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2025年10月2日木曜日

本当に国際秩序を壊したのは誰か――トランプではなく中国だ

まとめ

  • トランプ批判は短期的混乱だけを根拠にした一面的評価であり、中国の長年の無法行為を背景に考える必要がある。
  • 中国はWTO加盟時の約束を守らず、市場閉鎖・為替操作・補助金政策・知財侵害を続け、日本の鉄鋼や太陽光産業に壊滅的打撃を与えてきた。
  • 中国の人権問題や南シナ海での国際法違反、「一帯一路」での債務外交は国際秩序への露骨な挑戦である。
  • 野口旭氏の指摘する「貯蓄過剰2.0」により世界は慢性的な需要不足に陥り、各国の金融緩和でも景気は加熱せず、緊縮策で失速する。これは現在の日本の姿とも重なる。
  • 中国の挑戦は日本にとっても他人事ではなく、経済・安全保障両面で覚悟を持ち、未来を選び取る必要がある。

1️⃣トランプ批判の一面的な見方
 
国連で演説するトランプ大統領

トランプ大統領の政策はしばしば「国際秩序を乱した失敗」と決めつけられる。防衛費負担をめぐる強硬な要求、中国への関税政策、ロシアや北朝鮮との対話路線。確かに短期的には混乱を招き、国内外で批判を浴びた。しかし、その評価はあまりにも一面的だ。

そもそも背景には、中国が長年繰り返してきた無法がある。国有企業への補助金、知的財産権の侵害、技術移転の強要、市場の閉鎖。2001年に米国の支援でWTOに加盟した際、中国は市場開放や公正取引の遵守を約束したが、その多くを守らず今日に至っている。米通商代表部(USTR)の年次報告でも、非市場的な政策と国有企業への過剰支援が透明性を欠くとして「約束不履行」が繰り返し指摘されている。金融、デジタル、エネルギー分野で外資を制限し、自国市場を閉ざしたまま欧米市場で活動を続ける不均衡な状態が続いている。

為替でも人民元は「完全固定」ではないにせよ、中国人民銀行が毎朝基準値を設定し、その±2%のバンドで動く管理フロート制を敷いており、国際市場の需給に委ねる体制からは大きく逸脱している。

日本の産業はこの不均衡の直撃を受けてきた。鉄鋼では中国の過剰生産とダンピングで価格が暴落し、国内メーカーは疲弊を余儀なくされた。2024年の普通鋼鋼材輸入量は505万トンに達し、前年から7.5%増、1997年以来の500万トン超えとなった(日本鉄鋼連盟)。太陽光パネルでも中国製が圧倒的シェアを占め、日本企業は次々と撤退。日本国内で使われる太陽光パネルは輸入依存が極端に高く、JPEAの統計では外国企業シェアが64%、国内生産はわずか5%に過ぎない。世界的には中国製が8割を超え、2025年には95%に達する見通しが示されている(JETRO/IEA)。北海道では安価な中国製パネルによる乱開発が進み、地域社会と自然環境を蝕んでいる。

さらに、中国の人権問題も看過できない。新疆ウイグル自治区での強制労働や収容所、人身売買や臓器売買の疑惑。南シナ海では国際仲裁裁判所が2016年に「中国の主張には法的根拠がない」と判定したにもかかわらず、人工島を造成し軍事拠点化を続けている。「一帯一路」では途上国に過大債務を負わせ、返済不能に陥った国の港湾や資源を接収している。これらは国際秩序への露骨な挑戦である。
 
2️⃣世界経済を歪めた「貯蓄過剰2.0」
 
中国の無法は安全保障にとどまらず、世界経済を根底から歪めてきた。経済学者の野口旭氏は、リーマン・ショック以降の先進国に共通する「低すぎるインフレ率」の背景に、中国を中心とする「世界的貯蓄過剰2.0」があると指摘している(野口旭「世界が反緊縮を必要とする理由」)。

中国の過剰生産は結果的に世界に貯蓄過剰をもたらした

中国は輸出主導で成長を遂げ、国内需要が供給に追いつかず余剰資金を海外に流出させた。これが世界の経常黒字を押し上げ、需要不足を固定化した。実際、世界の経常黒字のうち中国のシェアは2019年時点で約40%に達し、米国の経常赤字とほぼ表裏の関係をなしていた。2022年には中国の経常黒字が4,170億ドルに上り(IMF統計)、世界的な需給バランスを大きく歪めている。

供給は膨張しているのに、需要は足りない。インフレが起きにくく、金利も上がらない。各国が金融緩和をしても景気が加熱せず、逆に緊縮策を急げば、たちまち需要不足で経済が失速する。これはまさに現在の日本の姿でもある。長らく日銀は慎重すぎる金融政策でデフレを固定化し、景気を押し下げてきた。2013年に黒田総裁が「異次元緩和」で大胆に転換したが、十分なインフレ定着には至らなかった。2023年に植田総裁が就任すると、再び利上げ方向へと傾き、需要の弱さを抱えたまま経済が減速しかねない状況にある。

中国の輸出攻勢は米国の製造業を空洞化させ、日本の鉄鋼や太陽光も壊滅的打撃を受けた。補助金漬けの国有企業、為替管理、低賃金労働。この体制が「貯蓄過剰2.0」を生み出し、世界全体の成長力を押し下げてきたのである。

こうした構造を放置すれば、各国は財政と金融で経済を支え続けるしかなく、支えを外せばすぐに失速する。だからこそ、トランプ政権の対中関税やサプライチェーン再編は、単なる「貿易戦争」ではなく、この不均衡に切り込む試みだった。短期的な痛みを覚悟してでも、世界経済を正す戦いだったのである。
 
3️⃣日本が問われる覚悟

当時、多くの反発があった。関税は物価を押し上げ、中国の報復で米農業は打撃を受けた。同盟国への防衛費要求は摩擦を強め、「孤立主義」との批判も高まった。だが、バイデン政権になっても対中強硬路線は継続され、米中デカップリングは超党派の合意となった。半導体やエネルギー分野では国内投資が拡大し、NATO諸国は防衛費を増額、日豪印との協力も強化された。当初「失敗」とされた政策が、結果として国際社会の対中包囲網を後押ししたのだ。

参院選での石破首相の応援演説 同盟国の首相としてはあり得ない発言

短期的な混乱だけを見てトランプを「秩序破壊者」と決めつけるのは誤りである。中国の壊してきた秩序を正すには犠牲も伴う。だが、直視しなければならない。さらに、中国を批判する者は自らも公正であるべきとされるだろう。それには、リスクも伴う。トランプを批判するのであれば、中国を牽制する代替案を示すべきである。非難を繰り返すだけでは現実は変わらない。

そして、これはアメリカだけの問題ではない。我が国日本にとっても、中国の無法を放置すれば、経済と安全保障の両面で取り返しのつかない代償を払うことになる。鉄鋼や太陽光での被害は氷山の一角に過ぎない。中国の挑戦は我が国に突きつけられた現実だ。我々自身が覚悟を持ち、未来を選び取れるかどうか。その岐路に立っているのである。

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札幌デモが示した世界的潮流──鈴木知事批判は反グローバリズムの最前線 2025年9月23日
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2025年8月16日土曜日

米露会談の裏に潜む『力の空白』—インド太平洋を揺るがす静かな地政学リスク

 まとめ

  • トランプ・プーチン会談は、米露関係改善の可能性を示す一方で、背後には米国がロシアを対中戦略の一部に取り込もうとする思惑がある。
  • ロシアは経済制裁や戦線維持の負担から、完全に中国に依存し続けたとしても余裕がなく、交渉に応じざるを得ない可能性が高い。
  • 中露関係は表面的には堅固に見えるが、歴史的には「氷の微笑」に過ぎず、根底では利害が完全一致していない。
  • 米露接近が進めば、東欧戦線や黒海周辺で抑止構造が一時的に緩む「力の空白」が生じ、第三国や非国家主体が介入を試みるリスクが高まる。
  • 日本はこの「力の空白」がインド太平洋地域にも波及し、台湾有事や北方領土問題で安全保障環境が急変する危険性を見落としてはならない。

ドナルド・トランプ前米大統領とウラジーミル・プーチン露大統領の会談は、単なる米露接触ではない。そこには米中露三角関係を揺るがす可能性と、「力の空白」をめぐる地政学的な駆け引きが潜んでいる。日本のマスコミは、この会談を「米露接近=中国有利」と短絡的に片付ける傾向がある。しかし現実はもっと複雑で、場合によっては米国がロシアを対中包囲網に引き込む布石にもなり得る。その含意を理解せずに未来を語ることは、国益を危うくする。
 
米露会談の真の背景
 
米露会談の共同声明

今回の会談の背景には、ウクライナ戦争の長期化、経済制裁によるロシア経済の疲弊、そして米中対立の激化がある。バイデン政権下で冷え切った米露関係だが、トランプは「ディール型外交」で条件次第の手打ちを否定しない人物だ。

米国にとって中国は、経済・軍事・技術の全てで長期的かつ包括的な脅威であり、冷戦期のソ連以上に手強い存在だ。ゆえに、米露対立を緩和し、ロシアを部分的にでも中国から引き離す戦略的価値は大きい。

もっとも、現状の中露関係は密接に見える。だがエドワード・ルトワックが評したように、それは「氷の微笑」に過ぎず、長期的信頼関係ではない。歴史的に両国は国境をめぐって何度も衝突してきた。米国はその構造的不信を利用しようとしている。
 
手打ち条件と「力の空白」
 
ロシアは中国陣営に残るのか?

米国がロシアとの条件交渉に臨む場合、ウクライナ戦線や対中関係が重要な取引材料となる可能性がある。特に「中国陣営に残るか否か」が手打ちの条件に含まれることは十分考えられる。

プーチン政権がこれを受け入れるかは別問題だが、ロシアは経済制裁と戦争の負担で余裕を失いつつある。条件次第では、戦略的譲歩を迫られる局面も出てくるだろう。

この時、東欧戦線や黒海周辺では抑止構造が一時的に緩む「力の空白」が発生する。これは単なる軍事的隙ではなく、第三国や非国家主体(民兵組織、テロ組織、海賊集団など)が行動を開始する契機となる。歴史的に、このような空白は必ず地域の不安定化を招く。
 
日本への波及と今後の展望

インド太平洋地域

「力の空白」は地理的に遠くても日本に無関係ではない。黒海や東欧での抑止低下は、国際秩序全体のバランスを崩し、中国や北朝鮮といった勢力が太平洋での冒険主義を加速させる口実となる。特に南西諸島や台湾周辺の安全保障環境は、欧州情勢の影響を受けやすい。

さらに、米国が対中戦略を優先してロシアとの対立を緩和すれば、米国のアジア太平洋への軍事資源配分が増える半面、米国の中国への圧力はさらに強まり、日本は「最前線の同盟国」としてより強力な役割を求められる可能性も高い。

今後の展望として、米露接触は短期的には東欧情勢を流動化させるが、長期的には米中対立の主戦場をアジアに集中させる力学を強めるだろう。日本はその渦中に置かれ、「他人事」で済ませられる余地はない。

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2025年7月15日火曜日

トランプ政権、NATOと共同でパトリオット供与決定 米軍のイラン核施設攻撃が欧州を動かす

まとめ
  • トランプ政権はパトリオット供与を通じて「兵器外交・ビジネス・同盟再構築」の三位一体戦略を打ち出した。
  • 米軍によるイラン核施設攻撃が、NATO諸国の脅威認識を一変させ、兵器供与受け入れの下地を作った。
  • パトリオットの供与は欧州諸国の自己負担で実施され、米国は補充分を担当することで財政負担を回避。
  • 「これは商売だ」というトランプの言葉通り、供与は米防衛産業と雇用に直結する経済政策でもある。
  • 戦争を“複合戦略”として扱うトランプ流外交は、保守層の理念「関与すべき時には強く関与」を具現化している。

2025年7月、トランプ大統領がNATOとともにウクライナへのパトリオットミサイル供与を発表した。このニュースを、日本の大手メディアは「ウクライナ支援の一環」と軽く流しているが、実態はまるで違う。その裏には、イラン核施設への米軍攻撃という重大な伏線がある。そして、欧州がようやく「核の人質」であるという現実に気づき、行動に移した瞬間でもあった。今回は、この一連の動きの裏側にあるリアリズムと地政学の構図を徹底的に読み解いていく。

トランプが動かした同盟──兵器供与の裏にある現実主義

3月17日(現地時間)、マルク・ルッテNATO事務総長と会談するトランプ米大統領

2025年7月14日、トランプ米大統領はNATOのマルク・ルッテ事務総長と並んで、ウクライナに対しパトリオット地対空ミサイル・システムを供与すると発表した。表面的には兵器支援に見えるこの決定だが、その実、米国の外交、同盟戦略、そして経済政策のすべてを凝縮した一手である。政権発足以来、トランプが掲げてきた「アメリカ第一主義」を体現する構図が、ここにある。

この背景にあるのが、先月6月22日に米軍が敢行した「ミッドナイト・ハンマー作戦」だ。米空軍のB-2爆撃機とトマホーク巡航ミサイルが、イランのナタンツ、フォルドウ、イスファハンに点在する核開発施設を同時攻撃。IAEA(国際原子力機関)も、核インフラの重大な破壊を確認し、事実上イランの核開発は数年単位での遅延を余儀なくされた。

ミッドナイトハンマー作戦の概要:米国防総省(英語)


この攻撃は、単なる中東政策の枠にとどまらない。核兵器の完成が目前とされたイランを叩いたことで、欧州諸国にとっての安全保障環境が一変した。なぜなら、イランの核が完成すれば、その射程は確実にEU圏に及ぶからだ。イスラエルだけでなく、欧州全体が核の人質となる現実に、ようやく火がついたのである。
 
NATOが譲歩した理由──イラン攻撃がもたらした覚醒

この文脈を抜きにしては、今回のNATO加盟国によるパトリオット供与は説明がつかない。従来、欧州諸国は米製兵器の供与に対して慎重だった。だが今回は、ドイツ、スウェーデン、フィンランド、ノルウェー、オランダ、英国、カナダなどが保有在庫からウクライナに直接提供する。そして米国は、これらの国の不足分を補填するという形で間接的に支援に関与する。しかも、この補充費用はあくまで欧州側が負担するスキームである。


ここに、トランプ政権の特徴が色濃く表れている。かつてから「同盟国にも応分の責任を取らせるべきだ」と繰り返してきたトランプは、その言葉通りに各国の財布を開かせた。供与の場で彼が言い放った「これは商売だ」という言葉は、単なる挑発ではない。これは明確なメッセージであり、兵器支援を“国家間のビジネス”と位置付けたトランプ流のリアリズムそのものだ。

今回の供与によって、米国の防衛産業、特にレイセオン社を中心とするパトリオット製造ラインには新たな受注が舞い込む。雇用が生まれ、国内経済が回る。兵器供与が外交と経済を結びつける「成長戦略」となる――これほど明快な利害の一致があろうか。

トランプの「複合戦略」──戦争をビジネスに変える男


さらに、トランプはロシアに対して「50日以内に停戦しなければ、100%の関税を課す」と警告を突きつけた。軍事だけでなく、経済の側面からもプレッシャーを与える複合的な戦略は、彼の外交スタイルに一貫して流れる“力の論理”そのものである。

もちろん懸念もある。パトリオットは確かに優れた防空兵器だが、最新型のIskander-M弾道ミサイルのような超高速・高機動型弾頭に対しては、必ずしも万能ではない。しかも今回供与されるパトリオットが最新仕様であるかどうかは明言されておらず、性能にバラつきがある可能性もある。

それでもなお、今回の供与が持つ政治的インパクトは計り知れない。バイデン政権時代には見られなかった、「同盟国への負担転嫁」「米国財政の防衛」「兵器輸出による産業振興」「経済制裁による抑止」という四本柱が、トランプ政権下で再構築された。これこそが彼の持ち味であり、「戦争には巻き込まれない、だが必要な時は関与する」という保守派の理念を、実際の政策として体現している。

ウクライナを巡る戦局の今後は不透明だ。だが確かなのは、トランプが掲げる「ビジネスとしての戦争支援」が、単なるパフォーマンスではなく、現実の政治と経済を動かしているという事実だ。兵器供与の向こう側には、冷徹な戦略とリアリズムがある。それを見抜けない日本の現政権やメディアこそが、今この瞬間、我が国最大の脆さなのかもしれない。

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対中の弱腰と対米の強硬の矛盾は、米国から「同盟を軽んじている」と受け取られかねない。日米同盟の基盤が揺らぐ危機は、決して小さくない。

米国原潜アイスランドへ歴史的初寄港:北極海の新時代と日本の安全保障への波及 2025年7月10日

USS Newport Newsのアイスランド寄港は、北極海の安全保障を強化し、米国とNATOの結束を示す歴史的な出来事だ。日本は米国との同盟を強化し、北極海での協力を深めるべきだ。

参政党・神谷宗幣の安全保障論:在日米軍依存の減少は現実的か?暴かれるドローンの落とし穴  2025年7月9日
神谷のビジョンは情熱的だが、情熱だけでは足りない。私が気づくようなドローンの落とし穴を放置し、専門家からも批判されるようでは、参政党の未来は危うい。

日本の護衛艦が台湾海峡を突き進む!中国の圧力に立ち向かう3つの挑戦と今後の戦略 2025年6月20日今後、中国が日本に牽制や妨害を仕掛ければ、台湾海峡通過は単独や同盟国と、さまざまな規模で繰り返されるだろう。国際水域の自由を貫き、地域の安定を確保する戦略だ。

2025年7月13日日曜日

【主権の危機】中国の静かな侵略に立ち向かう豪米、日本はなぜ対策を怠るのか

 まとめ

  • 中国は統一戦線工作部を通じ、政治・教育・メディアに合法的な形を装って浸透し、他国の世論や政策決定を内部から操ろうとしている。
  • オーストラリアとアメリカは、外国勢力の影響力を可視化・抑制するための法制度(外国干渉防止法、FARA)を整備し、実際に孔子学院の撤退や外国資本の監視を進めている。
  • 日本には中国の影響工作を監視・規制する法律が存在せず、政治家と中国団体の関係、孔子学院の活動も不透明なままで放置されている。
  • その背後には、経済依存、政治的忖度、メディアの自主規制、国民の無関心といった複合的な要因があり、主権が静かに侵食されている。
  • 日本も主権国家として、外国エージェント登録制度を導入し、透明性と防衛意識を高める必要がある。放置すれば国家の未来が他国に委ねられる危険がある。
    中国の影響工作に立ち向かう豪米と沈黙する日本


    いま世界では、目に見えぬ戦争が進行中だ。銃も爆弾も不要。代わりに国家の内部に静かに入り込み、意志決定を操る──それが中国の“影響工作”である。

    オーストラリアやアメリカは、この静かな侵略にすでに対応を始めている。法制度を整備し、情報の透明化と影響力の遮断に乗り出した。しかし日本はどうか。相変わらず“丸腰”で、政治もメディアも沈黙を保ったまま、中国の浸透を許している。この国には、主権を守るという覚悟が決定的に欠けている。

    中国の“影響工作”とは何か

    中国は、相手国の主権と世論を内部から操ろうとする。中核を担うのが、中国共産党中央統一戦線工作部だ。政治家、研究者、メディア、教育機関、在外中国人組織を通じ、資金・人脈・宣伝活動を駆使して世論を中国寄りに傾けさせる。

    日本国内の孔子学院所在地マップ クリックすると拡大します

    具体的には、政治家への献金、大学や研究機関への寄付、孔子学院を使った教育界への影響、メディアへの広告出稿、さらにはSNSを使った世論誘導に至るまで、合法の皮を被った巧妙な工作が展開されている。これらが積み重なることで、気づかぬうちに国の意志決定そのものが歪められていく。

    “戦わずして勝つ”──それが中国の戦術であり、多くの国がその毒に晒されてきた。

    オーストラリアとアメリカは何をしたのか

    2017年、オーストラリアで中国による議員買収未遂事件が表面化。翌2018年には「外国干渉防止法」が制定された。外国勢力のために政治活動を行う者には登録義務が課され、違反すれば刑罰が科される。この法律によって、孔子学院の撤退が進み、不透明な資金の流れも次々と暴かれている。


    アメリカでは、1938年制定の「外国代理人登録法(FARA)」が再び注目を集めている。冷戦期にはソ連への対抗策として機能したが、いまや中国やロシアを見据えた制度として息を吹き返した。司法省のFARA登録部門では、外国のために活動する個人・団体の詳細が公開され、透明性が確保されている。

    2023年には、TikTokの親会社バイトダンスにもFARA適用の可能性が議論された。大学や研究機関に対しても、中国資本の関与が厳格に監視されている。アメリカには、「自由を守る」という強い覚悟がある。

    なぜ日本は“無防備”なのか

    日本には、外国の影響工作を規制・可視化する法律が存在しない。政治家と中国系団体との関係は不透明なままであり、孔子学院は今なお国内の大学に居座り続けている。メディアも“自己規制”という名の沈黙を貫いている。

    この背景には、経済依存、政治的忖度、メディアの左傾化、そして何より国民の無関心がある。中国は日本最大の貿易相手国。観光業、製造業、インフラなど、あらゆる分野が深く中国と結びついているため、政府も財界も波風を立てることを避けてきた。

    だが、その代償として、国家の根幹──主権──を売り渡してはいないか。

    中国の影響工作に対し、日本も今こそ“防衛線”を築くべき時だ。第一に導入すべきは、外国エージェント登録制度である。外国政府や外国の団体のために政治的・宣伝的な活動を行う個人や組織に対して、登録と情報公開を義務付ける制度である。特定外国勢力の影響下にある人物や団体を明示することで、国民が実態を把握できるようにする。孔子学院に関しても、資金の出所と活動実態を精査し、必要であれば閉鎖も辞さぬ覚悟が求められる。

    米国には「外国代理人登録義務違反(FARA)」が定められておりこれは、合衆国法典18篇951条の規定で、米国は外国政府の代理人として活動する者に対して、司法長官への届出を義務付けており、これに違反した場合は10年以下の拘禁刑又は罰金刑を科すというものだ。外国の工作員や協力者は外国の政府のために働く代理人だから、それさえ立証できれば、他に法律違反がなくても本条違反となる。

    マイケル・フリン

    マイケル・フリンは、トランプ政権の元国家安全保障補佐官であり、トルコ政府のためにロビー活動を行いながらFARA登録を怠っていた。また、ロシア政府関係者との接触についてFBIに虚偽の供述をしたため、2017年に起訴され有罪を認めた。FARA違反自体は起訴理由ではなかったが、捜査の一部として重視され、2020年にトランプ大統領から恩赦を受けた。彼の事件は、外国の影響と国家安全保障の問題を広く知らしめた象徴的な事例である。

    スパイ活動には、情報収集の他にも、偽情報を拡散して世論に影響を与える情報作戦、他国政府に働きかけて一定の政策を選択させようとする積極工作、他国国内での暗殺や実力行動、その他様々な活動形態がある。外国工作員・協力者の取締規定としては、「外国の代理人に登録義務を課し、その違反を罪に問う規定」は、合理的な規定と言える。

    国家の意志決定が、見えざる他国の意図によって操作されている──そんな現実を許してはならない。主権国家として当然の防衛措置を講じなければ、この国の未来は静かに奪われていく。

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    2025年5月29日木曜日

    トランプ氏、プーチン氏に2週間猶予 停戦意欲を判断 議会では500%関税の制裁案—【私の論評】トランプの「マッドマン戦略」がウクライナ危機を解決? 2025年の交渉術と百田尚樹氏への影響

    トランプ氏、プーチン氏に2週間猶予 停戦意欲を判断 議会では500%関税の制裁案

    まとめ
    • トランプの停戦協議判断: トランプ米大統領は、プーチン大統領がウクライナとの停戦協議に真剣に取り組む意思を約2週間で判断し、意欲がない場合は仲介路線を見直し「異なる対応」を取る可能性を示唆。
    • 対露制裁への慎重姿勢: 露軍の攻撃継続に失望を表明しつつ、追加制裁については「停戦協議を台無しにしたくない」と慎重な姿勢を示し、即時の制裁強化を避ける考えを明らかに。
    • 米議会の制裁法案: 上院で超党派の議員がロシア関連の厳しい制裁法案を提出。ロシアから原油や天然ガスを購入する国に高関税を課す内容で、約8割の支持を得ており、トランプ政権に政策転換を求める圧力が高まっている。

    トランプ米大統領は28日、プーチン大統領がウクライナとの停戦協議に真剣に取り組む意思があるかを約2週間で判断すると表明。停戦意欲がない場合、現在の仲介路線を見直し「異なる対応」を取る可能性を示唆した。

    露軍の攻撃継続に「非常に失望」と述べ、プーチン氏の対応を注視する姿勢を示した。対露追加制裁については「協議を台無しにしたくない」と慎重な立場を示した。

    一方、米議会上院ではロシア関連の制裁法案が提出され、ロシアからの原油や天然ガス購入国に高関税を課す内容で、約8割が支持。トランプ政権に政策転換を求める議会の動きが強まっている。

    この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。

    【私の論評】トランプの「マッドマン戦略」、2025年の交渉術と百田尚樹氏への影響

    まとめ
    • マッドマン戦略の核心: トランプの親ロシア発言やウクライナとの対立は、プーチンを和平交渉に引き込むための計算された演出であり、実際にはウクライナ支援を維持する戦略。
    • 2025年5月の交渉進展: 「復興投資基金」合意でウクライナの主権と資源管理を確保し、防空システムの無償支援を確立し、親ロシア発言が交渉のための仮面であることを証明。
    • 選挙戦での戦略的行動: 2024年選挙戦で討論会を欠席し、バイデンやハリスとの直接対決を選択し、メディアの注目を集め、対立候補の弱点を露呈。
    • メディア戦略の巧妙さ: 2018年の米朝首脳会談や2024年のX投稿を通じて、国際世論を操作し、交渉力を高める。
    • 百田尚樹の影響: 百田氏は日本の「腹芸」とも通底するトランプの戦略に共鳴し、自身のメディア活用や過激な発言で支持者を動員。放送作家・小説家としての経歴が戦略の背景にある。
    トランプの「マッドマン戦略」とウクライナ・ロシア問題

    トランプ米大統領の親ロシア発言やウクライナとの対立は、予測不能な振る舞いで相手を揺さぶる「マッドマン戦略」の一環であり、実際にはウクライナ支援を一貫して維持する計算された交渉戦術だ。この戦略は、2024年の大統領選挙戦から2025年5月までの動向を通じて、プーチンを和平交渉に引き込むための巧妙な演出として浮かび上がる。

    3月の首脳会談では、トランプとゼレンスキーは激しい言い合いを演出?

    2025年5月28日、トランプはプーチンがウクライナとの停戦協議に真剣に取り組む意思を約2週間で判断し、意欲がない場合は仲介路線を見直し「異なる対応」を取ると表明した。これはマッドマン戦略の一環としてロシアに圧力をかけるポーズであり、ゼレンスキーとの公開の衝突や支援の一時凍結は、ロシアに交渉を急がせ、共和党内のウクライナ懐疑派(マイク・ジョンソンら)を抑える狙いがあった。

    2025年5月の「復興投資基金」合意では、ウクライナの主権と国営企業の民営化を回避しつつ、資源管理を対等に運営する枠組みを構築し、防空システムなどの実質無償支援を確立。これにより、親ロシア発言が交渉のための仮面だったことを証明した。トランプはウクライナへの10%関税やロシアの関税除外といった交渉術を駆使し、日本の「腹芸」に似た対立の仮面で協調を目指す姿勢を示した。この戦略は、ピュー調査で43%が懸念した親ロシア姿勢や同盟国の反発を乗り越え、ウクライナ支援とロシア牽制を両立させる現実主義を体現している。

    選挙戦における戦略的行動

    このマッドマン戦略は、2024年の大統領選挙戦でも発揮された。トランプは共和党内の候補者討論会を意図的に欠席し、バイデン大統領(6月、CNN)やハリス副大統領(9月10日、ABC)との直接対決を選択した。討論会を避けることで謎めいた存在感を保ち、他の候補者が争う姿を稚拙に見せ、自身のメディア出演や選挙集会を際立たせる「4Dチェス」のような戦術を展開した。

    テレビドラマ「スタートレック」で4Dチェスをするスポック

    9月10日の討論会は5750万人が視聴し、トランプは高い注目度を利用してメッセージを効果的に発信。ハリス氏が追加討論を求めたのに対し、トランプは3回目の討論を拒否し、対立候補の反撃機会を封じ、ハリスの政治経験の少なさや民主党内の批判を浮き彫りにする戦略を取った。この選挙戦での戦略的欠席と対決回避は、ウクライナ・ロシア問題でのマッドマン戦略と通底し、対立の仮面で優位性を維持するトランプの現実主義を示している。

    トランプの戦略が成功を収める背景には、マスコミや国際世論を熟知した情報発信の巧妙さがある。2018年のシンガポールでの米朝首脳会談では、事前の過激な「ロケットマン」発言で金正恩氏を揺さぶり、会談では友好的な姿勢に転換し、国際世論の注目を集めながら外交成果を演出した(CNN、2018年6月12日)。2024年選挙戦では、Xプラットフォームでの投稿を通じて「ウクライナ問題の即時解決」を訴え、1億人以上のフォロワーに直接メッセージを届け、伝統的メディアを介さず世論を形成した(X分析、2024年10月)。

    これらのエピソードは、トランプがメディアの力とタイミングを計算し、国内外の観衆を意識した戦略を展開する能力を示している。ウクライナ・ロシア問題でも、挑発的な発言でプーチンの反応を引き出しつつ、裏では支援の枠組みを固める二面作戦は、国際世論の批判を逆手に取り、自身の交渉力を高めるトランプのメディア戦略の集大成である。

    メディア戦略と日本国内の影響

    日本国内でも、トランプの戦略に注目する声は多い。特に、日本保守党代表で作家の百田尚樹氏は、トランプの予測不能な言動やメディア戦略に共鳴を示している。百田氏は1956年大阪市生まれで、同志社大学中退後、放送作家として「探偵!ナイトスクープ」などの番組構成を手がけ、2006年に『永遠の0』で小説家デビューし、2013年に『海賊とよばれた男』で第10回本屋大賞を受賞した(新潮社プロフィール、2025年5月29日)。

    この経歴は、メディアと世論を操作する術を磨き上げた背景を示しており、トランプの戦略に通じるものがある。百田氏は2020年の米大統領選でトランプを強く支持し、「不正選挙」を主張するなど、トランプの戦術に共感を示した(ハフポスト、2020年11月3日)。2024年10月の衆院選で日本保守党が政党要件を満たした際、百田氏は自身のXアカウントで「トランプのような快挙」と称賛し、トランプのメディア活用や支持者動員の手法に影響を受けた姿勢をうかがわせた(日本経済新聞、2024年10月28日)。

    また、百田氏の「虎ノ門ニュース」出演では、トランプの「計算された陰謀論否定」を評価し、自身の過激な発言スタイルがトランプのマッドマン戦略と通じるとの見解を示した(ハフポスト、2020年11月3日)。2025年5月には、X上で日本保守党支持者が「百田氏はトランプよろしくぶっ飛んだ人に国政を委ねるべき」と投稿し、トランプの戦略を日本の文脈で称賛する動きが見られる(X投稿、2025年5月27日)。これらは、百田氏がトランプのメディアを駆使した大衆動員や対立を演出する戦略に学び、自身の政治活動に取り入れていることを示唆する。

    加えて、百田氏は意図的に敵を作り出すような発言を繰り返すことで、自身の立場を強化し、支持者を動員する戦略を取っている。子宮頸がんワクチンに関する発言など、誤解を招きかねない過激な言動で論争を巻き起こし、メディアの注目を集める手法は、トランプのマッドマン戦略と共通する。

    百田氏は2024年11月に「30歳を超えたら子宮摘出を」と受け取られるような発言をし、大きな論争を起こした(日本経済新聞、2024年11月9日)。無論、これは百田氏の発言を一部切り取ったものであり、実際にはそのような発言はしていない。しかし、このような発言は、意図的に敵を作り出し、自身の主張を際立たせるための計算された行動であり、トランプのメディア戦略と通底する。百田のこうした手法は、トランプの影響を色濃く反映していると言える。

    さらに、2025年5月25日、日本保守党の島田洋一衆院議員はXで「私はさすがに、百田氏を叩くのは控えました」と投稿し、百田氏のトランプ風の言動に対する理解や共感を示唆した。


    これは、百田氏がトランプのマッドマン戦略を百田氏風に模倣し、国内政治で同様の手法を採用していることへの支持や、トランプの戦略が日本国内でも一定の評価を得ていることを裏付けるエピソードである。ただのお笑い、ボケの演出にも見えるが、実はそうではない。島田氏の投稿は、百田氏のトランプ風の言動が党内で議論の対象となっているものの、戦略的価値を認める声もあることを示しており、トランプの影響力が日本保守党の内部議論にも及んでいることを浮き彫りにする。

    トランプの戦略は、単なる無秩序な行動ではなく、緻密に計算されたものだ。宮崎正弘氏は、トランプ大統領の成果は、11勝1敗3引き分けであるとしている。

    勝利は不法移民強制送還、国境警備強化、ジェンダーは男と女、DOGEの効率化、DEI規制撤廃、SDG緩和、NATOの防衛分担増加、USAID縮小、VOA縮小、中東歴訪により空前の対米投資。敗北は高関税、引き分けは暗号通貨法案の上院での一時的頓挫、クライナ早期停戦、ならず、そしてドル安誘導が現時点では首尾良くいっていないことである。

    メディアを駆使し、国内外の世論を操作する術は、百田尚樹氏ら日本国内の保守派にも影響を与えている。トランプの「マッドマン戦略」は、単にアメリカの政治舞台だけでなく、国際的にもその影響力を拡大し続けている。

    ただし、このブログでも以前指摘したが、トランプ氏のようなやり方は、一昔前の日本のいわゆる「腹芸」に酷似しているもので、一昔前の日本人なら、トランプ氏のやり方を理解できたと思われるが、現状はそうではない。

    以前にもこのブログで語ったことがあるが、日本では腹芸が色褪せ、最初から最後までフランクさが「上等」と錯覚される。SNSやグローバル化が、和の知恵を薄れさせたのかもしれない。情けないが、日本人は腹芸の価値を思い出す時だ。厳しい国際社会では、各国のリーダーたちが現実的な「腹芸」を今もくりひろげている。

    米国人はフランクだとか、フランクさが米国人のモットーなどというのは、幻想に過ぎない。ただ確かにそのような面はある、リベラル派はそうした面を強調する、しかしそれは演技に過ぎない。あるいは、フランクにして良い時に、そう振る舞っているに過ぎない。

    これは、社会の常識だ。最初から最後までフランクさが「上等」と錯覚するような人間は、そもそも政治に向いていないし、社会でも通用しない。そのような人間が、リーダーである組織が、長く栄えることはない。無論、腹芸だけで、実力がない組織も栄えることはない。ただ、「腹芸」をしない組織、できない組織に未来はない。それほど現実社会は甘くない。百田尚樹氏は、トランプ氏に触発され、この日本の伝統文化でもある「腹芸」を復活しようとしているのではないだろうか。

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    2025年5月9日金曜日

    大阪の中国人移民が急増している理由—【私の論評】大阪を揺らす中国人移民急増の危機:民泊、不法滞在、中国の動員法がもたらす社会崩壊の予兆

    大阪の中国人移民が急増している理由

    まとめ
    • 中国人の日本移住増加中国経済の低迷や米国の関税圧力、国内の権威主義や教育競争の激化を背景に、日本、特に大阪への中国人移民が急増。2024年末で日本在住の中国人は約87万人で過去最高。
    • 「ルンリ」と呼ばれる現象「ルン」(英語の「run」に由来)は中国の悪化する状況から逃れる願望を表し、日本を選ぶ人々は「ルンリ」と呼ばれる。2022年の上海ロックダウンが移住を加速。
    • 日本の魅力円安による低生活費、高い生活の質、社会保障、医療、教育の自由度が魅力。中国の過酷な教育環境(高考や中考の競争、就職率45.4%)と対照的に、日本は子供の教育機会が豊富。
    • 大阪の特区民泊2016年の国家戦略特区指定で「特区民泊」制度が始まり、中国人起業家による民泊事業が急増。民泊運営は「経営・管理」ビザ取得の手段となり、永住権への道を開く。
    • 影響と課題中国人投資家の流入(「ランマネー」)が経済を活性化する一方、短期賃貸による住民紛争や不動産価格高騰、教育競争の激化が課題。大阪は中国系住民5.7万人超で、コミュニティ形成が進む。

    中国経済の長期低迷、トランプ政権以降の米国関税圧力、政治的権威主義の強化、社会的・教育競争の激化を背景に、中国からの出国者が増加。特に日本、大阪への移民が急増し、2024年には大阪の中国人住民が5.7万人を超え、2010年の2倍以上に。移住者は主に30~50代の中流・上流階級で、子供の教育や生活の質を求めて日本を選ぶ。ジャーナリスト増友毅氏は、こうした動きを「ルン」(逃避)と呼び、特に2022年の上海ロックダウンが契機となったと指摘。

    日本は円安による生活費の安さ、高い生活の質、社会保障、医療、教育環境の魅力から移住先として人気。中国的教育は「高考」など過酷な試験と低就職率(2023年で45.4%)に悩まされ、親は教育費に収入の7.9%を投じる。一方、日本は自由な教育環境と課外活動の余地があり、子供が短期間で適応し学業で成功する例も多い。大阪の学習塾では中国人生徒が増え、難関大学進学を目指す。

    大阪では2016年の「特区民泊」制度開始が転機となり、柔軟な短期賃貸が可能に。全国の特区民泊事業者の95%が大阪に拠点を置き、40%は中国人起業家が運営。民泊事業は「経営・管理」ビザ取得の足がかりとなり、500万円以上の投資で永住権への道が開ける。中国人コミュニティは言語の壁から独自のネットワークを形成しつつある。

    この移住ブームは「ランマネー」として経済に活力をもたらす一方、短期賃貸による住民紛争、不動産価格高騰、教育競争激化などの課題も生む。中国では土地購入が制限されるが、日本では外国人でも不動産所有が可能で、魅力の一因。こうした傾向の継続性や影響について、日本国内で議論が続いている。大阪は教育・経済・機会を背景に、中国人移民の主要な目的地となっている。

    この記事は、元記事を日本語に翻訳して、要約したものです。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

    【私の論評】大阪を揺らす中国人移民急増の危機:民泊、不法滞在、中国の動員法がもたらす社会崩壊の予兆

    まとめ
    • 中国人移民の急増: 2024年、大阪市の中国人人口は57,396人(総人口の2.05%)、大阪府全体で84,693人(0.97%)。全国では87万人が外国人最大集団。特に西成区では10年で倍増し、人口の2割超。
    • 不法滞在者の潜在的影響: 全国の不法滞在者約8.2万人のうち、中国人約1.6万人と推定。大阪市に約440人、府全体で約1,378人が潜伏の可能性。隠れた移民が社会不安を増幅。
    • 特区民泊と地域混乱: 2016年の「特区民泊」制度で西成区の民泊施設1,417件の半数以上が中国系。不動産高騰や地元住民の住まい喪失が続き、「日本が乗っ取られる」との声がXで高まる。
    • 中国の法律の脅威: 国民動員法(2010年)、国家情報法(2017年)、国家安全法(2015年)により、海外在住中国人が有事に中国政府の命令でスパイや民兵に動員されるリスク。Xで「敵性因子」との警告。
    • 社会への影響と懸念: 移民急増が文化的対立や治安悪化を招く恐れ。西成区の中国系コミュニティや教育機会の圧迫が統合を阻害。不動産高騰や社会保障負担増も問題化。厳格な管理の必要性が強調される。
    通天閣前で記念写真を撮影する中国人移民(観光客ではない)

    大量移民は社会を破壊する災厄になりかねない。2024年、大阪市の中国人人口は57,396人に膨れ上がり、2010年の2万7,828人から倍増。総人口280万23人の2.05%を占める。大阪府全体では84,693人で、877万4,969人の0.97%だ。全国では87万人の中国人が外国人最大の集団となり、ベトナム人や韓国人を凌駕している。特に西成区では、富裕層が戸建てを買い漁り、民泊を乱立させ、10年で中国人住民が倍増。来日7年以下の新参者が2割を超える。この急増は、地域の平穏を侵す火種になりかねない。

    公式統計は不法滞在者を隠す。出入国在留管理庁の2024年6月末データによれば、全国の不法滞在者は約8万2,000人。中国人が20%、つまり1万6,400人と見積もられる。大阪府は全国の外国人人口の8.4%を占めるから、府内の不法滞在中国人は約1,378人。大阪市は府人口の31.9%だから、約440人だ。これを加算すると、大阪市は57,836人(2.07%)、大阪府は86,071人(0.98%)に達する。この推定は仮定に基づくが、隠れた移民は社会の不安を増幅する。

    西成区の現実は目を覆う。2016年の「特区民泊」制度で短期賃貸が野放しになり、全国の民泊事業者の95%が大阪に集中。その4割、関西では6割が中国人だ。西成区の1,417件の民泊施設のうち、半数以上が中国系。不動産価格は高騰し、地元住民は住まいを奪われる。Xでは「日本が乗っ取られる」との叫びが響き、住民は不安に駆られ引っ越しを考える。この分断は、大量移民の災厄の前触れだ。

    ここに、中国の国民動員法(2010年制定)が暗い影を落とす。この法律は、国家の主権や安全が脅かされた場合、全国民や企業を戦争準備に動員する権限を国家に与える。有事には、海外在住の中国人や企業も中国政府の命令に従い、情報収集や軍事支援を強制される。 さらに、国家情報法(2017年)や国家安全法(2015年)は、個人や組織に政府への情報提供を義務づけ、スパイ活動を拒否すれば国家反逆罪に問われる。

    これらの法律は、海外の中国人を中国共産党の「民兵」や「スパイ」に変えかねない。Xでも、「国防動員法で中国人移民は有事に敵性因子となる」との警告が飛び交う。 大阪の中国人移民がこうした法律の網にかかれば、地域社会は混乱に陥る。


    「移民10%超で社会は崩壊する」。この主張は学術的証明に欠けるが、歴史は警鐘を鳴らす。1920年代の米国は移民15%で制限法を設けた。現代の欧州では、ドイツや英国の移民10%前後の地域で反移民感情や右派が台頭。ドイツの2023年警察統計では、外国人犯罪が全体の30%を占め、治安悪化が懸念される。

    競合脅威モデルは、移民急増が文化的アイデンティティを侵し、対立を煽ると説く。大阪は2%だが、西成区の中国系民泊や独自コミュニティは統合を拒む兆候だ。教育現場では、中国人生徒が塾の3割を占め、地元民の機会を圧迫する。

    経済的負担も見逃せない。移民の「ランマネー」は一時的な潤いに過ぎない。OECD(2023年)は、低スキル移民が社会保障を圧迫する可能性を指摘する。大阪では、不動産高騰で地元住民が締め出され、文化的衝突が日常化。Xの声は、伝統とコミュニティが侵される恐怖を映す。不法滞在者は治安と公共サービスの負担を重くする。

    大阪西成区

    大阪の2%は10%に遠い。しかし、西成区の混乱は、大量移民と中国の問題法が絡み合う毒の証だ。民泊の野放し、不動産買い占め、不法滞在者の潜伏、そして国防動員法の脅威。これらが積み重なれば、社会は揺らぐ。大量移民は災厄になり得る。この現実を直視し、厳格な管理と地域の守りを固める時が来ている。

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    2025年4月13日日曜日

    「米国売り」止まらず 相互関税停止でも 国債・ドル離れ進む―【私の論評】貿易赤字と内需縮小の誤解を解く! トランプの関税政策と安倍の知恵が示す経済の真実

     「米国売り」止まらず 相互関税停止でも 国債・ドル離れ進む

    まとめ

    • 米国債売却と長期金利急騰トランプ政権下で米国債の大量売却が続き、10年物利回りが3.9%から4.6%近くまで急上昇、24年ぶりの週間上昇幅を記録。30年債も38年ぶりの上げ幅。相互関税90日間停止でも売りが止まらず、ドル安と米国資産離れが進行。
    • 要因と懸念各国機関投資家や中国の売却、欧州由来の売り圧力が要因とされる。米国債の安全資産としての地位低下が懸念され、市場の動揺が続いている。

    大統領専用機内で取材に応じるトランプ米大統領=11日、米ウェスト・パーム・ビーチ

     トランプ米政権下で米国債の売却が止まらず、長期金利が急激に上昇している。9日に相互関税の大部分を90日間停止する措置を発表したが、市場の売り圧力は収まらず、ドル安が急速に進んでいる。投資家の米国資産離れが目立ち、市場に動揺が広がっている。米国債は通常、世界で最も安全な金融資産とされるが、現在の株価乱高下の中でも売られ続け、専門家からは「米国債の安全資産としての地位が揺らぐ」との声が上がっている。

     長期金利の指標である10年物米国債利回りは、週明け7日未明の3.9%前後から8日夜には4.5%付近まで急騰。関税停止で一時低下したものの、11日には4.6%近くに達した。ロイターによると、10年債利回りの週間上昇幅は2001年以来24年ぶりの大きさで、30年債も1987年以来38年ぶりの上昇幅を記録。背景には、機関投資家の売却、中国の報復的売却の臆測、欧州からの売り圧力があり、米国債市場の混乱が続いている。

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    【私の論評】貿易赤字と内需縮小同一視の誤解を解く! トランプの関税政策と安倍の知恵が示す経済の真実

    まとめ
    • 貿易赤字と内需縮小は別物である。内需が強いと輸入が増え、貿易赤字が拡大することがあり、縮小とは逆の現象だ。為替や国際競争力も赤字に影響し、内需とは直接関係しない。
    • 米国の基軸通貨であるドルは、貿易赤字を維持しやすくする。世界的なドル需要により、米国は内需の強弱に関係なく赤字を続けられ、基軸通貨の特権で縮小を避けられる。
    • 関税は輸入を抑えるが、報復関税や物価上昇で赤字削減や内需拡大の効果は限定的だ。トランプ政権の関税政策は、市場混乱を抑えきれず、限界を示した。
    • トランプは貿易赤字を内需縮小と結びつけ、輸出依存を下げて内需を強化する戦略を持っていた可能性がある。しかし、関税に頼りすぎ、効果を期待できない。
    • 内需拡大には、関税よりインフラ投資、減税、教育支援が有効だ。これらは国際摩擦や物価上昇を避け、経済を穏やかに成長させる。
    • 安倍晋三元首相は、トランプに内需重視の戦略を伝え、過激な関税を抑えた可
    • 能性がある。日米貿易協定や首脳会談での対話が、保護主義のリスクを軽減した。
    貿易赤字と内需の複雑な関係


    貿易赤字とは、輸入が輸出を上回る状態だ。消費者が外国製品を買いあさったり、企業が海外から原材料を調達したりすれば、輸入が増え、貿易赤字が膨らむ。一方、内需は、国内の消費、企業の投資、政府の支出など、経済を動かす力の総和である。内需が縮小すれば、消費や投資が減り、経済は停滞する。だが、貿易赤字と内需の縮小が直結すると思うのは早計だ。

    経済が好調で、消費者がガンガン買い物をしたり、企業が投資を増やしたりすれば、国内の生産では追いつかず、輸入が急増する。内需が強いからこそ、貿易赤字が拡大するのだ。これは縮小とは真逆の話だ。米国の貿易赤字は、消費者が外国製品を求める強い内需に支えられてきた。

    2022年の商務省のデータでは、米国の貿易赤字が9710億ドルに達したが、パンデミック後の消費ブームが輸入を押し上げた結果だ。為替レートや国際競争力も赤字に影響する。ドル高なら輸入品が安くなり、赤字が膨らむが、これは内需の縮小とは無関係だ。2022年にドル指数が20年ぶりの高水準を記録したとき、輸入が加速し、赤字が拡大した。

    輸出産業が弱ったり、企業が海外で生産したりすれば、輸出が減り、赤字が増える。これも内需とは別問題だ。内需が縮小しても、海外の需要が落ち込んだり、輸出品の競争力が低下したりすれば、輸入が相対的に多くなり、赤字が続く。

    2023年の世界貿易機関の報告では、グローバルな需要減が米国の輸出を圧迫し、赤字を維持したとある。米国の基軸通貨、米ドルがこの構図をさらに複雑にする。ドルは世界の貿易や投資の柱であり、原油や金の取引もドル建てだ。

    2022年の国際決済銀行のデータでは、国際取引の88%がドル建てだった。世界中がドルを欲しがるから、米国は貿易赤字を維持しやすい。消費者が外国製品を買い、企業が海外から原材料を輸入すれば、ドルで支払う。ドルはどこでも通用するから、輸入は簡単だ。内需が強ければ輸入が増え、赤字が膨らむ。だが、内需が弱まっても、ドルへの需要は揺るがず、輸入が減りにくい。

    関税とトランプの経済戦略


    関税も話をややこしくする。関税は輸入品に課す税金で、価格を上げ、輸入を抑える効果がある。2018年、トランプ政権が中国製品に25%の関税をかけたとき、米通商代表部の報告では、対象品の輸入 が一時的に減った。だが、相手国が報復関税を課せば、輸出が減り、赤字が逆に増える。

    2019年の米国農務省のデータでは、中国の報復関税で大豆輸出が40%減少し、赤字削減の効果は薄れた。関税は内需にも響く。輸入品の価格が上がれば、消費者が国内製品に目を向けるかもしれないが、物価上昇で財布の紐が固くなり、内需が縮小することもある。2020年の全米経済研究所の研究では、トランプ政権の関税が物価を0.4%押し上げ、消費を冷やしたとされる。

    関税を下げれば、輸入品が安くなり、消費が刺激されて内需が拡大するが、輸入が増えるから赤字が膨らむ。為替レートやサプライチェーンの変化も絡むから、関税の効果は一筋縄ではいかない。中国からの輸入が減っても、ベトナムやメキシコからの輸入が増え、2021年の商務省データでは赤字に大差はなかった。記事で、トランプ政権が相互関税を90日間停止したのに、赤字や市場の混乱が収まらなかったとあるのは、関税の限界を示す。

    トランプが貿易赤字を内需の縮小と結びつけていた可能性は、彼の発言や政策から読み取れる。彼は赤字を「米国の富が海外に奪われる問題」と捉え、国内経済の弱さと直結させた。2018年3月のツイートで、「莫大な貿易赤字は国にとって良くない。製造業を国内に戻し、雇用を取り戻す」と言い切った。赤字は内需、特に製造業の衰退を意味すると考えていたのだろう。

    高関税政策は、輸入を減らし、国内生産を増やして赤字を縮小し、内需を強くする狙いだった。2018年の鉄鋼・アルミニウム関税の演説で、「関税は米国の工場を再び動かし、労働者を守る」と力説した。だが、関税が内需を大きく押し上げることはなかった。

    2020年のピーターソン国際経済研究所の分析では、関税で製造業の雇用が少し増えたが、物価上昇が消費を圧迫し、内需への効果は小さかった。トランプは赤字を「負け」と単純化し、基軸通貨やグローバル経済の複雑さを軽視した節がある。2019年の経済諮問委員会との対話で、「赤字は中国に奪われた雇用だ」と語ったが、経済学者は赤字の多くがドル需要や消費パターンによるものだと指摘した。

    過去のこのブログで主張したように、トランプが米国の輸出依存度を下げ、内需を拡大しようとした可能性は十分に感じられる。米国の輸出はGDPの12%(2022年、商務省データ)だが、第二次世界大戦中や戦後は5~8%と低く、国内市場中心の経済だった。トランプの「アメリカ第一主義」は、輸出より国内の生産と消費を優先し、赤字を減らしつつ内需を強くする戦略だったと見える。

    2017年の税制改革は、企業や家計の可処分所得を増やし、内需を刺激した。2020年の連邦準備制度のデータでは、税制改革で個人消費が1.1%増えたとされる。だが、関税に頼りすぎたため、物価上昇や報復関税で効果が打ち消された。トランプが内需拡大を真剣に目指したなら、関税より穏やかな方法があった。

    インフラ投資はその一つだ。道路や橋、公共交通の整備に大金を投じれば、建設業の雇用が増え、経済が回る。2017年にトランプが提案した1兆ドルのインフラ計画は議会で潰れたが、2021年のバイデン政権のインフラ法(1.2兆ドル)は、2023年にGDPを0.5%押し上げた(商務省試算)。税制の優遇も有効だ。

    中小企業や中低所得層の減税を増やせば、消費や投資が伸びる。2020年のピーターソン国際経済研究所の報告では、個人向け減税が消費を直接押し上げるとある。教育や職業訓練への投資もいい。労働者のスキルを上げれば、国内産業の生産性が上がり、輸入依存が減りつつ内需が強まる。2022年の労働統計局のデータでは、技術訓練を受けた労働者の賃金が10~15%高く、消費を支えた。これらの方法は、関税のような国際的な軋轢や物価上昇を避け、経済を滑らかに成長させる。

    安倍元首相の影響と経済の未来

    安倍総理とトランプ大統領

    安倍晋三元首相は、トランプの関税政策を穏やかにしたとみられる。安倍はトランプと個人的な信頼を築き、2017年から2020年まで首脳会談やゴルフ外交で頻繁に対話した。外務省の記録では、2017年から2019年だけで日米首脳会談が10回以上あり、経済や貿易が中心議題だった。安倍は日本の経験を基に、内需主導の経済成長の重要性をトランプに伝えたかもしれない。

    安倍政権の経済政策は、内需と輸出のバランスを模索したが、内需主導への転換は道半ばだった。しかし、2013年のアベノミクスは、金融緩和や財政出動で内需を刺激し、2014年にGDP成長率を1.4%押し上げた(内閣府データ)。この成功を、トランプに「関税より内需重視が賢い」と説いた可能性がある。2019年9月の日米貿易協定交渉は、その一例だ。

    トランプは当初、自動車など日本製品に高関税をちらつかせたが、安倍は交渉で関税引き上げを回避し、デジタル貿易や農産物の相互開放で合意した。ロイターの2019年9月26日の報道では、安倍が「関税の応酬は両国経済に害」とトランプを説得し、米国の農家支援策を提案して妥協を引き出したとある。この協定は、米国の対日赤字を大きく減らさなかったが、関税戦争の激化を防ぎ、両国の内需への悪影響を抑えた。

    安倍のアプローチは、関税より協調的な経済政策が繁栄の鍵との信念に基づいていた。2018年のG7サミットでも、安倍はトランプの保護主義に対し、自由貿易の重要性を説き、米国の内需を傷つけない方法を議論した(日経新聞、2018年6月10日)。2017年の訪米時の演説(2月10日、ホワイトハウス)で、「日米の経済は相互依存であり、開かれた市場が繁栄の鍵」と述べ、保護主義のリスクを牽制した。

    安倍の影響は、トランプの関税政策が一部で抑えられた点にも表れている。トランプは2018年に中国に大規模な関税を課したが、日本やEUに対しては全面的な関税戦争を避け、部分的な合意を選んだ。安倍ら同盟国のリーダーが、関税の副作用を警告した結果だ。安倍の助言がなければ、トランプの関税政策は上の記事のような市場の混乱をさらに悪化させ、経済的緊張を高めていたかもしれない。

    米国は長年、大きな貿易赤字を抱えている。基軸通貨のドルがこれを支える。消費者が外国製品を買い漁り、内需が強いから、輸入が増えて赤字が膨らむ。ドルは世界中で必要とされるから、赤字が続いても問題が少ない。

    上記事では、米国債売却やドル安でドルへの信頼が揺らいだが、赤字が内需縮小と直結せず、関税や市場の動揺が絡む複雑な状況だった。日本のような基軸通貨でない国なら、赤字が通貨安を招き、内需が縮小する。だが、米国は基軸通貨の特権でこれを避けられる。トランプが赤字を内需の縮小と結びつけた可能性は、彼の発言や政策から感じる。

    だが、データや分析を見れば、赤字は内需だけでなく、ドル需要やグローバル経済の構造に依存する。彼が内需拡大を目指したなら、関税よりインフラ投資、減税、教育支援が、内需を育て、赤字への依存を減らせた。安倍がこうした戦略を伝え、過激な関税を抑えた可能性は、両者の緊密な対話や日本の経験から納得できる。結局、貿易赤字の拡大は、内需の強さ、為替、国際競争力、基軸通貨、関税など、さまざまな要因で決まる。

    米国では、ドルが基軸通貨だから、内需が強くても弱くても赤字を維持でき、縮小に直結しない。関税は輸入や内需に影響するが、報復関税や物価上昇で効果は複雑だ。トランプの視点は赤字を経済の弱さと結びつけたが、現実はもっと複雑だ。しかし、この類の勘違いをする人間は多い。トランプが目立っただけだ。

    安倍の知恵がトランプを導き、関税の罠から経済を引き戻したなら、それは歴史に刻むべき功績だ。今回もトランプは、過去の安倍の説得を思い返しており、安倍の説得の正しさを今更ながら噛み締めているだろう。貿易赤字と内需縮小を一緒にするのは、経済の真実を見誤る愚かな過ちである。複雑な仕組みを解き明かし、冷静に未来を切り開くことこそ、今、我々に求められているのだ。世界各国は国内でも、国際的にも経済の真実を握り、揺るぎない一歩を踏み出すべきときが来たのだ。

    上の見方は、トランプの考え方そのものが間違いであるとの前提で解説したが、無論未だそれを結論付けることはできない。トランプは上で解説したことを知った上で、関税政策を意図的に実行している可能性もある。それは、今後の推移で見えてくるだろう。そのようなことがあれば、またこの話題について掲載しようと思う。ただ、上の解説をご覧いただくと、貿易赤字と内需縮小を一緒にして経済の真実を見誤る愚かな過ちについてご理解いただけるもの考える。

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    2025年3月31日月曜日

    <解説>ウクライナ戦争の停戦交渉が難しいのはなぜ?ベトナム戦争、朝鮮戦争の比較に見る「停戦メカニズム」の重要性―【私の論評】ウクライナ戦争停戦のカギを握る米国と日本:ルトワックが明かす勝利への道

     <解説>ウクライナ戦争の停戦交渉が難しいのはなぜ?ベトナム戦争、朝鮮戦争の比較に見る「停戦メカニズム」の重要

    岡崎研究所
    まとめ
    • トランプ・プーチン会談と停戦の進展: 3月18日の電話会談で、プーチンがウクライナのエネルギーインフラに対する限定的停戦に同意したが、トランプの長期和平案には抵抗。トランプはロシアから初の譲歩を引き出したが、交渉は依然厳しい。
    • ゼレンスキーの反発とロシアの要求: ゼレンスキーはプーチンの無条件停戦拒否を批判し、ロシアの動員停止や武器供与中止要求を非難。クレムリンはウクライナのNATO排除や4州占領を条件に掲げ、キーウを交渉から外そうとしている。
    • トランプ仲介の問題: トランプのロシア寄り姿勢と公平性への疑問が浮上。米国が当事者を個別に調整する方式は誤解を招きやすく、停戦と中東情勢を絡めた交渉の可能性も懸念される。
    • ロシアの部分停戦戦略: ロシアは戦闘を部分的に停止し、優勢な戦線を維持する意図。完全停戦ではなく、自身に有利な形で戦争を展開しようとしている。
    • 歴史的教訓: ベトナム戦争では米軍撤退後に停戦が崩壊したが、朝鮮戦争では駐留で維持。停戦には維持メカニズムが不可欠だと歴史が示している。


     ウォールストリート・ジャーナル紙の3月18日付解説記事が、ウクライナ戦争の停戦交渉について、トランプ・プーチン電話会談までの進展を詳しく紹介しつつ、今後も厳しい交渉が続くとの見通しを示した。プーチン大統領は3月18日の電話会談で、ウクライナのエネルギーインフラに対する限定的な停戦に同意したが、トランプが推し進める長期的な和平計画には依然として抵抗を見せた。

     トランプはこれまでキーウ側に譲歩を迫ってきたが、今回はロシアから初めて具体的な譲歩を引き出した。クレムリンに対し、関係改善と孤立解消を説得材料に使ったのだ。ホワイトハウスは、停戦合意を拡大するため中東でさらなる協議を予定し、「エネルギーとインフラの停戦、黒海での海上停戦、そして完全停戦と恒久的平和に向けた技術的交渉から始めることで両首脳が合意した」と発表した。

     ゼレンスキー大統領は、プーチンが即時無条件停戦を拒否したことを非難し、ロシアがウクライナ南部と北部で新たな攻勢を準備していると警告。プーチンの要求する動員停止や西側の武器供与中止を「我々を弱体化させる狙いだ」と強く批判した。ロシアの譲歩は、米国の圧力でキーウが受け入れた完全停戦には程遠く、クレムリンは今後の交渉が厳しいと示唆。永続的平和には「根本原因」への対処が必要とし、ウクライナの4州占領やNATO排除を条件に挙げた。クレムリンは「ウクライナ問題」を米露二国間で処理し、キーウを交渉から排除したい考えを示したが、トランプがこれを受け入れるかは不明だ。

     トランプの仲介には問題が浮上している。公平性が疑われ、ロシア寄りの姿勢が目立つ。ゼレンスキーは抵抗するも、トランプから武器供与や情報共有の停止をちらつかせられ、譲歩を強いられている。トランプは「停戦合意」の形を急ぎ、プーチンの立場を有利にさせる懸念がある。さらに、米国が当事者間を個別に調整する方式は誤解や猜疑心を招きやすい。トランプはウクライナ問題だけでなく、中東情勢やイラン核問題をプーチンと話し合い、停戦と別のディールを絡める可能性もある。ロシアは部分停戦を積み重ね、優勢な戦線を維持する戦略を取っているようだ。

     歴史的に見ると、ベトナム戦争の休戦交渉が似ている。米国は北ベトナム軍の駐留を認め、南ベトナムに圧力をかけ合意させたが、米軍撤退後、北ベトナムが侵攻し統一が完成した。一方、朝鮮戦争では米軍が駐留を続け、北朝鮮の全面侵攻を防いだ。停戦には維持メカニズムが不可欠だと歴史が教えている。

     この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

    【私の論評】ウクライナ戦争停戦のカギを握る米国と日本:ルトワックが明かす勝利への道

    まとめ
    • ルトワックの停戦提案: エドワード・ルトワックは、ウクライナ戦争を消耗戦とみなし、もはやロシアにもウクライナにも勝利はないとする。米国主導で住民投票による解決を提案。ゼレンスキーとプーチン双方に受け入れ可能な案とし、米軍やNATOの駐留を抑止力にすべきと提案
    • 歴史的教訓: ベトナム戦争では停戦後の米軍撤退で合意が崩壊し、南ベトナムが滅んだ。一方、朝鮮戦争では米軍駐留が休戦を維持。ルトワックは駐留の重要性を強調し、過去の失敗を繰り返すなと警告。
    • 米国の役割: ルトワックは、米国が500億ドル超の支援と外交力で停戦を主導すべきと主張。ロシアを抑えつつ中国との対決を優先し、最小限の駐留と制裁で効率的に安定を図るべきと主張。
    • 日本の支援の必要性: 日本は実質GDP世界3位の経済力を持ち、米国と協力してアジアの安定を支えるべき。過去のソ連対峙や2022年の対露制裁参加をなどから、ウクライナでの成功が東アジアの抑止につながるだろう。
    • 経済強化の戦略: 日本は大胆な積極財政と金融緩和で実質GDPを2位に押し上げ、抑止力を高めるべき。半導体製造装置や素材産業のリーダーシップを活かし、ロシアと中国を牽制し発言力を取り戻すべき。
    エドワード・ルトワック

    昨日もこのブログに登場したエドワード・ルトワックというアメリカの軍事戦略家が、ウクライナ戦争の停戦について熱く語っている。彼の言葉には、現実と地政学が絡み合い、聞く者を引き込む力がある。

    ルトワックは言う。ウクライナ戦争は、ロシアもウクライナも決定的な勝利を手にできない消耗戦だ。2023年10月の『UnHerd』のインタビューで、彼は「もう膠着状態だ。完全勝利なんて夢物語にすぎない」と言い切った。戦争を終わらせるには、米国が動くしかない。

    彼のアイデアはシンプルだ。ドネツクやルガンスク、クリミアといった紛争地域の未来を住民投票で決める。国連やOSCEが監視し、ゼレンスキーには民主的な正統性を、プーチンには面子を保つ出口を与える。「これならゼレンスキーも断りにくいし、プーチンも納得する」と彼は2023年の『The Telegraph』で力強く書いている。米国は、500億ドルを超える軍事支援と外交の力で、この流れを仕切るべきだと彼は睨んでいる。

    歴史を振り返れば、ベトナム戦争の停戦交渉が頭に浮かぶ。1973年のパリ和平協定だ。米国はキッシンジャーの采配で、北ベトナム軍が南に居座る案を押し通した。南ベトナムのグエン・バン・チューは「裏切りだ」と叫んだが、米国は援助を切り上げるぞと脅し、合意を飲ませた。協定から2カ月で米軍は撤退。

    当時のベトナム共和国大統領グエン・バン・チュー

    だが、監視委員会は役に立たず、北ベトナムは軍を増強した。1975年4月、サイゴンが落ち、南は消えた。停戦を守る仕組みがなかったからだ。一方、朝鮮戦争はどうだ。1953年の休戦協定後、米軍は韓国に残った。今も28,500人が駐留し、有志国も当初は支えた。1954年、北朝鮮が仕掛けた小競り合いを米軍が叩き潰し、大事に至らなかった。70年以上、休戦が続いている。駐留の力がものを言ったのだ。

    ルトワックは、停戦が紙切れにならないためには仕組みが必要だと声を大にする。住民投票だけでは足りない。2023年の『Foreign Policy』で彼は言い放った。「ロシアは隙を見れば埋める。抑止力がなければ終わりだ」。米軍やNATOの駐留が鍵だと彼は見ている。朝鮮戦争のやり方を参考にしろと言うわけだ。「ウクライナ東部に米軍やNATOが少しでもいれば、ロシアは手を出せない」と2023年のCSIS討論で断言している。べトナムのような失敗は繰り返すなと。

    2014年のクリミア併合後、監視が甘かったから今があると彼は振り返る。「駐留がなけりゃ、プーチンは合意をゴミ箱に捨てる」と警告する。ただ、彼は中国との対決を優先したい。2024年の講演で「ウクライナに全力を傾けるな。太平洋が本番だ」と言い切った。だから、駐留は最小限でいい。5,000人規模の米軍とNATO部隊で十分だと踏んでいる。監視団や経済制裁も絡めて、効率よく抑え込む。それが彼の絵だ。ボスニアのデイトン合意も引き合いに出す。1995年、NATOの部隊が駐留して和平が保たれた。あれをウクライナでもやれと。

    米国はどう動くべきか。ルトワックは、ウクライナへの支援を続ける一方、戦争を早く終わらせろと迫る。F-16やATACMSを渡してる今、支援は盤石だ。バイデン政権がNATO加盟を急がないのは賢いと彼は2023年の『Wall Street Journal』で褒めた。だが、戦争を長引かせるな。ベトナムみたいに投げ出すな。朝鮮戦争みたいに守り抜け。中国を睨む大局を見据えながら、だ。住民投票を仕切り、米軍と有志国で抑え、監視と制裁で固める。それがルトワックの答えだ。歴史の教訓と現実が交錯する彼の言葉は、読む者を最後まで引きずり込む。

    私はルトワックの案に賛成だ。なぜか。現実を見据えたこの策は、血を流し続ける戦争を終わらせ、未来を切り開く力がある。住民投票で決着をつけ、米軍と有志国が駐留して守る。歴史が証明しているではないか。ベトナムみたいに逃げれば崩壊だ。朝鮮みたいに踏ん張れば持つ。ロシアを抑え、中国に備える。米国が動けば世界が変わる。この案は、弱さじゃなく強さだ。迷うな。進め。そして守れ。それが勝利への道だ。

    日本はこの方向で米国を支えるべきだ。なぜか。まずは日本の実質GDPは、2023年時点で約4.2兆ドルだ。インフレ調整後の数字で見れば、世界3位。米国、中国に次ぐ経済力であるという地事実がある。名目GDPではドイツに抜かれ4位と言われるが、それはドイツの物価高騰と円安のせいだ。

    戦前、日本はソ連と対峙し、アジアの防波堤だった。1941年、日ソ中立条約を結んだが、ソ連は終戦間際に裏切り、満州と北朝鮮を押さえた。その結果、北朝鮮が誕生し、朝鮮戦争で米国を脅かした。今のロシアや中国の台頭も、その流れの果てだ。当時日本が米国と協力してソ連を抑えていれば、アジアは違う道を歩んでいたかもしれない。

    ノモンハン事件

    2025年の現在、日本は米軍と共同演習を重ね、F-35を配備し、中国の脅威に備えている。2022年、ロシアがウクライナに侵攻した時、日本は即座に経済制裁に加わり、G7の一角として米国を支えた。岸田首相は「ウクライナは明日の東アジアだ」と喝破した。その通りだ。ウクライナでロシアを止めなければ、中国は台湾や尖閣に手を出すだろう。

    過去の過ちを繰り返すな。日本が米国と組んで駐留を支え、監視を固めれば、ウクライナはもとよりアジアも守れる。日本も経済力を出し、技術も出し、自衛隊の力も活かすのだ。2023年の実質GDP成長率は1.68%。日本は半導体製造装置や素材産業などで世界をリードしてる。この力を米国と合わせれば、ロシアも中国も震え上がる。

    さらに、大胆な積極財政と金融緩和策で実質GDPを再び世界2位に押し上げれば、それが最大の抑止力になる。国民も防衛力増強やウクラライナ支援などに反対することはなくなる。1990年代、日本は実質GDPで2位だった。それが中国に抜かれた。過去の緊縮策ではダメだ。失われた30年を完璧終わらせろ。金をばらまき、需要をぶち上げ、企業を動かせ。2位を取り戻せば、アジアでの発言力が増し、ロシアや中国への牽制が効く。

    日本が動けば、アジアの未来が変わる。誰もが頷くだろ。これが日本の道だ。米国と共に進め。そして守れ。勝利はそこにある。

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    2025年3月15日土曜日

    もう海軍力で中国にはかなわない…!危機感を募らせるトランプが、プーチンにおもねってでもウクライナ和平を急ぐ「深刻な理由」―【私の論評】トランプの危機感と日本の誤読:5年後の台湾有事を米海軍の現実から考える

    もう海軍力で中国にはかなわない…!危機感を募らせるトランプが、プーチンにおもねってでもウクライナ和平を急ぐ「深刻な理由」

    まとめ
    • 中国の海軍力増強とトランプの危機感:中国の造船業が世界シェア7割を占め、2030年までに艦船460隻を目指す中、米海軍は260隻に減少し、東シナ海・南シナ海での中国の優位性にトランプが危機感を抱いている。
    • トランプの造船業復活策:MAGA戦略に基づき、造船局新設や中国製船舶への高額入港料(1回100万ドル)を提案し、アメリカの製造業・国防基盤の強化を目指す。
    • ウクライナ戦争と米国防力の衰退:西側がロシアを抑えきれず、バイデン政権下で国防予算が実質削減され、アメリカはウクライナ支援と中国抑止の両立能力を失いつつある。
    • コルビーのリアリスト戦略:トランプ政権はエルブリッジ・コルビーを起用し、ウクライナ支援を欧州に委ね、中国の台湾侵略阻止を優先。日本には対中強化を求める。
    • ロシアの疲弊と停戦可能性:ロシアは戦争で経済・軍事的に疲弊し、トランプは「マッドマン戦略」で停戦を誘導しつつ、国力を中国対応に集中させる狙い。
    トランプはマッドマンなのか?

    近年、中国の海軍力が急速に増強される中、トランプ前大統領はその軍事戦略において、独特の「マッドマン戦略」を展開している。この戦略は一見狂気を装うような大胆な動きに見えるが、その裏には中国との軍事バランスが崩れつつある現状への強い危機感がある。とりわけ、米中の製造業や造船業における力の差が、トランプの懸念の中心にある。

    中国は現在、世界の造船業のシェアの約7割を握り、その圧倒的な生産能力を背景に、中国海軍の艦船数を2030年までに460隻にまで増強する計画が予測されている。一方、アメリカ海軍は現状のままでは艦船数が260隻にまで減少する見込みであり、しかも米軍の艦船が世界各地に分散しているのに対し、中国は東シナ海や南シナ海にほぼ集中的に展開している。この限られた地域での優位性が中国に傾きつつあり、その傾向は今後もさらに強まると考えられる。老朽化した米軍艦船が退役する一方で、中国の艦船が充実していくのは想像に難くない現実だ。

    この危機感から、トランプはMAGA(Make America Great Again)戦略の一環として、アメリカの製造業復活を強く掲げ、特に国防を支える造船業の強化に注力している。例えば、ホワイトハウス内に造船局を新設する計画を発表し、民間と軍用の造船能力を再構築する方針を示した。さらに驚くべきことに、米通商代表部(USTR)は中国製の船舶がアメリカの港を利用する際に、1回あたり100万ドル(約1.5億円)の入港料を課す案を公表した。

    ここで注目すべきは、対象が「中国籍の船」ではなく「中国製の船」である点だ。これは極めて異例かつ大胆な政策で、船舶が長期間使用される性質を考えると、中国製船舶の所有者にとって事実上の入港禁止とも言える打撃となる。中国製船舶は世界中に所有者が存在するため、この政策は国際的な反発を招く可能性が高い。それでもトランプ政権は、中国に造船業が集中する現状を打破する必要性を真剣に捉えているのだ。

    一方、ウクライナ戦争の状況も、トランプの戦略に影響を与えている。西側諸国はロシアの軍事侵攻を阻止できず、核の脅しに怯えながらウクライナへの支援を中途半端に留めた結果、戦争を長引かせ、ウクライナを疲弊させるだけに終わった。さらにバイデン政権下では、アメリカの国防力が大幅に削減された。

    ウォール・ストリート・ジャーナルの2024年3月13日の社説によれば、バイデン大統領が2025会計年度に提案した国防予算8500億ドルは、前年度比わずか1%増に過ぎず、インフレ調整後では実質マイナスとなる。これが4年連続で続き、軍事予算の縮小と武器在庫の枯渇が進んだ。この結果、アメリカはウクライナ支援を続ける一方で、中国の台湾侵略を抑止する力を失いつつある。

    トランプ政権の国防戦略を理論的に支えるのは、リアリストとして知られる戦略家エルブリッジ・コルビーだ。彼は、アメリカの現在の国防力では中国の台湾侵略を抑止するのも困難だと見ており、台湾にGDPの10%、日本に3%の国防費を求めるなど、現実的な危機意識を示している。コルビーは、ウクライナ支援に注力するよりも、中国への対抗を優先すべきだと主張し、「アメリカはすでにウクライナに1700億ドルと大量の武器を提供した。今後は欧州が負担すべきだ」と述べている。また、日本に対しては、ウクライナ支援に集中するのではなく、中国の長期的な脅威に備えるべきだと批判的な見解を示す。

    ロシア側もウクライナ戦争で疲弊しており、装甲車両の損失や経済的な歪みから、停戦に応じる可能性がある。トランプはこれを見越し、停戦を最優先事項に掲げ、ロシアを交渉のテーブルに引き込むための「ロシア寄り」の発言を戦略的に用いたとされる。しかし、ウクライナが求める主権と独立を守る条件と、ロシアの要求が一致する保証はない。

    それでもトランプの最終目標は、アメリカの国力を中国対応に集中させることであり、そのためには欧州がウクライナ支援の負担を引き受ける意識変革が必要だ。こうした状況下で、トランプのマッドマン戦略は、欧州を揺さぶりつつ現実的な力の再配分を目指すものだ。

    朝香 豊(経済評論家)

    この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

    【私の論評】トランプの危機感と日本の誤読:5年後の台湾有事を米海軍の現実から考える

    上の浅香氏の見解に近い話を、このブログで既にぶち上げている。そのリンクを以下に掲載する。
    詳しい話はこの記事を読んでいただくものとして、結論部分だけをここに掲載する。
    現在のアメリカ海軍の戦闘艦艇数は中国の半分以下だ。トランプはこれを変えようとしたが、バイデンでは動かなかった。でも、単純に数だけ比べても意味はない。中国は小型艦艇を大量に抱え、アメリカは持たない。それに海戦の主役は潜水艦だ。水上艦はミサイルや魚雷の的でしかない。対潜戦の力が勝負を決める。中国の対潜戦能力はアメリカに遠く及ばない。アメリカは攻撃型原潜を50隻、中国は6~7隻だ。さらに、攻撃能力でも米国には及ばない。
    オハイオ型原潜のミサイル発射ハッチを全開した写真 人との対比でみるとその巨大さがわかる
    だが、アメリカには弱点もある。太平洋と大西洋に戦力を割かねばならない。2023年10月、ハマスとイスラエルの衝突で、USSジェラルド・R・フォードが東地中海へ飛び、2024年初頭にUSSアイゼンハワーが紅海へ、2025年2月にはUSSトルーマンがフーシー派を睨んでジェッダ沖に現れた。中国が世界中で動けば、アメリカは全てに対応できない。中国が台湾を「ハイブリッド戦争」と武力で押し潰そうとするなら、台湾は核を持つしかなくなる。核がない今、中国の物量と核戦力に最後の切り札がないからだ。 
    結局、台湾問題は理念では動かない。現実の力が動かす。アメリカ以外の国が軍事力を強化し、中国が世界で暴れても対抗できるようにしないと、台湾は飲み込まれ、世界は中国の都合に塗り替えられるかもしれない。

    だからトランプは各国に軍事費を増やせと叫ぶ。ウクライナはEUに任せろと言うのも同理屈だ。アメリカの現実を見れば、これは単なる「アメリカ第一主義」ではない。しかし、現状では中国が今すぐ台湾に侵攻するのは難しい。だから両者とも理念を振りかざす。理念が薄れ、力が静かに動き出す時が真の危機だ。
    これが米海軍の今だ。台湾有事を騒ぐ識者が多いが、私は数年はないと見ている。米海軍が圧倒的で、台湾は天然の要塞だ。ルトワックの語る軍事的なパラドックス「大国は小国に勝てない」も効いている。ルトワックは、台湾有事には米国は強力な攻撃型原潜を2、3隻派遣すれば対処できると断言している。が、5年後はどうだ。
    米国の最も代表的といえるイージス艦、アーレイ・バーク級は起工から進水まで2~3年、進水から就役まで1~2年、合計3~5年だ。これも米国の潜水艦として最も代表的といえる攻撃型原潜のバージニア級は起工から進水まで3~4年、進水から就役まで2~3年、合計5~7年だ。今すぐ作り始めても、就役は5年後だ。造船所や予算でブレるが、これが現実だ。アーレイ・バーク級はバス鉄工所やインガルス造船所で効率よく進む。だが、バージニア級は原子炉のせいで時間がかかる。ジェネラル・ダイナミクス社でも5年未満は無理だ。無論バイデン時代の計画も続行されているが、十分ではない。

    フィリピン東方海域での日米仏共同訓練「パシフィック・ステラー」

    米海軍は今でも二正面作戦はキツい。5年後、中露北イランがどこかで大暴れし、中国がアジアで大規模に動いたら、おそらく米国海軍の強さ自体は継続されているだろうが、それでもこれにすべて対応するのは困難で、アメリカの圧倒的優位は怪しい。おそらく、どこかで手を抜いたり、無視せざるを得ない場合もでてくる。
    日本ではトランプ叩きがうるさいが、2024年11月の選挙で米国民がトランプを選んだ事実を無視している。激戦州を制した勝利を「予想外」と片付ける。要するに支持者を舐めているのだ。
    朝日新聞やNHKは「過激」と連呼し、イメージで殴りつける。アメリカのメディアは民主党寄りだ。CNNやニューヨーク・タイムズはトランプの関税を「保護主義」と叩く。2024年の世論調査は保守派の声が埋もれる構造だ。それでも日本は丸呑み。トランプ支持者の声は届かない。読売とギャラップの2024年11月調査で、日本人の63%が「不安」と言った。だが、アメリカでは55%が「期待」だ。このズレを誰も突かない。テレビでは外国人タレントがトランプを叩く。TBSで米国人コメンテーターが「時代遅れ」と吐いたが、根拠はゼロだ。 
    トランプ批判で、批判されたバックン(右の人物)

    日本メディアや識者はトランプの主要なブレインともいわれるアメリカ第一主義研究所(AFPI)を無視だ。取材もしない。2025年1月、AFPIは「貿易不均衡是正と産業保護」を掲げたが、日本では、「暴走」としか報じない。トランプ政策の誤読は、文脈を捨て、反トランプ派の声を大きくくし、CNNやワシントン・ポストにすがるからだ。日本では、特に2025年2月のワシントン・ポスト記事がそのまま引用されている。

    日本では、トランプの関税を無根拠に叩くが、日本の米(コメ)の関税はかつて778%だたし、現在でも米国から輸入するコメにかかる関税率は、ミニマムアクセス枠内では0%、枠外ではおおよそ200~340%だ。日本はコメに対して高関税、生産調整、政府買い取りなどの保護政策を実施しており、国内農業と食料自給率を守る姿勢を堅持している。これに比較するとアメリカの25%案など可愛いものだ。

    AFPIは対中不正、歳入、外交の狙いを明示している。2025年2月の首脳会談でトランプは「日米同盟は揺るぎない」とぶち上げた。なのに朝日は「圧力」と歪める。世界各地で大規模紛争が同時的に起こって、それに対処するためには各国は戦争経済に移行しなけれならなくなるかもしれない、そうなれば、米国の関税がどうのこうのという次元ではなくなる。各国は、それを想定しているのか。
     
    日米メディアはトランプは「女性軽視だ」と騒ぐが、トランプはサラ・サンダースやニッキー・ヘイリーを初代政権で使い、2025年政権でも複数の女性を閣僚に据えている。日本は大東亜戦争、日米安保、ベトナム戦争で米国を見誤ってきた。今、またトランプを見誤っている。ウクライナやロシアに気を取られる連中は、米国の現実とトランプの焦りを見ていない。

    浅香氏は「マッドマン戦略」と言うが、私は本音で動いていると見る。5年後の危機に備え、各国が軍事力を強化しないと、台湾も世界も中国に蹂躙される危険はリアルだ。トランプへの見方を正し、国際情勢をしっかり掴む。それが日本の急務だ。

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