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2020年2月21日金曜日

フィリピンの「訪問米軍に関する地位協定」破棄は中国に有利?―【私の論評】米国、中国との距離を再調整しつつあるフィリピン(゚д゚)!

フィリピンの「訪問米軍に関する地位協定」破棄は中国に有利?


フィリピンが先日「訪問米軍に関する地位協定」の破棄を決めたことが、大きな議論を呼んでいます。

協定が破棄されればフィリピンで行われていた米軍による演習やサポートがなくなり、フィリピンにとって大きな影響があるのでは?と言われていますが、実は最も喜んでいるのは中国・・かもしれません。

アメリカのトランプ大統領は「節約になるし、特に問題ない」と発言していますが、アメリカ国防総省の高官は、「協定を破棄すればアメリカの影響力が落ち、中国にとって有利になる」と指摘しています。

また、アメリカ国防総省の中国担当スブラジア次官補代理も、「アメリカとフィリピンの軍事的な関係がすぐに壊れるわけではないが、中国はアメリカを追い出そうとしている。これはアメリカと中国の競争だ。」と述べました。

つまり、アメリカがいなくなれば、中国はフィリピンを侵略しやすくなる、というような意味でもありますね。

南シナ海問題ではアメリカのサポートもあって何とか中国の動きを抑えてきているフィリピンですが、協定がなくなれば中国はもっと自由に動けるようになるかもしれません。

さらにスブラジア氏は、「中国は各国からアメリカを引き離そうとしている」とコメントし、警鐘を鳴らしました。

今のところドゥテルテ大統領は破棄決定を撤回するつもりはなさそうですが、アメリカはどうにか説得しようと必死になっているようにも見えます。

フィリピン国民としても、中国の勢力が拡大し、それが自国に及んでくることは誰も望んでいないでしょう。

協定破棄が有効になるまでにはまだ半年近くありますが、この間にドゥテルテ大統領がどう動くかは、世界中が注視しています。

【私の論評】米国、中国との距離を再調整しつつあるフィリピン(゚д゚)!

ドゥテルテ比大統領

2016年6月にドゥテルテ(Rodrigo Duterte)現大統領が就任した後、フィリピンの対外政策は大きく変わりました。ドゥテルテ大統領は、米国との同盟関係を強化し中国と対決姿勢をとった前アキノ政権の対外政策を180度転換し、米国と距離を置き、中国に接近しました。

その理由は、経済開発の重視、麻薬など治安対策に対する欧米からの非難への反発、中国とコネクションを持つ華人の政権への影響力、個人的な対米不信など様々に取り沙汰されていました。ただ、就任から4年が経とうとする現在、米中対立の激化をはじめとする戦略環境の変化に合わせ、フィリピンは米国や中国との距離を再調整しています。

再調整のプロセスにおいて鮮明になったドゥテルテ政権の傾向は、中国との経済協力を強化する基本路線を保ちつつ、対米関係で「南シナ海カード」を使い、より多くの関与を引き出そうとする姿勢です。

しかし、深化する経済協力によって、南シナ海におけるフィリピンと中国の領有権争いが鎮火したわけではないです。南シナ海では依然として、フィリピンと中国の間でトラブルが頻発しています。

それらは主として、係争海域における、中国によるフィリピンに対するハラスメントです。例えば2019年初から4月にかけて、フィリピンが実質的に管理するスプラトリー諸島のパグアサ島近海に、200隻以上の海上民兵の一部とみられる中国漁船が大挙して押しかけました。

この中国の示威的な行動に対し、フィリピン政府は外交ルートで中国に抗議しました。また同年6月には、リード礁付近で停泊中のフィリピン漁船に中国漁船が衝突し、フィリピン漁船が沈没する事案が発生しました。フィリピン世論は、中国漁船による「当て逃げ」として対中批判を強め、マニラでは反中デモも行われまし。

こうした中国のハラスメントやトラブルに対してドゥテルテ大統領は、時折強硬な発言によって世論の弱腰批判を避けつつも、トラブルの火消しを念頭に穏当な発言に終始しました。

そうした大統領の発言は、例えばパグアサに中国漁船が押し掛けた際には「(同島に展開する)兵士は自爆攻撃の用意がある」など挑発的な発言を行ったかと思えば、フィリピン漁船の沈没事案を「ちょっとした海難事故」と形容するなど、一貫性を欠いていました。

また2019年6月にバンコクで行われたASEAN首脳会議の席上、ドゥテルテ大統領はASEANと中国の間で進行中の行動規範(Code of Conduct:COC)協議の遅れに対し、失望と不満を表明しましたが、これも本人の真意か、世論向けのリップサービスであったのか、判然としないものでした。

南シナ海問題への対応の文脈で、ドゥテルテ政権は対米関係の再調整をも図ろうとしています。ただそれは、距離を置いていた米国へ再接近を図るといった単純なものではなく、対中関係に関する自らの立ち位置を変えないまま「南シナ海カード」を使って米国から安全保障上の関与をより多く引き出そうとする戦略的な動きです。

昨年末以来、フィリピン政府は米国に対し、同盟条約の見直しを要求しています。米比同盟の礎となる条約は、1951年に締結された米比相互防衛条約ですが、有事の際の規定は次のようになっています。
第4条 各締約国は、太平洋地域(the Pacific area)におけるいずれかの締約国に対する武力攻撃(armed attack)が、自身の平和と安全にとって危険であることを認識し、憲法上の手続きに従って共通の危険に対処するために行動することを宣言する。
フィリピン政府内で見直し論争の中心にいるのは、ロレンザーナ(Delfin Lorenzana)国防相です。国防相は昨年末、米比相互防衛条約を見直すべきであり、見直しが不調に終わった場合は条約の破棄もありうる、とまで発言しました。

ドゥテルテ大統領は対中接近の理由の1つとして「同盟国米国は、南シナ海有事に際してフィリピンのために中国と戦う意思はない。フィリピンも中国と戦争する力はない。そのためフィリピンは中国とは対決せず、対話姿勢をとる」という論理に言及しています。

この理屈は故なきことではなく、スカボロー事案でのフィリピンの失望がありました。2012年、スカボロー礁が中国との対峙の果てに中国の実質的な管理下となった際にも、米国は軍事介入することはありませんでした。フィリピン政府は、米国が南シナ海の領有権問題で中立を保ち、有事の際に同盟条約に基づきフィリピンを支援することを確約しないことに、不満を強めていました。

そのためロレンザーナ国防相は、南シナ海有事に際して米国がフィリピンの防衛に確実にコミットするよう、条約の見直しを要求しました。要求のポイントは2点あり、条文にある「太平洋地域」と「武力攻撃」の定義です。

ロザンナーレ比国防相

国防相は、南シナ海有事の対応に沿う形で、定義を明確化するよう求めました。フィリピン側の不満を受け、ポンペオ国務長官は2019年3月にフィリピンを訪問した際、「南シナ海は太平洋地域の一部であるため、南シナ海におけるフィリピン軍、航空機、公船に対する武力攻撃は、米比相互防衛条約第4条における相互防衛義務に該当する」と述べ、南シナ海有事におけるフィリピンの防衛に関し、以前より踏み込んだ発言を行いました。

またアメリカのソン・キム(Sung Kim)駐フィリピン大使は、海上法執行機関や武装漁民を念頭に「外国政府の意を受けた民兵よる攻撃も、『武力攻撃』に含まれうる」と述べ、フィリピン側の要求に応える形をとりました。

政権内では同盟見直しに関する関係者の発言にはバラつきがあり、例えばロクシン(Teodoro López Locsin Jr.)外相は見直し不要論者であり、ドゥテルテ大統領自身はこの問題に関し意見表明を行っていません。

こうしたやり取りを見ていると、ドゥテルテ政権は米国との間で同盟に基づく協力関係を強化するというよりは、フィリピン側の不満を表明し、米比同盟の不備を明らかにし、政権の現在の対中アプローチを正当化しようしている観さえあります。

実際、2019年5月の総選挙ではドゥテルテ陣営が大きく勝利して政権基盤を盤石にすると共に、大統領自身の支持率も高い水準を保っているため、ドゥテルテ大統領は、自らの政策の優先順位に一層確信と自信を深めているように見えます。

次世代移動通信システムの5Gをめぐる米中の対立に関しても、ロペス(Ramon Lopez)貿易相は、ファーウェイをフィリピン政府として必ずしも排除しない意向を示しました。これに対してキム大使は、アメリカとフィリピンの間で同盟関係に基づく軍事情報の共有が困難になる可能性があるとの懸念を示しました。

ドゥテルテ政権関係者から同盟の解消にまで言及がある中で、ファーウェイを導入しないよう米国がフィリピンに対して圧力をかけても、効果は未知数です。総じてフィリピンは、現在の中国との関係のあり方を変えるつもりはなく、今後も中国寄りの対中・対米関係の維持と、状況に応じて適宜再調整を行う、という対応をとると考えられます。

その方向性の中で、エスパー米国防長官は13日までに、フィリピン政府から「訪問米軍に関する地位協定」を破棄するとの通知を受けたとし、遺憾の意を表明しました。

エスパー国防長官

協定は1988年の締結で、米軍用機や艦船の比国内への自由な寄港を承認。米軍人には入国査証や旅券の対応などの規制が緩くなっています。

最近訪比したばかりだった長官はベルギー・ブリュッセルへ向かう機中で、廃棄の通知は届いたばかりだとし、米国の対応を決める前に米軍司令官の意見を聞く必要があると記者団に述べました。

トランプ大統領はホワイトハウスで記者団に、「彼らがそうしたいならそれでいい。多額の金を節約できる」と述べ、フィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ大統領とは「とても良好な関係」にあるとアピールしました。

フィリピンでは、地位協定をめぐり議論が割れています。左派や国家主義者らは、罪に問われた米兵の特別扱いを保証するものだと非難しています。一方、地位協定を破棄すればフィリピンの防衛力が低下し、南シナ海における中国の野望を阻止するという米国の目標にも支障が出ると擁護する声もあります。

ドゥテルテ政権の麻薬犯罪撲滅作戦では、容疑者多数が当局により殺害され、欧米諸国を中心に人権侵害との批判が強いです。

問題なのは、ドゥテルテ大統領が批判に耳を貸さず、欧米への反発から、人権状況に口出ししない中国にすり寄りつつあることです。

強権や人権弾圧で欧米の批判を受ける国に経済援助を手に近づき、影響下に置くのは中国の常套手段です。ASEANでは親中派のカンボジアがその典型ですが、フィリピンの立場は特別です。

ハーグの仲裁裁判所は南シナ海での中国の主張を退けました。勝訴した当事国がフィリピンであることを忘れるべきではありません。

裁定は中国の海洋拡大をやめさせる大きな拠り所であり、フィリピンは本来、先頭に立って中国の非を鳴らすべきなのです。裁定が中国から経済援助を引き出すカードであってよいはずはありません。

目先の利益に飛びつき、南シナ海の不当な支配を許してよいのでしょうか。対中連携を再確認する形で、破棄撤回を決断すべきです。

トランプ大統領も「多額の金を節約できる」などとして、「訪問米軍に関する地位協定」の破棄を許容すべきではありません。ただし、トランプ大統領としては、様子見というところなのだと思います。南シナ海の安全保証に後退があるようなことだけは、避けてもらいたいです。

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2020年2月14日金曜日

米国「通貨安関税」の狙いは、中国を本気で追い詰めること 変動相場制の日本は対象外に ―【私の論評】米国の本気度を見誤れば、中国は自滅する(゚д゚)!

米国「通貨安関税」の狙いは、中国を本気で追い詰めること 変動相場制の日本は対象外に 
高橋洋一 日本の解き方

トランプ大統領

 米商務省は、自国通貨を割安に誘導する国からの輸入品に対し、相殺関税をかけるルールを決定したと発表した。中国などを牽制(けんせい)する狙いと報じられている。

 米国が中国製品に関税をかけた場合、その製品のドル建て価格が変わらなければ、米国内の価格が上昇する。その場合、関税を負担するのは米国の消費者になる。

 しかし、現実には、中国製品の米国内での価格はあまり上昇していない。中国製品のドル建て価格が低下しているからだ。これは、米国へ輸出している中国企業が輸出価格を下げたことと、中国人民元が安くなったことによるものだ。

 米中貿易戦争が報復関税により激化した2018年以降、人民元の対ドルレートは1割程度(平均的にはその半分)安くなり、米国による関税引き上げの一部を相殺している。

 ここで、中国は為替について、変動相場制でなく、管理制であることに留意する必要がある。

 変動相場制であるためには、内外の資本取引が自由化されていることが最低条件であるが、生産手段の国有を核心政策とする共産主義中国では、資本取引の自由化は国の根幹に触れるので、到底できない。これは、中国が共産党体制である限り、まともな為替自由化はあり得ないことを意味する。

 本コラムでは、この点が中国のアキレス腱(けん)となっていることを繰り返してきたが、今回の米国による通貨安関税は中国の弱点をしっかり把握していることを示している。

 もちろん標準的な為替理論では、変動相場制において為替は二国間の金融政策の差で決まる。つまり、一国が国内事情により金融緩和すると、当該国の通貨が増加し、他国通貨に比して相対的に増えるので、希少性が減り通貨が安くなる。

 米国も変動相場制であり、国内がデフレになれば金融緩和を行うだろう。その時にはドル安になる。だから、この標準理論を承知していないはずないので、「通貨安」の条件として、政府が為替介入に関与していることなどとともに、「独立した中央銀行の金融政策は通常、含まれない」と明確化した。

 なお、「通貨安」の基準として、特定通貨がドルや主要通貨で構成する通貨バスケット相場に対して安くなったこととしている。この新ルールは、4日に公布され、60日後に施行される予定だ。

 こうした措置は、制度的にも為替介入せざるを得ない中国が主たるターゲットであることは明らかだ。

 変動相場制である日本などが通貨安になっても、インフレ目標があらかじめ設定され、金融政策が独立したものとして行われた結果であれば、原則として相殺関税が課されることはないだろう。

 11月の大統領選を控えた今の時期に、体制のアキレス腱である為替まで踏み込んだ米国は、本気で中国を追い詰めるようだ。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】米国の本気度を見誤れば、中国は自滅する(゚д゚)!

米国としては、中国が人民元を操作して元安になると、政治目的である対中貿易赤字の削減を達成できなくなります。となると、人民元操作をやめさせるような手段にでるかもしれない。それは、人民元の自由化です。


経済学の教科書では「固定相場制では金融政策が無効で財政政策が有効」「変動相場制では金融政策が有効で財政政策無効」と単純化されていますが、その真意は、変動相場制では金融政策を十分緩和していないと、財政政策の効果が阻害されるという意味です。つまり、変動相場制では金融政策、固定相場制では財政政策を優先する方が、マクロ経済政策は効果的になるというものです。

これを発展させたものとして、国際金融のトリレンマ(三すくみ)があります。この結論をざっくりいうと、(1)自由な資本移動(2)固定相場制(3)独立した金融政策-の全てを実行することはできず、このうちせいぜい2つしか選べないというものです。

これらの理論から、先進国は2つのタイプに分かれます。1つは日本や米国のような変動相場制です。自由な資本移動は必須なので、固定相場制をとるか独立した金融政策をとるかの選択になりますが、金融政策を選択し、固定相場制を放棄となっています。

もう1つはユーロ圏のように域内は固定相場制で、域外に対して変動相場制というタイプです。自由な資本移動は必要ですが域内では固定相場制のメリットを生かし、独立した金融政策を放棄します。域外に対しては変動相場制なので、域内を1つの国と思えば、やはり変動相場制ともいえます。

現在、中国は公式上、管理変動制を採用していることになっていますが、中央銀行が公表する対ドルレートは日々の動きがほとんどなく、人民元は事実上ドルにペッグされています。ドルペッグ制( - せい)とは、自国の貨幣相場を米ドルと連動させるペッグ制(固定相場制)をさします。

資本取引が厳しく制限されているため、資本が即座に中国に流入したり流出したりできず、多くのアジア通貨が通貨危機の際に急激な切り下げを経験した時でさえ、対ドルで安定を維持していました。

しかし、中国が資本取引の自由化を進めるにしたがって資本移動が活発になり、現在の実質上のドルペッグ制を維持することが難しくなり、無理に維持しようとしても、内外の金利裁定取引により金融政策が大幅に制約されることになります。

実際、最近の中国は、国内の金融政策が大幅に制限されることになりました。現状の中国では金融緩和を実施すれば、投資効率の低下、資産負債比率の上昇という構造問題が深刻化することが見込まれているからです。債務の株式化も低調であるため、政府はリスクに配慮した慎重な金融政策をせざるを得ないのです。

このように、為替制度を選択する際、中国も他の国々と同様、為替の安定と独立した金融政策、更には自由な資本移動、この三つを同時に達成することはあり得ないという国際金融のトリレンマに制約されているのです(図)。

つまり、その3つの選択肢からどの2つを選ぶのか、言い換えればどれを放棄するのかという選択に直面しているのです。中国は自由な資本移動を放棄する形で独立した金融政策と為替の安定(固定レート)を選んでいるのですが、今後政策的に資本移動が自由化されてくると、独立した金融政策を維持するためには為替レートの安定をある程度犠牲にしなければならなくります。

日本のように完全なフロート制になることはないでしょうが、少しずつ変動の幅を広げていくということは十分あり得るのです。今回の米国の「通貨安関税」は、その誘引となるものと考えられます。

図 国際金融のトリレンマ


10年ほど前、中国では人民元改革と称して、変動相場制に移行すると思われた時期もあったのですが、結局資本移動の自由に立ち入ることはできませんでした。

人民元の自由化は、中国にとっては触れられたくないところです。しかも、それを誘発する人民元安は、中国にとっても資本流出の引き金になりかねないです。コレに関しては、トランプ政権が中国の弱点をついてくるのか、それとも、中国がその前に折れて、何らかの妥協策を打ち出すのか、なかなか興味深いところだったのですが、とうとう結論を出したようです。

その結論が、今回の通貨安関税です。これによって、米国は中国の人民元が変動相場制に移行しようが、しまいが米国にとってはどちらでも良い状況を作り出し、いずれ人民元を変動相場制に移行させる腹でしょう。

米国は、中国を本気で追い詰めその体制を根底から変えさせようとしているのです。それを実行しないなら、米国は「通貨安関税」をかけ続け、中国経済を弱体化させるということです。

北京市内の施設を視察し、マスク姿で手を振る中国の習近平国家主席(右手前)=10日

しかし、昨日のこのブログの記事にも掲載したように、習近平は経済に明るくないため、実質的に最悪かつ解決不能の景気悪化、人民元激安、株価暴落、不動産市場の崩壊という、目の前にある危機への認識が低いようです。たとえば、銀行倒産が中国経済に死活的な凶器となることを習近平は重視していないようです。

金融政策など国内経済も理解できない、習近平には、国際金融も理解できないようです。これでは、何をどうして良いかもわからず、崩壊の道を突っ走るしかないようです。

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2020年1月21日火曜日

米国やイランも歓迎なのに…海自中東派遣に反対の野党 韓国外交は板挟みで迷走中 ―【私の論評】中東海自派遣には、いずれの国も反対していない。反対するのは日本の野党のみ(゚д゚)!

米国やイランも歓迎なのに…海自中東派遣に反対の野党 韓国外交は板挟みで迷走中 
高橋洋一 日本の解き方

中東に派遣された海上自衛隊の護衛艦「たかなみ」

 海上自衛隊の護衛艦「たかなみ」とP3C哨戒機が中東に派遣された。その意義と、中東情勢において日本の果たす役割について考えてみたい。

 イラン沖のホルムズ海峡は、狭いところが33キロしかない世界海上交通の要衝だ。特に日本にとっては、この海峡が封鎖されると、石油の輸入の大半が絶たれてしまう。

 経済産業省の「石油統計」によれば、日本の原油輸入元として、2018年時点でサウジアラビア(38・0%)、アラブ首長国連邦(25・4%)、カタール(8・1%)、クウェート(7・6%)と上位4カ国で約計79%を占める。欧米の中東依存度が2割程度であるのと比べても比重が大きい。日本の1次エネルギー国内供給の4割は石油であり、その8割がホルムズ海峡に依存しているので、同海峡は日本のエネルギーの生命線といってもいいだろう。

 現在、米国とイランの間で一触即発の緊張関係が続いている。もし万が一ホルムズ海峡で有事になると、日本経済への打撃は他の欧米諸国の比でない。

 日本のタンカーはホルムズ海峡を日々通過しているが、その安全が確保されない場合、どのように対処すべきか。

 ロジカルには、(1)自衛隊の単独派遣(2)他国との協力(3)静観-である。このうち、(2)の他国との協力では、米主導の欧米の有志連合への参加以外の選択肢は今のところない。

 一部の野党は、(1)にも(2)にも反対なので、結果として(3)の静観ということになる。かつて一部の野党は、「石油が日本に入らなくてもたいしたことはない」と豪語していたが、論外だ。国内の石油備蓄は200日分以上もあるので、備蓄がある限りは日本経済はなんとか持ちこたえるが、それがなくなると苦境に陥るのは、過去の石油危機をみればわかることだ。

海自中東派遣に反対の立憲民主党枝野代表

 筆者は、あるべき対応として、(3)は論外として、本コラムで(1)を勧めてきた。日本の米国とイランに対する立ち位置を考えたときに、(2)の有志連合では対イランとの関係でまずいからだ。安倍晋三政権は常識的な判断として(1)を選択した。

 この方針は、米国にもイランにも支持されている。今回、安倍首相は、サウジアラビア、アラブ首長国連邦、オマーンを歴訪した。中東での平和外交であり、タイミングは絶妙だ。しかも、その成果として、(1)について、これらの諸国の賛同を取り付けた。

 一方、韓国外交はこの問題で迷走している。当初は有志連合への参加方針だったが、イランから恫喝(どうかつ)され、米国からは有志連合への早期参加を催促され板挟みになった。日本は早い段階で(1)を決めたのと好対照だ。

 今回の安倍首相の中東歴訪は、オマーン国王死去にも重なり、弔問外交にもなった。喪に服するという意味で中東には一時的に紛争が起きにくい状況なので、この好機に日本主導で中東和平ができるかもしれない。これは、米国とイランの両方にパイプを持っている安倍政権しかできないことだ。まさに正念場である。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】中東海自派遣には、いずれの国も反対していない。反対するのは日本の野党のみ(゚д゚)!

私は野党がなぜ、海自中東派遣に反対するのか全く理解できません。そもそも、民間のタンカーが危険な地区に行くのは問題がなくて、海自がその地区に行くことは反対というのは理解できません。

中東に派遣された海自のP3C哨戒機

たとえば、武装した敵に包囲されていて、それでも日々に必要な水を包囲した敵の近くの水場まで汲みに行くのに、主婦や子供などに水を汲みにいけというのでしょうか。まともな感覚であれば、もし身近に軍人や、警察などがいれば、それらに行かせるか、あるいは水汲みをする人たちの警護に当たらせるのではないでしょうか。

自衛隊を中東派遣すると「イスラムに嫌われる」などと報道されていますが、あれは全くの欺瞞です。中東の産油国にとっても海路の安全確保は極めて重要です。

タンカーがミサイル攻撃されるとか、海賊に襲われることはあってはならないということで、日本と産油国の利害は一致しています。そもそも、日本を敵視するイスラムとは誰のことなのでしょう。IS、アルカイダ、それとも海賊なのでしょうか。

日本はテロリストや海賊のご機嫌を取るために、自衛隊を派遣しない方が良いというのでしょうか。彼らは自衛隊を派遣しようとしまいと日本を敵視しています。自衛隊を派遣すると中東諸国に嫌われるという発言はいろんな意味でまともではありません。

それにしても、安倍総理がこのタイミングで中東歴訪したことは良いことでした。サウジアラビア、UAE、オマーンに行って皆さんと同じように海路の安全確保が大事だと考え、自衛隊を派遣しますと直接伝え、相手からも同意を得た上で海自を中東に派遣したのです。

サウジアラビア・ウラー近郊でムハンマド皇太子(左)の歓迎を受け握手する安倍首相=1月12日

一方、上の記事では韓国外交はこの問題で迷走しているとしていますが、韓国もとうとう中東に艦艇を派遣することを決めました。

韓国政府は21日、中東・ホルムズ海峡への独自の海軍部隊派遣を決めたと発表しました。海賊から韓国船を保護する目的でソマリア沖・アデン湾へ既に派遣されている部隊の活動範囲を一時的に拡大します。米国が求めていたホルムズ海峡の安全確保を目指す有志連合には参加せず、必要に応じて協力するとしています。

米韓間では最近、北朝鮮への韓国人の個人観光を進めたい韓国と難色を示す米国との溝が深まっています。文在寅政権としては、米側の派兵要請に応じることで懸案を減らしたい考えとみられますが、支持層が反発する可能性もあります。

いずれにせよ、韓国ですら派遣を決めたのです。日本の一部の野党は、これをどう捉えるのでしょうか。

海上自衛隊の護衛艦による警護を希望する船舶は約2600隻にのぼるといいます。これは、アデン湾を航行する日本関係船舶の年間隻数にほぼ匹敵するそうです。

海賊発生件数が多発した2010(平成22)年には、219件の襲撃があり49隻が乗っ取られ、1181人が人質にされました。ニュースとしてしばしば取り上げられ、翌2011年にピークに達し237件も発生しました。

しかし、2012年には80件弱となり、2013、2014年はひと桁、2015年には遂にゼロになったことからも劇的に状況が改善しました。

世界各国が手を携え、軍艦や自衛艦などを派遣し根気強く洋上の監視を行い、海賊という共通の脅威に対抗した結果がもたらしたものです。

今回の派遣は海賊対処に加えて日本関係船舶の安全航行のためで、ジブチ基地沖のアデン湾からアラビア海北部、そしてホルムズ海峡(含まない)に繋がるオマーン湾まで、正しく日本列島に匹敵する広範囲に及びます。

国家存立の基本であるエネルギーは、輸入先や資源の多様化が叫ばれて久しいですが、原油の中東依存は1970年代の石油危機時よりも増大し88%にも達しています。

北海道では、昨年ブラックアウトがあつたばかりですが、石油がなくなれば、あのようなことも起こりえます。北海道では2、3日のことですみましたが、長期にわたってあのような事態が起これば、大変なことになります。それこそ、死人がでかねません。

他方で、ドナルド・トランプ大統領は、米国はエネルギーを他国に依存する必要がなくなったと宣言しました。

このことからは、米国の中東関与も逐次縮小が予測され、日本は自らエネルギー安全確保の必要性に迫られることになりました。

このことからも、自衛隊の活動の礎をしっかり確立することが直近の課題であり、現行憲法範囲内でもできることはすべて行うという姿勢も重要ですが、将来的には憲法の見直しが不可欠です。

その意味で、野党の自衛隊の安全のため、中東への派遣は中止すべきという提言はあまりに近視眼的なものであり、とうてい日本の安全保証をまともに考えているとは思えません。

私には、彼らは倒閣のため、国民の安全を犠牲にしているとしか思えません。

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2019年11月23日土曜日

日本政府高官「ほとんどパーフェクトゲーム」 米国が韓国に圧力かける構図に GSOMIA失効回避―【私の論評】とうとう韓国のバランス外交の失敗が表沙汰になった。日本も習近平を国賓として招けば同じような目をみることに(゚д゚)!

日本政府高官「ほとんどパーフェクトゲーム」 米国が韓国に圧力かける構図に GSOMIA失効回避

記者団からGSOMIAの継続について記者団の質問に答える安倍首相=22日午後、首相官邸

 日本政府は、韓国からの輸出管理厳格化の撤回要求を拒否し続けた上、米国が韓国に圧力をかける構図を作り上げたことが、韓国政府の今回の決定につながったとみている。日本政府は貿易管理をめぐる当局間の協議再開には応じるものの、「一切妥協はしない」(政府高官)方針だ。

 「ほとんどこちらのパーフェクトゲームだった」

 韓国政府の突然の方針転換に日本政府高官はこう語った。日韓の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の破棄通告を改めさせ、日米韓の安全保障協力が維持されるからだけではない。日本側の予想を超え、韓国が輸出管理の厳格化をめぐる世界貿易機関(WTO)への提訴手続きまで見合わせたからだ。

 韓国側は8月下旬、日本政府による対韓輸出管理厳格化への対抗措置としてGSOMIAの破棄を決定し、破棄撤回の条件として輸出管理厳格化の見直しを求めていた。

 韓国側の態度が変化したのは「ここ2、3日」(政府筋)だったという。

 日本政府は「GSOMIAと輸出管理は次元が違う」として韓国側が設定した土俵には乗らず、「賢明な対応」(菅義偉官房長官)を促し続ける戦術を徹底した。政府高官によると、米国は「トランプ米大統領は安倍晋三首相側に立つ」と韓国側に伝えており、日本政府は米国の韓国に対する圧力が非常に強かったとみている。

 日本政府は、日韓共通の同盟国である米国と課題意識を共有してきた。外交・安保関係者の間では、GSOMIAの破棄で最も影響を受けるのは米国だとの見方が強いからだ。外務省関係者は「首相はトランプ氏に対し、いかに韓国の対応がおかしいかを繰り返し説明してきた」と明かす。

 さまざまなレベルでの働きかけの結果、GSOMIAの破棄は米韓の問題でもあるとして「米国から韓国にガンガン言ってもらう」(外務省関係者)形に持ち込むことに成功した。

 文在寅政権は強気の言動を繰り返していたが、日本側のぶれない姿勢と米国の強い圧力を前に、実際は「追い詰められていた」(官邸関係者)とみられる。

 首相は22日夜、森喜朗元首相らと東京都内で会食した。出席者によると、首相はGSOMIAの失効回避について「よかった」と話していたという。(産経新聞 原川貴郎)


【私の論評】とうとう韓国のバランス外交の失敗が表沙汰に!日本も習近平を国賓として招けば同じような目をみることに(゚д゚)!

今回のGSOMIAの失効回避は、韓国のいわゆるバランス外交が失敗したことが露呈したと捉えるべきと思います。このバランス外交とは、なにかといえば、米と中国の間をうまくバランスをとり自国に有利になるようにする外交という言う意味です。

無論このバランス外交は成功事例もあるのですが、なかなかうまくいかないという現実があります。

韓国がいつからバランス外交的妄想に憑りつかれたのかといえば、後で述べるように髄分昔からですが、最近では記憶する限り盧武鉉大統領時代ではないかと思います。

それまで韓国は米国の忠実な同盟国として振る舞ってきたのですが、盧武鉉は強烈な反日、反米論者として登場しました。その親北姿勢は米国をハラハラさせる傍ら、彼が断固として宣言した外交路線は「韓国が北東アジアの米・中のバランサーの役を果たす」という壮大なものでした。

バランサーというのは米中とも韓国を敵に廻しては不利になるほど強力である必要があります。盧武鉉はイラク戦争に3260人もの軍隊を派遣したのですが、軍事同盟国の米国側からすれば、韓国が引き揚げれば困るほどの数ではありませんでした。

中国に対しては経済的接近を図る反面、米・日とは距離を置く路線を採りました 。米・中間のバランサーというからには当然の路線かもしれません。この路線を引き継いだのが朴槿恵大統領であり、盧泰愚政権時代に、民情首席を努めた現在の文在寅大統領です。


文在寅(左)と盧泰愚(右)

朴槿恵は、韓国がバランサーであるためには、近辺の日本ごときは「歴史を顧みない不道徳国家である」と欧米に“告げ口”して廻ることからバランス外交を始めました。しかし中韓は別にして首脳が悪口を言って廻る国家が尊敬されるはずもありません。

朴槿恵氏は外交路線として「安全保障は米国と手を携え」、「経済は中国を重視する」と称しました。メディアは「安米経中」と名付けましたが、朴氏は自らが引けば米も中も困ると考えたのでしょう。

「自らを小国と考えてはいけない。それは敗北主義だ」と強調しました。米欧と一回りしたあと15年、中国のコケ脅しのような軍事パレードに参加を強行しました。たまたま米韓の間で「高高度防衛ミサイル(THAAD)を配備するのが懸案となっていました。

渋る韓国に米国が怒り、はっきり断れない韓国に中国が怒ったのです。この兵器は北朝鮮の攻撃に対して極めて有効ですが、同時に中国の攻撃をも防ぐことができます。防衛兵器の配備一つを巡っても、韓国のバランス外交は成り立たないのです。

韓国外交のどこが間違ったかは明瞭です。どこかの国と防衛条約を結んだら、敵と見做す相手国との付き合いには不都合が起こるということです。

告げ口外交を展開した朴槿恵韓国大統領(左)と、オバマ米大統領(右)

朴槿恵の弾劾・罷免の後、大統領になったのが文在寅であり、分在寅の外交路線は「韓国が北東アジアの米・中のバランサーの役を果たす」という壮大な、盧泰愚のそれを引き継いだものでした。

そのためか、朴槿恵よりもさらに大きなレベルで、バランス外交を推し進めようとしました。日本に対しても朴槿恵のような告げ口外交どころか、GSOMIA破棄を大統領選の選挙公約とし、その後も海自の哨戒機に対するレーザー照射、慰安婦問題の蒸し返し、徴用工裁判なとで、日本に対する対立姿勢を顕にしました。

挙げ句の果に、本当にGSOMIAを破棄しようとしたのですが、日本からは無視され、米国からはとてつもない圧力をかけられました。そのため、破棄はやめたのですが、これは韓国外交の完全敗北であるにもかかわらず、今回破棄は撤回するがいつでも破棄できると国内に宣伝中という有様です。

これは、結局のところ、韓国のバランス外交の失敗が表沙汰になったということです。いままでも、失敗は数多あるのですが、それでもなんとなく隠すことができました。特に、韓国内では隠蔽することができました。しかし、今回ばかりはさすがに隠蔽できないようです。

韓国のバランス政策は、最近始まったものではありません。李氏朝鮮第26代国王、後に大韓帝国初代皇帝となった高宗の政策は、外国を利用して他の国を抑え、自国は戦わずに安全を図る「以夷制夷(いいせいい)」というものでした。これは、現在でいえばバランス外交です。

清国の勢力が優勢となると対ロ接近を図り、第1、2次朝露密約(85、86年)を結びました。日清戦争(94年)後には再びロシアに接近しました。これは清国に代わり勢力を拡大した日本のけん制が狙いでした。しかし、これは結局失敗したのは、周知の通りです。

李氏朝鮮第26代国王、後に大韓帝国初代皇帝となった高宗

朝鮮半島では、古代にもバランス外交をしていたという史実が残っています。しかし、バランス外交はいずれの時代も成功を収めた事例はありません。にもかかわらず、現在の韓国でもなぜバランス外交を信奉しようとするのでしょうか。理解し難いところがあります。

しかし、文在寅氏、盧武鉉氏や朴槿恵氏を笑ってはいけないです。日本の政権与党である自民党にも、かつては日米、日中と“等距離外交”をすると豪語していた三木武夫首相がいました。

福田赳夫首相は“全方位外交”と称していました。その後も中国と太い人脈を繋げておけば、いざという時に役に立つと信じる党首脳がいたものでした。谷垣禎一氏や岸田文雄外相が属する宏池会は経済重視主義で中国側を向いていましたた。

日本は中国と太い人脈を繋げておいたはずなのに、その後ごく最近まで、日中関係表向きも、裏でもかなり悪化していました。

さらに、最近では中国は表では、日本に対する擦り寄り試製をみせています。これは、当然のことながら、米国から直接冷戦を挑まれていることや、香港問題が激化しているため、この時期に対日関係まで悪くはしたくないからでしょう。

とはいいながら、裏では尖閣に対する示威行動を未だに継続しているどころかさらに激化させています。これが共産主義の本質なのです。

にもかかわらず、日本は、来年習近平を国賓として迎えることを約束しています。こんなことをすれば、米国は当然反発するでしょうし、世界に日本が中国の蛮行を認めたという誤ったメッセージを与えてしまうことになりかねません。

ただし、自民党の保守系有志議員のグループ「日本の尊厳と国益を護(まも)る会」(代表幹事・青山繁晴参院議員)は13日、国会内で会合を開き、中国が尖閣諸島(沖縄県石垣市)周辺海域への公船の侵入行為や香港市民に対する弾圧姿勢を改めない限り、来春予定される習近平国家主席の国賓としての来日に反対する決議文をまとめています。

しかし、これは無論与党の中でも、一部の動きであり、自民党そのものが来日に反対しているわけではありません。

日本が、来年習近平を国賓で迎え、天皇陛下に謁見することにでもなれば、日本も米国や米国の同盟国などから、今日の韓国のような扱いを受けるようになることは必定です。韓国のように米国から大きな圧力を受けてから、迎えることをやめるよりは、自らとりやめるようにすべきです。そうすれば、中国に対してより大きな衝撃を与えることになりまり、米国や他の同盟国に好印象を与えられることになります。


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2019年11月16日土曜日

文在寅、北の亡命希望者を「強制送還」で地獄送りに―【私の論評】GSOMIA破棄と人権問題で、米国は超党派で韓国を制裁するようになる(゚д゚)!


金正恩への阿りか?秘密裏の強制送還が露見し内外から非難囂々

11月4日、ASEAN首脳会議・関連会合での文在寅大統領

 韓国の文在寅(ムン・ジェイン)政権は11月7日、海上で拿捕していた北朝鮮船員2人を北朝鮮に強制送還した。この韓国政府の対応について今、韓国内からはもちろん、国際社会からの非難が殺到している。

 7日、韓国統一部がある発表を行った。

 「11月2日、東海(日本海)上でNLLを越えて南下した北朝鮮住民2人を拿捕した。関係機関合同調査の結果、彼らが同僚の船員らを殺害して逃走したことが分かった」

 「開城工業連絡事務所を通じて2人を北朝鮮へ追放する意思を伝え、北朝鮮側が受け入れる意思を明らかにしたので、本日午後3時10分ごろ、板門店を通じて彼らを北朝鮮に追放した」

 というものだ。ちなみにNLLとは「北方限界線」の略称で、海洋上の韓国と北朝鮮の境界線のことだ。


偶然によって発覚した「強制送還」

 この日の発表によると、追放された2人の乗組員はともに20代の男性。2人はイカ釣漁船の乗組員だったが、もう1名の同僚と共謀して日本海での操業中に洋上で16人の同僚を殺害、逃走資金を調達するためいったん北朝鮮の金策港に戻った後、NLL付近まで逃走していたが、そこで韓国海軍によって拿捕されたという。韓国政府は、彼らが殺人など重大な非政治的犯罪によって「北朝鮮離脱住民法」上の保護対象ではない点、韓国国民の生命と安全に脅威となる凶悪犯罪者であり国際法上の難民として認められない点などから判断し、関連省庁間の協議結果によって追放を決定したのだという。

 ところが、この追放過程における数々の疑惑がメディアの取材によって浮かび上がり、文在寅政権が北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)政権の機嫌を取るために、脱北者の人権を蹂躙したのではないかと、韓国中が騒然となっているのだ。


 韓国メディアが疑いを向ける第一点目は、韓国政府が今回の事件を隠蔽しようとしていたことだ。

 「強制送還」が発覚したのは、7日午前、国会予算決算委員会全体会議に出席していた金有根(キム・ユグン)国家安保室第1次長が共同警備区域(JSA)の大隊長である某中佐から受け取った文字メッセージを、報道機関のカメラに撮られたことがきっかけだった。「本日15時、北朝鮮住民2人を板門店で送還する」という内容だった。記事が公開され、国会でこの事件をめぐって大きな騒ぎが起きると、統一部が急いでブリーフィングを準備、当日午後3時40分に「強制送還」の事実を公表したのだった。

 その一方で、鄭京斗(チョン・キョンドゥ)国防部長官が国会で「報道を見て追放を知った」と証言したことで、大統領府が国防長官をスルーして報告を受けている実態も明らかになり、職権乱用の問題も指摘されている。


統一部長官による「死んでも北朝鮮に戻る」の説明は虚偽?

 疑惑の第二点は金錬鐵(キム・ヨンチョル)統一部長官の「うそ疑惑」だ。国会に出席した金長官は、事件の経緯を説明する中、「(彼らは)調査を受ける過程で様々な相反する供述をしていたが、確かに『死んでも(北朝鮮に)戻る』と陳述した」「これらの行動などを総合的に判断し、亡命の意思はないという最終結論を下した」と答えていた。

 しかしその後、韓国メディアが匿名の統一部担当者の証言をもとに、「『死んでも北朝鮮に戻る』という発言は、海上殺人事件後にいったん(北朝鮮の)金策港へ戻る途中で出た言葉で、逃避資金を用意するために金策港に戻るという意味だった」と暴露。さらに、2人が合同調査における供述書に自筆で「亡命する」という明白な意思を示していたことも明らかになった。

 そして最大の疑惑は、全長15mほどの17t級の小型木造船の上で、わずか3人(統一部によると共犯のもう1人はすでに北朝鮮で逮捕されたという)で16人もの同僚乗組員を殺害することが可能かという点だ。しかも殺害の道具は斧とハンマーだけというから、犯行の規模と釣り合いがとれない。

 韓国政府は、事件の実相をこう説明している。

「船長の過酷行為に不満を抱いた彼らは斧1本とハンマー2本だけで16人を殺した。まず、共犯の1人が40分間隔で就寝中の船員を2人ずつ起こして甲板の上に誘導する。すると船頭と船尾で待っていた2人の共犯が、甲板に上がってくる船員の頭をハンマーなどで殴り殺す。殺害後は死体を海に遺棄し、40分後、再び2人ずつ起こして甲板上に誘導した。結局、4時間で16人が殺害された」

 しかし、いくら就寝時間だったとしても、小さな船の中で長時間にわたり殺人が繰り返されていることを同僚の船員が全く気づかなかった点、「特殊要員」でもない一般の船員が「虐殺」に近い犯行をたった4時間で実行したという点、虐殺現場である船を血痕鑑識もせずに急いで消毒してしまった点など、不可解な点がいくつも残されているのだ。


目隠しされ縛られたまま板門店に連れていかれた漁船員

 また送還過程における問題点も提起されている。東亜日報は送還過程について、政府関係者から聞いた話を次のように報じた。

 「呉某氏(22)と金某氏(23)の北朝鮮住民2人は7日、中央合同調査本部で目隠しをされ、縛られたまま車に乗せられて、板門店の自由の家に直行した。彼らが強制送還の事実を知ると自害などの突発行動を起こす恐れがあるので、目的地を隠して、警察特攻隊が車両を護衛した。彼らの抵抗に備え、猿ぐつわも準備していた。

 彼らは、板門店の軍事境界線に到達して目隠しを取られて、初めて自分たちが北朝鮮に追放されることを知った。送還は、まず呉氏が軍事境界線から北朝鮮軍に引き渡され、次いで待機室で隔離されていた金氏が引き渡される形で進められた。目隠しを外した呉氏は、境界線の向こう側に北朝鮮軍3人が立っているのを見て、思わず腰を抜かして座り込んでしまった。その後に外へ出てきた金氏は、北朝鮮軍兵士を見るや愕然とし、軍事境界線を越えていった」

 北朝鮮に強制送還された脱北者は、その後、想像を絶する拷問を受けることになる。例外はない。板門店で北朝鮮軍の兵士に引き渡された彼らの絶望は察するに余りある。

批判浴びる「人権派弁護士」の人権感覚

 韓国の主要メディアは、韓国憲法3条に基づき、「北朝鮮住民も韓国国民の範囲に属する」と強調している。つまり、亡命意思を表明した北朝鮮住民に対しては、彼らがたとえ凶悪な殺人犯としても、韓国司法当局の裁判によって処罰を受けるべきだと主張しているのだ。さらに、文在寅政権がたったの5日間の調査によって、亡命を希望した北朝鮮住民を、残酷な拷問や極刑が予想される北朝鮮に送り返したことは「国際人権法違反」と非難している。

 国際社会からも非難が絶えない。英BBC放送は、「デービッド・アルトン英国上院議員が自身のホームページに、『韓国は一体どういう考えで、難民を北朝鮮に送ったのか』というタイトルの文章を掲載して、韓国政府が難民に対する義務を果たしていないと批判した」と伝えた。

 国際人権団体のアムネスティは、「今回の事件を国際人権規範違反と見なす」という立場を示した。米国の人権監視機関のヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)も声明を発表し、「韓国政府の措置に違法の素地がある」「(韓国政府の)迅速な送還措置は、拷問等禁止条約を黙殺(disregard)した」と批判した。

 国連の人権業務を総括する国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)も「2人が、送還によって拷問と処刑をうける深刻な危険に直面していることを懸念する」と明らかにした。朝鮮日報は、「今月末に訪韓予定のトマス・オヘア・キンタナ国連北朝鮮人権特別報告官は、『(今後の)措置について、関連(南北)政府と接触中』と明らかにした」と伝え、国連が近々韓国外交部に今回の送還事件についての懸念メッセージを伝え、事実関係を問い合わせる見通しだと解説した。まさに国際社会や人権団体から非難囂々なのだ。

 「人権ファースト」を掲げた公約で政権を握った「人権弁護士」出身の文在寅大統領、OHCHR副代表の経歴を自慢する康京和(カン・ギョンファ)外交部長官は、「反人権的な送還」という国際社会の非難をどう受け止めるだろうか。


【私の論評】GSOMIA破棄と人権問題で、米国は超党派で韓国を制裁するようになる(゚д゚)!

韓国政府が、北の亡命希望者を「強制送還」したことは、完全な違法行為です。そもそも、韓国は北朝鮮と犯罪者引き渡し条約を結んでいません。

引き渡し条約がなくても、引き渡しできる場合もありますが、それには幾つかの手続きが定められています。

まず、相手国から韓国に逃避してきた犯罪者の引き渡し要請があった場合、外交部からの要請によりソウル高等検察が、ソウル高等法院において審理します。この手続きが完全に抜け落ちていたのです。

教戦争缶された二人北朝鮮籍の男らが乗船していた船

韓国の脱北者に対する、人権侵害は今に始まったことではありません。米国はこれに対してすでに警告を発していました。

トランプ米政権が、「従北」の文在寅(ムン・ジェイン)大統領率いる韓国の「人権侵害」問題に警告を発していました。米国務省が発表した人権報告書で、「脱北者への圧力」を明記していました。米国では、韓国の政権与党による米記者への非難を、リベラル系の有力紙まで問題視し始めました。米国全体が韓国に厳しい目を向けているとの指摘もあります。

「われわれの友好国、同盟国、パートナー諸国ですら、人権侵害を行っている」

マイク・ポンペオ国務長官は今年3月月13日、こう述べました。国務省が公表した2018年の「各国の人権報告書」に関する記者会見での発言でした。

マイク・ポンペオ長官

報告書では、同盟国の1つである韓国・文政権による脱北者への圧力を取り上げ、「北朝鮮との対話に乗り出すと、北朝鮮への批判を抑制するよう求める直接的、間接的な圧力が脱北者組織にかけられたとの報告があった」と指摘しました。

具体的圧力としては、20年続いていた脱北者団体への資金援助打ち切りや、風船を使った北朝鮮へのビラ散布阻止、警察が団体を訪れて財務情報などを出すよう要請した-ことが挙げられました。

2月にベトナムの首都ハノイで行われた米朝首脳会談が決裂し、米朝の「仲介者」を自任していた文政権へのトランプ政権の不信は高まっていました。そのなかで、人権侵害までが問題となったのです。

外国メディアの視線も厳しくなっていました。

文大統領を「金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長の首席報道官」と報じた米ブルームバーグ通信の記者を、与党「共に民主党」の報道官が非難したことに、各国メディアが猛反発したのです。

報道官が同月13日、記者を名指しして「米国国籍の通信社を隠れみのにして国家元首を侮辱した売国に近い内容」との論評を出したところ、批判が相次ぎました。同党は同月19日、論評から実名を削除すると発表しました。


まさに、ポンペオ長官の警告を正鵠を射たものになったようです。今回の、北の亡命希望者を「強制送還」するようなことは、起こるべくして起こったのかもしれません。

米国の保守系メディアには以前から、文政権を懐疑的にみる報道がありましたが、ブルームバーグの問題では、ワシントン・ポストや、ニューヨーク・タイムズといったリベラル系の主流メディアも「言論弾圧ではないか」と批判しました。米国では「韓国が民主国家といえるのか?」という議論になってきており、オールアメリカで文政権への問題意識が高まっています。


いずれ、韓国も米国内で中国等と同列の扱いを受ける日が刻々と近づいているような気がします。

文大統領は15日、マーク・エスパー米国防長官とソウルの大統領府(青瓦台)で会談し、日韓の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の維持を拒否しました。23日午前0時の失効期限を前に、同盟国・米国の要請を拒んだのは、事実上、共産党独裁の中国寄りの姿勢(=レッドチーム入り)を宣言したも同然といえます。

5日午後、青瓦台本館接見室でマーク・エスパー米国防長官(左)と握手する文在寅(右)

このまま、文政権がGSOMIAを破棄すれば、政府高官や軍幹部を大量に送り込んで説得したトランプ大統領はバカにされたことになります。今後、トランプ氏の逆襲が注目されることになるでしょう。

韓国は日米にとっては、かつて中国・北朝鮮に対する反共の砦でした。しかし、韓国がGSOMIAを破棄したとなると、もう反共の砦をやめてしまったと観るのは当然のことです。

韓国がGSOMIAを破棄した場合、人権問題ともあいまって、米国内では韓国に対する批判、それも超党派による批判がかなり高まることでしょう。いずれ、中国等と同列の扱いを受けることになるかもしれません。

韓国が中国寄りの政策を鮮明にとるようになったにしても、これはうまくいかない可能性がかなり高いです。そもそも、金正恩は中国の干渉を極度に嫌っています。結果として、北朝鮮とその核が中国の朝鮮半島への浸透を防いでいます。

韓国が中国寄りの姿勢を顕にすれば、北朝鮮もこれを黙って見過ごすことはないでしょう。中国と韓国に挟まれた北朝鮮は、危機感を募らせることになります。

中国は、米国と冷戦の真っ最中です。先日もこのブログに掲載したように、今後米国は対中国貿易戦争から、中国共産党そのものを弱体化させる方向に軸足を移していくことになるでしょう。

そのような最中に、韓国が中国にすり寄ってきたところで、地政学的にも韓国の前に、核武装をした北朝鮮が立ちはだかっていて、文は北に親和的でもあります。このような状況で、自己保身に必死な中国が韓国にどれだけのことをできるのか、疑問です。あからさまに、中国が韓国を取り込むような姿勢をみせれば、米国の対中国冷戦はますます苛烈なものになることでしょう。

韓国は、日米は無論のこと、北からも中国からも疎まれる存在になるだけです。そうして、米国からは超党派で批判され、直接制裁にさらされることになります。そのことを文は全く認識していないようです。愚かだとしか言いようがありません。

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2019年11月9日土曜日

ウォーレンに大統領の資質はあるか?―【私の論評】ウォーレン氏が大統領になれば、政治の継続性の原則は破られ米国は大混乱に(゚д゚)!

ウォーレンに大統領の資質はあるか?

岡崎研究所

 現在、トランプ大統領には、政敵である民主党のバイデン元副大統領のあら捜しをウクライナの大統領に要請し、政治の規範と倫理を犯したとされる「ウクライナ疑惑」が掛けられている。この問題は米国の下院の委員会で議論されており、トランプ大統領の弾劾訴追が米国内の主要議題となっている。下院で過半数を占める民主党が主導している中、共和党の議員たちは、これに反対し、下院の審議が麻痺することも屡(しば)である。

民主党の大統領候補としては、エリザベス・ウォーレン上院議員も有力視されているが・・・・

 また、トランプ大統領は最近、従来の政策を突如覆し、トルコがシリア北東部に軍事侵攻してクルド人勢力を駆逐することをトルコのエルドアン大統領に容認した。この件に対しても非難が起こっており、先例のない失態だったと、与野党問わず言われている。

 10月17日付のニューヨーク・タイムズ紙で、同紙コラムニストのデイヴィッド・ブルークス氏は、『トランプ自身が米国にとっての脅威だとして、トランプに大統領を2期やらせてはいけない』と主張している。そこまでの強い口調ではなくても、米国内でトランプ氏の大統領としての資質に疑問を持つ人が、少なからず増えてきているようである。

 果たして、来年の米国大統領選挙の行方はどうなるのだろうか。時期尚早かもしれないが、米国内では来年初めから始まる予備選挙に向けて、既に様々な憶測が飛びかっている。民主党の大統領候補としては、ジョー・バイデン前副大統領の他、バーニー・サンダース上院議員(バーモント州)とエリザベス・ウォーレン上院議員(マサチュ―セッツ州)が有力視されている。

 民主党にとっては、バイデンのような穏健派を候補に擁立して、2016年にトランプに奪われたウィスコンシン、ミシガン、ペンシルベニアの各州の奪還を目指すことが、最も理にかなった選挙戦略だという有力な意見がある。しかし、民主党内の予備選挙は、そうスムーズには進行しない。多数の立候補者が出る民主党の中で、当初は先頭を独走していたバイデン氏であるが、このところ、左派の進歩派ウォーレン氏やサンダース氏が並走するようになり、世論調査によってはウォーレン氏が先頭を行くこともある。そのせいか、10月16日の4回目のテレビ討論では、ウォーレン氏が他の候補者たちの標的にされた。

バイデン氏

 未だ、ウォーレン氏が大統領になることは想像し難い。また、そのことは、甚だしく心配でもある。ウォーレン氏の貿易政策は保護主義だと言われる。彼女は、米国の価値や米国の政策目標――気候変動との戦い、基本的な労働条件の尊重、脱税の取締り――の充足という前提条件が充たされない限り、新たな貿易協定は結ばない、TPP(環太平洋パートナーシップ) には強く反対と述べている。この種の教条主義的な信念を前面に出されると取り付く島もない。

 ウォーレン氏は、10月16日のテレビ討論で「我々は中東から脱出すべきである。中東に兵を置くべきではない」「この地域に軍事的解決はない」と述べた。こういう短絡的な答えしか出来ないのでは落第である。彼女のヘマに気付いた彼女の陣営は、彼女が「兵」と言ったのは「戦闘部隊」のことであるなどと説明を試みたが、彼女が現状を理解し、現状に立脚して政策を語っているようには思われない。カタールの米軍基地を拠点に米軍が行っているのは戦闘作戦である。シリアの部隊はイラクの米軍基地に撤収を始めているが、イラクの駐留はどうするのか。アフガニスタンはどうするのか。彼女には外交と軍事力との関係も理解が希薄のように思われる。

 ウォーレン氏は、これまで対外政策を殆ど語っていない。今後、予備選挙がどう展開するか判らないが、指名獲得を狙うのであれば、対外政策に関するブレーンを整え、真剣に勉強する必要があろう。そうでなければ、大統領の道は遠いだろう。

【私の論評】ウォーレン氏が大統領になれば、政治の継続性の原則は破られ米国は大混乱(゚д゚)!

米国は、二大政党で中道左派の民主党と中道右派の共和党がつばぜり合いをします。大統領も概ねそれぞれの党から交互に出てくることが多く、戦後だけ見れば民主から6人、共和から7人となります。

これを少し乱暴に分類すれば戦後直後は民主、50年代は共和、ベトナム戦争の60年代は民主、70年代はおおむね共和で後半に民主、80年代は共和で90年代は民主、2000年代以降は五分五分の戦いとなっています。

基本的に経済動向とリンクしているともいえ、概ね米国経済が好調な時は共和から、世界景気や世の中の不和(含むベトナム戦争)の時は民主が優勢になりやすい傾向があります。それでも二大政党が拮抗した状態であるのは現在ですら上院、下院の議席がねじれ状態にある点でもお分かりいただけると思います。

よって次期大統領選の予想にはまず、今後1年間の対外環境を概観する必要があります。米国の景気は既に景気拡大期が11年目となり「出来すぎ」の状態になっています。通常の経済学ではなかなか説明しにくいのですが、景気の振幅が以前ほどでなく成熟した国家故のなだらかな景気になっていると考えるべきなのかもしれません。今年もデフレから完全脱却していないにも関わらす、増税するという誤ったマクロ経済政策を取り続けてきた日本とは大違いです。

とすればこの先1年、アメリカが景気を大きく崩す要因は国内に求めるのは難しく、対外的要因や戦争、天変地異という予想不能な事態が発生すること以外にありません。ではトランプ大統領は戦争が好きか、といえば先日もこのブログに掲載したように、NOです。トランプ氏は骨の髄からビジネスマンであり、ディールを好むゲーマーであり、戦争を好む男ではない点がブッシュ父子との大きな違いです。

ここから類推すれば社会環境は共和党に利することになります。

では民主党の3候補です。まず、サンダース氏ですが、個人的には可能性はほないです。その理由は彼の主義主張ではなく年齢と健康状態です。現在78歳、80歳代の大統領を米国が求めるのか、という点と、最近動脈閉鎖の治療を受けるため選挙活動を一時休んでいたこともあり、大統領の激務をこなすという点では現実的ではないです。

次にバイデン氏ですが、ウクライナ問題でトランプ氏弾劾という報道もありますがトランプ氏が弾劾されることは新事実がない限り100%ありません。むしろ、バイデンの息子がウクライナのみならず、中国企業の取締役を務め高額の報酬を得ていたことも明るみになっておりバイデン氏が民主党の支持層にはふさわしくない汚点となっています。

こうなると前回ガラスの天井を破れなかったクリントン氏の雪辱をウォーレン氏に託す可能性は大いにあります。ではウォーレン氏が本当にふさわしいでしょうか?最大のネックは彼女が大学の教授というキャリアであることです。しかもハーバードロースクールです。

弁護士と学者ほど融通が利かない人はいないと言われます。自身の信条が極めて明白な自己論理の中で完結しているためです。トランプ氏がディール巧者であるとすればウォーレン氏はどうやって自身に落としどころを求めていくのかと考えると、ずばり理想主義者ウォーレン大統領の世界では米国は何もできなくなることが想定できます。

来日時に優勝力士に優勝カップを手渡すトランプ大統領

しかも彼女の公約はとてつもないものばかりです。ハイテク企業分割、国民皆保険、シェール採掘禁止、最低賃金2倍、富裕者向け課税引き上げ等々、世論で物議を醸すものばかりです。

むしろ、米国国民に問いたいのは「今日の生活と明日の生活がすっかり変わってよいのかね」ということです。大半の人はNOと答えるでしょう。なぜなら今の景気は悪くないし、トランプ氏は嫌いな人でもトランプ氏はこのところ外交問題、それも中国問題が主体になっているので、挙党一致で中国と対決するようになった現在あまり気にされなくなっているからです。

二大政党が真逆の政策を打ち立てる時代は私から見ると時代錯誤のような気もします。実施することはほぼ同じで、ただ実施方法が異なるというのが、最上だと思います。理想と現実は違います。長期的には理想を実現することは重要だと思いますが、大統領が統治する程度の期間でみれば、実施すべきことは、当然のことながらあまり変わらないはずです。

ただし、米国の二大政党制は、政治の継続性の原則から成り立っているところがあり、政権交代が起きても、あまり混乱しない仕組みになっています。この原則とは、米国ではたとえ政権交代があったにしても、新政権は6割から7割くらいは、前政権の政策を引き継ぎ、残りの4割から、3割で新政権らしい政策を打ち出すというとです。

政権交代しても、前政権の政策の大部分が継続されるので、あまり大きな混乱は起こらないことを保証しているのです。ただし、この原則は法律などに裏付けされるものではなく、あくまで不文律です。

     米国二大政党のシンボル:民主党のシンボル(左)は、ろば大衆に好かれ、常に前進すること
     を意味する。共和党のシンボル(右)は象、力と強さを意味する。

ウォーレン氏が大統領になれば、この政治の継続性の原則は破られることになります。

ウォーレン氏がもっとトランプ政策の穴を埋めるような主義主張、つまり、より中道なポジションを取れば彼女が当選する可能性は出てきます。しかし、それでは今まで彼女を支持してきた人たちには大いなる失望でしょう。

米国の二大政党のそれぞれの主張は国民の深層心理に反応し理想論に突っ走るところが大きく、これが離反する人を増殖し、無党派が増えることになります。政治家は国民から遊離してはいけないのですが、ここがどうも抑えられてないように感じます。

純粋に米国を幸せにできるのか、統治できるのという観点からするとウォーレン氏の目は今のままでは無理です。

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2019年11月3日日曜日

中国共産党は「国際支配」求める、ポンペオ米国務長官―【私の論評】米国は中国による前代未聞の世界秩序への挑戦を阻止する(゚д゚)!

中国共産党は「国際支配」求める、ポンペオ米国務長官


香港(CNN) ポンペオ米国務長官は3日までに、中国共産党は「国際支配」を欲しており、外国諸国を自らの側へ引き込もうとする「世界的なキャンペーン」に着手したとの見方を表明した。

米ニューヨークのハドソン研究所での演説で述べた。増大する米中間の競争関係をめぐり今後数カ月間、複数回の演説を行う方針も示した。

長官はこれらの演説では「競合するイデオロギーと価値観が米国と世界に及ぼす影響力に言及する」とし、中国共産党は闘争と世界支配を狙うマルクス・レーニン主義の党であると強調。「我々は中国指導者の発言に注視する必要がある」とも主張した。

ただ、米国は中国を「戦略的な競争国家」と明瞭に位置付けながらも、「対立」は求めていないとも説明。「実際は反対のことを望んでおり、自国の国民や隣国の国民と平和な状態にある、繁栄する中国を目にしたい」と指摘。「自国民の非凡な才能が栄えることを許す自由化された中国を見てみたい」とも期待した。

ポンペオ長官の今回の発言に対し中国外務省の報道官は「悪意をもって中国を非難している」と反論。「米国の一握りの政治家が抱く根深い政治的偏見と反共産主義を十分に反映している」と反発した。

米中関係は過去2年間、貿易や香港情勢などを含めさまざまな分野で対立が目立っている。

【私の論評】米国は中国による前代未聞の世界秩序への挑戦を阻止する(゚д゚)!

中国では昨年6月22~23日に、外交政策に関する重要な会議である「中央外事工作会議」が開催されました。同会議は、これまで2006年と2014年の2回しか開催されたことがないです。

今回は、習近平(共産党総書記、国家主席)以下、中国共産党政治局常務委員7人全員、王岐山国家副主席、崔天凱駐米中国大使らが参加しており、会議の重要性が窺われます。

昨年6月22~23日に、開催された「中央外事工作会議」

会議で、習近平は、中国が今後のグローバル秩序の構築において主導的役割を果たすことを明確に打ち出す演説をしました。同年6月24日付け人民日報等が報じています。習近平の演説には、以下のような注目すべき内容が含まれていました。
・新時代の中国の特色ある社会主義外交思想を指導方針とする 
・グローバルな統治の刷新を主導、より完全なグローバルパートナー関係のネットワークを構築 
・中華民族復興と人類の発展を軸に、人類運命共同体の構築を推進 
・一帯一路構想、AIIB(アジアインフラ投資銀行)の推進 
・巧妙に策をめぐらし、安定した発展的な大国外交の新たな局面を開くよう努力 
・周辺国への外交工作をうまく行い、周辺の環境を中国に友好的で有利なものにする 
・国家の核心的利益と重大な利益を死守する 
・多くの途上国は、中国外交にとり天然の同盟軍である
これは、中国が既存の秩序に代わる国際秩序を構築するという宣言であると言えます。既存の秩序は、自由、民主主義、人権尊重、国際規範の遵守といった諸価値に基づくものです。

これに対し、習近平が演説で示す外交方針は、「社会主義外交思想」に基づくものであるということですから、既存の秩序とは大きく異なった、中国中心の秩序を目指すものと理解できます。

中国は、南シナ海問題への国際仲裁裁判所の判決を「紙くず」と評したような国です。また、「民族の復興」や「核心的利益」は、台湾の武力併合を含んでいます。そうした中国が目指す国際秩序に懸念を抱かざるを得ないです。

「人類運命共同体」は、重要なキーワードの一つです。これは、昨年3月の憲法改正で、新憲法にも盛り込まれた概念です。中国は「人類運命共同体」という言葉を精力的に国際社会に売り込もうとしています。

一昨年1月には、習近平はダボス会議と国連ジュネーブ本部で「人類運命共同体の構築」を謳った演説をしました。昨年3月には、中国の主導により、人権状況の批判に際して、地域の特性、歴史、文化、宗教などの背景に留意するよう求める「互恵協力決議」が、国連人権理事会で採択されましたが、同決議にも「人類運命共同体」の文言が含まれています。
「前進の道のりにおいて、われわれは平和発展の道を堅持、互恵ウィンウィンの開放戦略を遂行し、世界各国の人民と共に人類運命共同体の建設を推進していく」。
「人類運命共同体」の内容は、まだ、あまり具体的に示されているわけではないですが、相互尊重・平等な協議、相互理解、公正・公平、互恵、文明の多様性尊重、環境保護などが含まれているようです。

「文明の多様性尊重」は、一見もっともですが、「互恵協力決議」が示唆するように、自由、民主主義、人権尊重、国際規範の遵守を普遍的価値とみなす現行の国際秩序に注文をつけているとも解釈できます。

習近平は、一昨年の第19回党大会で「人類運命共同体」の説明として、冷戦思考の放棄、同盟の代わりにパートナーを組む、などのことも言っています。

これは、米国を中心とする同盟ネットワークへの対抗を意味するようです。なお、一昨年1月15日付けの人民日報は、人類運命共同体について「中華文明に根差した外交理念」と解説しています。華夷秩序を連想せざるを得ないような表現です。中国が目指す「人類運命共同体」の具体的内容が如何なるものになっていくのか、注視していく必要があります。

ちなみに「人類運命共同体」などの言葉最初にでてきたのは、2015年9月29日の人民日報のようです。人民日報は2015年9月28日に「中国国家主席習近平がニューヨークの国連本部で一般討論演説を行い、協力・ウィンウィンを核心とする新型の国際関係を構築し、人類運命共同体を築く必要性を強調した」と報道しています。

ただし、その頃は米国はオバマ政権であり、中国の危険な意図に脅威を抱くまでにはいかなかったようです。無論一部の人は、その頃から脅威に感じていましたが、大きな声にはなりませんでした。やはり、米国がこれを大きな脅威とみたのは、昨年の「中央外事工作会議」の後の習近平の演説によってです。これによって、米国では一気に超党派で中国に対峙しようという雰囲気が醸成されたようです。

先の中央外事工作会議における習近平の演説では、一帯一路、AIIBの推進とともに、「途上国は中国外交にとり天然の同盟軍」という表現も目を引きました。理念として「人類運命共同体」を掲げつつ、一帯一路やAIIBにより途上国を中国の影響下に置き、中国中心のグローバルガバナンスを目指すということであると推測できます。

中央外事工作会議に関しては、昨年もこのブロクで解説しています。その記事のリンクを以下に掲載します。
中国がこれまでの国際秩序を塗り替えると表明―【私の論評】中華思想に突き動かされる中国に先進国は振り回されるべきではない(゚д゚)!

この記事は、2018年7月6日金曜日のものです。詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下に結論部分のみ引用します。
日本をはじめとした先進国は、様々な利害の衝突もありますが、それにしても中国による世界秩序に対して譲れない部分があるはずです。特に、民主化、経済と政治の分離、法治国家化という概念は、絶対に譲れないところでもあります。 
そうして、この部分が何が何でも譲るべきではありません。中国が、チベット、ウイグル、内蒙古、満州などの本来の外国の領土であるところを除く自国の本土のみで、中国の価値観を実現するのはある程度許容できるところもあるかもしれません。 
しかし、現在は19世紀ではなく、すでに21世紀です。現在に至るまで、古代の妄想を引き継いでいるのは、不合理だし、異様でもあります。 
そうして一帯一路やAIIBにより、他国にまで中華思想を押し付けるようなことが絶対あってはなりません。さらに、中国人民も中国の体制に虐げられることは本来防がなければならないはずです。 
やはり、先進国は、米国と協調して、中国の現体制を崩壊に向かわせるべく努力すべきです。特に、妄想ともいえる、中華思想は必ず打ち砕かなければなりません。
ポンペオ長官による"中国共産党は「国際支配」を欲している"という発言は、当然のことながら、習近平の「中国が既存の秩序に代わる国際秩序を構築するという宣言」を指しているものと思われます。

私は、中国が世界征服をしようとしているとまでは思いませんが、中国が自らにとって都合の良い新たな国債秩序をつくろうとしていることは明白であり、それを米国が排除しようとしているのは当然のことだと思います。

中国が新たな世界秩序をつくるということは、日本やEUなども含まれる、米国を頂点とする世界秩序を破壊して、中国による秩序を作り出すということであり、そんなことを中国の都合だけで実行されてはたまったものではありません。

演説するペンス副大統領

10月24日には、このブログにも掲載しましたが、ペンス米副大統領は「中国は人々の自由と権利を抑圧…結局は軍事だ」、対中強硬論を述べていましたが、今回のポンペオ長官の発言ともあわせて考えると、米国は中国による新たな世界秩序の構築を米国への挑戦と見据えて、これを阻止することを決断し、その意思には全く揺らぎがないことを宣言したと受け取るべきです。

そうして、この動きは、米国においては超党派の動きであり、すでに米国の固い意思となったと受け取るべきです。次の大統領がトランプ氏であろうが、誰であろうが、変わりません。

米中通商交渉等で一時妥協したようにみえることもあるかもしれませんが、もそれは一時の戦術的なものに過ぎず、戦略的には中国が現在の世界秩序にあわせて、自らを変えるか、それを中国が拒否するなら、世界秩序の変更に二度と挑戦できないくらいまで、中国経済ならびに軍事力が弱体化するまで、米国は対中国冷戦を継続するでしょう。

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2019年9月25日水曜日

中国、崩壊への警戒感高まる…共産党独裁体制が“寿命”、米国を敵に回し経済停滞が鮮明―【私の論表】中国崩壊で、世界経済は良くなる可能性のほうが高い(゚д゚)!

中国、崩壊への警戒感高まる…共産党独裁体制が“寿命”、米国を敵に回し経済停滞が鮮明
文=相馬勝/ジャーナリスト

中国の習近平主席

 中国は10月1日、建国70周年記念日を迎え、大規模な軍事パレードが北京市の天安門広場を中心に行われ、習近平国家主席は中国の共産革命の偉大さを高らかに世界に宣言することになるのだが、実は、そのような中国共産党の一党独裁体制はここ数年のうちに大きな危機にさらされるとの見方が急浮上している。

 しかも、このような不気味な予言は、中国問題の国際的な権威であり碩学である米クレアモント・マッケナ大学ケック国際戦略研究所センター所長(教授)のミンシン・ペイ氏と、米ハーバード大学名誉教授のエズラ・ボーゲル氏の2人が提起している。両氏とも、その最大の原因として、習氏の独断的な政策運営や独裁体制構築、さらに米中貿易戦争などによる中国経済の疲弊を挙げている。

一党独裁時代の終焉

 ペイ教授は「中国共産党の一党独裁統治は終わりの始まりにさしかっている」と題する論文を香港の英字紙サウスチャイナ・モーニング・ポストに寄稿。そのなかでペイ教授は、習氏が2012年の党総書記就任当初、「次の2つの100年」を目標に中国の国力を拡大し世界一の大国を目指すと宣言したが、1つ目の中国共産党創設100周年の2021年は極めて厳しい環境のなかで祝賀行事を行うことになると予言。その理由として、米中貿易戦争が激しさを増すことを根拠としている。

 そのうえで、ペイ教授は「2つ目の100年」である2049年の中国建国100周年には「(中国共産党による)一党独裁政権は生き残ることができないかもしれない」と大胆な予言を明らかにしている。

 ペイ教授は歴史的にもみても、一党独裁体制は「寿命に近づいている」と指摘。具体的な例として、74年にわたるソビエト連邦(1917~91年)の崩壊、73年にわたる中国国民党(27~49年の中国大陸での統治と49~2000年までの台湾での一党独裁体制)の統治が終わりを告げていること。さらに、メキシコの71年におよぶ革命政権(1929~2000年)である制度的革命党の一党独裁時代の終焉を挙げて、70年を迎える中国の一党独裁体制はすでに崩壊の兆しが見えていると分析する。

 ペイ教授は習指導部が米国を敵に回して、経済、軍事、安全保障、政治体制などの面で争っていることを問題視している。毛沢東時代の中国は米国を敵対視したものの、極力接触することを避け、直接的にやり合うことはほとんどなかった。その後のトウ小平時代において、中国は「才能を隠して、内に力を蓄える」という韜光養晦(とうこうようかい) 政策を堅持して、外交・安保政策では米国を敵対視することを極力回避した。

 しかし、習氏はこれら2人の偉大なる先人とは違って、牙をむき出しにして、米政権と争う姿勢を露わにした。これによって、中国経済はいまや成長も低迷しつつあり、習氏の独裁的な政治体制もあって、民心も離れつつあるようだ。

民間企業の成長を阻害

 一方、ボーゲル教授は近著『リバランス』(聞き手:加藤嘉一、ダイヤモンド社刊)のなかで、習氏について「予想外の事態といえば、習近平の政策がここまで保守的で、社会全体をこれほど緊張させていることもそうだ」と指摘しているほどだ。そのうえで、「昨今の中国を襲う最大の問題」として、経済悪化と自由の制限を挙げる。まず、前者については「中国の既存の発展モデルは持続可能ではない」と断言している。

 ペイ教授も同様の指摘をしている。これまでの驚異的な中国の経済成長は、若くて安い労働力が豊富にあったことや、農村部の急速な都市化による広範なインフラ整備、大規模な市場原理の導入や経済の国際化などが要因として挙げられるが、いまやこれらは減退しており、いずれ消滅すると分析している。

 さらに、両氏ともに、今後も中国経済が発展するには、民間企業の成長が不可欠だが、習政権は逆に、国有企業の肥大化、権限集中に力を入れ、民間企業の活性化を妨げていると強調。これに加えて、米中貿易戦争の影響が、ボディブローのように徐々に大きなダメージを与えることになる。

 ところで、ボーゲル教授が掲げる2つ目の問題点である自由の制限には、知識人を中心に多くの人が不満を抱えているほか、習氏の独裁的な体制についても、「仮に、習近平がこれから数年内に政治的局面を緩和させられなければ、中国が“崩壊”する可能性も否定できなくなるだろう」と結論づけている。

 このような折も折、中国共産党の理論誌「求是」が最新号で、習氏が5年前に行った指導者層の任期制度を重視する演説を掲載。習指導部は昨年の憲法改正で、習氏の長期独裁政権に道を開いているだけに、まさにボーゲル教授が懸念するように、指導部内で習氏批判が高まっており、「中国が“崩壊”する可能性が否定できなく」なっていることを示しているようだ。

(文=相馬勝/ジャーナリスト)

【私の論評】中国崩壊で世界経済は良くなる(゚д゚)!

冒頭の記事では、中国問題の国際的な権威であり碩学である米クレアモント・マッケナ大学ケック国際戦略研究所センター所長(教授)のミンシン・ペイ氏と、米ハーバード大学名誉教授のエズラ・ボーゲル氏の2人が提起した中国共産党の一党独裁体制はここ数年のうちに大きな危機にさらされるとの見方を解決していますが、以下に彼の書籍や、著作物などからさらに詳細に二人の見方を掲載します。

米ソ冷戦と比較しながらの新冷戦の行方(ミンシン・ペイ)

ミンシン・ペイ氏

米ソ冷戦初期のころ、ソ連がやがて米国を追い越すことになると考えられていました。共産主義が欧州に浸透し、ソ連経済は今の中国のように年6%近い成長でした。ブレジネフ時代には550万人の通常兵力を持ち、核戦力で米国を追い抜き、ソ連から東欧向けの援助が3倍に増えました。
ところが、おごるソ連システムに腐食が進みました。一党独裁体制の秘密主義と権力闘争、経済統計の水増しなど現在の中国とよく似た体質です。やがてソ連崩壊への道に転げ落ちていきました。

ソ連共産党が91年に崩壊したとき、もっとも衝撃を受けたのが中国共産党でした。彼らはただちにソ連崩壊の理由を調べ、原因の多くをゴルバチョフ大統領の責任とみました。しかし、ペイ教授によれば、党指導部はそれだけでは不安が払拭できず、3つの重要な教訓を導き出しました。

中国はまず、ソ連が失敗した経済の弱点を洗い出し、経済力の強化を目標としました。中国共産党は過去の経済成長策によって、一人当たりの名目国内総生産(GDP)を91年の333ドルから2017年には7329ドルに急上昇させ「経済の奇跡」を成し遂げました。

他方で中国は、国有企業に手をつけず、債務水準が重圧となり、急速な高齢化が進んで先行きの不安が大きくなりました。これにトランプ政権との貿易戦争が重なって、成長の鈍化は避けられなくなりました。しかも、米国との軍拡競争に耐えるだけの持続可能な成長モデルに欠く、とペイ教授はいいます。

第2に、ソ連は高コストの紛争に巻き込まれ、軍事費の重圧に苦しみました。中国もまた、先軍主義の常として軍事費の伸びが成長率を上回っています。25年に米国の国防費を抜き、30年代にはGDPで米国を抜くとの予測まであります。ところが、軍備は増強されても、経済の体力が続いていません。新冷戦に突入すると、ソ連と同じ壊滅的な経済破綻に陥る可能性が否定できないのです。

第3に、ソ連は外国政権に資金と資源を過度に投入して経済運営に失敗しています。中国も弱小国を取り込むために、多額の資金をばらまいています。ソ連が東欧諸国の債務を抱え込んだように、習近平政権は巨大経済圏構想「一帯一路」拡大のために不良債権をため込んでいます

確かに、スリランカのハンバントタ港のように、戦略的な要衝を借金のカタとして分捕りましたが、同時に焦げ付き債務も背負うことになりました。これが増えれば、不良債権に苦しんだソ連と同じ道に踏み込みかねないです。

かくて、ペイ教授は「米中冷戦がはじまったばかりだが、中国はすでに敗北の軌道に乗っている」と断定しています。
中国は民主化に進むのか? (エズラ・ボーゲル)

エズラ・ボーゲル氏

中国は数年後には、中国には今より政治的に緩和された体制、具体的に言えば、上からの抑圧があまりにも厳しい現状よりは、いくらか多くの自由が許される体制になっているのではないでしょうか。

中国共産党が、米国人が納得するほどの自由を人々や社会に提供することはないでしょうか、それでも数年以内に少しばかりは緩和されるでしょう。私はこう考える根拠の一つを、歴史的な法則に見出しています。

1949年に新中国が建国されて今年(2019年)で70年になりますが、この間、中国の政治は緩和と緊張を繰り返してきました。昨今の状況はあからさまに緊張しすぎていて、上からの引き締めが極端なほどに強化されています。

歴史的な法則からすれば、これから発生し得るのは緩和の動きだと推測できます。中国問題を思考し議論する際は、歴史の法則を無視することがあってはならないです。

中国も、司法の独立や宗教、言論、結社、出版などにおいて一定の自由を享受し、形式的だとしても選挙を実施しているシンガポールのようなモデルや、制度と価値観として自由民主主義を築いている台湾のようなモデルを試しつつ、一部の養分を吸収するかもしれないです。

シンガポールも台湾も、同じように華人が統治しているのです。どうして中国に限って不可能だと言えるでしょうか。彼らの間には、文化的に共通する部分が少なくないです。もちろん、中国はより大きく、国内事情は複雑で、解決しなければならない課題も多いです。ただ不可能ではないはずです。

私は少し前に台湾、北京、中国の東北地方を訪れたのだが、やはり台湾の政治体制のバランスは良いと感じました。そこには中国の文化が根づいている一方で、人々は自由と安定した社会を享受できているからです。

昨今の香港は、北京による抑圧的な政策もあり、緊張しすぎています。北京の中央政府の対応に問題があると思います。習近平がみずからの意思と決定に依拠して、全体的な局面を少しでも緩和できるかどうか、私にはわからないです。

以前と比べて楽観視できなくなった、というのが正直なところです。ただここで強調したいのは、中国の歴史の法則に立ち返って考えたとき、不可能ではない、という点です。習近平が政治状況を緩和させ、政治社会や経済社会に対してより多くの自由を供給する可能性はあります。

習近平が国家主席に就任した2013年の頃、私は彼に改革を推し進める決意と用意があり、「反腐敗闘争」に関しても、まずは権力基盤を固め、そのうえで改革をダイナミックに推し進めるという手順を取るのだと推察していました。

習は「紅二代(毛沢東と革命に参加した党幹部の子弟)」とはいえ、江沢民や胡錦濤とは違い、トウ小平によって選抜されたわけではありません。そうした背景から、権力基盤を固めるのに一定の時間を要することはやむを得ず、自然の流れと見ていました。ただ現況を俯瞰してみると、当時の推察とはかなり異なるようです。

習近平は憲法改正を通じて、国家主席の任期を撤廃してしまいました。これは近代的な政治制度に背反する行為です。習近平も人間であるから、いつの日か何らかの形で最高指導者の地位から退くことになりますが、誰が彼の後を継ぐのでしょうか。習近平が長くやればやるほど、後継者問題は複雑かつ深刻になるでしょう。

私には、習近平が誰を後継者として考えているのかはわからないし、現段階でその人物を予測するという角度から中国政治を研究してもいません。

ただ、仮に習近平が二期10年以上やるとしたら、相当な反発が出ることは容易に想像できます。三期15年あるいはもっと長くやることで、逆にみずからの権力基盤が弱体化し、結果的に共産党の統治や求心力が失われるのであれば、習近平は二期10年で退き、福建省、浙江省、上海市から連れてきた“自分の人間”を後継者に据えることで「傀儡政権」を敷く選択をするかもしれないです。

いずれにせよ、習近平は後継者に自分が連れてきた人物を指名すべく動くでしょう。

一方で、習近平が頭脳明晰で、能力のある人間ならば、トップ交代に伴って混乱が生じるリスクに気づいていた場合、彼は二期目(2017~2022年)の任期中に政治状況を緩和させるでしょう。

もちろん、私には習近平が心のなかで実際に何を考えているのかはわかりません。薄熙来(1949~)事件(注:重慶市共産党委員会書記だった薄のスキャンダルや汚職疑惑などが噴出し失脚した事件)や多くの軍隊内部の案件を含め、かなり多くの役人や軍人が捕まってしまいました。このような状況下だからこそ、習近平は、事態を緩和させられないのかもしれないです。

習近平みずからだけでなく、能力のある同僚に頼りながら、全体的な政治環境を緩和させられるのかも、一つの注目点です。習近平に、果たしてそれができるかどうか。いずれにせよ、私がこのような点から、現状や先行きを懸念しているのは間違いないです。

仮に、習近平がこれから数年内に政治的局面を緩和させられなければ、中国が“崩壊”する可能性も否定できなくなります。

現在の中国の体制が崩壊すればどうなるか

中国の崩壊、あるいは中国共産党の崩壊に関して悲観的な予想をする人が多いです。私は、そうは思いません。現在の中国が崩壊すれば、世界経済は今よりは良くなると考えています。

その根拠となるのは、なんと言っても中国の過剰生産です。中国は国内でも過剰生産をしていますが、海外でも過剰生産を繰り返しています。それが、世界に及ぼす悪影響は計り知れません。

これについては、以前もこのブログに掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
世界が反緊縮を必要とする理由―【私の論評】日本の左派・左翼は韓国で枝野経済理論が実行され大失敗した事実を真摯に受け止めよ(゚д゚)!

野口旭氏

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事より、野口旭氏の世界が反緊縮を必要とする理由について述べた部分を以下に一部引用します。
一つの仮説は、筆者が秘かに「世界的貯蓄過剰2.0」と名付けているものである。世界的貯蓄過剰仮説とは、FRB理事時代のベン・バーナンキが、2005年の講演「世界的貯蓄過剰とアメリカの経常収支赤字」で提起したものである。バーナンキはそこで、1990年代末から顕在化し始めた中国に代表される新興諸国の貯蓄過剰が、世界全体のマクロ・バランスを大きく変えつつあることを指摘した。リマーン・ショック後に生じている世界経済のマクロ状況は、その世界的貯蓄過剰の新段階という意味で「2.0」なのである。 
各国経済のマクロ・バランスにおける「貯蓄過剰」とは、国内需要に対する供給の過剰を意味する。実際、中国などにおいてはこれまで、生産や所得の高い伸びに国内需要の伸びが追いつかないために、結果としてより多くの貯蓄が経常収支黒字となって海外に流出してきたのである。
このように、供給側の制約が世界的にますます緩くなってくれば、世界需要がよほど急速に拡大しない限り、供給の天井には達しない。供給制約の現れとしての高インフレや高金利が近年の先進諸国ではほとんど生じなくなったのは、そのためである。
上の文書から中国に関する部分を抜書します。

『1990年代末から顕在化し始めた中国に代表される新興諸国の貯蓄過剰が、世界全体のマクロ・バランスを大きく変えつつあることを指摘した。リマーン・ショック後に生じている世界経済のマクロ状況は、その世界的貯蓄過剰の新段階という意味で「2.0」なのである』

中国の過剰生産は、国営・国有企業などによってもたらされています。これらの企業は、普通の国であれば、過剰生産でとうに倒産したような企業がほとんどです。しかし、国が強く関与しているため、倒産しません。倒産せずに、さらに過剰生産を継続するのです。

最近の中国は国内だけではなく、「一帯一路」などの名目で海外でも、過剰生産を繰り返す有様です。中国が崩壊しない限り、この過剰生産はなくなることはなく、多くの国々をデフレで苦しめることになるだけです。

中国の体制が変わり、国営・国有企業がなくなり、全部民間企業になれば、過剰生産すれば、倒産するだけなので、中国の過剰生産がなくなります。

現在では、旧共産圏や発展途上国(後進国)の大部分が供給過剰の原因になっていますが、その中でも最大の元凶は共産主義中国です。

WTOなどの自由貿易の恩恵を最大限に受けながら、自国内では、外国企業に対する恫喝を繰りかえす「ルール無用の悪党」が世界の市場から退場し、ルールを遵守するようになれば、世界の供給過剰=デフレは一気に好転し、日本や米国の経済は繁栄することになるでしょう。

無論一時的な混乱は避けられないかもしれませんが、長期的にみれば、このように考えられます。

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