2022年12月9日金曜日

旧統一教会問題めぐる被害者救済法案の成立に向け注目、国民民主党の動向 「新・与党化」に公明党反発も―【私の論評】岸田クライシスで新たな政局が生まれる(゚д゚)!



国民民主党玉木代表

 世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の問題を受けた被害者救済新法が閣議決定された。野党には「救済につながらない」との声もあるが、実効性や問題点について考えてみたい。

 現行の消費者契約法は、霊感などによる告知を用いた勧誘に対し取り消し権がある。今回の被害者救済法案では、消費者契約法の改正により、この取り消し権の対象拡大、期間延長がなされている。

 政府案では不退去、霊感などによる告知などにより困惑して寄付した場合を禁止行為とし、取り消しができる。期間は追認できるときから1年(寄付から5年)である。被害防止策として、禁止行為、借入・自宅売却などによる資金調達要求に対し勧告、命令ができ、刑事罰を科すことができる。

 一方、立憲民主党と日本維新の会の法案も、不当拘束、霊感などによる告知、マインドコントロールを手段の悪質性として取り消しができる。また、寄付は可処分所得の4分の1を目安としている。期間は追認できるときから5年(寄付から20年)である。手段の悪質性や可処分所得の4分の1を超える寄付に対し勧告、命令ができ、刑事罰を科すことができる。

 こうしてみると、政府案と立民・維新案はかなり似通っている。

 立民・維新は「政府案は全く不十分」というが、そこまでではないだろう。行政の方でしっかりと権限行使すればその差はかなり少なくなるはずだ。

 しかし、可処分所得の4分の1などの微妙な差があるのは事実だ。それは、政府案が公明党に配慮したからだろう。もし実質的な差がなくても、政治的には差があると主張されてしまうのは政府案の弱みだ。岸田文雄政権が、被害者救済法案を提出しても、支持率が回復する気配は乏しい。

 岸田政権は支持率低迷に苦慮しているので、政権運営のカンフル剤として、自民党が公明党との連立政権に国民民主党を加える案を検討しているとの一部報道が出ている。もし国民民主党が与党入りするのであれば、年明けにも内閣改造があるだろう。

 国民民主党は、2022年度当初予算や第2次補正予算に賛成しており、今回の被害者救済の政府法案についても評価している。このため、野党からも、国民民主党は既に与党化しているので、与党入りするほうがスッキリしているという声もある。連立を組んでいる公明党は、早速「わが党にメリットはない」と反発している。

 こうした動きもあるので、被害者救済法は政府案を一部修正し、自民、公明、国民民主の賛成で、成立する公算が大きい。政治的には、立民・維新の要求を全面的にのんで政治的な手柄を与えるわけにはいかないからだ。公明党を刺激しない程度の救済法になっているので、実効性はまったくないわけでもないといったところだろう。

 万が一、国民民主党を加えた「新・与党」になった場合、これまでかなりの部分でほごにされてきた中国非難決議が、良い方向に変わるかどうかが注目だ。 (元内閣参事官・嘉悦大教授 高橋洋一)

【私の論評】岸田クライシスで新たな政局が生まれる(゚д゚)!

“わが党にメリットはない”と国民民主党の連立入りに反対する中国共産党の代弁者・公明党。媚中・公明党にメリットがないということは、日本国にとって大いにメリットがあるということです。

自民党は、公明党との連立を解消し、国民民主を迎え入れて、真の国民政党になるべきです。国民の次は維新を入れ、公明を連立離脱させ憲法改正の体制を整えてるべきです。ただ、維新に関しては、媚中議員も多いので、要注意です。維新のこれらの議員が力を増せば、公明党と変わりないということにもなりかねません。

公明党山口代表

ただ、公明党は党そのものが、中国を代弁するような党です。国民の生命・財産、そして領土を守る為の憲法改正等に中国の代弁者など、不要です。“救済新法”も骨抜きになってしまい、自民の一体誰が公明との連立を維持したいのかわかりません。

国民民主党は、上の記事にもある通り、2022年度当初予算や第2次補正予算に賛成しており、今回の被害者救済の政府法案についても評価しています。

拉致問題国際セミナー(参議院議員会館)においては、国民民主党は玉木雄一郎代表が挨拶し、岸田・バイデン間では安倍・トランプ間のような強さで拉致問題が取り上げられていない。具体的に戦略を立てて日米首脳会談に臨むべきと語りました。全くその通りです。その通

衆議院で採決された被害者救済法案。成立に向けて与党と協議をしていたのが国民民主党です。

玉木代表は、「あまり報道していただけませんでしたが、私たち国民民主党も1ヵ月以上にわたり与党と協議を行い、20項目近い提案を法案に取り入れてもらいました。その結果が今回の新法です。特に、家族への配慮義務を創設し、それに基づき家族が『当事者として』損害賠償できる枠組みは、国民民主党からの提案です」と、胸を張りました。

これこそが建設的な野党のあり方です。批判ばかりと言われる政党もやり方を見習うべきです。

自民党内でもいわゆる反岸田勢力の「岸田離れ」は収まらないですが、それが目立った「岸田降ろし」の動きにはつながっていません。それだけに、“辞任ドミノ”を抱えながらなんとか臨時国会を乗り切れた岸田首相にとって、「連立組み直しはさらなる政権弱体化につながる」との見方もあります。

岸田首相は「年内に問題閣僚などを更迭するミニ改造を断行できれば、政権は当分安泰との考え」ているとも言われています。臨時国会閉幕と2023年度予算案の策定作業が軌道に乗れば、「今回の国民与党化の風説は、師走の寒風に吹き流されて消える」との声もあるようですが、はたして本当でしょうか。

私は、今回の支持率低下は、「ミニ改造」をしたくらいでは、収まらないと思います。特に大反発しているのは自民党サイドで、防衛増税など容認できるわけがないということでまとまっています。

防衛3文書の議論と税制改正の議論が並行して進んでいたので、官邸が増税というところで結論付けてしまい、自民党税調に回されてしまえば、自民党税調の宮沢洋一会長は財務省のひも付きですから、そこで増税を決められてしまうのではないかという相当な危機感があったようです。

この防衛増税への反対の動きについては、なぜかほとんど報道されません。本日、自民党で行われた会合では、怒号が飛び交う展開となりました。その理由は、きのう岸田総理が表明した、「約1兆円強については国民の税制で、ご協力をお願いしなければならない」という発言です。

これに党内から批判が噴出したのです。

西田昌司政調会長代理は、「財源的には国債でいいんです。全く問題ないわけ」。柴山昌彦衆院議員「増税ありきで無理やり決めていこうというふうにしか思えない」。と発言しています。


「増税ありき」と批判されるのは理由があります。政府は防衛費を来年度から段階的に増加させ、2027年度には今より4兆円程度増やす考えです。

財源には歳出改革や剰余金の活用などを優先的にあて、それでも不足する1兆円強を増税で賄うとしています。

しかし、歳出改革の中身については鈴木俊一財務大臣は、「具体的な内容の検討を今行っている最中でありますので、年末に向けて、さらに詰めていきたい」というばかりです。

牧原秀樹衆院議員「きょう、わずか数ページの資料と言えないような資料が出てきて、それを増税でやるんだみたいな議論をするのは拙速である」と発言しました。

マクロ経済や防衛にも疎い、自民党議員の中には、岸田首相に賛成する議員もいることはいます。ただ、これらの議員は財務相の片棒を担いでいるだけで、判断能力にも欠け、実務レベルではほとんど評価されない議員です。

これらの議員が、権力闘争だけ強みを発揮するとは考えにくいです。無論二階氏のような例外もいますが、さりとて、今後の政局の大きな台風の目になるとは考えにくいです。

以前にも述べたように、現状は、岸田政権の暴走により、安倍元総理支持者を中心とする保守岩盤支持層が離れてしまっています。特に、防衛増税ほど、まともな保守の憤怒のマグマを煮えたぎらせたことはないでしょう。防衛増税をして経済が落ち込めば、安全保障にも悪影響がでてきます。これでは、いつ岸田首相に向かって怒りのマグマが大噴出するかわからない状況です。

そのような自民党にとって、喫緊の課題は以前もこのブログで主張したように、離れてしまった保守岩盤支持層の支持を急いで取り戻すことです。それには、岸田首相が退き新たな首相のもとで、出直すということも考えられます。

ただ、現在ポスト岸田で名前の挙がっているのは茂木、河野太郎、林では、これは全く無理です。最近では、さすがに、あまりにもグレートアフォーすぎる、小泉進次郎や石破の名前はあがらなくなりましたが、それにしても、この三人では、保守岩盤支持層は全く納得しないでしょう。いくら、派閥の力学でそうなったといわれたとしても、これでは岸田首相のほうがましです。

これらのうちの誰が、ポスト岸田になったとしても、保守岩盤支持層は、これを支持しないでしょう。岸田政権並か、それ以下に支持率が下がることさえ予想できます。


であれば、岸田政権は継続するものとして、国民民主との連立をするという選択肢は、かなり有望であるとみられます。国民民主の玉木代表は、財務省出身であり、連立が成立すれば、岸田首相にとって強力な財務省対策にもなるものと考えられます。何よりも、玉木氏が、安倍元総理のようにマクロ経済を理解しているとみられるところが頼もしいです。

そうして、まともな経済対策や、防衛費の嵩上げ、憲法改正論議等を行うようになれば、岩盤支持層も納得するでしょう。

そうして自民党は黄金の三年間を利用して、次の政権の形を模索すれば良いのです。その間に若手を育成して、総理になり得る人物を育て上げるべきでしょう。

 国民民主党は、是々非々で物事をすすめる方向性で、どんどん健全かつ現実的な党になりつつあります。ぜひ、このままブレないで今のスタンスを貫いてほしいです。それができれば、公明党を排除して与党入りすることも十分ありえると思います。

岸田クライシスで、新たな政局が生まれつつあるようです。安倍政権や菅政権が続いていれば、保守岩盤支持層は満足したかもしれません。しかし岸田政権が生まれたことにより、様々な日本の課題・問題点が浮かびあがり、それが新たな政局を生み出し、良い方向に向かう可能性もでてきました。

安倍元総理がご存命であれば、岸田政権に睨みを利かし、良い方向に導かれ、岸田政権はそれなりの支持率を維持できたかもしれません。安倍元総理が亡くなってしまった現状では、自民党は核を失い、どんどん悪い方向に向かってしまう可能性がでてきました。そこに、国民民主との連立の可能性もでてきたわけです。これは、今すぐということではなくても、日本の政治に新たな風を吹き込むことになるかもしれません。

党派、派閥を超えて、保守系議員の方々はこの流れを加速・強化していただきたいです。

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2022年12月8日木曜日

「立ち上がれ!奴隷となることを望まぬ人々よ!」習近平政権に衝撃与えた国歌斉唱…「北京でデモ」という事実の大きさ―【私の論評】中国独自の民主化推進の火種を灯したか?中国の「白紙革命」(゚д゚)!

「立ち上がれ!奴隷となることを望まぬ人々よ!」習近平政権に衝撃与えた国歌斉唱…「北京でデモ」という事実の大きさ


北京市で“反ゼロコロナ政策”の抗議デモが起きた11月27日の夜、私はSNSに投稿された動画などから情報を入手し、午後9時過ぎに現場に到着した。当初はそこまで人も集まっておらず、一部の人たちが声を上げていたという状況だった。

【画像】11月28日以降、北京のデモ現場では大量の警察車両が警戒にあたる

しかし、徐々に人は増え始め、日をまたいだ28日の午前1時過ぎには歩道から車道にまで溢れかえっていた。

それは私が北京に赴任して1年あまりの生活で、初めて見る光景だった。

1000人を超える市民が、目の前にいる警察に臆することなく「マスクはいらない!PCR検査はいらない!自由が欲しい!」と、繰り返しその主張を口にしていた。そして、手にはデモの象徴である「白い紙」を持っていた。

ある中国人は私に対し「このデモの光景は中国では流れない。あなたたち外国メディアによって世界に報じて欲しい」と強く語った。

繰り返された国歌斉唱

北京市のデモでは、参加者らによって中国の国歌「義勇軍行進曲」が繰り返し歌われていた。

中国の国歌には、勇ましいメロディーの冒頭に「立ち上がれ!奴隷となることを望まぬ人々よ!」という歌詞がある。デモに参加した市民は、「この歌はまさに今の私たちのためにある。今立ち上がらなければ私たちは国家の奴隷になってしまう」と話した。参加者らは自分たちを鼓舞するかのように、何度も「立ち上がれ!立ち上がれ!」と繰り返し強く歌っていた。

皮肉にも、国が行う政策に抵抗するために、国歌が歌われていたのである。

一方で、北京で行われたデモにはある特徴があった。

上海のデモで聞かれた「共産党退陣!」「習近平退陣!」という現体制を直接批判し、習近平国家主席の退陣を求めるような過激な要求は、北京では起きなかったのだ。

参加者の中には「レッドライン(越えてはならない一線)」を意識していたと思われる動きもあった。あるデモ参加者が興奮して、歴史的誤りとされた文化大革命とゼロコロナ政策を重ねて「文化大革命2.0を終わらせろ!」と大声で叫んだとき、別の参加者から「そういうことを言ってはいけない。私たちの訴えはこの不合理な防疫政策をやめさせることだ」と止める場面もあった。

また、デモ参加者に対する警察当局の対応も、車道にはみ出た場合のみ「歩道に戻りなさい」と注意を促すだけで、警察当局が強権的な取り締まりをすることはなかった。警察当局は、力による抑え込みはしないように指示を受けていたとみられる。デモは、最終的には警察に促される形で解散となった。

デモは「怖くない」とは言えないが…

北京のデモ参加者は、取材に対して次のように答えた。

――なぜ、このようなデモが行われた?

新型コロナが発生してからの3年間、中国人は何も話せません。そして生活は今も大きな影響を受けています。

――手に持っている「白い紙」にはどのような意味がある?

この白い紙には「中国では何も話せない」という意味があります。この現実を表すものとして私たちは持っています。

――警察がいる前でデモをすることは怖くないか?

北京のみんなは今日初めてここに集まりました。私には仕事があるし、妻もいるし家族もいます。だから「怖くない」とは言えません。でも私は自由が欲しい。普通の生活が欲しい。今の中国はおかしくなっています。ゼロコロナ政策は愚かな政策。私はこの国を守りたいのです。

また別のデモ参加者は「私たちはゼロコロナ政策の全てを否定しているわけではない。過剰な政策のやり方を批判しているだけだ」と語った。

「北京でデモが起きた」という事実の大きさ

デモが行われてから1週間が経ち、ゼロコロナ政策の緩和とみられる動きが各地で起きている。封鎖されていた住宅や商業施設や飲食店などが開放され、48時間以内の陰性証明がなければ乗れなかった地下鉄やバスも通常に戻った。

こういった動きに対して、日中外交筋の関係者は「やはり首都北京でデモが起きたという事実は大きかった。あの日を境にして厳格なゼロコロナ政策の風向きが変わった」と語る。その上で次のようにも指摘する。

「共産党政権にとっては、市民がデモを行えば要求が通るとは思わせてはいけない。今、北京では表向きは当局の締め付けは穏やかに見えるが、水面下では厳しく締め付けを行っている」

実際、北京のデモに参加した人の元に警察から直接連絡が入り、24時間取り調べを受けたという報告もある。デモ翌日にはSNS上で「北京で再び集まろう」という呼びかけのメッセージが拡散したが、実現することはなく、11月28日以降は中国で“白紙革命”は起きていない。

一方で、中国に端を発した“白紙革命”は世界中に広がった。日本や韓国、アメリカなど少なくとも12都市で抗議集会などが開かれている。

「立ち上がれ!奴隷となることを望まぬ人々よ!」。厳しいコロナ対策で自由が奪われることを「奴隷」にたとえ、人々が立ち上がった。今後、中国はどうなっていくのか。中国北京にいる特派員の1人として、この歴史をしっかりと取材し報じていきたい。

【執筆:FNN北京支局・河村忠徳】

河村忠徳

【私の論評】中国独自の民主化推進の火種を灯したか?中国の「白紙革命」(゚д゚)!

以下に中国の国歌の動画をあげさせていただきます。この動画には、歌詞の訳もつけられています。


この動画では、「立ち上がれ!奴隷となることを望まぬ人々よ!」の部分は意訳されており「立ち上がれ!支配されるのを望まない人々よ!」となっていますが、中国語の元の意味では、「立ち上がれ!奴隷となることを望まぬ人々よ!」により近いです。

ただ、「支配されるのを望まない人々よ!」としても、この歌詞はすごい意味になります。まさに、中国共産党一党支配に反対する歌詞になります。

以下に歌詞の中国語と、その翻訳をあげます。

歌詞の意味・和訳(意訳)
起来! 不愿做奴隶的人们!
把我们的血肉,筑成我们新的长城!
中华民族到了最危险的时候
毎个人被迫着发出最后的吼声

いざ立ち上がれ 隷属を望まぬ人々よ!
我等の血と肉をもって
我等の新しき長城を築かん
中華民族に迫り来る最大の危機
皆で危急の雄叫びをなさん

起来! 起来! 起来!
我们万众一心,
冒着敌人的炮火,前进!
冒着敌人的炮火,前进!
前进! 前进! 进!

起て!起て!起て!
万人が心を一つにし
敵の砲火に立ち向かうのだ!
敵の砲火に立ち向かうのだ!
進め!進め!進め!
1949年に中国共産党によって建国された社会主義国家、中華人民共和国。建国当初は暫定的な仮の国歌として、抗日映画「風雲児女」の主題歌である『義勇軍進行曲(行進曲)』の使用が人民会議で決定されましたが、その後も結局正式な国歌は制定されず今日に至っています。

1934年の夏に司徒逸民、龔毓珂、馬德建らの左派系文化人が集まって作った電通影片公司という映画会社が「風雲児女」の制作会社である。同社は1935年末に解散するまでに「桃李劫」「風雲児女」「自由神」「都市風光」の四本の作品を世に送り出していて、「風雲児女」は会社が創立されてから2本目の作品でした。

1930年代に制作された上海映画の作品群の中では一際影響が大きく、主題歌の「義勇軍行進曲」は 瞬く間に全国で歌われるようになり、後に中華人民共和国の国歌になりました。

これについては、ある方が以下のようツイートされています。
1966年から1976年まで続いた文化大革命の最中においては、作詞者の田漢が迫害され、『義勇軍進行曲(行進曲)』の歌詞なしの演奏行われたものの、歌詞は歌われなくなりました。代わりに同時期には毛沢東を讃える『東方紅(とうほうこう)』が事実上の国歌となりました。

学校や職場では『東方紅』が朝一番に必ず斉唱され、ラジオ放送では『東方紅』で始まり、革命歌『インターナショナル』で締めくくられる構成が日常となりました。一説には、むしろ『インターナショナル』の方が第一国歌的な扱いを受けていたとの評価もあるようです。

文化大革命の終結後(1978年)は『義勇軍進行曲(行進曲)』に新たな歌詞がつけられ、毛沢東や中国共産党を讃える政治色の強い国歌として数年間歌われました。

1982年12月4日の第5期全国人民代表大会第5回総会において、田漢が作詞した歌詞が再び国歌として決定されました。その後、2004年には中華人民共和国憲法が改正され、『義勇軍進行曲(行進曲)』が中国の正式な国歌であることが明記されました。

この国歌、普通の国の国歌とは異なり、いわく付きのものだったのです。しかも、歌詞には「いざ立ち上がれ 隷属を望まぬ人々よ!」という下りもあります。この歌は、もともと反日プロパガンダ映画の中にでてくるものというのが、いかにも皮肉です。

北京の反コロナデモで、この歌が歌われていたとは知りませんでした。そうして、この事実は、以前私がこのブログで主張していたことを裏付けるものかもしれません。その記事のリンクを以下に掲載します。
中国「白紙革命」の行方―【私の論評】バラバラだった中国国民にはじめて共通の念が生まれた。それは、中共に対する恐怖と憎悪(゚д゚)!

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下に一部を引用します。
今回の「白紙革命」によって、中国共産党への恐怖・憎悪という中国国民に共通の考えができあがりつつあります。

ただ、これを理念と呼ぶには、まだ次元の低いものです。恐怖・憎悪の念は一時的には、多くの人の共感を呼びますが、それだけでは、一時的にも恐怖や憎悪が収まれば、消えてしまいかねません。プーチンは、NATOに対する恐怖や憎悪の念で、国民をまとめ、高支持率を獲得しましたが、その目論見はウクライナ侵攻では、裏目にでています。

「理念」は「物事に対して“理想“とする”概念“」のことで、「こうあるべき」というベースの考え方を指すものです。 企業では、会社の方針や社員に求める行動指針などを表現する時によく使われます。

中国においても、この恐怖・憎悪の念がいずれ誰かによって昇華され、中国国民であれば、誰もが共感できる「理念」に変わっていくかもしれません。国民国家には、「こうあるべき」という規範が必要なのです。

その誰かは、まだ見えてきません。ただ、この共通の理念となるかもしれない中国共産党に対する多くの中国国民の恐怖・憎悪の念は、容易なことでは覆されることはないでしょう。なせせなら、これは従来とは異なり、立場や社会的地位を乗り越えてかなり多くの中国人に共有されることになったからです。

中国は、社会階層や貧富の差、民族、宗族、地域差、文化、言語などが異なる全くバラバラの集合体であり、 中共はこれを人為的に、軍事力などを背景に無理やり一つにまとめてきました。その中国で、おそらく初めてとも言って良い、中共に対する恐怖・憎悪の念で多くの人々が一つにまとまったのです。

西欧の近代主義的考え方も、最初は今でいえば、先制主義的な、領主、国王などに対する恐怖や憎悪の念から、自由への渇望などが生まれ、恐怖・憎悪の念が、理想や規範の次元に高められ、現在の民主主義などの考え方にまで昇華されて現在に至っているのです。

北京の人々が、ゼロコロナ政策に反対するために、元々は抗日プロパガンダ映画の主題歌であった『義勇軍進行曲(行進曲)』を歌ったというのですから、これは先に述べたように、歴史の皮肉と言わざるを得ません。

中国では、似たようなことが以前もありました。いわゆる2012年あたりに、過激になった反日デモです。この反日デモは、最初は官製デモともいわれていたのですが、その後政府の規制もあって、現在ではほとんど実施されることはなくなりました。

なぜ、政府が規制するようになったかといえば、ほとんど全部の反日デモが必ずといって良いほど、反政府デモになってしまったからです。中には、最初から反政府デモを行うつもりでありながら、反政府デモということでは届けを出しても許可されないどころか、弾圧されるので、愛国反日デモを行うとして届けを出して、実際には反政府デモを行うという人たちもでてきました。

だから、政府は反日デモの規制に乗り出したのです。さらに、政府は、反日サイトの規制にも乗り出しました。こちらのほうも、反日サイトと謳っておきながら、いつの間にか、反政府の書き込み等がふえ、反政府サイトになってしまうことがほとんどだったのです。

ただ、こうした反政府の動きは、結局政府によって弾圧されてしまいました。反政府とはいっても、これは中国共産党中央政府に向けられたというよりは、地方政府に向けられたものが多かったとみられ、中国全土で同時に中共に向けて行われたものではなかったので、何とか弾圧できたのでしょう。

中共は、苛烈な香港デモも鎮圧してしまいました。いくら苛烈であっても、全国レベルではなく、地域レベルのデモということであれば、中共も余裕をもって鎮圧できるとみえます。

天安門事件も、元々は学生が起こしたものであり、学生というと、当時の学生は数が少なく、いわゆインテリ中のインテリであり、一般の人でもデモなどに共感する人はいましたが、当時の中国は極度に貧しく、同調する人がいたとしても、多くの人は生活が精一杯で何もできなかったというのが実状でしょう。

中国の公の歴史から消された天安門事件

だから、多くの死傷者を出しても中共はこれを弾圧して、なきものにすることができました。天安門事件は今や歴史から抹殺され、若者では知る人もあまりいないくらいです。

しかし、今回の「白紙革命」は違います。多くの中国人が、一度に様々な違いを乗り越えて、中共に対する恐怖と憎悪の念を共有して、時を一つにして、中共に対して、反対の声をあげたのです。今回は、貧しい人たちも、富める人々も、命の危険すら身近に感じ、恐怖と憎悪に耐えかねて、反対の声をあげざるをえなかったのでしょう。

中国からの情報は少ないので、以上のようなことは推測の域を超えていないのですが、それにしても、この推測はかなり当たっているものと思います。

なぜなら、中国政府は、「ゼロコロナ」政策に対する抗議デモ後に、新型コロナウイルスの防疫対策を「自分で身を守る」方針に急転換したからです。これは、従来の中国では考えられないないことです。

天安門事件も、反日デモも、香港のデモも力で弾圧した中共が、コロナ対策の方針を変えたのです。これは、やはり、今回のデモは従来のものとは、異質であり、これを従来のように強硬に弾圧すれば、これに対する反動はとてつもないことになると判断したからだと考えられます。

おそらく、従来中国共産党を支持してきた、富裕層などからも反発・離反されたのでしょう。ただ、習近平は現代の中国を毛沢東時代の中国に戻そうとしているのですから、多くの中国人は、これからも中共や習近平に対して、恐怖と憎悪の念を持ち続け、いずれ中国人の多くが共有できる理念を生み出す人物が出てくると思います。

できれば、大陸中国にも台湾の李登輝先生のような人物がでてきて、大きな内乱を起こすことなく、中国独自の民主化を推進していただきたいものです。

安倍晋三氏(右)と握手を交わす李登輝氏=2010年10月、台北市

今回の「白紙革命」により、中国にそれに向けて芽が出てきたのは間違いないと思います。中国国民にはこの芽吹きを醸成して次元を高めていただき、私達日本をはじめとする他の民主国も、この芽吹きが醸成されるのを、見守り、支援していくべきです。

ただし、日本はもとより、米国などの西欧諸国も自分たちの価値観を押し付けることなく、台湾がそうであったように、中国独自の民主主義が醸成されるのを注意深く見守っていくべきと思います。

それにしても、中国、ロシア、北朝鮮などの全体主義国家が、世界秩序に挑戦しつつある現在、中国にこうした芽が生まれてきたのは喜ばしいことだと思います。中共であっても、中国の多くの国民が時を一にして、共通の念を持って、反対の意思表示をすれば、その行動を変えうることを知ったことは、まことに大きな出来事であったといえます。これは、中国に真の国民国家が生まれるきっかけになり得ることを示したと思います。

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2022年12月7日水曜日

ロシア空軍基地爆発相次ぐ プーチン政権 事態深刻に受け止めか―【私の論評】ウクライナ戦争は、双方の弾薬不足等で塹壕戦になりかねない(゚д゚)!

ロシア空軍基地爆発相次ぐ プーチン政権 事態深刻に受け止めか


ロシア国内の複数の空軍基地で起きた爆発をめぐり、プーチン政権は、ウクライナとの国境から遠く離れた基地が攻撃された事態を深刻に受け止めているものとみられ、ロシア側の今後の対応が焦点です。

ロシア中部と南部の空軍基地で5日、爆発が相次ぎ、ロシア国防省は、ウクライナ側が無人機を使って、駐機中の軍用機に攻撃を仕掛けたと主張しました。

また、6日には、ウクライナと国境を接するロシア西部の飛行場に近い石油施設が、無人機による攻撃を受けたと、地元の州知事がSNSで明らかにしました。

ウクライナ政府は、これまでのところ公式な発表を出していませんが、アメリカの有力紙ワシントン・ポストは6日、ウクライナ政府の高官が、3つの攻撃は、すべてウクライナの無人機によるものだと認めたうえで「非常に成功し、効果的だった」とコメントしたと伝えています。

この無人機について、ロシアの複数のメディアは、ソビエト時代に製造された偵察用の無人機を改良したものだとする見方を伝えています。

ロシアの新聞「イズベスチヤ」は7日、「空軍基地は、いずれも強力な防空システムが機能しているはずだが、当時、ウクライナの新兵器の攻撃を撃退する準備が万全だったとは思えない」と疑問を呈しています。

また、独立系のネットメディア「メドゥーザ」は7日、国境から600キロ以上離れた基地が攻撃されたとしたうえで「局面の大きな分岐点だ。ロシア軍は、ウクライナの前線と国境だけでなく、ロシア領の奥深くまで防空網の構築に対応する必要に迫られている」と伝えるなど、プーチン政権にとって打撃になるという見方も出ています。

こうした中、プーチン大統領は6日、安全保障会議を招集しました。

ロシア大統領府の報道官は、一連の爆発を受けて、急きょ対応を協議したことを示唆していて、政権が今回の事態を深刻に受け止めているものとみられ、ロシア側の今後の対応が焦点です。

ウクライナ大統領府顧問 関与を示唆するツイート

ロシアの空軍基地で5日、爆発が相次ぐ中、ウクライナのポドリャク大統領府顧問は、5日の夕方、ツイッターに「地球が丸いことは、ガリレオによって発見された。しかし、クレムリンでは天文学を研究していないのが残念だ」などとしたうえで、「他国の空域に何かを発射すれば、遅かれ早かれ飛行体は発射地に戻ってくる」と投稿しています。

これについて、ウクライナのメディアは「ウクライナ政府は、基本的にロシアの領土内への攻撃についてはコメントはしないが、攻撃の報告を受けたあとのポドリャク大統領府顧問の投稿によって、間接的に確認されている」として、ウクライナ政府の関与を示唆する形で伝えています。

また、アメリカのワシントン・ポストは6日、ウクライナ政府高官が、3つの攻撃はすべてウクライナの無人機によるものだと認めたうえで「非常に成功し、効果的だった」とコメントしたと伝えています。

“ロシアの核戦力の拠点として重要な場所” 英有力紙


5日に爆発が起きたのは、ロシア中部と南部の2つの空軍基地です。

一つは、ロシア中部のリャザンにある空軍基地です。首都モスクワから南東におよそ200キロ、ウクライナの首都キーウからは、およそ800キロ離れています。

ロシアの国営通信は、燃料を積んだ車が爆発し、3人が死亡し5人がけがをしたと伝えています。

もう一つは、ロシア南部サラトフ州のエンゲルスにある空軍基地で、ウクライナの首都キーウからは1000キロ以上、ウクライナ東部の国境からは、およそ500キロ離れています。

ロシアの複数の独立系メディアは、長距離戦略爆撃機ツポレフ95、2機が損傷したほか、兵士2人がけがをしたとしています。

イギリスの有力紙ガーディアンは、この空軍基地には核兵器貯蔵施設があり、ウクライナへの空爆の拠点としてだけでなく、ロシアの核戦力の拠点としても、重要な場所だと伝えています。

また、6日には、ウクライナと国境を接するロシア西部クルスク州の知事が、州内の飛行場近くにある石油施設が、無人機による攻撃を受けたと明らかにしています。

ロイター通信によりますと、攻撃を受けたのは、ウクライナとの国境から90キロほどの場所にある施設で、映像では、石油の備蓄施設とみられる建物から炎と煙が勢いよく上がっている様子が確認できます。

【私の論評】ウクライナ戦争は、双方の弾薬不足等で塹壕戦になりかねない(゚д゚)!

以上のような記事をもって、マスコミはウクライナが大勝利と報道していますが、それは本当なのでしょうか。私は、まだ2つの点から慎重になるざるを得ません。

まずは、一つ目はロシアのミサイルが枯渇ということが語られていますが、ウクライナも枯渇傾向にあるのは間違いないです。

なぜなら、米国自体が枯渇傾向にあるからです。今年6月には、ウクライナ東部でロシア軍との激戦が続く中、ウクライナ側の弾薬不足が急速に深刻化していました。主力である旧ソ連型兵器の砲弾が払底、ロシアとの火力差は10対1に悪化したとの情報もありました。

米欧は相次ぎ高性能兵器供与を決めたのですが、前線配備や訓練に時間を要していました。ロシアによる東部ルガンスク、ドネツク2州制圧阻止に間に合うかどうか微妙な情勢ともいわれていましたが、これには何とか間に合わせることができたようです。

ただ、米国は、ロシア軍の侵攻と戦うウクライナにとって不可欠な弾薬を供与していますが、生産ペースが消費に追いついていないことから、10月には近く一部の弾薬を提供できなくなる見通しとも言われていました。現状のウクライナ軍は、自分たちで備蓄している弾薬を用いている可能性があります。

米国はウクライナに対する最大の武器供給国となっており、これまでに168億ドル(約2兆4500億円)以上の軍事支援を行ってきました。だが米シンクタンク、戦略国際問題研究所(CSIS)のマーク・キャンシアン氏は最近の分析で、一部軍需品の備蓄量が「戦争計画や訓練に必要な最低レベルに到達しつつある」と指摘。侵攻前の水準まで補充するには数年かかるとの見方を示しました。

米デラウェア州の空軍基地で、ウクライナに向けた兵器や弾薬を準備する兵士ら

米国は、ウクライナ紛争から教訓を学んだようです。それは、必要な弾薬数は予想より「はるかに多かった」ことです。

米国では1990年代、ソ連崩壊を受けた国防費の削減により、国内の軍需企業が大幅な減産を余儀なくされ、その数は数十社から数社にまで激減しました。だが米政府は今、軍需業界に増産を促し、2020年以降製造されていない携帯型対空ミサイル「スティンガー」などの生産を再開させる必要に迫られています。

米国がウクライナに供与した軍需品の中には、ウクライナ軍がロシア軍の首都キーウ進軍を阻止するために使用した対戦車ミサイル「ジャベリン」や、東部・南部で現在進めている反攻作戦で重要な役割を果たしている高機動ロケット砲システム「ハイマース(HIMARS)」など、ウクライナ戦争の象徴となっているものも含まれています。

ハイマースが使用する誘導型多連装ロケット発射システム(GMLRS)弾は80キロ以上離れた標的を正確に攻撃できますが、米国内の在庫は減少しています。

米政府の武器調達官を務めていたキャンシアン氏は、米国がジャベリンとスティンガー同様にハイマース用ロケット弾の備蓄の3分の1をウクライナに供与した場合、その数は8000~1万発に相当すると説明。「これは数か月持つだろうが、在庫が尽きると代替手段がない」と指摘しました。ハイマース用ロケット弾の生産ペースは年間5000発程度で、米政府は増産を目指して予算を割り当てているものの、それには「何年もかかる」といいます。

米国はウクライナに約8500発のジャベリンミサイルを供与していますが、その生産ペースは年間約1000発にとどまります。米政府は5月、3億5000万ドル(約510億円)分を発注しましたが、備蓄の補充には数年かかるとみられます。

ジャベリンを発射する兵士

同国はまた、北大西洋条約機構(NATO)規格の155ミリりゅう弾を80万発以上ウクライナに供与しています。米国防総省によると、この数は西側諸国からの供与分全体の4分の3に当たるとされています。

キャンシアン氏は、米国の供与量は「おそらく自国の戦闘能力を損なうことなく提供できる限界に近い」との見解を示しました。155ミリりゅう弾の米国内での生産能力は月間1万4000発ですが、国防総省はこれを3年以内に3万6000発まで増やすと発表。しかしそれでも年間生産量は43万2000発となり、ここ7か月でウクライナに提供された数の半分に満たないのです。

ロシア軍は、確かに高精度のミサイルは枯渇しているようです。イギリス国防省は先月26日、ロシア軍がウクライナのインフラ施設への攻撃に、核弾頭の代わりに重りを付けた巡航ミサイルを使用しているという分析を発表しました。

このミサイルは冷戦中の1980年代に開発された物で、老朽化したミサイルを使わなければならないほど、高精度の長距離ミサイルが枯渇していることを示すものだとしています。ミサイルに用いる半導体なども枯渇しているようです。

ただ、高精度ミサイルは別にしても、弾薬等は、北朝鮮と中国からも調達できる可能性はあります。

米軍からの支援が滞れば、これは、ロシアに有利になります。

そうして、米国にはもう一つの懸念があります。それは、米国議会です。

中間選挙で議会下院を共和党が奪還し、ウクライナ支援の継続性が問題視され始めています。米南部ジョージア州の上院選の決選投票が6日に投開票されました。

米主要メディアによると、与党・民主党現職のラファエル・ウォーノック氏がジョージア州上院議員選で当選を確実にしました。トランプ前大統領が推薦した野党・共和党新人のハーシェル・ウォーカー氏を破り、上院で多数派を固めた民主が過半数となる51議席目を確保しました。

ただ、下院は共和党のほうが議席数は、多く、上院も民主党は圧倒的多数とは言い難い状況です。

去る5月に400億ドルのウクライナ支援が下院で表決に付された際、57名の共和党議員が反対(149名の共和党議員と219名の民主党議員が賛成)したことがあります。

11月初め、マージョリー・テイラー・グリーンという下院議員は「共和党支配の下では一文もウクライナには渡らない」「民主党が心配する国境はウクライナの国境だけで、米国の南の国境ではない」とトランプの集会で言い放ったのです。

下院の民主党進歩派にも交渉を要求する勢力が30名ほどはいます。バイデン政権はいずれ議会との関係で危機管理を迫られることになるかも知れないです。

以上のような状況を考えると、ウクライナが今後すぐにも勝利するとは言い難い状況です。

それよりも、何よりももっと私が最も恐れているのは、ウクライナ、ロシアともに高精度のミサイルなどが枯渇して、従来のあまり精度の高くないミサイルや火力が中心となり、それこそ、第二次世界大戦どころか、第一次世界大戦のような塹壕戦のような戦いになってしまう可能性があることです。

第一次世界大戦の塹壕戦

両軍とも、銃や機関銃、大砲の弾丸も不足気味になり、銃剣や刀剣を用いた戦いも交えられるようになるかもしれません。

そうなると、第一次世界大戦がそうだったように、なかなか戦争の決着がつかないうちに、多くの兵の命が失われることになりかねません。

ウクライナ戦争がこのような戦争になる可能性はあると思います。そうなれば、戦争は長引くことになります。

第一次世界大戦では、ロシアでは革命が起こったため、ロシアは戦線から離脱せざるを得なくなりました。

そのようなことでもおこらない限り、戦争は長引く可能性があります。

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2022年12月6日火曜日

台湾、公的機関でのTikTok使用を禁止=国家安全保障上の懸念で―【私の論評】中華アプリの使用は「自己責任」でどうぞ(゚д゚)!

台湾、公的機関でのTikTok使用を禁止=国家安全保障上の懸念で


中国の動画投稿アプリ「TikTok」に対して国家安全保障上の懸念が指摘される中、数位発展部(デジタル発展省)の官僚は5日、台湾では公的機関の情報通信設備や管轄区域でのTikTokや中国の写真投稿アプリ「小紅書」のダウンロード・使用を禁止していると明らかにした。

行政院(内閣)は2019年5月、各機関を対象に、サイバー分野の国家安全保障に危害を与える企業の製品の使用を禁止する規則を公布した。使用を禁止されたアプリにはTikTokや小紅書の他、TikTokの中国版「抖音」などが含まれている。同部の官僚は中央社の取材に対し、これらのアプリは以前から公的機関での使用を禁じられていると説明した。

官僚は、企業に対してこれらのアプリの提供を制限するべきかとの問題については、適法性や実施可能性などの影響要因評価に関わるため、関連部会(省庁)と連携して他国のやり方を参考に検討していくと語った。

【私の論評】中華アプリの使用は「自己責任」でどうぞ(゚д゚)!

TikTokの危険性については以前から言われていました。にもかかわらず、日本でも台湾においてさえも使われていたのです。上の記事にもあるように、台湾は、公的機関での、TikTok使用を禁止しました。

日本においては、デジタル庁が、米政府から安全保障上の懸念を指摘されてるTikTokと連携して、マイナンバー制度の普及啓発を目的としたショートムービーを9月8日から公開しています。


政府は、我が国の安全保障そっちのけで、若者に媚びてマイナンバーの普及のために、TikTokを活用しています。これは、日本におけるTikTokの普及に貢献しているともいえます。あまりに、危機意識が低すぎるといえます。

米国においては、ドナルド・トランプ前大統領が、とりわけ若者のユーザーに人気のソーシャルメディア・アプリ、TikTok(ティックトック)について国家安全保障上の問題を提起してから数年経った今、FBIは同アプリが、「我々の(米国の)価値観を共有していない」中国政府の利益になる活動をしていることを認めました。結局トランプ前大統領が正しかったことを認めたのです。


米連邦捜査局(FBI)のレイ長官は15日、バイトダンス(字節跳動)が運営する動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」について、FBIに以前からある国家安全保障上の懸念をあらためて表明しました。また、米国内の運営継続を可能にする取引を審査している当局者と見解は一致していると述べました。

米下院国土安全保障委員会で証言したレイ長官は、数百万人に上るユーザーのデータやソフトウエアを管理する目的で中国政府がこのアプリを利用する恐れがあり、 ユーザーが次にどの動画を視聴するかを決める推薦アルゴリズムは、「中国政府が影響力作戦を選択した場合に利用されかねない」と述べました。

「簡潔に言えば、中国の法律では中国企業は基本的に、情報共有や政府の手段になるという点で政府の要望を果たす義務がある」とした上で、「主にそれが理由で極めて懸念される」としました。

FBIはこうした問題を審査している対米外国投資委員会(CFIUS)に懸念を伝えました。

ティックトックの広報担当ブルック・オバーウェッター氏は「レイ長官が指摘したように、FBIの見解は米政府との間で進められている交渉の一部で考慮されつつある」とした上で、「機密協議の詳細について語ることはできないが、米安全保障上のあらゆる妥当な懸念に全面的に対応する方向にあると自信を持っている」とコメントしました。

TikTokがユーザーの入力している内容を盗み取っているとも指摘されていたことがあります。

TikTokがユーザーの入力している内容を盗み取っている

TikTokに限らず、いわゆる中華アプリに関しては、知っておくべきことがあります。

2017 年 6 月 27 日、中国においては、国の情報活動の基本方針、実施体制、情報機関の職権、法的責任等 について定める国家情報法が制定され、同年 6 月 28 日から施行させ、中国の企業や個人に北京の命令があれば情報収集することを義務づけました。

これにより、中華アプリの開発企業すべてに対して、中国は政府は中華アプリ開発会社の経営陣の意思とは関係なく、従業員にアクセスすることを要求できるのです。


ましてや、中国政府は、TikTokの親会社であるByteDanceの出資者でもあります。その結果、中国政府は、米国人のユーザーデータがどこに保存されているかにかかわらず、中国にいるTikTokの従業員にアクセスを要求することができるのです。

TikTokは、閲覧履歴、地理データ、ファイナンシャルデータ、電話番号、連絡先、クリップボードデータ、生体データ、ドラフトのビデオなどをことごとく飲み込んでいます。


そもそも、中国の技術には、データへの不正アクセスを可能にするバックドアが仕込まれているという指摘は、TikTokが雇った外部監査人からもなされています。

このデータは人工知能(AI)技術を用いて集約され、ユーザーを情報操作や脅迫にさらせる高度なプロフィールが作成できるのです。たとえば、自分の代わりに不正な税の申告が行われることを想像してみてください。中国共産党は、いざとなったら躊躇しません。

TikTokなどの中華アプリを使う人は、このような危機にさらされていることを忘れるべきではありません。いざというときには、中共によって何をされるかわかったものではありません。日本政府のこれに対する危機意識は上で述べたように、かなり低く、現状では、中華アプリの使用は「自己責任でどうぞ」というしかありません。

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2022年12月5日月曜日

防衛費増額の財源に、ついに「埋蔵金」活用か…財務省の「増税悪あがき」の行方―【私の論評】防衛費は当面国債で歳出カットで対応と新聞報道されれば、財務省勝利!逆転には岸田退陣でまともな政権が必要(゚д゚)!

防衛費増額の財源に、ついに「埋蔵金」活用か…財務省の「増税悪あがき」の行方



もともとは「防衛国債」が有力

 政府は防衛費増額について、2023年度の一時的な財源確保策として、新型コロナ対策で厚労省所管の独立行政法人に積み上がった剰余金や外国為替介入に備えて管理している特別会計の剰余金の転用案の活用が浮上したと報じられている。

 一方で安定財源として増税策も年末に向け議論し、赤字国債の一種である「つなぎ国債」で、増税実施までの財源不足を穴埋めすることを視野に入れると報じられている。

 この問題の経緯をまとめておこう。今年2月に、ロシアによるウクライナ侵攻があり、世界情勢が緊迫した。一方、中国の習近平体制は台湾統一を公言しており、場合によっては武力行使の可能性も排除していない。

 台湾有事となれば、日本有事になる。自民党内の保守勢力から日本の防衛力強化が主張され、7月の参院選で自民党は「5年以内でGDP比2%」を公約とした。ただし、そのときには財源論はなかった。安倍元首相が主張していた「防衛国債」が有力視されていたからだ。

 ところが安倍元首相が暗殺されると、財務省は官邸に有識者会議を作った。そこで財源問題が議論され、増税の方向性が出されている。

 そこで、来2023年度予算にも防衛費増額の方向性が出てくるので、冒頭のように岸田政権は11月29日、23年度予算への検討を始めた。

さすがに財務省も抵抗できなくなった

 予算作りの一般論として、新規予算があるときには、(1)他の歳出カット、(2)建設国債対象、(3)その他収入(埋蔵金)、(4)自然増収、(5)増税で対応する必要がある。

 検討される順番は、それぞれの番号通りだ。

 (1)は言うは易く行うは難し。カットされる省庁の反発が強いし財源として巨額なものは出にくい。

 (2)の建設国債対象経費にできれば、有力な選択肢だ。これは、安倍元首相が生前に主張していた「防衛国債」である。財政法第4条第1項ただし書きでは、公共事業費、出資金及び貸付金の財源については国債発行を認めている。一般会計予算総則で海上保安庁の船舶建造費が公共事業費として認められているので、海上保安庁の巡視船は建設国債で作られている。

 同じように防衛省予算を一般会計予算総則で規定するというのも有力案だ。実は、かつて人工衛星も建設国債の対象経費だった。人工衛星は衛星を打ち上げるのはロケットだが、爆弾を乗せればミサイルだ。この前例を踏襲すれば、ミサイルを国債発行対象経費とするのも、できない話ではない。

 (3)その他収入増というのが、筆者がかねてから主張していた埋蔵金である。特に外為特会(外国為替資金特別会計)では円安による儲け「評価益」があるのでこれを使わない手はない。

 筆者のところに多くの与野党議員が問い合わせて来たので、これまでの小泉政権以来の経緯、その際財務省の問題となっていた法解釈などを忌憚なく話をさせてもらった。そして、本コラムでもそれらを公開してきた。

 いくら岸田首相に否定させたところで、さすがに財務省も抵抗できなくなったのだろう。とうとう検討せざるを得なくなった。

すべては岸田首相にかかっている

 ただし、狡猾な財務省はダメージコントロールも上手く、最小限度のダメージに止めるだろう。各紙の報道では、外為特会「剰余金」や外為特会「余剰金」などと書かれている。会計知識のあやふやなマスコミなので仕方ないが、どのような概念であり、筆者のいうところの「評価益」とは違う。

 今の為替水準だと、少なくともとも30兆円程度の「評価益」があるが、剰余金だと、財務省が会計操作を行った後であるので、評価益そのものが剰余金になるわけではない。いずれにしても、筆者から見れば少なくとも30兆円くらい捻出できるが、複数年でその半分くらいになれば御の字だろう。

 (4)自然増収は、もっとも真っ当な方法だ。来年度を見れば、円安でGDP増なので、法人税、所得税はかなり増収になる。その後も経済成長すれは、名目成長を4%程度にできれば、その自然増収で防衛費増をかなり賄える。もっとも、財務省は成長はあてにならないとこの議論には乗らないだろう。

 (2)と組み合わせれば、建設国債の償還年数は60年なので、今の防衛費増に対して、自然増収が0.1兆円程度あれば十分なので、(2)ができるのならば、増税を考える必要はない。

 (5)増税は、最後の手だが、財務省はこれが本命だ。いきなり増税とはせずに、「つなぎ国債」で当面泳いで、特別会計を設置するなどして増税に結びつけるのが、財務省の戦略だろう。東日本大震災のときに、復興費用を復興増税に持っていたときのやりかただ。

 いずれにしても、実質的に(2)建設国債対象、(3)その他収入(埋蔵金)がポイントで、当面これで決着が付けば、(5)増税とは政治的にはならない。かつて小泉政権の時、埋蔵金が多額にあったので、小泉首相は自分の在任期間中は増税しないと言わざるを得なかった。

 いま、サッカーワールドカップで国民は盛り上がっているが、それにたとえると、(2)は右サイドからの攻めであり、(3)は左サイドからの攻めだ。ただし、財務省からは強烈なディフェンスがあり、これら(2)と(3)をできるかぎり少額にして、(5)に持っていこうとしている。

 いずれにしても防衛費増額は2023年度予算で方向性を出す必要があり、年末の予算編成の重要事項だ。支持率が低下して政権運営がままならない岸田政権はどのような道筋を描けるか。

髙橋 洋一(経済学者)

【私の論評】防衛費は当面国債で歳出カットで対応と新聞報道されれば、財務省勝利!逆転には岸田退陣でまともな政権が必要(゚д゚)!

以前にもこのブログの記事で主張したように、防衛費に関して、岸田首相は、財務省や財務大臣の意向を聞きすぎているように思われます。財務省が防衛費の増額に反対するのは当たり前です。そのようなことはわかりきっているので、英国では戦争中の戦略会議などには、財務大臣は出席させないそうです。


現在日本は戦争中ではありませんが、それにしても今年は年末までに防衛三文書の書き換えを行う時期であり、岸田総理は、財務省などの防衛費に関する主張などは、話半分に聞いて留めるべきです。そうでないと、判断を誤ります。

財務相や現在の官邸サイドは、防衛費増を増税の方向に持っていこうとしているようです。

有識者会議などでも増税の話ばかりが出てきて、具体的には東日本大震災の復興増税のようなスキームでどうか、というような話も出ています。

ただ、この有識者会議は内閣官房の有識者会議です。内閣官房は、間違いなく財務省の仕切りです。財務省のひも付きの有識者会議であることは、政府・与党のなかではわかってしまっています。

特に大反発しているのは自民党サイドで、増税など容認できるわけがないということでまとまっています。防衛3文書の議論と税制改正の議論が並行して進んでいたので、官邸が増税というところで結論付けてしまい、自民党税調に回されてしまえば、自民党税調の宮沢洋一会長は財務省のひも付きですから、そこで増税を決められてしまうのではないかという相当な危機感があったようです。


税調は、反対しそうなところの議論を迂回し、増税に賛成するところばかりに諮り、「皆さんに諮りました」という形に増税を強力に推進していこうというのが見え見えでしたから、自民党が怒るのも当然です。

増税の議論は、政権や首相に相当なパワーがなければ党内の反対を押さえつけられませんし、世論の協力も得られません。ここに関して言えば、岸田政権が弱体化していて良かったかもしれません。

ただ、不思議なのは、このような重要なことが報道で出てこないのでしょうか。特に新聞では、自民党のなかでかなり激しい議論が行われていることがほとんど報道されません。8%税率で軽減税率の恩恵を受けているというのが原因かもしれませんが、こういう議論が封印されているのは異常です。

増税に関しては、与党からも反対の話が出ていますし、野党も国民民主党などはいろいろな形で提言しています。そういうことも大きくは扱われません。政局絡みで「国民民主党が連立に入るのか」などという話ばかりが伝えられています。

この狙いは、野党の分断にあるのかもしれません。国民民主党の玉木代表は密室政治を否定しており、国対政治の否定論者なのです。国対政治とは、日本の国会において与野党の国会対策委員長同士が本来の議論の場である国会の本会議や委員会(理事会を含む)をさしおいて、円滑な国会運営を図る為に裏面での話し合いを行って国会運営の実権を握る事をさす言葉です。

それにもかかわらず密室に集ってこれが行われています。国対においての話し合いです、議事録が残りませんん。それをいいことに与野党が馴れ合い、そこでいろいろなことを決めていくのです。

内閣支持率が下がり、求心力がなくなってくると、すぐに連立組み替えのような話が出てくるものです。自民党は非常にしたたかな政党で、連立を組んだ相手をどんどん吸収していき、それによって延命を図ることを得意技としてきた政党です。現状でも、そういうことも考えているのかもしれません。

ただ、確かに国民民主党は、予算案や補正予算案には賛成しましたが、これは是々非々の形の表れだと考えるべきではないでしょうか。ただし、国民民主は、補正予算や被害者救済法で賛成なのですでに「与党」ともいえなくないです。

代表の玉木氏も私から見るとなぜ民主党に入ったのか不思議なくらいでした。岸田政権としても、公明党だけより牽制ができることから、国民民主の与党入りは願ったり叶ったりではないかと思います。


財源についてもオープンな形で国会で議論が出てくれば、そしてそれが報道されればと思います。しかし、なかなかそうなりません。それこそ敵基地攻撃能力なども、必要最小限という文言でいいのかどうか、もっと検討すべきです。維新の青柳議員などは質問に立っていたのですけれども、あまり報じられませんでした。

元々日本維新の会や国民民主党などは、何でも与党に反対ということではなく、是々非々の政党です。立憲民主党などの、何でも反対しているわりには国対政治を用いて密室で物事を決めていくという不透明な政治よりも、オープンな場で議論していくことが必要です。

現在はっきりしているのは、防衛費は当面国債で歳出カットで対応という新聞報道がされれば、建設国債と埋蔵金を封じた財務省が増税含みのつなぎ赤字国債で前半1点リードとみて良いでしょう。これを逆転するには岸田首相退陣でまともな政権が必要となるでしょう。

当然、財務省に屈した、岸田総理に多数の自民党議員は激怒し、政局が大きく動くことになります。増税以外で決着すれば、自民党保守派の勝ちで、政局は動かない可能性が高いです。防衛増税は、それだけ、自民党の保守派の怒りを買ったのは間違いないです。

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2022年12月4日日曜日

スイス、ロシアの金融資産1兆円超を凍結―【私の論評】ロシア凍結資産のウクライナ復興への活用は、新たな国際的枠組みの中で考えるべき(゚д゚)!

スイス、ロシアの金融資産1兆円超を凍結

スイスの経済省経済事務局(SECO)

スイスの経済省経済事務局(SECO)は1日、先月25日時点でロシアの金融資産78億9000万ドル(約1兆700億円)を凍結したと発表した。

SECOは1日付の報道発表によると、金融資産のほか、制裁対象のロシア人がスイスに所有する不動産15物件が差し押さえられた。

ロシア人が所有する総額485億ドルがSECOの調査対象になっているという。

スイスではロシアによるウクライナへの軍事侵攻を受け、連邦会議(内閣に相当)が中立の伝統を破り、欧州連合(EU)の対ロシア制裁を採択した。

また、「防衛力」強化のため、スイスは北大西洋条約機構(NATO)やEUとのより緊密な関係を模索する方針を明らかにしている。

【私の論評】ロシア凍結資産のウクライナ復興への活用は、新たな国際的枠組みの中で考えるべき(゚д゚)!

スイスのカシス大統領兼外相

スイスのカシス大統領兼外相は記者会見で、7月同国ルガノで開かれた「ウクライナ復興会議」でウクライナのシュミハリ首相が各国に、凍結しているロシア新興財閥らの資産の没収とウクライナ復興への利用を求めたことについて、問題への対処にはバランスが必要だとの冷ややかな反応を示していました。

復興会議はロシアの侵攻で甚大な社会・経済的被害を受けたウクライナを支援するため各国が参集。シュミハリ氏は会議終了後の記者会見で、米国や欧州連合(EU)や英国が凍結した総額3000億─5000億ドルの資産はウクライナの破壊された学校や病院や住宅の再建資金に充てることができるはずだと主張しました。

これに対してカシス氏は「大部分の民主主義国家のルールに従えば、われわれは資産の出どころを明らかにするための資産凍結はできる」と発言。ただ、資産とウクライナ情勢との関係が不透明な場合や、取るべき措置のバランスの問題などをスイスとしては解決しないといけないと距離を置く姿勢をにじませました。ちなみに、スイスはEU非加盟国です。

また、"「所有権、財産権は基本的権利、人権」であり、適切な法的基礎が作られた場合(例えば、第一次大戦で敗北したドイツに膨大な金額の賠償を貸す条約をドイツが受け入れたケースや1951年の対日平和条約)にのみ侵害が許されるというのは、国際的に確立した原則です。条約法条約も「条約は、第三国の義務又は権利を当該第三国の同意なしに創設することはない」(第34条)と定めています"とも発言しています。

永世中立国のスイスは、EUの対ロシア制裁に同調。5月には国内に凍結したロシア資産が63億フラン(65億ドル)あることを報告しています。ただ、この自動的な接収には抵抗。スイスはロシアのエリート層に以前から人気の土地で、ロシア富裕層の資産の置き場所にもなってきました。

このスイスが、金融資産78億9000万ドル(約1兆700億円)を凍結したのです。これは、累計なのでしょうが、かなりの額になります。5月から、さら13億ドル多く凍結したことになります。

ブリンケン米国務長官は4月末に、バイデン政権がアメリカ国内で凍結しているロシア政府資産をウクライナ再建に向けるという選択肢を検討していると発言しました。

また欧州連合外務・安全保障政策上級代表ボレル氏はフィナンシャル・タイムズとのインタビューの中で、タリバンがアフガニスタンを支配した後、アメリカがアフガニスタン中央銀行資産について行ったことをEUも(ロシア凍結資産について)行うことは論理的なことだと主張し、ロシアがウクライナ侵略に対する「戦争賠償」として、ロシア凍結資産を充てることを肯定しました(5月9日)。

欧州連合外務・安全保障政策上級代表ボレル氏

カナダでは5月下旬、ロシアの凍結資産の「没収」を可能にする法案を成立させており、フリーランド副首相兼財務相は、「我々の法的権限を拡大することは非常に重要だ。なぜならウクライナを再建する資金を見つけることが大事だからだ。ロシアの資産の没収こそが考えられる最も適切な財源だ」と述べています。

この問題はG7首脳会議でも議論され、カナダで法案が成立したのを受けて他の国でも法整備の動きが広がるかが焦点でしたが、共同声明では「国内法に合致してロシアの凍結資産をどう活用するかを含め、復興支援の選択肢を模索する」という慎重な言い回しとなりました。

これはG7の間で考え方に違いがあることが、その背景にあると見られていますが、辞任した英国のトラス首相が外相時代に「英国政府はこの恐ろしい戦争に関わった人たちの資産を没収するための法整備を検討している。ウクライナ再建のために極めて重要だ」と発言し、カナダに続いて法整備に前向きな考えを示しました。ただ、その後英国ではこの法整備はされていません。

カナダ トルドー首相

欧州連合(EU)欧州委員会は11月30日、ウクライナ侵攻に伴う制裁で凍結したロシアの資産を没収する計画を提案したと表明しました。

フォンデアライエン委員長は「われわれはロシア中央銀行の準備金3000億ユーロを阻止し、ロシアの新興財閥の資金190億ユーロを凍結した」との声明を発表。短期的にはEUとパートナーが凍結資金を管理し、投資することが可能であり、収益金はウクライナに供与し、国内の損害賠償に充てると説明しました。

委員長は「これを可能にするため、パートナーとの国際合意に向けた作業を進める。実現に向けて法的な手段をともに模索する」と述べました。

凍結した資産を「没収」して「売却」し、その資金を復興資金にあてる案には多くの賛成意見がある一方で、強権的に所有者が変更されるため、国際法上認められない恐れもあるという否定的な意見も根強いです。

ロシア政府の報復措置も予想される中、G7や欧米が足並みを揃えた行動に出られるのかが課題となっています。日本も無論、ロシアの資産を凍結していますが、ただ、それをウクライナ復興に転用すべきなどの発言はしていません。

この問題に関しては、国際的な枠組みを作った上で、慎重に議論していくべきでしょう。確かにロシアのウクライナ侵攻自体は、いかなる理由があれ、許されるものではありませんが、それにしても、凍結資産をウクライナ復興に転用してしまえば、第一次大戦で敗北したドイツに膨大な金額の賠償が、ドイツに暗い影を落とし、それが第二次世界大戦の誘因の一つにもなったことを考えると、慎重にならざるを得ないです。

ただ、これはロシアに与するものではありません。ラブロフが語った、凍結資産を西側諸国がウクライナ復興にあてることを「盗人」と語っていましたが、ではロシアによるクリミア併合こそ、「盗人猛々しい」と言わざるを得ません。さらに、ウクライナに侵攻したのですから、ロシアの現政権がこのようなことを語る資格などないです。

ただ、いずれロシアやウクライナの代表を含めた、国際的枠組を構築して、この問題を検討すべきと思います。

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2022年12月3日土曜日

米空軍 核兵器搭載できる新型爆撃機公開 “中国けん制の中核”―【私の論評】米国の抑止の拡大は、さらに中露北の脅威に(゚д゚)!

米空軍 核兵器搭載できる新型爆撃機公開 “中国けん制の中核”


アメリカ空軍などは核兵器を搭載可能な新型の戦略爆撃機を公開し、核戦力の増強を続ける中国を念頭に抑止力を高めるねらいがあるとみられます。

アメリカ西部・カリフォルニア州で2日、戦略爆撃機B21の機体が公開されました。

戦略爆撃機B21を開発したのは、すでに実戦配備されているステルス戦略爆撃機B2を製造した企業です。

この企業によりますと新たな爆撃機は核兵器も搭載することができ、高性能なレーダーでも捉えられにくい次世代のステルス技術を備えるほか、無人での飛行なども可能になるということです。

式典でオースティン国防長官はアメリカ軍が新たな戦略爆撃機を導入するのは30年以上ぶりだとしたうえで「抑止力を強化し、維持することはわれわれの防衛戦略の中心だ」と述べました。

バイデン政権は中国が核戦力の増強を続けているとして警戒を強めていて、核戦力の近代化を進める方針を維持しています。

アメリカ空軍は新たな爆撃機について2020年代半ばの実戦配備を目指し、少なくとも100機保有するとしていて、アメリカのメディアは「中国をけん制するアメリカの取り組みの中核を担うものだ」と伝えています。

【私の論評】新型戦略爆撃による米国の拡大抑止は、さらに中露北の脅威に(゚д゚)!

B21は、21世紀に入ってから初めて登場した爆撃機であり、高いステルス性能と高度なネットワーク能力、オープンアーキテクチャを有しているのが特徴です。アメリカ空軍の計画では、将来的には非ステルス型のB-52と 最新のB-21の2機種で爆撃機部隊のバックボーンを形成するとしています。

なお、愛称の「レイダー(Raider)」は、第2次世界大戦中の1942(昭和17)年4月に日本本土への初空襲、いわゆる「ドーリットル空襲」を行った「ドーリットル爆撃隊(Doolittle Raids)」にちなんだものだといいます。

日本本土を初めて爆撃したドーリットル爆撃隊
式典にはオースティン国防長官やクリストファー・グレイディ統合参謀本部副議長も列席しており、初飛行は2023年5月を予定、すでに6機のB-21がパームデールで最終組み立ての段階にあるそうです。

米国ではB21導入に対する期待が大きいようです。老朽化が深刻な既存の爆撃機を置き換えるだけでなく、戦略的な効率性、予算節減効果まで狙えるためです。

実際に1980年代から生産したB1の場合、昨年9月までに17機を退役させ現在45機を運用中です。1993年に米国とロシアが結んだ第2次戦略兵器削減条約(START2)に基づきB1は核兵器を搭載できません。その上ステルス性能も備えていません。

米空軍はステルス戦略爆撃機のB2を1990年代後半から20機ほどだけ導入しました。冷戦が終わり追加生産をしなかったためです。結局開発費用を合わせた量産費用は雪だるま式に増え1機当たり20億ドルに迫りました。30年前に開発された旧型ステルス機のためメンテナンス費用も少なくないというのが専門家らの評価です。

B21は外見はB2と似た全翼機です。ノースロップ・グラマンが両機種ともに開発しました。

B21は、B2より機体が小さく、武装搭載量は半分の約13.5トン水準です。専門家らは機体が小さくなった分だけステルス性能に優れ運用がさらに効率的だと予想しています。

精密誘導爆撃が可能な各種スマート爆弾を搭載するためであえて武装搭載量に執着する必要もなくなったのです。武装搭載量は減ったのですが、地下施設を破壊する超大型在来式爆弾である「スーパーバンカーバスター」も1発搭載できます。

バンカーバスターとは、地面に突入して地中で炸裂する地中貫通爆弾の総称です。その中でも、スーパーバンカーバスターはかなり強力です。(下図参照)


習近平、プーチン、金正恩ともに、戦時になれば、地下壕に避難して、そこから指揮をとるでしょうが、スーパーバンカーバスターは、それを破壊して、避難している指導層と、その取り巻き全員と、コミュニケーション手段を根こそぎ破壊してしまいます。

いざとなれば、ステルス性の高い、米軍B21が自国の防空網をくぐり抜けて、自分の頭の真上に飛来して、スーパーパンカーバスターをお見舞いされれば、確実に殺されます。この可能性は否定できません。これは、彼らにとって、精神衛生上あまり良いことはないでしょう。

無論このミサイルは、既存のB1、B2、B52などにも搭載できます。北朝鮮の防空システムは、60年代のものであり、米国の爆撃機の侵入を防ぐ能力はありません。

金正恩など、ミサイルを発射するたびに、これで攻撃されるのではと、そこはかとない恐怖に見舞われていると思います。米軍としても、北朝鮮があまりに無茶なことをすれば、本当にこれを実行する腹積もりでいるでしょう。

B21の導入によって、その恐怖はさらに深まるわけです。これは、習近平やプーチンにとっても他人事ではないでしょう。

B21は戦術核だけでなく現在開発最終段階である極超音速ミサイル(AGM-183A ARRW)を搭載するものとみられます。このミサイルはマッハ5以上の速度で飛んで行きますが、射程距離が1600キロメートルに達します。

米空軍は、2022年5月16日、戦略爆撃機「B-52H」からの極超音速ミサイル「AGM-183A(写真下)」空中発射型即応兵器(ARRW)発射に成功したと発表しました。2022年5月14日に実施された試射で、ARRWは爆撃機から投下された後に、点火されたブースターが想定時間どおり燃焼し続け、その速度はマッハ5以上に達しました。


100機以上を生産し1機当たりの導入価格が下がり5億5000万ドル水準と予想されています。

B21戦力化がある程度進めば韓半島への展開だけでなく場合によって暫定的または循環配備も可能になるでしょう。中国、ロシア、北朝鮮にとっては、ステルス性能がないB1、B52爆撃機よりはるかに脅威です。

中露には、新たな戦略爆撃機の開発計画はなく、米国がこれを随時展開すれば米国の抑止の拡大は、彼らにとってさらに大きな脅威になります。

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2022年12月2日金曜日

中国「白紙革命」の行方―【私の論評】バラバラだった中国国民にはじめて共通の念が生まれた。それは、中共に対する恐怖と憎悪(゚д゚)!

中国「白紙革命」の行方


澁谷司(アジア太平洋交流学会会長)

【まとめ】

・彭載舟が10月30日「PCR検査は不要、習近平を罷免せよ」等のスローガンを掲げ、「北京四通橋横断幕事件」を起こした。

・習近平政権のロックダウンやPCR検査に対し、学生達は白紙を掲げて抗議の意志を示した。

・習近平政権が「第2次天安門事件」を起こせば、米国を中心とする世界が中国に対する制裁が更に厳しくなるのではないか。


周知の如く、今年(2022年)10月13日、突如、彭載舟による「北京四通橋横断幕事件」が起きている。中国共産党第20回全国代表大会開催3日前だった。

彭載舟の掲げた内容こそ、たぶん“民意”を代表していたのではないだろうか。第20回党大会では、習近平主席の「第3期目続投」が決定し、“民意”とは逆の結果となった。

彭載舟は裁判にかけられ、死刑になると思われた。けれども、裁判所で審議する際、判事・検事らが、彭の罪状として彼が「国賊、習近平を罷免せよ」と抗議したなどと言えるはずがない。そのためか、彭載舟は精神病院送りになる可能性が高い(a)という。

これで「北京四通橋横断幕事件」は一件落着、そして、事件は“風化”するかと思われた。しかし、同事件はSNSで拡散されていたのである。

さて、11月24日、新疆ウイグル自治区ウルムチ市の高層マンション15階から出火した。火は17階まで昇り、煙は21階まで上がった。

消防車がマンション付近へやって来た。ところが、当地では、厳格な「ゼロコロナ政策」が実施されていたので、約2時間も消火活動が遅れている。そのため、10人が死亡、9人が負傷した。だが、怪我人らが救急車で運ばれた病院の当直の医師の話では、死者は44人もいた(b)という。

ウルムチ市の火災を契機に、同市、北京市、上海市、南京市、広州市、武漢市等で、まず学生が立ち上がった。そこに、市民らが加わったのである。

習近平政権は、約3年近くも、厳しいロックダウンやPCR検査を行い、人民の自由を奪って来た。そこで、学生達は(A4の)白紙を掲げて、抗議の意志を示した。

彭載舟の命を賭けたパフォーマンス(「PCR検査は不要、習近平を罷免せよ」等のスローガン)は、人々に知れ渡っていたのである。抗議者が「白紙」を掲げるだけで彭の主張は十分伝わった。他方、警察当局は「白紙」を掲げただけの学生らを起訴するのが難しかったのである(c)。

実は、各地の集会で、学生や市民らが「共産党退陣」や「習近平退陣」を連呼した。おそらく、1989年の「民主化運動」以来、このような共産党トップの辞任要求はなかったのではないか。

デモ隊らの習近平主席の退陣要求は理解できる。しかし、万が一、共産党が「退陣」した場合、一体どうなるのか。

よく知られているように、中国は普通の民主主義国家とは異なり、共産党に代わる合法的野党が存在しない。中国民主党という非合法な政党が、地下に潜伏している。だが、同党が突然、現れても政権を担当できるとも思えない。

一方、共産党の8友党が共産党に代わって政権を担えるだろうか。所詮、弱小翼賛政党である。したがって、それも極めて考えにくい。

だとしたら、やはり人民解放軍が全面的に表に出て、軍事政権を樹立するのではないか。あるいは、清末民初のように、軍閥が跋扈する公算が大きい。

ところで、武漢市の抗議デモでは、警察、あるいは武装警察がデモ隊を蹴散らすため、発砲した(d)疑いが持たれている。

また、上海市では、すでにデモ鎮圧用車両が用意されている(e)という。明らかに、習近平政権は、人民弾圧の準備を始めたようである。

元来、習近平政権は、人民を徹底的に抑圧して管理するのをモットーとしている。「ゼロコロナ政策」もその一環である。だから、これ以上、各地でデモが激しくなれば「第2次天安門事件」(武力による人民の弾圧)が起こる可能性を排除できないだろう。

実際、習近平政策は、すでにこれを香港で行って来ている。けれども、仮に、習近平政権が「第2次天安門事件」を起こせば、米国(f)を中心とする世界(g)が中国に対する制裁が更に厳しくなるのではないか。すでに、中国経済はかなり悪化している。近い将来、経済破綻を起こしてもおかしくないだろう。

ただ、中国の政治的経済的混乱は、世界へ与えるインパクトが大きい。したがって、中国の「ソフトランディング」を期待したいのは我々だけではないだろう。

〔注〕

(a)『万維ビデオ』「勇士・彭立発の消息あり」(2022年11月12日付)

(https://video.creaders.net/2022/11/12/2546200.html)

(b)『中国瞭望』「新疆ウイグル自治区の火災、ネットでは死者44人と噂される 民衆が政府庁舎を取り囲み、市党書記を罵倒する」(2022年11月25日付)

(https://news.creaders.net/china/2022/11/25/2550784.html)

(c)『中国瞭望』「『白紙革命』に参加しても罪は問えない?ネットが武装警察拘束の詳細を暴露」(2022年11月28日付)

(https://news.creaders.net/china/2022/11/28/2551677.html)

(d)『中国瞭望』「武漢、銃声を聞いて驚く! 民衆はパニックになって逃げ出す…。」(2022年11月27日付)

(https://news.creaders.net/china/2022/11/27/2551361.html)

(e)『中国瞭望』「当局に『大きな動き』? 上海市街中に暴動鎮圧用車両が出現」(2022年11月27日付)

(https://news.creaders.net/china/2022/11/27/2551383.html)

(f)『中国瞭望』「中国での抗議行動発生を受け、ホワイトハウスが声明を発表」(2022年11月28日付)

(https://news.creaders.net/us/2022/11/28/2551608.html)

(g)『中国瞭望』「白紙革命は瞬く間に世界に伝わる 国連人権機関が声を上げる」(2022年11月28日付)

(https://news.creaders.net/china/2022/11/28/2551587.html)

トップ写真:ゼロコロナ政策への抗議を行う民衆(2022年11月28日 中国・北京) 出典:Photo by Kevin Frayer/Getty Images

【私の論評】バラバラだった中国国民にはじめて共通の念が生まれた。それは、中共に対する恐怖と憎悪(゚д゚)!

彭載舟とされる人物の写真

中国のゼロコロナ政策は、中国共産党が人間を家畜なみに扱い、封じ込めることによって、感染を封じ込めようとしたことが、国民の大きな反感を招いたというのが、真相だと思います。

これに対する反感と憎悪は、社会階層を越え地域を越えて、元々は人工的に無理やりにつくられた中国という国の多くの中国国民が初めて共感できた共有の念かもしれません。

中国とは言っても、地方地方によって、民族も違えば、言葉も違ったり、生活習慣や風俗や物の考え方がや価値観が違っており、これまでは、中国共産党が共産党の理念で中国を一つにまとめようと思っても、なかなかうまくはいきませんでした。それが、今回ゼロコロナ政策の失敗で、中国人に共通の念が生まれたというのですから、皮肉です。

そもそも、中国という国には、普通の国民国家にみられる全国民共通の歴史上の英雄というものが存在しません。無論、豪傑や、知恵に優れた人は存在してはいて、尊敬を集めてはいましたが、特に現在の中国を一つにまとめるという意味での英雄や大人物は存在しません。

無論毛沢東を建国の父として、英雄化する試みはありましたが、これもかなり無理があります。なぜなら、毛沢東は大躍進政策の失敗で結果として、想像を絶するほどの人々を死に追いやっているからです。中国人のうち、親戚の誰かや知人の誰かがこの犠牲になっていない人はほとんどいないでしょう。

だから、本当の意味で毛沢東は、国民国家の英雄とはなり得ないのです。そのためもあってか、鄧小平は鄭和を英雄にしようとしました。習近平もこれを、一帯一路に結びつけて、持ち上げようとしました。

鄭和の像

鄭和は約600年前の明の永楽帝の時代、大艦隊を率いて七回のインド洋を横断し何度かは遠くアフリカ東海岸に至る大航海を行いました。彼の艦隊の航路とその寄港地は、東南アジア、インド亜大陸、中東、アフリカ諸国といった現在の中国の経済投資国や外交上の友好国家とも一
致します。

そこには、経済力で圧倒しつつ政治的プレゼンスを強め、同時に文化的ソフトパワーで世界を席捲したい中国が、鄭和という歴史的人物とその業績を利用したいという意図も透けて見えます。

ただ、鄭和は宦官であり、少数民族出身者であり、イスラム教徒でもありました。これを中国統一の統合の象徴にしたり、一帯一路の思想的背景にするには相当無理があります。

国民国家には、その要となる英雄や大人物が必要です。その役割は、日本では天皇が担っています。天皇の他にも日本では、様々な英雄や人物が存在します。他国にも、現在の国民国家の統合の象徴としての英雄や大人物か必ず存在します。

なぜ存在するのでしょうか。国民は一つの国に属していますが、当然のことながら、個々の国民には様々な考えや思惑があり、同じ国の国民であるからといって、利害は必ずしも一致しません。そのため、国民国家は常に分裂の方向に向かわざるを得ないところがあります。

ただ、その利害を乗り越えて、国民を一つにまとめるために、その要としての英雄や人物が必要なのです。そうして、その英雄は国家の理想や理念を体現しているのです。これによって、国家は一つにまとまるのです。

ところが、中国にはそのような英雄は存在しないのです。そのため、中国は強固に一つにまとまっているわけではありません。驚くほど様々な利害が衝突しているのが、実体です。これを警察組織や、軍事力などによって、無理やりまとめているというのが実状です。

そのためか中国では、年間20万〜30万件の暴動が起こっているとされているものの、それは各々の地域での特別な事情や様々な社会階層の思惑が複雑にからんでおり、多くの場合は散発的なものでした。そのため、中共は暴動が異常に多くても、これを何とか鎮圧することができました。

国民の統合の象徴のない中国でしたが、多くの中国国民に共通する理念の前段階ともいえる考えが今中国にできあがりつつあります。それが、中国共産党のゼロコロナ対策に対する、反感と憎悪の念です。


中国共産党が人間を家畜並に扱うとすれば、いずれ行き着く先は、鳥インフルエンザが発生した時に、これが蔓延しないように、鶏を殺処分するように、豚コロナが発生したときに、豚を殺処分するように共産党の都合で、人間も殺処分しかないという、恐怖を多くの国民が感じたことでしょう。

そのような懸念は、過去の毛沢東の大躍進政策や、ウイグル人を閉じ込め虐待して、挙句の果てに殺したり、臓器売買のために人を殺したりなどで、薄々多くの中国人も気づいていたのでしょうが、ただこれまでは、そのように殺戮される人たちは、少数民族であるとか、運の悪い人、異教徒などであり、自分とはあまり関係ないと、自らに言い聞かせ、そう信じ込もうとしてきたのでしょう。

ただ、その恐怖は潜在意識の中には埋め込まれていて、何かのきっかけで、顕在化する状態にあったものと思われます。

それが、今回のゼロコロナ政策によって、顕在化してきたのだと考えられます。今回の全国的なデモを単純なゼロコロナ政策への反対であるとみるべきではありません。

今回の「白紙革命」によって、中国共産党への恐怖・憎悪という中国国民に共通の考えができあがりつつあります。

ただ、これを理念と呼ぶには、まだ次元の低いものです。恐怖・憎悪の念は一時的には、多くの人の共感を呼びますが、それだけでは、一時的にも恐怖や憎悪が収まれば、消えてしまいかねません。プーチンは、NATOに対する恐怖や憎悪の念で、国民をまとめ、高支持率を獲得しましたが、その目論見はウクライナ侵攻では、裏目にでています。

「理念」は「物事に対して“理想“とする”概念“」のことで、「こうあるべき」というベースの考え方を指すものです。 企業では、会社の方針や社員に求める行動指針などを表現する時によく使われます。

中国においても、この恐怖・憎悪の念がいずれ誰かによって昇華され、中国国民であれば、誰もが共感できる「理念」に変わっていくかもしれません。国民国家には、「こうあるべき」という規範が必要なのです。

その誰かは、まだ見えてきません。ただ、この共通の理念となるかもしれない中国共産党に対する多くの中国国民の恐怖・憎悪の念は、容易なことでは覆されることはないでしょう。なせせなら、これは従来とは異なり、立場や社会的地位を乗り越えてかなり多くの中国人に共有されることになったからです。

今回も中国共産党は、必要があれば、天安門事件のように弾圧して、情報統制をして、何もなかったかのように取り繕うでしょう。

しかし、今回の中国共産党に対する恐怖・憎悪の念は、これからも長くくすぶり続けるでしょう。そうして、いずれは、誰かが、新たな理念を生み出し、それによって新たな中国が生まれるかもしれません。

その誰かは複数人で、中国は複数の国家に分裂するかもしれません。また、新たな中国は、単純な西欧化ではないかもしれません。日本のように、単純な西欧化ではなく、中国独自の体制をとるかもしれません。ちなみに、経営学の大家ドラッカー氏は、日本は単純な西洋化をしなかったからこそ成功したと評価しています。

ドラッカー氏は次のように語っています。歴史上、ほとんどあらゆる非西洋の国が、自らの西洋化を試みて失敗した。ところが日本は、明治維新では、西洋化を試みなかった。ドラッカー氏は「日本が行ったのは西洋の日本化だった」と語っています。だから成功したというのです。

その先はまだ見えませんが、今回の出来事によって、中国に変革の火種が生まれたことは間違いないと思います。5年〜10年では無理かもしれませんが、それ以上の期間では、大変革を成し遂げるかもしれません。これから先も、この動きに着目し、何かあれば、このブログに掲載しようと思います。

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