2025年7月21日月曜日

落選に終わった小野寺勝が切り拓いた「保守の選挙区戦」──地方から始まる政党の構図変化

 まとめ

  • 日本保守党は結党から2年足らずで衆参5議席を獲得し、比例だけでなく選挙区(北海道)にも挑戦。百田尚樹氏が参院比例で当選し、存在感を確立した。
  • 北海道選挙区で落選した小野寺勝氏は、保守党として初の地方区本格挑戦を果たし、国防やアイヌ政策を訴えて一定の得票を得るなど、今後に向けた布石となった。
  • 参政党は4~5年かけて勢力を拡大し、2025年参院選で8議席を獲得。だが、神谷宗幣氏は「参政党は保守ではない」と発言したとされ、保守党との立ち位置の違いが明確に。
  • 両党は急成長する一方で、飯山あかり氏や保守系雑誌など、同じ保守陣営からの批判にも直面してきた。
  • 日本保守党は明確な保守主義と党首の高い知名度を武器に、参政党は大衆政党としての浸透力で、それぞれ異なる方向から「新しい保守」の形を模索している。
百田尚樹の参院当選と日本保守党の異例の急成長
 

2025年7月21日、日本保守党代表の百田尚樹氏が、前日に投開票された参議院選挙の比例代表で当選した。同党からは弁護士・北村晴男氏がすでに当選しており、百田氏はこれに続く2人目の当選者となった。日本保守党にとって、これは参議院での初の議席獲得である。

百田氏はもともとテレビ放送作家として活躍し、「探偵!ナイトスクープ」などの人気番組を手がけた。50歳で作家デビューを果たすと、「永遠の0」でベストセラー作家となり、「海賊とよばれた男」では本屋大賞を受賞するなど、文壇でも強い存在感を示した。そんな百田氏が、ジャーナリストの有本香氏らとともに2023年10月に日本保守党を立ち上げたのは、自民党が左傾化する現状への明確な異議申し立てであった。翌2024年の衆議院選挙では、結党からわずか1年足らずで3議席を獲得し、今回の参院選ではさらに2議席を積み上げた。わずか2年も経たぬうちに、同党は衆参あわせて5議席を有する国政政党に成長したのである。

小野寺勝氏

また今回、日本保守党は比例区だけでなく選挙区にも初挑戦しており、北海道選挙区に立候補した小野寺勝氏の動きは注目に値する。落選こそしたものの、地方選出の新人としては異例の得票を記録し、保守党が地方区でも一定の存在感を示した初の事例となった。小野寺氏は国防・教育・アイヌ政策に関する問題を真正面から訴え、既存政党が触れようとしない論点を堂々と争点化。北海道という難しい選挙区で戦いながらも、党の全国的な支持拡大の「突破口」としての役割を果たしたといえる。

保守党と参政党──成長スピードと立ち位置の違い
 
参政党代表 神谷氏

この躍進は異例である。特に比較すべきは、2020年に結党された参政党だ。参政党は結党から2年後の2022年参院選で初の国政議席(比例1議席)を獲得。その後、2024年の衆院選で3議席、2025年6月には梅村みずほ議員が合流し、議員数は5名に達した。そして同年7月の参院選では、東京・茨城などの選挙区で初めて候補者が当選し、比例と合わせて計8議席を獲得。まさに急伸と言える結果である。

だが、ここで注目すべきは、両党の“成長の質”である。参政党が議席拡大までに4〜5年を要したのに対し、日本保守党はわずか2年足らずで衆参両院に足場を築いた。しかも、その原動力は党首自身の圧倒的知名度と発信力であった。

百田氏は、結党前から国民的知名度を有していた稀有な存在だ。作家としての成功に加え、言論活動を通じて保守層から圧倒的な支持を得ていたことが、党勢拡大を強く後押しした。一方、参政党の神谷宗幣氏は地方議員出身で、当初の知名度は限られていたが、YouTubeやオンライン講座などを駆使して地道に支持層を広げた。この点で両者は対照的である。

支持層の性質にも決定的な違いがある。日本保守党は、既存の自民党に失望した保守層、特に安倍晋三元首相の政治姿勢に共鳴する層を中心に支持を広げた。政策も伝統重視・国益重視が明確で、理念がぶれていない。一方、参政党は「反ワクチン」や「オーガニック志向」といった、保守・リベラルの枠組みを超えた主張を打ち出し、政治未経験層やスピリチュアル層にも広がりを見せた。

実際、神谷氏自身が「参政党にはリベラルな人もおり、参政党は保守ではない。保守は日本保守党に任せる」と語ったとされる発言が、SNS上などで注目を集めた。これは、参政党がイデオロギーにとらわれない保守も含めた大衆政党を目指している姿勢を示す一方で、日本保守党があくまで保守主義に軸足を置いているという違いを如実に浮かび上がらせる発言である。

支持と批判の狭間で──試される“保守の新興勢力”
 

もっとも、両党ともその急成長の裏で、同じ保守系の内側から厳しい視線を浴びてきた点は共通している。日本保守党に対しては、飯山あかり氏をはじめとする保守系評論家や、『Hanada』『WiLL』といった保守系メディアからの批判が相次ぎ、百田氏の言論姿勢や党の運営体制に疑問が呈された。一方、参政党もまた、結党当初から陰謀論的な主張やスピリチュアル色の濃い発信が、保守論壇から冷ややかに見られてきた。

つまり、両党はともに、既成政党に見切りをつけた有権者の受け皿となりながら、同時に保守陣営内部からの試練にもさらされてきたのである。その中で、日本保守党は知名度と明確な国家観を武器に、参政党は草の根運動と非主流層への共感を力に、それぞれ異なる道筋で台頭してきた。

今後、この二つの新興勢力が保守再編の中でどう存在感を強めていくのか。理念か大衆か、論戦か情念か──その行方は、日本政治の未来そのものを映す鏡となるだろう。

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2025年7月20日日曜日

理念の名を借りた利権構造──日本だけが暴走するLGBT政策の真実

まとめ
  • 日本のLGBT理解増進法は、欧米諸国や台湾に比べても突出して急進的かつ拙速に導入されており、教育現場への影響が懸念されている。
  • 欧米では未成年の性転換治療に対する見直しが進んでおり、イギリスのタヴィストック・クリニック閉鎖やスウェーデン・フィンランドの方針転換がその象徴である。
  • 保守層は、この法律の裏に「公金チューチュー」的な利権構造が存在すると警戒しており、百田尚樹氏の日本保守党設立もこの危機感に基づく。
  • 台湾では「ジェンダーレス」ではなく「男女平等」を原則とし、実用性重視のトイレ制度(ポッティ・パリティ)など現実的な対応を取っている。
  • 今回の参院選に限らず、今後のすべての選挙で制度の中身と背後の利権構造を見抜く「有権者の目利き力」が問われている。

拙速すぎたLGBT理解増進法──日本だけが突出する危うさ
 
文部科学省は近年、「多様性の尊重」や「ジェンダー平等」といった理念を掲げ、教育現場に新たな指導方針を導入しつつある。これは単なる理念ではなく、具体的な制度としてすでに実行段階に入っている。令和4年12月には「生徒指導提要」が改訂され、性的指向や性自認に関する配慮が制服、更衣室、宿泊行事などに明記された。さらに令和5年6月、国会で「LGBT理解増進法」が成立。文科省は教職員の研修や相談体制の整備を全国の教育委員会に要請している。

だが、保守層からは「子どもへの過剰な性教育」「家庭の教育権の侵害」といった懸念の声が相次いでいる。こうした拙速な導入は、日本にとって決して無害ではない。欧米ではすでに、同様の流れが深刻な社会問題を引き起こしている。

イギリスでは、未成年への性別移行治療を行っていた「タヴィストック・クリニック」が2023年に閉鎖された。安易に思春期ブロッカーを処方し、後に後悔した若者たちが集団訴訟を起こしたことが引き金となった。スウェーデンでは2021年、カロリンスカ大学病院が18歳未満へのホルモン療法を原則中止。フィンランドも2020年、ガイドラインを改定し「心理的支援の優先」を明記した。

米フロリダ州では「教育現場での親の権利」により保護者の同意なく子どもに性自認を教えることを制限

アメリカでも連邦レベルでLGBT教育を義務づける法律は存在しない。各州に委ねられ、たとえばフロリダ州では2022年に成立した「Parental Rights in Education(いわゆる“Don’t Say Gay”法)」が、保護者の同意なく子どもに性自認を教えることを制限している。

アジアに目を向ければ、同性婚を合法化した台湾ですら、日本のような全国一律の「LGBT理解増進法」は存在しない。法整備は限定的で、教育現場への介入は見られない。日本は、世界でも例を見ないほど“理念先行”の道を突き進んでいるのだ。


理念の裏で進む利権構造──保守層が憂える「公金チューチュー」

 
このような制度の急進化に、保守派は強く反発している。作家の百田尚樹氏は、「この法律の成立は、自民党が左に大きく傾いた証だ」と断じ、LGBT理解増進法に対する危機感から日本保守党の設立を決意した。氏は「言論の自由を脅かす悪法」と位置づけ、その撤廃を訴えている。杉田水脈氏、小野田紀美氏といった議員たちも、法案の曖昧さや恣意的運用の危険性を早くから警告していた。

さらに深刻なのは、「理解増進」という名目のもとで進行している利権構造だ。実際、各自治体がLGBT関連の啓発事業を外部に委託し、その多くが特定のNPO法人などに流れている。印刷物の制作、講演活動、研修ビデオの配信といった表向きの活動の裏で、「予算獲得のための理念」が一人歩きしているのが実情である。

これは、かつての男女共同参画、慰安婦支援ビジネスと同じ構図だ。国民の税金が、特定の思想を推進する団体に流れ込む「公金チューチュー」の温床になりつつある。
 
台湾に学ぶ現実主義──理念より「誰が使うか」を考えよ

トイレ待ちの長蛇の列に並ぶ女性たち 東京駅 ジェンダーレストイレの前に女性トイレを増やすべきでは

「ジェンダーレストイレ」も、この問題の象徴的な事例である。美辞麗句だけで制度を語るのではなく、誰のための政策かを現実に即して考えなければならない。

台湾では、現在も一部に性別中立トイレが存在するが、その数は全国に約600か所とごくわずかで、男女別トイレは4万か所以上にのぼる。台湾は「ジェンダーレス」ではなく、「男女平等(gender equality)」を原則とし、2006年には女性用便器を男性の2倍以上にすることを定めたポッティ・パリティ(potty parity=トイレの平等)制度を導入した。これは理念ではなく、使用時間の統計や公共空間の利便性を根拠とした現実的な政策である。

また、多目的トイレや個室の設計で、トランスジェンダーや障害者に配慮する構造も整っている。要は、理念を掲げて対立を煽るのではなく、「誰もが不便なく使える空間」を目指すのが本来の公共設計なのだ。

選挙は未来への責任だ──すべての投票で問われる「目利き力」

いま問われているのは、「理念先行で作られた制度」が、現実社会にどれだけ歪みをもたらすかという視点である。スローガンに踊らされて税金を吸い上げられる構図に、我々はそろそろNOを突きつけるべきではないか。

今回の参議院選挙では、このような制度の実態と背景を見極め、どの候補がそれに対して明確なスタンスを示しているかを重視して投票すべきである。だが、それだけではない。今後の衆院選、地方選挙を含むすべての選挙で、この視点を失ってはならない。

理念の仮面をかぶった制度が、利権や思想の押しつけにすり替わる構図は、教育、福祉、文化、あらゆる分野で広がり得る。だからこそ、有権者には「中身を見抜く力」と「継続的な判断」が求められる。

未来は、表面的なキャッチコピーではなく、政策の背後にある実態を見抜いた者たちの手によって決まる。投票とは、その第一歩である。

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2025年7月19日土曜日

トランプが挑む「報道しない自由」──黙殺されたエプスタイン事件が、司法の場で再び動き出す

まとめ
  • トランプ元大統領がWSJとマードック氏を名誉毀損で提訴し、記事にあった“エプスタイン宛ての裸婦カード”報道を完全否定。訴額は100億ドルに上る。
  • 訴訟の背後にはエプスタイン事件の全容解明があり、トランプは司法省に大陪審資料の全面開示を要求している。
  • エプスタインは政財界・王室・学術界など上級層との関係を持ち、性的虐待ネットワークとその隠蔽疑惑が未解決のまま。主流メディアは報道を回避している。
  • 訴訟は単なる名誉回復ではなく、“虚報メディアへの制裁”としての政治的意味を持ち、保守派の反撃の象徴となっている。
  • 日本の主要メディアはこの訴訟をほぼ無視しており、“報道しない自由”による黙殺がかえって事件の重大性を浮き彫りにしている。

トランプ、メディアとの全面戦争に打って出る

2025年7月、ドナルド・トランプ元大統領が、とその親会社ニューズ・コーポレーション、そしてメディア王ルパート・マードックを名誉毀損で提訴した。訴訟額は実に100億ドル(約1兆4千億円)にのぼる。


事の発端は、WSJが報じた一本の記事だった。そこでは、2003年にトランプ氏が故ジェフリー・エプスタイン宛てに、裸婦のイラストを添えたバースデーカードを送ったとされていた。メッセージには「秘密を共有しよう」と書かれていたという。だがトランプ氏はこれを全面否定し、「自分は絵など一度も描いたことがない」と明言。報道そのものが捏造であり、悪意に満ちた中傷だとして訴えに踏み切った。

同時にトランプ氏は、報道の根拠となった大陪審資料の全面公開を司法省に求めた。名誉回復という次元を超え、腐敗したメディア構造そのものにメスを入れようという、彼らしい強硬な姿勢が際立っている。
 
エプスタイン事件──なぜアメリカ最大のスキャンダルは黙殺されるのか

ジェフリー・エプスタイン

この訴訟の背景には、現代アメリカの深層に潜む「闇」がある。それがジェフリー・エプスタイン事件だ。

エプスタインは、ウォール街の金融業者であり、未成年者を標的とした性的虐待ネットワークを構築していた張本人である。2019年、性的人身売買容疑で逮捕された直後、ニューヨークの留置所で“自殺”したとされるが、その死にはあまりにも多くの不審点が残る。監視カメラの故障、監視員の不在、そして首の骨折。もはや偶然とは思えない。

エプスタインが保有していた「ブラックブック」には、ビル・クリントン元大統領、英国王室のアンドルー王子、ハーバード大学の要人、ハリウッドの大物など、名だたるエリートの名が並ぶ。彼らが訪れたとされるエプスタイン所有の“島”──リトル・セント・ジェームズ島では、未成年との性的行為が秘密裏に撮影されていたとの証言もある。それが「脅しの材料」として使われていた疑いは根強い。

にもかかわらず、アメリカの主流メディアは、この巨大スキャンダルをまともに追及しようとしない。理由は明白だ。関係者の多くが、リベラル・グローバリズムの中心に位置する人物たちだからである。メディア自身が、彼らの“仲間”だからである。

だからこそ、トランプは動いた。米国に真実を取り戻すために。今回の訴訟は、“隠蔽された国家的犯罪”の扉をこじ開けようとする一撃なのだ。 

報道の自由か、報道責任か──保守派の反撃が始まった

大陪審資料の開示は容易ではない。原則非公開とされており、例外的に裁判所の許可が必要だ。さらに公開されても、多くは黒塗りされる。しかし今回、トランプ陣営のパム・ボンディ元フロリダ州司法長官が正式に開示請求を行っており、法の壁を超える試みが現実のものになりつつある。


この訴訟が象徴しているのは、「報道の自由」と「報道の責任」のせめぎ合いだ。WSJを含め、アメリカの主流メディアは、ここ数年トランプに対して執拗なネガティブキャンペーンを繰り返してきた。公平性の仮面をかぶりながら、一方で民主党寄りの姿勢を隠そうともしない。その一線を、トランプはついに越えたのである。

すでに保守系団体による同様の名誉毀損訴訟は複数の州で相次いでいる。報道責任を軽視するメディアに対する“トランプ・ドクトリン”とも言うべき訴訟戦略が、全米に広がりつつあるのだ。

そして肝心の日本のメディアは、今回の訴訟をほとんど報じていない。沈黙は語る──彼らが「報道しない自由」を振りかざし、真実を見ようとしない姿勢が、かえってこの訴訟の意義を証明している。

誰も真実を語らぬなら、自らが語るしかない。トランプは今、米国の“報道”に鉄槌を下そうとしている。これは単なる個人の名誉訴訟ではない。アメリカの情報空間に、保守派が再び風穴を開けるための戦いなのだ。

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トランプ政権、NATOと共同でパトリオット供与決定 米軍のイラン核施設攻撃が欧州を動かす 2025年7月15日
トランプがNATOとともに進めるパトリオット供与の裏にあるリアリズム外交。イラン核攻撃の影響と欧州の危機意識とは?

「前例ない干渉」と政権非難 大学学長らが共同声明―米—【私の論評】腐敗まみれで奈落の底に落ちた米大学:ルーズベルト神格化と倫理崩壊でトランプの介入を招く 2025年4月24日


#トランプ訴訟 #エプスタイン事件 #WSJ #マードック #名誉毀損

2025年7月18日金曜日

ウェルズ・ファーゴ幹部も拘束──中国はビジネスマンを外交カードに使う。邦人が狙われても日本は動けない

まとめ
  • ウェルズ・ファーゴ幹部が中国で出国禁止措置を受けたが、過去の偽口座スキャンダルとは完全に無関係であり、政治的な外交圧力とみられる。
  • アステラス製薬の日本人幹部も2023年に中国で拘束・起訴され、証拠非開示のままスパイ罪で懲役3年6か月の判決を受けた。
  • 中国は外国人ビジネス関係者を「人質」として利用し、外交や経済交渉のカードにしている実態がある。
  • 日本政府の中国に対する渡航警告や危機対応体制は不十分で、企業や駐在員が守られていないのが現実である。
  • 経済安全保障を国家戦略の柱として位置づけ、邦人保護のための法整備と実行力を急ぐ必要がある。
米幹部拘束──“出国の自由”はもはや幻想か


2025年7月17日、米金融大手ウェルズ・ファーゴの女性幹部が、中国出張中に突如「出国禁止」措置を受けた。この人物は、アトランタ在勤のチェンユエ・マオ氏。同行の国際ファクタリング部門マネージング・ディレクターを務めるほか、国際業界団体「FCI」の会長職にもある要人である。

中国当局は、出国禁止の理由を一切明かしていない。本人にも通告はなく、事実上の“無言の拘束”だ。この措置は近年の中国で頻発している手法であり、外国企業の幹部が“外交カード”として扱われる現象は、もはや例外ではない。ウェルズ・ファーゴは即座に全中国出張を凍結し、マオ氏の安全確保と帰国に向けて動き出した。

だが皮肉なことに、この混乱の最中、同社は企業として大きな転機を迎えていた。2016年に発覚した「偽口座スキャンダル」では、数千人の営業担当者が、経営陣の過剰な営業ノルマのもと、顧客に無断で口座やクレジットカードを開設。被害総数は、銀行口座が約350万件、クレジットカードが56万件以上に及んだ。


この事件を受け、同行は30億ドル超の罰金を科され、当時のCEOが辞任。FRB(連邦準備制度理事会)からは資産拡大の凍結という異例の制裁を受けた。だが7年後の2025年6月、ついにFRBが制裁を解除。第2四半期決算でも業績は回復し、同社は「再成長」へと踏み出したばかりだった。

ここで強調しておかねばならないのは、この“出国禁止措置”と“偽口座スキャンダル”はまったく無関係だという事実だ。不正は米国内で行われ、中国企業や当局の関与は一切ない。米司法省やFRBの報告書にも、中国が絡んだ形跡は皆無である。時系列的にもスキャンダルは2016年、今回の拘束は2025年と、完全に切り離された出来事だ。したがって、これは過去の不祥事とは無関係な、別次元の“政治リスク”と見るべきである。

アステラス事件──「いつもの出張」が人生を奪う日


この問題は決してアメリカだけの話ではない。日本にも同様の火の粉は降りかかっている。2025年7月16日、中国・北京の中級人民法院は、アステラス製薬の日本人幹部に対し「スパイ罪」で懲役3年6か月の実刑判決を言い渡した。

この幹部は、2023年3月に突然拘束された。罪状の説明は一切なし。裁判は非公開で行われ、証拠の開示もないまま判決が下された。日本政府は繰り返し情報開示と釈放を求めたが、中国側は応じなかった。この人物は、日中経済交流の最前線で長年働いてきた企業人であり、スパイ活動とは無縁であることは、業界関係者の誰もが知るところだった。

だが、中国においては、善意も、実績も、現地貢献も通用しない。国家の都合ひとつで、誰もが“危険人物”にされる。それが今の中国という国家だ。そしてそのリスクは、実際に“現実の被害”として、日本国民にも及んでいる。

「守られない出張」は日本の国難である


2024年時点で、日本の対中投資額は約1兆5,000億円にのぼり、現地駐在員は3万人以上。だが、その安全を国家が担保しているかといえば、答えは否だ。外務省の中国渡航警告は依然として「レベル1(十分注意)」にとどまり、企業の出張マネジメントは各社任せ。拘束された際、政府が即応できる制度や予算、交渉の枠組みすら整っていない。

欧米諸国がすでに「経済安全保障」を外交戦略の柱に据えているのに対し、日本の対応はあまりに鈍い。このままでは、「海外に出すが、守れない」企業国家というレッテルを貼られかねない。もはや経済活動と安全保障は切り離せない時代だ。にもかかわらず、企業のリスク管理に“国家不在”の現実は、日本の根幹を揺るがす危機である。

ウェルズ・ファーゴ幹部の拘束。そしてアステラス製薬幹部への実刑判決。これらは偶然の出来事ではない。共通するのは、「ビジネスの顔をして接近し、外交の武器として人を拘束する」という中国の新たな常道だ。

この現実を前に、日本が「自己責任論」で済ませる余地など、どこにもない。国として、経済人を“守る意思”を明確にしなければならない。そしてそれは、外交辞令でも、安全保障三文書でもなく、法律と行動と予算によって示されるべきだ。

ビジネスと政治、自由と強制がねじれ合う世界において、我々はもう一度問い直す必要がある。国は誰を守るのか。自国民を守り抜くべきだ。明日は、自分の番かもしれないし、あなたの家族や会社の同僚かもしれないのだ。

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2025年7月17日木曜日

「石破vs保守本流」勃発!自民党を揺るがす構造的党内抗争と参院選の衝撃シナリオ

まとめ
  • 自民党内で石破派とFOIP戦略本部の間に、政策・国家観を巡る深刻な構造的対立が進行中。これは単なる派閥抗争ではなく、党の再編を伴う可能性がある。
  • FOIP戦略本部は対中抑止を軸とした安倍路線を継承し、保守派の再結集の中心として機能している。麻生・高市・旧安倍派が連携しつつある。
  • 多くのメディアは、この構造的対立を「選挙戦術」やスキャンダルとして矮小化し、実質的に石破政権寄りの報道を続けている。本質的な政策対立は意図的に報じられていない。
  • 参院選で自民党が敗北すれば、石破政権の居座りと立憲民主党との連携という事態が現実化し、自民党の保守政党としての輪郭が崩れかねない。
  • 今回の選挙は、自民党の理念と国家戦略を問う「構造闘争」の節目であり、保守派の再結集と党再編が今まさに始まろうとしている。
自民党内は、国家の背骨を変える闘いに直面している

自民党内部では、石破茂氏が推進するリベラル・左派路線と、安倍・麻生・高市系保守による「自由で開かれたインド太平洋戦略本部(FOIP戦略本部)」との政策的対立が、もはや単なる派閥抗争ではなく「構造的な党再編」へと深化している。石破氏は「派閥解体」「現場主義」「脱イデオロギー」を掲げ、中国・韓国との関係改善を志向する。一方でFOIP本部は、対中抑止を核とした実務路線を堅持し、党の国家戦略の本流として明瞭な意思を示している。

しかし主要メディアはこの重大局面を「商品券配布」や「人事騒動」へと貶め、真正面から政策軸の対立を扱おうとしない。彼らは石破氏を「穏健で現実的な改革派」と位置づけ、その継続を好意的に受け止める姿勢を隠さない。メディアの多くがその方向性に与し、構造的な対立を意図的に報じない現実が、いま政党の分断を助長しているのだ。
 
メディアの視線の盲点──政策対立をなぜ報じないのか
 
東洋経済表紙

たとえば東洋経済オンラインは、「石破降ろし」「商品券配布問題」など人事スキャンダルに終始し、構造転換の本質には一切触れない。これは日本のメディアにしばしば見られる「争点の回避」にほかならない。日本の報道では、政権批判にもかかわらず、党の根幹を揺るがす政策闘争を読み解く視座が欠けている。これは日本の主要メディアが左派リベラル的な世界観を支持し、石破政権の安定志向を歓迎しているからこそ起きている現象である。

確かに、メディアには「物語として描きやすい」に越したことはない。だが本来取り上げられるべきは、国家の方向性そのものを左右する構造的分岐だ。書きやすい「派閥対決」に逃げ込むならば、本質は闇に埋もれる。その傾向を変えるのは我々の視点と要求なのである。
 
参院選と再結集の呼び水──党再編シナリオの加速

年金法案で3党合意した自公立民

都議選や政権支持率の低迷から、参院選では自民党が歴史的敗北を喫する可能性が高まっている。石破氏がそれでも政権に居座り、立憲民主党との連携に舵を切るような事態になれば、自民党は保守政党としてのアイデンティティを失う。その時、再び注目されるのがFOIP戦略本部である。

安倍派・麻生派の有志による「保守再結集」はすでに始まっている。今回の選挙敗北を契機に、党内の保守主流が明確な国家観と価値観を掲げ、構造的に再結集する流れが生まれるだろう。メディアが構造の視点を無視し続けるかぎり、政党の分断と理念の空洞化は加速する。報道に求められるのは、スキャンダルではなく政策の分岐点に注目し、それを読み解く眼を研ぎ澄ますことである。 

結語──今、自民党は“国家の背骨”を書き換える闘いに直面している
 
自民党の「自由で開かれたインド太平洋戦略本部」の初会合であいさつする麻生最高顧問(5月14日、党本部)

今回の参院選は、単なる政権の勢いを問うものではない。自民党という政党のあり方、その先にある国家戦略を巡る構造的な転換点なのだ。まさに自民党は“国家の背骨”を書き換える闘いに直面しているのだ。 FOIP戦略本部は、それを支える保守派の砦であり、党再編の舵取りを担う存在である。読者は今こそ、報道の罠に惑わされず、構造的な視座でこの政界の動きを見届け、自民党と日本の未来を考える必要がある。

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保守派も含めた有権者の政治への熱が、今回の選挙戦をさらに激化させるだろう。

自民党の消費税減税反対は矛盾だらけ! 経済の真実を暴く 2025年6月30日
自民幹部には経済の真実と向き合う覚悟がない。物価高に苦しむ国民への素早い対応と、国の未来を切り開く変革を両立させる勇気が、今こそ求められている。

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東京都議選の結果は、来るべき参院選への重要な示唆を与える。国会での与野党の力関係が拮抗すれば、より活発な政策議論が期待され、国民にとってより良い政治環境が整うだろう。

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2025年7月16日水曜日

外国人問題が参院選で噴出──報じなかったメディアと読売新聞の“異変”、そして投票率操作の疑惑

 まとめ

  • 外国人問題は参院選で国民の実感としての争点となっていたが、大手メディアは長らく報道を避けてきた。
  • 都議選では在日候補者への差別的発言や、外国人優遇政策への反発が露わになり、国民の不満が表面化していた。
  • 読売新聞が「外国人と日本社会」特集を通じて報道のタブーに踏み込み、制度的課題を正面から扱った。
  • 今回の投票日は三連休の中日であり、低投票率を狙った政治的思惑が見え隠れする。
  • 筆者はすでに期日前投票を済ませており、有権者全員が政治的仕掛けに乗らず、自らの意思で投票すべき。

今回の参議院選挙では、各政党の公約や争点とは一線を画し、国民の関心が一点に集中した。それが「外国人問題」である。生活保護、医療、子育て支援、公営住宅、外国人労働者の急増など、日常の隅々にまで外国人関連の問題が浸透している。にもかかわらず、大手メディアは「センシティブ」として、この事実を報じることを避けてきた。しかし、現場に暮らす国民は実感として“沈黙できない”状況に置かれているのだ。

SNS上には、「外国人ばかり手厚く支援されて、日本人が置き去りにされている」といった声が多く投稿されている。公営住宅の倍率上昇や待機児童の増加は、もはや一部の商品・サービスの問題ではない。これは制度と現実の乖離から生じた国民の声である。
 
都議選から見え始めた変化──現場の声が怒りになった

都議選ポスター

この空気は既に都議選の段階でも顕在化していた。報道によれば、在日コリアン三世の候補者・金正則氏(70)に対し、「帰化人は帰れ」「朝鮮人」などと罵声が飛んだという事例が確認されている (朝日新聞)。しかし聴衆が「外国人支援ばかりでは?」と訴えると、通行人からの拍手が起きる場面すらあった。

金氏は街頭演説中に差別的嫌がらせを経験し、「日本国籍を取得しても、差別される現実」に衝撃を受けたと語っている (朝日新聞)。これは現象面だけで言えば確かに選挙妨害とも受け取られれかねないし、こうした妨害を擁護するつもりは全くないが、これは制度と社会の乖離が多くの国民の怒りとなり現場で噴出した瞬間とも言える。不満は確実にあるのだ。これは無視できない。

これを単にこのような行動や言動をする人にだけに問題があり、他には一切問題はなくこういう人たちだけを取り締まれば良しという従来の姿勢には、流石に無理がある。こうしたことの背景には多くの国民の切実な要望がある。一部の不心得者がこれを逆手に取り過激な言動をや行動をしているのだろう。中には、これを利用する組織も存在するのだろう。しかし、これを汲み取るか取らないかは、今参院選の大きな争点であることは明らかだ。

この流れを無視し続ける大手メディアの臭いものには蓋をしろという姿勢は、「現実を見ていない報道機関」そのものである。
 
読売新聞が突きつけた挑戦──報道は現実と向き合えるか

そんな中、読売新聞が「外国人政策 規制と共生 議論活発化」という記事を7月8日朝刊に掲載した。「規制と共生」のバランスを巡る議論が、これまで政治やメディアで十分に扱われなかったテーマとして本格化し始めたことを大見出しで報じた。これは参院選序盤に「外国人政策」が新たな争点として浮上していることを示すものである。これはX上での調査とも符号するものである。


ANNでは、参議院選挙について、公示日から7月12日までのXのすべての投稿を対象に、分析ツールを使って調べた。参院選の主な政策に関するワードがどれくらい投稿されたのか、調べた。その結果が、上の表だ。

読売新聞のこの記事の掲載は、他紙が「ヘイトにつながる」として報道をタブー視する中、勇気ある姿勢である。ただし、残念ながら現状ではオンライン版は削除されている。

ただ、その後も"[政策分析25参院選]<在留外国人>共生の道、制度に不備" という記事を12日に掲載している。これは現時点ではリンクは生きている。

事実を事実として報じ、問題に真正面から向き合う――これこそが報道機関の責務である。
 
私はすでに期日前投票を終えた──投票日を控え、すべての有権者へ
 

なお、私はすでに昨日、期日前投票を済ませた。今回の投票日が三連休中日の7月20日であることに違和感を覚えたからだ。休日の谷間に投票日を設定するのは、「投票率を下げるための仕掛け」ではないかと感じた。

低投票率になるほど、組織票に依存する勢力には有利に働く。有権者が投票を控えれば、国民感情を反映した政治が実現しづらくなる。そんな姑息な手口に、われわれは乗ってはいけない。

投票は権利であると同時に、責任でもある。あなたの一票が国家の将来を左右する。どうか投票に行ってほしい。どの政党に入れるかは問わない。しかし、日本という国の未来を左右するため、その事実と向き合い、自分の意思を示してほしい。

テレビでも新聞でもない。日本を変えるのは、あなたが投じるその一票である。

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トランプ政権、NATOと共同でパトリオット供与決定 米軍のイラン核施設攻撃が欧州を動かす 2025年7月15日
トランプがNATOとともに進めるパトリオット供与の裏にあるリアリズム外交。それを見抜けない日本の現政権やメディアこそが、今この瞬間、我が国最大の脆さなのかもしれない。

参政党・神谷宗幣の安全保障論:在日米軍依存の減少は現実的か?暴かれるドローンの落とし穴  2025年7月9日
神谷のビジョンは情熱的だが、情熱だけでは足りない。私が気づくようなドローンの落とし穴を放置し、専門家からも批判されるようでは、参政党の未来は危うい。

参政党の急躍進と日本保守党の台頭:2025年参院選で保守層の選択肢が激変 2025年7月6日 
保守派も含めた有権者の政治への熱が、今回の選挙戦をさらに激化させるだろう。

保守分裂の危機:トランプ敗北から日本保守党の対立まで、外部勢力が狙う日本の未来 2025年6月6日
保守は、事実に基づく対話で亀裂を修復し、外国勢力や左翼の介入を防がねばならない。内部の争いに執着すれば、リベラル左翼、中国共産党を喜ばせるだけだ。

2025年東京都議選の衝撃結果と参院選への影響 2025年6月23日
東京都議選の結果は、来るべき参院選への重要な示唆を与える。国会での与野党の力関係が拮抗すれば、より活発な政策議論が期待され、国民にとってより良い政治環境が整うだろう。

2025年7月15日火曜日

トランプ政権、NATOと共同でパトリオット供与決定 米軍のイラン核施設攻撃が欧州を動かす

まとめ
  • トランプ政権はパトリオット供与を通じて「兵器外交・ビジネス・同盟再構築」の三位一体戦略を打ち出した。
  • 米軍によるイラン核施設攻撃が、NATO諸国の脅威認識を一変させ、兵器供与受け入れの下地を作った。
  • パトリオットの供与は欧州諸国の自己負担で実施され、米国は補充分を担当することで財政負担を回避。
  • 「これは商売だ」というトランプの言葉通り、供与は米防衛産業と雇用に直結する経済政策でもある。
  • 戦争を“複合戦略”として扱うトランプ流外交は、保守層の理念「関与すべき時には強く関与」を具現化している。

2025年7月、トランプ大統領がNATOとともにウクライナへのパトリオットミサイル供与を発表した。このニュースを、日本の大手メディアは「ウクライナ支援の一環」と軽く流しているが、実態はまるで違う。その裏には、イラン核施設への米軍攻撃という重大な伏線がある。そして、欧州がようやく「核の人質」であるという現実に気づき、行動に移した瞬間でもあった。今回は、この一連の動きの裏側にあるリアリズムと地政学の構図を徹底的に読み解いていく。

トランプが動かした同盟──兵器供与の裏にある現実主義

3月17日(現地時間)、マルク・ルッテNATO事務総長と会談するトランプ米大統領

2025年7月14日、トランプ米大統領はNATOのマルク・ルッテ事務総長と並んで、ウクライナに対しパトリオット地対空ミサイル・システムを供与すると発表した。表面的には兵器支援に見えるこの決定だが、その実、米国の外交、同盟戦略、そして経済政策のすべてを凝縮した一手である。政権発足以来、トランプが掲げてきた「アメリカ第一主義」を体現する構図が、ここにある。

この背景にあるのが、先月6月22日に米軍が敢行した「ミッドナイト・ハンマー作戦」だ。米空軍のB-2爆撃機とトマホーク巡航ミサイルが、イランのナタンツ、フォルドウ、イスファハンに点在する核開発施設を同時攻撃。IAEA(国際原子力機関)も、核インフラの重大な破壊を確認し、事実上イランの核開発は数年単位での遅延を余儀なくされた。

ミッドナイトハンマー作戦の概要:米国防総省(英語)


この攻撃は、単なる中東政策の枠にとどまらない。核兵器の完成が目前とされたイランを叩いたことで、欧州諸国にとっての安全保障環境が一変した。なぜなら、イランの核が完成すれば、その射程は確実にEU圏に及ぶからだ。イスラエルだけでなく、欧州全体が核の人質となる現実に、ようやく火がついたのである。
 
NATOが譲歩した理由──イラン攻撃がもたらした覚醒

この文脈を抜きにしては、今回のNATO加盟国によるパトリオット供与は説明がつかない。従来、欧州諸国は米製兵器の供与に対して慎重だった。だが今回は、ドイツ、スウェーデン、フィンランド、ノルウェー、オランダ、英国、カナダなどが保有在庫からウクライナに直接提供する。そして米国は、これらの国の不足分を補填するという形で間接的に支援に関与する。しかも、この補充費用はあくまで欧州側が負担するスキームである。


ここに、トランプ政権の特徴が色濃く表れている。かつてから「同盟国にも応分の責任を取らせるべきだ」と繰り返してきたトランプは、その言葉通りに各国の財布を開かせた。供与の場で彼が言い放った「これは商売だ」という言葉は、単なる挑発ではない。これは明確なメッセージであり、兵器支援を“国家間のビジネス”と位置付けたトランプ流のリアリズムそのものだ。

今回の供与によって、米国の防衛産業、特にレイセオン社を中心とするパトリオット製造ラインには新たな受注が舞い込む。雇用が生まれ、国内経済が回る。兵器供与が外交と経済を結びつける「成長戦略」となる――これほど明快な利害の一致があろうか。

トランプの「複合戦略」──戦争をビジネスに変える男


さらに、トランプはロシアに対して「50日以内に停戦しなければ、100%の関税を課す」と警告を突きつけた。軍事だけでなく、経済の側面からもプレッシャーを与える複合的な戦略は、彼の外交スタイルに一貫して流れる“力の論理”そのものである。

もちろん懸念もある。パトリオットは確かに優れた防空兵器だが、最新型のIskander-M弾道ミサイルのような超高速・高機動型弾頭に対しては、必ずしも万能ではない。しかも今回供与されるパトリオットが最新仕様であるかどうかは明言されておらず、性能にバラつきがある可能性もある。

それでもなお、今回の供与が持つ政治的インパクトは計り知れない。バイデン政権時代には見られなかった、「同盟国への負担転嫁」「米国財政の防衛」「兵器輸出による産業振興」「経済制裁による抑止」という四本柱が、トランプ政権下で再構築された。これこそが彼の持ち味であり、「戦争には巻き込まれない、だが必要な時は関与する」という保守派の理念を、実際の政策として体現している。

ウクライナを巡る戦局の今後は不透明だ。だが確かなのは、トランプが掲げる「ビジネスとしての戦争支援」が、単なるパフォーマンスではなく、現実の政治と経済を動かしているという事実だ。兵器供与の向こう側には、冷徹な戦略とリアリズムがある。それを見抜けない日本の現政権やメディアこそが、今この瞬間、我が国最大の脆さなのかもしれない。

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中国の軍事挑発と日本の弱腰外交:日米同盟の危機を招く石破首相の矛盾 2025年7月11日
対中の弱腰と対米の強硬の矛盾は、米国から「同盟を軽んじている」と受け取られかねない。日米同盟の基盤が揺らぐ危機は、決して小さくない。

米国原潜アイスランドへ歴史的初寄港:北極海の新時代と日本の安全保障への波及 2025年7月10日

USS Newport Newsのアイスランド寄港は、北極海の安全保障を強化し、米国とNATOの結束を示す歴史的な出来事だ。日本は米国との同盟を強化し、北極海での協力を深めるべきだ。

参政党・神谷宗幣の安全保障論:在日米軍依存の減少は現実的か?暴かれるドローンの落とし穴  2025年7月9日
神谷のビジョンは情熱的だが、情熱だけでは足りない。私が気づくようなドローンの落とし穴を放置し、専門家からも批判されるようでは、参政党の未来は危うい。

日本の護衛艦が台湾海峡を突き進む!中国の圧力に立ち向かう3つの挑戦と今後の戦略 2025年6月20日今後、中国が日本に牽制や妨害を仕掛ければ、台湾海峡通過は単独や同盟国と、さまざまな規模で繰り返されるだろう。国際水域の自由を貫き、地域の安定を確保する戦略だ。

2025年7月14日月曜日

安倍構想から11年──佐賀オスプレイ配備、ついに始動

まとめ
  • 佐賀空港へのオスプレイ配備は、2014年に安倍政権が防衛省を通じて佐賀県に検討を要請しており、11年の調整を経て2025年7月に正式配備が開始。8月中旬までに全17機が順次移駐予定。
  • この配備は「南西シフト」戦略の中核をなすもので、佐賀空港は台湾・東シナ海・朝鮮半島への即応展開に最適な地理的位置を持ち、沖縄の基地負担軽減にも寄与する。
  • V-22オスプレイは約1,600kmの航続距離と高い機動力を備え、佐賀から台湾・与那国・尖閣・上海圏まで往復可能。邦人救出(NEO)や災害対応など非戦闘任務にも活用できる。
  • 米海兵隊の統計では、オスプレイの重大事故率(3.16件/10万飛行時間)は旧型ヘリより低く、安全性は証明されている。自衛隊も訓練・整備体制を整備し、地元理解も進んでいる。
  • 配備は地域振興策と一体で進められ、「国防と地域活性化の両立」を掲げる取り組みに。抑止力としての意義は大きく、主権と平和を守る現実的かつ不可欠な手段である。
佐賀配備が意味する日本防衛の変化

佐賀駐屯地に到着した陸上自衛隊の輸送機V22オスプレイ

2025年7月9日、陸上自衛隊は佐賀空港にV-22オスプレイを正式配備し、本格運用を開始した。これは単なる装備の更新ではない。日本の安全保障の地図を塗り替える決定的な一手である。

この配備は、防衛省が進める「南西シフト」構想の一環である。中国の東シナ海・台湾海峡への軍事的圧力が高まる中で、自衛隊は従来の北方偏重から脱却し、南西方面への重点的な戦力再配置を進めてきた。与那国、宮古、石垣、奄美などに新部隊を創設し、それらを支える拠点として九州・本州各地でも再編が進む。佐賀空港はその“空の中継拠点”として、まさに要の位置にある。

この構想の起点は、安倍晋三政権下にまでさかのぼる。2014年7月、防衛省は新たに導入されるオスプレイの配備先として佐賀空港を選定し、佐賀県に対し移転に関する検討を要請した。当時からこの空港は、地理的優位性に加えて既存の民間空港施設を活用できる点でも適地とされていた。また防衛省は、将来的に米海兵隊が共同で使用する可能性についても言及しており、日米同盟の観点からも戦略的価値は高い。

2014年7月 安倍首相

そして要請から11年。2025年、ついにオスプレイの佐賀配備が現実となった。8月中旬までに全17機が順次、佐賀に移駐する予定である。これに先立ち、陸自のオスプレイは暫定配備先である木更津駐屯地(千葉県)から高遊原分屯地(熊本県)に移動し、うち1機がすでに佐賀駐屯地に飛来している。

佐賀空港は、台湾、朝鮮半島、東シナ海に対する初動展開に適しており、沖縄の基地負担軽減にも寄与する配置といえる。航空自衛隊と陸上自衛隊の連携強化にもつながり、日本全体の防衛バランスの再構築に不可欠な拠点なのだ。

 オスプレイの性能と台湾有事への即応力

配備されたV-22オスプレイは、固定翼機の速度とヘリの柔軟性を併せ持つ航空機である。巡航速度は約450km/h、航続距離は約1,600km。給油なしで佐賀から沖縄本島、与那国、尖閣諸島、台湾、上海近郊までを往復可能とする。

この行動範囲は、戦力投射だけでなく、台湾有事や災害時の邦人救出(NEO)といった非戦闘任務にも極めて有効である。台湾には現在、約2万人の日本人が居住しており(外務省「令和5年 海外在留邦人数調査」)、いざという時に自力で彼らを救出できる手段を持つことは、主権国家として当然の備えである。
VSS事故履歴 クリックすると拡大

一部では、「オスプレイは危険だ」「墜落が多い」といった声もある。しかし米海兵隊の公式データ(FY2022)によれば、MV-22オスプレイのクラスA(重大)事故率は10万飛行時間あたり3.16件。これはCH-53E(12.27件)、CH-46E(9.45件)などの従来型ヘリよりはるかに低い。むしろ、統計的には安全な航空機の部類に入る。

自衛隊は2019年から長崎・相浦駐屯地で飛行訓練を重ね、整備体制や操縦士養成を段階的に進めてきた。騒音測定や住民説明会も継続的に行われ、地域との信頼構築も進んでいる。

国防と地域振興は両立できる


2024年末、防衛省と佐賀県、地元自治体との協議は大きく前進した。地域振興策や空港整備とセットでの受け入れ協議が本格化し、地元経済界からも前向きな声が上がっている。「基地は地域を壊すのではなく、守る存在であり得る」。そんな現実的な声が広がり始めているのだ。

オスプレイは、災害派遣や離島支援、有事の即応展開、邦人救出といったあらゆる任務に対応可能な“万能輸送機”である。そして何より重要なのは、敵に「日本は本気だ」と思わせる抑止力そのものが、この機体の配備によって実現するという点だ。

戦争を望まぬならば、備えよ。これは古来から変わらぬ現実の鉄則である。

佐賀の空が、未来の日本を守る前線となる。その新たな役割を、私たちは誇りと責任をもって受け止めなければならない。

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対中の弱腰と対米の強硬の矛盾は、米国から「同盟を軽んじている」と受け取られかねない。日米同盟の基盤が揺らぐ危機は、決して小さくない。

日本の護衛艦が台湾海峡を突き進む!中国の圧力に立ち向かう3つの挑戦と今後の戦略 2025年6月20日
今後、中国が日本に牽制や妨害を仕掛ければ、台湾海峡通過は単独や同盟国と、さまざまな規模で繰り返されるだろう。国際水域の自由を貫き、地域の安定を確保する戦略だ。

中国の異常接近:日本の対潜水艦戦能力の圧倒的強さを封じようとする試みか 

2025年6月13日

対潜水艦戦に優れる日本は戦略的優位を保つ。緊張緩和は必要だが、それは中国が挑発をやめることから始まる。

2025年7月13日日曜日

【主権の危機】中国の静かな侵略に立ち向かう豪米、日本はなぜ対策を怠るのか

 まとめ

  • 中国は統一戦線工作部を通じ、政治・教育・メディアに合法的な形を装って浸透し、他国の世論や政策決定を内部から操ろうとしている。
  • オーストラリアとアメリカは、外国勢力の影響力を可視化・抑制するための法制度(外国干渉防止法、FARA)を整備し、実際に孔子学院の撤退や外国資本の監視を進めている。
  • 日本には中国の影響工作を監視・規制する法律が存在せず、政治家と中国団体の関係、孔子学院の活動も不透明なままで放置されている。
  • その背後には、経済依存、政治的忖度、メディアの自主規制、国民の無関心といった複合的な要因があり、主権が静かに侵食されている。
  • 日本も主権国家として、外国エージェント登録制度を導入し、透明性と防衛意識を高める必要がある。放置すれば国家の未来が他国に委ねられる危険がある。
    中国の影響工作に立ち向かう豪米と沈黙する日本


    いま世界では、目に見えぬ戦争が進行中だ。銃も爆弾も不要。代わりに国家の内部に静かに入り込み、意志決定を操る──それが中国の“影響工作”である。

    オーストラリアやアメリカは、この静かな侵略にすでに対応を始めている。法制度を整備し、情報の透明化と影響力の遮断に乗り出した。しかし日本はどうか。相変わらず“丸腰”で、政治もメディアも沈黙を保ったまま、中国の浸透を許している。この国には、主権を守るという覚悟が決定的に欠けている。

    中国の“影響工作”とは何か

    中国は、相手国の主権と世論を内部から操ろうとする。中核を担うのが、中国共産党中央統一戦線工作部だ。政治家、研究者、メディア、教育機関、在外中国人組織を通じ、資金・人脈・宣伝活動を駆使して世論を中国寄りに傾けさせる。

    日本国内の孔子学院所在地マップ クリックすると拡大します

    具体的には、政治家への献金、大学や研究機関への寄付、孔子学院を使った教育界への影響、メディアへの広告出稿、さらにはSNSを使った世論誘導に至るまで、合法の皮を被った巧妙な工作が展開されている。これらが積み重なることで、気づかぬうちに国の意志決定そのものが歪められていく。

    “戦わずして勝つ”──それが中国の戦術であり、多くの国がその毒に晒されてきた。

    オーストラリアとアメリカは何をしたのか

    2017年、オーストラリアで中国による議員買収未遂事件が表面化。翌2018年には「外国干渉防止法」が制定された。外国勢力のために政治活動を行う者には登録義務が課され、違反すれば刑罰が科される。この法律によって、孔子学院の撤退が進み、不透明な資金の流れも次々と暴かれている。


    アメリカでは、1938年制定の「外国代理人登録法(FARA)」が再び注目を集めている。冷戦期にはソ連への対抗策として機能したが、いまや中国やロシアを見据えた制度として息を吹き返した。司法省のFARA登録部門では、外国のために活動する個人・団体の詳細が公開され、透明性が確保されている。

    2023年には、TikTokの親会社バイトダンスにもFARA適用の可能性が議論された。大学や研究機関に対しても、中国資本の関与が厳格に監視されている。アメリカには、「自由を守る」という強い覚悟がある。

    なぜ日本は“無防備”なのか

    日本には、外国の影響工作を規制・可視化する法律が存在しない。政治家と中国系団体との関係は不透明なままであり、孔子学院は今なお国内の大学に居座り続けている。メディアも“自己規制”という名の沈黙を貫いている。

    この背景には、経済依存、政治的忖度、メディアの左傾化、そして何より国民の無関心がある。中国は日本最大の貿易相手国。観光業、製造業、インフラなど、あらゆる分野が深く中国と結びついているため、政府も財界も波風を立てることを避けてきた。

    だが、その代償として、国家の根幹──主権──を売り渡してはいないか。

    中国の影響工作に対し、日本も今こそ“防衛線”を築くべき時だ。第一に導入すべきは、外国エージェント登録制度である。外国政府や外国の団体のために政治的・宣伝的な活動を行う個人や組織に対して、登録と情報公開を義務付ける制度である。特定外国勢力の影響下にある人物や団体を明示することで、国民が実態を把握できるようにする。孔子学院に関しても、資金の出所と活動実態を精査し、必要であれば閉鎖も辞さぬ覚悟が求められる。

    米国には「外国代理人登録義務違反(FARA)」が定められておりこれは、合衆国法典18篇951条の規定で、米国は外国政府の代理人として活動する者に対して、司法長官への届出を義務付けており、これに違反した場合は10年以下の拘禁刑又は罰金刑を科すというものだ。外国の工作員や協力者は外国の政府のために働く代理人だから、それさえ立証できれば、他に法律違反がなくても本条違反となる。

    マイケル・フリン

    マイケル・フリンは、トランプ政権の元国家安全保障補佐官であり、トルコ政府のためにロビー活動を行いながらFARA登録を怠っていた。また、ロシア政府関係者との接触についてFBIに虚偽の供述をしたため、2017年に起訴され有罪を認めた。FARA違反自体は起訴理由ではなかったが、捜査の一部として重視され、2020年にトランプ大統領から恩赦を受けた。彼の事件は、外国の影響と国家安全保障の問題を広く知らしめた象徴的な事例である。

    スパイ活動には、情報収集の他にも、偽情報を拡散して世論に影響を与える情報作戦、他国政府に働きかけて一定の政策を選択させようとする積極工作、他国国内での暗殺や実力行動、その他様々な活動形態がある。外国工作員・協力者の取締規定としては、「外国の代理人に登録義務を課し、その違反を罪に問う規定」は、合理的な規定と言える。

    国家の意志決定が、見えざる他国の意図によって操作されている──そんな現実を許してはならない。主権国家として当然の防衛措置を講じなければ、この国の未来は静かに奪われていく。

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    ハンター氏の司法取引「保留」 米地裁、異例の展開 バイデン氏次男―【私の論評】 ハンター・バイデン氏の裁判次第で、日本はバイデン政権とつきあい方を変えることになるか 2023年7月27日

    連邦議員が、ニューヨーク・タイムズ、ワシント・ポストで公開された中国プロパガンダに対する捜査を要求―【私の論評】我が国でもFARA(外国代理人登録法)を成立させよ 2020年2月10日


    【古森義久のあめりかノート】中国の「統一戦線工作」が浮き彫りに―【私の論評】米国ではトランプ大統領が中共の化けの皮を剥がしはじめた!日本もこれに続け 2018年9月23日

    2025年7月12日土曜日

    日本の防衛費増額とNATOの新戦略:米国圧力下での未来の安全保障

    まとめ
    • 日本は米国からの防衛費増額の圧力に直面しているが、具体的な数字の要求は否定されているようだ。
    • 日本は2027年までにGDPの2%を防衛費に充てる計画を進めている。
    • NATOは2035年までに防衛費をGDPの5%に引き上げる目標を設定しており、その柔軟な枠組みが日本に参考になる可能性がある。
    • 日本はNATOの二層構造(軍事力と非軍事の安全保障投資)を学び、独自の防衛戦略を構築できるかもしれない。
    • 防衛費の増額と経済・社会福祉のバランスが課題であり、NATOの枠組みが参考になる可能性がある。
    日本は今、米国からの防衛費増額の圧力に直面している。だが、具体的な数字の要求はない。日本は自らの道を模索し、NATOの柔軟な枠組みから学びながら、防衛力強化と経済のバランスを追求している。この動きは、中国や北朝鮮の脅威、そして同盟国との協力を見据えたものだ

    アメリカからの圧力と日本の対応

    一部マスコミでは米国が日本の防衛費を5%にすることを要求したとされるが・・・

    2025年6月、トランプ政権が日本に防衛費をGDPの3.5%や5%に引き上げるよう求めたと報じられたが、日本政府はこれを否定。内閣官房長官の林芳正は「そのような事実はない」と断言し、金額よりも防衛能力の向上が重要だと強調した(Bloomberg, 2025-06-23)。2025年3月、米国防次官補がGDPの3%を求めたと報じられたが、日本はこれも否定(Kyodo News, 2025-03-06)。

    日本は2027年までにGDPの2%を達成する計画を進めており、2024年度の防衛費は7.7兆円、2025年度は9.9兆円(GDPの1.8%)に達する(Kyodo News, 2025-04-15)。この増額は、中国や北朝鮮の脅威に対応し、攻撃能力やミサイル防衛の強化を目指すものだ(AP News, 2024-12-27Carnegie Endowment for International Peace, 2023-02-28)。

    NATOの新しい防衛費枠組み


    NATOは2025年6月のハーグサミットで、防衛費を2035年までにGDPの5%に引き上げる目標を掲げた(NATO, 2025-06-27)。この目標は、核心的防衛支出(少なくとも3.5%)と、インフラ保護、サイバーセキュリティ、民生防衛、革新、防衛産業強化などの広範な安全保障投資(最大1.5%)に分かれる。NATO事務総長のマーク・ルッテは、ロシアの脅威を背景にこの目標を強く推進。2025年5月、彼はトランプの5%要求に応えつつ、欧州とカナダにとって実行可能な枠組みを提案した(Reuters, 2025-05-02CNBC, 2025-06-25)。ルッテは、トランプがNATOへのコミットメントを維持しつつ、欧州の貢献増を期待していると語り、柔軟な投資が多様な脅威に対応する鍵だと強調した(Politico, 2025-05-27)。

    このNATOの枠組みは、各国が自国のニーズに合わせて投資を調整できる点で柔軟だ。南欧諸国は災害対応を、ドイツはインフラを、北欧諸国はサイバーセキュリティを優先する。この柔軟性は、ハイブリッド戦争や気候関連リスクに対応する強みだが、共通基準の設定が難しい。元事務総長イェンス・ストルテンベルグは2021年に「NATOは最も弱いリンクの強さだけ」と警告した。この課題は、ルッテも認識しており、加盟国間の調整を重視している。

    日本の防衛戦略と経済のバランス

    日本にとって、NATOのこのアプローチは大きなヒントだ。核心的防衛と広範な安全保障投資の二層構造は、軍事力だけでなく、サイバー攻撃や経済安全保障への対応を可能にする。日本は、港湾や鉄道の保護、サイバー防衛への投資を増やすことで、NATOのような戦略を構築できる。ルッテが強調する負担共有の原則は、米国との同盟を強化する上で重要だ。

    米国は日本にさらなる負担を求めており、2025年3月の報道では、米国防次官補がGDPの3%を求めたとされるが、日本はこれを否定している(Kyodo News, 2025-03-06)。日本の2%目標は、NATOの2%目標を参考にしたことが明らかだ(Mainichi, 2025-06-27)。しかし、日本はNATOのメンバーではなく、平和憲法や米国への核抑止力依存という制約がある。NATOのモデルをそのまま適用するのは難しいが、柔軟な枠組みは日本の防衛戦略にヒントを与える。

    ルッテNATO事務総長

    日本の防衛費増額は、経済や社会福祉とのバランスも求められる。2024年12月、軍事費と債務返済のコスト上昇が課題として報じられた(Army Recognition, 2024-12-26)。NATOの柔軟な枠組みは、このバランスを取る参考になる。ルッテの推進する二層構造は、軍事力強化と同時に、インフラやサイバー防衛への投資を可能にする。日本の防衛政策は、憲法の制約や米国との同盟を考慮し、独自の道を模索する必要がある。

    結論として、日本は米国からの圧力に直面しているが、GDPの3.5%や5%の具体的な目標は求められていない。2027年までにGDPの2%を達成する計画を進める日本にとって、ルッテの推進するNATOの柔軟な防衛費枠組みは、軍事力と新たな安全保障課題のバランスを示す。2029年のNATOの目標見直しは、日本にとっても同盟国との協力を見直す機会になるだろう。

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    2025年7月11日金曜日

    中国の軍事挑発と日本の弱腰外交:日米同盟の危機を招く石破首相の矛盾

     まとめ

    • 中国の挑発行為:2025年7月9日・10日、中国軍のJH7戦闘爆撃機が東シナ海上空で航空自衛隊のYS11情報収集機に最短30メートルまで異常接近。6月にも同様の接近があり、9日には空対空ミサイルとみられる物体が確認された。
    • ドイツのレーザー照射事件:2025年7月2日、紅海のEU「アスピデス」作戦で、ドイツの偵察機が中国海軍からレーザー照射を受けた。ドイツは大使を召喚し強く非難。
    • 日独の対応の違い:日本は外交ルートで懸念を伝えるにとどまり、大使召喚や公開非難を避けた。ドイツは断固とした抗議を行い、EU・NATOを背景に強硬姿勢を示す。
    • 石破首相の発言:2025年7月9日、石破首相は参院選演説でトランプの25%関税政策に「なめられてたまるか」と反発。選挙向けの強硬姿勢だが、中国への対応は穏便。
    • 日米同盟への影響:日本の対中弱腰と対米強硬の矛盾は、米国から「同盟を軽んじている」と受け取られるリスクがある。トランプは日米安保を「不公平」と批判し、同盟の基盤が揺らぐ懸念がある。
    2025年7月、中国の傍若無人な行動が日本とドイツを揺さぶった。東シナ海では航空自衛隊の機体が中国軍機に異常接近され、紅海ではドイツの偵察機がレーザー照射を受けた。日本の対応は穏便、ドイツは断固。一方、石破茂首相は米国への強硬姿勢を打ち出しながら、中国には及び腰だ。この矛盾は日米同盟を危うくする。事態の真相とその裏に潜む危機を追う。
    中国の挑発、日本とドイツの試練

    YS-11EB 電波情報収集機

    2025年7月9日と10日、東シナ海上空で航空自衛隊のYS11情報収集機が中国軍のJH7戦闘爆撃機に追い詰められた。9日、15分間にわたり最短30メートルまで接近。10日も10分間、最短60メートルまで迫られた。YS11は電波情報を集める特殊機体だ。9日にはJH7の翼下に空対空ミサイルらしき物体が確認された。6月7日・8日にも海上自衛隊の哨戒機が同様の接近を受けている。被害はなかったが、衝突の危険は明らか。日本政府は中国に懸念を伝え、再発防止を求めたが、強い非難はなかった(出典:Nippon.com)。

    EUの新たな紅海での作戦「アスパイド作戦」

    一方、7月2日、紅海でEUの「アスピデス」作戦に参加中のドイツ偵察機(MSP)が中国海軍の軍艦からレーザー照射を受けた。「アスピデス」は紅海の商船をフーシ派の攻撃から守り、航行の自由を確保する任務だ。ドイツ国防省は「乗員と任務が危険にさらされた」と断じ、外務省は中国大使を召喚。「許しがたい」と声を上げた。任務は中断、機体はジブチに着陸したが、EUの安全保障に暗雲が垂れ込めた。中国は「事実無根」と否定したが、ドイツの対応は揺るぎなかった(出典:Reuters)。

    日独の対応、明暗を分ける

    佐藤正久参議院議員

    日本の対応は慎重すぎる。外務省は電話で懸念を伝え、再発防止を求めたが、大使召喚や公開非難は控えた(出典:India Today)。ドイツは対照的だ。中国大使を呼び出し、公式声明で非難の声を響かせた(出典:The Guardian)。佐藤正久参議院議員は「日本の曖昧さは安全保障を弱める。ドイツの明確な姿勢を見習うべきだ」と喝破する(@SatoMasahisa, 2025年7月10日)。日本の遠慮は中国との経済・外交関係への配慮か。ドイツはEUとNATOの後ろ盾で強気に出る。この差は国の立ち位置を映し出す。

    石破首相の矛盾、同盟の危機

    石破茂首相は7月9日の参院選演説で、トランプ米政権の25%関税政策に噛みついた。「国益をかけた戦いだ。なめられてたまるか」と吠えた(出典:India Today)。選挙向けの強気な言葉だが、米国との交渉を意識したものだ。しかし、中国の領海侵犯や軍機接近には穏便な対応に終始。佐藤正久は「中国には弱腰、米国には強気。この矛盾は日本の安全保障を危うくする」と断じる(@SatoMasahisa, 2025年7月10日)。


    トランプは日米安保条約を「不公平」と切り捨て、貿易と安全保障を絡める(出典:Bloomberg, 2025年3月7日)。日本の対米強硬姿勢は同盟に亀裂を生む。Reutersは「日本の発言は緊張を高める」と警告する(Reuters, 2025年7月7日)。対中の弱腰と対米の強硬の矛盾は、米国から「同盟を軽んじている」と受け取られかねない。日米同盟の基盤が揺らぐ危機は、決して小さくない。

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    東京都議選の結果は、来るべき参院選への重要な示唆を与える。国会での与野党の力関係が拮抗すれば、より活発な政策議論が期待され、国民にとってより良い政治環境が整うだろう。

    2025年7月10日木曜日

    米国原潜アイスランドへ歴史的初寄港:北極海の新時代と日本の安全保障への波及

    まとめ
    • 歴史的寄港:2025年7月9日、米海軍の原潜「USS Newport News」がアイスランドのグンダルタンギに初停泊し、米国とNATOの北極海での安全保障強化を示した。
    • 戦略的背景:ロシアと中国の北極海活動増加に対抗し、GIUK海峡の監視を強化。アイスランドはNATO加盟国として戦略的要衝の役割を担う。
    • 日本の安全保障との関連:直接的影響はないが、米国のグローバル戦略が日本の安全保障環境を安定させ、北極海の経済・安全保障的関心とつながる。
    • 環境と地元反応:地元住民や環境団体は海洋生態系や放射能リスクを懸念。米国は核兵器非搭載を明言し、安全対策を強調する。
    • 今後の展望:日本は北極海航路やケーブルプロジェクトを活用し、米国との同盟を強化。環境問題と安全保障のバランスが課題となる。
    アイスランドのグンダルタンギに寄港した米海軍のロサンゼルス型攻撃原潜(USS Newport News)

    2025年7月9日、米海軍のロサンゼルス型攻撃原潜(USS Newport News)がアイスランドのグンダルタンギに寄港した。これはアイスランドの岸壁に米国の原潜が初めて停泊した歴史的な出来事であり、北極海の安全保障を強化し、米国とNATOの結束を示す動きだ。潜水艦は乗員約143名で、トマホークミサイルやMK-48魚雷を装備するが、核兵器は搭載していない。この寄港は、ロシアや中国の北極海での活動増加に対抗する米国とアイスランドの戦略的協力の象徴であり、日本の安全保障にも間接的に影響を与える可能性がある。以下、この出来事の背景、意義、そして日本との関連を詳しく解説する。

    寄港の背景と北極海の戦略的意味


    アイスランドはNATO加盟国であり、北大西洋の戦略的要衝として冷戦時代から重要な役割を担ってきた。近年、気候変動による海氷の減少で北極海の商業航路や資源開発が活発化し、ロシアが軍事基地を拡張し、中国が「極地シルクロード」構想を進める中、GIUK(グリーンランド、アイスランド、英国)海峡の監視が一層重要になっている。2023年初頭、アイスランドは米国の核動力潜水艦の訪問を許可し、今回の寄港はその7回目にあたる。米国海軍のムンス提督は、この寄港が「同盟国へのコミットメントと対抗勢力への抑止力」を示すと強調した。アイスランド政府も、監視能力の強化や水中インフラの保護に寄与すると評価している。

    しかし、地元では議論も起きている。一部の住民や環境団体は、原潜の寄港が海洋生態系や放射能リスクを高めると懸念し、アイスランドの核兵器非保有方針にも注目が集まる。米国は核兵器非搭載を明言し、安全対策を強調するが、北極の軍事化に対する不安は根強い。過去には2023年4月にUSS San Juanがアイスランド沖で補給を行ったが、岸壁での停泊は今回が初であり、米国とアイスランドの協力が新たな段階に入ったことを示している。

    日本の安全保障とのつながり

    日本の安全保障は、北朝鮮の核・ミサイル開発や中国の軍事拡張への対応に重点を置いており、2022年に策定された国家安全保障戦略(NSS)は、ミサイル防衛、サイバーセキュリティ、国際協力を強化している。アイスランドへの原潜寄港は直接的に日本に影響しないが、米国のグローバルな安全保障戦略を通じて間接的な関連がある。まず、米国が北極海でロシアの活動を牽制することで、グローバルな安全保障環境が安定し、日本を含む同盟国に利益をもたらす。特に、北朝鮮や中国の脅威に対抗する米国のプレゼンスは、日本にとって重要な後ろ盾だ。

    ロシア太平洋艦隊旗艦 ミサイル巡洋艦「ワリャグ」

    さらに、日本は北極海に戦略的関心を持つ。2015年の「日本の北極圏政策」では、気候変動、航路活用、資源開発、安全保障を重視し、北極海経由の海底ケーブルプロジェクトも進行中だ。このケーブルはアイスランドと日本を結ぶもので、経済的・安全保障上の協力を強化する可能性がある。たとえば、2022年に報じられたプロジェクトは、データ通信の高速化とサイバーセキュリティの向上を目指している(出典: Reykjavik Grapevine, 2022年7月13日)。

    また、冷戦期に日本は北太平洋で対ソ連の潜水艦監視に協力した経験があり、現在の米国の行動はこれと類似の戦略的枠組みと見なせる。NATOとの関係も重要だ。日本はNATOのパートナー国であり、アイスランドでの米国とNATOの活動は、日本の安全保障に間接的に寄与する。たとえば、2025年8月の大阪万博でのNATO参加は、日米同盟とNATOの連携強化を示す(出典: NATO公式サイト, 2025年7月)。米国のアイスランドでの行動は、こうしたグローバルな協力網を強化し、日本の安全保障環境を安定させる一助となる。

    今後の展望と日本の対応

    この寄港は、北極海の地政学的競争が激化する中、米国とNATOのプレゼンス強化を示す。ロシアはこれをNATOの拡張と批判し、中国も対抗措置を取る可能性がある。一方、日本は北極海の安全保障や経済的機会を注視し、米国との同盟を基盤に戦略を進める必要がある。たとえば、北極海航路の活用は日本のエネルギー安全保障や貿易に影響し、米国の活動はこれを支える基盤となる。しかし、環境や地元住民の懸念も無視できない。日本も海洋環境保護に取り組んでおり、アイスランドでの議論は日本の政策に教訓を与える。米国との協力深化は、日本の安全保障を強化するが、同時に北極海の軍事化や環境問題へのバランスが求められる。日本は、サイバーセキュリティやミサイル防衛の強化に加え、北極海での国際協力を通じて、グローバルな安全保障に積極的に関与すべきだ。

    オホーツク海上を飛行する日本のP3C哨戒機

    2025年7月9日のUSS Newport Newsのアイスランド寄港は、北極海の安全保障を強化し、米国とNATOの結束を示す歴史的な出来事だ。日本には直接的影響はないが、米国のグローバル戦略や北極海の経済・安全保障的関心を通じて、日本の安全保障に間接的に寄与する。ロシアや中国の動向、環境問題への対応を注視しつつ、日本は米国との同盟を強化し、北極海での協力を深めるべきだ。この寄港は、変わりゆく世界の安全保障環境の中で、日本が新たな役割を模索するきっかけとなるだろう。

    参照
  • Reykjavik Grapevine: Submarine Cable Will Give Iceland Direct Telecommunications Access to Japan, 2022年7月13日
    https://grapevine.is/news/2022/07/13/submarine-cable-will-give-iceland-direct-telecommunications-access-to-japan/
  • Reykjavik Grapevine: US Nuclear Submarine Docks In Hvalfjörður, 2025年7月9日
    https://grapevine.is/news/2025/07/09/us-nuclear-submarine-docks-in-hvalfjordur/
  • Submarine Cable Map, 2025年
    https://www.submarinecablemap.com/
  • The Diplomat: Taiwan’s Subsea Cable Security and China’s Growing Regional Influence, 2023年3月
    https://thediplomat.com/2023/03/taiwans-subsea-cable-security-and-chinas-growing-regional-influence/
  • The Arctic Institute: Japan Steps Up Its Arctic Engagement, 2025年
    https://www.thearcticinstitute.org/japan-steps-up-arctic-engagement/
  • Stimson Center: Back to the Future? The Implications of Growing Strategic Competition in the Arctic for the US-Japan Alliance, 2025年
    https://www.stimson.org/2025/implications-strategic-competition-arctic-us-japan-alliance/
  • NATO: NATO to participate at World Expo 2025 in Osaka, Japan, 2025年7月
    https://www.nato.int/cps/en/natohq/news_236850.htm
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