に亡命し市民権を取得した。家族全員が北朝鮮との接触を断っていたが、血縁関係が最高機密レベルの資格付与を拒否された理由となった。

 この記事は、元記事の要約です。詳細は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】日本で早急にセキュリティークリアランス制度を導入すべき理由

まとめ
  • 日本にはセキュリティー・クリアランス制度が存在せず、個人の前歴審査は行われていない
  • そのため、防衛関係企業の従業員や国会議員、要職の公務員に不適切な人物が入り込む可能性がある
  • 具体的には外国勢力や反社会的勢力との関係、経済的利害関係の存在といったリスク要因が挙げられる
  • 一方で公務員倫理法やマスコミによる監視など、一定の歯止め機能はあるものの十分ではない
  • このため、機密情報の保護や安全保障上の観点から、個人審査制度導入の導入は必要不可欠である
上の記事にでてくるX国とは、米国の利益や価値観と対立するような国を指す表現です。具体的な国名は明記せずに匿名化して「X国」と表記することがあります。

米国政府は、機密情報や特定の施設へのアクセスを認める際、出身国の人権状況や反米活動、テロ支援など様々な観点から審査を行います。その際、問題のある国を匿名化して「X国」と呼ぶことで、秘密保持を図りつつ、一定の国に対する警戒心を示しているのです。

X国の具体例としては、北朝鮮、イラン、シリアなど米国の賢明国家や国際テロ組織と関係の深い国が想定されますが、あくまで事例ごとに判断されるため、一概に特定の国とは限りません。


つまり、X国とは機密情報の取り扱いにおいて、米国の安全保障上のリスクが高いと見なされる国を指す、一般的な表現なのです。

日本でも同様のケースが起こる可能性はあり、その場合に排除されるかどうかは、以下の点に依存すると考えられます。
  1. 法的根拠の有無 日本には米国のようなセキュリティークリアランス制度は存在しませんが、公務員にも一定の制限は課されています。国家公務員法では、公務員に対し「信頼関係に反する行為の禁止」が定められており、国の利益を侵害するおそれがあれば、職務上の制限は課されうるでしょう。
  2. 具体的な危険性の有無 単に血縁関係があるだけでなく、実際に国家機密を漏洩するリスクがあると判断された場合には、職務上の制限や排除の可能性が高まります。危険性の程度が重要な判断材料になります。
  3. 人権への配慮 一方で、出身や血縁関係のみを理由に排除することは、人権侵害につながる恐れがあります。日本国憲法が保障する思想・良心の自由等も考慮する必要があるでしょう。
つまり、日本でも同様のケースが起こった場合、法的根拠と具体的危険性、人権への配慮を総合的に勘案し、個別に判断されることになると考えられます。仮に、日本で上の記事の米国と似たような事例があったとしても、現状では排除できない可能性があるのです。

セキュリティークリアランス AI生成画

これは、本当に恐ろしいことだと思います。日本でもセキュリティー・クリアランス制度の導入の話があったはずなのにどうなってしまったのでしょう。

セキュリティー・クリアランス制度の導入に向けて議論が進められていましたが、結局、法案の審議は過去の通常国会では、見送られています。以下にその経緯を説明します。
  1. セキュリティー・クリアランス制度とは セキュリティー・クリアランス(適格性評価)制度は、国の機密情報を扱う資格者を認定する仕組みです。この制度は、秘密情報へのアクセスを許可するために、研究者や職員の信頼性を確認することを目的としています。
  2. 高市早苗氏の意欲 高市早苗経済安全保障相は、セキュリティー・クリアランス制度の導入に強い意欲を示しています。彼女は、日本が主要7カ国(G7)で唯一、経済安保上の機密を扱う人を認定する制度を整えていないことを指摘しています。
  3. 経済安保推進法改正案の提出 高市氏は、2024年の通常国会に経済安保推進法の改正案を提出する意向を明言しています。この改正案には、セキュリティー・クリアランス制度の導入が含まれており、日本の国際競争力を維持するためにも重要とされています。
  4. 審議の見送り 一方で、政府は経済安保推進法にクリアランス制度を盛り込むことを見送りました。この決定には、様々な課題が影響していると考えられています。例えば、公衆の反対、労働者のプライバシー懸念、各国の異なる基準などが挙げられます。
  5. 将来の展望 セキュリティー・クリアランス制度の導入は、日本の先端技術を守り、国際共同研究・開発に参加するために必要です。高市氏は、この課題に取り組む決意を示しています。
高市早苗氏

セキュリティー・クリアランス制度がない日本においては、確かに防衛関係者や国会議員、重要な公務員ポストに、一定の懸念がある人物が就任している可能性は否定できません。

具体的なリスクとしては、外国や反社会的勢力との関係、経済的利害関係の存在、過激な思想や信条、不正や違法行為の前科などが考えられます。

米国の事例みられるように、より厳格な審査制度は、安全保障上の観点から必要不可欠とみられ、今後この制度の導入を一刻もはやくすすめるべきです。

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2024年5月1日水曜日

【中国へのけん制強まるか】豪・英・米の安全保障協、AUKUSへの日本参加歓迎の意味―【私の論評】AUKUSのもう一つの側面 - SMR(小型原子炉)でエネルギー・ドミナンス強化に挑む中国への対抗策

【中国へのけん制強まるか】豪・英・米の安全保障協、AUKUSへの日本参加歓迎の意味

まとめ
  • AUKUS(オーカス)の勢いと支持者の増加
  • AUKUSは地域の緊張を高める原因ではなく、中国の軍事力増強に対する抑止力の回復の一環
  • 日本とカナダのAUKUSへの関与は積極的に評価される
  • 岸田首相の米国訪問の成果と日米同盟の進化
  • インド太平洋地域の結束の強化と日本の役割

 2021年に発足した米英豪の安全保障枠組みAUKUS(オーカス)が、当初の批判を乗り越え、勢いを増し支持者も広がっている。

 AUKUSの中心的な柱は、豪州への米国からの原子力潜水艦の技術移転であるが、最近では先進技術協力が第二の柱として浮上し、日本やカナダなども参加を検討している。今年4月には米英豪の国防相が正式に日本の参加を呼びかけた。

 AUKUSは、中国の軍事力増強に対する地域の抑止力回復の一環と位置付けられている。中国側は地域緊張を高めるとの批判を展開しているが、むしろ中国の一方的な軍事力増強こそが緊張の元凶であり、AUKUSはそれへの均衡を図る正当な努力だと本記事は反論する。

 また、中国からはアングロスフィア(英米圏)の勢力維持を企図していると非難されているが、日本の参加でそうした批判は的外れになった。AUKUSを結びつけているのは、自由民主主義国家同士が地域の安全保障を守ろうとする決意なのだ。

 さらに、岸田首相の最近の訪米で日米首脳は日本のAUKUS協力を歓迎する共同声明を発出した。訪米を通じ、日米同盟がより成熟し、インド太平洋における同盟国ネットワークが進化を遂げつつあることが伺えた。今後、日本もAUKUSへの積極的な関与が求められると本記事は述べている。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】AUKUSのもう一つの側面 - SMR(小型原子炉)でエネルギー・ドミナンス強化に挑む中国への対抗策

まとめ
  • 安倍晋三氏とAUKUSには直接の関係はないものの、安倍政権の「自由で開かれたインド太平洋」構想とAUKUSの考え方は軌を一にするものである。
  • AUKUS自体は軍事同盟であるが、SMR(小型モジュール原子炉)を通じて、エネルギー分野での中国の影響力拡大や「エネルギー・ドミナンス」の阻止も狙いの一つである。
  • 原子力潜水艦の原子炉技術は、SMRの先駆けであり、SMRはこうした軍事技術を民生用に応用しようとするものである。
  • 中国は大型のSMRプラントを建設中だが、SMRの本来の特徴を十分生かせていない
  • 日本企業には様々な分野での小型化技術が蓄積されており、SMRの実用化に貢献し、中国に対抗できる高い技術力を有しており、そこに日本がAUKUと協力する重要な意味がある。

上の記事には、いくかの重要な観点が抜けています。この記事ではそれを補足します。

まずは、安倍晋三氏とAUKUS(オーストラリア、英国、米国の新たな安全保障協力体制)との直接的な関係は確認されていません。ただし、安倍氏は在任中、日米同盟の深化や印太地域における自由で開かれたインド太平洋構想の推進に尽力しました。AUKUS構想は中国の影響力拡大への対抗として位置づけられており、安倍氏が目指した地域秩序構築の考え方と軌を一にするものでした。

安倍氏の遺志を継ぐ岸田文雄政権は、日本がAUKUSに参加することはないものの、AUKUS諸国との連携を深める方針です。日本は従来から米国主導の集団的自衛権の行使に慎重でしたが、中国・北朝鮮の 軍事活動に対する危機感から、準同盟国としてAUKUSと協調する事態も想定されています。

ですので、安倍氏とAUKUSには直接の関係はなかったといえますが、地政学的にAUKUSの考え方は安倍政権の路線と軌を一にするものであり、その意味で両者は無関係ではありません。

次に、AUKUSは原子力潜水艦を介した軍事同盟という意味合いだけではなく、エネルギー・ドミナンスの意味合いも含んでいるということを認識すべきです。

原子力潜水艦に搭載される原子炉は、SMR(小型モジュール原子炉)の原型ないし先駆けともいえる存在です。

両者には以下の共通点があります。
  • コンパクトな設計 原子力潜水艦の原子炉は、狭小なスペースに収まるよう小型化されています。SMRも大型の商用原発に比べてコンパクトであることが特徴です。
  • 工場製造方式 潜水艦用原子炉は工場で製造され、艦体に搭載されます。SMRも工場で製造したモジュール式の原子炉を想定しています。
  • 長期運転 潜水艦原子炉は長期間の連続運転を前提に設計されており、SMRも長期無停止運転が期待されています。
  • 高い安全性 軍事面での運用を考慮し、潜水艦原子炉には高い安全性と堅牢性が求められます。SMRにも同様の安全設計が求められています。

このように、コンパクト性、工場製造、長期運転、高安全性などの点で、潜水艦用の原子炉技術はSMRの先駆けとなっていると言えます。SMRはこうした軍事利用を背景に生まれた技術を、民生用に応用しようとするものだと位置付けられます。

SMRは中国やロシアも開発しており、世界への普及も目指しているようです。AUKUSが中国による世界へのSMR普及によるエネルギー・ドミナンス強化の対抗策の一端を担う可能性は以下の点から指摘できます。

中国は遼寧省で「華龍一号(ACP100)」と呼ばれる比較的大型のSMR(小型モジュール原子炉)プラントの建設を進めています。ACP100は出力125MWの原子炉1基を有し、SMRの一般的定義の300MW以下に収まっているものの、SMRの本来の利点である小型コンパクト性においては大型原発に近い存在です。

中国はこのSMRを国内の遠隔地などで活用する計画ですが、安全性への懸念から一部で批判され、工事も遅れているとの指摘があります。全体として中国はSMR実用化を主導しようとしているようですが、必ずしもSMRの特徴を十分生かしているわけではないようです。

これに先立ち、中国は南シナ海への洋上SMRをすすめていると発表したことがありますが、これは未だに実現していません。

ロシアも、SMRの開発に成功していますが、2022年のウクライナ侵攻により、特に欧米諸国でのロシア離れは必至であり、今後、SMR含めた原子力の国外輸出も足踏みすることが予想されます。

海上原子力発電所として運用された「アカデミック・ロモノソフ」

AUKUSを構成する米国、英国もSMR開発を重視しており、中国に対抗する技術協力が深まる可能性があります。そこに、大型プラントや器材危惧小型化などでは実績があり、工作技術にすぐれた日本が加わることに大きな意味があります。

日本企業には大型プラントや機器の小型化で高い技術力と実績があります。

例えば、原子力分野では、日立製作所が小型の加圧水型原子炉「BWRX-300」を開発しています。これは従来の大型BWRを小型化したもので、出力は約30万kWと中小規模のSMRに相当します。

また、三菱重工はイギリス企業と共同で、出力16万kWの小型モジュール型原子炉を開発中です。

一般産業機器でも、日本メーカーは精密機器や小型ロボット、精密な工作機械など、小型化と高性能化を両立する技術に長けています。

さらに、造船業界では、大型船舶に搭載される複雑な機器のコンパクト化が常に進められてきました。

こうした幅広い分野における小型化技術の蓄積が、将来的なSMRの本格的な実用化に生かされる可能性があります。

一方で、SMRの普及にあたっては、小型化に伴うコストダウンと安全性の確保が大きな課題となります。ここが日本の強みが発揮される分野です。

SMRの概念モデル 

SMRは遠隔地や外国でも活用が想定されており、AUKUS諸国がSMRを地政学的に重要な拠点に普及させ、中国の影響力拡大を抑える「対抗策」となり得ます。特に、エネルギー・ドミナンスによる中国の覇権を防ぐという意味で重要です。

つまり、AUKUS自体は軍事同盟ですが、中国のSMR開発への対抗策を通じて、エネルギー・ドミナンスで中国に対抗して、世界のエネルギー安全保障体制を確保しようとする目的もあることを認識すべきです。

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2024年4月29日月曜日

時代遅れの偵察衛星システムで日本は隣国からのミサイル攻撃を防げるのか?―【私の論評】シギント(信号諜報)の重要性と日米台の宇宙からの監視能力 - 中国の脅威に備えるべき課題

時代遅れの偵察衛星システムで日本は隣国からのミサイル攻撃を防げるのか?

江崎 道朗 茂田 忠良

書籍『シギント 最強のインテリジェンス』より

まとめ
  • 日本が「反撃能力」の保有を決定したが、具体的にどの武器をどう使うかが曖昧
  • トマホーク巡航ミサイル購入、国産ミサイル射程延伸、超音速ミサイル開発などが計画されるが、撃つ対象が不明
  • 静止衛星や無人機の導入は示されたものの、ミサイル監視・追跡能力で米中に大きく遅れ
  • 米国は従来の警戒衛星から多数の小型低軌道衛星によるミサイル追跡システムへ移行中
  • 中国も大規模な偵察衛星群や通信衛星網の整備を進め、日本の体制は大きく後れを取る恐れ

 2022年12月、日本政府は防衛力の大幅な強化を盛り込んだ新たな「安全保障の基本方針」を示した。中でも大きな転換となったのが、これまでの専守防衛の考え方から、一定の「反撃能力」の保有を容認したことである。

 近年、中国、ロシア、北朝鮮などが次々とミサイル戦力を増強し、日本列島が射程に入る事態となった。これに対し日本はミサイル防衛システムを整備してきたが、相手側の能力の向上に追いつかなくなってきた。そこで、ミサイル防衛に加え、一定の「反撃」によって相手の武力攻撃を抑止するため、長距離の精密打撃能力やミサイル能力の強化を打ち出した。

 具体的には、アメリカ製トマホーク巡航ミサイルの購入、国産の地対艦ミサイルの射程延伸、さらには超音速ミサイル開発などが示された。しかし、こうした武器をどのように運用し、いったいどこを攻撃目標とするのかについては不明確なままとなっている。

 一方で、静止衛星の打ち上げや無人偵察機の運用計画が記されているものの、ミサイル監視・追跡能力の面では、米中に大きく遅れをとっている恐れがある。米国は従来の早期警戒衛星から、多数の小型低軌道衛星によるミサイル追跡システムへと移行を進めており、中国も大規模な偵察衛星群や通信衛星網の整備を計画している。

 このように日本の防衛態勢は大きく転換したものの、具体的な武器の性能や運用、それを支えるインテリジェンス能力の面で、不明確な点が多く残されている。今後は米国との緊密な連携を図りつつ、より実効的な計画の策定が求められよう。

 この記事は元記事の要約です。詳細を知りたいかたは元記事をご覧になってください。

【私の論評】シギント(信号諜報)の重要性と日米台の宇宙からの監視能力 - 中国の脅威に備えるべき課題

まとめ

  • シギント(信号情報)は諜報活動の中で最も重要な手段の一つである。
  • 潜水艦などの探知・監視には、ソナー信号やレーダー波などのシギント活動が不可欠。
  • 日本は海洋におけるシギント能力は高いが、宇宙からのミサイル監視・追跡能力は不足している。
  • 中国はミサイル監視・追跡能力の向上に注力しているが、その実態は不透明である。
  • 日米台はミサイル監視・追跡における中国の動向を注視しつつ、宇宙におけるシギント能力の強化が課題。
インテリジェンス(諜報)活動には大まかに分類して、シギント、ヒューミント、オシントがあることはこのブログでも解説しました。その記事のリンクを以下に掲載します。
「研究所流出説」を甦らせた素人ネット調査団、新型コロナの始祖ウイルスを「発見」!―【私の論評】今やいかなる組織も、何らかの非合法な活動や隠蔽をすれば、オシントで合法的に素人に暴かれる(゚д゚)!


ただこの記事をはじめとして、このブログに掲載してきた諜報活動は、どちらかというシギントは軽視しがちでした。どちらかというと、オシント(公開資料にもとづく諜報活動)に重きをおいたものでした。それは、インターネットなどの発達により、いまやオシントは諜報・防諜活動に従事していない、素人でも簡単にできるようになったきたということがあるからです。

それに、諜報活動というとテレビや映画ではヒューミント(人による諜報活動)が目立ちますが、諜報活動の大部分は、現実には地味な公開資料の分析によるオシントが大部分を占めるからです。

しかしそうしたこととは別に、シギントは昔から今にいたるまで、最強の諜報活動といえます。ただし、シギントは素人が個人で行えるものではなく、国家による関与が不可欠ともいえます。そのため、一般の人にはあまり知られていないというのが実情です。

まずは、シギントについて詳しく説明します。

シギント(SIGINT)とは、Signal Intelligenceの略で、電波信号から情報を収集する諜報活動のことを指します。主な手法は以下の通りです。

1.コムイント(COMINT)

相手の通信内容を盗聴・解読することで情報を収集するもの。有線通信や無線通信の電波を捕捉し、復号化して内容を解析します。

2.エリントインテリジェンス(ELINT)

電子機器が放射する電磁波のパラメータ(周波数、強度、変調様式など)から、その機器の性能や機能、運用態様などを解析し情報を収集するもの。レーダー探知機やジャミング装置の性能評価などに用いられます。

3.フィジントインテリジェンス(FISINT)

 原子力施設や化学施設から放出される特定の粒子線や化学物質を検知して、その施設の活動状況を監視するためのインテリジェンス活動。

シギントには、地上施設に加え、艦船や航空機、さらには静止軌道や低軌道の偵察衛星からの電波収集能力が不可欠です。収集した情報は、通信解読や電子機器の性能分析、施設の活動状況把握などに活用されます。

特に今日では、ミサイル発射の電磁波パラメータからその性能を推定したり、指揮統制通信の盗聴で発射の有無を察知したりと、シギントは世界各国の軍事行動の把握に欠かせない重要な手段となっています。

このブログには良く掲載している、対潜水艦戦(ASW:Anti Submarine Warefare)における潜水艦探知能力もシギントの一環と言えます。

潜水艦は水中を航行するため、視覚的な探知が困難です。そのため、潜水艦から発せられる種々の「信号」を捕捉・解析してその存在や活動を探知することがASWの重要な手段となります。

南シナ海でASWの訓練をする海自

具体的には、以下のような手法がシギントとして活用されています。 

  • ソナー(SONAR)信号の捕捉・解析 潜水艦が運用するソナーの能動的な送波や受波音を監視し、潜航姿勢を推定する。
  • レーダー信号の捕捉(RADINT) 潜水艦のレーダーの電波を捕捉し、浮上時の活動を探知する。
  • 電磁信号の捕捉(COMINT) 潜水艦の通信電文の盗聴や、プロペラ回転に伴う極超短波の捕捉など。
  • 放射線/化学物質の検知(FISINT) 原子力潜水艦から漏れる放射線や化学物質を検知する。
  • 測量情報収集 潜水艦に搭載された測量装置を使って、水深や海底地形、海流などのデータを収集できます。この情報は潜水艦の運用や海上交通路の把握に役立ちます。
  • 艦船/施設監視 潜水艦の望遠鏡や撮影装置を使って、対岸の軍事施設や艦船の動向を監視できます。水上からは監視しにくい箇所の情報収集が可能です。

こうしたシギント活動によって潜水艦の存在や行動を察知し、対潜作戦に活用することができます。したがって、対潜哨戒はシギントの重要な一部と言えるでしょう。

これ以外にも、潜水艦には特殊諜報活動が 上陸したスパイの潜入/離脱、無人機の投入、海底設置型センサーの布設/回収など、秘匿性の高い特殊な諜報活動にも使われます。

このブログにも何度か掲載してきたように、日本の潜水艦はステルス性(静寂性)が高いことは、さらには日本の対潜哨戒能力が高いため、潜水艦や対潜初回活動等による、海洋におけるシギント能力はかなり高いといえます。

これにより、日本は中国に対して海戦面ではかなり有利であり、仮に日中戦争になったとしても、中国が日本に大部隊を送り込むことは困難であり、仮にそうすればすぐに発見され、撃沈されることになります。

そのため、日本は独立を維持できるでしょうが、このブログでも何度かのべてきたように、日本国内が中国のミサイルによって大きく破壊される可能性は高いです。

それは、台湾も同じことです。このブログでのべてきたように、第二次世界大戦中に米軍が、台湾上陸作戦をしなかったことでも明らかなように、台湾の急峻な地形、平坦な地域であっても、河川や湾が複雑に入り組んだ地形てあり、上陸地点が限られてしまうという事実は、天然の要塞と言っても良い状況であり、これを侵攻するのは難しいです。

しかし、台湾も対中戦争になれば、国土の大部分を破壊されることを免れることは難しいでしょう。

その背景には、上の記事にもあるように、日台はミサイル監視・追跡能力の面では、米中に大きく遅れをとっている恐れがあるからです。

ミサイルの監視を行う米国の衛星の想像図

先に述べたように、日本の海洋におけるシギント能力はかなり高く、台湾も潜水艦を時前で建造するなど、海洋でのシギント能力をたかめつつありますが、宇宙におけるシギント能力は高いとはいえません。これを高めていくべきです。

ただし、未だ中国の宇宙でのシギント能力が高いという確たる事実は発見されていません。中国の軍事技術の主な入手先は主にロシアですが、そのロシアのウクライナでの苦戦ぶりをみれば、ロシアはミサイル監視・追跡に関する基盤的な能力は持っているものの、作戦で要求される高度な能力までは未だ備えていないように見受けられます。宇宙でのシギント能力は、さほど高いとはいえないようです。

ただし、中国は近年、ミサイル監視・追跡能力の強化に注力しています。

その取り組みとしては、偵察衛星の大量打ち上げによる宇宙資産の増強、新型の大型レーダーシステムの運用開始、海上・航空機からの監視能力の拡充などが挙げられます。

このように監視・追跡体制の整備が進められている一方で、その具体的な性能や実効性については不透明な部分が多く残されています。中国が米国を上回る"かなり高い"ミサイル監視・追跡能力を備えているかどうかを確たる根拠に基づいて評価することは現時点では困難です。

監視・追跡分野における能力向上の兆しはみられるものの、その程度を断じるには情報が不足しており、引き続き動向を注視していく必要があるでしょう。

日米台としては、中国の動向を注視しつつも、宇宙でのシギント能力を高めていくことが大きな課題といえます。

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2024年4月23日火曜日

「F-35戦闘機で核使用OKに」それが意味する重大な転換点 日本には“有益”といえる理由―【私の論評】日本の核抑止力強化と地域安全保障への貢献:F-35A戦闘機の核搭載がもたらす可能性

「F-35戦闘機で核使用OKに」それが意味する重大な転換点 日本には“有益”といえる理由

まとめ
  • 2024年3月、F-35AがNATOでB61-12戦術核運用が認証された
  • これでNATO加盟国がF-35AによるB61-12の核攻撃能力を獲得
  • B61-12は出力調整可能で精密誘導される使いやすい核兵器
  • 日本は非核三原則だが実質的にはアメリカの核の傘に守られている
  • 仮に核武装すれば自衛隊F-35AへのB61-12搭載が現実的選択肢となり、核抑止力になり得る
上昇するF-35A

 2024年3月、米国製ステルス戦闘機F-35Aが戦術核弾頭B61-12の運用が認証されたことが報じられた。これによりF-35AはNATO加盟国において、通常兵器と核兵器の両方を搭載できる「複合対応航空機(DCA)」としての役割を担うことになった。

 NATOでは、アメリカから核爆弾を借り受ける「ニュークリア・シェアリング」を行っており、F-35Aを保有または導入予定の米国、オランダ、イタリア、ベルギー、ドイツの各空軍がB61-12の運用能力を順次獲得することになる。従来の運用機種に加えてF-35Aが加わり、将来的にはF-15EとF-35Aの2機種でNATOの核抑止力を支えていく。

 B61-12は出力を0.3~50キロトンまで調整可能で、GPS誘導による精密な投下も可能なため、比較的使いやすい核兵器とされる。一方で広島・長崎の原爆並みの破壊力を持つ。

 日本は非核三原則を掲げつつ、実際にはアメリカの核の傘に守られている。仮に将来的に核武装を決断した場合、現実的な選択肢は「ニュークリア・シェアリング」を通じてB61-12を航空自衛隊のF-35Aに搭載することだろう。

 F-35Aは同盟国で共通の機体なので、自衛隊機をDCA化するのは比較的容易だ。したがって、自衛隊のF-35A増強は、核武装の意思はなくとも、潜在的な核攻撃能力の保持を対外的にアピールし、結果として核抑止力となり得る。

 この記事は、元記事の要約です。詳細は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】日本の核抑止力強化と地域安全保障への貢献:F-35A戦闘機の核搭載がもたらす可能性

まとめ
  • 米国製ステルス戦闘機F-35Aが核兵器B61-12の運用が認証され、核兵器を搭載・運用可能に。
  • これにより、日本の自衛隊F-35Aが通常兵器と核兵器の両方に対応可能な複合対応航空機となり、NATOや米国の核の傘の中核戦力となる可能性がある。
  • 日本は非核三原則を掲げているが、米国の同盟国として「核の傘」の下にあり、有事の際には米国の核兵器による抑止力を受けられる。
  • 日本が将来的に核武装を決断した場合、航空自衛隊のF-35AにB61-12を搭載することが現実的な選択肢となる。
  • 日本が核抑止力を保持することにより、インド太平洋地域の安全保障環境に新たな核の均衡が生まれ、地域の平和と安定に資する可能性がある。

B61-12戦術核爆弾

「米国製ステルス戦闘機F-35Aが戦術核弾頭B61-12の運用が認証された」ということは、簡単に言えば、F-35A戦闘機が核兵器B61-12を搭載して運用(投下)できるようになったということです。

上の記事の"DCA((Dual-Capable Aircraft)化"とは、従来の対地・対空攻撃能力に加えて、核兵器運用能力をF-35Aに持たせることを意味しています。これにより自衛隊のF-35Aが通常・核の"複合対応航空機"となるわけです。  NATOや米国にとって、F-35Aが核の傘の中核を担う戦力となり得ることを意味しています。


日本には過去には、核兵器を搭載して運用(投下)できる航空機は存在していませんでした。

日本は、唯一の戦争被爆国として「非核三原則」(核兵器の保有・製造・持ち込みを行わない)を掲げており、核兵器を搭載・運用できる航空機を保有することは非核三原則に反するためです。

ただし、本文中にも記載がありましたが、日本はアメリカの同盟国であり、実質的には米国の「核の傘」の下に入っています。そのため、有事の際には米国の核兵器による抑止力を受けられる立場にあります。

上の記事では、仮に日本が将来的に核武装を決断した場合、現実的な選択肢は航空自衛隊のF-35Aにアメリカ製の戦術核弾頭B61-12を搭載することだと指摘されています。

日本の航空自衛隊にはF-35Aが導入されています。具体的には、以下のように導入が進められています。

  • 2012年に42機の調達が決定
  • 2017年12月に最初の4機がアメリカから搬入
  • 2019年3月に三沢基地に初期運用能力を発令
  • 2023年3月時点で38機が既に配備済み
  • 2020年代後半までに最終的に147機を導入する予定

このように、航空自衛隊はすでにF-35Aの運用を開始しており、今後さらに導入を加速させる計画になっています。F-35Aは国産の次期主力戦闘機となることが期待されています。

2012年の時点で、日本政府がF-35Aを将来的にB61-12戦術核弾頭の運用が認証される航空機として認識していたとは考えにくいです。F-35計画は1990年代から開始された長期的な開発プロジェクトであり、当初からの目的は主に通常戦闘機としての運用でした。

核兵器運用能力は初期の要求事項にはなかったはずです。また、B61-12戦術核弾頭そのものも、2012年時点では開発中の段階でした。実際に運用が認証されたのは2024年となっています。

さらに、日本は非核三原則を掲げており、F-35Aを核兵器運用機として検討する必要性はそもそもありませんでした。上の記事の元記事本文中でも、F-35AがB61-12運用が認証されたことは「2024年3月」の出来事として報じられています。

したがって、2012年の時点で日本側がF-35Aの核兵器運用能力の付与を予見していたとは考えにくく、通常戦力の現代化が主な調達目的だったと推測されます。核運用能力は後付けで付与されたものと見られます。

日本は、期せずして核を搭載できる航空機を持つことになったのです。

これにより、日本の安全保障体制は飛躍的に強化され、インド太平洋地域における日本のプレゼンスが著しく高まることでしょう。核抑止力の保持により、日本は北朝鮮、中国、ロシアといった潜在的な敵対国家からの脅威に対して確実な抑止力を発揮できるようになります。これにより、日本は同盟国の米国に過度に依存することなく、独自の安全保障政策を推進する余地が生まれます。

インド太平洋地域

加えて、核シェアリングにより、日本が事実上の核保有国となれば、インド太平洋地域の安全保障環境に新たな核の均衡が生まれ、地政学的な緊張緩和につながる可能性があります。

日本が事実上の核保有国となり、地域の核バランス(核抑止力のバランス)が生まれた場合、他の国々のインセンティブ(動機づけ)が変わることになるからです。

具体的には、例えば中露北といった他の核保有国は、日本にも核抑止力があることを認識すれば、これらの国が無秩序に核兵器や通常兵器を増強しても、日本の核抑止力によってある程度抑えられてしまうため、そのようなコストのかかる軍拡競争を起こすインセンティブ(動機)が低下するということです。結果として、インド太平洋地域全体の平和と安定に資することでしょう。

一般的には、ある国が核兵器を保有すれば、他国も対抗して核兵器や通常兵器の増強に走り、地域の軍拡競争が過熱するものと考えられがちです。しかし実は、日本が核抑止力を備えることで、地域の核の均衡が生まれ、かえって各国の無秩序な軍拡を抑制するパラドクシカル(逆説的)な効果が期待できるのです。

なぜなら、核の均衡状態下では、いずれの国も他国の核による確実な報復能力を認識せざるを得ません。ですから、一方的な軍備増強による優位の追求は、かえって自国の安全を脅かしかねません。このジレンマは、各国に過剰な軍拡を自制させ、地域の軍縮と緊張緩和につながる可能性があるからです。

要するに、日本の核武装は地域の軍拡競争を 逆説的に抑制する効果があるということです。現状では、確かに日本は米国の核の傘の下にあり、均衡は保たれているようにもみえますが、現実に中露北が核を含む武力行使をして日本を攻撃した場合、米国が核による報復に踏みきるかどうかは定かではありません。

核シェアリングの議論を主張していた安倍元首相

しかし、日本が自国の意思でこれを実行できるようになれば、新たな核の均衡が生まれることになるのです。

もちろん、核不拡散体制への影響など懸念材料もないわけではありませんが、日本がこれまで掲げてきた平和主義的理念の下で核武装を厳格に管理すれば、同盟国を含む国際社会からの理解と支持が得られると考えられます。むしろ国内の反対勢力のほうがこれに対する大きなさまたげになることでしょう。

核搭載F-35Aの保有は、日本の新たな抑止力の獲得につながり、地域の安全保障と平和に貢献する大きな可能性を秘めています。

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2024年4月22日月曜日

「バイデンはウクライナを邪魔するな」ロシア製油所へのドローン攻撃に対する停止要求は不当―【私の論評】バイデン路線の致命的失敗 、ウクライナ放置とエネルギー政策の無策で同盟国は大混乱

 「バイデンはウクライナを邪魔するな」ロシア製油所へのドローン攻撃に対する停止要求は不当

岡崎研究所

まとめ
  • ウクライナがロシアの主要な製油所を自国のドローンで攻撃し、ロシアの戦争遂行能力を10~14%破壊した。
  • バイデン政権がウクライナにこうした製油所攻撃の停止を求め、石油価格上昇やロシアの報復を危惧しているようだ。
  • 米ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)紙の社説がこうした要求を批判し、ウクライナの選択肢が限られる中で製油所攻撃の重要性を主張している。
  • ゼレンスキー大統領自身もウクライナの反撃権を主張し、バイデン政権に疑問を呈している。
  • WSJの社説は、バイデン政権に対し、少なくともウクライナの邪魔をしないよう、武器使用の自由を認めるべきと提言している。

WSJの紙面

 ウォールストリート・ジャーナル紙は4月5日付けの社説で、バイデン政権がウクライナによるロシアの製油所に対するドローン攻撃の停止を求めたことを批判的に論じている。同紙によれば、ウクライナはこれまでロシアの主要な製油所のうち少なくとも15か所を自国のドローンで攻撃し、ロシアの戦争遂行能力の10~14%を破壊したという。これらの攻撃は国境から750マイル以上離れた深く砂地に入ったところでも行われ、ウクライナの軍事的なイノベーションを示すものである。

 しかし、フィナンシャル・タイムズ紙の報道では、バイデン政権がウクライナにこうした作戦の停止を求め、「ドローン攻撃は石油価格を押し上げ、ロシアの報復を招くリスクがある」と警告したとされる。実際に米国のNATO大使も「ロシア領内の標的を攻撃することは米国が特段支持するものではない」と語っている。

 社説はこうした態度を批判し、ウクライナがロシアの侵略に対して自国の領土防衛以外に取り得る選択肢は限られている中で、製油所攻撃によりロシアの戦争資金源を遮断し、プーチン政権に打撃を与える重要性を指摘している。さらに、ゼレンスキー大統領自身も「なぜウクライナが反撃できないのか」と不満を示しており、バイデン政権の対応に疑問を投げかけている。

 結論として社説は、下院共和党の妨害でウクライナ支援が滞る中、バイデン政権が最低限すべきことは「ウクライナの邪魔をしないこと」であり、むしろウクライナの武器使用の自由を確保すべきだと提言している。

【私の論評】バイデン路線の致命的失敗 、ウクライナ放置とエネルギー政策の無策で同盟国は大混乱

まとめ
  • ウクライナにはロシアの侵略から身を守る固有の権利があり、西側諸国はウクライナの主権と自由を断固として支持しなければならない。
  • ウクライナは製油所などの重要目標への攻撃を行う権利があり、WSJの社説のこうした主張は正しい。経済的考慮によってウクライナの反撃を制限してはならない。
  • バイデン政権の弱腰な対応はウクライナに降伏と宥和の圧力をかけるものであり、歴史の教訓と自由・民主主義への断固たる取り組みから得られる強さを忘れたようなものだ。
  • バイデン政権の外交政策は全般的に弱腰であり、アフガニスタンからの撤退の失敗、ウクライナ侵攻に向けた誤解を招く発言、イラン核合意への譲歩的姿勢、エネルギー政策の失敗は世界に混乱をもたらした。
  • このようなバイデン政権の弱腰な外交政策は、敵国とその協力者を勇気づけ、同盟国を弱体化させ、世界をより危険な場所にしている。強力で断固としたリーダーシップが必要である。
ゼレンスキー ウクライナ大統領

ウクライナにはロシアの侵略から身を守る固有の権利があり、日本を含む西側諸国は彼らの主権と自由を断固として支持しなければならないです。 バイデン政権の弱気な姿勢は、ウクライナに対し、製油所などの重要目標への攻撃、降伏と宥和の圧力を控えるよう求めています。

それはあたかもバイデン政権が歴史の教訓と、自由と民主主義への断固とした取り組みから得られる強さを忘れたかのようです。 

今回の戦争は、ウラジーミル・プーチンの専制的で拡張主義的な野望によって強制された戦争です。このような紛争において、ウクライナは敵の戦争遂行能力を無力化するために必要なあらゆる手段を講じるあらゆる権利を有しており、それには製油所などの戦略的資産を標的にすることも含まれます。 

WSJの社説の主張は完全に正しいです。 ウクライナの反撃は合法であるだけでなく、道徳的にも正当化されます。 国際法は自衛権を認めており、特に戦時規則に違反し凶悪な残虐行為を繰り返してきた相手と対峙した場合、ウクライナは侵略者に対して戦いを挑む権利を有しています。

バイデン大統領

 原油価格の高騰とロシアの報復に対するバイデン氏の懸念は見当違いで短絡的です。 私たちは、侵略に対する対応が経済的考慮によって決定されることを許すべきではありません。 自由世界は明確なメッセージを送らなければなりません。

私たちはそのような行為を容認せず、私たちの価値観とそれを共有する人々を守るために団結すべきです。西側諸国の人々は、 ゼレンスキー大統領の勇気と決意にもとづく呼びかけに耳を傾け、武器であれ、諜報であれ、あるいは自国の資源を必要に応じて活用する自由であれ、ウクライナが勝利するために必要な支援をウクライナに提供すべきです。

 バイデン政権の外交政策は、弱腰でありこれが敵を刺激し、米国の立場を弱体化させたことは、明らかです。 

何よりもまず、アフガニスタンからの悲惨な撤退がそれを示しています。 バイデン氏の性急かつ無計画な撤退により、米国民とそのパートナーは立ち往生し、脆弱な立場に置かれてしまいました。

バイデンはアフガニスタンのパートナーに背を向け、彼らをタリバンのなすがままにし、決意と強さの欠如を示して敵を勇気づけることになりました。 その後、ロシアのウクライナ侵攻に向けて、バイデンの発言は弱々しく、一貫性がありませんでした。

バイデン大統領は2022年1月19日の記者会見で、「小規模な侵攻」という表現は使用しませんでした。しかし、「ロシアによるウクライナ侵攻」について問われた際、NATO加盟国間で対応が分かれる可能性があることを示唆しました。

一部メディアがバイデン発言を「小規模な侵攻なら対応が分かれる」と誤報したことから、この「小規模な侵攻」発言があったかのように広まってしまいました。

このような誤解を招いた発言は、ロシアにウクライナ侵攻のコストを過小評価させてしまった可能性があります。これは事後的に大きな非難を浴びました。

ただし、バイデン政権の当初の意図は、あくまでも本格的なウクライナ侵攻には断固たる対応をすると示唆することだったようです。しかし、発言を誤って受け止められてしまったことは間違いありません。バイデン氏が当初から徹底抗戦を主張するなどの発言をしていれば、このような間違いは起こらなかったでしょう。こればプーチンに積極的な行動を取るよう促す結果となりました。 

イラン核合意(JCPOA)もバイデン氏の弱点を示す一例です。 同政権は、テロを支援し地域の不安定化を図る政権に対して譲歩し、制裁を緩和することで、この欠陥のある協定を復活させようと躍起になっています。 

このアプローチは宥和的なメッセージを送り、ならず者国家が処罰されずに行動することを奨促す結果となっています。 中東では、バイデンは敵に立ち向かい、同盟国を支援することができませんでした。 バイデンはイランに対しては弱腰であり、シリアなどにおけるロシアの影響力に適切に対抗することもできていません。

 バイデン政権は同盟国イスラエルにも批判的で、エルサレムの首都認定を取り消すなど、イスラエルの安全を損なう政策を推進してきました。

バイデン政権の外交面での弱腰な態度や失策は、エネルギー政策の失敗にも起因しています。就任直後のキストンXLパイプライン計画の中止や、フラッキング規制の強化などにより、米国のエネルギー自給能力が低下しました。

ロシアのウクライナ侵攻に伴う制裁でロシア産原油の供給が減少する中、バイデン政権は代替調達に遅れをとり、OPECなどに原油増産を要請しましたが、応じてもらえませんでした。

こうしてエネルギーコストが高騰し、家計を直撃し、インフレ高進に拍車をかけました。エネルギーの安全保障を軽視したことで、ロシアや産油国に弱腰を強いられる結果となったと言えます。このようなエネルギー政策の失策が、バイデン政権の弱腰外交の一因ともなっているのです。

習近平とバイデン

中国に関してはバイデン氏はほとんど無力です。 新疆ウイグル自治区での人権侵害や香港での弾圧には適切に対処していません。 同政権の貿易に対するアプローチも弱く、不公正な行為や知的財産の窃盗に対する中国の責任を追及することに失敗しています。 

そして北朝鮮のことも忘れてはいけません。 バイデン氏は、核兵器と弾道ミサイル計画の継続的な開発に対して空虚なレトリックを発するばかりです。 同氏にはこの脅威に対処する明確な戦略がなく、行動の欠如が金正恩氏の攻撃性を高める結果になっています。 以上は、バイデンの弱気な外交の一部にすぎません。 

バイデンは、LGBT外交も推進しました。これは米国の国益を促進するどころか、途上国の反米感情を助長する可能性の方が高いです。中国との覇権争いが最重要課題である時に、そのような取り組みをする余裕があるのでしょうか。

 「米中新冷戦」の激化に伴い、各国は米国と中国のどちらの陣営につくべきか選択を迫られています。歪んだ価値観外交は途上国を米国から遠ざけ、中国の陣営に追いやる一因になりかねないです。

バイデンは我々西側諸国の敵を勇気づけ、同盟国を弱体化し、世界をより危険な場所にしたといえます。 バイデン政権の外交政策は西側諸国のとって災厄であり、 米国は、米国国と同盟国を危険にさらす無謀で不器用なアプローチではなく、米国の利益と価値観を守る強力で断固としたリーダーシップが必要です。

それが、同盟国にとっても良い結果をもたらすことになります。米国の軸がブレることは、中露北とその協力者たちを勇気づけることになるだけです。

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2024年4月20日土曜日

「血を流す場合もある」国民に説得を 岸田首相「グローバル・パートナー」の責任 集団的自衛権のフルスペック行使、憲法改正が必要―【私の論評】憲法改正をすべき決断の時が迫ってきた!日本国民は覚悟をもってこれに臨め

八木秀次「突破する日本」

まとめ
  • 岸田首相は米国訪問後、日米関係を「かつてなく強固な信頼関係に基づくグローバル・パートナー」と位置づけ、安倍元首相の憲法改正の志を引き継ぐ決意を示した。
  • 「グローバル・パートナー」と称したからには、集団的自衛権の制約を外し、同盟国と連携して権威主義国家に立ち向かうため、憲法改正が求められる。
  • 安倍元首相は「血の同盟」と表現し、日米同盟の本質は互いに血を流す覚悟が求められると説明していた。
  • 岸田政権は安倍政権の遺産を継承し、安全保障政策を推進してきた。「グローバル・パートナー」発言はその延長線上にある。
  • しかし、「グローバル・パートナー」として日本に犠牲や負担が求められる可能性があり、政府は国民にその覚悟を真剣に訴える必要がある。
 岸田首相は米国訪問後、日米関係を「かつてなく強固な信頼関係に基づくグローバル・パートナー」と位置づけ、安倍元首相の憲法改正の志を引き継ぐ決意を示した。

 「グローバル・パートナー」と称したからには、集団的自衛権の制約を外し、同盟国と連携して権威主義国家に立ち向かうため、憲法改正が求められる。

 安倍元首相は「血の同盟」と表現し、日米同盟の本質は互いに血を流す覚悟が求められると説明していた。

中国を訪問した安倍首相

 岸田政権は安倍政権の遺産を継承し、安全保障政策を推進してきた。「グローバル・パートナー」発言はその延長線上にある。

 しかし、「グローバル・パートナー」として日本に犠牲や負担が求められる可能性があり、政府は国民にその覚悟を真剣に訴える必要がある。

 岸田首相は米国訪問から帰国後、国会で米国とのグローバル・パートナーシップを強調した。これは安倍元首相が目指した「血の同盟」、つまり米国と共に自由や民主主義、法の支配を守るために必要ならば犠牲をいとわない決意を示したものと解釈された。

 「グローバル・パートナー」と位置づけた以上、日本には集団的自衛権の行使制限を外し、同盟国・同志国と連携して中国・ロシア・北朝鮮などの権威主義国家に対処できるようにすることが求められる。そのためには、憲法改正を含む国内法整備が不可欠となる。

 安倍元首相は過去に「血の同盟」という言葉で、日米同盟の本質を説明していた。米国が攻撃を受ければ米兵が血を流すが、当時の憲法解釈下では自衛隊はそうできず、完全なパートナーと言えないと指摘した。その後、安倍政権で集団的自衛権の行使が一部可能となり、現在では米軍が攻撃された場合、自衛隊員も戦闘に加わり血を流す可能性がある。

 岸田政権は安倍政権の遺産を継承し、国家安全保障戦略の改定、防衛費増額、反撃能力保有など安全保障政策を推進してきた。「グローバル・パートナー」発言はその延長線上にある。日本の抑止力を高め、国際的地位を格段に上げたと評価できる。

 しかし同時に、「グローバル・パートナー」としての日本には、場合によっては自衛隊員や国民に犠牲や負担が強いられる可能性もある。自由社会を守る役割の増大に伴い、そうした覚悟を政府から国民に真剣に訴える必要がある。権威主義国家の脅威に対し、日本は相応の役割を果たさなければならない。

これは、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。
 
【私の論評】憲法改正をすべき決断の時が迫ってきた!日本国民は覚悟をもってこれに臨め

まとめ
  • 岸田首相の「グローバル・パートナー」発言には、日米間の軍事、価値観、地政学、経済など多面的な協力関係が含意されている。
  • 軍事面では日米同盟の強化が期待されるが、安倍元首相の「血の同盟」発言のように、現行憲法下では対等とは言えない。
  • バイデン政権は自由・民主主義の価値観を共有する日本を重要パートナーと位置付け、中国の対抗上、日本の地政学的役割を期待している。
  • 経済面でも、重要技術分野などで日米協力が経済安全保障の観点から求められている。
  • こうした協力関係を実現するには、日本の憲法改正が不可欠であり、トランプ前大統領がこれを支持する可能性もあるが、結局のところは民意であり、政府も国民にも決断の時が迫っている。

米国にとって、岸田首相が米連邦議会の演説で「グローバル・パートナー」と呼んだ日米関係には、軍事、価値観、地政学、経済など、多面的な側面が含まれていると考えるでしょう。

軍事面では、安倍元首相が「血の同盟」と表現したように、同盟国同士として緊密に連携することが期待するでしょう。ただし安倍氏の発言は、当時の日本の憲法解釈では米国と同等の関係とはいえないと批判的に指摘したものです。それでも、岸田首相の「グローバル・パートナー」発言は、日米同盟の軍事的協力関係を再確認したと受け止められたでしょう。

また、バイデン政権は「民主主義対権威主義」の構図を重視しており、自由・民主主義の価値観を共有する日本を重要なパートナーと位置づけています。「グローバル・パートナー」という表現には、こうした価値観の共有関係が込められているとみられます。

さらに、中国の台頭に対抗するため、日米はインド太平洋地域におけるルール作りなどで協力する地政学的な戦略的パートナーとしての機能が期待されています。アジア重視を掲げるバイデン政権にとって、日本はこの地域での軸足となる存在です。

加えて経済面でも、日米は貿易、投資、金融をはじめ幅広い分野で協力関係にあります。特に重要技術分野での連携が経済安全保障の観点から求められており、「グローバル・パートナー」にはそうした経済面での協力も含意されていると考えらます。

このように「グローバル・パートナー」という言葉には、多岐にわたる分野での緊密な協力関係が内包されています。米国は日本が同盟国であり、価値観を共有するパートナーであり、地政学的・経済的に重要な役割を果たすことを期待しているといえます。

これらを実現するためには、特に日本が米国との地政学的パートナーであるためには、日本国憲法の改正が必須です。

米国の保守派からみても、日米関係が最も重要であることは明らかです。米保守派は、第二次世界大戦後、左派勢力によって押しつけられた日本国憲法の平和主義的性質が、日本が世界舞台で対等なパートナーとなる能力を妨げてきたとみているでしょう。

日本は自国の憲法をよく見直し、より積極的で貢献的な同盟国となるために必要な改正を行う時期が来ていると認識しているでしょう。

自民党の麻生副総裁は、来週、アメリカを訪問する方向で調整しています。関係者によりますと、トランプ前大統領との面会を模索しているということで、秋に大統領選挙を控える中、幅広く人脈を構築するねらいがあるものと見られます。

自民党麻生副総裁

これが実現したとして、麻生・トランプ会談では、当然日米の「グローバルパートナー」としての関係を強めることも話題になると考えられると思います。

米国の保守派は、トランプ氏は、日本の憲法改正を支持すると思います。それが、日本の憲法改正を支持する可能性もあると考えているでしょう。

日本の左派は、他の西側諸国の左派と同様に、現状維持を好む傾向があり、特に軍事面での新たな動きに対しては警戒感を持つ傾向があり、進化する安全保障上の課題を認識することに消極的であることが多いです。 彼らは、自国を守り、地域の安定に貢献できる強い日本が日本国民の最大の利益であることを理解していません。 

しかし、トランプ大統領の潜在的な支持と適切なメッセージがあれば、麻生副大統領と自民党は日本国民に説得力のある主張をすることができるかもしれません。 強固な日米同盟の重要性を強調し、民主主義と自由という共通の価値観を強調し、安全で繁栄したインド太平洋地域のビジョンを提示すれば、憲法改正を支持する世論を揺るがす可能性があります。 

私は麻生副大統領とトランプ大統領の会談は確かに日本の憲法改正への足掛かりとなる可能性があると思います。 トランプ大統領の支持と正しい戦略的アプローチがあれば、自民党は日本国民に説得力のある主張をし、反対を克服し、日本を世界でより自信を持って積極的な役割を果たす方向に導くことができるかもしれません。

2021年の憲法改正毎日新聞世論調査では「賛成」48%、「反対」31%です。 憲法改正は全く不可能という状況ではないと考えられます。現在では、「賛成」の比率がもっと高くなっているかもしれません。

もし、そうであり、さらにトランプ氏が大統領に返り咲き、日本の憲法を改正を支持する旨をはっきりさせれば、憲法改正の後押しになるのは間違い有りません。

トランプ氏

ただ、現状では岸田政権の支持率が低く、仮に岸田政権が崩壊して総理大臣が変わったにしても、自民党政権が続く可能性が高いですが、ポスト岸田は、岸田氏と同等か、それ以上のリベラル派である可能性が高いです。そうなると、憲法改正は遠のく可能性があります。

これを防ぐためにも、日本でも与野党に限らず、保守派の台頭が望まれるところです。ただ、最終的には国民の民意が憲法改正の実現を左右する最大の要因になると考えられます。

憲法は国民主権の理念に基づく最高規範であり、改正には国民投票による過半数の賛成が必要不可欠です。保守派の台頭や政権与党、米国政府の後押しは一定の影響力を持ちますが、それだけでは改正を実現するには不十分です。

中国、ロシア、北朝鮮など、日本を取り巻く安全保障環境は厳しさを増しており、それに伴い日本の防衛力強化の必要性が高まっています。現行憲法の縛りのため、自衛隊の活動には一定の制約があることも事実です。

そうした中で、憲法改正に向けた動きが過度に遅れれば、日本の安全が脅かされかねません。時間をかけすぎて機を逸してしまっては本末転倒です。国民的議論を尽くしつつも、スピード感を持って対応すべきです。

仮に結局国民議論が十分に尽くされず、国内が分断したとしても、他国に占領されたり、そこまでいかなくても、他国に蹂躙されるよりはましです。憲法改正によって国民が、分断しても、その後議論を尽くすことはできます。しかし、日本が独立を失ったり、他国に蹂躙されて、従属するようになれば、それはできません。

政府も、国民も、場合によっては自衛隊員や国民に犠牲や負担が強いられるかもしれないことを覚悟したうえで、憲法改正をすべき決断の時が迫ってきたといえます。

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