2021年9月24日金曜日

米英豪の安保枠組みが始動 日本は原潜に高いハードル…諜報機関や法整備が大前提 ―【私の論評】日本がインド太平洋の安全保障への貢献や、シーレーン防衛までを考えた場合、原潜は必須(゚д゚)!

米英豪の安保枠組みが始動 日本は原潜に高いハードル…諜報機関や法整備が大前提 
高橋洋一 日本の解き方

2015年11月5日東京湾に姿を現した米海軍の攻撃型原子力潜水艦「ノースカロライナ(SSN-777)」

 米国、英国、オーストラリアの3カ国が、安全保障の新たな枠組みを作ると発表した。オーストラリアの原子力潜水艦配備を支援する考えを示しているが、中国の海洋進出への対抗としてどれだけの力を持つのか。そして日本はどのような役割を果たすべきなのか。

 原潜を運用している国は、米英のほか、ロシア、フランス、中国の国連安全保障理事会常任理事国とインドの計6カ国だ。オーストラリアは7カ国目になるだろう。

 原潜は軍事秘密の塊であるが、原子力により長期間の連続潜航が可能なので、敵国から本国が攻撃を受けても無傷のまま反撃できる。そのため攻撃への抑止力としては現時点では抜きんでている。

 しかし、日本には、原子力と自衛隊へのアレルギーがあり、その両者の結節点とも言える原潜の導入について、海上自衛隊内部ではこれまで幾度も検討がなされてきたが、具体的な結論はいまだに出ていない。原潜を運用すれば攻撃されにくいのに、原潜そのものを拒否してしまうという不合理な対応に陥ってしまっていたわけだ。

 日本が原潜を持ち得ないというのは、日米豪印の「クアッド」の枠組み検討の際にも欠点として指摘されていた。つまり、日米豪印でインド太平洋の安全保障を考えても、原潜保有国は米印だけであり、インドは独自の軍事戦略をもっているので、米国とはなかなか相いれないだろうと思われていた。そこを日本が橋渡しする役割があったが、日本自身が原潜を保有していない以上、説得力がなくなるのだ。

 そこで米国は、英語圏で機密情報を共有するファイブアイズ(米、英、豪、カナダ、ニュージーランド)のうち、英国に加えてオーストラリアを原潜運営国に格上げしようとしているのだ。

 これにより、日米豪印のクアッドは、日本が原潜を運用するという意思表示をしなければ米豪が基軸になるだろう。もちろん、日本国民のアレルギーをなくすとともに、米国の了解がなければ実現しないという高いハードルがある。

 筆者はかねてより、核兵器などを共同管理する「核シェアリング」を主張してきた。一例は原潜の運用は米国に委ねつつ、意思決定に日本を絡ませるというものだ。その延長線上には、原潜のレンタルや退役した米原潜の購入などもある。

 いずれにしても、日本の諜報機関設置や、スパイ防止法などの制定が大前提だ。ファイブアイズに参画できないのは、日本には役に立つ諜報機関が事実上なく、ほしい情報が入らないためメリットがないばかりか、スパイ防止法がないので情報を与えると漏洩(ろうえい)するデメリットばかりだからだ。

 自民党総裁選やその後の衆院選において、これらの日本の安全保障上の諸問題をぜひとも争点にしてもらいたい。次の日本のリーダーの重要な試金石だと筆者は考える。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】日本がインド太平洋の安全保障への貢献や、シーレーン防衛までを考えた場合、原潜は必須(゚д゚)!

現在、世界で使われている商業用原子炉はそのほとんどが大型軽水炉です。この炉型は大型かつベースロードで運用し、電力線網で広範囲に送電するという集中型電力システムで低コストを実現してきました。

しかし東京電力福島第一原子力発電所事故でリスクの高さを露呈し、安全対策の強化で建設コストが上昇、新設では太陽光風力発電に対して競争力を喪失しつつあります。今後は既存原発の運転期間を延長することでコスト上昇を抑えるしかありません。大型軽水炉は将来的には小型モジュラー炉にとって代わられるでしょう。


軽水炉の弱みは、冷却水の供給が何らかの理由で途絶えることで燃料のメルトダウンを招く点にあります。船舶用の動力として小型原発を使えば、万が一の場合、海中投棄でメルトダウンは防げます。燃料の補充が長期にわたって不要な点で潜水艦、砕氷船、発電バージなどで小型軽水炉は最適です。

現在の日本ではすっかり忘れ去られていますが、日本はかつて原子力船「むつ」を建造し、自前の舶用小型軽水炉を実証しましたが、放射線漏れを起こし、残念ながら建造路線は放棄されました。

日本で原潜の開発をするなら、まずは、むつの失敗を総括するところから始めなければならないでしょう。「むつ」の失敗は、「むつ」建造に関わった複数企業の設計インターフェースの悪さ、海外専門家から放射線漏れの可能性を指摘されながらも十分に検討しなかった建造体制の不備などが問題だったようです。

原子力船「むつ」

日本の場合、日本の領土と領海を守るためだけであれば、現在の通常型潜水艦でも十分であるといえます。しかし、日米豪印でインド太平洋の安全保障への貢献や、シーレーン防衛のためには原子力推進の潜水艦保有を検討すべきで。

ポストコロナの中国が南シナ海や東シナ海での軍事活動強化に走り、香港の一国二制度を否定したのは、狙いが台湾併合にあることは明らかです。今後米中関係がさらに悪化して行く中で、台湾有事も想定せざるを得ないです。長期間潜ったまま航行できる原潜が中国海軍の動きを抑えるのに役に立つ。

日本の持つディーゼルとリチウムイオン電池の潜水艦は静音性などに大変優れています。そのため、このブログで何度か掲載したように、現時点においては、日本の潜水艦だけでも、尖閣を含む日本の領土や領海を守ることは十分に可能です。

なぜなら、静寂性に優れ、対潜哨戒能力が低い中国には、これを発見することは困難ですし、逆に日本は対潜哨戒能力にすぐれ、中国の潜水艦を発見するのが容易だからです。

台湾有事においても、日本の潜水艦だけでも、これに対応できる可能性が高いです。静寂性の高い日本の潜水艦数隻で台湾を包囲してしまえば、中国海軍は台湾に近づけば、撃沈されてしまいます。

運良く、中国軍が台湾に上陸できたとしても、日本の潜水艦が台湾を包囲している限り、中国の補給船などは、台湾に近づくことができません。それでも、無理に近づこうとすれば、現地んされてしまいます。そうなれば、台湾に上陸した中国の舞台は、水・食料、武器・弾薬などの補給を絶たれお手上げになってしまいます。

日本だげでもこれだけできますが、米国の攻撃力に優れた攻撃型原潜と協同すれば、中国はお手上げです。日本の通常型潜水艦は、情報収集などにあたり、これを米軍の攻撃型原潜と共有すれば、米軍はより安全に正確に中国や中国の艦艇、潜水艦を攻撃できます。そうなると、中国海軍は最初から手も足もでないです。

ただ、日本がインド太平洋の安全保障への貢献や、シーレーン防衛までを考えた場合には、通常型潜水艦の速度や航続距離などがネックになります。最近、北朝鮮のミサイルを撃ち落とす新型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」計画が放棄されました。

敵国領内での基地攻撃の可否が議論されていますが、そもそも攻撃を受けた場合、通常型巡航ミサイルでの反撃は攻撃ではなく防御です。非核巡航ミサイルを装備した原潜による敵の核攻撃抑止も、米国の核の拡大抑止の補完として検討されるべきでしょう。

まずは1隻、米国から購入し技術移転、乗員の訓練などのための日米原子力安全保障協力が必要です。日本に核装備は不要で核兵器禁止条約にも加盟すべきですが、緊張の高まる北東アジアの状況を考えれば、むつ以来のタブーを破り原子力推進の潜水艦建造を検討する必要があるでしょう。

日本では、原子力や自衛隊に対するタブーがあるので、原潜の製造には高いハードルがあるのは事実ですが、モジュール型の小型原発の開発は進んでいます。日立製作所は米ゼネラル・エレクトリック(GE)との合弁会社、日立GEニュークリア・エナジーで出力30万キロワットの小型原子炉を開発中。北米で、2030年ごろに実用化したい考えです。

このモジュール型の小型原発は、無論原潜用にも転用は比較的容易です。量産化された場合、これが原潜に転用されるということは十分に考えられます。

日本の場合、工作技術は世界のトップクラスですし、昔から様々な製品の小型化には定評があります。その日本が、本気で原潜開発に取り組めば、比較的短期間で国産の原潜を製造できるようなるかもしれません。

まずはそのためにも、1隻米国から原潜を購入し技術移転すべきです。そうして、乗員の訓練などのための日米原子力安全保障協力が必要です。日本に核装備は不要で核兵器禁止条約にも加盟すべきと思いますが、緊張の高まる北東アジアの状況を考えれば、むつ以来のタブーを破り原子力推進の潜水艦建造を検討する必要があると思います。

そうなると、日本は、静寂性に優れた通常型潜水艦と、攻撃力と航続距離に優れた原潜の両方を運用できるようになるでしょう。

米国と英国は、原潜を製造した段階で、通常型潜水艦の建造をやめています。そのため、米英には通常型潜水艦の建造技術はありません。フランスやロシアでは現在でも通常型潜水艦を建造しています。ドイツも製造しています。

ロシアの通常型攻撃潜水艦「クラスナダール」

やはり、通常型潜水艦は静寂性に優れるということで、この利点は捨てがたいところがあるようです。米国は、自国では通常型潜水艦を製造できないので、フランスから1隻、乗組員ごと通常型潜水艦を借り受けています。

日本が原潜開発ができるようになれば、静寂性の優れた通常型潜水艦と併用して、世界一の潜水艦隊をつくることができるかもしれません。

たとえば、通常型潜水艦が静寂性を発揮して情報収集や攻撃型原潜の守備にあたり、その情報に基づき攻撃型原潜が、敵基地や監視衛星の地上施設を攻撃をするというような運用の仕方も考えられるのではないかと思います。

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2021年9月23日木曜日

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米英豪3カ国がフランスを「裏切った」本当の理由。対中包囲網に小型原子炉輸出という国益


2021年6月、フランス・パリで会談したマクロン仏首相(左)とオーストラリアのモリソン首相。「裏切り」の展開はこのとき想像されていなかった模様だ。

米政府は9月15日、アメリカ・イギリス・オーストラリアによる新たな安全保障協力の枠組み「AUKUS(オーカス)」創設を発表。同時にオーストラリアに原子力潜水艦の建造技術を供与することを明らかにした。 

オーストラリアはフランスと締結したディーゼル潜水艦開発契約の破棄を通告。対するフランス政府は、駐米・駐豪大使を召還する強い報復に出た。

バイデン米大統領が同盟国であるフランスを犠牲にしてまで、この決定に踏み切った理由は何か。対中包囲網の質と量の強化に加え、小型原子炉の輸出という、「一石二鳥」の狙いが透けて見える。

フランスを除外して「秘密交渉」

メディア各社の報道によると、オーカス創設計画の検討が始まったのは2021年3月。原潜保有を希望するオーストラリア海軍が、建造技術の供与についてイギリス海軍トップに打診した。

  ジョンソン英首相は6月、主要7カ国(G7)首脳会議にオーストラリアのモリソン首相を招待し、バイデン大統領をまじえた米英豪3カ国による秘密首脳会談で計画の詳細を詰めたという。

3カ国はフランスを通じて情報が漏れるのを警戒し、マクロン仏大統領を除外した。

オーストラリアが2016年にフランス政府系造船会社ナバル・グループと結んだディーゼル潜水艦12隻の開発契約(650億ドル=約7兆1500億円)破棄をフランスに通告したのは、オーカス創設発表のわずかに数時間前だった。

フランスのルドリアン外相は「同盟国間であってはならないこと」と非難し、「乱暴で予測もつかない決定はトランプ(前米大統領)と同じ」とバイデン大統領を批判。駐米・駐豪大使の召還を発表した。

バイデン大統領が約7.2兆円ものフランス国益を犠牲にして、米英豪3カ国の安全保障協力を優先した狙いは何だろう。

バイデン大統領はその目的について「21世紀の脅威に対処する能力を最新に向上させる」と、まず中国に対抗する姿勢を鮮明にし、続いて「アメリカの欧州における同盟国をインド・太平洋での協力に転換する第一歩」とも述べ、イギリスと協力する意義をつけ加えた。

具体的な協力内容としては、原子力潜水艦の建造技術をオーストラリアに提供して原潜8隻を建造するとともに、長距離巡航ミサイル「トマホーク」を供与するとしている。

オーカス創設発表翌日の9月16日には、首都ワシントンで米豪外務・防衛担当閣僚協議(2プラス2)を開き、オーストラリアに駐留する米空軍の兵力規模を拡張することで合意。中国をにらんだ米豪協力を強化していくスタンスを明らかにした。

イギリスを戦列に加え、さらにオーストラリアが西太平洋と南シナ海を舞台に原潜と軍用機で中国ににらみを利かせる「新たなステージ」ができ上がることになる。

オーストラリア原潜「参戦」の意味合い

米国防総省の報告書などによると、中国が保有する潜水艦は原潜10隻を含め計56隻。2020年代末には65~70隻に増える。

 一方、米海軍の就役中の潜水艦はすべて原潜で計68隻。このうち太平洋に展開している原潜は計10隻と、数では中国と互角。今後、協力枠組みに従ってオーストラリアが原潜を8隻保有すれば、数字上では米豪の兵力が勝る計算になる。

 ただし、原潜の「就役時期」という問題が残る。

アメリカとイギリスは今後1年半でオーストラリアへの原潜導入計画を立案し、その間にアメリカのバージニア級攻撃原潜あるいはイギリスのアスチュート級原潜のどちらかを導入するかを決定する。

しかし、それだと就役は早くても2035年以降になる。中国もその間に原潜建造を加速するので、隻数で勝る展開は望めない。

ダットン豪国防相はその点について、米英両国からの「リースや購入も検討している」と述べ、建造以外の方法で原潜就役を前倒しする可能性にも言及している。

一方、中国側の視点に立つと、オーストラリア原潜が「参戦」する意味はもっと鮮明で、以下の3点にまとめられる。

原潜は核攻撃のツールであり、オーストラリアへの核拡散につながるおそれがある。

中国海軍は、米海軍と日本の海上自衛隊への対応に加え、オーストラリア原潜に対応する必要が生まれ、兵力の分散を強いられる。

日米豪印4カ国首脳会合(Quad、クアッド)と併せて、アメリカが対中「統一戦線」を強化することになる。

※オーストラリアへの核拡散……現在原潜を保有するのは米英仏中ロにインドを加えた計6カ国。すべて核保有国で、原潜には核弾頭付き潜水艦発射弾頭ミサイル(SLBM)を搭載する。モリソン豪首相は核武装を否定しているが、中国側は疑念を捨てていない。

アメリカはアフガニスタン撤退後、「対中競争に傾注する」と強調してきたが、その実行のためにバイデン大統領が切ったカードの中身こそが、今回のオーカス創設だった。

「台湾有事」に絡めて日本政府がより主体的な台湾関与政策を強化していることに、中国は神経を尖らせている。 

今回の原潜技術供与についても、台湾や南シナ海など地域安全保障問題でアメリカが自ら前面に出るやり方を変え、日本やオーストラリアなど同盟国に委ねる方針に転じるのではとの見方が、中国側では出ている。

 自衛隊の南西諸島シフトに加え、オーストラリア原潜がアメリカの原潜に代わって南シナ海を潜航する可能性もあるとみる。

原潜向け「小型原子炉」輸出こそアメリカの国益

バイデン大統領による今回の「荒療治」は、対米自立志向の強いフランスを軽視する一方で、アメリカ・イギリス・オーストラリア・カナダ・ニュージーランドというアングロサクソン系5カ国による機密情報共有枠組み「ファイブアイズ」を重視する、同盟関係の「組み換え」とみる分析もある。

しかし、この問題については「米仏対立」ばかりに目を奪われると本質を見失う。見落としてはならないのは「核大国」アメリカの現状だ。

アメリカは原子力発電所の国内での新設はもちろん、輸出もできないデッドロックに直面している。

今回の技術供与により、オーストラリア原潜向けに発電所用の小型原子炉を「輸出」できる展望が開け、デッドロックから脱出する道筋が見えてきた。それは原子力関連の技術維持にも役立つ。 

アメリカの国益にとって決定的なブレイクスルーであり、原子力産業と軍産複合体にとっては「光明」とも言える。

 原潜向けの小型原子炉は、発電所に使われる「加圧水型原子炉(PWR)」とほぼ同じもので技術的な差はない。アメリカは部品を現地に運んで組み立てる「小型モジュール炉(SMR)」を開発中で、オーストラリア南部アデレードで組み立てるとみられる。

 ルドリアン仏外相が「予測もつかない決定はトランプと同じ」と非難したように、トランプ前大統領の同盟軽視路線を批判し、再構築を進める方針を強調してきたバイデン大統領も、結局は国益優先の内向き外交から脱していないということになる。

「クアッド」と「オーカス」の関係性

最後に、バイデン大統領が今回切った新たなカードを大歓迎する台湾の視点を紹介しておきたい。

 李喜明・元台湾軍参謀総長は英紙フィナンシャル・タイムズ(9月16日付)に、「原子力潜水艦によってオーストラリアは初めて戦略的な抑止力と攻撃能力を持つ」と述べ、潜水艦の展開先として「台湾に近い西太平洋の深海」をあげつつ、「トマホークミサイルが加わると、オーストラリアのこぶしは中国本土まで届く」と指摘している。 

中国にとってはまさに「脅威」だ。 

中国共産党は抗日戦争の際など大局のために敵と手を結ぶ「統一戦線」に長けているが、今度はバイデン大統領が中国の株を奪い、反中「統一戦線」を重層的に築こうとしているわけだ。

 その文脈で言えば、インド太平洋戦略の核となる枠組みである前出のクアッドは、アメリカにとって引き続き重要な意味を持つ。9月24日には首都ワシントンで初の対面首脳会議も開かれる。 

ただし、友好国インドは伝統的に非同盟政策をとっており、経済安全保障や新型コロナ対策では協力できても、反中色の強い軍事的協力を進めるのはきわめて難しい。

だからこそ、軍事協力が可能な安全保障枠組みとして、オーカスの創設が大きな意味を持ってくる。

 (文・岡田充) 岡田充(おかだ・たかし):共同通信客員論説委員。共同通信時代、香港、モスクワ、台北各支局長などを歴任。「21世紀中国総研」で「海峡両岸論」を連載中。

【私の論評】背後には小型原発の開発競争がある(゚д゚)!

上の記事、網羅的に情報が盛り込まれていて、事情通の人などにはかなり良い記事になっていると思います。ただ、多くの人に理解してもらうためには、若干情報を付け足す必要があります。

まずは、豪州がフランスから潜水艦を受注するようになった経緯から説明します。

もともと豪州は老朽化した通常動力型のコリンズ級潜水艦の代替艦として通常動力型潜水艦の新規建造を決め、2016年にフランス企業のDCNS(現ナバル・グループ)と契約しました。受注総額は500億豪ドル(約4兆円)に上り、豪州にとって史上最高額の軍事プロジェクトとなりました。 

コリンズ型潜水艦の内部

このとき日本政府は安倍晋三政権下で武器輸出を禁じた「武器輸出三原則」を見直し、「防衛装備移転三原則」という名称で武器輸出を解禁したこともあって、フランス、潜水艦大国のドイツとともに受注競争に参加しました。 

豪州の求めていた代替艦が海上自衛隊の「そうりゅう」型潜水艦に最も近かったことから採用が有力視され、製造元の三菱重工業、川崎重工業が売り込みを図ったのですが、親日家とされたアボット首相の退陣や企業側の本気度などが問われ、フランスに破れました。 

フランスが計画した豪州の次期潜水艦は、フランス海軍最新鋭のバラクーダ級原潜を通常動力型に変更。アタック級潜水艦と命名され、2030年代から50年までに合計12隻が納入される予定でした。

ところが、問題が続出しました。 

まずは費用面です。豪州会計検査院によると、500億豪ドル(約4兆億円)と見込まれた受注額は、2019年に800億豪ドル(約6兆4000億円)に急上昇し、昨年7月には897億豪ドル(約7兆2000億円)に更新されました。 

維持費を含めると2080年までに1450億豪ドル(約11兆6000億円)の負担が必要になると見積もられました。この金額は、豪州の国防費の3倍以上にもなります。 

さらに建造開始が遅れ、このままではコリンズ級がすべて退役し、潜水艦が1隻もない状況になるという問題が浮上。フランスが受注した要因のひとつである現地生産による地元雇用も進んでいません。結局、三重苦に見舞われ、今年1月には豪州メディアが「政府がフランスとの契約キャンセルを検討している」と報道しました。 

上の記事にもあるように今回、豪州が米国の技術供与による原潜建造を決めたことでフランスとの契約は破棄されます。

ロイター通信によると、ルドリアン仏外相はラジオ番組に出演し、「これは一方的で、予測不能なひどい決定だ。トランプ前米大統領のやり方を思わせる。信義に反するもので非常に腹立たしい」と語ったという。 

ルドリアン仏外相

価格を急上昇させたうえ、受注時の条件をあやふやにしておきながら、何を今更という感がなくもないですが、フランスにとって今世紀最大のもうけ話が消えたのだから怒るのも無理はないかもしれません。 

豪州は新造が予定されたアタック級潜水艦の戦闘システムや魚雷などの武器類について米国製とすることを決めていました。受注を狙っていたのは世界最大の米軍需産業ロッキード・マーチンや米大手のレイセオンです。

米政府は潜水艦に搭載する最新鋭の戦闘システムがフランスの潜水艦に搭載されることに懸念を抱いていたとされ、今回の原潜技術の供与につながった可能性があります。潜水艦の本体ごと米国が受注すれば、秘密漏洩の不安は消えるからです。

そうして、もう一つ付け加えるべきは、中国とフランスが原子力に関して協力関係にあるということもあります。特に、フランスと中国広核集団との関係には、注目すべきです。

広核集団の最初の原子力発電所はフランス国有企業フラマトムが設計と建設を行ったものです。その後広核集団はフランスの原発を基礎とした改良型の加圧水型炉として中国国産のCPR-1000を開発しました。CPR-1000は完全に中国が設計から建設までを行える形式で、中国で建設される原発の多数がこの形式であり、電力革新の主導方法と考えられています。

2007年2月、広核集団はアレバ欧州加圧水型炉を導入した台山原子力発電所の建設に合意し、咸寧原子力発電所にはウェスティングハウス・エレクトリック・カンパニーAP1000を利用しました。これらの建設発表によって広核集団は第3世代+の原子炉(フラマトム社性欧州加圧水型炉 EPR)を建設する初の企業となりました。

この世界初のEPRとして、中国で運転を開始した台山原子力発電所1号機(PWR、175万kW)で今年の6月に小規模の燃料破損が生じたことについて、フランス電力(EDF)は7月22日、「同機が仏国で稼働中の原子炉であったら運転を停止していた」との見解を表明しています。

これは、大問題です。仙山原子力の燃料破損については、ここでは述べると長くなってしまうので、興味のある方は、他のメディアの記事などにあたってください。

こうした、中仏の原子力による協力関係は米国にとっても、安全保障上においても、事業上においても無視できなかったのでしょう。

特に、現在世界中の国々が次世代の小型原発の開発にしのぎを削っています。日米は無論のこと、中露仏も開発中です。

小型原発は、モジュール化されており、製造のほとんどを工場で行い、それを現地に運んで据え付けるという方式がとれるので、建造の期間が現在の巨大な原子炉よりもかなり短くてもすむという利点があります。さらに小型であることから、冷却に既存の巨大原子炉より、はるかにしやすいという利点もあり安全であるという利点があります。

さて、小型原発とはどのくらいの大きさかと言うと、以下の写真をご覧ください。

ニュースケール社が設計したSMRの上部約3分の1の実物大模型=米オレゴン州コーバリス

従来の原発よりかなり小さいです。これによる発電は従来の原発とはかなりイメージが異なります。従来だと、北海道全域などかなり広い地域に電力を供給することを想定していましたが、小型原発は、市町村単位やもっと小さな単位に電力を供給します。

そのため、中国が小型原発の開発に成功すれば、これを船に積んで、南シナ海に運び、洋上で原子力発電をして、南シナ海の中国の軍事基地などに電力を供給することも考えられます。実際に過去に中国はそのような計画を発表しています。

さらに、中国は一帯一路に関連する諸国等に、小型原発を輸出するということも考えられます。これに成功すれば、中国にとっては、外貨を稼ぐための稼ぎ頭になる可能性もあります。

これにフランスが積極的に協力することがないように、釘をさすという意味あいも、今回の「AUKUS(オーカス)」創設を発表と、同時にオーストラリアに原子力潜水艦の建造技術を供与することの背後にあると思われます。

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2021年9月22日水曜日

衆院選、初の任期満了後に…臨時国会10月4日召集を閣議決定―【私の論評】誰が総裁になっても、当面緊縮路線には振れない、今後の政局だが・・・(゚д゚)!

衆院選、初の任期満了後に…臨時国会10月4日召集を閣議決定

 政府は21日、菅首相の後継を選出する臨時国会を10月4日に召集することを閣議決定した。これで衆院選は衆院議員の任期満了日(10月21日)以降になる見通しとなった。現行憲法下では初めてとなる。

国会議事堂

 4日の召集日に衆参両院で首相指名選挙を行い、同日中に新内閣が発足する。臨時国会の会期や日程は新首相の下で決定される。

 9月29日投開票の自民党総裁選に立候補した河野太郎行政・規制改革相、岸田文雄・前政調会長、高市早苗・前総務相、野田聖子幹事長代行の4氏は、首相に選ばれた場合、臨時国会で所信表明演説と各党の代表質問を行う考えを示している。

 代表質問後の10月中旬に衆院を解散すれば、準備期間を考慮すると、投開票は11月以降が確実だ。

 新首相は衆院選後、新型コロナウイルス対策を盛り込んだ2021年度補正予算案を国会に提出するとみられる。補正予算の早期成立のため、衆院選の日程は、選挙準備が間に合うとされる10月26日公示―11月7日投開票が軸となりそうだ。

 公職選挙法に基づき、投開票日は11月28日まで遅らせることもできる。

 衆院解散を伴わない場合、公選法は任期満了選挙の投開票日を「国会閉会翌日から24日~30日後」と定めている。

【私の論評】誰が総裁になっても、当面緊縮路線には振れない、今後の政局だが・・・(゚д゚)!

現在は総裁選の真っ最中だが・・・・

上の記事にもあるように、政府は菅総理大臣に代わる、新しい総理大臣の指名選挙を行う臨時国会について、10月4日に召集することを閣議決定しました。これにより、次の衆議院選挙は衆院議員が任期満了する10月21日以降に行われる見通しになりました。

総務省によると、衆議院議員の任期満了日以降に衆議院選挙が行われれば、戦後初めてのケースになります。

ただし、自民党総裁選の日程が出たころに、このスケジュールは言われていました。

これは予想通りなのですが、このように明示されますと、今後どのようなスケジュールなのか大体わかります。十中八九10月4日に国会召集になります。その前週である9月29日の水曜日に総裁選の投開票が終わり。木曜・金曜には、いろいろな組閣の話のニュースが山ほど出て来ることになるでしょう。

10月4日になるとそれが紙面に出て、そのあと組閣になるのでしょう。国会は10月4日に招集され、所信表明演説等を行い、の月曜日からその週いっぱい開催されることになるでしょう。

所信表明演説をするとと、それに対して各党の代表質問という形になります。それが8日くらいに終わることになるでしょう。10月4日という国会召集日から逆算すると、衆議院選は、10月26日公示、11月7日投開票というスケジュールになるでしょう。

例えば8日に解散してしまうとすると、いろいろな規定があるのですが、こういう流れだと30日以内に国会というか、衆議院になるのです。予定としては11月7日の投開票。これが赤口の日です。12日以上、公示まで期間を取らないといけないのです。そうすると10月26日公示というスケジュールが簡単に出て来ます。

10月26日は大安なので、大安に公示することになるでしょう。それで11月7日の赤口のときに総選挙・投開票というのが普通のスケジュールになるでしょう。

別の角度から、総選挙・投開票の11月7日から逆算してみてもこのようなスケジュールになるざるをえません。スケジュールは1つ決まると芋づる式にみんな決まってしまいます。9月29日に総裁選の投開票をすると決まったときに、ほとんどスケジュールは決まっていたのだと思います。そうすると、その前の9月30日に「緊急事態宣言の解除」ということになるでしょう。。

11月7日の投開票前くらいには、ワクチン接種希望者はほぼ全員が打ち終わっていることでしょう。感染者数は、少し上がるかもしれませんが、いまより悪くはないでしょう。

公職選挙法の規定で、「国会閉会の日から24日以降、30日以内に選挙をしなくてはいけない」ということが決まっていて、ある程度、公示までに時間差を付けなければならないということも考えると、8日には締めなくてはいけないです。そうすると26日に公示になると。首班指名の国会のなかで、少し取り沙汰されていた「補正予算」関する審議は、日程的に難しいでしょう。

そうなると、総選挙が終わったあとに、すぐ国会を開くので、そのときに審議することになるでしょう。

新総理が、所信表明を仮にするとすれば、そのときにある程度の規模の補正予算案を出したあとで、その後にに解散総選挙ということになりますから、多くの人が様々な経済対策に言及することになります。それがあとで補正予算に反映されることになるでしょう。

緊縮命の財務省的には、嫌でしょうが、この状況では増税も含めて緊縮キャンペーンはかなりやりにくいです。。先に補正予算をある程度決めておいた方が、枠が決まります。たた、選挙になるとどのように膨らむかわからないところがあるのも事実です。


誰が新総裁になっても緊縮的な経済政策話は当面出にくいです。補正予算が何もない等ということにはならないでしょう。


何らかの形で補正予算の編成をしなければならなくなるでしょう。補正は30兆円規模だと言う人も何人かいますし、これに引きずられる形で、誰が総裁になったとしても、補正予算を組むでしょう。

補正予算に関しては、与野党各党からさまざまな政策も出て来ています。公明党は18歳以下のお子さん1人当たり、10万円の給付を柱とする政策が出されています。18歳以下の人口は少ないですから、予算的には大きくなることはないので、それはもうすでに織り込み済みでしょう。

さらに手厚く広くするかが、政策議論の論点にになるのでしょう。「減税しない」ということは現時点でもはっきりしているので、そうなると、消費が落ちているので、さらなる給付金政策が論点になるでしょう。

2020年に実施した、所得制限なしの1人当たり10万円の一律給付も俎上に上る可能性もあります。

これからの自民党総裁選と、次の衆議院選挙の期間で、決まってくることになるでしょう。

他方、立憲民主党は21日、安倍前政権の経済政策「アベノミクス」について「格差や貧困の問題の改善にはつながらなかった。日本経済が混迷から抜け出せない最大の要因だ」とする検証結果をまとめました。枝野幸男代表はこれを受け、「時限的な消費税5%への減税」を次期衆院選の目玉政策に掲げる考えを改めて述べました。

あいかわらずマクロ政策を理解していない枝野氏

立憲民主党の「アベノミクス」総括は問題外ですが、これがなぜ問題外なのか考えてみます。まずは、マクロ政策で一番重要なのは雇用確保ということです。他の経済指標が悪かったとしても、雇用が良ければ、マクロ政策は成功したとみなして良いです。逆に他の指標がどんなに良くても、雇用が悪ければ失敗です。

そういう観点からみると、安倍総理は、歴代政権で最も雇用をつくりました。そのあとコロナ感染症があったことから、割り引いて考える必要があるでしょうが、マクロ政策から見れば、失業率を考えると、コロナ禍でも日本は先進国に比べて低いので、最もいいか、2番目という成績になります。

日本の失業率はコロナ前の2020年2月に2・4%でしたが、その後上昇し、10月に3・1%とピークになり、21年7月は2・8%まで低下しました。米国は20年2月に3・5%でしたが、4月に14・8%とピークで、21年7月は5・4%。EUは20年3月が6・3%でしたが、8月に7・7%、21年7月は6・9%となりました。

それぞれ、コロナ前とコロナ後のピークの差は日本が0・7ポイント、米国が11・3ポイント、EUが1・4ポイントでした。コロナ前と直近の差は日本が0・4ポイント、米国が1・9ポイント、EUは0・6ポイントです。

これらの数字から、コロナ禍による失業率の上昇を最も抑えたのが日本であることがわかります。その理由は、日本では雇用保険の中に雇用調整助成金があるからです。この制度は、労働者の失業防止のために事業主に給付するものです。類似制度は世界ではそれほど多くないが、似た制度があるドイツも、ピーク時の失業率上昇は0・7ポイントと他国と比べて抑えられています。

コロナ失業を防いだ雇用調整助成金

厚生労働省は16日、2021年版の労働経済白書を公表しまた。新型コロナウイルス感染拡大により雇用が悪影響を受けたとする一方、雇用調整助成金(雇調金)などの効果により、完全失業率は2・6ポイント程度抑制されたとの推計を示ました。雇調金がなかった場合、失業率は5・5%に上昇した可能性があるとしています。

このように、雇用調整助成金は確実に効果を上げたのですが、一方では財源が逼迫しているので、保険料をあげようなどとの議論もされています。しかし、それでは何のための保険なのかということにもなりかねません。総裁選、衆院選と選挙が続く時期に、政府は当然このようなことはできないでしょう。それに、こういうことのためにも、補正予算を組むべきです。

とこが、立憲民主党は雇用には目もくれずすぐに、「実質賃金がー」という、本筋ではない議論をしてアベノミクスを矮小化してしまいます。

雇用が伸び始めるときには、非正規雇用から伸び始めるので、当初は実質賃金が下がるのは当然のことです。これは、アベノミクスの初期にも言われていたことです。

実質賃金が、少し下がっても、それよりは雇用の方がはるかに重要なのです。雇用が伸びるということは、いままで給料をもらっていない人ももらえるようになったというとです。マクロ経済政策では、それがいちばん重要なのです。

平均値よりは雇用の絶対量の方が重要ですから、失業率は雇用量で見るのが通常なのです。でも野党の人は、そうすると「安倍さんが歴代政権トップ」と言わざるを得なくなりますから、それは言えないでしょう。

また雇用を改善するには、政府が積極財政をするのは当然ですが、日銀は金融緩和策を取らなければなりません。これなしに、政府が積極財政をしただけでは、効果はありません。しかし、日銀が金融緩和をすれば、雇用は確実に善くなります。

経済回復しても、日銀がゆるやかな緩和を継続すれば、やがて実質賃金もあがります。そうでなければ、賃金は上がりません。それは、日本の賃金が20〜30年前から上がっていないことでも、実証されています。

日銀が金融緩和をして、雇用が改善する当初は、実質賃金は下がります。雇用が改善し、景気が回復した後でも、ゆるやかな緩和を続ければ、実質賃金も緩やかに上昇します。緩和で実質賃金が下がるのは一時的なことなのです。日本の賃金が上がらないのは、日銀の金融政策が元凶です。

そのことも、理解されるようになって欲しいものです。特に、新総裁、新しく総理になる方には、それを理解していただきたいものです。私は、総理が誰になったとしても、ここ1、2年は、緊縮に踏み切ったり、日銀が金融引締に転じることはないと思います。

ただ、2年後、3年後を考えた場合には、やはりマクロ政策、その中でも雇用政策を理解した人に総理になっていただきたいと思います。

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2021年9月21日火曜日

緊急事態宣言 全面解除視野に検討 28日に決定へ―【私の論評】あらゆる統計が、緊急事態宣言を解除すべきことを示している(゚д゚)!

緊急事態宣言 全面解除視野に検討 28日に決定へ

菅総理

政府は、9月末に期限を迎える19の都道府県への緊急事態宣言について、全面的な解除も視野に、検討に入った。
菅首相が今後、関係閣僚や専門家の意見をふまえて、28日に最終決定する方向。 複数の政府関係者によると、新型コロナウイルスの新規感染者数が全国的に減少傾向にあることから、東京など19の都道府県に出している宣言を、9月30日の期限で解除する検討に入った。

 政府高官は、解除に際して、「宣言を完全に解除する案」と、「宣言を解除し、まん延防止措置に移行する案」があり得るとしている。

 また、「18日からの3連休で、どの程度、人出が増えたのかも見る必要がある」と述べていて、解除の判断を慎重に行う考えも示している。

加藤官房長官「(広島と岡山が)6月20日に解除された時には、まん延防止等重点措置は導入されなかったという経緯もある。

まん延防止等重点措置をもう1回はさんだケース、ケース・バイ・ケースと思う」 政府は、菅首相がアメリカ訪問から帰国する26日以降に最終判断する方針で、28日に対策本部を開いて正式決定し、その後、菅首相が記者会見を行う方向で調整を進めている。

【私の論評】あらゆる統計が、緊急事態宣言を解除すべきことを示している(゚д゚)!

麻生太郎財務相は21日の記者会見で、政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会など専門家の主導でこれまで導入してきた行動制限について、「外で飯を食うな、人に会うな等々、制限をいつまでされるおつもりなのか。その根拠は何なのか。本当にそれが必要で効果があったのか。私にはなんとなく、ちょっと違うんじゃないかという感じはする」と苦言を呈しました。

麻生財務相

また、人流増加が感染増加につながると専門家が警告していたにも関わらず、最近は人出が増えているのに新規感染者はピーク時から大幅な減少傾向となっていることについて、「われわれ素人からみて、あの話はまったく噓だったって話になるんですかね。よく分からないね俺は」と指摘。

その上で、「もう少し、プロといわれる方々が正確な情報を出していただけることを期待している」と述べ、コロナ対策に関する情報発信の仕方を改めるよう提案しました。麻生氏の語っていることは、全く正しいと思います。コロナ観戦情報に関して、マスコミだけではなく、客観的な一次情報等にあたった人は誰でもこのような考えをするのではないかと思います。

ただし、政府分科会の上に対策閣僚会議があり、麻生大臣はそのメンバーだったので、政府の意思決定の時に言うべきだったと思います。

さて、緊急事態はどうすべきなのかといえば、私自身は全面解除すべきと思います。それは、言葉で説明するよりも以下のグラフをご覧いただければ、一目瞭然と思います。


これだけだと、比較の対象がないので、以下に英国との比較を掲載します。


百万人あたりのコロナ感染者数、死者数とも英国のほうが日本よりはるかに多いですが、ある程度の制限はあるものの、日本のように自粛要請にもとづく実質的な行動制限等は行われていません。

その英国のボリス・ジョンソン首相は5日の記者会見で、イングランドの新型コロナウイルス対策が今月19日に最終段階に入り、マスク着用や他人との距離確保のルールは廃止されるとの見通しを示しています。

イングランドで16カ月間にわたって実施と解除が繰り返されてきた日常生活の制限措置が、終了することになります。個人宅での集まりを6人までとする決まりや、在宅勤務のガイダンスも撤廃されます。

最終段階「第4ステップ」を予定どおり19日に開始するかは、12日に最新データを基に検討して決めます。

ジョンソン氏が明らかにした新たな段階には、以下の内容が含まれています。
  • 結婚式や葬式の参加者数制限をなくす
  • バーやレストランのテーブル席での接客に関するルールや、会場での受け付け手続きの義務付けを廃止する
  • 介護施設の訪問者数制限をなくす(指名された訪問者について)
  • 地方自治体による規制強制の権限をなくす
  • 大規模イベントの認可が法的には不要になる
ナイトクラブは、パンデミックが始まって以来初めて営業を再開できます。バーも再び酒類を提供できるようになります。

ジョンソン氏は、ワクチン接種や新型ウイルス検査の陰性証明の提示は法的に義務づけないが、店側が客に求めることはできるとしました。

学校のバブル(関係者だけでつくる安全圏)や旅行、自主隔離に関しても近く見直される予定。ギャヴィン・ウィリアムソン教育相が6日に詳しく説明するといいます。

ジョンソン氏はマスクについて、着用が法的義務ではなくなった後も、自分は混雑した場所では「礼儀として」着け続けるつもりだと述べました。

また、イングランドで法的制限の大部分を終了させられるのは、ワクチン接種が進んだことで、新型ウイルス感染が死亡につながりにくくなったからだと説明しました。

ただ、1日あたりの感染者は今月中に5万人に上ると予測されていると警告。「悲しいことだが、(新型ウイルス感染症の)COVID-19で今後も死者は増えるという事態と、私たちは折り合いをつけなければならない」と話しました。

日本の場合は、英国よりは、感染者数も死者数も少ないですから、折り合いをつけるという消極的な考えではなく、感染者数が増えても、重症者、死者を増やさない強靭な社会を構築するほうに舵を切るべきです。

デルタ株を心配する人も多いですが、これについても、デルタ株は感染力は強いものの、弱毒性のようです。これについては、大阪市が独自の調査を行っています。

デルタ株が広がった第5波で若年感染者は大幅に増えたものの、重症化リスクはほとんど変わらず、極めて低い水準であることが、大阪府の年代別重症例の集計結果(9月6日判明分まで)でわかっています。その結果をまとめたのが下の表です。


東京も感染者数そのものが、減少しました。以下の表を御覧ください。


あらゆる統計が、緊急事態宣言を解除すべきことを示しています。

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2021年9月20日月曜日

米露関係の焦点となるウクライナ―【私の論評】NATOと直接対峙できないプーチンは、ウクライナに対して呼びかけをして機会を探りはじめた(゚д゚)!

米露関係の焦点となるウクライナ

岡崎研究所

 ウクライナのゼレンスキーは大統領当選後、ホワイトハウスで米大統領と会談することを求めてきたが、これが9月1日にようやく実現した。会談は2時間行われたという。

 ウクライナ側は、バイデン大統領はロシアに迎合しウクライナを軽視しているのではないかとの懸念を抱いて来た。6月に行われた米ロ首脳会談は、米政権は2014年のロシアのウクライナのドンバスへの侵攻を軽く扱っているとのウクライナの批判や懸念を招いた。7月にバイデンがメルケルと取り引きを行い、ノルドストリーム2パイプラインへの反対を取り下げた決定も同様である。


 バイデンは今回の会談で、米国の「ウクライナの主権擁護への強固な約束とロシアの〝侵略〟への反対」を打ち出し、ウクライナを安心させようとした。バイデンは、ウクライナに対する6000万ドルの安全保障支援パッケージを発表し、ペンタゴンは黒海での安全保障、サイバー安全保障、情報共有についての協力を推し進める「戦略的防衛枠組み」に署名した。

 ゼレンスキーは、訪米前に米国がウクライナのNATO加盟についてイエスかノーかの回答をバイデンより得たいとメディアに述べていたが、NATO加盟問題について米国より明確な回答は無かった模様である。ウクライナのNATO加盟は米国が単独で決められる問題ではなく、今や30か国になったNATO同盟国の全会一致で決められるべき問題であるので、ゼレンスキーの要求は過剰な要求であったように思われる。

 ホワイトハウスのサキ報道官は記者会見で「米国はウクライナのNATO加盟願望を支持しているが、そのためにウクライナにはしなければならない行動がある、ウクライナはそれが何であるかを知っている。その行動とは法の支配の前進努力、防衛産業の近代化、経済成長の拡大である」と指摘し、「(加盟希望国が)加盟国の義務を履行できるようになり、欧州大西洋地域の安全に貢献できる時のためにNATO参加の扉を開いたままにしておくことを支持している」と述べた。

 NATO加盟問題については、進展はなかったが、上述の通り、ウクライナに対する武器供与については6000万ドルの安全保障支援パッケージが合意されたこと、バイデンからウクライナの主権と領土一体性を守る米のコミットメントは「鉄の装甲のように固い」との発言を引き出したことは、ウクライナ側にとり歓迎できることであったと思われる。

行動指針を示したとも言えるプーチンの論文

 米中対立では台湾が今後焦点になるが、欧州における米ロ関係では、今後ウクライナが焦点になる可能性が最も高いと思われる。 

 本年7月21日にプーチンは自ら「ロシア人とウクライナ人の歴史的統一について」という論文を発表している。要するに、ロシア人とウクライナ人は同じ民族であるとする主張である。これをプロパガンダと片づける人も多いが、プーチンの今後の政策、行動方針を示したものと言う人もある。後者のごとくみなして、警戒していく事が正解ではないかと考えられる。

 今年の4月、ロシアはクリミアや東部ウクライナの国境近くに10万以上の兵力を演習と称して展開、ウクライナに威圧を加えた。バイデンがプーチンとの首脳会談を持ち掛けたのはこの緊張の緩和をも狙ったものであった。ロシアはこの兵力は撤収させたが、ウクライナ側はいつでもロシアは兵力展開ができる状況が続いているとしている。ウクライナ問題はかなり大きな影響を世界情勢に与える問題であり、注視する必要がある。

【私の論評】NATOと直接対峙できないプーチンは、ウクライナに対して呼びかけをして機会を探りはじめた(゚д゚)!

上の記事で、プーチンが論文を書いたことが示されています。プーチン大統領は元々節目節目で「論文」を発表する人です。もちろんそれは学術的な意味での論文ではないですが、プーチン氏の政見がうかがえるという意味で興味深くはあります。

その先駆けとなったのが、まだ首相だった1999年12月30日に発表した「千年紀の狭間におけるロシア」という論文でした。


その翌日、エリツィン大統領が電撃的に辞任し、プーチン氏は大統領代行に就任して、名実ともにロシアの最高権力者となりました。


プーチン氏


2012年3月の大統領選挙前には「論文攻勢」を仕掛けたこともありました。2012年に入ると、プーチン首相(当時)は実質的に自らの選挙綱領に相当する一連の論文を新聞紙上で次々と発表しました。週1本のペースで発表された論文は計7本に上りました。


このように、何か事を起そうという時にまず「論文」を発表して、自らのビジョンを示して見せるというのがプーチン流なのです。


そうして、2021年7月12日付の大統領の署名による「ロシア人とウクライナ人の歴史的一体性について」というタイトルの論文がクレムリンのHPに掲載されました。

ちなみに、ウクライナ国民の感情に配慮したのか、ロシア語に加え、ウクライナ語のテキストも添えられています。

以下に、論文の主要点を掲載します。
近年、ロシアとウクライナの間に出現した壁を、私は大きな共通の不幸、悲劇として認識している。それは、様々な時期に我々自身が犯した過ちの結果ではある。

しかし、我々の統一性を常に損ねようとしてきた勢力が意図的にもたらした結果でもあった。

今日のウクライナは、完全にソ連時代の産物である。ウクライナは多分に、「歴史的なロシア」を損なう形で形成された。「歴史的なロシア」は、ソビエト政権の下で、実質的に簒奪されたのである。

ウクライナ人が独立した民族だという概念を強化する上で決定的な役割を果たしたのは、ソ連当局だった。

まさにソ連の民族政策によって、大ロシア人、小ロシア人、白ロシア人からなる三位一体のロシア民族に代わり、ロシア人、ウクライナ人、ベラルーシ人という3つの個別のスラヴ民族が、国家レベルで固定化されたのである。

ソ連が崩壊した時、新生ロシアは新たな地政学的現実を受け入れた。それのみならず、ウクライナが独立国としてやっていけるよう、困難な1990年代にも、2000年以降も、ウクライナに巨額の支援を行ってきた。

1991~2013年に、天然ガスの値引きだけでも、ウクライナの国庫は820億ドル以上を節約できた。ウクライナ当局は、今日でもロシアから年間15億ドルのガス・トランジット収入を得ることに汲々(きゅうきゅう)としている。

ロシアとの正常な経済関係が維持されれば、ウクライナはその経済効果で年間数百億ドルを期待できたはずなのだが。

ウクライナとロシアは、数十年、数百年と、単一の経済システムとして発展してきた。30年前の協力関係の深さはEU諸国が羨むほどのものだった。

両国は、自然かつ補完的な経済パートナーである。緊密な関係は、お互いの競争力を強化し、両国の潜在能力を数倍にも発揮することを可能とする。

ウクライナには、大きな経済的ポテンシャルがあった。ソ連から遺産を継承したウクライナの指導者たちは「ウクライナの経済はヨーロッパでトップレベルになり、国民は最も高い生活水準を享受できるようになる」と約束した。

ところが、かつてウクライナとソ連全体が誇りとしたハイテク巨大企業は、今日では休眠している。過去10年間で機械産業の生産は42%減少した。過去30年間で発電量がほぼ半減していることからも、工業の衰退と経済全体の劣化の程がうかがえる。

IMFによると、2019年のウクライナの一人当たりGDPは4,000ドルを下回っており、ウクライナは欧州最貧国となっている。こうした状況に責任があるのはウクライナ国民ではなく、権力者である。

ウクライナは欧米によって危険な地政学的ゲームに引き込まれていった。その目的はウクライナをヨーロッパとロシアを隔てる障壁にし、またロシアに対する橋頭堡にすることだった。

ウクライナには、ロシアとの提携を支持する人々が数百万人もいるが、彼らは自分たちの立場を守る法的な機会を実質的に奪われている。彼らは脅迫され、地下に追いやられている。 ロシアはウクライナとの対話に前向きで、複雑な問題を議論する用意がある。

私は、ウクライナの真の主権はロシアとのパートナーシップによってのみ可能であると確信している。ともにあれば、これまでも、そしてこれからも、何倍も強く、成功するはずだ。結局、我々は一つの民族なのだから。
ロシア大統領府公式サイト
論文の中でプーチン氏は、ロシア人とは異なるウクライナ人の民族的独自性を否定するようなことを述べています。プーチン氏は以前もそのような主張を唱えていました。

さらに、ロシア人という包括的な民族があり、大ロシア人、小ロシア人、白ロシア人の三つはその支族であったという定式は、ロシアにおける伝統的な民族観を踏襲したものに過ぎません。

2010年に行われた意識調査によると、ロシア人とウクライナ人が単一の民族だと認識しているのは、ロシア側では47.1%、ウクライナ側では48.3%だったといいます。

そのため、今回プーチン氏がロシア人とウクライナ人がもともとは民族的に同一と述べたからと言って、特別新奇な問題発言というわけではありません。

ロシアの人口は200近くの異なる民族で構成されており、その中には200万~300万人のウクライナ人も含まれています。ウクライナ人とベラルーシ人は、ロシアの他の少数民族よりも文化的にロシア人に近いです。

ロシア人はウクライナの人口の17%を占めており、ロシアの文化はウクライナの文化の一部であることを意味しています。

とはいえ、いくつかの違いはありますが、それは対照的と言うよりかは連続的なものです。ウクライナ東部と南部に住むウクライナ人はロシア人とほとんど区別がつかないのに対し、ウクライナ西部のウクライナ人は文化的にはかなり違っています。

最も明白な違いは言語です。ウクライナ人のほぼ全員がロシア語を話しますが、家庭でロシア語を使うのは半数にすぎず、ロシア語を母国語としているのは30~50%にすぎません。ウクライナの西部地域では、ウクライナ語が主流です。

もう一つの違いは宗教です。ロシア人のほぼすべての民族はロシア正教の信奉者であり、特にウクライナの東部や南部のウクライナ人の大多数も同様です。しかし、ウクライナ西部ではカトリックの信者が多く、プロテスタント/福音主義者の数はロシアよりも多いです。

政治的には、強権国家を支持するロシア人よりも、無政府主義的な態度をとるウクライナ人の方が多いのではないでしょうか。また、現時点では、ウクライナ人はロシア人よりも西欧に対して好意的な態度を取っています。

しかし、ウクライナでも時代とともに独自の民族理念が浸透し、2014年の政変以降はそれがさらに強まっています。

ウクライナ領クリミアを一方的に併合し、東ウクライナ・ドンバス地方に戦乱をもたらした張本人のプーチン氏が、ロシア人とウクライナ人は同一民族というようなことを述べれば、多くのウクライナ国民が不快に感じるのは必至です。

そもそも、プーチン氏はなぜこのタイミングで、確実に物議をかもすであろう論文を発表したのでしょうか。

ロシアの専門家による分析の中で、には確かにプーチンは今回ロシア人とウクライナ人の民族的一体性を強調してみせたのですが、だからと言ってそれを根拠にプーチン政権がウクライナに対し、新たに侵略的な政策を発動することは考えにくいという指摘がありました。

今年に入ってから、ロシアが対ウクライナ国境に兵力を集結させるなどして、ドンバス情勢が緊迫化した経緯がありました。

ウクライナのドンバスの位置 色が濃い部分

しかし、強硬姿勢が思うような効果を挙げなかったため、プーチン政権としては対ウクライナおよびドンバス政策を仕切り直そうとしており、その一環としてプーチン氏は「論文」という形でロシアの立場を改めて明確化しておくことにしたのでしょう。

今回のプーチン論文をウクライナ国民がどのように受け止めているかを調べた世論調査の類は、まだ発表されていないようです。

そのため、ウクライナ国民の反応については推測するしかないのですが、今のところプーチン論文がウクライナ国民の意識を大きく変えることはないのではないようです。ウクライナの人々は、プーチン体制のロシアに対する態度を、すでに固めているからです。

ウクライナ国民の多数派は、2014年にプーチン政権が行ったクリミア併合・ドンバス介入という仕打ちを許していません。今さら、プーチン氏がロシア人とウクライナ人の民族的一体性をアピールしたところで、「なるほど、ではロシアをパートナーに選ぼう」ということにはならないでしょう。

もちろん、プーチン論文はロシア国民の琴線には触れるところがあり、プーチン政権が対ウクライナ政策を国内向けに正当化するという意味はあるでしょう。

ちなみに、プーチン論文へのコメントを求められたゼレンスキー・ウクライナ大統領は、ロシアの我が国に対する態度は真に兄弟的なものとは言えず、むしろ「カインとアベルの関係を思わせる」と指摘しました。

カインとアベルは、旧約聖書に登場するアダムとイヴの息子たちのことであり、兄がカイン、弟がアベルである。旧約聖書によれば、カインがアベルを殺してしまい、これが人類初の殺人で、さらにそのことについてカインが白を切ろうとしたことが、人類初の嘘であったとされています。

ゼレンスキー・ウクライナ大統領

ロシアは面積こそ世界一ですが、人口は約1億4000万で日本をわずかに上回る程度です。経済規模は日本の3分の1以下、米国の10分の1以下で、世界で12位。G7各国はもちろん、韓国をも下回ります。そんな国がなぜ大統領選への介入疑惑で米国をゆさぶり、中東や朝鮮半島情勢で発言権を確保できるのでしょうか。

まずは、ロシアは旧ソ連の核や軍事技術を直接継承した国であるということです。GDPが低下したからといって、この点は侮れないところがあります。さらに、それだげてはありません。

力の源泉をたどっていくと、やはり石油と天然ガスです。

この10年ほど、ロシアが戦略的に進めてきたのがアジア・太平洋方面への輸出の拡大です。日本も石油・天然ガスともに1割近くを依存。欧米からの制裁が、「東方シフト」をさらに後押ししています。


北極方面からロシアの地図を眺めると、旧ソ連時代に建設された欧州方面へのパイプラインに加えて、中国や太平洋に向けて、両腕を広げるようにパイプラインの建設が進んでいることがわかります。


欧州の命綱を握っているという自信が、国際的に孤立しても強気の姿勢を崩さない理由のひとつでしょう。さらに、どこにでも運べるLNGの生産能力を高めていくことがロシアの戦略です。


ところが、石油・天然ガスは、ロシアのアキレス腱でもあります。1991年のソ連崩壊は、85年から86年にかけて起きた原油価格の急落が引き金を引いたと指摘されています。エリツィン政権時代も安値が続き、98年には債務不履行(デフォルト)に追い込まれました。


それが、2000年のプーチン政権の誕生と機を同じくして価格は上昇に転じ、ロシアは瞬く間に債務国から債権国に。ところが、その後もリーマン・ショックなどによる原油価格下落のたびに、ロシア経済は大きく揺らぎました。


米国発のシェールガス革命は、天然ガスでのロシアの独占的な立場を脅かしています。頼みの「東方シフト」の先行きも不透明です。輸出先として期待する中国は中央アジア諸国からも輸入しており、ロシアの資源を安く買おうと揺さぶりをかけます。石油とガスは、ロシアにとって諸刃の剣になっています。


軍事技術は別にして、その他は、石油・ガスだけが、一次産品のロシアの原動力であることから、これから急激に発展する可能性は全くありません。


ロシアは、米国を除いたNATOさえ対峙できないでしょう。たとえば、ウクライナを巡ってロシアがNATOと戦争にでもなった場合、初戦においては、最新の軍事技術を用いたり、石油天然ガスをとめるなどで、大きな成果をおさめるかもしれません。


しかし、その後戦争が長引けば、NATO諸国は同盟国の力も借りることができるのて、反転攻勢にでるでしょう。


ロシアは、元々GDPが低迷していることと、他国からの援助もなく、兵站を維持できなくなるでしょう。食料・弾薬などが尽きて、お手上げになります。そうなれば、多くの兵士は自国内に敗走するしかなくなります。そうして、兵站にすぐれたNATO加盟国は追撃戦に入り、ロシア国内にまで入り込むことになるでしょう。


これが、現在のロシアの実力です。ロシアはもはや超大国ではないどころか、EUなどと比較すれば、貧しい国なのです。そのようなことはわかりきったことなので、プーチンとしては、NATO諸国と事を構えることはできないので、ウクライナに対して呼びかけをして、機会を探るという戦略に出たのでしょう。


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2021年9月19日日曜日

イラン科学者暗殺はロボット兵器 米紙報道、遠隔操作で銃撃―【私の論評】今後スナイパーは自らを危険にさらすことなく標的を仕留められるようになる(゚д゚)!

イラン科学者暗殺はロボット兵器 米紙報道、遠隔操作で銃撃


ファクリザデ氏襲撃現場の写真

 米紙ニューヨーク・タイムズは18日、昨年11月にイラン人核科学者ファクリザデ氏が暗殺された事件で、人工知能(AI)を活用した遠隔操作の高性能ロボット兵器が使われたと報じた。イスラエルが米国の支持を得て銃撃を実行したという。米国やイスラエル、イランの当局者らの話としている。

  「イラン核開発の父」と呼ばれたファクリザデ氏は昨年11月27日、首都テヘラン東方を護衛付きの車列で移動中、銃撃を受け殺害された。同紙によるとイスラエルの対外特務機関モサドが、車列を待ち伏せたピックアップトラックに積まれた機関銃を遠隔操作した。

【私の論評】今後スナイパーは自らを危険にさらすことなく標的を仕留められるようにな(゚д゚)!

2020年11月、イランの核科学者モフセン・ファクリザデ氏が何者かに暗殺された際、イランのメディアは犯行がイスラエルとイラン国外の反体制派組織によるもので、人工衛星経由で制御されたロボット兵器によって実行されたというにわかには信じがたい情報を伝えていました。

モフセン・ファクリザデ氏

そのため、このブログでも暗殺されたことは掲載しましたが、ロボット兵器に関しては、掲載しませんでした。しかしそれは正しかったようです。

暗殺に関してイランおよびイスラエルの政府はともに公式にはロボット兵器が使用されたことを認めてはいません。しかしNew York Timesが新たに報じた情報によると、イラン核兵器開発の第一人者とされるファクリザデ氏の暗殺に用いられたのは、ベルギー製のFN MAG機関銃にAIと複数のカメラで遠隔制御可能な機構を装備した、1分間に600発の弾丸を発射できるロボット兵器だったとのことです。

暗殺者らは作戦のためにこのロボット兵器をパーツごとに細かく分けてイラン国内に持ち込み、現地で組み上げたと報じています。


イスラエル国防軍のプーマ戦闘工兵車のRWSに搭載されているFN MAGです。普段は車内から遠隔操作できます。

RWS(Remote Weapon System、Remote Weapon Station)は、軍用装甲車などの装甲戦闘車両や軍用船舶に装備されている遠隔操作式の無人銃架・砲塔の事を指す。

イスラエルは、FN MAG機関銃を装備したRWSを開発しているので、これを用いた遠隔操作できるロボット兵器を開発することは比較的簡単であったと考えられます。

この機関銃の特筆すべき点は、銃身を非常に素早く交換できるという点です。よく訓練された兵士は、およそ3秒以内に新しい銃身に交換することができます。機構的な過熱を防ぐため、継続射撃を行う際にもベルトリンクは100連に制限されています。訓練の際にはこの制限がしばしば省略されますが、それでも継続して射撃を行うことができます。

たとえば、フォークランド紛争におけるグース・グリーンに対する攻撃の際、イギリス軍空挺(エアボーン)部隊の兵士は、交換用の銃身なしで5,000-8,000発もの弾丸を発射する必要がありました。結果的に、銃身が白くなるほど過熱したのですが、それでもこの機関銃は作動し続けることが証明されました。

この機関銃を含むロボット兵器は、道ばたにうち捨てられたピックアップトラックに仕込まれ、自動車で移動中のファクリザデ氏を衛星を介した遠隔制御で蜂の巣にしたとされます。銃に取り付けられたAIは、カメラセンサーにより自動車で移動中のファクリザデ氏を顔認識で識別する機能を持ち、また射撃時には標的の移動偏差修正や銃の反動の制御も行っていたと報告されています。

その狙撃がいかに正確だったかは、車に同乗していたファクリザデ氏の妻や関係者が無傷で、負傷して車外に出たファクリザデ氏がさらに致命傷を負うまで銃撃されていた状況からもうかがい知ることができます。

ただ、NYTはAI顔認識は精度が低かったため、おとりとして用意した別のカメラ搭載の自動車でファクリザデ氏の特定をアシストしたとしています。また犯行後、工作員は証拠隠滅のためにロボット兵器を搭載するピックアップトラックを相当量の爆薬で爆破したものの、ロボット兵器の本体部分は爆風で車外に放り出されたために、その犯行の概要がわかったと伝えています。

ファクリザデ氏はイランで最も著名な核科学者で、イラン革命防衛隊の幹部でした。

イスラエルや西側の安全保障筋は、ファクリザデ氏がイランの核開発計画を主導してきたと考えてきました。

物理学教授のファクリザデ氏は、1989年にイランが極秘で発足した核兵器研究計画「プロジェクト・アマド」を主導していたとされます。

国際原子力機関(IAEA)によると、この計画は2003年に終了しています。しかし、イスラエルが2018年に入手した極秘文書からは、ファクリザデ氏がプロジェクト・アマドを引き継ぐ新たな計画を主導していることが分かったといいます。

イランと敵対するイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相はかつて、演説でファクリザデ氏の「名前を覚えておくように」と語っていました。

一方のイランは、イスラエルが2010~2012年の間に、イランの核科学者4人を暗殺したと非難しています。

アナリストからは、今回の暗殺はイランの核開発を止めるためではなく、2018年にドナルド・トランプ米大統領が離脱した核合意に、ジョー・バイデン次期米大統領が再び参加するのを防ぐためだったのではないかとの分析も出ています。

イランは2015年、イギリスやアメリカなど6カ国と核合意を結び、濃縮ウランの製造を制限すると約束しました。しかしトランプ大統領が2018年に核合意から離脱を決めて以降は、イランもこの合意内容に抵触するようになりました。

近年では、イランが濃縮ウランの製造を拡大しているという新たな懸念が浮上しています。濃縮ウランは、民生用の原子力発電においても、核兵器製造においても、重要な要素です。

ロボット兵器を使うとはまるでスパイ映画のような話ですが、技術的には驚くほどでもありません。銃をロボット化して遠隔操作することで周囲の警備状況を手薄にさせることができ、またドローンを飛ばしたときのように警報を発せられることもありません。

そして仮に、計画どおりピックアップトラックとともにロボット兵器も完全に破壊されていれば、イラン当局は事件の概要を知ることもできなかった可能性があります。

米QinetiQ社の無人兵器MAARS

NYTの報告がすべて正しければ、今後はこのようなスパイ活動が当たり前になっていく可能性が高そうです。今後スナイパーは自らを危険にさらすことなく標的を仕留められるようになっていくことでしょう。

それが必ずしも今回のように成功するかはわかりません。ファクリザデ氏は事件に至るまで複数の警備上の警告・勧告を軽んじた行動をとっており、そのぶん殺害が容易になったとされます。それでも、ロボット兵器による殺害は今後も計画されていく可能性が高いと思わざるをえません。

これを一番恐れているのは、世界の独裁者たちかもしれません。

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2021年9月18日土曜日

北朝鮮のミサイルだけじゃない…日本周辺は先進国で最も危険 敵基地攻撃能力の徹底議論を―【私の論評】日米安保に日米潜水艦隊の有効活用は外せない!双方の協同で無敵の潜水艦打撃群ができあがる(゚д゚)!

北朝鮮のミサイルだけじゃない…日本周辺は先進国で最も危険 敵基地攻撃能力の徹底議論を

列車から撃たれた15日の北朝鮮弾道ミサイル=朝鮮中央通信

 北朝鮮が新型長距離巡航ミサイルの実験に成功したと発表した。さらに15日には、弾道ミサイル2発を発射したことがわかった。日本はどのように対処すべきなのか。

 本コラムでも紹介してきたが、国際政治学の中で最も理論らしい理論といわれる民主的平和論では、民主主義国間は、民主主義国と非民主主義国間や、非民主主義国間より戦争確率が低い。

 わが国の周りを見ると、中国、ロシアと北朝鮮という非民主主義国が隣国となっており、危険な地域だといえる。英エコノミスト誌が毎年公表している民主主義指数(0~10で、数字が高いほど民主主義)では、167カ国中、中国は2・27で151位、ロシアは3・31で124位、北朝鮮は1・08で最下位だ。先進国の中では最も危険な地域に存在しているといってもいい。しかも、やっかいなのは、非民主主義国では軍事費の実態が分かりにくい。

 軍事研究で定評のあるストックホルム国際平和研究所による世界各国の軍事費データでも、北朝鮮の軍事費の実態はさっぱり分からない。経済力と比べて相当な無理をしているのは確実だが、それでも近年着実に成果を挙げつつある。

 日本としてはどう対処すべきか。これも国際政治のセオリーからいえば、同等の軍事技術を持ち、軍事費が不均衡にならないようにすべきだ。

 一つの対処方法が、敵基地攻撃能力だ。これは昨年6月、当時の安倍晋三政権が、地上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の配備計画を撤回し、その代わりとして浮上したものだ。

 筆者は、イージス・アショアのアイデアはいいと思ったが、その運用を陸上自衛隊が行う点について、かねてより懸念していた。というのは、イージス艦の運用が海上自衛隊であるので、その延長線で行うのが世界の常識だからだ。

 イージス・アショアの陸上自衛隊への配備で内陸の基地となったところ、迎撃ミサイル発射のブースターの落下が問題になった。迎撃ミサイルを発射するという危機的な事態なので、本来はブースターの落下など問題とすべきではないが、問題としてしまったのが間違いだった。

 自衛隊基地内に落下させるという従来のシステムでは想定外の話となって、結局断念せざるを得なかった。

 いずれにしても、今の自民党総裁選において、敵基地攻撃能力が一つの争点になっているのは好ましい。

 岸田文雄前政調会長は、敵基地攻撃能力について、憲法問題を含めて検討するとした。高市早苗前総務相はもう少し前向きで、迅速な敵基地の無力化についてサイバー攻撃を含めて具体的な方法を考えるとしている。

 河野太郎行革担当相は、ミサイルへの対応以前に、サイバー戦などでの抑止をどうするか検討が必要としている。

 敵基地攻撃について、自民党総裁選でどのような結論になるのか、注目したい。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】日米安保に日米潜水艦隊の有効活用は外せない!双方の協同で無敵の潜水艦打撃群ができあがる(゚д゚)!

上の記事もそうですが、日米の大方の軍事関係の記事ではある特徴があります。それは大部分の記事には潜水艦のことが書かれていないということです。まるで、日米ともに潜水艦など存在しないような記事が多いです。

これは、米国でも同じ傾向があります。米国は強力な戦略原潜と攻撃型原潜を多数持っているにもかかわらず、なぜかこれはあまり触れられることがありません。

これは、通常潜水艦の行動や対潜戦(ASW)に関しては秘匿されるのが常なので、仕方のないところもあるでしょう。ただ例外もあります。

たとえば、昨年太平洋艦隊所属でグアム島基地を拠点とする攻撃型潜水艦(SSN)4隻をはじめ、サンディエゴ基地、ハワイ基地を拠点とする戦略ミサイル原子力潜水艦(SSBN)など少なくとも合計7隻の潜水艦が5月下旬の時点で西太平洋に展開して、臨戦態勢の航海や訓練を実施していることを公表しました。

そうして、最近もあったように、日本は中国の潜水艦が、接続水域を航行したことを公表しています。

しかし、これは例外中の例外です。ただ、両者とも明確な意図をもって実施されています。米国の場合は、当時いくつかの空母打撃群が乗員のコロナ感染によって稼働できなくなっていたため、中国を抑止するため意図して、意識して公表したものです。

日本の事例は、未だに中国の潜水艦は日本にすぐに発見されてしまうため、いくら尖閣などで日本向けに示威行動をしても無意味であることを伝えて、中国を牽制するという目的があるとみられます。これも意図して、意識して実施したものです。特に、昨年までは「外国潜水艦」としたものを今年から「中国の潜水艦」として、意図して意識して中国を牽制しています。

そうして、最近の米国のシンクタンク「ランド研究所」は、防衛省・自衛隊に提言し、叱咤(しった)激励する衝撃的な論文を発表していますが、一読して、防衛省・自衛隊を子供扱いにしたような論文ではありますが、内容そのものは妥当です。しかし、この論文に出てくる潜水艦(submarine)という言葉はわずか一語だけでした。

この報告書の詳細は、原典をあたっていただくものとして、以下に概要を掲載します。

ランド研究所は、自衛隊に対して、「マルチドメイン(複数領域)防衛軍を目指すべきだ」と提言しています。マルチドメイン防衛軍とは、米陸軍の作戦構想「マルチドメイン作戦」が遂行できる部隊のことです。 

米陸軍マルチドメイン変革(米陸軍参謀総長文書#1)より


ランド論文が「マルチドメイン防衛軍」を創設するために提言した17の新興技術は、先進通信ネットワーク、人工知能(AI)、自律技術、ビッグデータ、最新のサイバー戦技術、量子通信、量子コンピューティング、量子センシング、3Dプリンティング、バイオ技術、指向性エネルギー兵器、最新宇宙技術、極超音速滑空体、マイクロエレクトロニクス、ナノテクノロジー、無人機です。

ランド研究所は、中国が新興技術の軍事利用を推進しているのに比し、日本の遅れを叱咤している。中国が重視する技術は、ランドの17技術とほぼ同じだ。そして、自衛隊が新興技術を軍事利用することによるメリットを列挙しています。以下にそれらを掲載します。
第1に、サイバー攻撃、電子戦、マイクロ波指向性エネルギー兵器の使用により、攻撃者は明確な証拠を残すことなく攻撃できる。

第2に、自律技術、AI、最新遠距離通信、量子コンピューティングなどを利用することで、戦争遂行を劇的にスピードアップできる。 

第3に、無人機やロボットなどは将来の戦争で中心的な役割を果たす。

第4に、長距離でターゲットを非常に正確に攻撃することができる。 

第5に、ネットワークの安全確保と相手側のネットワークの破壊が紛争時における中心テーマになるため、電子戦やサイバー攻撃に対する防御が重要になる。 

第6に、従来の空・陸・海の領域加えて、電磁波、宇宙、サイバー空間の領域を作戦成功の中核になる。 

第7に、情報ドメインに関連する技術分野がますます重要になっている。他国は、紛争のすべての段階で、日本の認知機能(頭脳など)に悪影響を及ぼし、世論を操作しようとする。日本は、敵の大規模な偽情報・誤情報作戦に対処する必要がある。
 以上みてきたように、ランド論文は軍事専門家にとっては常識に沿ったもので、適切な提言だとは思います。防衛省・自衛隊がこの提言を受けて、これをいかに活用するかが課題です。この提言を無視する選択肢はないとは、思います。

マルチドメイン防衛軍構想は、もともと米陸軍によって作成されたものなので、海戦を想定したものが少なくなるのは当然とは思いますが、それにしてもこの報告書の中にでてくる、「潜水艦」というキーワードが一つしかないというのが気になります。それに、サイバー攻撃への対応や、偽情報・誤情報作戦への対応などは、緊急の課題ですが、他のものはすぐにできるとは考えられず、いずれも将来の課題といえると思います。

しかし、潜水艦に関してはまだまだできることがあり、やればかなり成果をあげられる分野が多くあると思います。

米国の戦略家ルトワック氏は、論文「軍事におけるイノベーションをやり直す」の中で潜水艦について以下のように述べています。
過去2回の世界大戦におけるもっとも激しい軍事競争により、1915 から 1945 年 の間には戦争を変えるような多くのものが生まれ、その中から、その後の規範とな るウエポン・システムであるプラットフォームが誕生し、現在に至っている 。1945 年以降さまざまな形の科学的、技術的発展があったにもかかわらず、長期の全面戦 争から以外は生まれ得ない革命的なトランスフォーメーションがないまま、我々は 相変わらず 60 年以上前のプラットフォーム(ただし、潜水艦だけは例外)をかなり 多く使っている。

また、以下のようにも述べています。

戦争はその苛烈さに比例して、組織上、作戦上、戦術上、そして時には戦略上の イノベーションとともに、新機軸の兵器のコンセプト(例:第一次世界大戦におけ る武装航空機、第二次世界大戦における原子爆弾など)や、少なくともプラット フォームの新しいシステム構成(例:1944 年までに出現したジェット戦闘機、1918 年の空母、1916 年の戦車など)の出現を促す。軍指導部も、戦時中にイノベーショ ンを行うために必ずしもイノベーティブである必要はない。イノベーションを行う敵 を模倣するか、効果的にそれに対抗するだけでいい。ただし、いずれも行わないと 敗けは免れない。

 反対に平時には、軍事におけるイノベーションが起こることはめったにない。(平 時の軍事におけるイノベーションの、もっとも有名で最大の例外は原子力潜水艦で あろう。米国海軍のコンセンサスとして、1,200psi の蒸気ボイラーシステムはいい が、ガス・タービンや、ましてや原子力推進というハイマン・リッコーヴァー (Hyman Rickover)の突飛なアイデアには頑なに反対していたことを考えれば、実 現性はほとんど不可能に近いと言われていた。)軍事組織は、奉仕や自己犠牲といっ た重要な価値観を維持するためには総じて保守的だが、この軍の保守的傾向はこと さら非難されるべきものではない。変化に対する抵抗は、いかなる組織にも見られ るからである。  

原子力潜水艦は、軍事上の戦後のイノベーションといえる画期的なものです。そうして、ほとんど無音の通常型潜水艦である日本の潜水艦も、戦後のイノベーションといえるでしょう。そうして、潜水艦は、電磁波などマイクロ波指向性エネルギー兵器では攻撃できない可能性が大きいです。

さらに、サイバー攻撃に関しても、水中に深く潜る潜水艦には、通常の電波は届きません。ましてや、インターネットのコードも繋がっていません。

では、どうやって連絡をとるかといえば、結論からいうと超長波(VLF)を用いて連絡をします。無論、水上に浮上するか、アンテナのみを浮上させて、通常の電波で通信することもできます。ただし、そうすれば、敵にすぐに発見されてしまいます。しかし、潜水艦が水中に潜るということから、サイバー攻撃にさらされる危険はかなり低いといえます。

文春新書『ラストエンペラー習近平』において、ルトワック氏は潜水艦について以下のように趣旨のことを述べています。
現在、世界各国が持っている海軍の船は、実は2種類しかない。1つは空母などの水上艦艇、もう1つが潜水艦。水上艦艇はすべて、いざ戦争が起こったら、ターゲットでしかない。船が浮かんでいる時点で、レーダーなどで、どこで動いているのか存在がわかってしまう。そこを対艦ミサイルなどで撃たれてしまえば、1発で沈められる。しかし、潜水艦はなかなか見つからないので、「潜水艦が本当の戦力なのだ」。

 こういう観点から見ると、中国はたくさんの水上艦艇を持っていますが、潜水艦的な、水面より下の戦力は弱いです。日米は、水面より下の戦力において中国より圧倒的に強いです。

ルトワック氏

特に、日米は対潜哨戒能力が中国と比較して圧倒的に高いです。そのため、対潜戦(英語: Anti-submarine warfare, ASW)も圧倒的に強いです。さらに、日本の潜水艦は、もともとステルス性(静寂性)に優れていたものが、最新型はリチュウムイオンバッテリーを動力にしているため、ほとんど無音に近くなりました。

海上自衛隊は、敵潜水艦の行動を探知するべく、日本の近海に潜んでいます。もし、敵性潜水艦が近づいてきた場合でも、無音状態で迅速に行動することができます。視界も電波もさえぎられる水中、敵は音を探知しながら進んできますが、音を発しないこちらの姿を探知することは、ほとんどできません。まるで忍者のようにその姿を隠すことができるのが、通常動力潜水艦艦の強みです。

一方米国の攻撃型原潜は、もともと原子力潜水艦ということで、ある程度騒音は出ます。原子炉で発生させた蒸気を使ってタービンを回し、その力でプロペラ軸を回しますが、この時に使う減速歯車が騒音の原因といわれています。タービン自体は高速で回転させるほうが効率も良いのですが、そのまま海中でプロペラを回転させるとさらなる騒音を発生させるために、減速歯車を使ってプロペラ軸に伝わる回転数を落とす必要があります。

ほかにも、炉心冷却材を循環させるためのポンプも大きな騒音を発生さるといいます。このポンプは静かな物を採用することによって、かつてに比べ騒音レベルは下がってきているといいますが、頻繁に原子炉の停止・再稼動をさせることが難しい原子力潜水艦においては、基本的にこのポンプの動きを止めることはできません。

しかし、米国の攻撃型原潜は、原潜としてはステルス性が高く、対潜哨戒能力が低い中国には発見しずらいです。ただ、米国の攻撃型原潜は、速度がはやく長期間潜水していられることの他、オハイオ級攻撃型原潜は、最大で計154発のトマホークを搭載可能等、攻撃力にも優れています。

台湾有事が想定された場合、600発の巡航ミサイルを積んだ「見えない空母」とかつてトランプ氏が称した、数隻の攻撃型原潜が、第1列島線の内側に入り込み、ピンポイントで中国のレーダーや宇宙監視の地上施設を攻撃して、まず「目」を奪うでしょう。そうなれば、中国は米空母などがどこにいるか把握できず、ミサイルを当てようがないです。

米国は原潜をつくりはじめてから、通常型潜水艦を建造することをやめました。もはや日本のような静寂性の高い通常型潜水艦を製造する能力はありません。

私としては、マルチドメイン防衛軍を創設することには、やぶさかではありませんが、それよりも現実的な方法は、潜水艦隊や対潜哨戒能力、対潜能力のさらなる強化だと思います。

日本の場合は、敵基地攻撃能力の中に、潜水艦による情報収集と、攻撃も含めるべきと思います。敵基地攻撃というと、すぐに航空機などを思い浮かべる人もいるようですが、それだけではなく、潜水艦による監視と攻撃も含めるべきです。日本のステルス性の高い潜水艦は、北朝鮮や中国の港や沿岸に侵入しても発見されることはありません。

そのため、じっくりと長期間にわたり詳細に情報収集ができる可能性が高いです。さらに、ミサイルなどで敵基地を的確に迅速に攻撃できます。

米国においては、「マルチドメイン(複数領域)防衛軍」において、米原潜を活用する方法を模索すべきと思います。米攻撃型原潜は、敵に発見されることなく、局所的に破滅的な攻撃をすることができます。この能力が「マルチドメイン防衛」に役に立たないはずがありません。

日本の横須賀基地で2015年12月23日、米海軍はSSN-766「シャルロット」攻撃型原潜、SSN-775「テキサス」攻撃型原潜が同時に停泊する貴重な写真 クリックすると拡大します

米海軍においては、空母打撃群中心主義からはやく脱却すべきです。それには、水上艦艇はすべて、いざ戦争が起こったら、ターゲットでしかないということもありますが、差し迫った他の理由もあります。

それは、航空母艦の稼働率が劇的に低下するという危機的状況に陥りつつあるということです。稼働率の低下の最大の原因は、海軍工廠(こうしょう)と民間造船所を含んだ米国内における造艦・メンテナンス能力の不足にあります。

このような海軍関係ロジスティックス能力の低下は量的なものだけではなく、質的にも深刻であるという調査結果も数多く提示され、アメリカの国防上、深刻な問題となりつつあるのです。

この問題は、早急には解決できません。それまでの間は、空母よりは、メンテナンス能力を必要としない攻撃型原潜をどのように活用するのかということが、課題になるでしょう。

最後に日米の課題ですが、将来は「マルチドメイン防衛軍」を目指すにしても、当面の敵は中国であり、その中国と比較すると、海戦能力では日米が格段に勝っています。これを有効活用しない手はありません。

そうして、日米ともに対潜哨戒能力がすぐれており、米国の攻撃型潜水艦はステルス性には、難がありますが、攻撃力、速度、長期間の運用に優れています。

日本の潜水艦はステルス性に優れていますが、攻撃力は米軍に比較すると弱いですし、速度も遅く、潜航時間も米原潜には及びません。

この事実からすると、対中国ということで、日米ができることは、日米協同の潜水艦隊を創設することではないかと思います。

協同潜水艦隊により、双方の強みを活かし、双方の弱みを消してしまうのです。ステルス性に優れた日本の潜水艦隊は、主に情報収集にあたり、その情報を日米で共有して、米攻撃型原潜は、その情報に基づいて迅速に正確に敵に対して破滅的な打撃を与えるのです。

このような協同ができれば、世界最強の潜水艦打撃群ができあがることになります。そうなれば、確実に中国の海洋進出を防ぐことができます。

このようなことを考えると、防衛省・自衛隊を子供扱いにしたランド研究所の論文は、いくぶん上滑りしているように思えてなりません。彼ら自身も、もう少しに地に足のついた戦略を考えるべきと思います。そうして、安全保障の論議がまともになるように、米軍も潜水艦に関することも差し支えない範囲で公表すべきです。

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