まとめ
- 中国は統一戦線工作部を通じ、政治・教育・メディアに合法的な形を装って浸透し、他国の世論や政策決定を内部から操ろうとしている。
- オーストラリアとアメリカは、外国勢力の影響力を可視化・抑制するための法制度(外国干渉防止法、FARA)を整備し、実際に孔子学院の撤退や外国資本の監視を進めている。
- 日本には中国の影響工作を監視・規制する法律が存在せず、政治家と中国団体の関係、孔子学院の活動も不透明なままで放置されている。
- その背後には、経済依存、政治的忖度、メディアの自主規制、国民の無関心といった複合的な要因があり、主権が静かに侵食されている。
- 日本も主権国家として、外国エージェント登録制度を導入し、透明性と防衛意識を高める必要がある。放置すれば国家の未来が他国に委ねられる危険がある。
いま世界では、目に見えぬ戦争が進行中だ。銃も爆弾も不要。代わりに国家の内部に静かに入り込み、意志決定を操る──それが中国の“影響工作”である。
オーストラリアやアメリカは、この静かな侵略にすでに対応を始めている。法制度を整備し、情報の透明化と影響力の遮断に乗り出した。しかし日本はどうか。相変わらず“丸腰”で、政治もメディアも沈黙を保ったまま、中国の浸透を許している。この国には、主権を守るという覚悟が決定的に欠けている。
中国の“影響工作”とは何か
中国は、相手国の主権と世論を内部から操ろうとする。中核を担うのが、中国共産党中央統一戦線工作部だ。政治家、研究者、メディア、教育機関、在外中国人組織を通じ、資金・人脈・宣伝活動を駆使して世論を中国寄りに傾けさせる。
オーストラリアやアメリカは、この静かな侵略にすでに対応を始めている。法制度を整備し、情報の透明化と影響力の遮断に乗り出した。しかし日本はどうか。相変わらず“丸腰”で、政治もメディアも沈黙を保ったまま、中国の浸透を許している。この国には、主権を守るという覚悟が決定的に欠けている。
中国の“影響工作”とは何か
中国は、相手国の主権と世論を内部から操ろうとする。中核を担うのが、中国共産党中央統一戦線工作部だ。政治家、研究者、メディア、教育機関、在外中国人組織を通じ、資金・人脈・宣伝活動を駆使して世論を中国寄りに傾けさせる。
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日本国内の孔子学院所在地マップ クリックすると拡大します |
具体的には、政治家への献金、大学や研究機関への寄付、孔子学院を使った教育界への影響、メディアへの広告出稿、さらにはSNSを使った世論誘導に至るまで、合法の皮を被った巧妙な工作が展開されている。これらが積み重なることで、気づかぬうちに国の意志決定そのものが歪められていく。
“戦わずして勝つ”──それが中国の戦術であり、多くの国がその毒に晒されてきた。
オーストラリアとアメリカは何をしたのか
2017年、オーストラリアで中国による議員買収未遂事件が表面化。翌2018年には「外国干渉防止法」が制定された。外国勢力のために政治活動を行う者には登録義務が課され、違反すれば刑罰が科される。この法律によって、孔子学院の撤退が進み、不透明な資金の流れも次々と暴かれている。
アメリカでは、1938年制定の「外国代理人登録法(FARA)」が再び注目を集めている。冷戦期にはソ連への対抗策として機能したが、いまや中国やロシアを見据えた制度として息を吹き返した。司法省のFARA登録部門では、外国のために活動する個人・団体の詳細が公開され、透明性が確保されている。
2023年には、TikTokの親会社バイトダンスにもFARA適用の可能性が議論された。大学や研究機関に対しても、中国資本の関与が厳格に監視されている。アメリカには、「自由を守る」という強い覚悟がある。
なぜ日本は“無防備”なのか
日本には、外国の影響工作を規制・可視化する法律が存在しない。政治家と中国系団体との関係は不透明なままであり、孔子学院は今なお国内の大学に居座り続けている。メディアも“自己規制”という名の沈黙を貫いている。
この背景には、経済依存、政治的忖度、メディアの左傾化、そして何より国民の無関心がある。中国は日本最大の貿易相手国。観光業、製造業、インフラなど、あらゆる分野が深く中国と結びついているため、政府も財界も波風を立てることを避けてきた。
だが、その代償として、国家の根幹──主権──を売り渡してはいないか。
中国の影響工作に対し、日本も今こそ“防衛線”を築くべき時だ。第一に導入すべきは、外国エージェント登録制度である。外国政府や外国の団体のために政治的・宣伝的な活動を行う個人や組織に対して、登録と情報公開を義務付ける制度である。特定外国勢力の影響下にある人物や団体を明示することで、国民が実態を把握できるようにする。孔子学院に関しても、資金の出所と活動実態を精査し、必要であれば閉鎖も辞さぬ覚悟が求められる。
米国には「外国代理人登録義務違反(FARA)」が定められておりこれは、合衆国法典18篇951条の規定で、米国は外国政府の代理人として活動する者に対して、司法長官への届出を義務付けており、これに違反した場合は10年以下の拘禁刑又は罰金刑を科すというものだ。外国の工作員や協力者は外国の政府のために働く代理人だから、それさえ立証できれば、他に法律違反がなくても本条違反となる。
マイケル・フリンは、トランプ政権の元国家安全保障補佐官であり、トルコ政府のためにロビー活動を行いながらFARA登録を怠っていた。また、ロシア政府関係者との接触についてFBIに虚偽の供述をしたため、2017年に起訴され有罪を認めた。FARA違反自体は起訴理由ではなかったが、捜査の一部として重視され、2020年にトランプ大統領から恩赦を受けた。彼の事件は、外国の影響と国家安全保障の問題を広く知らしめた象徴的な事例である。
スパイ活動には、情報収集の他にも、偽情報を拡散して世論に影響を与える情報作戦、他国政府に働きかけて一定の政策を選択させようとする積極工作、他国国内での暗殺や実力行動、その他様々な活動形態がある。外国工作員・協力者の取締規定としては、「外国の代理人に登録義務を課し、その違反を罪に問う規定」は、合理的な規定と言える。
国家の意志決定が、見えざる他国の意図によって操作されている──そんな現実を許してはならない。主権国家として当然の防衛措置を講じなければ、この国の未来は静かに奪われていく。
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