2019年9月9日月曜日

残り3週間!「消費増税で日本沈没」を防ぐ仰天の経済政策がこれだ―【私の論評】消費税増税は財務省の日本国民に対する重大な背信行為(゚д゚)!

残り3週間!「消費増税で日本沈没」を防ぐ仰天の経済政策がこれだ「増税しない」が最善手ではあったが…


財源をひねり出せ

9月11日の内閣改造は、かなり大幅なものになるようだ。麻生太郎副総理兼財務相と菅義偉官房長官を除く17閣僚が交代する見通しとなっている。

政権はその布陣で秋の臨時国会に臨むことになるが、10月からの10%への消費増税が控える中、本コラムでも再三指摘している通り、国際経済は不安定要因ばかりだ。(1)米中貿易戦争、(2)イギリスのEU離脱、(3)日韓関係の悪化、(4)ホルムズ海峡の緊張など目白押しだ。

秋の臨時国会では、当然景気対策のための補正予算が作られるだろう。安倍首相は、消費増税を掲げた今年の参院選後、万全の景気対策を行うと表明した。消費増税分を吐き出してでも、景気を悪化させないということだろう。

こうした国際経済環境の悪化はずっと前から読めていたので、「増税分を使って景気対策する」くらいなら消費増税自体をやめるべきだったが、政治家の心中は複雑だ。

安倍首相は、盟友である麻生氏の顔にこれ以上泥を塗らないために、消費増税を政治的判断で決めた。と同時に、景気悪化をさせないために、増税分を吐き出す覚悟で経済対策を行う。政治と経済の使い分けという芸当だ。

筆者は、政治家がとるこうした「常人には理解しがたい行動」についても想定していたので、消費増税への経済対策として理論的に最も優れているのは、「10%への消費増税と同時に全品目を8%軽減税率の対象とすること」だと、かなり前の国会意見陳述から申し上げてきた。これなら、消費増税をしたい増税勢力、軽減税率を導入したい公明党、景気の悪化を避けたい一般人のいずれも満足させることができる。

もっとも、これは冗談としか受け取られないので、実現可能性は少ない。ただし、消費増税対策としての経済政策を考える際には、このような考え方がベースになるはずだ。

先立つものは財源だ。消費増税分から吐き出すことも可能だが、教育無償化などへの影響を避けつつ景気悪化を避けるためには、別の何らかの財源をひねり出す必要がある。

一番簡単なのが国債費の減額である。2、3兆円の財源なら簡単にひねり出せる。

そのからくりはこうだ。

国債費は、財務省(理財局)が財務省(主計局)に対して概算要求を行う。来年度の国債費要求額24兆9746億円は、本年度予算額23兆5082億円より1兆4664億円多い。その内訳は、債務償還費16兆1112億円、利子及割引料8兆8259億円、国債事務取扱費375億円である。

まず債務償還費は、減債基金への予算繰入だ。減債基金とは、国債を漸次償還し、その残高を減らすために積み立てる基金とされている。そのため、国債残高の1・6%をこの予算に繰り入れると法律で決められている。

ただし、民間会社の社債発行で、減債基金という話は聞かない。減債基金の積立のために、さらに借金をするのはおかしいというのは、誰でもわかる話だ。民間の社債では、借り換えをして余裕が出たときに償還するというのが一般的だ。これは海外の国債でも同じである。海外の先進国では、かつては国債の減債基金が存在していたが、今ではなくなっている。

なので、債務償還費はナシでもまったく困らないが、時代錯誤の法律があり、その改正が必要なので、おそらく減額・廃止されることはないだろう。

なお余談であるが、日本の大学の財政学のテキストには、国債の減債基金の制度やその重要性が説明されている。ただ、海外では制度自体が存在しないということは言及されない。もし学生にその点を質問されたら、大学教員は説明に困るだろう。

財政学の教員はほぼ例外なく財務省のポチであるので、「減債基金は必要なのだ」と、国際的に非常識なことを教えているのではないかと筆者は思っている。

マイナス金利を逆手に取る

次に、利子及割引料。日本の債務残高は1000兆円といわれるが、利子及割引料はその0・8%に相当する。そもそも国債金利はそんなに高かったのか。過去に発行した国債の利払いも必要なので、過去10年間の10年国債金利を調べると、平均で0・5%。このことから考えると、せいぜい利子及割引料は5兆円程度あれば十分だ。

それなのに、なぜ9兆円弱も予算を積んでいるのか。それは、例年秋の臨時国会で補正予算が作られるときのための財源を、本予算に盛り込んでいるせいだ。こうすることで、当初の国債発行額も水ぶくれとなり、財政危機を煽る財務省にとっては一石二鳥なのである。

筆者が現役官僚の時は、査定すべき財務省(主計局)は要求する財務省(理財局)に対し、概算要求を水増しするように言ってきていた。同じ財務省内ならではの馴れ合い話だ。

せいぜい5兆円くらいしか利子及割引料は使われないので、3兆円程度減額しても問題ない。それが補正予算での財源になる。

さらに今年は、これらとはまったく違う財源がある。それは、異様なマイナス金利環境だ。

国債金利は期間ごとにあり、その変化をイールドカーブ(期間別の金利)というが、推移を見てみよう。

8月末時点で、1年▲0.268%、2年▲0.307%、3年▲0.326%、4年▲0.353%、5年▲0.362%、6年▲0.378%、7年▲0.385%、8年▲0.383%。 9年▲0.333%、10年▲0.275%、15年▲0.095、20年0.05。

8月末時点のイールドカーブを過去5年間とると、下図のようになる。



2015年以前、5年ごとで各期間の金利を平均したものを掲げている。1990年代前半、1990年代後半、2000年代前半、2000年代後半、2010年代前半のイールドカーブだ。



これらをみると、現在のマイナス金利が珍しい状態であることがわかる。

投資のチャンスになる

なお、先進国G7と直近時点でも比較してみると以下のとおりだ。



もっとも、今は先進国でも日本と欧州はマイナス金利が常態化している。日本と欧州はマイナス金利であるとともに、長期金利のほうが短期金利より低いという「逆イールド」になっている。

一般論として、長期金利は将来の短期金利の積み合わせになっている。逆イールドは将来の短期金利が現在より低いと予想されるために起こる。低金利は経済活動が盛んでないことを意味するので、不況の前触れという連想になる。国際経済情勢の先行き不安は、逆イールドになる要因だ。

長期金利のマイナスそれ自体は、金融機関の経営にとっては、利ざやが取れず悪影響を及ぼす。

金融機関は、預金で集めたカネを貸出や有価証券で運用して利ざやを稼ぐのが基本だ。一般的に、運用の金利は同じ期間の預金金利に信用スプレッドを加えたものだ。また、預金の期間は運用の期間より短い。このため金融機関の利ざやは、信用スプレッドと長短スプレッドから構成されている。

これまで、日本の金融機関は、信用スプレッドよりも長短スプレッドに依存して利ざやを稼いできた。信用リスク管理をさほど厳格にしないですんだのは、逆イールドの期間がそれほど多くなかったからだ。

その場合、運用金利がマイナスになると、順イールドでも金融機関は利ざやがとれなくなる。というのは、預金のマイナス金利は、預金者が損をするということになるので、まずありえないからだ。

マイナス金利に逆イールドが加わっている現在の状況は、金融機関にとっては最悪ともいえる。しかし、実態経済にとっては、金利負担なしで長期資金が借りられるので、設備投資の絶好のチャンスだ。実際、不動産投資や住宅投資はかなり良好である。

また政府は、この機会にインフラ整備をどんどん行ったほうがいい。長期金利がマイナスということは、金利コストがゼロなので、費用対効果さえ算定すれば、ほぼすべてのインフラ投資が正当化できることを意味する。

東日本大震災以降、日本列島で地震が活発化しているという意見もある。そのリスクに備え、震災被害を事前に最小化するために、将来投資が必要だ。

この将来投資は物的資産が残るので、建設国債になる。建設国債は赤字国債ではないので、そもそも借金問題を気にする必要はなく、必要であればどんどん発行したらいい。国債市場はマイナス金利なので、よほど酷い公共事業でなければ採算があり、将来投資には良好である。

南海トラフ地震や首都直下地震は確実にやってくるので、今の時期に防災対策投資を行うべきだ。

さらに、インフラ整備に限定せず教育、研究開発や国防などについても、政府は国債をもっと多く発行し、将来投資の観点から積極的に行うべきである。

「無制限に国債発行」の可能性

これらは通常時でも考え得る普通の政策であるが、マイナス金利環境をさらに生かそうと思えば、次のような仰天施策もある。

「金利がゼロになるまで無制限に国債を発行し、何も事業をしない」というだけでもいいのだ。

例えば、10年国債金利は▲0・3%程度だ。これは、100兆円発行すると、年間金利負担なしで、しかも103兆円の収入があることを意味する。マイナス金利というのは、毎年金利を払うのではなく「もらえる」わけで、0.3%の10年分の3兆円を発行者の国は「もらえる」のだ。

ここで、「100兆円を国庫に入れて使わず、3兆円だけ使う」とすればいい。もちろん、国債を発行すれば若干金利も高くなり、このような「錬金術」が永遠に続けられるわけではないが、少なくとも金利がゼロになるまで、国としてコストゼロ、リスクゼロで財源作りができる。

この施策が面白いのは、これまで財務省が国債を「悪いもの」として扱ってきたのと発想が真逆なことだ。

既にマイナス金利が顕在化していた今年2月、NHKニュースは財務省のポチらしく「国の借金1100兆円超」と報道し、「政府は新年度予算案で、国債を32兆6000億円余り、新たに発行することにしていて、財政健全化の道のりは険しさを増しています」と国債発行を戒めている(https://www.nhk.or.jp/politics/articles/lastweek/14051.html)。財務省の言うとおりに報じるNHKらしい。

もっとも財務省でも2016年頃までは、財政赤字の弊害として、クラウディングアウト(民間資金締め出し)論から金利上昇の可能性を主張していたが、さすがに現在ではそうした記述を落としている。

財務省がゼロ金利までの無制限国債発行を行うと、日銀が今やっている金融政策とも相乗効果が出てくる。

日銀は、イールドカーブコントロールといい、長期金利がゼロになるように国債買入を行っている。ただし最近の日銀の国債購入は、異次元緩和が始まった当初の年間80兆円ベースから、30兆円ベースまで落ち込んでいる。これは、市場の国債が品不足であるからだ。このため、金融緩和圧力は高くない。



ここで、財務省がゼロ金利まで国債無制限発行に乗り出せば、日銀の金融緩和効果はさらに高められる。しかも、得た財源で景気対策を行えば、まさに財政・金融一体政策となり、目先の消費増税ショックを回避できる可能性も出てくる。しかも、金利正常化で金融機関支援にもなる。

逆にいえば、こうした「美味しい」金利環境を財務省が見過ごし、金利ゼロまでの無制限国債発行を行わないとすれば、それは彼らが増税しか頭にない「無能官庁」であることの証明といえる。

【私の論評】消費税増税は財務省の日本国民に対する重大な背信行為(゚д゚)!

元々、増税することしか頭にない財務省官僚は、冒頭の記事で高橋洋一氏が提案するような金利ゼロまでの国債発行をするだけの頭があるのなら、最初から増税などしなかったでしょう。

そもそも、日本の財政は基本的には問題ありませんが、資産と負債の圧縮によるスリム化を阻んでいるのは、天下りを狙っている官僚たちといわざるをえません。「借金がこんなに多い」などというのは完全なまやかしであり、政府関係機関を完全民営化すれば、借金は大幅に減らせます。

このブログでも日本の財政状況は問題ないことをいくどか掲載しました。それでもなお「財政健全化が必要だ」と主張するのなら、「消費税の増税」をやるよりも前に、まず「政府の資産で売却するものは売却し、民営化できるものを民営化する」ことによって、政府のスリム化をすべきです。「財政健全化のために消費増税をする」のはそれからのことでしょう。

財務官僚以外の誰が考えても、順番がおかしいといわざるをえないです。民間企業ならば、最初にくるのが資産の圧縮のはずです。財務省が民間企業だとして、財務官僚がやっていることは、資産圧縮などせずに、賃金の引き下げばかりやっているようなものです。

このブログの過去の記事には、日本政府の貸借対照表(BS、バランスシート)を何度か掲載したことがあります。そこで日本政府だけが資産、負債とも突出して多いことを指摘しました。



日本政府は極端に資産が多いです。財務省は「国家運営上、このくらいの資産は必要だ」という考えなのようですが、これだけ資産を膨大にもっている国はほかにはあまりありません。他国は資産が日本政府ほどなくてても国家運営ができているのです。

資産と負債の圧縮は簡単です。政府関係機関を完全民営化すれば、出資金を回収できて関係機関への貸付金も必要なくなるため、負債を減らして資産、負債ともに小さくすることが可能です。

小泉改革で郵政民営化を行なったあと、経済財政諮問会議で資産圧縮の方針を出したところ、財務省だけでなく、各省庁が大騒ぎになりました。

各省庁は、政府関係機関の保有は政策目的だ、といっていました。しかし政策目的は他国にもあるから、この論法が正しければ海外にも同様の政府関係機関があるはずです。

ところが現実には、日本のような国はありません。幹部は「郵政民営化までは許すが、これだけは駄目だ」といいました。残念ながら、結果として政府関係機関の民営化はほぼすべて潰されました。

これほど抵抗が強いのは、各省庁が政府関係機関をコントロールし続けたいということで、天下りの生命線でもあるからです。

普通の国であれば、負債が大きくならないように資産を売って負債を返し、資産と負債の両方を圧縮していく。これがスタンダードな考え方です。これは、民間企業もそうです。それをしない財務部は何もしていないと謗られても致し方ありません。

ところが財務省は、資産も負債も膨張したままで、資産に手をつけようとしないのです。日本の純資産は「資産220% - 負債238%」=「対GDP比マイナス18%」。ドイツ、カナダ、アメリカよりは純資産額が少ないですが、フランス、英国、イタリアよりは純資産額が多いです。

であれば、「まず資産を売って負債を減らす」のがバランスシートを保つための優先策のはずです。

では、なぜ日本の財務省の常識は違うのでしょうか。財務官僚が愚かで、会計の基本に気付かないからではありません。何よりも財務省が「資産」を抱え込むことが、同省の官僚に大きなメリットをもたらしているからです。

そのメリットは、「天下り先の確保」です。政府資産の大半は金融資産で、天下りに使われているものです。したがって資産の売却は天下り先を減らし、官僚の人生設計に狂いを生じさせます。彼らは自分の再就職先を守るため、「資産は売れない」と異を唱えているのです。

もちろん表向きの説明は、政府関係機関は政策目的のためにあるので、必要な資金を出しているだけだと理由付けています。

ただ、出資先には日本政策投資銀行、商工中金など、諸外国では民間会社になっている業種も多く、政策目的とは口実で、天下り確保と思えるものも少なくないです。実際、出資先リストをみれば、財務省に限らず各省からの天下り役員が多くいます。

債務返済のためには、まずは資産売却してバランスシートをスリム化することが先決です。これは、企業の債務整理や諸外国でもしばしば用いられる手法です。

たとえば英国では、これまで財政危機といわれるたびに資産売却を行ってきました。オークションサイトでは、軍艦まで出品されたこともあります。英国政府を訪問すると、部署によっては所在地が変わっていることもよくあります。政府所有ビルではなく、政府が民間から借り上げているからです。

ギリシャでも、財政問題になるたびに政府保有資産を売却しています。ギリシャはこれまで200年間で100年近くデフォルト(債務不履行)状態になっているなどデフォルト常習国なので、売却された資産は多いです。2010年頃のギリシャ危機の際、国営郵便局・電気ガス民営化等で債務残高の15%の国有資産が売却されました。

ちなみに、国際通貨基金(IMF)の報告書によれば、ギリシャと英国のネット負債残高対国内総生産(GDP)比はそれぞれ90%、110%程度と世界の中で最悪の部類です。

逆にいえば、日本はそこまで財政状況が悪くなく、資産売却まで追い込まれていないわけで、天下り先確保に支障が生じていないともいえます。なお、借金を借り換えれば資産売却は不要です。

各省からは自分の所管の政府関係機関だけに天下りますが、財務省はすべての機関に天下ることができます。これは財務省の特権であり、手放したくないはずです。 

逆にいえば、その特権のために、消費税増税が性懲りもなく行われるわけであり、これは、国民に対する重大な背信行為といわざるをえません。民間企業で財務部が、資産をためこみ、それを自分たちの都合の良いようつかえば、当然会社に対する背信行為であり、法律違反です。

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2019年9月8日日曜日

日銀がまるで財務省…! 黒田総裁が「転向」で日本経済を失速させる―【私の論評】緩和の副作用など、全く心配するに値しない、日銀は思い切って緩和すべき(゚д゚)!


その責任は重い

露出が減った日銀・黒田東彦総裁

2019年、国内外の景況が次々と悪化し、各国の中央銀行は次々と金融緩和に舵を切ってきた。そんななか、まったく緩和策を打ち出していないのが他ならぬ日銀である。

「9月緩和」の噂も方々でささやかれるが、当の黒田東彦総裁から具体的な発言はない。それどころか、黒田総裁のメディア露出自体も減ってきた。

日銀黒田総裁

今の黒田総裁を見ていると、民主党政権時代の白川方明前総裁とダブるところがある。「金融緩和できない」という説明を繰り返すあたりだ。

白川前総裁は、名目金利がゼロになっていることを理由に、「これ以上金利を引き下げられない」と断言していた。

このロジックを打破するため、2013年3月に黒田総裁が後継指名された。

黒田総裁は、たしかに名目金利は下げられないが、名目金利から予想インフレ率を差し引いた「実質金利」は下げられると主張した。

日銀が国債を購入すれば、予想インフレ率は高まる。年間80兆円ベースで中央銀行が国債を購入すれば、2年でインフレ目標2%は達成できると目論んだ。これが「黒田バズーカ」である。

手を緩める日銀
黒田バズーカの効果は大きく、インフレ率は2014年4月に1・6%まで上昇した。

インフレ目標は達成目前だったが、8%への消費増税で台無しになってしまった。今では、「2%」の目標ははるか遠いものと言えるだろう。

黒田バズーカのキモは国債を買いまくることに尽きるが、最近は日銀も手を緩めている。

2016年9月から、名目金利に着目する「イールドカーブ・コントロール」という新方式に変更した結果、国債の購入ペースは年間80兆円から年間30兆円に減額しているのだ。

国債購入ペースが落ちている以上、予想インフレ率も、実際のインフレ率も芳しくないのは当然のことだ。

黒田総裁は、スタート時に設定した理論を自ら否定していることになる。



日銀が国債購入額を減額したのは、市中の国債の品不足が理由だという。

しかし、'19年6月末の国債発行残高は980兆円もある。日銀の保有国債は46%の454兆円だ。

「コップに水がまだ半分も入っていない」と考えれば、526兆円もの国債が市中には残っている。インフレ目標達成を第一に掲げるなら、日銀は国債購入ペースを落とす必要はなかったのだ。

まるで財務官僚…

ベン・バーナンキ元FRB議長はかつて、中央銀行が国債を購入するとデフレ脱却になるばかりか、中央銀行の保有する国債は国の利払い負担・償還負担がなくなり、実質的に財政再建になると主張していた。

黒田総裁は消費増税を回避して、国債購入を進めればよかったのに、まるで財務官僚のように消費増税を推奨している姿が目につく。

黒田総裁に残された打開策はひとつ。イールドカーブ・コントロールを止め、黒田日銀のスタート時の国債購入ベースの「量的緩和」に戻ることだ。

たしかに、自らの金融政策の失敗を認めることになり、黒田総裁のメンツは失われる。だが、中央銀行全体の信頼性という、最も重要なものを取り戻すことができるはずだ。

おそらく、今後10年ほどはさらに消費増税することはないだろう。今のうちに、「量的緩和」へと原点回帰しておくべきだ。

『週刊現代』2019年9月7日号より

【私の論評】緩和の副作用など、全く心配するに値しない、日銀は思い切って緩和すべき(゚д゚)!

今月、ECBが金融緩和に舵を切り、FRBも追加利下げに踏み切ることが確実視される中、日銀は一体何をしているのでしょうか。日銀の対応次第で「緩和負け感」が鮮明になり、円高が進むリスクがあります。

日銀の追加緩和余地は今でも十分にあります、「大きな効果が見込めて、副作用の小さい手段」はまだまだ十分にあります。ただ日銀が実施しないだけです。

世界的な金融緩和競争の色彩が強まってきています。7月末のFRBによる約10年ぶりの利下げに追随する形で、8月にはニュージーランド、メキシコ、インド、タイなど多くの国で続々と利下げが実施されました。さらに今月には、ECB(12日)が金融緩和に舵を切り、FRB(18日)も追加利下げに踏み切ることが、市場で確実視されています。



こうした各国、とりわけ欧米の金融緩和にもかかわらず、日銀はなにもしません。これまで各国の金融緩和観測の高まりに伴って海外金利の低下が進み、内外金利差の縮小を通じて円高が進んだきているにもかかわらず、日銀はそれに対処しようとしません。円高は輸入物価の押し下げや輸出の下振れなどを通じて物価の抑制に作用します。そんなことは、わかりきったことであり、これに対して日銀が対処しないということは、全く理解不能です。

足元では米中協議の再開期待から多少円安方向に戻してはいるものの、欧米中銀の会合が始まる来週以降は警戒が必要になります。世界的な金融緩和競争の中、欧米中銀に続いて19日に政策決定が為される日銀の「緩和負け感」が鮮明になることで、円高が進むリスクがあるためです。

FRBやECBと比べて、日銀の追加緩和余地は、厳しい側面はあるものの、現状では未だ緩和余地はあります。金融緩和の縮小・停止や金融引き締めの段階を経ている欧米中銀と異なり、日銀は2013年以降長期にわたって一貫して金融緩和を続けてきたにもかかわらず、最近はイールド・カーブコントロールにより、緩和を実質上控えているからです。

従って、日銀としては出来ることなら追加緩和を実行すべきは明らかなのですが、欧米が緩和に動くなかで日銀だけ取り残されれば、円高の引き金を引くことになるでしょう。

ここで、黒田総裁の発言内容(1)などを参考に追加緩和の主な選択肢を改めて考えてみると(表紙図表参照・外債購入やヘリマネなど極端な手段を除く)、(1)フォワードガイダンス強化、(2)長期金利許容レンジの拡大(下限引き下げまたは撤廃等)、(3)マイナス金利深堀り、(4)長期金利目標の引き下げ、(5)国債買入れ増額、(6)ETF買入れ増額、(7)その他資産購入(財投債・地方債等)という手段が挙げられます。

これらは技術的には可能であり、日銀がやる気になればどれもができるはずです。本来これらは、出し惜しみせず、物価目標の早期達成のために既に導入すべきものだったのです。

既述のとおり、今回、欧米が金融緩和に踏み切るなかで日銀が全く動かなければ、「緩和負け感」が鮮明になり、円高の引き金を引くことになるでしょう。

日本では多くの人が金融緩和の副作用軽減の悪影響を完全に相殺することは困難であると考えているようですが、それはさほど難しいことであはありません。

市場をよく観察し、インフレ傾向が顕著になれば、緩和をやめる、あるいは引き締めに転ずるということて十分に対応できます。実際日銀以外の世界の中央銀行はそのように対処しています。

追加金融緩和の悪影響は、日技が金融引き締めに転じればどれも防げること

日銀が一切の政策変更を見送り、現状維持とした場合には、既述の通り「緩和負け感」が鮮明となり、市場は円高・株安に振れることになります。それだけは絶対に避けなければなりません。そうでなければ、日本はまたリーマン・ショックのときのように、震源地の米国や、英国が日本よりも、先駆けて回復したにも関わらず、日本だけが一人負けの状況に甘んずることになります。

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2019年9月7日土曜日

香港長官「条例撤回」は事実上のクーデター―【私の論評】米国の「香港人権民主主義法案」が決定的な要因の可能性(゚д゚)!

香港長官「条例撤回」は事実上のクーデター

林鄭行政長官はすべてを計算したうえで逃亡犯条例を撤回したのか


<突然の林鄭行政長官の「逃亡犯条例」完全撤回に不気味な沈黙を続ける中国政府。条例撤回はデモで追い詰められた林鄭が、習近平にすべてを責任転嫁する計算づくの「反逆」だった?>

香港政府トップの林鄭月娥キャリー・ラム)行政長官は9月4日のテレビ演説で、刑事事件の容疑者を中国本土へ引き渡すことを可能にする「逃亡犯条例」改正案を完全に撤回すると表明した。

6月から香港で続いている大規模な抗議運動とそれに伴う香港社会の大混乱は、まさにこの「逃亡犯条例」改正案の提出から始まった。行政長官による完全撤回の表明は、香港だけでなく世界から注目される大事件であり、香港情勢の大逆転でもあった。

ここで浮上した問題の1つは、この決定は中国政府の指示によるものなのか、それとも香港政府あるいは行政長官の独断によるものか、ということである。撤回表明翌日の5日に林鄭は記者会見を行ったが、その中では中国政府の支持を得て香港政府が決定したと発言。

「すべてのプロセスにわたって、中央人民政府はなぜ撤回が必要かを理解している、との立場をとった。中央政府は私の見解を尊重し、一貫して私を支持してくれた」と語った。

この発言からすれば、香港政府は事前に北京政府のお墨付きを得たことになる。だが1つ不可解な点がある。もし林鄭が事前に中国政府の「支持」と「理解」を得ていたのであれば、4日のテレビ演説でなぜ「中央政府の支持と理解を得た」と言わなかったのか。

中国政府は茫然自失?

さらに奇妙なことに、林鄭が記者会見した同じ5日、肝心の中国政府は「理解」や「支持」をいっさい表明していない。それどころか、中国政府のいかなる機関もこの件について言及せず、完全な沈黙を守っている。

中国政府の沈黙は実に興味深い。このような反応(あるいは無反応)を見ると、「事前に中央政府の理解と支持を得た」という林鄭の言い分は怪しい。中国の中央政府はむしろ、彼女からの「不意打ち」を喰わされて茫然自失しているのではないか。

林鄭の発言を否定するもう1つの材料はすなわち、撤回表明の前日の3日、中国国務院香港・マカオ事務弁公室の報道官が記者会見で行った発言だ。

この記者会見の中で、楊光報道官は記者からの質問に答える形で、香港のデモ隊が掲げている5大要求について発言した。彼はそこで、「それは要求でも何でない。赤裸々な『政治的恫喝』であり、『政治的脅し』だ」と述べ、この5大要求を完全に拒否する姿勢を示した。

いわゆる国務院香港・マカオ弁公室は中国の中央政府直轄下の政府部門であるから、この発言は当然、香港市民の5大要求に対する中国政府の正式見解であると理解していい。その当日から翌日にかけて、人民日報海外版や中国国務院弁公室の公式サイトは「過激派の5大要求は赤裸々な政治恫喝だ」と、上述の楊光発言を大きく報じた。

林鄭と周辺の奇妙な動き

つまり、少なくとも9月3日と4日の時点で、共産党政権は香港市民の5大要求に完全拒否の姿勢を貫き、むしろ「政治的恫喝」として厳しく批判していた。そして5大訴求の第1条は「逃亡犯条例改正案の完全撤回」である。5大要求を「政治的恫喝」だと断じて完全拒否の姿勢を示しておきながら、要求の1つである「改正案撤回」を容認するのはあり得ない。

もし、林鄭による撤回表明が中国政府の事前了解と支持を得ていないのであれば、彼女のこの動きは明らかに反乱であり、一種のクーデターと見ていい。そして、林鄭による撤回表明がクーデターであるという視点に立てば、8月末から9月3日にかけて林鄭とその周辺で起きた一連の奇妙な動きの意味が分かってくる。

奇妙な動きの1つはまず、ロイター通信が8月30日、中国政府が林鄭による「改正案撤回」の提案を拒否したと報じたことである。

ロイターが「複数の関係筋」の情報に基づいて報じたところによると、林鄭は今年夏、抗議デモの参加者が掲げる5大要求について検討した報告書を中国政府に提出し、「逃亡犯条例」改正案を撤回すれば抗議デモの鎮静化につながる可能性があるとの見解を示したという。しかし中国政府は、改正案の撤回に関する林鄭の提案を拒否。5大要求の他の項目についても要求に応じるべきではないとの見解を示した。

ロイターが報じた内容を中国政府は一切否定していないから、おそらく事実なのであろう。ここでの問題は、「複数の関係筋」が一体何のために、中国政府と香港政府との極秘のやり取りをリークしたのか、である。

まず考えて見るべきなのは、一体誰がこのリークの受益者となっているかであるが、その答えは簡単だ。林鄭こそがまさにその受益者である。

中国政府に改正案撤回を提案したことが明るみに出たことで、林鄭は一転して香港のために精一杯頑張った良き行政長官になった。それだけでなく、それ以降の混乱拡大に対する責任の大半からも逃れることが出来る。逆に、林鄭からの提案を拒否したと報じられた中国政府は混乱拡大の最大の責任者とされ、大変な窮地に追い込まれた。

もしそうなら、このリークこそ林鄭が中国政府を自分の考える方向へと追い詰めるための、いわば「林鄭クーデター」の第1ステップであると考えられよう。

英語で発言した理由

そして「林鄭クーデター」の第2ステップは、9月3日までに非公開会合における林鄭の重大発言が同じロイター通信にリークされたことである。

ロイターは今月2日、林鄭が実業界の首脳たちとの非公開の会合で「可能なら辞任したい」と発言したと報じた。さらにロイターは3日、約30分間におよんだ林鄭発言の録音の24分間を公開。発言のほぼ全容を明らかにした。

その中で林鄭は、「もしも自身に選択肢があるなら」と断った上で「まずは辞任し、深く謝罪することだ」と述べたうえで、香港の混乱は中国にとって国家安全保障・主権の問題となっているため、自身によって解決する余地は「非常に限られている」と説明した。

彼女はさらに「残念ながら憲法で2つの主人、つまり中央人民政府と香港市民に仕えなくてはならない行政長官として、政治的な余地は非常に、非常に、非常に限られている」と、自らの深い苦悩を吐露した。

「中央政府が撤回提案を拒否した」という情報をリークしたとの同じように、林鄭とその周辺が内部発言を報道機関にリークした可能性は高い。リーク先は前回同様ロイター通信だ。もう一つ、林鄭はこの内部発言を英語で行った点も注目すべきだ。

彼女の話す相手は香港の実業界であったから、本来、香港人が親しんでいる広東語で喋っていても良さそうだ。わざと英語で話したのは、まさにロイターにリークしやすくするための工夫ではなかったか。

この発言で、林鄭は事態収拾の責任を中国政府になすり付けることに成功し、中国政府はより一層窮地に立たされた。これまで習近平政権は、中国政府が直接香港に介入して武装警察や解放軍を鎮圧に動員することは国際社会の反発が強くリスクが大きいから、できるだけ自分たちの手を汚さず香港政府と香港警察に事態の収拾を任せたい、ともくろんでいた。

しかし今、香港政府と林鄭は公然と、責任を中央政府になすり付けてきた。中国政府の思惑は完全に外れ、習政権は自ら矢面に立たされる形で、武力鎮圧に踏み切るかどうかの瀬戸際の判断を迫られている。10月1日の国慶節(建国記念日)が迫る中、残された時間はわずかしかない。

こうしてみると9月4日に突然、逃亡犯条例改正案の完全撤回を発表したのは、実は用意周到な中国政府に対する「林鄭クーデターの完成」ではないのか。 つまり林鄭は、中国政府を武力鎮圧の難しい判断に追い込んだ上で、今度は一転して自ら妥協案を持ち出し事態の収拾に乗り出した。これで林鄭は「何も出来ない行政長官」から一転して、自らで主導権を握ることができる。

中国政府と習近平は簡単に林鄭の改正案撤回を拒否することも反対することも出来なくなった。今さら公然と彼女の撤回表明を拒否すれば、それは直ちに中国政府と林鄭の完全決裂を意味する。中国政府は自ら実力による事態収拾を計る以外になくなったが、経済衰退や米中対立の深まりなどの内憂外患に悩まされている現状で、香港に対する武力鎮圧に踏み切れるだろうか。

「逆撤回」もあり得る?

この原稿を書いている9月6日午前現在、中国政府は林鄭の改正案撤回に正式見解も反応も示していない。習政権は今、どう対処すべきか苦慮している最中なのだ。最後は不本意ながら改正案撤回を受け入れるかもしれない。もしそうなら、それは「林鄭クーテダー」の成功を意味する。

香港人の林鄭は、妥協によって混乱のさらなる拡大を食い止め、人民解放軍による血の鎮圧のような最悪の事態を回避しようとしたのではないか。

中国政府が林鄭の改正案撤回を受け入れたとしても、それが香港の抗議運動の収束につながるとは限らない。あるいは中国政府が林鄭の改正案撤回を「逆撤回」させて本格的な鎮圧に踏み切る可能性もないではない。

香港情勢からは依然として目が離せない。

石平

【私の論評】米国の「香港人権民主主義法案」が決定的な要因の可能性(゚д゚)!

冒頭の記事の、石平氏の見方は、今のところ正しいのか、そうではないのか、すぐに判断するのは難しいかもしれません。しかしながら、一考に値する見方であると思います。

既に香港デモは香港政府も中国政府も扱える範囲を超えており、そのことに対して林鄭長官が中国政府の対応の遅さに業を煮やしたということかもしれません。

いずれにしても、に中国の今回のデモに対する反応は遅きに失したと言わざるを得ないです。天安門事件の反省が、中共を怖気づかせ、なかなか意思決定に踏み切れない状況に追い込まれたのでしょう。

        北京天安門広場近くで起きた民主化運動の学生と軍部隊との
        衝突で負傷し、荷車で運ばれる女性=1989年6月4日

しかし、中国はこれでまともに香港デモと向き合わざるを得なくなりました。ここから中国が暴力的な方向に進まなければ良いのですが、それはいまのところどうなるのか未だ予断を許さない状況にあります。

デモ隊はくれぐれも気をつけて事を進めてもらいたいものです。大陸中国の暴力は度を超えています。彼らには、「まさか」などという考えはあてはまりません。今回中国が武力を用いるとすれば、人民解放軍ではなく、武力鎮圧の専門部隊である武装警察か実行することになるかもしれません。

これは、以前このブログでも述べたことですが、大量の武装警察部隊が動くことになれば、香港に対する武力鎮圧が近づいているとみるべきであり、デモ隊はすぐに引き上げるなどの対応をすべきだと思います。天安門事件の時のように、大きな被害者を出すことは避けていただきたいです。

香港の匿名クリエイター集団が香港政府に対する「5つの要求」をテーマにしたアニメーションを作成し公開、そのクオリティーがあまりにも高いと話題になっています。

いったいどれほどハイクオリティだったのか、百聞は一見にしかず、まずはそのアニメーション映像をさっそくご覧ください。これは日本語版です。


いかがでしょうか、先の大規模デモや行政長官、そして抗議のため自ら命を絶った香港市民などをモチーフに、その闘いの記録と伝えたいことのすべてが、この短いアニメーションの中に凝縮されていることに驚かされます。今回、MAG2 NEWSはあるルートを通じてクリエイターからのアニメ公開の許可をもらいました。クリエイターいわく「作者の名前を掲載することは希望しないが、この動画は広く拡散してほしい」とのことでした。

このアニメが伝えたいテーマは「香港市民による5つの要求」。それは、
1・「逃亡犯条例」を全面撤回すること
2・平和に行われたデモを「暴動」と定義しないこと
3・逮捕されたデモ隊の「罪を撤回」すること
4・職権を乱用した警察の暴行を追及すること
5・林鄭月娥行政長官は責任をとって辞任すること
の5つです。

今回は、林鄭行政長官が「逃亡犯条例」を全面撤回したわけです。その理由は何でしょうか。私の考えでは、やはり米国の「香港人権民主主義法案」が決定的な要因だったのではないかと思います。

同法案は香港デモに関連し、基本的人権や自由への抑圧行動について、香港に付与された(中国本土と違う)優遇措置を取り消し、抑圧行動にかかわる関係者らの米国における資産を凍結し、米国入国を拒否するなどの制裁措置を含んでいます。

特に資産凍結のダメージが大きいです。一部の情報によれば、この「香港人権法案」は9月上旬の米国会で可決される可能性が高いといわれています。もし、この法案が成立すると、それこそ、習近平をはじめとする、中共幹部のほとんどが香港に隠し資産を持っているとされていますから、中共幹部の資産も凍結される可能性があります。

林鄭行政長官条例完全撤回という香港市民側の要求を飲めば、米国の「香港人権法案」が立脚する基盤が崩れ、米国議会で少なくと法案が現状のままでは可決できなくなる可能性があります。
もし、そうだとすれば、石平氏のいうような、香港長官のクーデターではなく、長官は無論のこと中共幹部もこれには同意したものと考えられます。ただし、香港長官のクーデター説もあり得ることです。その場合、長官は中共幹部が反対しないであろうことを前提として、クーデターを行ったということも考えられます。
     「逃亡犯条例」改正案の正式撤回を表明する林鄭月娥行政長官の
     テレビ演説を映す街頭の大型モニター=4日、香港

しかし、真相がどうであれ、香港問題が根底から解決されたわけではありません。たとえ、デモなどの市民運動が今回沈静化したとしても、いつ再燃してもおかしくないです。

さらに、たびたびの騒動で香港の国際金融センターとしての基盤がすでにぐらついています。香港からの資金流出がすでに始まっています。香港から中共幹部の資金が、海外に完璧に流出した段階で、中共幹部の態度が豹変するかもしれません。

そのとき、香港情勢が大きく動くかもしれません。

【関連記事】

「第2の天安門」の懸念が消えない香港デモ―【私の論評】香港のインターネットをはじめとする、あらゆる通信手段がシャットアウトされたとき、中国の香港への武力侵略が始まる(゚д゚)!




2019年9月6日金曜日

「EU離脱」が英国にむしろ好ましいと考える理由―【私の論評】ブレグジット後、安全保障面と自由貿易で日本との関係が深まる英国(゚д゚)!

「EU離脱」が英国にむしろ好ましいと考える理由

一時的な円高や株の大幅安を招く懸念は残る

村上 尚己 : エコノミスト

ジョンソン首相は解散総選挙に持ち込みたいが、簡単ではなさそうだ。市場は今後どう反応するのか

8月22日のコラム「アメリカ株は再度大きく下落するリスクがある」
では、アメリカ株の下振れリスクが依然大きいと述べた。その後、8月23日にダウ工業株30種平均(ダウ平均株価)は2万5500ドル前後まで急落する場面があった。ただ、同29日には米国との関税交渉について中国の姿勢が穏当であることを期待させる報道などをうけて、ダウ平均は約2万6300ドルと、急落前の水準までほぼ戻った。

米中貿易戦争の下振れリスク織りこみはこれから

 アメリカ株市場は、米中貿易戦争に関する思惑で一喜一憂している状況と言える。北京で10月初旬に行われる中国の政治方針を決める会議の前後に、米中貿易戦争が沈静化するとの見方も聞かれる。米中貿易戦争の展開について、筆者は確固たる見通しを持ち合わせていない。だが、両政府が妥協するには至らず貿易戦争は長期化するため、米国が表明する対中関税のほとんどは実現すると想定している。

 問題は、米中による関税引き上げ合戦によって、両国を中心に世界経済がどうなるかである。筆者は、世界貿易の停滞が長引くため、製造業を中心に世界経済の成長率は2020年まで減速すると予想している。これまで利益拡大が続いてきた、アメリカ企業の利益の頭打ちがより鮮明になると見込まれるが、アメリカの株式市場は企業利益の下振れリスクを十分織り込んでいないとみている。

 そして、目先のリスクイベントとして注目されるのが、イギリスの欧州連合(EU)からの離脱問題である。ボリス・ジョンソン氏は7月下旬に保守党党首選に勝利し、政権を発足させると、10月末が期限となっているEUからの離脱を強硬に進める姿勢を強く打ち出した。それ以降、8月中旬まで外国為替市場でポンド安が進むなど、「合意なきEU離脱リスク」が懸念されている。

 10月末の期限までに合意なきEU離脱が実現する可能性は、現状で約40%と筆者は想定している。イギリス議会では合意なきEU離脱を阻止する政治勢力が強いことから、総選挙が想定されるなど今後の政治情勢が大きく変わりうる。どのような結末になるかは、同国政治の専門家ではない多くの投資家にとっても、見通すことは難しいだろう。

 金融市場は、10月末までに合意なき離脱が起きるかどうかの思惑で揺れ動いており、合意なき離脱となれば円高、株安をもたらすと見る向きが多い。筆者が警戒しているアメリカ株の下落は、合意なき離脱への懸念が高まり、市場心理が悪化することによって引き起こされる可能性がある。

 こうした意味で、目先のイベントとしてイギリスのEU離脱の行方を警戒している。ただ、どのような形であれイギリスがEUから早期に離脱することは、同国経済にとってむしろ望ましいと考える(この点は5月30日コラム
「EUへの民衆の支持が一段と落ちると読む理由」ですでに指摘した)。

 2016年以降の約3年間にわたり、EU離脱問題がどのような結末になるか分からないという不確実性が、同国の企業の設備投資を抑制し、成長率を下押ししてきた。EU離脱の行く末がはっきりすれば、抑制されていたイギリス企業の設備投資が増え始める可能性がある。

 もちろん、合意なき離脱となれば、モノ・ヒトの移動などに際して短期的に混乱が起きる可能性は否定できない。ただ、合意なき離脱となった場合は、英国は物品の87%の品目の輸入関税を無税にする暫定措置を発表、また関税職員を増やす対応を行っている。このため、海外からの輸入品が突如途絶えるリスクは限定的とみられる。

英国は合意なき離脱となっても、危機を回避する

 合意なき離脱によって、イギリスの株安、通貨安など金融市場にショックが起こり、金融システムが揺らぐこともリスクだろう。ただ、英イングランド銀行(中央銀行)は、ショックに備えて金融政策を慎重に運営しているが、合意なき離脱となれば利下げに転じ金融市場に流動性を供給する政策に踏み出すだろう。そして、政治情勢は予想できないが、ジョンソン首相は今後政府歳出を大規模に増やすプランを明示している。これらの政策対応によって、仮に合意なき離脱となっても英国は危機を回避すると予想する。

 つまり、今後想定されるイギリスの合意なき離脱は、2016年半ばのEU離脱の是非を問う国民投票後のように一時的に金融市場が大きく動く可能性はあるが、それが世界の景気動向に及ぼす影響は同様に軽微にとどまるだろう。

 むしろ、合意なき離脱となり経済的苦境に直面するのは、イギリスと経済関係が深いフランスを中心としたEU諸国ではないか。イギリスではEU離脱に向けた準備が進んでいるが、イギリスと貿易取引がさかんなフランスなどでは税関などの準備が十分に進んでいない可能性がある。さらに、ドイツでは2019年になってから景気指標の停滞が顕著で、イギリスのEU離脱が引き起こす混乱が、EU諸国の景気停滞をより深刻にするリスクがあるとみている。

なお、自国の経済安定のために、金融財政政策をフルに使える強みをイギリスが持っていることは、アメリカ同様の強みである。EUからの離脱を控え、イギリスはいずれの政権になっても拡張的な財政政策に転じるとみられる。この結果、現時点で緊縮財政政策を続けている主要国は、ほぼ日本だけであることは一層鮮明になっている。

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【私の論評】ブレグジット後、安全保障面と自由貿易で日本との関係が深まる英国(゚д゚)!

冒頭の記事にもあるように、英国の合意なき欧州連合(EU)離脱が「ますます不可避」のように見受けられ、英経済が来年、軽度のリセッション(景気後退)に陥ることになるのは必定のようです。

10月31日の期限を越えることがあるとしても合意なき離脱に至ることが今や英国の基本シナリオであるとみるべきです。

このシナリオをたどる場合、イングランド銀行(中央銀行)は2020年半ばまでに政策金利を50ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)引き下げ、政府は財政支出計画を前倒しすることになるでしょう。

中銀はこれまでのところ、金利はいずれの方向にも動き得るとしていますが、何人かの当局者は利下げの可能性がより高いと述べています。当然そうすることでしょう。

10月31日以降に先延ばしすることなくEU離脱を実現させることが、英国保守党の分裂を防ぎ将来の選挙で勝利するための政治的至上命令だと首相は考えているようです。

経済的リスクは軽く扱われ、緊急対策としての財政支出と金融緩和の効果が強調されています。そうして、これにより、英国経済は比較的短期間で復活する可能性が大きいです。



ところでブレグジット(イギリスのEU離脱)後の英国は、世界の舞台でどのような役割を果たすべきと考えているのでしょうか。テリーザ・メイ元首相ら英政権の閣僚たちは、かなり前からこの問題を検討していました。そして運命の国民投票の数カ月後に、メイとボリス・ジョンソン外相(当時)が示したのが「グローバル・ブリテン」構想でした。

メイは2016年10月の保守党大会で、グローバル・ブリテンとは、英国が「自信と自由に満ちた国」として「ヨーロッパ大陸にとどまらず、幅広い世界で経済的・外交的機会を求める」構想だと説明しました。

なぜなら国民投票の結果は、イギリスが「内向きになる」ことではなく、「世界で野心的かつ楽観的な新しい役割を担う」ことへの決意表明だったから、というのです。

この「世界における新しい役割」には、英海軍がインド太平洋地域で再び活発な役割を果たすことが含まれます。例えば、キム・ダロック駐米大使は2018年、「航行の自由を守り、海路と航空路の開放を維持する」べく、空母クイーン・エリザベスがインド太平洋地域に派遣されるだろうと述べました。

同年にオーストラリアを訪問したジョンソンは、英海軍が2020年代にクイーン・エリザベスとプリンス・オブ・ウェールズの空母2隻を南シナ海に派遣すると語りました。英海軍の制服組トップである第一海軍卿も、2020年代にクイーン・エリザベスを南シナ海に派遣すると語っています。


英国の外交政策はあまりにも長い間、ヨーロッパという狭い地域に縛られていたというのが、英政府高官らの考えです。彼らにとってブレグジットは、イギリスが単独で世界的な役割を果たすチャンスなのです。2018年末のサンデー・テレグラフ紙のインタビューで、当時のギャビン・ウィリアムソン国防相は以下のように語りました。

「(ブレグジットによって)イギリスは再び真のグローバルプレーヤーになる。私はそこで、軍が極めて重要な役割を果たすと考えている。......わが国のリソースをどのように前方配備して抑止力を構築するか、そしてイギリスのプレゼンスを確立するかを、私は大いに検討している。このような機会は極東だけでなく、カリブ海地域にも存在すると考えている」

さらにウィリアムソンは、「今後2年以内に」、極東に軍事基地を設置する計画を明らかにしていました。現時点の候補地はブルネイとシンガポールの2カ所です(イギリスは現在、シンガポールのセンバワン海軍基地に小規模な後方支援拠点を持つ)。

実際、イギリスは近年、東南アジアにおける防衛活動を拡大しています。その根拠となっているのは、1971年に英連邦5カ国(イギリス、マレーシア、シンガポール、オーストラリア、ニュージーランド)が締結した防衛協定(5カ国防衛協定)です。

ウィリアムソンは、2018年6月に開かれたアジア太平洋地域の安全保障会議「シンガポール・ダイアローグ」で、英国は海軍艇を派遣することにより、この地域の海における「ルールに基づくシステム」を強力に支持していくと語りました。「国家はルールに沿って行動する必要があること、そうしない場合にはそれなりの結果が伴うことを明確にする必要がある」

さらに英外務省のマーク・フィールド閣外相(当時:アジア太平洋担当)は昨年8月、訪問先のインドネシアのジャカルタで講演し、英国はアジアで恒久的な安全保障プレゼンスを維持する決意だとして南シナ海における航行の自由と国際法の尊重を各国に促しました。

これまで英海軍の艦艇が極東に派遣されたのは2013年が最後でした。同年、駆逐艦デアリングがオーストラリア海軍の創設100周年記念行事に派遣され、5カ国防衛協定の合同軍事演習にも参加しました。この年は超大型台風ハイエンの被害を受けたフィリピンの人道支援活動のため、軽空母イラストリアスも派遣されました。だが、その後の派遣はぱったり途絶えていました。

昨年晴海埠頭に入稿した英海軍揚陸艦「アルビオン」
状況が変わったのは2018年4月でした。英国は朝鮮戦争以来となる海軍艇3隻を極東に派遣しました。強襲揚陸艦アルビオンは、オーストラリアとニュージーランドに寄港し、5カ国防衛協定の合同軍事演習に参加しました。対潜フリゲート艦サザランドとフリゲート艦アーガイルは、日米韓合同軍事演習に参加するとともに、北朝鮮に対する経済制裁の履行監視活動に参加しました。

南シナ海では、英海軍とフランス海軍の合同チームが、航行の自由を確保するための哨戒活動を実施。アルビオンも8月に日本に寄港後、西沙群島(パラセル)近海で哨戒活動を行い、ベトナムのホーチミンに親善目的で寄港しています。米海軍との合同演習も、この地域における英海軍のプレゼンス強化をアピールするものになりました。

英国がインド太平洋地域に再び強力に関与するようになった背景には、3つの大きな要因があります。

第1に、英国はブレグジット後、EU加盟国としてではなく、独立した存在として世界における役割を規定しなければならないということがあります。その点、英国の貿易額の12%が通過する南シナ海、さらにはインド太平洋地域の安定と、ルールに基づく国際秩序の形成をサポートすることは、外交的にも経済的にも理にかなっています。

従って北朝鮮に対する制裁と、南シナ海における航行の自由を維持するために、5カ国防衛協定の加盟国やアメリカなどの同盟国、さらには日本などの安全保障パートナー諸国との協力が今後も重要になります。

第2に、インド太平洋地域は世界経済の成長のエンジンであり、英国はその成長に便乗する必要があります。このことがオーストラリア、日本、韓国、シンガポール、ベトナムとの自由貿易協定交渉、さらには「包括的かつ先進的TPP協定(CPTPP)」の交渉につながります。

第3に、インド太平洋地域の防衛に関与するには、イギリスの海軍と先端軍事技術、さらには安全保障パートナーとしての「頼りがい」を世界にアピールする必要があります。そこで英政府が積極的に進めているのが武器取引です。

ストックホルム国際平和研究所が発表した2013〜2017年の世界武器輸出国ランキングで、イギリスは6位に入りました。2017年だけでもイギリスの武器輸出額は1130億ドルに上ります。輸出先のトップ3はサウジアラビア、オマーン、インドネシアです。2018年には対潜フリゲート艦9隻の調達契約260億ドル相当をオーストラリアと締結しました。

かつて大英帝国の基礎となった植民地政策はあり得ないですが、ブレグジット後のイギリスの世界戦略にも、歴史ある海軍の力が欠かせないようです。そうして、ブレグジット後の英国は、安全保障面でも、自由貿易でも日本との関係が深まりそうです。

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2019年9月5日木曜日

長期金利マイナスの明と暗 金融機関の経営に悪影響も…インフラ整備の絶好のチャンスに―【私の論評】日本は財政破綻するとされマイナス金利なのに、なぜ日本の投資家は日本国債を買い続けるのか?

長期金利マイナスの明と暗 金融機関の経営に悪影響も…インフラ整備の絶好のチャンスに

国債市場で8月29日、長期金利の指標となる新発10年債の終値利回りが、マイナス0・290%となった。2016年7月下旬以来、約3年1カ月ぶりの低水準で、過去最低のマイナス0・300%に迫った。その後はややマイナス幅を縮小しているが、長期金利のマイナスが拡大した背景は何か、経済にどのような影響を与えるのか。

 イールドカーブ(期間別の金利)を見てみよう。8月30日の国債利回りは6カ月がマイナス0・280%、1年がマイナス0・263%、2年がマイナス0・304%、7年がマイナス0・375%、10年がマイナス0・273%だった。



 これに対し、1年前は6カ月がマイナス0・140%、1年がマイナス0・111%、2年がマイナス0・108%、7年が0・019%、10年が0・114%。

 つまり、1年前は順イールド(長期金利が短期金利を上回る)だったのが、今や7年までは逆イールドになっている。

 米国では、2年と10年の金利が逆転すると、景気の先行きが怪しい兆候といわれている。日本でみると、形式的には、2年と10年とで金利逆転はないが、2年と7年とではかなりの金利逆転になっている。

 一般論として、長期金利は将来の短期金利の積み合わせになっている。2年金利は1年金利と1年後の1年金利、3年金利は2年金利と2年後の1年金利によって決まる。つまり、10年金利は、今の1年金利、1年後の1年金利、2年後の1年金利…9年後の1年金利によって決まる。10年金利が今の1年金利より低いというのは、これからの1年金利が今より低いと予想されることを意味する。

 日本経済に当てはめると、今後7年間は景気の先行きが明るくないとなる。少なくとも1年前は、そこまで先行きの不安はなかったが、不透明感がかなり増しているというわけだ。

 その原因は、(1)米中貿易戦争の激化(2)10月末の英国の合意なき欧州連合(EU)離脱(3)ホルムズ海峡の不安(4)日韓関係の泥沼化(5)日本の10月からの消費増税-が考えられる。

 長期金利のマイナスそれ自体は、金融機関経営にとっては、利ざやが取れないので悪影響がある。しかし、実体経済にとっては、金利負担なしで長期資金が借りられるので設備投資の絶好のチャンスだ。不動産投資や住宅投資はかなり良好である。

 政府は、この機会にインフラ整備をどんどん行ったほうがいい。長期金利がマイナスというのは、ほぼ全てのインフラ投資について、費用対効果を算定すれば、投資が正当化できることを意味する。

 具体的にみると、南海トラフ巨大地震や首都直下地震は確実にやってくるので、今の時期に防災対策投資を行うべきだ。さらに、教育、研究開発や国防等でも、政府は国債をもっと多く発行し、それらの施策の費用とすべきである。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】日本は財政破綻するとされマイナス金利なのに、なぜ日本の投資家は日本国債を買い続けるのか?

上の記事は、高橋洋一氏の解説は、理解しやすく、かつ必要十分であり、これに対して何か付け加えることなどおこがましくてできません。

そこで、このブログでは、もっと根源的というか、基礎的なことを掲載しようと思います。そもそも、日本国債はマイナス金利なのになぜ購入されるかということを掲載します。日本の国債がマイナス金利でも購入されるということがなければ、当然のことながら上の高橋洋一の主張も成り立ちません。

一般に日本政府は巨額の財政赤字を毎年計上しているとされています。これは、このブログでは過去に何度も解説してきたので、このブログの読者なら、財務省の嘘であることはご存知だと思います。

その理屈は、財務省が指摘する国の借金とは、政府の負債のみを言っているだけであって、そのため、借金が1103兆円という莫大な金額に膨れ上がっているとされています。現在税収等が62兆円程度ですから、その18倍の借金を抱えている計算になるとされています。

昨年の新聞記事より。まるで、財務省の広告塔のよう。

ところが、世界で一番資産を持っている、日本政府の資産を計算に入れる相殺すると、政府の借金はトータルでかなり少なくなり、これであると米国や英国などより、良いということになります。さらに、日本政府と日本銀行(日本の中央銀行)をトータルした統合政府ベースでいうと、すでに財政再建は終了したと言っても良いような状況です。

統合政府ベースで比較しても、無論日本政府の財務状況は、米国や英国、その他諸外国の財務状況と比較してもかなり良い水準にあります。このあたりは、ここで解説していると長くなってしまうので、過去のこのブログの記事を参照していただきたいと思います。

しかし、財務省が嘘を吐きつづけ、何が何でも増税しようとしているので、そのことをはっきり認識している人は金融関係の人でも少ないようです。一般の人ではなおさらです。

そこで、投資家や金融機関の中にも「借金が返済できそうな気がしないので、日本政府は、将来いつかは破産するのだろう」と考えている人は多いはずです。にもかかわらず、投資家や金融機関は喜んで日本国債を買っているのです。ゼロ金利や、マイナス金利ても買っているのです。
それはなぜかといえば、結論から言ってしまえば、「他の選択肢よりはマシだから」「長期的には不安だけれど短期的には安心だから」ということだからなのです。

民間企業が売上高の18倍の借金を抱えていたら、直ちに倒産しそうですが、なぜ政府は倒産しないのでしょうか。それは、皆が喜んで政府に金を貸している(日本国債を購入している)からです。

黒字倒産という言葉があるように、黒字赤字と倒産とが直接関係しているわけではありません。銀行の取り付け騒ぎもそうですね。銀行が赤字だろうと黒字だろうと「あの銀行は倒産しそうだ」という噂が流れて預金者たちが一斉に預金を引き出しに走ると、本当に資金繰りがつかなくなって破産しかねないわけです。

つまり、企業も銀行も政府も、資金繰りがつかなくなった時に倒産するのです。これを反対から見れば、どれほど巨額の赤字を続けていても、あるいは巨額の赤字あると思われ続けても、資金繰りが付いている間は倒産しないのです。

そこで疑問がわいてきます。なぜ投資家や金融機関は「売上高の18倍の借金のある民間企業には金を貸さない」一方で「税収の18倍の借金あると彼らが信じて疑わない日本政府には金を貸す」のか、ということです。

しかも、強制されたわけでもないのに、マイナス金利の長期国債を自発的に買っているのです。これって、普通に考えれば異常としか言いようない行為ではありませんか?

しかし、日本政府に関しては、他に選択肢が乏しいのです。日本政府が破産する時は、日本政府の子会社である日本銀行も、日本国内のメガバンクも、破産を免れないはずです。

「日本政府が破産するといけないから、日本政府には貸さない(日本国債は購入しない)と」なると、手元の資金を日銀に預けても、日本銀行券を大量に持っていたとしても、安全性が増すわけではありません。メガバンクに預金しても、日本政府が破産する時はアウトになるでしょう。

そうなると、円をドルに替えてドルを持つしかありませんが、その場合には為替リスクを抱えることになります。


「とりあえず、今日から明日までの運用を考えよう。明日以降のことは明日考えよう」と投資家が考えたとします。「明日までに日本政府が破綻する可能性は非常に小さい」一方で「明日までに円高ドル安で損するリスクは小さくない」ということならば、「とりあえず明日までは国債で運用しよう」ということになりそうです。

明日以降も全く同じことが繰り返されれば、日本人投資家はずっと日本国債を持ち続けることになるでしょう。「長期的には不安だけれど、短期的には安心だ」ということで短期の投資が繰り返され、結果として長期間にわたって投資が続くことになります。

日本人投資家にとって心強いのは、「他の日本人投資家も同様の投資行動を採るとすれば、少なくとも当分の間は日本政府が破綻することはなさそうだ」と思えることでしょう。そうしてお互いに「意図せざる励まし合い」が行われているわけです。

この点も、社債と異なるところです。社債については、他の投資家が当該社債を買うとは限りません(というか多分買わないでしょう)から。

もちろん、日本人投資家が米国債を全く持たないわけではありません。「為替リスクはあるけれど、ドル高で儲かるチャンスもあるし、そもそも米国債は日本国際より金利が高いので魅力的だ」と言えるからです。

そこで、分散投資として資産の一部を米国債等で持っている投資家は多いのですが、それでも比較的多くの部分は日本国債で持っている投資家が多いです。

日本人投資家から見ると、日本国債は「信用リスクはあるが、為替リスクがないので、相対的に安全な資産だ」と言えるわけですが、外国人から見ると違います。彼らにとっては日本国債は「信用リスクも為替リスクもある、相対的にリスクの大きい資産だ。しかも金利も低い」ということになるからです。

そのため、外国人投資家は、あまり日本国債を持っていません。分散投資として持っている場合や、資金繰り上の理由で短期国債を持っている場合などもありますが、いずれも積極的に持っているというわけではありません。

日本は経常収支が黒字で、対外債権国(海外にお金を貸している国)ですから、政府は外国人から借金をする必要を感じていないわけですが、仮に経常収支が赤字で外国人から借金をしようと思ったら、結構大変です。

彼らは円建ての日本国債を持ちたいとは思わないので、外貨建てで借りることになるわけですが、たとえばドル建であれば、米国債と競合するので、米国債より高い金利を支払う必要があります。最無償が喧伝しているように、本当はそうではないのに、日本政府のような巨額の借金をしている相手には、よほど高い金利でないと貸したくないと考えるのが普通です。

それだけではありません。彼らが不安になって資金を引き揚げると大変なことが起きかねないのです。

政府は、最初に満期が来た国債を償還するためにドルを買いますが、そのドル買いでドルが値上がりします。次に満期が来た国債を償還するためのドル買いが、さらにドルを値上がりさせます。次々と償還のたびにドルが高くなり、最後には天文学的な値段になってしまうかもしれません。

そうなると、ますます日本政府は破産するという思惑が投資家の間で広がるでしょう。それが日本人投資家のドル買いを招くようなことになったら大変です。日本政府の子会社が発行している日本銀行券が紙屑になる前にドルに替えておこう、というわけですね。

日本の経常収支が黒字で、日本が対外純金融資産(外国に貸し付けているお金)が世界一であることが、たとえ、財務省が消費税増税のために、日本が大借金国だとアピールしたにしても、日本政府の破産を防いでくれているのだ、ということをしっかり認識したいものです。

 テレビで報道されるように、日本は海外純資産が世界一というのではなく、
 対外純金融資産(外国に貸し付けているお金もしくはお金にすぐ変えられる資産)
 が世界一である。
無論対外純金融資産が世界一だからといって、世界一裕福とは必ずしもいえません。たとえば、米国は対外純金融資産がマイナス300兆円ですが、これは米国が基軸通貨国であり、もともとこれがマイナスになりやすい体質があるからです。

そうして、日本がなぜこのように対外純金融資産を抱えるようになったかといえば、国内が長い間デフレで、めぼしい投資先がなかったので、海外に投資したということもあります。

ただし、基軸通貨国でもないし、特別な理由もないのに、対外純金融資産がマイナスすなわち、対外純金融負債を抱えている国は、確かに借金国ということができます。しかし、日本はその真逆であり、どう考えても少なくとも借金国ではありません。

もし、日本の経常収支が赤字で、日本が対外負債国(外国からお金を借りている国)であり、かつ財務省が日本は借金大国であると喧伝していたとしたら、とうの昔に日本政府は破産していたことでしょう。

そうではないからこそ、財務省がいくら日本は大借金国であると喧伝し続けても、日本は未だに財政破綻もせず、マイナス金利であってさえ、多くの投資家が日本国債を買い続けているのです。

ただし、賢明な投資家の中に、このことをはっきり認識して、投資を行っている人もいるとは思います。そういう人は、理解していない人よりは、投資効率の良い取引をしているのではないかと思います。

ただし、金融機関の中にはこれを理解しない人が幹部の中にも多いようです。そういう人に限って、現状の低金利、マイナス金利に文句たらたらで、将来の金融機関はどうあるべきかなどの明確なビジョンも持っていないようです。

ちなみに、かつてある金融機関の幹部の人何人かに、なぜ「おたくの会社は日本が財政破綻するのに、国債を購入し続けるのか?」とか「本当に日本が財政破綻するというのなら、それで儲けること(クレジット・デフォルト・スワップ等)ができるはずなのに、なぜをそれをやらないのか?」などと質問したこともありますが、満足に答えられませんでした。無論金融機関の人全部がこのような有様ではないとは思いますが、それにしても困ったものです。

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2019年9月4日水曜日

驚きの事実、韓国は北朝鮮内を偵察できていなかった―【私の論評】今のままだと、韓国は周辺諸国からは安保でも経済でも「どうでも良い」国に成り下がる(゚д゚)!

想像以下だった情報収集力、GSOMIA破棄で打撃を受けるのは韓国

(古森 義久:産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授)

安倍総理と文在寅大統領

 韓国の日韓軍事情報包括保護協定(GSOMIA)破棄は日韓両国にどのような影響を与えるのか。さまざまな意見が飛び交うなか、朝鮮半島の軍事情勢に精通した米国の専門家が、同協定の破棄は韓国側にとってきわめて不利になるという見解を公表した。日本は偵察衛星を使って北朝鮮内部のミサイル発射の動向などを探知できるが、韓国にはその能力がないからだという。元米軍高官の同専門家は、今回の韓国の措置は米韓同盟を傷つけ、北朝鮮や中国を有利にするだけだとして厳しく非難している。
日本と韓国の情報収集ギャップ

 同専門家は、現在ワシントンの安全保障研究機関「民主主義防衛財団(FDD)」の上級研究員を務めるデービッド・マックスウェル氏である。マックスウェル氏は韓国のGSOMIA破棄についての見解を、防衛問題専門紙の「ディフェンス・ニュース」(8月29日号)に論文として発表した。

デービッド・マックスウェル氏

 マックスウェル氏は米国陸軍の将校として在韓米軍・参謀本部に勤務した経験を持つ。在韓米軍では特殊作戦部長を務めたほか、在日米軍や国防総省にも勤務した。陸軍大佐として2011年に退役した後は、米国防大学やジョージタウン大学で朝鮮半島の安全保障などについて教えると同時に、FDDの研究員としても調査や研究を続けてきた。

「韓国は北朝鮮とその支援国の手中に陥っている」というタイトルの同氏の論文は、韓国が日本との軍事情報を交換する協定の破棄を決めたことの誤りや危険性を強調していた。

 同論文がとくに注目されるのは、韓国には人工衛星で北朝鮮内部の軍事動向を探知する偵察能力がまったくないという指摘だった。一方、日本にはその偵察能力があるから、GSOMIAの破棄はむしろ韓国にとって不利な状況を招くという。

その点について同氏の論文は以下のように述べていた。

「韓国と日本は2016年11月に、北朝鮮の弾道ミサイル発射と通常戦力作戦に関する秘密情報を含めた軍事情報を交換する協定『GSOMIA』に調印した。だが韓国側の人工衛星による情報取得の能力は、南北軍事境界線の南側の領域対象だけに限られている。一方、日本の自衛隊は、軍事境界線の北側の北朝鮮軍の動向を偵察できる偵察衛星数機を保持している。GSOMIAはこうした両国間の情報収集ギャップを埋める協定だった」

 マックスウェル氏はこれ以上は韓国の偵察衛星の能力には触れていなかったが、韓国が現在にいたるまで北朝鮮領内を偵察できる独自の人工衛星を保有していないことは韓国側からの情報でも明らかとなっていた。

断られた偵察衛星の「レンタル」

 考えてみれば、これは驚くべき現実である。北朝鮮は長年、韓国を公然たる敵とみなし、いつでも軍事攻勢をかけられるかのような言動をとってきた。トランプ政権の圧力により最近こそ敵対的な姿勢は後退したかに見えるが、北朝鮮の韓国に対する軍事的脅威は変わってはいない。

 その韓国が、北朝鮮内部のミサイル発射や地上部隊の進撃の動きをつかむ人工衛星を保有していないというのだ。

 韓国の中央日報などの報道によると、韓国政府は2017年8月に、レーダー搭載衛星4機と赤外線センサー搭載衛星1機の計5機の偵察衛星を2021年から3年の間に打ち上げて運用するという計画を発表した。しかし、この計画が完成する2023年まで、つまり2017年から約6年間は、北のミサイル発射の兆候を探知する方法がない。そこで、韓国軍は偵察衛星の「レンタル」というアイデアを思いつき、諸外国に打診したという。

 このあたりの実情は日本でも産経新聞の岡田敏彦記者が2017年9月に詳しく報道していた。韓国政府はイスラエル、ドイツ、フランスの3国に偵察衛星の借用を求めたが、いずれも断られたというのだ。その結果、現在にいたるまで韓国は独自の北朝鮮偵察用の衛星を持っていない。この韓国の態度を、岡田記者は楽観や怠慢が原因だとして批判していた。

 一方、日本は北朝鮮のテポドン・ミサイルの脅威への自衛策として、2003年頃から北朝鮮の軍事動向を探知できる人工偵察衛星の打ち上げ計画に着手した。2013年には光通信衛星とレーダー衛星という2種類の偵察衛星を打ち上げて組み合わせることで、北朝鮮内部の動きを探知できるようになった。

 人工衛星はその後、機能強化、追加の打ち上げなどを経て、現在も光通信衛星2機、レーダー衛星5機の運用体制が保たれているという。つまり、北朝鮮内部の危険な軍事行動を察知する人工衛星の情報収集能力は、韓国よりも日本のほうがずっと高いということなのだ。
 マックスウェル氏は、だからこそ韓国が日本との軍事情報交換の協定を破棄することは賢明ではないと断じるのだ。北朝鮮の軍事動向に関する情報源は、もちろん人工衛星以外にも北朝鮮内の通信傍受やスパイや脱北者からの通報など多々あるが、偵察衛星の役割も非常に大きいといえる。
 米国の人工衛星での情報収集能力は、言うまでもなく日本よりずっと高い。韓国政府はGSOMIAがなくても、これまでと同様に米国からその情報を入手することができる。だが、それでも日本からの情報を遮断する措置は害はあっても益はない、ということだろう。

米国にとっては「裏切り行為」

 マックスウェル氏はこの論文で、韓国のGSOMIA破棄が米韓同盟に悪影響を与える点も強調していた。

 同論文によると、トランプ政権のエスパー国防長官は、8月に韓国を訪問して文在寅大統領と会談した際、GSOMIAの継続を相互に確認し合ったと解釈していた。だから、米側は文政権の今回の措置を裏切り行為に近いと捉えているという。

 また同論文は 韓国の措置が米国の政策にも害を及ぼし、逆に北朝鮮とその背後にいる中国やロシアを利することになる点を強調して、韓国政府への非難を繰り返していた。

【私の論評】今のままだと、韓国は周辺諸国からは安保でも経済でも「どうでも良い」国に成り下がる(゚д゚)!

冒頭の記事にあるような内容は、軍事専門家や評論家の間ではよく知られた事実です。このブログでも、これに近い内容は過去の記事にも掲載してきました。ただし、散発的に掲載したもので、上記のようにまとまった内容ではなかったので、本日掲載させていただくことにしました。

米国・日本・韓国の3カ国間による軍事協定が存在することの意味は、対北朝鮮・対中国という反共を目的とした軍事協定に他ならないです。その軍事協定を韓国が破棄するということは、韓国が日米との自由主義協定を捨て去ることを意味しています。

日韓におけるGSOMIA【軍事情報に関する包括的保全協定】は3年前の2016年11月23日に締結されました。協定は1年ごとに自動更新されることになっており、更新しない場合は3ヶ月前に申し出なければならないですが、奇しくも昨日8月23日はその更新を決める締め切り日に当たる日でした。

日韓GSOMIA協定は朴槿恵前大統領のときに締結された

この図ったかのようなタイミングの良さは、韓国にとっては、まさに渡りに船で、日本の輸出規制のせいでGSOMIAを破棄しなければならなくなったとうそぶくことが1つの目的なのだろうと考えられます。

もともと、文在寅氏は左翼革命家(出身は人権派弁護士)として南北朝鮮を統一するという目的を持った人物です。ところが、マクロ経済の理解が乏しいせいか、左翼的な経済政策が失敗し、米朝問題では存在感を示せずに蚊帳の外に置かれ、日韓問題でも、行き過ぎた反日政策が仇となり、もはや切り札としての「反日」というカードには使用期限が付いてしまっていました。

この八方塞がりの状況を打破しない限り、文在寅氏は、かつてのその他多くの韓国大統領達と同じような末路を辿ることが予感されていました。

そのためでしょうか、やぶれかぶれとなり、自国のゴールにオウンゴールするという奇策を講じました。一見すると、狂ったかのような行動にも見えますが、当の本人は至って、本気なのかもしれないです。

韓国が「GSOMIAを破棄したのは日本のせいだ」と米国に吹聴することで日米間の信頼に亀裂を生じせしめ、その隙に北朝鮮に擦り寄ることを計画しているのかもしれないですが、そんな子供騙しの計画は、当初から成功する可能性は限りなく0に近いものでした。そのような幼稚な策に騙されるほど世界の目は節穴ではありません。

このままいくと、近い将来、軍事的関係としては、(米国+日本+台湾)vs(中国+北朝鮮+韓国)という構図になっていくのかもしれないと思う人も多いかもしれません。

しかし、私はそうではないと思います。おそらく(米国+日本+台湾)vs(中国+北朝鮮+ロシア)という構図になっていくことでしょう。ただし、それは見かけだけのことで、各国それそれぞれが、それぞれの思惑があり、その思惑がありながらも、外見上は上記のような構図で動いていくということになるでしょう。

ただし、(米国+日本+台湾)は、各々の国の思惑があるとはいえ、それは互いにあまり離反することはなく、大きな共通の目的があり、(中国+北朝鮮+ロシア)ほど各々の思惑が離反していることはありません。

ただ、(米国+日本+台湾)(中国+北朝鮮+ロシア)これらすべて国々に共通する考えがあります。それは、南北朝鮮の統一などではなく、朝鮮半島の現状維持です。北と韓国が分離された状態が続くことを望んでいるのです。

どの国も朝鮮戦争終了後の秩序をそのまま維持することを望んでいます。この事実を文在寅は見誤ったのです。特に、北朝鮮は統一を望んでいると、錯覚したのです。

金正恩の望みは、一つであり、それは金王朝の存続です。どのような形であれ、朝鮮半島の南北を統一してしまえば、チュチェ思想を学んだこともなく、金王朝にもともと尊敬の念などない韓国人が北朝鮮にも多数入ってくることになります。

金正恩の望みは唯一、金王朝の存続

そのようなことは金正恩は到底許容できません。にもかかわらず、南北統一に関心があるように、文在寅にみせかけたのは、一重に苦しい制裁逃れをしたかったからです。しかし、文は金のその腹を読むことができず、南北統一で舞い上がってしまったのです。

この状況では、韓国は、自由主義陣営にも、共産主義陣営にも入れないでしょう。おそらく、安全保障上は空き地のような存在になるでしょう。

なぜなら、北朝鮮にとって中国は親の友人ではなく、その証左として、金正恩は、自分の叔父である張成沢氏を処刑し、自分の兄である金正男氏を暗殺しました。両名とも、かなり中国に近い存在でした。

金正恩は、中国の干渉を極度に嫌っています。そのため、北朝鮮と北朝鮮の核が中国の朝鮮半島への浸透を防いでいます。これに関しては、韓国が自由主義陣営から抜けても、同じことでしょう。

まかりまちがって、中国が韓国に軍隊を送ろうとしたり、送った場合、北朝鮮はそれを歓迎することなく、中朝国境付近と38度線の軍備を増強したり、短距離ミサイルの発射を繰り返し、中国と韓国を恫喝するでしょう。

このようなことになれば、南北統一を目指して、韓国が自由主義陣営から抜け出せば、安全保障上は空き地のような存在となり、経済的にも日米からの支援がなくなり、中国も支援することなく、かなり経済が疲弊することになります。

おそらく、韓国の経済は北朝鮮よりはましという程度のものになるでしょう。

それでも韓国は、表面上は共産主義をとりいれたようにみせかけるかもしれませんが、中国にはまともに相手にされないでしょう。無論ロシアも経済的に疲弊した韓国には何の興味ももたないでしょう。

かくして、韓国は、周辺諸国からは「どうでも良い」国になります。ただし、日米は韓国に北や中国の軍隊が入ることを許容しないでしょう。中露は、米軍が再び韓国に入ることを許容しないでしょう。

もし、そういう状況となり、韓国が安全保障上も経済的にも無意味な存在なれば、歴史的には文在寅大統領が韓国を滅ぼしたということになる可能性があります。実際今のままだと、そうなる可能性か高いです。それに、もうすでにそうなりかけています。

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2019年9月3日火曜日

「第2の天安門」の懸念が消えない香港デモ―【私の論評】香港のインターネットをはじめとする、あらゆる通信手段がシャットアウトされたとき、中国の香港への武力侵略が始まる(゚д゚)!

「第2の天安門」の懸念が消えない香港デモ

岡崎研究所

「逃亡犯条例」の改正をめぐって始まった香港の抗議デモは、10週を超え、空港や市内の交通機関を麻痺させるほど展開を見せている。これに対して、中国共産党は、人民解放軍を香港の近くに集結させる等、「第2の天安門事件」が香港において起こりうるような状況が出てきている。

中国人民解放軍

 8月8日付の英エコノミスト誌は、天安門事件のようなことにならないようにとの希望、期待を表明し、そういうことになった場合、「中国の安定も繁栄も」悪影響を受けると中国に警告している。しかし、中国の共産党指導部がどう考えるか、予断を許さない状況である。

 ここで思い出される事件は、1968年のソ連軍のチェコ侵攻である。まさかソ連がそこまで乱暴なことはしないであろうと考えていたが、間違いであった。8月21日、タス通信が、「ソ連はチェコ人民に友好的援助を提供することにした、その援助には軍事的手段によるものも含まれる」と報じ、ソ連軍は、チェコに軍事侵攻した。実は、この侵攻の前に、赤軍とワルシャワ条約機構の軍隊がチェコ周辺で演習をしていたことが、あとから分かった。

 今回も、香港に近い深圳で人民解放軍が演習をしている。部隊が集結している。それを踏まえて、トランプ大統領は、中国に自制を求め、習近平主席に香港のデモの代表者らと対話することを訴えているが、習近平がそれに応じる気配は今の所ない。

 人民解放軍は、香港自治政府の要請があれば、いつでも出動する用意があるとしており、国務院の香港担当部局は、我々の自制を弱さと受け取ってはならないと警告を発している。

 香港の抗議デモ隊の側も、香港自治政府側も、不信を乗り越えて対話するなど、事態を鎮静化する方向で努力すべきであろう。逃亡犯条例改正問題は、抗議者側が実質的にそれを阻止することに成功した。更なる民主化をという気持ちはわかるし、警察のやり方への憤懣もわかるが、ほどほどに要求を抑える必要がある。香港独立、香港人が主役の香港など実現不可能である。香港の特別な制度は2047年までは続くことになっている。その制度、地位を守るためには、多少の妥協も必要になろう。

 中国は、米国の策謀、テロの兆しを指摘し、軍事介入した場合の口実作りをしている気配がある。また、中国のこの問題への対処ぶりは、外交上の考慮よりも内政上の考慮で決められる可能性が高い。新疆ウイグル、チベット自治区の現状を見ても、香港の将来が明るいとは決して言えないだろう。1989年と比べても中国は大きくなりすぎた。1997年に、香港の「一国二制度」が50年間続けば、中国も民主化するのではないかと言われていたことが、幻想であったことは、今日の状況を見れば明らかである。

 そんな中、8月20日付の米ウォールストリート・ジャーナル紙に、米上院院内総務のマコーネルが、香港のデモを支持する論説を掲載した。マコーネル院内総務は、香港の問題は北京の国内抑圧の強化と海外での覇権追求の結果である、香港の自治が侵食されれば米上院は対応措置を取っていく、中国は混乱を回避すべきであると述べている。中国が香港に武力介入することがあれば、すぐに米国議会が何らかの措置を取ることになるだろう。トランプ大統領も習近平主席に対して、香港に武力介入したら議会が対抗措置を取るから、貿易で取引も出来なくなってしまう、だから止めてほしい、と述べている。

【私の論評】香港のインターネットをはじめとする、あらゆる通信手段がシャットアウトされたとき、中国の香港への武力侵略が始まる(゚д゚)!

まずは、冒頭の記事にもある、1968年のソ連軍のチェコ侵攻について振り返っておきます。



チェコスロヴァキアでは、1948年に成立したチェコスロヴァキア社会主義共和国のノヴォトニー共産党第一書記による政権のもとで、経済の停滞と言論の抑圧などに対する不満が強まっていました。1968年に民主化運動が盛り上がり、ノヴォトニーは辞任、後任にドプチェクが就任しました。

ドプチェク第一書記は、路線の転換と民主主義改革を宣言、一気に「プラハの春」と言われた改革を実行しました。3月にはノヴォトニーは大統領も辞任、代わって第二次世界大戦の国民的英雄スボボダが選出されました。ドプチェクの改革は社会主義を否定するものではなく、「人間の顔をした社会主義」という言葉で示されるように、国民の政治参加の自由、言論や表現の自由などを目指すものでした。

この動きに対してソ連のブレジネフ政権は社会主義体制否定につながると警戒し、介入を決意、1968年8月20日にソ連軍を主体とするワルシャワ条約機構5カ国軍の15万が一斉に国境を越えて侵攻、首都プラハの中枢部を占拠してドプチェク第一書記、チェルニーク首相ら改革派を逮捕、ウクライナのKGB(国家保安委員会)監獄に連行しました。

これがチェコ事件と言われるもので、全土で抗議の市民集会が開かれ、またソ連の実力行使は世界的な批判を浴びました。スボボダ大統領は執拗にドプチェクらの釈放を要求、ソ連は釈放は認めましたが、ソ連軍などの撤退は拒否しました。

当時世界は、まさか当時(戦後23年、社会主義国チェコ・スロバキア独立より20年)のソ連が、ソ連軍を主体とするワルシャワ条約機構5カ国軍の15万人もの軍隊をチェコに侵攻させるとは思いもよりませんでした。

こうした苦い経験があるからこそ、上の記事では「第2の天安門事件」が香港において起こりうることを憂慮しているのです。

しかし、香港が大英帝国の統治下にあったときから、今日に至るまで、香港は他国から武力侵攻を受けた歴史はありません。日本軍も、香港には武力侵攻していません。あくまで、平和的に英国から行政権を移譲という形式で統治しています。

なぜ、香港が武力侵攻されなかったのか、それにはそれなりの理由があります。

それについては、以前このブログにも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
香港騒動でトランプは英雄になる―【私の論評】トランプの意図等とは関係なく、香港の自治が尊重されないなら、米国は香港を中国と別の扱いにすることはできない(゚д゚)!

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、現在の香港が中国の武力侵攻を受けにくい理由に関する部分のみ以下に引用します。
 ところが、まずそうした状況にはならないだろうと楽観視しているのは香港の事情に精通する米国人ジャーナリスト、ワシントン・ポストのマーク・セッセン記者だ。 
「中国の軍隊が香港に侵入し、香港市民の抗議デモを鎮圧するのはかなり難しいのではないのか。軍隊を出動させても抗議デモを天安門の時のように鎮圧できないからだ」 
 その理由を3つ挙げている。 
 1つは、香港の地形だ。香港島、九龍半島、新界と235余の島からなるが、山地が全体に広がり、平地は少ない。香港島北部の住宅地と九龍半島に人口が集中している。 
 市街は曲がりくねった狭い迷路だらけ。それに坂が多い。重装備の戦車や装甲車が活動するには極めて不適切だ。 
 2つ目は、今回の抗議デモには指導者がいないし、1か所を叩いてもすぐほかの場所で抗議デモが始まる。モグラ叩きのようなものだ。 
 現在は6月に200万人デモを行った民主派団体「民間人権陣線」が抗議活動の指揮を執っているようだが、市民は自然発生的に広がっている。 
 3つ目は1989年の天安門事件の当時にはなかったSNSをはじめとするインターネットの普及だ。市民間のコミュニケーションの手段になっているだけでなく、中国軍の一挙手一投足が動画で世界中に流れる。 
 中国政府の全く統制の取れない状況下で中国軍対香港市民の武力衝突→多数の死傷者といった事態が同時多発的に全世界に流れる。 
 それが習近平国家主席と中国共産党にとってどんな意味を持つか。知らぬはずがない。 
https://www.washingtonpost.com/opinions/2019/08/15/china-does-not-have-upper-hand-hong-kong-trump-does/
確かに、香港は市街戦をするにしても、なかなかできそうにもありません。攻める側は相当苦戦と犠牲を強いられるでしょう。

デモ隊の鎮圧もかなり困難を極めるでしょう。

実は香港には、すでに中国人民解放軍(PLA)の守備隊約5000人が駐屯しています。ただし、これは返還後から続いていることで、ふだんは存在感が薄く、中国の主権を示す象徴的な存在に過ぎません。

とはいいながら、7月31日にはこの守備隊が、兵士の訓練動画という形で沈黙を破りました。動画では兵士が広東語(香港の公用語)で「何があっても自分の責任だぞ」と叫んだり、香港警察がデモ制止に使う決まり文句「停止衝撃否則使用武力(突入を止めろ、さもなくば武力を使うぞ)」が書かれた赤い警告旗を掲げて行進したりしています。

これは中国側からの「警告」と、広くとらえられた。中国政府からは「火遊びをすれば大やけどをする」、「(中国の)抑制的な姿勢を弱さと勘違いすべきではない」といった発言も出ています。

しかし、中国が軍事介入をした場合、国内的にも国際的にも政治的リスクがあまりに大きく、事態を悪化させるのは必定です。

軍事介入は圧倒的なものでない限り、ますます抵抗を呼ぶことになるでしょう。では、他の方法で、香港を制圧することはできるのでしょうか。

まずは、中国は政治介入による制圧が可能かということがあります。これに関しては、議論の分かれるところですが、すでに中国は何度も香港に政治介入をしており、それが最近の抗議行動につながっていると見ることができます。

香港の立法会(議会)は中国寄りです。2017年には大規模な抗議デモにもかかわらず、ひとつの法律を成立させました。香港トップの行政長官に立候補する人は、親中国のメンバーが多数を占める委員会であらかじめ承認される必要がある、という内容でした。

さらに、当選した行政長官は中国政府の承認を得なければならず、その後に閣僚を選出できるとされました。

2017年の選挙で当選した現職の林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官は、「逃亡犯条例」改定案を立法会に提案。今回の長期にわたる抗議デモを引き起こしました。

林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官

中国政府は林鄭月娥氏の辞任を断固として認めなかったり、同氏が改定案を取り下げるのを拒んだり、あらゆる方法で力を誇示してきました。

中国政府は、世論が林鄭氏の辞任に追い込むことなどできないと示したいので、辞任を認めないでしょう。

仮に林鄭氏が辞めることになっても、中国政府が支持する人が後任になることは間違いないです。

ただし、中国が香港に対して、政治介入を強めれば、強めるほど、香港デモは激化することも間違いないです。

次に、中国は個人を標的にできるでしょうか。今回の抗議デモの発端となった「逃亡犯条例」改定案は、中国政府にとって、香港の政治活動家たちを本土に移送し、有罪と認定する手段になると非難されています。

林鄭氏は、改定案の審議はもう求めないとしています。ところが、逃亡犯条例が改定されないとしても、中国政府が法律のあるなしに関わらず、抗議に参加する市民を拘束するのではないかという心配が、香港で根強いです。

そうした不安を感じさせる有名な事件が、香港の書店主で、中国政府に批判的な本を販売していた桂民海氏をめぐるものです。桂氏は2015年にタイで行方不明になった後、中国にいることが確認されましたが、2003年の交通事故をめぐって拘束されており、裁判で有罪とされ刑務所に送られました。

2017年に出所したが、翌年に中国の列車内で再び拘束されたとみられ、それ以降は行方が確認されていないです。

活動家の家族が中国本土に住んでいる場合は、その家族に影響が及ぶことも考えられます。

ただし、個人を標的にして、さらに多数の個人を拘束したとしても、香港デモはさらに激化するだけに終わります。

結局、政治的介入も、個人を標的することでも、中国は香港のデモを鎮圧できないことになります。

では、中国にとって残された道は、香港に人民解放軍を送りこみ、武力鎮圧して、香港そのものを中国領土にしてしまうのでしょうか。

これも、できそうもありません。共産党政権は香港を利用してきました。香港を窓口にして西側の情報を収集し、金融センターとしての利点を十二分に活用。先端技術と豊富な資金を延々と本土に吸い上げてきました。

ただし自分が強くなったので香港を切り捨てるかというと、そうもいかないのです。北京にとって、情報収集窓口や金融センターとしての利用価値は下がりつつありますが、それ以上に重要なのは香港が共産党高官たちの「蓄財の要塞」として機能している点です。

国家主席の習近平を含め、共産党政権の高官たちはほぼ例外なく香港に不正に獲得した財産を隠匿している、と報道されています。「祖国内部に不正蓄財」するわけにいかないので、彼らは今後も「半死」状態の香港に、限られた「繁栄と自治」を与え続けるでしょう。

そうなると「香港民族」の都市国家建設の夢も消えないでしょう。それは、中国共産党としては許容できないので、結局いずれ、香港を武力鎮圧することになる可能性は高いです。

ただし、武力鎮圧の直前には、インターネットをはじめあらゆる通信手段をシャットアウトするでしょう。そうして、中国は、人民解放軍ではなく、鎮圧の専門部隊である、人民武装警察を大量に動員して、香港を鎮圧するでしょう。当然多数の犠牲者は出ますが、それでもあまり犠牲者を出さないことと、情報を切断することで、中国は世界からの批判をかわそうとるするでしよう。

ただし、世界からの批判は中国政府が思ったよりも激しいものになり、天安門事件の直後のように、世界中から制裁を受け、当惑することになるでしょう。それで、習近平は失脚することになるかもしれません。

その後香港にはは、中国政府の傀儡政権ともいえるような、行政府ができあがり、限られた「繁栄と自治」を与えられ、細々と生きていくといことになるでしょう。香港が元に戻れるのは、中国が崩壊したときになるでしょう。

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2019年9月2日月曜日

ナチスドイツのポーランド侵攻から80年 戦争賠償をポーランドがいまドイツに請求する理由―【私の論評】戦争責任をナチスに押し付け、自分たちもナチスの被害者とするドイツ(゚д゚)!


ポーランドに侵攻するドイツ軍、それを激励するヒトラー

「戦後補償」をめぐり日韓関係が再び袋小路に入っている。こうしたとき、ドイツの「戦後処理」の仕方が模範として引き合いに出されることが多い。

だがそのドイツがいま、ポーランドから「戦争賠償」を請求されている。ドイツ政府は1953年に解決済みとしているが、なぜポーランドは21世紀に入ってから賠償請求しているのか。米メディア「ブルームバーグ」がポーランドからレポートする。

ナチのポーランド侵攻から80年

ドイツは隣国ポーランドに対して、第二次世界対戦の開始から80年を経て、赦しを乞うた。一方、ポーランドの首相はドイツに対して改めて戦争補償金を求めた。

ドイツのフランク=ヴァルター・シュタインマイアー大統領は、1939年9月1日のナチスドイツ空襲で初めて大勢の一般市民犠牲者を出したポーランドのビエルンを訪れ、ドイツは過去を忘れず、あの戦争の恐怖と残虐行為の責任をとると語った。

演説するドイツのシュタインマイヤー大統領

ポーランドのアンジェイ・ドゥダ大統領に招かれた式典で、シュタインマイアーは最初にドイツ語で、次にポーランド語で次のように述べた。

「ビエルン空襲の犠牲者の前に頭を垂れ、ドイツの残虐行為の犠牲者の前に頭を垂れ、赦しを乞います」

9月1日、ワルシャワで開かれた、世界史上最も血にまみれた戦争の開始を記念する80回目の式典には、米国のペンス副大統領、ドイツのアンゲラ・メルケル首相、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領ら約40名の首脳たちが列席した。

米国のトランプ大統領は欠席の理由を、ハリケーン「ドリアン」が南大西洋岸の州に大規模被害をもたらす可能性があるので、米国にいる必要があるからとした。

「ねじれたイデオロギー」

ワルシャワにある「無名戦士の墓」の近くで、ペンス米副大統領は、第二次大戦中「ポーランド人以上に、勇気と意志と義憤をもって戦った人々はいない」と述べた。

ポーランドのドゥダ大統領は、かつてのユーゴスラビアやルワンダでの民族虐殺、近年のロシアによるウクライナやジョージアへの侵攻に触れ、世界は第二次大戦から教訓を得ていないと述べた。

ペンス米副大統領は、20世紀の「ねじれたイデオロギー」に触れ、それらが「暗殺部隊、強制収容所、秘密警察、国家プロパガンダのしかけによる嘘の蔓延、教会の破壊、信仰を持つ人々への終わりなき敵意」につながったのだと非難した。

演説するマイク・ペンス米副大統領

ナチズム・共産主義の全体主義という悪によって、人類は歴史上で「神を忘れた」時期に至ったともペンス副大統領は述べた。

バルト海からのポーランド侵攻を記念するグダニスクで開かれたまた別の式典で、ポーランドのマテウシュ・モラヴィエツキ首相は、物議を醸している戦争賠償金の話題を再び持ち出した。ポーランドの西隣りにして最大の貿易相手であるドイツに、侵略と占領による経済的損害の責任をとるよう呼びかけたのだ。

2019年3月、ポーランドの特別国会議員委員会が公表した予備研究では、6年間の戦争でポーランド経済は8500億ドル(90兆円)以上の代償を払った可能性があることが示された──同国のほぼ2年分の生産高に近い額だ。

一方、ドイツ政府としては、すべての請求はずっと昔に解決済みだとしている。

補償要求

「犠牲者を覚え、そして補償を要求すべきだ」とモラヴィエツキ首相は述べた。

ポーランドは、第二次大戦の賠償請求を戦後数十年で解決した西欧諸国と異なり、共産主義時代の領主モスクワに賠償請求を事実上阻止されたと主張している。

ポーランドがドイツと戦後の国境条約に署名したのは、「鉄のカーテン」が開いた1年後の1990年になってからようやくのことだ。

約600万人──その半数がユダヤ人──が殺された1939~1945年の戦争に関する補償要求により、2017年以来、ワルシャワとベルリンの関係は悪化している。

共産党当局による1953年の宣言は、ソビエト連邦の傀儡政権によるものであって、独立した決定ではなかったとポーランドは主張している。一方的な宣言は、「当時の憲法秩序に添って、またソビエト連邦の圧力のおそれの渦中でなされたのであり、承認されえない」とポーランド政府は2004年に述べているのだ。

【私の論評】戦争責任をナチスに押し付け、自分たちもナチスの被害者とするドイツ(゚д゚)!

1970年12月7日ドイツ連邦共和国のブラント首相(当時)が黒衣に身を包み、ワルシャワのユダヤ人犠牲者記念碑前でひざまずき許しをこいました。

ワルシャワのユダヤ人犠牲者記念碑前でひざまづいたブラント首相

1985年5月8日、リヒャルト・フォン・ヴァイツゼッカーが議会で「終戦40周年演説」を行い、日本ではいわゆる左翼が狂喜乱舞しました。

この演説は、日本においては左翼によって歪められ、以下のような通説を生み出してしまいました。
ヴァイツゼッカーの「過去に目を閉ざす者は結局のところ現在にも盲目となります」との発言に耳を傾けよ。ドイツはナチスの犯罪を謝罪し、歴史問題を解決している。
そして、「日本もドイツを見習い謝罪と賠償をしろ」と左翼の連中は騒ぎ立てました。

しかし、ブランとやヴァイツゼッカーに限らず、多くのドイツ人はナチスの犯罪を謝罪などしていません。むしろ、責任をナチスに押し付けています。彼らにとっては、自分たちもナチスの被害者なのです。

ユダヤ人に対しても補償はしても賠償はしていません。保証と賠償は、お金を渡すことでは同じですが、その意味合いは全くことなります。補償は「お悔み申し上げます」、賠償は「私が悪うございました」ということですです。まったく意味が異なります。

それに対し、日本は多くの国々に対して、賠償をしています。非を認めているのです。残念ながら、日本では過去の政権が、そうした日本の態度を毅然と国際社会に発信したという話は聞いたことがありません。

日本の歴史学者や教育者のなかには「ヒトラーより悪いことをした国がある」と大日本帝国を批判する人がいますが、これがドイツをどれだけ喜ばせたことでしょうか。

同じ年の9月、G5はプラザ合意をしました。詳細は他の文献を参照していただくものとして、要するに米国が日本に円高不況を押し付けてきたが、当時の大蔵省に心ある人がいて日銀にバズーカを撃たせたら勢い余ってバブル好況になり、米国の連邦準備制度理事会(FRB)のほうがお家騒動になった、という話です。

冷戦期の日本など、国際関係を除けば、これが最大のできごとだったといっても過言ではありません。

これとて、米英仏がソ連をつぶそうと本気で軍拡をしているときに、西ドイツと日本に軍費を求めたというのが真相です。

西ドイツは核武装こそしていませんが、戦車を大量に所有する、ヨーロッパ最大の陸軍国です。それでも「経済大国として威張っていられるのは軍拡が足りないからだ」と“矢銭”を押し付けられるわけです。

二つの世界大戦の記憶を忘れない米英仏は、現実に西ドイツに軍拡を求めながらも、必要以上の軍事強国化を恐れているから、「ほどほどに軍事協力させ、金は巻き上げる」という方式をとってきたのです。

コールもそれをわかっていたからこそ、自国が不況になるのを覚悟でマルク高誘導に応じたのです。

さて、矢銭を押し付けられてきたということでは似ている日独ですが、第二次世界大戦に関する考え方は全く違います。

日本は、当時の軍部等の非を認めています。これは、当然といえば当然のことです。戦争自体は、悪いことですから、戦争した国は、どちらか一方だけが良いとか、どちらか一方だけが悪い等ということはありえず、どちらの国にも何らかの非があるはずです。

日本は非常に常識的だったので、大東亜戦争に関して日本の非を認めたわけです。しかし、ドイツはそうではありません。

ドイツはナチス・ドイツと自分たちを全く異なるものとして、ナチス・ドイツを悪魔化し、ナチス・ドイツとその直接の協力者については処断したものの、それ以外の人々は犠牲者であるとしたのです。

しかし、この見方は一方的に過ぎます。たしかに、日本の戦争とドイツの戦争は根本的に異なるものであり、当時の国の体制も異なります。特にドイツはナチスによる全体主義体制により、戦争を遂行しましたが、日本はそうではありませんでした。これを同一視するような人は、全体主義についてもう一度良く考えてみるべきです。ここでは、本論からそれるので、詳細は説明しません。

確かに、戦争中のドイツはナチスによる全体主義だったのですが、ドイツ国内でナチスを台頭させてしまった責任は、多かれ少なかれ、ナチス以外の人々にもあったはずです。実際ナチスを台頭させないためのチャンスは何度もありました。にもかかわらず結局ナチスは台頭してしまったのです。ドイツは未だにそれに関する過ちは、認めていません。

戦争直後も、現在に至るまで、ドイツの知識層が、それに関する反省の弁を語ったことはありません。しかし、日本は常識的に戦争責任を認めたので、そこを様々な戦勝国につけ込まれる隙を与えてしまったのです。

挙げ句の果に戦勝国でもない韓国にもつけ込まれ、すでに戦後賠償は終了したにもかかわらず、いつまでも金づるにしようとされてきたのです。

まさに、ヴァイツゼッカーの"「過去に目を閉ざす者は結局のところ現在にも盲目となります」との発言に耳を傾けよ。ドイツはナチスの犯罪を謝罪し、歴史問題を解決している"との通説が生まれる背景として存在していたのです。

さすがに韓国に対しては、いつまでも金づると考えられては困るということで、最近の日本は韓国に対しては一定の距離を保つようになりましたが、これはいずれ大東亜戦争の戦勝国に対してもそのようにして行くべきなのです。

そうでないといつまでたっても、日本では「戦後」は終わらないのです。

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