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2024年5月29日水曜日

【攻撃性を増す中国の「茹でガエル」戦術】緊張高まる南シナ海へ、日本に必要な対応とは―【私の論評】同盟軍への指揮権移譲のリスクと歴史的教訓:自国防衛力強化の重要性

【攻撃性を増す中国の「茹でガエル」戦術】緊張高まる南シナ海へ、日本に必要な対応とは

まとめ
  • アキリーノ米インド太平洋軍司令官は、中国が「茹でガエル戦術」で徐々に圧力を強めており、南シナ海や台湾海峡での軍事行動が一層攻撃的で危険になっていると指摘した。
  • 中国の沿岸警備隊によるフィリピンの排他的経済水域内でのサンゴ礁周辺での威嚇行為に強く懸念を示した。
  • 北朝鮮とロシアの脅威、中露の協力関係深化にも警戒を要すると述べた。
  • 同盟国との連携が重要であり、新たな軍事能力の強化と相互運用態勢の早期確立が課題だと指摘した。
  • 日本としては、同盟国との連携強化に伴う指揮命令系統の問題など、主権にかかわる課題が将来的に生じる可能性があるため、自らの防衛能力強化を急ぐ必要がある。

アキリーノ米インド太平洋軍司令官

 アキリーノ米インド太平洋軍司令官は、退任を前に、中国の南シナ海や台湾海峡における軍事的圧力の強化を「茹でガエル戦術」と表現し、強く非難した。中国は徐々に温度を上げることで相手に危険性を過小評価させ、いつの間にか危機的状況に陥らせるこの戦術を追求しており、行動は次第に攻撃的かつ大胆になり、地域の不安定化を助長していると指摘した。

 特に、フィリピンの排他的経済水域内のサンゴ礁周辺での中国沿岸警備隊の威嚇行為は一線を越えた新たな段階に入ったとの懸念を示した。放水砲を用いてフィリピン軍への補給を妨害するなど、これまで以上に攻撃的な姿勢を見せているからだ。

 アキリーノ司令官はさらに、北朝鮮の度重なるミサイル発射や、北朝鮮・ロシアの協力関係、中国・ロシアの関係深化にも危惧の視線を向けた。これらの動きは地域の緊張をさらに高める要因になりかねないと警鐘を鳴らした。

 そして、中国を始めとするこれらの脅威に対抗するには、同盟国との連携が不可欠であり、各国の新たな軍事能力の強化とそれらの早急な相互運用態勢の確立が喫緊の課題だと力説した。アキリーノ司令官自身、台湾有事の際にも指揮を執っており、中国の一方的な行動に強い危機感を抱いていたことがうかがえる。

 こうした現状認識を踏まえ、日本としても自らの防衛能力の強化を急ぐ必要があるだけでなく、同盟国との連携強化に伴い、将来的には指揮命令系統の一体化など、主権にもかかわる重大な課題が生じる可能性も想定されるため、十分な検討が求められよう。

 この記事は、元記事の要約です。詳細は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】同盟軍の指揮権移譲のリスクと歴史的教訓:自国防衛力強化の重要性

まとめ
  • 軍隊の指揮権を他の同盟国などに移譲すると、現場の実情が正確に伝わらず、同盟国全体の利益が優先されることで、自国の利益が損なわれる可能性がある。
  • 自衛隊が米軍の指揮下に入ることで、日本の防衛任務や戦略的利益が適切に反映されないリスクが高まる。
  • 第二次世界大戦中の英国の例では、第二次世界大戦中の指揮権移譲により戦略的利益が損なわれ、戦後の国力低下にもつながった。
  • ソ連は指揮権を維持し続けた結果、戦中には最大の損害を被りながらも、戦後に領土拡大と国際的な主導権を獲得し、最も利益を得た国となった。
  • 自国の防衛力を自助努力で高めつつ、同盟国と対等な関係を保ち連携することが重要であり、軽々な指揮権移譲は避けるべきである。
上の記事の元記事の最後のほうでは、「古来、同盟軍の戦いでは指揮権を移譲した側の損害が大きくなるとの定評に鑑み、その観点からもわが国は自らの能力強化を早急に進めるべきだという声は傾聴に値する」としています。

これは、指揮権を移譲すれば、意思決定の場が離れた司令部に移ったとすれば、現場の実情を正確に伝えきれず、状況に適さない判断がなされる可能性があります。また、自国の利益よりも同盟国全体の利益が優先されがちになります。このような懸念から、自国の指揮権を最大限維持し、独自の能力を強化すべきだという主張がなされているものと思われます。

台湾有事の場合を想定して、より具体的に説明します。

頼清徳台湾新総統

仮に中国が台湾に武力侵攻した場合、日米同盟に基づき、自衛隊は米軍と共に対処にあたることになるでしょう。しかし、この際に自衛隊の指揮権を完全に米軍に移譲してしまうと、以下のようなリスクが生じる可能性があります。
  1. 現場の実情が適切に伝わらない 台湾有事における自衛隊の活動は、日本の領土、領海、領空の防衛という自国の防衛任務と深く関わっています。しかし、指揮権を米軍に移譲してしまえば、そうした日本の主権的利益が必ずしも十分に反映されない可能性があります。
  2. 自国の戦略的利益が損なわれる 米軍の司令部は、同盟国全体の戦略的利益を最優先します。一方で日本は、例えば中国との関係修復などの将来的な国益を考慮する必要があります。指揮権を移譲すれば、そうした自国の長期的な利益が無視される恐れがあります。
  3. 現場の機動性が失われる 有事における自衛隊の機動的な活動には、政府の迅速な判断と指示が不可欠です。しかし指揮権を移譲してしまえば、意思決定のプロセスが遅延し、機動性が失われてしまう可能性があります。
こういった理由から、自国の防衛能力を強化し、最大限の主体性を維持することが重要であり、安易に指揮権を移譲すべきではないという主張が出てくるのです。台湾有事のように、自国の主権的利益が深く関わる事態では、この点は特に重要になってくるでしょう。

指揮権の移譲によって、不利益を被った国の例としては、英国があげられます。

第二次世界大戦中の英国首相 チャーチル

第二次世界大戦の欧州戦線において、英国と米国の間でこのような事態が生じました。
1942年にドイツ領内への本格的な侵攻を開始した時点で、英国よりも兵力と装備で優位にあった米軍が事実上の主導権を握りました。それにより英軍は以下の不利益を被りました。
 
作戦計画の立案段階から英国側の意見が尊重されない事態が生じました。米軍中心の作戦計画になり、英国軍の犠牲が無視される側面がありました。

航空機や戦車、兵員の割り当てで不利な扱いを受け、英国軍の戦力が十分に生かされませんでした。ノルマンディー上陸作戦では、英国軍の提案する上陸地点が米軍の希望で変更され、不利な展開を強いられました。

このように、同盟国内での指揮権の主導権を持った米軍が、自国の都合を優先する形で作戦を指揮したため、英国軍は戦略的利益を損ねる事態に陥りました。

戦後も同様です。インドをはじめ、連合国内で英国の植民地独立運動が活発化し、戦後に英帝国は瓦解に追い込まれました。他の連合国に比べ、植民地喪失の打撃が最も大きかったと言えます。

戦時下の莫大な費用と戦後の経済的疲弊により、英国は深刻な国力低下に見舞われました。この間、他の米ソなど連合国の国力は向上しており、格差が開きました。

このように、戦時中の連合国内での影響力喪失と、戦後の国力低下が相まって、英国は第二次世界大戦の連合国内で最大の損失を被った国と評価されているのです。

では、米国が第二次世界大戦でもっとも利益を得たかというと、そうとは言い切れないところがあります。

米国は、第二次世界大戦中にナチス・ドイツと戦うソビエト連邦(以下ソ連と略す)に支援を行いました。

支援内容は以下の通りです。
  • 武器・軍需品の供与 米国はレンドリース法に基づき、ソ連に戦車、航空機、艦船、食料品、石油製品等の軍需品を大量に供与しました。金額にして現在の換算で1,800億ドル相当とされています。
  • 資金支援 ソ連への借款や信用供与を行い、戦費の一部を肩代わりしました。合計で109億ドル相当の資金援助がありました。
  • 戦略物資の提供 非鉄金属、燃料、機械類、車両など、ソ連が不足していた戦略物資を米国から供給を受けました。
  • 輸送路の開設 同盟国からソ連へのルートとして、北極海航路・ペルシャ湾ルート・極東ルートなどを開設し、物資の輸送を支援しました。
この大規模な軍事・経済援助によって、ソ連の対ドイツ戦線が物資的に支えられ、持久戦を可能にしたと評価されています。

しかし、結局のところ、もっとも被害の大きかった国でもある、当時のソ連が最大の利益を得たと言えます。その主な理由は、当時のイギリスとは異なり、ソ連は軍の指揮権を一片たりとも、米国に譲らなかったことにつきるでしょう。

これは、ソ連と米国は地理的、歴史的、文化的にも隔絶していたため、米国として指揮のとりようもなかったということに起因してはいるのですが、これが戦後に英国との大きな差を生み出すことになるのです。

第二次世界大戦中のソ連の指導者 スターリン

ソ連が東方戦線の作戦指揮権を完全に自国が掌握し続け、他国に決して権限を譲らなかったことが、戦後の勢力圏拡大と冷戦構造における主導権の獲得につながったといえます。

指揮権の一元的な維持が、戦後のソ連の"利益"獲得に大きく寄与したと言えるでしょう。

ソ連は戦後、日本の現在「北方領土」といわれる地域を領土とし、東欧諸国をソ連の影響下に置き、バルト3国などを事実上の一部領土化しました。領土を大幅に拡大することができました。

ソ連は、ナチス・ドイツ撃滅の最大の功労者となり、戦後は米国とともに超大国の座に着くことができました。東西冷戦構造の一方の中心的存在になりました。戦後設立された、国際連合では、中国とともに常任理事国となっています。

東欧を中心に社会主義圏が大きく広がり、ソ連の影響力が最大化しました。イデオロギー的にも大きな勝利を収めたと言えます。
 
ソ連は、連合国側で主導的な役割を果たし、戦後の東西ドイツ分割や東欧での影響力拡大などを主導できました。

このように、領土的・イデオロギー的な大幅な拡大と、戦後の国際秩序形成における主導権の獲得という意味で、ソ連が第二次世界大戦から最も利益を得た国であると評価できます。

このように、軽々な指揮権移譲は避け、自国の防衛力は自助努力で高めつつ、同盟国とは対等な関係を保ち、緊密に連携する。この二つの側面を両立させることが、軍事力の最大発揮につながるとともに、戦後に不利益を被らないための対策ともなるのです。

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2024年5月24日金曜日

戦うウクライナという盾がなくなれば第三次大戦は目の前だ―【私の論評】大戦の脅威を煽るより、ロシアの違法な軍事行動に対し、断固とした姿勢で臨め

戦うウクライナという盾がなくなれば第三次大戦は目の前だ

まとめ
  • 歴史学者ティモシー・スナイダーは、ロシアと戦うウクライナが第3次世界大戦を防いでいると述べ、現在の状況を第2次世界大戦直前に例えた。
  • スナイダーは、ウクライナをナチスに降伏したチェコスロバキアになぞらえ、ウクライナが諦めると将来ロシアがさらなる戦争を引き起こすと警告した。
  • 現在のウクライナ紛争は第3次世界大戦の危機を高めているが、NATO諸国は関与を避け、暴力の拡大を防ごうとしている。
  • ウクライナのゼレンスキー大統領は、ウクライナがロシアに敗れれば次にヨーロッパの他の国が攻撃対象になると警告している。
  • ベラルーシのルカシェンコ大統領も世界が崖っぷちに立たされていると警告し、第3次世界大戦の懸念を表明している。

ウクライナ軍女性兵士

 著名な歴史学者ティモシー・スナイダーは、ロシアと戦っているウクライナが第3次世界大戦を防いでいると述べた。彼は米イェール大学の歴史学教授で、東欧とソビエト連邦を専門家だ。スナイダーは、ウクライナとロシアの全面戦争が3年目に突入している現状を、第2次世界大戦直前の時期に例えた。

 彼は2024年を1938年と比較し、ウクライナが第2次大戦初期にナチスに降伏したチェコスロバキアと似ていると述べた。1939年、ナチス・ドイツがチェコスロバキアに侵攻し、これによりイギリスとフランスがポーランドの同盟国としてナチス・ドイツに宣戦布告し、第2次世界大戦が始まった。スナイダーは、エストニアのタリンでの会議で、ウクライナが諦めるか、国際社会がウクライナを見捨てれば、将来的に異なるロシアが戦争を行うことになると警告した。

 スナイダーは、ウクライナが現在の状況を引き延ばし、1939年のような大戦の勃発を防いでいると述べた。ウクライナでの2年以上にわたる紛争は、第3次世界大戦の可能性を高めているが、NATO諸国はウクライナ戦争の当事者ではないと強調し、暴力が国境を越えて広がるのを防いでいるとした。ウクライナは、ロシアに敗北すれば次にヨーロッパの他の国がロシアの攻撃対象になると警告している。

 ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は2022年2月、ロシア軍がウクライナに侵入してきた直後に、ウクライナの戦いを支援するよう呼び掛けた。彼は「もしウクライナが倒れれば、ヨーロッパも倒れる」と述べた。また、3月中旬には世界が「本格的な第3次世界大戦の一歩手前」にあると警告した。

 一方、プーチンの忠実な味方であるベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領は2024年2月に世界が「再び崖っぷちに立たされている」と警告し、第3次世界大戦について「懸念する根拠はある」と述べた。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】ロシアの経済的制約と西側の圧力 - ウクライナ侵攻の行方

まとめ
  • 現代ロシアは軍事力は侮れないが、経済力ではナチス・ドイツほどの潜在力はない。資源依存型の経済構造が足かせとなっている。GDPでは韓国を若干下回る程度である。
  • 一方、当時のドイツは再軍備と経済成長の相乗効果で、ヨーロッパ有数の経済・軍事大国として台頭していた。
  • ロシアのウクライナ侵攻は長期化すれば、その経済的制約からロシアに第三次世界大戦を引き起こすだけの実力はない。
  • 重要なのは、ロシアの違法な軍事行動を容認せず、ウクライナの主権と領土を守ることである。
  • 米国を筆頭に西側がロシアへの圧力を強める動きは、ロシアの暴挙に毅然と立ち向かう決意の表れである。
第二次世界大戦中のドイツSS(親衛隊)

現代ロシアは確かに軍事力に優れていますが、経済面ではナチス・ドイツほどの潜在力はありません。現在ロシア経済は天然資源、とりわけエネルギー輸出に過度に依存しているのに対し、かつてのソ連は現在のロシアと比較して、製造業や先端技術分野での地位ははるかに上位に位置し、米国としのぎを削っていました。国内総生産(GDP)でも、米中に大きく水をあけられている有様です。  

これは、第二次世界大戦前のドイツとはかけ離れた状況です。1939年当時、ドイツの名目GDPは約411億ドル(1990年価格換算)と、アメリカに次ぐ経済大国でした。軍備増強と内需拡大策の効果により、ドイツは欧州有数の経済力を誇っていました。軍事と経済の相乗効果で、ヨーロッパ全域に影響力を及ぼすに至ったのです。

一方の現代ロシアは、2022年のGDPがわずか1.7兆ドル程度に過ぎず、主要欧州諸国よりも小さい規模です。世界ランキングでは11位と、韓国をわずかに下回る程度です。これは日本でいえば、東京都と同じくらいです。長年の対外制裁と資源依存の経済構造が災いし、伸び悩んでいるのが実情です。

軍事パレードをするロシア軍兵士

このように、ナチス政権下のドイツは再興期にあり、軍備増強と経済発展を遂げ、ヨーロッパでの覇権を狙っていました。一方でプーチン政権のロシアは、経済的な盤石さを欠いており、他国に影響力を及ぼす余地は限られています。

こうした経済力の違いが、ロシアのウクライナ侵攻の遂行能力に大きく影響しています。戦争が長期化するなか、ロシアは経済的に行き詰まる可能性すら浮上してきました。第三次世界大戦を引き起こせるような実力は、到底持ち合わせていないと言えるでしょう。  

武力面ではロシアが軍事技術と核兵器で優れているのは事実です。しかし経済規模が韓国と肩を並べるに過ぎなければ、その行動には自ずと一定の制約がつきまとうはずです。つまり、現在の紛争が再び世界大戦に発展するリスクは、杞憂に過ぎないのかもしれません。かえって、目の前の現実的で差し迫った問題から目を逸らしかねません。

重要なのは、第三次世界大戦の脅威などではなく、ロシアのウクライナ侵攻が国際法に明白に反すること、これを決して容認できないことです。欧米諸国を中心に、ロシアのこの暴挙に対する責任を明確に追及し、ウクライナの主権と領土保全を尊重した平和的解決を目指すべきなのです。  

もちろん、ロシア軍の戦力は侮れません。しかし、ウクライナ軍の強固な決意、西側からの軍事支援、そしてロシア自身の経済的制約といった要因を考えれば、ロシアがこの紛争で完全勝利を収めることは極めて困難です。平和の実現に向けては、第三次世界大戦を恐れるのではなく、ロシアのこの明白な違法行為に毅然と対処することこそが重要なのです。

ロシアの侵攻は確かに現実的で差し迫った脅威です。しかし同時に、ウクライナの奮闘、国際社会の広範な支援、ロシア自身の能力の限界という現実も見逃せません。こうした要因を組み合わせれば、この脅威を最終的に封じ込め、抑止できるはずです。

その実現に向け、何よりも冷静さを失わず、ロシアの軍事行動を断固として非難し続けることが大切です。そうすれば第三次世界大戦の悪夢は現実のものとはならず、かえってロシアが現実路線に傾き、停戦への道を模索せざるを得なくなるでしょう。平和を願うなら、ロシアの暴挙に毅然と立ち向かうことこそが何より重要なのです。

第三次世界大戦をテーマとしたゲームの画面

実際、米国はロシアの違法な軍事行動に対する姿勢を一層厳しくしつつあります。ウクライナを訪問中のブリンケン国務長官は15日、米国製兵器を使ったロシア領内への攻撃を容認する可能性に言及し、「この戦争をどう遂行するかは最終的にはウクライナが決断することだ」と述べました。

バイデン政権はこれまで、ロシア領への直接攻撃を制限してきましたが、この発言はその方針の転換を示唆しています。ロシア側に有利に働いているとの批判を受けて、制限撤廃の要望が高まっていたためです。   

このように、おくればせながらも、米国を始めとする西側諸国がロシアへの圧力を強める動きは、ロシアの暴挙に毅然と立ち向かう決意の表れと言えるでしょう。平和実現に向けては、第三次世界大戦の脅威を煽るよりもロシアの違法な軍事行動に対し、断固とした姿勢で臨むことが何より重要なのです。

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2024年5月22日水曜日

【裏でロシアが手を引いている?】ジョージア新法案へ大規模デモ、プーチンがEU加盟阻止を図る地政学的理由―【私の論評】米国とジョージアの「外国代理人法」の違いとその地政学的影響

【裏でロシアが手を引いている?】ジョージア新法案へ大規模デモ、プーチンがEU加盟阻止を図る地政学的理由

岡崎研究所

まとめ
  • ジョージアが「外国の代理人」法案を可決し、大規模な抗議デモが発生
  • この法案はロシア式で、NGO・メディアなどに「外国の代理人」登録を義務付ける
  • 法案の背後にロシアの影響力があり、ジョージアのEU加盟を阻止する狙いとの指摘
  • 与党「ジョージアの夢」のロシア寄りの路線を反映しているとの見方
  • 10月の総選挙控え、野党・市民社会の監視勢力への対抗策との危惧

 ジョージアは5月14日、ロシアと同様の「外国の代理人」法案を可決し、首都トビリシでは大規模な抗議デモが起きている。この法案は、資金の20%以上を外国から得ているNGO、活動家団体、メディアなどに「外国の代理人」として登録することを義務付けるものである。

 法案が審議入りした際、ワシントン・ポストは、ジョージアの欧州連合(EU)加盟を阻害する可能性があると指摘した。ジョージア大統領も法案を非難し、ロシアが法案の背後にいて、ジョージアをEUから遠ざけようとしているのではないかと批判した。

 ジョージアは、かつてロシアと戦争を経験し、一方ではEU・NATO加盟を目指す一方で、ロシアとの関係修復も重視してきた。今回の法案をめぐっては、与党「ジョージアの夢」の実質的な指導者であるビジナ・イヴァニシヴィリの影響が指摘されている。同党は、ロシアへの宥和的姿勢と共にEU加盟計画を潰そうとしているのではないかと懸念されている。

 10月の総選挙を控え、NGOやメディアなどの監視勢力への対抗策という狙いも指摘されており、この法案がジョージアの民主主義の行方に大きな影響を及ぼすと見られている。ジョージアは、ロシアと欧米の板挟みとなり、外交的に難しい舵取りを迫られている。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】米国とジョージアの「外国代理人法」の違いとその地政学的影響

まとめ
  • 米国の「外国代理人登録法(FARA)」は透明性を目的に1938年に制定されたが、ジョージアの提案された「外国代理人」法案はメディアやNGOを対象にし、政治的抑圧の手段として使われる恐れがあると批判されている。
  • ジョージアの法案は、その範囲の曖昧さや民主主義への影響に焦点を当てた批判を受けており、ロシア式の手法として見られている。
  • ジョージアは地政学的に重要な位置にあり、東ヨーロッパと西アジアの間に位置し、黒海に面しており、ロシアとの緊張関係がある。
  • ジョージアは1991年にソビエト連邦から独立し、その後、民主化と経済改革を進めてきたが、ロシアの影響力は依然強く、欧米とロシアの板挟み状態にある。
  • ジョージアの「外国代理人」法案とNATO加盟問題は、ロシアがジョージアの民主化や西側との関係強化を阻止しようとしていることに関連している可能性がある。

実は「外国の代理人法」の類似法は、米国などにも存在し、これは妥当なものとされていますが、ジョージアのそれはなぜ問題とされるのでしょうか。

米国の「外国代理人登録法(FARA)」は1938年に制定され、外国政府や外国政治組織の代理として行動する個人や組織がその関係を公開し、透明性を保つことを目的としています。一方、ジョージアで提案された「外国代理人」法案は、外国から資金を受け取るメディアや非政府組織(NGO)を対象にしており、その内容と背景が異なります。

米国特許出願における現地代理人と国内代理人

このジョージアの法案は、ロシア式の手法として批判されており、政治的抑圧の手段として使用される可能性があるという懸念があります。批判は、法の範囲の曖昧さや民主主義への影響などに焦点を当てています。

米国のFARAとジョージアの提案されている法案は、表面上似ているかもしれませんが、適用方法、目的、そして特に政治的文脈において大きな違いがあり、ジョージアの法案に対しては、政治的抑圧のツールとして使用される恐れがあるという強い批判が寄せられています。

ジョージアは地政学的に極めて重要な位置にあり、その重要性は複数の要因によって強調されています。

ジョージアは、東ヨーロッパと西アジアの境界に位置する国で、黒海に面しています。首都はトビリシで、面積は約69,700平方キロメートル、人口は約370万人です。ジョージアは多様な文化と歴史を持ち、古くからシルクロードの一部として重要な役割を果たしてきました。

ジョージアは1991年にソビエト連邦から独立し、その後、民主化と経済改革を進めてきました。現在は議会制共和国であり、ヨーロッパとの関係強化を目指しています。主要産業には農業、観光業、ワイン生産などがあります。地理的には山岳地帯が多く、自然景観が豊かな国です。また、多くの民族が共存し、多様な宗教と文化が共存しています。

ジョージアは南コーカサス地域に位置し、ロシアの最南西部に接しています。この地域は、歴史的にも戦略的にも重要な交差点であり、ジョージアはロシア、トルコ、アゼルバイジャン、アルメニアと国境を接しています。さらに、ジョージアは黒海に面しているため、その海上交通の要衝ともなっています。この地理的な位置は、ロシアとの軍事的緊張関係にも寄与しています。

ジョージアは旧ソ連の一部であり、1991年のソ連崩壊後、独立国家として再出発しました。しかし、独立後もロシアの影響力は強く残り、ジョージアは欧米勢力とロシア勢力の板挟み状態にあります。

特に2008年には、南オセチアとアブハジアを巡る紛争が原因でロシアとの戦争が勃発しました。この戦争の結果、南オセチアとアブハジアは事実上の独立状態にあり、ロシアの支持を受けています。このような国内の分離独立地域は、ジョージアの安定にとって大きな課題となっています。


一方で、ジョージアは欧州連合(EU)や北大西洋条約機構(NATO)への加盟を目指しており、欧米との関係強化を図っています。しかしながら、ロシアとの関係修復も無視できない重要な課題です。

ロシアとの経済的・政治的なつながりは依然として強く、完全に切り離すことは現実的ではありません。このように、ジョージアはロシアと欧米の狭間に位置する地政学的要衝であり、両陣営から常に影響を受けやすい状況下にあります。

総じて言えば、ジョージアの地政学的重要性はその地理的位置、歴史的背景、そして国際関係における微妙なバランスに由来しています。これにより、ジョージアは地域の安定と安全保障において重要な役割を果たしており、その動向は国際社会にとっても大きな関心事となっています。

ロシア政府がジョージアのNATO加盟に強く反対しているのは確かであり、これは上でも述べたようなジョージアの地政学的な位置やロシアの安全保障上の懸念から来ています。ジョージアがNATOに加盟することは、ロシアにとって大きな脅威とみなされるためです。

ジョージアで提案されている「外国代理人」法案についても、ロシアの影響力が関係している可能性があります。ロシアは、かつて自国で類似の法律(「外国エージェント」法)を導入し、非政府組織(NGO)やメディアに対する統制を強化しました。このような法律は、政府に批判的な団体や個人を抑圧する手段として使用されることが多いです。


ジョージアの「外国代理人」法案がロシア式と批判されるのは、まさにこの点にあります。ロシアがジョージアに対して影響力を行使し、同様の法律を導入させることで、ジョージア国内の欧米寄りの動きを抑制しようとしているのではないかとの見方があります。

したがって、ジョージアの「外国代理人」法案の成立とジョージアのNATO加盟問題は、広い意味で関係している可能性があります。ロシアはこの法案を通じて、ジョージアの民主化や西側との関係強化を阻止しようとしていると考えられるからです。

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2024年1月13日土曜日

ウクライナ・イスラエルでのバイデンの苦境 ―背景に民主党の分裂―【私の論評】ウクライがロシアのGDPを凌駕するロードマップを描け

 アメリカ現状モニター

ウクライナ・イスラエルでのバイデンの苦境
―背景に民主党の分裂
 

渡部 恒雄
笹川平和財団上席研究員

まとめ
  • ニューヨーク・タイムズとシエナ大学の共同世論調査により、イスラエル・パレスチナ衝突におけるバイデン政権の支持が33%、不支持が57%となり、トランプとの比較でもトランプが優位とされた。
  • 同調査では大統領候補としての支持でもトランプが優位であり、共和党優位の選挙人団制度を考慮すると、バイデン陣営にとって厳しい状況となった。
  • ウクライナ支援に関しても共和党との交渉が難航し、ウクライナ支援の予算に対する民主党左派の反発が生じている。
  • イスラエル情勢においても左派が政権に圧力をかけ、外交政策での難航が左派の不満の対象となっている。
  • バイデン政権がこれらの矛盾を脱却し、支持を得るためには、イスラエル・パレスチナ紛争とウクライナ戦争に対する左派と有権者の認識を変える必要がある。
バイデン

12月10日から14日にかけて行われたニューヨーク・タイムズとシエナ大学の共同世論調査によると、イスラエル・パレスチナ衝突におけるバイデン政権の政策に対する支持は33%で、不支持が57%となった。トランプとの比較では、イスラエル・パレスチナ衝突をどちらがうまく処理できるかについて、バイデン38%、トランプ46%となり、トランプが優位だった。また、大統領候補としての支持もトランプが49%、バイデンが43%で、共和党候補が優位とされている。これが共和党優位の選挙人団制度を考慮すると、バイデン陣営にとっては艱難な状況となっている。

同調査によれば、回答者の44%はガザの死者が既に2万人を超えている状況で、イスラエルはハマスに対する軍事作戦を停止すべきだと考えており、48%はイスラエル軍が十分な配慮をしていないと回答している。

バイデン政権はウクライナ支援のために共和党議会の支持を得ようとしているが、ウクライナ支援の予算に対する厳しい交渉が続いている。ウクライナ大統領のゼレンスキー氏はバイデン大統領や議員らと面会し、ウクライナへの支援継続を訴えた。一方で、共和党はウクライナ支援の条件として国境対策を求め、これが民主党左派の反発を招いている。

中東政策でもトランプ支持が増え、特にイスラエル情勢においては左派が政権に圧力をかけている。これにより、バイデン政権は外交政策での難航が左派の不満の対象となり、米国内外のストロングマンたちが優位に立つ状況となっている。これらの矛盾から脱却するためには、バイデン政権がイスラエル・パレスチナ紛争とウクライナ戦争に対する左派と有権者の認識を変え、支持を獲得する必要がある。

この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】ウクライがロシアのGDPを凌駕するロードマップを描け

まとめ
  •  共和党と民主党内の左派がウクライナ支援に反対していると報じられ、トランプ政権成立時には支援の削減が懸念されている。
  • 大統領が誰になっても、ウクライナへの強力な支援が必要。ウクライナの主権支持や、プーチンのロシアに対抗する必要性が党派を超えたものである。
  •  ウクライナが戦後復興やEU加盟により経済的に大きく成長する可能性があり、ロシアを経済的に凌駕することもあり得る。
  • ウクライナが過去に経済成長できなかったのは、ソビエト連邦崩壊後の腐敗した民営化や、中央集権的統制の影響、汚職との腐敗の蔓延によるものである。
  •  ウクライナがEUに加盟することができれば、脅威の経済発展しロシアを凌駕することも夢ではなく、これをウクライナと支援国がロードマップに描くべき

ウクライナ支援に関しては、共和党も民主党内の左派も反対なようですが、もしトランプ政権が成立した場合、トランプ氏はウクライナへの支援を減らすか取りやめる可能性も取りざたされています。

私自身は、誰が大統領になったとしても、ウクライナへの強力な支援を維持してほしいです。プーチンのロシアに立ち向かい、ウクライナの主権を支持することは党派を超えて行われるべきだと思います。

ウクライナの自由と民主主義は米国の国益にかなうものです。米国はウクライナに対する見方を変えるべきと思います。

現状のウクライナに対する、共和党や民主党内の左派の見方は、民主主義の砦を守るための費用という見方しかしていないと思われます。しかし、これを費用としてだけとらえるのではなく、投資として見方を変えるべきと思います。現在は、発展途上国なみのウクライナですが、見方を変えれば、ウクライナには大きな洗剤可能性があります。

ウクライナ経済がロシア経済を凌駕する可能性

ウクライナの自由と民主主義が維持発展されれば、ウクライナはかなりの経済発展をする可能性があります。その根拠は、以下の表をご覧いただければ、ご理解いただけるものと思います。なお、以下の表は2021年のウクライナ戦争開戦の前年のデータです。

戦争中のデータは、特殊であるのと、正確性にも欠ける場合もあるので、2021年のデータを用いています。

まずは、一人当たりのGDPです。
GDP(ドル)一人当たりのGDP(ドル)
ウクライナ1,557億ドル3,745ドル
ロシア連邦1.7兆ドル10,610ドル
ウクライナのGDPは、ロシアの約10分の1であり、一人当たりのGDPも約3分の1でした。ウクライナは、ロシアに比べて経済規模が小さく、経済水準も低い国でした。これは、発展途上国の部類に入ると言って良い水準です。しかし、これは逆にいえば、かなりの伸びしろがあるということです。

次は、人口です。
人口
ウクライナ4,159万人(クリミア半島を除く)
ロシア連邦1億4,623万人

ロシア連邦と比較すれば、ウクライナの人口はロシアの1/3しかありません。それに、中国、インドの人口は14億人で、ロシア連邦の10倍です。このような国と比較すれば、確かにしウクライナの人口は少ないです。

しかし、ヨーロッパの他国と比較すれば、この人口は少ないとはいえません。また、モスクワ周辺に位置する、ロシア共和国の人口は、1000万人程度です。これを考えると、ロシアとウクライナの人口差は、絶望的に異なるという次元ではありません。

一人当たりのGDPと、人口から、ウクライナがロシア連邦のGDPを超えるには、一人当たりのGDPをどの程度にすれば良いのかを計算します。

2021年のウクライナとロシア連邦の人口は、ウクライナが約4,400万人、ロシア連邦が約1億4,600万人でした。

この人口差を考慮した計算式は、以下のようになります。
(ロシア連邦のGDP) / (ウクライナの人口) = 一人当たりのGDP

これを計算すると、以下のようになります。
1.7兆ドル / 4,400万人 = 38,636ドル

つまり、ウクライナがロシア連邦のGDPを追い越すためには、一人当たりのGDPが38,636ドル以上になる必要があります。

一人あたりの、GDPが38,636ドル付近の国を以下にあげます。比較の対象として日本、米国、ロシアも含めます。
一人当たりのGDP(ドル)
韓国38,740
台湾39,030
ポーランド32,250
スロバキア31,830
ロシア11,370
日本42,820
米国63,540

この表から、ウクライナは、一人当たりのGDPが韓国並になれば、ロシアのGDPと並ぶ水準になり、台湾並になれば、ロシアのGDPを追い越すことになることがわかります。

無論、これは戦争前の比較ですから、ウクライナが戦後復興して、それからの経済成長によりこうなるということになりますが、それにしても、一人あたりのGDPが台湾位の水準になれば、ロシアの GDPを完璧に追い越すというのですから、これはまったく不可能であり得ないということとは言えません。

もし、これが、日本やドイツ、フランス並とか、それ以上というなら、かなり難しいです。さらに、人口面でも、ウクライナとロシアの人口が、10倍以上もあれば、これもかなり難しいです。

しかし、ロシアとウクライナとの比較ということであれば、これは全く不可能とはいいきれないです。

ただし、これは数年ではなく数十年のスパンで達成できるということになると思います。ただ、日本の高度成長のような成長が可能となれば、10年くらいで達成できるかもしれません。

そのような目でみると、なぜウクライナは過去には経済発展できなかったのかという疑問がわきます。

ウクライナはなせ経済成長できなかったのか

ウクライナが過去に経済成長できなかった理由はいくつあります。

まず、ソビエト連邦の崩壊は、ウクライナの工業生産高、特に鉄鋼や鉱業のような重工業の急激な減少につながりました。これは雇用、輸出、全体的な経済成長に大きな影響を与えました。

ソ連時代には他の部門を犠牲にして重工業に重点を置いたため、ウクライナの産業基盤は時代遅れで硬直化し、変化する世界的な需要に対応するのに苦労しました。その結果、経済の多様化と競争力の欠如を招いてしまいました。

ソビエト連邦崩壊

次に、ウクライナがロシアの干渉を受け続けてきたことです。ロシアはウクライナの政治に関与してきた長い歴史があり、しばしば影響力を行使し、ウクライナの軌道を形成しようとしてきました。これには、クリミア併合やウクライナ東部で進行中の紛争に見られるように、特定の政治派閥を支援したり、誤った情報キャンペーンを行ったり、さらには軍事介入に訴えたりすることも含まれます。

ウクライナの犠牲の上にロシアが利益を得ているとされる不公正な貿易慣行や資源操作への懸念が提起され、経済的搾取への非難もあります。さらに、ソ連時代のホロドモール飢饉のような歴史的な出来事は、ロシア国家による意図的な搾取の例とみなされています。

さらに、ウクライナ国内の汚職や腐敗です。ソビエト体制は、ウクライナの社会とビジネスの多くの側面に浸透し続けているビジネス主体に対する後援と縁故主義の文化を育みました。これが公正な競争を妨げ、外国からの投資を抑制し、生産活動から資源を遠ざけています。

インフォーマルなネットワークと官僚主義 複雑な官僚制度を利用した経験から、ビジネスを行うための複雑なインフォーマル・ネットワークが発達してしまったのです。こうしたネットワークは近道を提供してくれるかもしれないですが、法的枠組みの外で運営されていることが多く、不透明で不公正なビジネス環境を助長しています。

1990年代の民営化 ソビエト連邦崩壊後、ウクライナは国有資産の大規模な民営化を実施しました。しかし、このプロセスは汚職にまみれ、価値ある企業が政治的につながりのある人物に割安な価格で売却されました。その結果、富と経済力が一部の人間に集中し、経済全体が投資と競争の欠如に苦しむことになりました。

ウクライナでは汚職との戦いが続いており、近年はさまざまな改革やイニシアチブが実施されています。

計画経済から市場システムへの移行は、法的・制度的枠組みの不備により困難なものとなっています。このことが企業や投資家に不確実性をもたらし、リスクの増大と経済活動の低下を招いています。

 数十年にわたる中央集権的な統制が、個人の自発性やリスクテイクを抑制し、起業家精神の欠如を助長し、活力ある民間セクターの発展を妨げてきました。

しかし、この複雑な問題に完全に対処し、ウクライナの経済的潜在力を最大限に引き出すには、まだ多くの課題が残されています。

ウクライナのソ連時代からの負の遺産は、根深いものがあるのです。こうした負の遺産を解消すれば、ウクライナの経済がのびる余地はかなりあります。

ウクライナ

計り知れないウクライの急速な経済発展の可能性

戦争終結、汚職撲滅、EU加盟などの条件が満たされれば、ウクライナの急速な経済発展の可能性は計り知れないです。

強固な基盤

ウクライナは、強固な基盤(インフラ)を持っており、これは他の発展途上国等にはないものです。

多様な産業基盤: ウクライナには、農業、鉱業、冶金、化学、機械、IT、宇宙、軍事など、確立された産業部門があります。宇宙産業に関しては、ロシアがウクライナから部品を輸入しており、これが絶たれると、ロシアの宇宙開発に支障がでるかもしれないとい割れるほどの水準にあります。また、これはあまり知られていませんが、中国の軍事技術の母体となったのは、ウクライナの技術です。 

この多様な基盤は、さらなる経済成長と新市場への進出を可能にする強力な土台となります。

高学歴の労働力: ウクライナは識字率99.4%という高い教育水準を誇っています。ヨーロッパの大学教育の統一基準・水準は、「バチェラー・マスター・ドクター(Bologna Process)」と呼ばれています。これは、1999年にイタリアのボローニャで開催された欧州高等教育会議で採択された「ボローニャ宣言」に基づき、欧州の大学教育の質と国際競争力を向上させるために制定されたものです。

ウクライナの大学・院にもBologna Processが適用されています。ウクライナは教育という面でヨーロッパと変わらず、物価も安いということから、戦前は、中国人の手頃な留学先として人気がありました。

また、人口あたりのエンジニアの数は、世界でトップクラスにあります。工学、科学、技術などさまざまな分野に長けた人材が容易に確保できることは、海外からの投資を誘致し、イノベーションを促進する上で貴重な資産となります。

戦略的立地: EUとロシアの間に位置し、中東のトルコと黒海を経て接するウクライナは、重要な貿易・中継拠点となりうる地理的優位性を享受しています。インフラとロジスティクスの改善により、この優位性を活かして市場を結びつけ、地域の経済活動を活性化させることができます。

これらの基盤は、他の発展途上国等には見られないものであり、ウクライナの高い潜在可能性を示しています。 

EU加盟

単一市場へのアクセス: EUに加盟すれば、4億5,000万人以上の消費者を抱える世界最大の単一市場へのシームレスなアクセスがウクライナにもたらされます。これにより、ウクライナの企業が商品やサービスを輸出する機会が大きく広がり、海外からの投資を呼び込み、経済成長を促すことができます。

金融・技術支援: EU加盟には、インフラ整備、制度改革、事業開発を目的とした多額の資金・技術支援プログラムが付随しています。これらの資源は、ウクライナの経済的進歩と近代化を加速させる上で有益です。

ガバナンスと法の支配の改善: EUの基準に合わせるためには、制度を強化し、法の支配を堅持し、腐敗と闘うことが必要である。これにより、より予測可能で透明性の高いビジネス環境が構築され、信頼が醸成され、海外からの投資が誘致されるでしょう。

その他の要因

豊富な天然資源: ウクライナは肥沃な農地、鉱物資源、黒海へのアクセスに恵まれています。これらの資源を持続的に管理することで、環境を保全しながら大きな経済的利益を生み出すことができます。

起業家精神: ウクライナ人は回復力があり、機知に富み、起業家精神に富むことで知られています。こうした資質は、長年のロシアの軛から開放され、支援的な環境と相まって、イノベーションと新規事業の創出を促進し、経済のダイナミズムに貢献することができます。

技術的潜在力: ウクライナには、熟練した労働力と活発な新興企業エコシステムを擁する成長著しいIT分野があります。このセクターを育成し、AIや再生可能エネルギーなどの新興技術への投資を呼び込むことで、ウクライナ経済を将来に向けて推進することができます。

もちろん、現在はロシアの侵攻を受けており、様々なインフラが破壊されていますし、先にあげたような課題も残っています。しかし、潜在的な見返りは大きいです。戦争が終わり、適切な条件と継続的な決意さえあれば、ウクライナは独自の強みと戦略的優位性を活かして急速な経済発展を遂げ、豊かで繁栄する国家としての地位を確立することができるでしょう。そうして、それはEU諸国にとって、ロシアの隣国にEUの味方である、強力な国ができあがることを意味します。これは、EUの安全保障にとっても良いことです。

そうした観点で、ウクライナ支援をとらえるべきです。ウクライナ支援はこうしたことを見据えて行うべきですし、ウクライナ側もこうした視点を支援国に示すべきです。

米国、日本、EUもウクライナと協同で、叡智を絞り、ウクライナがいずれロシアのGDPを追い越し、経済発展をつづけ、西側諸国とともに栄えるパートナーとなり、ロシアに対する強力な防波堤になることをロードマップに落とし込み、その上で支援をするようにすべきです。

これによって、米国は誰が、大統領になっても支援はやりやすくなるでしょう。それは、日本もふくむ、西側諸国も同じです。

イスラエルに関しても、イスラエル、ガザ地区(パレスチナ)の双方が経済発展し、テロリストを一掃し、安全保障での中東の要となれるようなロードマップを描くべきです。

日本こそ、このようなことに関してリーダーシップを発揮すべきと思います。

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2023年6月17日土曜日

プーチン大統領が〝孤立〟 旧ソ連カザフスタンなど離脱、周辺からも支持失う  「反ロシア・反プーチン連合も」 中村逸郎氏が指摘―【私の論評】ウクライナ戦争が旧ソ連地域におけるロシアの立場を弱め、その影響力を維持することをより困難にした(゚д゚)!

プーチン大統領が〝孤立〟 旧ソ連カザフスタンなど離脱、周辺からも支持失う  「反ロシア・反プーチン連合も」 中村逸郎氏が指摘

プーチン大統領の「ソ連回帰」が周辺国に警戒されているのか


 ウクライナ侵略をきっかけに、旧ソ連諸国の中で「プーチン離れ」が進んでいる。

 ロシア指導部への支持率が急落し、ウクライナやモルドバを含む他の旧構成国でもロシアとの関係に疑問符がつくようになっている。

 ロシアのウクライナ侵略に対して批判的な態度を示してきたカザフスタンのトカエフ大統領は、サンクトペテルブルク国際経済フォーラムでの会議を欠席し、ロシアとの一線を画した態度を明確にした。

 一方、ウクライナのゼレンスキー大統領はモルドバで開催された首脳会合に出席し、欧州との結束を確認した。

 ロシアの支持率の急落は、モルドバ、アルメニア、カザフスタン、アゼルバイジャンなどの旧ソ連諸国で顕著であり、プーチン大統領の「ソ連回帰」の試みに対しては懐疑的な声も上がっている。

 中村逸郎名誉教授は、ロシアが埋没していることを嫌い、プーチン大統領が「ロシアの栄光」を復活させようとしていると指摘し、旧構成国間で「反露・反プーチン連合」が形成される可能性もあると述べている。

 これは、元記事の要約です。詳細を知りたい方は是非元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】ウクライナ戦争が旧ソ連地域におけるロシアの立場を弱め、その影響力を維持することをより困難にした(゚д゚)!

ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、長い間、ソビエト連邦を復活させようとしていると非難されてきました。彼はソビエト時代を懐かしむように語り、ロシアのメディアや経済に対する権力と支配力を強化するための措置をとってきました。また、異論や反対意見を取り締まり、クリミアを併合し、ウクライナ東部の分離独立派を支援してきました。

ソビエト連邦の復活を目論むプーチンだが・・・・・

プーチンのウクライナでの行動は、東ヨーロッパにおけるソビエト連邦の勢力圏を再現しようとする試みであると多くの人が見ています。ウクライナはかつてソビエト連邦の一部であり、ロシア語を話す人口も多いです。プーチンは、ウクライナへの侵攻を「非武装化・非ナチス化」のために必要だと主張し、正当化しています。しかし、プーチンの真の狙いは、ウクライナのNATO加盟を阻止し、ロシアの勢力圏に留めることにあるとする見方が多いです。

プーチンの思いとは裏腹に、ウクライナ戦争は、プーチンのソビエト連邦復活の野望を大きく後退させるものになりました。ウクライナ国民は独立のために戦う意思を示し、ロシア軍に多大な犠牲をもたらしましたた。

また、この戦争は、ロシアの経済と世界舞台での評判にダメージを与えました。プーチンがソビエト連邦の復活という目標を達成できる可能性は低いですが、今後も旧ソ連共和国に対する支配力を行使し、東ヨーロッパにおけるロシアの影響圏を拡大しようとしていた可能性は高いです。

プーチンのウクライナでの行動が、ソ連復活の試みとどのように関連しているのか、具体的な例をいくつか挙げます。

クリミアの併合 2014年、ロシアはウクライナからクリミア半島を併合しました。これは明らかな国際法違反であり、プーチンがソビエト連邦の国境を復活させようとしている兆候であると多くの人が見なしました。

 ロシアは2014年以降、ウクライナ東部の分離主義者を支援してきました。これらの分離主義者はウクライナ政府と戦っており、多大な死と破壊を引き起こしています。ロシアの分離主義者への支援は、ウクライナを不安定化させ、NATOへの加盟を阻止するための試みであると多くの人が見ています。

さらに、プーチンは2000年に政権に就いて以来、ロシアにおける反対意見を取り締まってきました。野党指導者を投獄し、言論の自由を制限し、メディアを統制してきました。このような反対意見の取り締まりは、ソビエト連邦に似た全体主義国家を作ろうとしていると多くの人が見ています。

ただ、プーチンは、ソビエト連邦を復活させようとしていると明言したことはないことに注意する必要があります。しかし、ウクライナなどにおける彼の行動は、それが彼の目標であることを示唆しています。ウクライナ戦争はプーチンにとって大きな後退だが、プーチンがその野望をあきらめることはないでしょう。

ただ、この考えは、一種妄想に近いともいえると思います。そもそも、ロシアがウクライナに侵攻し、キエフを占領し、ゼレンスキー政権を追放し、傀儡政権を作ることは、最初から不可能だったと考えられます。ウクライナ侵攻直前でさえ、ロシアのGDPは韓国をわずかに下回る程度であり、軍事力もNATOの連合軍ほど強力ではありません。

軍事費も一般に思わているほど大きくはありません。日本が軍事費を倍にすると、ロシアの軍事費をかなり上回ることになります。それでも、なぜロシアが軍事大国と思われてきたかといえば、旧ソ連の核兵器と、軍事技術を継承した国がロシアだからです。

無論、これを侮ることはできませんが、自ずと限界はあります。できることは限られています。ウクライナ侵攻は当初から絶望的に困難なことだったといえます。
IMFデータをもとにした世界の名目GDP国別ランキング

ロシアのウクライナ侵攻が成功しなかった理由をいくつか挙げてみます。

まず、ウクライナ国民は自国のために戦う意志を持っていることです。ウクライナ国民は国のために戦う意思を示し、ロシア軍に多くの犠牲者を出している。そのため、ロシアは目的を達成することが難しくなりました。

国際社会はロシアに厳しい制裁を課しています。米国とその同盟国は、ロシアがウクライナに侵攻したことを受けて、ロシアに厳しい制裁を課しています。これらの制裁はロシア経済を麻痺させ、ロシアが軍事活動を維持することを困難にしています。

ロシアは多くの戦略的誤りを犯してきたことです。ロシアはウクライナ侵攻において、多くの戦略的誤りを犯しました。ウクライナの抵抗力を過小評価したこと、ウクライナ上空の制空権を確保できなかったこと、目的を迅速に達成できなかったことなどです。

ウクライナ戦争が長期的にどのような結果をもたらすかについては、まだ時期尚早です。しかし、ロシアが大きな後退を喫し、世界におけるロシアの地位が弱体化したことは確かです。また、この戦争は、ウクライナの人々が自国を守る決意を固め、戦わずしてあきらめないということを示しました。

キエフ郊外のアントノフ空港で、ウクライナの女性兵士とともにたたずむオレナ・ゼレンスカ(青色のコートの女性)。

ウクライナ侵攻をきっかけに、旧ソ連諸国の間でプーチンからの「離反」が進んでいることは、上の記事に示されていますが、これには、以下のような要因があります。

まず、ウクライナ戦争は、ロシアが信頼できるパートナーでないことを示したことです。ウクライナへの侵攻は明らかな国際法違反であり、多くの死者と破壊をもたらしました。このため、多くの旧ソ連諸国は、ロシアが約束を守ってくれるかどうかを疑問視するようになりました。

ウクライナでの戦争は、ロシアの経済にダメージを与えました。米国とその同盟国が課した制裁は、ロシア経済に大きな影響を与えました。そのため、ロシア国内の生活水準が低下し、旧ソ連諸国への経済支援も難しくなっています。

ウクライナ戦争は、プーチンに対する信頼の失墜を招きました。ウクライナへの侵攻は、プーチンが自分の目的を達成するために軍事力を行使することを厭わないことを示しました。このため、多くの旧ソ連諸国は、プーチンが自分たちの最善の利益のために行動することを信頼できるかどうかに疑問を持つようになりました。

こうした要因の結果、多くの旧ソ連諸国がロシアから距離を置くための措置をとっています。例えば、グルジアとモルドバはNATOへの加盟を申請し、アルメニアは集団安全保障条約機構(CSTO)への加盟を停止しています。これらの国々は欧米との緊密な関係を求めており、安全保障や経済的支援をNATOや欧州連合に求めている。

旧ソ連諸国の間でプーチンからの「離反」が進んでいることは、ロシアにとって大きな後退です。この地域におけるロシアの影響力が衰えていることを示すものであり、プーチンが目指すソビエト連邦の復活への挑戦でもあります。ロシアがこの課題にどう対応するかは不明ですが、ロシアはこの地域での影響力を維持する方法を模索する可能性があります。

たとえば、ロシアはその経済力を利用して、旧ソ連諸国に圧力をかけ、自国に従わせることができます。例えば、貿易や投資を遮断したり、エネルギー輸出の価格を引き上げたりすることが考えられます。

ロシアは、旧ソ連諸国が西側諸国と協調することを阻止するために、軍事力を行使することができます。例えば、旧ソ連諸国との国境付近で軍事演習を行ったり、旧ソ連諸国のうちロシアと同盟を結んでいる国に軍隊を派遣したりすることです。

さらに、ロシアは、偽情報やプロパガンダを用いて、旧ソ連諸国の住民の間に不和や不信感を植え付けることができます。これにより、旧ソ連諸国がロシアに対して団結することをより困難にすることができます。

そうして、ロシアは、旧ソ連諸国において自国の価値や利益を促進するために、文化的影響力を行使することができる。これは、ロシアのメディア、教育、スポーツを利用することで可能です。

重要なのは、ロシアがこれらの方法を一度にすべて使う可能性はないということです。むしろ、国や地域によって、いくつかの方法を組み合わせて使う可能性が高いです。

ロシアが旧ソ連地域で影響力を維持しようとする努力が成功するかどうかは、以下のような多くの要因に左右されます。

①旧ソ連諸国の経済力と軍事力、②欧米との関係強化に対する国民の支持の程度、③欧米の対ロシア制裁の有効性等です。

ウクライナ戦争が旧ソ連地域におけるロシアの影響力に長期的にどのような影響を与えるかについて結論を出すのは時期尚早です。しかし、この戦争がこの地域におけるロシアの立場を弱め、ロシアがその影響力を維持することをより困難にしたことは明らかです。

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2023年5月13日土曜日

中国、NATO日本事務所に反発 「歴史の教訓くみ取れ」―【私の論評】中国は、将来「インド太平洋諸国同盟」が出来上がることを恐れている(゚д゚)!

中国、NATO日本事務所に反発 「歴史の教訓くみ取れ」

中国外務省の汪文斌(おう・ぶんひん)報道官

 中国外務省の汪文斌(おう・ぶんひん)報道官は12日の記者会見で、北大西洋条約機構(NATO)が日本に連絡事務所開設を検討していることについて「日本が真剣に歴史の教訓をくみ取って、地域の国家間の相互信頼や、平和と安定を損なうことをしないよう求める」と反発した。

 汪氏は、アジア太平洋地域はNATOの地理的範囲には入っておらず、アジア版NATO創設も必要ないとした上で「NATOはアジア太平洋国家との関係を強化し、地域に干渉し続けている」と批判した。

 日本政府に対しては「本当にNATOアジア化の急先鋒になりたいのか」と対応に強い疑問を呈し、日本が平和発展の道を堅持するよう求めると強調した。

【私の論評】中国は、将来「インド太平洋同盟」が出来上がることを恐れている(゚д゚)!

北大西洋条約機構(NATO)は、1949年にソビエト連邦に対抗するために設立された軍事同盟です。本部はベルギーのブリュッセルにあり、現在、30か国が加盟しています。NATOは攻撃された場合、加盟国の防衛を約束する集団安全保障体制です。

4月25日、 ディエラNATO国際軍事幕僚部国際安全保障局長 (イタリア陸軍中将)の表敬を受けた吉田統合統幕長

中国は、NATOが東アジアに進出することで、自国の安全保障上の利益に影響を及ぼすことを懸念しています。中国は、米国との緊張関係が高まっている中で、NATOが東アジアに進出することで、米国との連携を強化し、中国に対する圧力を増大させることを危惧していると考えられます。

さらに、中国は、日本がNATOと協力することで、日本が自国に対してより強硬な姿勢を取る可能性があると見ています。日本がより積極的に自衛隊の装備や兵力を増強することで、中国にとっては軍事的脅威になると考えているようです。

最後に、中国は、NATOが日本に事務所を開設することで、アジア太平洋地域の地政学的バランスが変化することを懸念しているのでしょう。NATOが日本に進出することで、米国や日本を中心とした新たな安全保障体制が形成される可能性があり、中国の影響力が低下することを恐れているためです。

歴史的にも、同盟が離合した例は数多くあります。以下にいくつかの例を挙げます。

1.第一次世界大戦中の中央同盟国

第一次世界大戦中、ドイツ、オーストリア=ハンガリー、イタリア、オスマン帝国は「中央同盟国」として同盟を結びました。しかし、戦争が長引くにつれ、同盟国の間で緊張が高まり、イタリアは1915年に同盟から離脱し、連合国側に参戦しました。

2.第二次世界大戦中の枢軸国

第二次世界大戦中、ドイツ、イタリア、日本は「枢軸国」として同盟を結び、戦争に参戦しました。しかし、同盟国の間での意見の相違や利害の対立などが生じ、枢軸国内部でも分裂が生じました。イタリアは1943年に連合国に負け、連合国側に与し参戦、ドイツは1945年5月に降伏、三国同盟は崩壊しました。

3.冷戦期の東西陣営

冷戦期には、米国とその同盟国が「西側陣営」、ソ連とその同盟国が「東側陣営」として、それぞれ同盟関係を結びました。しかし、同盟国の間での意見の相違や利害の対立が生じ、同盟内部でも分裂が生じました。例えば、ソ連と中国は意見が合わず、1960年代後半には対立が深まり、両国間での軍事衝突も発生しました。

以上のように、同盟が離散例は歴史的にも多く存在します。同盟は国家の利益や関心事が一致する場合に結ばれますが、同盟内部での意見の相違や利害の対立が生じることもあるため、必ずしも同盟が結束を維持することはできません。

一方、集散の例も多々あります

1.ヨーロッパ連合(EU)

ヨーロッパ連合は、かつてのヨーロッパ共同体を発展させて結成された同盟です。EUは加盟国が増え、経済・政治的な統合が進んでいます。EUは経済面や外交面などで、一定の成果を上げています。

2.アフリカ連合(AU)

アフリカ連合は、アフリカ諸国の統合を目指して結成された同盟です。AUは、アフリカ大陸の平和・安全保障や経済発展の促進を目的としています。AUは、加盟国が増え、地域的な協力や統合が進んでいます。

3.東南アジア諸国連合(ASEAN)

東南アジア諸国連合は、東南アジア地域の統合を目指して結成された同盟です。ASEANは、東南アジア地域の平和・安定・繁栄の促進を目的としています。ASEANは、加盟国が増え、地域的な協力や統合が進んでいます。

インド太平洋地域

AUKUS、QUAD、CPTPPはすべて、インド太平洋地域の安全保障を強化することを目的とした新しいイニシアチブです。これらの同盟はすべて、中国の台頭に対抗することを目的としています。

中国はインド太平洋地域でますます積極的な役割を果たしており、米国とその同盟国にとって脅威と見なされています。これらの同盟は、中国の野心を抑制し、地域の安定を維持するために設計されています。

AUKUS、QUAD、CPTPP、それらはやがて一つにまとまり、作り替えられて、将来、「インド太平洋諸国同盟(仮称)」として花開く可能性を秘めています。それは、NATOのような加盟国の防衛を約束する集団安全保障体制をも内包するものになるかもしれません。それには、NATOは貢献できるかもしれません。

NATOとしては、中国の動きはロシアの動きなどとも無関係ではないので、情報共有という意味合いで、インド太平洋諸国同盟と関係を持つことになるかもしれません。場合によっては、強調することもあるかもしれません。これは、中国にとってのみならず、ロシア、北朝鮮、イランなどに対しても強い牽制になります。


インド太平洋戦略の生みの親である、亡くなられた安倍元総理も、「インド太平洋諸国同盟」の可能性を夢見ておられたと思います。

今、われわれが目にしているのはその始まりにすぎないのです。そうして、まさに中国はこれを恐れていると見られます。

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2023年5月3日水曜日

ロシア 爆発で2日連続の列車脱線「破壊工作」とみて捜査―【私の論評】あらゆる兆候が、ウクライナ軍の反転大攻勢が近く始まることを示している(゚д゚)!

ロシア 爆発で2日連続の列車脱線「破壊工作」とみて捜査


 ウクライナと国境を接するロシア・ブリャンスク州で2日夜、爆発が起こり、貨物列車が脱線しました。ブリャンスク州では前日も爆発による列車の脱線が起きたばかりでした。


 タス通信などによりますと、ブリャンスクの州都に近い駅の付近で2日夜、爆発が起き、貨物列車およそ20両が脱線したということです。けが人はいませんでしたが、当局は何者かが意図的に爆発物を仕掛けたものとみて、調べています。

 ブリャンスク州では前日も爆発により、ベラルーシから石油製品などを運んでいた貨物列車が脱線していて、ロシア当局は破壊工作とみて調べています。

 ブリャンスクでは今年3月、ウクライナから侵入したとみられるグループが、市民2人を殺害する事件が起きていて、プーチン大統領は、テロとの見方を示していました。

【私の論評】あらゆる兆候が、ウクライナ軍の反転大攻勢が近く始まることを示している(゚д゚)!

ウクライナのロシア侵攻は、現状では東部と南部に限定されています。であれば、こちらの地域の鉄道を破壊するならわかりますが、なせブリャンスク州なのでしょうか。

3月には武装集団がウクライナから国境を越えてブリャンスク州西部の村を襲撃。直後にロシアからウクライナに移住した極右活動家が率いる組織が犯行声明を出すなど、不穏な事態が相次いでいます。これをロシア側は「ウクライナ側」の仕業としましたが、ウクライナ側は否定しています。

上の記事にもあるように、前日の1日にも、ブリャンスク州で同様の爆発が起きていました。ボゴマズ州知事は1日、テレグラムを通じて「ブリャンスクとウネーチャをつなぐ線路の136キロ地点で午前10時17分頃、正体不明の爆発装置が炸裂し、貨物列車が脱線した」と伝えました。

この事故でも人命被害はありませんでしたが、事故現場の写真を見ると、線路脇の草むらに倒れた列車に火がつき、煙が立ち上る様子が確認できる。この列車は石油と建築資材を運んでいたといいます。

同日、ロシアの第2の都市サンクトペテルブルクから南に60キロ離れたスサニノ村の近くでは、送電塔が破壊された。レニングラード州のアレクサンドル・ドロスデンコ州知事は、一晩の間に送電塔1基が爆破され、他の送電塔近くでも爆発装置が発見されたと明らかにした。ロシア当局はソーシャルメディアとマスコミを通じてこのニュースを伝えたが、誰の仕業かについては言及しなかった。


ブリャンスク州は、ロシア西部に位置し、ベラルーシ、ウクライナと国境を接する地域である。モスクワと西ヨーロッパ、ロシアとウクライナを結ぶ主要な交通路に位置し、戦略的な立地です。

ソ連時代、ブリャンスク州は軍事兵站の重要な拠点として、西部戦線への兵員や物資の輸送の拠点となっていました。ソビエト連邦崩壊後、この地域の軍事的プレゼンスは低下しましたが、輸送インフラは維持されたままでした。

近年、ロシア軍はブリャンスク州のインフラに投資し、物流能力を向上させているとの報告があります。鉄道や道路網の拡張、保管施設や物流センターの新設などです。

ロシアのウクライナ侵攻において、ブリャンスク州が兵員や物資を前線に輸送するための物流拠点として機能する可能性はあります。ただ、先にも述べたように、現状の戦線はウクライナ東部、南部に集中しています。

ただ、懸念されるのは、ロシアのプーチン大統領は昨年12月、ベラルーシのルカシェンコ大統領との会談で両国軍の合同演習の継続で一致するなど、ベラルーシとの結束を誇示しました。ベラルーシ国防省は6日、新たに露軍部隊が到着したとして、鉄道で運ばれてきたとみられる多数の軍用車の写真を公開しました。ベラルーシ大統領府は同日、ルカシェンコ氏が露軍部隊も駐留するウクライナ国境近くの演習場を視察したと発表しました。

ロシア軍が再度、キーフへの侵攻をする可能性も捨てきれません。その場合、ブリャンスク州がロシア軍の兵站基地になることが考えられます。しかも、ブリャンスク州はベラルーシとも国境を接しています。

ベラルーシの軍隊や軍事物資等、ブリャンスク州を経由して運ばれることも懸念されます。そのため、今回のテロはこれに対する牽制であるとも受け取れます。

ただ、米国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官は1日の記者会見で、情報機関の分析として、ウクライナに侵攻するロシア側の兵士・戦闘員の昨年12月以降の死者数が2万人以上、負傷者数が8万人以上にのぼるとの見方を示していました。

ロシアはウクライナ東部ドネツク州バフムトの攻略を目指しており、ここ数カ月で死傷者数が加速度的に増加しているとみられます。これでは、ロシアにはもうすでに、ウクライナ東部・南部戦線と、キーウを狙う北部戦線のすべで攻勢に出るのはかなり難しいでしょう。

カービー氏は、ウクライナ側の死傷者数は明らかにしませんでした。ロシア側の死傷者の多くは、民間軍事会社「ワグネル」の戦闘員といいます。刑務所からリクルートされた受刑者らが、十分な戦闘訓練や指導もないままバフムトなどに投入されているとしました。

この状況だと、ブリャンスク州やクルスク州などは軍事的にはかなり手薄になっていると考えられます。これは、ロシアもしくはウクライナの武装グループが仕掛けたものでしょう。あるいは、両方かもしれません。

武装グループにとっては、まずは攻撃しやすいということがあるのでしょう。さらに、今後のウクライナ軍による大反抗が予想されるなか、ブリャンスク州で頻繁にテロを起こして、こちらのほうにロシア軍をひきつけて、少しでもウクライナに有利になるようにするという意図もあるとみえます。

先月29日には、2014年3月にロシアが合併を宣言したクリミア半島のロシア黒海艦隊の拠点であるセバストポリの油類貯蔵庫で、ドローンによるものとみられる攻撃で爆発が発生しました。ウクライナ軍はこれに対して、異例にもウクライナ軍の大規模反撃攻勢のための「準備過程」だったと発表しました。

軍ではない、武装グループもこれに呼応して、自分たちの裁量で、破壊活動をしている可能性があります。

モスクワの軍事政治研究センターで責任者を務めるアンドレイ・クリンチェビッチ氏は「敵軍(ウクライナ軍)は今月9日(戦勝記念日)にロシア領土深くに入る込む大規模な挑発を準備している」と述べました。

モスクワで、戦勝記念日に行う軍事パレードのリハーサルをするロシア軍(4月28日)

同メディアは「(ウクライナは彼らの)勝利について欧米など世間の耳目を惹く動きを必要としている」と伝え、反撃の時期を戦勝記念日と予測した理由について説明しました。

同メディアは「ウクライナの反転攻勢によりロシアの都市を狙った小規模なテロ攻撃が数十回行われる可能性がある」とも予測しているとも伝えています。

旧ソ連による対独戦勝記念日である5月9日にモスクワの「赤の広場」で行う軍事パレードに、外国の首脳が一人も出席しない見通しとなりました。露大統領報道官が4月末、ロシア通信などに明らかにしました。

参加者や登場する兵器も減らす予定で、ウクライナ侵攻の影響が、プーチン大統領が特に重視する行事にも及んでいます。

報道官は、戦勝記念日は「我々ロシア人にとっての祝日だ」と述べ、「外国首脳を招待しなかった」と説明しました。戦勝75年の節目だった2020年には米欧や日本の首脳も招待してました。

やはり、ロシアはウクライナ反転攻勢を警戒しているでしょう。さらに、軍事パレードなどもテロの対象になる可能性を懸念しているのでしょう。

米ニューヨーク・タイムズも1日付で「ウクライナによる反転攻勢が近い徴候が相次いで捕捉された」と報じました。

ニューヨーク・タイムズは「この徴候には双方の軍事攻撃強化、ロシア軍による防衛陣地の移動、ウクライナと接するロシア西部の都市で発生した爆発による列車脱線事故なども含まれる」と伝えています。

ウクライナのレズニコフ国防相も先月28日に国営テレビに出演し「反撃の準備は最後の段階に入った」「その方法や位置、時期については指揮官たちが決めるだろう」と述べ、反転攻勢を予告しました。

これに対してロシア軍もウクライナの反転攻勢に備えるため、南部の防衛陣地に部隊を移動させています。英国の国防情報参謀部はロシアが最前線近くだけでなく、現在統制している地域でも「最も広範囲な軍事防衛システムを構築した」と説明しました。

米カペラ・スペース社の衛星写真に映し出された、ウクライナ・ザポロジエ州のロシア占領地域に築かれた3層構造の防衛線=4月11日 クリックすると拡大します

実際露側は進軍を妨害する約800キロメートルにも及ぶ防衛線(塹壕)の構築を急ぎ、完成間近か、完成されいることが分かっています。露軍は、占領地域の防衛に徹することに戦術を切り替え、持久戦に持ち込む狙いとみられます。

しかし、防衛線を保つには、乱れのない指揮系統や空中戦での優位が必須条件とされ、時代がかった長大な塹壕は無用の長物と化す可能性もあります。

さらにロシアはミサイルによる奇襲攻撃を行うことで大攻勢を阻む意図を伝えるとみられるシグナルを送っています。 ロシア軍は1日未明、ウクライナ全土に3日間で2回目となるミサイル攻撃を行いました。 東部の地区で大規模な火災が発生し、当局者によると34人が負傷、住宅数十棟が損害を受けました。 ウクライナ軍は、防空部隊がロシア軍のミサイル18発のうち15発を破壊したと発表しました。

これらは、本当に今月9日(戦勝記念日)に反転大構成があるかどうかは別にしてウクライナ軍の反転大攻勢を近いことを示している兆候であると考えられます。

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2022年10月2日日曜日

東部要衝リマン奪還 併合宣言直後、露に打撃―【私の論評】ロシア軍、ウクライナ軍ともに鉄道の要衝がなぜ軍事上の要衝になるのか(゚д゚)!

東部要衝リマン奪還 併合宣言直後、露に打撃


 ウクライナメディアは1日、ロシア軍が陣取ってきた東部ドネツク州の要衝リマンをウクライナ軍が奪還したと伝えた。ロシア国防省も1日、包囲を逃れるためリマンから部隊が撤退したと発表。前日にドネツク州を含む東南部4州の併合を一方的に宣言したばかりのロシアにとって、打撃となる。

 リマンはドネツク州北部の交通の拠点。リマン攻略で、東部ルガンスク州西部の人口約9万人のリシチャンスクを奪還できる可能性が高まった。

 ウクライナのティモシェンコ大統領府副長官は1日、軍兵士がリマン中心部で奪還を宣言する動画を通信アプリに投稿。動画で兵士らはロシア国旗を行政庁舎の屋上から投げ捨て、ウクライナ国旗を掲げた。

 ウクライナのゼレンスキー大統領は1日の動画声明で、ドネツク、ルガンスク両州で構成する東部ドンバス地域に、ウクライナ国旗を「1週間のうちに」さらに立てると述べ、攻勢を続ける考えを示した。

【私の論評】ロシア軍、ウクライナ軍ともに鉄道の要衝がなぜ軍事上の要衝になるのか(゚д゚)!

報道では、東部要衝リマンとされていますが、なせリマンが要衝なのかはほとんど語られていません。

なぜ、リマンが要衝なのかを理解するには、まずはロシア、ウクライナともに輸送のかなり大きな部分を鉄道に頼っていることを理解しなければならないです。

以下のグラフは、ロシア・ウクライナの輸送モード別貨物輸送量の推移です。比較対象として、ポーランドおよび英独仏伊の合計も掲載してあります。

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上のグラフでは、ロシア、ウクライナの輸送モード別のトンキロ・ベース輸送量の推移を掲げ、ソ連解体と各国独立国化の後に、どう変化してきたのかを示しました。同時にポーランドや西欧の動きとも比較しました。

ロシア、ウクライナともに、1991年のソ連解体とその後の経済瓦解、社会の大混乱によって、物流量は大きく落ち込んだことがデータから明らかです。

1990年代のボトム輸送量は、ロシアの場合、ソ連時代のピークと比較して、鉄道、道路では約4割、パイプラインでは5割弱にまでに落ち込んでいます。今以上に鉄道輸送への依存度が高かったウクライナでは鉄道貨物の輸送量が対1990年対比で3割近くにまで落ち込んでいます。

これは、かなり激しい経済の崩壊状態に見舞われたことを示しています。

しかし最悪の状態はそう長くは続かなかった。その後、だんだんとロシアの物流量は回復し、2009年のリーマンショック後の世界的な経済低迷の時期の一時的な落ち込みを経て、現在は、少なくとも鉄道とパイプラインに関しては、ソ連時代のピークにまで回復して来ています。

ところが道路に関しては、なおピーク時の86%に止まっています。つまり、鉄道とパイプラインに過度に依存し、道路輸送のシェアが極端に低いという物流構造の特徴がさらに強まっているのです。

ウクライナでは、パイプラインが減り、道路による輸送は、若干増えていますが、鉄道輸送はピークのときと比較すると回復しておらず、現状でも経済的に厳しい状況に置かれていたことがわかります。ウクライナの場合も、まだ道路輸送のシェアが極端に低くと鉄道に頼る物流構造であることがわかります。

同時期に西欧(英独仏伊の計)やポーランドでは鉄道は横ばいか低下傾向をたどっているのに対して、道路輸送が大きく伸長しており、ロシア、ウクライナの動きをそれ以外の地域の動きと比較すると余りに対照的です。ちなみに、日本も西欧と同様、鉄道は低下傾向をたどっています。

ロシア経済は回復してきているとはいえ、石油や天然ガスといった資源の輸出への依存体質からの脱却が難しいことがこうした状況を生んでいると言えます。

ロシアもウクライナも物資郵送は、未だに鉄道にかなりを依存しているのです。

そのうえで、以下にリマンを含むウクライナの地図を掲載します。


この地図から、イジュームからリマン、シヴェリスクまで鉄道が伸びていて、スラビャンスクとも接続できることがわかります。リマン奪還により、ポーランドからキーウ経由でクピャンスク、リマンまで鉄道の補給線がつながり、東部でウクライナは圧倒的に有利になったと思います。 逆にロシアは補給線を3/4失いました。

ロシア鉄道のゲージ(線路幅)はいわゆる標準軌(1435mm)よりも幅の広い広軌(1520mmまたは1524mm)で、ヨーロッパではウクライナを含む旧ソビエト連邦内とフィンランドでしか使われていません。スペインも広軌ですが、ゲージのサイズがロシアとは違います。

このゲージの違いが、ロシア軍の作戦行動に大きく影響します。バルト三国、ウクライナを含む旧ソビエト連邦内なら広軌で統一されており、鉄道でスムーズな兵站線が引けます。一方ポーランドには、ロシアからウクライナのキエフを経由して南部のスワフクフまで、1本だけ広軌の鉄道が通っていますが、ほかは国境のごく一部を除き標準軌であり兵站線を連続できません。

ゲージが違えば鉄道を使った兵站線はそのまま連続することができず、積み替えかゲージの変更(いわゆる改軌)工事を行わなければなりません。台車交換や軌間を変更できるフリーゲージ方式もありますが、しかし結節点には設備が必要でスムーズな物流を妨げますし、ロシアの貨物列車はほとんど対応していません。

積替えすれば良いという話しなるかもしれませんが、莫大な物資を全部積み替えるのはとてつもない労力を必要とします。トラックを使えば良いという話しにもなるかもしれませんか、ロシア、ウクライナとももともと鉄道に頼っているということから、道路網も西側諸国などから比較すれば、発達しておらず、トラックも十分とはいえません。

原油パイプラインについては、欧州向けパイプラインはウクライナ東部を通らず、ベラルーシからウクライナ西部を抜けて、スロヴァキア及びハンガリーにぬけるものがメインとなっています。ロシア側としては、パイプラインを軍事転用することもできません。やはり物資、燃料ともに鉄道に頼るしかないのです。

この兵站線の特徴からロシア軍は、ウクライナ等の旧ソビエト連邦領域内で「積極的作戦」は行えますが、領域外で持続的な作戦行動を行う能力は限定的です。鉄道による兵站線が引けるかどうかのゲージの違いが、ポーランドとウクライナの安全保障上のリスクに違いを生んでいるといえます。しかしロシアがウクライナを抑えればまた状況は変わります。キエフ経由の広軌が利用でき、ポーランドのリスクは格段に高まります。 

国境付近に集結した兵力を数えるだけではなく、軍用列車を観察することでロシア軍がどう動くつもりなのか占うことができます。SNSに投稿される鉄道で運ばれる戦車の動画は「ミリ鉄」「撮り鉄」趣味どころではありません。中欧の人たちにとっては死活問題なのです。

ロシアも、ウクライナも兵站を鉄道に頼っているせいでしょうか、鉄道を破壊するようなことはほとんどしていません。例外的に、ロシア軍は5月4日に首都キーウや西部リビウなど8地域に向けて発射し、ウクライナが迎撃できなかった一部は着弾し、駅舎や電力施設が被害を受け、輸送インフラの破壊を狙った攻撃とみらました。

ただ、キーウなどは、すでにロシアは侵攻をあきらめていると考えられます。リビウには、当初から侵攻するつもりなどなかったでしょう。そうして、これ以降はロシアによる目立った大規模な鉄道の要衝に対する攻撃はみられません。

東部・南部の鉄道はロシア軍も使っているでしょうから、これを破壊することはしないでしょうが、民間人を巻き込むような都市部へのミサイル攻撃ではなく、今後ロシアが使う見込みのない西部等では鉄道網を徹底的に破壊する物流を阻害する効果的なミサイル攻撃をするべきだったと思うのですが、ロシアはそうしませんでした。

一方は、ウクライナは今回鉄道の要衝である、リマンを奪還しました。この奪還は、リマン市がロシア連邦に所属したとされてから、24時間以下で行われました。これは、史上最短の「併合」かもしれません。ギネスブックに登録されるかもしれません。

リマン駅は、鉄道の要所ということで、駅付近の路線図。さすがに複雑で、駅の前後にループ線が2か所あります。(下地図)


リマンは、ロシア軍がドネツク州北部への軍事作戦や物流の拠点としていました。ウクライナ軍報道官は1日、リマンの解放は、ロシアが大部分を支配する東部ルガンスク州への進軍を可能とし、「心理的にもとても重要だ」と述べました。

ウクライナ軍は9月上旬に北東部ハリコフ州の広域でロシア軍を撤収させることに成功しました。更に隣接するドネツク州でも要衝リマンを奪還し、東部で反転攻勢を続けている形になりました。

以上のような状況を考えれば、ロシア軍にとってもウクライナ軍にとっても、いかにリマンが鉄道の要衝、すなわち軍事上の要衝であるのか理解できます。

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