2024年8月2日金曜日

「人口減少」は本当に問題なのか まかり通るネガティブな未来予想も 1人当たりのGDPと関係薄く 機械化やAIで対応可能だ―【私の論評】人口減少と経済成長:デフレの誤解と持続可能な解決策


まとめ
  • 総務省の調査によると、日本の人口は過去最大の減少幅を記録し、外国人人口は増加して初めて300万人を超えた。
  • 人口減少が必ずしも大きな問題ではなく、人口増加のほうが経済に悪影響を与える。データによると、人口減少国のほうが1人当たりGDP成長率が高い。
  • 人口減少対策として、外国人労働者の受け入れよりも、機械化やAI活用による1人当たりの資本増加策を優先すべきだ。
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 総務省の最新の人口動態調査によると、日本の人口減少が加速し、過去最大の減少幅を記録した。一方で、外国人人口は増加し、初めて300万人を超えた。筆者は一般的な見解とは異なり、人口減少が必ずしも大きな問題ではないと主張している。その理由として、歴史的に人口増加のほうが人口減少よりも問題視されてきたことを挙げている。

 経済成長理論では、人口増加は1人当たりの資本を減少させ、貧困の原因となる可能性があるとされている。世界のデータ分析によると、人口減少国のほうが1人当たりGDP成長率が高い傾向にあることも示されている。また、人口減少の影響は予測可能であり、適切な対策を事前に講じることができる。

 さらに、人口動向に関する政策は、客観的な証拠に基づいていないことが多い。筆者は、人口減少対策として外国人労働者の受け入れよりも、機械化やAI活用による1人当たりの資本増加策を優先すべきである。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】人口減少と経済成長:デフレの誤解と持続可能な解決策

まとめ
  • 人口増加は1人当たりの資本を減少させ、貧困や経済格差を拡大するリスクがある。
  • 人口減少とデフレには直接的な因果関係はなく、適切な金融政策により経済成長と物価安定は可能。
  • 人口減少への対策として、労働生産性向上、高齢者・女性の労働参加促進、AI・ロボット化の推進が有効。
  • 外国人労働者の受け入れは短期的には効果的だが、長期的には持続可能な解決策とは言い難い。
  • 人口変動の経済への影響を一面的に捉えるのではなく、多角的な視点で対応策を考える必要がある。
経済成長理論において、人口増加が1人当たりの資本を減少させ、貧困の原因となる可能性がある理由について説明します。経済成長の主要な要因は資本の蓄積、労働力の投入、技術進歩です。人口が増加すると、資本(機械や設備など)がより多くの人々に分配されるため、一人当たりの資本量が減少します。これにより、一人当たりの生産能力が低下する可能性があります。

最近の経済成長理論でも、人口増加は1人当たりの資本を減少させるため、貧困の原因になりうると指摘されています。急激な人口増加は資源の分配を困難にし、貧困や経済格差を拡大するリスクがあります。

大勢の買い物客でごった返すナイジェリアの最大都市ラゴスの市場

最近の経済成長理論でも、人口増加は1人当たりの資本を減少させるため、貧困の原因になりうると指摘されています。急激な人口増加は資源の分配を困難にし、貧困や経済格差を拡大するリスクがあります。

例えば、ナイジェリアやエチオピアなどでは、急速な人口増加に対して雇用創出や産業の発展が追いついていないため、若年層の失業問題や貧困の拡大が顕著です。また、インドのムンバイやブラジルのリオデジャネイロなどの大都市では、急激な人口増加と都市への人口流入により、インフラ整備が追いつかずスラムが形成され、住居や衛生設備が不足しています。

さらに、教育や医療サービスの質の低下も問題となっており、人口増加に対して学校や病院の整備が追いつかないことで、教育機会の不平等や健康格差が拡大しています。また、急速な人口増加は食糧やエネルギーの需要増加をもたらし、森林破壊や水資源の枯渇などの環境問題を引き起こすこともあります。

これにより、長期的には持続可能な発展を阻害し、貧困の連鎖を生み出す要因となっています。さらに、人口増加率が高い国では、労働市場に新規参入する若年層の数が経済成長による雇用創出を上回るケースがあり、賃金の低下や失業率の上昇が起こり、結果として貧困や経済格差の拡大につながる可能性があります。

これらの事例は、人口増加が必ずしも経済成長や繁栄をもたらすわけではなく、適切な政策や産業発展が伴わない場合、むしろ貧困や格差を拡大させる可能性があることを示しています。日本の過去においては、終戦直後からしばらく人口増が続いたものの、それを上回るような産業の発展があったため、経済成長と繁栄をもたらしたといえます。人口が増えたから、経済発展したという見方は、間違いです。

また、人口減少とデフレの間には直接的な因果関係はありません。デフレは主に貨幣的現象であり、金融政策の結果として生じます。中央銀行の政策が適切であれば、人口減少下でもインフレ目標を達成することは可能です。
インフレ・デフレは貨幣現象であり、人口の増減とは無関係

さらに、人口が減少しても中央銀行が貨幣の流通量を減らさずにそのままにしていれば、むしろインフレになる可能性があります。これは、経済の規模に対して相対的に貨幣量が増加することになるためです。つまり、人口減少下でも、適切な金融政策によって緩やかなインフレ状況にすることは可能なのです。

人口減少は労働供給の減少を意味しますが、同時に需要の減少も引き起こします。これらの効果は相殺される傾向にあり、必ずしも物価の下落につながるわけではありません。また、技術進歩や生産性の向上により、人口減少下でも経済成長と物価の安定は実現可能です。

一方、人口減少の弊害は資本増強などで対応策があります。具体的には、労働生産性の向上、高齢者や女性の労働参加促進、教育と訓練の強化が重要です。特に、AI化やロボット化の推進は非常に有効な選択肢となります。

外国人労働者の受け入れも一つの方法ですが、長期的には限界があります。主な供給元であるアジア諸国も少子高齢化が進んでおり、外国人材の確保が難しくなる可能性があります。また、外国人労働者の受け入れには賃上げ圧力や文化的な摩擦が伴うことが多く、社会的な調整が必要です。

さらに、外国人労働者が増加すると、社会保障や教育などの公共サービスに対する負担も増加します。これらの要因により、外国人労働者の受け入れは短期的には効果的であっても、長期的には持続可能な解決策とは言い難いのです。

AIやロボット化持続可能の人口減の解決策

これに対して、AI化やロボット化は技術的進歩とともに持続可能な解決策となり得ます。AIやロボットは一度導入すれば安定した生産性を維持でき、人件費の増加や労働力不足のリスクを軽減できるためです。

また、AIやロボットは24時間稼働可能であり、労働力の効率を大幅に向上させることができます。さらに、技術の進歩により、AIやロボットの性能は日々向上しており、今後ますます多くの業務を自動化することが可能になるでしょう。

結論として、人口減少は確かに経済に影響を与えますが、それがデフレの直接的な原因ではありません。適切な金融政策と経済政策によって、人口減少下でも経済成長と物価の安定を実現することは可能です。日本の取り組みは、同様の課題に直面する他の国々にとって重要な参考事例となるでしょう。

無論、これは日銀が人口減に応じて、それに応じた金融政策を実行する場合に限ります。日銀が誤った金融政策をした場合はその限りではありません。また、政府がこれらの点を無視して移民を増やした場合も、その限りではありません。

一番の問題は、人口減少を一面的にとらえ、これに対して間違った対応をしてしまうことです。いわゆる人口ボーナス・人口オーナス論などの、人口減少や増加が経済に与えるという考え方は過度に単純化されており、他の重要な要因も考慮に入れる必要があります。

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2024年8月1日木曜日

追加利上げに2人反対 日銀審議委員の中村、野口両氏―【私の論評】日銀の追加利上げと金融政策の転換:オントラックとビハインド・ザ・カーブの狭間で

追加利上げに2人反対 日銀審議委員の中村、野口両氏

日銀植田総裁

 日銀は31日、追加利上げの決定には投票権を持つ9人の政策委員のうち、植田和男総裁ら7人が賛成し、審議委員の中村豊明、野口旭の両氏は反対したと公表した。

 日銀の公表文によると、中村氏は「次回の金融政策決定会合で法人企業統計などを確認してから、変更を判断すべきで、今回は考え方を示すにとどめることが望ましい」と主張。野口氏は「賃金上昇の浸透による経済状況の改善をデータに基づいてより慎重に見極める必要がある」と反対した。

 中村氏は日立製作所出身、野口氏は積極緩和論者「リフレ派」として知られる。

【私の論評】日銀の追加利上げと金融政策の転換:オントラックとビハインド・ザ・カーブの狭間で

まとめ
  • 日銀は経済・物価データが「オントラック」(想定通り)と判断し、政策金利を0〜0.1%から0.25%に引き上げた。
  • 長期国債買い入れ額の段階的減額計画と、今後の経済・物価動向次第での追加利上げ方針を示した。
  • 一部の政策委員は、「ビハインド・ザ・カーブ」の原則に基づき、経済データの慎重な分析を求めて利上げに反対。
  • 消費者物価指数(CPI)見通しが不変にもかかわらず追加利上げを決定し、「定期的な利上げ」姿勢を示唆。
  • 円安是正のための政府との協調が背景にあり、中央銀行の独立性に関する懸念が浮上。
ことし1月の金融政策決定会合

日銀は7月31日の金融政策決定会合で、政策金利を0〜0.1%から0.25%に引き上げることを決定しました。この追加利上げは、円安是正のための政府との協調が背景にあるようです。
また、日銀は長期国債の買い入れ減額計画を発表し、2026年1-3月までに買い入れ額を3兆円程度に減らす方針を示しました。さらに、消費者物価指数(CPI)の見通しを維持し、経済・物価が見通し通り推移すれば引き続き利上げを行う方針も明らかにしました。この決定には9人の政策委員のうち、植田和男総裁を含む7人が賛成し、審議委員の中村豊明氏と野口旭氏の2人が反対しました。

中村氏は、次回の金融政策決定会合で法人企業統計などを確認してから変更を判断すべきであり、今回は考え方を示すにとどめることが望ましいと主張しました。野口氏は、賃金上昇の浸透による経済状況の改善をデータに基づいてより慎重に見極める必要があると反対しました。

中村氏と野口氏の反対理由は、経済データの確認と慎重な判断を重視する姿勢に基づいています。中村氏は、法人企業統計などのデータを確認してから政策変更を判断するべきだと考えており、今回の利上げは時期尚早であるとしています。野口氏も同様に、賃金上昇が経済全体にどの程度浸透しているかを慎重に見極める必要があると主張し、データに基づいた判断を求めています。

このような反対意見は、日銀の政策決定プロセスにおいて重要な役割を果たしており、経済データの慎重な分析とその結果に基づく政策判断の必要性を示しています。政策委員の中でも意見が分かれる中で、植田総裁を含む多数派は、現状の経済・物価見通しに基づいて追加利上げが適切であると判断しましたが、少数派の意見も無視できない重要な視点を提供しています。

以上のように、日銀の追加利上げ決定には、経済データの慎重な分析とその結果に基づく判断が求められており、中村氏と野口氏の反対意見はその重要性を強調しています。

興味深いのは、経済・物価見通しがあまり変わっていないにもかかわらず、追加利上げが決定されたことです。特に、消費者物価(除く生鮮食品・エネルギー)=コアコアCPIは、2024年度の前年比1.9%、2025年度の同1.9%、2026年度の同2.1%と、4月の見通しから全くの不変でした。

物価見通しが何も変わらないのに、追加利上げというのはかなりショッキングです。これは日銀が「定期的に利上げをする」姿勢を示していると解釈できます。植田総裁の説明によれば、基調的なインフレ率が維持されれば、それに応じて金利正常化を進めるという方針が示されています。

日銀の最近の利上げ決定は、経済状況を考慮すると適切ではありません。

まず、政治家による「金融政策の正常化」への言及は懸念すべき点です。河野太郎デジタル相や茂木敏充幹事長、さらには岸田文雄首相までもがこの表現を使用していることは、日銀に対する政治的圧力になった可能性は否めません。

日銀上田総裁(左)と岸田首相

日本経済はまだデフレからの完全な回復過程にあり、現在のインフレ状況では利上げは時期尚早です。「ビハインド・ザ・カーブ」の原則に従えば、金融政策は実体経済の動きよりも遅れて行うべきであり、その理由として、経済のラグ効果、過剰反応の防止、そしてインフレ目標の達成が挙げられます。

金融政策の効果が実体経済に現れるまでには時間がかかり、一時的な経済指標の変動に過剰に反応すると経済に悪影響を及ぼす可能性があるためです。政策金利の変更が企業の投資や消費者の支出に影響を与えるまで、さらに失業率に影響を与えるまでには、通常数ヶ月から1年程度のラグ(遅れ)が存在します。

また、インフレ率が目標を超えるまで利上げを行わない「ビハインド・ザ・カーブ」のアプローチは、経済が十分に回復し持続的な成長軌道に乗るまで過度な引き締めを避けるために重要です。この観点から、インフレ率が4%程度を超えるまでは利上げを控えるべきなのです。

日銀の現在の姿勢は、アベノミクス以前に見られた早期利上げによって景気回復を阻害し、デフレを継続させてしまった過去の誤りを繰り返す危険性があります。

さらに、円安が日本経済に悪影響を及ぼすかどうかについては慎重な検討が必要です。現段階での利上げや円高は日本経済にとってマイナスとなる可能性が高いのです。

植田和男総裁は、今回の利上げについて「経済や物価のデータがオントラック(想定通り)だったことに加え、足元の円安が物価に上振れリスクを発生させている」と説明していますが[、この判断は経済の実態を正確に反映していません。

未だ個人消費の弱さが顕著な中での利上げは、経済が本当に「オントラック」であるかという疑問を生じさせます。実際の経済指標は日銀の評価よりも弱い可能性があります。これは、日銀のヒアリングや指標が実態を正確に捉えきれていない可能性があります。

現状では、実質賃金がようやく上昇に転じようとしたばかりであり、消費の回復が十分に進んでいない可能性があり、経済が完全に「オントラック」であるという判断には疑問符がつきます。

したがって、日銀の「オントラック」という評価は、経済の一部の側面のみを反映している可能性があり、より包括的な経済指標の分析が必要です。このような状況下での利上げ決定は、経済の実態を十分に考慮していない可能性があり、慎重に再検討すべきです。


実際、個人消費の弱さが目立つ中でのこのタイミングでの利上げは、円安を強く意識したものか、あるいは円安を強く警戒する政府の意向を受けたものと受け止められかねません。

結論として、日銀の今回の利上げ決定は、経済の実態や「ビハインド・ザ・カーブ」の原則を十分に考慮せず、政治的圧力や円安への過度な警戒に影響された可能性が高く、適切な判断とは言えません。今後の金融政策運営においては、より慎重な分析と判断が求められます。

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2024年7月31日水曜日

トランプ氏とEVと化石燃料 民主党の環境政策の逆をいく分かりやすさ 米国のエネルギー供給国化は日本にとってメリットが多い―【私の論評】トランプ再選で激変?日本の再生可能エネルギー政策の5つの課題と展望


まとめ
  • ドナルド・トランプ前大統領は、再選された場合にバイデン政権の電気自動車(EV)普及義務を初日に終了すると発言し、民主党の政策を撤回する意向を示した。
  • 自動車規制は国際的な覇権争いの一環であり、EUもエンジン車の新車販売禁止方針を撤回した事例がある。
  • EVの環境への影響は不明確で、発電に多くの化石燃料が使用されているため、EVが本当に環境に優しいかは議論の余地がある。
  • トランプ氏は化石燃料の採掘を推進し、米国を最大のエネルギー供給国にすることを目指している。
  • 日本は、米国のエネルギー供給国化を好都合とし、「小型モジュール式原子炉」や2030年代以降の「核融合」技術を活用することが望ましいとされている。


 ドナルド・トランプ前大統領は、大統領に再選された場合、バイデン政権の電気自動車(EV)普及義務を初日に終了すると述べ、民主党の重要政策を撤回する意向を示した。自動車を巡る規制は各国の覇権争いの一環であり、その方針はしばしば変わる。例えば、欧州連合(EU)は「2035年にエンジン車の新車販売を禁止する」という方針を撤回した。

 ドイツはかつて、日本のハイブリッド車に対抗して「ディーゼル車が環境に良い」と主張していたが、現在はEV化を進める一方で、合成燃料を使うエンジン車を例外とする方針に転じている。そもそもEVが本当に環境に優しいかどうかは定かでなく、発電の多くが石炭、液化天然ガス(LNG)、原油などの化石燃料に依存しているため、電気を作る過程で二酸化炭素(CO2)が多く発生する。CO2を発生させる電気で走るEVと、カーボンニュートラルの合成燃料を使うエンジン車では、どちらが環境に優しいかの答えは簡単には出ない。

 トランプ氏は、民主党の環境政策に対抗する形で、化石燃料の採掘を推進する「ドリル、ベイビー、ドリル」という公約を掲げている。これにより、米国は最大のエネルギー供給国となり、エネルギー価格も安定すると予想される。トランプ政権になれば、気候変動問題に関する国際的な枠組み「パリ協定」からの再離脱も確実視されている。

 日本にとって、米国がエネルギー供給国となり価格が安定することは好都合である。日本は、環境を考慮した「小型モジュール式原子炉」でしのぎながら、2030年代以降の「核融合」時代につなげていくことが望ましい。これにより、エネルギー供給の安定と環境保護の両立が期待される。

 国際政治の中で、日本は欧米からの変化球に対応するため、柔軟なエネルギー戦略を維持する必要がある。EVは長期的には普及すると考えられ、電気は扱いやすいエネルギーであるため、自動車の電化は不可避といえる。しかし、EV化は一直線には進まない可能性があり、基本となる電力をいかに安く生産できるかが重要である。日本は、エネルギー供給の安定と環境保護を両立させるため、柔軟な対応が求められる。

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【私の論評】トランプ再選で激変?日本の再生可能エネルギー政策の5つの課題と展望

まとめ

日本の再生可能エネルギー政策の5つの課題と展望は以下5つつに集約される。
  • トランプ前大統領が再選された場合、化石燃料の利用が推進され、再生可能エネルギーへの依存が減少する可能性が高い。
  • 日本のエネルギー自給率は低く、当面は化石燃料に頼る必要があり、再エネは実験的な取り組みに留めるべきである。
  • 日本が中国からの再エネ製品を大量に輸入し続けることは、トランプ政権からの貿易摩擦を引き起こすリスクがある。
  • 日本の再エネ政策は公的資金に依存しており、固定価格買取制度(FIT制度)による負担が国民にかかっている。
  • 再生可能エネルギーの発電コストは高く、市場原理による効率化が不十分であるため、バランスの取れた、化石燃料を重視するエネルギーミックスを目指すべきである。将来は、小型モジュール炉、核融合によるエネルギーに転換すべきである。
これら、5つについて以下に解説します。

ドナルド・トランプ前大統領が再び大統領に就任した場合、EV車だけにとどまらず、再生可能エネルギー(再エネ)政策も大きな転換を迎える可能性が高いです。トランプ氏の「ドリル、ベイビー、ドリル」というスローガンは、米国内の豊富な化石燃料資源を有効活用し、エネルギー自給率を高め、経済成長を促進する意図を示しています。この方針は、短期的なエネルギー安全保障と経済成長を重視する現実的なアプローチと言えます。



実際、化石燃料の利用は世界的に増加傾向にあります。国際エネルギー機関(IEA)の報告によると、2022年の世界の石炭消費量は過去最高を記録し、2023年もさらに増加する見込みです。また、天然ガスの需要も2022年に若干減少したものの、2023年には回復し、今後も増加すると予測されています。

再エネは、その非効率性と高コスト、さらに不安定な供給という本質的な問題を抱えています。日本のエネルギー自給率は12.1%と極めて低く(資源エネルギー庁、2019年データ)、安定的なエネルギー供給のためには、当面は化石燃料に頼らざるを得ない状況です。

将来的には、小型モジュール炉や核融合などの新技術がエネルギー問題の解決に貢献すると期待されています。例えば、日本原子力研究開発機構は2050年頃の核融合発電の実用化を目指しています。これらの技術が実用化されるまでの間、エネルギー効率の低い再エネに過度に依存するのではなく、化石燃料を効率的に活用することが重要です。

米Westinghouse Electric Companyの小型モジュールを収めた建物

世界的にも、再エネへの過度な依存からの転換が見られます。例えば、ドイツでは2022年に石炭火力発電所の再稼働を決定し、フランスでは原子力発電の新規建設計画を発表しています。これらの動きは、エネルギー安全保障と経済性を重視する傾向を示しています。

日本においても、再エネは実験的な取り組みに留め、主要なエネルギー源としては化石燃料や原子力を活用すべきです。経済産業省の資料によると、2030年度の電源構成目標では、再エネは36〜38%に留まっており、残りは原子力や火力発電で賄う計画となっています。

さらに、日本が再エネにこだわり続け、中国からの太陽光発電パネルなどの再エネ製品を大量に輸入し続けることは、トランプ政権によるバッシングの対象にもなり得ます。トランプ氏は過去にも中国製品に対して強硬な姿勢を示しており、再エネ製品の大量輸入は米国との貿易摩擦を引き起こす可能性があります。これにより、日本のエネルギー政策が国際的な圧力にさらされるリスクが高まります。

また、日本の再エネ政策は公的資金に大きく依存するスキームとなっています。固定価格買取制度(FIT制度)を通じて、2012年の導入以降、2021年度までの買取費用総額は約23.5兆円に達しています。この費用は最終的に電気料金に上乗せされ、国民が負担しています。

2021年度の賦課金総額は約2.7兆円で、標準家庭で年間約8,400円の負担となっています。さらに、再生可能エネルギー関連の補助金も多額に上ります。例えば、2021年度の経済産業省による「再生可能エネルギー電気・熱自立的普及促進事業」の予算は50億円でした。


これらの公的資金の大規模な投入にもかかわらず、日本の再生可能エネルギーの発電コストは国際的に見て依然として高い水準にあります。国際再生可能エネルギー機関(IRENA)の2020年のレポートによると、日本の太陽光発電のコストは他の先進国と比べて約2倍高いとされています。このような状況は、再生可能エネルギー政策が公金に依存し、市場原理による効率化が十分に機能していない可能性を示唆しています。

結論として、短中期的には再エネは実験程度にとどめ、化石燃料の効率的な利用を継続しつつ、長期的には小型モジュール炉や核融合などの新技術の開発・実用化を進めることが、日本のエネルギー安全保障と経済成長を両立させる現実的な方策と言えます。再エネへの依存は避け、バランスの取れたエネルギーミックスを目指すべきです。

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2024年7月30日火曜日

【中国のプーチン支援にNO!】NATOが懸念を明言した背景、中国の南シナ海での行動は米国全土と欧州大陸への確実な脅威―【私の論評】米国のリーダーシップとユーラシア同盟形成の脅威:カマラ・ハリスとトランプの影響

【中国のプーチン支援にNO!】NATOが懸念を明言した背景、中国の南シナ海での行動は米国全土と欧州大陸への確実な脅威

岡崎研究所

まとめ
  • NATOは中国をロシアのウクライナ侵攻の「decisive enabler」(決定的な支援者)として非難し、グローバルな脅威に対する認識を強めている。
  • 中国はロシアに半導体や戦闘機部品などを供給しており、ロシアが戦争を継続する上で決定的な役割を果たしている。
  • 米国とドイツは欧州に長距離火力を増強する計画を発表し、NATOの抑止力と対応能力の強化を目指している。
  •  中国の南シナ海における行動は、国際航行の自由を脅かすだけでなく、戦略原潜の配備を通じて米本土や欧州全域への攻撃能力を獲得する軍事戦略的意図がある。
  • NATOは中国の行動を欧州と太平洋の安全保障に対する「システミックな挑戦」と位置づけ、対応を強化しているが、世界が冷戦初期のような危険で不安定な状況に直面する中、米国のリーダーシップの在り方が問われている。

 ウォールストリート・ジャーナル紙の社説「NATO Wakes Up to the China Threat」は、NATOが中国をロシアのウクライナ侵攻の「decisive enabler」(決定的な支援者)として非難したことに焦点を当て、現代の脅威がグローバルに広がり、冷戦初期のような不安定な時代に突入していると警告している。

 NATOは、2024年7月にワシントンで開催された首脳会議において、ウクライナへの新たな長期支援を発表した。この会議での共同宣言では、中国がロシアの戦争継続を支える重要な役割を果たしていることが強調され、中国の「無制限のパートナーシップ」と「ロシアの防衛産業基盤への大規模な支援」が、ロシアのウクライナ戦争を決定的に支援していると述べられた。具体的には、中国はロシアに対して数百万ドル相当の半導体、戦闘機部品、ナビゲーション機器などを供給しており、これがロシアの軍事能力を維持する上で不可欠な要素となっている。

 さらに、米国とドイツは、欧州に長距離火力を増強する計画を発表し、NATOの迅速な対応能力を強化することを目指している。特に、米国は2026年から新たに開発中のトマホークミサイルや極超音速ミサイルを欧州に配備する予定であり、これによりNATOの抑止力が向上すると期待されている。この増強には防衛費の増額が必要であり、欧州諸国がその責任を果たすかどうかが重要な課題として浮上している。

 また、南シナ海での中国の行動も深刻な懸念材料だ。中国は南シナ海全域に歴史的権利を主張し、軍事施設を建設しているだけでなく、戦略原潜を配備することで米本土や欧州全域への攻撃能力を強化している。南シナ海は国際航行の自由にとって重要な海域であり、中国の行動はこの自由を脅かすものと見なされている。特に、中国の新型原潜は長射程のミサイルを搭載できる能力を持ち、これにより南シナ海が中国にとって戦略的に重要な地域となっている。

 NATOは、中国の行動を欧州と太平洋の安全保障に対する「システミックな挑戦」と位置づけ、これに対抗するための対応を強化している。しかし、世界が冷戦初期のような危険で不安定な状況に直面する中、米国がそれに対応できるリーダーシップを発揮できるかどうかという問題も依然として残っている。このように、NATOは中国のロシア支援を非難し、グローバルな脅威に対する強靭さを増しているが、依然として多くの課題が残されていることを強調している。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事を御覧ください。「まとめ」は元記事の要点をまとめ箇条書きにしたものです。

【私の論評】米国のリーダーシップとユーラシア同盟形成の脅威:カマラ・ハリスとトランプの影響

まとめ
  • 世界が不安定な状況に直面する中、米国のリーダーシップが重要であり、それはトランプかハリスのどちらが大統領になるかにかかっている。
  • カマラ・ハリスの外交経験不足や不明確な対中政策は、米国の国際的信頼性を損なう可能性がある。
  • トランプ氏の再選は中国に対する強硬姿勢を強化し、同盟国への支援を増やす一方で、国際的緊張を高めるリスクもある。
  • 中国とロシアの連携強化によるユーラシア同盟の形成は、新たな地政学的脅威となる可能性がある。
  • 中央アジア諸国を巡る米中ロの影響力争いが続く中、国際社会は多面的アプローチを取る必要がある。
上の記事にもあるように、世界が冷戦初期のような危険で不安定な状況に直面する中、米国がそれに対応できるリーダーシップを発揮できるかにかかっていますが、これは現時点では、トランプとカマラ・ハリスのいずれかが大統領になるかにかかっているといえます。無論、カマラ・ハリスは現時点では民主党公認の大統領候補ではありませんが、現時点ではそうなる可能性が最も高い人物です。


カマラ・ハリスの外交経験の欠如は、国際舞台での米国信頼性を損ない、特に中国やロシアとの交渉や対立において致命的な結果を招く可能性があります。彼女の対中国政策が不明確であるため、中国の影響力が増大し、米国の立場が弱まる恐れがあります。

また、ハリス氏のリベラルな立場は国内の政治的分断を深め、重要な外交政策の実行を困難にし、国際的な危機への迅速な対応を妨げる可能性があります。

さらに、ハリス氏の経済政策が国際関係に与える影響も懸念されます。特に、中国との貿易関係において強硬策を採る場合、経済的な対立が激化し、米国経済に悪影響を及ぼす可能性があります。軍事的対応においても、経験不足が障害となり、ロシアのウクライナ侵攻や中国の南シナ海における行動に対して迅速かつ効果的に対応できるかが疑問視されます。

これらの課題に適切に対処できなければ、米国の国際的な立ち位置が揺らぎ、同盟国との関係が悪化する可能性があります。結果として、米国のリーダーシップが低下し、グローバルな安全保障環境が不安定化するリスクが高まります。保守派の観点からは、これらの懸念が現実のものとなることは、国家の安全保障にとって深刻な脅威となるでしょう。

一方トランプ氏が大統領になった場合は、中国に対する強硬な姿勢が一層強化されると考えられ、特に南シナ海における中国の軍事的行動に対抗するための具体的な措置が講じられるでしょう。これにより、米国の同盟国にとっては、より強力な軍事的支援を受ける機会が増える一方で、地域の緊張が高まるリスクも伴います。

また、米国の経済的利益を守るために、中国との貿易関係において厳しい制裁が再導入される可能性があり、これが国際的な経済環境に影響を与えるでしょう。トランプ氏の「アメリカ第一」政策は、国際秩序の変化を促し、米国のリーダーシップを再確認させる一方で、国際的な対立を激化させる危険性も孕んでいます。

このような状況下で、トランプ政権がどのように国際的な課題に対処するかが、米国の国際的な立ち位置や安全保障環境に大きな影響を与えることになるでしょう。保守派にとっては、これらの政策が国益を守るために必要な手段と見なされる一方で、国際的な緊張を引き起こす要因ともなり得るため、注意深い対応が求められます。

ただ、国際情勢が不安定化する中で、米国の国益を守り、同盟国との関係を適切に管理し、中国やロシアといった競合国に対して強い姿勢で臨むためには、トランプ氏の再選がより望ましいといえます。トランプ氏の経験と実績は、複雑な国際情勢に対処する上で、ハリス氏よりも信頼できるといえます。

一方、中国とロシアの提携の強化は、さらなる危機を孕む可能性があります。それは、中露と中央アジア諸国をも含んだユーラシア同盟の結成です。

中央アジアの国々、特にカザフスタン、ウズベキスタン、キルギス、タジキスタン、トルクメニスタンは、その地政学的重要性から、米国、中国、ロシアの間で熾烈な影響力争いの舞台となっています。これらの国々は豊富な天然資源を有し、ユーラシア大陸の中心に位置することから、戦略的に非常に重要な地域です。

ユーラシア経済連合+中国が「ユーラシア同盟」になる可能性も・・・

ロシアは歴史的に中央アジアに強い影響力を持っており、旧ソ連時代からの政治的、経済的、文化的つながりを維持しています。集団安全保障条約機構(CSTO)を通じて軍事的な影響力も保持しています。

中国は「一帯一路」構想を通じて、中央アジアへの経済的進出を加速させています。インフラ投資や貿易拡大を通じて、これらの国々との経済的結びつきを強化しています。また、上海協力機構(SCO)を通じて政治的、安全保障面での協力も進めています。

一方、米国は「新シルクロード」構想を掲げ、中央アジアとの関係強化を図っています。テロ対策や民主化支援を通じて影響力の維持を試みていますが、地理的な距離もあり、中国やロシアほどの影響力は持ち得ていません。

このような状況下で、ユーラシア同盟の形成は現実的な可能性として浮上しています。中国とロシアの戦略的パートナーシップが深化し、経済的な相互依存が強まることで、中央アジア諸国もこの同盟に取り込まれる可能性があります。特に、エネルギー供給やインフラ投資における協力が進むことで、地域全体の軍事的な結束も強化されるでしょう。

しかし、ユーラシア同盟の形成には多くのリスクと課題も伴います。中央アジア諸国は、一方的な依存を避けるため、米中ロの間でバランスを取ろうとする傾向があります。また、これらの国々は自国の主権と独立性を重視しており、どの大国にも完全に取り込まれることを望んでいません。

このような状況に対して、国際社会は多面的なアプローチを取る必要があります。特に、既存の同盟関係を強化し、経済的相互依存を戦略的に活用することが求められます。また、中央アジア諸国への経済協力や外交的関与を強化することで、特定の大国の影響力が過度に強まることを防ぐ努力が必要です。

8月にカザフスタン訪問予定の岸田首相

日本においても、中央アジア諸国との関係強化が重要です。「自由で開かれたインド太平洋」構想を推進する中で、中央アジアとの連携を深めることで、地域の安定と繁栄に貢献することができるでしょう。同時に、米国や欧州諸国と協調しながら、中央アジアにおける民主化や経済発展を支援することも重要です。

結論として、中央アジアを巡る米中ロの影響力争いは、今後も続くと予想されます。この地域の安定と繁栄のためには、大国間のバランスを保ちつつ、中央アジア諸国の自立性を尊重する国際的な取り組みが不可欠です。

世界の危機は、中国の海洋進出だけではありません。中露の接近により、新たな脅威が生まれる可能性もあるのです。

次の総理大臣は、こうした事態にも対応できる人物になっていただきたいものです。

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2024年7月29日月曜日

在日米軍の機能強化、「統合軍司令部」創設で自衛隊との連携円滑に―【私の論評】日米安全保障体制の進化とその影響:地域の安定と防衛力強化の新たな展望

在日米軍の機能強化、「統合軍司令部」創設で自衛隊との連携円滑に

まとめ
  • 米国は在日米軍の再構成と統合軍司令部の創設を提案し、日本の「統合作戦司令部」との連携強化を目指している。
  • 現在の在日米軍司令部の権限は限られており、新たな統合軍司令部の設置により、自衛隊との連携の円滑化が期待されている。
  • 憲法上の制約により、日米の部隊運用は「統合」ではなく「共同」にとどまり、今後の具体的な運用方法の協議が重要となる。
日米の安全保障協議委員会(2プラス2)

 日米の安全保障協議委員会(2プラス2)で、米国は在日米軍の再構成と統合軍司令部の創設を提案した。これは、日本が令和6年末に設置予定の「統合作戦司令部」との連携を強化し、部隊運用の円滑化を目指すもの。

 日本は自衛隊の統合作戦司令部を設立し、米軍との連携を強化することで、反撃能力の整備を進める計画。しかし、現在の在日米軍司令部は基地管理に限られ、部隊指揮は米ハワイのインド太平洋軍司令部が担当している。これにより、時差や距離の問題が生じ、円滑な意思決定が難しいと指摘されている。

 米軍は新たに在日米軍の指揮権限を持つ統合軍司令部を設け、自衛隊との連携を強化したいと考えている。ただし、自衛隊は憲法上の制約から、韓国軍と在韓米軍のように連合司令部を設けることは難しいため、日米の部隊運用は「統合」ではなく「共同」にとどまる。

 今後、日米は作業部会を設置し、具体的な運用方法を協議する予定。

この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。「まとめ」は元記事の要点をまとめ箇条書きにしたものです。

【私の論評】日米安全保障体制の進化とその影響:地域の安定と防衛力強化の新たな展望

まとめ
  • 日米安全保障体制は1951年に始まり、1960年の改定を経て発展し、現在は地域の安定と繁栄に寄与する包括的なパートナーシップとなっている。
  • この体制は日本の防衛、地域の平和維持、国際的な安全保障課題への対応など、多面的な役割を果たしている。
  • 近年の安全保障環境の変化に対応し、日米防衛協力の範囲が拡大され、日本の安全保障政策も大きく変化している。
  • 2022年の新戦略文書では日本の防衛力強化方針が示され、日米同盟のさらなる深化が図られている。
  • 基地問題や憲法解釈の変更など課題も存在するが、サイバーセキュリティや宇宙空間利用など新たな分野での協力も進んでいる。


日米安全保障体制は、第二次世界大戦後の日本の安全保障政策の根幹をなす重要な枠組みとして発展してきました。この体制の起源は1951年に締結された旧日米安保条約にさかのぼり、1960年の改定を経て現在の形に至っています。

当初は冷戦下での共産主義の脅威に対抗するために設立されましたが、時代とともにその役割は大きく進化し、現在では地域の安定と繁栄に寄与する包括的なパートナーシップへと発展しています。

この体制の重要性は、単なる軍事同盟を超えた多面的な側面を持っています。まず、日本に対する武力攻撃に対して日米が共同で対処することを規定しており、これが潜在的な脅威に対する強力な抑止力となっています。

さらに、インド太平洋地域全体の平和と安定に寄与し、地域秩序の維持に重要な役割を果たしています。また、日米両軍の協力体制が強化されることで、様々な事態に対する共同対処能力が向上し、両国が国際的な安全保障課題に協力して取り組むための基盤ともなっています。

近年の安全保障環境の変化、特に中国の台頭や北朝鮮の核・ミサイル開発などを背景に、日米安保体制の重要性はさらに高まっています。2015年には新たな日米防衛協力のための指針(ガイドライン)が策定され、両国の防衛協力の範囲が平時から緊急事態まで、さらには地球規模の課題にまで拡大されました。このガイドラインの改定は、変化する安全保障環境に対応するための重要なステップでした。

日本の安全保障政策も大きく変化しています。2015年の平和安全法制の整備により、日本の自衛隊と米軍の協力がより緊密になり、同盟の実効性が高まりました。この法整備により、日本は集団的自衛権の限定的な行使が可能となり、米国との協力の幅が広がりました。また、2018年には新たな「防衛計画の大綱」が策定され、多次元統合防衛力の構築が目指されることとなりました。

2015年の平和安全法制の整備に関連して伝えるテレビ報道

さらに、2022年12月に策定された新たな国家安全保障戦略、国家防衛戦略、防衛力整備計画では、日本の防衛力を大幅に強化する方針が示されました。特に、反撃能力の保有や防衛費の増額など、従来の専守防衛の概念を超えた新たな方向性が打ち出されています。これらの変化は、日米同盟の強化と密接に関連しており、両国の防衛協力をさらに深化させる基盤となっています。

一方で、日米安保体制には課題も存在します。在日米軍基地問題、特に沖縄県における基地負担の軽減は長年の課題であり、地元住民との調和を図りつつ同盟の実効性を維持することが求められています。また、日本の防衛費増額に対する国内外の反応や、憲法解釈の変更に伴う国内の政治的議論など、同盟の管理には継続的な努力が必要です。

国際情勢の変化も日米同盟に影響を与えています。米中関係の緊張や、台湾をめぐる情勢の不安定化など、インド太平洋地域の安全保障環境は複雑化しています。このような状況下で、日米同盟はより重要性を増しており、両国の協力関係をさらに深化させていくことが求められています。


また、サイバーセキュリティや宇宙空間の利用、経済安全保障など、新たな分野での協力も重要性を増しています。2023年1月の日米安全保障協議委員会(2+2)では、これらの分野での協力強化が確認されました。

結論として、日米安全保障体制は、日本の安全保障政策の要であり続けており、変化する国際環境に対応しつつ、両国の協力関係をさらに深化させていくことが重要です。この体制は、単なる軍事同盟を超えて、地域の平和と繁栄を支える重要な柱として機能し続けています。

今後も、日米両国は同盟関係を基盤としつつ、新たな課題に対応し、インド太平洋地域ひいては世界の安定と繁栄に貢献していくことが期待されています。

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2024年7月28日日曜日

自民総裁選、高市早苗氏〝出馬封じ〟報道 選管委メンバー選び、候補の推薦人になれない…「岸田派ゼロ」の異様 無派閥から最多5人―【私の論評】高市早苗氏に対する「高市潰し」疑惑:政治的影響力の増大と次期総裁候補としての台頭

自民総裁選、高市早苗氏〝出馬封じ〟報道 選管委メンバー選び、候補の推薦人になれない…「岸田派ゼロ」の異様 無派閥から最多5人

まとめ
  • 自民党が総裁選の選挙管理委員会を発足させ、岸田首相が11人のメンバーを指定した。
  • 選管委メンバーの人選について、高市早苗氏の「出馬封じ」との報道が出た。
  • 選管委メンバーは無派閥から5人、安倍派から3人、他派閥から各1人選出され、岸田派は起用されなかった。
  • 選管委メンバーには高市氏の前回推薦人2名が含まれており、高市氏側から「出馬封じ」との反発がある。
  • この人選は岸田首相の再選への執念と、高市氏への「潰し」の疑惑を招いているとの見方がある。

岸田首相

 自民党は岸田文雄首相の党総裁任期満了に伴う総裁選の選挙管理委員会を事実上発足させました。委員会のメンバー11人は岸田首相が指定し、総務会で報告された。

 この人選については、無派閥から最多の5人を選出し、岸田派からの起用は見送られたことが注目されている。また、前回の総裁選で高市早苗氏の推薦人だった議員2名が選ばれており、これにより高市氏に近い議員からは「出馬封じ」との反発が出ている。

 党幹部はこの人選が意図的なものではないと否定しているが、岸田首相の再選への執念や内閣支持率の低迷、党内からの退陣圧力の高まりを背景に、「高市潰し」の疑惑が持たれている。この状況は、岸田自民党から離れた「岩盤保守層」のさらなる怒りを招く可能性がある。

 この記事は、元記事の要約です。詳細は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】高市早苗氏に対する「高市潰し」疑惑:政治的影響力の増大と次期総裁候補としての台頭

まとめ
  • 高市早苗氏に対する「高市潰し」の疑惑が複数存在し、これらは高市氏の政治的影響力の増大を示唆している。
  • 総務省の内部文書問題や朝日新聞の報道など、高市氏に関する批判的な報道が増加している。
  • 高市氏は2023年11月に勉強会を立ち上げ、著書の出版や全国での講演会を計画するなど、総裁選に向けて精力的に活動している。
  • 高市氏は複数の総裁候補ランキングで上位に位置しており、有力候補として認識されている。
  • 「高市潰し」と見られる動きの増加は、逆説的に高市氏が次期総裁の最有力候補の一人として浮上していることを示している。
高市早苗氏に対する「高市潰し」の疑惑について、上の記事の内容以外に、いくつかの具体的な事例があります。

まず、総務省の内部文書問題は、2023年3月に大きく取り上げられました。この問題は、放送法の解釈に関する行政文書が公開されたことに端を発しています。文書は、2015年に高市早苗氏が総務大臣を務めていた際のもので、立憲民主党の小西洋之参院議員が公開(写真下)しました。


これに関しては、高橋洋一氏などがこの文書が捏造であることを証明しています。高橋氏は、文書が行政文書であることは確認できるが、その内容が正しいかどうかは別問題であり、文書には多くの不備があると指摘しています。私自身も、この文章の内容の不備を確認しました。

具体的には、文書の配布先に大臣側が含まれていないため、大臣側がチェックできない形で文書が作成されており、その正確性が担保されていないと述べています。また、文書には日時不明の電話会談の記述があり、これも信憑性に欠けるとしています。

次に、朝日新聞の記者による「高市早苗潰し」を目的とした記事についてです。具体的には、2023年5月20日付の朝日新聞の記事「高市氏、総裁選出馬の意向 地方議員に伝達」があります。この報道では、高市氏が5月19日に国会内で開かれた日本会議地方議員連盟の会合で、次期総裁選への出馬意向を伝えたとされています。

しかし、高市氏はこれを否定し、自身のTwitter(現X)アカウントで「私が総裁選出馬の決意を伝えた??…という旨の変な記事のために、時間を使うのは無駄ですね」と投稿し、記事の内容を否定しました。また、「『高市早苗潰し』が目的と思われる記事で、朝から他社の記者さんから電話やメールが殺到して、仕事になりませんでした」と批判しています。

さらに、奈良県知事選挙の敗北についても触れます。この選挙では、自民党が分裂し、日本維新の会の候補が当選しました。高市氏は県連会長として推薦候補の擁立を主導しましたが、選挙期間中に高熱が続き、十分な応援ができなかったことが敗北の一因とされています。


高市氏は「国会答弁に追われた上、高熱が続き、張り付きで応援することができませんでした」とコメントしています。党内の調整不足が敗因であると指摘されていますが、これは高市氏の調整不足が主な原因ではなく、党内の複雑な力関係や他の要因が絡んでいます。具体的には、現職の荒井知事への支持が分かれたことや、維新の候補が強力な支持を得たことが影響しています。

これらの事例は、高市氏に対する政治的な攻撃や批判が続いていることを示しており、「高市潰し」として見られることがあります。以上に加えて、さらに上の記事にも指摘されているように、総裁選の選管委メンバーに前回の総裁選で高市早苗氏の推薦人だった議員2名が選ばれているという疑惑です。

高市早苗氏の総裁選への動きが活発化している中で、「高市潰し」と見られる報道や動きが増えていることは、逆説的に高市氏が有力候補として台頭していることを示唆しています。2021年の前回総裁選で善戦した高市氏は、その後も着実に準備を進めており、2023年11月に「『日本のチカラ』研究会」を立ち上げ、2024年7月8日には経済安全保障に関する著書の出版を予定しています。さらに、7月から8月にかけて東京都、宮城県、沖縄県、兵庫県で講演会を計画するなど、精力的に活動しています。

高市氏に対する「高市潰し」と見られる報道や批判が増えていることは、彼女の政治的影響力が増大していることの裏返しと言えるでしょう。特に、朝日新聞の報道に対する高市氏の反発や、総務省の内部文書問題をめぐる議論は、高市氏の存在感が無視できないものになっていることを示しています。

従来の総裁選候補としての高市氏は泡沫候補扱いだったが最近では上位に・・・

また、高市氏は現在、複数の総裁候補ランキングで上位に位置しており、これも彼女が有力候補として認識されていることを裏付けています。現職閣僚としての立場から直接的な発言を控えているものの、党内外での支持基盤を着実に固めつつあると見られています。

高市氏の総裁選出馬に必要な推薦人20人の確保については、一部で不透明さが指摘されていますが、これも逆に高市氏への警戒感の表れと解釈できます。保守層からの強い支持を背景に、高市氏の総裁選出馬の可能性は依然として高く、むしろ「高市潰し」と見られる動きが増えていることこそが、高市氏が次期総裁の最有力候補の一人として浮上していることを示す証左と言えるでしょう。

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2024年7月27日土曜日

“トランプ氏のウクライナ平和計画”ポンぺオ元国務長官ら寄稿 「ロシアは勝てない」―【私の論評】トランプ氏の新ウクライナ政策:支援強化と柔軟な外交戦略の可能性

“トランプ氏のウクライナ平和計画”ポンぺオ元国務長官ら寄稿 「ロシアは勝てない」

まとめ
  • ポンペオ元国務長官らが、トランプ氏の対ウクライナ政策について、ウクライナ支援強化とロシアへの強硬姿勢を示すコラムを寄稿した。
  • 提案には、5000億ドルの武器貸与計画、武器供給の制限解除、ウクライナのNATO加盟推進などが含まれる。
  • このコラムは、トランプ氏がプーチン大統領に有利な候補者だという見方に反論する内容となっている。

ポンペオ前国務長官

 ポンペオ元国務長官とトランプ陣営のアーバン氏が、トランプ氏の対ウクライナ政策についてウォールストリートジャーナルに寄稿しました。彼らは、トランプ氏が再選された場合、ウクライナ支援を強化し、ロシアに戦争での勝利を諦めさせる方針を示しています。

 具体的には、対ロシア制裁の強化、5000億ドルの武器貸与計画の策定、ウクライナへの武器供給の制限解除を提案しています。さらに、ウクライナのNATO加盟の迅速化と経済発展支援も主張しています。

 この寄稿は、トランプ氏がプーチン大統領に有利な候補者だという見方に対する反論となっています。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。【まとめ】は、元記事の要点をまとめ箇条書きにしたものです。

【私の論評】トランプ氏の新ウクライナ政策:支援強化と柔軟な外交戦略の可能性

まとめ
  • ポンペオ元国務長官らは、トランプ氏の再選時のウクライナ政策として、支援強化と対ロシア制裁強化、5000億ドルの武器貸与計画、ウクライナのNATO加盟推進を提案している。
  • トランプ支持のシンクタンクAFPIは、ウクライナへの軍事支援を和平交渉参加の条件とし、外交的解決を推進する姿勢を示している。
  • トランプ氏は「ウクライナの存続は重要」と述べ、支援に前向きな姿勢を示しつつ、欧州諸国の負担増を主張している。
  • トランプ氏は「24時間で戦争を終結させる」と主張し、迅速な和平交渉の意向を示している。
  • トランプ氏は支援方法を融資形式に変更する可能性や、直接交渉による迅速な解決を提案するなど、柔軟な対応を示唆している。


上の記事にもあるように、ポンペオ元国務長官とトランプ陣営のデビッド・アーバン氏は、2024年7月25日付けのウォールストリートジャーナルに「トランプ氏のウクライナ平和計画」("Trump's Ukraine Peace Plan")と題したコラムを寄稿しました。このコラムでは、トランプ氏が再選された場合の対ウクライナ政策について詳述されています。

まず、彼らはウクライナへの支援を強化し、ロシアのプーチン大統領に戦争での勝利を諦めさせる方針を示しています。具体的には、対ロシア制裁を強化し、ウクライナがアメリカ国民の税金を使わずにアメリカから必要なだけ武器を購入できるよう、5000億ドルの武器貸与計画を提案しています。また、ウクライナに供給する武器の種類や使用法の制限を解除し、ロシアに「決して勝てない」という明確なメッセージを送るとしています。

さらに、ウクライナのNATO加盟を迅速に実現し、経済発展を支援するべきだと主張しています。これにより、ウクライナの防衛力と経済基盤を強化し、ロシアの侵略に対抗する力を持たせることを目指しています。

デイビッド・アーバン氏

トランプ前大統領を全面的に支援するシンクタンク「米国第一政策研究所」(America First Policy Institute, AFPI)は、トランプ氏の再選戦略を見据えて設立され、トランプ政権当時の閣僚や政府高官を含む多くの有力スタッフが名を連ねています。AFPIは、米国の外交政策において中国を最優先事項とすべきだと主張し、ウクライナ問題をそれに次ぐ位置づけとしています。

AFPIが発表した「An America First Approach to U.S. National Security」という本では、ウクライナへの今後の軍事支援をロシアとの和平交渉への参加を条件とすることを提案しています。この提案によれば、ウクライナが和平交渉に参加する一方で、ロシアが交渉を拒否した場合はウクライナへの支援を拡大するとしています。AFPIは、ウクライナが外交を通じて領土を回復するという目標を支持していますが、同時に戦闘の停止を提唱しています。さらに、和平合意後もロシアに対する抑止力としてウクライナに武器を供給することを示唆しています。

これらの提案は、トランプ氏の潜在的な第二期政権におけるウクライナ政策の青写真を示唆するものと考えられます。しかし、AFPIは公式にトランプ陣営の代弁者ではないと述べています。このアプローチは、ウクライナへの支援を継続しつつも、外交的解決を強く推進する姿勢を示しているといえるでしょう。

AFPIのロゴ

ドナルド・トランプ前大統領は、2024年4月18日にSNSで「我々にとってウクライナの存続は重要だ」と述べました。この発言は、これまでロシアの侵略を受けるウクライナへの支援に消極的だったトランプ氏が、11月の大統領選を見据えて姿勢を修正し始めたと受け止められています。また、トランプ氏は「ウクライナの存続は、米国よりも欧州にとってはるかに重要だ」とも指摘し、欧州諸国がより多くの負担をするべきだとの持論を崩していません。

さらに、トランプ氏は2023年5月に「第3次世界大戦の危機を電話1本で終わらせる」と発言しています。これは、トランプ氏が米大統領に復帰したらウクライナ戦争を「24時間で終わらせる」と述べたもので、ロシアとの和平交渉を迅速に進める意向を示しています。

これらの発言は、トランプ氏が再選された場合、ウクライナ支援を打ち切ることはありえないことを示唆しています。むしろ、ロシアが譲歩しない場合、トランプ政権がさらに強硬な手段を取る可能性が高いことを示しています。

というよりは、より柔軟な対応をする可能性が高いです。2024年4月12日、フロリダ州の邸宅「マール・ア・ラーゴ」での記者会見で、トランプ氏は「我々は資金供与でなく融資の形にするよう考えている」と述べました。これは、ウクライナ支援の方法を変更する可能性を示唆しています。

トランプ氏は過去に、自身がゼレンスキー大統領とプーチン大統領と会談すれば、戦争を24時間以内に終結させられると何度か主張しています。2024年7月19日、トランプ氏はゼレンスキー大統領と電話会談を行いました。ウクライナのポドリャク大統領府顧問は、この会談を「非常に効果的だった」と評価し、「トランプ氏のチームがウクライナが必要とするものやロシアのリスクなどを理解すると信じる根拠を与えてくれた」と述べています。

これらの発言から、トランプ氏のウクライナに対する姿勢は、支援の継続を前提としつつも、その方法や交渉アプローチについて独自の見解を持っていることがわかります。支援を完全に打ち切るのではなく、融資形式への変更や直接的な交渉による迅速な解決を提案しています。

紋切り型の「ウクライナ支援即打ち切り」などの対応をしないことは明らかです。それよりも、プーチンの出方により、柔軟に対応することでしょう。かなり厳しくなる可能性もあります。


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2024年7月26日金曜日

中国軍の侵攻描く台湾ドラマ、大きな反応と議論呼ぶ-市民に危機感―【私の論評】台湾ドラマ『零日攻擊ZERO DAY』:高橋一生出演と台湾の現実的な防衛力分析

中国軍の侵攻描く台湾ドラマ、大きな反応と議論呼ぶ-市民に危機感

まとめ
  • 「零日攻擊 ZERO DAY」、台湾政府が一部出資して制作
  • 中国人民解放軍が捜索救助活動を装って台湾を海上封鎖-予告編

 台湾で制作されたテレビドラマ「零日攻擊 ZERO DAY」の予告編(上の動画)が公開され、強い反応と大きな議論を呼んでいる。このドラマは、中国人民解放軍による台湾侵攻を題材にしており、視聴者に危機感を与え、軍事的な備えを強化するよう求める声を引き起こすことになるだろう。

 予告編は約18分間で、人民解放軍が捜索救助活動を装って台湾を海上封鎖する架空のプロットや、サイバー攻撃によるインフラ破壊、中国政府の協力者による妨害工作などが描かれている。このシリーズのプロデューサー、鄭心媚氏は「脅威は今に始まったことではないが、センシティブな問題であるため、これまで話題にするのを避けてきた」と述べている。

このドラマは台湾政府が一部出資して制作されており、台湾文化部(文化省)と聯華電子(UMC)の創業者である曹興誠氏が資金を提供している。曹氏は国防強化を主張しており、民間人300万人の軍事訓練を支援するために10億台湾ドル(約47億円)を拠出すると表明している。

 予告編の公開は、中国人民解放軍による侵攻の可能性に備えて台湾住民2300万人が防空避難訓練を毎年行う時期と重なり、特に注目を集めた。中国は「祖国統一」のためには、民主主義の台湾に対して武力行使も辞さないとしている。

 このドラマは来年放送予定であり、鄭氏は台湾が直面する中国からの脅威に世界がより関心を高めることを期待し、国際的なストリーミングプラットフォームと交渉していると述べている。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】台湾ドラマ『零日攻擊ZERO DAY』:高橋一生出演と台湾の現実的な防衛力分析

このドラマには、日本の俳優の高橋一生も出演しており、7月23日、台北市内で行われた台湾ドラマ「零日攻擊ZERO DAY」の記者会見に出席しました。高橋にとって台湾ドラマ出演は初めてであり、同作では中国語、英語、日本語のせりふを操ります。

高橋は台日ハーフの役を演じ、台湾の女優リェン・ユーハン演じるアナウンサーの元恋人という設定です。2人は戦争の敏感な時期に再会し、互いの真の目的を探り合います。

台湾ドラマ「零日攻擊ZERO DAY」の記者会見に出席した高橋一生(左)、リェン・ユーハン

高橋は、オファーを受けてすぐに出演を決めたことを明かし、脚本をじっくりと読み込んだ上で「ぜひやらせていただきたい」と即決したと語りました。また、台湾での撮影に備えて、日本で中国語を1カ月間学んだと述べています。

滞在中には台湾グルメを堪能し、火鍋やルーロー飯、小籠包、北京ダックなどを楽しんだと話しました。台湾の印象については、「街並みがすごくいいなと思いました。皆さん温かくて」と述べています。

このドラマが公開されるのが楽しみです。ただ、中国が台湾に武力侵攻して、台湾があっという間に占拠されるというような安直な物語にはしてほしくないです。軍事知識があまりない人はこのようなストーリーを描きがちですが、現実的には台湾への武力侵攻はかなり難しいです。

 人民解放軍による演習

なぜなら、このブログでも何度か述べてきたように、台湾は天然の要塞であり、東海岸は海岸からすぐに山が立ちはだかり、大軍が上陸できるような場所はありません。一方、西側の海岸は比較的平地が多いものの小さな湾や河川が入り組んでおり、これも大軍が上陸する地点は限られています。

また、台湾の領土の大部分は山岳地帯であり、玉山は標高3,952m、日本統治時代には富士山よりも標高が高いことから新高山(にいたかやま)と名付けられたことは有名です。このような急峻な山岳地帯を占拠するのは至難の業です。

台湾はこのような天然の要塞のような地形をしており、ここに武力侵攻する部隊は大打撃を受けることになります。実際、米軍も第二次世界大戦中には台湾が重要な戦略拠点であるにもかかわらず、ここに侵攻せずに沖縄に侵攻しました。

ただ、それでも中国は台湾に対しミサイル攻撃などを仕掛けて国土を破壊することはできます。現実の中国による台湾奪取は、サイバー攻撃によるインフラ破壊、中国政府の協力者による妨害工作などに加え、ミサイル攻撃による台湾本土の破壊など、いくつかの手段を組み合わせて行われるでしょう。

このブログでも述べてきたように、人民解放軍が捜索救助活動を装って台湾を海上封鎖するという架空のプロットは成功する可能性が低いです。そもそも中国海軍による台湾の海上封鎖は不可能です。海上封鎖に使用された中国軍の艦艇は、台湾軍のミサイルの標的になり撃沈されてしまうからです。航空機も同じです。台湾軍の地対空ミサイルで撃墜されてしまうでしょう。

台湾軍は、ウクライナ軍と比較してもかなり精強で現代的な軍隊です。台湾空軍は約150機のF-16A/Bを保有し、さらに66機の最新鋭F-16V Block 70を導入予定です。これに対し、ウクライナ空軍は主に旧ソ連製の戦闘機を使用しており、最近ようやっとF16が導入されはじめたばかりで、近代化が遅れています。また、台湾は60機のミラージュ2000-5も運用していますが、これらの機体はF-16に置き換えられる予定です。

さらに、台湾は自前のミサイル群を保有しており、対艦ミサイルから長距離ミサイルまで多様なミサイルを備えています。これにより、海上からの侵攻に対しても強力な防衛力を発揮できます。

さらに、台湾は中国領内のかなり奥地まで自主開発の長距離ミサイルを発射して標的を破壊できます。外国の長距離ミサイルをあてにせざるを得ないウクライナとは違います。

また、台湾は潜水艦を自前で開発しているだけでなく、強力な艦艇も独自に開発しています。例えば、台湾海軍は国産の沱江級コルベット艦を配備しており、これらの艦艇は高性能な対艦ミサイルを搭載し、沿岸防衛能力を大幅に向上させています。

昨年浸水した台湾の潜水艦

これらの装備と戦力により、台湾は中国軍に対して侮れない相手となっています。台湾は長年、中国からの脅威に備えて高度な訓練を受けており、米国との緊密な関係もその訓練の質を高めています。地理的にも、台湾は島国であるため防衛の焦点を集中させやすく、海上からの攻撃に特化した防衛戦略を持っています。

これらの要因から、台湾軍はウクライナ軍と比較して、装備、訓練、戦略、そして技術面で優位にあると言えます。自前の強力な防衛産業を持つ台湾は、着実に防衛力を強化し続けています。

以上のことを勘案すると、中国が台湾に武力侵攻をしてすぐに奪取するというストーリーは現実的ではありません。現実には、外交、軍事、認知戦などを交えて台湾を疲弊させ、何等かの隙ができればそこに付け入る形で奪取するでしょう。このドラマがリアリティーにどれだけ迫れるのかが見どころです。

ドラマ「零日攻擊ZERO DAY」のタイトルから予想される中国による攻撃は、高度なサイバー攻撃を中心とした多面的な作戦が想定されます。これには、重要インフラやコンピューターシステムへの攻撃、電子戦による通信妨害、偽情報の拡散などが含まれるでしょう。

また、「ゼロデイ」という言葉は予期せぬ突然の攻撃を示唆しており、事前警告なしの奇襲攻撃や、サイバー攻撃と物理的な軍事行動を組み合わせた複合的な作戦も考えられます。このようなシナリオは、現代の高度技術社会における脆弱性を突いた、複雑で多面的な脅威を表現しており、このドラマは台湾の防衛態勢の重要性と新たな形の戦争に対する警鐘を鳴らすものとなりそうです。

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2024年7月25日木曜日

「日本史を侮辱」戦国時代舞台の仏ゲーム、発売中止署名に9万超 主人公「弥助」巡り論争―【私の論評】日本の奴隷制度の真実:黒人奴隷と武士に関するフェイク情報の検証と歴史的事実

「日本史を侮辱」戦国時代舞台の仏ゲーム、発売中止署名に9万超 主人公「弥助」巡り論争

まとめ
  • フランスのゲーム会社UBIソフトが発売予定の『アサシン クリード シャドウズ』で、黒人の弥助を主人公の一人にしたことが炎上している。
  • 発売中止を求めるオンライン署名の賛同者が約10万人に達し、「日本の文化と歴史に対する侮辱」であるとの声が高まっている
  • 弥助が実際に侍だったかどうかについて、SNSで無意味な論争が起きている。
  • 日本史に関する誤った認識が海外で拡散されることへの懸念が高まっている。
  • UBIは創作表現の自由を主張しつつも、日本の懸念を認識していると声明を出した。

アサシン クリード シャドウズ

 フランスのゲーム会社Ubisoft(ユービーアイソフト)が発売予定の「アサシン クリード シャドウズ」をめぐる騒動が大きな話題となっている。このゲームは戦国時代の日本を舞台にしており、主人公の一人として黒人侍の「弥助」を設定したことが多くの論争を引き起こしている。弥助は実在の人物で、16世紀に東アフリカ沿岸でポルトガルの奴隷商人に捕らえられ、日本に連れてこられたとされている。

 この騒動の主な論点は、弥助の描写、歴史的正確性、黒人奴隷に関する記述、文化的配慮、著作権問題など多岐にわたります。ゲーム内で弥助は「伝説の侍」として描かれていますが、史実では織田信長の従者や荷物持ちだったとする見方が強く、侍であったかどうかは議論の的となっています。また、ゲームの舞台設定や描写に多くの歴史的な誤りがあると指摘されており、例えば桜が咲いている時期に田植えをしているなど、季節感がばらばらであるという批判があります。

 さらに、トーマス・ロックリー氏の著書『信長と弥助』に「地元の名士のあいだでは、権威の象徴としてアフリカ人奴隷を使うという流行が始まったようだ」という記述があり、これが歴史的事実と異なるとして批判を受けています。日本の文化や歴史に対する理解不足や敬意の欠如が指摘されており、これがアジア人差別につながる可能性があるとの懸念も示されています。また、ゲーム内で使用されているデザインが実在する関ケ原鉄砲隊の旗印を無断で盗用しているとの指摘もあります。

 これらの問題に対し、発売中止を求めるオンライン署名が10万人近くの賛同を集めるまでに至りました。Ubisoftは23日に声明を発表し、「創作表現の自由」を強調しつつ、日本の皆様に懸念を生じさせたことについて謝罪しました。しかし、この問題は単なるゲームの内容を超えて、歴史認識や文化的表現の在り方に関する広範な議論を引き起こしています。特に、弥助を通じて日本における黒人奴隷の存在が誤って認識される可能性や、これが「第二の慰安婦問題」のように歴史的事実の歪曲につながる懸念が示されています。

 この騒動は、グローバル化が進む現代において、歴史的・文化的な題材をエンターテインメントに取り入れる際の難しさと、それが引き起こす可能性のある問題を浮き彫りにしています。

 この記事は、元記事の要約です。詳細は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】日本の奴隷制度の真実:黒人奴隷と武士に関するフェイク情報の検証と歴史的事実

まとめ
  • 日本の隷属制度(奴婢制度)は西洋の奴隷制度とは本質的に異なり、人種に基づくものではなく、1871年に完全に廃止された。
  • 日本で黒人奴隷や黒人武士が広く存在したという主張を裏付ける歴史的証拠は、公式な歴史書や学術研究において見当たらない。
  • 日本は歴史的に人種差別に反対する立場を取っており、1919年のパリ講和会議では国際連盟規約に人種差別撤廃条項を提案した。
  • 「日本における黒人奴隷や黒人武士」というフェイク情報の広まりは、現代のインターネット環境や国際的な情報流通が一因となっている。
  • この誤情報を放置すれば日本の国際的評価や外交関係に悪影響を及ぼす可能性があるため、正確な情報発信と国際社会との対話を通じた事実に基づいた歴史認識の共有が重要である。
「日本における黒人奴隷や黒人武士」というフェイク情報が広まる背景には、複数の要因が絡み合っています。この問題を正確に理解するためには、日本の歴史的背景と隷属制度の実態を把握するとともに、これらの主張を裏付ける歴史的証拠の欠如についても認識する必要があります。

日本の社会構造と隷属制度は、西洋の奴隷制度とは本質的に異なるものでした。日本には「奴婢(ぬひ)」と呼ばれる隷属民が存在しましたが、これは主に債務や犯罪によって自由を失った人々であり、人種に基づくものではありませんでした。


西欧の奴隷制度では、奴隷は家畜同様に扱われ、人権を完全に否定され、売買の対象となっていました。一方、日本の奴婢は、法的に完全な無権利状態ではなく、ある程度の権利を有していました。

重要な歴史的事実として、1587年に豊臣秀吉が伴天連追放令を出した背景があります。秀吉は、ポルトガルやスペインの商人が日本人を奴隷として海外に売り飛ばしていたことを知り、激怒しました。これは日本人の尊厳を守るための措置であり、同時にキリスト教の布教を制限する目的もありました。

さらに、日本の人種差別に対する姿勢を示す重要な事例として、1919年のパリ講和会議における日本の提案があります。日本は国際連盟規約に人種差別撤廃条項を盛り込むよう提案しました。この提案は当時の世界情勢において画期的なものでしたが、残念ながら採択されませんでした。しかし、この事実は日本が早い段階から人種差別に反対する立場を国際社会で表明していたことを示しています。

パリ講和会議日本全権及び随員記念写真 ホテル・ブリストルにて 大正9年6月 クリックすると拡大します

また、日本の奴婢制度は明治時代に入ると正式に廃止されました。1871年の解放令(賤民解放令)により、奴婢を含む全ての隷属身分が法的に廃止されました。これにより、日本は法的に隷属制度を完全に撤廃し、全ての人々に法的な自由と平等を保障する社会へと移行しました。

日本が組織的な奴隷制度を採用していなかった理由の一つは、日本の社会が比較的閉鎖的で、大規模な外国人労働力を必要としなかったことにあります。また、日本の農業システムは小規模な家族経営が中心であり、大規模なプランテーション経済が発達しなかったことも要因の一つです。

重要なのは、日本で黒人奴隷や黒人武士が広く存在したという主張を裏付ける歴史的証拠が、日本の公式な歴史書や学術研究において見当たらないという事実です。日本の歴史書、古文書、公文書などには、黒人奴隷制度や黒人武士の存在を示す記録がほとんどありません。

このような歴史的証拠の欠如にもかかわらず、「日本における黒人奴隷や黒人武士」というフェイク情報が広まる背景には、現代のインターネット環境や国際的な情報の流通が関係しています。例えば、2016年に出版された『African Samurai: The True Story of Yasuke, a Legendary Black Warrior in Feudal Japan』(写真下)は、弥助の物語を紹介していますが、その内容が誤解を招きやすいものであったため、誤情報が広まりました。


さらに、Wikipediaなどのオンライン情報源が誤情報を拡散する一因となり、主要メディアに引用されることで誤った情報が広く認識されるようになりました。日本の歴史や文化に詳しくない外国人にとっては、これらの情報の真偽を判断することが難しい場合があります。

このような誤情報が広まることの影響として、日本の国際的なイメージや外交関係に悪影響を及ぼす可能性があります。特に、人種差別や歴史的な不正義に対する感受性が高い国々では、誤情報が日本に対する批判や誤解を招くことがあります。

したがって、日本の歴史や社会構造について正確な情報を発信し、誤解を解消するための努力が重要です。日本が組織的な奴隷制度を採用していなかった事実を、歴史的背景や社会構造の違いとともに説明し、さらに歴史的証拠の欠如を指摘することで、より深い理解を促すことができるでしょう。

国際社会との対話を通じて、事実に基づいた歴史認識を共有することが必要です。この点を怠れば、「日本における黒人奴隷や黒人武士」の問題が、第二の慰安婦問題や徴用工問題になりかねません。これらの問題では、歴史認識の相違が長年にわたる外交問題や国際的な批判につながりました。同様に、黒人奴隷や黒人武士に関する誤った情報が広まり、それが定着してしまえば、日本の国際的な評価を損ない、外交関係に深刻な影響を与える可能性があります。

特に、人種問題に敏感な国々との関係において、このような誤解は重大な問題となる可能性があります。誤った歴史認識が広まれば、それを訂正するのは非常に困難になり、長期にわたって日本の外交や国際関係に悪影響を及ぼす可能性があります。

したがって、早い段階で正確な情報を積極的に発信し、誤解を解消するための努力を行うことが極めて重要です。同時に、国際社会との建設的な対話を通じて、相互理解を深め、事実に基づいた歴史認識を共有することが不可欠です。このような取り組みによって、将来的な外交問題や国際的な批判を未然に防ぐことができるでしょう。

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2024年7月24日水曜日

トランプ狙撃事件をどう読むか 2つの教示―【私の論評】米国政治の分断と二大政党制の未来:トランプ暗殺未遂事件がもたらす影響

トランプ狙撃事件をどう読むか 2つの教示

まとめ
  • トランプ氏の暗殺未遂事件は、アメリカ全体を団結させた。
  • 今回の事件は、民主、共和党の対立をこれ以上険悪化させないという合意を浮上させた。
  • トランプ氏の、非常事態において発揮した強靭さ・果敢さは賞賛に値する。
狙撃された直後のトランプ元大統領

 トランプ前大統領への狙撃事件は、アメリカの政治と社会に重要な意味を持つ出来事として解釈できる。

 まず、この事件はアメリカ全体に団結をもたらした。大統領経験者への暗殺未遂という行為は、政治的な立場を超えて非難の対象となり、民主主義の根幹を脅かす暴力に対する超党派の一致が見られた。これは、アメリカの民主主義の自衛作用が機能していることを示している。

 歴史的に見ても、大統領や元大統領を標的とした事件は稀で、過去100年余りで今回が3例目に過ぎない。過去の事例では、このような事件後にアメリカ全体の団結が強まり、標的となった大統領への支持が高まる傾向があった。

 今回の事件でも、トランプ氏とバイデン氏の両陣営が暴力排除という基本線で一時的な融和を示した。これは、アメリカの政治的分断がこれ以上深まらないようにする合意の兆しとも解釈できる。

 さらに、この事件はトランプ氏個人の政治的資質を示す機会ともなった。銃撃を受けた直後にも関わらず、トランプ氏が示した強靭さと果敢さは、支持者だけでなく一般国民の間でも評価を高める可能性がある。

しかし、この事件が長期的にアメリカの政治や社会にどのような影響を与えるかは、まだ不明確だ。過去の事例のように支持率の大幅な上昇につながるかどうかは、今後の展開を注視する必要がある。

結論として、この狙撃事件は、アメリカの民主主義の強靭さを示すと同時に、政治的分断を緩和する可能性を秘めた出来事として解釈できる。また、トランプ氏個人の政治的資質を再評価する契機ともなっており、今後の大統領選挙に向けた政治情勢に大きな影響を与える可能性がある。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。【まとめ】は元記事の要点を箇条書きにまとめたものです。

【私の論評】米国政治の分断と二大政党制の未来:トランプ暗殺未遂事件がもたらす影響

まとめ
  • 米国の二大政党制では、民主党と共和党の政策には多くの共通点があり、中道寄りの政策を採用することで政治の安定性を保ってきました。
  • 近年、オバマ政権以降、政党の分極化が進み、政策的立場の違いが拡大し、中道的な政策の共有が減少しました。
  • ソーシャルメディアの普及やメディアの影響力により、異なる政治的立場の間での対話が減少し、政治的対立が激化しました。
  • トランプ前大統領への暗殺未遂事件は、政治的分断を和らげ、二大政党が本来の姿に戻るきっかけとなり得る可能性があります。
  • この事件を契機に、暴力に対する超党派の一致と共通の価値観に基づいた政策形成が進むことで、政治の安定性と継続性が再び強化される可能性があります。
米国の二大政党制において、民主党と共和党の政策には多くの共通点が存在してきました。これは両党が幅広い有権者層の支持を得るために、中道寄りの政策を採用する傾向があったためです。例えば、外交政策における反共産主義や同盟国との関係維持、経済政策における自由市場経済の基本原則の維持、社会保障制度の基本的な枠組みの継続などが挙げられます。

一方で、両党の違いが顕著に表れる分野もありました。税制では共和党が減税を、民主党が累進課税を重視する傾向があり、規制に関しては共和党が緩和を、民主党が環境保護などの強化を主張してきました。また、社会政策においては民主党が多様性や平等を重視し、共和党が伝統的価値観を強調するなどの違いが見られました。

ブッシュ元大統領

このような体制から、政策に関して政党が変わっても「7割同じ、3割異なる」という構図が維持されてきました。これは、政権交代時の急激な政策変更を防ぎ、政治の安定性を保つ役割を果たしてきました。例えば、クリントン政権からブッシュ政権への移行時も、外交政策や経済政策の基本的な枠組みは大きく変わりませんでした。

さらに、米国の政治には興味深い伝統がありました。新政権発足後、約1年間は前政権の政策の影響が続く可能性があるという認識から、この期間は新政権への批判を控える傾向がありました。これは政権交代の円滑な移行を促し、新政権が自らの政策を展開する時間的余裕を与える役割を果たしていました。

しかし、近年では両党の政策的な違いが拡大する傾向にあります。これは政党の分極化が進んでいるためで、オバマケアの導入と共和党によるその撤廃の試みなど、政権交代に伴う政策の大幅な変更が見られるようになっています。この変化は、米国政治の安定性に新たな課題をもたらしていますが、依然として制度的な抑制と均衡のシステムが機能しており、極端な政策変更を防ぐ役割を果たしています。

このように、米国の二大政党制は政策の継続性と変化のバランスを保ちながら、政治の安定性を維持してきました。しかし、近年の政治的分極化の進行により、このバランスが変化しつつあることも事実です。今後、米国政治がどのように進化していくかは、注目に値する課題となっています。

米国メディアは、こうした二大政党の伝統をトランプが壊して、米国を分断したと報道することが多いのですが、実際にはオバマ政権の頃から、米国の二大政党制が崩れ、米国の分断が始まっていました。オバマ政権以降、政党の分極化が進み、民主党と共和党の政策的立場の違いが拡大し、中道的な政策の共有が減少しました。同時に、保守系・リベラル系のメディアの影響力が強まり、異なる政治的立場の間での対話が減少しました。

さらに、ソーシャルメディアの普及により、エコーチェンバー効果が強まり、人々が自分の意見と同じ情報にのみ接する傾向が強くなりました。また、オバマケアの導入や移民政策など、党派間の対立が激しい政策課題が増加し、政治的対立が激化しました。相手側の意見を尊重し、妥協点を探るという政治的寛容さも低下しています。

これらの要因により、オバマ政権以降、政権交代直後でも新政権への厳しい批判が行われるようになり、政策の継続性よりも党派的な対立が前面に出るようになりました。トランプ政権時代にはこの傾向がさらに顕著になり、バイデン政権下でも政治的分断は依然として大きな課題となっています。この分断は、政策形成の有効性を低下させ、長期的な国家戦略の実行を困難にする可能性があります。また、国民の間でも政治的立場による分断が深まり、社会の一体性にも影響を与えています。

オバマ元大統領(左)とバイデン大統領

結論として、オバマ政権頃から、米国の政治的伝統が大きく変化し、政治的分断が進んだと言えます。この傾向は現在も続いており、米国政治の大きな課題となっています。この分断を克服し、より建設的な政治対話を再構築することが、今後の米国民主主義の健全な発展にとって重要な課題となっています。

トランプ前大統領への暗殺未遂事件は、米国の政治的分断が進んだ現状において、二大政党の本来の姿に戻すきっかけとなり得る可能性があります。この事件は、米国全体に強烈な衝撃を与え、政治的立場を超えた団結を促す契機となりました。過去のレーガン大統領への狙撃事件と同様に、今回の事件も国全体が一致して暴力を非難し、民主主義の根幹を守る姿勢を示しました。

さらに、トランプ氏とバイデン氏の両陣営が暴力排除という基本線で一時的な融和を示したことは、党派を超えた協力の可能性を示唆しています。このような事件を契機に、政治的対立を和らげ、共通の価値観に基づいた政策形成が進む可能性があります。従来のように、二大政党が中道寄りの政策を共有し、急激な政策変更を避けることで、政治の安定性を保つという伝統が再評価されるかもしれません。


トランプ氏への支持が共和党層だけでなく一般国民の間でも高まる予兆があることも、この動きを後押しする要因となり得ます。過去のレーガン大統領の例では、狙撃事件後に支持率が大幅に上昇し、超党派の人気を得ることができました。トランプ氏も同様に、今回の事件を契機に強靭さを示し、支持を広げる可能性があります。

結論として、トランプ前大統領への暗殺未遂事件は、米国の政治的分断を和らげ、二大政党が本来の姿に戻るきっかけとなる可能性があります。これは、暴力に対する超党派の一致と、共通の価値観に基づいた政策形成を促進することで、政治の安定性と継続性を再び強化することにつながるでしょう。

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