まとめ
- トランプ再選後、メキシコからアメリカを目指す移民キャラバンの人数が半減し、多くが強制送還を懸念して帰国を選択した。
- カタールがハマス政治指導部の国外追放に同意し、サウジアラビアはトランプ政権の復活を歓迎する姿勢を示した。
- EUがロシア産LNGからアメリカ産LNGへの切り替えを進める意向を示し、トランプ政権下でアメリカがエネルギー生産国としての地位を強化する動きが見られる。
- 中国から東南アジア諸国への生産拠点移転が加速し、サプライチェーンの再編が進行している。
- 今まで米中の狭間で態度を決めかねていた国々が、さらなる路線変更に動いていくのは必然であり、新しい時代が始まりつつある。
中東地域でも重要な動きが見られた。カタールは、これまでハマスに近い立場を取り、ハマス政治指導部を国内に居住させ、その事務所の設置を認めていた。しかし、トランプの当選を受けて、アメリカ側の要請に応じ、自国に拠点を置くハマス政治指導部の国外追放に同意する動きに出た。さらに、ハマスとイスラエルの双方が停戦に向けて真剣に交渉する意思がないことを理由に、停戦交渉も中断した。このような変化は、中東地域の政治ダイナミクスにも大きな影響を及ぼす可能性がある。
サウジアラビアの反応も注目に値する。サウジアラビアのニュースサイト「アラブニュース」は、「サウジアラビアがアラブ諸国をリードし、トランプ氏を祝福」との見出しの記事を掲載した。これは、トランプ政権の復活を高く評価していることを示している。バイデン政権時代のサウジアラビアの冷淡な態度と比較すると、この変化は顕著であり、サウジアラビアが再びアメリカとの関係強化を図る姿勢を示している。
エネルギー政策においても大きな転換が起きている。EUの行政機関である欧州委員会のフォンデアライエン委員長は、トランプとの電話会談後、ロシア産LNGをより安価なアメリカ産LNGに切り替える意向を示した。これは、ロシア産エネルギーの排除を目指す動きの加速を意味している。トランプは再びパリ協定から離脱し、アメリカを世界一のエネルギー生産国にする姿勢を鮮明にしており、この流れは欧州にも波及している。
経済・産業面では、中国からの生産拠点移転が急速に進んでいる。これは中国資本の企業も例外ではない。タイ、マレーシア、ベトナムなどの東南アジア諸国が新たな投資先として注目されており、これらの国々は中国からの投資を米国向け輸出の機会として捉えている。この動きは、世界的なサプライチェーンの大規模な再編につながる可能性があり、新興市場へのシフトが進むことで経済構造にも変化が生じるだろう。
インドではトランプ支持が強く、多くの有識者がトランプ氏の方が「はるかに、はるかに良い」と評価している。この背景には、バイデン政権の弱腰外交への不満やインド自身の民主主義に対する批判的な態度がある。特にバイデン政権によるインドへの対応には、不満や疑念が広がっており、その結果としてインドとアメリカとの関係にも影響が出てくる可能性がある。
トランプ政権の特徴として、他国の政治体制に干渉せずに付き合いつつ、必要時には頼りになる存在であることが挙げられる。第一次政権時代から政治体制にとらわれず各国と関係を築く姿勢を示してきた。同時に、強い力を見せることでしか平和を保ちえない現実を踏まえた行動を取ってきた。このような外交スタンスは、多くの国々から信頼される要因となっている。
今後の展望としては、世界的なサプライチェーンの再編がさらに進み、権威主義国家の経済的孤立化が進行すると予想される。また、これまで米中の狭間で態度を決めかねていた国々がさらなる路線変更に動く可能性も高い。このような変化は、新たな国際秩序の形成につながる可能性があり、その影響は長期的にも続くことだろう。
トランプ再選後わずかな期間でこれほど多くの変化が見られることは、世界が新しい時代へと突入していることを示唆している。権威主義国家が世界経済から切り離されていく流れや、新興市場へのシフトなど、多岐にわたる変革は今後も続くと考えられる。各国政府や企業は、この新たな国際情勢に適応するため、新しい戦略や政策を模索する必要性に迫られている。今後もこのような動向には注目し続けるべきであり、その展開によって世界経済や地政学的状況にも大きな影響を与えることになるだろう。
新しい時代が始まりつつある。
【私の論評】トランプ政権下での日本の対応:安倍首相の成功と石破首相辞任後の課題
まとめ
- 共和党がホワイトハウスと上下両院を掌握し、トランプ政権にとって予算・法案成立が加速する見込み。
- トランプ政権の高関税政策が日本の対中サプライチェーンと対米輸出に深刻な影響を及ぼす可能性。
- トランプ政権の防衛費負担要求や台湾問題への対応が、日本の防衛体制に大きな不安要素を生む。
- 安倍元首相は対中・対米政策で協調を維持し、日本の利益を守る手腕を示した。現在の日本は、こうした安倍政権の知恵を学ぶべきである。
- 石破政権は早期退陣し、自民党は新たな総裁のもとで、日本は変化する国際環境に適応しつつ、自国の利益を守り地域の安定に貢献する役割を果たしていく必要がある。
トランプ氏の公約実現が容易になる一方で、議会の監視機能は弱まる懸念がある。共和党がトリプルレッドを形成するのは2016年以来であり、この状況は新たな時代の幕開けを告げている。日本も、この激流に身を投じねばならない。
特に対中政策の転換は急務だ。トランプ氏は中国に対して60%超の高関税を課す方針を示している。この政策が実現すれば、日本企業の多くが中国に持つ生産拠点や、日中間のサプライチェーンに大きな影響が出る可能性がある。特に、自動車産業などは風前の灯火となりかねない。また、トランプ氏は日本を含む世界各国に10%のユニバーサル・ベースライン関税を賦課することを示唆しており、これが実現すれば、日本の対米輸出にも深刻な影響を及ぼすことが予想される。
安全保障面でも暗雲が立ち込めている。トランプ氏は同盟国に対してより大きな防衛負担を求める可能性が高い。具体的には、日本に対してGDPの2%を超える軍事費負担を要求してくることが考えられる。
さらに台湾問題についても懸念が広がっている。トランプ氏の台湾に対する姿勢は不透明であり、台湾防衛に消極的な姿勢を示せば、中国の台湾侵攻を誘発しかねない。この状況は日本の安全保障環境を著しく悪化させるリスクを孕んでいる。
そして、最悪のシナリオとしてセカンダリーサンクション(2次制裁)の脅威も存在する。トランプ氏が中国に対して厳しい経済制裁(1次制裁)を課した場合、中国と取引のある日本企業もその対象となる可能性がある。具体的には、中国企業との取引が制限されたり、中国関連の金融取引が制限されたり、特定の技術や製品の対中輸出が禁止されることが考えられる。これらのセカンダリーサンクションが実施されれば、日本企業は中国市場へのアクセスを失うリスクがあり、多くの企業が深刻な経営危機に陥る恐れがある。
最後に、トランプ氏の外交政策は予測不可能な面があり、突然の政策変更によって日本の外交・経済戦略が混乱するリスクも存在する。このような状況下で、日本は自国の利益を守りつつ、米国との同盟関係を維持するバランスの取れた外交戦略を構築する必要がある。同時に、経済面では過度の中国依存から脱却し、サプライチェーンの多様化を進めることも重要である。
ただ、日本を含む西側諸国としては、世界秩序を自らに都合が良いように作り変えようとする中国と対峙するのは当然のことであり、その点では、トランプ氏と共通の価値観を分かちあうことができる。
そうして、安倍政権を思い返すと、安倍首相は、第一次トランプ政権誕生時には上と同じような危機があったにもかかわらず、トランプ大統領と交渉し、うまく危機を回避して日本の利益を守り抜いただけではなく、米国との協力関係をさらに強化することに成功した。
トランプ大統領(左)と安倍総理 |
例えば、2019年の日米貿易協定の締結は、両国の経済関係を強化し、トランプ氏の対日貿易赤字への不満を緩和する効果があった。また、安倍元首相は「自由で開かれたインド太平洋」構想を提唱し、トランプ政権の対中政策と足並みを揃えることにも成功した。
現在の日本は、こうした安倍政権の知恵を学ぶべきである。
石破茂首相は就任直後、先月9日に衆院を解散する方針を示した。これは、石破氏がかつて否定的だった憲法7条に基づく解散となる。石破氏は総裁選中、解散権の行使には慎重な姿勢を示していたが、首相就任後に方針を転換した。この急激な方針転換について、石破首相は「国政の審判を経ないまま新政権ができたときに(国民の)判断を求めるのも、69条の趣旨に合致するだろう」と説明している。
しかし、この説明は石破氏がこれまで主張してきた「7条解散否定論」と矛盾しており、批判を招いている。さらには、解散総選挙の結果は、惨敗だった。この程度の負け方だと、過去の例では、自ら辞任するのが通常である。
以上の状況を踏まえると、石破政権は早期に退陣し、自民党は新たな総裁のもとで対中政策を含む外交・安全保障政策を再構築することが急務だ。新政権はトランプ新政権との関係構築や対中政策の強化、防衛力の増強など、喫緊の課題に迅速に対応しなければならない。
このような政権交代は、日本の国益を守り、変化する国際情勢に適切に対応するためには不可欠である。新たな総裁のもとで、日本は変化する国際環境に適応しつつ、自国の利益を守り地域の安定に貢献する役割を果たしていく必要がある。
日本は今、歴史的な決断を迫られている。ここで誤れば、先人たちが築き上げた国の礎を我々自身が壊すことになるだろう。守るべきものを守り抜く、その覚悟が問われているのだ。
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