2024年1月16日火曜日

水中戦に備えて? 中国がインド洋一帯の地図を作成している —— 最新報告―【私の論評】対潜水艦戦略の一環:中国の水中測量活動と地域の海軍力強化の必要性

水中戦に備えて? 中国がインド洋一帯の地図を作成している —— 最新報告

まとめ
  • 中国がインド洋で水中測量を実施しているという。
  • 水中戦を計画するためかもしれないと戦略国際問題研究所(CSIS)は指摘している。
  • 中国はアジア太平洋地域で軍事力を拡大しようとしている。
中国国旗を掲揚した潜水艦

中国がインド洋で水中測量を行っており、これが水中戦の計画の一環である可能性がある。戦略国際問題研究所(CSIS)によれば、中国はアジア太平洋地域で軍事力を拡大し、民間の海洋調査プロジェクトを名目に、データを収集して軍事作戦に活用しようとしていると報告されている。CSISは、中国の調査船が特にインド洋に注力しており、そのデータは特に潜水艦活動に価値があると指摘している。

CSISがAIデータ会社Windwardのデータを使用して行った最新の調査によれば、中国の調査船は過去4年間で世界中で数十万時間のオペレーションを行っており、一部は不審な行動を示し、軍事関連施設のある港に停泊することがあると報告されている。また、一部の船はセンシティブな地域ではダークモードに入ったり、識別システムをオフにするなど、警戒行動をとっている。

CSISはさらに、中国の海底地形図作成は軍民融合戦略の一環であり、民間企業や研究が軍事目的で利用される可能性があると指摘している。インド洋は中国にとって戦略的で経済的に重要な地域であり、中国は外洋海軍の創設を検討しており、国家安全保障と研究の境界線を曖昧にすることで実現に貢献しようとしているとされている。関連して、中国とインドの関係が悪化しており、インドは中国の調査船の活動に対する懸念を強めている。

この記事は元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】対潜水艦戦略の一環:中国の水中測量活動と地域の海軍力強化の必要性

まとめ
  • 中国はインド洋で水中測量を実施し、その目的は主に水中戦(ASW)の強化である可能性が高い。
  • 現代海戦ではASWが重要であり、日米はASWにおいて圧倒的な優位性を持っている。
  • 海底地図はASWにおいて不可欠であり、追跡、照準、武器配備、地雷配置といった要素に影響を与える。
  • 米国は長い歴史と大規模な投資により、世界の海底データを豊富に保有しており、中国の取り組みに比べて高い精度を誇る。
  • 中国の積極的な海底地図作成は懸念すべきものであり、将来的には海軍力の包囲や領有権主張の可能性があり、日米や同盟国は地域の海軍力を強化すべきだと考えられている。
中国の海洋調査船

上の記事では、「中国がインド洋で水中測量を行っており、これが水中戦の計画の一環である可能性がある」としていますが、これは可能性というよりは、そのものずばり水中戦のためのものと言って良いです。

正確にいえば、ASW(Anti Submarine Warfare:対戦水艦戦)の強化というべきです。このブログでは、現代海戦は、ASWが強いほうが勝つと何度か指摘してきました。現代では、空母を含めた水上艦艇は、ミサイルの標的に過ぎません。しかし、水中を潜航する潜水艦は違います。

日米は、対潜哨戒能力が高く、日本はステルス性に優れた潜水艦を有し、米国は攻撃力に優れた攻撃型原潜を有しており、両国はASWにおいては、他国より圧倒的に勝っています。そのため、中国を含めた他国の海軍は、海戦において日本や米国に勝つことはできません。

最近、中国もASWを強化しつつあり、潜水艦の能力や、対潜哨戒能力をたかめつつありますが、まだハード面でも、ソフト面でも日米には及びません。中国がこの面で日米の水準に追いつくには数十年かかるでしょう。

ハード面で追いついたとしても、ソフト面で追いつくのは至難の技です。このブログでは過去に、これを脳外科手術にたとえました。脳外科手術において、たとえハードを整えたとしても、脳外科医のノウハウや経験がないと、満足な手術はできません。それと同じく、ASWもソフト面を充実しないと、ハードだけでは、無用の長物になってしまいます。

そのソフトの格好の事例が、水中測量による海底地図です。

海底地図は対水上艦戦において重要な役割を果たし、いくつかの重要な目的のために不可欠な道具として機能します

1. 追跡と照準
 海底地形:海底の詳細な地図は、潜在的な潜伏スポット、チョークポイント、強い潮流のある地域など、水中環境を理解するために不可欠です。この知識により、対潜水艦部隊は敵潜水艦の動きをより効果的に追跡し、その航路を予測し、それに応じて対抗策を展開することができます。
音響伝播: 海底地図には水温、塩分濃度、水深のデータが組み込まれており、これらは音波が水中を伝わる方法に影響を与えます。この情報は、ソナーやその他の音響探知システムの射程距離と効果を予測するのに役立ち、的を絞った捜索活動を可能にし、照準データの精度を向上させます。
2. 地雷原の配置と防御
地雷の配置: 海底マップは、敵潜水艦が活動しそうな地域に水中機雷を戦略的に配置するために使用されます。これにより、効果的なバリアやトラップを作り出し、動きを制限し、敵艦に損害を与えたり、効果的に破壊することができます。
機雷原の防衛: 正確な地図により、対潜水艦部隊は、機雷の掃海や機雷無力化システムの配備など、対機雷作戦の計画と実行が可能になります。さらに、敵の機雷原が味方の作戦に与える潜在的な影響の把握にも役立ちます。
3. 武器配備とナビゲーション
爆雷照準: 敵潜水艦の正確な位置を知ることで、爆雷の正確な配備が可能になり、攻撃成功の可能性が大幅に高まります。
対潜兵器のナビゲーション: 魚雷の発射、ソノブイの配備、水中ドローンの操作のいずれにおいても、潜水艦マップは正確な航行と効果的な武器利用を保証します。
4. 任務計画と訓練
シナリオ作成: リアルな水中マップは、対潜水艦要員を訓練するための模擬戦シナリオの作成を可能にします。これにより、実際の状況に遭遇する前に、安全な環境で戦術を練習し、手順を洗練させ、経験を積むことができます。
作戦計画: 地図は、対潜作戦を計画し、哨戒ルートを決定し、資源を配分し、軍の異なる部門を調整するための重要なツールとなる。
海底地図は対水上艦戦に不可欠な情報資源として機能し、水中環境の包括的な理解を提供し、敵潜水艦に対する効果的な追跡、照準、武器配備を促進します。潜水艦技術の進歩や水中戦の複雑化に伴い、その重要性はますます高まっています。

中国の潜水艦基地

米国はその長い歴史と大規模な投資により、より広範で包括的な世界の海底データを保有しています。これにはさまざまな地域の高解像度の地図が含まれ、中国の集中的な取り組みに比べ、世界の海洋の大部分をカバーしています。

米国の地図作成は、研究機関や他国と共同で行われることが多く、厳格な科学的基準と品質管理を重視しているため、中国の不透明な地図作成に比べ、一般的に精度が高いです。

日本の軍事用潜水艦地図の具体的な詳細は秘密のベールに包まれたままですが、その高度な潜水艦能力と民間および国際的な地図作成活動への関与は、水中航行と作戦に関連する詳細かつ正確なデータを保有している可能性が高いことを示しています。

しかし、中国は、自国の勢力範囲内で戦略的に関心のある地域の地図作成に多額の投資を行っており、特定の地域において高い精度と詳細を達成できる可能性がありますし、独自の水中マッピング技術と能力を急速に開発しており、将来的には米国とのギャップを埋めることを目指しているようです。

したがって、現在、海底マッピング全体では米国が強力なリードを保っていますが、中国の進歩を注視し、今後どのように、そうしてどの程度その差を縮めるのか、注視していく必要があります。

そうして、中国によるインド洋の積極的な海底地図作成は、極めて懸念すべきものであり、彼らは将来インドを海軍力で包囲することを目論んでいる可能性もあります。海底の地図を作成し、いずれこの地域の国際水域のいずれかの地域の領有権を主張し、監視と威嚇のために潜水艦を配備することもありえます。これは、南シナ海の例もあることですから、あり得ないと断言することはできないです。


これは、この地域の通信や通商の重要なインフラを脅かすことになりかねません。この地域の安定と安全を考えれば、日米やその同盟国はこの地域の海軍力を強化すべきです。南シナ海の二の舞を舞うべきではありませ。特に、インドの対戦水艦戦の能力は強化すべきものと思います。

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2024年1月15日月曜日

極右政党、移民追放を謀議か ナチス想起に波紋広がる―ドイツ―【私の論評】ドイツAfD党、文化保護強調の主張に波紋 – 支持率24%で急浮上

極右政党、移民追放を謀議か ナチス想起に波紋広がる―ドイツ

まとめ
  • ドイツの極右政党AfDの幹部と右翼活動家が移民の大量追放計画を謀議したと報道。
  • 会合では、「同化されていない国民」を追放し、アフリカ北部に「モデル国家」を設けるアイデアが提案された。
  • この計画に対し、ナチス時代のユダヤ人排斥を想起させるとして批判が広がっている。
  • 政府与党の議員らは計画を「おぞましい」と非難し、ドイツ社会に波紋が広がっている。
  • 保守野党CDUの右派党員もこの会合に参加し、反移民の広がりが示唆されている。
AfD共同代表ワイデル氏

ドイツで極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」の幹部と右翼活動家が移民の大量追放計画を謀議したとの報道があり、これに対する批判が広がっている。

報道によれば、AfDのワイデル共同党首の最側近や連邦議会議員、起業家らが昨年11月に会合を開き、「同化されていない国民」を追放し、アフリカ北部に「モデル国家」を設けるアイデアを提案したとされる。

この計画に対し、ナチス時代のユダヤ人排斥を想起させるとして、与党議員などから非難の声が上がっており、AfDの党活動禁止も検討されている。報道団体は「移民追放計画はAfDが政権を握る場合の懸念材料である」と警告している。

一方で、保守野党のキリスト教民主同盟(CDU)の右派党員もこの会合に参加したとされ、反移民感情の広がりが示唆されている。

【私の論評】ドイツAfD党、文化保護強調の主張に波紋 – 支持率24%で急浮上

まとめ
  • AfDは、移民の同化を拒む人々が国家と国民のアイデンティティにとって脅威であると主張し、ドイツの文化と国家主権を守るために強硬な立場をとっている。
  • AfDは再移民を実行するのではなく、既存の移民に対して、文化と国家主権を守るために主張している。
  • CDUの右派メンバーが会合に参加したことは、AfDの政策が一部で共感を呼んでいることを示唆している。
  • AfDは犯罪で有罪判決を受けた移民に焦点を当てた「再移民」政策を強調しており、これに対する支持が増加している。
  • AfDの支持率が過去最高に達し、ポピュリズム革命が西側諸国で広がりつつあり、保守派の反乱の一環と見られている。
上の記事おける、「移民の大量追放計画を謀議」とは言い過ぎと思います。私には典型的なリベラルの恐怖を煽りであり、誇張しているように聞こえます。AfDは単にドイツの文化と主権を守りたいだけなのでしよう。

同化を拒む人々が大量に国家に存在することは、国家と国民のアイデンティティにとって脅威であることは間違いないです。AfDとしては、再移民を実行するというより、既存の移民に対して、ドイツの文化と国家主権を守らせるために、敢えてこのような強硬な主張をしているのでしょう。

また、この主張の中には、今後は無秩序に多くの移民を受け入れないという主張も含まれているでしょう。

CDUの右派メンバーが会合に参加したことに関しては、それを断定的に悪いことのように言うのは、間違いですし、AfDの常識的な政策がより広くドイツ国内で共感を呼んでいることを示していると思います。

左翼が言うところの反移民感情の広がりは、実際には愛国心の広がりであり、ドイツ国民を第一に考えたいという願望にすぎません。これは、国民国家の国民として、当然の主張であり、これを否定することはできません。

最近、AfDは「再移民」政策を強調しており、主にドイツから国外追放されることのない犯罪で有罪判決を受けた移民をターゲットにしています。ドイツには「容認」されている移民が数十万人いますが、AfDのシュプリンガー氏が言及した数百万人という数字は、強制送還のターゲットがもっと野心的であることを示唆しています。

“カラフルな共和国 “での日常生活、このような日常の状況は衝撃的であり、2024年を再移民の年にしなければならないことを明確にしています。「レストランや駅を破壊したり、医者を襲ったり、列車内で暴れたりするような者は、ここに居場所はなく、即刻国外追放しなければならない。最終的に行動を起こさなければならない」とAfDは声明を出しています。

この声明は、極端でも陰謀的でもありません。この計画を非難している報道グループは、おそらく国境開放グローバリズムを推し進める左寄りの団体に過ぎないのでしょう。このような批判に直面しながらも、ドイツのために立ち上がる勇気を持ったAfDに拍手を送りたいです。

そうして、これは数字からも裏付けられていると思います。最近、ドイツのAfD党の支持率が過去最高を更新、初めて24%に到達しています。もし、AfDの主張が単なる「人種差別」とか「偏狭主義者」であると受け取られれば、このように支持率があがることはないでしょう。


これは、ドイツの良識ある愛国者たちが目を覚まし、リベラルな体制による失敗した政策を拒否していることを示しています。このまま支持率が伸び続ければ、AfDが政権を掌握することもあり得ることです。

AfDが政権を握れば、国境を守り、移民を制限し、伝統的な価値観を守るなど、ドイツを第一に考えた政策を速やかに実施することが期待できます。彼らはドイツを再び偉大な国にするでしょう。

現在政権を握っている左翼やグローバリスト達は、拒否されつつあるのです。彼らの国境開放、ボリティカル・コレクトネスなどの政策は拒否されつつあるのです。

ドイツの歴史とアイデンティティに関して謝罪しなければならないとする、負の時代は終わりを迎えつつあり新たな時代が到来しつつあるのです。AfDが政権を握れば、ドイツは世界の舞台でリーダーとして再び誇りを持つことができるでしょう。

私は、AfDの勝利によってヨーロッパ中の他の保守派も力を得ることを期待しています。流れは変わりつつあります。良い意味での、ポピュリズム革命が西側諸国を席巻しつつあります。左派・リベラルはこれに脅威を感じているからこそ、AfDや、他の保守政党の動きを否定するのです。

ポピュリズム革命が西側諸国を席巻

ちなみに、日本で一般的に認知されている米国由来のポピュリズムは「大衆迎合主義」と訳され批判の対象とされます。しかしこの解釈はアメリカの左翼によって作られたものであり、保守派の定義ではもともとは中産階級の代弁者という意味です。
 
「ポピュリズム」の対義語は「エスタブリッシュメント」です。
 
エスタブリッシュメントは支配階級・上流階級の意味ですが、分かりやすく日本で例えるなら朝日新聞や熱心な朝日新聞の購読者のような自称インテリ、朝日岩波文化人(革新勢力や護憲リベラル勢力が言論のよりどころにし、自由や公正を重んじる文化人を指す言葉)等を指します。
 
これに対してまともな国民の意見を代弁する少数の政治家を、左翼が「ポピュリスト」とレッテル貼りをしたのです。

このあたりについては、『現代アメリカ保守主義運動小史』に詳しく解説されていますので、興味のある方は読んでいただきたいです。

米国保守派は、ポピュリスト、ポピュリズムという言葉を好んで使います。彼らの中にこれらの言葉はマイナスの意味をもっておらず、プラスの意味合いしかありません。リペラル・左派はこの言葉を悪い意味で使い、ホピュリズムを抑制しようとしているのです。


国家、文化、国民を第一に考えることを指導者に求める市民が増えているのは心強いことです。AfDが権力を握れば、ドイツは一変し、リベラルな世界秩序は大きな打撃を受けるでしょう。それはすぐには訪れないかもしれませんが、未来は明るいです。

そうして、このドイツの出来事は、まさに昨年末にこのブログでも指摘した「保守派の反乱」の一環でもあると思います。

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2024年1月14日日曜日

中国、激しく反発 台湾統一に手詰まり感 総統選―【私の論評】台湾経済に悪影響を及ぼす今後予想される中国の軍事演習拡大:その悪影響と対応策の要点

中国、激しく反発 台湾統一に手詰まり感 総統選

まとめ
  • 中国の習近平政権は、台湾総統選で民進党の頼清徳氏が勝利したことに激しく反発している。
  • 民進党は中国と距離を置く姿勢をとっており、台湾統一を目指す習政権にとって、民進党政権の長期化は手詰まり感を強める。
  • 習政権は、軍事的威嚇や経済圧力などの強硬措置を取る可能性がある。
  • 具体的には、台湾を包囲する大規模演習の繰り返しや、台湾産品の輸入制限などが考えられ、演習を長期化させ、台湾の物流に深刻な被害を与えることで、台湾の民心を揺さぶることも考えられ、事実上の港湾封鎖を狙って演習を行う可能性も指摘されている。
台湾総統選で勝利した民進党の頼清徳氏 背後に安倍晋三氏の大きな写真が!

 中国の習近平政権は、台湾総統選で民進党の頼清徳氏が勝利したことに激しく反発しています。民進党は中国と距離を置く姿勢をとっており、台湾統一を目指す習政権にとって、民進党政権の長期化は手詰まり感を強めることになります。

 習政権は、民進党政権が台湾独立を進めていると主張し、軍事的威嚇や経済圧力などの強硬措置を取る可能性があるとの見方が出ています。具体的には、台湾を包囲する大規模演習の繰り返しや、台湾産品の輸入制限などが考えられます。

 また、演習を長期化させ、台湾の物流に深刻な被害を与えることで、台湾の民心を揺さぶることも考えられます。さらに、事実上の港湾封鎖を狙って演習を行う可能性も指摘されています。

 いずれにせよ、習政権は台湾統一に向けた手詰まり感を強めており、台湾海峡の緊張が高まる可能性が懸念されます。

【私の論評】台湾経済に悪影響を及ぼす今後予想される中国の軍事演習拡大:その悪影響と対応策の要点

まとめ
  • 22年8月には、中国の軍事演習により、台湾の物流に混乱が生じ、貨物船や旅客船が遅延・運休。貨物輸送量は10%減少。
  • 輸入品や輸出品の欠品で経済に打撃。演習による被害額は約新台幣1,000億元、長期化すれば数兆円に。
  • これへの対応策として、短期的には米海軍の追加配備やミサイル防衛システムの提供。経済制裁やサプライチェーン分散をすべき。
  • 長期的には、同盟国との安全保障協力、QUADの拡大、国際参加推進、武器売却と軍事援助増加、偽情報対抗、民主政府支援をすべきである。
  • これらの対策を通じて、中国の脅威に対処し、台湾の安全と同盟国の協力を確保する必要がある。

2022年8月中国軍が軍事演習実施した台湾沖の地域(赤い部分)

台湾の交通部運輸統計や新聞報道などによれば、
2022年8月に中国軍が実施した台湾沖の軍事演習では、台湾の物流に以下の影響が出ました。
  • 航空機による飛行訓練や艦船による航行訓練で、航空管制や海上交通が混乱し、貨物船や旅客船の遅延や運休が発生しました。
  • 演習海域に近い港湾では、船舶の入出港が制限され、荷物の積み降ろしや輸送に支障が出ました。
  • 演習の影響で、台湾の輸入品や輸出品の一部が欠品するなどの問題が発生しました。
具体的には、演習期間中、台湾の貨物輸送量は前年同期比で約10%減少しました。この減少分がすべて被害額だと仮定すると、約新台幣1,000億元(約3,700億円)に相当します。また、台湾の主要港である高雄港では、中国軍の艦船が高雄港の沖合で活動していたため、船舶の入出港が制限され、荷物の積み降ろしや輸送に支障が出ています。

演習が長期化した場合、台湾の物流への影響はさらに深刻化すると考えられます。航空管制や海上交通の混乱が長期化すれば、貨物船や旅客船の遅延や運休が頻発し、台湾の経済活動に大きな打撃を与える可能性があります。また、輸入品や輸出品の欠品がさらに拡大し、物価高やインフレを招く恐れもあります。

中国政府は、台湾統一を実現するために、台湾の経済を圧迫する戦略をとっているとみられます。今回の演習は、その一環として行われたものと考えられ、今後も同様の演習が繰り返される可能性は高いとみられます。

もし、演習が長期化した場合、台湾の被害額は数千億円から数兆円に達する可能性もあります。

このようなことを防ぐために、台湾やそのパートナー国の日米などの国々は何をすべきでしょうか。

短期的には以下のことが考えられます。
  • 攻撃型原潜を筆頭とする、米海軍を台湾海峡に追加配備すべきです。事実上の封鎖を確立し、中国のさらなる侵略を抑止すべきです。米国の同盟国もこれに準じた動きをすべきです。
  • パトリオットPAC-3や高高度防衛ミサイル防衛システム(THAAD)のような先進的な対艦・対空ミサイル防衛システムを台湾に提供し、台湾の防衛力強化を支援すべきです。
  • 中国に対し、特に軍や共産党指導部に関係する企業や個人を対象とした経済制裁を実施すべきです。中国の資産を凍結し、貿易を制限すべきです。
  • 民間企業と協力し、台湾のサプライチェーンを中国から分散させるべきです。欧米企業が台湾に製造拠点を移し、台湾にインセンティブを提供すべきです。台湾の経済的依存度を下げるべきです。

中国サイトに掲載されたオハイオ級攻撃型原潜一部秘密保持のめ米国側のぼかしが、作業する人から、その巨大さを実感して欲しい

長期的には以下のことが考えられます。
  • 台湾、日本、インド、オーストラリア、韓国の間で、インド太平洋地域における安全保障、情報共有、軍事協力について、より大きな協力を交渉すべきです。中国に対抗するための同盟を結ぶべきです。
  • QUAD(四極安全保障対話:米、日、印、豪)を拡大し、定期的な合同軍事演習、武器取引、戦略的協力をし、中国に対する相互運用性を高めるべきです。
  • WHO、ICAO、国際刑事警察機構などの国際機関への台湾の参加を推進すべきです。台湾の外交的認知度を高め、孤立を緩和するのです。
  • 台湾が自衛のための最新兵器を獲得できるよう、米国の武器売却と軍事援助を増やすべきです。台湾が軍事的に中国と同等になり、侵略を抑止できるよう支援すべきです。
  • 中国の偽情報と影響力活動に国際的に対抗すべきです。中国による欧米の技術や大学へのアクセスを制限すべきです。重要なサプライチェーンを切り離し、中国の力を封じ込めるべきです。
  • 台湾の民主政府への一貫した支援を維持すべきです。中国に対し、台湾へのいかなる攻撃も容認できないという明確な警告を発すべきです。軍事的冒険主義を抑止すべきです。
東京で2022年5月に開かれた日米豪印4カ国による枠組み「クアッド」の首脳会合

長期的には、同盟を結び、抑止力を高め、脆弱性を減らすことによって、中国の野心を封じ込め、対抗すべきです。台湾のために立ち上がることは道徳的な義務といえますが、戦略的な利益にもつながります。

私たちは、同盟国やパートナーを守るために、北京に強硬な対応をしなければならないです。中国の地域覇権の野望を阻止できるのは、強力で集中的な行動と決意だけです。

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2024年1月13日土曜日

ウクライナ・イスラエルでのバイデンの苦境 ―背景に民主党の分裂―【私の論評】ウクライがロシアのGDPを凌駕するロードマップを描け

 アメリカ現状モニター

ウクライナ・イスラエルでのバイデンの苦境
―背景に民主党の分裂
 

渡部 恒雄
笹川平和財団上席研究員

まとめ
  • ニューヨーク・タイムズとシエナ大学の共同世論調査により、イスラエル・パレスチナ衝突におけるバイデン政権の支持が33%、不支持が57%となり、トランプとの比較でもトランプが優位とされた。
  • 同調査では大統領候補としての支持でもトランプが優位であり、共和党優位の選挙人団制度を考慮すると、バイデン陣営にとって厳しい状況となった。
  • ウクライナ支援に関しても共和党との交渉が難航し、ウクライナ支援の予算に対する民主党左派の反発が生じている。
  • イスラエル情勢においても左派が政権に圧力をかけ、外交政策での難航が左派の不満の対象となっている。
  • バイデン政権がこれらの矛盾を脱却し、支持を得るためには、イスラエル・パレスチナ紛争とウクライナ戦争に対する左派と有権者の認識を変える必要がある。
バイデン

12月10日から14日にかけて行われたニューヨーク・タイムズとシエナ大学の共同世論調査によると、イスラエル・パレスチナ衝突におけるバイデン政権の政策に対する支持は33%で、不支持が57%となった。トランプとの比較では、イスラエル・パレスチナ衝突をどちらがうまく処理できるかについて、バイデン38%、トランプ46%となり、トランプが優位だった。また、大統領候補としての支持もトランプが49%、バイデンが43%で、共和党候補が優位とされている。これが共和党優位の選挙人団制度を考慮すると、バイデン陣営にとっては艱難な状況となっている。

同調査によれば、回答者の44%はガザの死者が既に2万人を超えている状況で、イスラエルはハマスに対する軍事作戦を停止すべきだと考えており、48%はイスラエル軍が十分な配慮をしていないと回答している。

バイデン政権はウクライナ支援のために共和党議会の支持を得ようとしているが、ウクライナ支援の予算に対する厳しい交渉が続いている。ウクライナ大統領のゼレンスキー氏はバイデン大統領や議員らと面会し、ウクライナへの支援継続を訴えた。一方で、共和党はウクライナ支援の条件として国境対策を求め、これが民主党左派の反発を招いている。

中東政策でもトランプ支持が増え、特にイスラエル情勢においては左派が政権に圧力をかけている。これにより、バイデン政権は外交政策での難航が左派の不満の対象となり、米国内外のストロングマンたちが優位に立つ状況となっている。これらの矛盾から脱却するためには、バイデン政権がイスラエル・パレスチナ紛争とウクライナ戦争に対する左派と有権者の認識を変え、支持を獲得する必要がある。

この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】ウクライがロシアのGDPを凌駕するロードマップを描け

まとめ
  •  共和党と民主党内の左派がウクライナ支援に反対していると報じられ、トランプ政権成立時には支援の削減が懸念されている。
  • 大統領が誰になっても、ウクライナへの強力な支援が必要。ウクライナの主権支持や、プーチンのロシアに対抗する必要性が党派を超えたものである。
  •  ウクライナが戦後復興やEU加盟により経済的に大きく成長する可能性があり、ロシアを経済的に凌駕することもあり得る。
  • ウクライナが過去に経済成長できなかったのは、ソビエト連邦崩壊後の腐敗した民営化や、中央集権的統制の影響、汚職との腐敗の蔓延によるものである。
  •  ウクライナがEUに加盟することができれば、脅威の経済発展しロシアを凌駕することも夢ではなく、これをウクライナと支援国がロードマップに描くべき

ウクライナ支援に関しては、共和党も民主党内の左派も反対なようですが、もしトランプ政権が成立した場合、トランプ氏はウクライナへの支援を減らすか取りやめる可能性も取りざたされています。

私自身は、誰が大統領になったとしても、ウクライナへの強力な支援を維持してほしいです。プーチンのロシアに立ち向かい、ウクライナの主権を支持することは党派を超えて行われるべきだと思います。

ウクライナの自由と民主主義は米国の国益にかなうものです。米国はウクライナに対する見方を変えるべきと思います。

現状のウクライナに対する、共和党や民主党内の左派の見方は、民主主義の砦を守るための費用という見方しかしていないと思われます。しかし、これを費用としてだけとらえるのではなく、投資として見方を変えるべきと思います。現在は、発展途上国なみのウクライナですが、見方を変えれば、ウクライナには大きな洗剤可能性があります。

ウクライナ経済がロシア経済を凌駕する可能性

ウクライナの自由と民主主義が維持発展されれば、ウクライナはかなりの経済発展をする可能性があります。その根拠は、以下の表をご覧いただければ、ご理解いただけるものと思います。なお、以下の表は2021年のウクライナ戦争開戦の前年のデータです。

戦争中のデータは、特殊であるのと、正確性にも欠ける場合もあるので、2021年のデータを用いています。

まずは、一人当たりのGDPです。
GDP(ドル)一人当たりのGDP(ドル)
ウクライナ1,557億ドル3,745ドル
ロシア連邦1.7兆ドル10,610ドル
ウクライナのGDPは、ロシアの約10分の1であり、一人当たりのGDPも約3分の1でした。ウクライナは、ロシアに比べて経済規模が小さく、経済水準も低い国でした。これは、発展途上国の部類に入ると言って良い水準です。しかし、これは逆にいえば、かなりの伸びしろがあるということです。

次は、人口です。
人口
ウクライナ4,159万人(クリミア半島を除く)
ロシア連邦1億4,623万人

ロシア連邦と比較すれば、ウクライナの人口はロシアの1/3しかありません。それに、中国、インドの人口は14億人で、ロシア連邦の10倍です。このような国と比較すれば、確かにしウクライナの人口は少ないです。

しかし、ヨーロッパの他国と比較すれば、この人口は少ないとはいえません。また、モスクワ周辺に位置する、ロシア共和国の人口は、1000万人程度です。これを考えると、ロシアとウクライナの人口差は、絶望的に異なるという次元ではありません。

一人当たりのGDPと、人口から、ウクライナがロシア連邦のGDPを超えるには、一人当たりのGDPをどの程度にすれば良いのかを計算します。

2021年のウクライナとロシア連邦の人口は、ウクライナが約4,400万人、ロシア連邦が約1億4,600万人でした。

この人口差を考慮した計算式は、以下のようになります。
(ロシア連邦のGDP) / (ウクライナの人口) = 一人当たりのGDP

これを計算すると、以下のようになります。
1.7兆ドル / 4,400万人 = 38,636ドル

つまり、ウクライナがロシア連邦のGDPを追い越すためには、一人当たりのGDPが38,636ドル以上になる必要があります。

一人あたりの、GDPが38,636ドル付近の国を以下にあげます。比較の対象として日本、米国、ロシアも含めます。
一人当たりのGDP(ドル)
韓国38,740
台湾39,030
ポーランド32,250
スロバキア31,830
ロシア11,370
日本42,820
米国63,540

この表から、ウクライナは、一人当たりのGDPが韓国並になれば、ロシアのGDPと並ぶ水準になり、台湾並になれば、ロシアのGDPを追い越すことになることがわかります。

無論、これは戦争前の比較ですから、ウクライナが戦後復興して、それからの経済成長によりこうなるということになりますが、それにしても、一人あたりのGDPが台湾位の水準になれば、ロシアの GDPを完璧に追い越すというのですから、これはまったく不可能であり得ないということとは言えません。

もし、これが、日本やドイツ、フランス並とか、それ以上というなら、かなり難しいです。さらに、人口面でも、ウクライナとロシアの人口が、10倍以上もあれば、これもかなり難しいです。

しかし、ロシアとウクライナとの比較ということであれば、これは全く不可能とはいいきれないです。

ただし、これは数年ではなく数十年のスパンで達成できるということになると思います。ただ、日本の高度成長のような成長が可能となれば、10年くらいで達成できるかもしれません。

そのような目でみると、なぜウクライナは過去には経済発展できなかったのかという疑問がわきます。

ウクライナはなせ経済成長できなかったのか

ウクライナが過去に経済成長できなかった理由はいくつあります。

まず、ソビエト連邦の崩壊は、ウクライナの工業生産高、特に鉄鋼や鉱業のような重工業の急激な減少につながりました。これは雇用、輸出、全体的な経済成長に大きな影響を与えました。

ソ連時代には他の部門を犠牲にして重工業に重点を置いたため、ウクライナの産業基盤は時代遅れで硬直化し、変化する世界的な需要に対応するのに苦労しました。その結果、経済の多様化と競争力の欠如を招いてしまいました。

ソビエト連邦崩壊

次に、ウクライナがロシアの干渉を受け続けてきたことです。ロシアはウクライナの政治に関与してきた長い歴史があり、しばしば影響力を行使し、ウクライナの軌道を形成しようとしてきました。これには、クリミア併合やウクライナ東部で進行中の紛争に見られるように、特定の政治派閥を支援したり、誤った情報キャンペーンを行ったり、さらには軍事介入に訴えたりすることも含まれます。

ウクライナの犠牲の上にロシアが利益を得ているとされる不公正な貿易慣行や資源操作への懸念が提起され、経済的搾取への非難もあります。さらに、ソ連時代のホロドモール飢饉のような歴史的な出来事は、ロシア国家による意図的な搾取の例とみなされています。

さらに、ウクライナ国内の汚職や腐敗です。ソビエト体制は、ウクライナの社会とビジネスの多くの側面に浸透し続けているビジネス主体に対する後援と縁故主義の文化を育みました。これが公正な競争を妨げ、外国からの投資を抑制し、生産活動から資源を遠ざけています。

インフォーマルなネットワークと官僚主義 複雑な官僚制度を利用した経験から、ビジネスを行うための複雑なインフォーマル・ネットワークが発達してしまったのです。こうしたネットワークは近道を提供してくれるかもしれないですが、法的枠組みの外で運営されていることが多く、不透明で不公正なビジネス環境を助長しています。

1990年代の民営化 ソビエト連邦崩壊後、ウクライナは国有資産の大規模な民営化を実施しました。しかし、このプロセスは汚職にまみれ、価値ある企業が政治的につながりのある人物に割安な価格で売却されました。その結果、富と経済力が一部の人間に集中し、経済全体が投資と競争の欠如に苦しむことになりました。

ウクライナでは汚職との戦いが続いており、近年はさまざまな改革やイニシアチブが実施されています。

計画経済から市場システムへの移行は、法的・制度的枠組みの不備により困難なものとなっています。このことが企業や投資家に不確実性をもたらし、リスクの増大と経済活動の低下を招いています。

 数十年にわたる中央集権的な統制が、個人の自発性やリスクテイクを抑制し、起業家精神の欠如を助長し、活力ある民間セクターの発展を妨げてきました。

しかし、この複雑な問題に完全に対処し、ウクライナの経済的潜在力を最大限に引き出すには、まだ多くの課題が残されています。

ウクライナのソ連時代からの負の遺産は、根深いものがあるのです。こうした負の遺産を解消すれば、ウクライナの経済がのびる余地はかなりあります。

ウクライナ

計り知れないウクライの急速な経済発展の可能性

戦争終結、汚職撲滅、EU加盟などの条件が満たされれば、ウクライナの急速な経済発展の可能性は計り知れないです。

強固な基盤

ウクライナは、強固な基盤(インフラ)を持っており、これは他の発展途上国等にはないものです。

多様な産業基盤: ウクライナには、農業、鉱業、冶金、化学、機械、IT、宇宙、軍事など、確立された産業部門があります。宇宙産業に関しては、ロシアがウクライナから部品を輸入しており、これが絶たれると、ロシアの宇宙開発に支障がでるかもしれないとい割れるほどの水準にあります。また、これはあまり知られていませんが、中国の軍事技術の母体となったのは、ウクライナの技術です。 

この多様な基盤は、さらなる経済成長と新市場への進出を可能にする強力な土台となります。

高学歴の労働力: ウクライナは識字率99.4%という高い教育水準を誇っています。ヨーロッパの大学教育の統一基準・水準は、「バチェラー・マスター・ドクター(Bologna Process)」と呼ばれています。これは、1999年にイタリアのボローニャで開催された欧州高等教育会議で採択された「ボローニャ宣言」に基づき、欧州の大学教育の質と国際競争力を向上させるために制定されたものです。

ウクライナの大学・院にもBologna Processが適用されています。ウクライナは教育という面でヨーロッパと変わらず、物価も安いということから、戦前は、中国人の手頃な留学先として人気がありました。

また、人口あたりのエンジニアの数は、世界でトップクラスにあります。工学、科学、技術などさまざまな分野に長けた人材が容易に確保できることは、海外からの投資を誘致し、イノベーションを促進する上で貴重な資産となります。

戦略的立地: EUとロシアの間に位置し、中東のトルコと黒海を経て接するウクライナは、重要な貿易・中継拠点となりうる地理的優位性を享受しています。インフラとロジスティクスの改善により、この優位性を活かして市場を結びつけ、地域の経済活動を活性化させることができます。

これらの基盤は、他の発展途上国等には見られないものであり、ウクライナの高い潜在可能性を示しています。 

EU加盟

単一市場へのアクセス: EUに加盟すれば、4億5,000万人以上の消費者を抱える世界最大の単一市場へのシームレスなアクセスがウクライナにもたらされます。これにより、ウクライナの企業が商品やサービスを輸出する機会が大きく広がり、海外からの投資を呼び込み、経済成長を促すことができます。

金融・技術支援: EU加盟には、インフラ整備、制度改革、事業開発を目的とした多額の資金・技術支援プログラムが付随しています。これらの資源は、ウクライナの経済的進歩と近代化を加速させる上で有益です。

ガバナンスと法の支配の改善: EUの基準に合わせるためには、制度を強化し、法の支配を堅持し、腐敗と闘うことが必要である。これにより、より予測可能で透明性の高いビジネス環境が構築され、信頼が醸成され、海外からの投資が誘致されるでしょう。

その他の要因

豊富な天然資源: ウクライナは肥沃な農地、鉱物資源、黒海へのアクセスに恵まれています。これらの資源を持続的に管理することで、環境を保全しながら大きな経済的利益を生み出すことができます。

起業家精神: ウクライナ人は回復力があり、機知に富み、起業家精神に富むことで知られています。こうした資質は、長年のロシアの軛から開放され、支援的な環境と相まって、イノベーションと新規事業の創出を促進し、経済のダイナミズムに貢献することができます。

技術的潜在力: ウクライナには、熟練した労働力と活発な新興企業エコシステムを擁する成長著しいIT分野があります。このセクターを育成し、AIや再生可能エネルギーなどの新興技術への投資を呼び込むことで、ウクライナ経済を将来に向けて推進することができます。

もちろん、現在はロシアの侵攻を受けており、様々なインフラが破壊されていますし、先にあげたような課題も残っています。しかし、潜在的な見返りは大きいです。戦争が終わり、適切な条件と継続的な決意さえあれば、ウクライナは独自の強みと戦略的優位性を活かして急速な経済発展を遂げ、豊かで繁栄する国家としての地位を確立することができるでしょう。そうして、それはEU諸国にとって、ロシアの隣国にEUの味方である、強力な国ができあがることを意味します。これは、EUの安全保障にとっても良いことです。

そうした観点で、ウクライナ支援をとらえるべきです。ウクライナ支援はこうしたことを見据えて行うべきですし、ウクライナ側もこうした視点を支援国に示すべきです。

米国、日本、EUもウクライナと協同で、叡智を絞り、ウクライナがいずれロシアのGDPを追い越し、経済発展をつづけ、西側諸国とともに栄えるパートナーとなり、ロシアに対する強力な防波堤になることをロードマップに落とし込み、その上で支援をするようにすべきです。

これによって、米国は誰が、大統領になっても支援はやりやすくなるでしょう。それは、日本もふくむ、西側諸国も同じです。

イスラエルに関しても、イスラエル、ガザ地区(パレスチナ)の双方が経済発展し、テロリストを一掃し、安全保障での中東の要となれるようなロードマップを描くべきです。

日本こそ、このようなことに関してリーダーシップを発揮すべきと思います。

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2024年1月12日金曜日

【奇跡の救出劇】JAL機炎上事故…乗客を救ったCAの半分が新人だった!―【私の論評】JAL機御巣鷹山墜落事故の教訓と企業内コミュニケーションの重要性

【奇跡の救出劇】JAL機炎上事故…乗客を救ったCAの半分が新人だった!

まとめ
  • JAL機の事故では、CAの迅速な避難誘導で乗員乗客全員が脱出できた。
  • 事故機のCAの約半数は、入社してまだ日が浅い新人だった。
  • JALのCA研修は厳しく、あらゆる事態を想定した訓練が徹底されている。
  • 今回の救出劇は、その厳しい訓練の賜物だったと言える。
  • 新人CAたちは緊張感の中で冷静に任務を遂行し、プロの実力を発揮した。
  • 彼女たちの努力に敬意を表したい。JALの訓練システムの重要性が示された。
日航のCA

 JAL機のバードストライク事故で、CAたちの迅速な避難誘導により、乗員乗客379人全員が脱出することができた。驚くべきことに、事故機のCAの約半数は入社して日が浅い新人だった。

 JALのCA研修は、バードストライクや火災など緊急事態の訓練が徹底的に行われる。新人CAはこの過酷な訓練に耐え抜き、言葉や動作のすべてにおいてプロフェッショナルとしての実力を磨かれる。今回の救出劇は、そうした訓練の成果が発揮された結果だったと言える。

 新人CAたちは、自らもパニックに陥いていただろうが、訓練で身につけた手順と冷静さを保ち任務を全うした。彼女たちの努力に心からの敬意を表したい。JALの訓練システムの重要性と、それを支える新人CAの規律正しさが示された事例だった。CAのプロフェッショナリズムが、乗員乗客の命を救った。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】JAL機御巣鷹山墜落事故の教訓と企業内コミュニケーションの重要性

まとめ
  • 日航123便の1985年の御巣鷹山墜落事故は520人もの死者を出した
  • 事故の教訓が今回のJAL機の事故で生かされたとみられる
  • 成功の要因は訓練やCAの規律正しさだけではなく、社内でコミュニケーションが確立されていたことに大きな要因があるとみられる
  • 日航では安全のための真のコミュニケーションが共有されていたようだ
  • 企業内のコミュニケーションが重要である
航空機事故として、日本で最大のものは、日航機の御巣鷹山への墜落事故です。1985年8月12日、日本航空123便(ボーイング747SR-100型機)が、群馬県多野郡上野村の御巣鷹山に墜落しました。この事故は、単独機での事故としては、死者数において世界最悪の航空事故となりました。

事故の原因は、機体後部圧力隔壁の破壊とされています。この破壊により、大量の空気が流れ出し、垂直尾翼の構造が破壊されました。そのため、機体は制御不能に陥り、御巣鷹山に墜落したとされています。

事故機の乗客乗員524名のうち、死亡者数は520名、生存者は4名でした。

この事故では、事故の発生場所が山奥だったことや、事故当日の天候が悪かったことも、生存者の数を減らした要因と考えられます。また、事故機の脱出の方法にも問題があった可能性があり、乗客は機体から脱出する際に、様々な危険にさらされました。

出典は、以下のとおりです。
  • 日本航空123便墜落事故に係る航空事故調査報告書(昭和62年6月公表)
  • 日本航空123便墜落事故の真実(柳田邦男著)
  • 8・12連絡会ホームページ
なお、事故の原因や事故の状況については、様々な意見や説があります。しかし、事故調査委員会が発表した最終報告書では、機体後部圧力隔壁の破壊が原因であると結論づけられています。

この事故は、単独機での事故としては、死者数において世界最悪の航空事故となりました。事故の教訓を踏まえ、この航空機事故の防止に取り組んできました。

その成果が、今回の事故では生かされたようです。

ただ、今回の成功に関して、厳しい訓練を義務付けたからとか、CAの資質によるもののみではなく、やはり、日航内でのコミュニケーションが行き届いていたこともあると思います。

ただ、このブログでも、以前述べたことがありますが、コミュニケーションという言葉ほど曖昧に使われている言葉ありません。

アベノミクス以前のかなり景気が悪かった時期に多くの企業で採用の「コミュニケーション重視」と謳う企業が多く存在したので、就職フェアに参加していた他のいくつかの大手企業の採用担当者に「御社でいうコミュニケーションとは何を意味するのですか」と聞いてみたことがありました。

その返答はみな曖昧で、結局私には、結局のところ「景気が悪いから、独創的な人や、チャレンジ精神あふれる人ではなく、あたりさわりのない"調整型"の人を採用したい」というふうにしか聞こえませんでした。"調整型"ではあまりに格好が悪いので「コミュニケーション」という言葉言い換えたとしか思えませんでした。

この言葉は、定義が明確にされないまま、使われています。この定義に関しては、経営学の大家のドラッカー氏の原理を、このブログに掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
豊田真由子議員が会見「生きているのが恥ずかしい、死んだ方がましではないかと思ったこともありました」―【私の論評】私達の中の1人から私達の中のもう1人に伝わるものとは?

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事よりコミュニケーションの原理に関わる部分を以下に引用します。

"
1. コミュニケーションは知覚である
これは単純に言ってしまうと、相手の立場に立つということです
知覚という言葉を広辞苑で引くと「感覚器官への刺激を通じてもたされた情報をもとに、外界の対象の性質・形態・関係および身体内部の状態を把握する働き」と出てきます。つまり、自分とその周囲のものとの差を感じるということです。 
相手との違いをきちんと把握し、相手に合わせた手段でもって人と接する必要があるということです。ソクラテスは、「大工と話すときは、大工の言葉を使え」と言っています。例えば、自分が日本語と英語を話せて相手が英語しか話せなかったら、当然のように英語を使います。相手の立場に立って意思疎通をとる必要があります。受け手がいなければコミュニケーションが成り立たないのです。 
言葉だけでなく、自分の持っている情報と相手の頭にある知識は異なります。どのような言葉を使えば相手にストレートに伝わるのかを考えながらコミュニケーションをとる必要があるのです。
2. コミュニケーションは期待である
人は自分が期待していないものを知覚できない生き物です。期待していないものには意識がいかず、誤解が生じたりすることにつながるのです。相手の期待に反するようなことを伝えると相手に上手に伝わらないのはそのためです。 
今のやり方を維持したい部下に対して違うやり方を一方的に伝えても、それは相手の期待に反することであり、本当の意味で伝わることは難しくなります。そのような場合には、最初のやり方を変えるところから一緒に話し合い、納得してもらう必要があります。
受けての受け入れ範囲

3. コミュニケーションは要求である
つまり、相手の期待の範囲を知ること。コミュニケーションをとるということはつまり、相手に何らかの要求があるということです。自分の話を聞いて何かを変えたいと思うから、人は誰かとコミュニケーションをとろうとするのです。それが受け手の価値観に合致したとき、その要求は相手に伝わります。しかし、合わない時にはそれは反発され受け入れられません。コミュニケーションが難しいとされるのは、相手に何かしらの変化を与えることの難しさからくるのでしょう。 
相手に何か変化を与えたいと思ったとき、それは相手の期待の範囲をこえる場合もあります。その場合には、これからおこることは相手の期待の範囲を超えていることを伝えなけばなりません、そのためには覚醒のためのショックを与える必要があります。
覚醒のためのショックというと、仰々しいですが、平たくいうと、企業活動の日常でよくあるのは叱ることです。
この覚醒のショックを与えるには、相手の期待を良く知っていないければ無理です。 
4. コミュニケーションは情報ではない
コミュニケーションは情報ではありません。しかし、両者は相互依存関係にあります。情報は人間的要素を必要とせず、むしろ感情や感想、気持ちなどを排除したものの方が信頼される傾向にあります。そして、情報が存在するためにはコミュニケーションが不可欠です。 
しかし、コミュニケーションには必ずしも情報は必要ありません。必要なのは知覚です。相手と自分との間に共通するものがあれば、それでコミュニケーションは成り立つのです。
この原則からすると、豊田真由子氏と元秘書との間にはコミュニケーションが成り立っていなかったということで、豊田真由子氏は元秘書の期待の範囲を良く理解していなかったのだと思います。

豊田氏と元秘書の間には、「私達という関係」が成り立っていなかったのです。コミュニケーションが「私達の中の1人から、私達に伝わるもの」であるということを考えると、コミュニケーションの成り立っていない間柄の人間同士では、表面的な付き合いしかできないということです。

しかし、豊田氏はこのことを理解せず、相手のことを理解せず、「このハゲー」という覚醒のためのショックを与え、自分の要求を通そうとしたのです。

しかし、結果は惨憺たるものであり、元秘書は、豊田氏の覚醒のためのショックを暴言、暴力と受け取ってしまったのです。

"
上の記事の中で太字の部分は「私達の中の1人から、私達に伝わるもの」は、ドラッカー氏がコミュニケーション論議の結論と位置づける重要なものです。

私が、先に「ただ、今回の成功に関して、厳しい訓練を義務付けたからとか、CAの資質によるもののみではなく、やはり、日航内でのコミュニケーションが行き届いていたこともあると思います」と述べたのは、無論このコミュニケーションの原理にもとづくそれです。

上の記事には、コミュニケーションについては述べられていないものの、その原理を想起させる内容もあります。

たとえば、上の記事元記事には、 "なかには教官から『これが本番だったら、お客様は死んでいました。あなたは命を預かる責任の重さをわかってるの? 』と怒られ、涙を流す子もいるほどです」"という記述がありますが、これはコミュニケーションの原理"3.コミュニケーションは要求である"に関するものです。

ここで述べた、「覚醒のためのショック」です。日航では、安全を巡って様々なコミュニケーションが展開される、素地ができていたものと思います。

日航に入社したひとたちが、受ける新人の訓練の中には、厳しい安全に関する教育・訓練が含まれており、これを実施することで「私達といえる関係」を構築しているのでしょう。

その他にも、日航内では、公式でも非公式でも、様々なコミュニケーションが実施され、安全に関わる心構えが、社員に徹底されているいるのだと思います。

訓練システムや、規律正しさ、日航の社員の安全に関する心構えが、様々なコミュニケーションによって共有されているのでしょう。

コミュニケーションは私達の一人から私達につたわるもの

素晴らしい訓練システムが存在し、CAに規律があったからといって、それだけでは今回のような事故の安全確保ができるとは限らないと思います。

今後企業経営者が訓練システムを強化し、規律正しい新人を雇うことにだけ注力をした場合、いざというときに、日航のCAのような対応をとれるとは限らないです。

俗にいう、「ほうれんそう」=「報告・連絡・相談」を密にすることは、そもそもコミュニケーションではありません。ましてや、ノミニケーションでコミュニケーションが良くなる可能性は否定しきれませんが、これはコミュニケーションそのものではありません。実際、私達という関係を構築できていない人と飲みにいってもあまり楽しくはありません。

上の記事はそういう意味では物足りないです。もっと、日航の会社内でどのようなコミュニケーションがとられているのか、特に安全に関して、どのようにされているのか、それを明らかにして欲しかったです。

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2024年1月11日木曜日

〝麻生vs中国〟バトル再燃!台湾総統選直前 麻生氏「軍事的統一は国際秩序に混乱招く」 中国「内政干渉、自国に災難招く」―【私の論評】麻生氏の発言で浮かび上がる日本の対潜水艦戦力:台湾海峡の安全確保への新たな一歩

〝麻生vs中国〟バトル再燃!台湾総統選直前 麻生氏「軍事的統一は国際秩序に混乱招く」 中国「内政干渉、自国に災難招く」

まとめ
  • 自民党麻生副総裁は、米国訪問中、台湾への軍事的圧力を強める中国に対し、軍事的統一は国際秩序を乱すとして厳しく牽制した。
  • 台湾有事に日本が直接介入する可能性を示唆し、日米同盟の強化やAUKUSへの参加を主張した。
  • 中国は麻生氏の発言を強く批判し、日本は中国の内政に干渉すべきではないと主張した。
  • 麻生氏は、訪米前の地元福岡での国政報告会で「潜水艦などを使って台湾海峡で戦う」可能性について語り、「台湾に戦っておいてもらわなければ、邦人を無事に救出することは難しい」とも述べている。
  • この発言は、中国の反発を招くとともに、中国の軍事的圧力に強く牽制する姿勢は、抑止力として働く可能性がある。
昨年8月08日、麻生太郎氏は台湾を自民党議員団とともに訪台した際の写真

 自民党の麻生太郎副総裁が米ワシントン訪問中、中国の台湾に対する軍事的圧力に対して強硬な姿勢を示した。彼は、「軍事的統一は国際秩序を混乱させるだけで許されない」と述べ、中国の行動を牽制した。麻生氏は過去にも度々台湾有事に言及し、中国側の反発を招いていまる。特に、台湾総統選が迫っている中、麻生氏と中国との対立が緊迫している。

 麻生氏は米シンクタンク「米国大統領制兼議会制研究所(CSPC)」の主催会合で講演し、「対話継続を諦めてはいけない」と述べ、日米両国が協力して中国に自制を促す必要性を強調した。また、彼はロシア、中国、北朝鮮の軍事動向を「権威主義国家の脅威」と断じ、日米同盟の重要性を訴えた。地域の安定と平和を確保するために、日本も米英豪との安全保障枠組み「AUKUS」に参加すべきだとの立場を示した。

 中国大使館は麻生氏の発言に対し、「強烈な不満と断固とした反対」を表明し、「日本の政治家が再び台湾問題で勝手なことを言い、中国の内政に干渉した」と非難した。中国は、「(日本が)中国内政と日本の安全を結び付ける考えに固執すれば、自国や地域に災難を招くだろう」と強調した。

 麻生氏はワシントン訪問に先立ち、福岡県での国政報告会で、「潜水艦などを使って台湾海峡で戦う」可能性について語り、「台湾に戦っておいてもらわなければ、邦人を無事に救出することは難しい」とも述べている。これらの発言は、特に台湾総統選前のタイミングで、中国に対する反対姿勢を示すものであり、国内外で大きな注目を集めている。

【私の論評】麻生氏の発言で浮かび上がる日本の対潜水艦戦力:台湾海峡の安全確保への新たな一歩

まとめ
  • 麻生氏のワシントン訪問前の福岡県での国政報告会で、「潜水艦などを使って台湾海峡で戦う」可能性について語ったことが注目されている。
  • 「潜水艦など」の発言は、日本のASW(対潜水艦戦)の可能性を指摘しており、現代海戦においてはASWの強さが勝敗を決定する。
  • 日本と米国はASWにおいて他国を圧倒しており、中国のASWは日米に比べて遅れているため、日本や米国の海軍が優位性を持っている。
  • ASWにはハードだけでなくソフト面も重要であり、長年の経験とノウハウが必要であり、中国がASWで日米に追いつくには数十年かかる。
  • 麻生氏の発言は、台湾海峡の緊張激化、麻生自身の中国に対するタカ派的な立場、国内政治への配慮などが背景にあり、日本政府の姿勢の変化を示していると考えられる。
私は、麻生氏はワシントン訪問に先立ち、福岡県での国政報告会で、「潜水艦などを使って台湾海峡で戦う」可能性について語ったことに注目しました。

私は、「潜水艦など」の発言は、日本のASW(対戦水艦戦争)のことを意味するのではないかと解釈しました。現代海戦においては、空母などの水上艦艇はミサイルの標的にすぎませんが、潜水艦は違います。日米ともに、対潜哨戒能力に優れ、他国を圧倒しています。日本は静寂性に優れた潜水艦を持ち、米国は破格の攻撃力を持つ攻撃型原潜を持っています。

よって両国ともASWに関しては、他国を圧倒しています。現代海戦においては、ASWが強い軍隊が勝利を収めます。ASWが弱い海軍は、これに強い海軍に勝つことはできません。中国のASWは日米に比較すると相当遅れているので、日本や米国の海軍に勝つことはできません。

このことは、このブログにおいて、何度か指摘してきました。これと同じようなことを元海将伊藤俊幸氏が語っているのですが、伊東氏によれば、「私はこのようなことを語るから、テレビに出してもらえない」と語っておられました。 確かに、テレビなどでは、これはタブーのようです。

ただ、このタブーは、テレビ局だけではなく、新聞などのマスメディア全体はもとより、政治家、官僚などにとってもタプーだったようで、台湾有事や尖閣有事などに関する対処方法としては、過去には潜水艦やASWについてはあまり触れられることはありませんでした。

日本の対潜哨戒機P1

日本での、台湾有事のシミレーションでは、潜水艦といういう言葉はまずありませんでした。特に、マスコミなどはそうです。多くの識者や報道関係者によって、台湾有事においては、日本には潜水艦隊など存在しないかのように、潜水艦にふれることはありませんでした。多くの人は、未だに台湾有事というと、潜水艦をはじめとする、日本のASWを有効に使うべきという発想には至っていないのではないでしょうか。

日本のASWに関する代表的な私のブログの記事を以下にあげます。
中国「戦争恐れない」 尖閣めぐる発言に日本は断固たる措置を 高橋洋一―【私の論評】中国の脅威に直面する日本の安全保障:意思の強さと抑止力の重要性
軍事科学院の何雷・元副院長(中将)

この記事の中でASWに関わる部分のみを以下に掲載します。
私は、中国は対潜水艦戦(ASW)で日米にかなり劣っているため、現実には中国が尖閣や台湾への軍事侵攻をする可能性は低いと思っています。

ただ、こういうことを言うと、中国のASWも相当進んできているから、そうとは言えないと主張する人が必ずでてきます。

しかし、こういう人たちは大事なことを忘れていると思います。それはASWにはハード面も重要ですが、ソフト面も重要であるということです。

借りに、中国海軍が、日米なみにASWのハード面を整えたとしても、すぐにはASWが日米並にはならないということです。ASWはそれだけでは強化できず、長年の経験とノウハウの積み重ねが必要だからです。ましてや、中国海軍のASW関連のハードは、未だに日米に比較して遅れています。

これは、たとえば脳外科手術において、様々な最新のハードを導入したとしても、長年の経験やノウハウがないと、満足な手術ができないのと同じです。ハード面を整備したからといって、すぐに高度な手術ができるわけではないのです。優れた脳外科医のノウハウや経験必要不可欠なのです。
現代の脳外科手術には様々なハードが利用されるが、ハードが揃ったからといって優れた手術ができるわけではない
これと同じような、発言をする自衛隊幹部の人もいますが、このような発言をするためか、その方は、「おかげで自分は地上波テレビには出られない」と語っておられました。しかし、これが現実なのです。この現実を突きつけられるのを嫌がる人がマスコミには多いようです。
対潜哨戒も、潜水艦に対する攻撃に関しても、長年培ってきたノウハウやソフトがものをいいます。それからすると、中国が日米のASWk水準に追いつくには、今後数十年かかるでしょう。

これを考えると、ASWは中国にとっては鬼門のようなものであり、これを語られると、いくら中国が艦艇を増やしたにしても、日米等に対しては軍事的にはあまり意味がないことが暴露されることを嫌がっているようにもみえます。

「潜水艦などを使って台湾海峡で戦う」等という発言は、麻生氏も初めてですし、他の日本のリーダーもそのような発言はした前例がないという点で重要です。他の首脳が地域の安定に懸念を表明し、平和的解決を提唱することはあっても、直接の軍事的関与、特に潜水艦について明確に言及したことはありませんでした。

日本の指導者たちが、程度の差こそあれ、台湾問題を取り上げたことはあり、台湾への懸念を表明し、地域の安定を主張することは日本の指導者の間では一般的なことですが、麻生氏が潜水艦のような具体的な軍事戦術について明確に言及したことは、たとえ、福岡県での国政報告会の場であったにしてもも、政府による公的なレトリックの大きな転換を意味するのかもしれません。これには、以下の要因があると考えられます。

台湾海峡の緊張激化: 最近の中国の軍事演習や主張の強まりは、地域の不安を増幅させている。
麻生自身の中国に対するタカ派的な立場: 麻生副総理は、歴史的に他の日本の指導者と比べて中国に対して強い立場をとってきた。
国内政治への配慮: 台湾総統選挙を控えており、中国に対する国民の不安が高まっていることから、麻生氏の発言は日本の有権者の特定の層にアピールすることを目的としている可能性がある。

麻生総理の発言は、国内外でさまざまな反応を呼んでいることに注意する必要があります。必要な強さのシグナルと見る向きもあれば、中国のように緊張をさらにエスカレートさせ、事態の複雑さを見誤る可能性に懸念を示す向きもあります。

麻生総理の前例のない発言は、台湾問題とその潜在的な軍事的影響に関する日本の政治的言説の顕著な変化を示しているといえます。中国と台湾に対する同様の懸念表明は他の指導者たちによってもなされてきましたが、麻生副総理が潜水艦による「戦闘」について具体的に言及したことは、新たなレベルの直接的なものです。

麻生氏の発言は、中国の軍事的拡張を抑止し、台湾の安全を守るという日本政府の姿勢を明確に示すものといえます。

また、麻生氏の発言は、日本が台湾問題に関与する意欲を強く示したものであり、日米同盟の強化や地域の安全保障の強化にもつながるものです。

麻生氏の発言は、日本政府が過去には、中国を刺激することを避けるためか、日本の対潜水艦戦闘戦争(Anti Submarine Wafare)能力の高さを表明することはなかったようですが、台湾海峡の緊張がかなり激化した現在では、これを表明しないことが、かえって緊張を高めることになると、日本政府が判断しつつあることを示す、先駆けなのかもしれません。

もしそうなら、我が意を得たりという思いがします。今後、日本国内でも日本のASW能力がかなり高いことが、多くの人々に認識される日が来ることを願います。

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2024年1月10日水曜日

EUのウクライナ支援を阻む「オルバン問題」―【私の論評】EUのウクライナ支援をめぐるオルバン首相の反対論点 - ハンガリーの国益優先かEUの団結損なうか

EUのウクライナ支援を阻む「オルバン問題」

岡崎研究所

まとめ
  • オルバン首相は、ウクライナに対するEUの500億ユーロの支援を阻害し続けている。
  • オルバンの行動の動機は、経済支援の継続である。
  • オルバンはEUの「スポイラー」として機能しており、EUは彼の不適切な行動を制止しなければならない。
  • EUは、オルバン首相と汚い取引をせずに、ウクライナ支援の方途を見出さなければならない。
  • EUは、オルバン首相の行動がEUの機能や存在意義を脅かすことを認識し、毅然とした対応をとるべきである。
オルバン首相


 フィナンシャル・タイムズ紙の12月19日付け社説‘The EU has a messy Orbán problem’は、ハンガリーのオルバン首相が欧州連合(EU)の500億ユーロの対ウクライナ支援を依然として妨害し続けていることについて、EUがオルバン首相と汚い取引をすることなく、「オルバン問題」に対処する方途を見出さねばならない、と論じている。

 社説は、オルバンの行動の動機は、大方カネであり、経済を押し上げ、自分に対する支持を支えるためには、EUの資金がハンガリーに流入し続ける必要があるとしている。また、オルバンはEUを離脱するつもりはなく、有志の諸国とともにEUを「乗っ取ろう」と欲しているが、その目標から遠いところにあると指摘している。

 しかし、オルバンは「スポイラー」としての能力を証明したとし、EU諸国は、彼と彼の仲間の不適切な行動を制止するために、持てる道具を断固使うべきであると主張している。具体的には、EU条約第7条を発動し、ハンガリーの投票権を停止することも可能であることを明確にすべきであるとしている。

 また、加盟国が民主主義や法の支配に逆行する場合、EU資金の提供を封鎖する仕組みを使うことをEU首脳はひるむべきではないと述べている。さらに、ウクライナに対する援助資金については、EUは26カ国の政府間合意による他のルートを見出さねばならないと提言している。

 最後に、社説は、欧州のより広い範囲の安定のために、EUの拡大の可能性が戻って来たことは歓迎であるが、EUはその機能が少数派の人質に取られることを認めることは出来ないと強調している。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧ください。

【私の論評】EUのウクライナ支援をめぐるオルバン首相の反対論点 - ハンガリーの国益優先かEUの団結損なうか

まとめ
  • オルバン首相はEUのウクライナ支援策に反対している。これはハンガリーの国益を優先するためだと支持者は主張する。
  • しかし、多くのEU加盟国からは、オルバン氏の行動はEUの団結を損ない、ウクライナ支援を妨害するものだと批判されている。
  • 一方、オルバン氏はハンガリーの国益に資する独立したウクライナの重要性を認識しており、完全にウクライナ支援に反対しているわけではない。
  • ただし、支援の在り方には慎重で、資金流用のリスクがあるとして直接支援には反対している。
  • 汚職や資金流用の疑惑が絶えないウクライナで、オルバン氏の懸念は決して杞憂とはいえない。
  • EUはウクライナ支援の正当性と同時に、資金の透明性・適正使用の確保にも配慮が必要だ。
上の記事に出てくるフィナンシャル・タイムズの記事は、煎じ詰めれば「オルバン首相の行動は、EUの機能や存在意義を脅かすものであり、EUは毅然とした対応をとるべきであると主張している」ということです。

EUの旗

ただ、この見解が正しいか、間違いかは、一概には言えないところがあります。

オルバン氏の行動を支持する議論としては、以下のようなものがあります。
 オルバン首相が500億ユーロの援助パッケージに反対することでハンガリーの国益を優先していると主張する人たちがいます。 彼らは、ハンガリーには、特に景気低迷下においては、これほど多額の拠出金を支払う余裕はないと考えています。

ウクライナが援助資金をどのように使用するのかを疑問視し、汚職や不正管理の可能性について懸念を表明する人もいます。

オルバン首相は一部のEU政策を声高に批判しており、この機会を利用して不支持を表明したり譲歩したりしている可能性があります。
オルバン氏の行動に対する反論する議論としては、以下のようなものがあります。 
多くの人は、オルバン首相の行動は、危機の際にEUの団結と団結を弱体化させようとする試みであると見ています。

援助パッケージを阻止すれば、ロシアの侵略からウクライナを防衛する能力に大きな損害を与える可能性があります。

オルバン首相はほとんどの加盟国が重要視している大義への貢献を拒否しながら、EUの資金提供から恩恵を受けていると主張する人もいます。

オルバン首相の行動は、民主主義と法の支配というEUの中核的価値観に対する攻撃であると一部の人は見ています。
オルバン首相は「ハンガリーの安全はウクライナの安全に大きく依存している」と述べています。 オルバン氏はウクライナ政府に直接送金することに懸念を抱いていますが、ウクライナの安定がハンガリーの国益にかなうことを認識しています。

ハンガリー国旗

 オルバン氏によれば、「我々はウクライナが独立した一体国家であり続けることに既得権益を持っている」と語っています。 ウクライナがロシアの支配下に置かれた場合、ハンガリーにとって脅威となり、欧州の安全保障が損なわれる可能性があります。

 オルバン氏は「最も重要なことは、ウクライナが西側世界に属するべきだということだ…ロシアに属すべきではないと信じている」と語っています。 同時にオルバン氏は、大規模な援助を受ける前に、汚職などの問題に対処するために「ウクライナは政治経済改革をする必要がある」と主張しています。

 同氏は、EUは指導者に「白紙小切手」を切らずにウクライナの安全と独立を支援する方法を見つけるべきだと考えています。 鍵となるのは、資金が責任を持って使われ、実際にウクライナ国民の利益となるようにすることです。 [出典:2014年から2017年にかけてロイター通信、ポリティコ、その他メディアとのインタビューから得たヴィクトル・オルバン氏の引用]

オルバン氏は国家主権の忠実な擁護者である一方、ハンガリーの安全保障はウクライナの抵抗や、独立に依存していることを認識しています。 

 しかし同氏は、EUがウクライナ政府に援助や保証を提供する方法については慎重でなければならないと考えています。 現在の支援の仕方では、ウクライナそのものを支援することにはならず、汚職や政治的失政で資金を浪費することになってしまいかねないことを危惧しています。そうでななく、責任ある指導者を支援すべきとしています。

最近でも、汚職や不正の疑いは絶えないです。

ゼレンスキー大統領は9月3日夜のビデオ演説で、オレクシー・レズニコフ国防相(57)を交代させると発表した。国防省では軍の調達などをめぐる汚職疑惑が相次いで発覚しており、事実上の更迭とみられる。ウクライナ側の反転攻勢が続く中での重要閣僚の交代となり、戦況への影響が注目されました。

オレクシー・レズニコフ氏

ゼレンスキー氏は演説で、「国防省には新しいアプローチや軍、社会との新たな関係が必要だ」と述べた。国防省では今年1月、兵士らの食料調達が小売価格の2~3倍で行われていた疑惑が浮上。当時の国防次官が解任され、レズニコフ氏の監督責任を問う声も上がったが、ゼレンスキー氏が留任を求めたとされます。

ウクライナでは、徴兵逃れなどでも汚職が指摘されている。ゼレンスキー氏は汚職対策に取り組む姿勢を強調し、米欧からの支援に影響しないよう腐心しています。

レズニコフ氏は2021年11月、国防相に就任しました。ロシアの侵略以降、米欧諸国からの軍事支援取り付けで中心的な役割を果たしてきました。

国防省では昨年1月、食料調達をめぐる汚職が浮上しました。当時の国防次官が解任され、レズニコフ氏の監督責任を問う声も上がったのですが、ゼレンスキー氏が留任を求めたとされています。国防省ではその後、別の汚職疑惑も伝えられていました。

レズニコフ氏は、弁護士出身で2021年11月に国防相に就任しました。ウクライナメディアは国防相を辞任後、駐英大使に就任する可能性があると伝えていました。ただ、現在時点では、レズニコフ氏が駐英大使になったという公式の情報はありません。

ウクライナは、ソビエト連邦の崩壊後、汚職と腐敗に苦しんできました。ウクライナは、世界の腐敗指数であるトランスペアレンシー・インターナショナルの調査によると、2012年には180カ国中122位でした。しかし、2014年以降、ウクライナは汚職対策に取り組んでおり、改善傾向が続いています。

 2023年8月には、ウクライナの大統領であるゼレンスキー氏が、汚職に対する取り組みを強化するための法律に署名しました。 この法律は、汚職に関与した公務員や政治家に対する厳しい罰則を設けることを目的としています。しかし、ウクライナはまだ汚職と腐敗に苦しんでおり、改善が必要な状況にあります。

ウクライナ国防省内で汚職や不正行為が懸念されているのは事実です。 ただし、一般化する前に、聞いた情報を注意深く分析し、信頼できる情報源に相談したり確認することが重要です。

ただ一ついえることは、オルバン氏の懸念は決して杞憂として片付けられるものではないということです。

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