岸田首相の失策で、アベノミクスは潰えた…ついに「失われた20年」が再来する予感◆
髙橋 洋一
萩生田氏はまだ粘っているが…
先週の本コラムで、防衛増税はほぼ決まりかけており、一縷の望みは、財源確保にかかわる法案の扱いだと述べた。その法案について、政府(岸田政権・財務省)は次期通常国会に提出予定としている。
実施時期は確定しないが、この法案に増税措置が盛り込まれるはずだ。次期通常国会の提出が決まれば、防衛増税は確定する。
ただし、萩生田政調会長はまだ頑張っている。12月25日、フジテレビ「日曜報道 THE PRIME」に出演し、防衛増税について「明確な方向性が出た時には、国民に判断してもらう必要も当然ある」と述べ、衆院の解散総選挙で信を問うべきだとの姿勢を示した。
5年後に1兆円超を増税でまかなう方針について、「必ずしも1兆円でなくてもいいわけだから、しっかり見れば、まだまだ使える金はあるのではないかと思うので、来年、深掘りしていく」と述べ、具体的には「歳出改革の努力、あるいは特別会計など」を挙げた。
この防衛増税は、アベノミクスの方向を大きく転換させることになる。安倍・菅政権では、民主党政権で決めた消費増税以外は、極力増税を回避してきた。本コラムにも書いたが、新型コロナ対策の100兆円予算も、政府・日銀の連合軍(安倍首相の言葉)により、増税せずに行った。
ここで、アベノミクス10年を振り返っておこう。
アベノミクスの最大の成果は、雇用の確保だった。筆者は安倍元首相と話す機会が多かったが、マクロ経済政策について、最低ラインは雇用の確保、その上に所得が高ければいいといつも説明した。そのために、財政政策と金融政策を使って、GDPギャップを解消しインフレを加速しない失業率(NAIRU)を目指すというシンプルなものだ。そうしたマクロ経済を表する筆者の基準もシンプルで、雇用の確保が出来れば60点、その上に所得の向上があれば40点を追加して100点満点とするものだ。
アベノミクスでいろいろなことを言う人がおり落第点という人も少なくないが、その評価基準について筆者にはさっぱり分からない。筆者は大学教授をしているが、学生の評価について、100満点でつける。その評価基準はどこの大学でも同じで予めシラバスで公開しているが、筆者の場合、授業点(出席点)が50点、定期試験が40点、レポート提出点が10点としている。この基準では、万が一定期試験が0点であっても、まじめに出席し正しいレポートを提出していれば、60点を取ることができ、及第(60点)となる。
アベノミクスの方向性が大転換
さて、アベノミクスを採点すると、安倍政権での雇用は歴代政権で最高である。雇用は失業率低下と就業者数で測れるが、安倍政権は400万人以上の就業者数増、1.3%の失業率低下だった。こうした点から見れば、雇用は60点満点だ。
所得の観点ではどうか。所得は実質GDP成長率で計るが、同時にインフレ率(名目GDPと実質GDPの比であるGDPデフレータ)をみておく。安倍政権は、実質GDPは0.4%、インフレ率は0.7%であり、高度成長期の歴代政権と比べると見劣りがする。戦後GDP統計のある鳩山政権以降の31政権において、安倍政権の実質GDP成長率は25位、インフレ率は2%から乖離でみると7位。
いずれにしても、戦後政権での安倍政権のGDPパフォーマンスはほぼ中位であるので、40点満点中20点である。
したがって、安倍政権の評価をすれば、雇用60点、GDP20点で、計80点だ。
なお、日本がデフレに陥った1995年以降の13政権の中では、安倍政権は実質GDP成長率で8番目、インフレ率では1位(安倍政権以外はすべてマイナス)だ。安倍政権は、デフレ経済にあって唯一デフレ脱却しかけた政権だった。
これが、数字から見たアベノミクスの評価である。
冒頭の防衛増税で、アベノミクスの方向性が違ってきた。防衛増税については、たかだか1兆円なので、防衛国債の範囲を拡大することか埋蔵金(外為特会や債務償還費を活用)でどう考えても回避できる。財務官僚がどうして増税したいとしか考えられない。
これで、思い出すのが、東日本大震災後の「ホップ、ステップ、ジャンプ」論だ。復興増税をホップとして、ステップ、ジャンプで二段階の消費増税を行う財務省の構想だった。実は、それを2011年6月20日の本コラムで暴露した。実際にはそのとおりになった。
日銀が現した馬脚
今回も、防衛増税はホップであり、ステップ、ジャンプで2段階消費増税を財務省は狙っている。そして、消費税率は15%になるだろう。そのためには、ともかく「増税」したのだ。
他方、金融政策でもアベノミクスの真逆の政策が実施されようとしている。
日銀は、20日容認する長期金利の上限と下限を0.25%から0.5%程度まで拡大した。会見で、黒田総裁は、事実上の利上げだとの指摘に対し、利上げではないと強調した。また、金融緩和は維持しているとし、景気にプラスとした。
市場の反応は、長期金利が0.2%程度上昇し、為替は5円程度円高になり、株価は800円程度下落した。黒田総裁は利上げでないと言ったが、市場の反応は長期金利の急騰だった。黒田総裁は9月26日の会見で、長期金利の上限引き上げは利上げに当たるのかとの質問に「それはなると思う。明らかに金融緩和の効果を阻害するので考えていない」と明言していたので、そのとおりだった。
その結果、急な円高になったが、黒田総裁は急な為替変動は好ましくないといっていたが、今回の円高は急な為替変動だ。
日銀事務方の説明は、イールドカーブの歪みの是正だ。
しかし、イールドカーブを是正して「金融緩和」するなら残存8~9年の国債を買えばいいだけだ。日銀はこのあまりに稚拙な説明資料により、実際は「利上げ」したかった馬脚が現れた。いくら黒田総裁が利上げでないといっても、変動住宅ローン金利は既に上がっており、借入者の金利支払いはもうすぐなのでそろそろ誰の目にも分かるだろう。
また、10月24日付けの本コラムで書いたように、円安は日本経済全体のGDP押し上げ要因だったが、円高になったので、株価が急落したのは当然だ。
円安で企業の経常利益は過去最高となっており、円高が景気悪化につながるだろう。生産拠点の国内回帰の動きにも冷や水を浴びせかねない。
今後、住宅ローンの金利も上昇し、企業が融資を受ける条件も厳しくなるだろう。一方で、銀行など金融機関の経営には恩恵が大きい。今回の事実上の利上げは、雇用、GDPなどマクロ経済よりも金融機関を優遇した政策だといえる。
いずれにしても、市場から見れば、黒田総裁は従来の発言を翻した。しかし、これだけの政策方向の転換について、黒田総裁だけの独断とも考えにくい。岸田首相の了解があったと考えるのが自然だ。
いよいよアベノミクスから大きく舵が切られた。筆者の予感は、再びデフレ、失われた20年の再来だ。
髙橋 洋一(経済学者)
【私の論評】増税危機はかなり切迫!財源確保法案が来年国会に出されることが決まれば、その時点で試合終了(゚д゚)!
日銀は、20日容認する長期金利の上限と下限を0.25%から0.5%程度まで拡大したことについては、イールドカープコントロールの一環であると説明しており、これは利上げではないとしており、高橋洋一氏以外のいわゆるリフレ派の方々の中にも、そのように解釈している人もいます。
ただ、これは、確かに高橋洋一氏が主張するように、まったく実施する必要のない措置でした。日銀は、今まで通りの金融緩和を継続すべきでした。
高橋氏としては、半端ではない危機感を抱いているのだと思います。上の記事には、「今回も、防衛増税はホップであり、ステップ、ジャンプで2段階消費増税を財務省は狙っている。そして、消費税率は15%になるだろう。そのためには、ともかく「増税」したのだ」という指摘があります。
これについては、高橋氏が
ABCテレビに出演した際にも語っています。
嘉悦大の高橋洋一教授(67)、京都大学大学院の藤井聡教授(54)は24日、レギュラー出演するABCテレビ「教えて!ニュースライブ 正義のミカタ」の特番「わ~るいどカップ2022 ミカタオールスターズが語ーるSP」に出演。消費税15%の可能性について言及しました。下は、その番組で用いられたテロップです。
テロップ一番下の、高橋洋一氏の発言を御覧ください。防衛増税確保法案が出てしまうと、増税が確定しまい。その時点で、後から何を言おうと、どのような手段を講じても、試合終了になってしまうのです。
自民・公明両党は先日、防衛費増額の財源をまかなうため法人税、所得税、たばこ税の増税が盛り込まれた2023(令和5)年度の税制改正大綱を決定しましたが、元財務官僚の高橋氏は「今のところ、増税の話は自民党の文書でしか書いていない。本当にゲームセットになるのは法案が次の通常国会に出たら。財源確保法案っていうのを用意している」と今後の流れを解説しました。
来年の2023年1月27日からはじまる通常国会に防衛増税確保法案が出されることが決まれば、それでほぼ防衛増税が決まり、その後は消費税増税もいずれ15%は決まりになるだろうというのが高橋洋一氏の見立てです。
これを受け、藤井氏は「今回増税になると法人税と所得税が増税になる。これが本当に通ると、確実に消費税の増税を岸田政権は仕掛けてくる。15%になるとも言われている」と指摘。高橋氏も「東日本大震災を思ってください。復興増税があったでしょ?あれがホップ。その後にステップで消費増税。もう1回狙ってるんですよ」と話し、「多分、12%とかやって、そのあと15%」と防衛増税後の消費増税を予測しました。
番組MCの東野幸治やスタジオパネラーのほんこん、「ジャニーズWEST」中間淳太らが「15%?」と唖然とするなか、藤井氏は「その布石を止めるために、今の局面が極めて大事」と強調していました。
まさに、今の局面が大事なのです。「2023(令和5)年度の税制改正大綱」にもとづく、財源確保法が、次の通常国会にだされ、その法律が通ってしまえば、人税、所得税、たばこ税の増税が本決まりになり、そこから先は、どう頑張っても取り返しがつきません。
これは、三党合意により決まった、消費税増税法案を思い起こさせます。
三党合意(さんとうごうい)とは、2012年の民主党政権(野田内閣)下において、民主党、自由民主党、公明党の三党間において取り決められた、社会保障と税の一体改革に関する合意です。
2012年(平成24年)6月21日に三党の幹事長会談が行われ、三党合意を確約する「三党確認書」が、作成されました。この三党合意にもとづき消費税増税法案が国会で審議し、成立したのです。まさに、「2023(令和5)年度の税制改正大綱」は、この三党合意のような働きをして、今のままだと、防衛増税は決まってしまいそうなのです。
三党合意とその後の消費税増税法案が決まったということがあったため、後に安倍首相は、増税を2度も延期しましたが、結局総理大臣在任中に8%と10%の増税をせざるを得なかったのです。一旦決まった法律を覆すことは、本当に難しいことなのです。
だかこそ、高橋洋一氏はかなり危機感を感じており、日銀の実質上の利上げに関しても大反対しているのでしょう。
このブログでは、英国のジョンソン、トラス両首相の辞任という大政変を例にとり、日本でも増税反対に抗議して、閣僚が自ら辞めるということをすべきではないかということを主張しました。
ただ、このときは、ここまで増税危機が切迫しているとは思っていなかったので、安倍派閣僚が4人がひとりずつ辞任して、最後の最後にそれでも、岸田総理が翻意をしなかった場合、閣僚ではないものの、萩生田光一政調会長が辞任するという具合に進めれば良いと思っていました。
ただ、状況の切迫具合からみると、それでは甘いかもしれません。岸田文雄首相が26日、秋葉賢也復興相を事実上更迭する方針を固めました。これは年内に「閣内の火種」を消し、来年1月下旬に召集される通常国会の論戦に向けて仕切り直しを図るためとみられます。
これで、人事の岸田といわれる、岸田政権の閣僚の辞任は四人目となります。これとほぼ同時に、安倍派閣僚四人も防衛増税ならびに消費税増税に反対し、増税するなら、総選挙で国民の信を問うべきと主張して、辞任すべきではないかと思います。そうなると、秋葉氏とあわせて、5人が辞任というこになり、岸田政権への打撃は半端なものではなくなります。
それこそ、国会は、防衛費財源確保法案の審議どころでなくなります。これは、かなりのインパクトがあり、野党はこれに大反発して、国会はこの話題が中心となり、マスコミもこの話題でもちきりとなり、財源確保法案のことなど、忘れさられたような状況になるでしょう。当然審議は、後回しにされることになります。
岸田首相は、5人の閣僚がほぼ同時に辞任ということになれば、内閣改造だけでは国民も野党も納得せず、解散総選挙を迫られることになるでしょう。それでも、増税の看板を下げることがなければ、それに今更下げたとしても、大敗を喫するのは目に見えています。それでも、与党の座を譲ることにはならいないとみられますが、岸田首相は辞任せざるを得なくなるでしょう。
その後の総裁選びが焦点になります。ポスト岸田の有力候補は、茂木氏、河野氏、林氏とされ、茂木氏が有力とされていましたが、これも番狂わせが起こりそうです。ここで、掲載すると、長くなってしまいそうなので、また機会を改めて掲載しようと思います。
次の総裁はマクロ経済を理解する人になっていただきたいです。いずれにせよ、現在は切迫した状況にあるのは、間違いありません。皆さんも、大反対しましょう。
そうして、有力政治家に陳情しましょう。私自身も、最近甘利氏にツイッターで陳情しました。それで、行動や考え方はかわりはしなかったようですが、このようなことをかなり多くの人が実施すれば、ある程度の影響は与えられるものと思います。最近の政治家は、SNSをかなり気にしているようです。
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