2025年7月28日月曜日

中国資本が狙う“国土の急所”──アメリカで進む対中土地規制の全貌と日本への警告

 まとめ

  • 中国などの敵対国による農地・不動産取得が、米国の国家安全保障や食料供給体制を脅かすとして、全米26州が規制法を成立させ、連邦政府も対策に乗り出している。
  • フロリダ州、テキサス州、南・北ダコタ州などでは、中国など特定国に対して不動産取得を全面的に禁止する法律が相次いで成立し、違反者には罰金や土地没収といった厳罰が科される。
  • 2025年7月には、米農務省が全国的な農地取得禁止方針を打ち出し、トランプ政権も中国系企業による農地・住宅取得を封じる法案を推進している。
  • 一部では「実態以上の過剰反応」や「人種差別的だ」とする批判もあるが、裁判所でも合憲性が争われつつ、国家主権を守る正当な措置として支持が広がっている。
  • 日本でも同様の脅威があるにもかかわらず、メディアの報道は極めて少なく、米国の動きを対岸の火事とせず、自国防衛の課題として捉え直す必要がある。


「気づけば、我々の“国土”が奪われつつある」
そう言えば大げさに聞こえるかもしれない。だが、アメリカではいま、中国をはじめとする敵対国による土地取得に歯止めをかけようと、各州が本気で動いている。標的は、軍事基地周辺、農地、水源といった“国の急所”だ。

南ダコタ、テキサス、フロリダ──次々と法案が成立し、外国資本の不動産取得を全面禁止する動きが加速している。2025年には、米農務省が全国規模の取得禁止方針まで打ち出した。

問題は、日本だ。この危機的状況を報じるメディアは少なく、世論もほとんど動いていない。しかし、これは他人事ではない。むしろ日本こそが最も“無防備な国”なのではないか。

以下に、アメリカの法整備の実態をまとめた。これは対米観察のためではなく、私たち自身の未来を守るための警告である。

外資による土地取得は「国家の急所」に刺さる


アメリカ各州で進む「チャイナマネー排除」の法制化は、保守派にとって見過ごせない国家防衛の一環である。背景にあるのは、中国をはじめとする「敵対国家」が、アメリカ国内の農地や不動産を買い漁ることで、国家安全保障や食料供給体制が侵食されるという深刻な懸念だ。特に軍事基地や重要インフラの近隣での土地取得は、情報収集や監視活動の拠点となりうるとして、強い警戒が広がっている。

すでに26の州が、中国など特定国籍の個人や企業による農地取得を制限する法律を成立させ、さらに13以上の州で関連法案が審議中だ。南ダコタ州やノースダコタ州では、中国、ロシア、イラン、北朝鮮といった国家を名指しして、農地の取得やリース契約までも全面的に禁止する法律が実際に施行されている。とりわけ南ダコタ州は、違反者からの土地没収を法定化するなど、容赦ない姿勢を示している。

テキサス州も、かつて否決された法案を修正のうえ再提出し、2025年6月に「SB17」が成立。9月から施行予定のこの法律は、中国、ロシア、イラン、北朝鮮を「指定国」と定義し、これらの国と関係するあらゆる個人・企業に対し、農地、住宅地、商業地、インフラ施設を含むすべての不動産取得、そして1年以上の長期リース契約までも禁止する。違反には25万ドルの罰金という厳罰が設けられている。

フロリダ州では2023年に成立した「SB264」が注目された。中国など7カ国の国籍を有する者に対し、農地や軍事施設近辺の不動産だけでなく、住宅購入まで原則として禁止するという、全米でも最も厳しい内容を盛り込んでいる。ただしこの法律は、現在違憲訴訟(Shen v. Simpson)により一部執行が差し止められている。

州法を追うように、連邦政府も動き出した

連邦政府も動きを見せている。2025年7月、米農務省(USDA)は「National Farm Security Action Plan(国家農地安全保障計画)」を発表。敵対国による農地取得を全面的に禁止する方針を打ち出し、中国系企業が保有する土地については、将来的な売却や強制的な権利回収(clawback)を含む措置が検討されている。

さらに、トランプ政権下では「Protecting Our Farms and Homes from China Act(中国による農地と住宅の取得を阻止する法案)」を含む複数の法案が提出された。この法案は、中国共産党と関係のある個人や企業による新規取得を2年間凍結し、既に保有されている不動産については1年以内の売却を義務づけるという強硬な内容だ。対象は農地に限らず住宅にも及び、違反者には資産の没収や刑事罰も科される可能性がある。


こうした連邦・州の動きは、特定の国による土地支配への危機感が、法制度にまで及んだ結果である。事実、ノースダコタ州では中国企業が空軍基地近隣の土地を取得しようとした案件が国家安全保障上の懸念として実際に問題化し、中止された事例もある。もはや仮定の話ではない。

「過剰反応」か「当然の防衛」か──問われるのは覚悟

こうした流れに対して、一部では「行き過ぎだ」との批判もある。たとえば、中国系企業が保有する農地は全米の1%にも満たないという報告があり、実態以上に危機を煽っているのではないかという声もある。また、外国籍者への一律な取得制限については、人種差別や平等保護条項に違反するとの憲法上の問題を指摘する意見も少なくない。実際、フロリダ州の法案は、アジア系住民らによる訴訟により連邦控訴裁判所が執行停止を命じるなど、司法の場でも争われている。

それでも、保守派にとってはこの問題は、単なる不動産取引の枠をはるかに超えている。これは国家主権と安全保障の問題であり、敵対国に国土を明け渡すような行為を看過するわけにはいかない、という揺るぎない信念がある。軍事と食料の安全を他国に握られては、主権国家としての自立は成り立たない。だからこそ、アメリカの各州は法整備を急いでいるのだ。


中国人成金と拝金建設会社に麓の森林を不法に伐採され傷ついた羊蹄山

そしてこの動きは、日本にとっても無関係ではない。中国の影響力が増す中で、日本国内でも似たような土地取得が進んでいる現実があるにもかかわらず、メディアはこの問題をほとんど取り上げない。これは危機そのものの見落としであり、あるいは意図的な無視とも言える。アメリカの動きは、単なる地方立法の話ではない。これは国家を守るという当たり前の意思表示であり、主権国家であるならば本来当然にとるべき対応なのだ。

今、日本人が学ぶべきは、「自由主義国家を装った経済的侵略」にどう向き合うか、その覚悟の差である。

以下、ご指定のブログ記事を踏まえ、今回の記事にふさわしい関連記事を5本選んでご紹介します。アメリカの土地規制、対中安全保障、そして日本の無防備性というテーマに共鳴する内容です。

【関連記事】

【主権の危機】中国の静かな侵略に立ち向かう豪米、日本はなぜ “無防備” なのか(2025年7月13日)
アメリカとオーストラリアが進める対中対策と比べ、日本の無策ぶりを鋭く指摘。国家主権と安全保障をめぐる国際的潮流を読み解く。

中国フェンタニル問題:米国を襲う危機と日本の脅威(2025年7月)
中国が関与する薬物問題から見える「国家ぐるみの浸透工作」。土地問題だけにとどまらない中国の全体戦略への警鐘。

羊蹄山の危機:倶知安町違法開発が暴く環境破壊と行政の怠(2025年6月17日)
外国資本による北海道での違法開発事例を取り上げ、日本国内の土地利用と安全保障の脆弱性を浮き彫りにする。

200カ所指定へ―「土地利用規制法」の全面施行では未だ不十分!(2022年2月6日)
日本政府が導入した土地規制法の限界を指摘。国家防衛の観点から、さらなる立法強化の必要性を訴える。

アラスカLNG開発、日本が支援の可能性議論(2025年2月)
アメリカとのエネルギー協力を通じた地政学的安定への寄与と、日米戦略連携の重要性に触れた一編。

#チャイナマネー排除 #国家安全保障 #日本も他人事ではない

2025年7月27日日曜日

日米が極秘協議──日本が“核使用シナリオ”に踏み込んだ歴史的転換点

まとめ
  • 日米が東アジア有事での核使用を想定し、非公開協議を実施している。
  • 協議は2024年策定の拡大抑止ガイドラインに基づいて行われている。
  • 日本は抑止戦略の“共同設計者”として責任ある立場に踏み出した。
  • 被爆国としての立場より現実の核脅威への備えが優先され始めている。
  • 保守派はこれを抑止力強化と戦争回避の現実的対応として評価している。

日米が極秘協議──報道の信ぴょう性とその衝撃
 
2025年7月26日、共同通信は英語版を通じて「Japan, U.S. discussing scenario for nuclear weapons use: sources」と報じた。内容は日本と米国の防衛当局と外交当局が東アジア有事を想定し、米軍による核兵器使用シナリオを非公開協議で検討していたというものである。この会議の名称は通称「「日米2+2」会合、正式名称は、「日米安全保障協議委員会(SCC: Security Consultative Committee)」。両国はテーブルトップ演習形式を用い、中国や北朝鮮による核威嚇、戦術核使用の可能性を想定し、対応策、情報共有、国内向け説明まで含んだ実践的な検討を重ねてきた。今年も、この会合の開催が予定されている。

昨年7月の資料写真、拡大抑止に関する協議のため東京で会合する日本と米国の外務・防衛担当高官らの様子。


このような協議が報じられることは極めて異例である。だが、これが虚報である可能性は低い。河北新報、福島民報、47NEWSなど共同通信系列の複数媒体が同様の内容を報じ、Kyodo News英語版でも同じ見出しで配信されている。いずれも公表された政府声明ではないが、複数の外務・防衛当局関係者が協議を認める証言を寄せており、記事は単なる憶測ではない。
 
背後にあったガイドライン──日米抑止戦略の新段階
 
米国の核の傘 AI生成画像

ではなぜ“非公開協議”が報道されるに至ったのか。それは日米が昨年12月に「拡大抑止に関するガイドライン」を策定したことと密接な関係がある。このガイドラインは米国の核抑止力、すなわち“核の傘”の信頼性を高めるための基本枠組みであり、日本側がどの時点でどのような情報を受け取り、どう政治判断を行うかを明文化している。関与したのは日本の外務省、防衛省、統合幕僚監部の一部職員、および米国防総省や在日米軍司令部などである。つまり、実務レベルの現実的協議である。

この指針は、北朝鮮が戦術核の使用をほのめかした場合や中国が台湾に侵攻し沖縄への核威嚇を行った場合など、具体的想定ごとに日米がどう動くかの“行動テンプレート”を記している。今回行われているテーブルトップ演習は、単なるシミュレーションではない。実質的な戦略設計と意思決定の訓練にほかならず、日米同盟の核抑止戦略の一端を担っている。

「理想」では国は守れない──直視すべき現実

被爆国である日本が米国の核使用に関わる検討に入り込んでいることは、従来では政治的タブーであった。しかし現実がそれを許さない。中国は極超音速兵器と多弾頭ICBMを配備し、ロシアはウクライナ侵攻を通じ核戦力を背景に恫喝を繰り返している。北朝鮮は戦術核の即応体制を公然と整備し、「核先制使用さえ辞さぬ」と宣言した。こうした状況下で、日本が拡大抑止の現実に直面し、米国とともに具体的な対応策を討議することは当然である。

この協議は核保有や核共有を意味するものではない。だが、米軍が核を使う可能性が現実にある場合、日本側がどのように政治的関与し、国民に説明するのかという責任を明確に規定すること自体が、国家として重要な慣行である。これは、「受け身の同盟」から「抑止戦略の共同設計者」への転換である。

従来の認識(上の表)を超えて、とうとう米国との核運用面での議論が始まった

当然、国内の左派勢力や反核団体からは非核三原則の放棄と批判されるだろう。しかし、直視すべきは理想論ではない。国を守るとは、幻想ではなく現実に即した方法である。非核三原則が戦後日本の精神支柱であったことは否定しないが、幻想に縛られ続けることは国家の自殺である。今回の日米協議は、その幻想の終焉を告げるものかもしれない。

抑止力とは、相手に「こちらは本気だ」と思わせることで成立する。日本が米国と共に「必要なら核も辞さない」という現実的意思を持つことが、中国や北朝鮮への最強のメッセージとなる。その意思の可視化こそが、戦争回避の最大の防波堤である。

今、日本は戦後最大級の選択の岐路に立っている。そして、その選択を誤れば、次世代がその代償を命をもって払うことになろう。だからこそ、日本は核をタブー視せず、すべての選択肢を国家的議論に載せるべきだ。これこそ、戦後日本が直面する“本物のリアリズム”である。

【関連記事】

日本の防衛費増額とNATOの新戦略:米国圧力下での未来の安全保障(2025年7月12日)
日米協力深化と防衛費拡大を通じ、拡大抑止と核の傘の現実化を分析。

米国原潜アイスランドへ歴史的初寄港:北極海の新時代と日本の安全保障への波及(2025年7月10日)
米原潜の戦略的展開を通じて、米国核抑止力が日本との防衛協力に影響する構図を解説。

ウクライナの「クモの巣」作戦がロシアを直撃:戦略爆撃機41機喪失と核抑止への影響(2025年6月)
ロシアの空軍力と核抑止戦力がウクライナの攻撃で深刻損傷した事例。抑止力の実効性と弱点を示す。

米海軍がグアムに初のバージニア級原潜を派遣、印太地域情勢に対応(2024年11月)
グアムへの原潜配備が核抑止態勢として機能し、日本の安全保障環境にも寄与する。

サイバー防衛でがっちり手を結ぶ日米―一定限度を超えたサイバー攻撃は、軍事報復の対象にもなり得る (2019年5月9日)

日米の外務・防衛担当4閣僚は、ワシントンで2プラス2を開催、日米両国が協力して「自由で開かれたインド太平洋」の実現に取り組むことを柱とする共同発表を発表。

2025年7月26日土曜日

大阪万博はもはや『国の事業』ではない──国家が主語を捨てた令和日本の衰え

 まとめ

  • 万博の裏で未払い問題が多発大阪・関西万博で海外パビリオンの建設に関わった日本の下請け業者19社以上が、発注元からの工事代金未払いを訴えており、経営に深刻な影響が出ている。
  • 1970年の大阪万博は国家が全面主導当時の政府は国債を発行し、財政・運営・外交すべてを主導。国家の威信をかけた総力戦として万博を成功させた。
  • 2025年万博は地方と民間に丸投げ政府は形式的な後方支援にとどまり、建設や運営の責任は大阪府・経済界・民間に押しつけている。国家としての関与が著しく薄い。
  • 緊縮財政が公共投資を抑制「プライマリーバランス黒字化」などの目標に縛られ、国債による積極的な投資が行われず、国家としての責任ある財政運営が失われている。
  • 国家ビジョンと責任感の喪失1970年にはあった「未来像」が2025年には見えず、国は大阪に責任を押しつけるだけの存在に。日本の国家機能の空洞化が万博で露呈している。


2025年春、華やかに幕を開けた大阪・関西万博。しかし、開幕早々、信じがたい事態が表面化している。アメリカやドイツ、中国など七か国のパビリオン建設を担った日本の下請け業者が、「発注元から代金が支払われていない」と声を上げ始めたのだ。少なくとも十九社にのぼる業者が被害を訴え、中には一億円を超える債権を抱える企業もある。すでに従業員の給料すら払えない事態に陥っているところもあるという。

しかも問題は一社二社の未払いではない。一次下請けが支払いを受けられず、さらにその下の二次・三次下請けへも資金が回らないという“未払いの連鎖”が起きている。発注元の企業は「契約に不履行があった」などと主張しているが、現場の混乱は明白だ。NHKの報道によれば、未払いが発生したパビリオンはアメリカ、アンゴラ、セルビア、中国、ドイツ、マルタ、ルーマニアの七か国にわたり、金額は一社あたり百万円から一億円超に及ぶ(出典:NHKニュース、2025年7月25日報道)。

この騒動の背景にあるのは、短すぎる工期と不明確な契約条件、そして海外発注者との意思疎通の難しさだと指摘されている。筑波大学の楠茂樹教授は、博覧会協会が工事プロセスの妥当性を検証すべきだと述べている。だが本来、こうした事態を未然に防ぐべきだったのは、政府である。これは単なる民間同士のトラブルではない。国が招致し、国が開催を認めた“国家イベント”の現場で起きている混乱だ。
 
国が責任を持った1970年、逃げた2025年
 
思えば、1970年の大阪万博は、まったく違っていた。あのときの日本には覚悟があった。政府は国の威信をかけて先頭に立ち、会場建設からインフラ整備までを一体で推進した。首相だった佐藤栄作は、万博を「日本の未来を世界に見せる祭典」と位置づけ、財源の確保にもためらいがなかった。実際、会場整備には国債が投入され、大規模な公共投資が断行された。国家が責任を持ち、国債を発行することを当然の責務として、日本の未来を切り拓こうとしていた。


対して2025年。政府は表向きには万博を支援していると言いながら、実務の多くを大阪府や経済界に丸投げしている。建設の責任も、運営の現場も、実質的には地方任せだ。国家イベントでありながら、国家の影が極めて薄い。予算も抑えられ、国債による直接支援は一切ない。そのうえ、外国発注者との契約で混乱が生じても、政府も博覧会協会も調整に出てこない。責任の所在が不明なまま、現場の中小業者が泣き寝入りしている。
 
緊縮主義が国家を壊す
 
この変化の根底には、財政運営の考え方の劣化がある。1970年当時の日本は、「未来への投資は国の責務」という信念を持っていた。国家は、自らの手で成長の基盤を築くことを当然の務めとしていた。ところが今、「プライマリーバランスの黒字化」なる財政目標がすべてに優先され、必要な公共投資すら後回しにされている。国は金を出さず、責任も取らず、それでいて「支援はしている」と言い張る。そんな政府を、誰が信用できるというのか。

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そして何より深刻なのは、国家のビジョンそのものが失われていることである。1970年の日本には、「我々はここへ向かうのだ」という未来像があった。万博はその象徴だった。だが今、2025年の万博にそれがあるだろうか。会場の設計は外国頼み、展示の中身も漠然としていて、何を世界に示したいのかが見えてこない。「いのち輝く未来社会のデザイン」──耳障りはいいが、実態が伴っていない。
 
「大阪任せ」という国の無責任、そして維新の逃避
 
大阪は、かつて我が国日本の活力の象徴だった。経済、文化、技術、人の熱気──すべてがここにあった。だからこそ、1970年の万博は大阪で開かれた。それが今や、「大阪に任せておけばいい」という空気が政府中枢から漂っている。地方分権を盾にして、国は自らの責任を放棄しているのである。


それならば、大阪府自身が地方債──すなわち府債を発行して、財源を自力で確保する道もあったはずだ。実際、インフラ整備や大規模公共事業のために地方債を発行することは、自治体の正当な手段である。だが大阪府は、万博に対して専用の府債を発行していない。財政調整基金などを取り崩す対応にとどまり、その分、将来の財政圧迫を残すかたちとなった。

その背景には、大阪を長年実効支配してきた「大阪維新の会」の強固な緊縮志向がある。「身を切る改革」という看板のもと、財政支出を抑えること自体が目的化し、必要な投資すら躊躇する姿勢が根を張っている。万博のように将来への布石となる国家的事業であっても、支出を「悪」と決めつけ、結果として必要な整備すら不十分なまま迎えた現実。これでは“改革”どころか、未来の芽を自ら潰しているようなものだ。

地方自治体であっても「未来のために投資する」という気概があれば、堂々と債を発行すべきだった。それすらもやらないのは、国だけでなく地方までもが「責任から逃げる時代」に突入している証ではないか。

国が主語でなくなったとき、国は国でなくなる。

大阪万博2025は、令和日本がいかに国家としての覚悟を失ったか、その現実を世界にさらしている。これは単なるイベントの話ではない。国家とは何か、国民をどう守り、どう導くのか──その根幹が、静かに、しかし確実に崩れているのである。

【関連記事】

減税と積極財政は国家を救う──歴史が語る“経済の常識”(2025年7月25日公開)
関東大震災後の歴史事例を通じ、積極財政の意義と有効性を説く。

国の借金1323兆円、9年連続過去最高 24年度末時点—【私の論評】政府の借金1300兆円の真実:日本経済を惑わす誤解を解く(2025年5月10日公開)
「借金=悪」というレトリックを批判し、国債と財政の本質に迫る。

「大好きな父が突如居なくなった事実を信じることも出来ません」 八潮陥没事故 …事故の真相:緊縮財政とB/C評価が招いた人災を暴く(2025年5月2日公開)
インフラ崩落事故を契機に、財務省主導の緊縮体質が人命・安全を犠牲にした事例を分析。

自公決裂なら〝自民大物ら〟60人落選危機 公明側「信頼関係は地 …(2023年5月公開)
維新と連携しての予算修正や政策動向を取り上げ、緊縮的財政運営に与党・維新が与えた影響を含む考察。

明確な定義なく「煽る」だけ…非論理的な財政破綻論者 不要な緊縮招く危険な存在(2018年6月13日公開)
危機を誇張するだけの財政破綻論を批判し、緊縮政策の危うさを警告。

2025年7月25日金曜日

減税と積極財政は国家を救う──歴史が語る“経済の常識”

まとめ
  • 減税と積極財政は矛盾しない。ともに有効需要を喚起する拡張的財政政策であり、状況に応じて併用されるべき常識的な手段である。
  • 「支出拡大=リベラル」「減税=保守」という二項対立は、通俗的な分類にすぎず、経済の実情を無視したレッテル貼りに過ぎない。
  • 江東新橋の事例は、国債を活用した復興と経済支援が、長期にわたり国民生活を支えることを示した歴史的証左である。
  • 高橋是清の判断と国債発行は、将来世代との負担の分担と経済成長を両立させた成功例であり、今なお政策の羅針盤となる。
  • 英国の国債のように、経済成長と適切な資金運用により、長期的な国家財政は十分に持続可能であることが世界の常識となっている。
  • ・減税と積極財政の両立は、もはや理論上の話ではなく、歴史と実例が裏付ける現実的な選択肢であり、保守派が担うべき責任ある経済政策である。

減税と積極財政は常識である

 
いま、保守派を中心に「減税」と「積極財政」を両立させるべきだというごく当たり前の主張が、語られるようになっている。財務省が長年掲げてきた緊縮路線は、支出拡大や減税に対して「破綻する」「将来世代にツケを回す」といった恐怖を煽るばかりで、実体経済の停滞の回復には無力だった。その結果、日本は「失われた30年」という長期低迷から抜け出せずにいる。

だが、参政党、国民民主党、日本保守党、さらには自民党内の保守系議員たちが掲げる「減税と積極財政の併用」は、世界標準のマクロ経済学に即した常識的な政策である。需要が不足しているとき、政府が支出や減税を通じて経済を刺激するのは当たり前の話だ。右か左かなどという話ではなく、ただの常識である。


しかし日本では、減税と積極財政は矛盾するかのように語られることが多い。たとえば「支出拡大はリベラル的」「減税は小さな政府を志向する保守的」といった、単純な二項対立に落とし込むレッテル貼りが横行してきた。これは実際、政治評論やメディア解説などにしばしば見られる通俗的な分類である。しかし、これはマクロ経済学の基本すら理解していない浅はかな見方だ。減税も支出も、有効需要を喚起するという意味で同じ拡張的財政政策に属する。経済の実情に応じて使い分ければいいだけの話である。

常識を証明した橋──江東新橋の教訓
 
このような「経済の常識」に、ようやく国民も気づき始めている。今回の参議院選挙では、減税と積極財政を堂々と掲げた新興勢力が一定の支持を得た。国民は、財政均衡信仰や官僚の刷り込みによる「常識風の非常識」に、もはや騙されてはいない。

この常識を象徴する実例が、東京・江東区にある江東新橋である。江東新橋は、1923年の関東大震災からの復興事業の一環として構想され、国債を財源として建設された鉄橋である。

当時、蔵相を務めていた高橋是清は、東京や横浜が関東大震災で壊滅した被害を目の前にして、税金だけで復興費を賄えば国民生活が立ちゆかなくなると判断し、即座に国債発行を決断した。こうして造られた頑丈な鉄橋のひとつが江東新橋だ。現在でいう積極財政を実行したのだ。

高橋是清

この橋は1945年の東京大空襲でも焼夷弾に耐え、避難路として機能した。10万人以上が犠牲になった大空襲の中で、この橋がなければ被害はさらに広がっていただろう。そして現在も、江東新橋は車両や人の往来を支え続け、テレビドラマにも登場する現役のインフラとして経済活動に貢献している。

もし当時、復興を積極財政ではなく緊縮財政の手法と言える税金で賄っていたらどうなっていただろうか。当時の日本は貧しく、重税は国民をさらに疲弊させたはずだ。たとえ橋が残っても、経済が死んでいれば橋の価値も半減していた。だからこそ、高橋是清の「国債で長期プロジェクトを行う」という判断は、現世代と将来世代の負担を分かち合う理にかなったものだった。

この成功体験は、のちの1930年代の積極財政政策にもつながっていく。江東新橋は、単なる橋ではない。国債で公共投資を行うことの意義を、歴史の中で証明し続けてきた生きた遺構である。

国債活用は歴史の証明済み
 
1815年6月18日ワーテルローの戦いでナポレオンはイギリスに敗北

同様の教訓は、イギリスの事例にも見られる。19世紀初頭、ナポレオン戦争の戦費を賄うために発行された英国の国債は、200年以上が経った今なお完済されていない。新たな国債で借り換えながら経済成長によって実質的な負担を軽減してきた。これもまた、「国の財政は家計とは違う」という基本を裏付ける歴史的証拠である。

大きな戦争を税金で賄うなど、古今東西どのような国でも聞いたことがない。そんなことをすれば、すぐに経済的に行き詰まり、戦争で勝つことはできなくなる。イギリスのようなやり方が望ましい。当時のイギリスが戦費を増是だけで賄ったとしたら、イギリスという国は今頃存在しなかったかもしれない。

そうして減税と積極財政の併用は、何ら突飛な政策ではない。減税は積極財政の一手法に過ぎない。積極財政は、国家を守り、人々の暮らしを支えるための、真っ当な常識である。保守派こそがこの世界の中で日本だけが狂っている常識を取り戻し、間違った観念で国家を毀損するのではなく、明るい未来への責任を持った政治を貫くべき時が来ている。

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2025年7月24日木曜日

イスラエル“金融制裁の核”を発動──イラン中央銀行テロ指定の衝撃と日本への波紋

 まとめ

  • イスラエルがイラン中央銀行を「テロ組織」に指定:国家の金融中枢を標的とした前例のない制裁であり、金融戦争の新段階に突入した。
  • 国際秩序を揺るがすリスク:国際合意を経ずに一国が制裁を発動したことで、他国による恣意的な金融制裁が拡大する恐れがある。
  • 専門家の警鐘:RUSIのジャック・ラウシュ氏や米財務省元高官スチュアート・レヴィ氏は、国際金融秩序の不安定化を強く懸念。
  • 日本への三つの波及リスク:①中東原油供給の不安定化、②金融機関の巻き添え制裁、③イラン進出企業への報復措置。
  • 政府の危機認識が問われる:この制裁は日本の国益に直結する問題であり、エネルギー・金融・外交の全方位的な対応が急務である。

中央銀行を“テロ組織”と断じた異例の決定
 
2025年6月25日、イスラエル政府はイラン中央銀行を「テロ組織」に指定した。国防大臣イスラエル・カッツ氏の署名によるもので、対象には中央銀行のほか、シャハル銀行、メッラト銀行、軍事関連企業Sepehr Energy Jahan、さらに複数のイラン高官が含まれる。これは単なる外交的な抗議ではない。国家の中枢を担う金融機関そのものを、テロの資金源と見なして制裁の対象にするという、かつてない決定である。

イスラエル側は、イラン中央銀行がヒズボラやハマスといった武装組織に数十億ドル規模の資金を提供していると非難し、「殺人者に金を流す装置だ」と断じた。イスラエルの諜報機関モサドおよび経済制裁専門チームの調査に基づき、この指定は金融を武器とする「通貨戦争(monetary warfare)」の一環として行われた。

イスラエル国防大臣イスラエル・カッツ氏

具体的な資金ルートも明らかにされている。メッラト銀行はイラン革命防衛隊(IRGC)の関連企業と連携し、資金をレバノン経由でヒズボラに流していたとされる。Sepehr Energy Jahanは、イエメンのフーシ派への燃料供給と引き換えに武器を提供し、その資金はドバイを経由し仮名口座を使って移動していたという。

イラン国内では即座に強い反発が起こった。外務省報道官は「これは経済戦争に名を借りた金融テロであり、国家主権への露骨な侵害だ」と非難。保守強硬派のメディアは「殉教の証」とまで呼び、サイバー攻撃や地域代理戦争による報復を訴える声が強まっている。
 
国際秩序を揺るがす“金融戦争”の始まり
 
この制裁は従来の経済制裁とは質が異なる。米欧がこれまで行ってきたのは、軍需産業や石油企業、あるいは核開発に関与した個人や団体への資産凍結や貿易制限であった。それに対し、今回は国家金融の心臓部たる中央銀行そのものが「テロ組織」と名指しされ、実質的に国家主権の否定に等しい措置が取られたのである。
この制裁は従来の経済制裁とは質が異なる。米欧がこれまで行ってきたのは、軍需産業や石油企業、あるいは核開発に関与した個人や団体への資産凍結や貿易制限であった。それに対し、今回は国家金融の心臓部たる中央銀行そのものが「テロ組織」と名指しされ、実質的に国家主権の否定に等しい措置が取られたのである。

さらに深刻なのは、この指定が国連安保理やFATFといった国際的な枠組みを経ず、イスラエル一国の判断で実行された点にある。これは、今後どの国がどの金融機関を“テロ支援機関”と見なしてもおかしくない、危険な前例となる。

英国のシンクタンク「RUSI(Royal United Services Institute)」の研究員ジャック・ラウシュ氏は、この指定を「国家の金融中枢へのピンポイント爆撃」だと形容したうえで、次のように警告している。
「この戦略が他国に波及すれば、経済的圧力の魅力と引き換えに、金融秩序の不安定化という代償を払うことになる」(Geopolitical Monitorより)
また、米財務省の初代テロ・金融情報局長スチュアート・A・レヴィ氏も、「中央銀行のような制度的存在をテロ組織に指定するのは極めて異例であり、SWIFT(国際決済網)を含む世界の金融システム全体に圧力をもたらす」と懸念を示している。
 
日本に突きつけられた三つのリスク
 
イラン(緑)と日本(オレンジ)

では、この事態は日本にとって他人事なのか。まったくそうではない。むしろ、地理的にも経済的にも日本はこの波に直撃される可能性がある。

第一に、エネルギー安全保障の問題だ。日本は原油輸入の9割近くを中東に依存している。イラン産原油の直接輸入は停止しているが、ホルムズ海峡周辺の不安定化や湾岸諸国の緊張激化は、原油価格の高騰や輸送ルートの混乱を引き起こしかねない。

第二に、国際金融インフラへの巻き添えリスクだ。日本のメガバンクもSWIFTやドル建て決済に深く依存している。今後、他国が中国や北朝鮮に対して類似の措置を取り始めた場合、日本の金融機関も「制裁協力」の名のもとに圧力を受け、業務制限や取引回避に追い込まれる恐れがある。

第三に、日本企業のイラン事業である。現在も60社以上がイラン市場に間接的に関与している。仮にイラン側が「テロ国家に協力した」として日本企業を名指しし、資産凍結や法的制裁を加えるような動きに出れば、日本企業の信頼と経済活動そのものが揺らぐ。

イスラエルのこの措置は、もはや中東だけの話ではない。世界経済と国際金融秩序、そして日本の国益に直結する問題だ。政府がこれを「遠い砂漠の出来事」と見なして傍観するようなら、あまりにも危機感が足りない。エネルギーの多角化、金融網の防衛、そして国際枠組みの強化。これらはもはや選択ではない。国家としての生存戦略である。

【関連記事】

トランプ政権、NATOと共同でパトリオット供与決定 米軍のイランへの抑止力強化 2025年7月
米国とNATOがイランに対抗するため地対空ミサイル「パトリオット」をウクライナに供与する動きを解説。中東の緊張が日本の防衛政策にも影響を及ぼす可能性を指摘。

トランプ氏の「イラン核開発阻止」戦略と中東情勢へのインパクトを解説。中国やロシアとの地政学的連動にも触れる。 

イスラエルによるイラン核施設攻撃の意味を考察。地域の緊張と報復の連鎖、日本への影響も示唆。 

シリア・ロシア・イランの関係を背景に、中東の秩序崩壊リスクを論じる。今回の金融制裁との関連も読み解ける。

日本のエネルギー安全保障に関する記事。中東依存を脱する選択肢として、アラスカLNG計画を解説。

2025年7月23日水曜日

「対中ファラ法」強化で中国の影響力を封じ込めろ──米国の世論はすでに“戦場”だ、日本は?

まとめ

  • 米国議会は2025年、中国共産党による影響工作を封じるため、FARA(外国代理人登録法)の対中強化法案を審議中。対象は外交官に限らず、親中ロビーやSNSインフルエンサーにも及ぶ。
  • 「チャイナ・デイリー事件」では、中国共産党が米大手紙に広告を装ってプロパガンダを掲載していた事実が発覚。これは合法を装った情報戦であり、FARA強化の契機となった。
  • 米保守派は同法案を高く評価しつつも、監視の恣意的運用や左派によるダブルスタンダード適用を警戒。透明性と公平な執行が課題とされる。
  • 日本ではFARAに相当する制度が未整備であり、参議院議員・神谷宗幣氏がその必要性を問う質問主意書を提出。日本政府は同様の制度が存在しないことを認めている。
  • 米国が情報主権確立に動き出す一方、日本は沈黙を続けており、主権と民主主義を守るためにも早急な制度整備が求められる。沈黙は最大の敗北であるとの警鐘が鳴らされている。

「対中ファラ法」強化で中国の影響力を封じ込め
 
米国の世論はすでに戦場になっている。2025年、米国議会で「対中ファラ法」の強化法案が帯上にのぼった。微細な法案に見えるかもしれないが、これこそが米中の情報戦における「ゲームチェンジャー」となりうる。

この法案がめざすのは、中国共産党が米国内で行ってきた世論工作、政治工作、情報操作などを、法的な手段を補うような形で展開している行為を、すべて登録・監視対象として、抜本的に封じ込めることである。FARA(外国代理人登録法)は1938年、ナチス・ドイツのプロパガンダ活動を抑止するために制定された。外国政府やその関係者が米国内で政治的影響を与えようとする際、その実態を司法省に登録し、透明化することを義務付けている。

広告を装った挟み込み紙「Chaina Watch」

今回の対中強化法案は、中国共産党に対してこのFARAを完全適用するための「特化型」改正案であり、単なる技術的改訂ではない。すでに米国は情報戦の壁内まで中国に入られており、それを明らかにしたのが「チャイナ・デイリー」による米大手新聞へのプロパガンダ紙の挟み込み事件である。広告を装ったこれらの挟み込み紙「Chaina Watch」は「一帯一路は平和の使者」「香港は安定している」といった中国寄りの主張を米国民に刷り込もうとするものだった。

この事件をきっかけに、米国議会はFARAの強化に本腰を入れ、その結晶として提案されたのが、2025年現在審議中の「対中特化型FARA」なのである。

保守派の支持と法案の持つ意義、日本への示唆
 
この法案は保守派から強く支持されている。中国共産党による情報工作の脅威に対して、ようやく法的な防波堤が築かれることになるからだ。一方で、過剰な監視や恣意的運用への懸念も提起されており、バランスの取れた運用が今後の鍵となる。

賛成党代表 神谷宗幣氏

そして、問題は日本である。日本にはFARAに相当する法制が存在せず、対抗措置が何ら講じられていない。この現状に一石を投じたのが、参議院議員・神谷宗幣氏である。令和4年10月、同氏は「日本においても、外国による不当な情報操作を防ぐため、米国の外国代理人登録法のような法制が必要ではないか」との質問主意書を提出。日本政府に対し、FARAやオーストラリアの外国影響力透明化法に相当する制度の検討履歴や、導入の必要性に関する見解を質した。

政府は、FARA相当の法律が日本に存在しないことを明言し、つまり現時点で我が国が中国の影響工作に対して完全に無防備であることが明らかになった。

米国が踏み出した第一歩──日本は沈黙を続けるのか
 
米国は今、自国の言論空間と主権を守るために、情報という戦場に法制度という武器を携えて挑もうとしている。これは単なる中国対策ではない。国家の生存戦略としての「情報防衛」であり、たとえ政権が代わっても揺るがぬ方針として、米国は情報主権の確立に向けて動き出している。

日本の大手新聞にも挟み込まれた、

一方、我々日本人はどうか。中国共産党との「情報戦」はすでに現実の脅威となっており、大学、自治体、政界、そしてメディアの中にまで、中国の影響力が静かに浸透している。にもかかわらず、日本ではFARA相当の制度がなく、行政も立法も本格的な対応を講じていない。情緒的な“反中”ではなく、冷静かつ制度的な対抗措置が必要だ。

今必要なのは、透明性と覚悟を持った実効的な法制度の整備である。米国が踏み出したこの一歩を、日本はただ眺めているだけでよいのか──沈黙こそ最大の敗北であることを、我々は深く自覚すべきだ。

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2025年7月22日火曜日

中国の情報戦は「戦争」だ──七月のSharePoint攻撃が突きつけた日本の脆弱性

まとめ
  • 中国政府系ハッカーによるサイバー攻撃が、MicrosoftのSharePointサーバーを標的に発生し、米欧だけでなく日本の自治体・企業にも被害が及んでいる。
  • 使用されたゼロデイ脆弱性(CVE-2025-53770)は未修正のまま悪用され、機密情報窃取と長期潜伏を可能にする国家的スパイ活動だった。
  • 日本国内では自治体の住民情報や大手企業の業務インフラが影響を受けており、被害はすでに現実のものとなっている。
  • 中国は「超限戦」理論と国家情報法に基づき、民間を装ったサイバー戦を展開しており、日本も通信・監視インフラ依存で同様のリスクに晒されつつある。
  • 「外国勢力」とうやむやにする
    時代は終わった。中国こそが主権とインフラを脅かす現実の脅威であり、日本は国家として明確な対抗姿勢と防衛体制を取るべきである。
     

中国系ハッカーによる国家レベルのサイバー攻撃が発覚
 
2025年7月、Microsoftの業務用サーバー「SharePoint Server(シェアポイント・サーバー)」が、中国政府とつながりのあるサイバー攻撃グループによって、大規模に侵害されていたことが明らかになった。この攻撃はアメリカやドイツをはじめ、複数の国の政府機関、企業、医療機関に深刻な被害をもたらした。日本国内でも、すでに複数の自治体や企業で被害の兆候が確認されている。

この攻撃を仕掛けたとされるのは、「ToolShell」と呼ばれるバックドア型マルウェアを使ったグループである。Google傘下のサイバーセキュリティ企業Mandiantは、初期の分析段階で「中国と関係のある国家支援型ハッカーが関与していた」と断定した。また、米AxiosやReutersも、Google脅威分析部門の情報を基に「中国政府系のアクターによる攻撃の可能性が高い」と報じている。
 
 
この攻撃は、単なる情報盗難を超えた国家的な諜報活動である。標的とされたのは、政府機関、大学、エネルギー関連企業などの重要インフラであり、攻撃の目的は機密情報の窃取だ。使用されたのは、CVE-2025-53770という未公開のゼロデイ脆弱性。SharePointサーバーへの不正アクセスが可能となり、攻撃者は暗号鍵を奪って正規通信を装いながら長期間にわたり潜伏。しかも、使われたインフラの一部は、過去に中国系スパイ集団が使っていたものと一致していた。

日本にもすでに被害──サイバー戦はすでに始まっている
 
日本でもすでに被害が出ている。関東のある自治体では、庁内システムに不正アクセスの痕跡が見つかり、住民情報や行政文書への接触履歴を調査中である。また、大手製造業では、SharePoint経由で社内サーバーが一時使用不能となり、海外子会社との契約調整や業務連携に混乱が生じた。これらは氷山の一角にすぎず、今後さらに被害が広がる可能性が高い。
 
 
忘れてはならないのは、この攻撃が偶然起きたものではないという点だ。中国共産党政権は「超限戦」という理論に基づき、軍事・経済・外交・サイバーとあらゆる手段を用いて国家間の影響力を拡大してきた。とくにサイバー空間では、技術や情報収集の遅れを補うため、他国の先端技術・軍事機密・インフラ構造を標的とした攻撃を繰り返してきた過去がある。

「民間任せでは国家は守れない」──日本が取るべき覚悟
 
さらに、中国の「国家情報法」によって、すべての中国人・中国企業は国家の命令に従って情報提供する義務を負っている。このため、たとえ民間企業が関与していたとしても、その背後に政府の指令があると考えるべきだ。HuaweiやTikTokが世界中で警戒されているのも、まさにこの構造があるからである。
 
 
加えて、中国は「デジタル一帯一路」と称して、アジアやアフリカ諸国に通信・監視インフラを輸出し、自国の情報統制モデルを海外に広げようとしている。日本でも、地方自治体やインフラ企業、教育機関が中国製のサービスに依存すれば、同様のリスクにさらされるのは時間の問題である。

今回のSharePoint攻撃は、ITの問題でも、企業の危機管理の失敗でもない。これは中国という全体主義国家が、日本を含む自由主義諸国の社会基盤にまで干渉し得る現実を突きつけた「警告」である。しかも、これは始まりにすぎない。次に狙われるのは、医療、交通、金融、通信といった、私たちの生活そのものである。

日本が今、取るべき道ははっきりしている。国家として情報インフラを守る覚悟を持ち、制度・技術の両面で防衛体制を整えること。そして、同盟国と連携し、中国のサイバー行動に対して明確な対抗姿勢をとることである。民間任せでは、もはや国家は守れない。

もはや「外国勢力」などと曖昧な言葉でごまかしてはならない。中国こそが、日本の情報インフラと主権に対する最大の脅威である。銃やミサイルではなく、「コード」と「サーバー」を武器にして、国家の内側へと侵入してくる――これが、いま目の前にある現実なのだ。

国を守るとは、サイバー空間を守ることでもある。その覚悟を、私たちは今こそ問われている。


🔍 関連記事:日本の安全保障を脅かす“サイバーの影”

今回のSharePointゼロデイ攻撃は決して孤立した事件ではありません。過去にも中国によるサイバー工作や技術流出事件が繰り返されてきました。以下の記事もあわせてお読みください。

🛡 あなたの一読が、日本を守る一歩に。

2025年7月21日月曜日

落選に終わった小野寺勝が切り拓いた「保守の選挙区戦」──地方から始まる政党の構図変化

 まとめ

  • 日本保守党は結党から2年足らずで衆参5議席を獲得し、比例だけでなく選挙区(北海道)にも挑戦。百田尚樹氏が参院比例で当選し、存在感を確立した。
  • 北海道選挙区で落選した小野寺勝氏は、保守党として初の地方区本格挑戦を果たし、国防やアイヌ政策を訴えて一定の得票を得るなど、今後に向けた布石となった。
  • 参政党は4~5年かけて勢力を拡大し、2025年参院選で8議席を獲得。だが、神谷宗幣氏は「参政党は保守ではない」と発言したとされ、保守党との立ち位置の違いが明確に。
  • 両党は急成長する一方で、飯山あかり氏や保守系雑誌など、同じ保守陣営からの批判にも直面してきた。
  • 日本保守党は明確な保守主義と党首の高い知名度を武器に、参政党は大衆政党としての浸透力で、それぞれ異なる方向から「新しい保守」の形を模索している。
百田尚樹の参院当選と日本保守党の異例の急成長
 

2025年7月21日、日本保守党代表の百田尚樹氏が、前日に投開票された参議院選挙の比例代表で当選した。同党からは弁護士・北村晴男氏がすでに当選しており、百田氏はこれに続く2人目の当選者となった。日本保守党にとって、これは参議院での初の議席獲得である。

百田氏はもともとテレビ放送作家として活躍し、「探偵!ナイトスクープ」などの人気番組を手がけた。50歳で作家デビューを果たすと、「永遠の0」でベストセラー作家となり、「海賊とよばれた男」では本屋大賞を受賞するなど、文壇でも強い存在感を示した。そんな百田氏が、ジャーナリストの有本香氏らとともに2023年10月に日本保守党を立ち上げたのは、自民党が左傾化する現状への明確な異議申し立てであった。翌2024年の衆議院選挙では、結党からわずか1年足らずで3議席を獲得し、今回の参院選ではさらに2議席を積み上げた。わずか2年も経たぬうちに、同党は衆参あわせて5議席を有する国政政党に成長したのである。

小野寺勝氏

また今回、日本保守党は比例区だけでなく選挙区にも初挑戦しており、北海道選挙区に立候補した小野寺勝氏の動きは注目に値する。落選こそしたものの、地方選出の新人としては異例の得票を記録し、保守党が地方区でも一定の存在感を示した初の事例となった。小野寺氏は国防・教育・アイヌ政策に関する問題を真正面から訴え、既存政党が触れようとしない論点を堂々と争点化。北海道という難しい選挙区で戦いながらも、党の全国的な支持拡大の「突破口」としての役割を果たしたといえる。

保守党と参政党──成長スピードと立ち位置の違い
 
参政党代表 神谷氏

この躍進は異例である。特に比較すべきは、2020年に結党された参政党だ。参政党は結党から2年後の2022年参院選で初の国政議席(比例1議席)を獲得。その後、2024年の衆院選で3議席、2025年6月には梅村みずほ議員が合流し、議員数は5名に達した。そして同年7月の参院選では、東京・茨城などの選挙区で初めて候補者が当選し、比例と合わせて計8議席を獲得。まさに急伸と言える結果である。

だが、ここで注目すべきは、両党の“成長の質”である。参政党が議席拡大までに4〜5年を要したのに対し、日本保守党はわずか2年足らずで衆参両院に足場を築いた。しかも、その原動力は党首自身の圧倒的知名度と発信力であった。

百田氏は、結党前から国民的知名度を有していた稀有な存在だ。作家としての成功に加え、言論活動を通じて保守層から圧倒的な支持を得ていたことが、党勢拡大を強く後押しした。一方、参政党の神谷宗幣氏は地方議員出身で、当初の知名度は限られていたが、YouTubeやオンライン講座などを駆使して地道に支持層を広げた。この点で両者は対照的である。

支持層の性質にも決定的な違いがある。日本保守党は、既存の自民党に失望した保守層、特に安倍晋三元首相の政治姿勢に共鳴する層を中心に支持を広げた。政策も伝統重視・国益重視が明確で、理念がぶれていない。一方、参政党は「反ワクチン」や「オーガニック志向」といった、保守・リベラルの枠組みを超えた主張を打ち出し、政治未経験層やスピリチュアル層にも広がりを見せた。

実際、神谷氏自身が「参政党にはリベラルな人もおり、参政党は保守ではない。保守は日本保守党に任せる」と語ったとされる発言が、SNS上などで注目を集めた。これは、参政党がイデオロギーにとらわれない保守も含めた大衆政党を目指している姿勢を示す一方で、日本保守党があくまで保守主義に軸足を置いているという違いを如実に浮かび上がらせる発言である。

支持と批判の狭間で──試される“保守の新興勢力”
 

もっとも、両党ともその急成長の裏で、同じ保守系の内側から厳しい視線を浴びてきた点は共通している。日本保守党に対しては、飯山あかり氏をはじめとする保守系評論家や、『Hanada』『WiLL』といった保守系メディアからの批判が相次ぎ、百田氏の言論姿勢や党の運営体制に疑問が呈された。一方、参政党もまた、結党当初から陰謀論的な主張やスピリチュアル色の濃い発信が、保守論壇から冷ややかに見られてきた。

つまり、両党はともに、既成政党に見切りをつけた有権者の受け皿となりながら、同時に保守陣営内部からの試練にもさらされてきたのである。その中で、日本保守党は知名度と明確な国家観を武器に、参政党は草の根運動と非主流層への共感を力に、それぞれ異なる道筋で台頭してきた。

今後、この二つの新興勢力が保守再編の中でどう存在感を強めていくのか。理念か大衆か、論戦か情念か──その行方は、日本政治の未来そのものを映す鏡となるだろう。

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理念の名を借りた利権構造──日本だけが暴走するLGBT政策の真実 2025年7月20日
なぜ日本だけが急ぐのか?
イギリスは性転換治療中止、台湾は現実重視。
「LGBT理解増進法」は本当に理解のため?それとも——
公金チューチューと理念の暴走、その実態を見よ。

ウェルズ・ファーゴ幹部も拘束──中国はビジネスマンを外交カードに使う。邦人が狙われても日本は動けない 2025年7月18日
ウェルズ・ファーゴ幹部の出国禁止とアステラス製薬邦人実刑。中国の“人質外交”が常態化する中、日本の無警戒が露呈している。

石破vs保守本流」勃発!自民党を揺るがす構造的党内抗争と参院選の衝撃シナリオ 2025年7月17日 
今回の参院選は、単なる政権の勢いを問うものではない。自民党という政党のあり方、その先にある国家の背骨を巡る構造的な転換点なのだ。

外国人問題が参院選で噴出──報じなかったメディアと読売新聞の“異変”、そして投票率操作の疑惑 2025年7月16日
参院選2025で「外国人問題」が大争点に!国民の怒りが噴出、メディアは沈黙?読売新聞が挑む「規制と共生」の議論。 あなたの1票が日本の未来を変える! 投票に行こう!

参政党・神谷宗幣の安全保障論:在日米軍依存の減少は現実的か?暴かれるドローンの落とし穴 2025年7月9日
神谷のビジョンは情熱的だが、情熱だけでは足りない。私が気づくようなドローンの落とし穴を放置し、専門家からも批判されるようでは、参政党の未来は危うい。

2025年7月20日日曜日

理念の名を借りた利権構造──日本だけが暴走するLGBT政策の真実

まとめ
  • 日本のLGBT理解増進法は、欧米諸国や台湾に比べても突出して急進的かつ拙速に導入されており、教育現場への影響が懸念されている。
  • 欧米では未成年の性転換治療に対する見直しが進んでおり、イギリスのタヴィストック・クリニック閉鎖やスウェーデン・フィンランドの方針転換がその象徴である。
  • 保守層は、この法律の裏に「公金チューチュー」的な利権構造が存在すると警戒しており、百田尚樹氏の日本保守党設立もこの危機感に基づく。
  • 台湾では「ジェンダーレス」ではなく「男女平等」を原則とし、実用性重視のトイレ制度(ポッティ・パリティ)など現実的な対応を取っている。
  • 今回の参院選に限らず、今後のすべての選挙で制度の中身と背後の利権構造を見抜く「有権者の目利き力」が問われている。

拙速すぎたLGBT理解増進法──日本だけが突出する危うさ
 
文部科学省は近年、「多様性の尊重」や「ジェンダー平等」といった理念を掲げ、教育現場に新たな指導方針を導入しつつある。これは単なる理念ではなく、具体的な制度としてすでに実行段階に入っている。令和4年12月には「生徒指導提要」が改訂され、性的指向や性自認に関する配慮が制服、更衣室、宿泊行事などに明記された。さらに令和5年6月、国会で「LGBT理解増進法」が成立。文科省は教職員の研修や相談体制の整備を全国の教育委員会に要請している。

だが、保守層からは「子どもへの過剰な性教育」「家庭の教育権の侵害」といった懸念の声が相次いでいる。こうした拙速な導入は、日本にとって決して無害ではない。欧米ではすでに、同様の流れが深刻な社会問題を引き起こしている。

イギリスでは、未成年への性別移行治療を行っていた「タヴィストック・クリニック」が2023年に閉鎖された。安易に思春期ブロッカーを処方し、後に後悔した若者たちが集団訴訟を起こしたことが引き金となった。スウェーデンでは2021年、カロリンスカ大学病院が18歳未満へのホルモン療法を原則中止。フィンランドも2020年、ガイドラインを改定し「心理的支援の優先」を明記した。

米フロリダ州では「教育現場での親の権利」により保護者の同意なく子どもに性自認を教えることを制限

アメリカでも連邦レベルでLGBT教育を義務づける法律は存在しない。各州に委ねられ、たとえばフロリダ州では2022年に成立した「Parental Rights in Education(いわゆる“Don’t Say Gay”法)」が、保護者の同意なく子どもに性自認を教えることを制限している。

アジアに目を向ければ、同性婚を合法化した台湾ですら、日本のような全国一律の「LGBT理解増進法」は存在しない。法整備は限定的で、教育現場への介入は見られない。日本は、世界でも例を見ないほど“理念先行”の道を突き進んでいるのだ。


理念の裏で進む利権構造──保守層が憂える「公金チューチュー」

 
このような制度の急進化に、保守派は強く反発している。作家の百田尚樹氏は、「この法律の成立は、自民党が左に大きく傾いた証だ」と断じ、LGBT理解増進法に対する危機感から日本保守党の設立を決意した。氏は「言論の自由を脅かす悪法」と位置づけ、その撤廃を訴えている。杉田水脈氏、小野田紀美氏といった議員たちも、法案の曖昧さや恣意的運用の危険性を早くから警告していた。

さらに深刻なのは、「理解増進」という名目のもとで進行している利権構造だ。実際、各自治体がLGBT関連の啓発事業を外部に委託し、その多くが特定のNPO法人などに流れている。印刷物の制作、講演活動、研修ビデオの配信といった表向きの活動の裏で、「予算獲得のための理念」が一人歩きしているのが実情である。

これは、かつての男女共同参画、慰安婦支援ビジネスと同じ構図だ。国民の税金が、特定の思想を推進する団体に流れ込む「公金チューチュー」の温床になりつつある。
 
台湾に学ぶ現実主義──理念より「誰が使うか」を考えよ

トイレ待ちの長蛇の列に並ぶ女性たち 東京駅 ジェンダーレストイレの前に女性トイレを増やすべきでは

「ジェンダーレストイレ」も、この問題の象徴的な事例である。美辞麗句だけで制度を語るのではなく、誰のための政策かを現実に即して考えなければならない。

台湾では、現在も一部に性別中立トイレが存在するが、その数は全国に約600か所とごくわずかで、男女別トイレは4万か所以上にのぼる。台湾は「ジェンダーレス」ではなく、「男女平等(gender equality)」を原則とし、2006年には女性用便器を男性の2倍以上にすることを定めたポッティ・パリティ(potty parity=トイレの平等)制度を導入した。これは理念ではなく、使用時間の統計や公共空間の利便性を根拠とした現実的な政策である。

また、多目的トイレや個室の設計で、トランスジェンダーや障害者に配慮する構造も整っている。要は、理念を掲げて対立を煽るのではなく、「誰もが不便なく使える空間」を目指すのが本来の公共設計なのだ。

選挙は未来への責任だ──すべての投票で問われる「目利き力」

いま問われているのは、「理念先行で作られた制度」が、現実社会にどれだけ歪みをもたらすかという視点である。スローガンに踊らされて税金を吸い上げられる構図に、我々はそろそろNOを突きつけるべきではないか。

今回の参議院選挙では、このような制度の実態と背景を見極め、どの候補がそれに対して明確なスタンスを示しているかを重視して投票すべきである。だが、それだけではない。今後の衆院選、地方選挙を含むすべての選挙で、この視点を失ってはならない。

理念の仮面をかぶった制度が、利権や思想の押しつけにすり替わる構図は、教育、福祉、文化、あらゆる分野で広がり得る。だからこそ、有権者には「中身を見抜く力」と「継続的な判断」が求められる。

未来は、表面的なキャッチコピーではなく、政策の背後にある実態を見抜いた者たちの手によって決まる。投票とは、その第一歩である。

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石破vs保守本流」勃発!自民党を揺るがす構造的党内抗争と参院選の衝撃シナリオ 2025年7月17日 
今回の参院選は、単なる政権の勢いを問うものではない。自民党という政党のあり方、その先にある国家の背骨を巡る構造的な転換点なのだ。

外国人問題が参院選で噴出──報じなかったメディアと読売新聞の“異変”、そして投票率操作の疑惑 2025年7月16日
参院選2025で「外国人問題」が大争点に!国民の怒りが噴出、メディアは沈黙?読売新聞が挑む「規制と共生」の議論。 あなたの1票が日本の未来を変える! 投票に行こう!

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2025年7月19日土曜日

トランプが挑む「報道しない自由」──黙殺されたエプスタイン事件が、司法の場で再び動き出す

まとめ
  • トランプ元大統領がWSJとマードック氏を名誉毀損で提訴し、記事にあった“エプスタイン宛ての裸婦カード”報道を完全否定。訴額は100億ドルに上る。
  • 訴訟の背後にはエプスタイン事件の全容解明があり、トランプは司法省に大陪審資料の全面開示を要求している。
  • エプスタインは政財界・王室・学術界など上級層との関係を持ち、性的虐待ネットワークとその隠蔽疑惑が未解決のまま。主流メディアは報道を回避している。
  • 訴訟は単なる名誉回復ではなく、“虚報メディアへの制裁”としての政治的意味を持ち、保守派の反撃の象徴となっている。
  • 日本の主要メディアはこの訴訟をほぼ無視しており、“報道しない自由”による黙殺がかえって事件の重大性を浮き彫りにしている。

トランプ、メディアとの全面戦争に打って出る

2025年7月、ドナルド・トランプ元大統領が、とその親会社ニューズ・コーポレーション、そしてメディア王ルパート・マードックを名誉毀損で提訴した。訴訟額は実に100億ドル(約1兆4千億円)にのぼる。


事の発端は、WSJが報じた一本の記事だった。そこでは、2003年にトランプ氏が故ジェフリー・エプスタイン宛てに、裸婦のイラストを添えたバースデーカードを送ったとされていた。メッセージには「秘密を共有しよう」と書かれていたという。だがトランプ氏はこれを全面否定し、「自分は絵など一度も描いたことがない」と明言。報道そのものが捏造であり、悪意に満ちた中傷だとして訴えに踏み切った。

同時にトランプ氏は、報道の根拠となった大陪審資料の全面公開を司法省に求めた。名誉回復という次元を超え、腐敗したメディア構造そのものにメスを入れようという、彼らしい強硬な姿勢が際立っている。
 
エプスタイン事件──なぜアメリカ最大のスキャンダルは黙殺されるのか

ジェフリー・エプスタイン

この訴訟の背景には、現代アメリカの深層に潜む「闇」がある。それがジェフリー・エプスタイン事件だ。

エプスタインは、ウォール街の金融業者であり、未成年者を標的とした性的虐待ネットワークを構築していた張本人である。2019年、性的人身売買容疑で逮捕された直後、ニューヨークの留置所で“自殺”したとされるが、その死にはあまりにも多くの不審点が残る。監視カメラの故障、監視員の不在、そして首の骨折。もはや偶然とは思えない。

エプスタインが保有していた「ブラックブック」には、ビル・クリントン元大統領、英国王室のアンドルー王子、ハーバード大学の要人、ハリウッドの大物など、名だたるエリートの名が並ぶ。彼らが訪れたとされるエプスタイン所有の“島”──リトル・セント・ジェームズ島では、未成年との性的行為が秘密裏に撮影されていたとの証言もある。それが「脅しの材料」として使われていた疑いは根強い。

にもかかわらず、アメリカの主流メディアは、この巨大スキャンダルをまともに追及しようとしない。理由は明白だ。関係者の多くが、リベラル・グローバリズムの中心に位置する人物たちだからである。メディア自身が、彼らの“仲間”だからである。

だからこそ、トランプは動いた。米国に真実を取り戻すために。今回の訴訟は、“隠蔽された国家的犯罪”の扉をこじ開けようとする一撃なのだ。 

報道の自由か、報道責任か──保守派の反撃が始まった

大陪審資料の開示は容易ではない。原則非公開とされており、例外的に裁判所の許可が必要だ。さらに公開されても、多くは黒塗りされる。しかし今回、トランプ陣営のパム・ボンディ元フロリダ州司法長官が正式に開示請求を行っており、法の壁を超える試みが現実のものになりつつある。


この訴訟が象徴しているのは、「報道の自由」と「報道の責任」のせめぎ合いだ。WSJを含め、アメリカの主流メディアは、ここ数年トランプに対して執拗なネガティブキャンペーンを繰り返してきた。公平性の仮面をかぶりながら、一方で民主党寄りの姿勢を隠そうともしない。その一線を、トランプはついに越えたのである。

すでに保守系団体による同様の名誉毀損訴訟は複数の州で相次いでいる。報道責任を軽視するメディアに対する“トランプ・ドクトリン”とも言うべき訴訟戦略が、全米に広がりつつあるのだ。

そして肝心の日本のメディアは、今回の訴訟をほとんど報じていない。沈黙は語る──彼らが「報道しない自由」を振りかざし、真実を見ようとしない姿勢が、かえってこの訴訟の意義を証明している。

誰も真実を語らぬなら、自らが語るしかない。トランプは今、米国の“報道”に鉄槌を下そうとしている。これは単なる個人の名誉訴訟ではない。アメリカの情報空間に、保守派が再び風穴を開けるための戦いなのだ。

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#トランプ訴訟 #エプスタイン事件 #WSJ #マードック #名誉毀損

2025年7月18日金曜日

ウェルズ・ファーゴ幹部も拘束──中国はビジネスマンを外交カードに使う。邦人が狙われても日本は動けない

まとめ
  • ウェルズ・ファーゴ幹部が中国で出国禁止措置を受けたが、過去の偽口座スキャンダルとは完全に無関係であり、政治的な外交圧力とみられる。
  • アステラス製薬の日本人幹部も2023年に中国で拘束・起訴され、証拠非開示のままスパイ罪で懲役3年6か月の判決を受けた。
  • 中国は外国人ビジネス関係者を「人質」として利用し、外交や経済交渉のカードにしている実態がある。
  • 日本政府の中国に対する渡航警告や危機対応体制は不十分で、企業や駐在員が守られていないのが現実である。
  • 経済安全保障を国家戦略の柱として位置づけ、邦人保護のための法整備と実行力を急ぐ必要がある。
米幹部拘束──“出国の自由”はもはや幻想か


2025年7月17日、米金融大手ウェルズ・ファーゴの女性幹部が、中国出張中に突如「出国禁止」措置を受けた。この人物は、アトランタ在勤のチェンユエ・マオ氏。同行の国際ファクタリング部門マネージング・ディレクターを務めるほか、国際業界団体「FCI」の会長職にもある要人である。

中国当局は、出国禁止の理由を一切明かしていない。本人にも通告はなく、事実上の“無言の拘束”だ。この措置は近年の中国で頻発している手法であり、外国企業の幹部が“外交カード”として扱われる現象は、もはや例外ではない。ウェルズ・ファーゴは即座に全中国出張を凍結し、マオ氏の安全確保と帰国に向けて動き出した。

だが皮肉なことに、この混乱の最中、同社は企業として大きな転機を迎えていた。2016年に発覚した「偽口座スキャンダル」では、数千人の営業担当者が、経営陣の過剰な営業ノルマのもと、顧客に無断で口座やクレジットカードを開設。被害総数は、銀行口座が約350万件、クレジットカードが56万件以上に及んだ。


この事件を受け、同行は30億ドル超の罰金を科され、当時のCEOが辞任。FRB(連邦準備制度理事会)からは資産拡大の凍結という異例の制裁を受けた。だが7年後の2025年6月、ついにFRBが制裁を解除。第2四半期決算でも業績は回復し、同社は「再成長」へと踏み出したばかりだった。

ここで強調しておかねばならないのは、この“出国禁止措置”と“偽口座スキャンダル”はまったく無関係だという事実だ。不正は米国内で行われ、中国企業や当局の関与は一切ない。米司法省やFRBの報告書にも、中国が絡んだ形跡は皆無である。時系列的にもスキャンダルは2016年、今回の拘束は2025年と、完全に切り離された出来事だ。したがって、これは過去の不祥事とは無関係な、別次元の“政治リスク”と見るべきである。

アステラス事件──「いつもの出張」が人生を奪う日


この問題は決してアメリカだけの話ではない。日本にも同様の火の粉は降りかかっている。2025年7月16日、中国・北京の中級人民法院は、アステラス製薬の日本人幹部に対し「スパイ罪」で懲役3年6か月の実刑判決を言い渡した。

この幹部は、2023年3月に突然拘束された。罪状の説明は一切なし。裁判は非公開で行われ、証拠の開示もないまま判決が下された。日本政府は繰り返し情報開示と釈放を求めたが、中国側は応じなかった。この人物は、日中経済交流の最前線で長年働いてきた企業人であり、スパイ活動とは無縁であることは、業界関係者の誰もが知るところだった。

だが、中国においては、善意も、実績も、現地貢献も通用しない。国家の都合ひとつで、誰もが“危険人物”にされる。それが今の中国という国家だ。そしてそのリスクは、実際に“現実の被害”として、日本国民にも及んでいる。

「守られない出張」は日本の国難である


2024年時点で、日本の対中投資額は約1兆5,000億円にのぼり、現地駐在員は3万人以上。だが、その安全を国家が担保しているかといえば、答えは否だ。外務省の中国渡航警告は依然として「レベル1(十分注意)」にとどまり、企業の出張マネジメントは各社任せ。拘束された際、政府が即応できる制度や予算、交渉の枠組みすら整っていない。

欧米諸国がすでに「経済安全保障」を外交戦略の柱に据えているのに対し、日本の対応はあまりに鈍い。このままでは、「海外に出すが、守れない」企業国家というレッテルを貼られかねない。もはや経済活動と安全保障は切り離せない時代だ。にもかかわらず、企業のリスク管理に“国家不在”の現実は、日本の根幹を揺るがす危機である。

ウェルズ・ファーゴ幹部の拘束。そしてアステラス製薬幹部への実刑判決。これらは偶然の出来事ではない。共通するのは、「ビジネスの顔をして接近し、外交の武器として人を拘束する」という中国の新たな常道だ。

この現実を前に、日本が「自己責任論」で済ませる余地など、どこにもない。国として、経済人を“守る意思”を明確にしなければならない。そしてそれは、外交辞令でも、安全保障三文書でもなく、法律と行動と予算によって示されるべきだ。

ビジネスと政治、自由と強制がねじれ合う世界において、我々はもう一度問い直す必要がある。国は誰を守るのか。自国民を守り抜くべきだ。明日は、自分の番かもしれないし、あなたの家族や会社の同僚かもしれないのだ。

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