2018年9月2日日曜日

種子法廃止に反対している人たちが、誤解しているかもしれないことむしろメリットのほうが多い可能性も―【私の論評】4月に種子法が廃止されて以来何も不都合は起こっていないし、起こるはずもない(゚д゚)!。

種子法廃止に反対している人たちが、誤解しているかもしれないことむしろメリットのほうが多い可能性も

ドクターZ

奨励品種はなくらならい

今年4月に廃止された種子法(主要農作物種子法)が、'19年の参院選に影響するのではないかと、にわかに話題になっている。

種子法は1952年、戦後の食糧の安定供給を図るために制定された8条からなる比較的短い法律だ。米・麦・大豆の3種類を対象に、奨励品種の選定や原種の生産に都道府県が責任を持つことが定められた法律である。

これが廃止されると、海外から遺伝子組み換えの種子が流入し、海外に日本の食が乗っ取られるとして、一部の農家からは強い批判がある。ひいては与党支持にも影響が出るのではとされているのだが、政府としては種子法が「役割を終えた」ものとして廃止を決めたわけで、今後はどうなっていくのか。

種子法廃止に反対しているのは、TPP(環太平洋パートナーシップ協定)に猛反対していた層とほぼ一致するが、農協などの農業関係者のなかでは冷静な見方をする向きも多い。

まず、彼らが懸念する遺伝子組み換えの種子については、厚労省管轄の食品衛生法の問題で、同法による安全性審査で規制されている。なお種子法が廃止されても、食品衛生法の規制は変わりない。


また、いろいろな食物の種子ビジネスに外資が入ってくるという理屈も不明瞭で、種子法に指定された3種だけでなく、対象外の野菜などの種子でも日本のメーカーのシェアは大きい。

種子法の「奨励品種」とは、たとえば「あきたこまち」のような都道府県でブランド化された作物になるが、たしかに地方としてはこの指定がなくなれば困るかもしれない。だが、じつは種子法廃止とともに、各地方自治体では、種子法と同様な条例や要綱を作った。これで、各地方自治体において奨励品種がなくなることは避けられたのだ。

種子法では、国が地方自治体に奨励品種の義務を課していたが、これからは地方自治体が独自に行うとしている。要するに、奨励品種は、国(中央政府)の仕事から地方自治体(地方政府)の仕事に変わっただけであり、やる主体が政府であることは変わりない。

昔よりも作物の生産量に差が広がった大都市と農業県では、農業への取り組み方が違うのは当たり前のことだ。国主体では、たとえば米の減反など、非効率的な政策しか取ることができないため、むしろ農業従事者のためには種子法廃止のメリットは大きいはずだ。

では、なぜ一部の人が反対するのか。しかも、種子法の廃止だけを強調し、同じ内容の各地方自治体の条例が同時に制定されていることを言わないのは、あまりにバランスを欠いている。

その理由としては、やはり一部でTPP反対論を引きずっている人がいるからだろう。

このときも日本の農業は外資に乗っ取られるとしてきたが、アメリカが抜けたことで枠組みは大きく変わり、反対論者の説得力は失われた。そのタイミングで種子法廃止が俎上に載り、TPPのときとまったく同じ絵を描いたのだ。

だが、これまで述べてきたように、日本の農業を守る枠組みはきちんと維持される。事が事だけに早とちりしている人も多いかもしれないが、正しく事情を理解しておけばその間違いに気づくはずだ。

【私の論評】4月に種子法が廃止されて以来何も不都合は起こっていないし、起こるはずもない(゚д゚)!

日本の食の安全を脅かす種子法廃止がなぜ問題にならないのか、なぜ話題にならないのかと疑念を抱いている方がいます。答えは簡単です。問題では無いからです。なにか陰謀があるからだ、などと言っている人いますが、そんなことはありません。

何の問題も無い些末な事を針小棒大に煽って、アジって自らのビジネスにしている輩が居る。ただそれだけのことです。

 以下にその例をあげます。
日本の農業をぶっ壊す種子法廃止、なぜほとんど話題にならない?
田中優 (MONEY VOICEより 2018年2月25日)

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下に一部を引用します。
ならば「安全な種から育てた食品を選ぼう」と思ったとしても、主要農産物の種を守ってきた「主要農作物種子法」が2018年の今年から廃止されて、種は入手が困難になっていく。種は遺伝子組み換えのものに入れ替わり、それから育てた作物しか選べなくなる。
一見すると私たちに関係なさそうな「主要農産物種子法の廃止」が、私たちの選択の余地をなくし、健康を維持できない可能性が高まるのだ。
この記事の内容は、本当に酷いです。冒頭からデマ全開です。種子法が廃止されても種が遺伝子組み換えのものに入れ替わる事はありません。

種子法は元々別に遺伝子組換え作物を規制しているわけではないので、種子法が廃止されたからといって、種が遺伝子組換えのものに替わる事はないです。

 国内での遺伝子組換え作物の栽培は、特別に許可され隔離された圃場での実験栽培だけです。現在承認されているのはトウモロコシ、ダイズ、セイヨウナタネ、ワタ、パパイヤ、アルファルファ、テンサイ、バラ、カーネーション9作物だけです。また、商業栽培が行われているのはバラのみです。

 これもTPPのISD条項で訴えられて、外国から種子無秩序にがはいってくることになるような、主張をしている人を見かけますが、ISDは他国の法律を変える事はできませんし、もともとあった法律で規制されているのに外国企業が日本に乗り込んできて損をしたなどとして、訴えるなどということはできないですし、仮に訴えたとしても完全に非があるのは企業側なので、100%企業側が負けます。

また、上記の記事中では自閉症の増加とラウンドアップの普及に相関性があるから、ラウンドアップの成分、グリホサートに自閉症の原因があるに違いないとしていますが、なぜか記事では途中でネオニコチノイド系殺虫剤の話になっています・・・)グリホサートと自閉症に因果関係があるかどうかについては、色々調べてみましたが、それを裏付ける様な研究や論文をありませんでした。


ラウンドアップ

それに、遺伝的な要因が強いというとする論文はありますが、近年自閉症が増加している原因についてはまだ科学的にはっきりと解明されていません。

それをグリホサートの増加と相関があるから因果関係もあるはずだと結論付けるのは乱暴すぎるのではないかと思います。

このやり方ならば、自閉症増加と同時期に増えたものはなんでも因果関係があると結論付けてもいいと言うことになってしまいます。

 また、グリホサートはあまりに性能的に優れた除草剤であるため、現在グリホサートの代替となる除草剤が存在しません。

グリホサートを使用すると不耕起での栽培が可能になるので、農業生産性が大きく向上し、且つ土壌が流出しないため周囲の河川汚染のリスクが減るという報告があります。

この様な状況で、下手にグリホサートを規制すると、農家は他の毒性が強く、環境に負荷を与えやすい除草剤を使うことになってしまうため、意味がないどころかかえって事態の悪化を招きかねません。これでは本末転倒です。

そういった背景もあり、EUではグリホサート規制の声が大きかったものの、使用許可期限を5年間延長する決定が下されました。代わるものが無いのですから仕方がありません。グリホサートなしでは農業生産性が著しく低下しますので、農作物価格の高騰を招く可能性が大です。

 ネオニコチノイド系の殺虫剤も然りです。今の農業はネオニコチノイド系の殺虫剤前提で成り立っていますので、規制されたら別の有害な有機リン系の殺虫剤を使わざるを得なくなり、周辺の生態系に与える影響は必然的に大きくなりかねません。また、農業生産コストを増大させて農作物の価格は高騰するでしょう。

 では、農薬不使用の有機栽培をやればいいじゃないかという意見もあろうかと思いますが、農薬不使用で農作物を栽培するのはかなり困難です。
さらに、農薬が防ぐのは虫だけではありません。有毒なカビや病気も予防します。

自閉症誘発というハザードがある(この記事では完全なこじつけですけど)から廃止しろ
と言うのはかなり乱暴な議論で、きちんと経済利便性や、リスクを評価して総合的な判断を下さなければならないでしょう。

「危険性又は有害性(ハザード)」と「リスク」の違いとは ライオンは固有の危険性をもっているのでハザードにあたりますが、左の図はライオンのそばに人がいないので、ライオンに襲われる危険性はありません。 ... 「危険性・有害性(ハザード)」とリスクを明確に区別して理解をする必要があります。



車は交通死亡者を増やすハザードがあるからといって車の生産や利用が規制されないことと同じです。車がなければ現在の生活が成り立たないのと同様に、今の農業は農薬がなければ成立しないものになっています。

 農薬無しでできないことはないのですが、農作物価格の高騰は覚悟しなければなりません。日本はまだ先進国だから大丈夫かもしれませんが、途上国の貧しい人たちの中では餓死してしまう者が増えるかもしれません。

 何やら、話が飛んでしまったかのような印象をうけますが、上で引用した記事は元々は、種子法廃止の話だったはずです。グリホサートとネオニコチノイド系の殺虫剤とか、種子法とは種子法とは、一切関係ないはずです。

 ホームセンターいくとわかりますが、グリホサート系除草剤、殺虫剤など、大量に売られてます。それにJAが積極的にラウンドアップの拡販普及に力を入れています。本当に害があれば、そんなことをするはずもないです。

このような主張をする記事に煽られる必要はありません。一番はっきりしていることは、すでに4月に種子法が廃止されていますが、具体的に何か不都合が起こったでしょうか。

種子法廃止に反対する人々は、まともなエビデンス(証拠・根拠、証言、形跡)をあげてほしいです。エビデンスなしに、不安を煽るのはやめるべきです。

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2018年9月1日土曜日

防護服姿の子供立像「サン・チャイルド」撤去へ 福島市民アンケート7割が反対 市長「設置は困難」―【私の論評】反原発・自然エネルギー推進の主張は自由!だがそのため何でも利用する姿勢は許されなくなった(゚д゚)!

防護服姿の子供立像「サン・チャイルド」撤去へ 福島市民アンケート7割が反対 市長「設置は困難」

福島駅近くの教育施設「こむこむ」に展示されたサン・チャイルド=福島市で

 福島市が設置した防護服姿の子供立像「サン・チャイルド」に「原発事故の風評被害を助長する」などの批判が相次いだ問題で、同市の木幡浩市長は28日、会見し、像を撤去すると発表した。

 市長は、これまで「像を見て福島が危ないと受け取る人はいない」などと反論してきたが、市民向けアンケート結果は7割近くが反対・否定的で、「賛否分かれる作品を設置し続けることは困難」と語った。

 像は現代美術家ヤノベケンジさんが東日本大震災を機に制作。高さ6・2メートルで胸の空間放射線量計を模したカウンターには「000」と表示、原子力災害のない世界や希望を表した。

 だがJR福島駅近くの市の教育施設に設置されると、「福島が防護服の必要な街であるかのような誤解を与える」「線量がゼロにならないと安全ではないということか」などと批判が相次いだ。

 アンケートは18日から27日まで行われ、110人から集計。内訳は設置に「反対もしくは移設を」が75人で、存続派22人を大きく上回った。賛否不明の「その他」が11人。このほか、市のホームページなどに届いたメールなども、7割が否定的だった。

 これに対し同市長は「愛称募集には小学生199人が応募しており、賛否は拮抗(きっこう)している」としたが、「不快な思いをされた方々には、心からお詫び申し上げます」と語り、近く像を解体し、美術館など別の展示場所が見つかるまで市で保管する。展示費用は、解体も含め約260万円となる見込み。

 また、市長は展示を決める中で議会にはかるなど市民に向けた合意形成を欠いた点を改めて謝罪し、市長給与の減額措置を講じる意向を表明した。

【私の論評】反原発・自然エネルギー推進の主張は自由!だがそのため何でも利用する姿勢は許されなくなった(゚д゚)!

8月3日、JR福島駅前にモニュメントが設置されました。現代美術家として知られるヤノベケンジ氏が2011年に、東日本大震災をきっかけに制作した、「サン・チャイルド」と呼ばれる全高6.2mにもなる巨大な子供の像です。

その容貌は、ブログ冒頭の写真のように、黄色い放射能防護服を着た子供がヘルメットを脱いで左手に抱え、顔に傷を負い、絆創膏を貼りながらも、空を見上げて立っているというものです。胸には「000」と表示されたガイガー・カウンター(放射線測定器)が表現されています。
この像のメッセージは明らかです。「放射能をゼロにして初めて子供が健康になる」という主張です。右手にもっているのは、太陽光発電がエネルギー問題を解決するという意味です。ガイガー・カウンターがゼロになることはありえないですが、作者は「原子力災害や核がゼロになった世界を象徴的に」示したと弁解しています。

「放射能ゼロ」も表現の自由の範囲内であり、彫刻家を非科学的だと糾弾してもしょうがないです。この像は2012年に福島空港に設置されたましたが、そのときは批判は出ませんでした。

しかし、今回は、この像が設置されると、様々な批判と議論が起こりました。
国内のメディアの他、英国BBCが 「福島市がJR福島駅付近に設置した防護服姿の少年像に、住民らが怒りの反応を示している。2011年に起きた東京電力福島第一原子力発電所の事故以来、同市が未だに放射能に汚染されたままだとの印象を与えるとの声もある」と報じ、同国のガーディアンやデイリー・メール、シンガポールのストレイツ・タイムズや香港のSCMP、中国新華社通信などの海外メディアまでもが報道する事態となっています(https://www.bbc.com/japanese/45192561)。
その後、福島市長はブログ冒頭の記事の通り、撤去することを決めています。また、「サン・チャイルド」の作者である、ヤノ氏も以下のような声明を出しています。
ヤノベ氏が発表したコメント全文。公式サイトよりキャプチャ。

ヤノベ氏は撤去について、
「大変残念ではありますが、こむこむ館前に置き続けることで、苦しむ市民の方々がおられるならば撤去し、展示を取りやめた方がよいという結論に至りました。また、これ以上、市内外の人々を巻き込み、対立が生まれることは避けたいと思いました」
と胸中を語りました。「サン・チャイルド」は震災後、福島に通う中で着想したと明かし、「人類共通の大きな課題の解決に向けて、すべての人々を勇気付けたいと思いました」と説明しました。今回の批判については、
「展示する場所、時期、方法などによって受け止められ方は変わりますので細心の注意を払うべきでした」
と振り返えりました。今後、市民と対話する機会を設けたいと希望しています。

「サン・チャイルド」は東日本大震災をきっかけに、2011年からヤノベ氏が複数制作している。このうちの1体が2016年、同作品の10分の1スケール像と共に、「ふくしま自然エネルギー基金」に寄贈されたものです。

ふくしま自然エネルギー基金 代表理事 佐藤弥右衛門
以下に「ふくしま自然エネルギー基金」の代表理事、佐藤弥右衛門氏の略歴を掲載しておきます。
1951年、福島県喜多方市で200年以上続く造り酒屋・大和川酒造店の長男として生まれる。東京農業大学短期醸造科卒業後、大和川酒造店入社。2013年8月、会津電力を設立し社長に就任。現在、全国ご当地エネルギー協会・代表理事も務める。
佐藤氏は自然エネルギーの推進派であるようです。サイトをみてみると、2016年の設立記念シンポジュウムにおいては、反原発派で元総理の小泉純一郎氏が講演をしており、元官僚の古賀茂明氏らの講演も予定されています。
市の担当者によると、同基金から福島市に「寄贈したい」という声があったのは今年に入ってからだといいます。市へは、像の所有者である「ふくしま自然エネルギー基金」ではなく「ふくしま未来研究会」から寄贈されました。別団体からの寄贈になった理由は「詳しい経緯は不明」だと言います。

「ふくしま未来研究会」理事の佐藤勝三氏は、元佐藤工業会長です。佐藤工業は、 福島駅前再開発や除染・再エネ関連公共工事の地元土建最大手、談合での逮捕や指名停止もありりました。元福島県知事・佐藤善一郎の親族でもあります。

この「ふくしま未来研究会」は、地域活性化関連事業のほかに、再生エネルギー関連事業も実施しています。

設置場所がこむこむ前になったのは福島市の判断です。市西部にある「四季の里」や「十六沼公園」なども候補に挙がったのですが、「子どもたちに復興のシンボルとして見てもらいたい」という市の意向で決まりました。

像の設置に伴い、福島市は除幕式や組み立て費など合計133万円を負担しました。撤去には同程度かかる見通しです。撤去後は、分解した後、市が保管する予定になっています。その上で木幡市長は、今回の問題の責任を取り、自らの給与を減額する意向を示しました。


上部の骨組みがむき出しになった福島第原発の建屋

ご存じのように、2011年3月11日の東日本大震災に伴って、東電福島第一原発事故が発生しました。

事故当初には正確な被害状況が判らなかったこともあり、大きな混乱が生じました。たとえば福島市でも、空間の放射線量が一時20μSv/h を上回りましたが、「通常の○×倍の放射線量!」「放射能がくる」 といった、不安と恐怖を煽るヒステリックな言説が大量に飛び交った一方で、その数値が具体的にどういう意味を持ち、どの程度のリスクになるのか、それを冷静に伝えようとする声はかき消されてしまいました。

そのような状況を招いた要因の一つとして、原発や「放射能」そのものが、事故前から極めて政治的、かつ社会的なインパクトが強い存在であったことが挙げられます。

一部の人にとって原発は「核兵器と同じ放射性物質を燃料とする、原爆や戦争を想起させるもの」であるとともに「『権力』から押し付けられるものの象徴」でした。

福島はまたたく間に、激しい政治的対立やイデオロギー闘争の主戦場となりました。その中で、福島が「権力者の犠牲となった悲劇の地『フクシマ』」であり続けることや、「不幸なフクシマの真実」を喧伝することを、好都合とする人々さえ現れました。

結論を言えば、この事故で放射線被曝そのものを原因とした健康被害は起こりませんでした。福島に暮らす人々が実際に被曝した量は、内部・外部ともに世界の平均的な値と比べても高くなく、世界中で核実験が行われていた1960年代の日本人の平均的な被曝量よりもずっと小さいということが、国内外や官民問わず、さまざまな実測調査からすでに明らかになっています。

中には、福島の高校生らによる地道な実測調査もありました。それについては、このブログにも掲載したことがあります。その記事のリンクを掲載します。
被ばく量「国内外で差はない」 福島高生、英学術誌に論文―【私の論評】発言するならこの高校生たちのように感情ではなく、エビデンス(証拠・根拠、証言、形跡)に基づき行え(゚д゚)!
 

この記事は、2015年11月28日のものです。詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下に一部を引用します。

本県(ブログ管理人注:福島県)など国内とフランス、ポーランド、ベラルーシ各国の高校生の外部被ばく線量を比較研究してきた福島高スーパーサイエンス部は、被ばく線量について「ほとんど差はない」と結論づけ、論文にまとめた。論文は27日、英国の学術専門誌「ジャーナル・オブ・レディオロジカル・プロテクション」(写真下:表紙)に掲載される。


この福島高校の生徒らによる放射能の測定関するニュースは、2015年の4月にNHKで報道されていました。その内容はNHKのサイトに掲載されていましたが、現在では削除されています。この記事にはその内容を掲載しました。その内容を以下に引用させていただきます。
福島の高校生たちが、原発事故があった福島県内と県外の各地、それに海外で暮らす人の被ばく線量を測定し、比較する調査を行いました。
それぞれの場所で日常生活での被ばく線量に大きな差はみられなかったということで、高校生たちは「科学的なデータを多くの人に知ってもらいたい」としています。
調査を行ったのは、県立福島高校スーパーサイエンス部の生徒5人で、海外の学生から「福島で暮らして大丈夫なのか」と尋ねられたことをきっかけに始めました。 
生徒たちは去年6月から11月にかけて、原発事故の避難区域を除く、いわき市や郡山市など県内の6つの地点と、神奈川県や兵庫県、岐阜県など県外の6つの地点、それにフランスやポーランド、ベラルーシの海外の3つの国で、そこに暮らす高校生などにそれぞれ線量計を2週間、携帯してもらって、被ばく線量を測定しました。 
得られたデータをもとに年間の被ばく線量を推計したところ、その値が、真ん中となる「中央値」の人は、福島県内が、0.63から0.97ミリシーベルト、県外は0.55から0.87ミリシーベルト、それに海外では0.51から1.1ミリシーベルトでした。
放射線は、原発事故で拡散された放射性物質によるものだけでなく宇宙や地表から放出されているものもあり、こうした自然由来の放射線は地質の差など地域によって異なっています。 
生徒たちは「いまの福島で暮らしていて、国内のほかの地域や海外に比べて、とりわけ被ばく線量が高いわけではないことが確認できた」としています。 
生徒たちは、先月下旬、フランスで開かれた高校生の国際会議で調査の結果を公表したほか、今後海外の生徒を福島に招いて、現状をみてもらうツアーも計画しているということです。 
調査を行った3年生の小野寺悠さん(17)は、「科学的なデータを多くの人に知ってもらうとともに、自分でも福島の放射線量をどう受け止めたらいいか考え続けていきたい」と話していました。 
そうして、この記事での私の結論は以下のようなものです。
いずれにせよ、何か発言したり行動するならこの高校生たちのように感情ではなく、エビデンス(証拠・根拠、証言、形跡)に基づき行えと、声を大にして言いたいです。 
そうして、こうした若者にさらに大きな機会を与える社会にしていきたいものです。 
私は、そう思います。皆さんは、どう思われますか?
この私の信念は、今でも変わりません。これからも一生変わり続けることはないでしょう。

このブログの記事は、かなりインパクトがあったとみえて、多く人に読まれたようです。そうして、おそらく反原発派の方からと思しきコメントが寄せられました。下にそのままその内容を掲載します。
内部被ばくを理解していないあなたのような情報弱者が原子力推進派にとってはものすごく美味しいわけです。
このコメントに対して私は以下のような返答をしました。
内部被ばくの危険を煽る人もいますが、これを信用するなら私達は世界標準の放射線治療を受けることは不可能になります。
このコメントは、もっと詳細で長いものなのですが、簡単にいうと、癌の治療などで、放射性物質を飲み込み癌細胞に取り込ませ、癌を退治するのですが、もし内部被ばくが危険なものなら、そもそもこうした治療は最初から成り立たないことになります。

そもそも、治験時に相当危険な治療とされて、治療法として許可されないでしょう。ところが、実際にはこのような治療方法が用いられているわけですから、原発反対派の方々がよく言うほどの危険性はないことがわかります。そんなに危険であれば、この治療で内部被曝による死亡者がかなりでていることになります

詳細をご覧になりたい方は、このブログ記事の一番下のほうにある、コメント欄をご覧になってください。

原発事故から4年もたって、しかも私のような第三者が、掲載したブログにまでこのような人を小馬鹿にするようなコメントを平気でする反原発派の方がいるということですから、福島に向けられた誤解や、プロパガンダなどは凄まじいものがあったのは想像に難くありません。

この高校生たちの観察結果からも、 その他の報告書においても、福島の放射線被爆量は国内の他地域や海外に比較してとりわけ高いということはないのです。

一方で、避難に伴う生活環境の変化による健康状態の悪化や、震災関連死は増えました。避難を巡る考え方の違いを発端とした離婚が起こったケースもあります。もちろん、中には避難によって安心感や安定が得られた方もいらっしゃるでしょうが、少なくともデータの上では、無理に避難することは、もとの生活圏に留まるよりも総じてリスクが高かったといえるのです。

ただし、これはあくまでも結果論です。震災発生当時、多くの人が明日をも知れない大きな不安に包まれていました。それから必死で学び、悩み、沢山の決断を繰り返す中で、県民は多かれ少なかれ傷付いてきました。

重く苦しい2011年当時の空気感から7年以上の時間と苦難を越え、福島では平穏な日常を取り戻す住民が増えてきましたが、そこに至るまでの道のりや、震災の記憶が大きな痛みとして心に刻まれている人も少なくありません。

そんなある日、大勢の人たちが平穏な日常を暮らす福島駅前に突然現れたのが、2011年からやってきた「サン・チャイルド」でした。

2011年の作品ですから、その頃の感覚が強く表現されているのは当然のことです。作者であるヤノベ氏に悪意があったとは、少なくとも私は全く捉えていません。

しかし、人々が日常的な通勤や通学、ショッピングに訪れる福島駅前の、しかも子ども達のための施設の入り口に、突如として現れた6.2mの巨大な「2011年からの使者」に向けられたのは、歓迎の声ばかりではありませんでした。

像が着ている防護服が、「防護服が必要なほど、福島は汚染されていた」「市民は過去、大量の被曝をした(=将来、健康に影響が出るに違いない)」という誤ったイメージを喚起しかねない点も指摘されています。

福島市では、実際には防護服が必要となったことは一度もありませんでした。現在では、廃炉作業が進む福島第一原子力発電所の作業員ですら、防護服を着て作業するエリアは極めて限定的です。

つまり「サン・チャイルド」で表現されている、「2011年に想像された未来」よりも、「現実に訪れた未来」の放射線被害はずっと小さかったのです。

むしろ、実際に住民たちに苦難をもたらしたのは、自らのイデオロギーやビジネスのために「放射線被曝での健康被害に苦しむフクシマ」を望む人々による、偏見・差別、言いがかりや嫌がらせなどの二次被害だったとも言えます。

日常空間に防護服を着て乗り込んできたのは、一部の政治家や、住民への嫌がらせとデマ拡散を繰り返してきた人々ばかりだったことも、指摘しておきましょう。

「警戒地域」を防護服姿で視察する当時の政権与党民主党の岡田幹事長

国民新党の亀井静香代表は2011年5月10日午後、党本部で自民党の大島理森副総裁と会談していますが、大島氏によると、亀井氏は民主党の岡田克也幹事長が先に福島第1原発から半径20キロ圏内の警戒区域を視察したことに触れ、「自分だけ防護服を着て、相手が防護服なしで会う姿にあぜんとした。心の通い合う政治をやらなければ駄目だ」と批判しています。枝野氏なども含めて民主党の政治家は、当時このような視察をしていました。当時、作業服姿で現地を訪問していた、天皇陛下とは対照的でした。 

このような経験があったために、今回の「サン・チャイルド」に対しても、設置に至る経緯の不透明さと説明不足もあいまって「なぜいま、どのような目的で持ち込まれたのか」「ツイッターなどSNS上の発言も含めて、県内外でどういう人たちが、どのような反応をしたり関わったりしているのか」など、その背後関係や経緯に対して、多くの住民から不安と警戒のまなざしが向けられてしまったのも無理はありません。

放射能は悪ではありません。自然放射線をゼロにすることはできないですし、する必要もありません。福島第一原発事故でも、放射能による死者は出ていません。今これを否定する人はいないですが、事故の当時、民主党政権は「年間1ミリシーベルト」という非科学的な安全基準を出し、これを根拠に過剰避難や莫大な損害賠償請求が発生しました。

反原発という主張をしたり、自然エネルギー活用を主張したりすること自体は自由ですが、その主張を通すために、虚偽の情報を流したりすることなど到底許されることではありません。さらに、今回のようにアートを自分たちの意図を通したり、強化したりするたに利用することも、多くの福島市民から拒否されて、撤去さざるをえなくなったのです。

このように、放射能をめぐる迷信が変わってきたことは歓迎すべきですが、デマを流した人々が復興を妨げた罪は大きいです。ヤノベ氏は謝罪のコメントを出したのですが、今度は反原発派がデマを撤回して謝罪するべきです。

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2018年8月31日金曜日

米も知らなかった…日朝極秘接触 7月にベトナムで拉致問題全面解決に向け協議 日米連携に影落とす危険性も ―【私の論評】ワシントン・ポストでは相変わらずパンダハガーが勢いを維持している(゚д゚)!


北朝鮮交換と接触したとされる北村滋内閣情報官
写真はブログ管理人挿入 以下同じ

 日本と北朝鮮の情報当局高官が7月、ベトナムで極秘接触していた。日本人拉致被害者の全員救出を目指し、安倍晋三首相が信頼する内閣情報官が、金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長の側近である、金英哲(キム・ヨンチョル)党副委員長(統一戦線部長)に直結する女性幹部と非公式協議を行ったという。日朝首脳会談の可能性も探ったとみられる。ただ、ドナルド・トランプ米政権には事前に伝えておらず、今後の日米連携に暗い影を落とす可能性もある。

 米紙ワシントン・ポスト(電子版)は28日、衝撃の「日朝極秘接触」のニュースを、関係者の話として伝えた。

 同紙によると、日本からは北村滋内閣情報官、北朝鮮からは南北関係を担当する統一戦線部の金聖恵(キム・ソンヘ)統一戦線策略室長が出席した。拉致被害者問題などについて協議したという。

金聖恵(キム・ソンヘ)統一戦線策略室長

 北村氏は警察庁出身で、第1次安倍政権では首相秘書官(事務担当)を務めた。民主党政権時代の2011年12月末に、内閣情報調査室(内調)を率いる内閣情報官となった。自民党の政権奪還後も留任し、「首相動静」の登場回数が断トツなど、安倍首相の信頼は絶大である。

 金聖恵氏は、金日成(キム・イルソン)総合大学出身とされるエリート官僚で、金英哲氏が5月、正恩氏の親書を持参して訪米した際に同行して注目された。統一戦線部は、CIA(中央情報局)とともに、6月の米朝首脳会談への事前交渉を主導した工作機関であり、金聖恵氏は実務責任者とみられている。

 トランプ大統領と正恩氏がシンガポールで行った米朝首脳会談で、正恩氏は「日本と対話する用意がある」と前向きに語ったとされる。拉致問題は、米国任せだけでは解決しない。そこで、北村氏と金聖恵氏による日朝極秘接触がセットされたようだ。

 官邸周辺は「正恩氏は昨年以降、米朝対話の総指揮を金英哲氏に一本化している。米国でいえば、金英哲氏は国務長官とCIA長官を兼ねているような存在で、北朝鮮の外交と諜報の両面で絶大な力を持つ。官邸とすれば、拉致問題の解決のためには、金英哲氏に絶対につながる金聖恵氏は、ノドから手が出るほど欲しいパイプだった。このため、本来は格が上の北村氏(=格的には金英哲氏と同等)を直々に接触させたと聞く」と語る。

金英哲氏

 この後、8月にも河野太郎外相が訪問先のシンガポールで、北朝鮮の李容浩(リ・ヨンホ)外相と短時間接触した。

 安倍首相にとって、拉致問題の全面解決は悲願である。

 拉致被害者家族会の結成20年にあたる昨年、安倍首相は夕刊フジの独占インタビューに応じ、次のように語った。

 「13歳の少女(横田めぐみさん)を含む、多くの日本人が拉致され、今も北朝鮮でとらわれたままだ。この問題を解決するのは、安倍政権にとって最重要課題だ」

 「正恩氏に対し、『拉致、核、ミサイルの諸問題を解決しない限り、北朝鮮は世界からますます孤立し、明るい未来を描くことはできない』と理解させなければならないと思っている」

 「拉致問題を解決するために、あらゆる選択肢を検討する用意はある。一方、『対話のための対話』では意味がない。私と正恩氏が握手するショーのための会談は、むしろ行うべきでないと思う」

 2002年の日朝首脳会談にも、官房副長官として出席した安倍首相は、北朝鮮の欺瞞(ぎまん)性を熟知している。北朝鮮が何度も日本や世界をだましてきたことも体験している。

 このため、安倍首相は6月、官邸で拉致被害者家族と面会した際、「拙速にはやらない。北朝鮮が被害者をすべて帰すといったら(北朝鮮に)行く」と、慎重に語った。

 「北朝鮮の非核化」をめぐる米朝協議が停滞・難航するなか、拉致問題をめぐる日朝協議の進展も簡単ではない。

 加えて、日朝極秘接触が事前に知らされなかったことに、米政府当局者らは不満を高めているという。

 前出のワシントン・ポストによると、複数の米政府高官は、北朝鮮政策について日本と日々情報を共有しているにもかかわらず、日本政府が接触の計画を事前に伝えなかったことに不快感を示したという。

 官邸周辺は「情報の出方を精査する必要があるが、今回の(ワシントン・ポストへの)リークは、北朝鮮問題をめぐる日米連携に暗い影を落とす危険性がある」と語っている。

【私の論評】ワシントン・ポストでは相変わらずパンダハガーが勢いを維持している(゚д゚)!

ブログ冒頭の記事における、ワシントン・ポストの報道はすぐに真に受けない方が良いと思います。

ワシントン・ポストには「複数の米政府高官は、北朝鮮政策について日本と日々情報を共有しているにもかかわらず、日本政府が接触の計画を事前に伝えなかったことに不快感を示した」としていますが、これが具体的には誰なのかについては触れられていません。

当然のことながら、日本が北と接触することは、内密に行われていたことであり、米国には全く知らせないか、知らせたにしても、ごく一部にしか知らせない可能性もあります。

仮にワシントン・ポストが比較的下の職位の関係者に複数確認を入れたとしても、知らないのは当然なのかもしれません。

もし、複数の関係者の名称が具体的にあげられていたら、このワシントン・ポストの報道はかなり信憑性があると考えて間違いないです。日本側の関係者の実名もあげられていれば、さらに信憑性があるものといえます。

それに、そもそも独立国である日本が、米国に対して日本の高官が、北朝鮮の比較的低い職位の関係者に会ったことまで、何もかも報告する義務があるのでしょうか。

日米関係については、日本は何でも米国の言うとおりとする識者も結構いますが、それは、あのTPP交渉において、そうとばかりはいえないことがはっきりしました。TPP交渉反対派の人々は、TPP交渉をすれば日本は米国の良いようにされるといって大騒ぎしましたが、その懸念はトランプ大統領がTPPから離脱し、そうではなかったことがはつきりしました。

無論、今でも日本は米国の大きな影響下にあることは否定しませんが、何もかも米国の言いなりというのは、正しくはないです。

なぜ、このようなことを言うかといえば先日も、ワシントン・ポスト氏はトランプ大統領に関して間違った報道をしていましたので、特に日米関係の報道は、信憑性が疑われるからです。

それについては、昨日のこのブログにも掲載しました。その記事のリンクを以下に掲載します。
「真珠湾攻撃忘れないぞ」トランプ米大統領、安倍首相に圧力―【私の論評】日本のメディアは米国保守派の歴史観の変貌に無知(゚д゚)!
会談で握手する安倍首相(左)とトランプ米大統領=6月、ワシントンのホワイトハウス

詳細はこの記事をご覧いただくものとして、以下に一部を引用します。
米紙ワシントン・ポスト電子版は28日、トランプ大統領が6月にホワイトハウスで安倍晋三首相と会談した際「(第2次大戦の)真珠湾攻撃を忘れないぞ」と前置きした上で、難航している通商問題の協議を始めたと伝えた。異例の発言の背景には、対日貿易赤字の削減を目指し圧力を強める狙いがありそうだ。 
・・・・・〈中略〉・・・・・・・ 
一方多少まともに報道しているところもあります。これは、FNNの取材でわかったことですが、6月にアメリカで行われた日米首脳会談において、トランプ大統領は確かに「アメリカが日本の防衛費を負担して、対日貿易赤字も解消されなければ、ダブルパンチになる」と不満を表明しました。 
そのうえで、「真珠湾攻撃を忘れていない。日本も昔はもっと戦っていただろう。日本も周辺国ともっと戦うべきだ」と述べたのです。
この発言は、「日本が自国の防衛を強化して、アメリカの防衛費の負担を減らすべきだ」と、暗に求めたとみられます。 
関係筋などによると、この時トランプ大統領は、「日本はかつて真珠湾を攻撃したほどの軍事強国であったじゃないか」と言う意味で述べたもののようです。
日本は「防衛費をもっと増やすべきだ」という意味で発言したもので、通商問題で日本を非難する意味ではなかったとしています。
 また、トランプ大統領は、「パールハーバー」と発言したものの、「あのひきょうな攻撃を忘れないぞ」という批判的な意味、言い方はしていないとのことです。
外交上、際どい言葉は、異なる解釈を生み出すケースがあるため、そうした言葉が波紋を生んだケースだといえそうです。 
また、メディアとの関係もあります。トランプ大統領に対して批判的な米リベラル・メディアは、そういうふうに報道したというベースがあるとも忘れてはいけないです。
また、この記事では、 日本のパールハーバー攻撃を卑怯なだまし討とみるのではない見方もあることも掲載しました。米国では特に保守層では、真珠湾攻撃は日米両国がそれぞれの国益を追求した結果起こったものであるとして、日本を「侵略国」であると決めつけた「日本悪玉史観」は事実上、見直されているのです。

トランプ氏も保守派であることから、当然のことながら、こうした歴史観に立脚して「リメンバー・パール・ハーバー」という言葉を使っているとみるべきなのです。であれば、対日貿易赤字の削減を目指し圧力を強める狙いでこの言葉を使った事はありえないわけであり、ワシントン・ポスト紙によるトランプ大統領の「リメンバー・パールハーバー」報道はかなり偏向しているといわざるをえません。

ワシントン・ポスト紙は以前から、日本報道に関して、かなり偏向していました。たとえば、在米の複数の中華系団体は2016年8月15日付け付の米紙ワシントン・ポスト無料版に、日本最南端の東京都・沖ノ鳥島は「島ではない」と主張する意見広告を出しました。また、台湾が実効支配する南シナ海の太平島は「島」ではないとした7月の仲裁裁判所の判断は「不合理だ」と訴えました。

意見広告には台湾の大学の卒業生が組織したとみられる団体や、日本の戦争責任を追及する中華系の団体など台湾系を中心とするグループや個人が名を連ねました。仲裁判断への不満や、沖ノ鳥島を巡る異論を米国で認知させる狙いがあるとみらます。

このことから、ワシントン・ポストは、パンダハガー(親中派)が力を持った新聞であると考えれます。ちなみに、ワシントン・ポストは米国では発行部数が第5位です。

ルパート・マードック氏(左)と三番目元妻ウェンディ・トン氏(右)

一方米国で販売部数が第1位のウォール・ストリートはオーナーのルパート・マードック氏は三番目元妻ウェンディ・トン氏が、中国系であり、親中派であったとみられていますが、その後離婚しました。そのせいもあるのか、極端に親中的な報道をするということありませんでした。

そうして、今年の3月に、ウォール・ストリート紙は、ウェンディ・トン氏は「中国のスパイ」との疑惑を報じています。トン氏は米ドナルド・トランプ大統領の娘婿で、大統領上級顧問を務めるジャレット・クシュナー氏との親しい関係を利用して、トランプ政権内部の機密情報を入手し、中国共産党指導部に流しているというのです。

さらに、親中派の論客として知られ『鄧小平伝』も書いたデーヴィッド・シャンボー(ジョージワシントン大学教授)は大胆にも中国共産党の崩壊を予測し、「ウォール・ストリート・ジャーナル」(2015年3月10日)に寄稿していました。

これについては、詳細は、このブログにも掲載しました。その記事のリンクを以下に掲載します。
中国寄りの専門家さえついに唱えだした「中国大崩壊」の論拠―【私の論評】ニッポン人中国スパイ、親中派、媚中派は速やかに転向せよ、そうでないと飯のくいあげになるぞ(゚д゚)!
デビッド・シャンボー教授
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、これはタイトルの通り、中国共産党による支配が、今後〈終焉に向かうだろう〉ことを、理由を挙げながら指摘したウォルストリート紙のコラムで。

これが世界的な話題となった理由の一つは、チャイナハンド(*注)と考えられた人物が中国の崩壊に警鐘を鳴らしたからです。中国に対するスタンスは本人も認めているようで、天安門事件後に体制崩壊と衰退が不可避だと主張する中国ウォッチャーがいるなか、より慎重な立場をとってきたとしています。

【*注:中国の立場を理解する外交官、ジャーナリスト、学者の総称】

つまり衝撃の正体は「あの中国にやさしい専門家さえ『危ない』といっている」という点にあったのです。

以前からこのブログで指摘しているように、米国の新聞は、全部がリベラル系であり、日本でいえば産経新聞がないといっても良い状況ですが、その中でも老舗のウォール・ストリート・ジャーナルは比較的まともな報道をしているといえそうです。

しかし、ワシントン・ポストはあいかわらす、パンダハガー(親中派)の勢いが強いのでしょう。

これは、同時に中国の現状の大変さを物語っているとも受け取れます。日米が協同して、中国を叩くということになれば、中国には太刀打ちできません。

中国としては何とかして、日本を味方に引き入れ、日本を親中派政権にして米国の経済冷戦をかわしたいと考えているのかもしれません。だからこそ、ワシントン・ポストを利用して、日米が離反するように仕向けている可能性があります。しかし、次の総裁選では安倍総理が圧倒的に有利ですから、そのような目論見は成就することはないでしょう。

これは、しばらく趨勢をみてみないことには、まだなんとも言えませんが、ワシントン・ポストの報道にはこういう背景があるということを知った上で、報道を吟味すべきと思います。特にワシントン・ポストを鵜呑みにする日本の報道には、留意すべきです。

【私の論評】


2018年8月30日木曜日

「真珠湾攻撃忘れないぞ」トランプ米大統領、安倍首相に圧力―【私の論評】日本のメディアは米国保守派の歴史観の変貌に無知(゚д゚)!


会談で握手する安倍首相(左)とトランプ米大統領=6月、ワシントンのホワイトハウス

米紙ワシントン・ポスト電子版は28日、トランプ大統領が6月にホワイトハウスで安倍晋三首相と会談した際「(第2次大戦の)真珠湾攻撃を忘れないぞ」と前置きした上で、難航している通商問題の協議を始めたと伝えた。異例の発言の背景には、対日貿易赤字の削減を目指し圧力を強める狙いがありそうだ。

米国では真珠湾攻撃は「卑劣なだまし討ち」との見方が強い。日本側の弱みと見なしてトランプ氏が通商交渉で譲歩を引き出すために、あえて日米首脳会談で触れた可能性がある。

同紙によると、トランプ氏は真珠湾攻撃に言及した後、米国の対日貿易赤字について激しく非難し、安倍氏に対し牛肉や自動車の対日輸出で米国に有利になるような2国間貿易協定の交渉に応じるよう促した。

これに対し安倍氏は、トランプ氏の発言が終わるのを待った上で反論。日本政府当局者は「首相は大統領の主張を断定的に否定すれば、プライドを傷つけてしまうと分かっている」と説明した。(共同)

【私の論評】日本のメディアは、米国保守派の歴史観の変貌に無知(゚д゚)!

時事通信や共同通信、新聞各紙が、トランプ大統領が「真珠湾攻撃を忘れていないと発言し、通商交渉で厳しい姿勢を示した」とし、「揺らぐ日米蜜月」などと報じています。

この「パールハーバー発言」は、そもそもアメリカの新聞「ワシントン・ポスト」が、トランプ大統領が安倍首相に対して、「真珠湾攻撃はひきょうだった」と非難する、「アイ・リメンバー・パールハーバー」、つまり、「真珠湾攻撃を忘れないぞ」という言葉を使って、通商問題で譲歩を迫ったと報じたことが始まりでした。しかし、各紙はしっかりと総理周辺などに取材したのでしょうか。

日本軍による真珠湾攻撃

トランプ大統領は、真珠湾攻撃ではないものの先の大戦に関しこれまでも同様の発言を繰り返し、防衛費増について話を日本側に振っています。

すなわち防衛装備品の購入増につながるわけで、それをアメリカも狙っているわけですが、アメリカの新聞の引用ではなく、しっかりと取材をし記事を書いて欲しいものです。

一方多少まともに報道しているところもあります。これは、FNNの取材でわかったことですが、6月にアメリカで行われた日米首脳会談において、トランプ大統領は確かに「アメリカが日本の防衛費を負担して、対日貿易赤字も解消されなければ、ダブルパンチになる」と不満を表明しました。

そのうえで、「真珠湾攻撃を忘れていない。日本も昔はもっと戦っていただろう。日本も周辺国ともっと戦うべきだ」と述べたのです。

この発言は、「日本が自国の防衛を強化して、アメリカの防衛費の負担を減らすべきだ」と、暗に求めたとみられます。

関係筋などによると、この時トランプ大統領は、「日本はかつて真珠湾を攻撃したほどの軍事強国であったじゃないか」と言う意味で述べたもののようです。

日本は「防衛費をもっと増やすべきだ」という意味で発言したもので、通商問題で日本を非難する意味ではなかったとしています。

また、トランプ大統領は、「パールハーバー」と発言したものの、「あのひきょうな攻撃を忘れないぞ」という批判的な意味、言い方はしていないとのことです。

外交上、際どい言葉は、異なる解釈を生み出すケースがあるため、そうした言葉が波紋を生んだケースだといえそうです。

また、メディアとの関係もあります。トランプ大統領に対して批判的な米リベラル・メディアは、そういうふうに報道したというベースがあるとも忘れてはいけないです

このブログでも何度か述べたように、米国のメデイアはほとんどがリベラルです。その中で、特に大手新聞はすべてがリベラルです。米国のメディアのリベラル対保守を比率でいうと、代替9対1の割合です。

そのため、保守派が何かをいっても、ほとんどがリベラルメディアによってかき消されてしまうというのが現状です。そのため、私達日本人などは、リベラルメディアによる報道のみに接しているため、米国の半分のリベラルの見方や考え方にせっしているわけです。

ところが、トランプ大統領が誕生したことでもわかるように、実は米国にも当然のことながら、保守派も存在するわけです。少なくとも、米国の人口の半分くらいは存在するはずです。でなければ、トランプ大統領など誕生する余地もなかったはずです。

メディアを批判するトランプ大統領

結果として、私達日本人は米国のリベラルのことはみていても、後半分の保守層のことは全く見ていないということになります。

そうして、日本のメディアは米国のリベラルメデイアの報道する内容をそのまま報道することが多いので、いつまでたっても、日本ではアメリカの半分である保守の言っていることや考えていることがわからないままなのです。

だからこそ、ブログ冒頭の記事のような報道がなされてしまうことが良くあるのです。

そうして、このトランプ氏を含めた保守派の「真珠湾」という言葉の意味は、従来とは明らかに変わっています。それについては、以前このブログに掲載したことがあります。そのブログのリンクを以下に掲載します。
やはり「中国と対決」の道を選んだトランプ政権―【私の論評】背景には米国内での歴史の見直しが(゚д゚)!
米国のドナルド・トランプ大統領(左)と中国の習近平国家主席(2017年11月9日)

この記事は、2017年12月27日のものです。詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事には動画が掲載してあり、その動画ではトランプ大統領のいう「真珠湾忘れるな」の意味について説明しています。

以下にその動画と、記事の一部を引用します。




この動画では、米国では多様な歴史の見方があることを語っています。たとえば、日本のパールハーバー攻撃を卑怯なだまし討とみるのではない見方もあることを語っています。 
1941年12月7日(現地時間)、日本軍が真珠湾攻撃をした当時、アメリカのルーズヴェルト民主党政権は「卑怯な騙し討ち」と非難しました。日米両国が懸命な戦争を避けるための外交交渉をしていたのに、日本がいきなり真珠湾を攻撃してきたという見方です。 
しかし、日米交渉の経緯について知られるようになるにつれ、日米交渉を潰したのは、ルーズヴェルト民主党政権側であったことが知られるようになっていきました。 
先の戦争は決して日本の侵略戦争などではなかったにもかかわらず、アメリカのトルーマン民主党政権は東京裁判を行い、日本の指導者を侵略者として処刑しました。このことは、公正と正義を重んじたアメリカ建国の祖、ワシントンやリンカーンの精神を裏切る行為です。 
これまで戦争責任といえば、必ず日本の戦争責任を追及することでした。過去の問題で批判されるのは常に日本であって、過去の日本の行動を非難することがあたかも正義であるかのような観念に大半の日本人が支配されてしまっています。しかし、どうして戦争責任を追及されるのは常に日本側なのでしょうか。 
敗戦後の日本人が、「戦争に負けたのだから」と連合国側による裁きを甘受したのは仕方のないことだったかもしれません。しかし、歴史の真実は勝者の言い分にのみ存するのではないはずです。 
上の動画をみてもわかるように、米国では真珠湾攻撃は日米両国がそれぞれの国益を追求した結果起こったものであるとして、日本を「侵略国」であると決めつけた「日本悪玉史観」は事実上、見直されているのです。

この「日本悪玉観」を見直しているのは、あくまで米国の保守派であって、リベラル派の多くは未だに「日本悪玉観」で歴史をみています。

米国のリベラル派は、おそらく米国の人口の半分はいるとみられる保守層の「歴史観」の変貌にきづいているでしょう。かなりの脅威を感じているに違いありません。

トランプ氏の歴史観も当然ながら、「日本悪玉観」ではないので、当然のことながら、安倍総理に「真珠湾を忘れない」と語ったのも、 無論「卑怯な騙し討ち」を意味するものではないのです。

このような事実を知っていれば、日本の新聞も誤った報道をしないですんだかもしれません。

その意味では、今回の出来事は、日本のマスコミが米国の主に保守派においては、歴史観が変わって単純な「日本安悪玉観」は通用しなくなっていることに関して無知であることを露呈したともいえると思います。

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2018年8月29日水曜日

金融緩和政策を止めるな! 平成の30年はデフレの時代…原因は不要な「バブル潰し」―【私の論評】「世界的貯蓄過剰2.0」に気づかなければ、日本は平成の終わりとともに「失われた100年」を迎える(゚д゚)!


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2019年4月30日をもって、「平成」の世は終わりを迎える。一体、平成時代とは日本にとってどんな時代だったのだろうか。新しい時代を迎えるにあたって、一体何が変わり、何が変わらないのだろうか。

 思えば平成は「バブル経済」で始まった。現在、一般的にバブルは“浮かれたカネの亡者による狂宴”のように思われている。しかし、果たして本当にそうなのだろうか。その功罪は、きちんと検証されているのだろうか。

 一向に景気が上向かなかった時期を経て、日本経済はITバブルや、筆者も期せずして当事者となった小泉改革、そして民主党政権、東日本大震災、アベノミクスへと移り変わっていった。この“失われた20年”、厳しくいえば、“失われた30年”から学ぶべきことは少なくない。

 あるテレビ番組で、デフレはいつから始まったのかという質問があった。

 デフレの国際的な定義は「2期連続での物価下落」と定められている。ここでいう物価とは、一国経済の話なので、消費者物価と企業物価を合わせたGDPデフレーターでみるのが普通だ。それによると、デフレは1995(平成7)年からと判断できる。となると、平成のかなりの期間はデフレだったといえるだろう。

 その原因は、「バブル」ではなく、「バブル潰し」だった。バブルには原因がある。当時、価格が高騰していたのは株と土地だけだった。筆者のみたところでは、これは株式に関する税制上の抜け穴が主要因で、それを利用した証券会社や金融機関の「財テク」商品が開発され、株と土地のバブルを形成していた。

 株と土地だけの話なので、証券会社の「財テク商品」(当時「営業特金」といわれた)と金融機関の不動産融資を規制すればよかった。当時、役人であった筆者は証券会社の規制を担当した。その規制は89年12月に出され、金融機関規制も90年3月に出た。それで終わりのはずだった。

 ところが、「平成の鬼平」と持ち上げられた日銀の三重野康総裁は、バブル潰しのために金融引き締めを行った。当時のインフレ率は3%以下だったので、もしいまのインフレ目標(2%)が導入されていたとしても、過度な引き締めは不必要と判断されるべき状況だった。

 この件について、筆者は経済学者のバーナンキ米連邦準備制度理事会(FRB)元議長に聞いたことがある。彼の答えは、「株などの資産価格だけが上昇しているときに必要なのは資産価格上昇の原因の除去であり、一般物価に影響のある金融政策の出番ではない」というものだった。そもそも一般物価に資産価格は含まれていないので、バブル退治に金融政策を使うのはお門違いだった。

 しかも、日銀官僚の「無謬(むびゅう)性」(間違いはないとの過信)から、バブル後の金融引き締めが正しいと思い込んだので、その後もデフレ不況が継続した。

 アベノミクスの金融緩和で、ようやく平成のデフレから脱出しかけている。あと一歩のところだ。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】「世界的貯蓄過剰2.0」に気づかなければ、日本は平成の世の終わりとともに「失われた100年」を迎えることになる(゚д゚)!

論評の前に、まずは上の記事にもでてきたGDPデフレーターの解説をします。GDPといっても、「名目」と「実質」があります。簡単にいってしまえば、「名目GDP」は物価変動の影響を受けた表面上の値、「実質GDP」は物価変動の影響を除いて計算された内情的な値です。

例えば第一次大戦後のドイツにおけるインフレはよく知られていますが、あのインフレ(インフレーション:物価上昇、通貨価値の下落)で上昇した同国の名目GDPをそのまま経年比較に用いると、「あの時のドイツは物凄い経済成長を果たした」となってしまいます(もっとも為替レートもそれに伴い急変しているので、他国との比較ではそこまで酷い話にはならない)。かといつて、実質GDPを用いれば、そのような奇妙な結果は出てこないです。

見方を変えると、名目GDPと実質GDPが均衡していれば物価も均衡、名目GDPが実質GDPを上回れば物価は上昇、下回れば物価は下落となります。

これを分かりやすくするために設けられた指標が「GDPデフレーター」という指標です。これは「名目GDP÷実質GDP」で算出されるものです。

実際には名目GDPから実質GDPを算出するための指標であり、実質GDPが最初から計上されているわけではありません。名目GDPが物価の影響を受けているもの、実質GDPが受けていないものであることから、GDPデフレーターは物価変動の度合いを示す物価指数でもあります。

よって、GDPデフレーターの動きを見て、増加しているようならばインフレーションが、減少しているならばデフレーションが生じていると判断できます。

次に示すのは日米中3か国のGDPデフレーターの前年比です。この値がプラスならばインフレーション、マイナスならばデフレーションが生じていることになります。また、この値をインフレ率とも呼んでいます(マイナス値ならばマイナスのインフレ、つまりデフレが生じています)。



アメリカ合衆国はきれいな形でインフレーションが生じており、1980年代後半以降は年2-3%程度のインフレが確認できます。他方中国は(統計上の精度の問題もあるのでしょうが)大きな上下を繰り返しており、20%を超えるインフレが生じた年もありますが、大よそはインフレを継続。2012年以降はアメリカ合衆国同様に年数%のインフレに留まっています。

日本はといえば元々インフレ率は低迷していて、1990年代後半に至ると失速し、以後は大よそマイナス圏、つまりデフレーションが生じる形となっています。2014年にようやく出れフーションから脱したものの、インフレ率は米中と比べるとまだ低迷状態にあることは否めないです。

GDPデフレーターの前年比推移のうち日本のみを抽出したのが次のグラフです。


バブル経済が崩壊して間もなくのタイミングの1997年あたりで、GDPデフレーター前年比はマイナスに落ち込み、デフレーション状態となっています。プラスに復帰するのは2014年に入ってからなので、言葉通り「失われた20年間」が生じたことになります。いわゆる「ロスジェネ」が発生したのもこの時期に一致しており、「ロスジェネ」が発生したのは、このデフレによるものであることは言うまでもありません。

デフレーション状態が続くと「政府の債務実質負担が増加する」「企業債務の実質的な負担が一層重たくなるので、債務を有する企業の活動が鈍くなる」「物価は下落するが名目賃金、名目金利がさほど下がらないと、実質賃金、実質金利が上昇するため、企業収益を圧迫」することになります。

「消費者は手持ち資産の購入力が増すために消費が増大する」ように見えますが、「実質的な効果はさほど大きくない」です。「住宅ローンを抱えている世帯が多く、その世帯の家計への負担が大きくなる」「物価下落に対する先行き不透明感や『待ちのお得さ』心理から買い控えが起きる」などの弊害が生じます。

多かれ少なかれ、これは多くの人々経験したことがあり、なるほど感を覚えるものがあります。バブル崩壊後から続く日本の長期景気低迷感は、デフレ状態が原因なのです。

デフレーションにもよい面はあり「デフレ期は名目賃金は下がるがそれ以上に物価も下がっているので実質的な賃金は上昇し、国民の生活は豊かになる」どと主張する人もいますが、それは大きな勘違いです。

実際は私達が実際に過去に見てきたとおり、デフレ期には実質賃金が下がっており、逆にインフレ期にこそ実質賃金が上昇しています。デフレで良い事など一つもありません。だからこそ、デフレは経済の癌などといわれて恐れられてきたてのです。

金融政策などによる明確なインフレへのかじ取りは、色々な意味でこの先数十年の日本の流れかを変えていくことになるでしょう。今後の動向にも大いに注目したいところです。

ブログ冒頭の高橋洋一氏記事では、平成におけるデフレのきっかけは、「株などの資産価格だけが上昇しているときに必要なのは資産価格上昇の原因の除去であり、一般物価に影響のある金融政策の出番ではない」にもかかわらず、バブル退治に金融引き締めをしてしまったことにあるとしています。

まさに、その通りです。確かにあの時に、金融引締めをしないでいれば、デフレは生じていなかったはずてす。官僚の誤謬は本当に恐ろしいです。

さて、平成の世があと少しで終わり、元号が何になるのか今はわかりませんが、元号が新しくなるとともに、日本はデフレからきっぱりと決別して、緩やかなインフレの時代に移行していただきたいものです。

ただし、新しい元号になってからも、官僚の誤謬による間違った金融政策が実施され、とんでもないことになり、失われた30年どころか、失われた40年を迎える可能性は否定しきれません。

そのもっともありそうなシナリオは、ここしばらく日本がデフレスパラルの底に沈んていた間に、世界は完璧に変わってしまったことを官僚が認識できずに、再び金融引締めをするというものです。

これについては、このブログでも以前紹介した野口旭氏の記事が参考になります。その記事のリンクを以下に掲載します。
世界が反緊縮を必要とする理由―【私の論評】日本の左派・左翼は韓国で枝野経済理論が実行され大失敗した事実を真摯に受け止めよ(゚д゚)!

野口旭氏

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下に従来とは明らかに変わった世界について関連する部分を引用します。
1960年代末から始まったアメリカの高インフレや、1970年代初頭の日本の「狂乱物価」が示すように、金融緩和や財政拡張の行き過ぎによる経済的混乱は、少なくとも1980年代前半までは、先進諸国においても決して珍しいものではなかった。つまり、その時代には確かに「財政と金融の健全な運営」がマクロ経済政策における正しい指針だったのである。 
ところが、近年の世界経済においては、状況はまったく異なる。「景気過熱による高インフレ」なるものは、少なくとも先進諸国の間では、1990年代以降はほぼ存在していない。リマーン・ショック以降は逆に、日本のようなデフレにはならないにしても、多くの国が「低すぎるインフレ率」に悩まされるようになった。また、異例の金融緩和を実行しても景気が過熱する徴候はまったく現れず、逆に早まった財政緊縮は必ず深刻な経済低迷というしっぺ返しをもたらした。世界経済にはこの間、いったい何が起こったのであろうか。 
一つの仮説は、筆者が秘かに「世界的貯蓄過剰2.0」と名付けているものである。世界的貯蓄過剰仮説とは、FRB理事時代のベン・バーナンキが、2005年の講演「世界的貯蓄過剰とアメリカの経常収支赤字」で提起したものである。バーナンキはそこで、1990年代末から顕在化し始めた中国に代表される新興諸国の貯蓄過剰が、世界全体のマクロ・バランスを大きく変えつつあることを指摘した。リマーン・ショック後に生じている世界経済のマクロ状況は、その世界的貯蓄過剰の新段階という意味で「2.0」なのである。 
各国経済のマクロ・バランスにおける「貯蓄過剰」とは、国内需要に対する供給の過剰を意味する。実際、中国などにおいてはこれまで、生産や所得の高い伸びに国内需要の伸びが追いつかないために、結果としてより多くの貯蓄が経常収支黒字となって海外に流出してきたのである。 
このように、供給側の制約が世界的にますます緩くなってくれば、世界需要がよほど急速に拡大しない限り、供給の天井には達しない。供給制約の現れとしての高インフレや高金利が近年の先進諸国ではほとんど生じなくなったのは、そのためである。 
この「長期需要不足」の世界は、ローレンス・サマーズが「長期停滞論」で描き出した世界にきわめて近い。その世界では、財政拡張や金融緩和を相当に大胆に行っても、景気過熱やインフレは起きにくい。というよりもむしろ、財政や金融の支えがない限り、十分な経済成長を維持することができない。ひとたびその支えを外してしまえば、経済はたちまち需要不足による「停滞」に陥ってしまうからである。それが、供給の天井が低かった古い時代には必要とされていた緊縮が現在はむしろ災いとなり、逆に、その担い手が右派であれ左派であれ、世界各国で反緊縮が必要とされる理由なのである。
学問的にはそのようなことは明確にはいえませんが、それを裏付ける現象は多数存在しており、もう世界は、すでに「世界的貯蓄過剰2.0」の時代に入ったとみるべきなのです。この世界では、積極財政や金融緩和の支えがない限り、十分な経済成長を維持することすらできないのです。

ひとたびその支えを外してしまえば、経済はたちまち需要不足による「停滞」に陥るのです。それが、需要が旺盛で、供給がそれになかなか追いつかなかった古い時代には必要とされていた緊縮が現在はむしろ災いとなるようになり、現在では経済を維持するために金融緩和、積極財政を継続して行うことこそ、正しい選択なのです。

古い時代と現在とでは何が違うかといえば、その最たるものは、大きな戦争がなくなったということかもしれません。世界各地て、大きな戦争があれば、供給能力が大幅に削減され、すぐに需要を満たすことができなくなり、貯蓄が積み上がることもなくなって、しまうことなどが起こっていたのです。

しかし、今の世界には大きな戦争はないし、これからも起きそうにありません。実際、世界の唯一の超大国も、中国に武力を直接行使することなく、貿易戦争、経済戦争を挑んでいます。それは、現在では多数の核兵器が存在していて、大規模な武力行使をすれば、それはやがて核戦争に発展し、敵国を滅ぼすにとどまらず、自らも含む全世界を滅ぼすことにつながりかねないからです。

さらに、良い悪いは別にして、近代の西欧のライフスタイルは、世界中に広まりましたが。その後の世界は、科学技術は發展しましたが、これを変えるような動きはあまりありません。ポストモダニズムも、思ったほどには影響力がありませんでした。これまでにない、全く新たなライフスタイルやものの考え方がでてきて、これが世界を席巻するようなことでもあれば経済はたちまち供給不足となるのでしょうが、そのような動きは今のところみられません。

世界がこのように変わってしまったことに、気付かず日銀官僚が、金融緩和をしても、なかなか物価が上がらないから緩和をやめてしまうとか、財務官僚もこれに気付かず、もっともらしい理由をつけて、緊縮財政ばかり続けるようなことがあれば、日本はすぐにもデフレに舞い戻ることになるでしょう。そうして、今度は「失われた30年」などという生易しいものではなく、「失われた100年」を迎えることになるでしょう。

そのような官僚に、だまされることなく、政治家がまともな政策を打ち出せば良いのですが、自民党のポスト安倍の面子をみてもあまり期待できそうにもありません。野党は、問題外です。マスコミは圏外です。

このようなことになるか、それとも、「世界的貯蓄過剰2.0」に気づき、当面積極財政、金融緩和を続けるかにより、ここ数十年先の日本の趨勢が決まることでしょう。

日本が、これから再び深刻なデフレスパイラルに落ち込むことなく、まともに成長していくには、まずは私達が、世界が変わったことを理解しなければなりません。

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2018年8月28日火曜日

米中は「貿易戦争」から「経済冷戦」へ―【私の論評】日本は米中新冷戦の影響なし!だが間抜け官僚の誤謬で甚大被害も(゚д゚)!

米中は「貿易戦争」から「経済冷戦」へ


激しさを増している貿易戦争が、トランプ大統領の強硬姿勢と中国の手詰まり感から早期の解決も見通せないでいる。だが、注意すべきは事態がトランプ大統領主導の「貿易戦争」から議会主導の「経済冷戦」へと深刻化している点だ。

米中関係は貿易戦争から経済冷戦へ

米中の関税の応酬による貿易戦争は第2幕を迎えた。8月23日に双方が160億ドル相当の輸入品に25%の追加関税を発動した。9月にはさらに米国は2000億ドル相当、中国は600億ドル相当の輸入品に追加関税を課す構えだ。

 貿易戦争は激しさを増しており、トランプ大統領の強硬姿勢と中国の手詰まり感から早期の解決も見通せないでいる。

進展がなかった、事務レベル協議の裏側

 8月22日、ワシントンで行われた事務レベル協議も何ら進展がないまま終わった。これは協議前から当然予想されていた結果だ。元々、この協議は中国商務次官が米国の財務次官と協議を行うという変則の形となった。中国側の発表では「米国の要請で訪米する」とのことだったが、これは中国特有のメンツを守るための発表で、実情は違う。米中双方の思惑はこうだ。
<米国側>  トランプ大統領としては中間選挙まではこの対中強硬姿勢を続けている方が国内的に支持される。今、何ら譲歩に動く必要がない。しかも、米国は戦後最長の景気拡大で、余裕綽々で強気に出られる。
<中国側>  習近平政権としては、対米強硬路線が招いた今日の結果に国内から批判の声も出始めており、それが政権基盤の揺らぎにつながることは避けたい。対米交渉の努力を続けている姿勢は国内の批判を抑えるためにも必要だろう。
また、貿易戦争による米国経済へのマイナス影響で米国国内から批判が出て来るのを待ちたいものの、時間がかかりそうだ。しかも、中国経済の減速は明確で、人民元安、株安が懸念される。金融緩和、インフラ投資での景気てこ入れも必要になっている。米中貿易摩擦の経済への悪影響はできれば避けたい。

 このように、事態打開へ動く動機は米国にはなく、中国にある。

 ただし、そこに中国のメンツという要素を考えると、取りあえず次官級で落としどころに向けての探りを入れるというのが今回の目的だ。

 トランプ政権としては、この時点で本気で協議を進展させるつもりは毛頭ない。本来の交渉者である米通商代表部(USTR)はメキシコとの北米自由貿易協定(NAFTA)協議のヤマ場でそれどころではない。所管外でも対中強硬論者の財務次官に、人民元問題も持ち出すことを口実に、協議の相手をさせた、というのが実態だ。

「11月、APEC(アジア太平洋経済協力)、G20(20カ国・地域)の際、米中首脳会談か」といった米紙報道も、そうした一環の中国側の観測気球だろう。

 中国としては落としどころへの瀬踏みをしていき、ある程度見通しが立った段階で、切り札の王岐山副主席が事態収拾に乗り出す、とのシナリオを描きたいのが本音だろう。

米議会主導の「国防権限法2019」に透ける対中警戒の高まり

 ただし、こうした米中双方の追加関税の応酬という貿易戦争にばかり目を奪われていてはいけない。米国議会が主導する、対中警戒を反映した動きにも注目すべきだ。

 8月13日にトランプ大統領が署名した「国防権限法2019」がそれだ。

 かつて私は、「米国」という主語をトランプ氏とワシントンの政策コミュニティを分けて考えるべきで、後者が“経済冷戦”へと突き進んでいることを指摘した。(参照:関税合戦は序の口、深刻度増す“米中経済戦争”)。

 まさに後者の動きがこれだ。

 これは米国議会の超党派によるコンセンサスで、現在のワシントンの深刻な対中警戒感の高まりを反映したものだ。トランプ大統領は短期で「ディール(取引)」をするために、その手段として追加関税という「こん棒」を振りかざすが、それとは持つ意味が違う。

 中国の構造的懸念を念頭に、貿易以外の分野も広く規制する。昨年12月に発表された「国家安全保障戦略」で明らかになった、現在の米国の対中観を政策に落とし込んだものだ。

 議会の原案に対してトランプ政権はむしろ緩和のための調整を行って、大統領署名に至った。

 メディアで特に報道されているのは、そのうちの対米投資規制の部分で、中国を念頭に置いて、対米外国投資委員会(CFIUS)による外資の対米投資を厳格化する。先端技術が海外、とりわけ中国に流出することを防ぐためだ。

 このCFIUSによる対米投資の審査は、既に2年前から権限強化を議会の諮問機関から提言されている。実態的にもトランプ政権になってからこれまでに11件の対米投資が認められなかったが、そのうち9件が中国企業によるものであった。これをきちっと制度化するものだ。

 そのほかこの法案には、中国の通信大手ZTEとファーウェイのサービス・機器を米国の行政機関とその取引企業が使用することを禁止する内容も入っている。

 また国防分野では、国防予算の総額を過去9年間で最大規模の79兆円にする、環太平洋合同演習(リムパック)への中国の参加を認めない、台湾への武器供与の増加などの方針が示された。

 ここまでは日本のメディアでも報道されているが、今後日本企業にも直接的に影響する大事な問題を見逃している。それが対中輸出管理の強化だ。
メディアが見落とす「対中輸出管理の強化」

 輸出管理については、これまで国際的には多国間のレジーム(枠組み・取り決め)があった。これに参加する先進諸国は、大量破壊兵器や通常兵器に使われる可能性のあるハイテク製品の輸出については規制品目を決めて各国が審査する仕組みだ。こうしたこれまでの仕組みが中国の懸念に十分対応できていないというのだ。

 キーワードが「エマージング・テクノロジー」である。

 「事業化されていない技術」という意味であろう。例えば、AI(人工知能)や量子コンピューターなどの技術がそうだ。

 こうした技術は未だ製品として事業化されていないので、現状では規制対象にはなっていない。しかし、そういう段階から規制しなければ、将来、中国に押さえられて、軍事力の高度化につながるとの警戒感から、規制対象にしようというものだ。今後、具体的にどういう技術を規制すべきか、商務省、国防省などで特定化されることになっている。

 問題はこの規制が米国だけにとどまらないということだ。

 当初、米国は独自にこの規制を実施する。しかし米国だけでは効果がない。そこで、本来ならば国際レジームで提案して合意すべきではあるが、それは困難で時間がかかる。そこで当面、有志国と連携して実施すべきだとしている。その有志国には当然、日本も入るのだ。

 今後、日米欧の政府間で水面下での調整がなされるだろうが、日本企業にも当然影響することを頭に置いておく必要がある。

 またこの法案とは別に、商務省は中国の人民解放軍系の国有企業の系列会社44社をリストアップして、ハイテク技術の輸出管理を厳しく運用しようとしている。中国の巨大企業のトップ10には、この人民解放軍系の国有企業である「11大軍工集団」が占めており、民間ビジネスを広範に展開している。米国の目が厳しくなっていることも念頭に、日本企業も軍事用途に使われることのないよう、取引には慎重に対応したい。

 かつて東西冷戦の時代には「対共産圏輸出統制委員会」による輸出管理(ココム規制)があった。一部に「対中ココム」と称する人もいるが、そこまで言うのは明らかに言い過ぎであることは指摘したとおりだ(ちなみに、かつてあった「対中ココム」とは、共産圏のうち、中国に対してだけ緩和するための制度である。従って「対中ココムの復活」というのは明らかに間違い)。

 ただ一歩ずつそうした「冷戦」の色合いが濃くなっているのは確かである。「冷戦」とは長期にわたる持久戦の世界である。目先の動きだけを追い求めていてはいけない。

日本が向き合うべき本質がそこにある

 こうした対中警戒感は、ワシントンの政策コミュニティの間ではトランプ政権以前からあった根深い懸念であった。しかし、習近平政権が打ち出した「中国製造2025」が「軍民融合」を公然とうたって、軍事力の高度化に直結する懸念がより高まったのだ。従って、こうした動きは、追加関税のような中国と「取引」をするような短期的なものではなく、構造的なものだと言える。

 トランプ大統領による関税合戦よりも、もっと根深い本質がある、米国議会主導の動きにこそ目を向けるべきだろう。日本がそれにどう向き合うかも問われている。

個別事件に引き続き要注意

 最後に、前出の7月11日のコラムにおいて、「今後、個別事件に要注意」と指摘したところ、その後、FBI(米連邦捜査局)による摘発が相次いでいる。7月中旬には元アップルの中国人エンジニアが自動運転に関する企業機密を中国に持ち出そうとした事件、8月初旬には元ゼネラル・エレクトリック(GE)の中国国籍のエンジニアが発電タービンに関する企業秘密を窃取した事件などだ。

 悪い予想が的中して複雑な気持ちではあるが、ハイテクの世界では、ある意味、日常的に起こっていてもおかしくない。それを捜査当局が摘発するモードになってきていることは今後も要注意だ。

 トランプ氏の言動にばかり目を奪われていてはいけない。米国議会、情報機関、捜査機関など、「オール・アメリカ」の動きが重要になってくる。それが米国だ。

【私の論評】日本は米中新冷戦の影響なし!だが間抜け官僚の誤謬で甚大被害も(゚д゚)!

私は、ブログ冒頭の記事で、トランプ大統領主導の「貿易戦争」から議会主導の「経済冷戦」へと深刻化しているという点は、ほぼ賛成です。

なぜ「ほぼ」かといえば、「深刻化」というキーワードからもうかがえるように、何やら米国の中国に対する制裁が、悪いことのような響きがあるからです。

しかし、日本にとっては、中国は尖閣諸島付近で挑発を繰り返し、多数の核兵器を所有し、それらが今も日本の主要都市に狙いをつけていますし、それに、中共の統治の正当性が脆弱であるがゆえに、日本を悪魔化することによりこれを強化するため、歴史を修正するなどして、日本を貶めるような行動を繰り返しています。いわば、日本にとっては敵です。

さらに、中国は、民主化、政治と経済の分離、法治国家化もされておらず、日米のみではなく、世界の主要先進国とも全く価値観が異なります。

その敵が経済的に弱まることは日本の安全保障にとっては良いことです。たとえ、それが日本の経済に多少悪影響があったにしても、それで中国の経済が弱体化するなら日本にとって良いことです。

さらに、米国大統領の任期は8年と憲法で定められており、トランプ政権が10年以上も続く長期政権になることはないので、ポストトランプでたとえ中国に親和的な大統領になったとしても米国議会により中国に対する制裁が長期間にわたって続くことは日本にとって望ましいことだからです。

今後米国は、トランプ大統領主導の「貿易戦争」から議会主導の「経済冷戦」に移行していくという見方そのものは正しいと思いますし、私としては望ましいことだと思います。

今後米国は、トランプ大統領主導の「貿易戦争」から議会主導の「経済冷戦」に移行していく

そうして、この新冷戦により、かつてソ連が冷戦で崩壊したように、中国の現体制が崩壊すれば、それこそ日本だけではなく、世界にとって良いことだと思います。なぜなら、ソ連や中国のような体制が世界に敷衍されるととんでもないことになるからです。

その他、上の記事では、「トランプ大統領による関税合戦よりも、もっと根深い本質がある、米国議会主導の動きにこそ目を向けるべきだろう。日本がそれにどう向き合うかも問われている」としていて、それへの対応法としては、個別事件について引き続き要注意すべきであることが掲載されていますが、肝心なことが述べられてないように思います。

それは、主に2つあります。

まず一つ目は、現在の世界は供給過多となっており、であればたとえ中国が崩壊したとしても世界経済にはほとんど影響がないという可能性が高いということです。

それについては、このブログにも以前掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
米中貿易戦争 衝撃分析! 貿易戦争で「中国崩壊」でも心配無用? 世界経済はむしろ好転か…―【私の論評】中国崩壊の影響は軽微。それより日銀・財務官僚の誤謬のほうが脅威(゚д゚)!
中国経済が変調すれば、習近平主席の地位も危うくなるが、他国にとっては歓迎すべき事態か

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事から一部を引用します。
相対的にモノが不足していた、旧来の世界とは異なり、現代の世界は貯蓄が過剰であり、その結果供給が過剰なのです。 
このような世界ではよほど世界需要が急激に拡大しない限り、供給の天井には達しない(ブログ管理人注:要するに、需要が高まり、供給能力が追いつかなるようなことはない)のです。その結果として、高インフレや高金利が近年の先進国では生じなくなったのです。
このような世界においては、確かに中国が崩壊したとしても、日本や米国のようにGDPに占める内需の割合が多い国では、ほとんど影響を受けないでしょうし、輸出などの外需の多い国々では、たとえ中国向け輸出が減ったにしても、中国になりかわり、中国が輸出して国々に輸出できるチャンスが増えるということもあり、長期的にはあまり影響を受けないことが十分にあり得ます。
要するに、中国が崩壊しても、供給過多の現在の世界ではほとんど影響がないということです。そうして、この記事でも強調したのですが、日本では、中国が崩壊することよりも、日本の官僚の誤謬のほうがよほど大きな脅威です。

何しろ、大蔵・財務官僚は過去においては、財務的には、BS(貸借対照表)レベルでは元々日本は全く何の心配ないにもかかわらず、財政破綻するなどといいふらし、過去に消費増税を推し進めた結果、日本経済は現状でもデフレすれすれの状況にあります。現在不況に陥っている韓国よりGDPの伸び率は低いです。

彼らは、あの8%増税がはっきりと大失敗だったとわかった現在でも、日銀と政府を一つにまとめた統合政府ベース(民間企業では連結決算に相当)ではすでに昨年時点で財政再建は終わっているにもかかわらず、無意味な消費増税をしなければならないと政治家やマスコミを煽っている始末です。

日銀官僚も、2013年4月より前までは、何かといえば、金融引締めを繰り返しました。特に、リーマンショックは日本にはほとんど関係なかったにもかかわらず、リーマン破綻後、他国が一斉に大規模な金融緩和をはじめたにもかかわらず、金融引締め基調を崩さなかったため、震源地の米国やEUなどの諸国がショックから立ち直ったあとも、長い間日本だけが一人負け状態デフレと超円高に苦しみました。

私は、個人的にはリーマンショックとは呼称せずに、日銀ショックとこのブログに記載しているくらいです。このようなことから、日本では中国が崩壊したり、米国による制裁よりも官僚の誤謬のほうが、はるかに脅威です。

二つ目は日本の産業構造そのものがここ数十年で変わってしまったため、日本の産業が米議会によりやり玉にあげられる可能性はかなり低下したことです。
【瀕死の習中国】中国国有企業の「負債はケタ違い」 衝撃の欧米リポート―【私の論評】米中貿易戦争にほとんど悪影響を受けない現在の日本の構造上の強み(゚д゚)!
トヨタの米国ケンタッキー工場
これも詳細はこの記事をご覧いただくものとして、以下に一部分のみ引用します。
円高下で実現した日本のグローバル・サプライチェーンにより、日本は海外で著しく雇用を生む国になっており、それが所得収支の大幅黒字に現れています。故に日本はもはや貿易摩擦の対象にはなりえない国といえます。日本が貿易摩擦フリー化、為替変動フリー化していることがうかがえます。 
・・・・・・・〈中略〉・・・・・・・・ 
では日本の企業は一体どこで生き延び収益を上げているのかといえば、それはハイテク分野の周辺と基盤の分野です。 
デジタルが機能するには半導体など中枢分野だけでなく、半導体が処理する情報の入力部分のセンサーそこで下された結論をアクションに繋げる部分のアクチュエーター(モーター)などのインターフェースが必要になります。 
また中枢分野の製造工程を支えるには、素材、部品、装置などの基盤が必要不可欠です。日本は一番市場が大きいエレクトロニクス本体、中枢では負けたものの、周辺と基盤で見事に生きのびています。 
要するに、日本産業は超円高下で実現したグローバル・サプライチェーンにより、海外で著しく雇用を生む国になったので、米国の経済制裁の対象にはなりにくいということです。

さらに、日本の産業構造は、ハイテクを支える、素材、部品、装置などの基盤や周辺部分で必要不可欠とされる部分に特化しているため、米国の経済制裁の対象とはなりにくい体質になっているのです。

わかりやすく言うと、たとえばアップルがこれから、奇抜でみたこともないような、ガジェットを生み出そうとした場合、日本の素材、部品、装置などが必要不可欠であるということです。

もう一度簡単にまとめると、供給過剰の現在の世界はたとえ中国が崩壊したとしても、ほとんと影響なく、さらに日本の産業構造は米国の経済対象の対象とはなりにくい体質になっているというとです。

ということは、今後の日本は米中経済戦争には全く影響されることなく、繁栄の道を歩むことになるということです。ただし、唯一の脅威は、間抜け官僚の誤謬だということです。

いくら、産業構造が米中経済冷戦の影響を受けないからといって、日本の輸出がGDPに占める割合はたかだか10%台にすぎません、個人消費が60%台を占めているのです。

官僚の誤謬でマクロ経済政策である金融・財政政策を間違えれば、この60%がかなり減少して、とんでもないことになります。

日本では、米中新冷戦が苛烈になっても影響は受けませんが、また間抜け官僚の誤謬で国民全体が大打撃を受けるという脅威は捨てきれません。

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2018年8月27日月曜日

平和ボケと批判された人民解放軍のビジネス活動が全面禁止へ―【私の論評】統治の正当性が不確かな中共がまともな軍隊を持つことを強引に進めれば、自身が滅びる(゚д゚)!

平和ボケと批判された人民解放軍のビジネス活動が全面禁止へ

人民解放軍を視察した習近平

中国の習近平国家主席は7月末、中国共産党の最高意思決定機関である党政治局常務委員会を開催し、現在、中国人民解放軍が行っているビジネス活動を年内いっぱいで全面的禁止することを決めた。

 習氏は「軍の本分は戦うことであり、商売ではない。商売をする時間があれば、軍事演習を行うべきだ」などと檄を飛ばした。軍機関紙「解放軍報」は7月初め、社説で「中国軍は平和ボケ」などと指摘し、軍の怠惰な雰囲気に強い警戒感を示していた。

 中国国営新華社電によると、軍による「有償服務(ビジネス)」は10万6000件以上に上っており、この決定を受けて、年内にすべて禁止する措置を軍内の各部門に通達。「これに抵触すれば、重大な処分を受けることになる」としている。

 軍のビジネスとしては、軍傘下の病院での政府関係者を中心とする診察や治療、軍の学校での研修、軍所属研究機関での委託研究、倉庫や埠頭の使用のほか、軍の出版、映像、音響などの事業の代行など。

 習氏は2015年3月の中央軍事委工作会議で、軍のビジネス活動を全面的に禁止する考えを明らかにしたほか、2016年3月には具体的に「3年以内」との期限を提示している。今回の党政治局常務委での決定は、この3年以内の禁止期限を3カ月間前倒しすることになる。

 日本人の感覚からすれば、軍が内職ともいえる10万件以上ものビジネスを行っていること自体が驚きだが、中国人民解放軍はもともと野戦軍で、しっかりとした軍規や組織があったわけではない。志願兵中心の自然発生的な軍隊であり、食糧や武器なども「自給自足」する風潮が強かった。このため、軍本体が野菜を作ったり、鶏や豚や牛を育てるほか、副業で資金を得るという伝統が残っていた。

 1980年代に改革・開放路線が導入されると、このような軍内に残る伝統の影響もあって、軍本体がビジネスに手を染めるケースが増え、それとともに、腐敗問題が深刻になってきた。

 軍内の地位を得るために、汚職が蔓延。軍内に保管されていた戦闘機、戦車、装甲車、小銃、戦略用燃料、大量の野戦ベッド、軍靴などの軍需物資が、忽然と「消えて」転売されていた事実も明るみになっている。

 『習近平の正体』(小学館刊)などの著作もあり、中国問題に詳しいジャーナリストの相馬勝氏は習氏の実質的な『内職禁止令』について、次のように指摘している。

 「習氏が最高指導者に就任するや、『反腐敗運動』が本格化し、多数の党・政府・軍の幹部が逮捕されているが、解放軍報は最近、「軍は『平和病』にかかっている」などとして軍の体質を鋭く批判している。これは習氏が米国との対立激化や悲願である台湾統一などを控え、軍の戦闘力に大きな不安を抱いていることも影響しているだろう。そして、今回の軍のビジネス全面禁止命令は習氏の焦りを如実に現しているといえよう」

【私の論評】統治の正当性が不確かな中共がまともな軍隊を持つことを強引に進めれば、自身が滅びる(゚д゚)!

中国共産党は経済政策ですら権力闘争の道具にしてしまう恐ろしい集団です。それは激しい利権の奪い合いであり、日本で例えるなら、反社会的勢力や裏社会における仁義なき戦いそのものでする。

中国においては、あらゆる法律、規制が派閥闘争の妥協の産物であり、実際にその法律、規制が守られるかどうかさえ、現場を仕切るさまざまな暴力装置(軍、警察)の気分次第で決められてしまいます。

中国の城管


たとえば、中国では「城管(じようかん)」と呼ばれる、都市管理局に相当する部局の公務員が路上秩序を維持するという名目で露天商を次々に暴行しています。

日本では違法駐車の取締員のような立場の「城管」がなぜそんなことをするか理由はよくわかりません。一説によれば露天商がいわゆる「ショバ代(賄賂)」を払わなかったからとか、たんに威張り散らして街をわが物顔で支配しているなどといわれています。

また、全国各地で大暴れする「城管」は、時として人民解放軍と「戦闘状態」に陥ることもあるといいます。

たとえば、2013年9月4日午後5時、山東省青島市石老人村で、城管(都市管理官)と、解放軍の大乱闘が発生しました。軍の高級幹部用マンションに付属する邸宅管理棟がその敷地をはみ出て建てられた違法建築物であることから、現地の城管が自治体の指示で管理棟を取り壊しに行ったところ、これに反対する解放軍兵士が解体を妨害、乱闘となりました。

人数的に勝ち目もなくボコボコにされた軍兵士は銃を持ち出そうとしたそうですが、事前の申し入れから経済格差で豪華なマンションがこれ以上注目を引くことを恐れた軍幹部が青年兵士たちを押しとどめ、なんとか殺傷沙汰にはならなかったとのことでした。

さて、この記事を読んで多くの人が疑問に思ったことでしょう。なぜ、人民解放軍の高級幹部は豪華な邸宅に住んでいるのか。それは、日本のために日夜活躍する自衛官たちが一般の公営住宅と同程度の官舎で暮らしているのとは対照的です。

そもそも、人民解放軍がアメリカ軍や日本の自衛隊と同じく軍隊だと思ったらトンデモない勘違いです。人民解放軍とは「武装する総合商社」であって、われわれ日本人が考えるところの軍隊ではありません。

しかも、人民解放軍は、共産党の配下であり、言ってしまえば共産党の私兵です。国民の生命と財産を守ることら主要任務とする国民国家の軍隊とは全く異なる組織です。

人民解放軍は国境地帯で故意緊張を誘発しては中央政府に予算を要求し、不動産開発、ホテルやバーの経営、資源貿易などさまざまなビジネスに投資する立派な「産業」なのです。

よって高級幹部が豪華なマンションに住んでいたり、軍の経営するホテルで毎晩幹部たちが宴会をしていたり、直営バーにロシア人の売春婦がたくさんいたりすることに驚いてはいけないのです。

解放軍の腐敗は、幹部だけのことではありません。一般の兵士からその親まで巻き込んだ、腐敗の嵐が吹き荒れているといっても過言ではありません。

中国では現実はどうかは別にして、軍隊は、安定した就職先と捉えられています。実際、ある程度上級の階級になれれば、そうだったのでしょう。軍隊への入隊は『待遇、福利がよく一生を保障される』という意味で、鉄で作ったおわんのように割れずに安定している『鉄飯碗』になぞらえられています。多くの親たちはわが子を入隊させるために軍幹部にこぞって賄賂を贈るのです。

賄賂の相場は、2万元(約34万6000円)から30万元(約519万円)といいます。軍隊内では、官位を“商品”として売買する「売官買官」なる行為も横行しています。

こうした腐敗によって解放軍全体の質は史上最低レベルにまで低下しています。遊び好きな将校の中には、自分の部下をお抱えのコンピューターゲームのアップグレード係にする傍若無人な『配属』までやっている始末です。

党指導部は、以前からこうした兵士たちの劣化に危機感を抱き、綱紀粛正に躍起でした。2013年11月に行われた第18期中央委員会第3回総会(3中総会)では、「反腐運動」と銘打った軍部の腐敗撲滅運動を展開しました。これに先立つ、同3月には前代未聞の軍紀も発布していました。

『軍人違反職責罪案件立案標準規定』では、主に防衛戦における将校・兵士の逃亡・投降行為について規定しています。党指導部は、外国と戦争が起きたとき、解放軍の将校・兵士が敵前逃亡してしまうことを恐れているのでしょう。しかし、党指導部が軍紀で定めるのも無理はないです。敵前逃亡の例が実際にあるからです。

「東京を爆撃する」とほざいた羅援少将

中越戦争開戦直前の1979年、解放軍少将で中国戦略文化促進会の常務副会長を務める羅援氏、つまり冒頭で「日本は火の海」と挑発したその本人が、党高級幹部だった父親の口利きで前線勤務を免れています。彼はあちこちで『日本、米国と戦争する』と息巻く解放軍きってのタカ派です。しかし、そう吹聴する本人が戦争逃亡兵だったのだから笑えないです。

口先だけの見かけ倒しは、まだあります。2009年1月にはこんなことも起きました。中国の大型貨物船がソマリアの海域で海賊に襲われ、船員が人質として拿捕(だほ)されました。中国世論は「貨物船を武力で救出すべきだ」と沸き立ち、これを受け、中国艦隊がソマリア海域に派遣されました。とこめが、武力奪還はならなかったのです。

中国政府はソマリアの海賊におとなしく400万米ドル(当時で約3億6000万円)の身代金を差し出して、商船と船員を取り戻したのです。単なる威嚇のために艦隊を派遣したに過ぎなかったのです。

アデン湾で警備に当たる中国人民解放軍海軍の艦艇

これは、人民解放軍の常套(じょうとう)手段である『孫子兵法』の『戦わずして屈服させる兵法』です。日本に対しても同じハッタリ戦術を使っているに過ぎません。心理戦を仕掛けているだけで、実戦となれば、解放軍は何もできないでしょう。1894年の日清戦争の結末を再演することになるだけです。すなわち、敗北です。

ましてや、いずれの先進国の軍隊にも同じような条件で戦えば、勝つことはないでしょう。勝つのは、一般市民を弾圧したり、自分たちより圧倒的に不利な状況で戦う弱小国の軍隊を相手にしたときだけでしょう。

このような、腐敗まみれの人民解放軍は実際に米軍は無論のこと日本の自衛隊にでさえ対峙したときに、全く勝ち目はないでしょう。解放軍の腐敗は、幹部から下士官まで浸透しています。賄賂の実体をみれば、それは誰の目にも明らかです。誰が腐敗まみれの上官のために本気で戦うことができるでしょうか。

だからこそ、習近平は人民解放軍のビジネス活動を全面禁止しようとしているのでしょうが、それくらいのことで、人民解放軍がまともになるとは考えられません。

本来ならば、ある程度時間をかけて、人民解放軍とは全く別の軍隊組織をつくり、それこそヒトラーが突撃隊幹部を暗殺して、有名無実にしてしまったように、人民解放軍の幹部を情け容赦なく粛清するなどの過激なことをしない限り、習近平はまともな軍隊すら手にすることはできないでしょう。

突撃隊地用エルンスト・レーム(左)とヒトラー
ヒトラーは、レームを粛清した

このような手段を避け、先進国からみてまともな方法で、新たなに軍隊を創設するということになれば、それこそ国民国家の軍隊を創設しなければならず、民主化、政治と経済の分離、法治国家化をすすめる必要があり、そうなれば中国共産党による統治を根本から改めなければならず、その時は現体制は崩れることになります。

人民解放軍の腐敗などといいますが、統治の正当性が不確かな中国共産党中央政府がまともな軍隊を持つことを強引に進めれば、自身が滅びることになります。

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