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2022年6月28日火曜日

ウクライナ戦争の「ロシア敗北」が対中戦略となる―【私の論評】「ウクライナGDPロシア凌駕計画」を実行すれば、極めて効果的な対中戦略になる(゚д゚)!

ウクライナ戦争の「ロシア敗北」が対中戦略となる

岡崎研究所

 6月9日付のワシントン・ポスト紙(WP)に、同紙コラムニストのファリード・ザカリアが、「最善の対中戦略? ロシアを敗北させろ」と題する論説を寄せ、ウクライナ戦争でのロシアの敗北が中国に与える影響を論じている。


 ザカリアは、論説の冒頭で、バイデン大統領の次の言葉を引用した。「もしロシアにその行動に重い対価を払わせないならば、それは他の侵略国に彼らも領土を取得し、他国を従属させられるとのメッセージを送るだろう。それは他の平和的民主国の生き残りを危険にさらす。そしてそれは規則に基づく国際秩序の終りを意味し、世界全体に破局的結果をもたらす侵略行為に扉を開く」。

 その上で、論説の最後の方で、今、最善の対中戦略はロシアをウクライナで敗北させることであるとした。それは、ロシアを強く支持した習近平にとって、同盟国ロシアが敗北することは、自らの痛手ともなるからである。逆に、プーチンが生き残れば、習近平も、西側諸国は規則に基づく国際秩序を十分に守れなくなっていると思い、攻撃に出る危険も増すと述べる。

 ザカリアの論説は、良く考えられた的を射た論説である。

 ロシアのウクライナ戦争を失敗に終わらせること、ロシアがこの戦争で弱い国になってしまうことを確保することは、今後の世界情勢がどういうように発展していくかを決めると思われる。

 中国は、米国を主敵と考え、対米関係で対抗的姿勢をとっており、ロシアのウクライナ戦争を非難していない。経済制裁によるロシアの苦境を和らげるように、欧州が輸入することをやめようとしている石油を買っている。

 中国は、ロシアへの武器供与はしていないようであるが、それ以外には総じてロシアと協力的関係を維持している。習近平が個人的にもプーチンを支持しているからであろう。

 ロシアの侵攻前、2月4日、北京五輪開会式の日に行われた習近平とプーチン会談で、プーチンがウクライナ侵攻計画を習近平に話したかどうかについては、断言できない。在ウクライナ・中国大使館は侵攻まで、首都から退避する措置を何らとらなかったからである。

求められる日本の不退転の姿勢

 今はウクライナでのロシアの敗北は、中国に大きな影響を与える。

 ザカリアがロシアのウクライナでの敗北を確実にすることが対中戦略上も決定的重要性を持つというのはその通りであろう。ロシアは衰退しているが、衰退する大国は危険でもあることを第一次世界大戦のオーストリア・ハンガリー帝国を例に指摘しているのもその通りだろう。

 日本は、南を中国、北はロシアと国境を接している。かつて安倍晋三政権時代、日本は、対中戦略において、ロシアと接近することも必要だとした。

 それは、冷戦時代に米国が対ソビエト戦略において中国と接近したのと似ている。しかし、ウクライナへのロシアの侵攻や北朝鮮のミサイル発射に対する中露の協力的姿勢を目の前にした今日、もはや、そのやり方は通用しないことがわかった。

 日本にとっては、より厳しい国際環境にあるが、自国の国防力を強化するとともに、日米同盟の緊密化、さらに価値観を共有する友好国と共に、より協力して行動することが必要だろう。

【私の論評】「ウクライナGDPロシア凌駕計画」を実行すれば、極めて効果的な対中戦略になる(゚д゚)!

ファリード・ザカリアが、「最善の対中戦略? ロシアを敗北させろ」 という主張には、賛成できる面もありますが、賛成できない面もあります。まずは、どの程度の敗北を想定しているのかはっきりしていない点があります。

無論私自信も、ロシアは敗北させるのは当然のこととは思っています。ただ、どこまで敗北させられるかは未知数の部分もあります。そもそも、ロシアはウクライナに攻め込んでいますが、ロシア自体はウクライナに攻め込まれているわけではありません。また、ウクライナが攻め込むつもりもないでしょう。


また、NATO諸国もロシアがNATO諸国のいずれかの国が侵攻されない限り、ロシアを直接攻撃したり、ロシア領に侵攻することはしないでしょう。

そうなると、ロシアが戦争に負けても、最悪ウクライナから引き上げるだけということになるでしょう。ロシアのモスクワを含む一部の地域にでもNATO等が侵攻していれば、それこそ、第一次世界大戦のドイツに対するような過酷な制裁を課することができるかもしれません。

しかし、ウクライナ戦争の戦後は、そのようなことはできません。ロシアを敗北させるには、限界があるということです。

であれば、敗北させたり、制裁を課したりするだけではなく、他の手立てを考えるべきだと思います。

それは、人口4400万人のウクライナの一人あたりのGDP(4,828ドル、ロシアは約1万ドル) を引き上げ、人口1億4千万人のロシアよりGDPを遥かに大きくすることです。現在ロシアのGDPは韓国を若干下回る程度です。

韓国の人口は、5178万ですから、一人あたりのGDPで韓国を多少上回ることで、ウクライナのGDPはロシアを上回ることになります。

そうして、その条件は揃いつつあると思います。まずは、戦争が終了した場合、西側諸国の支援のもとに復興がはじまります。ロシアは戦争に負けても、ウクライナに賠償金支払うつもりは全くないでしょうが、西側諸国が凍結したロシアの私産をすべてウクライナ復興にあてることになるでしょう。

あれだけ国土が痛めつけられたわけですから、これを復興するということになれば、それだけで経済活動はかなり盛んになるはずです。日本も第二次世界大戦では甚大な被害を受けましたが、凄まじい速度で復興しました。インフラが破壊されたということは、別の面からみると、効率が良く、費用対効果が高いインフラに取り替えることができるということです。

さらに、ウクライナはITなども進んでいますから、爆発的な成長が期待できます。軍需産業も存在しますから、軍需と民間の両方で経済を牽引することができるでしょう。

ただ、戦後復興が終了した後に、さらに経済を大きくしようとすれば、西欧諸国なみの民主化は避けて通れないでしょう。実際このブログで過去に紹介したように、経済発展と民主化は不可分です。その記事のリンクを以下に掲載します。
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詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下に一部を引用します。
G20の状況をまとめると、高所得国はもともとG7諸国とオーストラリアであった。それに1万ドルの壁を破った韓国、サウジ。残りは中所得国で、1万ドルの壁に跳ね返されたアルゼンチン、ブラジル、メキシコ、ロシア、南アフリカ、トルコの6ヶ国、まだそれに至らないインドとインドネシア。それに1万ドルになったと思われる中国だ。

さらに、世界銀行のデータにより2000年以降20年間の一人当たりGDPの平均を算出し、上の民主主義指数を組み合わせてみると、面白い。中所得国の罠がきちんとデータにでている。
民主主義指数が6程度以下の国・地域は、一人当たりGDPは1万ドルにほとんど達しない。ただし、その例外が10ヶ国ある。その内訳は、カタール、UAEなどの産油国8ヶ国と、シンガポールと香港だ。

ここでシンガポールと香港の民主主義指数はそれぞれ、6.03と5.57だ。民主主義指数6というのは、メキシコなどと同じ程度で、民主主義国としてはギリギリだ。

もっとも、民主主義指数6を超えると、一人当たりGDPは民主主義度に応じて伸びる。一人当たりGDPが1万ドル超の国で、一人当たりGDPと民主主義指数の相関係数は0.71と高い。

さて、中国の一人当たりGDPはようやく1万ドル程度になったので、これからどうなるか。中国の民主主義指数は2.27なので、6にはほど遠く、今の程度のGDPを20年間も維持できる確率はかなり低い。
現状のロシアの一人あたりのGDPは、中国と同程度の1万ドル前後です。中国の人口は14億人で丁度ロシアの人口の十倍なので、国単位では中国のGDPはロシアの十倍になっていますが、両国とも、バルト三国や台湾よりも一人あたりのGDPは低いのです。

どうして民主化が経済発展に結びつくのかに関してはの論考は、ここで述べると長くなってしまうので、下の記事を参考にしてください。
【日本の解き方】中国共産党100年の功罪と今後 経済世界2位に成長させたが…一党独裁では長期的に停滞へ―【私の論評】中国も、他の発展途上国と同じく中所得国の罠から抜け出せないワケ(゚д゚)!
戦後復興後にウクライナが民主化に取り組み西側諸国のようになれば、 一人あたりのGDPがロシアをはるかに上回るのは、さほど難しいことではないでしょう。

それに、最近ウクライナが本格的に民主化する可能性が高まってきました。それは、ウクライナのEU加盟の可能性です。


ウクライナにとり欧州連合(EU)加盟は念願である一方、EU基準に程遠い制度や体質が改善されず実現は夢のまた夢でした。候補国として一歩を踏み出せた意義は大きいです。ロシアの侵略に対する欧米の「支援疲れ」も叫ばれる中、勇気づけられたことでしょう。

ロシアとの関係を断ち切りたいウクライナにとって、EU加盟で域内諸国との人、物、金の移動が自由になればメリットは大きいです。各国との通商がより活発になり、企業誘致やEUからの助成金も見込めます。外交上もロシアに対抗する後ろ盾ができ、国力の底上げにつながります。

ただ、今回の動きがロシアの侵略で大勢の命が失われた結果であることも忘れてはならないです。EU加盟には法の支配や人権など多くの項目でEU基準をクリアする必要があります。ウクライナは加盟に向けて国内法や規制を変更してきたが、それでも候補国になれていなかったのが実情です。

新興財閥(オリガルヒ)が政権と癒着する、裁判官や検察官の試験に賄賂で合格する、大学教授が授業の単位を金で売るなど、ウクライナは有数の汚職国家といわれてきました。

親露派政権が倒れてクリミア半島が占領された2014年以降、国家汚職対策局を設置するなど汚職排除に努めたましたが、いまだになくならないです。基準があいまいな汚職対策をEUがどう評価するかが、加盟に向けたポイントになります。

EU加盟は社会が変わるということです。汚職や腐敗体質が浸透しているウクライナは、急激な変化が生む負の側面も想定しておかなくてはならないです。

通常、加盟手続きには10年前後かかります。EUも1カ国を特別扱いするわけにいかず、他の候補国よりも先に加盟することはないです。道のりは長いですが、西側諸国の全面的支援もあります。焦らずに課題を着実に解決すれば加盟が早まる可能性もゼロではないです。

そうして、ウクライナがEU諸国並に民主化できれば、さらに経済発展する可能性が高いです。過去の汚職や腐敗にまみれてきた、ウクライナが社会を変えることは難しいかもしれませんが、それでも、民主化してロシアのGDPをはるかに凌駕することを目指すべきです。

そうして、日本のかつての池田内閣の「所得倍増計画」のように、「ウクライナGDPロシア凌駕計画」などと公言したうえで、実際にそれを達成すれば、より効果的でしょう。

また、ウクライナならそれも可能です。すでに一人あたりのGDPがロシアのそれを上回っているバルト三国の人口は、三国合わせても619万人です。これでは、バルト三国全体をあわせても、ロシアのGDPを上回るのは至難の技です。

台湾も一人あたりのGDPでは、中国を上回っていますが、台湾の人口は、2357万人であり、バルト三国などよりは大きいですが、台湾が中国のGDPを上回るのは到底不可能です。

ウクライナは戦争前のロシアのGDPを上回る可能性が十分あります。そうして、もしそうなったとすれば、これはとてつもないことになります。ウクライナは軍事にも力をいれるでしょうから、軍事費でも、経済的にもロシアを上回る大国が東ヨーロッパのロシアのすぐ隣にできあがることになります。

その頃には、ロシアの経済は疲弊して、ウクライナのほうが存在感を増すことになるでしょう。そうして、ロシアのウクライナに対する影響力はほとんどなくなるでしょうしょう。実際、日本でも1960年代の高度経済成長の頃から、当時のソ連の影響は日本国内ではほとんどなくなりました。これを見る中国は、武力侵攻は割に合わないどころか、経済的にも軍事的にも疲弊しとんでもないことになることを思い知るでしょう。

それどころか、ロシアの国民は繁栄する一方のウクライナに比較して没落する一方のロシアの現状に不満を抱くようになるでしょう。ロシア人以外の民族で構成さているロシア連邦国内の共和国などでは独立運動が再燃するかもしれません。

実際、ウクライナが大国になれば、多くの国がウクライナと交易してともに従来より栄えるようになるでしょう。ロシアの経済の停滞を補う以上のことが期待できます。ウクライナがNATO入る入らないは別にして、安全保証ではロシアの前にウクライナが控えているという事実が安心感を与えることになるでしょう。

また、ウクライナ戦争中に西欧諸国から支援を受けたウクライナは、その期待に答えようとするでしょう。

もし大国になったウクライナがNATOに加盟すれば、ロシアはパニック状態になるでしょう。それは、中国も驚愕させることになるでしょう。

日本としては、戦災・震災の復興の経験を生かし、ウクライナに対して資金援助だけではなく、様々なノウハウを提供すべきでしょう。さらには、ロシアに侵攻される直前のウクライナは日本にも似た状況にあったことから、復興し経済成長したウクライナのあり方は、日本にとっても非常に参考になります。

日本は、自らも学ぶという姿勢でウクライナに支援すべきでしょう。

ただし、先程も述べたように、ウクライナが西洋諸国なみの民主化を実現しなければ、これは絵に描いた餅で終わることになります。

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2022年6月25日土曜日

太平洋関与へ5カ国連携 日米豪などグループ設立―【私の論評】グループ結成は南太平洋の島嶼国に札束攻勢をかけ、駆け引きを強める中国を牽制するため(゚д゚)!

太平洋関与へ5カ国連携 日米豪などグループ設立

 米国、日本、オーストラリア、ニュージーランドと英国は24日、太平洋地域への関与強化に向けた協力枠組み「青い太平洋におけるパートナー(PBP)」を立ち上げた。米ホワイトハウスが発表した。太平洋の島嶼(とうしょ)国などを民主主義の5カ国が連携して支援。中国への対抗を念頭に、ルールに基づく自由で開かれた地域秩序を後押しする。

 5カ国はPBPを通じ、気候変動や海洋安全保障など地域各国が抱える課題の解決に協力し、外交的な関与を強化する。中国が南太平洋のソロモン諸島と協定を結ぶなど、海洋進出を強めており、地域諸国が過度に中国に傾斜するのを防ぐ狙いもある。

ホワイトハウス

 ホワイトハウスは声明で「太平洋地域の繁栄と強靭(きょうじん)性、安全を支え続ける」と表明し、5カ国の協力強化の重要性を強調した。

 米政府によると、5カ国の高官が23、24両日、米首都ワシントンで太平洋諸国の代表団と会合を開いた。会合にはフランス、欧州連合(EU)もオブザーバー参加した。会合を受けて24日に立ち上げたPBPについて「包摂的で非公式なメカニズム」と位置付けた。

 PBPは「地域主義や主権、透明性、説明責任」を重視するとした。会合では運輸や海洋保護、保健衛生、教育分野も議論した。

 米国の太平洋関与をめぐっては、国家安全保障会議(NSC)のキャンベル・インド太平洋調整官が23日の講演で、多国間で開放的な「太平洋の地域主義」を支えると表明していた。

 バイデン米大統領が5月下旬に訪日した際には、日米豪印4カ国の協力枠組み「クアッド」の首脳会合が開かれ、違法漁業を取り締まる新たな仕組みの発足で合意した。中国漁船による乱獲が一部で問題視されていた。

【私の論評】グループ結成は南太平洋の島嶼国に札束攻勢をかけ、駆け引きを強める中国を牽制するため(゚д゚)!

米国家安全保障会議(NSC)報道官は4月19日、NSCのキャンベル・インド太平洋調整官らが同月18日にホノルルで、日本やオーストラリア、ニュージーランド(NZ)の政府高官と会談し、中国が南太平洋の島国ソロモン諸島と締結した安全保障協定について、懸念を共有したと発表しました。

キャンベル・インド太平洋調整官

安保協定をめぐっては、ソロモンでの中国の軍事拠点構築につながるとして、米国や豪州、NZが警戒を強めていました。中国外務省の汪文斌・副報道局長は19日の記者会見で、協定に最近、署名したと発表した。ソロモン側は沈黙していましたが、ロイター通信によると、ソロモンのソガバレ首相も現地時間の20日、国会で追及され、両国外相が協定に調印していたと認めました。

これに先立ち、NSC報道担当官は19日、中国・ソロモン安保協定は「透明性に欠け、性格も不明だ」と懸念を表明しました。地域との協議もほとんどない状態で中国が協定締結を進めたと非難した上で、「この地域との強固な関係に対する米国の関与が変わることはない」と述べ、引き続きソロモンなどとの関係強化を図っていく考えを示しました。

その後中国は、南太平洋を中心にした10カ国との安全保障協定の締結を提案しましたが、反対意見が出て合意に至りませんでした。

ミクロネシアのデイヴィッド・パニュエロ大統領は、中国と南太平洋を中心にした10カ国との外相会議に先立ち、周辺国に書簡を送り、「協定案への反対」を表明していたといいます。

オーストラリアの公共放送ABCによると、中国の王毅国務委員兼外相は先月 30日、訪問先のフィジーで開いた外相会議で、安全保障や警察、貿易、データ通信で協力する新たな協定案を示しました。

習氏も「中国と太平洋島嶼(とうしょ)国の運命共同体を構築したい」という書簡を寄せていたのですが、一部の国の合意を得られず提案をいったん棚上げしました。

フィジーのジョサイア・ヴォレンゲ・バイニマラマ首相兼外相は会議後の記者会見で、「これまで通り、各国のコンセンサスを最優先する」と述べました。10カ国すべての賛同が得られていないことを示唆しました。


中国外務省の趙立堅報道官は30日、「各国はより多くの共通認識に達することを目指して努力することに同意した」と語りました。今後も協議を継続する意向を示したかたちですが、現実には簡単ではありません。

南太平洋の島嶼国をめぐっては、中国と西側諸国の駆け引きが続いています。

中国は4月にソロモン諸島と、安全保障協力に関する2国間の協定を締結しました。ソロモン政府が要請すれば中国が海軍艦艇を寄港させたり、軍の部隊や警察を派遣したりできる内容です。

これに対し、日本や米国、オーストラリアは「中国の軍事拠点化につながりかねない」と懸念しています。

バイデン氏は訪日中の先月23日、インド太平洋地域で台頭する中国に対抗する、新たな経済圏構想「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」の発足を宣言しました。フィジーはIPEFへの参加を明らかにしています。

こうしたなか、米国は台湾シフトを強化しています。

ダックワース上院議員が率いる訪問団が先月30日、台湾入りしましまた。蔡英文総統らと31日にも会談しインド太平洋地域の安全保障や経済貿易関係について、話し合いました。

米大使館のSNSによると、ダックワース氏は米陸軍のパイロットとして勤務中の2004年、ヘリの墜落で両脚を失った「イラク戦争の英雄」です。

ダックスワーク氏(左)の表敬訪問を受けた蔡英文相当(右)

米台接近に、中国は軍事的威嚇を仕掛けてきました。

台湾国防部は30日、中国軍の戦闘機「殲16」や早期警戒機「空警500」など軍用機計30機が同日、台湾南西部の防空識別圏(ADIZ)に進入したと発表しました。

南太平洋は、台湾有事の際に、米国とオーストラリアの海軍艦船が通過する重要な地域です。中国はこれを阻止するため、軍事拠点化を狙っていまます。

米国もIPEFで、太平洋島嶼国を自由主義圏の枠組みに入れ、軍事、経済両面でつなぎ留める考えです。今回の協定合意失敗は、中国にブレーキがかかったかたちで、習氏の焦りにつながるでしょう。

ダックワース議員は、アジアや軍事問題にも精通し、民主党内でも影響力もあります。バイデン政権と議会が一致しているという米国意思を示すもので、連動した動きです。中国は今後、島嶼国に札束攻勢をかけ、駆け引きは強まるでしょう。警戒を緩めるべきでないです。

だかこそ、今回米国、日本、オーストラリア、ニュージーランドと英国は太平洋地域への関与強化に向けた協力枠組み「青い太平洋におけるパートナー(PBP)」を立ち上げたのです。

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2022年6月17日金曜日

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「一帯一路」に〝亀裂〟参加国が続々反旗 スリランカが債務不履行、各国が借金漬けに 親ロシア、東欧地域も戦略失敗で高まる反中感情

4月にスリランカで起きた反政府デモ

 中国外交が敗北を重ねている。南太平洋の島嶼(とうしょ)国との安全保障協力で合意に失敗したほか、巨大経済圏構想「一帯一路」でも、スリランカが事実上の債務不履行(デフォルト)となるなど各国が借金漬けだ。さらにロシアのウクライナ侵攻で欧州でも反中感情が高まる。習近平国家主席は「中華帝国の偉大な夢」を抱くが、「脱中国」が加速しているのが現実のようだ。

 「強固だった関係が壊れている」と語ったのは、スリランカで先月、新首相に就任したウィクラマシンハ氏だ。

 同国ではラジャパクサ大統領らが港湾開発などを中国企業と進める方針を示すなど、親中外交を進めてきたが、4月に対外債務の支払い停止を発表した。一帯一路の拠点として実施してきたインフラ整備のために背負った借金がふくらみ、財政難に陥ったことも一因とみられる。

 これまでも一帯一路の参加国がインフラ開発費用の返済に窮すと、中国が戦略的施設の長期使用権などの要求を突き付ける「債務の罠」が警戒されてきた。

 中国からユーラシア大陸を経由して欧州へと続く一帯一路構想のほぼ中央に位置するパキスタンでは、中露関係を重視したカーン前政権が高インフレや通貨安による経済危機で4月に失脚した。シャリフ新首相も親中姿勢だが、経済再建をめぐる政情不安が続く。

 米シンクタンク、世界開発センター(CGD)は18年の時点で、一帯一路のインフラ投資計画があったパキスタンやモルディブ、ジブチ、ラオス、モンゴル、モンテネグロ、タジキスタン、キルギスの8カ国について債務問題に懸念があるとのリポートを公表していたが、すでに現実のものとなっている。

 中国事情に詳しい評論家の宮崎正弘氏は「中国はパキスタンの政情不安を背景に一帯一路の要衝だったグワダル港を諦め、最大都市カラチに港湾整備を移した。モルディブも親中派大統領の失脚でインドが勢力下に収めた。次にスリランカで大統領打倒の動きになれば、中国には大きなショックだ」とみる。

 こうした状況を受けて、中国の王毅国務委員兼外相が今月8日、カザフスタンで開かれた中央アジア5カ国との外相会議に出席し、一帯一路への協力強化で一致するなど関係維持に躍起だ。

 アジア圏だけでなく、欧州でも一帯一路に危機が生じている。きっかけの一つがロシアのウクライナ侵攻だ。

 そもそもウクライナは中国と関係が良好で、一帯一路の拠点でもあった。しかし、ロシアの侵攻後、中国と欧州を結ぶ国際貨物列車「中欧班列」もウクライナを経由する便は運航停止となった。欧州の貨物輸送大手企業も相次いで中欧班列関連の受け付けを停止している。

 モスクワを経由する便は運行が続いており、中国国営のラジオ放送局「中国国際放送」(日本語電子版)は、中欧班列は4月に1170本運行し、3月と比べて36本増加したと伝えた。中国外務省の汪文斌報道官が「中国の強靱(きょうじん)性と責任を負う姿勢が示され、世界に力や自信を伝えた」と自信をみせたという。

 しかし、鉄道網の主要な拠点で、中国IT大手ファーウェイ(華為技術)の地域本部もあるポーランドでは、「プーチン大統領を支持した中国を非難するウクライナ難民であふれかえっている」とロイター通信は指摘。「東欧地域における中国の戦略はさらに傷ついている」と報じた。

 評論家の石平氏は「中国が一帯一路を守りたいのならば欧州と足並みをそろえるべきだった。ロシアの肩を持ったことで自ら拠点を破壊するに等しい矛盾した外交となった。アジアの取り込みにも失敗し、欧州からも反感を買うなど、習氏の外交上の失敗がまた一つ加わることになった」と語った。

【私の論評】自国民一人ひとりを豊かにできない中国が「一帯一路」を成功させる見込みはない(゚д゚)!

一帯一路構想を手短にふりかえっておきます。2013年、習近平国家主席は「シルクロード経済ベルト」構想を打ち上げ、2014年にそれを海洋方面と合体して「一帯一路」構想としました。これは、当時中国の広げた大風呂敷であると感じられたものです。

しかし当時中国は08年のリーマン危機を乗り切って自信満々。しかも、合計4兆元(約60兆円)の内需拡大が一段落し、閑古鳥の鳴いていた中国国内の素材・建設企業は「一帯一路での国外の事業」に活路を見いだしました。政府各省は一帯一路の美名の下、予算・資金枠獲得競争に狂奔しました。


ただ、当初からこの一大事業が成功するのかどうかは、疑いを目をもってみられていました。そもそも、一帯一路構想は、中国内ではインフラ投資が一巡し、国内には当面優良案件が期待的図、このままだと中国経済は先細りになることが予想されたため、今度は海外を標的にして投資をしようというものとしか受け取れませんでしたが、特にユーラシアには、採算性がとれるような案件はありませんでした。

そもそも巨大な海外投資の経験がない中国にこのような大事業ができるのかどうか疑問でした。そもそも、海外投資において成功するには、自国より経済成長をしている国や地域に投資するのが基本中の基本です。

そのような案件は、滅多におめにかかれるものではないし、私は当初からこれは失敗すると踏んでいました。

ところが一帯一路上にある途上諸国は、イタリアやギリシャに至るまでもろ手を挙げて大歓迎しました。かつての日本のような、「見境なく貸してくれる金持ちのアジア人」がまた現れたのです。ただ、かつての日本は採算性を重視した手堅い投資を行いました。見境なく見えたにしても、たとえ貧困国であっても経済成長率が著しいところに投資しました。

そうして中国のカネ、そしてヒトはアフリカ、中南米にまで入り込み、融資総額は13~18年の5年間で900億ドルを超えました。受益国の政治家・役人たちは、この資金で港湾施設やハイウエーを建設してもらって大威張りし、一部は自分のポケットにも入れたことでしょう。

ところが、中国の投資は案件の採算性や住民の利益を考えていないですから、返済は滞るし、受益国の政権が交代すると前政権の手掛けた中国との案件はひっくり返されたりしました。

それに、中国国内の状況も変わりました。4兆元の内需拡大策は諸方で不良債権を膨らませたため、債権回収が大きな関心事になったのです。

そういうわけで、「中央アジア経由で中国と欧州を結ぶ鉄道新線」「新疆からパキスタンを南下してインド洋と結ぶハイウエー」など、多くの構想は掛け声だけで進みません。ロシア経由の東西の鉄道での物流も、安価な海上輸送に歯が立ちません。

あれだけ騒がれたアジアインフラ投資銀行(AIIB)も、19年末の融資残高はわずか22億ドルで日米主導のアジア開発銀行(ADB)の年間平均60億ドルの融資に及ひません。こうして「一帯一路」の呪文の威力は薄れてきました。

2月9日、習は中欧・東欧17カ国の首脳とテレビ会議を行ったのですが、バルト3国、ルーマニア、ブルガリアは首脳が欠席。閣僚で済ませたのです。国連などで中国が、外交において途上国の支持を取り付けるのも難しくなるでしょう。友人に金を貸せば、友情は失われるのです。

中東欧といえば、このブログでも中国の影響力が薄れつつあることを掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
中東欧が台湾への接近を推し進める―【私の論評】中国が政治・経済の両面において強い影響力を誇った時代は、徐々に終わりを告げようとしている(゚д゚)!

詳細は、この記事をご覧いただくもとして以下に一部を引用します。 

米ソ冷戦終結後の民主主義指数(Index of Democracy)と一人当たりGDPの伸びの関係を見ると(下図)、旧東側陣営で一人当たりGDPの伸びが最も高かったのは、共産党による一党独裁の政治体制の下で1986年に「ドイモイ(刷新)路線」を宣言し、市場経済を導入したベトナムでした。

ソ連崩壊とほぼ同時に共産党政権が崩壊し民主化を進めた中東欧諸国の一人当たりGDPを見ると、水準という観点では民主化が後退したロシアやCIS諸国を上回っている国が多いものの、伸び率という観点では大きな差異が見られません。

そして、CISを中途脱退し民主化を進めたウクライナ(2004年にオレンジ革命、2018年にCIS脱退)やジョージア(2003年にバラ革命、2009年にCIS脱退)の伸びは低迷しています。

ただ、一般にいえるのは、民主化が進んでいる国のほうが、一人当たりGDPが高いというのは事実です。これは高橋洋一氏がグラフにまとめており、これは当ブログにも掲載したことがあります。下に再掲します。
一人あたりGDP 1万ドル超と民主主義指数の相関係数は0.71 。これは社会現象の統計としてはかななり相関関係が強い
世界各国地域の一人当たりGDPのトップ30を見ると、米国は約6.3万ドルで世界第9位、西側に属した日本は約3.9万ドルで第26位、同じくドイツは第18位、フランスは第21位、英国は第22位、イタリアは第27位、カナダも第20位と、米ソ冷戦で資本主義陣営(西側)に属した主要先進国(G7)はすべて30位以内にランクインしています。

一方、米ソ冷戦で共産主義陣営(東側)の盟主だったロシアは約1.1万ドルで第65位、東側に属していたハンガリーは約1.6万ドルで第54位、ポーランドは約1.5万ドルで第59位とランク外に甘んじている。また、世界第2位の経済大国である中国は約9,600ドルで第72位に位置しており、人口が13億人を超える巨大なインドも約2,000ドルで第144位に留まっています。

中国は人口が多いので、国全体ではGDPは世界第二位ですが、一人あたりということになると未だこの程度なのです。このような国が、他国の国民を豊かにするノウハウがあるかといえば、はっきり言えば皆無でしょう。

そもそも、中国が「一帯一路」で投資するのを中東欧諸国が歓迎していたのは、多くの国民がそれにより豊かになることを望んでいたからでしょう。

一方中国には、そのようなノウハウは最初からなく、共産党幹部とそれに追随する一部の富裕層だけが儲かるノウハウを持っているだけです。中共はそれで自分たちが成功してきたので、中東欧の幹部たちもそれを提供してやれば、良いと考えたのでしょうが、それがそもそも大誤算です。中東欧諸国が失望するのも、最初から時間の問題だったと思います。 

バルト三国よりも、一人当たりGDPでは、中国のほうが低いのです。ルーマニアは一人あたりGDPでは1万ドル台と、中国と大差はありません。ブルガリアですら、中国よりは低いですが、それでも9千ドル台であり、中国と大差はありません。

そこに国際投資のノウハウがない中国が投資したからといって、バルト三国や、ルーマニア、ブルガリアが 栄えて国民一人ひとりが豊かになるということは考えられません。

スリランカのような貧困国の港をとったにしても、軍事的にはある程度意味があるかもしれませんが、経済的には無意味です。目立った産業もないスリランカの港を得たとしても、そこでどれほどの交易が行われるかといえば、微々たるものでしょう。わざわざ、スリランカに荷物をおろしたり、スリランカから大量に物品を運ぶ船もないでしょう。やはり近くのシンガポールを使うでしょう。

ところが、これで中国の外交そのものが退潮するわけではないでしょう。米国への当て馬としての「中国」への需要はなくならないからです。

バイデン米政権も、政治・軍事・先端技術面での中国への圧力は強めていますが、通常の貿易は妨げていません。今年1~2月も中国の対米輸出は対前年同期で伸び続け、貿易黒字も1月だけで390億ドルになっています。中国は対米黒字を元手に、また小切手外交を強化できます。

しかし、それでも一帯一路が、習近平が思い描いた元の姿で復活することはないでしょう。

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2022年5月28日土曜日

中国の申し入れ「受け入れられず」 日本大使館が反論、クアッド巡り―【私の論評】中国がインド太平洋で新たな枠組みを作っても大きな脅威にはならないが、習に勘違いだけはさせるな(゚д゚)!

中国の申し入れ「受け入れられず」 日本大使館が反論、クアッド巡り

 日米豪印首脳会合に臨む(左から)オーストラリアのアルバニージー首相、バイデン米大統領、
 岸田文雄首相、インドのモディ首相=24日午前、首相官邸

 中国外務省は24日、東京で開かれた日米首脳会談や日米豪印による協力枠組み「クアッド」首脳会合で中国に関する後ろ向きで間違った言動があったとして、日本側に厳正な申し入れを行い強烈な不満と重大な懸念を表明したと発表した。北京の日本大使館は「中国側の申し入れは受け入れられないと反論した」と25日未明に公表した。

 中国外務省アジア局長が24日夜、日本の駐中国特命全権公使を呼び出した。

 日本側は「一方的な中国側の行動に対して懸念を表明し、適切な行動を強く求めた」と明らかにした。また中国とロシアの爆撃機が24日に日本周辺を共同飛行したことに対し重大な懸念も伝えた。中国側は「正常な活動で、どの国も対象にしていない」と応じたという。

【私の論評】中国がインド太平洋で新たな枠組みを作っても大きな脅威にはならないが、習に勘違いだけはさせるな(゚д゚)!

今回のQuadの共同声明に対する、中国側の発言は、日本に対する「内政干渉」以外の何ものでもなく、日本側の駐中国特命全権公使が、上記のような反応をしたのは当然のことです。

それに、この共同声明では中国を名指しもしていませんでした。なかったのは問題だと思います。また、クアッドの枠組みができてから数年経ちます。そろそろNATOのような、安全保障の枠組みに具体的に進めるべきです。このままでは形式的なもので終わる恐れもあります。

にもかかわらず、これに対して中国がなぜこのような反応を示すのでしょうか。

それは、中国がQuadがいずれNATOのような軍事同盟になることを恐れているからでしょう。一方で中国は、バイデン大統領が日本に来てからの一連の動きや、台湾問題も含めて、クアッドに対しては神経を使っています。 

中国は、バイデン大統領の台湾問題に対する発言に関して、中国はそれほど激しく反応しませんでしたが、クアッド首脳会合の開催当日にロシアと爆撃機の共同飛行をしたり、日本大使館に対して異議を申し立てるなど、かなり過剰に反応しています。クアッドという枠組みがNATO的な軍事連携に発展していくことを、中国が恐れているからです。

中国と共同飛行した爆撃機と同型のロシアのTU95爆撃機

中国は、以前は日本を見下していました。実際に、1994 年中国の当時の李鵬首相が、オーストラリアを訪問した時に、当時の オーストラリアのジョン・ハワード首相に向かって 「い まの日本の繁栄は一時的なものであだ花です。 その繁栄を創ってきた世代の日本人がもう すぐこの世からいなくなりますから、20 年もしたら国として存在していないのではないで しょうか。 中国か韓国、 あるいは朝鮮の属国にでもなっているかもしれません」 という 発言をしました。 

ところが安倍政権が誕生して以降、気がつけば日本が中国包囲網の中心になっていたのです。 
安倍総理大臣が「自由で開かれたインド太平洋戦略」を2016年8月の第6回アフリカ開発会議(TICADVI)の場で提唱してから5年以上が経過し、アジア太平洋からインド洋を経て中東・アフリカに至るインド太平洋地域において、法の支配に基づく自由で開かれた海洋秩序を実現することの重要性が、国際社会で広く共有されてきています。

当時の安倍首相がこの構想を出したとき、中国はほとんど気にしていませんでした。しかし、その枠組みが目の前にでき上がってしまったということが、彼らの誤算でした。しかも「AUKUS(オーカス)」、「ファイブ・アイズ」という2つ枠組みがあり、アジアのなかでは日本だけが枠組みの一部に入るような事態も招いたともいえます。

しかし、習近平政権がこの数年間、戦狼外交や覇権主義戦略を進めた結果、このようなことを招いてしまったということに彼らは気が付いていなようです。

 そもそもわずか数年前まではオーストラリアもインドも、中国との関係は悪くありませんでした。 中国は戦狼外交や覇権主義戦略を進めてしまったのために、インドもオーストラリアも、自分たちの方から敵に回してしまったのです。クアッドができ上がったいちばんの功労者は習近平といえるかもしれません。

米戦略問題研究所(CSIS)の上級顧問であるエドワード・ルトワック氏は、著書『ラストエンペラー 習近平』の中で「大国は小国に勝てない」と主張しています。この論理の重要な点は、「1対1では戦わない」という点です。

1対1では大国が勝利するのは当然です。片方が大国の場合、周辺諸国は、次は自分かも知れないと恐怖を感じ小国に肩入れするであろうことから、大国が目的を達することが難しくなるという理屈です。理屈としては理解しても、実際の国際情勢ではどうだろうかという疑問があらりましたが、まさにその通りの状況が展開されています。それは、中国と台湾の関係です。

習近平政権がこの数年間、戦狼外交や覇権主義戦略を進めた結果、当の台湾がこれを脅威に感じ、周辺諸国の日本、オーストラリア、インドが台湾に肩入れするようになったのです。それ以外の英米等もそうするようになったのです。

最近では、オーストラリアは政権が変わりました。労働党になっても、中国に対しての反応は変わりはないようです。 新たな首相が就任してからクアッドに参加しています。オーストラリアの新首相が就任してすぐに、李克強首相が祝電を送ったのですが、何の反応も示していません。

ただ、インド太平洋地域には、懸念材料もあります。

中国の王毅外相は、4月に安全保障協定を締結した南太平洋のソロモン諸島を訪問し、両国関係を強化し「中国と島しょ国との協力の手本にしたい」と強調しました。

王毅外相は今月26日、8カ国歴訪の最初の訪問国となるソロモン諸島でソガバレ首相らと会談し「ソロモン諸島の主権と安全、領土保全を断固支持する」と述べ、「できる限りのあらゆる支援を行う」とアピールしました。

また、マネレ外相との会談では両国関係を「中国と島しょ国との協力の手本にしたい」と強調し、ソロモンとの協力関係を他の南太平洋の島しょ国にも広げる考えを示しました。「中国の軍事基地を建設する意図はない」と強調しました。また、協定はソロモン諸島の治安能力を高めるのが目的で、他の国と対抗するためのものではないと説明しました。

ソガバレ首相は中国国営テレビのインタビューで、安全保障協定は暴動鎮圧などのためで基地建設の意思はなく、中国側からも提案はないと強調しました。

周辺国などからの中国の軍事拠点化が進むとの懸念をあえて否定した形です。

ソガバレ首相はまた、「一つの中国」原則を堅持すると述べ、台湾問題で中国政府の立場を指示する姿勢を示しました。


オーストラリアやインドが中国から離れて、クアッドやAUKUSもできました。中国はそれに対抗する新たな枠組みをつくらなければなりません。しかし、ついてくる国が少ないので、結局、中国の経済援助なしでは成り立たないような国々を束ねて対抗することになります。

中国の経済援助なしで成り立たない国々というところに注目していただきたいです。中国がいくら大国になったからといって、一人あたりのGDPは未だに10000ドル前後(日本円で約100万円前後)です。その中国がクアッドなどに対抗するために新たな枠組みを作るのには限界があります。

これについては、以前もこのブログで述べたことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
ソロモン諸島、中国が治安支援 警察関係者受け入れ―【私の論評】一人ひとりの国民が豊かになるために、ソロモン諸島は、民主的な道を歩むべき(゚д゚)!

ソロモン諸島の海岸

中国は、国全体では、GDPは世界第二といわれていますが、個人ベース(個人所得≒一人あたりのGDP)ではこの程度(10000ドル、日本円で100万円程度) です。そのため、以前このブログで中東欧諸国と中国の関係に関して述べたように、中国が、他国の国民を豊かにするノウハウがあるかといえば、はっきり言えば皆無なのです。
そもそも、中国が「一帯一路」で投資するのを中東欧諸国が歓迎していたのは、多くの国民がそれにより豊かになることを望んでいたからでしょう。

一方中国には、そのようなノウハウは最初からなく、共産党幹部とそれに追随する一部の富裕層だけが儲かるノウハウを持っているだけです。中共はそれで自分たちが成功してきたので、中東欧の幹部たちもそれを提供してやれば、良いと考えたのでしょうが、それがそもそも大誤算です。中東欧諸国が失望するのも、最初から時間の問題だったと思います。

ただ、中国は独裁者やそれに追随する一部の富裕層が儲けるノウハウを持っているのは確かであり、ソロモン諸島の為政者が、独裁者となり自分とこれに追随する富裕層が大儲けするという道を選ぶ可能性はあります。

ただ、一人ひとりの国民が豊かになる道を選びたいなら、やはり民主的な国家を目指すべきです。その場合は、急速に民主化をすすめた台湾が参考になります。このブログにも何回か掲載したように、先進国が豊かになったのは、民主化をすすめたからです。民主化をすすめなかった国は、たとえ経済発展しても、10000万ドル前後あたりで頭打ちになります。これは、中進国の罠と呼ばれています。

Quadが今より軍事的な色合いを深めたり、日豪印などが、NATOに加入するようなことがあったとすれば、中国もソロモン諸島などと構築する枠組みを軍事的なものにして、ソロモン諸島に中国の軍事基地をつくるかもしれません。

しかし、考えてみてください。Quadに比較すれば、中国がたとえこれに対抗するするためにインド太平洋で新たな枠組みを作ったとします。それにいくつかの国が加入するかもしれません。たとえば、仏領ニューカレドニアが独立して、この枠組みに参加するかもしれません。しかし、ニューカレドニアの一人あたりのGDPは中国を超えており、東欧諸国がそうであったように、結局中国からはなれていくことでしょう。

そうして、残るは一人あたりのGDPが10000万ドル前後以下の貧乏国にばかりになります。これはロシアなど旧ソ連6カ国でつくる軍事同盟「集団安全保障条約機構」(CSTO)に所属している国々を想起させます。これらの国々の首脳会議が16日、モスクワで開かれました。

ザシ事務局長によると、ロシアのプーチン大統領がウクライナ侵攻について説明したのですが、CSTOの侵攻への参加は議論されなかったといいます。同盟強化を目指すロシアに対し、加盟国間の思惑の違いも取りざたされており、ロシアの孤立が浮き彫りになりました。

ちなみに、CSTOの加盟国はロシア、ベラルーシ、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、アルメニアです。これらの国々の共通点は、ロシアも含めて一人あたりのGDPが10000万ドル前後よりも低いということです。ロシアだけが、10,126.72ドルですが、それにしてもこれからは、これを下回ることはあっても伸びる見込みはありません。

結局貧乏国の集まりでは、いざ戦争になってすら、協力することすらままならないですし、したくてもできないというのが本音でしょう。中国の新たな枠組みもそういうことになるでしょう。有利な点としては、国連などの国際会議の決議で、貧乏国であっても、国連加盟国であれば投票する権利があり、一票の重みとしては大国とは変わらないというくらいなものです。

ロシアの人口は1億4千万人であり、中国の人口はその10倍の14億人です。ただ、人口が10倍なので、国単位としてのGDPでは中国はロシアの10倍です。ロシアは国単位では、GDPは韓国や東京都なみです。

ただ一人あたりのGDPでは、ロシアも中国も10000ドル(100万円)台なので、両国とも一人ひとりの国民を豊かにするノウハウなど持ち合わせていません。

中国が仮に、Quadに対抗できるような新たな枠組みを作ったにしても、CSTOくらいのものしか作れません。

しかし、中国は、先に述べたように、習近平政権がこの数年間、戦狼外交や覇権主義戦略を進めた結果、このようなことを招いてしまったということに彼らは気が付いていなようです。

であれば、中国が何らかの新しい枠組みをつくれば、Quadに対抗できるると思い込む可能性はあります。その挙げ句の果に、プーチンのように、勘違いして、NATOに対抗するためにウクライナに侵攻すれば、短期間で制圧できると思い込んだように、中国も勘違いし、台湾などを含むインド太平洋地域の国々に侵攻しないという保証はありません。

そうなっても、結局習近平は、プーチンが明らかにウクライナで失敗したように、インド太平洋で簡単に軍事作戦を遂行しても具体的な成果をあげることはできないでしょう。結局失敗するでしょう。

それに、ソ連は中東欧諸国まで衛星国や属国にしていたことはありますが、中国はインド太平洋地域全域を一度たりともそのようにしたことはありません。台湾に関しても、清朝が一時的に統治したことがあるのみです。

ムスリム系出身の鄭和がインド太平洋地域に大航海をしたという記録がありますが、それは古代の話ですし、鄭和艦隊は後のヨーロッパ人による大航海時代とは対照的に、基本的には平和的な修好と通商を目的とし、到着した土地で軍事行動を起こすことはあまりありませんでした。

中国がインド太平洋地域に侵攻する大義は、ほとんどありません。現代の中国が、これらの地域に武力攻撃を行えば、ロシアのウクライナ侵攻と同じく、国際法違反になるのは間違いありません。しかし、南シナ海を実行支配したことを国際司法裁判所で不当なものと判決されても、中国はそれを無視しました。

習近平が誇大妄想に陥りこの地域で軍事作戦を遂行すれば、取り返しはつきません。結局その中国のその試みは失敗する可能性が高いですが、甚大な被害を受ける国がでてくる可能性は否定できません。それが日本ではないという確実な保証もありません。

このようなことは絶対避けるべきです。そのためにも、Quadは、これからも習近平にプーチンのような勘違いをさせないように、緊密に連携し、中国に対応していくべきですし、ロシアのウクライナ侵攻に対しては、習近平に勘違いさせないためにも、厳しい対処を継続すべきです。


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2022年5月16日月曜日

英は「自由で開かれたインド太平洋」の良きパートナー―【私の論評】日本は、ロシアはウクライナだけではなく北方領土からも撤退すべきと主張すべき(゚д゚)!

英は「自由で開かれたインド太平洋」の良きパートナー

岡崎研究所

 英国のトラス外相は4月27日、ロンドン市長官邸で『地政学の復帰(The return of geopolitics)』と題する講演を行い、ロシアによるウクライナ侵略を受け、これまでの自由主義陣営のアプローチが失敗したことを率直に認め、侵略者に対抗する自由主義陣営の取り組みを再活性化することを説いている。


 演説は、北大西洋条約機構(NATO)の集団防衛の強化など、広範な内容を含むが、ここでは、インド太平洋に関連する部分を中心に、主要点を下記の通りご紹介する。

・われわれは、新しいアプローチを必要としている。それは、強固な安全保障と経済的安全保障を融合させ、より強固なグローバルな同盟関係を構築し、自由主義国家がより積極的で自信に満ち、地政学を認識するものだ。

・われわれは、欧州大西洋の安全保障かインド太平洋の安全保障かという誤った選択を拒絶する。現代の世界では双方とも必要だ。

・われわれは、日豪のような同盟国と協力して、インド太平洋における脅威に先手を打ち、太平洋地域を確実に守る必要がある。台湾のような民主主義国が自衛できるようにしなければならない。

・自由貿易はルールに則って行われなければならない。グローバル経済にアクセスできるか否かは、ルールを守っているか否かによるべきだ。(ウクライナを侵略したロシアへの経済制裁により)われわれは、経済的アクセスが自明のものではないことを示している。

・各国はルールに従って行動しなければならない。これには中国も含まれる。

・中国の台頭は不可避ではない。ルールに従って行動しなければ、中国の台頭は続かない。

・中国は主要7カ国(G7)との貿易を必要としている。G7は世界経済の半分を占めている。我々には選択肢がある。われわれは、国際的なルールが破られた時に、どのような選択をする用意があるかを、ロシアの事例で示した。短期的な経済的利益よりも安全保障と主権の尊重を優先する用意があることも示した。

・わずかな「のけ者」を除き、世界のほとんどが主権を尊重しており、われわれは新旧の同盟国や友邦との協力を緊密化している。同様の積極的なアプローチは、ライバルを抑制し、繁栄と安全保障の強力な推進力となり得る。それゆえ、われわれはインドやインドネシアなどとの自由貿易協定や環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定(CPTPP、TPP11)への参加など、新たな貿易リンクを築いている。

・悪意のあるアクターが多国間機関を弱体化させようとしている世界では、二国間および複数国間グループがより大きな役割を果たす。NATO、G7、英連邦などのパートナーシップは不可欠だ。

・われわれは、英国主導の「合同遠征軍」、ファイブ・アイズ、米豪とのAUKUSパートナーシップといった世界中の他の関係とともに、NATO同盟を強化し続けるべきである。そして、日本、インド、インドネシアなどの国々との関係を深化させ続けることを望んでいる。

(出典:‘The return of geopolitics: Foreign Secretary's Mansion House speech at the Lord Mayor's 2022 Easter Banquet’, Liz Truss, GOV.UK, April 27)

*   *   *   *   *   *   *

 トラス外相のロジックは明快で、自由主義国家がより積極的に行動し、経済および安全保障のパートナーシップによるネットワークを通じて、自由と民主主義が強化され、侵略者が封じ込められるような、ルールに基づく世界を目指している。そのために、軍事力、経済安全保障、グローバルな連携の深化を3つの柱に据えている。演説の内容は、もとより日本としても賛同できるものである。
 
 トラス外相は、その文脈において、インド太平洋地域では中国がルールを破っているとして、厳しい警告を発している。特に、守るべき民主国家として台湾の名を挙げていることは、強いメッセージと言える。

日本が掲げる「自由で開かれたインド太平洋」にも合致

 英国は既に、米英豪の安全保障枠組み「AUKUS(オーカス)」に参加し、日本とも安全保障協力を進め、インド太平洋に空母打撃軍を含む艦隊を派遣し、インド太平洋地域で合同軍事演習に数多く参加し、TPP11への参加も申請するなど、インド太平洋におけるプレゼンスを強めてきた。ただ、ロシアによるウクライナ侵略を受け、英国はインド太平洋に手が回らない、あるいは手を伸ばし過ぎるべきではない、という意見も見られる。

 トラス外相の演説は、こうした意見への反論としても意味が大きいと思われる。ルールに基づいた国際秩序維持の観点からも、地政学的観点からも、英国がインド太平洋におけるプレゼンスを弱めるとは想定しがたい。

 英国の方針は、日本が掲げる「自由で開かれたインド太平洋」とも合致しており、英国は心強いパートナーである。トラス外相の演説の後、5月5日に英国で行われた日英首脳会談においても、岸田文雄首相とジョンソン首相は、「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向け日英が緊密に連携していくことを改めて確認した。

 首脳会談では、自衛隊と英国軍の共同運用・演習の際の両者の法的地位や手続き等を定めた「日英円滑化協定」の署名を急ぐことでも合意した。日英間で結ばれれば、日本にとっては同盟国である米国は別として、豪州に次ぎ2国目の円滑化協定となり、日英防衛協力の深化の象徴となろう。

【私の論評】日本は、ロシアはウクライナだけではなく北方領土からも撤退すべきと主張すべき(゚д゚)!

4月27日、ロンドン市長官邸で講演を行ったリズ・トラスト英国外相

英国のリズ・トラス外相は27日の『地政学の復帰(The return of geopolitics)』の講演で、ロシアに対しては、ロシア軍を「ウクライナ全土から」押し出さなければならないと発言しました。ウクライナの勝利は西側諸国にとって「戦略的急務」となっていると語りました。

英国はこれまで、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領のウクライナ侵攻を「失敗させ、そう見せる必要がある」と述べるにとどまっていました。この日のトラスト氏の発言は、ウクライナでの戦争をめぐる英国の目標を、これまでで最も明確に示したものといえます。

トラス外相は、西側の同盟諸国はウクライナへの支援を「倍増」しなくてはならないと強調。「ロシアをウクライナ全土から押し出すために、これまで以上に、より早く行動し続ける」と述べました。

これは、ロシア軍について、2月24日の侵攻開始以降に占領した地域だけでなく、南部クリミアや東部ドンバス地域の一部など8年前に併合した地域からも撤退すべきとの考えを示唆したものとみられます

侵攻開始から1カ月の節目に、ロシアはその目的を「ドンバスの解放」と位置付けました。ここでいうドンバスとは主に、ウクライナのルハンスクとドネツクの両州を指しています。

これらの地域の3分の1以上はすでに、2014年に始まった紛争で親ロシア派の武装組織が制圧しています。


トラス氏の野心的な目標は、全ての西側諸国と共有されているわけではありません。武力によってであれ交渉によってであれ、達成は難しいとの懸念があるためです。

フランスやドイツの政府関係者からは、戦争の目的を明確にすればロシアを挑発するリスクがあるという慎重な声も出ています。それらの関係者は、ウクライナ防衛という表現に絡めて話をすることを好んでいます。

トラス外相の発言は、目標を高く設定することで、ウクライナが今後、交渉の場に立った際に、政治的和解についてより有利に立てるようにしたいという西側諸国の思いを反映しています。

トラス外相はまた、西側諸国は「経済的影響力」を使って、ロシアを西側の市場から排除すべきだと述べました。

上の記事にもあるとおり「グローバル経済へのアクセスは、ルールにのっとっているかで決められるべきだ」とトラス氏は指摘しました。

最大野党・労働党のデイヴィッド・ラミー影の外相は27日、トラス氏の演説は、保守党政府の10年超にわたる防衛・安全保障政策の「失敗を認めたように思える」と指摘しました。

トラス氏は演説の中で、西側諸国はロシアのさらなる侵攻を防ぐための対策を講じるべきだと訴えました。

これには防衛費の増額も含まれるとし、北大西洋条約機構(NATO)が各国の拠出目標として設定している国内総生産(GDP)2%という数値は「上限ではなく下限と見るべきだ」と述べました。

さらに、ロシアから脅威を受けている国々に対する武器供与にも積極的な姿勢を示しました。

「ウクライナだけでなく、西バルカン諸国やモルドヴァ、ジョージアといった国々が、主権と自由を維持する耐久力と能力を持てるようにするべきだ」

また、スウェーデンやフィンランドがNATO加盟を選んだ場合には「迅速に統合させることが必要だ」と述べました。

「ウクライナの戦争は我々の戦争、全員の戦争だ。ウクライナの勝利は、我々全員の戦略的急務になっているからだ」

「重火器、戦車、戦闘機……倉庫の奥まで探し回って、生産能力を高める必要がある。そのすべてをする必要がある」

「私たちは慢心できない。ウクライナの運命はまだ拮抗(きっこう)している。はっきりさせておきたいのは、もしプーチン大統領が成功すれば欧州全体に甚大な悲劇が起こり、世界中に恐ろしい影響が出るということだ」

トラスト外相の講演が行われたロンドン市長公宅マンションハウス

プーチン大統領は27日、ウクライナに介入する国は「電光石火」の対応に直面することになると警告しました。

議会での演説でプーチン氏は、「我々にはあらゆる手段がある。(中略)我々はそれを鼻にかけるのではなく、必要に応じて使用する」と述べました。

プーチン氏の言う「手段」は、弾道ミサイルや核兵器を指しているとみられます。

ただ、英国は核保有国でもあります。ロシアにとっては英国を刺激することは得策ではないのは明らかですが、プーチンがわざわざこのような発言をするということは、かなり追い詰められているとみて間違いないでしょう。

ロシア軍について、2月24日の侵攻開始以降に占領した地域だけでなく、南部クリミアや東部ドンバス地域の一部など8年前に併合した地域からも撤退すべきとのトラスト外相の発言は、プーチンにとってはかなりショッキングなものだったようです。

日本もロシアに対しては、英国なみの対応をすべきでしょう。特に日本はG7では唯一ロシアとの間に領土問題を抱えている国です。しかも、ロシアにより不当に占拠されているのです。

日本としては、ロシア軍について、2月24日の侵攻開始以降に占領した地域だけでなく、南部クリミアや東部ドンバス地域の一部など8年前に併合した地域からも撤退はもとより、北方領土からも撤退すべきと主張すべきでしょう。

そうして、これは全くあり得ない話ではありません。このブログでも以前も指摘したように、ロシアのウクライナ侵攻は日本が北方領土をとりもどす機会にもなり得るのです。

今回のロシアのウクライナ侵攻に対する西側諸国などによる制裁などで、プーチン政権が窮地に陥り、状況が一変する可能性があります。今後、プーチン政権が崩壊すればロシア各地で分離独立運動が激しくなり、ロシア連邦は多数の国家に分割されるでしょう。

そうなった時、北方領土に住む約2万人のロシア人、ウクライナ人(ソ連邦時代に移り住んだ人が多い)島民は食料品などの生活必需品の調達もままならず、孤立状態に陥ることが予想されます。その後は日本に支援を求めてくる可能性が極めて高いです。 

日本が人道支援名目で北方領土に介入すれば、ロシア人、ウクライナ人島民は日本の支援なしで生活できなくなります。“ロシア離れ”が進んだ島民たちによる住民投票で独立宣言がなされれば、あとは独立した北方領土を日本が受け入れるかたちで返還が実現する可能性があります。

経済制裁の影響ですでに北方領土に住むロシア人の生活が破綻寸前であり、この返還シナリオは決して机上の空論ではありません。ただ、日本にとってはただ黙って棚ぼたのように戻ってくるのと、日本がロシアは撤退すべきと主張した上で戻ってくるのでは意味合いが全く違います。無論後者のほうが日本の世界における存在感は高まります。

日本がこう主張すれば、ロシアは大反発するでしょうが、英国は大歓迎でしょう。英国の賛同を得れば、他の西側諸国も賛同する可能性は高いです。今回のウクライナ侵略による制裁として、ロシアはウクライナだけではなく、北方領土も失うということになれば、「力による現状変更」は絶対に許されないことが、理念ではなく事実として世界が認識することになります。

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2022年5月10日火曜日

ウクライナへの「武器貸与法」に署名 第2次大戦以来―米大統領―【私の論評】武器貸与法の復活で米国による支援の本気度がこれまで以上に高まる(゚д゚)!

ウクライナへの「武器貸与法」に署名 第2次大戦以来―米大統領

武器貸与法に署名するバイデン大統領

 バイデン米大統領は9日、ウクライナや東欧諸国への兵器貸与を容易にする「ウクライナ民主主義防衛・レンドリース(武器貸与)法案」に署名した。武器貸与法は、第2次世界大戦中に英国などへの支援を促進したことで知られ、連合国が勝利した背景の一つとみられている。

ロ軍の疲弊鮮明 制裁で兵器調達困難に―西側情報筋

 バイデン氏は署名に際し「ウクライナ人は日々、命を懸けて戦っている。そしてロシア人がもたらす残虐行為は常軌を逸しており、だからこそわれわれはこの問題に取り組んでいる」と語った。

 バイデン政権はこれまでに、ウクライナに対して約45億ドル(約5900億円)相当の軍事支援を供与してきた。同法の成立で大統領はさまざまな手続きを免除する権限を付与され、幅広い支援が迅速化される。

【私の論評】武器貸与法の復活で米国による支援の本気度がこれまで以上に高まる(゚д゚)!

武器貸与法とは、第二次世界大戦において、米国が「民主主義の兵器廠(しょう)」になることを希望したF・D・ルーズベルト大統領によって提案され、1941年3月11日米国連邦議会で可決された法律です。

武器貸与法に署名するルーズベルト大統領

同法によって大統領は、国防上必要とみなされる場合、外国政府に対して武器・軍需物資を提供できる権限をもつことになりました。同法の実現によって、米国は事実上中立を放棄し、連合国の一員として戦争に関与していきました。

大戦終結までに総額約500億ドルが開国と英国連邦構成国(これら諸国が総額の6割を占めた)、ソ連、中国など38か国に貸与され、連合国が戦争を遂行するうえで大きな役割を果たしました。
これまでにも米国はウクライナに対して大規模な軍事的支援を実施してきました。しかし、今回のウクライナに対するレンドリース法案では、そうした支援の際に障壁となっていたさまざまな手続きなどが不要となり、従来と比較してより迅速かつ柔軟な支援が可能となります。

また、既存の法律に基づく武器貸与の枠組みでは、貸与した武器が破壊されるなどした場合に受け取り国(ウクライナ)がアメリカに対して金銭による返済を行う義務が課されていたり、あるいは武器の貸与期間が5年間に限定されていたりしていましたが、この法案は、これらの規定の適用を免除するというものです。

レンドリース法はあくまでも「武器を含むさまざまな物資を貸与する」ものであり、当然、戦争が終了すればその返済義務が持ち上がってくることになります。ウクライナの場合、これがどのような形で実現するのかは、今後のアメリカと結ばれることになるであろう返済協定の内容次第になると考えられます。

第2次世界大戦におけるレンドリース法をめぐっては、すでに消費した物資の費用については支払いが免除されたものの、未消費物資などに関しては米国からそれぞれの国へと売却されることになりました。たとえば英国は、1951(昭和26)年から50年間の分割払いによって債務を返済することで米国と合意し、幾度かの返済延長を経て2006(平成18)年に全額返済を完了しました。

また、英国は戦時中に、兵器や補給品などを米国へと逆に供与する「逆レンドリース」を行っており、これにより返済額の一部を相殺することで、その減額に成功しています。このように、ウクライナも何らかの形で返済額の一部を相殺することも可能でしょう。

米国の第2次世界大戦参戦前に成立した前回の武器貸与法は、当時その矛先が向けられていたドイツにとっても当初から無視できない存在となっていました。1941年(昭和16年)12月11日に行われた対米宣戦布告において、ヒトラーは武器貸与法について触れつつ、米国が「武器貸与法によって援助する諸国の支配権を持とうとした」とまで明言しています。

ヒトラー

日本も武器貸与法によって苦しめられました。特に日中戦争においては、米国の物資は援蔣ルート(えんしょうルート)によって中国国内に運ばれていました。

名前の由来は「(中華民国総統の)蔣介石を援助するためのルート」。中華民国の国民政府は、英米ソなどの援助を受けることで劣勢ながらも徹底抗戦を続けたため、日本は日中戦争勃発から第二次世界大戦の終戦までの長期間にわたり、100万以上の兵力を満州国を含む中国大陸に貼り付けて置かねばならず、国力は疲弊しました。

太平洋戦争の開戦は、中華民国の原動力である援助物資の輸送路である援蔣ルートの遮断もその目的の一つであったと見られています。援蒋ルートにはいくつかありますが、現在の日本では、単に「援蔣ルート」と言った場合、そのうちの一つの「ビルマルート」を想定していることが多いです。

ビルマルート

武器貸与法の復活は単にウクライナへの迅速な支援が可能になるというだけではなく、米国による支援の本気度がこれ以上なく高まるということを意味しています。いずれ通常兵器においては、ウクライナ軍はロシア軍を上回ることになるでしょう。

そして、過去の事例が示しているように、これはロシアのプーチン大統領にとっても決して心穏やかなものとはいえないでしょう。かといって、ロシアが核兵器、化学兵器を用いれば、ロシアは破滅することになりかねないです。


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2022年4月28日木曜日

「法の支配違反」ハンガリーへのEUの対応―【私の論評】EU「法の支配」の原則に違反したハンガリーへの予算配分を停止できる新ルールを発動する手続きに着手(゚д゚)!

「法の支配違反」ハンガリーへのEUの対応

岡崎研究所

 4月3日に行われたハンガリーの議会選挙では、現職のオルバン首相の党であるフィデスが圧勝し、結束してオルバンを打倒しようとした野党の企ては不発に終わった。フィデスの得票率は53%であったが、獲得議席数は135(総議席数は199)で3分の2を制した。


 オルバンは勝利演説で「われわれの勝利は巨大であり、月からも見えるし、ブリュッセルからももちろん見える」と述べた。敵はかつてなく多かったと述べ、ブリュッセルの官僚、ジョージ・ソロスの帝国、主流の国際メディア、そしてウクライナの大統領に言及した。ゼレンスキーは欧州でプーチンを支持しているのは唯一ハンガリー首相だと厳しく批判したことがある。

 あたかもハンガリーの選挙が終わるのを待っていたかの如く、4月5日、欧州委員会のフォン・デア・ライエン委員長は、欧州連合(EU)資金に関する「法の支配」のコンディショナリティの仕組み(新型コロナウイルスによるパンデミックからの復興基金の設立に合わせて2020年12月に導入が合意されたもの)をハンガリーに対して近く発動することを表明した。

 コンディショナリティの仕組みは「加盟国における法の支配の原則の違反がEU予算の健全な財政管理あるいはEUの財政上の利益の保護に十分直接的に影響を与えあるいは与える深刻なリスクがある」場合にEUが適切な措置を取ることを規定している。

 欧州委員会が以上の要件が満たされる事態を認定した場合には理事会に適切と認める措置を提案し、理事会は特定多数決(加盟国数の55%、人口比で65%以上の賛成)で提案を採択出来る。適切な措置の対象は復興基金を含むEUの全ての資金であり、措置としては資金援助の支払い停止や削減などが列挙されている。

オルバンとの共生はできない

 これまでオルバンに対抗する上で有効な手段を持たなかったEUにとって、コンディショナリティの仕組みは強力な武器に違いない。しかし、この仕組みを働かせるのは容易でないように思われる。

 「法の支配」の原則の違反を理由に財政的な制裁を課すにはEUの予算と復興基金の資金が詐欺、腐敗、あるいは利益相反の故に適正に使われないことを具体的に証明せねばならない。それは骨の折れる作業であるに違いない。手続きに時間もかかる。

 しかし、当面、手続きが継続中にハンガリーに復興基金からパンデミックからの復興支援のための資金が提供されることにはならない。それは痛手であろう。また、ウクライナ戦争へのハンガリーの対応は他のEU加盟国とは際立って違っており、仲間を失うリスクを冒している。殊に、ポーランドを失うことになれば、オルバンは孤立感を深めるであろう。

 オルバンが容易に白旗を上げるとは予想されない。しかし、この機会を逃せば、EUがオルバンに規律を強いる機会は彼の在任期間の今後4年の間ないであろう。新型コロナウイルスと違って、オルバンと共生する訳には行かないように思われる。

【私の論評】EU「法の支配」の原則に違反したハンガリーへのEU予算配分を停止できる新ルールを発動する手続きに着手(゚д゚)!

ハンガリー オルバン首相

欧州司法裁判所は2月16日、「法の支配」を無視するポーランドとハンガリーに対する資金提供の停止を合法とする判決を下しました。

欧州連合(EU)は、両国が司法やメディアを政治支配し国民の権利を制限することで、欧州の法の支配に違反していると主張。順守しない場合には、両国への資金提供を停止する方針を示していました。両国は異議を申し立てていたが、司法裁がこれを退けた形です。

判決を受け、両国に対する数十億ユーロの資金提供停止に道が開かれました。EU内部の結束が揺らぎ、EUの国際的な立場にも影響が及ぶ可能性もあります。

EUのフォンデアライエン欧州委員長は判決について「EUが正しい軌道に乗っていることが確認された」と歓迎。欧州委員会が数日中に対応を決めると述べました。

ハンガリーのオルバン首相率いるフィデス・ハンガリー市民連盟は判決について、同国への「政治的報復」だと反発。ポーランドのモラウィエツキ首相は記者会見で、EUの「中央集権化」は危険だと批判しました。

同国の汚職・腐敗もすさまじいものがあります。オルバン首相の友人や家族が政府融資や公共事業を通じて財を成しています。オルバン氏の地元、フェルチュートの町には総人口の2倍を超す4000人収容の豪奢なサッカースタジアムが建設され、“お友達”の一人が巨万の富を手にしました。

各国の腐敗を監視する国際非政府組織、トランスペアレンシー・インターナショナルによると、汚職は「今や(同国の)システムの一部にすらなっている」といいます。

ちなみに、同組織の世界腐敗度ランキングでは、73位:(順位が低いほど腐敗が進んでいる)でした。ちなみに、18位:日本 73点、27位:米国 67点、32位:韓国 62点、66位:中国 45点(点数が高い高いほど腐敗が進んでいる)でした。

日本人の中には、日本を腐敗まみれとする人たちもいますが、世界水準でみればそんなことはありません。他国では、動く金の金額の桁が違います。

以下にハンガリーの腐敗度指数の推移のグラフを掲載します。年々低下傾向であることがわかります。


クリックすると拡大します

オルバン政権は、選挙対策ともとれる歳出拡大路線の経済政策を実施してきました。インフレ対策として21年11月にガソリンや軽油の価格に上限を設け、2月にはこの措置を3カ月間延長すると表明しました。22年の月額最低賃金も前年比約2割増やすことで労働組合などと合意しました。一方、企業の税負担の軽減も進めています。

ハンガリーの2月の失業率は3.7%とEU全体(6.2%)を大きく下回り、経済状況は好調という実感を持つ有権者は多かったようです。保守層にはオルバン氏が生活に安定をもたらす「強いリーダー」に映ったようです。

右翼による反EUデモでEU旗に火を付ける参加者 ブタベスト

一方で、EUとの関係は近年あつれきが生じていました。直近ではロシアやウクライナを巡る外交ですれ違いが起きていました。

オルバン氏はロシアがウクライナ国境に大規模な兵力を配置し、侵攻への警戒が高まっていた2月上旬、モスクワを訪れて自国への天然ガスの供給拡大の約束を取り付けました。EUが決めた経済制裁に対しても調整の過程で反対まではしませんでしたが、一貫して消極的な姿勢を見せてきました。

一方で、ウクライナへの支援には及び腰でした。EU内では伝統的に軍事介入に慎重なドイツまでウクライナに対する武器供給に踏み切ったのですが、オルバン氏は「戦争に巻き込まれないようにしたい」という理由で承認していません。

ウクライナ政府はハンガリーについて「EU内の親ロシア勢力」とみています。ゼレンスキー大統領は3月下旬のEUでのオンライン演説で、オルバン氏を名指しし、ロシアと手を切るよう迫りました。

ハンガリーのオルバン首相の報道官が8日、CNNの取材に答え、同国はロシアと戦うウクライナに対し武器を供与するつもりはないと明らかにしました。

オルバン首相の国外向けの報道官を務めるコバチ・ゾルタン氏は「ハンガリーの立ち位置は揺るがない。今回の戦争に武器や兵士の供給という手段で加わるつもりはない」と語った。

ウクライナのゼレンスキー大統領は先月の演説で、オルバン首相を批判。ハンガリーに対し「どちらの側につくのか国として決める」よう告げていました。

一方のオルバン首相は3日の総選挙での大勝を受け、ゼレンスキー氏を攻撃。陣営にとって「戦わなくてはならなかった多くの敵」の一人だったと明言しました。

今回の選挙で与党勝利に一役買ったのはオルバン氏が進めてきたメディア統制です。政府に批判的なメディアには公共広告を減らし、政権に近い人物が買収するという手口を繰り返してきました。20年には影響力の大きかったリベラル派の独立系ニュースサイト最大手の編集長が突然解任されました。

国際ジャーナリスト組織「国境なき記者団」の21年の報道自由度ランキングでハンガリーは180カ国・地域のうち92位。オルバン氏が政権を握った10年の23位から急低下しました。

米著名投資家のジョージ・ソロス氏らが民主化人材育成のためブダペストに創設した「中央ヨーロッパ大学」も国外移転に追い込み、反政権の芽を摘みました。ネポティズム(縁故主義)がはびこり、政権に近い実業家らが不当に蓄財しているとの批判も多いです。

欧州連合(EU)欧州委員会は27日、「法の支配」の原則に違反した加盟国へのEU予算配分を停止できる新ルールを、ハンガリーに発動する手続きに着手しました。公共調達などをめぐる汚職や、不正対策の不十分さを問題視しました。昨年のルール導入後、発動は初めてです。

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2022年4月22日金曜日

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日本の解き方

 ロシアによるウクライナへの侵攻からまもなく2カ月となるが、短期でウクライナを降伏させることや、北大西洋条約機構(NATO)の東方拡大を阻止するといったプーチン大統領の当初の狙いは失敗している。


 ロシアが2月の北京冬季五輪閉幕後にウクライナ侵攻を始めた際、「平和の祭典時に何ごとか」という声の一方、ロシア擁護派からはパラリンピックまで「あと2週間ある」という意見があった。今思えば、これは五輪とパラリンピックまでの2週間で終わらせるという意味だったのだろうか。実際、公開情報からそうしたもくろみを示すものもあるので、あながち的外れではないのかもしれない。

 ベラルーシから首都キーウ(キエフ)を陥落させ、ゼレンスキー政権を転覆させるという見方もあったが、2週間でこれを行う計画だったのだろう。しかし、現在、ロシアはウクライナの東部、南部地方に勢力を再配置しており、明らかに短期間での首都陥落とゼレンスキー政権の転覆は失敗したといえる。

 プーチン氏は、ユーラシア大陸の覇権を握り、かつてのロシア帝国を復活させるという野望があると解説する研究者もいる。そのために「NATOの東方拡大は許せない」と言い、NATO加盟を意図しているウクライナに侵攻したという説が多い。しかし、今回のロシアの蛮行は、結果として中立またはロシア擁護だった欧州諸国の行動を変えてしまった。

 フィンランドのマリン首相は、ウクライナ侵攻で全てが変わったとして、NATOに加盟する意向だ。スウェーデンも与党の社会民主党は長年NATO加盟に反対の立場だったが、アンデション首相は、スウェーデンの安全保障の立場は根本的に変わったとして、やはりNATO加盟に前向きだ。

 スイスは永世中立国として有名で、これまでは欧米の経済制裁には加わらないとのスタンスだった。しかし、今回、欧州連合(EU)の対露制裁措置をスイス国内でも同様に実施することとした。今回はロシア政府関係者のEU域内の資産凍結をスイスでも行うので、プーチン氏らの関係者まで資産凍結された。永世中立国かつEU非加盟国であるスイスは中立的立場を重要視しており、2014年のクリミア危機の際にも対露制裁を実施しなかったが、今回は異例の措置だという。

 プーチン氏は、ドイツをも覚醒させた。左派政権のドイツは安全保障政策を180度転換し、国防費を国内総生産(GDP)比2%まで高める方針を打ち出した。

 プーチン氏の失敗は、欧州だけではなく、米国にも指導力を発揮させてしまったことにもある。米国はイラク戦争で誤った情報を出し、バイデン政権は昨年8月にアフガニスタン撤退で失敗を犯した。今回、バイデン政権は一貫して軍事介入しない意向を示すが、それ以外ではロシアの動きを正確に予測し、アジアを巻き込んだ対露包囲網の形成に大きく寄与した。

 背景にあるのはプーチン氏が独裁者だということだ。いかなる抑止力も、核を持った独裁者を抑止することは難しい。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

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ロシア誤算は他にもあります。それは、ロシアの軍事用航空機産業の崩壊です。

ウクライナ、ロシアの両国の戦争がどのような形で決着するのかはわかりませんが、最大の敗者がロシアとなるであろうことはほぼ確定的だといえます。 ロシア経済はほぼ資源の輸出によって成立しており、世界と対等の競争力を持つ産業はほかにほとんどなく、その数少ない例外のひとつに戦闘機産業があります。

世界の大国としての地位をほぼ軍事力だけに依存していたといってよいロシアにとって、戦闘機は産業の規模としては極めて小さいながら重要な地位を担っています。

ソ連時代より有名な戦闘機メーカー「ミグ」と「スホーイ」は2022年現在、ユナイテッド・エアクラフト社傘下の戦闘機部門として名目上は存続していますが、2022年1月にはミグとスホーイともにブランド名としてのみ残り解散、ユナイテッド・エアクラフト社へ完全に統合することが決定し、ユナイテッド・エアクラフトはロシア唯一の戦闘機メーカーとして世界シェアを伸ばす計画でした。

ユナイテッド・エアクラフトの最新型戦闘機

しかしロシア自身が戦争を決断したことにより、その見通しは困難なものとなりつつあります。 米国、EU、日本など先進国のほとんどは、戦争勃発と同時にロシアへ対する前例のない厳しい経済制裁に踏み切り、ロシア経済はウクライナ侵攻開始1か月にして、早くも崩壊の兆しを見せつつあります。 

ロシアは広大な国土から産出される資源こそ豊富ですが、ロシア国内にある工業製品のほとんど全ては海外から輸入したものです。今後それらを輸入することが困難となってしまいましたから、「戦闘機をつくるための工作機械」や「戦闘機の部品」さえ手に入らなくなりつつあります。 

ロシアにとって最も致命的であろう制裁のひとつに、「半導体」の禁輸があります。電子部品の一種である半導体は、CPU、メモリー、液晶ディスプレイ、照明などなど、何かしら電気機器を手にすればその中にはほぼ確実に使われている、現代文明になくてはならないものです。

その重要な半導体を製造できる国は、実はあまりありません。米国、韓国、台湾、EU、日本で世界シェアの95%を占めており、これらの国が一斉にロシアへ対する禁輸に踏み切りました。

残る5%を占める中国だけはロシアへ輸出を続けていますが、米国は中国に対して制裁を行うよう強い圧力をかけています。 

戦闘機やミサイルなどの搭載電子機器に使われている半導体も当然、輸入頼りですから、ロシアは何十年かかけて半導体産業を育成するにしても、当座は低い歩留まりと超高コストとなることを承知で量産するか、密輸するか、中国に頭を下げるかを選ばなくてはならないです。

それでも兵器に使われるコンピューターなどは、意外にも大した性能は求められないので、なんとかなるかもしれません。しかし、レーダーや電子妨害装置など電波を送受信する機器に使われる「ガリウムヒ素(ヒ化ガリウム)」を材料とする半導体は別です。 

ガリウムヒ素を材料とする半導体は、現代戦闘機において欠かすことのできない「AESAレーダー」と呼ばれる装置に大量に使われます。通常、ガリウムヒ素でできた小さい「TRモジュール」を1000個から2000個程度、搭載しており、AESAレーダーの性能は使用したガリウムヒ素の量で決まるといわれています。

ロシアのAESAレーダ「ベルカ」の2009年の試作品

 さらに次世代戦闘機では、機体のほぼ全体をガリウムヒ素で覆う「スマートスキン」になるともいわれます。そして、よりにもよってロシアの最新鋭戦闘機Su-57は、このスマートスキンの考え方を部分的に取り入れており、全方向レーダー索敵能力を有し、同時に電子妨害なども行う、F-35やF-22さえできない野心的な設計を取り入れています。

 Su-57用レーダーに使用されている、韓国のソウルセミコンダクター社製ガリウムヒ素はすでに禁輸となっており、Su-57の開発に悪影響を与える可能性は極めて大きいです。Su-57だけではなく、2021年に初めてモックアップが公開されたばかりの「チェックメイト」と呼ばれる軽量戦闘機コンセプトや、MiG-41ともいわれる次世代迎撃戦闘機、そしてPAK-DA次世代爆撃機にもこの問題は及ぶでしょう。

 新型機ばかりではありません。すでに配備されているロシア機にも影響します。AESAレーダーの搭載は、戦闘機の性能向上において必ずといっていいほど行われる改修ですが、それも難しくなります。さらにこれまで実施されていた、ロシア製戦闘機やヘリコプターに対しヨーロッパ製の既成電子機器を搭載することも、いまでは難しくなっています。

2022年3月2日の国連総会緊急特別会合では、ロシアを非難しウクライナからの即時撤退などを求める決議案が賛成141か国、棄権35か国、反対5か国という賛成多数で採択されました。

 棄権した国の多くは、ロシアから戦闘機など同国製兵器の供与を受けていました。しかしそれらの国も、もはやロシアから部品の調達さえままならないとなれば、ロシア製兵器を維持することは困難になります。また「世界の敵」となってしまったロシアからの新規調達をためらう国も出てくることでしょう。  

最悪、ミグやスホーイは過去のものとなってしまうかもしれません。そのトリガーを引く可能性があるとすれば、恐らく中国です。これまで中国製戦闘機はおもにエンジンの信頼性に問題があり、ロシアの支援が不可欠だったものの、それも改善されつつあります。また中国は、ガリウムヒ素の次世代を担う「窒化ガリウム」半導体の生産技術を有しており、自国で生産を完結できる態勢を目指しています。 

ロシア製戦闘機は中国の支援なくして成り立たなくなり、中国とロシアの立場は逆転するかもしれません。そうなれば世界の戦闘機市場でロシアが持っていたパイは、すっかり中国に奪われてしまうことでしょう。 

料理に例えるならば、ロシアは有名店、ユナイテッド・エアクラフトはそこで働くシェフです。彼らの手がけたミグやスホーイといったロシア料理は世界中で愛されていました。しかしそれは食材を売ってくれる相手とお客がいるから成り立っていたということを、彼らは忘れてしまいました。

ロシアのケンドラー米商務次官補(輸出管理担当)は先月30日、各国による輸出制限によりロシアの戦車生産などが打撃を受けているとの見方を示ました。 ウクライナ政府の情報として、ロシアの主要戦車2工場が部品不足で生産停止したと指摘。

ウラルヴァゴンザヴォートの工場を訪問したプーチン大統領

ロシアのバイカル・エレクトロニクスは偵察機器や通信機器に使う集積回路を入手できなくなったとしました。 台湾積体電路製造(TSMC)の撤退で、MCSTは軍事・情報システムで広く使用する半導体の調達を断たれたとも指摘。 また、仏ルノー傘下アフトワズの「ラダ」ブランドが部材不足で自動車生産を停止したと述べました。

現状では、産業の崩壊がどうのこうのというどころか、ロシア軍は、航空機や戦車を新しく製造することもできず、故障しても修理できず、いずれ活動を停止せざるを得なくなるでしょう。

1〜2ヶ月後には、軍事力で、ウクライナのほうがロシアよりも圧倒的に有利という事態になるかもしれません。

ロシア軍の武器はAK47自動小銃と、核兵器と化学兵器のみということになるかもしれません。そこで、核や化学兵器を用いれば、さらに制裁は厳しくなるでしょう。

いずれ、訪れるであろう2度目の「ソ連崩壊」は、前回よりも厳しいことが予想されます。

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2022年3月20日日曜日

値上げラッシュに『消費税の軽減税率』を! 高橋洋一さん提言 「小麦粉など重要な原料を0%に」―【私の論評】現状日本経済を安定させるための最大の手立ては、消費減税(゚д゚)!



政府・与党はロシアのウクライナ侵攻による原油価格の高騰対策として、ガソリン税を一時的に下げる「トリガー条項」の発動に向けた調整に入りました。岸田首相は2022年度予算案の成立後、トリガー条項の発動を含めたエネルギー対策などを柱とする大型の追加経済対策の策定を指示する見通しです。

自民、公明両党に国民民主党を加えた3党の幹事長は16日に会談し、トリガー条項発動のための新たな制度の設計など、具体的な課題を協議します。
値上げラッシュに『消費税の軽減税率』を! 高橋洋一さん提言 「小麦粉など重要な原料を0%に」


 新型コロナの「さざ波」発言でも知られる元内閣官房参与で嘉悦大学教授の高橋洋一さん(66)が19日、朝日放送のニュース情報番組「正義のミカタ」(関西、東海地方ローカル)に生出演。ロシアによるウクライナへの国際情勢悪化などでエネルギーや小麦粉など食料が高騰する値上げラッシュの解決方法に「消費税の軽減税率」を使い減税することを提案した。

  軽減税率は、2019年10月に消費税を10%へ増税する際に酒類や外食を除く飲食料品や一部の新聞については8%に据え置いた制度。高橋さんは「小麦粉など重要な原料の軽減税率を8%から0%に」と提案し、「軽減税率という制度は何かにターゲットを与えてそれに対する税金を安くすることができる。これが重要だと言うのなら、そこをターゲットにすればいい」と説明。 

 MCの東野幸治(54)から「ゼロにすると大丈夫ですなんか?」と問われると「それは大丈夫ですけどね。(ガソリンの小売価格を抑制するため議論が続く)トリガー条項は、はっきり言えばガソリン税の減税。(政府が)抵抗しているのは、こういうふうに(消費減税などへ)波及するから。同じ減税なら消費税もやればいい。みんなが重要だって言うなら、すべて軽減税率ゼロにしてもいいでしょ。結構簡単にできる。レジで品目変えるだけでできちゃう」などと持論を展開した。

【私の論評】現状日本経済を安定させるための最大の手立ては、消費減税(゚д゚)!

トリガー条項は、指標となるガソリン価格の平均が3か月続けて1リットルあたり160円を超えたのを引き金(トリガー)として、税率上乗せ分(約25円)を減税する措置。東日本大震災の復興財源確保で現在凍結されており、発動には税制関連法を改正する必要があります。

首相官邸

政府は既にガソリン価格を全国平均で172円程度に抑えるため、石油元売り会社への補助金を3月までの時限措置として支給しています。ただ、原油価格の高騰は長期化するとみられ、補助金を4月以降も継続するとともに、更なる価格抑制策が必要だと判断しました。

自民の茂木幹事長は15日の記者会見でトリガー条項の発動に関し、灯油や重油の価格を新たに対象にするかどうかも含め、「総合的に検討したい」と述べました。


ガソリン価格が上がってガソリン税を減税するなら、他の物品価格が上がって消費税減税するのは当たり前の政策です。

ただ、そうなるのが当たり前という前提となるのが、経済安定化です。物価の安定や雇用をはじめとする国民生活に重要な経済の安定化を重視するなら、柔軟に財政政策を繰り出すのが当然という考え方になるのが普通です。

日本は米欧諸国の動向を横目で見ながら、それに追随して経済制裁措置などの対応を行っているように見えます。経済対策についても、野党などから3月8日になって大規模な対策に関する提案がようやくなされ始めました。

日本は、高インフレに直面する米欧とは異なり、物価目標2%には未だに実現されていない状況にあり、財政金融政策によって経済成長を高める対応を行う余地が十分あります。そうして、現行の金融政策の枠組みだと、経済成長を支えるツールが財政政策になるが、これに適切に対応できるかが重要になるはずです。

しかし現実には、ガソリン高への対応に時間が使われる一方で、日本企業がロシアに持つ経済権益を、安全保障や外交政策とのバランスを考慮してどうするか、という難題に直面して、岸田政権の対応は精一杯になっているようです。そこから、ガソリン税を減税するなら、他の物品価格が上がって消費税減税するのは当たり前という発想は出て来ない可能性があります。

岸田政権としては、日本企業がロシアに持つ経済権益と、物価が上がって日本経済が受ける悪影響を比較すれば、後者のほうがはるかに大きいことを認識すべきです。日本企業の権益はかなり大きいかもしれませんが、それでも日本のGDPに占める個人消費の割合は、60%を超えます。それを考えれば、どちらのほうが重要なのかは、はっきりしすぎるくらはっきりしています。

さらに、ロシアがウクライナに侵攻してしまった現在においては、良くも悪くも安全保障や外交政策とのバランスなど考える余地はなく、欧米に追随するかその先手を打つしかないことも認識すべきでしょう。

もし、ここで日本だけが逆をすれば、国際社会の中で日本だけが孤立することになりかねません。どこまでも、ロシアに追随すれば、日本も厳しい制裁を受けて、ロシアとともに沈むことになりかねません。はっきり言って選択の余地はありません。そもそも、多くの日本人にとっては、プーチンの価値観は絶対に受け入れられません。


日銀の今の枠組み、特にイールド・カーブコントロールによる控えめな金融緩和政策は、岸田政権の最近の日銀人事により、容易に変わることはないとみられます。であれは、現状経済を安定させるための最大の手立ては、高橋洋一氏の主張するように消費減税しかありません。

ここは、安倍元総理や高市政調会長などに頑張っていただきたいところです。

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