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2019年5月16日木曜日

野党破滅も!? 衆参W選、最短「6・30」断行か 識者「安倍首相、G20でのリーダーシップが最大の選挙運動に」―【私の論評】安倍総理は、令和元年に平成年間には一度もなかった衆参同時選挙で大勝利して財務省を沈黙させる(゚д゚)!


安倍総理(左)と麻生副総理兼財務大臣(右)

米中貿易戦争の激化による世界経済の失速を警戒して、日経平均株価は14日、一時2万1000円を割り込んだ。内閣府が13日に発表した3月の景気動向指数の基調判断も6年2カ月ぶりに「悪化」に下方修正された。こうした現状を受け、安倍晋三首相が10月の消費税増税を延期する可能性が指摘され、悲願の憲法改正の是非も加えて「国民の信」を問うため、今夏の参院選に合わせた「衆参ダブル選」の断行が取り沙汰されている。注目の「決戦日」(投開票日)について、最速、「6月30日」というスケジュールもありそうだ。


 「(2007年参院選の惨敗で)政治は安定を失い、とうとう、『悪夢のような民主党政権』が誕生した」「このような状況を再び招いてはならない。歯を食いしばり、夏の参院選を勝ち抜かないとならない」

 安倍晋三首相は14日、盟友である麻生太郎副総理兼財務相率いる麻生派(志公会)が都内で開いた政治資金パーティーでこう語った。参院選勝利への並々ならぬ決意が伝わった。

 麻生氏も「参院選を断固勝ち抜き、安倍政権のど真ん中で『輝く日本』をつくる」といい、「自民党結党以来果たせなかった憲法改正は、残された大きな課題だ」と、安倍首相と共通する改憲への意欲も示した。

 日本の経済政策を牽引(けんいん)する2人だが、パーティーでは世界経済の懸念材料である米中貿易戦争には触れなかった。

 ただ、麻生氏は同日の閣議後の記者会見で「(世界の)覇権というものを意識して考えないと。(米中の争いは)そんなに簡単に決着するものではありません」と語った。

 確かに、ドナルド・トランプ米政権は「中国が知的財産権を侵害している」として、制裁措置を発動している。中国の横暴を放置すれば、米国のハイテク技術は盗まれ続け、経済優位性は損なわれ、安全保障上の脅威となり、中国に覇権を奪われかねない-という強い危機感があるのだ。

 米国はすでに、輸入額の半分近くの2500億ドル(約27兆4000億円)分に25%の追加関税を課しているが、中国は対抗して13日、米国からの輸入品600億ドル(約6兆6000億円)分の追加関税率を最大10%から同25%に引き上げると発表した。これに対し、米国は13日、輸入品3000億ドル(約33兆円)分に最大25%の追加関税を課すと発表した。

 日本経済も当然影響を受ける。前出の基調判断が「悪化」に転じたなかで、米中の「関税制裁合戦」が過熱すれば、厳しい局面を迎える。

 安倍首相が「外的要因」を背景に、消費税増税の再々延期や、憲法改正の是非などを名分に、「伝家の宝刀」を抜くこともありそうだ。

 では、決戦のタイミングはいつになるのか。

 公職選挙法によると、参院選は改選議員の任期満了(7月28日)から「30日以内」と規定されている。投開票日は日曜日が通例であり、6月30日、7月7日、14日、21日の4パターンから選択が可能だ。


 一方、衆院選は公選法で「解散の日から40日以内に行う」と規定されている。

 これまで、通常国会の会期末解散で「7月4日公示-21日投開票」が有力視されていたが、ジャーナリストの安積明子氏はいち早く、「6月30日投開票」説をネットで発信した。

安積氏は「永田町で、特に野党が『6月30日』説に色めき立ち、慌てている」といい、続けた。

 「6月28、29両日には、大阪でG20(20カ国・地域)首脳会議が開かれ、世界各国から要人が集まる。安倍首相が議長としてリーダーシップを発揮すれば、メディアでも大きく報じられる。最大の選挙運動にもなる。野党は候補者不足など、壊滅する可能性がある」

 安積氏の予想通りなら、参院は6月30日から少なくとも「17日前」に、衆院も「12日前」までには公示日を迎え、選挙戦に入ることになる。

ジャーナリストの安積明子氏

 政府・与党は「常在戦場だから」(閣僚経験者)と、衆参ダブル選への覚悟を決めつつある。

 自民党の二階俊博幹事長は13日の記者会見で、衆参同日選について「安倍首相が判断すれば、党として全面的にバックアップし、対応する用意はある」と発言した。

 安倍首相は14日の経済財政諮問会議で、日本経済の実態について、「このところ、輸出や生産の一部に弱さが見られており、先行きも海外経済の動向などに十分、留意する必要がある」と、警戒感をにじませた。

 今月20日には1~3月期の国内総生産(GDP)の速報値も発表される。月内には、政府が独自の景気認識を示す月例経済報告など、経済指標の公表が相次ぐ。

 こうしたなか、トランプ大統領が25~28日に国賓として来日する。安倍首相は国内経済の現状を踏まえたうえで、日米首脳会談などで米中貿易戦争の展開などを把握し、最終決断を下すことになりそうだ。

【私の論評】安倍総理は、令和元年に平成年間には一度もなかった衆参同時選挙で大勝利して財務省を沈黙させる(゚д゚)!

増税見送りもしくは、凍結を公約として、衆参同時選挙をする可能性が高いことについては、このブログでも過去に何度か解説しました。そのため、ここではこれについては、解説しません。詳細を知りたい方は、この記事の一番下のほうに、【関連記事】を掲載してありますので、そちらをご覧になってください。

衆参同時選挙については、野党画をも相当危機感を感じているようです、国民民主党の小沢一郎氏は14日夜、民放のBS番組で、野党勢力の結集ができていない状況では、衆参同日選挙の可能性があり、野党側が敗北すると指摘したうえで、比例代表では野党の統一名簿を作成すべきだという考えを重ねて示しました。

この中で、国民民主党の小沢一郎氏は、「結集ができていない、今の野党の状況なら、『衆参ダブル選挙』はありうる。このままの状況なら、野党が立ち直れないくらいの壊滅的な敗北になる」と指摘しました。

そのうえで、小沢氏は、「いわゆる『オリーブの木』で、1つの傘のもとで戦う状態にならないと勝てないし、そういう状態になれば、圧勝する」と述べ、参議院選挙の1人区と衆議院選挙の小選挙区で、野党側の候補者を一本化し、比例代表では野党の統一名簿を作成すべきだという考えを重ねて示しました。

一方、小沢氏は、党内でのみずからの処遇について、「2か月後は選挙だから、ポジションは『あっちだ、こっちだ』と言っている場合ではない。『勝利するために、どうしたらいいのか』という話で、ポストをどうこうする必要はない」と述べました。

果たしてダブル選はあるのでしょうか。こればかりは安倍首相の心一つですが、少なくとも衆院を解散するのは、選挙を有利に戦えると踏んだときです。その判断材料の一つになるのが野党の動向です。

周知の通り、前回の衆院選で旧民進党は分裂し、当時の感情的なしこりが野党結集を妨げる一つ要因となっています。立憲民主党と国民民主党が主導権争いで対立する場面も多く、この間、野党が政権交代の受け皿になってきたとは言い難いです。

産経新聞社とFNN(フジニュースネットワーク)の合同世論調査では、結党直後に11・6%だった立憲民主党の支持率は昨年2月の15・6%をピークに下落傾向に入り、今月6、7両日実施の調査では9・6%でした。国民民主党の支持率は1・6%で、野党第一党と第二党を合わせても10%程度にしかなりません。

一方、安倍内閣の支持率は、前月比5・2ポイント増の47・9%で上昇傾向にあります。

野党共闘のあり方にも課題があります。4月21日に投開票された衆院沖縄3区補選では勝利したのですが、同日の大阪12区補選は共産党系候補への支援のあり方をめぐり、足並みが乱れました。

共産党は、同党の元衆院議員を無所属で擁立する異例の対応を取り、他党が相乗りしやすい環境づくりを目指したのですが、共産党以外で推薦したのは自由党のみでした。立憲民主党や国民民主党は自主投票で臨み、立候補した4候補中、最下位の惨敗に終わりました。

共産党は夏の参院選と次期衆院選から、野党共闘の条件として候補の「相互推薦・支援」を求めていますが、大阪補選で浮き彫りになった野党間の溝はハードルの高さを物語っています。

野党5党派は参院選の勝敗を分ける32の改選1人区で候補の一本化作業を進めていますが、これまで事実上合意したのは愛媛、熊本、沖縄の3選挙区にとどまり、調整は大幅に遅れています。

こうした野党の体たらくを安倍首相サイドからみれば「解散の好機」と捉えることができるでしょう。

実際、ダブル選は地方に強固な組織を持つ自民党に有利とされます。自民党は沖縄、大阪補選や大阪府知事・市長のダブル選で敗れたものの、県議・市議選など統一地方選全体では着実に議席を伸ばしました。ダブル選ならば野党共闘態勢の構築も難しくなり、圧勝できると見る向きも多いようです。

一方、平成29年衆院選では、旧民進党と小池百合子東京都知事率いる旧希望の党による合流劇で、一時は政権交代も予感させました。小池氏の「排除」発言によって機運は急速にしぼんだのですが、官邸は肝を冷やしたに違いないです。

ダブル選になれば、野党結集が一気に加速する可能性があります。そこを官邸がどう判断するかが重要になってきます。

平成の時代に一度も行われなかったダブル選は、令和元年に実現するのか。夏の政治決戦に向けて、与野党の神経戦は既に中盤を迎えています。

安倍総理にとって有利なのは、増税延期の理由を海外に求めることができるということです。

これは米中貿易戦争の悪影響だけでありません。市場では、ヨーロッパが景気後退に入ったという見方が支配的になっています。一部では、欧州発の金融危機発生という見方さえ出始めています。

さらに、IMFが4月9日に発表した世界経済見通しでは、2019年の世界の実質経済成長率が1月に、同月発表の3.5%から、さらに下方修正されて3.3%となりました。この成長率は、リーマンショック後の長期停滞局面の成長率を下回っています。

安倍総理が言い続けてきた「リーマンショック並みの経済危機」に世界経済はすでに陥っているのです。そうした状況下なら、増税を延期しなければならない理由は、野党が主張するような「アベノミクスの失敗」ではなく、あくまでも日本政府がコントロールできない海外要因によるものだと強弁することが可能になります。

伊勢志摩サミットでも「リーマンショック前と似た状況」と語っていた安倍総理

安倍総理は、消費税増税延期のカードをすでに掌中にしている。4月21日に行われた大阪と沖縄の衆院補選で自民党が惨敗した流れを考えれば、自民党内に安倍総理の掲げる増税延期を否定する声は、さほど強く上がらないのではないでしょうか。

唯一の懸念は、財務省です。これまで幼稚園や保育園の無償化、軽減税率の導入、ポイント還元など、消費税増税による増収分をすべて使い尽くすくらいの大盤振る舞いで、増税実施への努力を続けてきたのですから、財務省としては、増税延期は絶対に許したくない政策です。

これからの2カ月、安倍総理と財務省の間で、消費税増税の延期をかけた壮絶な戦いが、水面下で始まることでしょう。

ただし、安倍総理には伝家の宝刀があります。それは、衆参両院選挙です。これで消費税見送りか、凍結、もしかすると減税をかかげて選挙に大勝すれば、財務省とて官邸には逆らえないです。このようなことは過去二度あって、実際に増税が見送られました。

二度あったことは、三度あるとみておくべきでしょう。ただし、今回は参院選だけでなく、衆院選も同時に行い、令和元年に平成年間には一度もなかった衆参同時選挙で大勝利して財務省を黙らせる算段でしょう。

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2019年3月17日日曜日

トランプ大統領が「強すぎるドル」を徹底的に嫌う最大の理由―【私の論評】日本の政治家、官僚、マスコミ、識者は無様なほど雇用を知らない(゚д゚)!

トランプ大統領が「強すぎるドル」を徹底的に嫌う最大の理由

過激な発言の一方で冷静なところも





「アメリカファースト」の中身

 「利上げを好み、量的引き締めを好み、非常に強いドルを好む紳士がFRB(米連邦準内に1人いる」

 トランプ大統領が3月2日の演説でこう揶揄した人物とは、ほかでもないFRB議長のジェローム・パウエル氏だ。トランプ大統領は中央銀行の金融引き締め策がドル高を招き、米国経済に悪影響を与えていると度々批判している。

FRBは1月、2019年に予定していた2回の追加利上げを見送る方針を示していたが、トランプ大統領はまだおかんむりのようだ。

ジェローム・パウエルFRB議長

 金融引き締めのタイミングについては、アベノミクス以降日本でも最重要課題となっている。日米の経済を単純比較することはできないが、トランプ大統領はなぜFRB批判を繰り返すのか。

 本コラムでは再三述べてきたが、金融政策とは雇用政策であるということは、経済学の基本中の基本だ。

 ペンシルベニア大学ウォートン校卒のトランプ大統領は、政治は素人でも、この基本をよく理解している。彼のよく言う「アメリカファースト」の中身をよく見てみると、雇用の確保が最優先に据えられていることがわかる。

 FRBは雇用最大化と物価の安定の「二重の責務」を担っていると、公式に宣言している。このため、雇用となれば真っ先に矢面に立たされるのがFRBである。これは米国だけでなく欧州でもそうだ。

 ところが日本で雇用はどうするのかとなると、質問が向かうのは日銀ではなく厚生労働省だ。

 物価上昇率が高いときには失業率が低く、物価上昇率が低いときには失業率が高い。物価と雇用の関係は裏腹である。日銀の仕事は物価の安定のみと言っているが、実質的に雇用の確保の責任を持っている。

 もっとも、いくら金融政策を行っても失業率には下限があり、それは各国で異なる。日本では2%台半ば程度、アメリカでは4%程度とされている。一方、その達成のための最小の物価上昇率は先進国で似通っており、だいたい2%だ。これがインフレ目標となっているのをご存じの読者は多いだろう。

 ここで改めて、なぜトランプ大統領が「強すぎるドル」を嫌い、パウエル議長批判を繰り返すのかを考えよう。

トランプ大統領

 為替は二つの通貨の交換比率から成り立っている。もしアメリカが日本よりも金融引き締めを進めると、市場のドルは少なくなり、相対的にドルの価値は上がる(ドル高)。これは輸出減少と輸入増加を招き、結果としてGDPを減少させる要因となる。国際金融理論の実務でも有名な「ソロスチャート」にも示されている相関関係だ。

 トランプ大統領は米国の年間GDP成長率の目標を3%としていたが、'18年はこれをわずかに上回る3・1%という数値に落ち着いた。目標値を下回るかもしれないとあって、トランプ大統領は相当気を揉んでいたはずだ。国際経済学を理解する彼だからこそ、口酸っぱく金融引き締めを批判し、GDP成長率の押し上げを図っている。

 激しい言動が取り沙汰される一方で、意外と理論派なところもあるのがトランプ大統領だ。

 彼が政府の一員と言える中央銀行にどうモノ申すのか、冷静に追っていく必要がある。

『週刊現代』2019年3月23日号より

【私の論評】日本の政治家、官僚、マスコミ、識者は無様なほど雇用を知らない(゚д゚)!

この記事の冒頭の記事には「日本で雇用はどうするのかとなると、質問が向かうのは日銀ではなく厚生労働省だ」という指摘があります。

雇用に関して、雇用枠を拡大することができるのは、日銀だけです。厚生労働省にはこれはできません。厚生労働省が雇用に関して実行しなければならないのは、雇用統計と労務関連施策であって、雇用には直接関係ありません。

これは、世界の常識なのですが、なぜか日本ではこれが、いわゆる大人の常識になっていません。

多くの人が現在でも、雇用=金融政策とか雇用の主務官庁は日銀というと、怪訝な顔をするようです。

これに関しては、このブログでも指摘したことがあります。
若者雇用戦略のウソ―【私の論評】雇用と中央銀行の金融政策の間には密接な関係があることを知らない日本人?!
当時の就活中の女子大生

この記事は、2012年9月1日土曜日のものです。この当時はまだまだ就職氷河期が続いていおり、就活生の悲惨な状況が報道されていました。この状況はこの年の年末に安倍政権が成立して、金融緩和策を打ち出し、翌年の4月から日銀は異次元の金融緩和策を打ち出しました。そうして、日銀が緩和に転じて、その後雇用状況が良くなり今日に至っています。

上の記事で"「雇用のことって正直、よく分からないんだよね」。今春まで約8年間、東京都内のハローワークで契約職員として勤務していたある女性は、正規職員の上司が何気なく発した言葉に愕然としたことがある"とありますが、この正規職員の上司の発言は正しいのです。

この記事そのものは、雇用=金融政策という原理原則を知らない人が書いたものなので、そもそも読むに値しませんが、ただし、この正直者の正規職員の上司の発言だけは、日本では雇用の主務官庁は厚生労働省が多いと思い込む人が多いことの証左として、読むに値するかもしれません。

先にも述べたように、厚生労働省およびその下部機関である、ハローワークは失業率などの雇用統計や労務に関わるのであって、雇用そのものには関係ありません。厚生労働省やハローワークがいくら努力をしたとしても雇用は創造できません。当時からそのことは全く理解されていませんでした、それに関わる部分をこの記事から以下に引用します。
アメリカでは、雇用問題というと、まずは、FRBの舵取りにより、大きく影響を受けるということは、あたりまえの常識として受け取られていますし。雇用対策は、FRBの数ある大きな仕事のうちの一つであることははっきり認識されており、雇用が悪化すれば、FRBの金融政策の失敗であるとみなされます。改善すれば、成功とみなされます。 
この中央銀行の金融政策による雇用調整は、世界ではあたりまえの事実と受け取られていますが、日本だけが、違うようです。日本で雇用というと、最初に論じられるのは、冒頭の記事のように、なぜか厚生労働省です。
当時の就活中の女子大生 当時は特に女子大生の就活は大変だった
このブログでも、前に掲載したと思いますが、一国の雇用の趨勢を決めるのは、何をさておいても、まずは中央銀行による金融政策です。たとえば、中央銀行が、インフレ率を2〜3%現状より、高めたとしたら、他に何をせずとも、日本やアメリカのような国であれば、一夜にして、数百万の雇用が生まれます。これに関しては、まともなマクロ経済学者であれば、これを否定する人は誰もいないでしょう。無論、日本に存在するマクロ経済学と全く無関係な学者とか、マルクス経済学の学者には、否定する人もいるかもしれませんが、そんなものは、ごく少数であり、グローバルな視点からすれば、無視しても良いです。
それと、気になるのは、 金融政策により為替の大部分が決まってしまうことも、多くの人が知らないことです。

日本円と米ドルの比較でいえば、日本が金融引き締め政策をとり、円そのものを米国ドルよりも少なくすれば、相対的に円の希少価値があがり、円高になります。逆に日本が金融緩和政策をとり、円そのものを米国ドルより多くすれば、円の希少価値が下がり、米ドルの希少価値があり、円安ドル高になります。

無論、為替レートには様々な要因があり、短期的には為替レートを予測することは不可能です。ただし、長期的には日米政府の金融政策によって為替レートが決まります。

こんなことは、ある物が多くなれば、希少価値が少なくなり、ある物が少なくなれば、希少価値が高くなることを知っている人なら簡単に理解できることだと思うのですが、これも何故か日本ではほとんど理解されてないようです。

そうして、このことが理解できいないがために、日本では通貨戦争などを信奉する人も多いようです。通貨戦争など妄想にすぎません。

考えてみて下さい、仮に日本が円安狙いで徹底的に金融緩和策をやり続けたとします。その結果どうなるでしょうか、際限なく日本円を擦り続けた先には、ハイパーインフレになるだけです。だから、金融緩和するにしても適当なところでやめるのか普通なので、通貨戦争などできないし、妄想に過ぎないのです。

このようなことも理解していないからでしょうか、日本の雇用論議や、為替論議を聴いていると、頓珍漢なものが多いです。

私は、為替レートやGDPなどよりも、雇用が最も重要だと思っています。なぜなら、雇用が確保されていれば、大多数の国民にとっては安心して生活することができます。逆に雇用が確保されなければ、大多数の国民安心して生活できません。

仮に他の経済指数などが良くても、失業率が上がれば、政府はまともに仕事をしているとは言えません。

冒頭のドクターZの記事では、

「国際経済学を理解する彼だからこそ、口酸っぱく金融引き締めを批判し、GDP成長率の押し上げを図っている。

 激しい言動が取り沙汰される一方で、意外と理論派なところもあるのがトランプ大統領だ」。

とトランプ大統領を評価しています。

しかし、これは政治家や、マスコミ(特に経済記者)、識者(特に経済関係の識者)は、最低限知っていなければならないことだと、私は思います。

ましてや、雇用に関しては、細かいことまでは知らなくても、大きな方向性は理解していてしかるべきです。

日本では、これを理解している、政治家、官僚、マスコミ、識者はほんの一部のようです。幸いなことに、安倍総理とその一部のブレーンは知っています。それなのに、彼らの多くは米国のほとんどリベラルで占められている新聞やテレビなどのマスコミ報道を真に受けて、保守派のトランプ大統領をあたかも狂ったピエロであるかのように批判しています。

そうして、トランプ大統領のようにまともにマクロ経済の理解はしようとしません。その意味では、先に掲載した、正直者のハローワークの正規職員の上司よりも始末に負えないです。

そのようなことをする前に、彼らは無様なほど雇用を知らないことを自覚すべきです。そんなことでは、まともな経済論争などできません。顔を洗って出直してこいと言いたいです。

【関連記事】





2019年3月2日土曜日

韓国・文大統領大誤算!米朝決裂で韓国『三・一』に冷や水で… 政権の求心力低下は確実 識者「米は韓国にも締め付け強める」 ―【私の論評】米国にとって現状維持は、中国と対峙するには好都合(゚д゚)!

韓国・文大統領大誤算!米朝決裂で韓国『三・一』に冷や水で… 政権の求心力低下は確実 識者「米は韓国にも締め付け強める」 

米朝決裂であてのはずれた文在寅

 米朝首脳会談の決裂を受け、北朝鮮と韓国が窮地に追い込まれた。ドナルド・トランプ米大統領が、北朝鮮の「見せかけの非核化」方針を見透かして席を蹴ったため、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長が熱望した経済制裁解除や、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領が「三・一運動」100周年に合わせて期待した南北共同事業の再開は水泡に帰したのだ。正恩氏の国内権威は失墜し、「米朝の仲介役」を自任した文氏の求心力も低下する。危機を脱して、好機を得たともいえる日米両国。今後の展開次第では、南北朝鮮は「地獄」を見ることになりかねない。

 「国連安全保障理事会決議に基づく制裁の一部を解除すれば、寧辺(ニョンビョン)の核施設を永久に廃棄すると提案したが、米側が応じなかった」

 北朝鮮の李容浩(リ・ヨンホ)外相は1日未明、ベトナムの首都ハノイで緊急記者会見し、こう説明した。



 北朝鮮の閣僚による異例の記者会見は、決裂した米朝首脳会談後、トランプ氏が「北朝鮮は経済制裁の全面解除を要求してきた」と明かしたことへの反論だった。会談失敗の責任を、正恩氏からトランプ政権になすりつけようとしていることがうかがえた。

 会見に同席した崔善姫(チェ・ソンヒ)外務次官は「部分的な解除さえ難しいとする米側の反応をみて、(正恩氏が)交渉への意欲を少し失ったのではないかと感じた」と語り、国内外に向けて、最高権力者の威信を守ろうと必死の様子だった。

 今回の米朝首脳会談で、北朝鮮は「米国と合意可能」とみていた。

 正恩氏のベトナム訪問を、同国メディアに出発時点から報じさせていたうえ、朝鮮中央通信は2月28日、正恩氏が「今回の会談でみんなが喜ぶ立派な結果が出るだろう、最善を尽くすという意義深い言葉を述べた」と伝えていた。

 ところが、その期待はあえなく消えた。

 トランプ氏が非核化に向けた具体的措置を求めたのに対し、正恩氏が経済制裁の全面解除を迫ったため、トランプ氏は当初予定していた共同合意文書への署名を見送り、会談を終了した。

 首脳会談の決裂に伴い、正恩氏は何の見返りも得られないまま、帰国することになった。

 国際社会による制裁で、北朝鮮は相当追い詰められている。2月には国連に食糧支援を要請するほどの困窮ぶりだ。国内で正恩氏への不満が高まっているとの情報もある。

 正恩氏の外交的失敗で制裁が維持されたため、最高権力者としての権威失墜は避けられそうにないのだ。

 今回の会談結果に、米朝の「仲介役」を自任していた韓国・文政権も狼狽(ろうばい)している。

 韓国・聯合ニュースが2月28日に《朝鮮半島情勢「視界ゼロ」 米朝首脳会談が「制裁」問題で決裂》という見出しで伝えたことからも、韓国政府の焦りが感じられる。

 同ニュースは別の記事で、「韓国政府の当局者は戸惑いを隠せずにいる。今回の会談が成功すれば、合意に対北朝鮮制裁緩和に関する内容が盛り込まれ、制裁が足かせとなっている南北経済協力に転機が訪れると期待していたためだ」と指摘した。

そもそも、米朝首脳会談は、文大統領が「北朝鮮には非核化の意思がある」と確約したため、米国も乗り出した。

 トランプ政権は、文政権の異常な「反日行動」や、左翼主義的な態度に不信感を抱えていたが、北朝鮮とのパイプ役として一定の節度を保ちながら対応してきた。

 今回の首脳会談決裂を受け、仲介役である文政権の責任も問われかねない。国内的にも、北朝鮮問題で支持率を保っていたため、求心力低下は確実だ。

 対照的に、日本は土壇場で危機を脱する結果となった。

 トランプ政権は当初、ICBM(大陸間弾道ミサイル)の廃棄で妥協するとの見方があり、その場合、日本を射程におさめる中距離弾道ミサイル「ノドン」などが残るとみられていたからだ。

 日本政府としては「バッド・ディール(悪い合意)よりは、ノー・ディール(無合意)の方が良い」という方向で米国と調整してきた。会談決裂で「御の字」なのだ。

 日本の悲願である拉致問題についても、トランプ氏は今回、正恩氏に2回提起したという。安倍晋三首相は今回の結果を評価し、「トランプ氏の決断を全面的に支持する」と述べた。

 米国政治に詳しい福井県立大学の島田洋一教授は「今回のトランプ氏の決断は、米国の保守派からも評価され始めている。一方、正恩氏は、トランプ氏をうまくだませると思っていたようだが、土壇場での逆転で、手ぶらで帰ることになった。トランプ政権は『制裁の抜け穴をふさぐ』という意味で、北朝鮮への圧力を強化し、同時に文政権にも締め付けを強めていくだろう」と話した。

【私の論評】米国にとって現状維持は、中国と対峙するには好都合(゚д゚)!

冒頭の記事では、"日本政府としては「バッド・ディール(悪い合意)よりは、ノー・ディール(無合意)の方が良い」という方向で米国と調整してきた。会談決裂で「御の字」なのだ"とありますが、これは米政府としても「御の字」であったと思います。


No deal is better than a bad deal

北朝鮮は、外見は中国を後ろ盾にしてはいますが、その実中国の干渉されることをかなり嫌っています。金正男の暗殺や、叔父で後見役、張成沢氏の粛清はその現れです。

韓国は、中国に従属する姿勢を前からみせていましたが、米国が中国に冷戦を挑んでいる現在もその姿勢は変えていません。

この状態で、北朝鮮が核をあっさり全部手放ばなすことになれば、朝鮮半島全体が中国の覇権の及ぶ地域となることは明らかです。これは、米国にとってみれば、最悪です。そうして、38度線が、対馬になる日本にとっても最悪です。

もし今回北朝鮮が米国の言うとおりに、全面的な核廃棄を合意した場合、米国は、米国の管理のもとに北朝鮮手放させるつもりだった思います。まずは、米国に到達するICBMを廃棄させ、冷戦で中国が弱った頃合いをみはからい、中距離を廃棄させ、最終的に中国が体制を変えるか、他国に影響を及ぼせないくらいに経済が弱体化すれば、短距離も廃棄させたかもしれません。

しかし、これを米国が北朝鮮に実施させた場合、多くの国々から非難されることになったことでしょう。特に、日本は危機にさらされ続けるということで日米関係は悪くなったかもしれません。さらに、多くの先進国から米国が北朝鮮の言いなりになっていると印象を持たれかなり非難されることになったかもしれません。

しかし、今回の交渉決裂により、悪いのは北朝鮮ということになりました。米国は、他国から非難されることなく、北朝鮮の意思で北の核を温存させ、中国の朝鮮半島への浸透を防ぐことに成功したのです。まさに、「バッド・ディール(悪い合意)よりは、ノー・ディール(無合意)の方が良い」という結果になったのです。

しかし、今回の会議にボルトンが同行したということ自体が、今回の交渉が最初からノー・ディールになる可能性が高かったと見るべきです。

ボルトンはトランプ政権に参加する以前の昨年2月、米ウォールストリート・ジャーナル紙に「北朝鮮への先制攻撃に関する法的検証」という意見記事を投稿しました。「bomb them(爆撃しろ)」の異名を取るボルトンが交渉テーブルに着いた以上、トランプがより強硬になったとしても不思議ではないです。

ハノイでの米朝会談2日目、突然ボルトン(左端)が
着席したときから、外交専門家たちは不安を募らせていた

第2回米朝会談の結果に一部の専門家たちはひどく失望しているようですが、あまり悲観的な見方に傾くことはないと思います。トランプと金正恩は交渉テーブルからは去りましたが、両国の交渉をつなぐ橋を完璧に壊したわけではありません。

米朝両国にとってもこの交渉を崩壊させない方が有益です。今後数週間~数カ月の焦点は、米朝両国が過去8カ月間維持してきた均衡を引き続き維持できるか、そして今後の交渉で米朝間の溝を埋めて非核化を進展させることができるかです。

米国にとってはこの均衡を維持できれば、中国に対峙している現状では、悪くはない状況です。中国にとっては最悪でしょう。米国の最大の課題は中国つぶし、北朝鮮はその従属関数でしかないのです。

米国にとっては、韓国も従属関数でしかありません。韓国が、今後中国に従属する姿勢を強めなければ、放置するでしょうし、そうでなければ、締め付けることになるでしょう。

そうして、そもそも米国の対中冷戦によって、中国が体制を変えたり、あるいは、他国に影響を及ぼせないほど弱体化すれば、北朝鮮問題というより朝鮮半島問題はだまっていても自ずと解決することになるでしょう。ただし、それには少なくとも10年、長ければ20年くらいかかるかもしれません。

その間北朝鮮が、制裁に耐え続けることができれば、今のまま均衡が保たれるでしょうが、それはかなりあやしいです。

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2018年12月21日金曜日

トランプ氏が“マティス斬り” 軍事シフト加速か 識者「中国の挑発に『やられたらやり返す!』も…」―【私の論評】辞任の直接の原因はシリア対応、日本にも無関係ではない(゚д゚)!


ついにマティス氏(左)も辞任へ。トランプ政権はどちらへ進むのか

ドナルド・トランプ米大統領は20日(米国時間)、ジェームズ・マティス国防長官が来年2月末に退任するとツイッターで明らかにした。「狂犬」の異名を持つマティス氏だが、実は国際協調派で、暴走傾向のあるトランプ政権に、外交・安全保障上の安定感を与えてきた。トランプ氏が今後、中国や北朝鮮に対する軍事シフトを加速させる恐れもありそうだ。

 《マティス将軍は、同盟国やほかの国々に対し、軍事的義務を負担させるという面で、大いに私を助けてくれた。新任の国防長官は間もなく指名することになるだろう。私はジムの献身に深く感謝している!》

 トランプ氏は、マティス氏について、ツイッターでこう褒めたたえた。だが、2人の関係は悪化が伝えられていた。

 トランプ氏が19日に決断したシリアからの米軍撤収をめぐっても、「マティス氏が反対していた」と報じられた。マティス氏は20日、トランプ氏に宛てた辞表に、「あなたには、自身の考えに沿った国防長官を任命できる権利がある」と書き記した。抗議の辞任の可能性もある。


 トランプ政権では、これまで、マティス氏に加え、すでに辞任したハーバート・マクマスター大統領補佐官(国家安全保障問題担当)、年末に退任するジョン・ケリー大統領首席補佐官の「将軍3人組」が幹部として影響力を発揮してきた。

 マティス氏が2月末に去ることで、トランプ政権の性質はどう変わるのか。

 米国政治に詳しい福井県立大学の島田洋一教授は「下院の多数派を民主党が握っているため、後任には議会対策ができる人間や、次期大統領選を見据えて政治的動きのできる人間をあてるのではないか。北朝鮮に対する先制攻撃を唱えていたジョン・ボルトン大統領補佐官の影響力が高まることが予想され、北朝鮮に対する抑止力が増すことになるだろう」と話す。

 評論家で軍事ジャーナリストの潮匡人氏は「例えば、南シナ海で中国による挑発的行動があったとき、これまで『重し』となっていたマティス氏の不在というリスクがあるだろう。トランプ氏が感情的に『やられたらやり返す!』的な対応を取る事態が起こり得るのではないか。その矛先は、北朝鮮やロシアを含めて、どこに向かうかは分からない」と語った。
【私の論評】辞任の直接の原因はシリア対応、日本にも無関係ではない(゚д゚)!
マティス国防長官


マティス氏の辞任の直接のきっかけは、トランプ氏が19日に決断したシリアからの米軍撤収にあるようです。
マティス氏は20日公表したトランプ氏あての辞表で、「大統領は自身の考えに沿った国防長官を任命する権利があり、私が辞任するのが適切だと判断した」と述べ、トランプ氏との国防政策をめぐる見解の相違を理由とした自発的な辞任だと強調しました。

マティス氏はまた、「米国は他国との共同防衛に全ての力を傾注しなくてはならない。(イスラム教スンニ派過激組織)『イスラム国』(IS)支配の象徴の撲滅に向けた74カ国の連合が証左だ」とし、シリアで米軍が果たした役割の重要性を指摘しました。

米政権高官がロイター通信などに明らかにしたところでは、マティス氏は20日、ホワイトハウスを訪れトランプ氏に辞任の意思を直接伝えました。マティス氏はシリアから米軍を撤収させないようトランプ氏を説得しようとしましたが、同氏は聞き入れなかったといいます。

トランプ氏は20日、ツイッターでシリア駐留米軍(約2600人規模)の撤収に関し「兵士の命を守り、何十億ドルも節約できる。なぜシリアやロシア、イラン、地元勢力のために『イスラム国』を殺害しなくてはならないのか」と主張。また、米メディアは同日、トランプ氏がアフガン駐留米軍(約1万4千人規模)のほぼ半数を撤収させることを本格的に検討していると報じていました。

サンダース大統領報道官は19日に声明を発表し、「アメリカは過激派組織ISIL(アイシル)を打倒した」として、シリア駐留アメリカ軍の撤収を開始したと表明しました。
米国国防総省のホワイト報道官も19日、アメリカ軍の部隊をシリアから帰還させる作業に着手したことを発表しています。

サンダース大統領報道官

これはかなり大きなニュースです。ただし、ISILは確かに打倒されたのかもしれませんが、シリア情勢はますます悪くなって来ています。このなかで、どうしてトランプ政権が2,000人以上の大隊を撤収するのでしょうか。

これを世界がどのように受け止めたのかということになると、トランプ政権はやはりアメリカファーストなのだということなのかもしれません。トランプ氏としては、米国の貴重な戦力を中東のような、トランプ大統領から見るとそれほど決定的な国益が掛かっていない地域には置いておく必要がないということです。

確かに大きな流れでそういうことかもしれませんが、しかし日本や東アジアを含め多くの国々が、米国はこの時期に海外から兵を引くのは無責任ではないかということになってしまいます。

朝鮮半島には在韓米軍がいて、大きな寄りどころになっていますが、ここからも兵を引くのかもしれないです。現にトランプ大統領の選挙戦を通じて、そのことをほのめかしています。一言で言うと、世界はトランプ大統領のダンケルク撤退作戦を恐れていることになります。

ダンケルクから撤退するイギリス軍

ちなみにこれは、第二次世界大戦の西部戦線における戦闘の一つで、ドイツ軍のフランス侵攻の1940年5月24日から6月4日の間に起こった戦闘です。追い詰められた英仏軍は、この戦闘でドイツ軍の攻勢を防ぎながら、輸送船の他に小型艇、駆逐艦、民間船などすべてを動員して、イギリス本国(グレートブリテン島)に向けて40万人の将兵を脱出させる作戦(ダイナモ作戦)を実行し成功しました。

米国が今の時期にそのようなことをすればどうなるでしょうか。先程、シリア情勢については、楽観できないと述べました。シリアのアサド大統領は化学兵器を自国民に使ったかもしれないと言われていますが、そのアサド政権の背後に誰がいるのかと言うと、強権的なロシアのプーチン政権です。

これだけならまだしも、ロシアのプーチン政権と手を結んでいるのが、核開発の疑惑がある隣国のイランです。イランはシーア派の大国です。

このロシアとイランは、シリア情勢で手を結んでいます。よく「テヘラン・モスクワ枢軸」と言われます。いま中露も接近していますから、これに加えて「テヘラン・モスクワ・北京枢軸」というものがうっすらと見えてすらいます。北朝鮮の影すらあります。このような状況のなかで、明らかにシリアでのプーチン大統領とイランの勢力が強まってしまいます。

ロシアとイランとは、トランプ政権は激しく対立しています。にもかかわらず、米軍がイラクから撤退すれば、発言力が無くなってしまうというようなことが起こり得ます。アメリカファースト、トランプ政権のダンケルク撤退作戦が世界の政局に大きくインパクトを与えるのは、誰が考えてもわかります。

ダンケルク撤退の当時は、陸上の大国だったドイツがどんどん台頭して来るなかで、海洋国家英国が海の外へ引くという作戦だでした。同じように、現在陸上の軍事大国(経済大国ではない)であるロシアがアサド政権と組んで、日米英などの海洋国家と2つに分かれつつあるということなのかもしれません。

現在のように米中、米露の衝突と言われる中で、イラクから米国が実力部隊を退くのが良いのかどうかは判断に苦しむところです。日本では「戦争が起こらなければ良い」と言う論調が大きい思います。

米国では、その世論がさらに強いので、トランプ大統領は、撤兵を単純良いことだと思ってしまったのかもしれません。しかしその結果はやがて日本をはじめとする他国にも押し寄せて来る可能性は否定できません。世界はこれを心配していると思います。

マティス氏は、これをなんとかトランプ大統領に理解してもらおうと思ったのでしょうが、それは叶わなかったのです。

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2018年12月9日日曜日

機密戦争勃発! 米英が中国駆逐へ、ファーウェイ&ZTEの5G覇権“徹底排除” 識者「中国通信分野の『終わりの始まり』」―【私の論評】現代のコミンテルン、中国の5G世界制覇を阻止せよ(゚д゚)!

機密戦争勃発! 米英が中国駆逐へ、ファーウェイ&ZTEの5G覇権“徹底排除” 識者「中国通信分野の『終わりの始まり』」

トランプ氏(右)と習近平氏の戦いが本格化してきた   写真はブログ管理人挿入

 ドナルド・トランプ米政権の主導で、世界各国で中国IT企業を締め出す動きが加速化している。背後には、中国製通信機器などを通じて、政府や軍事、企業の機密情報が盗まれ、共産党独裁国家が「軍事・ハイテク分野での覇権」を握ることを阻止する、強い決意がありそうだ。米国で今年8月に成立した「国防権限法」と、機密情報を共有する「ファイブ・アイズ」の存在とは。中国排除の動きは民間企業にも広がりつつある。

 カナダ西部バンクーバーの裁判所は7日、中国通信機器大手「華為技術(ファーウェイ)」の創業者の娘で、同社副会長兼最高財務責任者(CFO)の孟晩舟容疑者の保釈の可否をめぐる審理を開いた。

孟晩舟容疑者

 カナダ検察当局は、孟容疑者が2009~14年に子会社のスカイコムを利用して、米国がイランに科している制裁を逃れた疑いがあると指摘。有罪なら禁錮30年以上の刑が科される可能性があるとした。

 今回の逮捕劇が、単なる「イラン制裁逃れ」で終わらないことは、世界中が認識している。

 ファーウェイの創業者は人民解放軍出身の任正非・最高経営責任者(CEO)であり、同社は「完全否定」しているものの、中国政府や情報当局との密接な関係が指摘されてきたからだ。

任正非

 中国の習近平国家主席は、国家戦略として「中国製造2025」を掲げている。米国の最先端のハイテク技術などを吸収して、25年までに中国を製造強国にするもので、トランプ政権は「中国の軍事的覇権に拍車をかける」と警戒している。

 米国が、この「ハイテク技術吸収の先兵」と受け止めているのが、ファーウェイであり、同じく中国通信機器大手「中興通訊(ZTE)」なのだ。中国が、第5世代(5G)移動通信システムで世界の主導権を握ろうとすることを断固阻止する構えといえる。

 トランプ大統領は今年8月、「近代史において、最も重要な投資だ」と語り、国防権限法案に署名し、同法が成立した。この法律は、ファーウェイやZTEなど、中国IT5社を「米国の安全保障上の脅威」と名指しし、米政府機関や米政府と取引のある企業・団体に対し、5社の製品を使うことを禁止している。

 まさに、「米中新冷戦」の一環であり、孟容疑者の逮捕は、米国による「事実上の宣戦布告」と受け止められなくもない。

 この「中国ハイテク排除」の動きは、米国の同盟国中心に広がっている。特に注目されるのが、米英両国を中心に情報機関の相互協定を結び、最高の機密情報を共有する「ファイブ・アイズ」(米国、英国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド)の存在と動きだ。

 英秘密情報部(SIS、通称MI6)のアレックス・ヤンガー長官は3日、孟容疑者の逮捕が公表される前に行った講演で、「われわれの仲間が行っているように、中国政府と密接な関係にあるファーウェイの次世代高速通信システム(=5G)に依存すれば、情報網を危機にさらす危険がある。とりわけ軍事関連の通信を傍受されれば、戦略が筒抜けとなって安全保障上の脅威となる」と述べていた。

アレックス・ヤンガー長官

 米国とオーストラリア、ニュージーランドでは、すでにファーウェイ排除の動きが進んでいる。英国の通信大手グループも、5Gについてファーウェイ製品排除の方針を表明した。孟容疑者はカナダで逮捕された。

 日本は2013年に特定秘密保護法が成立したことで、米国などから防衛やスパイ、テロなど、安全保障に関わる機密情報が入るようになってきた。日本政府も7日までに、ファーウェイやZTEの排除方針を決めた。将来の「ファイブ・アイズ+1」もありそうだ。

 中国情報に精通するノンフィクション作家の河添恵子氏は「中国共産党は、ファーウェイとZTEを競争させながら、世界の覇権を握ろうとしている。これに対し、ファイブ・アイズを中心に『中国が、世界の移動通信システムの拠点を握ることを絶対に許さない』という強い方針がある。5Gの覇権を握られたら、政府の機能がダウンするぐらいのことをやられる可能性もある。いまや、『自由主義陣営vs中国共産党』という構図になっている。自由主義陣営は本気になり、不退転の決意で動いているだろう。中国の通信分野での『終わりの始まり』が見えてきたのではないか」と語っている。

【私の論評】現代のコミンテルン、中国の5G世界制覇を阻止せよ(゚д゚)!

すでにアメリカでは、8月の国防権限法の成立によって、米政府機関および米政府と取引がある企業でのファーウェイとZTEの機器の使用が禁じられるようになりした。ファーウェイの携帯にはバックドアが組み込まれ、個人情報が抜かれていることが明らかとなったからです。

トランプ大統領の安全保障チームは、今年1月に3年以内に政府による5Gのネットワークの構築を検討するとしていました。中国の諜報活動に対抗するために、AT &T、ベライゾン、Tモバイルなどのモバイル通信会社の仕事を引き継ぐ形で行うといいます。

危惧されるインフラへのサイバー攻撃

日本政府は、日本の通信インフラに与える影響を考慮して、ファーウェイやZTEを規制すべきだが、対応は後手に回っています。

一方、アメリカは、議会を中心に着実な手を打ってきました。

最終的には外国投資委員会(CFIUS)によって阻止された3Comに対する買収案件に見られるような、ファーウェイの技術獲得を疑問視した米議員は、徹底的な調査を開始。6年前の2012年、米下院情報委員会は、その調査に基づく詳細なレポートを発表しています。

このレポートにおいて、とりわけ危惧されているのが、送電網など重要な社会基盤(インフラ)の通信を握られることです。

海外での事業収益が全体の6割を占めるファーウェイは、アメリカでの国防権限法の成立直前に、ロビー活動を展開。アメリカからファーウェイを排除すれば価格競争の制限となるため、消費者が不利になり、かつ、イノベーションも妨げると主張しました。

ところが、「安ければいいだろう」ということで、送電網にファーウェイの機器が使用されている場合、電気、ガス、金融機関、水道や鉄道など、サイバー攻撃を簡単に仕掛けられる危険と隣り合わせになります。9月に北海道で起きた地震の際の「停電パニック」を、中国は簡単に引き起こせるということです。

アメリカが国防権限法に基づいて成立させた対米投資強化法において、重要なインフラへの投資も規制の対象とするなど、商業の論理より、安全保障を優先したのはこのためです。

国防権限法成立以前の2017年12月、米上下両院の情報委員会のメンバーである議員がFCC(米連邦通信委員会)を通じ、AT&T社がファーウェイの携帯を顧客に提供することを断念させています。私企業の事業計画を、国民の安全保障を理由として変更させた事例として参考になります。

監視カメラ産業に群がる投資家たち

また、次世代の大容量通信を可能にする5Gが、監視カメラの顔認証技術などと結びつけば、監視社会がより一層強化されます。

現在のところ、中国政府は2020年までに6億2600万台の監視カメラを設置する予定です。

監視カメラの技術で有名なのが、中国のハイクビジョンとダーファ・テクノロジー。この2社で世界の監視カメラ市場のシェアの4割を超えます。

ハイクビジョンは、中国の治安当局に対し、「少数民族に属するかどうか」を判定する技術があるとして自社の製品を売り込んできました。新疆ウイグル自治区のウルムチで、3万台の監視カメラを設置する計画を受注するなどし、昨年だけで売上を30%伸ばしています。

ハイクビジョンに関しては、株式の4割を国有の軍需企業のCETCが保有するなど、中国共産党と密接な関係がある企業。2018年4月に米インテロス・ソルーションズが公表したレポートでも、ファーウェイやレノボとともにアメリカが警戒すべき企業の一つとして挙げられています。

しかし金融業界は、倫理的なリスクのある中国のテクノロジー企業を「買い」だと推奨し、間接的に一般の投資家たちを中国の人権弾圧に加担させています。投資家たちも知ってか知らずか、「人種主義」の片棒を担いでしまっているのです。

日本に目を転じれば、ソフトバンクがファーウェイと5Gの実証実験を行い、中国の5Gの規格化に手を貸しています。だがファーウェイが次世代通信規格の開発に成功すれば、ウイグル人等の弾圧、中国人の総監視社会の完成を間接的に支援することになります。

監視カメラと5Gがつくる全世界監視

それだけでないです。中国は、スマートシティを国内で構築し、そのネットワークを巨大経済圏構想「一帯一路」の沿線地域である東南アジアなどに輸出します。つまり中国の5G戦略は、中国の監視モデル体制の世界への輸出でもあるのです。

これは現代版コミンテルンともいえます。1919年にレーニンが発足させた共産党の国際組織であるコミンテルンは、全世界の共産主義化と全世界同時革命をその使命としました。実際大東亜戦争中には、米国の中枢、そうして日本の中枢にもソ連のスパイであるコミンテルンが深く浸透していて、日米戦争のきっかけを工作しました。現代は、それが5Gや監視カメラ、AIの技術によって可能となるのです。

第5回コミンテルン(共産主義インターナショナル)のプラカード。
1924年6月17日-7月8日 モスクワで行われた。

中国のスパイ進出の先進国ともなったオーストラリアでは、ファーウェイに対し、次世代通信規格である5Gを使った同国の無線ネットワークへの参入を禁止しました。第4世代(4G)では、5割超の通信設備にファーウェイを採用しているのにもかかわらず、です。

日本は中国の5G覇権を迎え撃つ戦略を持て

イギリス、オーストラリア、さらにロシアでも規制に向けて動き始めている。

10月12日付のロイター紙のスクープによると、中国の海外投資や国内工作に対抗するために、年初よりアングロサクソンの国際諜報同盟「ファイブ・アイズ」に日本とドイツとを加え、情報が共有されているといいます。

アングロサクソン圏では、早くから対中包囲網の構築の必要性が共有され、そこに日本もドイツも加わってほしいという要請があったと見て良いでしょう。

ところが、日本にはスパイ防止法がないために秘密保全の措置がまだ不十分です。一刻も早くスパイ防止法を制定する必要があります。

さらに中国のサイバー攻撃から国民を守るためにも、中国製の監視カメラや次世代通信規格を日本の産業から排除すべきです。

先にも述べたように米通信大手AT&TはFCCの警告を受け、ファーウェイの携帯を顧客に提供するのを断念しています。日本も、「国民の安全」を守るために、政府が私企業の事業計画を変更させることも視野に入れるべきです。

日本は、来年からポスト5G の研究開発に乗り出すといいます。欧米諸国と協調しつつ、6Gで中国を迎え撃つ戦略が急務となります。

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2017年11月15日水曜日

トランプ氏、正恩氏に亡命促す? 異例ツイートで“真意”注目、識者「行き着く先はロシアのプーチン大統領」―【私の論評】金ファミリーの亡命も選択肢の一つ(゚д゚)!

トランプ氏、正恩氏に亡命促す? 異例ツイートで“真意”注目、識者「行き着く先はロシアのプーチン大統領」

トランプ氏と正恩氏は水面下で「ディール」を続けているのか? 写真はブログ管理人挿入以下同じ
 ドナルド・トランプ米大統領の“真意”が注目されている。国際社会の警告を無視して「核・ミサイル開発」を強行する北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長に、原子力空母3隻を集結させる「最大限の圧力」をかける一方で、ツイッターに「友人になれるよう懸命に努力する」と投稿したのだ。米朝による水面下接触のサインなのか、軍事行動前に外交努力をした実績づくりなのか…。関係者の中には、正恩氏の「亡命」を推察する声もあり、具体的国名まで指摘されている。

トランプ大統領のツイート

 日米中露など18カ国が参加する東アジアサミット(EAS)を含む、東南アジア諸国連合(ASEAN)関連首脳会議が14日、フィリピン・マニラで開かれた。「核・ミサイル開発」で暴走する北朝鮮をめぐる情勢や、南シナ海問題への対処が主な議題となる。

 ASEAN首脳会議の議長声明案では、北朝鮮の「核・ミサイル開発」について「挑発的で脅迫的な行動」と批判。北朝鮮に一連の行動をやめるよう求め、「完全かつ検証可能で不可逆的な朝鮮半島の非核化」への支持を再確認している。

 議長声明では、北朝鮮の行動について「重大な懸念」を表明する見通し。

 軍事的圧力も強まっている。

 世界最強の米軍が誇る原子力空母3隻が11日から、日本海で合同軍事演習を実施した。トランプ氏の「北朝鮮の核・ミサイル保有は許さない」という強い決意の表れに他ならない。

 こうした朝鮮半島の緊張状態と、トランプ氏が12日に投稿したツイッターの内容は相反している。これまで正恩氏を「リトル・ロケットマン」と嘲笑し、強く非難してきたが突然、友人関係を求めたのだ。

 北朝鮮にも変化が見られる。9月15日に北海道上空を通過した弾道ミサイル発射以降、軍事的威嚇を行っていない。

 日米情報当局関係者は「北朝鮮の『核・ミサイル』実験などの中止は、正恩氏が『いま動いたら殺される』『軍事行動の大義にされる』と確信したからだろう。米国としては、北朝鮮が米本土を狙う核ミサイルを持つことは認められない。甚大な被害が出かねない第2次朝鮮戦争も、できれば避けたい」と話した。

 こうしたなか、注目されるのが、米国と中国が8月、「事実上の往復書簡」で交わしたとされる“暗黙の了解”だ。

 往復書簡とは、中国共産党機関紙・人民日報系の「環球時報」の社説と、米紙「ウォールストリート・ジャーナル」に、レックス・ティラーソン国務長官とジェームズ・マティス国防長官の連名寄稿を指したもの。

 前出の日米情報当局関係者は「米中は『北朝鮮という国家は(緩衝地帯として)残す』『正恩氏は排除し、核・ミサイルを放棄させる』『米中戦争にはさせない』という暗黙の了解をしたと受け止められている。トランプ氏は中国訪問(8~10日)で、これを確認したのではないか」と語る。

 北朝鮮を残したままでの「正恩氏の排除」となれば、「暗殺」か「亡命」が考えられる。この延長線上で、トランプ氏の異例のツイートが注目されるのだ。

 日米情報当局関係者は「外交の駆け引きは字面だけで判断できない。ツイートの背景としては、(1)米朝の水面下接触が進んでいる(2)軍事行動前に『外交努力をしたが、北朝鮮が蹴った』という実績づくりのため(3)正恩氏に亡命を促すメッセージ-などが考えられる」と分析する。

 現実として、正恩氏が亡命するような事態が起こり得るのか。

 国際政治学者の藤井厳喜氏は「金王朝が滅びることになれば亡命せざるを得なくなるだろう。例えば、米軍機に北朝鮮がミサイルを撃ち、米朝の緊張が高まり、中国人民解放軍が北朝鮮に入ってくるような大混乱となれば、正恩氏は国内を統制できなくなるかもしれない。中国共産党の息のかかった連中がクーデターをやる可能性もある。北朝鮮が体制崩壊となった場合、正恩氏が一番頼りにしているのは、ロシアのプーチン大統領だ。正恩氏の亡命先はロシアしかないだろう」と語る。

 朝鮮半島情勢は、どう展開していくのか。

【私の論評】金ファミリーの亡命も選択肢の一つ(゚д゚)!

いまの北朝鮮は、言ってみれば「プーチンランド」と化しています。ディズニーランドに行けばミッキーマウスに会えますが、北朝鮮に行けば、随所にロシアの「痕跡」が見られます。もはや金正恩政権は、ロシアの傀儡政権と言っても過言ではありません。

北朝鮮のロシア人ツアー客。ロシアでは7月1日から、「オールインクルーシブ」プラン
での5日間の観光ツアーで北朝鮮を訪れることができるようになった
解放記念日(8月15日)の『労働新聞』に、金正恩委員長がプーチン大統領を称えた書簡が大きく掲載されていました。

ロシアの有力紙『モスコフスキー・コムソモーレツ』(9月7日付)には、17kmあるロ朝国境近くに位置するハサン村のルポが掲載されており、村の事務所には、金日成・金正日・プーチンの3人の写真が、並んで掲げられていたのです。

これは、平壌最大の目抜き通り「栄光通り」が、「スターリン大通り」と呼ばれていた時代を髣髴させます。そもそもソ連極東軍88旅団所属の金成柱を、ソ連が「金日成将軍」に仕立て上げて平壌に連れてきたのが、北朝鮮の始まりでした。

現在の北朝鮮は、それから70年近く経て、またもとに戻りつつあるようです。ロシアの最新の世論調査によれば、米朝対立の原因が北朝鮮にあるという回答は、わずか12%。ロシアは北朝鮮の味方です。

9月3日の北朝鮮による水爆実験にも、プーチン政権の影を感じられます。なぜなら5日前の8月29日に、ロシア政府がハサン村の住人約1500人に突然、避難命令を出していたのです。

羅先とウラジオストクを結ぶ北朝鮮の貨客船『万景峰号』も、8月24日に突然、運航中止となりました。

日本のメディアは、「北朝鮮がウラジオストクの港湾使用料を未払いだったため、ロシア側が停泊を拒否した」と報じていましたが、これはとんでもない誤解です。あれも水爆実験の被害を避けようとした措置であるとみられています。

ちなみに実験場所からわずか100kmしか離れていない中国には、事前通告さえなかったそうです。だからこそ、あの水爆実験は、北朝鮮とロシアによる「合作」であるとみなすべきなのです。

そもそも、広島型原爆の10倍規模の威力もある高度な水爆技術を、北朝鮮がこれほど短期間で独自に持てるはずはないです。

カギを握るのは、ウラジオストクに本社がある「ロシア極東山岳建設」という会社です。元はソ連の国土交通省の一組織で、プーチンが大統領になって平壌を訪問した2000年に民営化された「プーチン系」企業です。

ウラジオストックのメインストリート・スヴェトランスカヤ通り
この会社が、北朝鮮のインフラ整備にフル稼働しています。中でも、最も得意とするのが山岳地帯のトンネル建設であり、豊渓里の核実験場の工事を請け負ったのではないかとされています。

これは、坑道を800mも掘ったり、人間の大腸のような複雑な構造にしたりして、放射能漏れを防いでいます。とても北朝鮮の技術とは思えません。

このロシア極東山岳建設は、坑道建設ばかりか、羅先-ハサン間54kmのロ朝間の鉄道建設も請け負っています。

この鉄路建設は、先代の金正日総書記が、'01年から'02年にかけて2年連続でロシアを訪問する中で決めたものです。

その後、建設が延期され、'08年に、ロシアが羅津港を49年間、租借することと引き換えに着工。'13年9月に、羅津港で開通式が行われました。

ロシア極東沿海地方のハサンと北朝鮮北東部・羅先経済特区の羅津港を結ぶ
鉄道区間の改修に伴って実施された列車の試験運行。(2011年10月12日)
開通式には、ロシア鉄道のヤクーニン社長も、モスクワから駆け付けました。その際、一つ不可解なことがありました。計画から着工まで7年もかかったのは、北朝鮮側が建設費用の負担を渋ったからでした。かつて100億ドルも北朝鮮に債務不履行されたロシアが、二の足を踏んだようです。

ところが、着工から竣工までも、丸5年もかかっているのです。もともと植民地時代に日本が敷いた鉄路があり、しかもわずか54kmにもかかわらず、この工事期間は、あまりに長いです。

ロシア極東山岳建設の最も得意な分野は、地下トンネルの建設です。おそらくこの鉄路の地下に、有事の際、金正恩一族が亡命するためのトンネルを建設したのではないかと推察されます。

加えて、両国を結ぶ鉄道建設という名目なので、アメリカのスパイ衛星も警戒心を抱かないです。この鉄路によってロシアとの貿易が急増すると同時に、トップの身の安全も図れるのです。北朝鮮にとっては、まさに一石二鳥です。

これも金正日総書記時代の話ですが、ある高位の亡命者が有事の際の金ファミリーの亡命ルートを告白したということがありました。

その亡命者によれば、平壌の金正日官邸の地下から、黄海の南浦まで、60km近く秘密の地下道が繋がっているそうです。南浦からは空路か海路で中国に亡命すると聞きました。

しかし、いまや習近平政権は、犬猿の仲の金正恩ファミリーを受け入れるはずもないので、このルートは使えません。それでロシアルートを作ったのでしょう。

アメリカから攻撃されて、金ファミリーが、羅先から地下トンネルを伝ってハサンまで逃げたとします。そこから一路、軍港があるウラジオストクまで行くに違いないです。

しかし極東にいたのでは、いつアメリカ軍に襲われるか気が気でないはずです。ロシアとしても、独裁者を匿っていると国際社会から非難を浴びることになります。

実は中国政府も、かつて金正日ファミリーの亡命について、密かに内部で検討したことがありました。'02年にブッシュJr.大統領が、北朝鮮を「悪の枢軸」と非難して、米朝関係が悪化した頃です。

その時の結論は、「ファン・ジャンヨプ方式にする」というものでした。北朝鮮の序列26位だったファン・ジャンヨプ書記が、'97年に北京の韓国領事館に亡命を申請した時、中国政府は、3ヵ月以内に出国することと、米韓以外の第三国に向かうことを条件に、身の安全を保障しました。

同様に金正日ファミリーに対しても「3ヵ月以内の滞在」しか認めないようです。ロシアもそのあたりは熟考したはずです。

それでロシアの結論は、金正恩ファミリーを、ウラジオストクから北極海に面したムルマンスク軍港まで軍用機で運び、そこから約1000km離れたスヴァールバル諸島に、亡命先を用意することです。

この任務を担うロシア保安庁(旧KGB)の特殊部隊RSBが、すでに金ファミリーのボディガードを務めています。

スヴァールバル諸島とは、北極海に浮かぶ群島です。第一次世界大戦の頃、ロシア、ノルウェーなど、多くの国が領有権を争ったため、大戦終結後のパリ講和会議で、スヴァールバル諸島を、永久非武装地帯としました。以下にその位置を地図で示します。


このスヴァールバル条約には、ロシアやアメリカなど40ヵ国以上が加盟していますが、島内にはロシア人居住地区があり、ロシアの法律が適用されています。ここには、世界でもっとも北端に位置するレーニン像があります。

スヴァールバル諸島の面積は、ちょうど九州と四国を足し上げたくらいの大きさです。夏は4〜6度くらいまで気温が上がりますが、冬は-12〜-16度にもなる極寒の島です。

大部分の島が永久凍土に閉ざされ、人が住める島は1つのみ。植物はほとんど生えていません。

「スヴァールバル条約」を批准している国の国民であれば、スヴァールバル諸島に「ビザなし」で住め、しかも「外国人の戸籍のまま商売」ができます。ちなみに、日本もこの条約を批准しています。

2012年時点で、2642人が島で暮らしています。大部分がノルウェー人ですが外国人も暮らしていて、439人のロシア人、10人のポーランド人、その他タイ、デンマーク、スウェーデンの人が暮らしています。

この条約は、今から100年近く前の条約ですが、1920年代から'30年代にかけて各国が加盟しました。ところが昨年になって突然、このスヴァールバル条約に、ロシアの後押しを受けて、北極海になど、何の縁もない北朝鮮が加盟したのです。これは朝鮮人労働者の受け入れの他は、金ファミリーの亡命目的以外には考えにくいです。

しかも現在、島内のロシア人居住地区で、大邸宅の建設が始まっていることまで分かっています。

スヴァールバルはスピッツベルゲン島という名前でも知られている。
今でもロシア人が生活している唯一のバレンツブルクという集落
これを知れば、なぜ金正恩委員長があそこまで強気でいられるのか、その理由が理解できます。いざとなればロシアが逃がしてくれるという「保険」があるのです。

プーチン政権は、核の技術もミサイルの技術も提供したあげく、亡命先まで用意したのです。金正恩にとってこれほど頼もしい庇護者はいません。

しかもプーチン政権には、シリアがあれほど激烈な内戦のさなかにあっても、6年半にわたってアサド政権を守り続けてきたという実績があります。

プーチン政権がそこまで金正恩政権に肩入れする理由としては、やはり極東におけるアメリカと中国という両大国への剥き出しの牽制だと考えられます。

米中露「3大国」とは言うものの、ロシアの経済力は米中に較べて圧倒的に脆弱です。ロシアの現在のGDPは日本の1/5程度です。ロシアの人口は日本よりわずかに多い、1億4千万人、そうして極東には600万人くらいしかロシア人が住んでおらず、強い危機意識を抱いています。だから「東アジアのシリア」を作りたいのです。

もう一つは、天然ガスのパイプラインを、韓国まで引きたいという野望があります。9月6日、7日にウラジオストクで開かれた東方経済フォーラムに、プーチン大統領と韓国の文在寅大統領が揃って参加し、この話を詰めています。気をよくした文在寅大統領は、北朝鮮に800万ドルの人道支援を表明しました。

これも、人道支援を大義名分にしてシリアを支配したプーチン大統領の入れ知恵でしょう。

プーチンロシア大統領
ロシアから韓国に天然ガスのパイプラインを引く計画は、'08年に李明博大統領がロシアを訪問した際に盛り上がった話です。ロシアのハバロフスク、ハサンから北朝鮮の元山を経て、韓国の仁川まで約2000kmを結ぶ壮大な計画です。

北朝鮮にはパイプラインの通行料として年間1億ドルを支払う予定でしたが、韓国の命脈を北朝鮮に握られるという懸念からご破算になりました。


2011年10月3日のボイスオブロシアによれば、ロシアのウラジーミル・プーチン首相は、ロシアの半国営の天然ガス:PNG独占企業であるガスプロム Gazpromに対して、日本、韓国と中国などとの協力発展についての拡大的な提案を準備するよう指示したとあります。

つまり、プーチンの頭の中には、日本、韓国、中国を巻き込んだ「国家成長プログラム」が出来上がったと言う事でした。

東北の大震災直後、当時民主党政権だった、日本政府は将来のエネルギー不足を見越してロシアの天然ガス取得に対して積極策に出ることをロシアに伝え、ロシアはこれを受け、一連の開発を前倒しにし、同時に韓国、中国への供給も早める対応を取りました。

これには、当時次期大統領を着々と狙う、プーチン首相の思惑が働いたとみるべきでしょう。恐らく彼は、日本の大震災を好機と取ったはずです。

すでに、サハリン州の天然ガス田から日本海側の港湾都市ウラジオストクを結ぶ全長約1820キロのパイプラインの完成式典が2011年9月8日ウラジオストクVladivostokで行われ、プーチン氏も参加しました。

次はこれを北朝鮮経由で韓国に送り込む事(2017年稼動予定で、その際には経由する北朝鮮内700kmに1億ドルの収入が見込まれる)の実現で、2011年8月、北朝鮮の金正日(キム・ジョンイル)総書記が9年ぶりに訪露し、協議の場でロシアは、北朝鮮の協力に対し食糧援助を約束し、これをロシアは2011年9月末に完了しました。

全ては着々と進行し、全てが完成したときに、ロシアは日中韓の経済を握るとの目論見だったのでしょう。しかし、この計画は日本では、民主党政権の崩壊とともに潰え、韓国でも、命脈を北朝鮮に握られるという懸念からご破算となりました。

その計画を、9年ぶりにロシアと韓国、北朝鮮で復活させようというわけです。そんな「密談」が進んでいるところに、安倍首相が出かけて行って、プーチン大統領に「北朝鮮への圧力」を説いたのです。

これを考えると、文在寅の最近の不可解な動きも理解できます。米国は朝鮮半島周辺海域に、原子力空母3隻を集め、11~14日に米日韓3カ国の合同軍事演習を行い、北朝鮮に圧力をかける予定でした。ところが、韓国が突然『日本とやるのは嫌だ』と言い出し、米日、米韓とバラバラになったのです。北朝鮮やロシアは大喜びでしょう。

文在寅は、中国に踊らされただけではなく、裏ではロシアにも踊らされたというわけです。最近、米国のWSJ紙が韓国に対して痛烈な批判を行いましたが、背景にはこのようなこともあったのです。

文在寅とプーチン
さて、いざとなれば、ロシアが金ファミリーを亡命させるという選択肢があるということは、我々も認識しておくべきです。

これに関しては、当然のことながら、トランプ大統領、安倍総理、習近平も知っていることでしょう。その上で、ポスト北朝鮮危機後の世界をなるべく自分たちに有利になるように立ち回っているというのが、実体でしょう。

ブログ冒頭の記事にある、トランプ大統領のツイートは、やはり金ファミリーの亡命を示唆したものであると考えられます。トランプ大統領としては、金ファミリーが亡命し、北朝鮮の体制が変わることを望んているのだと思います。そうなれば、金ファミリーの命は、助けるという意思表示であると考えられます。

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2017年8月22日火曜日

【〝キレる〟高齢者】暴行摘発10年で4倍 つえで殴る、小1男児首絞め…… 識者「人は孤立すると攻撃的になるとの実験結果もある」―【私の論評】背後にあるメディアの大問題(゚д゚)!



傷害や暴行などでの高齢者(65歳以上)の摘発人数が、人口増加を上回るペースで急増していることが20日、国の統計から分かった。特に暴行の摘発は10年前から4倍超に激増。些細(ささい)なトラブルから他人に手を出すケースが多発し、火炎瓶や爆弾などで無差別に他人を傷つける重大事件も起きている。専門家は、“キレる”高齢者が増えている背景に、社会の変化に伴う高齢者の「孤立」があると指摘する。

昨年3月、兵庫県加古川市の公園で、たばこのポイ捨てをとがめられた70代の男が「カッとした」として当時小学1年の男児の首を絞め、暴行容疑で逮捕された。京都府舞鶴市でも同年10月、電話を借りるため市民センターを訪れた70代の男が申し出を断られて激高、つえで男性職員を殴る暴行事件があった。

さらに同年8月に東京都杉並区の夏祭り会場に火炎瓶が投げ込まれた事件では、当時1歳の子供を含む男女16人が負傷。犯行後に自殺した当時68歳の男は、以前から知人に「サンバの音がうるさい」などと不満を漏らしていた。2カ月後の10月にも、宇都宮市の公園で元自衛官の男=当時(72)=が爆発物で自殺し、巻き込まれた無関係の3人が重軽傷を負った。

同年8月に東京都杉並区の夏祭り会場に火炎瓶が投げ込まれた事件
 攻撃的な高齢者の増加傾向は統計にも表れている。

28年版犯罪白書によると、刑法犯全体の認知件数が減少傾向にある一方、高齢者の刑法犯の摘発人数は高水準で推移。特に傷害や暴行などの粗暴犯は右肩上がりで、27年の摘発人数は傷害1715人、暴行3808人と10年前からそれぞれ約1・6倍、約4・3倍に増加した。これは同期間の高齢者の人口増加の割合(約1・3倍)を上回る。

新潟青陵大大学院の碓井真史教授(社会心理学)は「加齢によるパーソナリティーの変化は大きく分けて、思慮深く優しくなる『円熟化』と、感情の抑制が利かなくなる『先鋭化』の2つがある。先鋭化では、感情を制御できずに些細なトラブルが暴力につながる」と説明する。

高齢者が先鋭化する背景には、核家族化や雇用の流動化、年長者を慕い敬う伝統の消失など社会構造の変化があるとされる。激高などの行動は孤立した状況で起こりやすく、女性に比べて変化への順応が苦手な男性で顕著になるという。

碓井教授は「人は孤立すると攻撃的になるとの実験結果もある。高齢者より若い世代にも同傾向が出始めており、日本の中高年は危機的状況だ」と指摘した。

【私の論評】背後にあるメディアの大問題(゚д゚)!

高齢者の感情の抑制が利かなくなる『先鋭化』がなぜおこるのかということに関して、上の記事では、社会心理学の専門家が「人は孤立すると攻撃的になるとの実験結果もある」とあります。確かに、そういう側面もあるのでしょうが、私はそれだけではないと思います。

高齢者と聴いて、まず頭に浮かぶのが、高齢者の情報源のほとんどが、テレビや新聞であるということが、若い世代との顕著な差であるということです。

私自身は、近所の65歳以上の高齢者とも付き合いがあり、これは本当に顕著に感じるところです。最近の高齢者は携帯電話を持っている人も多いのですが、まだまだガラケーが多いですし、仮にスマホを持っていたにしても、主に使用するのはメールと電話であり、スマホでネットを参照したり動画を見たりする人は少ないです。

パソコンを持っている人もいるにはいるのですが、それで動画を見たり、ニュースを検索する人は滅多にいません。

この状況については、ガベージニュースの以下の記事をご覧いただくと良くご理解いただけるものと思います。
これは気になる、高齢者の日常生活上の情報源とは!?(最新)
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下にこの記事からグラフを引用します。


他の多数のメディア関連の調査の結果同様、高齢者における常用情報取得源のトップはテレビ、次いで新聞。この2メディアの絶対優位性は疑う余地もないです。

そうして、この記事は以下のように締めくくっています。
先行する記事では「普段の楽しみ」としてテレビや新聞を挙げる高齢者が多いとの結果を確認したが、今件では普段の情報源として両者が圧倒的な支持を集めていることがつかみ取れる。しかもテレビに限れば、どの年齢階層でも変わるところが無い。高齢層がテレビ好きで大きな影響を受けるのも、納得がいくというものだ。 
なお今調査は5年毎に実施されているため、次の調査は2019年に行われる。その頃には高齢者が使える情報源はどのような変化を示し、そして高齢者は何を選択しているのか。特にインターネット・携帯電話の利用状況がどの程度変化するのか、調査結果が楽しみではある。
ガベージニュースには、以下のような記事もありました。
テレビはシニア、ネットは若者…主要メディアの利用時間をグラフ化してみる(最新)
この記事からも以下にグラフを引用します。


このグラフが、10代と60代ではテレビの生放送の視聴時間が2.9倍も違うことがわかります。無論60代のほうが2.9倍もテレビを視聴しているということです。
2016年の時点では10代と20代でインターネットの利用時間がテレビ(生放送)を抜いている。つまり「20代以下においてはテレビ<<ネットの時代」である。多分にスマートフォンの普及浸透によるところが大きく、この傾向は今後も続くものと考えられる(今件は各年齢階層毎の平均値であり、該当メディアを利用していない=利用時間ゼロの人も含めているため、普及率が高いほど平均値も底上げされる)。 
スマートフォンの普及がさらに進めば、将来は30代、そして40代でもテレビの利用時間をインターネットが抜くようになるかもしれない。
ここで、テレビの視聴率、新聞の購読率の高い視聴者の立場にたって見て下さい。 テレビ・新聞といえば、最近でいうと、いわゆる「もり・かけ」の偏向報道が顕著でした。

このブログにも以前掲載したことがあるのですが、「もり・かけ問題」に関しては、ネットなどの情報源があれば、いずれの問題も最初から全く安倍総理やそのご夫人には問題はなく、これで追求する野党やマスコミは、愚かという以外に何もありません。結局その目的は倒閣運動以外の何ものでもないということです。

実際、その後テレビや新聞のネガティブキャンペーンがある程度功を奏して自民党政権の支持率は落ちましたが、かといってこの問題で安倍総理が辞任するとか、安倍政権が崩壊するとか、しそうとであるなどのことも全くありません。

これをテレビ・新聞を主な情報源としている高齢者にとっては、「悪の安倍」が全く何のおとがめも受けず、結局世の中は何も変わらなかったと見ているのではないでしょうか。

実際、私の近所の高齢者らも、最初はテレビにかじりついて「もり・かけ」の顛末をみていたようですが、それも最初の一月くらいであり、それをすぎると視聴するのはやめたようです。

その理由を聴いていみると、ほとんどの人が「飽きた」というものでした。確かに、なにやらマスコミや野党はいかにも何かおこりそうな雰囲気でいろいろ御託を並べて追求したのですが、結局何も変えられませんでした。

高齢者の側からすると、野党やマスコミがいくら大騒ぎしても、世の中は変えられないんだという諦めムードになり、どうせ何も変わらないなのだから、見ても無駄と思い見なくなったのだと思います。

そうして、このようなことは何も「もり・かけ」問題ばかりではありません。2015年の集団的自衛権を含む安保法制の審議のときにも、これらを戦争法案として、野党は国会で乱闘騒ぎを起こし、国会前では日々デモ隊が反対デモを挙行しました。テレビも新聞も連日連夜これを報道しました。

このときも高齢者は「悪の安倍」が「戦争法案」を通過させようとしている、これが通過すれば戦争になると息巻いてテレビを見ていたことでしょう。

しかし、法案は通過し、この時は安倍政権の支持率が落ちることもありませんでした。これでは、高齢者はどうせ世の中なんて、みんなでさわいでも何も変わらないのだという考えを深めたことでしょう。

さらに、高齢者のほとんどは、本当は増税してもらいたくはないが、増税しなければ日本は大変なことになるから、増税せざるを得ないと考えている人が多いです。そうして、増税すればどのようなことになるかは、何となくは知っているようです。それでも、増税しなければならないと思い込んだ人はどうなるでしょう。

さらに直近では、北朝鮮がグァムにむけてミサイルを打つという考えを表明したことが、かなりあおり気味で、報道されています。これは自衛隊の退職したある元幹部の人が語っていたのですが、自分自身はそのようなことはないと思っているので、テレビなどの番組で、「北朝鮮のグァムへのミサイル発射はあり得るのか?」と聴かれて「ないと思います」というと、もう後が続かなくなってしまうので、その番組にはもう使われなくなってしまうと語っています。その発言の動画を以下に掲載します。(7:57あたりにその発言があります)



しかし、テレビではミサイル発射があり得るというということを前提して、報道をしないと話が続かなくなるので、あくまであり得るという前提する放送局がほとんどです。

そうなると、いつ日本にも火の粉が飛んでこないとも限らないということで、高齢者はかなり煽られるわけです。

以上は、最近の事例を出しただけで、高齢者は昔からテレビや新聞で日々煽られてきており、さらには政治家やマスコミが悪を暴いても悪いものが成敗されることもなく、この世にのさばっていると考えざるを得ない状況に追い込まれています。

このような状態が数十年も続いたとして、自らその情報の真偽を確かめる術を持たない高齢者がどうなってしまうのか、容易に想像がつきます。それは、モラルの低下です。彼らかられば、悪の安倍政権が滅びることも何もなく、そのまま続いているのですから、この世の中は巨悪がまかり通っていると考えるようになるのも無理はありません。

そうして、最近では高齢者の体力が昔と比較してかなり向上しています。昔だとたとえ、切れても体力的にどうにもできなかったものが、今の高齢者は、実力行使に訴えることもできます。

最近の〝キレる〟高齢者が増える背景には、このような背景もあると思います。これを防ぐには、高齢者に対して直接考え方を変えるように説得してもほとんど効果がありません。さらに、インターネットで検索せよと説いてもほとんど効果はありません。

グーグルクロムキャストやアップルTVなどで既存のテレビで動画を見る方法を教えてあげると良いと思います。

私は、何人かの高齢者にそれを教えてあげましたが、教えたほとんどの人が「虎ノ門ニュース」などをみるようになって、人生観が随分変わったと言っていました。

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2016年2月17日水曜日

GDPマイナス成長は暖冬のせいではない―【私の論評】増税派はどこまでも、8%増税が大失敗だったことを認めたくない(゚д゚)!

GDPマイナス成長は暖冬のせいではない

図表、写真はブログ管理人挿入 以下同じ
2月15日に2015年10-12月期のGDP速報値が内閣府から公表された。結果をみると、実質GDP成長率は前の四半期と比べて0.4%減、年あたりの換算で1.4%減となり、2015年4-6月期以来のマイナス成長に沈んだ。もっとも、7-9月期の実質GDP成長率も昨年11月に公表された段階(一次速報値)ではマイナス成長であったから、日本経済は2015年4-6月期以降、ほぼゼロ近傍に近い成長率で推移していることがわかる。政府は2015年度の実質GDP成長率を1.2%と見込んでいるが、見通し通りの成長率の達成はほぼ絶望的な状況だ。これは安倍政権の政策運営にも少なからず影響を及ぼすだろう。

 さて、今回公表されたGDP速報値について、石原経済再生担当大臣は記録的な暖冬により冬物衣料品などが大きく落ち込んだことで個人消費の減少幅が大きくなったことが主因との見方を示したとのことだ。

 GDPは民間最終消費支出、民間住宅、民間企業設備、民間在庫品増加、政府最終消費支出、公的固定資本形成、公的在庫品増加、財・サービスの輸出と輸入という、9つの項目から構成される。個人消費は民間最終消費支出に含まれるが、年率換算で1.4%減となった実質GDP成長率が、どの項目によって生じているのかを確認すると、民間最終消費支出の落ち込みによる影響が最も大きくなっており、石原大臣の指摘する通り、個人消費を含む民間最終消費支出の落ち込みが主因であることが確認できる。

 しかし、個人消費の落ち込みが記録的な暖冬により冬物衣料品などが大きく落ち込んだことが主因であるとはデータからは確認できない。

石原伸晃経済再生担当相の説明は統計と違う
天候不順は言い訳

 今回公表されたGDP統計では、家計消費の推移が自動車や家電製品といった耐久財、衣料品などの半耐久財、食品などの非耐久財、輸送・通信・介護・教育などを含むサービスといった4つの品目群(GDP統計では形態と言う)別にまとめられている。2015年7-9月期と比較しても、1年前の2014年10-12月期と比較しても、家計消費の落ち込みに最も大きく影響しているのは耐久財消費の落ち込みである。石原大臣の述べるとおり、家計消費の落ち込みの主因が冬物衣料品などが大きく落ち込んだことにあるのならば、その影響は半耐久財消費の大幅減という形で現れるはずだが、統計データを参照する限り、そうはなっていない。

 思い起こせば、天候不順が消費低迷の主因であるという指摘は、2014年4月の消費税増税以降繰り返されてきた。確かに天候不順が消費を落ち込ませる可能性はゼロではない。しかし消費意欲が旺盛であれば、多少の天候不順でも、消費の落ち込みがこれほど長くかつ深刻な形で続くことはないだろう。GDP速報値の結果からは、2015年10-12月期の民間最終消費支出の値は304.5兆円だが、これは、消費税増税直後に大幅な落ち込みとなった2014年4-6月期の305.8兆円をも下回っているのである。これほどの大きな変動が天候不順で生じると考えられるのだろうか?

 やや長い目で民間最終消費支出の推移をみれば、2002年から2012年までの10年間の民間最終消費支出は前期比0.2%程度のペースで緩やかに増加していたことがわかる。2013年に入るとこのペースがやや拡大したが、2014年4-6月期以降になると、民間最終消費は落ち込みが続き、2015年10-12月期の民間最終消費支出は、統計的に見て、前期比0.2%増のトレンドから有意に下ぶれしたと結論できる。つまり、統計的に「消費の底割れ」が生じたというのが今回の結果だということだ。

確かに昨年の暮れは気温が高かったが・・・・・・・
こうした「民間最終消費支出の底割れ」の主因は、大幅な落ち込みが始まったのが2014年4月以降であることから考えても消費税増税の影響と言えるだろう。消費税増税は、駆け込み需要とその反動減、さらに消費税増税に伴う物価上昇率の高まりが実質所得を減らすことの二つを通じて経済に影響を及ぼす。

 「消費税増税の影響は一時的であって、増税から1年以上経っても影響があるとは考えられない」と考える読者の方は、(仮に消費税減税といった政策が行われない限り)消費税率8%の負担が永続的にかかり続けるという事実を忘れているのではないか。加えて、わが国の場合、2017年4月から10%への消費税再増税が予定されている。多少所得が増えたとしても、2017年4月に増税が予定されているのだから、家計の財布の紐が緩まないのは当然とも言えるだろう。

消費税「減税」も検討を

 冒頭で今回のGDP速報値の結果は、安倍政権の政策運営にも少なからず影響を及ぼすのではないかと述べた。石原大臣は今年1月に成立した2015年度補正予算を素早く実施していくことが必要と述べているが、経済効果は実際の執行のタイミングを考慮すると2015年度と16年度に分散され、非常に限定的なものに留まるだろう。もう今は2015年度補正予算の早期実行が課題なのではない。さらなる新たな手立てを早急に考え、実行すべき時なのである。つまり民間最終消費支出の悪化を考慮すれば、2016年度予算の早期成立後に即座に2016年度補正予算を編成すべき局面ということだ。

 1月29日に日本銀行が決定した「マイナス金利付き量的・質的金融緩和策」の影響もあって、長期金利はさらなる低水準にとどめ置かれる可能性が濃厚な状況である。これは政府からみれば新規に国債を発行する際のコスト(金利負担)が低下している事を意味する。総需要が落ち込んでいる現状では、政府が短期的には財政政策により需要を支える必要があるし、大胆な財政政策を行ってもそのためのコストは低い。「今」は大胆な財政政策が必須であるし可能な状況なのである。

 世界経済の変調が濃厚となる中で日本経済が堅調な成長軌道に乗っていくには、国内需要を高めることが必須である。財政政策のメニューは様々なものが考えられるが、例えば、民間最終消費の落ち込みに直接影響を及ぼし、かつ分かりやすい政策をというのであれば、2017年4月から予定している消費税増税を凍結し、さらに年限を絞って消費税減税(例えば消費税率を8%から6%にする)といった方策も考えられるし、軽減税率の仕組みを使って食費の消費税率を8%ではなく5%にするといった方法もありえるのではないか。前例がない政策を全て「異次元」だと片付けていては何も進まない。こうした取り組みがいかに多くできうるのかが、今後の日本経済の帰趨を決めることになるだろう。

片岡剛士

三菱UFJリサーチ&コンサルティング、経済・社会政策部主任研究員

【私の論評】増税派はどこまでも、8%増税が大失敗だったことを認めたくない(゚д゚)!

8%増税が、実体経済に悪影響を及ぼしているのは間違いありません。以下に、10〜12月期のGDPの増減率の内訳を掲載します。


こうしてみると、やはり個人消費、住宅投資の落ち込みが大きいです。そうして、個人消費の落ち込みの要因のうちで一番大きいのは、ブログ冒頭の記事で、片岡氏が掲載しているように、耐久消費財の落ち込みです。

民間消費支出をグラフにしたものを以下に掲載します。


民間支出がいかに打撃を受けているのか、良く理解できます。

さらに、以下のグラフをみると、雇用者報酬が伸びて13年度の水準をほぼ取り戻しているにもかかわらず、個人消費がこれに比例して伸びてはいません。


これは、まさにブログ冒頭の記事で片岡氏の "「消費税増税の影響は一時的であって、増税から1年以上経っても影響があるとは考えられない」と考える読者の方は、(仮に消費税減税といった政策が行われない限り)消費税率8%の負担が永続的にかかり続けるという事実を忘れているのではないか。加えて、わが国の場合、2017年4月から10%への消費税再増税が予定されている。多少所得が増えたとしても、2017年4月に増税が予定されているのだから、家計の財布の紐が緩まないのは当然とも言えるだろう"という主張をまさに裏付けています。

要するに、どう考えても、8%増税は大失敗だったのです。しかし、なぜ石原伸晃経済再生担当相が、これを直視せず、"記録的な暖冬により冬物衣料品などが大きく落ち込んだことが主因"とするのはなぜなのでしょうか。

それは、石原氏が増税賛成派であり、8%増税は無論のこと、10%増税もすべきと腹の底から思っているからです。特に8%増税は、熱烈に支持したため、今更8%増税は失敗であったと口が裂けてもいえないからです。

ここで、時計の針を2011年、11月25日に戻します。そのころ、サイトに掲載された、長谷川 幸洋氏の記事のリンクを以下に掲載します。
小沢一郎、石原伸晃らが動き始め、「来年解散・総選挙」が漂いはじめた永田町

まだ、小沢氏が民主党にいたときのことです。詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事より一部抜粋します。
 また「政局の季節」がめぐってきたようだ。消費税と環太平洋連携協定(TPP)をめぐって民主、自民両党で内部の意見対立が激しくなっている。永田町では「いずれにせよ来年中の解散・総選挙は間違いない」と緊張感が高まってきた。
火を付けたのは小沢一郎元民主党代表だ。 
 11月19日に出演したニコニコ生放送の番組で田原総一朗の質問に答え、消費税引き上げに反対する姿勢を明確にしたうえ、22日の小沢グループ会合では「消費税増税を強行すれば党運営は厳しくなる」と野田佳彦首相に警告した。
 自民党の石原伸晃幹事長も22日の講演で「首相が『民主党を割ってでも消費税を10%にする』と言えば、自民党も割れ、新しい政治体制ができるかもしれない」と政界再編の可能性に言及した。 
「増税法案さえ可決すれば政権はどうなってもいい」 
 民主、自民の大物たちが機を同じくして、消費税引き上げをきっかけにした政変の可能性に言及したのは、けっして偶然ではない。どちらの党も執行部は増税路線を掲げているが、内部に強い反対勢力を抱えている。党内事情がそっくりなのだ。 
 TPPも同じである。野田首相は交渉参加の意思を決めたが、民主党内には依然として強い反対論が残っている。自民党に至っては、過半数の議員が反対と言われているが賛成意見もあり、党としての方針を決められないありさまだ。
 増税やTPPのような重要課題をめぐって、どちらも党内が一致結束していないので、執行部がどちらかの路線で突っ走ろうとすると、ともに党が割れる可能性に直面してしまう。首尾一貫しているのは「霞が関党」とも呼ぶべき官僚集団とそれに鋭く対立するみんなの党(あと共産党?)くらいである。 
 これから年末の予算編成と税制改正を控えて、この意見対立は激化しこそすれ、和らぐ見通しはない。野田政権は社会保障と税の一体改革大綱で引き上げ幅と時期をはっきり書きこもうとしている。 
 財務省とすれば、上げ幅の数字と時期を明示した増税法案さえ可決成立すれば、後は野田政権がどうなろうとかまわない。野田首相が続投できればそれに越したことはないが、仮に総選挙で敗北し民主党が下野する場合でも、次の政権が増税路線を引き継ぐよう水面下の工作に全力を上げていくだろう。いや、もう着手しているだろう。 
 むしろ東京電力・福島第一原発事故の処理やTPP問題での党内分裂ぶりをみれば、民主党が次の解散・総選挙でも勝利し、野田首相が続投できる可能性は低いとみているはずだ。冷徹な財務省がそれほど楽観的になるとは思えない。財務省は実質的に政権を切り盛りしているのはいつだって自分たちなのだから、表で政権を担うのは民主党だろうが自民党だろうがどっちでもいいと思っている。 
石原発言を歓迎する財務省 
 そんな財務省の視点からみると、先の石原発言は歓迎するシナリオである。自民党が増税派と反増税派に分裂し、民主党も総選挙敗北で増税派と反増税派に分裂するなら、両党の増税派を合体させて「増税新党」をつくればいい。あとは残った両党の反増税派が合体して大きな勢力にならないように工作するだけになる。
何としても、増税をしたい財務省から増税発言を歓迎された石原氏ですから、石原氏の腹なの中は8%増税は当然、そうして10%増税もやり遂げなければならない大正義と思いこんでいることでしょう。

なぜ、このようになるかといえば、彼はマクロ経済オンチだからです。周りの人間が、増税すべきとか、増税すべき理由などを言うと、それが正しいものと単純に思い込んでしまうどころか、大増税は日本を救う大正義であると単純に信じ込んでしまっているのだと思います。

上の記事をみていると、小沢氏は増税に反対しており、当時の野田首相に対して、増税をすれば政権運営が難しくなると当時の野田総理大臣に警告しています。

実際、増税一辺倒で走った野田政権は、2012年の衆院総選挙で、大敗を喫し、政権交代を余儀なくされました。

しかし、小沢氏の上の増税反対の発言や、当時のその他の増税反対の発言を聴いていると、小沢氏は、我が国の実体経済の悪化を心配しているというよりは、選挙対策や内閣支持率の観点からそのような発言をしてるようにしか思えませんでした。

経済がどうのというより、国民の反発を招くことを恐れているような話ぶりで、まともに経済のことをわかつて、あのような発言をしているとは思えず、そのせいですか、あまり説得力がないように思えました。

増税に反対していた、小沢氏ですらこのような状況でした。当時は、民主党や自民党の多数派は、増税推進派で、増税反対派は少数でした。

その状況は今も変わっていません。12年の末に衆院選で大勝利して、安倍自民党内閣が成立したわけですが、ご存知のように13年の秋には、与野党の政治家のほとんどや、マスコミもこぞって、増税に大賛成で、特に新聞は安倍総理が増税の決断をしたと何度も報道しました。これは、驚いたことに、産経新聞も含めた全大手新聞社がそのような報道ぶりでした。

あの状況で、安倍総理が8%増税延期の決断をした場合、政治家、マスコミ、識者らのほとんどが増税賛成派であつたため、政権運営に支障をきたしたかもしれません。そのためでしょうか、安倍総理は14年度からの8%増税を決断せざるをえなくなりました。

さて、2013年の9月の主要メディアの報道ぶりををざっと振り返っておきます。実際には、これ以外も、多くの報道がありましたが、代表的なもののみにとどめます。報道に間違いがなければ、安倍首相は2013年の9月11日から20日にかけて、少なくとも4度(11日、12日、18日、20日)にわたり「決断」を繰り返したことになります。
安倍首相は11日、消費税率を来年4月に現行の5%から8%に予定通り引き上げる意向を固めた。出典:読売新聞9月12日付朝刊1面「消費税 来年4月8% 首相、意向固める 経済対策に5兆円」
安倍晋三首相が、来年4月に消費税率を5%から8%へ予定通り引き上げる方針を固めたことが12日分かった。出典:共同通信9月12日「消費増税 来年4月8%に 首相、10月1日表明へ」
安倍晋三首相は12日、現行5%の消費税率を、消費増税関連法に沿って2014年4月に8%に引き上げる意向を固めた。出典:時事通信9月12日「消費税、来年4月に8%=経済対策5兆円で下支え=安倍首相、来月1日にも表明」
安倍晋三首相は、現行5%の消費税率を、来年4月に8%へ予定通り引き上げる方針を固めた。出典:毎日新聞9月12日付夕刊1面「消費増税 来年4月8% 安倍首相『環境整う』判断 経済対策、5兆円規模検討」
安倍晋三首相は18日、現在5%の消費税率について、来年4月に8%に引き上げることを決断した。出典:産経新聞9月19日付朝刊1面「消費税来春8%、首相決断 法人減税の具体策検討指示」
安倍晋三首相は来年4月に消費税率を8%に引き上げる方針を固めた。(…)複数の政府関係者が19日、明らかにした。出典:日本経済新聞9月19日付夕刊1面「消費税来春8% 首相決断 法人減税が決着、復興税廃止前倒し 来月1日表明」
安倍晋三首相は20日、来年4月に消費税率を現在の5%から8%に予定通り引き上げることを決断した。出典:朝日新聞9月21日付朝刊1面「首相、消費税引き上げを決断 来年4月から8%に」 
安倍首相は10月1日の発表の前までは、自らの肉声で「決断」の意思を表示したわけではありません。仮に会見等の場で表明していれば「~を表明した」と報じられるし、一部の関係者に伝達していれば「決断したことを~に伝えた」と報じられるのが普通です。しかし、昨年はどのメディアも「表明」「伝達」いずれの事実も報じておらず、「意向を固めた」「決断した」といった表現で報じていました。本当に、これらは近年まれに見る大手新聞の異常報道でした。ここまでの規模になると、もう財務省が裏で暗躍していたのは、間違いないです。
安倍総理が増税の決断をしたことを報道する読売新聞
そうして、14年に実際に増税が実施されると、多くの識者が8%増税の影響は軽微としたにもかかわらず、マイナス成長は明らかとなり、12月には、ご存知のように10%増税の延期を公約の一つとして、安倍総理は衆院の解散総選挙を実施し、大勝利して、10%増税の延期が決まりました。

しかし、2011年ころから、自民党も民主党も増税推進派が圧倒的多数派です。これら増税推進派はもとより、新聞も、識者も8%増税を推進したきたため、今更これは間違いでしたとはなかなか言えません。

自民党の大多数は、本当は一昨年の暮れの10%増税の延期を公約とした、衆院解散総選挙にも反対だったと思います。しかし、当時は、安倍自民党は、選挙に何度も勝利して、内閣支持率もかなり高い状況であったため、あからさまに安倍総理に異議を唱えるわけにもいかず、面従腹背をしただけです。

実際、2月15日に2015年10-12月期のGDP速報値の発表があっても、各新聞もその事実は淡々と報道しますが、8%増税が大失敗であったことなど報道しません。

経済学者、特に日本で主流派といわれる経済学者らも、大失敗などとは論評しません。無論政治家もそのようなことはいいません。

しかし、統計数値や、ブログ冒頭の記事などから、8%増税は大失敗であることは明らかですし、10%増税などしてしまえば、実体経済、特に個人消費がとんでもなく落ち込むことは目に見えています。

もし実行してしまえば、平成18年あたりには、時の政権が誰のどの政党のものであれ、増税一辺倒だった2012年の野田政権のように、崩壊するのは目に見えています。

そんなことにならないためにも、安倍政権は今年夏の参院選については、できれば衆院も解散して、衆参同時選挙にして、10%増税延期もしくは恒久的中止、あるいはインフレ傾向がひどくなる前までは、実施しないことを公約に掲げ、大勝利していただきたいものです。

おそらく、増税派が圧倒的多数である、現状を考えると、これが増税阻止の唯一の、隘路であると思われます。安倍政権には、この隘路を何とか突破していただきたいものです。


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