2020年2月12日水曜日

2020年も引き続き予測を破る米雇用市場―【私の論評】日韓の政治家は、真摯にトランプ大統領の金融政策に対する姿勢を学ぶべき(゚д゚)!


<引用元:ホワイトハウス 2020.2.7>大統領経済諮問委員会

労働統計局(BLS)の毎月雇用状況の最新データから、歴史的に見て強い米国労働市場が2020年も継続して拡大していることが確認できる。

一般教書演説で雇用の良さを強調したトランプ大統領
報告書の事業所統計によると、1月は22万5千人の雇用が増加し、15万8千人の雇用という市場予測を破った。11月と12月の上方修正を含めて、過去1年の月平均雇用増加は17万1千人という健全なものとなった。先月最も増加した分野は教育と医療サービス(+72,000)、建設(+44,000)、そしてレジャー・サービス業(+36,000)だった。

今月の報告書には事業所統計に対するBLSの年間修正も含まれていた。この修正によって、2019年3月の年度末の間に以前報告されたよりも51万4千人少ない雇用増加だったことが分かった。この修正は雇用が失われたという意味ではなく、むしろ以前は過大に見積もり過ぎていたという意味だ。だが1月の強い雇用増加によって、それでもトランプ大統領の選出以来700万人の雇用が増加している。選挙から38カ月、そのうち34の月で少なくとも10万人の雇用を創出しており、毎月雇用が増加している。

長期化した雇用創出は米国人の賃金を引き上げている。過去1年半では景気後退以来で最大の賃金上昇となった。平均時給は前年比で3.1パーセント増加し、18カ月連続で3パーセント以上の上昇率となっている。賃金上昇は製造・非管理職労働者でさらに速く、前年比で3.3パーセントとなった。トランプ大統領の下で、労働者の賃金は管理職の賃金よりも速いペースで増加している――前政権とは逆の結果である。

別の世帯調査では1月に失業率が3.6パーセントに上昇したことが分かっているが、1969年以来最低のレベル近辺に留まっている。1月には23カ月連続で失業率が4パーセント以下となった――50年で最長の記録だ。失業率は、連邦議会予算事務局の選挙前の最終予測である5.0を依然として大きく下回っており、トランプ大統領が2016年11月に選出された時のレベルより1.1パーセント低い。

歴史的に見て恵まれないグループは、現在のひっ迫した労働市場から利益を受けている。2019年にアフリカ系米国人、ヒスパニック系米国人、アジア系米国人の失業率は全て過去最低となった(テーブル参照)。高校卒業資格を持たない人々と障害者も昨年は過去最低の失業率となった。


1月のわずかな失業率上昇の主要原因は、傍観者の立場にいた労働者が仕事を探そうと労働人口に加わることが増えたためだった。この3カ月で労働市場外から来た新たな労働者の平均割合は73.2パーセントだった。1月に就労率は63.4パーセントにまで上昇した――2013年以来で最高のレベルだ。重要なこととして、働き盛り世代(25歳から54歳)の就労率も1月に83.1パーセントに上昇したが、2016年11月の数字を1.8パーセント上回るものだ。

重要性が小さく見える就労率の変化は雇用市場に重大な影響を持っている。例えば、トランプ大統領の下で働き盛り世代の就労率が上昇したということは、労働力として220万人の働き盛り世代労働者が加わったということになる。就労率の増加以上に、働き盛り世代労働者の労働力人口比率は1月に0.2パーセント上昇して80.6パーセントとなった――2001年5月以来最高レベルだ。

労働者の流入は経済に対する自信増大と就職見通しの改善を示している。全米産業審議会の消費者信頼感は1月に131.6に上昇し、トランプ大統領の選出前月から31パーセントの増加となった。その上仕事が「得難い」と答えた人に比較して、仕事が「十分にある」と答えた人の割合は4対1以上だ。

過去最高の2019年の後、2020年の米国経済は再び強い雇用報告で始まった。昨年起きたように、1月の雇用増加は予測を破り、賃金は3パーセント以上上昇し、失業率は歴史的な低さかそれに近い数字を保った。

【私の論評】日韓の政治家は、真摯にトランプ大統領の金融政策に対する姿勢を学ぶべき(゚д゚)!

本ブログの読者であれば、金融政策が雇用政策であることを私が繰り返し書いてきたことを知っているでしょう。その意味では、米国で金融緩和により失業率が低下し、有効求人倍率が上昇してきたのは、私にとっては想定内のことです。

失業率の定義は、労働力人口に対する完全失業者の占める割合です。完全失業者は労働力人口から就業者を引いたものなので、失業率は、1から就業者数の労働力人口に対する割合を引いた数になります。

トランプ大統領は金融政策と為替の関係を理解しているようです。これは考えてみれば、簡単なことなのですが、これを理解しない人は結構多いようです。

金融緩和にはいくつかの方法がありますが、この世界に緩和の方法がお札を刷り増すことしかなかったとします。そうすると、ドルを徹底的に刷ります、すなわち金融緩和を徹底的に行うと、ドルが相対的に増え、ドル安になります。

逆に、米国が大規模な金融緩和をしていないにもかかわらず、日本や、EUが円やユーロを徹底滝に刷り増せば、相対的に円やユーロがドルよりも増えて、ドルの価値が下がり、ドル安になります。

為替の動きは、短期的には様々な要因がありなかなか正確にあてることはできないですが、長期的には米国と他国の金融緩和政策の方向性で6割型は、予想できます。長期では、結局金融政策の方向性でほとんどか決まります。これは、小学生でもわかる理屈です。お金も、相対的に他国、特にドルと比較して多ければ、安くなりますし、少なければば、高くなります。それだけの話です。

トランプ大統領は、金融政策が雇用と、為替に大きく影響することを、どの政治家よりも理解しているようです。それは、不動産業をやってきた実績から、学んだことなのでしょう。

実際トランプ大統領は昨年3月2、共和党関連の行事で演説し、中央銀行の金融引き締め策がドル高を招き、米経済に悪影響を及ぼしているとして米連邦準備理事会(FRB)を再び批判しています。FRBは1月、2019年に2回想定していた追加利上げを見送って「当面は様子見する」方針を示していたのですが、トランプ氏は改めてけん制した格好でした。
トランプ氏は「米国にとって好ましいドル(の水準)を求めている。外国と事業取引するのを妨げるような強すぎるドルは求めていない」と主張しました。名指しを避けつつも「利上げを好み、量的引き締めを好み、非常に強いドルを好む紳士がFRB内に1人いる」と述べ、パウエル議長を暗に批判した。

不動産業はその時々のFRBの政策に大きく影響されます。だから、いつが儲け時なのか、耐え時なのかを判断するには、FRBの金融政策に大きく影響されます。そのため、実践的に金融政策の重要性を学んだのでしょう。

米国経済を見るときのポイントは、失業率とインフレ率です。それに応じて、マクロ経済政策がどのようになるのか、ほとんど予測できます。

実際の金融政策は「テーラー・ルール」によって行われているといわれています。テーラー・ルールとは、1933年にスタンフォード大学のテーラー教授が提唱したもので、オリジナルな形は、インフレ率と実質国内総生産(GDP)水準の2つから、実際に行うべき金利政策がほとんど説明できるというものです。

実質GDP水準は、失業率と密接な関係があるので、インフレ率と失業率から決まるといっても良いです。具体的にいえば、インフレ率がインフレ目標の2%より高い時に利上げ、低い時に利下げとなり、失業率がNAIRU(インフレを加速しない失業率)といわれる4%より高い時に利下げ、低い時には利上げということが多いとされてきました。

昨年の4月の米国のインフレ率は2%、失業率は3.6%でした。この時点で過去1年くらい、失業率は4%以下となっており、従来のテーラー・ルールからみれば利上げになるという状況でした。

米経済で、失業率が4%を下回ることは極めて珍しいです。戦後を見ても、1960年代後半の4年間程度に見られただけの「超人手不足」状態でした。

これまでであれば、インフレ率がかなり高くなっているはずでしたが、まだ高くなっていませんでした。まさにインフレ目標2%の範囲内になっていました。

当時は、じわりとインフレ率が高まりつつありましたが、より重要な将来のインフレ予想はそうでもありませんでした。

インフレ予想は、物価連動国債と通常国債の金利差である「ブレークイーブン・インフレ率」によって測ることができます。そのデータを見ると、2017年以降、2%の上下0.2ポイント程度で安定していました(5年物)。

従来のデータでは、米国のNAIRUは4%程度というのが定説ですが、ここ1年くらい失業率が4%を下回りながらも、インフレ率が上がっていないということは、NAIRUが3%台半ばになっているのかもしれないことが認識できました。

「超完全雇用」であっても、雇用のミスマッチや、避けられない失業があるためにゼロにはならない。ただ、最近は、インターネットの発達などにより、雇用のミスマッチが少なくなっていることも考えられます。

このブログでは、失業率を事実上の最低ラインのNAIRU(インフレを加速しない失業率)になるように、一方で経済が過熱しないようにインフレ目標があると説明してきました。もし、NAIRUが3%台半ばであれば、それに対応するインフレ目標は2%台半ばになっている可能性もありました。その場合、当時のインフレ率や失業率であれば、利下げの可能性もありえました。結局は、FRBはトランプ大統領の圧力もあって、利下げはしませんでした。

その結果として、上の記事でも示されるいるように、米国の雇用は過去最高の2019年の後、2020年の米国経済は再び強い雇用報告で始まったのです。昨年起きたように、1月の雇用増加は予測を破り、賃金は3パーセント以上上昇し、失業率は歴史的な低さかそれに近い数字を保ったのです。

日銀はNAIRUを無視して事実上の利上げである「イールドカーブ・コントロール(長短金利操作)」を行っています。米国の動きは、円高を加速させる可能性はかなりありました。そうして、実際そうなっています。

以下は、マクロ政策・フイリップス曲線といわれるものです。数値は日本のものです。日本では、NAIRU最近まで、3%台と思われてきたのですが、3%切ってもインフレ目標が達成されないため、2%台であると認識されるようになりました。米国の場合はNAIRUは従来は4%台であると認識されていたのですが、米国でも失業率が3%台になっても、目立った物価上昇はみられず、NAIRUが3%台であると認識されるようになりました。

マクロ政策・フィリップス曲線

さらに、財務省は昨年10月に消費税増税を実行してしまいました。2014年の増税のときも、それまで積み上げてきた、日銀による金融緩和の成果をぶち壊しにしました。特に、インフレ目標(物価目標)の実現はさらに遠のきました。ただし、緩和は継続されてきたので、雇用の良さはすぐに戻ってきました。

しかし、イールドカーブ・コントロールが実施され、消費税が10%に増税された後はどうなるのでしょうか。日銀が今のまま、抑制気味の金融緩和政策を継続し続ければ、せっかくの金融緩和の成果である、雇用はまた悪化し、インフレ目標実現もさらに遠のいてしまうでしょう。

韓国に至っては、金融緩和をしないで最低賃金だけを機械的にあげたので、大方のエコノミストの予想通り、雇用が激減してとんでもないことになりました。


トランプ大統領は、先の述べたように、金融政策と雇用、為替の関係を理解しているようで、そのせいでしょうが、上の記事にも示されているように空前の雇用の良さを実現しています。

しかし、日本では未だにインフレ目標も達成できず、それでも安倍総理は日銀をトランプ大統領がFRBを批判したようには、批判していません。韓国では、金融緩和をせずに機械的に最低賃金を上げて、雇用が激減する有様です。

安倍総理に関しては、少なくとも文韓国大統領よりは、金融政策に関しては理解があるようですが、それにしても、現在はまさに大規模な緩和のやりどきなのにもかかわらず、実際には日銀を動かせていません。文韓国大統領は、なりふり構わぬ、親北姿勢を崩しませんが、そのようなことの前に、まずは正しい金融緩和政策を実施して、韓国の雇用市場を立て直すべきです。

これは、総理や大統領だけではなく、両国の他の与野党の政治家にも言えることです。親北や「もりかけ桜」は、政治家のメインの仕事ではありません。まともな政治家は、まずは政府だけが実行できるまともなマクロ経済政策を理解し、まともな政策を実行できるように動くべきです。それができない政治家は、政治家とはいえません。単なる政治屋です。

両国とも、米国を見習って、まともな金融政策を実施すべきです。それによって、雇用がよくなり、さらに経済にも良い影響を及ぼすのは確実です。特に、トランプ大統領の金融政策に対する姿勢を学ぶべきです。

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政治色濃いアカデミー賞の視聴率が過去最低、視聴者は前年から約600万減少―【私の論評】『パラサイト』で韓国社会の実体を鋭く抉っても、韓国政府が正しい政策を実行しなければ社会は変わらない(゚д゚)!

2020年2月11日火曜日

政治色濃いアカデミー賞の視聴率が過去最低、視聴者は前年から約600万減少―【私の論評】『パラサイト』で韓国社会の実体を鋭く抉っても、韓国政府が正しい政策を実行しなければ社会は変わらない(゚д゚)!

政治色濃いアカデミー賞の視聴率が過去最低、視聴者は前年から約600万減少

<引用元:FOXニュース 2020.2.10

ハリウッド・リポーター紙(THR)によると、ABCの政治色の濃いアカデミー賞テレビ中継は、日曜日の夜の平均視聴者数が2,360万人と過去最低となった。

THRは、全体で「昨年の授賞式の2,956万人・7.7パーセントをはるかに下回」り、前年比で視聴者数が20パーセント減少したと指摘した。アカデミー賞はメインターゲット層の18から49歳の成人でなんとか5.3パーセントを達成したが、昨年の7.7パーセントから31パーセント減少した。

司会のいない長時間の放送は、2018年に平均2,654万人の視聴者数で史上最低となった時からすると約200万人視聴者が減少した。

第91回アカデミー賞

「なんとか希望の兆しを見出す必要があるというなら、第92回アカデミー賞は第91回アカデミー賞以降ではテレビで最も視聴されたエンターテイメント番組だった。いうまでもなく、それも全く予想通りだった」とザ・ラップの視聴率の権威、トニー・マグリオは書いた。

アカデミー賞の主役となった受賞者の中には、授賞式に政治を差しはさむ者がいた。皮切りとなったのはテレビ放送された最初の受賞者、ブラッド・ピットで、トランプ大統領の弾劾裁判で証人喚問に反対した共和党上院議員を狙い撃ちにした。

「私には45秒しかここで話す時間がないと言われているが、それはジョン・ボルトンに今週上院が与えた時間よりも長い時間だ。クエンティン(タランティーノ)がそれに関する映画をやるかもしれないと思っている。最後に大人が正しいことをするんだ」とピットは語った。

ピットだけがコメントに政治色を着けた役者ではなく、ホアキン・フェニックスは主演男優賞の長く、感情的な受賞スピーチで、中でも人間性の状況と牛の置かれた窮状について話した。

「我々は牛を人工受精させる権利があると感じている。そして生まれたら母牛が紛れもなく苦悩の叫びを上げているのにその子供を盗み、それから我々は子牛のためのミルクを取り上げてコーヒーやシリアルに入れている」とフェニックスは語った。

バラク・オバマ、ミシェル・オバマ夫妻がプロデュースし長編ドキュメンタリー賞を受賞した「アメリカン・ファクトリー」の共同監督、ジュリア・ライカートの演説では、社会主義革命論者のカール・マルクスまで引用された。

【私の論評】『パラサイト』で韓国社会の実体を鋭く抉っても、韓国政府が正しい政策を実行しなければ社会は変わらない(゚д゚)!

今回、作品賞を争っていたのは『パラサイト』と、(作品賞、監督賞など10部門でノミネートされた)『1917』(サム・メンデンス監督)ですが、格差社会や分断という政治的メッセージの強い前者に比べ、後者は政治色の全く感じさせない作品です。

作品賞を受賞した『パラサイト』のポン・ジュノ監督

古い体質のアカデミーはこれまで、大統領選が行われる年の作品賞にはミュージカルや歴史作品を選出してきたのですが、それが今回は政治色の強い映画を選んだわけです。

しかも、かつて韓国右派政権から反政府的な作風などと難癖をつけられ、国家情報院のブラックリストに入れられた経験のあるポン・ジュノ監督にも監督賞です。

これらが意味することといえば、米国内で“分断の象徴”と位置付けられているトランプ大統領に対する痛烈な批判ではないでしょうか。格差拡大、人種差別、分断という、トランプ的なものされる空気を、アカデミーが相当、嫌っているのは間違いないです。

イランなどイスラム教国7カ国の市民の入国を90日間禁止したトランプ大統領に対し、抗議声明を出したこともある映画芸術科学アカデミーです。今回も痛烈なメッセージをトランプ大統領に出したつもりなのでしょうか、おそらくトランプ大統領はまったく気にもとめないでしょう。

そうして、ここがすでに勘違いです。米国社会は昔から分断されていたのです。ざっくり言ってしまうと、元々米国はいわゆるリベラル・左派と、保守派に分断されていたのです。

そうして、テレビ・新聞等のマスコミ、学校、職場、役所等、そうして映画界などエンターティンメント業界もリベラル・左派が牛耳っていて、米国の保守派は、何かを主張してもリベラル・左派の大きな声にかき消されてしまっていたというのが実情でした。

リベラル・左派の声があまりに大きくて、保守派はますます口をつぐまず負えなくなっていたというのが実情だったと思います。とにかく自分の身の回りは、どこに行っても、保守派が主張しても、否定されるか、非難されるしかなかったのです。

リベラル・左派一色の状態は米国映画界も同じです。この業界では保守の居場所はあまりありません。生粋のリベラル・左派でないと、うまく世渡りができません。

だからでしょうか、米国のテレビ番組などでは、ハリウッド俳優が「自分は昔は生粋の共和党員」だったことを告白するものも結構みられました。しかも、若い頃ヤンチャをしていたような語り口のものがほとんどです。しかし、それは「自分は現在は生粋のリベラル・左派」であることを強調することでもあります。

このような状況の米国ですが、米国ではリベラル・左派がメインストリームのようにみられてきたのですが、トランプ氏が大統領になってからは、風向きが変わってきました。保守派が巻き返してきているのです。そうして、保守派の声が必ずしもかき消されるばかりではなくなってきたのです。

考えてみれば、当たり前です、リベラル・左派は自分たちが世の中の大部分を占めてきたのが、トランプ登場でそうではなくなったと言いたいのてしょうが、現実は違ったのです。実はもともと、米国には半数近くの保守派が存在していたのですが、その声がかき消されていただけだったのです。

それが、トランプ大統領が登場してから、明らかになっただけの話なのです。無論、米国の社会の分裂はもっと複雑で深刻ですが、大括りで煎じつめればそういうことになります。

そのことを理解せず、日本のマスコミなども、米国のリベラル・左派マスコミの情報を垂れ流すだけで、日本の多くの人々は、米国の半分リベラル・左派の主張だけを耳にし、保守派の主張は耳に入らず、米国の半分しか知らないというのが実情でした。

最近のハリウッド映画を観ていて、よく感じるのは、フィクションであるはずの映画の世界にまでいわゆるリベラル・左派による、ポリティカル・コレクトネス(以下「ポリ・コレ」)の影響が及んでいるということです。

3年前には、アカデミー賞で黒人俳優が全くノミネートされず、「白人ばかりのアカデミー賞」と揶揄した批判が問題になり騒がれたことがありました。

「ポリ・コレ」のことを知らない人がこんな話を聞くと、条件反射的に「黒人差別だ!」と憤るのかもしれないですが、公平な判断の上で本当に黒人俳優にノミネート者がいない場合はどうするのか、ということも併せて考える必要があります。

ハリウッド映画に出演している俳優の比率は黒人よりも白人の方が圧倒的に多いわけですから、たまには黒人が受賞できない年度があっても、それはそれで仕方がないことだとも言えます。実際、出演比率の低い黄色人種もアカデミー賞にノミネートされるようなことは全くと言っていいほど無いですが、誰も文句は言っていません。

この騒ぎがあったこととも関係しているのかもしれないですが、現在のハリウッド映画(海外ドラマも同様)には、どんな映画にも一定数の白人以外のキャストが出演する場合が多くなっています。

同時に、同性愛者を演じる俳優が多く登場するようになりました。マイノリティの認知度を上げるという目的でそのようなことが行われているのかもしれないですが、実社会における同性愛者の割合を考慮すれば、明らかに過剰な扱いになっているという違和感は拭えないです。

こういった特別扱いをすること自体が、実は差別そのものであると思われるのですが、「ポリ・コレ」を厚く信奉する人々には、そのことが見えなくなっているのかもしれないです。

どれだけ建前を飾ったところで、特別扱いしなければならない存在を自ら作り出し、腫れ物に触るかの如くタブーを作り出すことが、差別をより根深いものにするということが解らないというのは悲劇そのものです。

ハリウッド映画の内容ではなく、ハリウッド映画界そのものが壮大な悲劇を演じているということが多くの人々に理解される日は訪れるのでしょうか。もし、その日が来れば、それはアカデミー賞ものの栄誉ある瞬間でしょう。

さて、話を韓国に戻します。この映画「パラサイト」に描かれるような、本格的に韓国が格差社会へと突入したのは、1997年の年末に韓国を襲った「IMF危機」がきっかけでした。「IMF危機」とは、アジア金融危機に伴い財政破綻の危機に直面した韓国政府が、IMFから多額の資金援助を受けるため、国家財政の「主権」をIMFに譲り渡したものです。

金大中大統領

翌1998年2月に就任した金大中大統領は、「民主主義と市場経済の並行発展」をモットーとする「DJノミクス」を提唱し、IMF体制からの早期脱却を目指しました。

「DJノミクス」とは、経済危機を招いた原因を、これまで30年余りにわたって続けられてきた政経癒着と不正腐敗、モラルハザードによるものと見なし、その改善のため、自由放任ではなく政府が積極的な役割を果たすとする経済政策でした。

つまり、公正な競争が行われるように市場のルールを定めて、市場を監視し、個人の努力や能力によって正当な報酬がもらえるシステムを作るというのが政策の核心でした。

しかし、実際に金大中政権が実施した戦略は、資本市場の開放、国家規制の緩和、公企業の民営化、そして労働市場の柔軟化およびリストラ強行など、新自由主義的な政策ばかりでした。こうした金大中政権の「劇薬療法」によって、3年8ヵ月後の2001年8月23日、韓国はIMFから借り入れた資金を早期に返済し、経済主権を取り戻しました。

しかし皮肉なことに、その過程で中産階級が崩壊し、二極化と所得の不平等がさらに深刻化してしまったのです。

韓国を代表する「進歩派」(韓国では左派をこう呼ぶ)の経済学者である柳鍾一(ユ・ジョンイル)韓国開発研究院(KDI)国際政策大学院院長は、進歩系(左派系)メディアである「プレシアン」に次のような文章を寄稿しています。
約20年前に韓国を襲ったIMF危機以降、韓国社会における最大のイシューは、二極化による「格差社会」である。 
現在の韓国社会は、単に不平等なことが問題なのではなく、富と貧困が世代を超えて継承される点が際立った特徴となっている。 
すなわち、世代間の階層の移動性が低下し、機会の不平等が深まり、いくら努力しても階層の上昇が難しい社会、すなわち「障壁社会」へと移行したのだ
たしかに、2018年に韓国の有力シンクタンクの一つである現代経済研究院が発表したアンケート調査の結果を見ると、「いくら熱心に努力しても、自分の階層が上昇していく可能性は低い」と考えている韓国人は、2013年が75.2%、2015年が81.0%、2017年が83.4%と、毎年上昇しています。

柳鍾一院長が主張した「障壁社会」について、韓国人の8割以上が同意していると見ることができるでしょう。

また、2018年6月に韓国保健社会研究院が発表した「社会統合の実態診断及び対応策研究」報告書によると 韓国人の85.4%が「所得の格差が大きすぎる」と思っており、80.8%が「人生で成功するには、裕福な家で生まれることが重要だ」と考えています。

深刻な不平等や格差は映画の中だけの話ではなく、韓国社会の現実そのものなのです。

しかしながら、韓国においてはこのような不平等や格差がなぜ起こるのかという議論については、活発な議論が行われおらず、その結果不平等・格差を是正する政策がおこなれてきませんでした。

韓国の経済政策は結局「DJノミクス」の延長線上にあり、経済危機を招いた原因を、長期にわたって続けられてきた政経癒着と不正腐敗、モラルハザードによるものと見なし、その改善のため、自由放任ではなく政府が積極的な役割を果たすとする経済政策をとってたように思われます。

文政権による、金融緩和をしないで、最低賃金だけをあげるという結局大失敗して雇用が激減しました。

韓国では、DJのミクス後から、雇用を改善するために、金融緩和をするという政策はとられてきませんでした。そのため、かなり前より雇用は悪く、最近では最悪という事態になっています。数年前から、若者の間で雇用が最悪ということで、「朝鮮ヘル」という言葉が合言葉になっています。

これと似たようにことは、過去に日本でも行われてきました。それはいわゆる構造改革というものです。結局、構造改革をしないからいつまでたっても、日本は経済成長できないのだという論議ばかりで、政府だけが実行できるまともな財政政策や、金融緩和政策がなおざりにされました。

そのため、日本は平成年間には、デフレであるにも関わらず、財務省は増税を繰り返し、日銀は金融引き締めを繰り返し、日本経済は低迷しデフレがさらに進化し、超円高で産業界は苦しみました。

しかし、安倍内閣が誕生してから、構造改革一辺倒だった、経済議論も変わり、日銀は異次元の金融緩和に踏み切りました。そのため、雇用はかなり改善されました。ところが、財政政策は、二度も増税するという過ちをおかしたため、経済は伸びませんでした。

そのため、日本の経済成長率は韓国以下です。韓国の成長率は従来よりは、落ちているのですが、それでも、韓国は2.0%増、日本は1.0%増。2019年の経済成長率は、韓国が日本より1%ポイント以上高いという結果となっています。

しかし、それでも金融緩和は、日銀がイールドカーブコントロールを導入して以来、抑制気味ながら、継続しているので、増税で緩和の効果が削がれているとはいえ、雇用は韓国よりは随分まともです。

一般教書演説をするトランプ大統領

米国は、トランプ氏が最近一般教書演説を行ったばかりですが、雇用なども含め堅調な経済を訴求していました。さらに、新たな減税政策も打ち出していました。

結局韓国は、雇用を良くするといいながら、雇用と密接な関係があるといわれている、金融緩和を実行せずに、最低賃金だけをあげるという愚挙によって、雇用が最悪となり、とんでもない状況をつくりだしています。

このような状況は、大規模な金融緩和をしないと是正できないです。韓国が金融緩和をすると、キャピタル・フライトが起こるとか、ハイパーインフレがおこるという人もいますが、物価目標の範囲内で実行していれば、そのようなことは考えにくいです。

実際過去にキャピタル・フライトが起きたアイスランドと比較しても、韓国では家計の借金は多いとはいつつも、当時のアイスランドの家計の借金が莫大であり、しかも借金の先がほとんど海外であったことを考えると、韓国ですぐにキャピタル・フライトが起こるとは考えにくいです。

我が国においても、2012年あたりまでは、金融緩和すると、ハイパーインフレが起こるとか、キャピタル・フライトが起こるなどとする識者もいましたが、実際に金融緩和をしてもそのようなことは起こりませんてした。

であれば、韓国銀はすぐにでも、大規模な金融緩和をすべきでしょう。しかし、文大統領の頭にはそのような考えはまったくないようです。

結局、米国ではリベラル・左翼によるポリテカル・コレクトネスが提唱され、実行されていたり、韓国では政経癒着と不正腐敗、モラルハザードによるものと見なし、その改善ばかり叫ばれたりしているわけですが、そのようなことだけをしても全く無駄であり、無意味であり、そのことに多くの米国人が気づいたからこそ、政治色濃いアカデミー賞のテレビでの視聴率が過去最低になったのかもしれません。

結局極端なポリティカル・コレクトネスを実行するばかりで、政府が本来実行すべきまともなマクロ経済政策を実行しなければ、世の中、特に社会は何も変わらないということを多くの米国民は気づきつつあるのかもしれません。

無論、正しい経済対策をすることだけで、社会が改善されるわけではありませんが、正しい経済対策をしなければ、社会を良くする緒にもなりません。これなしに、小手先で何かを実行したとしても、砂上の楼閣になるだけです。

生産能力の低い発展途上国であれば、財政政策や金融政策の実行にも限りがありますが、韓国や日本は、まだまだできる余地があります。それを実行せずに、構造改革や社会の歪をえぐってばかりいても、何も変わりません。ましてや、韓国のように金融緩和しないとか、日本のように増税するなどのことをしても無意味です。やはり、米国のように政府としてできるマクロ経済政策は間違いのないように実行すべきなのです。

結局韓国も、「バラサイト」という映画等で、政経癒着と不正腐敗、モラルハザードの実体を鋭くえぐったとしても、それに対する具体的な解決策を韓国政府が実行しなければ、社会は何も変わらないということです。日本も同じことです。

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2020年2月10日月曜日

連邦議員が、ニューヨーク・タイムズ、ワシント・ポストで公開された中国プロパガンダに対する捜査を要求―【私の論評】我が国でもFARA(外国代理人登録法)を成立させよ(゚д゚)!

連邦議員が、ニューヨーク・タイムズ、ワシント・ポストで公開された中国プロパガンダに対する捜査を要求

<引用元:ワシントン・フリービーコン 2020.2.6

ワシントン・フリービーコンのロゴ

「チャイナデイリー」が連邦法を無視していることをワシントン・フリービーコンが発見してから、連邦議員は司法省にプロパガンダメディアに対する「本格的捜査」に着手するよう求めている。

チャイナデイリーは外国代理人の開示要件に従わずに、数百万ドルをかけて国の認可を受けたプロパガンダを米国の主要新聞に掲載しており、ジム・バンクス下院議員(共和党、インディアナ州)、トム・コットン上院議員(共和党、アーカンソー州)とその他33人の議員が同メディアの活動に対する捜査を要求することに至った。13日に一同はウィリアム・バー司法長官に書簡を送り、連邦開示法を「チャイナデイリーが遵守しているかに関して審査し報告書を作成する」よう司法省に求めた。

ジム・バンクス下院議員(共和党、インディアナ州)

「共産主義者の残虐行為を曖昧にしようとするプロパガンダには、対抗措置を講じてしかるべきだ。外国代理人登録法(FARA)ではすでに連邦政府に有害な外国の影響力と戦うための武器が提供されている。司法省はそれらを使用して中国のプロパガンダを取り締まるべきだ」と書簡には書かれている。

本紙は以前、チャイナデイリーがニューヨーク・タイムズ、ウォールストリート・ジャーナル、ワシントン・ポストの紙面で、信頼できるニュース記事に似せて作られた何百というプロパガンダ記事を掲載しているのを発見した。

バンクス議員は本紙へのメールの中で中国との緊張を冷戦と比較した。「我々は民主主義が共産主義独裁体制に勝るということを世界に納得させた。どうやらその戦いをもう一度やらなければならないようだ――今度ははるかに裕福で同じように断固とした敵が相手だ。連邦政府は我々の価値観の勝利を確保するために、持てる全ての武器を使用しなければならない――失敗した場合の結果は言語に絶する」と彼は述べた。

8人の上院議員と27人の下院議員が署名した書簡は、中国の国家的存在がFARAの義務に違反していることに対して措置を講じるよう議会が初めて司法省に強く求めたものではない。2019年には、上院の超党派グループが中国プロパガンダメディアの新華社通信とCGTNアメリカの活動に対する捜査を要求してから、同省は彼らに外国代理人として登録するよう命じた。

CGTNアメリカは連邦命令に従ったが、新華社通信はまだ外国代理人として登録していない。バンクスは1月、司法省に新華社通信の登録状況を調査するよう司法省に要求した

チャイナデイリーは初め1983年に外国代理人として登録し、それ以来米国で親中国プロパガンダを発行してきた。中国の代弁人は近年大々的に活動を拡大しており、2017年以来3,500万ドル以上を費やしている。チャイナデイリーは2012年以来、6つの米紙で500以上の記事体広告と700のオンライン記事を流してきた。

米国の主流媒体で流した記事体広告には中国の圧政を取り繕ったものもあった。ウォールストリート・ジャーナルに掲載されたプロパガンダ記事では、中国が100万人以上のウイグル人イスラム教徒を拘留していることを、「法に基づく急進化低下活動」と呼んでいた。チャイナデイリーはコメントの要求に応じなかった。

「無害な記事もある――中国政府の健康構想のような話題を売り込むものもある――が、そうでないものもある。そうした記事は中国の残虐行為を隠ぺいする役割を果たしている。それには新疆地区でのウイグル人に対する非人道的犯罪や、香港での取り締まりに対する支持が含まれる」と書簡はしている。

中国本土以外で合計60万部を発行するチャイナデイリーは、国の最高機関に浸透している。バンクスは以前、プロパガンダメディアが議会のほぼ全員に新聞を配布していると知って、連邦議会での同紙の配布を制限しようと試みた。

司法省はコメントの要求に応じなかった。

【私の論評】我が国でもFARA(外国代理人登録法)を成立させよ(゚д゚)!

2月5日、35人の米連邦議会議員が、中国官製英字紙・チャイナデイリー(China Daily)の調査を要請する書簡を司法省および法務省に送った。議員たちは、すでに米国外国代理人登録法(FARA)に登録されている同紙が、法律に違反している可能性があると指摘しています。

チャイナ・デイリーの紙面

チャイナデイリーは過去30年間、米主流紙や地方紙の広告枠を購入して、記事を「折り込み広告」として、あたかも新聞紙面の一部にみえるかのように挿入していることは、従来から指摘されていたことです。

FARA(外国代理人登録法)登録媒体はこの法律に基づき、2年ごとに広告購入や財務諸表の詳細を米当局に報告する義務が課されています。しかし、議員たちは同紙が報告を怠ったと指摘しています。

中国共産党機関紙であるチャイナデイリーは、1983年に外国代理店登録法に記録されました。

「チャイナデイリーは、中国共産党が進行中の残虐行為を隠ぺいするために利用する悪質なプロパガンダに過ぎない」と、ジム・バニング上院議員は書簡のなかで書いています。

「私たちが勝利した冷戦から得た教訓とは、自由な民主主義は共産主義の独裁よりも優れていると世界が確信したことだ」と議員は続けました。

議員は司法省に対して、チャイナデイリーの財務諸表および法的評価の提出を要求するよう求めました。また、法務省に対して、同紙にFARA遵守に関する報告書の提出を要請するよう求めました。

米国の場合は、FARA(外国代理人登録法)があるので、中国などの外国のメディアが悪さをしようとしても、上記のように連邦議員は司法省に対して疑義を申し立てることができます。

しかし、このような法律のない我が国においては、中国、ロシア、イスラエル、米国など世界の工作機関は、我が国の影響力のある人物を代理人に仕立て上げ、その国益にあうような発言をさせています。報道界、政財界、官界、学会、宗教界などにその代理人をひそかに埋め込み、有利な情報または虚偽情報を流させ、わが国の世論を誘導しています。

また、これらの代理人をつかって政財官界にロビー活動を展開し外国に有利な政策を講じさせたり、企業の技術者を引き抜いて先端技術情報を取り込んでいます。

たとえば、中国の場合、共産党中央宣伝部、対外連絡部の指揮のもとに、国家安全部や人民軍が、工作員を放ち、我が国の記者や有名人に、沖縄の米軍基地に反対させ、集団安全保障法案に反対させ、あるいは靖国参拝に反対させるなどの活動を執拗に展開しています。

それら代理人は、多くの場合、「中国の古い友人」、「友好人士」と呼ばれ、自尊心をくすぐられているのが実態です。中には、共産主義イデオロギーに洗脳されたものやハニートラップに引っかかって脅迫されたものもいますが、大部分は多額の報酬や有利な便宜供与をえて活動している者たちです。

日中友好協会 丹羽宇一郎会長

また、朝鮮総連や在日科学技術協会のメンバーは、わが国から核技術などを窃取することを目的に京都大学などに対して秘密工作をすすめていることも暴露されました。

<米国の制度>
法治国家、米国は、こうした内側から国論を誘導したり、先端技術を窃取しようとする外国代理人の活動を監視するため、外国代理人登録法(22.USC.611)とロビー活動公開法(2.USC.1601)を制定しています。

外国の政府、政党や企業、団体の利益のために政治活動や宣伝活動を行い、あるいは官庁や議会に対して働きかけを行うものを「外国代理人」と位置づけ、外国代理人には司法省に登録し、半年ごとに活動報告を行うことを義務づけています。これに違反した場合は、5年以下の禁固または1万ドル以下の罰金を課されます。

そのため、米国人の広報コンサルタントも外国の利益になる広報を行う場合は、登録しておかねばなりません。そして、半年ごとに、誰に金銭や報酬をいくら支払いその他便宜供与を与えたか、司法省に届け出なければなりません。

ただし、米国の報道機関は登録義務から免除されています。届けられた情報はだれでも閲覧できるように公開されますので、これによって誰が外国の利益代表であるかを国民に広く知らせ、注意を喚起することができるのです。どのような個人や組織が外国の利益のために働いているかを知ることは、民主主義に不可欠な要素であると米国は考えているのです。

我が国も、これにならったものを早く制定しなければ、内部から間接侵略され、世論を操作され、先端技術とノウハウ等盗まれ放題です。すでに、かなり国家防衛の基礎が掘り崩されているとみるべきです。

以下は、その要綱です。
〈外国代理人登録法〉
1 外国の政府、政党もしくは外国の企業、団体の利益のために、我が国の公職にあるもの(議員、公務員、国立大学教授など)または公職にあったものに対し、ある行為をとるよう、もしくは取らないように働きかけまたはその意見に影響を及ぼそうと試みるものは、国家公安委員会に外国代理人として登録しなければならない。 
2  外国の政府、政党もしくは外国の企業、団体の利益のために、日本国民に対し広報活動を行い、または国民から取材しようとする者(個人または組織)は、外国代理人として登録しなければならない。(ただし、日本人または日本の組織が実質的に支配する報道機関は、この登録義務をまぬかれることとする。外国人または外国の組織が実質的に支配する報道機関は、登録義務がある。) 
3 外国の政府、政党もしくは外国の企業、団体の利益のために、官公庁または日本企業に在職する職員を採用し、または採用のあっせんを行おうとする者は、外国代理人として登録しなければならない。 
4 登録した外国代理人は、半年ごとに、その行った活動の内容(接触相手、接触の内容、報酬の支払い、便宜供与、資金源など)について国家公安委員会に報告しなければならない。外国代理人が雇用しまたは業務を委託する者についても、その異動の都度、国家公安委員会に報告しなければならない。 
5 報告の内容は、官報に公示するとともに、国民が容易に閲覧することができるようインターネット上に公開しなければならない。 
6 登録義務、報告義務に違反した場合、5年以下の禁固または300万円以下の罰金を科すこととする。 
7 公職にある者またはあった者が、その職務内容に関し、登録された外国代理人から陳情、請託などの働きかけを受け、または報酬、便宜供与を受けた場合は、遅滞なく、国家公安委員会に届けるともに、その所属組織にその内容を報告しなければならない。
日本では、憲法改正ばかりが強調されていますが、それ以前にこのような法律が必要です。憲法を改正しなくても、このような法理を成立させるのこと等できることは多くあります。

まずは、このような法律の整備や防衛費の増加などから実行していき、その先に日本国憲法の改正があると、私は考えます。

なお、このような法律が成立したとしても、日本で普通に生活している人にとっては、全く関係ありません。審議の過程であからさまにこれに反対するような議員や識者などがいたとすれば、いずれかの国の代理人であるとみて間違いないでしょう。

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2020年2月9日日曜日

知らないと損する、世界の投資家が「米国債を購入」するワケ―【私の論評】数量的なエビデンスでものを考えないと馬鹿になる(゚д゚)!

知らないと損する、世界の投資家が「米国債を購入」するワケ

米国の財政赤字をどう見るか


日経新聞は財務省の広報誌

1月19日の日本経済新聞朝刊に、米政府の財政拡張に関する記事が掲載された。財政赤字額は年1兆ドル(約110兆円)を超え、世界を見ても断トツの数字だ。

債務残高は国内総生産(GDP)の約100%と第2次世界大戦の直後以来の水準となり、利払いは年43兆円に膨らんでいる。日経としては、このまま債務が増え続けるのは危険だという論調を貫きたいようだ。



このような財政緊縮路線の記事ばかりを書いているので、日経新聞は財務省の広報誌、御用新聞と呼ばれるのだ。米政府の数字をどう捉えるのが正しいのか、改めて見ていこう。

米国の金利は1%以上と高く、そのため世界からマネーが集まり、米国の財政赤字を賄っている。目先の金利で投資家を釣り、財政リスクに目をつぶっているというのが日経新聞の解説だ。

米国債の名目金利1%以上を高いと見るのは、あくまで日本やドイツなど例外的な国と比較した場合だ。米国より名目金利の高い国は数多くあり、そうした国の投資家も米国債を購入している。

海外投資家は名目金利のみを理由に投資していない。米国は世界の多くの国に対し経常赤字になっている。つまり多くの国は対米ドル債権を有しているわけだが、その債権の代わりに米国債を購入している。

その際には、為替など他の経済的なファクターも当然考慮されている。金融機関の担当者取材を鵜呑みにして記事を書いていると、こうした誤解が出てくる。

そもそも、政府にしろ民間にしろ、債務残高だけで経済の健全性を語るのは誤っている。企業の財務状況を見るとき、債務残高ではなくバランスシートで資産と負債の両方を見るのはファイナンスの基本中の基本だ。

どんな企業でも負債はあるが、それがどのように活用されているかは資産を見ればわかる。ただ実態がよくわからない部分も多い国の財政に関し、財務省は「由らしむべし、知らしむべからず」のスタンスを貫く。

民間企業の場合、財務状況は企業単体ではなく、グループ企業全体の連結ベースで見る必要がある。国も同様で、国の「子会社」である中央銀行を含めた「統合政府」で見なければいけない。

米国政府を統合政府で見ると、ネット債務残高はGDP比の1割にも満たない程度だ。この数字は英仏独より低く、債務残高で言うのならばこれらの諸国よりよほど健全性が高い。

このように米国政府の健全性は、市場で取り引きされるCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)レートを見てもわかる。簡単に言うと、各国国債が破綻した時に保証される保険(料)であり、財政状況を客観的に表すものだ。そして、米国債のCDSレートは0・15%と、先進国でもトップクラスで低い水準である。

市場のプロは、米国政府の破綻などまったく現実味のない話と見ている。それにもかかわらず、米国政府の財政危機を煽って、誰も耳を貸すはずがない。地政学リスクや上がり続けるダウ平均株価に疑念を持つ人もいるかもしれないが、雰囲気だけで語るのは危うい。きちんとした数量的なエビデンスがあるものを信じたほうがいい。

『週刊現代』2020年2月1・8日号より

【私の論評】数量的なエビデンスでものを考えないと馬鹿になる(゚д゚)!

国の経済の黒字・赤字を企業のそれと同一視するのは間違いです。経常収支の黒字は、国内の需要不振や自国経済の先行きに対する自信喪失の裏返しである場合も少なくないのです。

日本では、一昨年度の国際収支統計は、経常収支が大幅な黒字でした。経常収支というのは、日本国全体としての海外との取引を家計簿のように記録したものです。
我々はマスコミ等で「国は赤字で、国の借金は巨額にのぼる」という話を頻繁に聞かされているので、混乱するかもしれませんが、このマスコミが頻繁に使う「国の赤字」という言葉は「地方公共団体ではなく中央政府の財政収支は赤字だ」という意味ですので、「日本国」が赤字であるわけではありません。

日本の経常収支は下のグラフでも明らかに、黒字が続いていますが、それではこれは黒字だから良いことと単純にいえるわけではありません。それは、中身を精査してみないとわからないことです。

私自身、過去の日本はデフレが続き、現在でも完璧に抜けきっていないですから、やはり国内では、めぼしい直接・間接投資案件がないですから、大企業が海外に投資をしたことが、このような結果になっているものと思います。



貿易収支や経常収支は、「黒字を目指す、赤字を避ける」という、目標として使うのではなく、「いまの自分の国の経済の状況を知る指標」として考えるのが、正しい使い方なのです。たとえば「国内の景気対策がうまく効いたから、経常収支が赤字になった」というふうにです。

米国の財政赤字と経常収支赤字といういわゆる「双子の赤字」は、米国および国際経済上の懸案事項としてしばしば挙げられるものでした。

基本的な問題意識としては、経常収支赤字の解消のために財政赤字の縮小を目指すべきだとされたり、逆に主な貿易相手国(それこそ、日本など)に内需拡大政策を取らせて、貿易相手国の経常収支黒字を縮小させようと画策したりしていました。

日経新聞は米国の双子の赤字を煽っているが・・・。日経新聞より

しかし、ここで注意しなければならないのは、米国は基軸通貨国であり、国際貿易決済手段として、世界中に基軸通貨・ドルを供給する立場であるということです。

世界貿易が小さいうちはまだ良かったのですが、現在のように貿易が拡大を続けていくにあたって、貿易国は決済手段としてのドルやドル建て資産を貯蓄する傾向を持つようになります。

となれば、貿易額が大きくなればなるほど、各国は取引及び貯蓄手段としてのドル(およびドル建て資産)の”純粋”な供給が必要になってきます。

ドルおよびドル建て資産の純粋な供給のためには、米国の財政赤字および経常収支赤字が必要になってくるというか、そうならざるをえなくなるのです。

実際、アジア通貨危機、ロシア通貨危機(1997)、アルゼンチン通貨危機(2001)後において経常収支赤字すなわち世界へのドル・ドル建て資産供給の拡大を余儀なくされています。

もし米国が経常収支赤字に抵抗し、その縮小を目指したら、世界貿易は崩壊を余儀なくされるでしょう。なぜなら世界貿易は、米国の基軸通貨供給に依存しているからです。

もし一時的に経常収支改善と世界貿易堅調が見かけ上維持されていたように見えても、それは途上国等の借入過剰による不安定化を意味する可能性が高いです。アジア通貨危機やアルゼンチン通貨危機はその意味で、基軸通貨の過少供給に遠因があると考えることが出来ます。だからこそ、通貨危機から世界貿易を守るには基軸通貨の追加供給が必要となったのです。

一連の議論で気づいた人がいるかもしれないですが、これは世界を一国と考え、基軸通貨を自国通貨と考えた場合でもまったく同じ議論が出来ます。

自国通貨は、(中央銀行で紙幣や当座預金が”負債”として扱われていることからもわかるように)厳密には政府債務です。信用創造によって通貨を供給し、それ自体が貯蓄手段となる通常の政府債務も同質です。

民間債務も、信用創造によって通貨を供給し、同時に貯蓄手段となっています。こうした経済全体の債務(および債務としての通貨)は、経済全体の貯蓄欲求を満たし、それ以上の通貨が流通することを助けています。もし経済全体で債務不足になれば、通貨流通とそれによる財取引は滞ることになります。

こう考えると、基軸通貨国のアメリカは、財政金融的に見て、世界に対する中央銀行・財務省として機能していることがわかる。アメリカの財政赤字(ベースマネーの供給原資であり、信用創造によるマネーサプライ供給手段でもある)、および経常収支赤字は、世界貿易のために十分な赤字である必要があるというわけです。

ただし、米国の経済は、かなり大きいです。何しろ、以前このブログでも指摘したように、サウジアラビアのGDP(国内総生産)は、世界で18番目です。ところが、米国のペンシルベニア州よりも少ないです。2017年のサウジアラビアのGDPは約6830億ドル、ペンシルベニア州のGDPは7520億ドルでした。そして、ペンシルベニア州のGDPはアメリカ50州のうち6位です。

だからこそ、米ドルは基軸通貨にも成り得るわけです。ちなみに、サウジアラビアのGDPは日本では福岡県と同レベルです。このような事実をあげると、日本経済もまんざらではないと思われる方も多いのではないでしょうか。

サウジアラビアの1人当たり年間所得は、アメリカの約半分に過ぎない

米国が経常収支を黒字にしたいなら、極言すれば、基軸通貨国であることをやめるしかないということになります。それは、ほとんど不可能に近いでしょう。これをトランプ大統領は、理解していないようです。

本来は、中国との貿易が赤字であること自体を問題にするのではなく、中国が国内のプラック的な状況を是正することなく、それで安い労働力や政府による補助金により、米国に低価格の商品を輸出していることにより、米国の雇用を奪ったり、米国の知的財産を剽窃して、不当に利益を得ていることを問題にすべきなのです。

実際、米国はその方向に向かっているようですが、それにしても昨年の米中貿易交渉では、経常収支などを問題にしているようで、この点では、やはりトランプ大統領は、国内経済に関してはまともなのですが、国際経済には疎いようです。しかし、これは何とか是正して欲しいものです。

これでもまだ、米国の双子の赤字を不安に感じる人がいるかもしれませんが、冒頭の記事にもあるように、米国政府を統合政府で見ると、ネット債務残高はGDP比の1割にも満たない程度なのです。いかに米国の経済が大きいのか理解できます。

一方日本は、2017年にはすでに統合政府を含めた、ネットの債務残高はゼロ円になったとされています。2018年以降は、借金どころか、黒字になっています。これは、高橋洋一氏が試算していますし、私自身も日銀や政府が出している統計資料などから、高橋洋一氏の試算が正しいことを、確認し、その結果をこのブログにも掲載したことがあります。この計算はさほど難しいものではありません。足し算、引き算が正確にできれば、誰にでもできると思います。

上の記事でも、「雰囲気だけで語るのは危うい。きちんとした数量的なエビデンスがあるものを信じたほうがいい」と主張されていますが、それは全く正しいと思います。

日経などを含む日本の大手新聞の記者などは、このような確認もしないで、日本の財政が破綻するとか、米国の財政が破綻すると、騒ぎ立てているのでしょう。全く情けないかぎりです。

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2020年2月8日土曜日

【田村秀男のお金は知っている】「新型ウイルス、経済への衝撃」にだまされるな! 災厄自体は一過性、騒ぎが収まると個人消費は上昇に転じる―【私の論評】今のままだと、新型肺炎が日本で終息しても、個人消費は落ち込み続ける(゚д゚)!


 中国湖北省武漢市で発生した新型肺炎による中国本土の死者数は、2002年11月から03年7月にかけて中国広東省と香港を中心に広がった重症急性呼吸器症候群(SARS)による中国本土の死者数349人を上回った。本土以外ではフィリピンに続いて香港でも死者が出た。

 思い出すのは、SARS流行時の香港のパニックぶりだ。筆者はSARS発生時、親しくしていた香港人家族の子供を約1カ月間、預かった。それ以上の規模で本土人が持ち込む、より強力なウイルスは、かつてない脅威となると察する。

 本コラムの趣旨からすれば、新型ウイルス流行が及ぼす経済への悪影響について触れざるをえないが、もとより人の命はカネよりも重い。連日のように訪日中国人の旅行消費が減ったり、中国の現地工場の生産に支障をきたすと騒ぎ立てる国内メディアとは一線を画したい。景気上の懸念がちらついてか、米トランプ政権のように中国人の入国禁止など思い切った隔離政策に逡巡(しゅんじゅん)しているように見える安倍晋三政権の対応に違和感を覚える。その前提で、経済への衝撃を考えてみよう。


 参考になるのは、SARS流行時の香港と広東省の経済動向だ。グラフはSARSの流行前から消滅時にかけての香港の個人消費と広東省の省内総生産(GDP)の前年同期比の増減率推移である。香港では、ふだんは喧騒に包まれている繁華街に出かける人の数が少なくなったと聞いた。広東省は上海など長江下流域と並ぶ「世界の工場」地帯で、生産基地が集積している。

 香港の個人消費は、SARS発症前の01年後半から前年比マイナスに落ち込んでいる。これは米国発のドットコム・バブル崩壊の余波と9・11米中枢同時テロを受けた米国のカネ、モノ、人への移動制限による影響のようだ。

 低調な消費トレンドが、SARSの衝撃で03年半ばにかけて下落に加速がかかった。しかし、SARS騒ぎが収まると、個人消費は猛烈な勢いで上昇に転じた。

 対照的に広東省の生産はSARSの影響が皆無のように見える。むしろ、流行時の02年秋以降から生産は目覚ましい上昇基調に転じている。

 今回への教訓はシンプルだ。本来、景気は循環軌道を描くわけで、基調が問題なのだ。弱くなっているときに新型ウイルスという経済外の災厄に国民や市民、企業が巻き込まれても、災厄自体は一過性で、基本的な景気のサイクル軌道が破壊されることはない。

 もちろん、新型ウイルスが猛威を振るう期間が長期化すれば話は別だ。置くべき焦点は経済政策の失敗だ。日本の場合、デフレ下での消費税増税を繰り返し、新型ウイルス以前から個人消費を押し下げている。この災厄は人災なのだ。今後確実視されるマイナス成長を新型ウイルスのせいにするような政府御用の論調にだまされるな。(産経新聞特別記者・田村秀男)

【私の論評】今のままだと、新型肺炎が日本で終息しても、個人消費は落ち込み続ける(゚д゚)!

マイナス成長を新型ウイルスのせいというか、増税のせいでなくて他のせいにするような政府御用の論調はすでにありました。

内閣府が昨年11月11日発表した10月の景気ウオッチャー調査で、景気の現状判断DIが前月から10.0ポイントの大幅低下となりました。その原因として、消費増税と台風の影響で家計関連の落ち込みが大きかったとしています。

さすがに、消費税増税の直後だったので、この落ち込みの原因として、台風だけにするにはどう考えても無理があるので、台風以外に消費税増税もあげたのでしょう。

ちなみに、このときには企業部門も雇用部門もいずれも低下した。現状判断DI指数の水準は36.7と東日本大震災後の2011年5月以来の低水準となりました。

台風は確かに一時的に、経済に悪影響を与えます。一時経済が停滞するでしょうが、台風被害からの復興で、工事が増え、経済は上向きます。それで、帳消しになってしまうか、場合によっては台風がなかったときよりも景気が良くなったりします。台風のせいにするのは、無理があります。

2014年の4月の増税の悪影響は2015年にも続いていましたが、これを猛暑による野菜高騰のせいにする、愚鈍な経済学者や民間エコノミストらが大勢いました。

野菜も含めた生鮮食品の価格が、天候の影響を受けやすいのは事実です。野菜不足による価格の高騰は、日々スーパーなどで買い物を行う人たちにとっては大きな関心事でしょう。ただ、これが一国の経済全体にどれくらいのインパクトを持つかを考えてみてほしいものです。

レタスの価格指数

2015年の日本の個人消費は年間約300兆円。そのうちに生鮮野菜が占める割合は、6兆円、つまりおよそ2%ほどです。さらにこれは、GDP全体からすれば約1%の割合でしかありません。その程度の範囲内で消費が減ったとしても、GDPに及ぼす影響はマイナス0.1%ポイント未満でしょう。

野菜価格の高騰は、家計への影響度が大きいし、普段からスーパーなどで買い物をしている主婦などの実感にも訴えやすいです。「猛暑日が続いているため」といったロジックも、実際に肌身で猛暑を感じていると、「たしかに今年の夏は暑いからな…」などと思わず頷いてしまいそうになります。

しかし、誰にでもアクセスできるデータを見るだけでも、「天候不順により、食品の価格が高騰して消費が低迷した。だから景気が停滞しているのだ」という議論がいかにメチャクチャなものであるかは簡単にわかります。

経済のごく一部を占めるだけの野菜価格の議論を経済全体の議論にすり替える経済学者、そして、それをもっともらしく報じるメディア―こうした滑稽な構図は、おそらく日本でしかお目にかかることができないのではないでしょうか。

それにもかかわらず、このようなバカげたニュースが恥ずかしげもなく報じられたのは、「消費増税のせいで景気が停滞した」と思われたくない人々がいるからなのかもしれないです。

「個人消費が落ち込んだのは天候不順という不可測の事態によるものであり、消費増税の影響ではない。したがって、10%への増税もスケジュールどおりに進めるべきだ」―そんな世論をつくるために流されたデマ情報なのではなかったのか、そう勘ぐりたくなるほどでした。

私たちの庶民感覚を利用し、消費増税の負の影響から目を逸らすための情報操作があるのだとしたら、それは悲しむべきことです。そうした情報に流されないためには、一人ひとりが最低限のリテラシーを身につけるほかないでしょう。

これと似たような話が、2016年夏場にも登場していたのをご存知でしょうか。日本の国内総生産(GDP)をめぐるちょっとした騒動でした。

事の発端は同年7月20日、日銀のエコノミストが示唆に富んだあるレポートを公表したことでした。同レポートの試算によれば、2014年度のGDPは、政府公表値よりも30兆円多く、1.0%減の大幅なマイナス成長とされていた経済成長率は、実際にはプラス2.4%だったのではないかとされていました。

現行GDP統計と日銀の試算による実質GDP(兆円,年度)
GDP統計は経済官庁である内閣府が公表する、いわば「経済の通信簿」であり、経済政策にとっては最も基本的な判断材料になります。その数値が正確でない可能性を指摘する論文が、金融政策を担う日本銀行から公表されたわけです。

GDPとは、日本全体で生み出されたモノやサービスなどの経済的な付加価値の合計であるが、「そもそも日本経済全体の付加価値を測定することなど、どうすればできるのか?」と思う人もいるかもしれないです。その疑問は部分的には正しいです。

ニュースなどで報じられるGDPは、たいていの場合、さまざまな基礎統計に基づいた推計値です。四半期のGDP速報値が出るのはおよそ1ヵ月半後ですが、そもそもこの時点では十分な基礎統計データが揃っているわけではない。すべてのデータが揃うまでには約2年、場合によってはそれ以上の時間がかかるのです。

GDPに推計値を使うのはどの国でも同じような事情なのですが、以前から日本では、GDP統計の作成プロセスに問題が指摘されています。基礎統計の使い方や推計方法、また、Eコマースのような新形態のサービス業の動向を把握できていないことなどが言われており、実際、日本のGDP推計には大きな測定誤差があるのです。

このような事情は、プロの投資家や経済政策の担い手たちにとっては「常識」です。件の論文も、いわゆるその道のプロが読めば、純粋にGDP統計の問題点を整理するために書かれたものに過ぎないことはすぐにわかる内容でした。

しかし、これを取り上げた経済メディアは、「内閣府のGDP統計を日銀が批判。さらに内閣府側も日銀に再反論」といったセンセーショナルな対立構図を前面に出して報じたのです。

これも経済メディアのかなり恣意的な歪曲だと言わざるを得ないです。2014年の実質GDP成長率が公式統計のマイナス1.0%ではなくプラス2.4%だったのだとすれば、やはり消費増税のマイナス影響は皆無であり、日本経済は盤石な成長を示していたことになるからです。

これもまた、さらなる増税を望む一部の人々には「非常に都合がいい材料」ですが、それを考えると、あの報道の異常なセンセーショナリズムには、どこか奇妙な違和感を覚えずにはいられませんでした。

ただしこれには後日談があります。2016年12月8日に再度、新たな推計方法に基づいた数値が発表されたのです。それによれば、2014年度の実質GDP成長率はマイナス0.4%だったのです。

やはり消費増税があった2014年に、日本経済はマイナス成長を示していたのです。GDP統計のフレームワークについて見直しが必要なことは私も認めますし、その改善が急がれるのは事実ですが、まずはおかしな議論に惑わされないことが先決です。

ちなみに、このブログでは過去に何度かとりあげたように、リーマン・ショック時に、日本銀行以外の世界の他の中央銀行は、景気の低迷に直面し、それに対処するため、大規模な金融緩和政策を実行しました。

ところが、日銀は実行しませんでした。そのため何が起こったかというと、リーマン・ショックの震源地である米国や、その悪影響を多大に被った英国は無論のこと、EUや中国なども速く経済を立ち直らせることができたのですが、本来リーマン・ショックにはあまり関係のなかった日本は、一人負けの状態となり、長い間超デフレと超円高に悩まされました。

基軸通貨国である、米国が大規模な金融緩和をし、日銀が金融緩和をしなければ、相対的に円が少なくなり、円の価値が上昇して、超円高になるのは当然のことでした。それに、デフレであるにもかかわらず、金融緩和をしなかったのですから、デフレが続くのも当たり前のことでした。

当時、私はリーマン・ショックのことを、このブロクでは日銀ショックと呼んでいたくらいです。実際、日本以外の国々では、いわゆる日本のリーマン・ショックのように、景気が長い間落ち込むことはなかったので、「リーマン・ショック」なる言葉は存在しません。これは、和製英語です。他国では、これを「リーマンブラザース破綻に伴う経済の落ち込み」等と称しています。

以下のグラフは、FRBとECB、日銀それぞれのリーマンショック以前と以後の実際にバランスシートの規模の推移を示しているもので、中央銀行のバランスシートの規模とは、まさに各国の中央銀行が行っている金融緩和政策の“規模感”を如実に確認できるものです。


このグラフからは、リーマンショック後、FRBとECBがそれぞれ自行のバランスシートを一気に3倍と2.5倍に増やしているのに対し、日本銀行は1.4 倍しかバランスシートを拡大させていないということがわかります。

しかし、これに関しては日本のメディアはほとんど報道していません。消費税増税による悪影響や、日銀の金融政策の大失敗に関しては、日本ではなぜかまともに報道されません。

なぜこのようなことがまかり通りるのでしょうか。新型ウィルスの悪影響は相当大きいとは思います。しかし、第二次世界大戦と比較すれば、そこまで酷くないとは思うでしょう。

ただ、あの第二次世界大戦であってさえ、統計上は年度ペースでみていれば、多くの国々で後の歴史学者は第二次世界大戦があったことさえ気づかないだろうと、あの経営学の大家ドラッカー氏が述べていました。

簡単にいうと戦争中は、各国が戦争のために、兵器などを大量に製造し、戦後は復興、復旧のためものすごい勢いで、生活物資などを増産するため、年度ベースでみると戦争の形跡など見当たらなくなってしまうのです。

日本も例外ではありませんでした。日本は確かに、原爆を2発も落とされ、主要都市はことごとく爆撃され、とんでもない状態になりましたが、それでも統計上は終戦直後には、国富の70%が残り、そこからスタートしたのであり、良くいわれているように戦後のやけのヶ原でのゼロからのスタートではなかったのです。

大都市や中核都市は焼け野原になっていても、地方での農産物や、製造の基盤は残っており、そこからのスタートであり、決してゼロではなかったのです。そのような物資や基盤を求めて、終戦後しばらくの間は北海道への他地区からの移入が続きました。

しかし、日本の場合は他の先進国では見られなかった特殊な現象がありました。それは、軍部による様々な物資の莫大な隠匿でした。それは、金塊から、米、小麦粉、砂糖、塩、医療品、衣服など様々な膨大な隠匿物資があったことです。

NHKスペシャル「東京ブラックホール」で紹介された、旧日本軍による隠匿物資

これらは、戦争中は戦争継続という意味合いで、まだ理解できますが、戦争が終わっても隠匿していたのは理解できないところです。これは、はっきり言うと犯罪です。

このように、様々な物資が隠匿されたため、終戦直後の多くの国民の生活はかなり貧しいものでしたが、それら隠匿物資も、米軍に摘発されたり、闇市で売られるようになったり、その闇市が日本の警察によって摘発されるなどして、市場に出回るようになりました。そうして、ご存知のように日本は驚異の高度成長を遂げることになるのです。

日本の軍人というか、陸軍省等実体は役人ですから、何やら日本の役人には、物資を隠匿するような習性が元々あったようです。そのような習性は、現在の財務省の官僚や、日銀の官僚などに今でも色濃く受け継がれているようです。

特に財務省は、増税しないと財政破綻するなどとしながら、日本国政府は膨大な金融資産を抱えています。その金融資産の大きな部分は複雑怪奇な特別予算として組まれており、これは従来から財務省による埋蔵金といわれています。

昨年の、消費税10%への引きあげの大失敗もマスコミは報道せずに、景気の落ち込みのほとんどを新型肺炎のせいにすることでしょう。まさに、財務省の走狗です。

しかし、そのようなことをしても、事実は変わりません。日本で、新型肺炎が終息してもなお、急激に消費が上向くことなく、経済は悪くなります。それは日本の財政政策である増税が間違っているということです。そのこと自体は変えようがないのです。

そのことが、日銀ショックや戦後の隠匿物資のように、明々白々になる前に、日本政府としては、増税による悪影響を取り除くべく、何らかの対処をしなければならなのです。

無論政府は、増税による景気の悪化が予め予想されたため、特別予算を組みましたが、その施行は4月からです。さらに、規模的に小さすぎます。秋には、オリンピックが終了し、ポイント還元セールも終了することからこのブログでも、指摘したように確実に景気が落ち込みます。

それに、プラスさらに新型肺炎です。その他、米中貿易戦争も継続中ですし、ブレグジットなどもあります。中東の危機も再び勃発することもあり得ます。現状のままでは、新型肺炎が日本で終息しても、個人消費は増えず、景気が落ち込み続けることになるのは確実です。

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2020年2月7日金曜日

【有本香の以読制毒】新型肺炎、中国の感染者は「10万人超」か 安倍首相「渡航制限の拡大を躊躇なく行う」に安堵も…政府は果断な対応を―【私の論評】中国の都市封鎖という壮大な社会実験は共産主義と同じく失敗する(゚д゚)!

【有本香の以読制毒】新型肺炎、中国の感染者は「10万人超」か 安倍首相「渡航制限の拡大を躊躇なく行う」に安堵も…政府は果断な対応を

中国発「新型肺炎」

日本の防疫体制は大丈夫か=成田空港

3週連続ではあるが、中国湖北省武漢市で発生した新型コロナウイルスについて今週も寄稿したい。

 5日現在、わが国での感染者は35人。一方、中国の保健当局、国家衛生健康委員会が5日発表したところでは、中国本土の患者数が2万4324人となったという。前日の発表から新たに3887人増えている。この増え方だけを見ても収束が程遠いことは明白だが、世界の研究者からは、さらに憂慮すべき数字が示されている。

 日本の北海道大学医学研究院で、理論疫学(流行データの分析)を専門とする西浦博教授は4日、「現時点で中国の感染者は10万人に上る」との推計を明らかにした。

 脅かすわけではないが、さらに恐ろしい別の数字も紹介すると、先月24日、英米2カ国の大学の研究者からなるチームは、2月4日までに武漢市だけで感染者数が25万人以上、最大で35万人に達する可能性がある-と警告していた。

 これらを見るだけでも、新型コロナウイルスについては依然、未知の部分が大きいことに加え、中国政府の発表が真実とかけ離れたものであろうことが分かる。

 これに関連し、筆者には一つ引っかかることがある。西浦教授の会見内容を報じた日本の特定メディアのある論調だ。

 「中国での感染者10万人」という衝撃的な数字を見出しやリードに取るマスメディアが多いなか、なぜか毎日新聞(ネット版)はこの数字を本文でも一切伝えていない。何処への忖度(そんたく)か、「恐れるに足らず」の論調が際立っていた。

 西浦教授の発表に話を戻すと、教授は感染者数の他にも、次の推計を公表している。

 (1)一般的な潜伏期は5日間(2)平均1人の患者が潜伏期間中に1人、発症後に1人に感染させている(3)感染者の半数は最後まで症状が表れない「無症候性感染」の可能性あり(=無症候性でも他人に感染させるかは不明)(4)感染者全体の死亡率は現時点で0・3~0・6%。これはSARS(重症急性呼吸器症候群)の約10%と比べると大幅に低いが、季節性インフルエンザと比べると10倍以上だという。

 結論として、西浦教授は「健康な成人なら適切な治療を受ければ亡くなる人はほぼいないと考えられる致死率だ。基礎疾患があるなどリスクの高い人への対応が必要になってくる」と延べている。

 日本政府には西浦教授の推計含む、国内外の研究者らからの膨大な情報が上がっているだろうが、それらをもって適切な判断を下すのが政治家の仕事。ただし、この際に重要となるのがスピードだ。情報に振り回されタイミングが遅れれば、「良き決断」も水の泡となる。

 安倍晋三首相は5日午後、「渡航制限の拡大を躊躇(ちゅうちょ)なく行う」と衆院予算委員会で言明した。筆者は「ようやく」という安堵(あんど)の思いを抱きながら、同日午後、同じくこの答弁に胸をなで下ろしている一人のインフルエンサーを訪ねた。

 夕刊フジでもコラム「Yes! 高須のこれはNo!だぜ」(月曜掲載)を連載中の高須クリニック院長、高須克弥氏だ。

 高須氏は先月、中国政府が武漢市を封鎖する前から自身のツイッターで、「渡航制限を」と懸命に訴えてきた。医療関係者を名乗る匿名アカウントから慎重論が多く出ていたこともあり、高須氏には誹謗(ひぼう)中傷も寄せられた。しかし、氏は意気軒高そのもの、翌朝にがんの手術を控えているとは思えない「元気」な様子で語った。

 「古いことわざで、『上医は国を医し、中医は人を医し、下医は病を医す』と言うでしょう。政治家の皆さんには『国を治す』という意識、防疫は国防だという視点で動いてもらいたい」と切り出し、日本の行政に苦言を呈した。

 「僕は国を守ることを訴え続けたんだけど、残念なことに全然動いてもらえなかった。『広がる前に早く』と必死に訴えたけど。動きが遅いよね」

 まったく同感だ。

 一方、高須氏は安倍首相の「躊躇なく行う」との発言を評価し応援するともツイートした。果たして今後、日本政府が、前例にとらわれ過ぎない果断な対応を見せるか。筆者も期待半分で厳しく見つめてまいりたい。

 ■有本香(ありもと・かおり) ジャーナリスト。1962年、奈良市生まれ。東京外国語大学卒業。旅行雑誌の編集長や企業広報を経て独立。国際関係や、日本の政治をテーマに取材・執筆活動を行う。著書・共著に『中国の「日本買収」計画』(ワック)、『「小池劇場」の真実』(幻冬舎文庫)、『「日本国紀」の副読本 学校が教えない日本史』『「日本国紀」の天皇論』(ともに産経新聞出版)など多数。

【私の論評】中国の都市封鎖という壮大な社会実験は共産主義と同じく失敗する(゚д゚)!

中国の新コロナウィルスの猛威は依然、強まるばかりです。台湾紙「自由時報」(6日付)などによると、中国では現在、浙江省杭州や、河南省鄭州、江蘇省南京などで住民の移動を制限する「封鎖式管理」が実施されており、少なくとも34都市に上るという。

 中国の各都市の正確な人口を把握するのは難しいですが、メディアや金融機関の資料をもとに加算すると、計約1億5695万人(推計)となりました。日本の総人口(約1億2600万人)より多いです。ロシアの人口は約1億4000万人ですから、ロシアの人口よりも多いです。

中国の人口は約14億人(中国国家統計局調べ)だけに、約11%が封じ込められていることになります。

新型ウイルスの潜伏期間は最長2週間とみられていることですから、これまでに類を見ない大規模な隔離が奏功したのか、それともひそかに感染が広がり、さらなる拡大を引き起こすかが間もなく分かる見通しです。

人口1100万人の湖北省武漢市の移動規制は1月23日に始まり、同市発着の国内便の運航や列車の運行、バスや地下鉄などの公共交通機関も停止しました。

英国のシンクタンク、王立国際問題研究所の世界保健安全保障センター長、デービッド・ヘイマン氏は4日、ロンドンでの記者会見で、「中国は国内外の感染拡大を阻止できるかどうかを試す壮大な実験を行っている」とした上で、「状況を監視・評価するシステムを設け、有効かどうかを見極める必要がある」と語りました。

現在の封鎖された都市のある省は、下の赤く塗られた省です。


以下に、新型肺炎により封鎖された封鎖都市と人口をまとめた表を掲載します。


伝染病に対処するための、都市封鎖は過去に例をみません。まさに、これは中国の壮大な実験です。共産主義そのものが、壮大な社会実験だっともいわれています。

そもそも何故、レーニンが唱えた共産主義が成功しなかったか、という根源的な問題を考えてみると、それは、資産の平等化という経済的観点ではなく、個人の権力志向、他人への優越感、エゴ、妬みなど、理性ではなく情念が社会制度とは無関係にいつも社会を混乱に陥れる原因となっていたことです。

社会主義の70年にわたる実運用は何十億人もの人間を巻き込んだ壮大な社会実験であり、結果的に人間の卑しい情念がある限り、社会は本質的に変わらないことが分かったに過ぎません。しかし一面では、この情念こそが人を駆り立て、社会や経済を発展させる原動力でもあるのも事実です。

共産主義の失敗は明らかに成り、現在の中国の体制は国家資本主義という全体主義体制です。現在共産主義体制の国はこの世界にはなくなりました。しかし、どのように体裁を繕ってみても、中国の体制は共産党1党独裁の全体主義体制です。

さて、封鎖措置について、北京の医療関係者は「人道的には問題があるが、感染拡大阻止の面では効果がある」と期待を示しています。一方でサウスチャイナ紙は「予防策としてはすでに遅すぎるかもしれない」という伝染病専門家の見方を伝えています。

今回の中国共産党による都市封じ込めの壮大な社会実験は、吉とでるのでしようか、それとも凶とでるのでしょうか。

封鎖された武漢市

私としては、凶とでる確率のほうが高いのではないかと思います。武漢市の封鎖は1月23日10時から始まったのですが、通告時刻は同日午前2時5分でした。その間数十万の武漢市民が脱出しました。多くの自覚症状のない保菌者が脱出したとみられます。この時点で、この実験は失敗している可能性が高いです。

さらに、最初にこの新型肺炎が発見されたのが、昨年の12月ということも災いしていると思います。この時点で中国当局が最初の手を打たなかったことで、新型コロナウィルスがすでに多くの人を媒介に全国に伝播しているはずです。

このような状況になってから、都市を封鎖したとしても、その後の二次感染、三次感染を防ぐことはできません。

結局全体主義体制による、隠蔽などの初動のまずさが、その後いくら都市封鎖などという全体主義ならではの、とてつもない大胆なことを実行しても失敗することを、示すだけに終わるのではないでしょか。その時には、現体制の中国は崩壊することになるでしょう。

そうなれば、共産主義に続き、全体主義体制も結局失敗することが実証されることになります。

私達は、まさに生きているうちに、全体主義の失敗過程を見た歴史の生き証人になるかもしれません。

ただし、これは杞憂に終われば良いとは思います。多くの人々が病に倒れることがないことを祈ります。私自身は、全体主義は新型肺炎などとは関係なく、現在では結局滅ぶと思っているからです。

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2020年2月6日木曜日

新型肺炎、ついに中国国内で習近平主席の稚拙な対応への批判高まる…共産党内部や国民から―【私の論評】常軌を逸した習近平の行動は、何を意味するのか?

新型肺炎、ついに中国国内で習近平主席の稚拙な対応への批判高まる…共産党内部や国民から

1月23日、中国共産党の祝賀会に出席する習近平氏

新型肺炎への対応の不備を中国共産党指導部が初めて認めた。共同通信は3日、『習近平指導部、対応の誤り認める 新型肺炎で初動に遅れ』と題する記事を配信。「中国共産党の習近平総書記(国家主席)ら党最高指導部が新型コロナウイルスによる肺炎に関する会議を開き、感染症対応に誤りがあったことを認めた」と伝えた。中国の国家指導部が誤りを認めるのは非常に異例だ。共産党一党支配体制の揺らぎなのか、2日にはYouTube上に感染源となった武漢市に「臨時政府樹立」を訴える動画がアップロードされるなど、中国国内の混乱に拍車がかかっている。

「武漢臨時政府樹立」?

 動画は『緊急直播:武漢臨時政府湖北獨立宣言 605』と題し、2日にアップロードされた。4日正午現在でも視聴可能できた。動画では中国人男性が「武漢でSARSに似たウイルスの情報をネット上に流した医学生8名が警察に逮捕された」などと述べ、新型肺炎に対する中国当局の対応を批判。救援物資の公平な分配、感染予防策の適切な実施など5項目を中央政府に要求した。合わせて、普通選挙の実施、直接選挙による大統領の選出の必要性や、香港、チベットの独立を訴えた。

 この動画が武漢市の市民が作成したのか、語られている内容が事実なのか確認は取れていない。一方で、中国では当局への批判や、共産党の支配体制に対する批判、そして分離主義と呼ばれる「一つの中国」を否定する言論が厳しく統制されてきた。

 そもそも中国政府は「金盾」というインターネット上の検閲システムを使って、中国国内でのYouTubeやグーグルの利用を制限している。ウィーチャットやウェイボーなど中国国内で普及しているSNSではなく、YouTubeという媒体を使って動画が投稿されているため、この動画の信ぴょう性に難はある。一方で政府が動かずに、こうした習近平指導体制を真っ向から批判する動画が2日以上も野放しになっていること自体が異常な感を受ける。

習近平の身に何かが起きている

 中国情勢に詳しい評論家の石平氏は4日、Twitterに以下のように投稿した。

「習近平の身に何か起きているのではないかという観測が出ている。先月28日に彼がWHO事務局長と会談して以来公の場に姿をいっさい現していない。昨日、習が政治局会議を主宰したと報じられるが、テレビ局は会議の映像をいっさい流さないし、今日の人民日報も関連写真を掲載していない。何か変である」

「昨日の中共政治局常務委員会議にかんし、日本の一部報道に『中央指導部誤り認める』が出ている。確かに、会議の公式発表には『疫情対策における欠点と不足』を認めた個所があるが、それが中央政府の問題か地方政府の問題かを明確にせず、中央指導部が自分自身の誤りを認めたことになっていない」

石平氏「習氏の強力な指導者の虚像が崩壊」

 当サイトでは、石平氏に今回の投稿と新型肺炎の対処失敗に伴う習近平指導体制への影響に関して聞いた。

【石平氏の見解】

 今回の新型肺炎拡大の対処失敗で、習近平氏が就任以来7年間、宣伝機関などをフル活用して描いてきた「強力な指導者」の虚像が完全に崩れたと思います。初動対応の遅れや情報の隠蔽などは明らかで、「深刻な状況になってやっと動き出した」というイメージは拭えません。

 1月25日、新型肺炎の対策のための指導小組(対策本部)が立ち上がりました。本来であれば国家主席であり党総書記の習氏がトップになるべきところを、トップに就任したのは李克強首相でした。

 共産党にはさまざまな小組がありますが、習はすべての小組のトップに就任し、権力を集中させてきました。伝統的に本来、首相の李氏が就任するポストの中央財経指導小組ですら、習氏が就任したほどです。

 ところが、国民の生命がかかるまさに国家存亡の事態に際して、その対策の責任者につかないというのは明らかにおかしいです。少なくともこれまで、自然災害や疫病が発生した際、中国共産党のトップは必ず現地に入って最前線で激励してきました。江沢民も胡錦濤もそうでした。ところが、今回はその役目を李氏に押し付け、責任を放棄しました。

 こうした行動に対して、今まで国家主席の任期延長など、習氏の指導に疑問があった共産党幹部や国民の不満が暴発しつつあります。先日、中国中央電視台の生放送で取材を受けた武漢市幹部が党指導部の隠蔽工作を批判しました。また精華大の教授が党の対応を批判する文書を公表するなど、習近平指導部に対する批判の声が高まっています。

 一方で、李氏の評判は高まるばかりです。習氏は7年間、李氏の台頭を押さえつけていましたが、これでそれも終わりです。李氏の仕事ぶりは毎日、報道で伝えられています。

 この状況が続けば、習氏の権威体制に変化が生じてくるでしょう。新型肺炎が小康状態になるまで、共産党内には今回の失態に関して責任を追及する余裕はないでしょうが、ある程度、収まった時期に責任を問う声は上がると思います。少なくとも、習氏の個人独裁体制が崩れる可能性はあると思います。

(文=編集部)

【私の論評】常軌を逸した習近平の行動は、何を意味するのか?

冒頭の記事では、習近平の無責任体制を批判していますが、一方日本では、習近平が2月3日の会議で「初動対応の遅れを認めた。反省を表明するのは異例」という報道がなされて、いますが、これは日本の報道機関による、歪曲報道のようです。

それについては、遠藤誉さんのニューズウィーク日本版の記事で完璧に否定さています。その記事のリンクを以下に掲載します。
習近平は「初動対応の反省をして」いないし「異例」でもない

この記事より、以下に一部を引用します。

"
2月3日に習近平総書記が中共中央政治局常務委員会委員を招集し会議を開催した。筆者は「中共中央政治局常務委員会委員7人」に対して「チャイナ・セブン」という名前を付けたので、この後は便宜のため「チャイナ・セブン会議」と略称することにする。

2月3日のチャイナ・セブン会議で討議された内容は2月4日のコラム<習近平緊急会議の背後に「武漢赤十字会の金銭癒着」>でも述べたが、日本のメディアは異口同音に北京共同の報道<習近平指導部、対応の誤り認める 新型肺炎で初動に遅れ>の線でしか報道していないので、それが如何に間違っているかを、単独に取り上げて考察したい。

以下に示すのは、共同通信の報道をはじめとして日本のメディアが一斉に報道しているチャイナ・セブン会議の内容の中の、根拠としている部分の文章である。

これをご覧いただければわかるように、会議では赤線で囲んだ一文は、その後に書いてある「5つの要」を指している。 

まず、赤線囲みの中を丁寧に翻訳すると「このたびの感染は我が国の統治システムと能力に対する大きな試練だ。われわれは必ず経験を総括し、そこから教訓を学ばなければならない」となる。

そのためには、何をしなければならないかということが、この赤線囲みの下に列挙された5つの「要」である。この「要」とは「~しなければならない」という意味で、政府文書でそのように書けば、「~せよ!」ということに相当する。

要1:今回の疫病伝染対応で露わになった短所や不足に対して、国家応急管理システムを強化し、危機処理能力(緊急・困難・危険という重要任務に対処する能力)を高めよ!

要2:公共衛生環境に対して徹底的にローラー作戦を実施し(しらみつぶしに不衛生な部分を捜査せよ)、公共衛生の短所を補え!

要3:市場監督を強化せよ!どのようなことがあっても、違法な野生動物市場と貿易を徹底的に打撃して取締り、源から重大な公共衛生のリスクを制御せよ!

要4:法治建設を強化し、公共衛生の法治を保障せよ!

要5:システマティックに(系統的に)国家の備蓄物システムの欠点を整理し、備蓄物の効能を高め、肝心な物資生産能力と布陣を向上させよ!

以上である。

この指示のどこに、「初動対応の遅れを反省する」などという言葉があり、またまるで習近平が「謝罪の意思を表明した」ような要素があろうか。
"
これを見る限り、習近平は初動対応の遅れを認めてもおらず、反省も表明していません。「初動対応の遅れを認めた。反省を表明するのは異例」という日本の報道機関の報道は、忖度以外の何ものでもないようです。それも、悪しき忖度です。

私自身は、この期に及んでも、日本への国賓待遇での訪問に固執する習近平が、「初動対応の遅れを反省したり、異例の反省を表明することなどあり得ないと思っていましたが、まさにその通りです。

日本では、ガールズグループ「TWICE」が31日、公式サイトを更新。2月1、2日に東京ドームシティ内で開催を予定していたCDお渡し会を、新型コロナウイルスによる肺炎患者拡大の問題を受けて中止すると発表しました。

ちなみに、「TWICE」は、2015年に韓国で結成された韓国人5人、日本人3人、台湾人1人の9人で構成された多国籍のアイドルグループです。

サイトで「新型コロナウィルスについて、WHO=世界保健機関による『国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態』宣言および日本政府が当該感染症を『指定感染症』とする政令について施行日を2月1日に前倒しする方針を示しましたことを受けまして、再度協議をいたしました結果、お客様およびメンバーならびにスタッフの健康および安全を最優先に考慮し、本イベントの開催を両日とも中止させていただくこととなりました」と説明しました。

新型肺炎の影響を鑑み、週末に開催予定の芸能イベントは続々と中止、延期を発表しています。

この日、アイドルグループ「日向坂46」は2月1日開催予定のイベントと、2日に東京ビッグサイトで予定していた握手会の延期を発表。「SKE48」「NMB48」もこの日、2月2日に大阪で予定していた握手会を延期しました。

日向坂46

ハロー!プロジェクト所属の「こぶしファクトリー」も同日、2月1日に予定していたミニライブと握手会の中止を発表しました。

このように、様々なイベントが日本国内でも中止されています。習近平の国賓待遇での来日を実行すれば、天皇皇后両陛下は無論のこと、安倍総理等を含めた日本の政府要人等が、習近平ならびにその随行員などをもてなすことになります。それをもてなすために、それ相当の人数の人々が接遇にあたるわけです。

習近平に天皇皇后両陛下、政府要人、ならびに接遇スタッフの健康および安全を最優先するという配慮ができるなら、今回の訪問は中止するか、延期するのが当たり前だと思います。習近平としては、天皇陛下にも謁見して、日本を味方につけ、何とか苦境を打開したいと目論んでいるのでしょう。

過去においても、現上皇陛下が天皇陛下であった時に、中国を訪問して、当時天安門事件で世界中からそっぽを向かれて孤立していた中国が、日本の天皇を迎えたということで、また世界に受け入れられたということがありました。これは、まさに中国共産党による天皇陛下の政治利用でした。

今回の、習近平の国賓待遇での日本訪問も、まさにこのような政治利用であり、日本ではほとんど報道されていないのですが、このブログで解説したように米中貿易交渉の完全敗北等の失地回復のための方策の一つなのでしょうが、それにしても時期が悪すぎます。

このような危機的な状況の時に一国のリーダーが母国を離れ、他国に国賓待遇で招かれるなどのことがあれば、いずれの国でも、そのリーダーへの信頼は著しく失墜するでしょう。

習近平は、昨年(2019年)9月3日、青年幹部らに重要講話を行っています。その際、習主席は55回以上も「闘争」と言う言葉を使用しています。目下、習主席は、共産党で党内闘争を行っていると見られています。

その原因は(1)一向に改善されない中国経済(2)いつまでも続く「米中貿易戦争」(3)収束しない香港デモ(4)5Gを巡る覇権争いで、ファーウェイ(華為技術)が限界(5)アジアに蔓延する「アフリカ豚コレラ」等が、当時から習近平政権の足を引っ張っていました。それに今年は、新型コロナウィルスの問題が加わったわけです。まさに、習近平政権の危急存亡の時と言っても過言ではありません。

ましてや、中国では、反習近平派が、習近平が来日すれば、その隙きを狙って何をするかもわかりません。クーデターが起きても不思議ではありません。そのような時期に訪日する習近平にはとても常人の常識があるとは思えません。

習近平が、このように社会常識が欠如しているのは、中国共産党という異常な組織に安住して埋没しているからでしょう。中国の歴代の主席の中でも、鄧小平あたりまでは、中国国内の自分たちの常識と、海外の常識は違うということは、認識していたでしょう。しかし、長い間中国の非常識に浸って生きてきた習近平はそうではないようです。

中国共産党は、国内外で非道の限りをつくし、反対するものは、暴力で弾圧し、WTOやWHOなどのような国際組織においても札束にものをいわせ、我が物がを振る舞い、他国の領土(チベット、ウイグル等)にも平気で侵略して我が物にし弾圧し、挙げ句の果てに世界唯一の超大国である米国の怒りを買っています。

そのような中国ですが、実は中国のGDPは虚偽であり、実は日本以下どころか、ドイツよりも下であるという識者などもいます。それも、かなり信憑性があります。

それはさておき、日本が、GDPが米国に次いで、二位と公式に言われていた時代でも、多少浮かれていたところはあったかもしれませんが、中国のような酷い振る舞いは、さすがにありませんでした。

やはり、中共は常識外れです。その中でも、習近平は非常識極まりありません。日本の報道機関も、習近平に忖度するというのなら、日本訪問中にクーデターが発生する危険もありえることなど報道すべきです。そのほうが、よほど習近平の身のためです。

いや、日本のメディアはもうそのようなことは十分承知しているのかもしれません。習近平は相当追い詰められていて、その時期ではないとわかっていながら、日本を国賓待遇で訪問して、事態を打開する以外に道はないのかもしれません。

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2020年2月5日水曜日

新型コロナウイルスで北朝鮮崩壊の兆し―【私の論評】今年は新型肺炎で、文・習・金の運命が大きく変わる【2】(゚д゚)!


外相交代などの人事から垣間見える金正恩体制の窮状

1月1日、北朝鮮の金正恩委員長が米国に対する警告と新型兵器について語るのをテレビで見るソウル市民

本稿は、中国で発生し、感染が拡大している新型コロナウイルスが、北朝鮮情勢に及ぼす影響について分析するものである。

 今回の中国発のコロナウィルス感染症の拡大が北朝鮮に及ぼす影響は、比喩的に申し上げれば、「弱り目に祟り目」と言ったところだろう。これが嵩じると「失明」に至る危険がある。

■ カミュの「ペスト」: 不条理が集団(都市)を襲った物語

 筆者は、新型コロナウイルスの感染拡大の様を見ていると、アルベール・カミュが書いた小説『ペスト』を思い出す。奇しくも出版は筆者の誕生の年の1947年だ。

 カミュは、中世ヨーロッパで人口の3割以上が死亡したペストを、不条理が人間を襲う代表例と考え「ペスト」で、不条理が集団(都市)を襲う様子を描いた。

 物語(当然フィクション)は、フランスの植民地であるアルジェリアのオラン市をペストが襲うという設定だ。

 ペストが蔓延する中、人々が何もコントロールできない無慈悲な運命を非情な語り口で描いている。

 新型コロナウイルスが発生し、感染が拡大している武漢市あるいは中国全土は「ペスト」の舞台となったのオラン市(面積は64平方キロで2006年時点の人口は68万3000人)とは面積・人口とも比べ物にならないが、相似性はある。

■ 新型コロナウイルスの感染拡大が継続

 2月2日現在、感染拡大が継続している。中国本土での患者は1万4300人を超え、死者は304人に達した。

 なお、香港大の研究チームは、武漢市の感染者が最大7万5800人に上っている可能性があるとの推計値を1月31日付の英医学誌ランセットに発表した。

 余談になるが、北朝鮮の金正恩氏はこの事態に臨み、習近平国家主席にお見舞いの書簡を送り「苦痛分かち合い、助けたい」と述べたという。

 それを見た習近平氏は金正恩氏が置かれた苦境を察知し、苦笑しているに違いない。

■ 北朝鮮に見られる異変

 北朝鮮の“宗主国”である中国が未曽有の危機に見舞われるのと相前後して、昨年末来、北朝鮮にも次のような異変がみられる。

 これらの異変が、なぜ起こったのか定かではないが、金正恩氏の健康問題や体制の揺らぎなども否定できず、今後注視する必要があろう。

 ●「人工衛星」状態だった金平一の帰国(昨年末)

 金正恩氏の叔父で駐チェコ大使だった金平一氏(65)が昨年末に、北朝鮮に帰国したと報じられた。

 金平一氏は、金正日氏の異母弟で金正恩氏の叔父だが、金正日氏との後継者争いに敗れ、まるで人工衛星のように30年間以上も海外を転々としてきた。

北朝鮮の駐チェコ大使を務めた金平一氏(2015年1月、プラハ)

 その風貌が金日成主席と似ていて軍内にも支持者が多く、一時は後継者に目されていた。

 2017年2月に金正恩氏の異母兄、金正男氏がマレーシアで殺害される事件の前には、欧州の脱北者団体が金平一氏を亡命政府の首班に担ぎ上げようとする動きがあったが、金平一氏は一貫して正恩氏に恭順の意を示してきたとされる。

 金平一氏がこの時期に帰国した真意については不明だが、筆者は金正恩氏が死亡するなどの不測の事態に備え、反体制派から次期首班などに担ぎ上げられるのを未然に防止するというシナリオを憶測している。

 ●6年ぶりに金正日氏の妹の健在を確認

 労働新聞によると、1月25日、金正日の実妹・金慶喜氏(正恩氏の叔母で、その夫の張成沢氏は正恩に粛清された)が旧正月を祝う記念公演の観覧に正恩氏と同席したという。

 慶喜氏の公開活動は約6年ぶりで、病持ちの老女が健在を示した形だ。

 金平一の帰国と相俟って、慶喜氏の登場は儒教国家の北朝鮮で寛容政策をPRし、何らかの事態に備えて内部結束や体制安定を図る狙いがあるのかもしれない。

 儒教文化の中で、若造の正恩氏がリーダーシップを握るのは苦労が多いものと見られ、伯父・叔母までも動員せざる得ない状況(体制不安)に追い込まれたのかもしれない。

 ●年末の党中央委総会は尻切れトンボ

 朝鮮中央通信によると、金正恩氏は党中央委の活動状況と国家建設、経済発展、武力建設に関する総合的な報告を行ったうえで、「革命の最後の勝利のため、偉大なわが人民が豊かに暮らすため、党は再び困難で苦しい長久な闘いを決心した」と述べ、報告を終えたと報じた。

 総会は開催以前から「重大問題や新たな闘争方向と方法などを討議する」と鳴り物入りで開かれ、異例の長期間(4日間)行われたものの、何ら新しいビジョンを打ち出すことができず、尻切れトンボ状態で終わった感がある。

 このことは、北朝鮮が米国のドナルド・トランプ大統領による「戦略的な遅滞作戦(制裁解除を匂わせながら合意・解決を先延ばしする作戦)」に翻弄される結果となり、金正恩氏が人民に「長期戦」呼びかけるだけで、その打開に行き詰っていることを物語るものであろう。

 金正恩氏が生き残りを懸けたはずの対米交渉カードは、核ミサイルの開発であるが、トランプ氏の「戦略的な遅滞作戦」により、それは北朝鮮自身の身を削る「壮大な浪費」になるだけである。

 金正恩氏の下では「明日」が見えず、人民は金王朝3代にわたる窮乏生活を強いられているが、それももはや限界に近づきつつあるのではないか。いよいよ追い込まれた感が否めない。

 ●ミサイルも発射せず:「クリスマスプレゼント」は反故に

 昨年末、金正恩氏は米国に「経済制裁の緩和をしてほしい。12月末がその限度だ」と一方的に期限を示し、その結果次第では米国に「クリスマスプレゼント」を贈ると予告していた。

 「クリスマスプレゼント」は弾道ミサイル発射である可能性が取り沙汰されていた。

 一方のトランプ氏は「ミサイルではなく花瓶かもしれない」と冗談を飛ばす余裕を見せた。メディアなどは、「この年末がまずは一つの大きな山場」と報じていた。

 結果は、金正恩氏は何もできなかった。

 やはり米国が怖いのだ。米国との貿易戦争を「休戦」したい中国から「余計なことをするな」とたしなめられた可能性もある。

 金正恩氏の狂ったような核ミサイル開発の加速は、米国の関心を惹き、安全保障をより確実なものにする意味では正しいだろうが、それによる「壮大な浪費」は、確実に人民を飢えさせ、「人民からの反感」を募らせる効果を持つことを無視している感がある。

 ●金正恩氏の「新年の辞」なし

 金正恩氏は2013年に政権が発足して以来、毎年発表してきた新年の辞を今年はやめた。これは異例である。

 その理由として昨年末の党中央委総会で7時間にも及ぶ長広舌がそれに代わるからだと言われている。本当にそうだろうか。金正恩氏の健康悪化や体制の不安定化などの疑惑も浮上する。

 いずれにせよ、前項でも指摘したように、北朝鮮は米国の制裁などで追い込まれ、新年の辞で新たなビジョンを打ち出すことができないのは事実であろう。

 金正恩氏が「新年の辞」をやめた事実は、彼の「元首」として指導が破綻したことを疑わせるものである。

 ●金正恩の健康を蝕むストレス

 昨年末、挑発を繰り返す北朝鮮に対して、在韓米軍は韓国軍と共同で特殊部隊により北朝鮮首脳部を攻撃し幹部を捕獲するといういわゆる「斬首作戦」の訓練映像を初めて公開した。

 また、1月3日には、イラン革命防衛隊の精鋭部隊「コッズ部隊」のソレイマニ司令官がイラク・バグダッドで米軍のドローンから発射されたミサイルによって暗殺された。

 これは、型破りのトランプ氏が破天荒な決断をするという印象を改めて金正恩氏に示したことになる。

 本件は、トランプ氏の破天荒な決断のみならず、米国・米軍の情報能力がターゲットとなる要人をピンポイントで時々刻々フォローできることを内外に見せつけた。

 これに対して金正恩氏は、「新年の公式活動」と称して平安南道にある肥料工場建設現場を訪問・指導する様子を1月7日付の朝鮮中央通信で報道させた。

 金正恩氏は「強がり」を示したかったのだろう。だが、現実には自分が常に米軍に付け狙われていることを強く再認識し、恐怖感を募らせたであろう。

 金正恩氏は、夢の中で厳寒の平壌を、枕を抱えてドローンの追跡から逃げ惑う夢を見ているのかもしれない。

 独裁者の金正恩氏は、それでなくともストレスが多いのに、暗殺の恐怖はそれを倍加させることになろう。

 体重が130キロの金正恩氏は、肥満や糖尿病などの生活習慣病があると見られ、ストレスの増加は病状を確実に悪化させよう。

 ●人事の刷新:軍出身の李善権氏の外相就任

 朝鮮中央通信は1月24日、外務省が開催した旧暦の新年の宴会で、軍出身の李善権新外相が演説したと報じ、外相交代を確認した。


 李氏は核問題や米国との交渉に携わった経験がないため、李氏の外相任命は北朝鮮事情に詳しい専門家には意外感を持って受け止められた。

 米国務省のスティルウェル次官補(東アジア・太平洋担当)は李氏の外相就任について「変化があった。このこと自体が何かが起きたことを物語っている」と述べた。

 また、人民武力相(国防相に相当)に金正寛陸軍大将が任命されたことが1月22日に確認された。金正寛大将は、人民武力省副相兼中将からの格上げである。

 これら軍と外交のトップの交代(更迭)がいかなる意味があるのかは不明であるが、北朝鮮内部で何らかの異変が起こっているのかもしれない。

 ちなみに、李氏は対韓国政策分野の実力者の一人で、南北軍事実務会談の代表も務めた。

 2018年、南北首脳会談に合わせて平壌を訪れた韓国企業のトップらに「よく冷麺がのどを通るなあ」ときつい皮肉を言ったことが明らかになり、物議を醸した。

■ 新型コロナウイルスが及ぼす影響

 北朝鮮で上記のような異変がみられる中、中国で発生した新型コロナウイルスの感染拡大は北朝鮮にいかかる影響を及ぼすであろうか。

 ●中国の新型コロナウイルスの感染拡大は冷戦崩壊直後の悪夢と同じ

 中国が今次新感染症の拡大で大きなダメージを受け、一時的にせよ弱体化する事態は、北朝鮮の後ろ盾だったソ連が崩壊(1991年末)した事態に似ている。

 北朝鮮はその混乱の最中に金日成が死亡(1994年)し、若い金正日が待ったなしで政権継承することになった。

 このため、北朝鮮は体制崩壊の危機に瀕した。金正日が政権継直後の1995年から98年にかけて飢饉のために約300万人が餓死した。

 今次新感染症のダメージで、北朝鮮の唯一の後ろ盾である中国が弱体化すれば、そのダメージの程度にもよるが、北朝鮮はソ連崩壊と似たような困難な状況に直面せざるを得ないだろう。

【私の論評】今年は新型肺炎で、文・習・金の運命が大きく変わる【2】(゚д゚)!

 北朝鮮は新型コロナウイルスの拡散を防ぐため中国やロシアとの国境を封鎖、海外との取引もほとんど絶たれており、国内経済への大きな打撃が懸念されています。経済発展を掲げる金正恩朝鮮労働党委員長にとって痛手は避けられない情勢です。

すでに近隣諸国との航空便や列車の運行を取りやめ、最近入国した外国人には数週間の強制検疫を実施、海外からの観光客受け入れも中止しており、国の閉鎖に拍車がかかっています。

北朝鮮ではこれまで新型コロナウイルスの感染は確認されていません。これは、同国が頼っている中国など経済的つながりが断絶され、あるいは極端に制限されていることも意味します。
今後北朝鮮の市場経済だけでなく、国の経済全体に大きな影響が及ぶでしょう。北朝鮮は国産を推奨していますが、菓子であれ衣服であれ原料は中国から輸入しています。
北朝鮮の経済的リスクの度合いは、閉鎖の長さにかかっていとみられます。数か月あるいはそれ以上になれば、相当な悪影響を与えることは確かです。

最近の韓国の貿易協会のリポートによると、2001年には17.3%だった北朝鮮の対外貿易に占める中国の割合は、去年91.8%に達しました。数千人の中国人観光客も大きな経済効果をもたらしています。

米国との非核化交渉が暗礁に乗り上げるなか、今回の新型ウイルス危機で北朝鮮の立場が弱まることも考えられます。

経済的苦境を埋め合わせるため、北朝鮮が長距離弾道ミサイル発射や核実験など挑発行為に出る可能性もあります。コロナウイルス問題がすぐに解決されなければ、北朝鮮の状況は今年一層厳しくなるでしょう。

新型肺炎による混乱が重なれば、国民の意識にどのような変化が生じるかわからないです。北朝鮮の朝鮮労働党機関紙・労働新聞は1月29日、新型肺炎への対策は「国家存亡に関わる重大な政治的問題」であるとする記事を掲載しましたが、この表現は決してオーバーなものではといえます。


韓国も、コロナウイルス対策はそれなりには行っているようですが、このブログでも述べているように、文在寅政権は金融緩和することなく、最低賃金だけをあげるという、日本でいえば立憲民主党の枝野氏の主張するような、最初から見込みのない経済政策を実行して、予想通りに雇用が激減しています。

この状況でコロナウィルスの悪影響を受ければ、今年の大統領選挙では敗北する可能性も十分あります。

トランプ米大統領は4日の一般教書演説で、北朝鮮の核問題に言及しませんでした。トランプ氏が同演説で北朝鮮に触れないのは初めてです。11月の大統領選に向けた選挙活動が本格化する中、トランプ氏は打開の見通しの立たない北朝鮮との交渉には力を注がないのではないかという臆測を広げそうです。

トランプ氏は昨年2月の一般教書演説では、同月下旬にハノイで2回目の米朝首脳会談を開催すると発表。「金正恩(朝鮮労働党委員長)との関係は良好だ。朝鮮半島の平和に向け歴史的奮闘を続ける」と訴え、北朝鮮問題を優先課題に掲げました。

ところが、ハノイ会談は非核化の進め方をめぐり物別れに終わりました。正恩氏は昨年末、トランプ氏に中止を約束した核・ミサイル実験の再開を示唆して強硬路線に転じ
る姿勢もみえ、非核化協議再開のめどは立っていません。

トランプ氏は日本にも触れず、アジア政策では中国について、新型コロナウイルスによる肺炎をめぐる協力や、貿易交渉の成果に触れた程度でした。習近平国家主席を含む中国との関係は「恐らくこれまでで最も良い」と主張し、中国への厳しい姿勢は鳴りを潜めたようにもみえます。

ただし、中国に対して米国は「貿易交渉」において、このブログにも掲載したように米国は一方的な大勝利をしています。この交渉で米中には七つの合意事項がありましたが、一番最期の合意事項は、6つの合意事項について、米国が監視するというものです。

今年は年初から、コロナウィルスの中国での蔓延という特殊事情が米国との貿易交渉で一方的に大敗北した中国に追い打ちをかけています。トランプ政権としては、コロナウィルスによる、中国、北朝鮮、韓国などがどの程度影響を受けるのかを見極めつつ、大統領選機にもっとも有利な形になるよう、これらの国々の対応を決めていくことでしょう。

今年は文・習・金の運命が大きく変わる年になるかもしれない・・・・

いずれにせよ、先日もこのブログに掲載したように、今年は新型肺炎で、文・習・金の運命が大きく変わることでしょう。この三者が表舞台から姿を消すということも十分あり得ます。

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