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2024年11月14日木曜日

トランプ再登板で早くも始まった「世界の大転換」…EUが「ロシア産」天然ガス「米国産」に乗り換え、中国資本の企業にも「脱中国」の動きが!―【私の論評】トランプ政権下での日本の対応:安倍首相の成功と石破首相辞任後の課題

トランプ再登板で早くも始まった「世界の大転換」…EUが「ロシア産」天然ガス「米国産」に乗り換え、中国資本の企業にも「脱中国」の動きが!

まとめ
  • トランプ再選後、メキシコからアメリカを目指す移民キャラバンの人数が半減し、多くが強制送還を懸念して帰国を選択した。
  • カタールがハマス政治指導部の国外追放に同意し、サウジアラビアはトランプ政権の復活を歓迎する姿勢を示した。
  • EUがロシア産LNGからアメリカ産LNGへの切り替えを進める意向を示し、トランプ政権下でアメリカがエネルギー生産国としての地位を強化する動きが見られる。
  • 中国から東南アジア諸国への生産拠点移転が加速し、サプライチェーンの再編が進行している。
  • 今まで米中の狭間で態度を決めかねていた国々が、さらなる路線変更に動いていくのは必然であり、新しい時代が始まりつつある。


トランプの再選後、世界各地で急速かつ顕著な変化が見られている。まず、メキシコの移民キャラバンに大きな影響が出た。選挙結果が明らかになるとすぐに、キャラバンの人数が半減したのである。これは、多くの移民がアメリカへの入国後すぐに強制送還される可能性を懸念し、やむを得ず母国への帰国を選択したためだと考えられる。トランプ政権が正式に発足した後は、移民の流れがさらに細くなることが予想される。これにより、アメリカ国内での移民問題はますます複雑化し、社会的緊張を引き起こす要因となるだろう。

中東地域でも重要な動きが見られた。カタールは、これまでハマスに近い立場を取り、ハマス政治指導部を国内に居住させ、その事務所の設置を認めていた。しかし、トランプの当選を受けて、アメリカ側の要請に応じ、自国に拠点を置くハマス政治指導部の国外追放に同意する動きに出た。さらに、ハマスとイスラエルの双方が停戦に向けて真剣に交渉する意思がないことを理由に、停戦交渉も中断した。このような変化は、中東地域の政治ダイナミクスにも大きな影響を及ぼす可能性がある。

サウジアラビアの反応も注目に値する。サウジアラビアのニュースサイト「アラブニュース」は、「サウジアラビアがアラブ諸国をリードし、トランプ氏を祝福」との見出しの記事を掲載した。これは、トランプ政権の復活を高く評価していることを示している。バイデン政権時代のサウジアラビアの冷淡な態度と比較すると、この変化は顕著であり、サウジアラビアが再びアメリカとの関係強化を図る姿勢を示している。

エネルギー政策においても大きな転換が起きている。EUの行政機関である欧州委員会のフォンデアライエン委員長は、トランプとの電話会談後、ロシア産LNGをより安価なアメリカ産LNGに切り替える意向を示した。これは、ロシア産エネルギーの排除を目指す動きの加速を意味している。トランプは再びパリ協定から離脱し、アメリカを世界一のエネルギー生産国にする姿勢を鮮明にしており、この流れは欧州にも波及している。

経済・産業面では、中国からの生産拠点移転が急速に進んでいる。これは中国資本の企業も例外ではない。タイ、マレーシア、ベトナムなどの東南アジア諸国が新たな投資先として注目されており、これらの国々は中国からの投資を米国向け輸出の機会として捉えている。この動きは、世界的なサプライチェーンの大規模な再編につながる可能性があり、新興市場へのシフトが進むことで経済構造にも変化が生じるだろう。

インドではトランプ支持が強く、多くの有識者がトランプ氏の方が「はるかに、はるかに良い」と評価している。この背景には、バイデン政権の弱腰外交への不満やインド自身の民主主義に対する批判的な態度がある。特にバイデン政権によるインドへの対応には、不満や疑念が広がっており、その結果としてインドとアメリカとの関係にも影響が出てくる可能性がある。

トランプ政権の特徴として、他国の政治体制に干渉せずに付き合いつつ、必要時には頼りになる存在であることが挙げられる。第一次政権時代から政治体制にとらわれず各国と関係を築く姿勢を示してきた。同時に、強い力を見せることでしか平和を保ちえない現実を踏まえた行動を取ってきた。このような外交スタンスは、多くの国々から信頼される要因となっている。

今後の展望としては、世界的なサプライチェーンの再編がさらに進み、権威主義国家の経済的孤立化が進行すると予想される。また、これまで米中の狭間で態度を決めかねていた国々がさらなる路線変更に動く可能性も高い。このような変化は、新たな国際秩序の形成につながる可能性があり、その影響は長期的にも続くことだろう。

トランプ再選後わずかな期間でこれほど多くの変化が見られることは、世界が新しい時代へと突入していることを示唆している。権威主義国家が世界経済から切り離されていく流れや、新興市場へのシフトなど、多岐にわたる変革は今後も続くと考えられる。各国政府や企業は、この新たな国際情勢に適応するため、新しい戦略や政策を模索する必要性に迫られている。今後もこのような動向には注目し続けるべきであり、その展開によって世界経済や地政学的状況にも大きな影響を与えることになるだろう。

新しい時代が始まりつつある。

この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事を御覧ください。

【私の論評】トランプ政権下での日本の対応:安倍首相の成功と石破首相辞任後の課題

まとめ
  • 共和党がホワイトハウスと上下両院を掌握し、トランプ政権にとって予算・法案成立が加速する見込み。
  • トランプ政権の高関税政策が日本の対中サプライチェーンと対米輸出に深刻な影響を及ぼす可能性。
  • トランプ政権の防衛費負担要求や台湾問題への対応が、日本の防衛体制に大きな不安要素を生む。
  • 安倍元首相は対中・対米政策で協調を維持し、日本の利益を守る手腕を示した。現在の日本は、こうした安倍政権の知恵を学ぶべきである。
  • 石破政権は早期退陣し、自民党は新たな総裁のもとで、日本は変化する国際環境に適応しつつ、自国の利益を守り地域の安定に貢献する役割を果たしていく必要がある。


「トリプルレッド」の到来だ。米国大統領選挙と同時に行われた議会選挙において、共和党が上下両院とホワイトハウスを制した。下院では218議席以上、上院では52議席を確保し、トランプ次期政権に追い風が吹く。この結果、予算や法案の成立が加速することが期待される。しかし、これは単なる好機ではなく、諸刃の剣でもある。

トランプ氏の公約実現が容易になる一方で、議会の監視機能は弱まる懸念がある。共和党がトリプルレッドを形成するのは2016年以来であり、この状況は新たな時代の幕開けを告げている。日本も、この激流に身を投じねばならない。

特に対中政策の転換は急務だ。トランプ氏は中国に対して60%超の高関税を課す方針を示している。この政策が実現すれば、日本企業の多くが中国に持つ生産拠点や、日中間のサプライチェーンに大きな影響が出る可能性がある。特に、自動車産業などは風前の灯火となりかねない。また、トランプ氏は日本を含む世界各国に10%のユニバーサル・ベースライン関税を賦課することを示唆しており、これが実現すれば、日本の対米輸出にも深刻な影響を及ぼすことが予想される。

安全保障面でも暗雲が立ち込めている。トランプ氏は同盟国に対してより大きな防衛負担を求める可能性が高い。具体的には、日本に対してGDPの2%を超える軍事費負担を要求してくることが考えられる。

さらに台湾問題についても懸念が広がっている。トランプ氏の台湾に対する姿勢は不透明であり、台湾防衛に消極的な姿勢を示せば、中国の台湾侵攻を誘発しかねない。この状況は日本の安全保障環境を著しく悪化させるリスクを孕んでいる。

そして、最悪のシナリオとしてセカンダリーサンクション(2次制裁)の脅威も存在する。トランプ氏が中国に対して厳しい経済制裁(1次制裁)を課した場合、中国と取引のある日本企業もその対象となる可能性がある。具体的には、中国企業との取引が制限されたり、中国関連の金融取引が制限されたり、特定の技術や製品の対中輸出が禁止されることが考えられる。これらのセカンダリーサンクションが実施されれば、日本企業は中国市場へのアクセスを失うリスクがあり、多くの企業が深刻な経営危機に陥る恐れがある。

最後に、トランプ氏の外交政策は予測不可能な面があり、突然の政策変更によって日本の外交・経済戦略が混乱するリスクも存在する。このような状況下で、日本は自国の利益を守りつつ、米国との同盟関係を維持するバランスの取れた外交戦略を構築する必要がある。同時に、経済面では過度の中国依存から脱却し、サプライチェーンの多様化を進めることも重要である。

ただ、日本を含む西側諸国としては、世界秩序を自らに都合が良いように作り変えようとする中国と対峙するのは当然のことであり、その点では、トランプ氏と共通の価値観を分かちあうことができる。

そうして、安倍政権を思い返すと、安倍首相は、第一次トランプ政権誕生時には上と同じような危機があったにもかかわらず、トランプ大統領と交渉し、うまく危機を回避して日本の利益を守り抜いただけではなく、米国との協力関係をさらに強化することに成功した。

トランプ大統領(左)と安倍総理

例えば、2019年の日米貿易協定の締結は、両国の経済関係を強化し、トランプ氏の対日貿易赤字への不満を緩和する効果があった。また、安倍元首相は「自由で開かれたインド太平洋」構想を提唱し、トランプ政権の対中政策と足並みを揃えることにも成功した。

現在の日本は、こうした安倍政権の知恵を学ぶべきである。

石破茂首相は就任直後、先月9日に衆院を解散する方針を示した。これは、石破氏がかつて否定的だった憲法7条に基づく解散となる。石破氏は総裁選中、解散権の行使には慎重な姿勢を示していたが、首相就任後に方針を転換した。この急激な方針転換について、石破首相は「国政の審判を経ないまま新政権ができたときに(国民の)判断を求めるのも、69条の趣旨に合致するだろう」と説明している。

しかし、この説明は石破氏がこれまで主張してきた「7条解散否定論」と矛盾しており、批判を招いている。さらには、解散総選挙の結果は、惨敗だった。この程度の負け方だと、過去の例では、自ら辞任するのが通常である。

以上の状況を踏まえると、石破政権は早期に退陣し、自民党は新たな総裁のもとで対中政策を含む外交・安全保障政策を再構築することが急務だ。新政権はトランプ新政権との関係構築や対中政策の強化、防衛力の増強など、喫緊の課題に迅速に対応しなければならない。


このような政権交代は、日本の国益を守り、変化する国際情勢に適切に対応するためには不可欠である。新たな総裁のもとで、日本は変化する国際環境に適応しつつ、自国の利益を守り地域の安定に貢献する役割を果たしていく必要がある。

日本は今、歴史的な決断を迫られている。ここで誤れば、先人たちが築き上げた国の礎を我々自身が壊すことになるだろう。守るべきものを守り抜く、その覚悟が問われているのだ。

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2024年11月12日火曜日

過去最高を更新し続ける米国の石油生産 何が要因なのか?―【私の論評】トランプ大統領再登場で米国エネルギー政策が激変!新たな世界秩序の幕開け

過去最高を更新し続ける米国の石油生産 何が要因なのか?

まとめ
  • 米国の原油生産量が年初から平均日量1320万バレルに達し、昨年の記録を6.5%上回った。
  • シェールオイル採掘技術の進歩と掘削技術の向上が生産量の急増を支えている。
  • 設備投資の拡大により、石油の輸送と処理が容易になり、米国は主要な原油輸出国となった。
  • 世界的な石油需要の増加と米国の規制環境の改善が生産を後押ししている。
  • 原油価格の回復により、新規プロジェクトへの投資が進み、継続的な生産量の増加が見込まれている。

米国の油田

米エネルギー情報局(EIA)は、米国の原油生産量が年初から平均日量1320万バレルに達したと発表した。これは昨年の最高記録である日量平均1250万バレルを6.5%上回っている。旺盛な需要と採掘技術の進歩により、米国は今年も過去最高の生産量を更新する見込みである。

原油生産量の急増の背景には、シェールオイルの採掘が大きな要因となっている。水圧破砕法や水平掘削技術の進歩により、特にテキサス州やニューメキシコ州のパーミアン盆地から膨大な原油を効率的に採掘できるようになった。また、掘削や採掘の技術向上により、既存の油田からより低コストで多くの原油を生産できるようになった。掘削精度の向上やデータ分析の進展により、操業効率も高まっている。

さらに、設備投資の拡大も生産水準向上に寄与している。パイプラインや製油所、輸出ターミナルの整備が進み、大量の石油輸送や処理が容易になった。この結果、米国は主要な原油輸出国としての地位を確立している。

世界的な石油需要の増加も、米国の増産を促進している。新型コロナウイルスの影響から経済が回復する中、特にアジア地域での石油消費が増加しており、これが原油価格を安定させる要因となっている。加えて、米国の規制環境も業界にとって好ましいものであり、国内資源の開発を支援する政策が生産者の活動を活発化させている。

最後に、原油価格の回復も生産を後押ししている。コロナ禍で急落した原油価格は回復し、以前は採算が取れなかったプロジェクトが再び実行可能になった。このような状況により、米国の原油生産量は継続的に伸び続けている。これらの要因が相まって、米国は記録的な原油生産量を達成し、世界のエネルギー市場でのけん引役としての地位を確固たるものにしている。

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【私の論評】トランプ大統領再登場で米国エネルギー政策が激変!新たな世界秩序の幕開け

まとめ
  • バイデン政権は気候変動対策を重視し、パリ協定復帰や温室効果ガス削減目標設定など野心的な政策を推進した。
  • しかし、産業界からの反発や経済成長への欲求により、環境政策の実施に課題が生じた。
  • 2023年の米国原油生産量は史上最高を記録し、バイデン政権の環境政策と現実の乖離が顕在化している。
  • トランプ政権では原油増産や環境規制緩和が予想され、エネルギー政策が外交の切り札として重視される可能性がある。
  • 米国のエネルギー政策は国際秩序に影響を与え、エネルギー政策が、国際政治の新たな主戦場となる時代が始まったのだ。

就任直後パリ協定復帰を含む多数の大統領令に署名するバイデン大統領

バイデン政権は、気候変動対策を最優先課題として掲げ、パリ協定への復帰や2030年までに温室効果ガス排出量を2005年比で50〜52%削減するという野心的な目標を設定した。インフラ投資やインフレ削減法を通じて再生可能エネルギーの推進を図り、環境規制の強化にも取り組んでいる。特に、自動車のGHG(温室効果ガス)排出規制や燃費基準の見直しは、クリーンエネルギーの普及を促進する重要な施策だ。

しかし、これらの政策は産業界からの強い反発に直面している。特にメタン規制の強化に対しては、石油・ガス業界が準備不足を訴え、実施に向けた懸念が高まっている。このような状況は、バイデンの理想主義が現実の産業界と乖離していることを示している。

そして、現実はどうだ。2023年、米国の原油生産量は日量1320万バレルに達した。これは史上最高だ。テキサス州やニューメキシコ州では、最新技術を駆使した低コストの掘削が行われている。国際的な原油需要の回復も、生産を後押ししているのだ。


バイデン政権は、この矛盾をどう説明するのか。彼らは、クリーンエネルギーへの移行期間中は、従来のエネルギー源も必要だと主張するだろう。だが、それは言い訳に過ぎない。実際には、エネルギー産業からの圧力や、経済成長への欲求が、環境政策を骨抜きにしているのだ。

トランプ新大統領の「脱・脱炭素」担うEPA(環境保護局)長官に指名されたゼルディン氏

では、トランプが再び大統領になったらどうなるか。答えは明白だ。原油生産はさらに増加する。トランプは公共の土地での掘削を積極的に進め、オフショア(海底)掘削の規制も緩和するだろう。石油産業への支援も強化される。原油価格が上昇すれば、新規プロジェクトへの投資も増えるはずだ。

トランプは、バイデンの環境政策を「金の無駄遣い」と批判している。彼は、米国のエネルギー独立を目指し、国内の化石燃料産業を強化する方針だ。環境規制は緩和され、パリ協定からの離脱も再び検討されるだろう。

だが、これは単なる経済政策ではない。外交の切り札になるのだ。原油生産の増加は、米国の影響力を強化する。エネルギーを武器として、他国との関係を操ることができる。中国に対しては、原油輸出を通じて関係改善を図ることも、逆に禁輸措置で圧力をかけることもできるのだ。

ニュースケール社が設計したSMRの1ユニット、上部約3分の1の実物大模型=米オレゴン州コーバリス

さらに、米国は小型モジュール炉の開発も進めている。これが実現すれば、次世代エネルギーの覇者になれる。2030年までに10基以上の稼働を目指している。これは、複数の小型モジュール炉(SMR)を1か所にまとめて設置する原発「モジュール型原子力プラント」を想定している。

たとえば、米国のNuScale PowerのSMRプラントは、各モジュールが60メガワット(MW)級の発電能力を持ち、複数のモジュール(最大12基)を同じサイトに設置することで、総発電量を大規模な原子力発電所に近い規模にすることを目指している。

この設計により、発電容量を電力需要にあわてせ段階的に増加、減少させたり、メンテナンスの際に一部のモジュールだけを停止できるため、従来の大型原子炉に比べて柔軟でかつ安全な運用が期待されている。米国は、原子力分野でも競争力を持つことで、国際的な地位はさらに強化されるだろう。

結論は明確だ。米国のエネルギー政策は、単なる国内問題ではない。世界の力関係を左右する重要な要素なのだ。行き過ぎた環境政策で失敗したバイデンとは異なり、トランプの増産政策は、エネルギーを通じて、米国の覇権を維持し、強化することを目指すだろう。

我々は、このダイナミックな変化の中で、新たな国際秩序が形成されていく過程を目撃しているのだ。環境保護と経済成長、エネルギー安全保障と気候変動対策。これらのバランスをどう取るか。それが、次期大統領の手腕の見せ所だ。

米国の政策転換は、世界中に波紋を広げる。同盟国は、米国の方針に従うべきか、独自の道を歩むべきか、難しい選択を迫られる。新興国は、経済発展と環境保護のジレンマの呪縛から解放される。そして、中国やロシアといった競合国は、米国の政策変更を自国の利益に結びつけようと画策するだろうが、そうはうまくはいかないだろう。

我々は、歴史の転換点に立っている。エネルギー政策が、国際政治の新たな主戦場となる時代が始まったのだ。この激動の時代を生き抜くには、冷徹な現実主義と長期的な視野が必要だ。表面的な理想主義や短期的な利益に惑わされてはならない。エネルギーと安保・外交、環境と経済。これらの複雑な関係を見極め、戦略的に行動する。それが、これからの国際社会で生き残る唯一の道なのである。

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2024年11月10日日曜日

トランプ前大統領の圧勝とその教訓―【私の論評】トランプ再選がもたらす日本への良い影響:経済、安保、外交、社会的価値観と一貫性

トランプ前大統領の圧勝とその教訓

顧問・麗澤大学特別教授 古森義久

まとめ
  • ドナルド・トランプ前大統領がカマラ・ハリス副大統領に圧勝し、全米選挙人票296人、総得票数でも大差をつけた。
  • 世論調査が実態を反映せず、トランプ氏の優位が選挙結果に表れたことが示された。
  • トランプ氏の強力な指導力が支持を集め、様々な攻撃を乗り越えた。
  • ハリス氏は政治指導者としての脆弱性を露呈し、支持を失った。
  • 日本のメディアや専門家のトランプ氏に対する評価が誤っていたことが明らかになり、その変化は日本にとっても歓迎すべき動きだとみて、柔軟な対応を試みるべきである。
カウンティ(郡)レベルでの米大統領選挙の結果 赤が共和党、青が民主党

 アメリカ大統領選挙で、ドナルド・トランプ前大統領がカマラ・ハリス副大統領に対して圧勝を収めた。特に激戦区とされた7州でもトランプ氏がすべてで優位に立ち、全米選挙人票では296人を獲得し、ハリス氏の226人に対して大きな差をつけた。また、総得票数でもトランプ氏は7,215万票を得て、ハリス氏の6,734万票を大きく上回った。これは過去20年で共和党候補が投票総数で勝利したのは初めてのことだ。

 この選挙結果から学べることは多い。まず第一に、アメリカの世論調査の結果が実態を反映していなかったことが挙げられる。選挙前の調査ではハリス氏の支持率が急上昇し、トランプ氏との接戦が予想されていたが、実際の投票結果はトランプ氏の圧倒的な勝利だった。このことは、世論調査に依存することの危険性を示している。

 第二に、トランプ氏の強力な指導力が際立っている。彼は歴史的に敵対的な環境の中で、アメリカ国民の大多数の支持を獲得した。トランプ氏は2016年の選挙以来、様々な疑惑や攻撃を受け続けたが、これらを乗り越え、自国第一の政策に対する支持を維持した。

 第三に、ハリス氏自身の政治指導者としての脆弱性が目立つ。彼女は副大統領としての低い人気を持ち、民主党の予備選を経ずに候補となったことが、多くの有権者を遠ざける要因となった。一時的に支持率が高かったものの、選挙戦中の政策の変動が批判され、支持を失った。

 さらに、日本側のトランプ氏に対する評価が誤っていたことも明らかになった。日本のメディアや専門家はトランプ氏を「危険」な存在として捉えていたが、アメリカの有権者はその逆の判断を下した。これにより、日本の政治的分析の誤りが国際情勢の理解にも影響を与えていることが浮き彫りになった。

 トランプ氏は2025年1月20日に新たな大統領として就任し、内政・外交においてバイデン・ハリス政権とは異なる大胆な政策を打ち出すことを明言している。この変化はアメリカだけでなく、世界全体に影響を与える可能性が高く、日本にとっても重要な展開となるだろう。そのため、日本側も柔軟な対応を模索する必要がある。

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【私の論評】トランプ再選がもたらす日本への良い影響:経済、安保、外交、社会的価値観と一貫性

まとめ
  • 経済効果:トランプ氏の「アメリカ・ファースト」政策による減税や規制緩和が、米国経済と日本企業の国際競争力向上につながる可能性がある。
  • 対中強硬姿勢:トランプ氏の中国に対する強硬な安全保障政策が、日本の防衛力向上に寄与し、日米同盟の強化を促す。
  • 外交政策の一致:中東和平やウクライナ紛争解決へのトランプ氏の姿勢は、日本のエネルギー安全保障にも好影響を与える。
  • 社会的価値観の共鳴:トランプ氏の伝統的な家族観の重視が日本の保守派の価値観と一致し、アイデンティティ政治の影響を抑制する可能性がある。
  • 一貫性ある政策:1980年代から続く「アメリカ・ファースト」の理念を堅持し、対中強硬姿勢やエネルギー独立、二国間関係の重視といった一貫した方針がトランプ氏の強みであり、日本の保守派にとって信頼の対象である。

大統領選に地滑り的大勝利をおさめたトランプ氏

ドナルド・トランプ氏の再選は、日本の保守派にとって実に望ましい動きである。彼の再登板がもたらす変化は、日本の経済、安全保障、外交政策、そして社会的価値観にわたって多岐に及ぶ。アメリカと日本は共に、グローバルな激動の時代に対応するために何が必要かを問われているが、トランプ氏の再選は、その道筋に確固たる方向性をもたらすと言えるだろう。

まず経済面では、トランプ氏が掲げる「アメリカ・ファースト」の政策は、日本企業に大きなビジネスチャンスを生み出す可能性を秘めている。アメリカ第一政策研究所(AFPI)の経済政策責任者であるラリー・クドローは、アメリカ経済がトランプ政権の減税と規制緩和政策によって再び活性化する可能性が高いと述べているが、これには日本も含めた同盟国への恩恵が含まれている。アメリカ第一政策研究所は、単なるシンクタンクに留まらず、トランプ氏の思想的背景を具現化する組織であり、その提言は新たなトランプ政権2.0においても政策形成に大きな影響を与えることが期待される。これによって、日本企業は国際市場で競争力を一層強化できる可能性があるのだ。

次に安全保障の分野において、トランプ氏の対中強硬姿勢は日本にとって極めて好ましいものである。元国防長官マーク・エスパーも、トランプ政権の中国に対する断固とした姿勢が、日本の安全保障に寄与すると指摘している。AFPIの安全保障政策提言書では、中国を「地政学上の最大のライバル」と明確に位置づけ、日米同盟の強化を強く推奨している。日本にとって、米国の強い対中政策は、自国の防衛力向上にとって大いに寄与するものであり、この協力体制は非常に重要な意味を持つだろう。

アブラハム合意に調印するトランプ大統領と中東の首脳ら

さらに外交政策においても、トランプ氏のアプローチには日本にとっての重要な要素が含まれている。彼はウクライナ紛争の早期解決を目指し、中東ではイスラエルとアラブ諸国の関係正常化を目指すアブラハム合意の拡大を掲げている。2024年11月5日の中東政策に関するスピーチで、トランプ氏はこれらの取り組みが日本のエネルギー安全保障にも良い影響を及ぼすと述べた。このアプローチには、「アメリカの国益を最優先する外交」を掲げる一方で、同盟国との関係強化と公平な負担を求める姿勢がある。この外交方針は、日米関係にも大きな影響を及ぼし、特にエネルギー安全保障の面で日本の国益と重なる部分が多い。

社会的価値観に関しても、トランプ氏は伝統的な家族観を重視する姿勢を強く打ち出している。2024年8月30日の選挙集会では、過激なジェンダーイデオロギーを推進する学校への連邦資金を削減することを公約に掲げた。この発言には、アメリカ家族協会のティム・ワイルダモンが「トランプ氏の政策は伝統的な家族の価値を守り、子どもたちを過激なイデオロギーから保護するものだ」として賛同の意を示している。AFPIもまた、「伝統的な家族観」と「宗教の自由」を重視する姿勢を取っており、LGBTQの権利拡大には慎重である。この社会的保守主義は、日本の保守派にも共鳴するところが大きく、日本社会の価値観を支える力にもなり得るだろう。

エネルギー政策の面でも、トランプ氏の現実的なアプローチは注目に値する。元エネルギー長官のダン・ブルイエットは、アメリカのエネルギー独立が日本を含む同盟国のエネルギー安全保障に寄与すると述べているが、これは日本のエネルギー政策の選択肢を広げる可能性を示唆している。現実的かつ持続可能なエネルギー政策は、日本の経済活動や社会的安定に不可欠であり、トランプ氏の再選がその実現に貢献するだろう。

台湾情勢に関しても、トランプ政権2.0の安全保障スタッフには厳しい対中姿勢と強い親台湾姿勢を持つ専門家が揃っており、これが日米同盟の安定に寄与するのは間違いない。ハドソン研究所のマイケル・ピルズベリーは、トランプ政権の対台湾政策が中国の軍事的脅威に対する強力な抑止力となると分析しており、この動きは日本にとっても大きな意義を持つ。

米ホワイトハウスで昨年6月10日、LGBTQの誇りをたたえる「プライド」パーティーが開かれ多彩に翻る「レインボー・フラッグ」

また、バイデン政権下で推進されたLGBTQ関連のアイデンティティ政治に対し、トランプ氏の再選はその影響を抑制する可能性がある。2024年7月15日の政策演説で、トランプ氏は伝統的な家族観や社会規範を重視する立場を明確に示し、アイデンティティ政治に対する見直しを示唆した。これにより、アメリカが再び保守的な価値観に基づいた政策を推進する方向へと舵を切る可能性があり、日本の保守派にとっても大いに歓迎すべき動きである。

一部の識者やメディアは、トランプ氏の政策が一貫性に欠けると批判するが、それは事実に基づいていない。彼の政策の一貫性は、1980年代から掲げる「アメリカ・ファースト」の理念に明確に示されている。減税、規制緩和、対中強硬姿勢、厳格な移民政策、エネルギー独立の重視、国際機関より二国間関係を優先する姿勢など、彼の政策の軸はブレることなく保たれている。トランプ氏の主張は、メディアによる「不確実性」の印象操作を打ち破り、その一貫性が明らかになった今、彼はアメリカの保守派の真髄を体現する存在であることが証明された。

2024年の選挙結果は、トランプ氏への確固たる支持を示し、彼の再選がアメリカの保守派を代表するにふさわしいものであることを裏付けている。そしてこの結果は、日本の保守派にとっても、経済、安全保障、外交、社会的価値観、エネルギー政策など多岐にわたる分野で、トランプ氏が有益なパートナーとなることを期待させるものである。

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もしトランプ政権になれば その2 NATO離脱ではない―【私の論評】トランプ氏のNATO離脱示唆はメディアの印象操作?アメリカ第一政策研究所の真の見解 2024年3月22日

2024年10月3日木曜日

石破政権で〝消費税15%〟も 自民総裁選は好ましくない結果に…国際情勢・国内の課題、期待できない〝財務省の走狗〟―【私の論評】岸田政権の国際戦略転換と石破氏のアジア版NATO構想:大義を忘れた政治の危険性

高橋洋一「日本の解き方」

まとめ
  • 第1回投票では高市氏が181票、石破氏が154票、小泉氏が136票を獲得した。
  • 決選投票で石破氏が215票、高市氏が194票を獲得し、石破氏が逆転勝利して新総裁に選出された
  •  1回目と2回目で議員票に大きな違いが出た要因として、高市氏への警戒感と石破氏への安心感があったとみられる
  • 石破氏勝利の背景には、小泉氏支持者の票の流入や岸田派のほぼ一体化などがあったとみられる
  • 石破新総裁の経済政策や外交姿勢に対して一部で懸念の声も上がっており、石破政権は前途多難

 自民党総裁選では、石破茂元幹事長が激戦の末、新総裁に選ばれた。第1回投票では、高市早苗経済安保相が181票(国会議員票72、党員票109)、石破氏が154票(国会議員票46、党員票108)、小泉進次郎元環境相が136票だった。林芳正官房長官が65票、小林鷹之前経済安保相が60票、茂木敏充幹事長が47票、上川陽子外相が40票、河野太郎デジタル相が30票、加藤勝信元官房長官が22票となった。

 筆者の予想は、高市氏が155票(国会議員票45、党員票110)、石破氏が155票(国会議員票35票、党員票120)で、小泉氏115票、林氏70票、小林氏80票、茂木氏50票、上川氏50票、河野氏45票、加藤氏30票だった。

 党員票はほぼ当たりだが、高市氏の国会議員票は外した。麻生太郎副総裁が土壇場で高市氏に投票を呼び掛けたと報じられたが、しかし、第1回からというのは想定していなかった。

 決選投票では、石破氏が215票(国会議員票189、都道府県連票26)、高市氏が194票(国会議員票173、都道府県連票21)だった。

 筆者の予想は石破氏が205票(国会議員票180、都道府県連票25)、高市氏が205票(国会議員票185、都道府県連票20)だった。筆者が互角としたのは、石破氏には小泉氏、林氏らの票、高市氏には小林氏、茂木氏らの票が行くというのが基本的な流れで、河野氏、加藤氏、上川氏は分断という読みからだ。両陣営ともに刃こぼれ(相手陣営に投票)があったが、岸田文雄首相が石破氏側に回ったのが大きかった。

 石破氏の勝利によって、円高株安の「石破ショック」が発生し、マーケットにも影響を与えた。石破氏は記者会見で、円安による日本経済の好転は期待できないと述べたが、石破氏は円安による「近隣窮乏化」を理解できていないし、能登でも補正予算ではなく予備費で対応すると語り、来年の参院選後には消費税15%を狙ってくる可能性もあり、経済政策には期待が持てない。

 また、石破氏がアジア版NATOを主張していることや、財務省や中国が石破氏の勝利を歓迎していることから、筆者は新政権の前途が多難だ。

この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】岸田政権の国際戦略転換と石破氏のアジア版NATO構想:大義を忘れた政治の危険性

まとめ
  • 岸田文雄首相は、安倍残滓払拭のために石破総裁誕生に奔走したが、その岸田氏は安倍元首相が確立した「自由で開かれたインド太平洋戦略」をあまり用いず、「法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序」という新たな表現を用いたが、この変化は、安倍の影響力を払拭し、新たな国際的立場を築こうとする試みだったといえる。
  • 石破氏が提唱するアジア版NATOについては、時間的制約や憲法上のハードル、アジア諸国の多様性などから懸念が示されており、実現可能性が低いとの指摘が多い。インドのジャイシャンカル外相や米国の専門家も、この構想に懐疑的な立場を取っている。
  • 岸田元首相ならびに石破首相が安倍元首相の遺産を排除しようとする努力は、国内では功を奏したが、国外では限界があり、完全に払拭することは困難。特に、国際舞台での安倍残滓払拭は一筋縄ではいかない。
  •  三島由紀夫の言葉に倣い、政治家は自己中心的ではなく、大義のために行動すべきである。彼の思想は、他者とのつながりや社会への奉仕の重要性を強調し、政治家たちにとっても大義を重視する姿勢が求められる。
  • 岸田首相と石破氏は、安倍残滓の払拭を目指すあまり、本来の大義を見失う危険性がある。彼らは、国民や国際社会の利益を第一に考え、大義のために行動することが求められている。このようにしなければ、結果的に自らの信頼性や自由を失うことになるだろう。
官邸を去った岸田元総理だが・・・・・・

総裁選結果の票読みには、すでに様々な分析が出回っていますが、上の高橋洋一氏の分析は、分析過程など詳細には示されてはいないものの、数量経済学者らしく数字に基づいたもののようで、他の分析に比較すると余分なノイズが少なく客観的であるため、掲載させていただきました。元記事の分析部分に関しては、あまり要約せず、元記事に近い内容にしています。

結論として、やはり第二回目の投票で岸田文雄首相が石破氏側に回ったのが勝敗を決したというのは間違いないです。これによって、岸田氏は、岸波総裁に岸田政権の政策を踏襲させるつもりでしょう。そうして、しばらくは石破氏は、その路線をなるべく踏襲するようにつとめるでしょう。

上の記事では、石破氏がアジア版NATOを主張していることも掲載されていますが、これに対して高橋洋一氏は否定的です。私も、これには否定的です。

ただ、国際関係などは流動的であり、NATOやQUAD、AUKUSなどの同盟は異なった思惑の国々の集合体ですから、必ず離合集散します。現在の国際的な枠組みもいつかは統合し、分裂し、さらにNATOや日米同盟もこれらに吸収されることになるかもしれないです。そうしてアジア板NATOになっていく可能性もあるでしょうし、それを否定するつもりはありません。

ただ、現時点で石破政権がすぐにアジア版NATOに舵を切ることには反対です。その理由は、主に時間的制約、人材や資源の分散、憲法上の問題、アジア諸国の多様性、抑止対象の不明瞭さ、そして歴史的・地政学的背景に基づいています。

アジア版NATOを設立するのにかかる時間が、特に台湾や日本が直面する可能性がある近未来の脅威に対して間に合わない可能性が高いです。また、日本の政府は既に防衛力を増強するために多くのリソースを投入しており、新たな軍事同盟の形成はこれらのリソースを分散させることになる可能性があるからです。

さらに、日本憲法第9条の制約を考慮すると、集団的自衛権の行使に関する憲法改正か解釈変更が必要であり、これはすぐにはできないでしょう。また、アジアの国々は政治的、経済的、文化的に多様であり、中国に対する明確な抑止力を示す意思が統一されていません。この多様性がアジア版NATOの効果的な運用を難しくします。

また、石破氏が「中国を最初から排除することを念頭に置いていない」と述べている点も、抑止の対象が曖昧であるという批判を招いています。抑止の対象が明確でない軍事同盟は実効性に欠けることになります。最後に、過去の国際協調事例から、必ずしも正式な軍事同盟が存在しなくても効果的な対策が取られることがあり、そのような枠組みと比較してアジア版NATOの必要性が高いかが問われています。

以上の理由から、アジア版NATO構想に対して慎重な姿勢を取るべきであり、このような大規模な軍事同盟の形成が現時点では適切でないと思います。現実的な時間的制約、政治的・法律的ハードル、そしてアジアの地域特有の複雑さを考慮に入れれば現時点ではそのような認識になります。

実際に、そのように考えている人もいます。たとえば、インドのジャイシャンカル外相は1日、石破茂首相が提唱する「アジア版NATO(北大西洋条約機構)」の構想について「我々はそのような戦略的な構造は考えていない」と否定的な見解を示しました。ワシントンで開かれたカーネギー国際平和財団のイベントで語りました。

インドのジャマンカル首相

ジャイシャンカル氏は、石破氏の構想について「日本は米国と条約上の同盟関係にある。そうした歴史や戦略的文化がある場合、考え方がそうした方向性になるのだろう」と指摘。その上で「インドはどの国とも条約上の同盟国になったことはない。我々には(日本とは)異なる歴史があり、世界に対して異なるアプローチの方法がある」と述べました。インドはQUADの構成国でもあります。

昨年(2023年)10月23日、国会での所信表明演説のことだ。それまで政府が唱えてきた「自由で開かれたインド太平洋(free and open Indo-Pacific: FOIP)」に岸田文雄首相が触れることはありませんでした。

その一方で、岸田は「法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序」を繰り返しました。「インド太平洋」には言及したが、「自由で開かれた」空間ではなく、「成長センター」と表しました。重要な戦略空間であるはずのインド太平洋は後ずさりしました。

これは、なるべく安倍色を払拭したいとの動きの一環かもしれません。なにしろ、安倍首相は、インド太平洋戦略やQUADの生みの親です。

石破総理の、組閣人事、自民党役員人事をみていると、旧安倍派の入閣はなく、これは安倍残滓払拭内閣と言っても良い陣容です。これは、もちろん岸田元首相の意向も反映していることでしょう。


ただ、国内では様々な方策で、安倍残滓を払拭できるかもしれませんが、国外ではそうはいきません。国外で安倍残滓を払拭するためには、インド太平洋戦略やQUADの枠組みに変わるものを提唱したいのかもしれません。石破氏はこアジア板NATOを提唱することにより、安倍残滓払拭の総仕上げをしたかったのかもしれません。

しかし、その目論は、早々に失敗したようです。

岩屋外務大臣は、石破総理大臣が提案する「アジア版NATO」構築について、直ちに設立するのは難しいと述べ、中長期的な課題として検討するべきだとしました。彼は、インド太平洋地域の各国の多様性を考慮した上で、当面は現在の多国間安全保障協力を丁寧に積み上げるべきだと説明しました。

また、日米地位協定の改定については、石破総理の意見を尊重しつつ、日米同盟の強化に向けた取り組みを検討すると述べました。さらに、韓国や中国との関係改善についても、対話を通じて関係を深化させる意向を示しました。

岸田元首相には、バイデン政権が強い影響を与えているようですが、アジア版NATO構想に対する米国の見解は、特に専門家やシンクタンクの意見を反映すると、主に懐疑的または現実性に欠けると評価されています。

例えば、米ランド研究所のジェフリー・ホーナン上級研究員は、アジア版NATOを「非現実的」と表現しています。これは、アジア地域の政治的、地政学的状況が欧州と異なり、NATOのような多国間軍事同盟を形成する共通の脅威認識や政治的意志が十分に存在しないという認識に基づいています。民主党系の政治家やシンクタンクはこれに言及する人いません。

さらに、X上での議論からも、アジア版NATO構想は実現可能性が低い、または地域の現実に即していないという意見が見られます。これらの意見は、中国や北朝鮮といった具体的な脅威に対抗するための共同戦線を形成することの困難さ、そしてアジア各国の多様な国益と戦略的視点が一致しない点を指摘しています。

したがって、米国から見たアジア版NATO構想の評価は、現実的な軍事戦略としてよりも、むしろアジア地域の安全保障環境の複雑さを理解するための議論の一環として捉えられていることが多いです。

このような状況なので、アジア版NATO構想は、単なる石破氏のひとりよがりの構想となりそうです。

さすがに、国際舞台で安倍残滓を払拭するのは無理があるようです。以上、安倍残滓払拭に血道をあげているような岸田氏は、石破氏について論じてきましたが、多くの人はそんな大人気ないことはしないだろうと思っているかもしれません。しかし、現実はそのようです。現在の自民党の体たらくをみている、上にあげた推測は必ずしも的外れとはいえないようです。

安倍残滓を払拭するために、新たな総裁を選んだり、国際舞台に働きかけようとする背景には、結局は国民などは二の次で、「自分が」という思いが強いのでしょう。それは岸田、石破両名とも「総理大臣」になりたい、あるいは権力を得たいという思いは強いものの、では総理大臣になって日本のために何をしたいかという意図がよく見えないことからもうかがえます。

本来なら、政治家は、安倍氏のことなど関係なく、天下国家のことを考えるべきです。しかし、このようなことを繰り返してきた末に待つのは悲惨な末路ということになりそうです。

三島由紀夫

三島由紀夫は、かつて「人は自分のためだけに生きていけるだけ強くはない」と語っていました。これは、人間は完全に自己中心的には生きられず、他者とのつながりや社会への奉仕、自己を超える対象、これを大義といいますが、この大義への行為によって初めて真の強さと自由を得られるという彼の哲学を表しています。

この考えは、彼の作品や人生を通じて、人間の存在が他者や共同体と切り離せないものであり、自己犠牲や献身がその本質的な強さを示すと主張しています。三島の生涯と死は、この思想がどれだけ深く彼自身の行動に反映されていたかを物語っています。

暗殺されてしまった安倍元首相は、自らの政権の支持率が下がることを認識しながらも、インド太平洋戦略やQUADを提唱しただけではなく、その実現の基ともなる、安全保障関連法規の改正や解釈の変更を実現しました。これは、強力な反対勢力があることを承知しながら、国民の財産や生命を守るという使命を実現するために必要な措置でした。安倍元総理は、こうした大義に準ずる人でした。

私は、言いたいです。「岸田さん、石破さん、"安倍残滓払拭"などという姑息な行動原理で動かず、大義のために動け」と。両名とも政治家とは大義のために動くべきということを思い出してほしいです。そうしなければ、いずれ弱体化し自由を失うことになるでしょう。

私には、総裁選に勝利した石破氏、それを確実なものにした岸田氏よりも、今回総裁選に負けた高市氏のほうが、よほど強く生き生きしているようにみえます。

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2024年9月13日金曜日

トランプ氏 “次のテレビ討論会応じない” ハリス氏は反論―【私の論評】トランプの大統領選戦略:直接対決を避ける巧妙な計算されつくした手法

トランプ氏 “次のテレビ討論会応じない” ハリス氏は反論

まとめ
  • トランプ前大統領は、ハリス副大統領との3回目のテレビ討論会には応じない意向を示した。
  • 初のテレビ討論会は今月10日に行われ、トランプ氏はその後のSNS投稿で討論会の必要性を否定した。
  • ハリス副大統領は、選挙の重要性を強調し、再度の討論会開催を求めた。
  • 10日の討論会は全米で約6700万人が視聴し、関心が高まっている。
  • FOXニュースは次の討論会を主催したいと表明している。

アメリカ大統領選挙に向けた民主党のハリス副大統領と共和党のトランプ前大統領の初めてのテレビ討論会(写真上)が今月10日に行われました。討論会後、トランプ氏は自身のSNSで「3回目の討論会はない!」と投稿し、次のテレビ討論会に応じない考えを示しました[2]。

トランプ氏は、バイデン大統領とハリス副大統領との討論会で政権の問題について詳細に討論したと主張しています[2]。一方、ハリス氏は南部ノースカロライナ州の選挙集会で、有権者に対してもう一度討論会を行う責任があると述べ、改めて開催を求めました[2]。

10日のテレビ討論会は全米で推計6700万人が視聴し、FOXニュースも次の討論会を主催したいと表明するなど、関心が高まっていました。

この記事は、元記事の要約です。詳細は、元記事をご覧になって下さい。この記事の「まとめ」は元記事の要点をまとめて箇条書きにしたものです。

【私の論評】トランプの大統領選戦略:直接対決を避ける巧妙な計算されつくした手法

日本の政見放送は法律で規定さているものだが、放送中に服を脱ぐ候補者が現る・・・・・・?

日本の政見放送は公職選挙法に基づいて実施されており、NHKと民間放送局にその実施が義務付けられています。一方、米国の大統領選挙におけるテレビ討論会には法的な裏付けがありません。

ただし、日本の政見放送は法律に基づいていますが、候補者が強制的に参加させられるわけではなく、参加はあくまでも候補者の任意によるものです。

米国の大統領選候補者の討論会も同様に、候補者の自由意思に基づいて行われ、候補者陣営と放送局の間の合意によって実施されます。そのため、候補者が参加を拒否することも可能です。

実際に、上の記事にもあるように、トランプ前大統領が次のテレビ討論会に応じない意向を示したことが報じられています。一方、ハリス副大統領は「有権者に対してもう一度討論会を行う責任がある」と述べていますが、これは法的義務ではなく道義的な主張です。

米国の討論会は政治的な慣習として定着していますが、法的な強制力はないため、候補者の参加は任意です。このように、日本の政見放送と米国のテレビ討論会は、法律の裏付けの有無において大きく異なります。

米大統領選挙の共和党候補者指名に向けた共和党の候補者テレビ討論会において、トランプ前大統領は一度も参加しませんでした。彼は早い段階から、共和党候補の中で圧倒的な支持を得ているため、討論会に参加する必要がないと主張し、参加しない意向を表明していました。

代わりに、トランプ氏は個別のイベントや集会を開催し、自身の支持者に直接訴えかける戦略を取りました。この決定は他の共和党候補者から批判を受けることもありましたが、トランプ氏の支持率には大きな影響を与えませんでした。

トランプ氏が参加したテレビ討論会は、今年6月にバイデン大統領とのCNNでの討論会と、今年9月10日にハリス副大統領とのABCテレビでの討論会です。このように、トランプ氏は共和党の候補者討論会には参加せず、民主党候補との直接対決を選択しました。

トランプ氏が共和党内の候補者討論会に参加しなかったことについては、以前このブログにも掲載しています。その記事のリンクを以下に掲載します。

2024年の大統領選はかなり興味深いものになりそうです。トランプ氏が最初の討論会を欠席したことについて、私はこれは彼の意図的な戦略的行動だと考えています。

討論会を欠席することで、彼は謎めいた飄々(ひょうひょう)とした雰囲気を保ち、他の候補者たちはいがみ合い、攻撃し合うことになるでしょう。

有権者はトランプ氏の立ち位置を知っているため、討論会でわざわざくたびれた論点を蒸し返す必要はありません。トランプ氏がいないことで、最終的な選挙集会やメディアへの出演がより期待され、よりインパクトのあるものになるでしょう。

それに比べれば、他の候補者たちは注目を集めようと争う稚拙な子供のように見えることになるでしょう。これを例えるなら、トランプ氏は4Dチェス(四次元チェス)をしているが、他の候補者はチェッカー(二次元のゲーム)をしているようなものです。
三次元チェスをする人
結局のところ、トランプ不在の影響は、他の候補者が討論会でどのようなパフォーマンスを見せるかにかかっています。もし彼らが力強いアピールをすれば、トランプ氏の指名獲得の可能性が損なわれるかもしれません。

しかし、もし彼らがミスを犯したり、弱々しく見えたりすれば、トランプ氏の方が経験豊富で資格のある候補者に見えて、トランプ氏を助けることになるかもしれません。

私は後者になる確率が高いと思います。
そしてこの予想は的中し、トランプ氏は共和党の大統領候補の指名を勝ち取りました。

トランプ氏の戦略は非常に巧妙であり、今後の討論会に参加しない意向を示していることは、彼の計画の延長線上にあると考えられます。今回のテレビ討論会後、トランプ氏は自身の勝利を主張し、3回目の討論会には応じないと明言しました。

これにより、彼は自らの立場を強調し、対立候補に対して優位性を示しています。また、10日の討論会は5750万人以上が視聴し、トランプ氏はこの高い注目度を利用して自身のメッセージを効果的に伝えました。

有権者はトランプ氏の立ち位置を十分知っているため、討論会でわざわざくたびれた論点を蒸し返す必要はありません。今後討論会がないことから、最終的な選挙集会やメディアへの出演がより期待され、よりインパクトのあるものになるでしょう。

それに比べれば、再度討論会を要求するカマラ・ハリスは、注目を集めようと争う稚拙な子供のように見えるでしょう。

ハリス氏が追加の討論会を求める中、トランプ氏が応じないことで、彼の存在感が高まる結果となります。このように、トランプ氏は討論会参加を制限することで、自身の立場を維持し、対立候補との直接対決を避ける戦略を取っていると考えられます。

トランプ氏の戦略は、直接対決を避けることでハリス氏に反撃の機会を与えず、彼女の政治経験の少なさや民主党内での批判を浮き彫りにすることを狙っているようです。これにより、ハリス氏の弱点が自然と露呈することを期待しているようです。

ハリス氏は民主党内での評価が低く、バイデン政権下での政策の失敗も批判されています。トランプ氏は、こうした点を利用して自身の支持基盤を固める戦略を取っており、ハリス氏の自滅を待つ形になっています。このように、トランプ氏は直接対決を避けることで、より有利な立場を維持しようとしていると考えられます。

私はこのトランプの戦略が功を奏し、結局大統領選に勝利するのではないかと考えています。

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トランプ氏「日本は再軍備を始めた」 国際情勢の不安定化に警鐘―【私の論評】トランプ陣営の対中・対ウクライナ戦略と日本の対応:AFPIが示す国際情勢への提言 2024年9月4日


ハリス候補への安保面での疑問―【私の論評】日米保守層の連携強化:ハリス氏の曖昧な外交・安保政策と日本のリーダーシップの変化に備えよ 2024年8月23日

2024年9月4日水曜日

トランプ氏「日本は再軍備を始めた」 国際情勢の不安定化に警鐘―【私の論評】トランプ陣営の対中・対ウクライナ戦略と日本の対応:AFPIが示す国際情勢への提言

トランプ氏「日本は再軍備を始めた」 国際情勢の不安定化に警鐘

まとめ
  • トランプ前大統領は、中国の南シナ海での行動が原因で日本が再軍備を始めており、米国の国際的威信の低下が世界的な紛争リスクを高めていると警告し、第三次世界大戦の可能性があると述べた。
  • ロシアとウクライナの戦争を終結させるための「緻密な計画」があると主張し、中国との紛争回避策についても言及したが、詳細は明かさなかった。
  • 日本の再軍備は防衛費の増額や自衛隊の反撃能力の保有に関連していると考えられ、国際情勢の不安定さを強調した。

 トランプ前米大統領は、人気ポッドキャスト番組のホストのレックス・フリードマン氏のインタビューに応じ最近のインタビューで国際情勢の不安定化について警鐘を鳴らした。彼は、中国が南シナ海での行動を強化した結果、日本が再軍備を開始したと指摘し、米国の国際的威信の低下が世界的な紛争リスクを高めていると分析した。その上で、第三次世界大戦の可能性が十分にあると警告した。

 また、トランプ氏はロシアとウクライナの戦争を終結させるための「緻密な計画」が存在すると主張し、中国との紛争回避策についても言及したが、その詳細については明かさなかった。彼は、日本の「再軍備」が防衛費の増額や自衛隊の反撃能力の保有に関連していると考えられ、全体として現在の国際情勢を非常に不安定さを強調した。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】トランプ陣営の対中・対ウクライナ戦略と日本の対応:AFPIが示す国際情勢への提言

まとめ
  • トランプ陣営のシンクタンク「米国第一政策研究所(AFPI)」は、バイデン政権の外交政策を批判し、アメリカの利益を最優先にした迅速な停戦や和平交渉を提案している。特にウクライナ戦争では、武器供与の見直しと和平交渉の推進を求めている。
  • AFPIは中国を最大の脅威と位置付け、経済的デカップリングやアメリカ農地の取得禁止などの厳格な対中政策を提案。米国、日本、台湾の合同軍事司令部設置など、対中抑止の強化を推進すべきと主張している。
  •  AFPIは、ウクライナ戦争の消耗戦を回避するため、停戦と和平交渉を強く求めている。トランプ陣営の具体的な提案には、ウクライナのNATO加盟の延期やロシアとの交渉促進策が含まれている。
  • ウクライナ戦争に関しては、必ずしも一致していないトランプ陣営は、中国への対策を最優先課題とし、対中貿易・投資規制の強化を示唆している。これはバイデン政権とも一貫した厳しい対中姿勢を持つ点で共通しており、これは米国のステートクラフトになりつつあることを示している
  • 日本は、米国の利益に盲従するのではなく、自律的かつ戦略的な外交と防衛力強化すべき。そのため日本の主権と利益を守る強いリーダーシップが必要であり、それを実現できるのは現在の自民党総裁候補の中では高市早苗氏以外にない。

上記の記事に登場する人気ポッドキャスト番組は、「レックス・フリードマン・ポッドキャスト(Lex Fridman Podcast)」です。この番組は、科学、技術、歴史、哲学、知性、意識、愛、権力など、多岐にわたるテーマを取り上げ、深い対話を展開しています。ホストのレックス・フリードマンはMITのAI研究者で、長時間のインタビュー形式で知られています。

各エピソードは通常2~4時間にわたり、著名なゲストとの深い議論が展開されます。政治的立場に偏ることなく、中立的な視点で多様なトピックとゲストを取り上げることが特徴です。

さて、記事に出てくる第三次世界大戦の可能性や、ロシアとウクライナの戦争終結、中国の紛争回避案などについて、トランプ陣営はどのように考えているのでしょうか。

ヒントとなるのが、トランプ前大統領陣営のシンクタンク「米国第一政策研究所(AFPI)」です。

AFPIは、国際情勢の不安定化と第三次世界大戦の可能性に懸念を示し、バイデン政権の外交政策が世界中で戦争と不安定を増大させたと批判しています。特に対中政策では、中国との経済的デカップリングや中国によるアメリカ農地取得の禁止などを提案しています。

日本に対しては、より自律的かつ協力的な同盟国として、アメリカとの関係強化を期待しています。また、中国の軍事的脅威に対抗するため、米国、日本、台湾の合同軍事司令部設置も提案しています。

ウクライナ戦争について、AFPIはバイデン政権の段階的な武器供与と明確な目標設定の欠如が、アメリカを終わりなき戦争に巻き込んでいると批判。迅速な停戦と和平交渉への移行を求める「アメリカ・ファースト」のリーダーシップを主張しています。

具体的には、ウクライナ軍の戦況が厳しくなる可能性を予測し、アメリカが武器供与を続けることに疑問を投げかけています。ウクライナのNATO加盟を無期限に延期することを、ロシアとの合意に含めるよう提案しています。

AFPIは、消耗戦の回避とアメリカの利益を最優先しつつ、欧州最大の戦争終結に貢献するべきだと主張しています。ただし、この提案がNATO同盟国との分裂を引き起こす可能性も認識しています。

全体として、AFPIはアメリカの国益を最優先し、無用な戦争への関与を避け、同盟国との協力を通じて地域の安全保障を促進することを掲げています。彼らは、強力な軍事力の維持と慎重な軍事行使のバランスを重視し、具体的な政策提言を行っています。

AFPIのロゴ

ウクライナ戦争の終結について、トランプ前大統領の国家安全保障顧問であるキース・ケロッグとフレッド・フライツが提案した計画は、迅速な戦争終結を目指しています。アメリカが和平交渉への参加を条件にウクライナに武器供与を続ける一方、ロシアには交渉拒否時の支援増強を警告する二面的な戦略を採用しています。

和平交渉中は前線に基づく停戦を実施し、ウクライナのNATO加盟を長期的に延期することで、ロシアを交渉に引き込む狙いがあります。ウクライナに正式な領土放棄を求めることはありませんが、完全な領土支配の回復は困難と認識しています。若い世代の犠牲を防ぐため、迅速な交渉開始を重視しています。

一方、ポンペオ元国務長官とトランプ陣営のアーバン氏は「ウォールストリートジャーナル」に寄稿し、2024年2月29日に「A Trump Peace Plan for Ukraine(ウクライナのためのトランプ和平計画)」という記事を発表しました。彼らはトランプ再選時のウクライナ支援強化と、ロシアに勝利を諦めさせる方針を示し、制裁強化、5000億ドルの武器貸与計画、ウクライナへの武器供給制限解除などを提案しています。また、ウクライナのNATO加盟の迅速化と経済発展支援も主張しています。この寄稿は、トランプ氏がプーチン大統領に有利な候補だという見方に対する反論となっています。

トランプ陣営は、中国を米国にとって最大の脅威と位置付けています。元大統領副補佐官のアレクサンダー・グレイ氏は、中国を国家安全保障上の最大の脅威と強調し、トランプ政権時代に中国の選挙介入の脅威を重大視していました。エルブリッジ・コルビー氏も、トランプ氏がウクライナよりも中国への対応を重視すると指摘しています。

一方、トランプ陣営は、中国に対する強硬姿勢を強調し、対中貿易・投資規制の強化を示唆しています。AFPIも中国共産党の影響力を抑え、アメリカ人の生活を守ることを目指しています。経済的繁栄、安全なサプライチェーン、エネルギー独立、文化的回復力、軍事的抑止力を通じた脅威の無力化を提唱しています。

米国ではステートクラフトはボードゲームにもなっている

対中政策における米国の厳しい姿勢は、もはや党派を超えてステートクラフトとして定着しつつあります。ステートクラフトとは、国家の利益を追求し、国際関係を管理するための戦略で、外交、経済、軍事を含む包括的な国家の取り組みです。トランプ政権からバイデン政権に至るまで、対中強硬姿勢が一貫して維持されています。

この継続性は、経済界も含めた国家戦略の一貫性を示しています。米国は、日本に対しても同様の姿勢を求めており、日本が米国と共に中国に対峙することを期待しています。

しかし、この期待に日本が応える過程において、米国の利益を優先しようとする動きには、日本は冷静に対応することが求められます。

高市氏は防衛力強化と自主防衛を強く訴え、防衛費の増額やサプライチェーンの多様化など、日本が中国に依存しない経済体制を構築する政策を提案しています。また、米国との同盟を維持しつつも、日本の独自性を重視した戦略的外交を推進しています。

これにより、米国の政策に左右されることなく、日本の主権と利益を守る強いリーダーシップを発揮できると考えられます。したがって、現総裁候補の中で高市早苗氏が最も適任であるといえます。

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<ウクライナ軍の越境攻撃というギャンブル>不意を突くロシア国内侵攻の目的と効果―【私の論評】ゼレンスキー大統領のクルスク侵攻の真の意図

<ウクライナ軍の越境攻撃というギャンブル>不意を突くロシア国内侵攻の目的と効果

まとめ
  • ウクライナ軍は8月6日にロシア領クルスク州への越境攻撃を開始し、約1250平方キロメートルの地域を制圧したと主張している。
  • この作戦の目的は、ロシア軍の一部をドンバス地域から引き離し、ロシアの国境の脆弱性を利用することと考えられている。
  • 攻撃はウクライナ軍の能力を示し、国民の士気を高めると同時に、西側諸国に対して軍事支援の有効性を証明する機会となる。
  • しかし、リスクも伴い、東部前線の防衛力低下やロシアの反撃に対する持久力の懸念がある。
  • 今後の成功には、バイデン政権の支援姿勢が重要であり、ATACMミサイルやF-16戦闘機の供与が鍵となる可能性がある。
緑の✕がウクライナ軍が今回侵攻した地域、青の✕はロシア軍が侵攻した地域

 ウクライナ軍は8月6日、突如としてロシア領クルスク州への越境攻撃を開始した。この作戦は、装甲車両(ドイツおよび米国製を含む)、歩兵、砲兵、電子戦機器を動員する高度に機動的な作戦によるもので、英軍筋はウクライナがcombined arms warfare(諸兵科連合の用兵)を立派に習得していたことを評価して「印象的である」と述べている。

 ウクライナ軍は進撃を続け、総司令官シルスキーによれば1000平方キロメートルを支配するに至っている。これは東京都の約半分に相当する広さだ。この大胆な作戦は、ウクライナの戦略が防御から攻勢へと転換したことを示す重要な出来事として注目されている。

 作戦の目的については、ゼレンスキー大統領はロシア軍がウクライナのスーミ州を越境攻撃するために使っている国境地帯を制圧して安全を確保することに言及しているが、それだけではないだろう。考えられる戦略目的としては、ドンバス地域からロシア軍の一部を引き剥がすこと、ロシアの長大な国境の脆弱性を暴き利用すること、ウクライナ軍には依然として積極的なショックを与える能力があることを証明すること、などが挙げられている。

 また、この作戦は西側が供与した装甲車両と防空兵器を利用して高度に機動的な攻撃を遂行することで、西側にそのような支援は無駄でないとのメッセージを送る効果もある。さらに、ロシア領土を幾分なりとも手中にしていることは、将来のモスクワとの交渉に当たって、ウクライナの立場を強化し得る。

 しかし、この作戦にはリスクも伴う。東部の前線からウクライナの精鋭部隊の一部を割いて振り向けることは、ドンバス地域の防衛を危うくする可能性がある。また、ロシアの反撃に持ち堪えられるか、補給線の長期化に対応できるかなどの課題も指摘されている。

 この作戦の成否は、バイデン政権の態度にかかっているとの見方もある。ATACMミサイル・システムでロシア領内奥深くの軍事目標を攻撃することを認め、さらに新たに供与されたF-16戦闘機でこれを支援できれば、ロシアの反撃を妨害出来る可能性がある。

 ゼレンスキー大統領はこの作戦の報酬はリスクに値すると信じてサイコロを振ったようだが、その結果がどうなるかは予想できない。この越境攻撃が転換点となるか、戦略的失態に終わるか、あるいはそのどちらでもない結果になるかは、今後の展開を注視する必要がある。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】ゼレンスキー大統領のクルスク侵攻の真の意図

まとめ
  • ウクライナ軍のクルスク州への越境攻撃は、地理的・歴史的に重要な兵站拠点を狙ったものであり、ロシアの補給路を遮断する狙いがある。
  • 独ソ戦におけるクルスクの戦いは1943年に行われ、ソ連軍の勝利がその後の戦況に決定的な影響を与えた。バグラチオン作戦はその後の反攻作戦として重要な役割を果たした。
  • 現代においてもクルスク州はロシアにとって重要な補給拠点であり、ウクライナの攻撃はロシアの軍事行動に大きな影響を与える可能性がある。
  • ゼレンスキー大統領は、ロシアの核の脅しが実際には空虚であることを示すため、越境攻撃を行い、米国に対してより多くの兵器供与を求める狙いがあるようだ。
  • 新型長距離兵器「パリャヌィツィア」の導入により、ウクライナは独自の攻撃能力を強化し、ロシア本土への攻撃を行う意図を示している。今後の支援国の動向が注目される。
今回ウクライナ軍が越境攻撃したクルスク州は、その地理的位置と歴史的背景から、軍事的に極めて重要な兵站拠点として知られています。第二次世界大戦中の1943年、この地域で独ソ戦における当時最大規模の戦車戦が繰り広げられました。この「クルスクの戦い」では、ドイツ軍が約2,700両(一部の資料では2,900両)、ソ連軍が約3,500両の戦車を投入し、総計約6,000両もの戦車が参加する史上最大規模の戦車戦となりました。

クルスクの戦い

この戦いはソ連軍の勝利に終わり、その結果はその後の戦況に決定的な影響を与えました。クルスクの戦いは、独ソ戦でドイツ軍が攻勢に出た最後の大規模な戦闘であり、また赤軍が夏期においても勝利した最初の大規模な戦闘でした。

クルスクの戦いの翌年、1944年6月22日から8月19日にかけて、ソ連軍は「バグラチオン作戦」と呼ばれる大規模な反攻作戦を実施しました。この作戦は、ベラルーシを舞台に展開され、ドイツ軍中央軍集団に対する壊滅的な打撃を与えました。この戦いは、それまで夏季の戦いでは勝ったことがなかったソ連軍の初の夏季における勝利となりました。

バグラチオン作戦の結果、ドイツ軍は28個師団を喪失し、戦線は大きく西に押し戻されました。ソ連軍は5週間で700キロ近くも前進し、ドイツ側の発表でも25万人の戦死者と11万を超す捕虜を出すという大打撃を与えました。

この作戦は、独ソ戦に事実上の決着をつけた戦いとされ、ドイツの敗戦を決定的なものとしました。また、政治的にもナチスドイツのソ連との講和の可能性が絶望的になり、ヒトラー暗殺計画が具体化する状況となりました。

現代においても、クルスク州はロシアにとって重要な兵站拠点であり続けています。モスクワとクリミア半島を結ぶ幹線道路上に位置し、鉄鋼などの工業地帯でもあるため、ロシア軍の補給物資の調達と輸送に大きな役割を果たしています。特に、クルスク州はロシアの軍事作戦における後方支援の要となっており、ウクライナ東部での作戦を支える重要な補給路の一部を形成しています。

このような背景を踏まえると、ウクライナ軍の現在のクルスク侵攻は単なる領土の奪取以上の意味を持ちます。クルスクを制圧することで、ロシアの補給路を遮断し、軍事作戦の遂行能力を大きく低下させる可能性があります。特に、セイム川の橋の破壊や、クルスク原発の占領などは、ロシアの軍事行動に大きな影響を与える可能性があります。

しかし、この作戦には大きなリスクも伴います。ロシアにとってクルスクの重要性を考えれば、この地域を簡単に手放すとは考えにくく、激しい反撃が予想されます。これは、軍事作戦の常ですが、侵攻する側には必ず包囲されるという危険が伴います。現在クルスクに侵攻しているウクライナ軍が、ロシア軍に包囲殲滅される危険もあります。

また、ウクライナ軍がクルスクに注力することで、東部戦線が手薄になる可能性もあります。実際に、ドネツク州西部のポクロウシクでは、ロシア軍の前進が止まらず、避難を余儀なくされた住民もいます。

古来、軍事の専門家は二正面作戦の愚を指摘してきました。「二兎を追う者は一兎をも得ず」のことわざ通り、二正面作戦は自軍の戦略が分散し、両方の作戦が失敗する可能性があります。ウクライナ軍が越境攻撃に力を入れるほど、クルスク州とドネツク州の二正面作戦となってしまい、極めて不利な状況になりかねません。

結論として、クルスクへの攻撃は、その現代における兵站上の重要性と歴史的背景ゆえに大きな戦略的意義を持つ一方で、軍事的・政治的に高いリスクを伴う作戦であると言えます。この攻撃の結果が、今後のウクライナ戦争の展開と国際関係に大きな影響を与えることは間違いありません。

一方ウクライナ軍のクルスク制圧は、ロシアだけでなく欧米諸国にも衝撃を与えました。これまで欧米諸国は、ロシアへの直接攻撃を避けるため、ウクライナへの軍事支援に制限を設けていましたが、ウクライナはクルスク制圧の際にアメリカ製の多連装ロケット砲HIMARSを使用したと認め、支援国の"レッドライン"を越えました。

ゼレンスキー大統領は、より踏み込んだ協力を求める強気の姿勢を示しており、この行動のタイミングは米大統領選挙を意識したものと考えられています。ウクライナは、トランプ候補の当選によって支援が削減されることを懸念していますが、ハリス候補が当選した場合でも、レッドラインの緩和を望んでいます。

カマラ・ハリスとドナルド・トランプ

この攻撃は、ウクライナだけでなく支援国にとっても大きな影響を持つ可能性があり、ウクライナが支援国に対してより積極的な協力を求めるための戦略的な動きであると同時に、国際関係に大きな影響を与えるリスクの高い賭けでもあります。

今回のクルスク州への越境攻撃は、ウクライナ側が独自の判断で実施したようです。この攻撃に対して、プーチン大統領は核兵器による報復を行っていません。この事実は、ゼレンスキー大統領にとって重要な意味を持ちます。

ゼレンスキー大統領の意図は、この攻撃とその結果を通じて、「ロシアの核の脅しは単なる恫喝であり、実際には使用されない」ということを示すことにあったと考えられます。この論理に基づいて、ゼレンスキー大統領は「もっとウクライナに兵器を供与し、ロシアへの攻撃を許可せよ」と米国に強く迫る狙いがあったと推測されます。

またゼレンスキーは、8月25日に巡航ミサイルの一種とみられる新型長距離兵器「パリャヌィツィア」の初の実戦使用について報告しています。ゼレンスキーは、ロシアによる大規模なミサイル攻撃に対抗するため、ロシア軍の飛行場を標的にする必要性を強調しました。

欧米諸国から供与された兵器にはロシア本土攻撃の制限があるため、ウクライナは独自の長距離兵器開発を進めたようです。「パリャヌィツィア」は巡航ミサイルに似た外観を持ち、詳細な性能は明らかにされていませんが、今後生産を加速する方針が示されています。この新兵器は、現在ドローンで行っているロシア本土の飛行場攻撃において、重要な役割を果たすことが期待されています。

ウクライナ製巡航ミサイル「パリャヌィツィア」

この兵器がどの程度実効性があるものか、現時点では未知数ですが、ゼレンスキーとしては、長距離兵器を制限なく使用したいという考えがあるのは間違いないようです。

そのように考えると、ゼレンスキーの戦略には一定の合理性があります。まず、ロシアの核の脅しが実際には空虚であることを示すことで、NATO諸国の懸念を和らげることができます。次に、より強力な兵器の供与と攻撃の許可を得ることで、ウクライナの軍事的立場を強化し、ロシアに対してより効果的な反撃を行うことができます。

しかし、この戦略にはリスクも伴います。ロシアが実際に核兵器を使用する可能性は低いかもしれませんが、ゼロではありません。また、NATO諸国、特にアメリカは、ロシアとの直接対決を避けたいと考えており、ウクライナの行動がエスカレーションにつながることを懸念しています。

結論として、ゼレンスキー大統領の越境攻撃は、米国に対して強い圧力をかけ、支援拡大を迫るための戦略的な動きだったと解釈できます。この行動は、ウクライナの軍事的立場を強化し、より多くの支援を引き出すことを目的としていますが、同時に国際関係の緊張を高めるリスクも伴っています。今後、この行動がどのような結果をもたらすか、国際社会の注目が集まっています。

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2024年8月24日土曜日

米大統領選 ケネディ氏が選挙活動中止 トランプ氏支持を表明―【私の論評】米国政治の分断から再編成への道を象徴する重要な動き

米大統領選 ケネディ氏が選挙活動中止 トランプ氏支持を表明

まとめ
  • ロバート・ケネディ・ジュニア氏は、無所属での大統領選挙活動を中止し、トランプ前大統領を支持することを表明した。
  • ケネディ氏は完全に選挙戦から撤退するわけではなく、一部の州では投票用紙に名前を残す意向を示した。
  • 最新の世論調査では、ケネディ氏の支持率は5.0%であり、彼が民主・共和両党からの支持を取り込む可能性が注目されている。
ロバート・ケネディ・ジュニア氏

ロバート・ケネディ・ジュニア氏は、2024年11月のアメリカ大統領選挙に無所属で立候補していましたが、8月23日に選挙活動の中止を発表し、トランプ前大統領への支持を表明しました。

ケネディ氏は完全に撤退するわけではなく、一部の州では投票用紙に名前を残す意向を示しています。彼は、勝利の見込みがないことを理由に支持者に理解を求め、トランプ氏との間に意見の相違があるものの、重要な課題では一致していると述べました。

この決定により、トランプ氏は以前、ケネディ氏が撤退した場合に要職起用を検討する意向を示していたこともあり、選挙戦の構図に影響を与える可能性があります。最新の世論調査では、ケネディ氏の支持率は5.0%となっており、彼が民主・共和両党から支持を得ていたことから、この決定が選挙戦に与える影響が注目されています。これにより、11月の大統領選挙は主にカマラ・ハリス副大統領とトランプ前大統領の対決に焦点が当たることになりそうです。

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【私の論評】米国政治の分断から再編成への道を象徴する重要な動き

まとめ
  • ロバート・ケネディ・ジュニア氏は、元大統領ケネディの甥であり、弁護士としてのキャリアを持つ政治家で、環境問題や反ワクチン活動家として知られている。
  • 2024年の大統領選挙に向けて、当初は民主党の候補者として立候補を表明したが、後に無所属での出馬を決定し、民主党に対して強い批判を行った。
  • ケネディ氏は、既存の政治体制や主流メディアに対して批判的な姿勢を示し、トランプ氏と共通する反エスタブリッシュメントの立場を取っている。
  • ケネディ・ジュニアのトランプ支持への転向は、アメリカ政治の分断と再編成を象徴する出来事であり、トランプにとって有利に働く可能性が高い。
  • トランプが再び大統領に選出された場合、ケネディ・ジュニアが政権に参加する可能性もあり、これがアメリカの政治的景観に新たな影響を与える可能性がある。
1968年6月6日暗殺された父のロバート・ケネディ氏


ロバート・ケネディ・ジュニア氏は、アメリカの政治家であり、ケネディ元大統領の甥にあたります。彼は1985年に弁護士としてキャリアをスタートし、長年にわたり民主党の政治家として活動してきました。環境問題に取り組む活動家としても知られていますが、近年は反ワクチン活動家としての立場でも注目されています。2024年の大統領選挙に向けて当初は民主党の候補者として名乗りを上げましたが、その後、無所属で立候補することを決定しました。

日本では、上の記事も含めて、ほとんどのメディアが取り上げませんが、ロバート・ケネディ・ジュニア氏は、撤退の表明の際に、民主党について強い批判を加えました。具体的には、「民主党は今や汚職、ハイテク、大口献金者などの党だ」と述べ、民主党が大企業やハイテク産業からの影響力、そしてそれに伴う汚職に深く関与していると非難しました。この発言は、主要メディアの記者たちに衝撃を与え、話題となりました。

ケネディ氏のこの発言は、民主党がかつて持っていたとされる理想主義や庶民派のイメージからの逸脱を指摘するものであり、彼自身の政治的スタンスや支持者層に対するアピールでもあります。

ケネディ氏は、自身のキャリアを通じて環境問題やワクチンへの懐疑的な立場を示すなど、既存の政治的枠組みに挑戦する姿勢を見せてきました。この撤退と批判は、彼が持つ支持層の一部がトランプ氏に流れる可能性を示唆し、大統領選の行方に影響を与える可能性があるとされています。

このような発言と行動は、ケネディ氏が民主党の現在の方向性に強い不満を持ち、自身の政治的ビジョンを追求するために無所属での出馬を選択したことを示しています。

ロバート・ケネディ・ジュニア氏とドナルド・トランプ氏にはいくつかの共通点があります。まず、両者は既存の政治体制や主流メディアに対して批判的な立場を取っており、反エスタブリッシュメント(反支配層)の姿勢を示しています。

ケネディ氏は、政府やメディアに対する不信感を公然と示しており、これはトランプ氏の支持者にも共通する特徴です。また、ケネディ氏はワクチンの安全性や有効性に疑問を呈する立場を取っており、これはトランプ氏の支持者の一部にも見られます。

さらに、両者は一般市民の不満を代弁する形で支持を集めており、反エスタブリッシュメントの姿勢を強調しています。これにより、既存の政治に不満を持つ有権者からの支持を得ています。


ロバート・ケネディ・ジュニアのトランプ支持への転向は、現代米国政治における分断からの再編成を象徴する重要な出来事です。ケネディ家は長年民主党の中心的存在でしたが、ケネディ・ジュニアがトランプ支持を表明したことは、伝統的な政党の枠組みを超えた政治的再編成を示しています。彼とトランプは、既存の政治体制や主流メディアに対する批判的な姿勢を共有しており、これは従来の政党の枠を超えた新たな政治的同盟の形成を示唆しています。

ケネディ・ジュニアの支持者には、反エスタブリッシュメント的な有権者や政府に懐疑的な層が含まれており、これらはトランプの支持基盤とも重なる部分があります。外交政策や公衆衛生システムの改革など、いくつかの重要な政策分野で両者は共通の立場を取っています。

トランプの支持基盤の特徴も、この政治的再編成を反映しています。トランプのMAGA(Make America Great Again)スローガンは保護主義的な政策と結びついており、白人労働者階級を中心とした支持を集めています。特に、ラストベルト(錆びついた地帯)と呼ばれる衰退した産業地域の労働者からの支持が強く、不法移民の取り締まり強化などの政策が彼らに支持されています。

MAGAハットを被るトランプ氏

結論として、ケネディ・ジュニアのトランプ支持は、トランプにとって有利に働く可能性が高いと言えます。場合によっては、この支持表明がトランプの地すべり的大勝利につながる可能性も考えられます。ケネディ・ジュニアの支持者の多くがトランプ支持に回れば、従来の民主党支持層の一部を取り込むことができ、さらに無党派層や政治に不満を持つ有権者の支持も獲得できる可能性があります。

さらに、トランプが再び大統領に選出された場合、ケネディ・ジュニアが政権に参加する可能性も考えられます。トランプ前大統領は既に、ケネディ・ジュニア氏が「選挙活動で大きな影響力」を持つと述べており、両者の政治的立場の近さを考えると、ケネディ・ジュニアが何らかの形で政権に関与する可能性は十分にあります。

例えば、公衆衛生や環境政策など、ケネディ・ジュニアが専門性を持つ分野での重要な役職に就く可能性も考えられます。このような展開は、トランプ政権の政策立案や実行に新たな影響を与える可能性があり、米国政治のさらなる再編成につながる可能性があります。

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2024年8月23日金曜日

ハリス候補への安保面での疑問―【私の論評】日米保守層の連携強化:ハリス氏の曖昧な外交・安保政策と日本のリーダーシップの変化に備えよ

ハリス候補への安保面での疑問

【まとめ】

  • カマラ・ハリス候補の外交・防衛政策が不明確で懸念されている。
  • 重要な国際問題についての見解が不明で問題視されている。
  • ハリス氏は、選挙期間中に具体的な政策を明らかにすることが求められる。
カマラ・ハリス米副大統領

アメリカの民主党全国大会が8月19日から始まり、カマラ・ハリス副大統領が民主党の大統領候補として正式に指名を受けることになった。バイデン大統領が選挙戦から撤退した後、ハリス副大統領は最近の支持率調査で共和党候補のドナルド・トランプ前大統領に追いつき、追い越しかねない人気急上昇を見せている。

しかし、ハリス氏の外交や防衛についての考えがわからないという疑問が米側の大手メディアで提起された。特に注目すべきは、ウォールストリート・ジャーナルの8月9日付の社説だ。この新聞は、客観性が強いとされており、その主張は注目に値する。

社説は「謎の最高司令官」と題され、ハリス候補が国際問題についてどんな思考を持っているのかわからないと主張している。現在の国際情勢が第二次世界大戦以後かつてないほど危険となった中で、ハリス候補は民主党の大統領選への指名を確実にしてからも、記者会見やインタビューを一切していないことが指摘されている。

社説はまた、ハリス氏の過去の言明も懸念の対象としている。2020年に上院議員として大統領選への名乗りをあげた時期に「国防費は削減されねばならない」と明言していたことが挙げられ、中国の軍事力増強が続く中で、今もなおアメリカ側の軍事力の削減を求めるのかという疑問が提起されている。

これらの疑問が生じる背景には、ハリス氏がバイデン政権の副大統領として外交政策や軍事政策など対外的な課題にほとんど接してこなかったこと、また副大統領として対外課題についてまず語ることがなかった点が大きいと考えられる。今後の80日間のアメリカ大統領選挙では、ハリス候補は外交でも内政でも自分自身の政策を具体的に語ることを迫られるだろう。

この記事は、元記事の要約です。詳細は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】日米保守層の連携強化:ハリス氏の曖昧な外交・安保政策と日本のリーダーシップの変化に備えよ

まとめ

  • カマラ・ハリス副大統領の外交政策は曖昧で優柔不断と批判されており、これが米国の国際的リーダーシップを弱める懸念がある。
  • 日本では岸田首相の不出馬表明により、リベラル色の強い新首相が誕生する可能性があり、これが国際秩序に影響を与える恐れがある。
  • 日米両国のリベラル化により、従来の同盟関係や経済政策が見直される可能性があり、国際関係のバランスに変化をもたらす。
  • 日米の保守層は共通の価値観を基に協力し、伝統的価値観を守り、強固な同盟関係を築くことが重要である。
  • 経済政策や安全保障面での協力を通じて、より安定した国際社会の実現に向けた取り組みが求められる。
カマラ・ハリス副大統領の外交政策に対する姿勢が曖昧で優柔不断だと批判されているのは、当然の成り行きと言えるでしょう。信頼性の高いウォールストリート・ジャーナルが、彼女の重要な国際問題への対処能力について懸念を表明したのは、もっともなことです。

ハリス氏は重要な問題に関して本音を避け、曖昧な態度を取る傾向があります。これは米国と同盟国にとって大きな不安材料となっています。外交・防衛政策に関する彼女の不明確さは、単なる理解不足なのか、あるいは本当の意図を隠そうとしているのか、懸念が高まっています。

ハリス氏の外交・安全保障分野での経験不足は、複雑な国際情勢に適切に対処する能力に疑問を投げかけています。また、彼女のリベラル寄りの背景から、米国の伝統的な同盟関係や軍事力の維持に消極的な姿勢を取るのではないかという懸念も存在します。さらに、彼女の曖昧な態度が進歩派と穏健派の両方の支持を得るための政治的戦略である可能性も指摘されており、これは国民に対する誠実さを欠いているとの批判につながっています。

米保守派は、明確なビジョンと強い意志を示さないことが、国際社会における米国のリーダーシップを弱める可能性を危惧しています。また、外交・防衛政策の不明確さは、中国やロシアなどの敵対国に誤ったシグナルを送り、彼らの挑発的行動を助長する恐れがあるとも考えられています。

米国には、世界における自国の役割について明確なビジョンを示せる、強くて決断力のあるリーダーが必要です。同盟国には米国の立場を理解してもらい、敵国には米国の決意を知らしめなければなりません。ハリス氏が外交政策について率直に語らないことは、政治的立場に関係なく、すべての米国民にとって憂慮すべき事態です。

国を率いる立場の人物の見解や意図を知ることは、米国民の当然の権利です。ハリス氏がこれらの問題について正面から取り組もうとしない姿勢は、副大統領という職責と国民への義務を軽んじているように見えます。

ウォールストリート・ジャーナルの社説は、ハリス氏の統治アプローチに見られる懸念すべきパターンを指摘しており、さらなる検証と議論が必要です。権力者は自身の行動と、国際社会における米国の立場に影響を与える問題について、説明責任を果たすべきです。

米国民は、リーダーからの曖昧で回避的な答えに満足すべきではありません。世界における米国の役割について、明確なビジョンを示す意思のあるリーダーこそ、米国民にふさわしいのです。このような誠実さと透明性があってこそ、米国の未来について十分な情報に基づいた判断ができるはずです。

米保守派の視点からは、ハリス氏の不明確さは単なる経験不足ではなく、米国の国益と安全保障を脅かす可能性のある深刻な問題として捉えられています。彼らは、ハリス氏に対して明確な方針の提示と、米国の伝統的な価値観に基づいた強力な外交・防衛政策の実行を求めています。

日本では、岸田首相が次期総裁選に出馬しない意向を明らかにしたことにより、多くの候補者が名乗りをあげる可能性が高まっています。総裁選の結果によっては、岸田首相よりもはるかにリベラル色が強い、首相が誕生する可能性もあります。

岸田首相

日本でより強いリベラル色の首相が誕生し、同時に米国でカマラ・ハリスが大統領になった場合、世界秩序に大きな変化が生じる可能性があります。日本において岸田首相の不出馬表明により、自民党内での権力構造の変化が予想されます。より強いリベラル色の首相が誕生すれば、防衛政策や経済政策、さらには憲法改正などの重要課題に大きな影響を与えることが考えられます。

このような状況下では、国際秩序が不安定化する恐れがあります。米国のリーダーシップの後退と日本の政策変更により、既存の国際秩序が揺らぎ、中国やロシアなどの勢力拡大を招く可能性があります。さらに、日米両国のリベラル化により、従来の同盟関係が見直されることも懸念されます。特に、軍事面での協力が弱まることで地域の安全保障に影響を与える可能性があります。

また、両国でより分配重視の政策が採られることにより、自由市場経済の原則が弱まる可能性もあります。両国が従来の保守的な外交姿勢から転換し、環境保護や社会的公正を重視する政策を前面に押し出すことで、これまでの国際関係のバランスに変化をもたらす可能性があります。これは、経済成長を優先する国々や、異なる社会制度を持つ国々との間に新たな緊張関係を生み出すかもしれません。

気候変動や人権問題などのグローバルな課題に対して、より積極的なアプローチが取られる可能性がありますが、これは経済成長や国家主権との兼ね合いで新たな摩擦を生むことも考えられます。

このような変化は世界の安定と繁栄を脅かす可能性があると見なされ、伝統的な価値観や国家主権の尊重、強力な防衛力の維持、自由市場経済の推進などが後退することへの懸念が強まるでしょう。

結論として、日本と米国の両国でリベラル色の強い指導者が誕生した場合、世界は大きな転換期を迎える可能性があります。保守派の立場からは、このような変化を慎重に監視し、必要に応じて対抗措置を講じる必要があると考えられます。

その中でも、日本と米国の保守層が協力することの重要性は、今後の国際情勢において非常に意義深いものとなるでしょう。

日米は政治システムも、歴史も、文化も違うので、日米保守の協力はできないのではというむきもありますが、日米の保守派の主張は驚くほど重なり合っているところがあります。

戦後レジームから脱却を主張した安倍総理

例えば、米国の保守主義者たちは、政府や大学に潜む共産主義者の告発、言論の自由を抑圧しようとする法案への反対、愛国心と道徳的秩序、家族の価値を尊重した教育の再建を訴えてきました。これらの主張は、日本の保守派が掲げる「戦後レジームからの脱却」と多くの点で一致しています。

特に注目すべきは、歴史認識の問題です。ロバート・タフト上院議員は東京裁判を批判しており、このような立場の人が米国の保守派にも存在することを示しています。このような視点を共有することで、日米の保守派が協力して歴史観の見直しを進める可能性が開かれます。

また、「小さな政府」の概念についても、米国の保守主義者が掲げる「小さな政府」は、単に官僚組織を縮小することではなく、家族や地域共同体の強化、宗教的価値観の尊重と結びついています。日本の文脈では、これを「神社を中心とした共同体」や「敬神崇祖の家庭」といった理念と結びつけることができるでしょう。

このような共通点を基盤として、日米の保守層が協力することで、両国の伝統的価値観を守り、より強固な同盟関係を築くことができるでしょう。情報交換や意見交換を通じて、互いの立場や課題を理解し合い、国際的な視点から保守的価値観を再考し強化する機会が生まれます。

東京裁判を批判したロバート・タフト上院議員

経済政策や安全保障面でも、共通の価値観に基づいた協力が可能です。自由市場経済を支持しつつ、国内産業の保護と国際的な競争力の向上のバランスを取ることが期待されます。

結論として、日米の保守層の協力は、単なる政治的な連携にとどまらず、両国の文化的、精神的な絆を強化し、共通の価値観を守り育てていく取り組みとなるでしょう。これにより、より強固で安定した国際社会の実現に向けて大きな一歩を踏み出すことができると信じています。

日米は、不測の事態に備えて、政府同士だけではなく、保守層同士の交流も強めていくべきです。

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2024年8月13日火曜日

米国、イランによるイスラエル攻撃の可能性一段と高まったと認識―【私の論評】イランの攻撃準備が引き起こす第5次中東戦争の脅威:日本経済と日銀政策の岐路

米国、イランによるイスラエル攻撃の可能性一段と高まったと認識

まとめ
  • 米と同盟国は攻撃の可能性に備える必要-米NSCのカービー氏
  • 同盟国は全面戦争回避に努める、米は中東への軍展開を強化
米カービー戦略広報調整官

イランによるイスラエル攻撃の可能性が高まっており、米国を中心とした国際社会が緊張を強めている。米国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官は12日、イランやその支援を受ける組織が早ければ今週中にも報復攻撃を行う可能性があると警告した。この懸念は、先月イランの首都テヘランでハマスの前最高幹部ハニーヤ氏が殺害されたことに端を発している。
米国は事態の深刻さを認識し、オースティン国防長官が中東地域に追加の空母打撃群の派遣を指示するなど、軍事態勢の強化を進めている。同時に、バイデン大統領はイギリス、フランス、ドイツ、イタリアの首脳と電話会談を行い、共同声明を発表してイランに自制を求めた。

一方で、イスラエルのガラント国防相は米国防長官との電話会談で、イランが大規模な攻撃を準備している兆候があると伝えている。イスラエルの情報機関は、イランが数日以内に直接攻撃を実行する可能性があると分析しているとされている。

この緊張状態は、今月15日に予定されているガザ地区での停戦交渉にも影響を与える可能性がある。国際社会は、全面的な戦争への発展を懸念しており、外交努力と軍事的抑止の両面から事態の沈静化を図ろうとしている。

この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】イランの攻撃準備が引き起こす第5次中東戦争の脅威:日本経済と日銀政策の岐路

まとめ
  •  イランがイスラエルに対する大規模な攻撃を準備している兆候があり、複数の組織による同時多発的な攻撃の可能性がある。
  • 現在、第5次中東戦争の可能性が高まっている。イスラエルによるハマス指導者の殺害が背景にある。
  • 中東戦争が勃発した場合、日本のエネルギー安全保障が脅かされ、原油価格の高騰や経済への打撃、金融市場への影響が懸念される。
  • 円高が進行する可能性が高く、世界的な危機時には「質への逃避」が観察される。これにより、日本経済や金融市場に大きな影響が及ぶ可能性がある。
  • 日銀の金融政策: 日銀は2024年に利上げを実施したが、戦争が勃発した場合、これらの措置を見直し、再び金融緩和策に転じるべきである。
イランによるイスラエル攻撃の可能性

イランによるイスラエル攻撃の可能性が高まっています。イスラエルのガラント国防相は、米国防長官との会談で、イランが大規模な攻撃を準備している兆候があると伝えました。イスラエルの情報機関は、イランが数日以内に直接攻撃を実行する可能性があると分析しており、この見方は米国の警告とも一致しています。

カービー大統領補佐官は、イランだけでなく「イランの支援を受ける組織」も攻撃に関与する可能性があると述べており、これはレバノンのヒズボラやイエメンのフーシ派など、イランの影響下にある武装組織を指すと考えられます。米当局者は「一連の重大な攻撃」に備える必要があると強調しており、複数の組織による同時多発的な攻撃の可能性も示唆しています。このような状況は、イスラエルとイランの直接対決にとどまらず、中東地域全体の安定に影響を与える可能性があります。

第5次中東戦争の可能性と歴史的背景

現在、第5次中東戦争の可能性が高まっています。過去の中東戦争を振り返ると、第一次中東戦争(1948-1949年)はイスラエル建国直後にアラブ諸国がイスラエルを攻撃したことで始まりました。第二次中東戦争(1956年)はエジプトによるスエズ運河国有化を契機に勃発し、第三次中東戦争(1967年)は六日間戦争とも呼ばれ、イスラエルが周辺アラブ諸国を急襲して勝利しました。第四次中東戦争(1973年)はヨム・キプール戦争として知られ、エジプトとシリアがイスラエルを奇襲攻撃しましたが、最終的にイスラエルが勝利しています。

イスマイル・ハニャ氏

今回の危機の背景には、イスラエルによるハマス政治指導者イスマイル・ハニヤ氏の殺害があります。イランはこれをイスラエルの「重大な失敗」とし、報復を公言しています。これらの状況は、国際社会にとっても深刻な懸念材料であり、さらなる緊張を引き起こす要因となっています。

日本への影響と対応

第五次中東戦争が勃発した場合、日本はさまざまな重大な影響を受ける可能性があります。中東は世界有数の石油産出地域であり、戦争によって原油の供給が不安定になる恐れがあります。

これにより、日本のエネルギー安全保障が脅かされ、原油価格の高騰が懸念されます。原油価格の上昇は、日本の製造業やサービス業に打撃を与え、物価上昇や景気後退のリスクが高まります。過去の中東戦争時に起きた石油ショックのような事態が再現される可能性があります。

このような状況下では、日本のエネルギー政策の見直しが求められ、再生可能エネルギーへの転換や原子力発電の再評価が必要になるかもしれません。地政学的リスクの高まりにより、金融市場にも影響が及ぶでしょう。株式市場が大きく下落する可能性があり、円高ドル安の進行や、安全資産とされる円や金への逃避が予想されます。

この現象は「質への逃避」と呼ばれ、経済不安や市場の混乱時に投資家がリスクの低い、安全性の高い資産を求める行動を指します。具体的には、株式や高リスクの債券から、国債や金、そして日本円のような安全とされる通貨へと資金が流れる傾向があります。

新一万円札

さらに、中東地域との貿易が滞る可能性があり、特にエネルギー関連の輸入に支障が出る恐れがあります。スエズ運河などの重要な海上交通路が影響を受けることも考えられます。外交的な観点からも影響が出るでしょう。日本は中東諸国との関係を重視しており、戦争の勃発によって外交的な立場が難しくなる可能性があります。

また、国際社会での平和維持活動への参加要請が高まることが予想されます。日本政府は、国連安全保障理事会での議論に積極的に参加したり、中東地域の安定化に向けた外交努力を強化うべきです。

日本の中東における権益や在留邦人の安全確保も課題となります。難民問題など、間接的な影響も考慮しなければなりません。これらの影響を最小限に抑えるために、日本政府は状況を注視し、エネルギー安全保障の強化や経済対策の準備、外交努力の継続など、多面的な対応を迫られるでしょう。また、企業や投資家も、リスク管理や投資戦略の見直しが必要になります。

日銀の金融政策対応

日本銀行は2024年3月に0.1%のプラス金利を導入し、7月には0.25%に引き上げました。しかし、第五次中東戦争が勃発した場合、これらの利上げ措置を取り消し、再び大規模な金融緩和策に転じる必要性が出てくる可能性があります。

具体的には、政策金利の再引き下げや国債買い入れの増額、株式ETFの買い入れ再開などが検討されるでしょう。これらの措置は、急激な円高による輸出企業への打撃を緩和し、経済の下支えを図るためです。急激な円高は日本の輸出企業の競争力を低下させ、経済成長を鈍化させる可能性があります。また、デフレ圧力を強め、日銀の物価目標達成を困難にする恐れもあります。

為替市場と「質への逃避」

世界的な危機時には「有事の円買い」や「質への逃避」と呼ばれる現象が観察されます。過去の事例(2008年の世界金融危機、2011年の東日本大震災後など)では、円が急激に買われ、大幅な円高が進行しました。円は長年にわたり、安定した経済と政治システム、そして大規模な対外純資産を持つ日本の通貨として、安全資産の地位を維持してきました。


このような円高の背景と世界的危機時の円買い現象は、為替市場の動向を理解し予測する上で重要な要素となります。第五次中東戦争が勃発した場合、これらの要因が複合的に作用し、日本経済や金融市場に大きな影響を与える可能性があります。

結論

第五次中東戦争のような危機的状況下では、日本の金融政策は複雑な課題に直面します。政府や日銀は、国内経済の安定と国際金融市場の動向のバランスを取りながら、適切な政策対応を行う必要があります。エネルギー安全保障、為替市場の安定、経済成長の維持など、多面的な課題に対して迅速かつ柔軟な対応が求められるでしょう。これにより、日本は国際的な不安定要因に対処し、持続可能な経済成長を確保することが可能となります。

結局は、第五次中東戦争が起こらないことにこしたことはないですし、そうなる可能性もかなりあります。それでもその不安が、円買を加速可能性は十分にあり得ることです。これに日本は、備えるべきでしょう。さらに、南海トラフ地震のような大きな地震がっても、円買いが進む可能性があります。以上のような不安要素が複数あるときに、わざわざ利上げをして、それを維持する必要性など全くありません。

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