2018年7月24日火曜日

中国は入れない日欧EPA 中国に“取り込まれる”ドイツを牽制した安倍外交 ―【私の論評】「ぶったるみドイツ」に二連発パンチを喰らわした日米(゚д゚)!

中国は入れない日欧EPA 中国に“取り込まれる”ドイツを牽制した安倍外交 

高橋洋一 日本の解き方

記者会見を終え、トゥスク欧州理事会議長(右)と握手を交わす
ユンケル欧州委員会委員長。中央は安倍晋三首相=17日午後、首相官邸

 日本と欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)の署名は、安倍晋三首相が西日本豪雨で訪欧できなかったため、欧州側が来日する形で行われた。日欧EPAは、早ければ来年3月までに発効する見通しだ。これによって何が変わるのか。

 マスコミがこの件を報道する際、分かりやすくするために物品の関税で説明することが多い。日本はEUからのワイン、チーズ、チョコレートなどに関税を課している。ワイン関税は即時撤廃となり、750ミリリットル入りのボトルで最大約94円安くなる。チーズはEU産に優遇枠を設けて、段階的に無税枠を拡大する。チョコレートは関税を段階的に引き下げて、将来は撤廃する-といったものだ。

 これは間違いではないが、EPAの一面に過ぎない。協定全体は環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)のように大部である。外務省のウェブサイトに協定の原文が掲載されているが、本文だけで500ページ弱、これに附属書が加わり、全体で1200ページを超える。目次は、第1章総則、第2章物品貿易などあり、最終規定まで23章もある。

 第2章の物品貿易には、物品貿易に関し関税撤廃・削減のほか内国民待遇等の基本的なルール等が規定されている。関税の話はここに記載されている。

 具体的な中身は、附属書に書かれている。関税率表というものがあるが、興味があれば一見しておくといい。世の中のありとあらゆるものが全て記載され、その一つ一つに関税率が定められている。筆者は役人時代に関税率表を見て、そのボリュームに感動した覚えがある。今では、税関のサイトで誰でも見ることができるし、書籍としても販売されている。ちなみに本の関税率表は1200ページを超える分厚いものだ。

 いずれにしても、附属書の中に、関税率表がどのように変わるかが記載されている。マスコミがその中身を確認することはできないだろうから、役所に聞いて、その中の2、3品目を選んで報道しているわけだ。

 23章のうち1章だけ、しかも何千品目もある中から2、3品目では全体像の理解はできない。筆者は、今回の日欧EPA協定の中で、第8章サービス貿易、投資の自由化及び電子商取引、第13章国有企業、特別な権利または特権を付与された企業及び指定独占企業、第14章知的財産、第15章企業統治などに着目している。これらの規定は、資本主義国であれば当然のルールであるが、社会主義国では適用困難なものだ。

 EPAはこれらの規定を含む点で、自由貿易協定(FTA)と異なっている。逆にいえば、中国はFTAはできるが、EPAはできないのだ。

 安倍首相は「自由民主主義、人権、法の支配といった普遍的価値をEUとともに力強く発展させ、世界の平和と繁栄に貢献する」と述べた。このEPAには中国は参加できず、中国主導の国際秩序ではないと宣言したようなものだ。中国に取り込まれるドイツを牽制し、EUを資本主義体制に戻している。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】「ぶったるみドイツ」に二連発パンチを喰らわした日米(゚д゚)!

経済連携協定(英: Economic Partnership Agreement、EPA)とは、自由貿易協定(FTA)の柱である関税撤廃や非関税障壁の引き下げなどの通商上の障壁の除去だけでなく、締約国間での経済取引の円滑化、経済制度の調和、および、サービス・投資・電子商取引などのさまざまな経済領域での連携強化・協力の促進などをも含めた条約です。

自由貿易協定(FTA)は、特定の国や地域の間で,物品の関税やサービス貿易の障壁等を削減・撤廃することを目的とする協定です]。

一方、経済連携協定(EPA)は、貿易の自由化に加え、投資,人の移動,知的財産の保護や競争政策におけるルール作り、様々な分野での協力の要素等を含む、幅広い経済関係の強化を目的とする協定です。

日本ではEPAを軸に推進しており、GATT(関税および貿易に関する一般協定)およびGATS(サービスの貿易に関する一般協定)に基づくFTAによって自由化される物品やサービス貿易といった分野に加え、締結国と幅広い分野で連携し、締約国・地域との関係緊密化を目指すとしています。

近年世界で締結されているFTAの中には、日本のEPA同様関税撤廃・削減やサービス貿易の自由化にとどまりません。様々な新しい分野を含むものも見受けられるようになっているため、国によってはFTAとEPAを区別せずに包括的にFTAに区分することも少なくないです。

2018年6月時点で日本政府が外国または特定地域と締結した協定(発効ずみのもの)はすべてEPA(経済連携協定)となっています。2018年2月に署名した環太平洋パートナーシップ協定(TPP)及び2018年3月に署名した環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)は、いずれも内容的にはEPAです。協定名は「パートナーシップ協定」となっています。

外務省によると、日本はFTAだけでなくEPAの締結を軸に求めています。理由として、関税撤廃だけでなく、投資やサービス面でも、幅広い効果が生まれることを期待していることによります。

以下に、日本が締結したEPAの一覧を掲載します。
日本・シンガポール新時代経済連携協定:2002年11月30日発効(改正議定書2007年9月2日発効) 
日本・メキシコ経済連携協定:2005年4月1日発効(改正議定書2012年4月1日発効) 
日本・マレーシア経済連携協定:2006年7月13日発効 
日本・チリ経済連携協定:2007年9月3日発効 
日本・タイ経済連携協定:2007年11月1日発効 
日本・インドネシア経済連携協定:2008年7月1日発効 
日本・ブルネイ経済連携協定:2008年7月31日発効 
日本・ASEAN包括的経済連携協定:2008年12月1日より順次発効し、2010年7月1日に最後のフィリピンについて発効し、すべての署名国について発効となった。ただし、インドネシアについては、国内の実施のための手続きが遅れ、インドネシアの財務大臣規定が2018年2月15日に公布され、2018年3月1日より施行されたことにより、2018年3月1日より、協定の運用が開始され、日本とインドネシアとの間ではAJCEP協定に基づく特恵関税率が適用されることになった。 
日本・フィリピン経済連携協定:2008年12月11日発効 
日本・スイス経済連携協定:2009年9月1日発効 
日本・ベトナム経済連携協定:2009年10月1日発効 
日本・インド経済連携協定:2011年8月1日発効
日本・ペルー経済連携協定:2012年3月1日発効 
日本・オーストラリア経済連携協定:2015年1月15日発効 
日本・モンゴル経済連携協定:2016年6月7日発効 
環太平洋パートナーシップ協定(TPP):2016年2月4日署名[8]、日本は2017年1月20日締結。未発効。 
環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP、TPP11):2018年3月8日署名、日本は2018年7月6日締結。未発効。 
日本・EU経済連携協定:2018年7月17日署名。未発効。
TPPも、EPA(経済連携協定)に含まれます。日本が最後に署名した「日本・EU経済連携協定」の効果についてまとめた表を以下に掲載します。

クリックすると拡大します

ブログ冒頭の高橋洋一氏の記事に、EPAには中国は参加できないと掲載されていますが、これはなぜでしょうか。それは、EPAには貿易の自由化に加え、投資、人の移動、知的財産の保護や競争政策におけるルール作り、様々な分野での協力の要素等を含むからです。

中国においては、そもそも民主化、政治と経済の分離、法治国家がなされていません。


わかりやすい事例をだすと、たとえば戸籍です。すべての中国人の戸籍は、農村戸籍(農業戸籍)と都市戸籍(非農業戸籍)に分けられています。農村戸籍が約6割、都市戸籍が約4割で、1950年代後半に、都市住民の食糧供給を安定させ、社会保障を充実させるために導入さました。

以来、中国では農村から都市への移動は厳しく制限されていて、日本人のように自分の意思で勝手に引っ越ししたりはできないです。ちなみに都市で働く農民工、いわゆる出稼ぎ労働者がいるではないか、と思われるでしょうが、彼らは農村戸籍のまま都市で働くので、都市では都市住民と同じ社会保障は受けられません。これでは、民主的とはいえず、EPAには入れないのは当然です。

株価が急落したため落ち込む中国の個人投資家
株価が急落すると政府が介入して株式取引を中止することもある
さらに、中国は国家資本主義ともいわれるように、政治と経済が不可分に結びついており、先進国にみられるような、政府による経済の規制という範疇など超えて、政府が経済に直接関与することができます。実際中国の株式市場で株価が下落したときに、政府が介入して株式を売買できないようにしたこともあります。

中国にも司法組織なるものが存在するが、
その組織は中国共産党の下に位置している

中国は30年にわたる「改革開放」政策により、著しい経済発展を成し遂げました。ところが、依然として法治国家ではなく「人治国家」であるとの批判が多いです。それに対して中国政府はこれまでの30年間の法整備を理由に、「法制建設」が著しく進んでいると主張しています。

確かに30年前に比べると、中国の「法制」(法律の制定)は進んでおり、現在は憲法、民法、刑法などの基本法制に加え、物権法、担保法、独占禁止法などの専門法制も制定されています。それによって、人々が日常生活の中で依拠することのできる法的根拠ができてはいます。

その一方で、それを効率的に施行するための施行細則は大幅に遅れています。何よりも、行政、立法、司法の三権分立が導入されていないため、法の執行が不十分と言わざるを得ないです。中国では、裁判所は全国人民代表会議の下に位置づけられている。つまり、共産党の指導の下にあるわけです。 

このような中国は、とても日米をはじめとする先進国と、まともな自由貿易などできません。検討するまでもなく、最初から経済連携協定(EPA)など締結できないのです。

しかし、このような国中国と貿易を推進しようとする愚かな国がありました。それがドイツです。

ドイツはEU随一の経済大国ですが、EU設立・加盟後は単独での自由貿易協定は締結せず、EUとして通商協定の交渉や締結を行っていました。

そのドイツのメルケル首相と同国を訪問した中国の李克強首相が今月の9日、会談を開き、200億ユーロ(235億1000万ドル)規模の取引で合意したのです。ただし、これは、FTAではありません。

ただ、この会談の席上で、李克強は「自由貿易」という言葉をしきりに使っていました。しかし、これは、噴飯ものでしょう。元々中国は上記で掲載したように、まともに自由貿易などできるような状態ではありません。

民主的でもなく、政治と経済が分離されてもおらず、法治国家ですらない中国が、他国と普通に貿易したとしても、これらを守っている国と貿易をすれば、不平等条約にならざるを得ません。

ドイツが中国と貿易を続ければ、最初は儲けることができるかもしれませんが、いずれ中国から富を収奪される結果となります。

これについては、すでにこのブログでもとりあげました。その記事のリンクを以下に掲載します。
なぜ日本は米国から国防費増額を強要されないのか F-35を買わないドイツと、気前よく買う日本の違い―【私の論評】国防を蔑ろにする「ぶったるみドイツ」に活を入れているトランプ大統領(゚д゚)!
メルケルと李克強
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、ドイツは緊縮財政で主力戦闘機であるユーロファイターが4機しか稼働しない状態にあり、さらに中国とは貿易を推進しようとしてまいます。

以下にこの記事の結論部分だけを引用します。
いくら中国から地理的に離れているとはいえ、ドイツも含まれる戦後秩序を崩し世界の半分を支配しようとする中国に経済的に接近するとともに、緊縮財政で戦闘機の運用もままならないという、独立国家の根幹の安全保障を蔑ろにするドイツは、まさにぶったるみ状態にあります。ドイツの長い歴史の中でも、これほど国防が蔑ろにされた時期はなかったでしょう。 
このような状況のドイツにトランプ大統領は活をいれているのです。ドイツにはこのぶったるみ状態からはやく目覚めてほしいものです。そうでないと、中国に良いように利用されるだけです。

そうして、ドイツを含めたEUも、保護主義中国に対して結束すべき時であることを強く認識すべきです。
しかも、これはあまりにタイミングが悪すぎます、トランプ政権の米国が中国に対して貿易戦争を開始したときとほぼ同時にメルケルは李克強と会談し、貿易を推進させることを公表しているのです。

この状況はトランプ大統領からみれば、まさにドイツは「ぶったるみ」状態にあると写ったことでしょう。だから先日のNATO総会でも「NATO諸国が国防費の目標最低値として設定しているGDP比2%はアメリカの半分であり、アメリカ並みに4%に引き上げるべきである」とトランプ大統領は主張したのです。

安倍政権はドイツの「ぶったるみ状況」とは対照的です。そもそ、日本の安倍総理ははやい段階から「安全保障のダイヤモンド」により、中国を封じ込めようと提唱しています。その日本がEUとEPAを結ぶことにより、これに入れない中国に対して、先進国の結束ぶりを誇示することができました。

ドイツの企業も、EUもドイツも、EPAすら締結していない中国と貿易をすることに危険性に目覚めることになったと思います。ドイツ企業が中国に肩入れすれば、知的財産権も蔑ろにされ、中国に取り込まれる可能性が大です。

一方、EUとEPAを締結している日本となら、そのあたりは厳格に守られることになります。

これから、ドイツ国内でも企業によって明暗が別れることになると思います。目先の利益に目がくらみ中国に過度に肩入れした企業は衰退し、そうではない企業は繁栄の道を歩むことになるでしょう。

さらに、ドイツを見習い中国に肩入れをしようとしている他のEU諸国にとっても、かなりの牽制になったことでしょう。

米国は、本格的に中国に貿易戦争を挑んでいます。そうして、トランプ政権は、中国が現在の体制を変えるか、あるいは米国を頂点とする、戦後秩序に対抗心むき出しの中国を経済的に疲弊させ、二度と戦後秩序に対抗できないくらいに弱体化するまで、戦争を続けます。まさに、天下分け目の大戦に突入したのです。

そうして、この戦争は中国には全く勝ち目はありません。中国は、現在の体制を変えて、民主化、政治と経済の分離、法治国家化を進めるとすれば、現状の共産党独裁体制を崩さざるを得ません。しかし、それはなかなかできそうにもありません。

それができないとすれば、米国から経済が完璧に弱体化するまで、貿易戦争や、金融制裁で経済戦争を挑まれ、最終的にはこれに敗北し、図体が大きいだけの、凡庸なアジアの独裁国家に成り果てることになります。

そのような中国に肩入れしようとする「ぶったるみドイツ」にまさに日米は、二連発でパンチを喰らわしたといえそうです。

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2018年7月23日月曜日

日銀で飛び交う「消費の低下はネット通販のせい」というトンデモ論―【私の論評】物価目標未達成の理由は単純!まだまだ量的緩和が不十分なだけ(゚д゚)!

日銀で飛び交う「消費の低下はネット通販のせい」というトンデモ論
もっと別のことを話した方が…

ドクターZ



そもそも的が外れている
「ネット通販の拡大が消費を押し下げている」

このような主旨の議論を繰り広げているのは、ほかならぬ日本銀行である。

日銀は6月18日、ネット通販の拡大が消費者物価(除く生鮮食品、エネルギー)の伸び率を0・1~0・2ポイント程度押し下げるとする試算結果を発表。ネットで過熱する価格競争が実店舗の売り上げにも影響を与えていることを指摘した。

「2%」のインフレ目標達成時期を未定としたものの、依然として物価上昇は日銀の金融政策の大きな柱だ。だが、消費者がより便利で安いものを求めるのは当然のことでもある。

このギャップを日銀はどう認識しているのか。

前提として、金融緩和政策に求められるのは「雇用の確保」である。2018年5月の完全失業率は、前月比0・3ポイント低下の2・2%で'92年10月以来の低い水準だ。

有効求人倍率も44年ぶりに1・6倍となり、正社員に限った求人倍率も1・1倍と過去最高を更新した。この点において、安倍政権における金融緩和政策は一定の結果を出しているといえる。

ただ、ここで考えておきたいのは、アベノミクスで設定されたインフレ目標とは、雇用回復のために金融緩和をやりすぎて過剰な物価上昇を避けるためにあるわけで、物価が上がらないのであれば特にこだわる必要はないことだ。

それなのに、日銀が物価を遮二無二上げようとしているのは理解に苦しむところだ。

黒田東彦総裁は、ネット通販に目くじらを立てている場合ではない。というのも、技術革新とともに、安価で大量生産が可能になっているものが世の中には溢れているわけで、市場の動向としては当然のことなのである。

むしろ、国が傾くほどの急激なインフレを心配せずに、安心して金融緩和策を続けられる絶好の環境だといえる。

東京・日本橋にある日銀本店のなかには金融記者クラブがあり、全国紙や通信社、NHKなどの経済部に属するエリート記者が多数常駐する。

この記者クラブは、他省庁のクラブ以上に日銀と距離が近いといわれるが、そんな経済記者の批判の対象は、相変わらずインフレ目標の未達についてである。ほんとうに骨のある記者ならば、日銀に対してどんどん雇用の話題を振ったらどうだろうか。

日銀にしても、国民に対して物価の上昇がうんぬんと一辺倒に語り続けるよりも、いまの雇用状況がどのように変化しているかの議論をもっとすべきである。

ちなみに、海外の中央銀行では、物価もさることながら、雇用を確保することは同等かそれ以上に重要なので、雇用に関する議論をもっと活発に行っている。

物価が上がらないと頭を抱える日銀だが、じつは金融緩和の程度を緩め、「ステルス出口戦略」を採っているとみる向きが多い。当の日銀が金融緩和に本腰を入れていないのであれば、物価が上がらないのは当然のことである。

つまるところ、ネット通販が突如として俎上に載せられたのは、このステルス出口戦略をカモフラージュするためではないかとみてとれる。

実際、日銀の幹部たちは、失業率が下がっていく一方で物価が上がらないことを内心喜んでいるのだろう。

【私の論評】物価目標未達成の理由は単純!まだまだ量的緩和が不十分なだけ(゚д゚)!

ブログ冒頭の記事で、問題となっている、日銀の6月18日のレビューは下のリンクからご覧いただくことができます
インターネット通販の拡大が物価に与える影響
日銀の黒田総裁は、6 月の決定会合後の記者会見で「日本の物価がなぜ上がらないのか、次回の会合と展望リポートで議論する」と述べました。上記のレビューはこれに呼応するように出されています。

日銀はこれまで、大規模な金融緩和によるマクロの需給ギャップ改善によって、物価上昇率はいずれ目標の2%に達すると主張してきました。

しかし、これが5年経っても実現していません。

日銀黒田総裁

黒田総裁は会見の席上、物価が上がりにくくなっている要因として、個人的な意見として以下の4点を挙げていました。

<原因その1>
1つは労働市場の「スラック(需給の緩み)」。失業者以外にも余剰労働力があり、一般に言われるほど労働市場の需給はタイトではない可能性を指摘しました。
<原因その2>
2つに、グローバリゼーションで、新興国などとの競争が厳しくなったため、としています。
<原因その3>
3つに、技術革新効果を挙げています。今や日本ではネット通販を利用して世界の財サービスを安く手に入れられるようになった、としています。
<原因その4>
そして4つに、日本の賃金硬直性です。つまり、景気が悪い時に賃金を下げられないので、良い時に上げない、というものです。

このほか、最近の生産性上昇についても議論がなされると見られます。

これらは日銀の分析・議論に任せるとして、ここでは「需給」についてチェックしてみたいと思います。

つまり、日銀は「需給ギャップが改善している」としていますが、経済の現場では異なることが起きている可能性もあります。

第1は、黒田総裁も指摘していた労働市場の需給です。失業率が2.5%だとか、有効求人倍率が1.59倍といった数字が独り歩きして、人手不足が喧伝され、政府の「骨太」案でも外国人労働力の受け入れを大幅に緩和する方針です。

しかし、その割に賃金が上がらず、労働者の懐は楽になりません。賃金の硬直性もありますが、労働市場の需給も数字ほどタイトではないように見えます。

日本では失業保険を申請するためにハローワークに通う「有効求職者」と、完全失業者の数がほぼ一致しています。つまり、ハローワークに失業保険申請している人を「失業者」としていますが、失業保険申請している人以外にも仕事を求めている人は少なくありません。

米国では、失業者が失業保険受給者の3倍近くいます。つまり、日本でも失業保険受給者以外の失業者を調べれば、失業率は今の2.5%から2~3倍に高まる可能性があります。

これは失業率の調査方法に問題があるためで、仕事をしたい人がこの統計からかなり漏れている可能性があります。

ここではその制約から逃れるために、別の数字を見てみます。それは「労働参加率」です。これは、15歳以上の人に占める就業者と失業者の合計の割合です。


昨年の日本の労働参加率は60.5%で、10年前の60.4%とほとんど変わっていません。そしてやはり人手不足が指摘される米国の労働参加率が63%弱です。

つまり、日本には「非労働力人口」が15歳以上人口の約4割もいることになります。定義上は「働く意欲を見せていない人」となりますが、実際は働きたくて仕事を実際に探していながら、当局に把握されていない人が少なくありません。

日本は高齢者が多く、働く意思のない老人が多いと見られがちですが、高齢者でも仕事があれば働きたいという人は少なくありません。

日本で生産年齢人口が減っているのに、就業者がずっと増え続けているのは、当局が労働力と把握していない高齢者が仕事についているため、という面も大きくなっています。

因みに、失業者を除いた就業率(15歳以上人口に占める就業者の割合)は今年4月では60.1%ですが、このうち15歳から64歳で76.7%、65歳以上で24.7%となっています。

定年を過ぎた65歳以上の就業率が目立って上昇しています。また、55歳から64歳の層も75%で、定年を65歳に延長すれば確保できる労働力も多いことを示しています。

トラック運転手など、特定の業種・労働タイプによっては、確かに人手不足はあるようです。しかしマクロではまだ「スラック(ゆるみ、たるみ)」が少なくなく、それが賃金上昇を抑えている面があります。

特に高齢者をうまく取り込めば、人手不足はかなり埋まると見られます。外国人労働力の受け入れもよいのですが、そのコストを考えると、その前にできることがありそうです。

ここまで、日銀の言う需給ギャップの改善と、経済の現場では、異なることが起きているのではないか?という考えで「労働市場の需給」をチェックしてきました。

そして、「消費市場の需給」についても同じことが言えます。

日本全体では、需要面から見たGDPが潜在GDP(供給力から見た上限のGDP)を上回り、インフレ・ギャップが発生し、これがインフレにつながるはずだ、と考えられています。

しかし、消費者物価を決める消費市場では、家計の所得が増えないため、ここでの需要が供給を下回っている可能性があります。

需要全体で見れば供給を上回る計算としても、所得面で労働分配率が低下し、需要が企業の下に溜まり、家計にはあまり分配されていません(給料が上がりません)。そのため消費市場では、需要不足になっています。

企業部門では需要超過となるところを、企業は設備投資を増やしているものの、内部留保にため込んでいるため、実現しない所得もあります。

つまり、日銀が言う「需給ギャップ」が示すほど、需給はタイトではありません。少なくとも消費市場では需要不足となっている可能性があります。

しかし現在の日本では、未だその需給が労働市場で正しく把握されていない面と、労働分配率の低下によって需要が企業側に偏在しているため、消費市場では需給が緩和されていて、値上げに踏み切れない状況にあると考えられます。

つまり、企業が賃金を抑えられていることが、消費財の値上げを困難にしている面があります。

一般的に、物価は需給で決まるとされています。

しかし日本では、その需給が労働市場で正しく把握されていない面と、労働分配率の低下によって需要が企業側に偏在しているため、消費市場では需給が緩和されていて、値上げに踏み切れない状況にあると考えられます。

つまり、賃金が未だに抑えていることが、消費財の値上げを困難にしている面があるといえそうです。

従来、日銀は日本の構造的失業率は3%であるとしてきました。しかし、私は過去の推移、特にデフレになる前の失業率から2%半ばそうして高橋洋一氏による試算でも2%半ばとしていました。

ところが、このブログでも掲載したように、本年5月の失業率は2.2%となり、2.5%を下回るものとなりました。


これは、日本の完全失業率(失業率の下限)は2.5%よりも低いことを示唆しています。ひよっとすると2.2%よりもさらに低いのかもしれません。

もしそうだとすれば、そもそも現在までの金融緩和策、その中でも量的拡大はスケールが違っていた可能性があります。そもそも、量的拡大が中途半端だという可能性があります。

だとすれば、物価目標2%が達成できないのは当然といえば当然です。だからこそ、賃金は若干あがりつつはあるものの、本調子であがっていく様子がみられないとう可能性があります。

雇用の側面からみると、やはり経営者も就労者も、あまりに長い間デフレであったというか、40歳台以下の管理者や就労者などデフレの時代しか知らないため、金融緩和によって若干人手不足になった経験など生まれて始めてであるため、現状を極端な人手不足と思い込んでいるのかもしれません。

上で述べたように、まだまだ、定年を65歳に延長すれば確保できる労働力があるにもかかわらず、十分に活用していないのでしょう。女性の労働力もまだ十分活用はされていないのでしょう。

人手不足を乗り切る方法は、単純に外国人労働者に頼る以外にも、他にもいくらでもあるはずです。

日銀としては、やはり物価目標2%を達成するまでは、さらに量的緩和を拡大していく必要があるのだと思います。

やはり、物価の上昇速度をにらみながら、さらなる量的緩和を目指すべきです。物価上昇速度を睨んでいれば、景気が加熱しすぎて、ハイパーインフレになることは防ぐことができます。

物価があがらないことを「ネット通販」のせいにしているようでは、話になりまません。再度インパクトのある緩和を実施してほしいものです。

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2018年7月22日日曜日

米ロ首脳会談 − 「ロシアからヒラリーに4億ドル寄付」プーチン大統領が発言―【私の論評】トランプ氏を馬鹿であると報道し続ける日米のマスコミは、自身が馬鹿であると気づいていない?

米ロ首脳会談 − 「ロシアからヒラリーに4億ドル寄付」プーチン大統領が発言

大紀元日本

フィンランドのヘルシンキで16日に開かれた米ロ首脳会談。会談後の共同会見

フィンランドのヘルシンキで16日に開かれた米ロ首脳会談後の共同会見で、プーチン大統領は、米国出身のビジネスマンがロシアで稼いだ資金の一部を、ヒラリー・クリントン側に寄付していたと発言した。

プーチン大統領は、記者団が2016年米大統領選のロシア介入疑惑について質問したところ、米検察が疑わしいと思っている人物の捜査を、ロシアに要請できると述べた。「ロシアの検察庁と捜査当局の代表は、捜査結果を米国に提出する」と付け加えた。

さらに踏み込んで、情報共有のため、選挙介入疑惑を調査するロバート・モラー特別検察官を含む米国の代表者が取り調べに参加できるようにするとした。

プーチン大統領の例える「疑わしい人物」とは、首脳会談前、米検察が大統領選介入の疑いで起訴した12人のロシア情報当局者を指すとみられる。

しかし、プーチン大統領は、疑わしい人物の「よく知られた一例」として、大手投資企業エルミタージュ・キャピタル創業者でCEOのビル・ブラウダー氏を名指しした。ロシアの裁判で、ブラウダー氏は脱税の罪で有罪判決が下っている。

ブラウダー氏はロシアで1996年にエルミタージュ社を創業し、一時は外資系企業でロシア国内トップの資産を保有した。2005年、ロシア国家安全機密に違反したとして、ブラウダー氏は入国を禁じられた。

プーチン大統領は会見で、「ブラウダー氏のパートナーは違法にロシアで50億ドルを稼ぎ、米国に送金した。しかし、ロシアにも米国にも税金を払っていない。彼らは4億ドルをヒラリー・クリントン氏の選挙活動資金として渡した」と述べた。

国際マグニツキー法を成立させた事案に絡むビジネスマン
米国出身で現在は英国籍のブラウダー氏は、プーチン大統領批判を繰り返してきた。このたびの名指し批判に対しても、英タイム誌に17日掲載の文書で反論している。ヒラリー氏への献金について「非常にばかげている、妄想だ」と強く否定した。

またブラウダー氏は、米ロ会談では、米検察が起訴したロシア情報当局者12人と、自分を交換することを求めているとの推察を示した。「しかし、私はすでに英国籍だ。もしプーチン大統領は私をとらえたいならば、テリーザ・メイ首相に言えばいい」と書いた。

19日、ホワイトハウスはトランプ大統領の話として、12人のロシア情報当局者に対するロシアからの取り調べは許可しないと述べた。

英国在住のブラウダー氏は、ロシアにおける脱税で2009年に裁判で懲役9年を言い渡された。同氏のかつての弁護士セルゲイ・マグニツキー氏も同様に脱税で起訴された。マグニツキー弁護士は留置所内で心不全のため死亡した。

マグニツキー弁護士は、ロシア当局内の2.3億ドルの巨額横領事件を指摘していた。弁護士の急死をロシア当局の口封じだと疑う米オバマ政権は、ロシア当局者に対して制裁を科す法案「国際マグニツキー法」を2012年、可決させた。

しかし、ロシアの国営メディア・スプートニク2017年8月によると、米諜報当局の高官は、ブラウダー氏の虚構に基づいて法案が可決したと認識していると報じた。報道によると、謎のハッカー集団が米国務省情報調査局のロシア担当責任者ロバート・オットー氏のメールをハッキングしたところ、オットー氏は、マグニツキー弁護士が告発した横領事件には、明白な証拠がないとつづっていたという。

【私の論評】トランプ氏を馬鹿であると報道し続ける日米のマスコミは、自身が馬鹿であると気づいていない?

このニュースそのうち、国内のメディアが報道すると思っていたのですが、とうとうどこも報道しなかったので取り上げることにしました。プーチン大統領が、米国出身のビジネスマンがロシアで稼いだ資金の一部を、ヒラリー・クリントン側に寄付していたと発言したということ自体は事実です。

この発言は、ブログ冒頭の記事にもあるように、2016年の米大統領選に介入した疑いで米連邦大陪審がロシア連邦軍参謀本部情報局(GRU)の情報部員12人を起訴したことについての質問に対し、プーチン大統領が答えた中で触れたものでした。

ブラウダー氏はロシアでの成功の裏話を暴露する本を出版するなどロシアの不正を告発して、プーチン大統領の怒りを買ったと言われ、同氏の顧問弁護士が逮捕されて獄中死する事件も起きました。

プーチン大統領が米国のロシア疑惑に反論する上でブラウダー氏を引き合いに出したのは、同氏のプーチン政権に対する批判をかわすことと、ロシア情報部員を訴追した米国の情報部員の公平性に疑念を抱かせる狙いがあったと考えられます。

大手投資企業エルミタージュ・キャピタル創業者でCEOのビル・ブラウダー氏

プーチン大統領は、この問題が記者会見で問われることを予想して反論を準備していたのでしょうが、それ以上に「ヒラリーへロシアから4億ドルの寄付」それも「米情報部員が民主党に橋渡し」という爆弾発言に思えました。

ところがである。この爆弾発言は、未だに米国のマスコミには全く扱われていません。米マスコミは、「フェイク(偽)・ニュース」とボツにしたつもりなのかもしれませんが、それにしても、いやしくもロシアの首脳の発言です。

この発言を無視して、今回の首脳会談のトランプ大統領を「ロシアにすり寄った」と批判するだけの米国の大半のマスコミは、はたして報道の公平性を貫いているか首をかしげざるを得ないです。

日本の大手マスコミも米国のマスコミに右にならえで、この件については報道しません。ドナルド・トランプ大統領の「ロシア・ゲート問題」は、すでに実体がないことが明らかになったこともあまり報道されていません。

米国では、昨年からヒラリー・クリントン氏の疑惑が持ち上がっていました。この件も、日本ではほとんど報道されていません。

ヒラリー・クリントン

オバマ政権でヒラリー・クリントン氏が国務長官だった当時、カナダの「ウラニウム・ワン」という企業を、ロシア政府の原子力機関「ロサトム」が買収しました。「ウラニウム・ワン」は、米国のウラン鉱脈の5分の1を保有しており、買収には米国政府の許可が必要でした。

ヒラリー氏はこの買収を積極的に推進し、「ウラニウム・ワン」はロシア政府の傘下企業となった。さすがに共和党保守派は当時、「この売却が米国の国家安全保障を大きく毀損(きそん)する」とオバマ政権を批判したが、企業買収は完了してしまいました。

米国の世界戦略における最大のライバルであるロシアにウラン鉱脈を売り渡すことは、誰が考えても米国の安全保障を損なう。ロシアのプーチン大統領は、世界のウラン・マーケットで独占的な地位を確立するために、この買収を行ったのです。

この件に絡んで、「クリントン財団」は何と、「ウラニウム・ワン」買収の関係者から総額1億4500万ドル(約165億2850万円)にも及ぶ献金を受け取っていました。同財団は慈善団体ですが、事実上のクリントン・ファミリーの“財布同様の存在”です。

しかも、「ウラニウム・ワン」の売却交渉が行われている最中(=ヒラリー国務長官時代)、ビル・クリントン元大統領は、ロシアの政府系投資銀行に招かれて講演を行い、1回の講演で50万ドル(約5700万円)もの謝礼を受け取りました。これは通常の彼の講演謝礼の2倍の金額です。

ビル・クリントン元大統領
また、ロシア政府系のウラン企業のトップは実名を明かさず、クリントン財団に総額235万ドル(約2億6700万円)の献金をしていました。

これらは、「反トランプ派」の代表的メディアであるニューヨーク・タイムズも、事実関係を認めています。

クリントン夫妻の「ロシア・ゲート問題」は今後、さらに追及されて、米民主党やリベラル系メディアに壊滅的打撃を与え、ヒラリー氏が逮捕される可能性もささやかれていました。

今回は、さらにプーチン大統領から、「ロシアからヒラリーに4億ドル寄付」という爆弾発言があったわけです。

以上事実から、日本のマスコミも報道の公平性を貫いているとはいえません。以前もこのブログに掲載したように、米国においてはマスコミのほぼ90%程度をリベラルが牛耳っています。そのため、10%の保守が何かを報道したとしても、その声はかき消されてきました。

ただし、実際には保守系のトランプ氏が大統領になったことからもわかるように、少なくとも米国の人口の半分は保守系の人々によって占められているはずです。しかし、現実にはこれらの人々の声のほとんどがかき消されてきたわけです。

トランプ氏が大統領になって以来、これは少しは改善される傾向にはありますが、まだまだです。日本のマスコミは、このような事情を斟酌して報道すべきですが、そうではなく、こと米国情勢に関しては、米国のマスコミの報道を垂れ流すばかりです。

日米のマスコミには、トランプは馬鹿だという報道を繰り返し行なってきたので、今更馬鹿は馬鹿であり続けるように報道するしかなくなってしまったのかもしれません。しかし、そのような報道をするマスコミ自身が馬鹿であることを気づいていないようです。

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2018年7月21日土曜日

【日本の解き方】リーマン危機前の日銀「議事録」 引き締めが必要との姿勢強調、金融機関重視で国民生活軽視―【私の論評】物価目標2%を達成前に量的緩和をやめれば、旧白川日銀のように中国を利し米国からの反発は必至(゚д゚)!

【日本の解き方】リーマン危機前の日銀「議事録」 引き締めが必要との姿勢強調、金融機関重視で国民生活軽視

日銀元総裁 白川氏

 日銀の2008年1~6月の議事録が公開された。リーマン・ショック直前の日銀内でどのような議論が行われていたのか。危機への備えは適切だったのだろうか。

 この時期、日銀人事は混乱していた。08年3月19日には福井俊彦総裁の任期が終了したが、ねじれ国会の与野党の対立により、総裁が約3週間不在になる異例の事態もあった。

 4月上旬には、副総裁に就いたばかりの白川方明(まさあき)氏を総裁に昇格させる案が国会に提示され、4月30日の決定会合から総裁不在は解消された。

 そして、白川氏は6月会合で「たぶん、危機、最悪期は去ったのだろうと思う」と発言した。これは、大手の金融機関が突然破綻するという意味での「最悪」であり、白川氏が金融機関ばかりを見ていたことを示している。

 筆者は、白川氏が同年9月のリーマン危機を想定していなかったことを問題とするつもりはない。あのような数十年に1度のことを予想するのは難しいからだ。

 かつてアラン・グリーンスパン元米連邦準備制度理事会(FRB)議長も「バブルは崩壊して初めてわかる」という名言を残している。

 重要なのは事前の予想ではなく、事後の対応だったが、白川日銀はそれに失敗し、リーマン・ショック後大規模な金融緩和を怠った。その萌芽(ほうが)も1~6月の議事録に見られる。

 この間、FRBは1月に緊急利下げを行ったが、日銀は政策金利を据え置いた。1月の会合で当時の福井総裁は「物価安定のもとでの成長軌道をたどるのであれば、金利水準を徐々に引き上げていく方向にある」と、金融引き締めが必要との立場だった。

 このスタンスは白川日銀にも引き継がれ、4月下旬の会合で須田美矢子委員は「持続的な成長軌道をたどる蓋然性が高い場合は利上げという考えに変わりがない」としている。このほかにも、資源高に伴うインフレ懸念から利上げを検討すべきだとの声すら出ていた。

 白川日銀は、金融引き締めが必要との予断があったために、その真逆の大規模な金融緩和に思い至らなかったのだろう。

 また、白川日銀は金融機関を重視していた。白川氏が、金融機関を見て、「最悪を過ぎた」と発言したとの議事録は既に紹介したが、リーマン・ショック後、日本の金融機関がそれほど打撃を受けていないことが分かると、リーマン・ショックを過小評価したことにつながっている。これは当時の与謝野馨経済財政担当相が「蜂に刺された程度」と述べたことからもうかがえる。与謝野氏は白川日銀の執行部との距離感が近かったので、この発言は日銀の状況を表している。

リーマンショックを「蜂に刺された程度」と述べた与謝野馨経済財政担当相(当時)

 楽観論を戒める場合でも、「金融機関のサドン・デスが重なるとかなり大きなことになるので、十分注意しないといけない」(西村清彦副総裁)というように、金融機関が対象であり、円高などの国民生活への影響は顧みられなかった。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】物価目標2%を達成前に量的緩和をやめれば、旧白川日銀のように中国を利し米国からの反発は必至(゚д゚)!

この当時の日銀の明らかな失策については、過去のこのブログにも何度となく掲載してきました。

それらを簡単に以下にまとめます。

97年には、日銀法が改正され、98年間より、日銀はデフレの中での金融引き締め政府を実施し、日本はこの年から、完璧にデフレに陥りました。この年から、自殺者が前の年まで、2万人台だったものが、3万人台に膨れ上がりました。

バブル期に判断ミスをした日銀の金融政策は、その後もずっと間違い続きとなり、第一次安部内閣のときには、もう少しで、日本経済がデフレから脱却できそうだったにもかかわらず、バブルの最中に金融引き締め転じ、日本をデフレ・スパイラルの泥沼に再びひきずり下ろし、その後第一次安部内閣は、崩壊しました。

過去ほとんど金融緩和をしなかった日銀

リーマンショックのときには、日本を除く欧米先進国などすべてが、大規模な金融緩和を行ったにもかかわらず、日銀はほとんど実施せず、その結果、ショックの震源地であるアメリカや、直接の影響をかなりこうむったEU諸国などが、すぱやく立ち直ったにもかかわらず、本来ほとんど影響のなかった日本が、大きな影響をこうむり一人負けの状況でした。こうした意味では、日本におけるリーマンショックは実は、日銀の不手際によるものであって、日銀ショックと呼んでも差し支えないものでした。

実際リーマンショック震源地の米国よりも、2008、2009年の実質落ち込みは激しいものでした。それは以下の表をご覧いただければご理解いただけるものと思います。



その後も日銀の不手際は続きます。なにやら、おかしげな基金を設置して、短期の国債(短期の国債を買い取っても現金を現金に替えているようなもので、ほとんど金融緩和の効果はない)などを買取るようなことをして、いかにも金融緩和をやっているようにみせかけつつ、実質的に金融引き締めを続けていた日銀は、東日本大震災が発生したときでさえ、基本的には金融引き締めを実施し、緩和はしませんでした。


そのためにどういうことになったかといえば、震災などの大規模な自然災害が発生すれば、救援活動や復興活動で、当然のこととして円の需要が高まります。にもかかわらず、日銀は、金融引き締めをしたままので、その結果として、当然円の需要はますます高まり、かなりの円高となりました。

どの国でもまとも国であれば大規模な自然災害が発生すると、多少通貨高になるのが普通ではあります。確かに、東日本大震災の前の年にあった、オーストラリアの水害のときも、オーストラリアドルが高くはなりました。しかし、日本の場合は、高くなりすぎただけでなく、長期間続きました。やはり、日銀歩が金融引き締めばかりに実施して、円を市場に投下しなかったためです。

この馬鹿な日銀による、金融政策の失敗続きは、2014年の4月に黒田体制となってから、異次元の包括的金融緩和が実施されて以来、終止符が打たれたわけです。

それにしても、日銀はなぜこのようなデフレ円高誘導をしてきたのか疑問が残ります。白川総裁を始め、その前の福井俊彦総裁、さらにその前の速水優総裁はとにかく頑なにお札を刷りませんでした。

デフレ脱却議連が当時の民主党政権に抵抗して『白川、お札刷れ!』と言っても、そのたびに中国人民銀行の周小川(しゅうそうせん)総裁が『お札するなよ』と命令をしてくるので、実行しなかったのでしょうか。

周小川は2013当時『日本の金融緩和は許せない』などと語っていました。なぜあんなことを言えたのかと、冷静に考えれば、周は白川の上司だったと考えれば納得がいきます。無論白川氏が本当に周の部下だったのかどうかはわかりませんが、白川氏が総裁だったこの日銀が実行していることをみれば、そういわれても無理はないです。

現在も中国自民銀行のトップである周小川

日本銀行は日本の銀行ではなかった、というこかもしれません。当時日銀が金融緩和をしなかったため、中国はかなり緩和をしても、インフレになる心配がない状況になりました。

デフレ円高によってほぼ固定相場制のごとく元安が約束されますから、中国は元安で貿易黒字が続きました。その当時は、日本に工場があると、同じものを製造しても中国で製造するよりも高くなるので売れなくなりました。

そのため、産業が空洞化しました。それを一気に逆転する方法が安部総理の『日銀をとるのは天王山』だったわけです。日銀が中国の手先だとわかった以上は、戦うしかないわけです。ただし、戦うとはいっても無論武力で戦うわけではありません。

金融というのは非常に重要で、日銀を動かすことができれば、これは中国に対しては、核武装に匹敵するくらいの威力があります。だから安倍総理は日銀にこだわったのです。日銀を手中にすれば、中国を『滅ぼす』ことは容易なのです。
15年間デフレで安倍さんが日銀に金融緩和しろといった途端に、景気が回復軌道に入りました。東京から10大都市に向けて順々に派遣やフリーターの時給が上がり始めました。

誰がデフレ不況の元凶だったかは明らかです。安倍総理が前の日銀総裁の白川方明に『お札刷れ!』と言ったら、なぜか、あくまでなぜかですが、尖閣諸島に戦闘機とか軍艦が押し寄せてきました。しかし、いまや中国バブルは崩壊寸前です。

日銀が文字通り日本の銀行になったことで中国は別の手を打ってくる可能性もあります。中国が打つ手は三つあります。一つはチャイナ系ヘッジファンドが株価の操作を試みることです。アベノミクスそのものをひっくり返そうとすることです。

いまも疑わしき状況があって、円安要因しかない局面でなぜか円高株安に触れています。何かきな臭いところがあります。

もう一つは、尖閣抱きつき作戦です。中国の得意技にプロパガンダがあります。特に歴史問題を持ち出すのが大得意。だから尖閣でさんざん日本を挑発して、日本が殴ったら、『ああ、日本に殴られた。昔と同じようにいじめられた』みたいなことを世界中にプロパガンダして、『歴史問題、頑張るアルヨ』とばかりに、バカなアメリカ人を騙して、他人の力を使って日本を制裁させるといシナリオです。

三つ目の作戦としては、安倍晋三の暗殺です。これは本気でやりかねません。中国の理想的なシナリオ、これは中国に限らず、日本を滅ぼしたい勢力の理想は、今年秋の総裁選で安倍総理が、『自民党は盤石政権』だと言ったあとに安倍さんがなくなることです。

なぜなら、安倍さんがいなくなれば、自民党の政治家は、残念ながら一部を除いて能力が低いです。いかようにでもなるからです。これは本当に困ります。チャイナ系ヘッジファンドの株価操作、尖閣抱きつき作戦、三つ目はちょっと特殊な話ですけど、これらに対して打つ手はいくらでもあります。結論からいうと、安倍さんが生きているかぎり大丈夫です。

そうして、この3つの作戦は、オバマ政権のときにはかなりやりやすかったのですが、トランプ政権になってからがらりと風向きが変わりました。そもそも、オバマ政権のときには、「戦略的忍耐」としてオバマは中国のすることを実質的に見逃してきました。

ところがトランプ大統領は大統領選挙のときから、中国と対峙することを公約としていました。安倍総理は安倍政権成立の直前の2012年12月に、海外のサイトに「安全保障のダイヤモンド」という論文を寄稿して、対中国封じ込め戦略を提唱していました。

そのためこの二人が最初から馬が合うのは当然といえば当然でした。そうして、日米は対中国封じ込めで強力し合うようになりました。

そうして、現在ではトランプ政権は対中国貿易戦争を開始し、本格的に中国を潰しにかかっています。この戦争は、中国が国内市場を開放したり、元を完璧に変動相場制に移行するだけですむことはありません。

トランプ政権としては、現在のところはっきりと中国には言っていませんが、究極的には民主化、政治と経済の分離、法治国家化をせまるものと思います。しかし、これを中国が実行すれば、おのずと中国の現状の体制は崩壊するというか、させることになります。

それは、中国としてはできないと判断することでしょう。であれば、米国としては中国が二度と米国を頂点とする戦後の国際秩序を維持するため、中国がこれに対抗することができないように、経済的にかなり弱体させることを目的とするでしょう。実際、米国はこれを目的として今後、貿易戦争、金融制裁をエスカレートさせていくことでしょう。

このような状況のときに、日本が金融緩和を中途半端にやめてしまえば、白川日銀のときにのように中国を利するだけであり、米国の対中国は貿易戦争の勢いを削ぐことになり、米国からかなり反発されることになるでしょう。

とにかく、日本は物価目標2%を達成するまで、デフレから完全脱却するために、量的緩和を継続し、間違っても中国を利することのないようにすべきです。

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2018年7月20日金曜日

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米中両国の報復合戦で苦しくなるのは一般的にみれば中国だ 写真はブログ管理人挿入以下同じ

 米国は中国に対して追加制裁を行う方針を打ち出した。中国も報復する方針だ。両国が報復合戦をすると、それぞれの国への輸出量の差から、一般的には中国が苦しくなる。

 一方、関税と言っても、米国にとっては自国民への課税であるので、中国の輸出業者が先に音を上げるか、それとも中国製品を購入する米国民が先に参るかという我慢比べの側面もある。

 中国としては、報復関税の対象を米国で政治的パワーを持つ農産物に絞るなどして政治的な揺さぶりをかけるが、それでも、輸出量の差から不利にならざるを得ない。

 中国が報復関税ではなく、人民元の為替レートを操作すると、米国が為替や資本の自由化を持ちだしてくるので、これも中国にとって分が悪くなる。こうして中国が不利な状態で米国と貿易戦争をしている限りでは、日本が漁夫の利を得る可能性もある。

 そうなると、米中貿易戦争は、欧州連合(EU)、韓国など米中以外の国にどのような影響が出てくるのか。これらの国も、基本的には米中間で報復関税をしている間は静観の姿勢であり、米中のとばっちりが自国に来ないように注意するだけだ。

 そこで、まず、米国の対中輸入品目をみよう。従来の軽工業品に加え、近年、電気機器(電話用アプリ、テレビ受像機など)、機械類(自動データ処理機械、コンピューター部品など)のシェアが増加している。これらの中国製品の大半は、中国に進出した外資系企業によって生産されている。

 トランプ大統領が中国から米国への輸出品に関税をかけ続けると、これらの外資系企業は、どうなるだろうか。もともと、安価な労働力を利用して対米輸出するために中国に進出したのであるから、その目的が達成できないとなると、中国進出をあきらめ、他の国へ資本を振り向けるだろう。

 中国の安価な労働力も、中国が経済発展するにつれてそれほど魅力的な水準ではなくなっている。しかも、中国に進出した外資系企業についても、習近平思想を強要する動きもある。企業内に共産党委員会の設置を義務付けたことだ。

 こうした状況になると、中国ではなく、東南アジアなどに進出先を変更する動きも出てくるだろう。実際、日本企業でも、中国リスクを考慮して、ベトナムで展開するという動きがある。

 対中国への投資を国別に見ると、7割が香港、次いで台湾、シンガポール、日本、韓国、米国となっている。香港を経由して多くの国から対中国投資が行われている。その中には、EUからの対中投資も少なくない。先日の本コラムで書いたように、中国は人民元を安く操作しているが、これも中国からの資本逃避を促す。

 EUや韓国などは対中投資を見直すだろう。そうした資本逃避は、中国の成長エネルギー源を失わせるので、長い目で見れば中国経済に打撃を与えるだろう。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】習近平が失脚しようがしまいが、米国の対中国貿易戦争は目的を達成するまで継続される(゚д゚)!

今月6日、トランプ米大統領が知的財産権侵害に対する報復の第1弾として340億ドル分の対中輸入品に対して25%の追加関税を発動したのに対し、習近平政権はただちに同額の対米輸入品に同率の報復関税をかけました。

報復品目には農産物が多く、大豆やトウモロコシが代表的ですが、よほど品目探しに苦労したのか、鶏の足や豚の内臓まで加えました。いずれも米国内ではほとんど消費者に見向きもされずに、廃棄されていたのですが、巨大な中国需要に合わせて輸出されるようになりました。

米国ではゴミとして捨てられていた鳥足が、中国ではごちそうになる・・・・

習政権は、屑(くず)に値がついて、ほくほく顔だった米国の養鶏農家に打撃を与え、養鶏地帯を選挙地盤とするトランプ支持の米共和党議員への政治的メッセージになると踏んで、報復リストに加えたのでしょうが、これは中国人民の胃袋も直撃することになります。

どのくらいの量の鶏足が米国から対中輸出されているのかは不明ですが、国連食料・農業機構(FAO)統計(2016年)では鶏の飼育数は中国の50億羽に対し、米国は20億羽に上ります。そのうち約1割の足が中国向けだとすると、約4億本が中国人の胃袋におさまる計算になります。

それに対して高関税が適用されると、輸入が減り、かなりの品不足に陥ることになります。13億羽の鶏を生産するブラジルが代替源になるかもしれないですが、増産態勢が整うまでには長い時間がかかるはずです。すると、需給の法則で鶏足の値が上がることになります。

さらに、中国人民全体の食にもっと広汎で深刻な影響が及びそうなのは、もちろん大豆です。米国の対中大豆輸出量は昨年3300万トンで、同5000万トンを超えるブラジルに次ぎますが、中国の国内生産は1400万トンに過ぎないです。


米国産は中国の大豆総需要のうち、約3割を占めています。輸入大豆は搾って食用油になり、粕が豚や鶏の餌になります。米国の大豆産地が鶏と同様、中西部のトランプ支持基盤とはいえ、その輸入制限は、中国人民の胃袋と家計を直撃することになります。

折も折、中国経済は減速局面に突入し、上海株価の急落が続いています。トランプ政権は10日には2000億ドルに上る追加制裁品目を発表しました。中国の対米輸入1600億ドルを大きく上回り、報復しようとすれば対米輸入全品目を対象にするしかなくなります。

17日付の産経新聞朝刊によれば、中国の国営メディアは習氏への個人崇拝批判を示唆、習氏の名前を冠した思想教育も突然中止されるなどの異変が相次いでいるといいます。米国との貿易戦争に伴って景気悪化で所得が下がるうえに、胃袋も満たせないと大衆の不満は募ることになります。そこで独裁権力を強める習氏への党内の批判が噴出する気配です。

ブログ冒頭の高橋洋一氏の記事にあるように、米中貿易戦争は、中国からの資本逃避を促し、中国の成長エネルギー源を失わせ、さらに人民の胃袋と家計を直撃することになります。

米中戦争がさらにエスカレートすれば、米国は金融制裁に打って出ることになります。貿易戦争でも、金融制裁でも中国には全く勝ち目はありません。勝ち目のない戦にいどまなければならなくなったのは習近平の自業自得といえるます。

こういう事態を招いた、責任の大きな部分は習近平の対米戦略を見誤ったことにあります。オバマ政権の初期が中国に対して非常に融和的であったことから、習近平政権が米国をみくびった結果、鄧小平が続けてきた「韜光養晦(とうこうようかい:「才能を隠して、内に力を蓄える)」という中国の外交・安保の方針)」戦略を捨て、今世紀半ばには一流の軍隊を持つ中国の特色ある現代社会主義強国として米国と並び立ち、しのぐ国家になるとの野望を隠さなくなりました。

オバマの戦略的忍耐は美しい空言にすぎず、中国を増長させることになった

このことが米国の対中警戒感を一気に上昇させ、トランプ政権の対中強硬路線を勢いづけることになりました。

1976年10月、毛沢東の後継者として中国の最高指導者の地位に就いた華国鋒は、自らに対する個人崇拝の提唱や独断的な経済政策を推進したため、当時の党内の実力者、鄧小平ら長老派と対立しました。

78年末に開かれた党の中央総会で華が推進する政策が実質的に否定されたあと、影響力が低下し始めました。華はその後も党内から批判され続け、側近が次々と失脚するなか、約3年後に自らが辞任する形で政治の表舞台から去りました。

華国鋒

今年7月末から8月中旬にかけて、河北省の避暑地、北戴河で党長老も参加する党の重要会議があります。習派と反習派が激しく衝突する可能性があります。

ただ、現在は、78年当時と違って、いまの党内の反対派の中に、鄧小平のような軍内でも影響力がある大物政治家がいません。直近で習近平降ろし成功するとはとても思えません。

しかし、そのことがさらに中国内での習近平派と反習近平派の争いを激化させる可能性もあります。

まもなく観光シーズンのピークを迎える北戴河 昨年7月27日

反習近平派は、米国の対中国貿易戦争を習近平叩きに利用することでしょう。ただし、それが功を奏し、習近平を失脚させたとしても、米国による貿易戦争は継続されることでしょう。

なぜなら、米国トランプ政権の今回の貿易戦争の目的は、中国の現在の体制では民主化、政治と経済の分離、法治国家化がなされていないので、そもそも自由貿易などはできない体制であり、この体制を変えさせるか、変えないままであれば中国を経済的に凋落させ、影響力のない存在にすることだからです。

習近平体制であろうが、なかろうが、この米国の路線は継続され、中国はいずれかの道を選ばなければない状況に追い込まれます。

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2018年7月19日木曜日

なぜ日本は米国から国防費増額を強要されないのか F-35を買わないドイツと、気前よく買う日本の違い―【私の論評】国防を蔑ろにする「ぶったるみドイツ」に活を入れているトランプ大統領(゚д゚)!

なぜ日本は米国から国防費増額を強要されないのか
F-35を買わないドイツと、気前よく買う日本の違い

NATO首脳会議開始前の編隊飛行を見上げるNATO加盟国首脳

 トランプ大統領はNATO(北大西洋条約機構)加盟諸国(とりわけドイツやフランスなどEUを牽引する西ヨーロッパ諸国)に対して国防費増額を執拗に要求している。先週のNATO総会でも「NATO諸国が国防費の目標最低値として設定しているGDP比2%はアメリカの半分であり、アメリカ並みに4%に引き上げるべきである」と主張した。

 特にドイツへの姿勢は厳しい。ドイツはNATO加盟国の中でも経済力も技術力もともに高く、実際にアメリカの一般の人々も「メルセデスやBMWのような各種高級機械をアメリカに輸出している先進国」と認識している。そんなドイツの国防費がGDP比1%にすぎないことに対して、トランプ大統領は極めて強い不満を露骨に表明した。

 一方、日本に対する姿勢は異なる。日本はNATO加盟国ではないものの、ドイツ同様に経済力も技術力も高く、アメリカの一般の人々も「自動車や電子機器などをアメリカに輸出している先進国」と認識しており、やはりドイツ同様に第2次世界大戦敗戦国である。このようにドイツと日本は共通点が多いが、これまでのところ(トランプ政権が発足してから1年半経過した段階では)、日本に対しては、「日本の国防費はGDPのたった1%と異常に低い。少なくとも2%、そして日本周辺の軍事的脅威に目を向けるならば常識的にはアメリカ並みの4%程度に引き上げなければ、日米同盟の継続を見直さねばなるまい」といった脅しは避けてきている。

 なぜドイツに対しては強硬に国防費の倍増どころか4倍増を迫り、日本に対しては(これまでのところ)そのような強硬姿勢を示さないのであろうか?

 その原因の1つ(あくまで、多くの要因のうちの1つにすぎないが)として考えられるのが、大統領選挙期間中以来トランプ大統領が関心を持ち続けてきているステルス戦闘機「F-35」の調達問題である。

F-35への関心が高いトランプ大統領

 トランプ大統領は2016年の大統領選挙期間中から、将来アメリカ各軍(空軍、海軍、海兵隊)の主力戦闘機となるF-35の調達価格が高すぎるとロッキード・マーチン社を非難していた。2017年に政権が発足した後は、さらに強い圧力をかけ始めたため、結局、F-35の価格は大幅に値引きされることとなった。

 F-35最大のユーザーとなるアメリカ軍は、合わせて2500機近く(空軍1763機、海兵隊420機、海軍260機)を調達する予定である。トランプ大統領がその調達価格を値下げさせたことにより、国防費を実質的に増額させたことになったわけである。

 このほかにも、トランプ大統領はこれまで数度行われた安倍首相との首脳会談後の記者会見などで、必ずといってよいほど「日本がF-35を購入する」ということを述べている。

 米朝首脳会談直前のワシントンDCでの日米首脳会談後の共同記者会見においても、「日本は(アメリカから)莫大な金額にのぼる、軍用ジェット(すなわちF-35のこと)やボーイングの旅客機、それに様々な農産物など、あらゆる種類のさらなる製品を購入する、と先ほど(首脳会談の席上で)安倍首相が述べた」とトランプ大統領は強調していた。

 要するに、F-35という戦闘機はトランプ大統領にとって大きな関心事の1つなのだ。

F-35の共同開発参加国が機体を調達

 F-35統合打撃戦闘機は、アメリカのロッキード・マーチン社が開発し、アメリカのノースロップ・グラマン社とイギリスのBAE社が主たる製造パートナーとしてロッキード・マーチン社とともに製造している。

 F-35のシステム開発実証段階では、アメリカ政府が幅広く国際パートナーの参画を呼びかけたため、イギリス、イタリア、オランダ、オーストラリア、カナダ、デンマーク、ノルウェイ、トルコが参加した。後に、イスラエルとシンガポールもシステム開発実証に参画したため、F-35は11カ国共同開発の体裁をとって、生み出されたことになる。

 パートナーとして開発に参加した国々は、それぞれ巨額の開発費を分担することになるため、当然のことながらF-35を調達することが大前提となる。要するに、共同開発として多数の同盟国を巻き込むことにより、アメリカ軍以外の販売先も確保する狙いがあったわけである。

 開発参加国は、分担金の額や、調達する予定のF-35の機数などによって、4段階に分類された。最高レベルの「レベル1」パートナーはイギリスであり、F-35Bを138機調達することになっている。

(F-35には3つのバリエーションがあるため、正式にはF-35統合打撃戦闘機と呼称されている。3つのバリエーションとは、主としてアメリカ空軍の要求に基づいて開発された地上航空基地発着用のF-35A、アメリカ海兵隊の要求に基づいて短距離垂直離発着能力を持ち強襲揚陸艦での運用が可能なF-35B、アメリカ海軍の要求に基づき設計された航空母艦での発着が前提となるF-35Cである。このほかにもカナダ軍用にはCF-35、イスラエル軍用にはF-35Iが製造される予定となっているが、基本的にはA型、B型、C型ということになる。)

「レベル2」パートナーはイタリアとオランダであり、それぞれ90機(F-35Aを60機、F35Bを30機)85機調達することになっていた。その後、オランダは調達数を37機へと大きく削減した。

「レベル3」パートナーは、オーストラリア(F-35Aを72機)、カナダ(F-35AベースのCF-35を65機、F-35の大量調達に疑義を呈していたトルドー政権が発足したため、選挙公約どおりにF-35の調達はキャンセルされ、現在再検討中である。)、デンマーク(F-35Aを27機)、ノルウェイ(F-35Aを52機)、トルコ(F-35Aを100機)である。遅れてシステム開発に参加したイスラエル(F-35AベースのF-35Iを50機)とシンガポール(調達内容検討中)は「SCPパートナー」と呼ばれている。

F-35を買わないドイツ、気前よく買う日本

 以上のように、現時点でパートナーである同盟諸国は合わせて600機前後のF-35ステルス戦闘機を購入する予定になっている。

 しかしながらNATOとEUのリーダー的存在であるドイツもフランスも、ともにF-35を購入する予定はない。ドイツ空軍ではF-35に関心を示したことがあったが、F-35推進派の空軍首脳は更迭されてしまった。

 このようにF-35ステルス戦闘機を購入する予定がないドイツに対して、トランプ政権は強烈に国防費増額を迫っている(65機が予定されているF-35の購入をキャンセルしたカナダのトルドー首相とも、トランプ大統領は対立を深めている。)

 一方、NATO加盟国ではないもののやはりアメリカの同盟国である日本は、ドイツ同様にF-35の開発には協力しなかった。しかし、ドイツのメルケル政権と異なり、安倍政権はF-35の購入に積極的であり、すでに42機のF-35Aの調達が決定し、すでに引き渡しも開始されている。F-35開発パートナー諸国以外でF-35の購入、すなわち純然たる輸入を決定した国は日本と韓国(F-35Aを40機調達予定)だけである。

 そして、日本は調達する42機のうち最初の4機を除く38機は日本国内で組み立てる方式を採用した(ただ組み立てるだけであるが)。その組み立て工場(三菱重工業小牧南工場)は、今後世界各国で運用が開始されるF-35戦闘機の国際整備拠点となることが、アメリカ国防総省によって決定されている。

 上記のように「安倍総理が日米首脳会談の席上でF-35の追加購入を口にした」とトランプ大統領が述べているということは、すでに調達が開始されている42機のF-35Aに加えて、かなりの数に上るF-35を調達する約束をしたものとトランプ大統領は理解しているに違いない。首脳会談で一国の首相が述べた事柄は、一般的に公約とみなされる。さらに米軍内では、日本国内で流布している海兵隊使用のF-35Bを調達する可能性も噂として広まっており、アメリカ側では期待している。

 日本はドイツと違って、トランプ大統領が関心を持っているアメリカにとっての主力輸出商品の1つであるF-35を気前よく購入している。したがって、安倍政権がトランプ大統領に対してF-35を積極的に調達する姿勢をアピールしている限りは、トランプ政権も「日本に対して国防費を4倍増しなければ日本防衛から手を退く」といった脅しはかけてこないだろうとも考えられるのだ。

【私の論評】国防を蔑ろにする「ぶったるみドイツ」に活を入れているトランプ大統領(゚д゚)!

なぜ日本は米国から国防費増額を強要されないのかその原因の1つ(あくまで、多くの要因のうちの1つにすぎないが)として考えられるのが、大統領選挙期間中以来トランプ大統領が関心を持ち続けてきているステルス戦闘機「F-35」の調達問題であり、日本は気前よく購入するがドイツは購入しないからだとしています。

では他には、どのような原因があるのでしょうか。本日はそれについて掲載したいと思います。

まず第一にあげられるのが、ドイツと中国との蜜月関係でしょう。メルケル・ドイツは中国との蜜月関係を持ち、それがお互いに大きな利益をもたらしてきました。10年余りの就任期間でメルケル首相が中国を訪問したのは実に9回です。

ドイツと中国との距離を考えると異常な回数です。ちなみにメルケル首相の日本訪問はわずかに3回です。しかもそのうち2回は洞爺湖サミットと伊勢志摩サミットのサミット参加で、残りの1回はエルマウ・サミットに向けた事前調整のためというから、サミット絡みだけといって良いです。メルケル首相の親中のスタンスは明らかです。

ドイツと中国の貿易は拡大し、ドイツ経済の成長の柱となりました。中国は生産拠点としても、大市場としても魅力のある国でした。経済の発展が素晴らしい時には様々な不平等的な問題も隠されてきました。

ドイツと中国は密接なパートナーとして活動し、中国はEU、つまりヨーロッパへの参入権を得た形になりました。しかし、中国経済の成長が鈍ると、問題が噴出してきました。

中国との貿易が停滞しながらも、ドイツ企業は撤退しようにも撤退できにくい状況に置かれています。しかし、中国の企業はドイツの優良企業を買収していきました。中国家電大手の美的集団は、ドイツの産業用ロボット大手クーカを買収しました。

中国との貿易は好調な時には問題が隠されますが、不調になると問題が噴出してきました。中国との貿易拡大で成長してきたメルケル・ドイツは方向転換を迫られています。


そうして、メルケル首相が出した結論は、結局中国寄りのものでした。ドイツのメルケル首相と同国を訪問した中国の李克強首相が9日、会談を開き、200億ユーロ(235億1000万ドル)規模の取引で合意しました。両首脳は米国との貿易戦争が本格化する中、多国間の貿易秩序に関与していく姿勢を強調しました。

これは、11日のブリュッセルでのNATO首脳会談の直前のことです。米国が、対中国貿易戦争をはじめたばかりのこの時期に、ドイツがこのようなことをしたわけですから、トランプ大統領としては、ドイツに対して恨み節の一つも言いたくなるのは、当然といえば当然です。

今回中国側との契約に合意したドイツ企業は、総合エンジニアリングのシーメンス(SIEGn.DE)、自動車のフォルクスワーゲン(VOWG_p.DE)、化学のBASF(BASFn.DE)などです。

メルケル氏は李克強氏との共同会見で、両国が世界貿易機関(WTO)の規則に基づくシステム維持を求めているとし、「すべての国がそのルールに従えば、さまざまな国がウィン・ウィンの状況となるのが多国間の相互に依存するシステムだ」と述べました。 

李氏は、保護主義に立ち向かう必要性を強調し、自国が一段と発展するために安定的で平和的な枠組みが必要で、自由貿易でのみ実現可能と説明。「一国主義に反対する」と述べました。 

ドイツのショルツ財務相は、中国人民銀行(中央銀行)の易綱総裁と、ドイツの銀行に中国金融部門への市場アクセスを速やかに認めることで一致しました。経済紙ハンデルスブラットが、関係筋の話として伝えました。
 
同紙によると、中国政府は、同国内でドイツ企業・団体が近く人民元建て債券を発行できるようになるとも表明したといいます。
 
欧州連合(EU)と中国は今月16、17日に北京で首脳会議を開催しました。メルケル氏は首脳会議について、投資の保護のほか、世界的な貿易紛争の拡大防止につながるよう求めると述べました。

メルケル氏は、中国について「実にタフで非常に野心を持った競争相手」と指摘しました。
李氏は、中国が海外からの投資にさらなる門戸を開くと表明。保険や債券市場を海外投資家に開放する用意があるとし、ドイツ企業が中国で事業を行うに当たり自社技術を失うと懸念する必要がないよう、知的財産権の保護を保証するとしました。 メルケル氏は、中国金融市場の開放を歓迎しましたが、一段の取り組みも求めました。

しかし、現状はG7は中国の横暴に対して、結束すべき状況にあります。それについては、以前のこのブログに掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
中国の横暴に甘い対応しかとらなかった日米欧 G7は保護主義中国に対して結束せよ―【私の論評】最大の顧客を怒らせてしまった中国は、その報いを受けることに!虚勢を張れるのもいまのうちだけ?
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事の元記事から一部を引用します。
 今月8日から2日間、カナダで先進7カ国(G7)首脳会議(サミット)が開かれる。鉄鋼・アルミなどの輸入制限を発動した米国に対して欧州が強く反発し、トランプ米大統領が孤立する情勢だが、仲間割れする場合ではない。 
 正論は麻生太郎財務相の発言だ。麻生氏は先に開かれたG7財務相会議後の会見で、中国を名指しに「ルールを無視していろいろやっている」と批判、G7は協調して中国に対し国際ルールを守るよう促す必要があると指摘した上で、世界貿易機関(WTO)に違反するような米輸入制限はG7の団結を損ない、ルールを軽視する中国に有利に働くと説明した。
G7財務相・中央銀行総裁会議の閉幕後、記者会見する
麻生財務相(左)と日銀黒田総裁=2日

 WTOについて自由貿易ルールの総本山と期待するのはかなり無理がある。麻生氏に限らず、経済産業省も外務省もWTO重視で、世耕弘成経済産業相も、米鉄鋼輸入制限をめぐるWTOへの提訴について「あらゆる可能性に備えて事務的作業を進めている」と述べているが、WTOに訴えると自由貿易体制が守られるとは甘すぎる。 
 グラフは、WTOの貿易紛争処理パネルに提訴された国・地域別件数である。圧倒的に多いのは米国で、中国は米国の3分の1以下に過ぎない。提訴がルール違反容疑の目安とすれば、米国が「保護貿易国」であり、中国は「自由貿易国」だという、とんでもないレッテルが貼られかねない。事実、習近平国家主席はスイスの国際経済フォーラム(ダボス会議)や20カ国・地域(G20)首脳会議などの国際会議で臆面もなく自由貿易の旗手のごとく振る舞っている。


 実際には中国は「自由貿易ルール違反のデパート」である。知的財産権侵害は商品や商標の海賊版、不法コピーからハイテクの盗用まで数えればきりがない。おまけに、中国に進出する外国企業には技術移転を強要し、ハイテク製品の機密をこじ開ける。共産党が支配する政府組織、金融機関総ぐるみでWTOで禁じている補助金を国有企業などに配分し、半導体、情報技術(IT)などを開発する。 
 習政権が2049年までに「世界の製造大国」としての地位を築くことを目標に掲げている「中国製造2025(メイド・イン・チャイナ2025)」は半導体などへの巨額の補助金プログラムだらけだ。 
 一連の中国の横暴に対し、日米欧はとにかく甘い対応しかとらなかった。理由は、中国市場でのシェア欲しさによる。「中国製造2025」にしても、中国による半導体の国産化プロジェクトは巨大な半導体製造設備需要が生じると期待し、商機をつかもうと対中協力する西側企業が多い。 
 ハイテク覇権をめざす習政権の野望を強く警戒するトランプ政権の強硬策は中国の脅威にさらされる日本にとっても大いに意味がある。G7サミットでは、日米が足並みをそろえて、欧州を説得し対中国で結束を図るべきだ。米国と対立して、保護主義中国に漁夫の利を提供するのはばかげている。(産経新聞特別記者・田村秀男)
中国の現在の体制では、そもそも民主化、政治と経済の分離、法治国家が十分なされておらず、これらがある程度整備されている日米やドイツをはじめとする先進国との間で、貿易をすると仮に中国にはそのつもりがなかったにしても、構造的に自由貿易にはなりません。

中国は、必ず「自由貿易ルール違反のデパート」にならざるをえないです。であれは、中国も、民主化、政治と経済の分離、法治国家化を推進すればよいのですが、それを推進すれば、中国の一党独裁もとより、最近の習近平の独裁政権は成り立たなくなってしまいます。

それは、ドイツとても同じです。いくら、李克強が口約束をしても、中国はドイツに対しても「自由貿易ルール違反のデパート」にならざるを得ません。中国との関係を維持すれば、ドイツも国益を失います。

こうした中国に対して、米国としては、対中国戦略として、貿易戦争を発動したのです。そうして、この貿易戦争は、中国が現体制をある程度変更してまで、度民主化、政治と経済の分離、法治国家化を推進するか、現体制のままかなり弱体化するかのいずれかが達成できるまで継続されることでしょう。

7月6日、米中貿易戦争が開戦しました。中国内外の多くのメディアが「開戦」の文字を使いました。つまり、これはもはや貿易摩擦とか不均衡是正といったレベルのものではなく、どちらかが勝って、どちらかが負けるまでの決着をつける「戦争」という認識です。

この戦いは、たとえば中国が貿易黒字をこれだけ減らせば終わり、だとか、米大統領選中間選挙までといった期限付きのものではなく、中国が貿易戦争に屈しなければ、米国は次の段階に進み、厳しい金融制裁を課すことになり、どちらかが音を上げるまで長引くでしょう。

この貿易戦争がどういう決着にいたるかによっては、独裁者習近平が率いる中国の特色ある現代社会主義強国なる戦後世界秩序とは全く異なる世界が世界の半分を支配する世の中になるかもしれないですし、世界最大の社会主義国家の終焉の引き金になるかもしれないです。

まさに、米国を頂点とする、日本やEUも含めた戦後の秩序を維持できるか、それとも半分を中国に乗っ取られるかを決める争いであり、軍事力は伴わないものの、世界大戦に匹敵する大戦なのです。だからこそ、トランプ大統領は米国の国防予算を拡大したのです。


オバマ政権で削られた国防予算をトランプ大統領は拡大した

それをドイツが理解しておらず、NATOの首脳もあまり理解していないようです。だかこそ、トランプ大統領は、NATO(北大西洋条約機構)加盟諸国(とりわけドイツやフランスなどEUを牽引する西ヨーロッパ諸国)に対して国防費増額を執拗に要求しているのです。

彼らに対して、現状は彼らが考えているような甘い状況ではなく、世界の半分が中国という闇に覆われるかどうかの天下分け目の大戦に突入したことを理解されるために、あのような発言をしたのです。

その中でもドイツに対して、F-35への関心が高いトランプ大統領がさらに苛立つ実態があります。

何と、ドイツ空軍(ルフトヴァッフェ)の主力戦闘機「ユーロ・ファイター」のほぼ全機に“深刻な問題”が発生し、戦闘任務に投入できない事態となっています。現地メディアによれば全128機のうち戦闘行動が可能なのはわずか4機とも。原因は絶望的な予算不足にあり、独メルケル政権は防衛費の増額を約束したのですが、その有効性は疑問視されるばかりです。

ドイツは“緊縮予算”を続けており、その煽りを受けてドイツの防衛費不足は切迫しています。空軍だけではなくドイツ陸軍においても244輌あるレオパルト2戦車のうち、戦闘行動可能なのは95輌などといった実態も報告されています。

こうした状況に追い込まれた原因の一つとして、ドイツを含む欧州連合(EU)には、財政赤字が対GDP比で3%、債務残高が対GDPで60%を超えないこととする「マーストリヒト基準」があり、財政健全化を重視しすぎるとの声が経済専門家の間にはあります。

ドイツ空軍(ルフトヴァッフェ)の主力戦闘機「ユーロ・ファイター」

一方、ショルツ財務相は、昨年の総選挙で第2党となった中道左派のドイツ社会民主党(SPD)の臨時党首を務めるなど、選挙後の大連立において存在感を示してきたましたが、そもそもSPDは総選挙で戦後最低の得票率となり、野党に転じる予定でした。財務相という重要ポストをSPDが得たのも、大連立をなんとしてもまとめたいメルケル氏率いるCDU・CSUの譲歩と見られています。

自国どころかユーロ圏全域に緊縮財政を突きつけてきたメルケル首相と、じり貧の中道左派の財務相による予算編成に国防予算「2%」はハードルが高すぎたのかもしれません。19年度予算を本格的に議論するのは7月で、国防省はそれまでに防衛費の“改善”を求めていくとしています。

一方日本は、いくら自衛隊の予算が低いといわれつつも、これほど酷い状態にはありません。もともと、日本の経済の規模はドイツより大きいですから、GDP1%であっても、ドイツよりはまともな国防予算なのでしょう。

それに、若干ながら、最近は防衛費を上げています。自衛隊の航空機の稼働率は、米軍よりも高い状態にあります。日本としては、低予算ながら、何とか工夫して、最新鋭の潜水艦を配備したり、準空母ともいえる護衛艦を配備したりしています。

日本の防衛関係費の推移

さらに、日本の安倍政権は、中国に対抗するため「インド太平洋戦略」と称して東南アジア諸国連合(ASEAN)や台湾などと経済、安全保障、外交の3つの分野で関係を強化しています。そもそも、安倍総理は安倍政権成立直前にはやくも、「安全保障のダイヤモンド」という対中国封じ込め戦略を発表しています。これは、米国のドラゴンスレイヤー達も高く評価しています。

いくら中国から地理的に離れているとはいえ、ドイツも含まれる戦後秩序を崩し世界の半分を支配しようとする中国に経済的に接近するとともに、緊縮財政で戦闘機の運用もままならないという、独立国家の根幹の安全保障を蔑ろにするドイツは、まさにぶったるみ状態にあります。ドイツの長い歴史の中でも、これほど国防が蔑ろにされた時期はなかったでしょう。

このような状況のドイツにトランプ大統領は活をいれているのです。ドイツにはこのぶったるみ状態からはやく目覚めてほしいものです。そうでないと、中国に良いように利用されるだけです。

そうして、ドイツを含めたEUも、保護主義中国に対して結束すべき時であることを強く認識すべきです。

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2018年7月18日水曜日

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スクープ最前線 加賀孝英

トランプ米大統領は16日、フィンランドの首都ヘルシンキで、ロシアのプーチン大統領と会談
写真はブログ管理人挿入 以下同じ

ドナルド・トランプ米大統領は16日、フィンランドの首都ヘルシンキで、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領と会談した。米露関係を改善して、核軍縮や中東問題、テロ対策で協力するとともに、「中国の覇権拡大阻止」という隠れた狙いもありそうだ。過熱する「米中貿易戦争」は今後、南シナ海や東シナ海での、軍事的緊張を高めることは間違いない。ジャーナリストの加賀孝英氏が最新情勢に迫った。

 「トランプ氏は、中国に史上最大の貿易戦争を仕掛けた。中国の習近平国家主席は報復を宣言した。それどころか、習氏がキレて、南・東シナ海での、米国との軍事衝突まで想定した『極秘指令を軍に出した』という情報がある」

 旧知の米軍関係者は緊張した声でそういった。

 ご承知の通り、米国は6日の340億ドル(約3兆7600億円)に続き、10日、2000億ドル(約22兆円)の中国製品に対し、追加制裁を発表した。中国も同等の報復を宣言。全世界に衝撃が走った。

 外務省関係者は「トランプ政権は、中国が軍事を含む米国のハイテク技術を盗みまくり、『覇権国家を目指している』と激怒している。中国のハイテク産業の息の根を止めるつもりだ。これに対し、習氏は6月下旬、北京で開かれた外交政策の中央外事工作会議で、『中国中心の新たな国際秩序を構築していく』と宣言した。『米国を潰す』と言ったに等しい。このままでは、貿易戦争だけでは終わらない」と解説した。

6月下旬、北京で開かれた中央外事工作会議で、『中国中心の
新たな国際秩序を構築していく』と宣言した習近平

 米中が、軍事的に対峙(たいじ)する最前線は、南シナ海と台湾周辺、沖縄県・尖閣諸島を含む東シナ海だ。中でも、最も警戒すべきは南シナ海だ。

 ご承知の通り、中国は国際法を無視して、南シナ海で岩礁を埋め立て、複数の人工島を軍事基地化し、電波妨害装置や対艦巡航ミサイル、地対空ミサイルなどを配備した。戦略爆撃機の離着陸訓練まで実施している。

 「ふざけるな!」だ。中国は、世界屈指のシーレーンである南シナ海を、自国の内海として支配するつもりだ。

環太平洋合同演習(リムパック、RIMPAC)2018(VOA)

 米国防総省は5月末、世界最大規模の多国間海軍演習「環太平洋合同演習」(リムパック=6月下旬~8月初旬実施、20カ国以上参加)に「中国の招待を取り消す(=排除する)」と発表した。

 中国が周辺国を軍事力で恫喝(どうかつ)し、シーレーンの一方的支配を画策していることへの、米国の強烈な抗議表明だ。米国防総省は、対艦巡航ミサイルなど、軍事施設の即時撤去を求めている。当たり前だ。

 ところが、どうだ。習氏は6月27日、ジェームズ・マティス米国防長官と会談した際、南シナ海の軍事拠点化について、「祖先から受け継いだ領土は一寸たりとも失うことはできない」と一蹴。米国の要求を拒絶した。

 その南シナ海で、中国は仰天行動に出ている。以下、複数の中国人民解放軍、中国政府関係者から入手した情報だ。

 「中国海軍は5月下旬、南シナ海で、56基の無人小型ボートによる『群れ攻撃』の訓練を実施し、映像を公開した。米艦船が『航行の自由』作戦で、人工島周辺に侵入すれば、無人小型ボートに爆薬を積んで『特攻自爆攻撃をする』という米国への警告だ」

 「兵士が漁民に偽装してゲリラ工作をしている。米国が海中に設置したパッシブ・ソナー(=潜水艦の音などを監視する水中聴音機)を撤去し、米軍の監視網を破壊している。2~3人乗りの小型潜水艦で、米艦艇のスクリューを破壊する訓練も行っている」

 中国国内で「反米デモを日常化させ、人民の反米感情を扇動し、対米軍事衝突への世論工作」も検討されているという。

 驚かないでいただきたい。日本にも危機が迫っている。

 日米情報当局関係者は「中国は、台湾への武力侵攻を本気で計画している。その際、日本の尖閣諸島への同時侵攻計画がある。中国は今後、ロシアやシリア、イラン、北朝鮮、韓国などと『反米反日包囲網』を構築するつもりだ。安倍晋三首相潰しの世論工作、日本への恫喝が激しくなる危険がある」と語った。

 トランプ氏が16日、プーチン氏と米露首脳会談を行い、中国を牽制(けんせい)した意味は大きい。

 日本は断じて屈してはならない。あえていう。国難が迫っている。こうしたなか、一部の左派野党は、多数の犠牲者を出した「平成30年7月豪雨」まで、政争の具にして騒いでいる。いい加減にしろ!

 ■加賀孝英(かが・こうえい) ジャーナリスト。1957年生まれ。週刊文春、新潮社を経て独立。95年、第1回編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム大賞受賞。週刊誌、月刊誌を舞台に幅広く活躍し、数々のスクープで知られている。

【私の論評】米中貿易戦争は、国際秩序の天下分け目の大戦の始まり(゚д゚)!

2018年環太平洋合同演習(RIMPAC、リムパック)が6月下旬から8月初めまで、太平洋の米領ハワイ諸島で行わています。社会主義政権であるベトナムは、このたび演習に初参加しました。専門家は、アジア太平洋地域における中国の軍事プレゼンスが拡大するなか、米国が対抗手段として、アジア太平洋諸国と堅く協調していることを示す狙いがあるとみています。

今年の軍事演習には26カ国から2万5000人の兵力、戦艦や潜水艦など52隻、航空機200機ほどが参加しています。参加国は〇ブラジル、カナダ、チリ、コロンビア、フランス、ドイツ、インド、インドネシア、〇イスラエル、日本、マレーシア、メキシコ、オランダ、ニュージーランド、ペルー、韓国、フィリピン、シンガポール、〇スリランカ、タイ、トンガ、英国、米国、〇ベトナム(〇は初参加国)。

米シンクタンクのCNA海軍解析センターの上級研究員ロジャー・クリフ氏は米政府系VOAの取材で、米軍の目的は「志を共にする」国と訓練を実施し、アジア太平洋地域における中国の影響力を抑制することだと語りました。特に、中国不在のなかで、最も中国に近いベトナムが参加することは意義深いとしました。

ベトナム国防省によると、ベトナムは8人の海軍職員を派遣しました。船舶は参加していません。

米軍紙スター・&・ストライプスもまた、米国はベトナムは潜在的なアジア太平洋地域の均衡をとる力があると見なしていると報じました。

2016年以来、米国とベトナムの関係は強化しています。2016年、米国はベトナムへの殺傷力ある武器の販売禁止を解きました。2018年3月、米国空母は40年ぶりにベトナム港に寄港しました。日本官製の外交専門誌「外交」 によると、ベトナムは日本の提唱する「自由で開かれたインド太平洋戦略」の重要なパートナーだといいます。

軍事演習には、災害救援、水陸両用作戦、海賊対策、ミサイル射撃、地雷除去、海上保安、対潜水艦戦、防空作戦などがあります。米軍は専門特殊部隊がリムパックに初めて参加します。

実弾演習では、特殊部隊が海上の船舶を沈める「海軍打撃ミサイル」を発射します。上空では「長距離対艦ミサイル」を発射する予定です。

米紙ポピュラー・マシーナリーによると、ますます軍事力を強化させる中国海軍に対抗して、米空軍B-1B爆撃機は、新しい「長距離対艦ミサイル」を発射する可能性が高いです。同紙は、日本が「島に配備された対艦ミサイルが、日本の排他的経済水域を頻繁に通過する中国艦隊に圧力をかけることができる」ことを証明したいと望んでいる、と報じました。

陸軍の「海軍打撃ミサイル」は、地上の海岸線または島に配備を想定し、数千平方キロメートル離れた洋上の敵艦隊を排除できる能力があります。

中国共産党メディア・環球時報は、中国専門家の話として、リムパックのプログラムのかなりの割合は、中国を対象と想定しているとの分析を報じました。

5月23日、米国防総省は、リムパックに参加するための中国への招待をキャンセルすることを決めました。米国防総省の関係者は、中国の南シナ海における人工島の軍事拠点化に対する予備対応だと語りました。

中国は以前、2014年と2016年のリムパックに参加したことがあります。米国防総省は14日までに、中国のスパイ船がハワイ沖で実施中の環太平洋合同演習(リムパック)を偵察していることを明らかにしました。

米太平洋艦隊のチャールズ・ブラウン報道官は声明で、「ハワイ周辺の米領海外で中国の偵察船が活動しているのを監視中だ」と説明。この船は今後も米領海外にとどまる見通しだとし、リムパックを妨害する動きは取らないものとみていると述べました。

国防総省は5月に中国の招待取り消しを発表した際、南シナ海の係争水域での「軍事化の継続」を理由に挙げ、対艦ミサイルや地対空ミサイルシステム、電子妨害装置の配備などに言及していました。

米軍当局者がCNNに明かしたところによると、スパイ船がハワイ沖の海域に到着したのは今月11日。これまでのところ米国の領海には進入していないといいます。

演習参加国で作る合同部隊の海上部門司令官も、中国船の出没を批判。「非参加国の艦船の出没により演習が妨害される可能性があるというのは非常に残念」と述べました。

私自身は以前からこのブログで述べているように、米中が軍事力で直接対決するのは現実的ではないと考えています。

中国が軍事大国になった背景に、経済的な発展があります。言い換えれば、中国の経済発展をスローダウンさせれば中国軍の力は落ちます。そこで通商、金融、軍事、外交を組み合わせて中国の軍事的台頭を抑制しようという対中政策を提唱しているのが、『米中もし戦わば』(文芸春秋)の著者で経済学者のピーター・ナバロ氏です。

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ピーター・ナバロ氏

トランプ大統領は就任当初、米国の通商政策の司令塔として新設した「国家通商会議」のトップに、このナバロ氏を据えました。

ところが、トランプ大統領が当選した直後、北朝鮮による弾道ミサイルと核開発問題が浮上しました。実はオバマ政権の間に軍事費が大幅に削られたため米軍が弱体化してきており、すぐ北朝鮮に対して軍事行動を起こせる状況ではありませんでした。

ゆえに時間稼ぎの必要もあり、トランプ政権は中国の習氏と組んで北朝鮮に圧力を加える方策を採用し、対中強硬策を控えてきたのですが、はかばかしい成果は見られませんでした。

そこでトランプ大統領は昨年12月、安全保障政策の基本方針を示す「国家安全保障戦略」の中で、中国とロシアを力による「現状変更勢力」、すなわち「米国の価値や利益とは正反対の世界への転換を図る勢力」として名指しで非難しました。このトランプ政権の「反中」戦略を真っ向から批判したのが、パンダ・ハガー(対中融和派)たちでした。

しかしその後、中国共産党自らが「長期独裁を目指す」と主張しました。ドラゴン・スレイヤー(対中国強硬派)とすれば、「やはりトランプ政権の反中戦略は正しい」となります。長期独裁を目指す習氏のおかげで米国では、ドラゴン・スレイヤーの力がますます増していくことでしょう。

そうして、7月6日、米中貿易戦争が開戦しました。中国内外の多くのメディアが「開戦」の文字を使いました。つまり、これはもはや貿易摩擦とか不均衡是正といったレベルのものではなく、どちらかが勝って、どちらかが負けるまでの決着をつける「戦争」という認識です。

この戦いは、たとえば中国が貿易黒字をこれだけ減らせば終わり、だとか、米大統領選中間選挙までといった期限付きのものではなく、どちらかが音を上げるまで長引くであろう、というのが多くのアナリストたちの予測です。

やはり、これは、ピーター・ナバロ氏の通商、金融、軍事、外交を組み合わせて中国の軍事的台頭を抑制しようとする戦略の最初の発動と捉えるべきです。この戦争は、中国がある程度の民主化、政治と経済の分離、法治国家化を実現するか、現体制のまま経済的に相当弱体化するまで継続されることになるでしょう。

こういう事態を招いた、責任の一端は習近平の対米戦略を見誤ったことにあるといえます。オバマ政権の初期が中国に対して非常に融和的であったことから、習近平政権が米国をみくびった結果、鄧小平が続けてきた「韜光養晦(とうこうようかい:「才能を隠して、内に力を蓄える)」という中国の外交・安保の方針)」戦略を捨て、今世紀半ばには一流の軍隊を持つ中国の特色ある現代社会主義強国として米国と並び立ち、しのぐ国家になるとの野望を隠さなくなりました。

「韜光養晦」という中国の外交・安保の方針を提唱した鄧小平

このことが米国の対中警戒感を一気に上昇させ、トランプ政権の対中強硬路線を勢いづけることになりました。

今、北戴河会議(8月、避暑地の北戴河で行われる共産党中央幹部・長老らによる非公式会議)を前に、米中貿易戦争の責任を王滬寧が取らされて失脚するといった説や長老らによる政治局拡大会議招集要求(習近平路線の誤りを修正させ、集団指導体制に戻すため)が出ているといった噂が出ているのは、その噂の真偽はともかく、党内でも習近平路線の過ちを追及し、修正を求める声が潜在的に少なくない、政権の足元は習近平の独裁化まい進とは裏腹に揺らいでいるようです。

この貿易戦争がどういう決着にいたるかによっては、独裁者習近平が率いる中国の特色ある現代社会主義強国なる戦後世界秩序とは全く異なる世界が世界の半分を支配する世の中になるかもしれないですし、世界最大の社会主義国家の終焉の引き金になるかもしれないです。

これは、間違いなく国際秩序の天下分け目の大戦なのです。我が国としては経済の悪影響を懸念したり漁夫の利を期待するだけでは足りないです。別の視点で補いながら、その行方と対処法を探る必要があります。

トランプ政権の対中国貿易戦争を単に自由貿易体制への脅威とみなす人もいるようですが、そのような見方は物事の裏表のうちの、片面しか見ていないと思います。

米中のこの大戦においては、北朝鮮の問題は、大戦を有利に戦うための、駒のようなものです。北朝鮮だけみていては、その真の姿はみえてきません。私は、トランプ政権は金正恩が米国の対中戦略駒として動き、役に立つというのなら、北の存続を許容するでしょうが、そうでなければ、見限ると思います。

場合によっては、中国への見せしめのため、軍事攻撃をするかもしれません。それは、中国も同じことです。米中のどちらにつくかによって、金正恩の未来は大きく変わることでしょう。

そして、ドラゴン・スレイヤーが期待しているのが、日本です。彼らは、「インド太平洋戦略」と称して東南アジア諸国連合(ASEAN)や台湾などと経済、安全保障、外交の3つの分野で関係を強化しようとしている安倍政権を高く評価しています。

期待が高いだけに実際に軍事紛争が勃発した際、日本が軍事的に貢献できなければ、日米同盟は致命的な傷を負いかねないです。何よりもさらに独裁体制を強化した習政権はますます日本に対して牙をむくことになるでしょう。特に尖閣諸島は極めて危険な状態です。

この危機に対応するためには、日本自身の防衛体制の強化、つまり防衛大綱の全面見直しと防衛費の増額、そして憲法改正を進めるべきです。そうして、日本も通商、金融、軍事、外交を組み合わせて中国の軍事的台頭を抑制する日本独自の方法を模索し実行すべきです。

特に金融に関しては、我が国は物価目標2%を達成するまで、量的緩和を実行し続けるべきです。実は、これが中国に対してかなりの圧力になることを忘れるべきではありません。中途半端でやめてしまえば、我が国の経済の回復が中途半端になるばかりか、中国を利することになることを忘れるべきではありません。

そうして、日本が金融緩和をやりきることが、中国の現体制の崩壊にむけて最大の貢献になるかもしれません。このあたりは、掲載すると長くなってしまうので、いずれまた改めて掲載しようと思います。

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