- 配偶者控除の見直し議論が政府税制調査会で行われている。
- 現在の配偶者控除は高所得者に有利で、低所得者には恩恵が少ない。
- 日本の配偶者控除制度は、米国や欧州諸国の制度と異なり、年収の少ない配偶者がいる場合に追加控除を行う。
- 年収の壁を解消するために、N分N乗方式やタックスクレジットの導入が提案されている。
- 制度見直しによる税負担増がないようにすることが重要である。
岸田首相 |
欧米では、夫婦単位課税や世帯単位課税など異なる制度を採用している。日本でも、税金や社会保険料の負担が急変する「年収の壁」問題を解決するため、欧米のN分N乗方式やタックスクレジットの導入が提案されている。
しかし、制度の見直しに便乗した「ステルス増税」への警戒感もある。欧米並みの制度を目指すのは良いが、税負担増につながらないようすべきである。
- フランスの世帯単位課税は家族全員の所得を合計し、家族構成に応じて割った金額を基に税金を計算(N分N乗方式)。子供が多いほど税負担が減る。
- 米国などのタックスクレジットは、税金から直接差し引かれる金額で、低所得者にも恩恵が及ぶ「給付付き」制度が特徴。所得からではなく税金そのものから控除される。
- 以上のような制度を参考にして、「配偶者控除」が検討されるのなら良いが、これを利用してステルス増税を目論むのではないかとの危惧がある
- 岸田政権発足後、復興特別所得税の延長、介護保険料の引き上げ、国民年金保険料の引き上げ、森林環境税の導入等がすでに実施されている。
- 現状の日本経済は需要不足で潜在成長率を下回る状況にあり、あらたな増税やステルス増税などしている場合ではなく、GDPギャップを埋めるためにさらなる減税策や補助金策の実施が必要である。
上の記事にある、N分N乗方式やタックスクレジトについて、簡単に説明します。
N分N乗方式を、特にフランスの「世帯単位課税」を例に取って、誰でも分かるように簡単に説明します。
まず、世帯単位課税とは、家族全員の所得を合計し、その家族の人数や構成に応じて割った金額を基に税金を計算する方式です。
フランスの家族 |
例えば、フランスのN分N乗方式では次のようになります。
- 家族の所得を合計: 夫の年収800万円 + 妻の年収200万円 = 世帯の総所得1,000万円
- 世帯の「N」を決める:
- 単身者:N = 1
- 夫婦:N = 2
- 夫婦+子供1人:N = 2.5
- 夫婦+子供2人:N = 3
- 以降、子供1人増えるごとにNに1を加算
- 世帯の総所得をNで割る: 1,000万円 ÷ 3 = 約333万円
- この333万円に対する税率を適用して税額を算出: 例:333万円に20%の税率が適用されるとすると、 333万円 × 20% = 約67万円
- 算出した税額をN倍する: 67万円 × 3 = 201万円
つまり、この世帯の納税額は201万円になります。これは、単に夫婦の所得1,000万円に対して税率を適用するよりも、かなり低い額になります。子供の数が多いほど、Nの値が大きくなるため、税負担が減ります。
このように、世帯の人数や構成に応じて税負担を公平にするのがN分N乗方式の特徴です。日本の配偶者控除とは違い、世帯全体の所得と家族構成を見て税額を決めるので、「年収の壁」のような問題も起きにくくなります。
米国の伝統的な家族 |
次に、タックスクレジットについて説明します。
タックスクレジットとは、税金から直接差し引かれる金額のことです。普通の控除は所得から差し引きますが、タックスクレジットは税金そのものから差し引きます。
例えば:
- 所得控除:所得100万円、控除20万円 → 課税所得80万円 → 税率20%なら税金16万円
- タックスクレジット:所得100万円 → 税率20%なら税金20万円 → クレジット5万円 → 最終的な税金15万円
さらに、タックスクレジットには「給付付き」というすごい特徴があります。
例:年収200万円の人にタックスクレジット10万円
- 税金が8万円なら → 8万円から10万円を引いて、2万円が返ってくる!
- 税金が0円なら → 全額の10万円が支給される!
つまり、低所得者にも恩恵が及ぶのが特徴です。米国では、子育て世帯や低所得者向けにこの制度が使われています。日本の配偶者控除は高所得者に有利ですが、タックスクレジットを使えば低所得者にも公平な制度になります。
- 控除額や控除率の減額
- 所得区分の境界を調整し、より高い税率が適用される層を増やす
- 物品税や付加価値税などの間接税率のわずかな引き上げ
タックスクレジットは、一見すると増税と結びつきにくい制度ですが、巧妙に使えばステルス増税の手段になり得ます。
- クレジット額の据え置き インフレや賃金上昇に合わせてクレジット額を調整しないことで、実質的な増税になります。例えば、10年間で物価が20%上昇しても、クレジット額が10万円のままなら、実質的な価値は8万3,333円に低下します。
- 適格条件の厳格化 「子供が18歳未満」など、クレジット適用条件を厳しくします。例えば、「子供が15歳未満」に変更すれば、15〜18歳の子を持つ世帯の税負担が増えます。
- 所得制限の引き下げ クレジット適用の所得制限を下げることで、中間所得層の税負担が増えます。例えば、適用所得上限を500万円から400万円に下げれば、400〜500万円の所得層の税負担が増えます。
- 給付率の逓減 給付付きクレジットでは、所得に応じて給付率を減らすことがあります。この逓減率を強めれば、増税効果があります。
- 他の控除との相殺 タックスクレジットを導入する際に、既存の所得控除を縮小・廃止する場合があります。これにより、実質的な増税効果が生じます。
- 部分的な廃止 「高所得者には適用しない」等の措置で、特定層の税負担が増えます。
特に、1のインフレに合わせた調整を行わないことは、「ブラケット・クリープ(税率の段階区分が変わらないことによる実質的な増税)」と呼ばれ、最もよく使われるステルス増税の手法の一つです。
以上の通り、岸田政権下で実施された主な税制変更や社会保障制度の改正は、国民の負担増につながるものとなっています。
政府は、6月から所得税の定額減税を実施する方針です。この減税の恩恵を国民が実感しやすくするため、企業に対して給与明細への減税額の明記を義務付けました。これにより、従業員一人一人が自身の手取り収入の増加を確認できるようになります。
一方で、この減税措置については一部から懸念の声も上がっています。減税額が小さく本来であれば昨年12月に実施すべきだった対策が6月になってしまいました。そのため、減税額の引き上げや追加の経済対策の実施が必要であり、新たななステルス減税などしている場合ではありません。
経済全体の需給ギャップの観点から見ると、現在日本経済は潜在成長率を下回る水準にあり、需要不足の状況にあると考えられます。このため、政府には国民の生活を支える効果的な経済対策の実施が期待されています。
GDPギャップとは、経済の実際の活動水準と潜在的な供給能力の差のことを指します。この指標は、経済の現状を把握し、将来の物価動向を予測する上で重要な指標となっています。
実際の需要が潜在供給を上回る場合(正のGDPギャップ)は、インフレ圧力が高まる可能性があります。一方で、実際の需要が潜在供給を下回る場合(負のGDPギャップ)は、デフレ圧力が高まる可能性があります。高橋洋一氏は現在の日本の負のGDPギャップは20兆円と試算しています。
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