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2022年3月19日土曜日

橋下氏らの執拗な「降伏」「妥協」発言、なぜそれほど罪深いのか ウクライナへの“いたわりに欠ける”姿勢で大炎上!―【私の論評】自由と独立のために戦うウクライナ人など馬鹿げていると指摘するのは、無礼と無知の極み(゚д゚)!

有本香の以読制毒

フジテレビ系「めざまし8」に生出演しロシア軍に侵攻されたウクライナ人に、国外退避を強く勧めた橋下氏。

  14日発行の夕刊フジで、ロシアの隣国、ジョージア出身の学者、ダヴィド・ゴギナシュヴィリ氏が、日本のテレビコメンテーターらのウクライナに対する「降伏しろ」発言に異を唱えた。名指しを避けたが、元大阪市長で弁護士の橋下徹氏らの発言を指すと拝察する。


 本コラムではあえて実名を挙げて書き、橋下氏らの一連の発言の罪深さを改めて論じたい。 先月24日のロシア軍の侵攻開始から3週間、祖国防衛のため必死に戦うウクライナに対し、多くの日本国民は深い同情と敬意を寄せている。だが、橋下氏はじめとする日本の一部著名人はなぜか、在日ウクライナ人に執拗(しつよう)に、「降伏」や「妥協」を迫るような発言をしている。

  発言の一端を紹介すると、まず3月3日、フジテレビ系の情報番組「めざまし8(エイト)」で、橋下氏はウクライナ出身の政治学者、グレンコ・アンドリー氏に向かい、次のように言っている。

  「今、ウクライナは18歳から60歳まで男性を国外退避させないっていうのは、これは違うと思いますよ」「アンドリーさん、日本で生活してていいでしょう。未来が見えるじゃないですか。あと10年、20年、頑張りましょうよ。もう一回、そこからウクライナを立て直してもいいじゃないですか。(ロシアのウラジーミル・)プーチン(大統領)だっていつか死ぬんですから」

  このときグレンコ氏は、ウクライナの現状を懸命に説明していた。その発言に割って入ってまで、橋下氏は「ウクライナ人は国外へ逃げろ(=つまり、国土をロシアに明け渡せ)」と言ったのである。

  案の定、この橋下発言は大炎上した。後日、橋下氏は別の番組で、「全面降伏しろとは言っていない」と説明に努めたが、多くの視聴者が「降伏」の強要のように受け取って、違和感を覚えたことは間違いない。

  橋下氏は翌週も、グレンコ氏に同じ理屈で食い下がり、6日にはやはりフジテレビ系「日曜報道 THE PRIME」で、自民党の高市早苗政調会長にも迫った。

  このときは、「中国を取り込まないと(対露)制裁の効きが弱いともいわれている」と指摘し、「中国に頭を下げてでも、こっちに付いてもらう必要があるのでは」と問いかけ、高市氏はあきれ顔となっていた。

  筆者が考える、一連の橋下発言の問題点の第1は、事実・史実に基づいていないことだ。

  まず、ウクライナ人が、帝政ロシアとソ連の支配のもとで、どれほどの辛酸を嘗めてきたかを橋下氏はおそらく知らなかっただろう。歴史の一例を挙げると、世界的な穀倉地帯であるウクライナは、1930年代、スターリンの圧政のもとで起こされた人為的飢餓により、年間400万から1000万人超が餓死させられた。こうした歴史を知っていたら、ウクライナ人に向かって安易にロシアの軍門に下れと言えるはずがない。

  さらに、「プーチンが死ぬまで待てば、ウクライナを再興させられる」という、何の根拠もない、無責任な〝提案〟はさらにあり得ない。

  事実に基づかない発信はまだある。 橋下氏は15日、自身のツイッターを更新し、次のように述べている。

  「今の中国は欧米の制裁に負けたというのを最も嫌がる。アヘン戦争の敗北の歴史からの脱却が原動力なんやから。中国をこっちに引き寄せるには、お願いかお土産が先やろ。制裁をちらつかせるのは最後の手段。こんな建前政治は、解決能力なし。ほんまアカン。」(2022年3月15日)

  「お土産」とまで書いて中国に「頭を下げろ」という橋下氏は、もう一つご存じないことがあるとみえる。

  米国がプーチン氏のウクライナ侵攻を阻止するため、12回にわたって中国に働きかけていたことは、米紙ニューヨーク・タイムズが報じている。インテリジェンス情報を中国側に提供してまで、ロシアの軍事侵攻を警告し説得したが徒労に終わったのだ。

  橋下発言に煽られたのか、ニッポン放送のラジオ番組では、テレビプロデューサーのテリー伊藤氏が、在日ウクライナ女性に対して、「ウクライナ勝てませんよ」「無駄死にしてほしくない」と説き、女性は「降参するっていうことですね」といい、口論の様相を呈した。

  いま自身の故郷が爆撃にさらされ、家族や友人の命が危ないという人たちに対する、惻隠の情というものが、橋下氏や伊藤氏、テレビ、ラジオの制作者にはないのだろうか。一連の〝降伏発言〟の最大の問題点は、このいたわりに欠ける姿勢にある。

【私の論評】自由と独立のために戦うウクライナ人など馬鹿げていると指摘するのは、無礼と無知の極み(゚д゚)!

ウクライナの歴史を少しでも知っていれば、確かに橋下氏のような安易な批判はできないです。以下に外務省のサイトからウクライナの略史を以下に掲載します。


上の記事で、有本氏が「スターリンの圧政のもとで起こされた人為的飢餓により、年間400万から1000万人超が餓死させられた」という記述は、上の表の1932年の大飢饉(ホロドモール)のことです。

特に、1917年〜1921年以降のソ連によるウクライナへの虐待は凄まじいものがあります。

詳しくは、グレンコ・アンドリー氏の以下の記事を下のリンクからご覧になって下さい。
在ウクライナ日本大使館のサイトも参考になります。
ウクライナ概観 (2011年10月現在)
さて、ここではホロドモールについてさらに詳しく述べていこうと思います。

当時限られた農作物や食料も徴収された人々は、鳥や家畜、ペット、道端の雑草を食べて飢えをしのいでいました。それでも耐えられなくなり、遂には病死した馬や人の死体を掘り起こして食べ、チフスなどの疫病が蔓延したとされています。

ウクライナの飢餓を伝える当時の米国の新聞

極限状態が続き、時には、自分たちが食事にありつくため、そして子どもを飢えと悲惨な現状から救うために、我が子を殺して食べることもあったと言います。おそるべきディストピアです。

通りには力尽きて道に倒れた死体が放置され、町には死臭が漂っているという有様でした。当時は、飢饉や飢えという言葉を使うことも禁じられていたそうです。

飢饉によってウクライナでは人口の20%(国民の5人に1人)が餓死し、正確な犠牲者数は記録されてないものの、400万から1450万人以上が亡くなったと言われています。

また、600万人以上の出生が抑制されました。被害にあった領域はウクライナに限らず、カフカスやカザフスタン、ベラルーシ、シベリア西部、ヨーロッパ・ロシアのいくつかの地域にまで及んでいます。

ソ連では長きにわたってホロドモールの事実が隠蔽され、語られることはありませんでした。結局、ソ連政府がこの大飢饉を認めたのは1980年代になってからです。

この飢餓の主な原因は、凶作が生じていたにもかかわらず、ソ連政府が工業化推進に必要な外貨を獲得するために、農産物を飢餓輸出したことにあります。

このことからウクライナでは、ホロドモールはソ連による人為的かつ計画的な飢餓であり、ウクライナ人へのジェノサイド(大虐殺)とみなされています。

しかし、ソ連は飢饉の存在自体は認めたものの、被害を被ったのはウクライナ人だけではないとして、虐殺については否定しました。

ホロドモールの被害者

1991年のソ連崩壊によって、統治下にあったウクライナは独立を果たしました。しかし、ソ連の財産継承をめぐる両国間の問題は未解決であり、ユーロマイダン革命やロシアによるクリミア編入など、現在のウクライナ危機へとつながっています。

ホロドモールに関しては、現在になってウクライナ国内でも意見が割れています。ヴィクトル・ユシチェンコが大統領を務めていた2006年、ウクライナ最高会議はホロドモールをウクライナ人へのジェノサイドと認定する決定を採択。

しかし2010年、ユシチェンコの後継であるヴィクトル・ヤヌコーヴィチ大統領は、「ホロドモールはウクライナ人に対するジェノサイドと見なすことはできず、ソ連国内の諸民族の悲劇」と強調し、見解を修正しました。

一方の現代ロシアでは、歴史家を中心に飢饉の事実認識には同調しますが、被害はロシア人やカザフ人にもおよんだと指摘し、ウクライナ人に対する民族的なジェノサイドであることを否定する声が挙がっており、見解の相違は埋まっていません。ただ、ウクライナ人の犠牲が最大であったことは否めないです。

多くの人が命を落とすこととなったホロドモール。しかし、ソ連による歪められた情報工作が影響してか、日本では現在も認知が高くないのが現状です。在日ウクライナ大使館では、ホロドモール被害者追悼の日にあたる11月第4土曜日に、追悼祈祷式と礼拝が行われています。

ソ連によって引き起こされた人為的な大飢饉であるホロドモール。そこにあるのは、単なる国家間の争いが招いた、被害者と加害者という構図のみではありません。繰り返されてきた戦争や人種問題も影響しています。私たちは、血塗られた歴史に目を背けず受け入れなくてはならないですし、この惨劇を忘れてもならないです。

多くの人が人為的に餓死されられたという事実は、ウクライナでは様々な形で語り継がれてきたことでしょう。

現在人口4400万人のウクライナで過去に1/5の人が亡くなったのですから、多くのウクライナ人の家族や親戚の誰か、あるいは周りの人の関係者の誰かは亡くなっているでしょう。そうした歴史的記憶を持つウクライナ人が、ロシアの侵攻に徹底抗戦しようという気持ちになるのは当然といえば当然です。

ロシアよる占領では、多くの人々が粛清されることになるでしょう。命を守る、といっても、降伏さえすれば全員が生き残れるという保証などありません。逃亡すれば良いといわれても、逃亡中に命を落としているウクライナ人も多数出ています。それに、誰もが安心にたる逃亡先が提供されるとは限りません。

降伏後も逃亡後も、抑圧・困窮は必至で、命がけの生活になるでしょう。ロシア支配下では、ウクライナという国の実質的あるいは形式的な存続も危ういです。

ロシアのウクライナ侵攻を成功裏に終わらせることは絶対に避けなければならないです。プーチンの核の恫喝に妥協し融和的解決を模索することは、将来の国際秩序に大きな禍根を残すことになります。まさにウクライナ侵攻をプーチンの誤算まま終わらせる努力と覚悟が国際社会に求められているといえます。ウクライナは国際社会の秩序の維持のためにも戦っているともいえます。

多くの人は安易に「生命よりも大事なものはない」といいます。ところが「生命を守る」というのは、簡単なことではありません。ただ降伏したり逃亡したりすれば、万人の生命が長期にわたり保障される、などというのは幻想にすぎません。

特にロシアに関してはそうです。特に日本人なら、違法な日本人将兵のシベリア抑留や、北方領土の違法占拠などの記憶があるはずです。第2次世界大戦後に、日本がソ連に占領されていたら、とてつもないことになっていたことは容易に想像がつきます。

ガニ大統領が国外逃亡した後に残されたアフガニスタン人の多くは、現在のタリバン支配の状況下で、苛烈な状況に置かれています。旧政府の治安関係部門で働いていたとわかれば、確実に粛清対象です。

現在のアフガニスタンでは公開処刑されている者も多数いますし、失踪した人も多数存在します。女性の権利のために運動しているだけで、深夜に自宅のドアをぶち破られ、連れ去られて行方不明にされてしまうのです。なんといっても多くの若者の夢や人生設計が大幅に狂わされました。特に、女性のそれは絶望的です。彼女たちの将来は、タリバン支配が続く限り閉ざされたままになります。

国外逃亡したアフガニスタンの前ガニ大統領は、外国メディア関係者に向かって「私はアフガニスタン人の生命を救った」などと寝惚けた主張をしていますが、実際には、ただ自分の生命救っただけです。

たとえ日本のテレビ番組であったとしても、日本のお茶の間の視聴者向けであったとしても、自由と独立のために戦うウクライナ人など馬鹿げている、降参すべきだ、逃げるべきだなどと指摘するのは無礼の極みです。

こんな馬鹿げた主張をしても、それに気がつなかない、そのような主張を聴いても、おかしいと思わない人は、相当頭の中がお花畑になっていることを自覚すべきです。

無論、ホロドモールの原因をつくりだしたスターリンは過去の人物であり、プーチンではないと考える人も多いでしょう。しかし、このブログでも以前指摘した通り、元KGBである彼の故郷はロシアではなくソ連邦なのです。プーチンにとっては、ウクライナはあくまで自分たちの持ち物なのです。このような考えには、ロシア人でさえ賛同できないでしょう。

ウクライナ人からすれば、ブーチンがいつスターリンのような政策をとるかもしれないと疑心暗鬼になるのは無理もありません。ましてや今回現実にプーチンはウクライナに本格的に侵攻をはじめその疑心暗鬼は現実のものとなりました。そのウクライナ人がプーチンの目論見を実現させないように立ち上がるのは当然です。それをただ犠牲がでるからといって、降伏しろ、逃げろというのはあまりに理不尽です。

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2021年12月31日金曜日

バイデン氏正念場 ウクライナ侵攻許せば台湾は…―【私の論評】来年中国の台湾侵攻はなし、ロシアのウクライナ侵攻もその確率は低い(゚д゚)!

バイデン氏正念場 ウクライナ侵攻許せば台湾は…

12月30日、米デラウェア州の自宅で、ロシアのプーチン大統領と電話会談するバイデン米大統

 外交努力による緊張緩和か、重い代償を払う制裁か。12月30日の米露首脳会談で、バイデン米大統領はプーチン露大統領に〝二者択一〟を迫った。中国が威圧を強める台湾海峡と二正面の抑止作戦を強いられた超大国の苦悩は、2022年の不穏な世界の幕開けを印象付けた。

 「バイデン氏は2つの方向をプーチン氏に明示した」と米政府高官は語る。

 ウクライナ情勢の緊張緩和に導く外交の道筋。もうひとつは、ウクライナに軍を進めることでプーチン氏自らが選択する「深刻な代償と結果」を伴う制裁だ。いずれも「この先のロシアの行動次第」と高官は語るが、バイデン氏にも賭けであるのは間違いない。

 制裁は国際金融決済システムからロシアを締め出すもので、石油・天然ガス輸出に頼る露経済への打撃は甚大だ。「両国関係を完全な決裂に導く」と露側が反発したのは制裁を脅威と受け止めた証左とする見方も米側にはある。

 だが、現実にウクライナ侵攻を抑止できなければ、プーチン氏との神経戦は敗北に等しい。

 もうひとつの〝最前線〟で、中国の習近平政権はロシアの後を追うように、サイバー攻撃や世論工作などを駆使した〝ハイブリッド戦争〟と軍事侵攻の二段構えで台湾統一の機会を狙っている。ウクライナ情勢をめぐり1月に持ち越された米露高官協議の行方は、2月の北京冬季五輪以降の中国の出方にも影響を与える。昨年のアフガニスタンの混乱で傷ついたままの米国の威信が、決定的に試されるときが近づいている。

【私の論評】来年中国の台湾侵攻はなし、ロシアのウクライナ侵攻もその確率は低い(゚д゚)!

このブログでは、何度か述べてきたように、中国が台湾に武力進行するおそれはないでしょう。その理由の一つは、冷戦中にソ連が北海道に侵攻するなどと言われていましたが、それはありえないかったのと同じ理由です。

自衛隊は冷戦時代、音威子府(おといねっぷ)がソ連軍との決戦場になると思い定めていた

ソ連が崩壊してから今年で30年です。ソ連軍の戦略は以下のようものでした。
・戦略核兵器により、アメリカ、イギリスなどと対峙し、
・ソ連軍は、ワルシャワ条約機構軍を頼みとして、NATOと対峙する。
・太平洋と大西洋では、潜水艦隊が、アメリカの空母を狙い、アメリカの対潜部隊を、ソ連の対艦ミサイルが狙うというものでした。
そんな中、極東地域では、ソ連軍の、日本侵攻も噂されていました。というより、マスコミが煽りまくっていました。

さてソ連が北海道に侵攻するとなると、揚陸艦艇が必要になります。

当時のソ連海軍において、揚陸艦は、約90隻、192000トンでした。海上自衛隊の6隻、約10000トンの輸送艦で、陸自1個師団の半数の輸送能力しかないですから、これをもとに掲載んしてみるとどう見ても当時のソ連では、10万人の輸送能力しかなかったのです。

しかも、それが海軍の全力であるから、極東地域は、4万人が限度だったことでしょう。また、陸自の場合は、部隊の移動だけが輸送艦定数の計算対象で、その後の補給は別です。

しかしながら、敵地に侵攻する部隊は、補給線の確保は、必須課題です。そうして、敵前上陸に際しては、激しい抵抗線があります。

ミサイル艇や対艦ミサイル、空対艦ミサイルによる、反撃により、2割程度の犠牲は覚悟せねばなるないでしょう。また、冷戦時代から日本は米国の依頼もあって、オホーツク海において、対潜哨戒活動を行い、日米の潜水艦はソ連の潜水艦などの情報をつかみ、この封じ込めに成功していました。

そうなると、ソ連が日本に侵攻ということになれば、ソ連の艦艇は日米の攻撃を受けて、2割の程度の犠牲どころか、半分以上が撃沈されるおそれもありました。

ただ、当時のソ連軍には、空挺師団があり、戦車をも空挺できる事は考慮する必要が有るかもしれませんが、それでも海上輸送と比較すれば、さほど多くの兵員を送れるわけではありません。

空挺師団の役割は、後続の陸上部隊が到着することを前提として、ピンポイントで、橋頭堡を構築することなどが主任務です。後続部隊が来なければ、限られた戦力では持ちこたえられません。

当時一部でいわれた、カーフェリー揚陸艦論ですが、カーフェリーは、甲板強度を確保してあれば、戦車などの重量物の運搬は可能です。しかしながら、敵前揚陸は、本船から直接揚陸させる事が必要で、一般船舶のような船首では、上陸地点への進出は「座礁」であり、とても、貨物を戦力投入しうる物ではありません。

ただ、既に接岸揚陸中の艦艇に、ポンツーン(浮橋架設用の船)などを介して接舷するのであれば、不可能ではありません。但し、この作戦は、橋頭堡確保以降の後詰めであり、交戦中にその様な事をしていれば、直ちに敵に攻撃されることになります。

さて、このようにして、上陸を達成しうる部隊は、およそ5万人です。対する陸自は、北海道、北部方面隊と4個師団をあわせて、4万人。また、有事には、本土から1個師団が北方機動するので、更に増強が可能でした。

但し、この場合は、十分な準備期間が必要で、約2週間前に、察知している事が必要でしょうが、無論ソ連が北海道侵攻を目指すような大戦争を行うということになれば、それは、事前に必ず日本や米国に知られることになります。当時から監視衛星や、偵察機がありましたから、大きな動きはすぐに日米に察知されます。

当時のソ連軍が北海道に侵攻となると、日米が十分に準備を整えているところに侵攻することになります。第二次大戦中のような奇襲は不可能です。

地上軍の攻撃には、「攻者3倍の法側」と言うものがあります。これは、2対1で、完全相殺し、残る1で占領維持するということを意味します、

5万の攻撃部隊と、4万の守備隊。この辺でお分かり頂けると思いますが、国土の損害や、犠牲を別にしても、攻撃に踏み切るだけの兵力投入が、ソ連軍には出来なかったのです。

と言う図式から、北海道侵攻の脅威は、幻に過ぎなかったのです。そのようなことは当時からわかっていましたが、無論それでも当時は北海道にソ連の脅威にそなえて陸自、海自、空自ともに駐屯していました。これは、無論正規の軍隊が攻めてこれないにしても、決死覚悟のゲリラ部隊などが侵入してきた場合に備えるという意味合いもありました。

これと同じようなことが、現在の中国による台湾侵攻にもいえます。このあたりは、以前もこのブログに掲載したことがあるので、その記事のリンクを以下に掲載します。
中国軍改革で「統合作戦」態勢整う 防衛研報告―【私の論評】台湾に侵攻できない中国軍に、統合作戦は遂行できない(゚д゚)!
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事より一部を引用します。
中国が台湾を武力統一しようとする場合、最終的には上陸侵攻し、台湾軍を撃破して占領する必要があります。来援する米軍とも戦わなければならないです。

その場合、中国は100万人規模の陸上兵力を発進させる必要があります。なぜなら台湾軍の突出した対艦戦闘能力を前に、上陸部隊の半分ほどが海の藻くずとなる可能性があるからです。

それに、昨日も述べたように、日米の潜水艦隊が台湾に加勢すると、上陸部隊のさらに半分が海の藻屑となります。これでは、台湾に到達する前に、全部隊が撃破されることになります。

日米が加勢しないとしても、100万人規模の陸上兵力を投入するためだけにでも5000万トンほどの海上輸送能力が必要となります。これは中国が持つ全船舶6000万トンに近い数字です。

台湾有事を気楽に語っている軍事評論家も忘れているようですが、旧ソ連軍の1個自動車化狙撃師団(定員1万3000人、車両3000両、戦車200両)と1週間分の弾薬、燃料、食料を船積みする場合、30万~50万トンの船腹量が必要だとされています。
旧ソ連軍の演習
船舶輸送は重量トンではなく容積トンで計算するからです。それをもとに概算すると、どんなに詰め込んでも、3000万トンの船舶が必要になります。

この海上輸送の計算式は、世界に共通するもので、中国も例外ではありません。むろん、来援する米軍機を加えると、中国側には上陸作戦に不可欠な台湾海峡上空の航空優勢を確保する能力もありません。

それだけではありません。軍事力が近代化するほど、それを支える軍事インフラが不可欠です、中国側にはデータ中継用の衛星や偵察衛星が決定的に不足しています。
中国側には台湾海峡上空で航空優勢(制空権)をとる能力がなく、1度に100万人規模の上陸部隊が必要な台湾への上陸侵攻作戦についても、輸送する船舶が決定的に不足しており、1度に1万人しか出せないのです。そしてなによりも、データ中継用の人工衛星などの軍事インフラが未整備のままなのです。

こうした現実があることと、さらに米軍の強力な攻撃型原潜が台湾を包囲してしまえば、対潜戦闘能力(ASW)が劣る中国には、この包囲を突破できなくなります。仮に突破して、陸上部隊を上陸させたにしても、補給船や、航空機が攻撃型原潜に破壊され、補給ができなくなり、陸上部隊はお手上げになってしまいます。

このようなことを考えると、中国が台湾に侵攻することはないでしょう。侵攻すれば、侵攻部隊は大被害を受けて、しりぞかざるを得なくなり、人民解放軍の能力がどの程度のものなのか、世界中に知られてしまい、習近平は物笑いの種になり、当地の正当性を失うだけです。 

一方、現在のロシアにも、兵站に問題があり、ウクライナに侵攻するのは、かなり難しいです。現在も、それに将来もロシア人の多いウクライナのいくつかの州に侵攻できるだけです。ウクライナに侵攻して、ウクライナを併合するようなことはできません。それについては、このブログにも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。

ロシア軍、1万人以上撤収 南部のウクライナ国境―【私の論評】一人あたりGDPで韓国を大幅に下回り、兵站を鉄道に頼る現ロシアがウクライナを屈服させ、従わせるのは至難の業(゚д゚)!
7日、ウクライナ東部ドネツク州で、親ロシア派武装勢力との境界線付近を歩くウクライナ軍兵士


詳細は、この記事をご覧いただくものとして、結局一人あたりGDPでは、韓国を大幅に下回る現在のロシアでは、そもそもウクライナ全土を併合するような大戦争はできません。それに、ロシア軍の兵站は鉄道に頼っているため、鉄道網が破壊されると、補給ができなくなるという致命的な欠陥があります。

それに、現在のロシアは、インフレの加速したため、中銀は金融引き締めの度合いを強めているほか、感染再拡大による影響も顕在化するなど、足下では幅広く企業マインドが下押しされるなど景気の悪化が懸念されています。

ロシアはワクチン開発国ながら国民の間に疑念がくすぶるなかでワクチン接種が進んでいません。プーチン大統領は国民にワクチン接種を呼び掛けるほか、事実上の接種義務化などの動きもみられますが、政府の旗振りにも国民は踊らされることはありませんでした。総選挙で与党は政権基盤を維持出来ましたが、国民の間には着実に政府に対する不満のマグマは溜まっているのは間違いないです。

この状況で、ウクライナに攻め込んでも、さらに経済が悪化するだけですし、クリミアのときのように国民からの支持が大きく伸びるということもないでしょう。私としては、プーチンは、米国の厳しい制裁を逃れたいので、その取引材料として、ウクライナを利用しているのではないかと思います。

実際プーチンは、バイデンと電話会談する機会を得ることができました。ウクライナ問題がなけば、このようなことはなかったでしょう。

以上中国の台湾への侵攻は、来年もないでしょう。現状に大きな変化がない限り、来年以降もないでしょう。

ロシアによるウクライナ侵攻もかなり確率が低いと思います。ただ、状況が悪化した場合、来年はドネツク州への侵攻はあるかもしれませんが、年明けすぐということはないでしょう。ただ、確率は低いです。

来年は、平和な年になっていただきたいものです。皆様本年中は、お世話になりました。良いお年をお迎えくださいませ。

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2019年7月12日金曜日

レームダック化するプーチン―【私の論評】日本は韓国で練習し、ロシアに本格的"Economic Statecraft"を実行し北方領土を奪い返せ(゚д゚)!


 盤石のように見られがちなプーチン大統領ではあるが、同氏への支持の低下は、かなり目立つようになってきている。特に、青年層のプーチンへ離れが著しいという指摘がある。ワシントンに本部を置き、海外のロシア人達にリベラルな情報を伝達している、Free Russia Foundationによれば、プーチンの全国平均支持率は60%以上だが、この10年間で青年層(17-25歳)における支持率は急激に低下して19年1月現在32%となっている。

プーチン大統領

 一般の理解に反して、ロシアは実は「若い国」である。平均寿命が低い(男性では67歳強)ために、34才以下の者が実に人口の43%を占めている。うち3000万は20歳以上の世代Yと呼ばれ(米国のミレニアルに相当)、1500万が10代の世代Z、そして1800万が10歳以下である 。彼らは一般的に政党等、既存の制度を信じておらず、65%はマスコミも信じていない。そして反米主義に染まっておらず、世代Yの者の70%強は物質的豊かさを重視して、49%の者が「西側の先進国のようになりたい」と考えている 。

 青年層は多くの国で、高年齢層よりリベラルな傾向を有するが、ロシアでは選挙における若年層の投票率は低く、他方プーチンに傾倒する高年齢層の投票率は高いので、これまでプーチンは安泰であった。またロシアでは労働人口の実に3分の1以上が公務員・準公務員であるので、安楽なポストを求める青年は、「青年親衛隊」等、当局の組織する保守的青年運動に加わってきた。

 しかし、プーチン離れを見せるのは、今や青年層に限らない。2018年6月、政府が年金受給年齢を5年「後倒し」にする法律を採択、プーチンがこれに署名したことで、彼のトータルの支持率は20%程度落ちて60%台前半を低迷することとなっている。そして2000年以降、世界原油価格の高騰を背景に「世界的指導者」と標榜されるまでに上がったプーチンの星も、2008年以降は原油価格低迷を背景に迷走を始めようとしている。実質可処分所得は既に6年続けて下降している。

 これまでロシア政治の流れを言い当てたことで有名なモスクワ国際関係大学のヴァレリー・ソロヴェイ教授は最近、マスコミで「1990年のように、国民は官僚達に苛立ちを感じている。自分たちの所得が上がっている時には見逃してきたのだが、今では官僚達の上から目線の発言、腐敗の全てが怒りの対象となる。問題発言はSNSで直ちに拡散される」 、あるいは「年金改革等で、国民の堪忍袋の緒は切れ、国民はプーチンに怒りを感じて攻撃的になり始めている。1989年と同様、何かを根本的に変えないと駄目なのだ、今の体制は必然ではない、変えていいのだ、という意識が広がっている・・・変化が始まった」 と言っている。つまり1989年のゴルバチョフ末期、国民が共産党の統治に不信感を抱き、「国の富を牛耳る共産党を倒せば自分達の生活は良くなるだろう」と思い始めた時期を思わせる、というのである。

 また、プーチンの力が衰えているために、「利権確保をめざして『万人の万人に対する仁義なき闘争』が始まろうとしている。大衆の不満を利用する者が増えるので、集会、デモの類が増えるだろう」と予測する向きもあり、事実諸方でライバルを陥れての逮捕が起きている他、集会の類が増えている。

 こうした中、クレムリンによる社会統制力は落ちている。6月7日には、警察幹部の汚職を摘発した記者が、当局に「麻薬所持」をでっちあげられて逮捕されたが、6月10日には大手三紙を筆頭に(1面トップに同じ仕様の記事を掲載)全国の多数メディアが彼の釈放を要求、遂にはプーチン自身が介入して記者は釈放され、彼の逮捕を仕組んだ警察幹部2名は解任された。これは、ペレストロイカ末期、マスコミが世直しに向けて大きな発言権を持っていた時期を想起させるものである。

 そして9月には統一地方選が行われるが、与党の「統一」は党員の腐敗、無能、保守体質で社会の支持を失っているため、16の改選知事のうち6個所では当局の候補は無所属で立候補する 。既に地方の市レベルでは、無所属新人が選ばれる例が増えている。

 つまり、青年のプーチン離れや新思考は、問題の一角でしかない。「プーチンのレームダック化」こそ、今の最大の問題であるように思われる。

【私の論評】日本は韓国で練習し、ロシアに本格的"Economic Statecraft"を実行し北方領土を奪い返せ(゚д゚)!

第二次世界大戦のあと、ソビエト連邦(ソ連)は米国と競合する世界の超大国となりました。

しかし、1990年代初めにソ連が崩壊し、ロシアは経済改革を迫られました。その後、数十年にわたってさまざまな経済的苦労を経験してきました。

現在のロシアはもはや超大国とはいえなくなりました、通貨の変動、人口の減少、原油や天然ガスにさまざまな面で依存する経済に直面しています。これでは、プーチンがレームダック化するのも無理はないです。

ロシア経済に関するショッキングな事実を紹介します。

1.ロシアのGDPは東京都を若干下回る

東京のロシア人によるメイドカフェ
現在のロシアのGDPは、東京都を若干下回る程度であり、韓国と東京都はほぼ同じですから、韓国を若干下回る程度です。これに関してはこのブログで何度か解説してきましたが、あの大国とみられるロシアのGDPはこの程度であり、米中はもとより、日本にもはるかに及びません。
人口に関しては、1億4千万人程度であり、あの広い国土からするとかなり少ないです。ちなみに、日本は1億2千万人程度です。ちなみに、中国は14億に近づきつつあります。
2.ロシアでは、人口が毎日700人ずつ減っている
アメリカのジェームズタウン財団の「ユーラシア・デイリー・モニター」によると、ロシアの人口は1日あたり約700人、1年に25万人以上減っています。 
ムルマンスクといった一部の都市ではソ連崩壊以来、人口が30%以上減少しています。
3.ロシアの対外債務は国内総生産の29%
ロシアには4600億ドル(約51兆5000億円)以上の外貨準備があるものの、その対外債務は国内総生産(GDP)の29%にも及びます、輸入カバー率は15.9カ月だ。ちなみに、日本の対外純資産額は世界一です。無論、対外債務などありません。
4. ソ連崩壊の前後10年間で、ロシアの経済生産は45%減少
1989年から1998年の間にロシアの経済生産は45%減少しました。2000年まで、ロシアのGDP(国内総生産)はソ連崩壊前の水準の30%から50%の間で推移していました。
5. 原油と天然ガスがロシアの輸出の59%を占める
ロシア経済は天然資源に大きく依存しています。ロイターによると、2018年のロシアの原油生産量(バレル/日量)は史上最高の1116万バレルでした。 
世界銀行によると2017年、原油と天然ガスはロシアの輸出の59%、財政収入の25%を占めました。天然資源に大きく経済が依存すると、天然資源の価格のその時々の上下に、財政収入がかなり左右されることになります。
6. ロシア人の13%以上が貧困状態にある
プーチン大統領は2018年の年次教書演説の中で、現在、人口の13%以上を占めるロシアの貧困層を半減させると誓いました。 
アイリッシュ・タイムズ(Irish Times)によると、ロシアの公的な統計は1930万人以上が貧困線以下の生活を送っていることを示しています。
それでも、ロシアの貧困率はソ連崩壊直後の約35%から大きく低下しています。
7.ロシアには、ビリオネアが70人以上いる
ロシアの経済格差は大きいです。 首都モスクワはたびたび世界で最も多くのビリオネアが住む都市に名を連ねていて、ロシア全体では70人以上のビリオネアがいます。その多くは1990年代にその財を築きました。
新興財閥「オリガルヒ」はロシア政府に対して大きな影響力を持ち、西側諸国にも投資し始めています。ビリオネアで、NBAのブルックリン・ネッツのオーナーでもあるミハイル・プロホロフ(Mikhail Prokhorov)氏もその1人です。
先にも述べたようにロシアのGDPは現状では韓国と同程度ですが、ビリオネアの数では、ロシアは70人台、韓国は30人台です。 圧倒的にロシアのほうが多いです。
8.ロシアの通貨ルーブルの価値は、この10年で半分になった
ロシア経済は2014年から2017年の経済危機で大きな打撃を受け、ルーブルの価値は半分になりました。
9. ロシアの平均月給は670ドル
日米などの先進国に比較するとGDPの低いロシアだが、その平均月給は4万2413ルーブル、つまり670ドル(約7万5000円)です。 
2016年の437ドルから50%近く増えています。
10. ロシアの家具市場の20%をイケアが占めている
スウェーデン発のイケア(Ikea)がロシア1号店を首都モスクワにオープンしたのは2000年でした。その後、同社モスクワにもう2店舗出店し、ロシア全体では14店舗を展開しています。
イケアは現在、ロシアの家具市場の20%を占めています
11.ロシアのクリミア併合から5年、膨らみ続けるコスト
プーチン大統領がウクライナのクリミアを併合して5年たつが、ロシアが支払うコストは膨らみ続けています

ロシアのクリミア併合は依然として大半の国が認めず、ロシアを処罰するため米欧が主導して制裁など幅広い措置を打ち出しています。一方、ロシアは新たな発電所や本土とクリミアを結ぶ大橋への巨額の投資など、クリミアを自国経済に統合しようと躍起です。ところが、主要輸出品である原油の価格低下ですでに打撃を被っていたロシアと同国市民は、外国投資の落ち込みと上がらない賃金という痛みも強いられています。最近の調査によると、クリミア併合への市民の強い支持は失われつつあります。
ロシア経済には良いことがほとんどないようです。これはどうしてかといえば、やはりプーチノミクスの大失敗によるものです。

91年のソ連崩壊以来、ロシアが恐れてきたのは、NATOが旧ソ連諸国をのみ込み国境に迫ること。そして欧米がロシア国内の格差につけ込んで、反政府運動をあおることでした。それがウクライナやシリア、今度はベネズエラで攻勢に出た背景にあります。

その様は「俺様をなめんじゃねえ」と酔って管を巻くロシア人にそっくのようです。口ではすごんでも、経済力という足元が危ないからです。いまプーチン政権の頭には、2つの相反する方針がせめぎ合っているようです。

ロシアの酔っ払い

プーチンはこの2年ほど、折に触れて「第4次産業革命」に言及。IoT(モノのインターネット)や人工知能(AI)といった技術革新による産業構造の変化から脱落すれば、「ロシアは後進国たることを運命付けられる」と語っています。

しかし役人が実行する政策は、ソ連さながらの締め付けやアフリカへの傭兵派遣といった対外進出ばかりが目立ちます。第4次産業革命の基盤となるネットには、中国並みの規制を目指す始末です。3月10日には首都モスクワで、ネット規制法案に反対する市民約1万人が抗議の声を上げました。

最近では汚職摘発を名目とした国会議員や元大臣の拘束が相次いでいます。検事総長が議場に踏み込み、議員の不逮捕特権剝奪をその場で強要したり、深夜に公安当局が元大臣の自宅に踏み込んだり、エリートの間では疑念と恐怖が芽生えています。

24年のプーチン退陣を前に、検察や公安を利用しての権力・利権闘争が既に始まっているのではないでしょうか。自分から仕掛けないとやられてしまうのではないか、という懸念です。こうしてロシアは頭で「先に進まなければ」と分かっていても、ソ連の記憶が染み付いた手足は後ろに進んでしまう「統合失調」にあるわようです。

プーチン時代は当初、政権発足時から最大で5倍に跳ね上がった原油価格に助けられ、GDPが6倍以上にもなる驚異の成長を達成。ところが08年の世界金融危機で原油価格が暴落して以降、成長力も息が切れました。

プーチンの経済政策「プーチノミクス」は、「天然資源収益を国家の手に集中し、計画的に投資に向ける」という、彼の97年の博士論文そのものです。大統領就任後は石油・天然ガス部門を国家の手に集中したのですが、肝心の投資について青写真が描き切れていません。ビジネスを運営できるスタッフが不足するなど、近代化の条件を欠いているからです。

GDPは14年のクリミア併合で欧米の制裁を招いて以降、実質マイナス成長が続きました。17年にやっとプラスに回復しましたが、統計操作が疑われるなど、停滞は明らかです。政府は中国に倣って、地方の道路網整備などインフラ投資で成長を実現しようとしています。しかし独占体質の強いロシア経済では、資材価格の高騰とインフレを招くだけでしょう。

プーチノミクスは賞味期限が来たようです。遠いベネズエラで、米国と子供じみた力比べをしている余裕はないです。4月21日のウクライナ大統領選の決選投票で政権が代わったたクリミア問題で落としどころを探る好機ともなるでしょう。

現在のロシアは今のままではますます疲弊するだけで、将来的には、日本との北方領土問題も含めて欧米との関係を改善し、第4次産業革命に邁進しなければならないはずです。

現在の状況は、米国は対中冷戦を継続中であり、中国もロシアのように弱体化しつつあります。これがある点を超えると、ロシアにとって中国は現在とは違い与し易い相手になるはずです。

現状は、プーチンはなるべく中国を刺激しないようにしていますが、中国が弱れば、中露の仲は以前のように悪化することになるでしょう。

そのときは、中露国境紛争が再燃するでしょう。現状のロシアは経済は弱体化していますが、そうはいっても旧ソ連の核兵器や軍事技術を警鐘しており、決して侮れないです。

そのロシアが、弱体化した中国と再び戦火をまみえるようになったときこそ、日本のチャンスです。その時こそ、北方領土交渉を有利にすすめることができるのです。

日本としては、何らかのメリットを提供した上で、今度はそれを取り下げるようなことを繰り替し、"Economic Statecraft(経済的な国策)"の手法を駆使してロシアと交渉すべきです。

"Ecomomic Statecraft(経済的な国策)"とは、経済的な手段を用いて地政学的な国益を追求するものです。これは、武器は用いないものの、実質的な戦争です。これについては、以前このブログにも掲載したことがあります。その記事のリンクを掲載します。
日本の「安全保障環境」は大丈夫? ロシア“核魚雷”開発、中国膨らむ国防費、韓国は… 軍事ジャーナリスト「中朝だけに目を奪われていては危険」―【私の論評】日本は韓国をeconomic statecraft(経済的な国策)の練習台にせよ(゚д゚)!
核弾頭を搭載可能な新型原子力魚雷「ポセイドン」
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事にも掲載したように、日本は核兵器などとは異なり"Economic Statecraft (以下ESと略す)"は日常的に使える手段であることを念頭におき、これを使う前提で外交を考えるべきです。

幸いなことに、この記事を書いた時点では、実施されていないかった、日本による対韓“輸出管理強化”が発動され、韓国経済に大打撃を与えそうです。そうして、すでにこの元凶となった文政権へ韓国内から不満が噴出しています。

これは、まさにESが実際に功を奏する事例となりそうです。この記事でも、主張したように、日本は対露外交を視野に入れ、韓国でESの練習を行うべきと思います。これにより、韓国を屈服させることができなければ、対ロシアに対してもとてもうまくいくとは思えません。

再び中露国境紛争などで、中露の対立が深まったときに、日本がロシアに対してESを発動すれば、ロシアは弱り目に祟り目という状況に追い込まれます。

その時に、日本の要求は通りやすくなります。さらに、制裁するだけではなく、ロシア経済にとって良いような項目でディールをすれば、ロシアが北方領土を返還する可能性は高まります。返還しなければ、ますます制裁を強くするようにすれば良いです。

日本としては、ESだけではなく、軍事力も強化すべきでしょう。また、米国など同盟国、順同盟国との関係も強化すべきでしょう。

このようにしてから、ESを本格的に発動するのと、そうではないのとでは雲泥の差があります。ESをうまく使いこなす国には、当然のことながらまずは経済力が強くなければならないとともに、ある程度の軍事力もなければなりません。

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2022年12月30日金曜日

プーチンが「戦争」を初めて認めた理由―【私の論評】戦争・コロナで弱体化する中露が強く結びつけは、和平は遠のく(゚д゚)!

プーチンが「戦争」を初めて認めた理由

古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)

ロシア軍へ向けて砲撃を行うウクライナ軍兵士=24日、ウクライナ・バフムート近郊


【まとめ】

・プーチン大統領がウクライナでのロシア軍の侵攻を初めて「戦争」と呼んだ。

・この表現の変更で、停戦を視野に入れる方向に傾いたとの見方も生んでいる。

・バイデン政権は、プーチンが現実を認める次の段階として、軍の撤退及び終戦を求めると表明。


 ロシアのプーチン大統領がウクライナ侵略を初めて「戦争」と呼んだ。これまでは一貫して「特別軍事作戦」と呼び続けていたのだ。この言葉上の変化にどんな意味があるのだろうか。

 アメリカ側ではさまざまな読み方があるが、バイデン政権は公式には「呼称をどう変えても侵略戦争はあくまで侵略戦争」として、厳しい態度を変えていない。

だがプーチン大統領の表現の変更はウクライナでの戦闘が同大統領にとってこれまでよりも深刻さを増して、停戦を視野に入れる方向に傾いたとの見方も生んでいる

 プーチン大統領は12月22日のモスクワのクレムリンでの記者会見でウクライナでの軍事行動について「われわれの目標はこの軍事衝突を弾みを増す車輪のように回転させることとは正反対に、この戦争を終わらせることだ。そのためにわれわれは努力している」と語った。

 この言明でプーチン大統領がウクライナでのロシア軍の侵攻を公式発言としては初めて「戦争」と呼んだこととなり、幅広い関心を集めた。

 プーチン大統領はウクライナへの軍事侵攻を始めた2022年2月24日の冒頭からこの軍事行動を「特別軍事作戦」と呼び、その動きを「北大西洋条約機構(NATO)の東方拡大に対する防衛的行動とウクライナのナチス勢力からロシア民族系住民を解放する努力だ」と宣言してきた。

 プーチン大統領とプーチン政権はウクライナでの自国の軍事行動に対してあくまで特別な作戦だと言明し、ロシア国内でこの「作戦」を「戦争」と呼ぶことをも新たな法律や条令で事実上、禁止してきた。プーチン政権に反対する野党側の国会議員がウクライナ侵攻を「戦争」と呼んで非難したことに対して同政権は逮捕して、懲役刑に処すという厳しい態度さえとってきた。

 プーチン政権としてはロシア国民にウクライナへの軍事侵攻はロシアの国家や国民の全体を巻き込む戦争では決してなく、限界的、一時的な特殊の軍事作戦だと印象を与えるために「戦争」という呼称を禁じてきたとされる。

 だがプーチン大統領自身がその禁句だったはずの「戦争」という言葉を公式の場で使ったのである。

 しかしこの新たな動きに対してアメリカのバイデン政権は冷淡な対応をみせただけだった。アメリカ国務省報道官は次のような声明を発表した。

 「今年2月24日以来、アメリカと全世界の多数の諸国はプーチンの『特別軍事作戦』というのはウクライナに対する一方的で不当な戦争であることをよく知ってきた。その300日も後にプーチンはついにその戦争が戦争であると認めたのだ」


 「アメリカは、プーチンが現実を認める次の段階としてウクライナからロシア軍を撤退させ、この戦争を終わらせることを求める

「プーチンの言葉の選択にかかわらず、ロシアの隣接した主権国家への侵略は多くの死、破壊、混迷を引き起こした」

「ウクライナ国民はプーチンの言葉の上での自明の表明になんの慰めも感じないだろう。プ―チンの戦争のために身内の人間を失った何万ものロシア人の家族たちも同じだろう」

以上のようなアメリカ政府の態度はこれまでも一貫してきた。バイデン政権が共和党側の支持をも得て、プーチン政権のウクライナ侵略を全面的に糾弾し、その中止をロシアに求める一方、ウクライナへの軍事支援を絶やさないという対応を保ってきたのだ。その大前提にはロシアの軍事行動の結果、ウクライナ領内で起きている事態は戦争だとする認識があった。

 だがプーチン大統領はその軍事行動を戦争とは認めず、長い期間、ロシア国内でも「戦争」を禁句とし、徹底抗戦の構えを崩さなかった。ところが侵攻開始から約300日という時点にきて、やっと戦争を戦争だと認めることに踏みきったわけだ。

 そのプーチン大統領の態度の変化についてワシントン・ポストなどの主要メディアはアメリカ側の複数の専門家たちの見解として

(1)プーチン大統領はこれまではウクライナを対等の主権国家とみなさないという前提を保ち、「戦争」という用語を使わなかったが、戦場での苦境を考慮すると、停戦への柔軟な余地を残すことが有益だと判断するようになった。

(2)国際世論のさらなる反ロシア化に対して、ある程度の譲歩を示すことが賢明だと考えるようになった。

(3)ロシア国内での国民に対する軍隊への動員令の拡大の必要性を考えると、ロシア自体がいま戦争状態にあることを明示するほうが現実的だと判断するようになった――ことなどをその理由としてあげていた。

【私の論評】戦争・コロナで弱体化する中露が強く結びつけは、和平は遠のく(゚д゚)!

プーチンは22日、ロシアはウクライナでの戦争の終結を望んでいるとし、全ての武力紛争は外交交渉で終結すると述べました。
プーチン氏は記者団に対し「われわれの目標は軍事衝突を継続することではない。逆に、この戦争を終わらせることを目標としている。この目標に向け努力しており、今後も努力を続ける」とし、「これを終わらせるために努力する。当然、早ければ早いほど望ましい」と語りました。

その上で「これまでに何度も言っているが、敵対行為の激化は不当な損失をもたらす」と指摘。「全ての武力紛争は何らかの外交交渉によって終結する」とし、「遅かれ早かれ、紛争状態にある当事者は交渉の席について合意する。ロシアに敵対する者がこうしたことを早く認識するのが望ましい。ロシアは決して諦めていない」と述べました。

米ホワイトハウス国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官はオンライン形式の記者会見で、プーチン大統領は「交渉の意図があることを全く示していない」と指摘。「全く逆だ。プーチン氏が行っていることは全て、戦争をエスカレートさせる意向を示している」と述べました。

その上で、バイデン米大統領はプーチン大統領との会談を排除していないが、プーチン氏が交渉に真剣な姿勢を示し、ウクライナのほか同盟各国と協議した後のみに実現するとの見方を示しました。

ロシアはこれまでも交渉に応じる姿勢を示し、交渉を拒否しているのはウクライナだと主張。これに対しウクライナや米国などは、ロシアは戦況が思わしくないことから時間稼ぎをしようとしているのではないかと懐疑的な見方を示しています。

ウクライナのゼレンスキー氏は21日に訪米し、ホワイトハウスでバイデン大統領と会談した後、議会で演説。米政府はゼレンスキー氏の訪問にあわせ、ウクライナに対し広域防空用地対空ミサイルシステム「パトリオット」を含む18億5000万ドルの追加軍事支援を行うと発表しました。

プーチン大統領は米国が「パトリオット」供与を決めたことについて、パトリオットは「かなり古いシステム」で、ロシアの地対空ミサイルシステム「S300」のようには機能しないとし、ロシアは対抗できるとの見方を示しました。

また、ロシアの戦費調達能力を制限することを目的とした西側諸国によるロシア産石油の価格上限設定がロシア経済に打撃を与えることはないと強調。その上で、来週初めにロシアの対応を打ち出すための法令に署名すると述べました。

ドイツのシュタインマイヤー大統領は12月20日、中国の習近平国家主席と電話会談を行い、ウクライナ戦争を終結させるためロシアのプーチン大統領に対して影響力を行使するよう要請しました。

シュタンマイヤー独大統領

同会談で、シュタインマイヤー大統領はロシア軍がウクライナから撤退することは中国と欧州の共通の利益と強調したといいます。ドイツのショルツ首相が11月上旬に中国を訪問して習氏と会談した際、習氏はウクライナでの核兵器使用に明確に反対する意思を示しており、今回の電話会談もその延長線上にあり、ドイツとしてプーチン大統領と関係を保つ習氏に要請するという極めて現実的な路線を取ったといえます

仮に、習氏がプーチン大統領を説得し、同大統領をバイデン大統領やゼレンスキー大統領が待つ対話のテーブルに座らせ、ウクライナからロシア軍が撤退し、和平への兆しを主導したならば、習国家主席はノーベル平和賞ものでしょう。しかし、これについては3つのシナリオがあると考えらます。

1つは、社会主義による現代化により中国の強化を目指す習氏としては、対外的影響力を確保・拡大させるために諸外国からの評価、信頼を獲得するというシナリオです。特に、欧米との対立が激しくなるなか、習氏としてはできるだけ多くの欧米諸国と摩擦を最小化しておきたいのです。

そこで、戦争終結や和平で一役を買えば、欧米だけでなく途上国からも一定の信頼、評価を得らえられます。ロシアがウクライナに侵攻することによる中国にはメリットはほぼ皆無です。習がプーチン大統領と遠からず近からずのポジションを維持している背景には、“ウクライナ侵攻を黙認する中国”というイメージが国際社会で浸透することを回避したいという本音があります。

もう1つは、和平どころか、プーチン大統領の説得にも動かず、現在のポジションを維持するというシナリオです。習には、国内経済の勢いが低下し、反ゼロコロナなど反政権的な動向もみられ、米中対立や台湾問題など課題が山積するなか、ウクライナ問題で時間を割かれたくない、首を突っ込みたくないという想いがあると考えられます。

仮に、説得に乗り出したものの、プーチン大統領がそれを拒否すれば、中ロ関係の冷え込みに繋がる可能性すらあります。習氏も侵攻を決断したプーチン大統領を良く思わない部分もあるでしょうが、対米国という文脈でロシアが戦略的共闘パートナーであることは間違いなく、その部分で中ロ関係を悪化させたくないという本音もあるでしょう。

また、説得に失敗すれば、これまで積み上げた中国のイメージ低下に繋がる可能性もあります。欧米やグローバルサウスの中からは、“所詮、中国の国力はこんなものだ”、“3期目となっても習氏の外交交渉力は大したことない”という声が増えてくることも考えられます。米国にとってはむしろ歓迎という考えもあろうが、習氏にはそういった警戒感もあるでしょう。

以上が、中国がゼロコロナ前までのシナリオですが、もう一つのシナリオも見えてきました。

それは、中国がゼロコロナ政策をやめた後の変化によるシナリオです。

プーチンと 習近平は30日、オンライン形式で会談しました。露大統領府によると、プーチン氏は会談の冒頭、習氏に訪露を招請し、来春のモスクワ訪問に向けて準備していることを明らかにしました。ウクライナ侵略後の米欧からの圧力に対し、中露の軍事協力の拡大で対抗する姿勢も強調しました。

30日、モスクワで、中国の習国家主席(左)とオンライン形式で会談するプーチン露大統領

両首脳による会談は、9月15日に中央アジア・ウズベキスタンのサマルカンドで行った対面会談以来です。プーチン氏は習氏の訪露について、「(中露の)強固な関係を世界中に誇示することになる」と述べました。

習氏の訪露が実現すれば、2019年6月に露西部サンクトペテルブルクで開かれた国際経済フォーラムに出席して以来となります。2月のウクライナ侵略以降、米欧との対立が先鋭化しているプーチンにとって大きな外交成果となります。

習は露側が公開した冒頭のやり取りで、「ロシアとの戦略的な協力を増大する用意がある」と表明しました。訪露には言及しませんでした。

プーチン氏は、中国との軍事協力に関し、中露関係全体で「特別な地位を占めている」と重要性を強調し、「我々はロシアと中国軍の協力強化を目指す」と語りました。ウクライナ侵略が長期化する中、中国軍との緊密な関係を誇示し、ウクライナを支援する米欧をけん制する意図があるとみらます。

プーチン氏と習氏は、中露間の貿易が記録的な水準で伸びていることを互いに指摘し、エネルギー分野を中心に連携を深める方針も確認しました。

今回の両首脳による会談は、露側が再三日程に言及するなど意欲的な姿勢が目立った。先進7か国(G7)と欧州連合(EU)が今月、海上輸送する露産原油の取引価格に上限を設定する追加制裁を発動しており、プーチン氏は年内に中国との緊密な関係を確認しておきたかったものとみられます

習の訪露が実現すれば、習にとってプーチンを説得できる、絶好の機会となります。ただ、来春というと、英医療調査会社エアフィニティーは29日、新型コロナウイルス感染者が急増する中国の死者について「来年4月末までに170万人に達する恐れがある」と警告しています。米ジョンズ・ホプキンス大の集計では、コロナによる世界の死者数は約669万人。同社の推計が正しければ、中国だけで一気に死者数が膨らみそうです。

来年の4月頃には、このブログにも以前掲載したとおり、サマーズ氏が予告したように、中国は国内生産(GDP)で米国を追い越すと言われていた国とは思えないような国になっているでしょう。その頃には、中国の最大の課題はコロナ禍からの回復に絞られているはずです。

プーチンはこのことも理解していると思われます。にもかかわらす、来春に習の訪露を招請するのでしょうか。

コロナで弱りきった中国は、西側諸国のように同盟国は存在せず、しかも現状では西側諸国と対立しており、コロナ復興は自力で行わなければなりません。コロナ前の中国なら、先あげた二番目のシナリオで、和平どころか、プーチン大統領の説得にも動かず、現在のポジションを維持をする公算が高かったと考えられます。

しかし、弱りきった中国なら、ロシアにかなり接近してくる可能性は高まるでしょう。特に、エネルギーや食料に関しては、中国はロシアにかなり頼れそうです。ロシア側とすれば、中国に武器に関しては頼れそうです。両者の利益が合致して、なりふり構わず、両者のパートナーシップは強まり、同盟関係に近くなるかもしれません。

ロシアとしては、ソ連の軍事技術を引き継いでいますから、中国に対してはこれからも、軍事技術を供与しつつ、中国に武器を製造させこれを輸入し、ロシアは中国に対してエネルギーと食料を輸出するということで、互いに密接に助け合うという構図が成立するかもしれません。

習氏に訪露を招請した、プーチンの腹にはこうした思惑があると考えられます。そうであれば、プーチンの「戦争を終わらせる」という発言は単なる時間稼ぎかもしれません。

中露関係が、パートナーシップから同盟関係に近いものになれば、ロシアはウクライナでの戦争をこれからも、安定して続けられるかもしれません。そうなれば、和平は遠のくでしょう。

西側諸国は、こうしたことを防ぐために、中露に何らかの形で楔を打ち込む必要がでてくるかもしれません。

皆様、今年も当ブログをご訪問していただき誠に有りがとうございました。来年もよろしくお願いいたします。よいお年をお迎えください。明日は、ブログを書くことができるかわからないので、念のためのご挨拶です。


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2016年4月13日水曜日

ロシア外相が明言「北方四島全て交渉対象」 2001年声明拒否せず―【私の論評】経済の悪化、中国の脅威に怯えるロシアに有利な交渉できる時がやってきた(゚д゚)!


ラブロフ外相
ロシアのラブロフ外相は12日、一部海外メディアとの会見で、北方領土問題をめぐり、4島全てが交渉対象になるとの認識を明らかにした。15日の日露外相会談を前に、インタファクス通信などが伝えた。

ラブロフ氏は会見で、北方四島の帰属の問題を解決した上で平和条約を締結することを当時の日露首脳が確認した2001年3月の「イルクーツク声明」を、「拒否しない」と発言。声明について「四島の帰属問題を含め、全ての問題を解決するために話し合いを続けるという内容だと理解している」と述べた。ただ、平和条約締結後に歯舞、色丹の2島を引き渡すとした1956年の「日ソ共同宣言」こそが「この問題において双方が批准した唯一の文書だ」とも指摘した。

ラブロフ氏は、安倍晋三首相による訪露が「近日中に行われる」とも述べた。

【私の論評】経済の悪化、中国の脅威に怯えるロシアに有利な交渉できる時がやってきた(゚д゚)!

ラブロフ外相は上の記事で、日本側に期待を持たせるようなことを語っていますが、これは本当なのでしょうか。わずか一年前にラブロフは何を語っていたか、以下にその動画を掲載します。


この動画をご覧いただけるとお分かりになるように、ロシアのラブロフ外相は公表されたインタビューの中で、北方領土問題に関連して「日本は第2次大戦の結果に疑いを差し挟む唯一の国だ」と日本を批判しました。

これは、とんでもないことです。ロシアの前進である、ソ連は、日ソ不可侵条約を結んでいたにもかかわらず、終戦日本が長期にわたる戦争で疲弊していることがはっきりして、必ず勝利できるときを見計らって、北方領土に侵攻しました。

そうして、多くの日本兵を捕虜としてシベリアなどで強制労働させ、多くを死に至らしめました。このソ連の行為は、武装解除した日本兵の家庭への復帰を保証したポツダム宣言に背くものでした。これらついて、未だソ連の後継者であるロシアからなんの謝罪もありません。こんな連中の言うことなどあまり信用できません。

ロシアの国旗柄のビキニ
しかし、最近では少し風向きが変わったようなところもあります。まずは、ロシアは経済がかなり疲弊しています。ロシアの主な産業というと、めぼしいのは原油や天然ガスですが、ご存知のように最近では、原油安でエネルギー価格は暴落しています。

そのような状況の中で、他にめぼしい産業のないロシアは、今後経済は坂道を転がり落ちるように悪化していくのは、目に見えています。

以下に、2014年の各国のGDPを掲載しておきます。

順位名称単位: 10億USドル前年比地域
1位アメリカ17,348.08北米
2位中国10,356.51アジア
3位日本4,602.37アジア
4位ドイツ3,874.44ヨーロッパ
5位イギリス2,950.041ヨーロッパ
6位フランス2,833.69-1ヨーロッパ
7位ブラジル2,346.58中南米
8位イタリア2,147.74ヨーロッパ
9位インド2,051.231アジア
10位ロシア1,860.60-1ヨーロッパ

2014年というと、まだ原油価格が安くはなかった頃です。本格的に安くなったのは15年に入ってからです。

その214年まだ原油が高かった時代のGDPが上の表です。世界でみると、ロシアは10位です。やはり、アメリカが群を抜いて第一位です。中国は第二位になっていますが、これはこのブログで過去に何度か掲載してきたように、中国の経済統計はデタラメなので、にわかには、信じがたいです。おそらく、今もこの頃も、ドイツ以下だとする専門家もいるくらいです。

ロシアも、おそらくある程度は改竄していると見えますが、それにしても世界でみると10位です。現状でもイタリアやインド以下です。この少し前までは、10位以内にも入っていませんでした。しかし、これは原油高のときです。今後、原油安が続くととんでもないことになるでしょう。そうして、10位以内にも入れなくなることでしょう。

人口に関しては、アメリカ3億人台、中国は13億人、日本は1億2千万人です。ロシアは、1億4千万人です。この広大な領土にこの人口です。こうしたことを見ると、多くの人がかつてのソ連からイメージするような、大国ロシアはもう幻想に過ぎないことがわかります。そうして、ロシアは人口13億人の中国と世界で最も長く国境を接しています。

ロシアにとって、中国との国境が非常に長いということが大きな脅威になっています。この中ロ国境で、国境溶解という現象が起きていました。それについては、このブログでも以前掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
上念司「中国包囲網の決定打はモンゴル・トルコのランドパワー強化に在り!」―【私の論評】ソ連崩壊後、小国ロシアになってから国境溶解が顕著になり中国にとって軍事的脅威はなくなった!日本は経済援助を通じて中国と国境を接する国々のランドパワーを強化すべき(゚д゚)!
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事より国境溶解に関する部分のみ以下にコピペします。
国境の溶解現象とは、中ロ国境を中国人が多数超えてロシア領内に入り、様々経済活動をしているため国境そのものが曖昧になっていることをさします。

黒竜江とウスリー江を挟んだ対岸は、中国有数の農業地帯であり、 渤海、金以来のさまざまな民族の興亡の地として歴史に残る遺跡も多いです。 わずかに川ひとつ隔てただけで、一方は衣食を外からの供給に仰ぎつつ資源を略奪しつづけ、 年々人口を減らしつづけているシベリアであり、一方は年々人口を急増させつつある 黒龍江省です。

ロシア側の、全シベリアの人口を総和しても、数十分の一の面積しかない黒龍江省の半分にしかならないのです。この救いがたい落差は、 つまるところ社会的な圧力になります。ソ連政府はだからこそ国境地帯に厳しい軍事的な緊張を 作り出すことによって、中国からの圧力に対抗していたといえるでしょう。

国境を挟んだ中国側の吉林省、遼寧省と北朝鮮、 内モンゴル自治区とモンゴル、新彊とカザフスタンおよびウズベキスタン、中国の雲南省とミャンマー、 中国の広東省とベトナムなどを比較してみると、常に面積の少ない中国側の各省が人口ではるかに勝っていることがわかります。

この明白な不均衡こそが、国境を超えて大量の中国人が流出あるいは進出しつつある 根本的な原因です。この点から言えば、シベリアも例外ではないばかりではなく、 最も典型的なものです。ソ連の軍事的圧力が解消し、 国境貿易が開始されたことは、この過程を一気に促進させました。
中ロ国境をまたぐ鉄道 手前が中国 奥がロシア
ソ連の崩壊によってシベリアのロシア人社会は、直ちに危機に陥いりました。 政府は給与を支払うことができず、多くの労働者が引き上げていきました。 シベリアに市場はなく、シベリア鉄道もいたるところで寸断されようとしていました。 だから、中国からの輸入が不可欠のものとなりましたが、一方で中国に売り渡すものを シベリアのロシア人社会は何も持っていませんでした。その結果、 中国人がシベリアに入り込んできて、役に立つものを探し出し、作り出してゆくしかなくなりました。

こうして、国境溶解が進んていきました。この国境溶解は、無論中国にとっては、軍事的脅威がなくなったことを意味します。

特に現在のロシアは、ご存知のようにウクラナイ問題を抱えており、中ロ国境にソ連時代のように大規模な軍隊を駐留させておけるような余裕はありません。

かつてのソ連の脅威がなくなったどころか、国境溶解でロシア領内にまで浸透できるようになった中国は、この方面での軍事的脅威は全くなくなったということです。

各地で軍事的な脅威がなくなった中国は、これら国境地帯にかつのように大規模な軍隊を派遣する必要もなくなり、従来から比較すると経済的にも恵まれてきたため、海洋進出を開始刷るだけの余裕を持ち、実際に海洋進出を始めました。 
そうして、ロシアにはさらに不安要因があります。それに関しては、このブログにも過去に掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
露の国家基金「2019年初めに底つく」 資源頼み、欧米制裁…プーチン政権さらに窮地―【私の論評】小国ロシアの底が見え始めた最近のプーチンが、軍事的存在感の増加に注力するわけ? 
ロシア プーチン大統領
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下にロシア国家基金に関する部分のみ以下にコピペします。
2008年のリーマン・ショック時にロシア経済を下支えた、石油や天然ガスの税収を基盤とする露政府の基金が19年にも枯渇する見通しであることが明らかになった。財政赤字を補填(ほてん)するための基金からの支出に歯止めがかからないことが原因だが、資源収入頼みの経済政策の行き詰まりが背景にある。欧米の制裁で基金に要請が急増している企業支援も困難になる可能性があり、プーチン政権にも痛手となりそうだ。
露政府は石油・ガスの採掘・輸出税収が潤沢な際にその一部を積み立てており、赤字補填に使う「予備基金」と、景気刺激策に利用する「国民福祉基金」の2つの国家基金を抱えている。ロシアはリーマン・ショックの直撃で09年には経済成長率がマイナス7.9%に落ち込んだが、その後政府が実施した巨額の景気対策の原資となったのが、これらの基金だ。
現状のロシアは、経済も当面全く良くなる見込みはなく、悪化する一方です。そうして、隣の大国中国とは世界で最も長い国境を接していて、国境溶解の脅威がますます高まるばかりです。

そうなると、ロシアとしては、日本との関係を良くして、まずは日本からの経済援助を期待することになります。当面の資金の手当をして、原油・天然ガスとは別の基幹産業を模索するための時間的余裕が欲しいに違いありません。

それと、安倍総理大臣は安全保証のダイヤモンドにより、中国を封じ込め戦略を総理就任直後から実施してきていて、これはかなり成果をあげつつあります。ロシアとしても、国境溶解による脅威から逃れるためにも、安全保障のダイヤモンドの一翼を担うことにより、中国の脅威を減じることも視野にはいつていることでしょう。

現在のロシアは、経済的には全く振るわなのですが、ウクライナ問題やシリアでの軍事行動によって、国内外でその存在感を増すことができました。特に、国内でのプーチン人気はかなりのものです。

プーチン人気の一端を示すグッズ。金色の方は純金製、銀色の方はチタン製のプーチン
iphone「Supremo Putin II(最高権威プーチン)」。値段は両方共日本円で約45万円と
しかし、今のプーチン人気にも、経済が本格的に悪化するにつれて、陰りがでで来ることでしょう。

ロシアのエネルギー産業もそうでしたが、1つの産業を起こして、それが軌道に乗り、経済的な成果を収めるまでには、最低でも10年かかります。

10年後を考えた場合、ブーチタンとしては今のままでは暗澹たる気持ちでしょう。日本側として、こうした現状のロシアの足元をみて、経済協力や、中国の脅威に対抗することをちらつかせ、根気強く交渉を続けることにより、北方領土は十分に取り返すこともできることでしょう。

いずれロシアは経済的に疲弊して、資源としては海産物くらいしかない北方領土など手放しても、10年後の明るい展望を得たいと思うようになることでしょう。

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2022年11月15日火曜日

ロシアエリートの「プーチン離れ」 後継者は誰になるか―【私の論評】今のままだと、岸田首相は年金支払期限の延長で窮地に至ったプーチンと同じ目にあう(゚д゚)!

ロシアエリートの「プーチン離れ」 後継者は誰になるか

岡崎研究所 


Economist誌10月30日号が「ロシアのエリートがプーチンなき将来を考え始めている。プーチンの排除が少なくとも考えられている」との記事を掲載している。主要点は次の通り。



・ロシアのエリート、官僚、実業家たちは、「次は何か。プーチン後の生活はあるのか。彼はどう立ち去るのか。そして誰が彼にとって変わるのか」といった疑問を抱いている。

・ウクライナ侵攻は、プーチンは全面戦争のリスクを冒さないと考えていたロシアの支配層にとってはショックであったが、当初の軍事的前進、ロシアの経済が崩壊しなかったこと、和平交渉への初期努力を見て、自らを落ち着かせようとしていた。

・エリートたちの考えはプーチンの「部分」動員で粉砕された。大勢の人の国外出国、広範な徴兵逃れは、この冒険を新しい「大祖国戦争」にするプーチンの試みが失敗したことを示す。

・プーチンはこの戦争に勝てない。なぜなら戦争当初から明確な目標がないからである。多くを失い、彼は深い屈辱をうけることなく、戦争を終わることはできない。

・9月までロシアのエリートはプーチンを支持するとの実利的選択をしてきたが、今や彼らは種々の敗北のシナリオの中で選択しなければならないところまで事態は進展した。

・軍事的敗北はそれを支持した者へのリスクを伴いながら、政権の崩壊につながるだろう。プーチンは安定の源泉と思われてきたが、不安定と危険の源と考えられるに至っている。

・政治アナリストのガリアモフによれば、次の数週間、数カ月で、エリートたちはシステム内でのプーチンの後継者探しを行うだろう。

・ガリアモフが挙げる後継者の候補は、ドミトリー・パトリシェフ(ニコライ・パトリシェフ安全保障会議書記の息子)、セルゲイ・キリエンコ(大統領府次官)、ソビヤニン(モスクワ市長)、ミシュスチン首相など。

・逆に、「もっと攻撃的なグループ」も既に姿を現し始めている。エヴゲニー・プリゴジンや(元刑法犯でプーチンのコックとして知られ、傭兵のワグナーグループを率いる)、ラムザン・カディロフ(チェチェンの強権指導者で私的な軍を持つ)である。二人はプーチンに個人的に忠誠である。プーチンはウクライナを破綻国家にしようと望んだが、代わりに彼はロシアを破綻国家にしかねない。

*   *   *   *   *   *

 エコノミスト誌は相当な調査能力を持つ会社で、ロシアのエリートがプーチンとウクライナ戦争をどう見ているかという難しい問題にこの記事で取り組み、プーチン後継問題にも言及している。

 ここで描写されているロシア国内の状況はおそらく現実であると思われる。プーチン離れやプーチン批判がエリートの中で広がっていることは、ウクライナ戦争がうまく行っていない中、当然予想されることである。

 最近、ショイグ国防相がプーチンに「30万人の動員は実現した。追加動員の計画はない」と報告した画像をロシア国営テレビは流したが、動員がロシア国内に与えたショックが如何に大きかったか、それへの反発をなくしたいとの政権側の意図は明確である。この戦争は、今やロシア国民の支持を得ておらず、ロシア軍の士気もよくなる見込みはない。

多くのオリガルヒは戦争に反対

 この戦争はプーチンが起こしたもので、彼の責任は重い。プーチンの統治への不満はこれからも高まっていくだろう。権威主義政権が権威をなくしてきていると考えても大きな間違いではない。国内のみならず、中央アジア諸国もロシア離れを起こしている。

 クセニア・ソプチャクがリトアニアに逮捕を避けるために逃げたことは特に大きな衝撃を与えた。プーチンが今の地位にいるのはクセニアの父、ソプチャク・レニングラード市長が彼を副市長にしたことが契機になっている。支配層の中で分裂が見られる。

 エリツィンの次女の夫で大富豪のデリパスカが、プーチンの戦争に起因する経済的損失が大きすぎると批判しているのが良い例だが、オリガルヒは大体戦争に反対である。

 引退後の後継者としてはニコライ・パトリシェフが最有力のようにも思われるが、上記の記事が言うように彼の息子、ドミトリー・パトリシェフが選好される可能性はある。考えてみれば、ニコライ・パトリシェフはプーチンより2歳年上であるから、後継者にはなりにくい面がある。

 ドミトリーは44歳で、農業大臣をしたほか、農業銀行の頭取をしたことがあり、経済がわかるとの利点がある。さらに自身も治安機関で働いたことがあり、父のコネもあるので、いわゆるシロビキ(治安関係者)に近い。有能とされている。

 「もっと攻撃的グループ」といわれるプリゴジンやカディロフがポスト・プーチンで力を得た場合には、とんでもないことになりかねない。われわれ自身が「プーチンはまだましだった」と懐かしむことにさえなりかねない。

【私の論評】今のままだと、岸田首相は年金支払期限の延長で窮地に至ったプーチンと同じ目にあう(゚д゚)!

プーチンはウクライナ侵略をしたから、支持率が低下したという側面は否定できませんが、実は元々支持率は低下しつつありました。それは、年金問題です。ロシアの平均寿命は、他国と比較すると短いですが、それでも最近では平均寿命が延び、少子高齢化が進む中、ロシアにおいても2028年から年金の受給開始年齢が引き上げられることになりました。

しかし、この改革を巡る一連の騒動が、プーチン強権の地盤を揺るがしたといわれています。水面下では、終身大統領の野望に燃える大統領と国民の温度差が、ますます広がりました。

2018年モスクワで年金支給年齢の引き上げに抗議する人々

ロシア政府が2018年に発表した年金改革計画は、年金受給開始年齢を男性は現行の60歳から65歳へ、女性は55歳から63歳へと引き上げるというものでした。どの国においても該当することだが、国民の負担が増える改革は多くの痛みと反発をともないます。

ところがロシア国民の反応は、政府の予想をはるかに上回っていました。ロシア全土で反対デモや署名運動が行われました。慌てた政府が行ったのは、女性の開始年齢の引き上げを60歳にとどめるなどの複数の譲歩案の提出でした。

しかし、政府の骨折りも虚しく、国民の憤りはすぐさまプーチン大統領の支持率に跳ね返りました。2014年3月~18年4月にわたり80%前後を維持していた支持率が、わずか数ヵ月で70%台を下回ったのです。ロシアの独立系世論調査機関レヴァダセンターが同年9月に実施した調査では、国民のほぼ90%が受給年齢の引き上げに反対の立場を示しました。

一部の人々は、この出来事が「プーチン神話のほころび」になったと見ています。「国民の意見を尊重して譲歩した」という見方をすれば美談ですが、突き詰めると「強硬君主として知られるプーチン大統領が、支持率の低下を恐れてUターンした」ことに他ならないです。

もちろん、支持率の低下は年金改革だけが原因ではありません。ウクライナを巡る欧米諸国の経済制裁や独裁政権の拡大など、ロシアが抱えているさまざまな問題に対して、一部の国民は長年にわたり不満を抱いていました。年金改革はターニングポイントに過ぎないようです。

これを機に支持率は低下の一途をたどり、そこへパンデミックが蓄積した国民の不満に拍車をかけました。2020年5月の支持率は59%と、2000年代で過去最低水準に落ち込みました。


年金受給開始年齢を含め、年金改革は多数の国で実施されています。少子高齢化に加えて、生活様式や雇用環境の変化、貧困格差の拡大など、社会は大きく様変わりしました。変化に対応可能な制度へと再編することは、社会保障制度を維持する上で必要不可欠です。

ちなみに、ロシアで年金制度の基盤が確立されたのは、旧ソ連時代の1930年です。当時のロシア人の平均寿命は43歳でした。

このような背景を認識しているにも関わらず、ロシア国民はなぜそこまで強硬に反発したのでしょうか。ロシア国民が猛反対している理由は、以下の3つに集約されます。

1.前言撤回

かつてプーチン大統領は、「自分の就任期間中は年金受給開始年齢を引き上げない」と公言しました。しかし、2014年の時点で歳出総額13兆9,600億ルーブル(約20兆9,039億円)のうち、社会保障と軍事が占める割合がそれぞれ30%を超えました。いずれかの削減を迫られたプーチン大統領は、年金の給付総額を減らす選択をし、膨らみ続ける財政赤字を補填せざるを得なくなったのです。

2.平均寿命の短さ

WHO のデータによると、2019年のロシアの男女の平均寿命は世界183の国や地域のうち96位の73.2歳でした。2002年以降は年々上昇しているものの、1位の日本(84.3歳)と比べると10年以上低いです。平均寿命をベースに算出すると、日本では65歳からほぼ20年間にわたり年金を受給できますが、ロシアでは男性は8年強、女性は13年強しか受け取れないです。

3.年金格差

国家年金を受給する国家職員と一般人では、加入できる年金制度の種類や優遇措置、支給額が大幅に異なります。

このように、ただでさえ年金制度に対する不信感が強いところへ、開始年齢の引上げが通告されたような状況です。プーチン大統領を英雄視していた国民が、強い絶望感と怒りに包まれたのは想像に難くないです。

日本でも、年金の納付期間の延長が話題になっています。年金保険料の納付期間は現在、20歳から59歳までの40年間。この納付期間を5年延長し、20歳から64歳までの45年間にする案が政府内で検討されています。

そうして、その理由として少子高齢化が報道で挙げられています。

働く世代が少なくなり、保険料を納付する人数が減ると、年金を支払うための財源は少なくなります。その一方で年金をもらう高齢者は増えるため、財源の確保が難しい状況になっていくという説明です。

ただし、この説明は全くの間違いとまでは言わないですが、年金の本質から外れています。

年金の本質とは何かといえば、それは、長生きした時の「保険」です。死亡保険は死んだ時の保険ですが、長生きした時の保険はイメージしにくいです。ざっくりいえば、みんなから保険料をとって、平均寿命より早死にした人には年金を払わず、平均寿命より長生きした人に年金を払うという仕組みです。

平均寿命が伸びれば、年金額を維持しようとすれば納付期間の延長しか、解がないです。延長しなというなら、納付金額を上げるしかありません。

これについては、高橋洋一氏が簡単な算式を用いて、わかりやすいく以下の記事で解説しています。
知っておくべき「年金の本質」 保険料納付の期間延長しか「解がない」理由
年金数理から見れば、平均寿命が伸びれば、年金額を維持しようとすれば納付期間の延長しか、解がない。ちょっとした「算数」なので、マスコミはこうした解説もしないとまずいのではないでしょうか。無用の誤解を生む可能性もあります。

年金は保険という観点からすれば、高橋洋一氏の主張は正しいです。納付期間の延長に関して、ネガティブな意見を語る人は、これを理解していないのではないでしょうか。高橋洋一氏は、消費税増税をはじめとする、緊縮財政には反対しています。それも、きちんとしたマクロ経済的な背景を説明しつつ反対しています。税金の問題と年金問題とは分けて議論すべきなのです。

ただ、ロシアにおいては、ロシアの特殊事情があります。ロシアは、現在GDPでは韓国を若干下回る程度であり、しかも人口は1億4千万人とと韓国の数千万人よりは、はるかに多く、一人あたりのGDPでは1万ドルを若干上回る程度です。

それに比較すると、軍事費は世界では3%を占める程度、日本と比較してさえ、かなり多いとはいえないですが、ロシアのGDPからみれば、かなり費やしているのは間違いありません。何しろロシアのGDPは日本の1/3です。


プーチン大統領が年金改革を発表してから、3年以上が経過した。2021年4月の改正大統領選挙法成立を経て、「終身大統領」の野望に一歩近づいた現在も、足元の不安要素は拡大し続けています。プーチン大統領の大きな誤算は、年金改革が英雄の地位や強権を揺るがすほど、国民にとって重要な問題であることを見誤った点のようです。

先に述べたように、平均寿命が伸びれば、保険である年金は、年金額を維持しようとすれば納付期間の延長しか、解がないです。延長しなというなら、納付金額を上げるしかありません。

そのため、年金数理的にはプーチンの選択は間違いではないのですが、それにしても、元々ロシア国民の収入は多くはないところにもってきた、2014年のクリミア併合以降、ロシアに対する制裁で多くの国民の生活は苦しくなっていますし、インフレ傾向が続いていることから、多くの国民の生活は苦しく、思いの外強い反発を招いてしまったのです。

第1次政権からのプーチン大統領支持率を見ると、22年間ずっと、60%以上を上回っていて、最新の今年2月には71%となっています。戦争を仕掛けるたびに支持率をアップさせていて、2008年8月、現在のジョージアと“衝突”した時や、2014年3月、ウクライナ南部のクリミアを併合した時に支持率が上昇しています。 

もしウクライナ侵略もその背景に、支持率を上げるためであったとすれば、全く本末転倒の結果になってしまった言わざるを得ません。

昨年の税収が過去最高だったことや、円安で為替特会の含み益が増大し、その一部は為替介入で実現益になっていること、多くの国民が国債は将来世代へのつけではないことを理解しつつあり、日本においても、年金の支払い期間の延長で国民の反発が高まることも十分考えられます。

ロシアのプーチン大統領は5月25日、一般国民に対する年金を6月1日から、最低賃金を7月1日から、それぞれ10%引き上げると表明しました。モスクワのクレムリンで開かれた閣僚や地方知事らとの会議で述べました。

プーチン氏は同時に、ウクライナでの軍事作戦に参加した軍関係者らへの金銭的補償を充実させるよう指示しました。戦闘長期化や欧米の制裁による物価上昇などの経済悪化を受け、国民の不満を抑える意図があるとみられます。

ただ、ロシアは制裁を受けていることから、インフレ率が亢進しており、9月のロシアのインフレ率は前年比で13.68%となり8月の14.30%から低下したとはいえ、まだかなりの高水準です。

これでは、年金や賃金を上げてもほとんど意味がないです。というより、上げなければとんでもないことになります。上げて当たり前です。ただ、これはインフレにさらに拍車をかけることになるでしょう。現在のロシアはまさに、八方塞がりです。

このようなロシアの状況からみれば、日本は随分良い状態です。岸田首相は、ここしばらくは、増税などの緊縮財政はしないと表明した上で為替特会を経済対策に当てる旨を公表すれば良いです。そうして、これを実行すれば良いのです。そうすれば、多くの国民は納得するはずです。

さらに、防衛費の嵩上げで実質的に防衛費をあまりあげないようにするにすぎない「総合的な防衛体制の強化に資する経費」化をやめる旨を公表し、実際にそうすれば、保守派の国民を納得させることができます。

これらを実行すれば、岸田内閣はまた支持率を上げることができるかもしれません。八方塞がりのロシアのプーチンからみれば、日本の岸田首相が羨ましいことでしょう。

岸田総理が、これらのことを実行せずに、年金の支払期限だけを伸ばせば、プーチンのように窮地に至ることは必定です。

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