2022年10月24日月曜日

「32年ぶりの円安」が日本にとって大チャンスである理由…バブル期との決定的な違い―【私の論評】安倍元総理が亡くなってから、急にせり出してきた財務省に要注意(゚д゚)!

「32年ぶりの円安」が日本にとって大チャンスである理由…バブル期との決定的な違い

メディアの印象操作に欺されるな

 為替が1ドル150円近辺と、1990年以来の水準と報じられ、大騒ぎになっている。地上波の大阪朝日放送『正義のミカタ』で、筆者もこれを解説した。

 そもそも、円安はGDPプラス要因だ。古今東西、自国通貨安は「近隣窮乏化政策」(Beggar thy neighbour)として知られている。

 通貨安は輸出主導の国内エクセレントカンパニーに有利で、輸入主導の平均的な企業に不利となる。全体としてはプラスになるので、輸出依存度などに関わらずどのような国でも自国通貨安はGDPプラス要因になる。

 もしこの国際経済常識を覆すなら、世紀の大発見だ。

 このため、海外から文句が来ることはあっても、国内から円安を止めることは国益に反する。本コラムで書いてきたように、これは国際機関での経済分析からも知られている。ちなみにOECD(経済協力開発機構)の経済モデルでは、10%の円安であれば1~3年以内にGDPは0.4~1.2%増加する。


 それを裏付けるように、最近の企業業績は好調である。直近の法人企業統計でも、過去最高収益になっている。これで、法人税、所得税も伸びるだろう。

 しかしマスコミ報道は、こうしたマクロ経済ではなく、交易条件の悪化などごく一部の現象のみを取り上げて「円安が悪い」という印象操作をしている。

 円安がGDPプラスになるということだけで、経済全体の事情は示されている。そこで経済学的な議論はおしまいだ。しかしテレビ番組では、一般の人にもわかってもらう必要がある。筆者が番組スタッフに「円安で起こる悪いニュースと良いニュースを探してくれ」と頼んだところ、次のような資料になった。


 円安の結果で、一世帯あたりの年間負担8.6万円と経常収益28.3兆円という数字が並んでいる。

 日本の世帯数は5400万なので、家計全体の負担は4.6兆円になる。一方、企業収益は28.3兆円で、前年比17.6%増なので5兆円プラスで家計全体の負担を相殺できる。
 
 バブル期は酷いインフレではなかった

 実際の番組では話はこの通りでないが「まだ政府の儲けがあるので、日本経済全体では大丈夫」と言った。儲けているカネで、困っている人への対策に回せばいいのだ。それは政治の問題でもある。

 そもそも、今回の円安は32年ぶりだという。32年前というと1990年バブル絶頂・崩壊時だ。その当時のマクロ経済指標はどうだったのか。名目GDP成長率7.6%、実質GDP成長率4.9%、失業率2.1%、CPI上昇率3.1%だ。文句のつけようもない数字だ。バブル期というと酷いインフレと思い込んでいる人もいるが、そうでない。

 テレビ番組でも、MCの東野さんから「32年前はウキウキしていたが、今は違うではないか」との質問があった。これはまともな質問なので、「バブル時に取られた政策が間違いで、今になっている」と答えた。バブル潰しのための金融引き締めだった。

 頭の体操だが、その当時に今のインフレ目標2%があったらどうなのか。

 昨今の欧米の例をみても、4%くらいまでは金融引き締めをしないのが通例なので、金融引き締めをしてはいけないことになる。

 当時、マスコミは日銀の三重野総裁を「平成の鬼平」ともてはやして、金融引き締め(金利引き上げ)を後押しし、日銀も従ったが、それは間違いだった。筆者の見解では、日銀はこの間違いを「正しい」といい続け、間違いが繰り返され、失われた平成不況の元凶になった。

むしろ円高・デフレがまずかった

 それを示すのが、次の図だ。カネの伸びと名目経済成長はかなり関係している。


 バブルの前、日本のカネの伸びはそこそこで経済成長も良かった。しかし、マスコミはバブルを悪いモノとしていた。


 そしてメディアの論調に押されて、バブル潰しのために金融引き締めをして、それが正しいと思い込んだ日銀は金融引き締めを継続した。その結果、日本のカネの伸びは世界最低級となり、成長も世界最低級になってしまった。

 ちなみに、カネの伸びが低いとモノの量は相対的に多くなり、その結果、モノの価値が下がり、デフレになりがちだ。バブル潰しの結果、金融引き締めを継続したのが、デフレの原因である。

 アベノミクスは、それを是正するものだった。カネの伸びは世界最低級からは脱出したが、まだ十分とはいえない。

 また、日本のカネの伸びは、他国のカネの伸びに比べて低い傾向になるので、結果として円の他国通貨に対する相対量が少なくなり、円高に振れがちだ。なので、バブル以降、デフレと円高が一緒だったのは、カネの伸びが少なかったことが原因だ。

 GDPをドル換算して日本のGDPランキングが下がったといい、円安を悪いものとして煽る論調があるが、円払いの給与のほとんどの日本人には無意味なことだ。むしろこれまでの円高・デフレで成長が阻害された結果を表していると見たほうがいい。

 もっとも、1990年と今との違いに対外純資産がある。1990年末は44兆円だが、2022年6月末(一次推計)は449兆円。円安メリットは大きくなっている。その中でも最大のメリットを享受しているのは外国為替資金特別会計(外為特会)で外貨資産を保有する日本政府だ。
 
  どんどん為替介入を

 筆者からみれば、外為特会は霞が関埋蔵金の一つであり、かつて小泉政権の時に、財源捻出した経験がある。その当時は政府内で調整が行われたが、岸田政権で埋蔵金を指摘するようなスタッフはいないので、国会で議論されたのだろう。いずれにしてもできないという理由は分からない。

 国民民主党の玉木雄一郎代表が10月6日の衆院代表質問で、外為特会の含み益が37兆円あることを指摘し、円安メリットを生かすのなら、その含み益を経済対策の財源に充ててはどうかと提案した。

 これに対し岸田首相は「財源確保のために外貨を円貨に替えるのは実質的にドル売り・円買いの為替介入そのもの」などと述べ、否定的だった。

 18日の衆議院予算委員会では、鈴木俊一財務相も、外貨資産の評価益を経済対策の財源とする提案について「その時々で変動する外国為替評価損益を裏付けとして財源を捻出することは適当でない」と語った。

 一方、円安に対し、鈴木財務相は「円安を食い止めるための為替介入も辞さない」と繰り返して主張している。

 財源とするのは否定するが、介入は行うとの発言であるが、この二つの発言は矛盾している。

 というのは、含み益を実現益とするためには、外為特会で保有しているドル債を売却するわけだが、その売却行為自体が為替介入そのものだからだ。実現益は出したくないが、為替介入するという発言を同一本人が言うとは理解できないし、マスコミや国会はこのような矛盾点を指摘しなければいけない。

 為替介入は1回あたり大きくとも数兆円程度の規模だ。1日の為替取引は大きい。国際決済銀行の2019年のデータでは、1日の平均取引量は6.6兆ドル(1ドル140円とすれば約1000兆円)である。ドル・円の取引はシェア13%なので130兆円程度だ。これでは、当局が介入しても、量的には雀の涙であり、1~2日の間、介入効果はあるように見えてもすぐになくなる。

 であれば、どんどん為替介入すればいい。そのたびに為替評価益は実現益に変わる。その実現益を財源対策にすればいいだけだ。

 含み益を実現益にするためには、ドル債の売却は金融機関相手でなく政府内の特会会計間取引でもいい。その場合、為替介入は事後的にわかるがその時にはわからない。国際的な為替操作を気にするのであれば、この手法でもいい。

 いずれにしても、外貨債を持っている日本人にとって円安メリットは現実のものだ。最近の円安によるGDP増加要因で、日本経済は1~2%程度の「成長ゲタ」を履いており、他の先進国より有利になっている。1990年の失敗を繰り返さず、この好機を逃してはいけない。

 以上の記述を含めバブル崩壊をはさんだ戦後経済史に興味のある方は、筆者の『戦後経済史は嘘ばかり 日本の未来を読み解く正しい視点』(PHP新書)をご一読いただきたい。

髙橋 洋一(経済学者)

【私の論評】安倍元総理が亡くなってから、急にせり出してきた財務省に要注意(゚д゚)

「1990年以来、32年ぶり」とよく言われますが、1990年の経済状況はどうだったかと言うと、名目経済成長率が大体8%ぐらいで、実質経済成長率が5%でした。失業率が2%台で、インフレ率が3%台でした。このどこが悪いことなのでしょうか。32年前に戻れるなら、それは日本経済にとって良いことです。


多くの人が、これを「悪い」と思っているようですが、かなり良い状態です。上の記事にもでてきた、近隣窮乏化は、普通は他の国から苦情が出るのが普通ですが、現状ではそのようなことがないので、非常に良い状況です。 

このようなことは、初めてかもしれません。 それどころか、バイデン大統領はドル高容認発言をしています。 IMFの世界経済見通しでも、来年(2023年)の日本は先進国のなかでも高い成長率が予測されています。日本経済は、円安によって下駄を履かせてもらっている状況です。これは様々な産業の日本回帰への絶好のチャンスです。

超円高のときには、日本で部品を組み立てて、海外に輸出するよりも、中国や韓国で組み立てて、そこから輸出したほうがはるかにコストを低減できるという状況でした。中国や韓国がぬるま湯に浸かっていたような状況の一方、日本企業は手足を縛られたような状態でした。様々な産業が日本国外に出ていきました。

今度は、円安で「サプライチェーンを中国や韓国から奪う」という時代に入ることになります。

サプライチェーンの見直しは、まさに経済安全保障の議論のなかでずっと言われていたことですが、ここまでの為替水準になると、いろいろな産業をの国内回帰させることができますし、、実際にそのような企業も増えつつあります 。

経済安全保障推進法などは、高市早苗氏の活躍も実際に法律になっていますが、この考え方も「中国からサプライチェーンを奪う」というところまでにはなっていません。現実が追い越してしまったので、法改正はもちろんのこと、追い付かなければいけません。

 すでに、現実に「サプライチェーンを奪う」という時代になっているのです。あの法律は、「なるべく中国に日本のサプライチェーンを獲られないようにしましょう。この法律は、「サプライチェーンの中軸は中国なので、なるべく防ぐべき」という考え方の法律に留まっています。 

経済安全保障推進法は。 現実にあわせてさらに、前に進まなければなりません。現実にあわせて自ら法改正をすべきです。

安倍元総理は、総理大臣時代に日本戻ってくる企業に補助金を出しました。現在国会で審議されてる対策も、この補助金はあります。今後は、そのような企業がもっと増えるはずです。実際、戻りたいという人も多いです。

かつてアジア通貨危機のときに、「カントリーリスク」ということがずいぶん言われました。最近はやや死語のようになっていますが、中国はカントリーリスクの塊です。そのようなところにサプライチェーンを依存したくないという思いは、日本だけではありません。

 カントリーリスクは日本貿易保険(NEXI)が発表しています。A~Hまでカテゴリーがあって、ロシアはHぐらいなのですが、中国はCです。全くあり得ないことです。 日本政府は中国に対して甘すぎます。 

中国に技術を盗まれてしまうリスクもありますし、罰金のようなものを科せられたり、人が拘束されるなど、様々なことがあり得ます。 

中国のカントリーリスクは、アジア通貨危機のときに言われた諸国よりも根深いですし、いまの中国共産党大会を見ていても、改善される見通しがないどころか悪化しています。 

現在の中国は、ますます習近平に対する個人崇拝の道に進んでしまい、誰も何も言えなくなっています。そのようななかで、経済だけがうまく資本主義で回るはず等ありません。

中国の経済政策は、独裁の手助けをさせようとしているだけです。本来の「自由意志によって経済を司る」という考え方がまったくないので、巨大なカントリーリスクです。何があってもおかしくありません。

アジアで本当に資本主義国として自立できる可能性があるのは、日本しかありません。円が安くなったと言っても日本のGDPは世界3位なのですから、発想の逆転が必要です。 

為替について、日本ではマスコミなどを筆頭に、「円高のときにネガティブに考えるし、円安のときもネガティブに考えます」本当に不思議です。GDPが減ってしまうので、円高のネガティブは理解できるところがありますが、円安でネガティブになるべきではないです。

最近の、企業の実績を見ても、「税収は70兆円までいくのではないか」と言われています。法人企業統計でも、企業の収益は過去最高です。

ただ、「なぜ円安になるとGDPが伸びるのか」という説明はほとんどされません。 簡単に言ってしまえば、円安では輸出関連が有利になって、輸入関連が不利になります。

世界の檜舞台で競争するので、輸出関連企業には優良企業が多いです。優良企業の業績に、他の円高によるデメリットを平均的に与えたにしても、総合的にプラスになるということで日本全体のGDP は伸びるのです。

よって、いずれの国においても実は自国通貨安の方がGDPは伸びるのです。これは輸出依存度に関係ない世界であり、世界貿易の常識です。もしこの常識を破るような理論がでてきたとすれば、その理論でノーベル経済学賞を獲れると思います。

日本人が日本で、普通に生活していると、円安になった場合、特に輸入しているものの物価が高くなってしまうので、デメリットになります。そこは政策でカバーできます。 

国全体が経済がプラスになります。大事なことは、「国のなかで誰が最もプラスになったのか」を探すことです。そうなると、日本国政府が最もプラスです。日本国政府は約180兆円の外債投資をしているので、含み益だけで40兆円ほどあります。

上の記事にもあるとおり、小泉政権のときに、高橋洋一氏はこれを埋蔵金と呼びましたが、今回もまた同じことを言っているだけです。 小泉政権のときにあった埋蔵金は、60兆円ほどでしたか。それに外為特会も入っていたので、財源として捻出しました。

当時はそこまで円安ではなかったので、さほどではありませんでしたが、今回の円高は当時よりも規模が大きいです。いまでも40兆円ほどあります。現在円高で最も儲けているのは誰かといえば、それは日本国政府です。

為替特会の財源化等も含めて、当然、消費減税も考えるべきです。岸田総理は消費税は、「社会保障の財源」と主張していますが、これはこのブログても過去に主張してきたように、明らかに間違いです。社会保障は保険であり、消費税をこれにあてるなどという考えは、根本から間違えています。

円安を活用するためには、消費税減税も含めて、いままで財務省が否定してきた政策を取らなければなりません。そうしなければ岸田政権は反転攻勢はできないです。 高橋)心強いですね。 

岸田総理にそれができるかどうか。岸田総理は、安倍元総理が亡くなってから、より財務省に近くなっているともいわれています。ただ、岸田総理が財務省に寄って行ったというよりは、財務省が「グッ」と身を乗り出してきた感じが明らかにあります。

安倍元総理が亡くなってから、急にせり出してきました。 防衛予算の話でいくと、法人税や所得税など、税金を上げる、いわゆる防衛増税すり替わってしまっているのは、まさにそういうところです。


ただ、この防衛増税は、自民党の保守派の怒りに油を注いでしまったようです。先程も述べたように、政府は円高で潤っており、これを防衛費にあてるとともに、他の施策も実施すべきです。

以前もこのブログで述べたように、財務省で出世するにはできるだけ、多くの緊縮・増税をするかが決め手になります。これこそ、「財務真理教」です。

彼らは国益よりも省益、自分の出世と天下りが大事なのです。財務省入省後に厳しい洗脳が始まります。円安で政府が儲かった分を防衛費に廻すなどのことはせずに、防衛増税をしてその結果日本が再び失われた30年に見舞わて、国民が苦しもうが、全く頓着しないのですから、異様なカルト集団といわざるをえないです。

日本では、統一教会が問題視されていますが、一番問題なのはカルトの財務真理教です。このようなカルトになぜ、大勢の政治家が恭順するのか、理解できません。

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2022年10月23日日曜日

安保、資源で「準同盟」強化 中国を警戒、重なる思惑 日豪―【私の論評】2015年の安倍政権による安全保障法制の整備がなければ、豪州をはじめとする他国の関係はかなり希薄なものになっていた(゚д゚)!

安保、資源で「準同盟」強化 中国を警戒、重なる思惑 日豪

コアラを抱いて記念撮影するオーストラリアのアルバニージー首相(左)と岸田首相=パースで2022年10月22日

 日本とオーストラリアが安全保障協力を深化させる新たな宣言を打ち出したのは、インド太平洋地域で軍事力を背景に影響力を増す中国に対抗するためだ。 【写真】談笑しながら会談へ向かうオーストラリアのアルバニージー首相と岸田文雄首相  約15年前に締結した共同宣言に中国の脅威を念頭に置いた文言はなく、今回の「改定」で現実の安保環境を踏まえた内容にリニューアルした。「準同盟国」と位置付ける豪州との連携強化で「増大するリスク」(新宣言)に備える。  両首脳が新宣言に署名した22日はくしくも中国共産党大会の閉幕日と重なった。岸田文雄首相は共同記者発表で「安全保障、防衛協力をさらに深化させる充実した内容だ」と意義を強調。アルバニージー首相も「この画期的な宣言が地域に強力なシグナルを発信する」と息の合ったところを見せた。  日豪は07年3月に当時の安倍晋三首相とハワード首相が安保共同宣言に署名し、徐々に関係を進めてきた。ただ、豪州は中国との自由貿易協定(FTA)が15年に発効するなど、中国との貿易関係も重視してきた。

豪ハワード首相(左) と安保共同宣言に署名する安倍首相(右 ) 
 豪中関係は、
新型コロナウイルスの発生源を巡り、豪州が20年に独立した調査を求めたことに中国が反発して冷え込んだ。今年4月には、安保上の「要衝」である南太平洋のソロモン諸島と中国が安保協定を締結するなど、豪州にとって中国が懸念材料となっている。  一方、日豪は21年、海上自衛隊の護衛艦が豪軍艦艇を警護する「武器等防護」を実施。自衛隊が米軍以外を警護するのは初めてだった。22年には日豪の部隊が互いの国を訪問する際の法的地位などを定めた「円滑化協定」で合意した。外務省幹部は「唯一の同盟国・米国を除けば、豪州は日本にとって特別な地位にある」と指摘する。  豪州側も米国、インドを加えた日米豪印4カ国の枠組み「クアッド」などを軸に、中国の覇権主義的な動きを押しとどめたい考えだ。  ◇会談場所はLNG輸出拠点  日豪首脳が会談場所に選んだ豪州西部パースは液化天然ガス(LNG)や鉄鉱石の輸出拠点として知られる。豪州は日本が輸入するLNGの約4割、鉄鉱石の6割を供給する一大資源国だ。  今回の訪豪は、ロシアのウクライナ侵攻に起因する原材料価格上昇への対策も重要テーマだった。岸田首相は共同記者発表で「協力をさらに進展させることで一致した」と資源・エネルギーの安定供給確保をアピールした。 

【私の論評】2015年の安倍政権による安全保障法制の整備がなければ、豪州をはじめとする他国との関係はかなり希薄なものに(゚д゚)!

22日に署名された日豪共同宣言の第6項

「我々は、日豪の主権及び地域の安全保障上の利益に影響を及ぼし得る緊急事態に関して、相互に協議し、対応措置を検討する」(日本外務省による和文)

岸田文雄首相とオーストラリアのアンソニー・アルバニージー首相が22日に署名した新し「安全保障協力に関する日豪共同宣言」の第6項に盛り込まれた文言です。

共同宣言は拘束力を伴う国際条約ではありません。このため、他国から武力攻撃を受けた際、互いに防衛義務を負う軍事同盟とは異なります。それでも、共同宣言の一文は、有事の際に日豪が共同作戦を行う可能性に道を開いたものとして関心を集めています。

日豪が戦火を交えた第2次世界大戦の終結から77年。安倍晋三元首相とジョン・ハワード元首相が2007年に締結した最初の安保共同宣言から15年を経て、安保協力を強化してきた両国関係は非公式に「準同盟」とも称されます。今回の新しい共同宣言は、中国の海洋進出やロシアによるウクライナ侵攻など激変する安全保障環境に合わせ、日豪の防衛協力をさらに一段と格上げした格好です。

 1942年日本軍に爆撃された豪州ダーウィン

アルバニージー首相は第6項の文言について「日豪の戦略的連携の強いシグナルを送るものだ」と述べた上で、「緊急事態の相互協議への取り組みは、地域の安全と安定を支える自然な一歩となる。地域の安全保障に対して、両国は互いに責任を共有する」と指摘しました。

同日付の豪州公共放送ABC(電子版)は、「画期的な安保防衛協力の共同宣言に署名」との見出しで伝え、「安保協力の水準を著しく引き上げるものだ」と評しました。

民間シンクタンク「オーストラリア国際問題研究所」(AIIA)の代表で東アジアの国際問題に詳しいブライス・ウェイクフィールド博士はABCに対し、第6項の文言は日米や豪米の同盟関係のように明確な義務を約束するものではないものの、「相互防衛の担保に向け前進した」と解説しました。

「日本にとって(共同宣言は)安全保障上の新しい道筋となる。日本は過去に日米同盟に強く依存してきたが、現在はオーストラリアのような主要パートナーとの間で安保のネットワーク化に傾斜している」(ウェイクフィールド博士)

2014年7月1日、安倍政権は「国の存立を全うし、国民を守るための切れ目のない安全保障法制の整備について」を閣議決定しました。2015年(平成27年)5月14日、国家安全保障会議及び閣議において、平和安全法制関連2法案を決定し翌日、衆議院及び参議院に提出しました。

この時には、皆さんもご存知のように、国会議事堂前で大規模な反対デモが行われました。しかし、 平和安全法制関連2法案は可決され、成立しました。これを当時のマスコミや野党は、「強行採決」として反発しました。当時は、この安保法制整備がなされた途端に戦争が起こるとか、徴兵制が復活になるなどのデマが飛び交いました。

しかし、そのようなことは未だに起こっていません。むしろ、この時期に安保法制の整備がなされなければ、戦争の確立は高まっていた可能性のほうが大きいです。


2015年安保法制改正に反対する国会前のデモ

しかし、これがなければ、現在の日本とオーストラリアの関係は現在よりは、はるかに希薄なものになっていたでしょう。上の記事にもある通り、日豪は21年、海上自衛隊の護衛艦が豪軍艦艇を警護する「武器等防護」を実施しましたが、これも当然なかったでしょう。

安保法制の改正など、政権の維持だけを考えた場合、実施しないほうが良いに決まっていますが、それでも当時の安倍総理はこれを実行しました。このことがなければ、当然のことながら、今日のオーストラリアと日本との関係等もなかったものと思います。無論、現在同盟国や準同盟国などの他の国々との関係も、現在よりはるかに希薄なものになっていたでしょう。

それを考えると、安倍元総理の決断はまさに時宜を得たものでした。それだけではなく、安倍政権下において、日銀は金融緩和に転じ、雇用状況は過去にないほど良くなりました。だからこそ、多くの人は安倍元総理を支持し、安倍政権は憲政史上に残る最長の政権になったのです。国会前で大騒ぎのデモの参加者も単なるノイジー・マイノリティーであることがはっきりしました。

岸田総理には、安倍元総理のように一時政権支持率を下げても、国民国家のために、実施すべきことはするという決断力があるのでしょうか。岸田総理にも安倍元総理のような政治家としての矜持をみせてほしいものです。

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2022年10月22日土曜日

習氏、3期目へ権威確立 李首相は最高指導部退く 中国共産党大会が閉幕―【私の論評】習近平の独裁体制構築までには、まだ一波乱ある(゚д゚)!

習氏、3期目へ権威確立 李首相は最高指導部退く 中国共産党大会が閉幕

22日、中国・北京で開かれた共産党大会の閉幕式に出席した習近平総書記(国家主席)

 中国共産党の第20回党大会は22日、北京の人民大会堂で、習近平総書記(国家主席)の権威を確立する文言を盛り込んだ党規約改正案を採択して閉幕した。

  今後5年の指導部を構成する中央委員に習氏を含む205人を選出。これにより、習氏の3期目入りが確実となった。李克強首相は同委員から外れ、最高指導部を退くことが決まった。次期最高指導部は、23日の第20期中央委員会第1回総会(1中総会)で発足する。

  李氏は、来年3月に任期切れで首相を退任した後も別のポストで最高指導部にとどまるという観測が出ていた。完全引退せず、名誉職などに就く可能性は残っている。

 党規約改正案の説明では、習氏の地位と思想に忠誠を誓うスローガン「二つの確立」について、「党が新時代に収めた重要な政治的成果」と強調。全党がその決定的意義を把握しなければならないと指摘しており、新たな党規約に盛り込まれるという見方が強い。また、党規約に「『台湾独立』に断固反対し、食い止める」と明記することも決まった。 

 党規約全文は後日、公表される。かつて建国の父、毛沢東に使われた呼称「領袖(りょうしゅう)」を習氏に適用したり、習氏の思想を「毛沢東思想」に並ぶ形で「習近平思想」に格上げしたりする案は見送られたもようだ。個人崇拝につながるという批判が強く、習氏が譲歩したことも考えられる。 

【私の論評】習近平の独裁体制構築までには、まだ一波乱ある(゚д゚)!

中国の党大会を、日本のマスコミなどは日本の国会のようなものと報道したりしていますが、それは全く違います。中国の党大会は、民主的であるかのようにみせかけていますが、ほとんどの内容が中国共産党の中で、派閥争いの結果決まっていることを公表しているにすぎません。


そのため、中国共産党にとっては、ただのイベントのようなもので、政治的にはほとんど意味を持ちません。このようなイベントをしなくても、中国の政治は中国共産党が派閥争いの結果決めたとおりに動くだけです。しかし、あたかも民主的に決めているかのように装うために、わざわざ少数民族まで集めて党大会を開催するのです。

実際、中央委員名簿も発表されますが、それは中国共産党が決めたものを発表するだけで、選挙によって選ばれているわけではありません。そういう意味では、中国にはに日本をはじめとする民主国家における政治家など一人も存在しません。すべてが官僚だともいえます。日本でも官僚は選挙で選ばれるのではなく、人事によって定められます。

では、なぜこれに多くの報道機関が注目するかといえば、本来派閥争いで決まったこと、特ににその機微に触れるようなことなど、表には出てきませんが、党大会で発表されたことによってその片鱗を知ることができ、中国の数年以内の将来をある程度予見できるからです。

今回の党大会では、党最高指導部の政治局常務委員(現行7人)のうち 李克強リークォーチャン 首相以外にも、 栗戦書リージャンシュー 全人代常務委員長、 汪洋ワンヤン 人民政治協商会議主席、 韓正ハンジョン 筆頭副首相の4人の名前が中央委員名簿になく、退任が明らかになりました。李克強が名簿から姿を消したことにより、李克強は失脚したとみるのが妥当です。

「68歳定年」が適用された場合、中央委員を退くとみられていた 王毅ワンイー 国務委員兼外相(今月69歳)は中央委員として留任しました。

23日にも開かれる党の重要会議・第20期中央委員会第1回総会(1中総会)で、総書記を含む最高指導部の政治局常務委員(現行7人)の顔ぶれが正式に決まり、3期目政権が始動する。

今回の退会では、理由は謎ですが、胡錦濤氏が退席させられる以下のシーンもあり、これ中国共産党大会の象徴的な場面になるかもしれないです。


以下に22日の党大会の主な出来事やポイントをまとめました。

胡錦濤氏が退席:閉幕式の途中、習近平(シーチンピン)総書記(国家主席)の前任者、胡錦濤(フーチンタオ)氏が男性2人によって会場から連れ出される予想外の一幕があった。退席の状況は不明だが、胡氏は不本意なように見えました。胡氏は近年、公の場で体調不良の様子を見せることが増えていました。

新たな中央委員会:党大会では党の主要指導機関である中央委員会の新たな顔ぶれが発表された。名簿に記載された205人のうち、女性は11人のみでした。全体に占める割合は約5%にとどまりました。

李克強氏が退任へ:新中央委員会の名簿には習氏に次ぐ序列2位の李克強(リーコーチアン)首相の名前がありませんでした。これは李氏が党の役職から退くことを意味します。専門家の間では、これにより権力のバランスが習氏優位に大きく傾く可能性があるとの声があります。

党規約改定:党大会では党規約の改定が承認され、「闘争」や「闘争精神」など習氏の支持する表現が複数盛り込まれました。中国の指導者は対外的な課題や脅威とみなす事象に言及する際、しばしばこうした表現を使います。富の再分配や大企業の引き締め強化を掲げる習氏の国家キャンペーンを反映して、「共同富裕」の表現も加わりました。

台湾への言及:党規約の文言を「台湾独立に断固として反対し、抑え込む」とする改定も行われました。中国共産党は台湾を実行支配したことは一度もないものの、自国の領土だと主張しています。

新たな称号なし:習氏に新たな称号などは付与されず、既に規約に明記されている習氏の政治思想にさらなる重要性が与えられることもありませんでした。専門家の間では党大会に先立ち、このどちらかが行われ、習氏の権力固めが一層進むとの見方も出ていました。

指導部の顔ぶれ:中央委員会は23日に初会合を開き、政治局員25人やさらに少人数の政治局常務委員を指名する。政治局常務委員会は中国の最高意思決定機関。習氏は党トップとして3期目入りを果たし、終身統治に道を付けるとみられている。

毛沢東に使われた呼称「領袖(りょうしゅう)」を習氏に適用したり、習氏の思想を「毛沢東思想」に並ぶ形で「習近平思想」に格上げしたりする案は見送られたということで、習近平の権力掌握は未だ完璧とはいえない状況のようです。ただ、それに向けて大きな一歩を進めたのは明らかなようです。

「習近平思想」の書籍は日本語版も出ているが、党規約にその言葉は掲載されていない

以前このブロクでも述べたように、党規約の中の習近平の思想が「習近平思想」と書かれるようになれば、そうして習近平が現役のうちにそうなれば、習近平の独裁体制が成立したとみなせるでしょうが、まだそうはなっていません。

習近平の独裁体制が確立できるかどうか、それまでにはまだ一波乱ありそうです。また、習近平が権力を握るにしても、握れないにしても、中国経済は以前このブログでも述べたように、国際金融のトリレンマと、米国による半導体の〝対中禁輸〟という2つの構造要因でこれから、従来のように伸びることありません。それどころか、かなり落ち込むことになります。

中国経済が誰の目からみても、かなり落ち込み続けることが明らかになる前までに、習近平が独裁体制を整えなければ、それは不可能になるでしょう。期限は来年中でしょう。

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2022年10月21日金曜日

トラス英首相が辞任を表明―【私の論評】今回の首相辞任は実は経済政策はあまり関係なし、純粋に政治的な動き、日本でもあるかも(゚д゚)!

トラス英首相が辞任を表明

つい一日前辞任を否定していたトラス首相

英国のトラス首相は20日、与党保守党の党首を辞任すると表明した。党首選を行い、後任を決めた後、首相を辞任する。金融市場の混乱を招いた大型減税策を撤回したものの、党内からは辞任圧力が高まっていた。トラス氏はジョンソン前首相の後任として9月6日に就任したばかりだった。

【私の論評】今回の首相辞任は実は経済政策はあまり関係なし、純粋に政治的な動き、日本でもあるかも(゚д゚)!

経済失策をめぐり批判の集中砲火を浴びるイギリスのトラス首相は10月17日夜、政策上の「過ち」を認めて謝罪する一方、首相として引き続き職務を果たすと宣言しました。

市場の混乱を招いたとされる政府の大型減税案は、首相が責任を取らせ更迭したクワーテング前財務大臣の後任であるハント財務大臣によって、ほぼすべて撤回されました。

ハント財務大臣

トラス政権が発足から約1ヵ月ですが、窮地に陥り、崩壊してしまいました。

その裏で再登板を狙うジョンソン前首相が動いていたようです。

ジョンソン氏自身は、辞めるつもりはないのに辞めました。そのときから、次の首相が「仮の首相」になるように動いていた形跡もあります。

それに嵌められて、トラス首相は経済通というわけではないので急に富裕層優遇の税制を実施したというような陰謀論までは言いませんが、「あり得るな」という感じはします。

ジョンソン前首相は、少なくとも経済の話は嫌いではありません。人脈も非常に広いので、「こうしたらこのようなことになる」と読んでいた節もなくはないです。保守党のなかでも首相擁護論はほとんど出ていません。

トラスさんに人望がないからだと言われたら、その通りなのかも知れませんが、保守党内の底を流れるものとして、ジョンソン氏の議論ががあります。その根回しは間違いなく実施されていたと考えられます。


それがアングロサクソン流のやり方です。トラス氏は、もともとジョンソン政権を最後まで支えた人という、その忠臣ぶりがありましたが、ジョンソン氏は、そのようなことは全然気にしていないようです。

それがアングロサクソン流といえるかもしれません。だからこそ、英国にはチャーチルのような人物は出てきたともいえます。あれだけ嫌われていても、戦争の危機になれば急に首相として登場し、終戦直前にになって用済みになったら首相選で落選しました。

これが英国なのです。だから生き延びてきたのです。

イギリスの現状をみて「日本も減税などしたらインフレになってしまうのだ」という意見も多く見られます。

特に、財務省はそう言いたいでしょう。おそらく、財政制度等審議会でその話をするでしょう。英国経済で言うと、EUから離脱してしまったあとに、安い労働力が入らなくなってしまったため、供給力が落ち気味になってしまったことも事実です。さらに、ウクライナ戦争で、エネルギー・資源価格が高騰しています。だから、元々インフレになりやすい状況になったのです。そこに今回のようなことがあったので、インフレになってしまったことは間違いありません。

ただ、積極財政をするにしても、減税や様々な支援策によって、エネルギー・資源価格の高騰を和らげるという政策は、決して悪い政策とはいえません。いかにも保守らしい政策ともいえます。にも関わらず、今回の辞任劇になってしまったのは、やはり政治的動きが強かったとみるべきです。

そのため、私はこれからエネルギー・資源価格がさらに高騰すれば、英国はトラス首相と同じような政策をとらざるをえなくなる可能性も十分あると思います。

そうして、インフレになってしまえば、金利高、債券安、株安になるのは当たり前です。これを日本のマスコミ等はトリプル安などと騒ぎたてていますが、実はさほどのことではありません。

現在の英国の通貨安は米国との関係があります。米国が強烈に金融引き締めをしているので、英国も日本と同じように通貨安になったのです。そうして、この通貨安は日本にとっては良いことですが、英国にとっても悪いことではありません。通貨安は近隣国窮乏化ともいわれるように、経済を伸ばすことが知られています。そのため、インフレの英国にとっては、通貨安で救われている部分はあります。

この通貨安によって、トラス首相の経済対策は、功を奏したかもしれない可能性はあります。

この通貨安でも、トラス首相は、いろいろ仕掛けられた面もあると思います。日本のように通貨安を悪い事のように吹聴することもできます。今回の辞任劇は、政治的な要素が大きいと思います。

現状では、英国は確かに金利高、債券安、株安とはなっていますが、英国の破綻確率は変わっていません。

そういう意味では、マーケットもこのような売り仕掛けが政治的であることはわかっているので、提灯がたくさんくっついて、トラス卸しが実行されたのでしょう。財政懸念がどうのというほど、実はデータ的にはそうなっていません。

破綻確率を示すクレジット・デフォルト・スワップは、少し高くなりましたが、さほどではなく、何か動きがあれば変化する程度です。それに、すぐ戻りました。破綻するという話がまことしやかに出ているわけではないのですが、マーケットへの噂などでやられたのではないでしょうか。

中長期的には、エリザベス女王2世という社会の重石を失って、かつてスキャンダルがあった国王になり、政治にもおかしな動きがありました。

スコットランドはEUに戻りたいので、分離論がまた出てきます。もし英国が分裂したら、世界の破綻要因です。

ただ、トラス氏が日本のマスコミが語るポピュリスト的経済政策で、英国経済を極度に落としたとか、落とすだろうという見方は正しいとはいえないです。高橋洋一もこの点について、少し前の動画で語っています。その動画を以下に掲載します。


経済政策がどうのこうのということよりも、政治的な動きがトラス氏を追い込んだというのが正しい見方でしょう。それにジョンソン氏だけが、政治的な動きをしたわけではないことも事実でしょう。おそらく、複数の筋が動いていたことでしょう。

今後、英国経済が極端に落ち込むこともなく、政局だけが動いているという形になるでしょう。そうして、トラス辞任劇の裏側も新首相が決まってから、しばらくすれば表に出てくることでしょう。

トラス首相は日本にとっても良い首相になるはずでしたが、今後首相が変わったにしても、日英の関係はこれからも強化されていくことでしょう。

日英はユーラシア大陸の両端に位置しているシーパワーであり、その安全のためにユーラシアのランドパワーを牽制(けんせい)する宿命を負っています。

ユーラシア大陸の両端に位置する海洋国家、英国と日本

日本は中国の海洋進出を警戒していますし、英国はロシアの覇権を抑え込んできました。英国はロシア、日本は中国と別々の脅威に対峙(たいじ)しているようにも見えますが、日本と英国は、ユーラシアというひとかたまりのランドパワーを相手にしているのであって、本質的には同じ脅威に対峙しているのです。

その両国が、TPPとクアッド+英国で、協力しあうのは、まさに理にかなっているといえます。さらには、ファイブアイスとの関係を強化していくこともそうだと思います。

今回のトラス首相の辞任劇は、純粋に英国内の政治的な動きであり、それが日英関係に悪影響を及ぼすことはないとみられます。

そうして、日本でももう少しすると、同じような動きがあるかもしれません。

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2022年10月20日木曜日

岸田政権に「防衛増税」の懸念 有識者会議も「国民負担」の議論、財務省の息のかかった人多く意見は増税一色 民主党の〝愚策〟が再現されるのか―【私の論評】異様なカルト集団 「財務真理教」に与する岸田政権は短期で終わらせるべき(゚д゚)!

日本の解き方

 防衛費の増額をめぐり、財源論や、海上保安庁の予算を含めて計上するといった議論が出ている。「国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議」の第1回会合の議事要旨が公表されたが、防衛力の強化を適切かつスピード感をもって進めることができるのか。

 16日放送されたフジテレビ系「日曜報道 THE PRIME」で、「日本はどれほどの反撃能力を持つべきか」との問いに対し、「強力な反撃能力が必要」が87%、「必要最小限でいい」が10%、「保持すべきでない」が3%だった。視聴者投票なので一定のバイアスはあるが、大きな差がついた。


 同日放送のNHK「日曜討論」では、「反撃能力」保有の是非をめぐり各党が激論した。自民党と日本維新の会は、持つべきだという立ち位置が明確だった。立憲民主党、国民民主党、公明党は、総じてやや専守防衛という範囲内で行うべきだとしており、共産党とれいわ新選組は否定的だった。

 こうした世論を反映し、有識者会議の議論も、防衛力を高めるという点で意見は一致しているようだ。ただし、有識者会議のメンバーをみて、財務省の息のかかった人が多いと思ったが、案の定だった。防衛力について「NATO(北大西洋条約機構)基準を参考」など、国内総生産(GDP)比2%目標との関係で、数字のかさ上げにつながるNATO基準が当然のように扱われていた。

 NATO基準は、海上保安庁予算や軍事関連の研究開発予算を防衛省予算と合わせて防衛費とするものだ。ただし、厳密なNATO基準では、海保に相当する湾岸警備隊が軍隊の組織下で活動できることが必要だが、日本では海保は国土交通省の機関であり、そうなっていない。

 NATO基準というなら、海保を自衛隊傘下の組織とする法改正が必要だ。そうでなければ、NATO基準なら国防関連費から外れるというべきだ。

 さらに財源となると、有識者会議は一致して増税志向で、財務省のまさに思うつぼだ。「現在の世代の負担が必要」「財源を安易に国債に頼るのではなく、国民全体で負担する」「自分の国は自分で守るのだから、国民負担」「恒久的な財源」などと、有識者の意見は増税一色だった。

 そのロジックは、国防だから国民負担というもので、11年前の東日本大震災後の「復興増税」をほうふつさせる。あの当時、復興増税が財務省主導で行われたが、震災時の増税は古今東西前例のない愚策だった。

 防衛の便益は将来世代にも及ぶので、国債も選択肢としてあり得るのに、財務省は増税ありきだ。

 NATO基準で海保予算を合算したいなら、海保の船の財源は国債であるので、増税だけをいうのは、財務省のご都合主義と言わざるを得ない。復興増税と同じで「特別会計」や「つなぎ国債」と言い出したら要注意だ。

 今は外国為替資金特別会計(外為特会)などで埋蔵金もある。当面は埋蔵金でしのぎ、その後、成長軌道に乗せ対応するという戦略もあるが、財務省は増税一本やりだ。

 復興増税は財務省の言いなりだった民主党政権で行われたが、防衛増税はどうなるのか。岸田文雄政権も民主党政権と同じなのではないか。 (元内閣参事官・嘉悦大教授 高橋洋一)

【私の論評】異様なカルト集団 「財務真理教」に与する岸田政権は短期で終わらせるべき(゚д゚)!

政府が6月31日に公表した経済財政運営の基本指針「骨太の方針」の原案には、子育て支援、防衛力強化、脱炭素投資など長期的な歳出拡大につながる項目が並んでいました。一方で、政策継続に不可欠な安定財源の確保については軒並み議論を先送り。岸田文雄首相も参院選を控え、国民や企業の負担増に口をつぐんていました。

口をつぐむ岸田総理

財源のあいまいさは成長戦略にも及んでいました。脱炭素社会の実現に向け、原案は10年間に官民で150兆円超の投資を実現するとし、そのための政府資金を「将来の財源の裏付けを持った『GX経済移行債』により先行して調達する」としました。

「GX経済移行債(仮称)」としては、将来の償還財源を明確にして発行する「つなぎ国債」としての発行が議論されているとされ、そうであれば、政府債務残高を中長期的に一段と悪化させることは回避できますが、これは財源確保の手段を事実上先送りするものであり、償還財源が十分に確保できずに将来にわたって国民の負担となり、実質増税となってしまいます。

首相は必要な政府資金の額を20兆円規模と表明していました。ただ、GX移行債の償還財源などの詳細は夏以降に首相官邸に設置する「GX実行会議」で議論するとしており、参院選後に先送りされた形でした。

この頃から、増税を懸念する人たちも多かったのですが、この頃には安倍元総理もご存命で、岸田総理に対して睨みをきかしていたので、まだ安心感がありました。

安倍元総理が亡くなられてから、しばらくたってから状況は変わりました。まるでタガが外れたように岸田政権内で、増税論議がなされています。

自民党税制調査会は11日に「インナー」と呼ばれる幹部の非公式会合を開き、2023年度税制改正に向けた議論を始めました。会長は岸田派の宮沢洋一氏が続投することに決定しました。

宮沢洋一会長は17日、共同通信などのインタビューに応じ、年末の検討課題となる防衛費増額の財源について、歳出削減で賄えない場合は増税が選択肢になるとの認識を示しました。税目は「所得税、法人税を含め白紙で検討する」と述べました。2023年度税制改正で、株式投資などを対象とする金融所得課税の強化を議論する意向も表明しました。

自民党税制調査会宮沢洋一会長

防衛費については今後5年で国内総生産(GDP)比2%以上に倍増させる議論があり、単純計算で11兆円に迫る予算が必要になる。政府内では赤字国債の発行で当面つないで、法人税やたばこ税を念頭に将来的な増税で財源を確保する案が浮上しています。

赤字国債の発行で当面つなぐとは、つなぎ国債のことを意味すると思われるのですが、つなぎ国債は3年の償還が必須で、実質増税と同じです。これとともに、「防衛費を上げるために消費税を12%にする」などという観測も出てきているようです。

増税で防衛費を賄うということなれば、日本経済はまた低迷して、防衛費が増大したにしても、日本の国力は落ち、いざ有事というときに戦費を賄うこともできず、まさに本末転倒と言わざるを得ないような状況に追い込まれるのは間違いありません。

宮沢洋一氏は、自民党税制調査会に再選されたためか、意気揚々と意気軒昂に、増税・緊縮の権化が前面に出てきました。この見解は防衛増税への布石ということでしょう。社会保障を人質に増税を迫るという姑息な手法ですが、宮沢氏は、単にお金のプール論、金本位制脳に囚われているだけです。上の記事で高橋洋一氏が語っているように、社会保障を現状維持したまま防衛費増は可能です。

安倍・菅政権のときには、安倍政権のときには2回の消費税増税をしましたが、その他の増税は抑制気味でした。三党合意のためさすがの安倍総理も防げなかった、消費税2回の増税に成功で満足すれば良いものを、とにかく増税で各省庁や外郭団体、民間企業への差配の強化で財務省の権力を増大すること、こそが、省益と考える財務省の増税や緊縮への欲望は未だ旺盛です。

その彼らの目的は、財務省を引退後天下り先で、超ウルトラリッチな生活を満喫することだけです。官僚としての矜持も何もありません。日本経済が良くなろうが、悪くなろうが、国民のことなど全く関心がありません。


以上の表で、複数の企業に天下りしていますが、これは天下りした後に別の会社に移っていることを示しています。他社に移るときには、無論高額な退職金も得ることができます。

岸田政権下で実施済みと、これから実施される可能性のある緊縮財政を以下に列挙します。
75歳以上医療費1割→2割
たばこ税増税
雇用保険料0.2%→0.6%引き上げ
防衛増税
炭素税導入
高額医療負担政府はゼロへ
長期脱炭素電源オークション、費用は国民
東西の電源融通増強、一部国民負担という方向
相続税、贈与税の見直し、中間層からの徴収強化
金融所得課税
実質増税と同じ「つなぎ国債」

本当に驚くばかりです。現在のような状況なら、普通なら減税、積極財政をするのが当たり前です。しかし、財務省に逆らえないとみられる、岸田政権はこれだけの増税・緊縮を一部は実行し、さらに俎上に載せているのです。

これを全部実施されてしまうと、日本はまた確実に「失われた30年」に突入することになります。岸田政権が長期政権になれば、これらを全部実現する可能性は十分にあります。

この状況について、高橋洋一氏は動画で以下のように述べています。


この動画簡単にまとめると、防衛増税には党内の保守派が難色をみせるのは当然であり、いずれ自民党内の政局になる可能性がでてきたということです。

このブログでも、何度か岸田政権が財務省との関係性と、派閥の力学だけで動けば、短期政権で終わると主張してきましたが、岸田政権はまさにその通りの動きをしています。

一連の増税・緊縮財政の動きは、まさに財務省との関係性で動いていることを示しています。

内閣改造では、正式の公表の前にほとんどの人事が漏れており、これは昭和時代によくあったことで、人事のほとんどが派閥との話し合いの中で行われたことを示しています。これは、まさら、派閥の力学で動いているということです。

さらに、悪いことに内閣改造は露骨に安倍派外しをしたということがわかる内容であり、これは、派閥第4位の弱小派閥がこれを行ったということで、安倍派以外の主流派派閥からも反発をかったのは間違いありません。

これでは、党内政局で、岸田政権は長期政権にはなりえないことがはっきりしたものと思います。

特に、防衛増税では自民党内の保守派は無論のこと、それ以外の保守派からかなりの反発を買ったのは間違いないです。

野田政権による消費税増税の動きに賛成の意思を示して、保守派内でも物議を醸していた、あの櫻井よしこさんですら、防衛増税にははやばやと反対の意見を公表しています。保守派にとっては、防衛増税は寝耳に水であり、とうてい受け入れられないです。

財務省で出世するにはできるだけ、多くの緊縮・増税をするかが決め手になります。これこそ、「財務真理教」です。彼らは国益よりも省益、自分の出世と天下りが大事なのです。財務省入省後に厳しい洗脳が始まります。円安で政府が儲かった分を防衛費に廻すなどのことはせずに、防衛増税をしてその結果日本が再び失われた30年に見舞わて、国民が苦しもうが、全く頓着しないのですから、異様なカルト集団といわざるをえないです。

岸田政権は、長期政権にしてしまえば、自民党はもとより、日本国そのものを毀損することが明白になりました。日本国、日本国民のために短期で終わらせるべきです。

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2022年10月19日水曜日

北朝鮮が法令で定めた核兵器使用で高まる戦争の可能性―【私の論評】実は北も多いに脅威に感じている中国に対処することこそ、日米韓が協力していくべき理由(゚д゚)!

北朝鮮が法令で定めた核兵器使用で高まる戦争の可能性

岡崎研究所

 9月22日付の英Economist 誌が「金正恩が彼の核兵器への権限を委譲することを考えている。この政策は抑止力を強化するが、事故のリスクを高める」と論じている。

 尹錫悦韓国現大統領は、繰り返し自国の「kill chain」計画(攻撃が差し迫ったと考えられたら、北朝鮮のミサイル施設とその指導部を先制打撃するシステム)について言及した。

 金正恩は9月8日の演説で「核兵器が地上にある限り、かつ帝国主義が残る限り、決して核を手放さない」と述べた。彼は北朝鮮がいつ核を使うかを明らかにする法令を公布した。核兵器は指導部と核司令部が「危険に晒された」ときに、「自動的かつ即時に」発射されうることになった。

 この動きは北朝鮮の抑止力が相当成熟したことを示す。以前は金が核を使う唯一の権威であった。新法は金が核兵器に関する唯一の指揮を持つとするが、彼がその権限を委譲する可能性を開いている。法令は、金の命や彼の政権を支えている兵器へのいかなる攻撃も核戦争になり得るとした。

 核のボタンに指を置いている人は、兵器が常に必要な時に使えると同時に、適切な許可なしには決して使われないことを欲するが、核についての権限移譲は、無許可使用と事故による使用のリスクを高めることになる。

 金王朝は70年間続き、軍がクーデターをできないようにしてきた。部下に核コードを引き渡すと、彼らに金正恩を不安にする力を与えることになりかねない。核攻撃を始める権限を前もって与えることは技術的、人間的エラーの可能性を増やす。間違った攻撃探知システムからの情報に基づいて司令官が攻撃を命じることはありうる。

 このようなリスクは韓国と米国に注意深く行動する動機を与えるかもしれない。金が新兵器を開発するのを止めるものはほとんどない。金政権には脅しや制裁は効かない。

 尹大統領の非核化への「実質的進展」と引き換えに北朝鮮経済への協力をするとの提案は全くの軽蔑で迎えられた。金の妹は尹を「ナイーブな子供」と呼んだ。

 核の脅威は金政権の存続を助けている。しかし彼の許可なしに核兵器が発射されれば、彼は究極的な敗者になろう。米国と韓国は核使用は彼の政権の破滅になると明言してきた。

* * * * * *

 北朝鮮の最高人民会議は9月8日、核兵器の使用の原則や条件を盛り込んだ法令を採択した。この法令は11項目からなる。

 金正恩国務委員長が核兵器に関するすべての決定権を持つとしつつ、「指揮統制システムが敵の攻撃の危機に瀕した場合、自動的かつ即時に敵への核攻撃を断行する」としている。具体的には「核兵器や大量殺りく兵器による攻撃のほか、国家指導部と核兵器の指揮機関、国の重要戦略対象に対する攻撃が、行われたり差し迫ったりしたと判断した場合、核兵器を先制攻撃に利用する」としている。

 この法令が金正恩から部下に核兵器に関する権限を委譲するものかどうかは明確ではないが、「自動的かつ即時に敵への核攻撃を断行する」ためには、このエコノミスト誌の解説記事が指摘するように核兵器に関する権限の委譲が必要なように思われる。そしてそれは人間的、技術的エラーによる核戦争の開始の可能性も高めるだろう。

日本を取り巻く国際戦略環境は悪化するばかり

 金正恩は「核兵器政策の法制化により、(北朝鮮の)核保有国としての地位が不可逆的になった」と演説で述べた。松野博一官房長官は「北朝鮮の完全な非核化に向け、日米や日米韓で緊密に連携していく」と述べたが、完全な非核化は当面達成できない目標であると思われる。願望の表明は政策にはならないことを踏まえ、対北朝鮮政策を今一度日米韓3カ国でレビューする必要があるのではないか。

 特に北朝鮮の首脳を標的にする「kill chain」計画を声高に話すことにはあまりメリットがないと思われる。核兵器の使用については、米国は permissive action link というものを開発してきた。これは要するに大統領が特定の暗号を特定の器具に入力しないと米国の核兵器は起爆しないというものである。

 北朝鮮も類似の技術を開発し、持っていると思うが、その詳細は分からない。今度の法令についても、慎重に対応すべきであり、より詳細かつ正確な情報を日本として確保、分析し、対処の方針、政策を立てる必要がある。

 最近、特に本年(2022年)の北朝鮮のミサイル発射の頻度と、その性能向上の現実に鑑みると、核保有国としての北朝鮮の動向は、相当危険な方向にあり、日本を取り巻く国際戦略環境は、悪化するばかりであり、改善していない。日本政府の対北朝鮮政策の方針は、「核、ミサイル、拉致」問題の包括的解決であるが、北朝鮮からのミサイル発射の状況を見るだけでも、包括的解決が遠のいているように感じられる。

 日本政府が凍結させたイージス・アショアの代替案を、日本政府から米国に提案することも含め、日本自ら日米同盟を強化し、独自の防衛を強化する具体策を実行して行かなければ、現在の国際戦略状況が改善することは難しいだろう。

【私の論評】実は北も多いに脅威に感じている中国に対処することこそ、日米韓が協力していくべき理由(゚д゚)!

北朝鮮のミサイル発射をマスコミなどは挑発と言っていますが、北は安全保障のために核ミサイルの戦力化を図っていると見るのが正しいです。日米韓が北の核廃絶に努力したとしてもそれは不可能です。北の核武装を前提に我が国も安全保障を考えるべきです。北の核廃絶が出来るとは米も考えておらず、さらにはそれが良いこととも思っていないでしょう。

このブログでは、何度か掲載してきたように、朝鮮半島に北朝鮮とその核があるということ自体が、中国の朝鮮半島への浸透を防いでいる面があることは否めません。

金正恩は、明らかに中国を嫌っています。それは、中国に近いとされる血を分けた金正男を 2017年に暗殺、これまた中国に近いとされた叔父の張成沢(チャン・ソンテク)元国防副委員長を2013年に処刑しています。

金正恩が中国を嫌うのは、北朝鮮の実体は、金王朝であり、金正恩の使命は、金王朝を守り抜くことであり、中国に浸透されれば、王朝の存続が危うくなるからです。

金正恩は、中国の朝鮮半島への浸透を防ぐためにも、核ミサイルの戦力化を図っているのです。

それは、米国も理解していることでしょう。米国にとっては、朝鮮戦争の休戦ラインの現状維持をすることが、朝鮮半島情勢においては最も重要なことです。これは、中国もロシアも変わらないです。

中国にとっては、北が核を放棄することは、好ましいことであり、そうなればすぐに北に浸透し、韓国にも浸透を開始し、ある程度の年月をかけても、いずれ朝鮮半島全体を中国の朝鮮人民による自治区にするか、完全に中国に取り込み朝鮮省にする腹でしょう。

下に、中国外務省から流出したとされる極東の地図をあげておきます。この地図、どうやら偽物のようですが、それにしても、日本を中国領にすることは、米軍も駐留しておりかなり難しいと考えられますが、朝鮮半島が中国の領土となることはあり得ると思います。

無論、それに対して米国はこれに徹底的に抵抗するでしょうが、朝鮮半島全体が中国に浸透されるということは多いにあり得ると思います。北朝鮮はこれを脅威と捉えていることは間違いないでしょう。

であれば、米国にとっても、ロシアにとっても、現状維持のためにも、北に核ミサイルがあることを許容せざるをえないというのが、基本的な立ち位置でしょう。ただ、北がさらに核ミサイルの開発をすすめて、米国やロシアの脅威になることは避けたいでしょう。

最近では、ロシアはウクライナ侵略で、朝鮮半島どころではないというのが正直なところでしょう。米国としても、ウクライナの対応にかなりの労力を割かざるを得ません。そのため北朝鮮は、特に中国の脅威に対して対抗しなければならなかったと考えられます。

北としては、こうしたこともあり、朝鮮半島での軍事バランスが崩れることを恐れて、米中に向けても、一連のミサイル発射実験をしたという側面は否めないと思います。中国に対しては、現在の情勢を利用して、朝鮮半島に浸透することを牽制するためと、米国に対して、半島から目を離さないようにさせるという意味合いもあったでしょう。

北朝鮮にとって日本の位置は丁度ミサイルの実験場のようなものです。本当にグアム方面に撃って米国を激怒させれば、自国が崩壊するので、東にしか撃てないです。日本では、報道されないだけで、北朝鮮はロシアなどに向けておびただしい数のミサイルを撃っています。東方向への発射はかわいいくらいの数です。ただ、中国に対しても黄海などに控えめにときたま打っています。

何しろ、北朝鮮は中国と国境を接しています。ロシアとも国境を接していますが、国境線は長くありませんし、中国にはすぐ近くに、大部隊が存在します。これになだれ込まれれば、北にはなすすべもありません。

台湾も中国の脅威にさらされているといいながら、台湾は島嶼国であり海に囲まれていまます。北にとって中国の脅威は、台湾などよりもより切実で、切羽詰まっているところがあります。

国境を接していることから、中国の陸上部隊は、すぐに北に侵攻できます。ウクライナに国境を接しているロシアのようです。だからこそ、北としては現在核ミサイルを打って、中国に対する牽制を行う必要があったとみられます。日本では、こうした視点はほとんど語られません。米国でも語っていたのは、ルトワック氏くらいなものです。

そうして、北の安全保証の仕上げが、北朝鮮がいつ核を使うかを明らかにする法令を公布したことと、これから実行されるとみられる核実験であると見られます。これにより、金正恩はたとえ自分が暗殺されても、報復する構えであることを表明したともいえます。

それまでもそうだったのですが、ウクライナ戦争後、北朝鮮は完全に孤立している状態です。戦力的には、ミサイル以外の通常兵器は、第2次世界大戦末期のものですから、米中と戦えば5日で完敗するでしょう。

それをわかっているので、日米韓中露の演習に大反発するのです。米国のミサイルを備えた『B-2』戦略爆撃機が北朝鮮の付近を飛ぶだけでもかなり脅威を感じているはずです。この爆撃機に搭載されているミサイルは、北朝鮮のどこにでも届くからです。空母打撃群による演習もにもかなり神経を尖らせていることでしょう。

それは、中国の演習なども同じことです。台湾向けの演習であっても、すぐ近くの北朝鮮は気がきでないというのが実状でしょう。

米国の研究グループ「38ノース」は、9月下旬に北朝鮮北東部の核実験上で、クレーンを搭載したとみられるトラックの近くで高さ約11m、幅約1mの白い物体を確認したとして、7回目の核実験の準備を進めている可能性を指摘しています。 

北朝鮮は、次に小型化に関する実験をするだろうという見方は、6回目が終わった時点で強く指摘されていました。今年に入っての多様なミサイル、それらに小型化された核弾頭を積める可能性というものを示すための実験になるでしょう。

小型化に成功すれば、“火星12の性能と合わさった時にどうなるかわかるだろう”ということを振りかざしてくる可能性があるので、非常に注目していかなければならないです。

一方、核を保有しているのは北朝鮮だけではありません。日本政府は「北朝鮮のミサイル防衛」と言いますが、いい加減、ごまかすのはやめたほうがい良いでしょう。


中国軍は北朝鮮軍の数倍数十倍の対日攻撃用弾道ミサイルや長距離巡航ミサイルを取りそろえ、日本全土を焦土と化す態勢を整えているのです。

本当の脅威は中国の核ミサイルです。そこがすっぽり抜けて「北朝鮮は~」と言っているのは滑稽としか言いようがありません。米国は、北朝鮮も最大の脅威を感じている中国を見ているからこそ、日米同盟、米韓同盟の強化、日米韓も含めての安全保障協力を進めています。

北朝鮮のミサイル発射実験を注視していく必要はありますが、北も脅威を感じる中国に対する対処こそ日米韓が協力していくべき理由であることを忘れるべきではありません。

そうして、日本が中国の脅威に対抗するためには、もはや抑止力の強化しなかないことを認識すべきです。

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2022年10月18日火曜日

姑息な〝GDP隠し〟習政権が異例の3期目 経済の足引っ張る「ゼロコロナ」自画自賛も 威信を傷つけかねない「粉飾できないほど落ち込んだ数値に」石平氏―【私の論評】習近平が何をしようが中国経済は、2つの構造的要因で発展しなくなる(゚д゚)!

姑息な〝GDP隠し〟習政権が異例の3期目 経済の足引っ張る「ゼロコロナ」自画自賛も 威信を傷つけかねない「粉飾できないほど落ち込んだ数値に」石平氏

中国共産党大会の活動報告で実績を強調した習氏=16日、北京の人民大会堂

 習近平国家主席率いる中国の経済に異変が起きているのか。18日に予定していた7~9月期の国内総生産(GDP)や、それに伴う工業生産や消費など経済指標の発表が延期となったのだ。習氏は、開会中の第20回共産党大会で「異例の3期目」を確実にし、貧困脱却を果たしたなどと自画自賛したが、「ゼロコロナ」政策の長期化は、中国経済の停滞を招いているとの見方は強い。実際、4~6月期のGDPは急減速した。「覇権拡大」や「人権弾圧」を理由とした欧米諸国の制裁も続いている。識者からは、習氏の権威を傷つけないよう、党大会中の発表を避けたとの見方が出ている。

 中国で、異例の出来事が頻発している。

 国家統計局は17日、翌日に予定していた「7~9月期のGDP」の発表を延期すると発表した。新たな日程も示さなかった。2017年の前回の党大会の際には、統計局は開幕翌日にGDPを発表していた。

 GDP発表に伴う、「工業生産や消費などの経済指標」や、19日に発表予定だった「主要70都市の新築住宅価格指数」も延期となる。国の主要統計の公表が、突如延期となるとは尋常ではない。

 それだけではない。中国税関総署も14日に予定していた「9月の貿易統計」の公表を事前通知もなく見送っている。

 GDP公表延期について、「統計局の仕事上の都合」と説明されているが、相次ぐ異常事態の背景として、党大会の最中に、習政権の威信を傷つけかねない数値の公表を見送った可能性がありそうだ。

 実際、習政権が推進してきた、新型コロナウイルスを徹底的に封じ込める「ゼロコロナ」政策は、中国経済の停滞を招いている。

 国家統計局が7月に発表した「4~6月期のGDP」は前年同期比0・4%増と急減速した。上海市のロックダウン(都市封鎖)など、強権的な感染対策が景気悪化を引き起こしたとみられる。

 現に、4~6月期、中国の工業生産は3・4%増で、1~3月(6・5%増)から鈍化した。投資動向を示す固定資産投資は6・1%増で、上昇率は1~3月(9・3%増)から縮小。規制強化の影響が残る不動産開発投資は5・4%減だった。

 習政権が強力に推し進める「ゼロコロナ」政策に対しては、国民の不満が形となって現れている。北京市内の高架橋に今月13日、習政権を批判する横断幕が掲げられ、「PCR検査は不要、食事が必要」というメッセージが記されていた。

 ところが、習氏は16日の中央委員会活動報告(政治報告)で、総書記就任後の2期10年で貧困脱却などを果たしたとして、「中華民族発展史に輝く歴史的勝利」を収めたとアピールした。批判を集める「ゼロコロナ政策」についても、「感染症対策と経済、社会発展の両立において重要で前向きな成果を収めた」と主張した。

 こうした状況での経済統計公表の見送りを、識者はどう見るのか。

 中国事情に詳しい評論家の石平氏は「経済状況がかなり悪くなっているのだろう。そこそこ悪い程度なら、延期せずに成長率を1、2%上乗せして発表したはずだ。粉飾できないほどの数字になっているのではないか。中国経済が落ち込んだ直接の理由は『ゼロコロナ』政策で、誰から見ても経済の足を引っ張っている。習氏が党大会で自画自賛したから、発表したら習氏の顔に泥を塗ることになる。GDP発表の延期は政治的な意味合いが大きい」と話す。

 ゼロコロナ対策に加え、不動産バブル崩壊の影響を指摘する声もある。

 評論家の宮崎正弘氏は「7~9月期のGDPは、各工業生産地がロックダウンした時期で、一番深刻な数字が出るとみられている。さらに、不動産不況に地方での銀行取り付け騒ぎもあって、中国経済は何もいいことはない。それにもかかわらず、まだ『ゼロコロナ』政策をやっている。悪循環が続いており、経済状況が相当深刻ということが発表を遅らせた主な原因だろう。党大会が終わって、新人事を華々しく発表する陰で、こっそりとGDPを発表するのではないか」と指摘した。

【私の論評】習近平が何をしようが中国経済は、2つの構造的要因で発展しなくなる(゚д゚)!

中国の経済の停滞の原因は、ゼロコロナ、不動産バブルだけではありません。これだけであれば、この2つの不況原因を取り除けは、中国経済は再び発展することになりますが、そうではないのです。

この他に2つの構造的な要因があります。一つは、国際金融のトリレンマによるものであり、もう一つは、ごく最近新たに付け加わった、ジョー・バイデン米政権が打ち出した、「半導体技術の対中国禁輸」です。
まずは、国際金融のトリレンマによる構造的要因です。この理論によれば、独立した国内金融政策、安定した為替相場(固定為替相場制)、 自由な資本移動、の三つは同時に実現できません。実際、日米を含め殆どの国は上記三 つのいずれかを放棄しています。

これに対して中国は、金利・為替・資本移動の自由化を極 めて漸進的に進める過程において、国内金融政策の自由度を優先しつつ、状況に応じ て為替と資本移動に関る規制の強弱を調整することで、海外の資本・技術を取り入れて 成長し、グローバルな通貨危機等の波及を阻止できました。 

しかし、資本移動を段階的に自由化した結果、最近では人民元相場と内外金利差の相 互影響が強まっています。これにより、国内金融政策が制約を受けたり、資本移動の自由 化が一部後退するなど、三兎を追う政策運営は難しくなりつつあります。

中国は、グローバル経済に組み込まれた今や世界第2位の経済大国であり、こうした 国は最終的に日米など主要国と同様の変動相場制に移行することで、国内金融政策の 高い自由度を保持しつつ、自由な資本移動を許容することが避けられません。

移 行が後手に回れば国際競争力が阻害されたり、国内バブルが膨らむ恐れがあります。一方で、 拙速に過ぎれば、大規模資本逃避や急激な人民元安が懸念されます。中国は今後一層難 しい舵取りを迫られることになります。

ただ、はっきりいえば、段階的にでも変動相場制にするか、自由な資本移動を禁止して、すべての国際金融の流れを政府が一元的に管理するかいずれかを選択しなければならないです。

前者にすれば、中国による独立した金融政策、資本自由な移動はできます。

後者にすれば、自由な資本移動はできなくなるものの、固定相場制、独立した金融政策は実施できます。

後者にすれば、中国はほぼ国際金融から切り離されることになります。ほとんど資本移動がなかった一昔前の中国に戻るしかなくなります。ただ、これでは中国の経済発展は望めません。

中国がこれからも経済発展をするつもりなら、やはり日本をはじめとする先進国のほとんどがそうしているように、変動相場制に移行するしかないのです。すぐに移行するのが無理でも、少しずつそちらのほうに舵を切るしかないのです。

このようなことは、まともなエコノミスト等なら誰でも知っていることです。これを言わない識者は国際金融に関しては、似非識者とみて間違いないです。

さて、もう一つの構造的要因は、ジョー・バイデン米政権が打ち出した「半導体技術の対中国禁輸」です。バイデン米政権は7日、半導体製造装置の対中輸出規制の適用対象を大幅に拡大する一連の包括的な措置を発表しました。これには米国の半導体製造装置を使って世界各地で製造された特定の半導体チップを中国が入手できないようにする措置が含まれました。

このバイデンの公表は、明らかに中国の党大会の直前のタイミングで、意図して意識して出したものでしょう。これによってさらに、習近平政権を追い詰めることを意図しているものみられます。

この措置の中国に対する破壊的な悪影響については、以前このブログに述べました。その記事のリンクを以下に掲載します。
米が半導体で衝撃の〝対中禁輸〟バイデン大統領、技術仕様した第三国製も規制対象に 「中国の覇権拡大人権弾圧許さない意思表示」識者―【私の論評】最新型半導体を入手できない中国のスマホは、かつての日本のショルダーホンのようになるか(゚д゚)!

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、まずはこの記事の元記事から引用します。
 米商務省は7日、半導体や製造装置の新たな対中輸出規制強化策を発表した。最先端半導体を扱う中国企業の工場への製造装置販売を原則禁止し、スーパーコンピューターなどに使われる関連製品の輸出も制限した。

 米国は以前から、先端の半導体分野で中国包囲網を強化してきた。

 半導体の小ささや精密性は、「プロセス(製造工程)」という指標で優秀性が示される。米国はこれまで、「10ナノメートル」レベルのプロセスで半導体を製造する中国企業への装置輸出を原則禁じていた。新規制では、現行の主力世代である「14ナノメートル」未満のプロセスを用いる先端半導体を製造する中国企業まで装置輸出が原則禁じられる。

 一連の措置が正式適用されれば、中国の半導体製造業がストップするだけでなく、米国の半導体技術を使って中国で生産をしてきた世界各国の企業の事業継続が不可能となる。
以下にこの記事の【私の論評】から引用します。
今回の制裁は中国半導体産業の終焉であり、トランプ政権下の恫喝的ながらも、致命傷ではなかったようなやり方とは違う致命的なものです。

生き残る中国企業がいるとすれば最後まで制裁を受けなかった企業だけであり、最後まで制裁を受けた企業は死亡率100%です。

今回の制裁の是非について、中国の半導体製造に関与していた米国人やグリーンカードを保持者のほとんどは米国に戻るか移住して、11月8日の米中間選挙には、自分たちの足で投票所に出向き投票することになるでしょう。これが民主党にとって有利に働くかどうかは、未知数です。今後の推移を見極める必要があるでしょう。 

中国はもはや29nm以下の半導体製造能力を持たず、リソグラフィ(写真の現像技術を応用して作られた微細パターン作成技術のこと)に関する全ての技術を完全に失いました。
この記事では、今後中国が5G対応の新型スマホ等を開発するとすれば、一昔前の日本のショルダーホンのようなものに、iPadのモニタースクリーンのようなものなるのではないかと予想しました。過去の4Gは許容されるようですから、実際4Gまでの技術で5Gのスマホを製造した場合、半導体の集積度が全く異なりますから、実際にそのようなことになってしまいます。

5G技術の最も大きな特徴は、「超高速・超低遅延・多数同時接続」です。 「超高速」は、現在の第4世代の移動通信技術であるLTE(Long Term Evolution)との最も大きな違いです。 5Gは理論上、LTEより最大20倍速い20Gbpsのスピードを実現できるとされています。

今後実現するARやVRのようなコンテンツを楽しむには、より速い速度で膨大なデータを転送する必要があります。

「超低遅延」は、途切れのないサービスを意味します。 端末から基地局までの通信にかかる時間を大幅に短縮し、リアルタイムにより近づきます。 そのため、超低遅延の実現は安全な自動運転を可能にするための必須条件となります。

「多数同時接続」は、同時に接続できるデバイス数が多くなることを意味します。 5G時代には、1㎢以内で同時に接続できるモノのインターネットとスマートデバイスが4Gの10倍の100万程度まで増えると予想されています。 これは、ワイヤレス(Wireless)なスマートシティが可能になることを意味します。

となると4Gの技術で、5Gの技術を実現するとなると、素人考えでもとてつもないことになることは十分に予想できます。

ただこれは、あまり現実的ではないですから、中国においては、一般の人が使うスマホは既存の4Gタイプのようなものになると考えられます。

ただ、軍事的な目的で用いられるようなものは、4Gの技術で5Gを実現するために、ショルダーホンのようなものが用いられることになるかもしれません。

ただ、一般の人のコンピュータやスマホなどはそれで対処できるかもしれませんが、新しい5G 対応の半導体は手に入れられなくなるので、これから中国が新しい技術に対応するとすれば、かなり大きな半導体を開発して新たなものに入れ、古いタイプの取り替えには、外付けで巨大な箱の中に大きな半導体を入れたボックスなどで対応するということになるかもしれません。

ただ、そのようなことが本当に可能かどうかは、疑問ではあります。

中国は5Gに関する特許を多数取得しているともいわれますが、5G対応の半導体を入手できなけば、このようなことになってしまうのです。

イギリスでは、エリザベス朝の時代にすでにコンピュータ理論の基礎的な理論は出来上がっていたのですが、それを実現するための素材や技術がなかったので、コンピュータを実現することはありませんでした。コンピュータの実現は、1946年のENIACの登場等まで待たなければならなかったのです。

それと似たようなことが、今後の中国で起こるのです。それでも、中国は独自の半導体製造技術を開発するかもしれません。しかし、それには10年以上の年月を要することになるでしょう。

ただ、それを実現したとしても、半導体の開発速度はかなり速いですから、日本を始めとする先進国の技術は、さらに異なる次元(たとえば5Gから6G)に移っていることでしょう。

中国経済は以上2つの構造的な要因で、発展する見込みはなくなりました。そうして、これはあまりにもはっきりしていて、疑いの余地はありません。

私自身は、習近平は以上のことを糊塗すために、あえてゼロコロナ政策を推進しているのではないかとさえ思っています。

そもそも、現在中国のコロナ政策はダイナミック・ゼロ・コロナ政策とも呼ばれています。「ダイナミック・ゼロコロナ」政策の「ゼロ」は、国内の感染者を常にゼロに抑えるという意味ではなく、「ある特定の地域において感染が起きたら、小規模なうちに徹底的に抑える」ことを指します。そうしていれば、コロナによる「社会的な影響」はゼロにできるということです。

しかし、これは感染力の強いオミクロン株が出てきてからは、明らかに通用しない政策だと考えられます。


にも関わらず、実行するのはなぜかといえば、これまでの徹底的な対策・指導による「成功体験」が強いからとか、中国の医療体制が脆弱であるからともされていますが、ここまで固執するのには他にも原因があるとみて良さそうです。

上で述べてきたように、中国の経済の停滞は、構造的なものではなく、コロナや不動産バブルのせいであると見せかけ、この停滞は構造的なものであることを隠すためなのではないかという疑念は払拭できなくなってきました。

習近平としては、この経済の構造的な発展阻害要因を隠蔽する腹であると考えるのが妥当でしょう。だからこそ、経済統計も公表しないのでしょう。それによって、「異例の3期目」を実現するだけでなく、権力基盤を固めたいのでしょう。

権力基盤が固まるまでは、ゼロコロナ政策を維持し、経済停滞をそのせいにして、国民を懐柔する腹積もりなのではないでしょうか。

来年になって、ゼロコロナ政策が解除されれば、習近平の権力基盤は固まったとみるべきでしょう。そうでなければ、基盤が固まっていないとみるべきです。ただ、いつまでも、ゼロコロナ政策を維持することはできないでしょう。少なくとも来年の後半には、いずれにしても、この政策は放棄せざるを得なくなるでしょう。

ただ、中国共産党指導部はずっと前から習氏をナンバーワンの座に維持すると決めています。習氏とその一派は、彼を守ってすべての弱みや失敗を下級官吏のせいにするためになら、どんな理由や言い訳でも見つけることでしょう。

ただし、中国共産党が何を取り繕うと、習近平が何を言おうと、中国経済はこれから先に上げた2つの構造的要因で発展しなくなることは確かです。

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2022年10月17日月曜日

「テレビ朝日社長が辞任すべき事態だ」 玉川徹氏「虚偽・政治的意図」発言問題 「日本のジャーナリズムの危機」 自民・和田参院議員に聞く―【私の論評】コロナ禍を根拠もなしに煽った玉川と、それを許容したテレビ朝日社長はずっと以前に辞任すべきだった(゚д゚)!

「テレビ朝日社長が辞任すべき事態だ」 玉川徹氏「虚偽・政治的意図」発言問題 「日本のジャーナリズムの危機」 自民・和田参院議員に聞く

〝玉川発言〟の責任を問われるテレビ朝日

 テレビ朝日系の情報番組「羽鳥慎一モーニングショー」のコメンテーターを務める同社社員の玉川徹氏の「虚偽・政治的意図」発言問題が収まらない。出勤停止中の玉川氏は19日にも復帰予定だが、放送法第4条違反の疑いで、総務省やBPO(放送倫理・番組向上機構)に徹底調査を求める動きが出ている。テレビ放送やジャーナリズムに詳しい、元NHKアナウンサーで自民党の和田政宗参院議員に聞いた。

 「放送やジャーナリズムの信頼性や根幹を揺るがす事態だ。テレビ朝日は責任の重大性を認識していないのではないか」


 和田氏は冒頭、玉川氏の問題をこう語った。

 玉川氏は、安倍晋三元首相の「国葬(国葬儀)」翌日(9月28日)の放送で、菅義偉前首相の弔辞について、「僕は演出側の人間ですから、テレビのディレクターをやってきましたから、それはそういう風につくりますよ。当然ながら」「政治的意図がにおわないように制作者としては考えますよ。当然これ(広告大手の)電通入ってますからね」と語った。

 テレビ朝日は今月4日、「虚偽発言」の部分について「出勤停止10日間」の懲戒処分とした。

 和田氏は「丁寧に事実を取材して、裏付けを重ねて報じるのは報道のイロハのイだ。少し取材すれば電通が関わっていないことは確認できる。社員コメンテーターが番組で堂々とウソを拡散した。『事実をまげない』という放送法第4条違反に該当する。断片的な思い込みで発言したなら『ジャーナリスト失格』であり、自ら職を辞する責任がある」と断じる。

 「政治的意図」を持って番組制作をしてきた疑惑については、自民党内にも「令和の椿事件」と問題視する声がある。放送行政を所管する総務省にも多数の意見が寄せられている。

 和田氏は「その点(=『政治的意図』発言)の事実関係を知りたいが、テレビ朝日社長の4日の記者会見では、組織として明確な説明がなかった。社長は再発防止に取り組むとしているが、トップの社長が辞任すべき事態だ」と語る。

 日本のテレビ報道にも一因がありそうだ。

 和田氏は「米国の大手テレビ局で報道番組を仕切るキャスターは、特ダネや深層リポートなどで実績を認められた人物だ。専門家のコメンテーターと、厳格に役割分担して正確な報道に徹する。一方、日本では専門外のコメンテーターが取材もしないでコメントする。玉川問題は、日本のジャーナリズムの危機だ」と語っている。



【放送法第4条】

①公安及び善良な風俗を害しないこと

②政治的に公平であること

③報道は事実をまげないですること

④意見が対立する問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること

【私の論評】コロナ禍を根拠もなしに煽った玉川と、それを許容したテレビ朝日社長はずっと以前に辞任すべきだった(゚д゚)!

玉川徹

玉川徹が、事実に反する発言を行って訂正・謝罪したのはこれが初めてではありません。小さなことだと無数と言ってよいくらいありますし、謝罪もしなかったこともあります。

大きなところでは、やはりコロナ関連のコメントでしょう。2020年4月の放送では、新型コロナをめぐって「東京都は土日に検査を行っていない」と発言しましたが、後日の放送で「土日に関しても行政の検査機関は休んでいなかったというふうなことも、わかりました」と訂正しまし。

22年6月の放送では「帯状疱疹のワクチンが保険適用される」と発言し、「保険適用はされません。ただ自治体によって費用を助成するところもある」と訂正し、「補助」を「保険適用」と勘違いしていたことを謝罪したこともありました。

玉川はワイドショーのディレクター職などが長く、記者として報道の現場に携わった経験がないためか、以前から単なる憶測に基づく発言が目立っていたのは事実です。

疑問なのは、玉川徹氏の動機です。多少の理性があれば、自分の言説が多分に一面的なものであり、ミスリーディングなものであることには気が付くに違いないです。

要は八百長であり、確信犯です。

視聴率はイコール広告費・利益であり、その差は莫大です。確かに身内の論理で言えば、玉川氏はヒーローなのかもしれません。番組が終われば「今日もブチかまししましたね」とゴマをするスタッフとか、「おいおい飛ばし過ぎるなよ」とまんざらでもない顔でたしなめる風情の幹部社員から声がかかるのかもしれないです。

そんな中、こと玉川氏で言えばモチベーションは確かに利益、出世ではないかもしれず、単なる高揚感や持論をブチかます満足感ではあるのでしょう。

玉川徹ファンは、同調圧力や権力に屈せず論陣を張る体の氏を頼もしく感じたり、スカッとしたりして支持するのでしょう。

ただ玉川のあまりに一面的、短絡的な言説は、公共性の高い放送事業としては一線を超えていました。まして未曾有の国難で無用の混乱や損害を巻き起こしていました。

コロナウイルス流行以来、玉川徹は危機感を煽りに煽ってきました。ある種のテレビ的分かりやすさやカタルシスを演出してきたともいえます。

コロナ報道には、冷静さや科学的視点が重要なわけで、自分が比較的に安泰な立場だからといって、玉川に日本を混乱の巷に落とし込む権利などあるはずもありません。もっと衝撃を和らげる手段があったかもしれないのに、間違いなくこの番組や主要なワイドショーの煽りによって、多くの人は本来は諸外国に比較すれば、被害はかなり少なかったにも関わらず、かなり被害が大きと思い込まされた面は否めません。

菅政権におけるコロナワクチン接種の速度はすさまじく、日本はあっと言う間に他の先進国の接種率を上回ってしまいました。にもかかわらず、玉川などの煽りで、菅政権はコロナ対策に失敗したかのような印象操作で多くの人々を惑わしたといえます。

当時は、テレビ局を支えるスポンサー企業の事業にも深刻なダメージが及んでいる事態にも無頓着という、根本的な職業倫理に欠ける姿勢も理解に苦しむところがありました。

最後に、完璧に一線を超えていたと思われたのが、医薬品に対する軽薄なコメントをして憚らなかったことです。「こんな新薬が有望だ」とか「こんな良い薬があるんです」など、新聞やネットの記事に出ていたレベルの情報をあたかもすぐにも臨床使用できるかの勢いで語っていました。

さすがに医薬品に対して生かじりのスタンスが許されるわけはありません。万一誤った受け取られ方をすれば深刻な健康被害や後遺症につながりかねないです。

さすがに2020年8月9日の放送では、アビガンの解説に医療の専門家が登場し、田崎氏もサリドマイドの例を出して特効薬の開発が待たれながら、一方で慎重であるべき理由を述べていました(写真下)が、すでに何度もフライング発言が行われた事実を消し去るものではありませんでした。


人類的な災厄に際し、生かじりの浅はかさと自らはすべて棚にあげる特権意識で全知全能の神のごとく公共の電波で吠えまくり、あげく日本を混乱の極みに落とし込もうとなんだろうが知ったこっちゃないというのが玉川のスタンスでした。

私には、動機がなんであろうと許されざる所業とは、思えませんでした。そのような玉川が、今回のような発言をしたのは当然の帰結ともいえます。

コロナ禍を根拠もなしに煽った玉川と、それを許容したテレビ朝日社長は辞任すべきでした。そうすれば、今回のような事態も生じなかったでしょう。

ここまで、酷い煽りを許容し続けてきたテレビ朝日には問題がありすぎです。まさに、和田氏が語るように、「テレビ朝日社長が辞任すべき事態だ」ということができると思います。

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玉川徹氏が指摘 ワクチン接種の遅れは「厚労省が副反応の責任を取りたくなくて及び腰だったから」―【私の論評】現時点で国内でのコロナ禍を理由にオリンピック開催中止を声高に叫ぶ必要はない(゚д゚)!

特報 米国司法省 IR疑惑で500ドットコムと前CEOを起訴 どうなる岩屋外務大臣―【私の論評】岩屋外務大臣の賄賂疑惑が日本に与える影響と重要性が増した企業の自立したリスク管理

特報 米国司法省 IR疑惑で500ドットコムと前CEOを起訴 どうなる岩屋外務大臣 渡邉哲也(作家・経済評論家) まとめ 米国司法省は500ドットコムと元CEOを起訴し、両者が有罪答弁を行い司法取引を結んだ。 日本側では5名が資金を受け取ったが、立件されたのは秋本司被告のみで、他...