2024年4月2日火曜日

ラピダスに5900億円 半導体で追加支援―経産省―【私の論評】日本の半導体産業と経済安全保障:ラピダス社と情報管理の危機

ラピダスに5900億円 半導体で追加支援―経産省

クレーンが立ち並ぶラピュダスの工場建設現場 手前は千歳空港

 経済産業省は2日、次世代半導体の国産を目指し北海道千歳市に工場を建設中のラピダス(東京)に対し、5900億円を上限とする追加支援を決定したと発表した。人工知能(AI)の活用や自動運転技術などに不可欠な最先端半導体の開発を後押しする。これまでに3300億円の補助を決めており、国費投入は合計で1兆円近くとなる。

 斎藤健経産相は2日の閣議後記者会見で「ラピダスが取り組む次世代半導体は、日本の産業の未来や将来の経済成長を左右する最重要技術だ。プロジェクトの成功に向け、全力で支援していきたい」と述べた。

【私の論評】日本の半導体産業と経済安全保障:ラピダス社と情報管理の危機

まとめ
  • ラピダス社の特徴として、日本で先端の半導体製造に特化し、国内での一貫生産体制を構築していることが挙げられる。
  • 政府からの支援により、ラピダス社は北海道に5nmプロセス対応の半導体ファウンドリーを建設中であり、日本の次世代半導体産業の育成・強化が狙いとされる。
  • 日本の半導体支援策は、米中対立の中で技術覇権と供給網の確保を図る国家戦略の一環であり、中国との経済関係に対する懸念も指摘されている。
  • ソフトバンクグループのラピダス社への出資には経済安全保障上の懸念があり、北海道知事と中国との関係も危惧されている。
  • 日本の情報管理の甘さは国際的な信頼を損ね、機密保持意識の徹底が必要である。


ラピダス社は、東京に本社を置く半導体ベンチャー企業です。2018年に設立された比較的新しい会社です。

同社の特徴は、最先端の半導体製造プロセスである5nmや3nmなどの先端ロジック半導体の開発・製造に特化していることです。

従来、最先端半導体の設計は米国の企業、製造は台湾のTSMCなどに委託されることが多かったのですが、ラピダス社は国内でその一貫生産体制を構築しようとしています。

現在、北海道千歳市に5nmプロセス対応の半導体ファウンドリー(製造委託工場)の建設を進めており、2025年の操業開始を目指しています。

資本面では、創業当初からソフトバンクグループ、東芝、INCJ(産業革新機構)などから出資を受けていますが、政府からの5,900億円の支援決定で、さらに開発・生産体制の強化が期待されています。

つまり、ラピダス社は日本で数少ない最先端半導体の開発・製造ができるスタートアップ企業で、その国産化の中核的存在と位置付けられています。

今回の経済産業省の発表は、日本の次世代半導体産業の育成・強化を狙ったものです。半導体は自動車や家電、スマートフォンなどあらゆる製品に欠かせない重要な部品です。

しかし近年、世界的な半導体不足が起きており、日本の半導体産業の空洞化が危惧されてきました。そこで政府は、次世代半導体の国産化により、安定的な調達と産業の存続を図ることが重要課題と位置づけています。

莫大な税金を投じるこの政策の目的は、日本の半導体生産能力の強化、次世代半導体分野での国際競争力の維持、そして重要産業での供給リスクの低減にあります。つまり、日本産業の命綱ともいえる先端半導体を国内に確保するため、政府が全面的に支援するという発表となったわけです。

この半導体支援には、米中対立の構図の中で、日本が技術覇権と供給網の確保を図ろうとする大きな戦略があります。

中国は「Made in China 2025(中国製造2025)」を掲げ、半導体など重要技術分野での自給体制構築を目指しています。一方の米国は、中国の技術覇権を阻止すべく、半導体輸出規制など対中圧力を強めています。この米中対立の最前線が半導体をめぐる覇権争いなのです。


そうした中、日本が最先端半導体の国産化に踏み切ったのには、以下のような地政学的意図があります。

1. 米国との連携と中国への牽制
日本は、重要同盟国の米国と足並みを揃え、中国の技術覇権への警戒から半導体供給網の外れ小島化を狙います。中国への半導体供給停止でも対応できる体制を構築しつつ、中国の技術的な台頭を牽制する狙いがあります。
2. 経済安全保障の自律性確保  
米中が半導体供給を武器に絶え間なく地政学的な駆け引きを演じる中、日本は重要物資の供給を米中に依存するリスクを排除します。経済的自立と安全保障上の自律性を高めることが目的です。
3. アジア地域でのプレゼンス向上
半導体生産拠点の設置は、アジア地域における日本のプレゼンス向上とも結びつきます。米中の影に隠れがちだった日本が、注力分野を確実に構築することで地政学的な存在感を高められます。
4. 台湾有事への備え
最悪の事態として、台湾の主要半導体企業TSMCが中国との対立で機能停止する事態も視野に入れている可能性があります。そうなれば日本が代替供給源となり、米国を筆頭とする陣営を支えられます。
つまり、この支援は単なる産業振興策ではなく、米中対立の延長線上にある、地政学的リスク回避と影響力確保の大がかりな戦略なのです。

ソフトバンク 孫正義氏

なお、ソフトバンクグループがラピダス社に出資をしていることについては、経済安全保障の観点から一定の懸念が指摘されています。

その理由としては、主に以下の2点が挙げられます。

1. ソフトバンクグループと中国資本の関係
ソフトバンクグループは、中国最大の人工知能(AI)企業である「ByteDance」や、中国最大の仮想通貨取引所「Huobi」など、中国資本とつながりが深い企業に多額の投資を行っています。中国当局との密接な関係が危惧されています。
2. 重要技術の流出リスク
ラピダス社が扱う先端半導体技術は、経済安全保障上極めて重要な技術です。ソフトバンクグループを通じて、中国側にこの重要技術が流出するリスクがあるのではないかと指摘されています。
こうした懸念を受け、政府内からも「ソフトバンク出資分は株式公開時に全て売却すべき」などの意見が出ているほどです。

一方で、ラピダス社側は「ソフトバンクは金融出資に過ぎず、技術流出のリスクはない」と強く否定しています。

このように、ソフトバンク出資については経済安全保障上の懸念が存在する一方、出資者とベンチャー側には食い違いもあり、慎重な判断が求められる状況といえるでしょう。

鈴木直道北海道知事

一方、鈴木直道北海道知事は、夕張市長時代に中国系企業に2億4,000万円で売却した夕張リゾート(マウントレースイスキー場とホテル)が、香港系ファンドに15億円で転売された後、昨年12月に廃業・破産申立を発表しました。この歴史あるスキー場は営業停止に追い込まれたという経緯があります。

知事就任後、中国との経済・文化交流の促進に尽力し、直行便路線の再開や訪問団派遣など、積極的に友好関係の深化を図っています。

一方で、夕張市長時代の給与削減による過度の倹約イメージと現在の中国資本との関わりに違和感があるとの指摘もあります。

これらのエピソードを踏まえますと、鈴木知事と中国側には一定の関係が存在し、経済面での結び付きも無視できない状況にあると言えそうです。それを前提とすると、ラピダス社の半導体工場建設に関して、以下のような危険性が考えられます。

1.重要技術の流出リスク 
ラピダス社が扱う先端半導体技術は経済安全保障上極めて重要です。知事と中国側の関係が深ければ、意図せずこの重要技術が中国側に渡る可能性がありえます。
2.工場立地交渉への影響
 工場立地をめぐる交渉過程で、知事と中国側の関係から何らかの影響が及ぶリスクがあります。国策とは異なる方向に動かされる恐れがあります。
3.経済的利益誘導のリスク
中国資本と太いパイプを持つ知事の関与で、立地交渉が中国側に有利になるよう経済的な利益誘導が図られるリスクもありえます。
このように、重要技術の流出、工場立地への介入、スパイ活動、経済的利益誘導など、さまざまな危険性が想定されます。経済安全保障上の重要案件では、知事の中国関係には慎重な対応が求められるでしょう。政府としても、万が一の事態に備えた適切な対策が必要不可欠と言えます。

今回の半導体支援策は、米中対立という地政学的リスクに対処し、日本として技術覇権と供給網の確保を図る極めて重要な国家戦略の一環です。

そうした重大な戦略においては、経済安全保障上のリスクを慎重に検証し、万全の対策を講じておくことが不可欠です。

仮に正当な疑念があれば、適切に対処すべきです。このような大戦略に携わる人物や組織については、そのつど経済安全保障上のリスクを精査し、必要な対策を講じることが不可欠です。


この問題もそうですが、日本における最近の一連の機密情報漏えい問題は、機密保持意識の欠如を示す証拠といえます。金融政策決定内容の事前漏えい、外国企業ロゴ入り資料の使用など、日本の杜撰な情報管理態勢が問題視されています。

ファイブ・アイズ

このことが、日本が国際的な情報共有枠組み「ファイブアイズ」から除外されている大きな理由であるといえます。

主権国家として機密を守り、情報セキュリティを確保することは最低限の責務ですが、日本はそれができていないため、同盟国から重要情報の提供から疎外されています。

海外から見れば、日本の情報管理の甘さは重大問題であり、一流の主権国家として信頼されるためには、抜本的な情報セキュリティ対策と機密保持意識の徹底が必要不可欠です。そうしなければ、先進国から完全に疎外される恐れがあります。

日本は、これらの問題に厳正に対処していくべきです。

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2024年4月1日月曜日

<独自>日米首脳「安保5条尖閣に適用」を再確認へ 共同声明、中国を牽制―【私の論評】地政学的リスクへの対応と安全保障強化:尖閣安保適用と岸田首相の国内対応

<独自>日米首脳「安保5条尖閣に適用」を再確認へ 共同声明、中国を牽制

まとめ
  • 日米首脳会談の共同声明に「日米安保条約第5条が尖閣諸島に適用される」と明記し、米国の対日本防衛義務を再確認する
  • 中国の軍事的影響力拡大とその威圧的行動を牽制し、台湾海峡の平和と安定の重要性を強調する
  • 北朝鮮による拉致問題の「即時解決」を目指すことを盛り込む
  • 人工知能や半導体など先端技術分野での日米協力を強化する
  • 有事における米軍と自衛隊の一体的運用体制の構築を図り、フィリピンとの3カ国での安全保障面での連携も強化する

バイデン大統領と岸田首相

 4月10日に米ワシントンで行われる日米首脳会談では、共同声明に「日米安全保障条約第5条が尖閣諸島に適用される」と明記する。日米は、その最終調整に入っている。これは、中国海警局船舶による尖閣諸島周辺での領海侵入が続く中、米国が核を含む米軍の能力で日本を防衛する姿勢を打ち出す狙いがある。バイデン大統領は武力や威圧による現状変更に反対する考えを示し、東・南シナ海での中国の威圧的行動への懸念を表明する方針だ。さらに共同声明で「台湾海峡の平和と安定の重要性」を強調し、武力行使による台湾統一を排除しない習近平政権に自制を促す。

 また、北朝鮮による拉致問題について「即時解決」を目指すことが盛り込まれる見通しだ。人工知能や半導体など先端技術分野での協力強化についても言及される方向にある。首脳会談では、有事における米軍と自衛隊の一体的運用を可能にする「統合司令部」設置に向けた連携体制の強化も協議する。米軍の指揮系統の見直しを含め、両軍の運用の一体性を高める。

 さらに11日には、フィリピンのマルコス大統領を交えた3カ国首脳会談を開催し、自衛隊と米比両軍の連携強化について議論する予定である。今回は9年ぶりに日本の首相が国賓待遇で招かれる重要な会談となる。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】地政学的リスクへの対応と安全保障強化:尖閣安保適用と岸田首相の国内対応

まとめ
  • 中国公船による尖閣諸島周辺での領海侵入が繰り返される中、中国の一方的な現状変更を牽制し、インド太平洋におけるルール基盤の秩序を維持するため、日米が共同で尖閣に安全保障条約を適用することを明確化すべき。
  • 地理的に台湾に近接する尖閣諸島は、中国が台湾への武力行使で統一を図った場合の戦略的要衝となり得る。そのため、日米は尖閣への安保適用を、台湾有事における同盟国防衛の布石ともしている可能性がある。
  • プーチンがウクライナ侵攻を決意した背景には、バイデン大統領の「米軍をウクライナに派遣しない」発言があり、明確な関与表明がなかったことが一因との指摘がある。この教訓から、米国は尖閣問題への明確な関与を示し、中国の現状変更を未然に抑止しようとしている。
  • 「力による平和」しか理解しない指導者に対しては、経済制裁や軍事行動の選択肢を示し続ける必要がある。
  • 国内で中露の「力による平和」に同調する動きがあれば、安全保障上の重大な脅威となる。そのため、警戒を強め、メディアを通じた国民への広報、関係者への警告・制裁、公安当局による取り締まりの検討、反対勢力への支援打ち切り、資金供与監視体制の整備など、毅然とした対処が求められる。
尖閣諸島

日米が尖閣諸島に日米安全保障条約第5条を適用されることを明確にすることの背景には、複数の地政学的な意図が考えられます。

1. 中国の現状変更の抑止
中国公船による尖閣諸島周辺での領海侵入が繰り返されており、中国が実効支配を試みているとの懸念が高まっています。日米が共同で尖閣に安保条約を適用することで、中国の一方的な現状変更を牽制し、インド太平洋地域におけるルール基盤の秩序を維持しようとしています。
2. 台湾有事への備え
尖閣諸島は台湾に地理的に近接しており、戦略的要衝となりうる重要性を持ちます。中国が台湾に武力行使して統一を試みた場合、日米は尖閣から台湾を守る布石としても、安保適用を位置づけている可能性があります。中国が有事の際に尖閣を攻撃すれば、自動的に日米同盟の武力行使が正当化されるためです。
3. ウクライナ情勢の教訓
プーチン政権はウクライナ侵攻前、バイデン大統領が「米軍をウクライナに派遣しない」と表明したことから、一定の侵攻リスクを冒せると判断した可能性があります。つまり米国の明確な関与表明がなかったことが、ある程度のプーチンの駄目押しになったとの指摘があります。
この教訓を踏まえ、米国は中国の一方的現状変更を未然に抑止するため、尖閣問題への明確な関与を明示する狙いがあります。共同声明への明記は、中国が武力で尖閣を侵略すれば自動的に日米同盟の武力行使が正当化されることを意味しています。
さらに、尖閣への安保適用は、将来の台湾有事における日米の関与の布石にもなり得ます。中国が台湾に武力行使すれば尖閣の防衛が問題となり、そこから日米同盟の軍事介入へとつながるリスクがあるためです。

つまり、米国はウクライナ情勢の教訓から、中国の現状変更を未然に抑止するためのメッセージ発信と、台湾有事への将来の関与の布石として、尖閣への安保適用を位置づけていると考えられます。主眼は中国への抑止力ですが、状況次第では実際の軍事行動に発展する可能性も織り込んでいる可能性があります。

プーチンや習近平のような指導者は、基本的に「力」こそが平和維持の最終的な担保だと考えている可能性が高いです。そのため、米国の「弱さ」を示す譲歩的な姿勢は、かえって自国の行動を正当化し、さらなる現状変更を許容するシグナルと受け取られかねません。

力による平和 AI生成画像

一方で、米国国がしっかりとした「力の姿勢」を示し続ける場合、プーチンや習氏らは冷静に自国の能力の限界を認識し、リスクのある軍事的選択は避ける合理的判断に至る公算が高まります。なぜなら、「力」しか理解できないこうした指導者にとって、相手の明確な「力の投射能力」こそが、自国の行動を抑制する最大の要因になるからです。

具体的には、バイデン政権が以下のような「力の姿勢」を示し続けることが重要になります。
  • 経済制裁などの「報復措置」の選択肢を常に維持示す
  • 同盟国との連携を強化し、集団的抑止力を高める
  • 必要に応じて軍事行動の選択肢も排除しない姿勢を崩さない
  • 中露の一方的現状変更の試みに対する「レッドライン」を明確に設定する
このように、絶えず「力の投射能力」を示し続けることで、プーチンや習氏らに対する「抑止力」を高められます。そうすれば、結果として彼らが軍事的モラトリアムを選び、現状維持の路線をとる可能性が高まると考えられます。

つまり、「力による平和」を理解する指導者に対しては、バイデン政権自らが「力の外交」に徹し、臆さずに自国の軍事的選択肢を維持示すことが何より重要なのです。そうした「力の姿勢」こそが、結果として「平和的解決」に寄与する最善の方策となり得るのです。

岸田首相も、プーチンや習近平のような「力による平和」を重んじる指導者に対して、以下の「力の姿勢」を貫くべきです。

1. 自衛隊の防衛能力の強化を着実に進める
尖閣諸島や津軽海峡における中国公船の挑発的行動に対し、自衛隊の監視・警戒活動を一層強化し、自らの領土・領海を力強く守る姿勢を示し続けることが重要です。
2. 米国をはじめとする同盟国との連携を一層緊密化
日米同盟の絆を一層強固にすると同時に、NATO諸国、QUAD枠組み国家等との安全保障面での連携を深め、集団的抑止力を高めていくべきです。
3. 中国の一方的な現状変更に対する「レッドライン」を明確化
尖閣問題や台湾有事といった重大事態における対応方針を予め明確化し、必要に応じて自衛隊の派遣も辞さない決意を内外に示す必要があります。
4. 経済安全保障の観点から対中牽制力を高める
半導体や希少資源等において対中依存度を下げ、経済制裁の選択肢を温存する。先端技術の流出防止等の懸命な対応も重要です。
5. 国民の危機意識を高め、防衛増強への理解を醸成
日本国民の安全保障意識を高め、防衛費増額等の抑止力強化に向けた施策への支持を広げていくことが不可欠です。
このように、日本も「力による平和」への備えとして、断固たる「力の姿勢」を貫き、中国による一方的現状変更を未然に抑止することが何より重要となります。そうした姿勢を内外に示し続けることこそが、結果的に地域の平和維持につながるということを、岸田首相は肝に銘じるべきでしょう。

また、国内でロシアや中国の「力による平和」に同調する動きがある場合、岸田首相は毅然とした対応をすべきです。
  • 具体的には、そうした動きを警戒し、情報収集と監視を強化する。
  • メディアを通じて国民に対し、その動きの問題点を明確に説明し、正しい認識を促す。
  • 関係者に対し、警告や制裁措置をとる用意があることを示す。
  • 必要に応じて、反社会勢力への対応と同様、公安当局による取り締まりの検討も視野に入れる。
  • 中露寄りの動きに与さない企業や団体への支援を強化する。
  • 議員資産公開など、中露からの不適切な資金供与を監視するしくみを整備する。
中露による「力の平和」に同調する日本国内の動きは、日本の安全保障上の重大な脅威となりかねません。このため、岸田首相はそうした動きに対し毅然とした姿勢で対処し、必要に応じて法的措置も辞さない強い決意を内外に示す必要があります。これは日本の主権と国益を守る上で避けて通れない課題です。

プーチンと習近平

岸田首相が、ウクライナ戦争開始直前のバイデン大統領のような中途半端な姿勢に終始すれば、政権の継続は極めて困難になるでしょう。なぜなら、中国や北朝鮮の脅威が現実味を帯びる中で、首相自らが強い姿勢を示さず、防衛力の増強に消極的であれば、国民の安全保障への不安は高まり、政権に対する支持が揺らぐからです。

さらに、野党から「国益を守れない」と徹底した批判を浴びるでしょう。加えて、自民党内の保守層からも反発が起こり得ます。そして何より、このような姿勢が続けば、日米同盟関係への疑念を招き、ひいては世論から「国益を守れない政権」とのバッシングを受けかねません。

結果として、国内外から批判が高まり、支持基盤が次第に失われていく恐れがあるのです。だからこそ、岸田首相は断固たる「力の姿勢」を貫き通す必要があると言えます。

自民党内には、仮に政権への支持率が下がった場合でも、次の選挙では勝利できるという楽観論がある節があります。その根拠として挙げられているのが、野党に「力の姿勢」が徹底的に欠けていることです。

野党は伝統的に非武装中立路線を標榜し、防衛力増強への取り組みに消極的でした。その結果、有事の際の具体的な対応策を示すことができず、国民の安全保障への不安を払しょくできていません。無論、野党の中に保守派も存在し、政党単位でも日本保守党などの例外もあるのですが、これらは残念ながら現状ではまだ大きな勢力にはなっていません。

一方の自民党は、一貫して同盟国との連携や防衛力増強を掲げてきました。中国や北朝鮮の脅威に対して、野党に比べ、より力強い姿勢と対応策を示してきた経緯があります。

このため、国民の間には「野党には国を守る決意と能力がない」との根強い認識が存在します。多くの有権者が、いざというときに国を守れるのは今のところ自民党しかないと考えがちなのです。

つまり、自民党内の一部には、野党の「力の姿勢」の希薄さゆえに、自身の支持率が下がっても、最終的には国民の支持を得て勝利できるとの期待があるわけです。

ただし、安全保障をめぐる有権者の意識は確実に変化しています。今や国民は「力の姿勢」を政権に強く求めるようになっています。この現実を踏まえれば、野党の力不足を過度に期待するのは賢明とは言えません。自民党自身が、そうして岸田首相自身が、確固たる「力の姿勢」を貫き、国民の期待に応える必要があります。

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2024年3月31日日曜日

<独自>NATO首脳会議に岸田首相を招待 米政府調整、出席なら3年連続―【私の論評】岸田首相をNATO首脳会議に招待するバイデン政権の狙い:ウクライナ支援を含めた岸田政権の継続の可能性

<独自>NATO首脳会議に首相を招待 米政府調整、出席なら3年連続

まとめ
  • 米政府がNATO首脳会議(7月)に岸田首相を招待する方向で調整中
  • 日米首脳会談(4月10日)ではロシアのウクライナ侵略を協議予定
  • NATO首脳会議では欧州・インド太平洋の連携強化を図る
  • ウクライナ支援で貢献する日本の参加を通じ、地域間の結束を促したい考え
  • 日本は中国・北朝鮮など安保上の課題で欧州との連携を強化する機会
バイデン大統領と岸田首相

 4月10日の日米首脳会談を前に、米政府がNATO(北大西洋条約機構)の7月の首脳会議に岸田文雄首相を招待する方向で日本政府と調整している。日米首脳会談では、ロシアのウクライナ侵略問題を協議する予定。NATO首脳会議では、ロシアと中国の抑止を目的に、欧州とインド太平洋地域の連携強化を図る狙いがある。

 バイデン大統領は国賓待遇で岸田首相を迎え、ウクライナ支援や対露制裁の継続で一致するとみられる。バイデン氏はウクライナ支援継続と新たな侵略抑止の観点から、NATO加盟国とインド太平洋地域の連携を重視している。

 NATO発足75周年の重要な首脳会議に、ウクライナ問題で貢献する日本を招き、地域間の結束と協力を促したい考えだ。日本側は政治日程を精査し、参加の可否を最終判断する。日本にとっては、中国や北朝鮮など安全保障上の課題で欧州との連携を強化する機会となる。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】岸田首相をNATO首脳会議に招待するバイデン政権の狙い:ウクライナ支援を含めた岸田政権の継続の可能性

まとめ
  • 米政府は、ウクライナ支援でNATO結束を図り、中国への対抗上欧州・インド太平洋連携を強化する狙いから、岸田首相をNATO首脳会議に招待する方向にある。
  • バイデン政権は9月の総裁選後も岸田体制が継続すると確信しており、その政権の安定性を重視している。
  • 仮に岸田政権が崩壊し、リベラル色の強い、財務省にさらに近い新政権となれば、日米同盟関係や経済の安定性に悪影響が及ぶリスクがある。
  • ウクライナ支援は、ウクライナの潜在力(人的資源、産業基盤、農業)とEU結びつきから、将来的な有望市場となり得る。
  • 日本がウクライナ復興支援で主導的役割を果たせば、経済的安全保障の実現とグローバル・プレゼンスの向上につながる重要な機会となる。
上の記事にもあるように、米政府は7月のNATO首脳会議に岸田首相を招待する方向で調整しています。これには2つの狙いがあります。

1つ目は、ウクライナ支援に積極的な岸田首相の参加を通じて、支援疲れの兆しが見られるNATO加盟国の結束を固める狙いがあります。

2つ目は、中国の脅威をにらみ、インド太平洋地域と欧州諸国の連携を強化することです。

NATO発足75周年の節目の会議で、バイデン政権はウクライナ支援の重要性を欧米に改めて訴え、加盟国の団結を促したい考えのようです。

また、中国の台湾統一の動きへの抑止力を高めるため、欧州諸国のインド太平洋地域へのコミットを後押ししたい狙いもあるようです。

ウクライナ支援で貢献する日本の存在は、欧州・インド太平洋の連携強化において重要な役割を果たすと期待されています。

美しいウクライナの都市リビィウの町並み

バイデン政権が7月のNATO首脳会議に岸田首相を招待する方向で調整していることは、以下の理由から、バイデン政権が岸田政権の継続を見込んでいることを示唆していると言えます。

1. 首脳会議への招待は、その国の最高指導者に対してなされるものです。米政権が岸田首相個人を招待する意味合いは小さく、日本の元首相としての立場で招待していると考えられます。

2. 7月の時点で岸田首相が退任済みだと見込んでいれば、次期首相を招待する方が自然です。岸田氏個人ではなく、日本の首相職そのものに招待状を送っていると考えるべきでしょう。

3. NATO首脳会議は加盟国の重要会議です。日本の内政が不安定で近々に政権交代が予想される状況であれば、米国は慎重に対応するはずです。

4. 招待は米政権の対日重視姿勢の表れでもあります。この姿勢を損なうリスクを冒すなら、岸田政権の継続を前提にせざるを得ません。

したがって、バイデン政権がNATO会議に岸田首相を招待していることは、7月時点におよび、それ以降も岸田政権が続くと見込んでいる、あるいは少なくとも望んでいることを示していると解釈できるでしょう。

バイデン政権が7月のNATO首脳会議に岸田首相を招待するという重要な決断をするに当たっては、単なる「期待」だけではなく、より確かな見通しを持っている公算が高いでしょう。

NATO首脳会議は加盟国を代表する首脳が一堂に会する極めて重要な会議です。日本の首相を招待する際には、単に望ましい状況を期待するだけでなく、実際に岸田体制が継続する確度が高いと判断していると考えるべきでしょう。

つまり、バイデン政権は、9月の自民党総裁選挙後も岸田首相が続投し、日米同盟の中核を担う存在として機能し続けると踏んでいる可能性が非常に高いと言えます。そうでなければ、このタイミングでの招待は避けられたはずです。

米国の対日重視姿勢を考えれば、日本の政局の安定性と信頼できる同盟国関係の持続性を重視しているはずです。したがって、バイデン政権は総裁選後の岸田体制継続を単なる期待以上に確信を持って見込んでいると判断するのが妥当だと思われます。

私は、岸田首相は個人的には好きなタイプではないのですが、それにしても今年の秋で岸田政権が崩壊した場合、次の総裁が誰になるのか、その総裁は岸田首相よりもリベラル色や親中度合い、財務省寄りの度合いが高いかあるいは同程度なのであれば、岸田政権が継続したほうが、良いと思っています。無論、番狂わせがあり、高市氏が総裁になる可能性がでてくれば、それが一番良いとは思います。

しかし岸田政権が崩壊し、新たな政権に移行した場合、その政権が岸田政権よりも、よりリベラルであり、より親中的であり、より財務省寄りであれば、以前の民主党政権時代のような混乱が再び起こるリスクがあると指摘できます。

民主党政権時代(2009-2012年)は、以下のような深刻な問題が生じました。
  •  首相が頻繁に交代し、政権運営が大変不安定になった 
  •  習近平体制の中国への対応が非常に慎重・柔和となり過ぎた
  •   TPP交渉や原発政策で揺れ動いた結果、決定力を欠いた 
  •  財政規律を重視するあまり、消費税の大増税を強行する決定を三党合意(自公民)で行い経済運営の失敗を決定づけた 
  • 日米同盟関係が疑心暗鬼となり、信頼関係が大きく損なわれた
このように、政権の指導力不足や政策の振れ幅が大きすぎたことで、日本の国内外での信頼性が大きく低下しました。

仮に岸田政権が崩壊し、新たな政権が自民党政権であったにしても、再び同様の混乱に陥る恐れがあります。多くの人は、安倍政権が長かったので、これをスタンダードと見るむきもおおいようですが、これは間違いです。安倍政権は自民党政権の中、特にここ20年の中では、特異な存在だったのです。

特に対中強硬姿勢の転換や財政規律のさらなる強化などがあれば、日米同盟はもとより、経済安定性にも悪影響を及ぼしかねません。

このため、バイデン政権は岸田政権の継続を望んでいると考えられます。政権の安定性と政策の継続性を重視する観点から、岸田体制の維持を確信しているものと推測できるでしょう。

安倍首相は「悪夢のような民主党政権」と発言

もしトランプ政権になったにしても、現状日本では、自民党の結党の精神では保守政党を目指したにもかかわらず保守勢力は弱まった状態であり、リベラル的性格や親中的性格がさらに強くなるよりは、岸田政権の継続を望むかもしれません。

私としては、岸田政権がもう一期くらい続いたほうが、保守派などが次の展開をはかるにしても、政治的混乱を避け、ソフトランディングができるのではないかと期待しています。また、マスコミやリベラル左派官僚や財務官僚らに新たな成功体験を提供して、増長させることを防ぐという意味でも、悪いことではないと思います。

そうして、ウクライナへの支援について、マイナスの面ばかりが強調されがちですが、長期的な展望から捉えると、大きな可能性が見えてきます。

1. 人的資源の潜在力
ウクライナは人口約4,400万人と大きな人口を擁し、識字率も99%と教育水準が高い。戦後の復興後には、この優れた人的資源を最大限活用できるはずです。日本では、人口4,400万人はたいして多くはないとみられがちですが、ヨーロッパの近隣諸国と比較すれば、決して少ないとはいえないです。

ロシアの人口は、一億四千万人ですが、その中で少数民族を除いたロシア人は、約1億1,600万人。

モスクワ首都圏は、モスクワ市と周辺のモスクワ州、カルーガ州、トゥーラ州、リャザン州、ウラジーミル州、イヴァノヴォ州、スモレンスク州、ブリャンスク州を含む地域です。2023年1月1日時点のモスクワ首都圏の人口は、約2,700万人です。

モスクワ大都市圏は、モスクワ首都圏さらに周辺の都市を含む地域です。2023年1月1日時点のモスクワ大都市圏の人口は、約3,500万人です。 

以上のようなことを考えると、ウクライナの人口は少ないとはいえません。 

2. 産業基盤の存在  
ウクライナには航空機産業や自動車産業など、一定の製造業の基盤があります。適切な投資と改革で、これらの分野が復興・発展する余地があります。最初から基盤づくりをしなければならないような他の発展途上国とは違います。
3. 農業の有望性
ウクライナは「ヨーロッパの穀倉地帯」とも呼ばれ、穀物の生産大国です。農業分野の復興により、食料安全保障面でも貢献が期待できます。
4. EUとの結びつき  
ウクライナはEUと連合協定を結んでおり、経済面でEUに統合される流れにあります。EUマーケットへのアクセスは大きなメリットとなるでしょう。
5. 支援国の協調
日本に加え、米国、EU、国際機関などがウクライナ支援に熱心です。協調的な支援を続ければ、復興は加速する可能性があります。
一人当たりGDPが韓国並み(約3万ドル)に到達すれば、ウクライナの経済規模は現在のロシア(約1.8兆ドル)と匹敵することになります。教育・産業基盤があり、国際支援も受けられれば、中長期で大きく発展する可能性は決して低くありません。日本が様々な支援で主導的役割を果たせば、他国の模範ともなり得るでしょう。

ウクライナの産業基盤:2024年3月31日時点 
産業概要現状課題
農業ヨーロッパ最大の穀物生産国の一つ。小麦、トウモロコシ、ひまわり油などが主要産品。侵攻により農地やインフラが破壊され、生産量が大幅に減少。農地の復旧、インフラの再建、輸出市場の確保
重工業鉄鋼、造船、航空宇宙産業などが主要産業。侵攻により多くの工場が破壊され、生産が停止。工場設備の復旧、新たな市場の開拓
軽工業繊維、食品加工、家具製造などが主要産業。侵攻により国内市場が縮小し、生産が減少。国内市場の回復、輸出市場の拡大
サービス業IT、金融、観光などが主要産業。侵攻により経済活動が停滞し、多くの企業が撤退。経済活動の再開、安全な環境の整備

参考情報:


日本のウクライナ支援は、専守防衛の立場から直接的な軍事支援は難しく、むしろ資金支援、人道支援、インフラ復旧支援、民間投資促進、人材育成支援など、経済的・人道的な復興支援が中心となると見られます。日本はこうした分野での強みを生かし、ウクライナの復興プロセス全般を下支えすることになるでしょう。

ウクライナの復興支援は、中国経済が減速するなかで、日本が新たな有望市場を確保し、サプライチェーンの分散化を図る絶好の機会となります。日本が主導的役割を果たせば、ウクライナの内需や農業・鉱業分野への参入を通じて経済的メリットを得られるだけでなく、ロシアへの牽制や欧州地域におけるプレゼンス向上、発展途上国支援でのリーダー地位の確立にもつながるでしょう。

中国に過度に依存しない経済安全保障の実現、ロシアに国境を接し対峙する経済大国の出現への支援などグローバル・プレゼンスの向上という点で、ウクライナ復興支援は日本の大きなチャンスと言えます。

ただ、復興の果実を米国、EUなどにもぎ取られないように注意はすべきでしょう。最悪、従来から、ウクライナから軍事技術の提供や、宇宙技術の提供受け、ウクライナと関係の深い中国にもぎ取られるようなことは断じてすべきではありません。

岸田政権はリベラル色が強く、安倍政権のような保守とはいえません。しかし、この歴史的な転機においては、リベラル保守の枠を超えた広い視野が求められます。

ウクライナ復興支援を契機に、日本が新たなグローバル・リーダーシップを発揮すべきときがきたのです。中国の影響力が肥大化するなか、自由と民主主義の旗手となり、ウクライナが新興国の模範的存在となることで、日本の新時代への羅針盤ともなり得るでしょう。岸田政権には、こうしたことを実現するための揺りかごとなっていただきたいのです。岸田首相はこれを目指すべきです。



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2024年3月30日土曜日

フィリピンの先例警戒、中国が電力支配 40%株式保有、送電止める危険 米軍基地抱える日本も〝脅威〟再エネに中国の影・第5弾―【私の論評】エネルギー武器化の脅威:ドイツのノルドストリーム問題と中国のフィリピン電力網支配

 ニュース裏表

フィリピンの先例警戒、中国が電力支配 40%株式保有、送電止める危険 米軍基地抱える日本も〝脅威〟再エネに中国の影・第5弾

まとめ
  • 内閣府の再生可能エネルギー規制見直しタスクフォースに中国の国営電力会社のロゴ入り資料提出問題が発生
  • 議会や第三者機関の調査が必要性が議論される
  • パワーポイントの事務ミスとされた説明に疑問が浮上
  • 中国国営電力会社がフィリピンの電力網に関与し、国家の安全保障にリスクをもたらす可能性が指摘されている
  • 事務的ミスだけでなく、地政学リスクも含めた原因究明が必要との主張
フィリピンのアヨロ元大統領

 内閣府の再生可能エネルギー規制見直しのタスクフォースで、民間構成員が提出した資料の一部に中国国営電力会社「国家電網公司」のロゴマークが入っていたことが発覚した問題が収まらない。

 エネルギー政策は国家の存立に関わる重要課題であり、他国の干渉は決して許されない。林芳正官房長官は内閣府による調査を言明したが、議会や第三者機関による調査の必要性も指摘される。

 内閣府は、過去のシンポジウム資料を編集ソフトで引用する際に誤ってロゴが残ったと説明し「事務ミス」と釈明した。しかし、使用ソフトの食い違いなど内閣府説明に矛盾が見られ、調査が不十分との指摘がある。

 キーポイントは、国家電網公司がフィリピンの送電網の40%の株式を保有し、フィリピン議会が同社の関与を「国家安全保障上のリスク」と警告していることである。有事の際、中国がフィリピンの電力を遮断し、米国の同盟国に影響を及ぼす可能性がある。

 日本も米国の同盟国であり、国家電網公司を介した同様の電力遮断リスクを無視できない。経済安全保障推進法で電力は「特定社会基盤事業」と位置付けられており、内閣府は国家安全保障の観点から徹底した原因究明が求められる。単なる「事務ミス」では済まされない重大問題と考えられる。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】エネルギー武器化の脅威:ドイツのノルドストリーム問題と中国のフィリピン電力網支配

まとめ
  • ドイツがロシアからの天然ガス輸入に過度に依存し、ノルドストリームパイプラインを建設したことでロシアにエネルギーを武器化される結果となった。
  • トランプ大統領はかねてからドイツのロシア依存を警告していたが、ドイツはその警告を無視した。
  • ロシアのウクライナ侵攻後、ロシアはノルドストリームの供給を止め、ドイツにエネルギー危機をもたらした。
  • 中国の国営電力会社が、フィリピンの送電網の40%を支配下に置いており、有事の際の電力遮断が危惧されている。
  • ポンペオ元国務長官の提唱した「エネルギードミナンス」の理念に反するものであり、日本を含む同盟国はエネルギー安全保障を重視すべきである。
今回の問題は、ドイツのノルドストリームの問題を想起させるものです。

ノルドストリームは、ロシアからドイツへの天然ガス輸送路でした。ドイツはエネルギー安全保障上の懸念があったものの、ロシアとの経済的つながりを重視し、パイプライン建設を進めました。

ノルドストリーム


しかし、ロシアのウクライナ侵攻後、ロシアはノルドストリームの供給を実質的に止め、ドイツにエネルギー危機をもたらしました。結果的に、ロシアはエネルギーインフラを武器化し、ドイツを脅かすカードを手に入れたことになります。

2018年6月、国連での演説でトランプ大統領は、ドイツがロシアからの天然ガス輸入に過度に依存していることを批判しました。「ドイツはロシアに捕らわれている」と厳しい言葉を投げかけました。しかし当時、ドイツ側はこの批判を一蹴するようなスタンスでした。国連での当時のドイツの代表団はトランプ大統領の批判に対して嘲笑していました。(下の動画はそのときのもの)



その後、2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻を受け、ロシアはノルドストリーム1号線の供給を停止。さらに9月にはノルドストリーム1号線の送管施設が破壊される事態となりました。一方で、ノルドストリーム2号線は未稼働でした。

結果としてドイツはロシア天然ガスへの依存からの脱却を余儀なくされ、代替調達などで一定の対応はとれたものの、深刻なエネルギー危機に見舞われることになりました。

つまり、トランプ大統領が4年前に警告していた、ロシアへの過度な依存がドイツのエネルギー安全保障を脅かすリスクが、現実のものとなりました。

同盟国からの警告を蹴り続け、結果としてロシアの人質になってしまったドイツの姿勢は、強く糾弾に値します。エネルギー政策が国家安全保障上の重大な影響を及ぼし得ることは、この事態で裏付けられた。トランプ大統領の発言は完全に正しかったと言えます。

ドイツのようないい加減な態度は許されないです。エネルギーを切り口とした経済安全保障は、国家存亡の問題に直結します。日本を含む同盟国は、このドイツの過ちを肝に銘じ、エネルギー安全保障を何より優先すべきです。

今回の問題でも、中国の国営電力会社「国家電網公司」がフィリピンの送電網の40%の株式を保有していることが分かりました。フィリピン議会は、この中国企業の関与を「国家安全保障上の重大なリスク」と指摘しています。

つまり、有事の際に中国が国家電網公司を介してフィリピン全土での電力供給を遮断する可能性があり、米国の同盟国であるフィリピンを事実上「人質」に取れる状況になっているのです。

さらに、日本も米国の同盟国であり、今後、中国が同様の電力インフラ支配を試みるリスクは決して無視できません。経済安全保障推進法で電力は「特定重要インフラ」に指定されていますから、内閣府はこの問題の重大性を認識し、徹底した原因究明と再発防止策を講じる必要があります。

エネルギーインフラを外国資本に支配された結果、相手国に武器化される恐れがあるという点で、ノルドストリームと本件には強い類似性があります。日本を含む同盟国はこの教訓を肝に銘じ、エネルギー安全保障を重視すべきだという指摘です。単なる「ミス」で済ますにはリスクが大き過ぎます。

前米国務大臣ポンペオ氏

トランプ政権時代の国務長官だったポンペオ氏は、エネルギー資源をめぐる覇権争いが今後も激しくなると見て、同盟国と連携しつつエネルギー供給網を確保する「エネルギードミナンス」戦略を推進しました。その核心には、エネルギーを武器化せず、相互に共有し合う考え方があります。

具体的には、シェール革命で増えた米国の化石燃料を活用し、ロシアや中東、中国への過度な依存を避ける多角的なエネルギー供給網の構築が目指されました。エネルギー獲得競争で中露などに主導権を渡さず、同盟国と協調してエネルギーセキュリティーを確保するという発想です。

一方の中国は、国家主導でエネルギー資源の確保に注力してきました。「一帯一路」構想の下、世界各地の発電・送電インフラに進出し、エネルギー供給網の支配を企てています。今回のフィリピン送電網支配はその一環と見られています。

エネルギードミナンスの理念に従えば、このような一国による供給網支配は許されません。エネルギーを武器化して同盟国を従わせるような行為は、グローバルなエネルギーセキュリティーを著しく揺るがすものです。

つまり、中国が国家電網公司を介してフィリピンの電力網を事実上支配下に置いた今回の事態は、エネルギードミナンス理念に真っ向から反するものです。有事の際に中国がフィリピンの電力を遮断すれば、米国の同盟国であるフィリピンは瞬時に麻痺してしまいます。このようにエネルギーを武器化する行為は、許容できる範疇を超えています。

したがって内閣府は、単なる「ミス」では済まされません。国家の存亡に関わるエネルギー安全保障の視点から、今回の問題の実態と国家電網公司の関与の有無を徹底的に調査し、再発防止に全力を注ぐべきなのです。

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2024年3月29日金曜日

日本弱くし隣国富ませる「再エネ賦課金」即廃止せよ 河野氏答弁に批判噴出、問題の本質は中国「ロゴマーク付き資料」ではない―【私の論評】内閣府の再エネTFは重大な決定をさせてはならない、ただのド素人集団

有本香の以読制毒

まとめ
  • 内閣府のタスクフォースでの中国国営企業のロゴマーク使用問題について河野太郎規制改革担当相の国会答弁が問題視される
  • エネルギー政策への中国の浸透に対する警鐘と再エネ偏重の問題点について指摘
  • 鹿児島県伊佐市のメガソーラーでの爆発・火災事故を通じて太陽光発電のリスク強調
  •  総務省の調査で全国の自治体の4割超が太陽光発電施設に起因するトラブルを抱えていることが明らかに
  • 以上のような欺瞞を廃するには「再エネ村」の食い扶持を止めるしかない。

河野太郎

 再生可能エネルギーの規制見直しを目指す内閣府のタスクフォースで、中国国営企業のロゴ入り資料が使用されいたのは大問題である。この会議の重要人物である河野太郎規制改革担当相が、国会での追及に対して「所管外」と答弁を繰り返し、回答を避けたことをネット上で批判されている。

 しかし、この問題の本質は「ロゴ入り資料」ではなく、日本のエネルギー政策への中国の影響力の浸透にあるにもかかわらず、大手メディアがその本質を論じることを避けている。その理由として、経済産業省主導の再生可能エネルギーへの転換の流れで、メディアが関連企業からの広告収入を意識していることが考えられる。

 筆者自身は長年、日本の「再生可能エネルギー偏重」政策に警鐘を鳴らし続けてきた。この政策に反対する5つの理由を挙げ。

 1つ目は環境破壊の問題、2つ目は天候次第で電力供給が不安定になること、3つ目は電気代の値上がり、4つ目は中国製の太陽光パネルの多くが強制労働の産物とされていること、5つ目はインフラ事業ながら外資規制がないことである。

 さらに、鹿児島県の大規模太陽光発電所で発生した爆発火災事故の事例は、全国で設置が拡大する太陽光パネルの危険性を改めて示している。また、総務省の調査で、自治体の4割超が太陽光パネルに関するトラブルを抱えている。主なトラブルとして4点を挙げている。具体的には、工事中の土砂流出、事業者の住民説明不足、工事内容の相違、稼働後の連絡がつかないことなどである。

 最後に、日本保守党が再生可能エネルギー賦課金の廃止を重点政策に掲げていること、国民民主党も同様の法案を出していることに言及し、この賦課金制度が日本を貧しくし中国を助ける結果になっていると批判。欺瞞(ぎまん)をやめさせ、「再生可能エネルギー村」への給付を止めることが必要だ。

 この記事は、元記事の要約です。詳細は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】内閣府の再エネTFは重大な決定をさせてはならない、ただのド素人集団

まとめ
  • 太陽光発電の経済合理性には大きな問題があり、初期投資コストが高く、安定した電力供給が困難である。
  • 設置場所の確保や環境負荷など多くの根本的な欠陥があり、従来の安価で安定的な発電方式に太刀打ちできない状況にある。
  • 火災や水害、地震などの自然災害に対する脆弱性が極めて高く、適切な対策が不十分である。
  • 発電事業者は火災や浸水、地震に対するリスクを過小評価し、十分な対策を講じていない。
  • 内閣府のTFでは、専門知識や経験に欠ける素人がエネルギー政策や技術の決定に関与しており、重大な問題点が見過ごされている可能性がある。
太陽光発電は現状、従来の発電方式と比べて決して経済合理性があるとは言えません。大きな欠陥が存在するのです。

第一に、初期投資コストが極めて高額になることが大きな障壁となっています。太陽電池モジュールやシステム設備の費用がかさみ、発電コストに大きく影響します。

第二に、発電の不確実性が極めて高いことが問題です。日射量の変動により出力が大きく変動し、安定した電力供給が困難です。夜間は全く発電できず、電力需要とのミスマッチが深刻です。

さらに、設置場所の確保が課題となります。パネルには広大な面積が必要で、適地の確保が難しい上に、土地の有効活用ができません。

加えて、CO2排出量はゼロでも、製造時やパネル廃棄時の環境負荷を考慮すれば、決して完全に環境に優しいとは言えないでしょう。

このように、高コスト、不安定出力、設置面積の確保、環境負荷など、太陽光発電には多くの根本的な欠陥があり、経済合理性に乏しいと言わざるを得ません。現状では、従来の安価で安定的な発電方式に太刀打ちできる水準には程遠い状況だと言えるでしょう。

このことは、最近ではネットなどで広く拡散され、多くの人が知るところとなっています。

さらに、上の記事にもあるとおり、鹿児島県の大規模太陽光発電所で発生した爆発火災事故の事例が火事になった場合の危険性を示しています。

太陽光パネル火災

太陽光発電システムは、火災のリスクがゼロとは言えません。太陽電池モジュール自体は不燃性の素材で作られていますが、ケーブルの被覆や接続箱など、一部に可燃性の部品が使われているためです。

設置が不適切であったり、部品が劣化すると、電気的な故障から発火する恐れがあります。また、落雷や外部からの発火源に曝されれば、可燃部分に燃え移る危険性もあります。

さらに、太陽光発電システムには直流から交流への変換装置(パワーコンディショナー)が備わっています。この変換器に不具合があると過熱し、出火に至るリスクがあります。系統連系型の場合は、電力会社側の系統トラブルの影響を受ける可能性もあります。

そのため、太陽光パネルを安全に運用するには、適切な設計と施工、定期的な点検とメンテナンスが重要になります。配線やアース処理を適正に行い、部品の経年劣化に注意を払う必要があります。

さらに、避雷設備を設置したり、直流側と交流側の配線を分離するなどの対策で、万が一の火災に備える必要があります。監視体制を整備し、早期発見と初期消火が可能な環境作りも求められます。

さらに、太陽光パネルが火災になった場合の対処についても適切な措置がなされているとは言い難い状況にあります。

発電事業者は、太陽光パネルの火災リスクを過小評価し、適切な対策を怠っている状況がみられます。万が一火災が起きた場合の対処方法にも、重大な欠陥があると言わざるを得ません。

初期消火が極めて困難なことが最大の問題です。太陽電池モジュール自体は不燃性ですが、周辺の可燃物に燃え移ると通電火災となり、消火活動がきわめて危険になります。日中はパネルから高電圧の直流電流が流れ続け、消防隊員が感電する恐れさえあります。一般的な消火設備や方法が通用しない特殊な火災なのです。

一般的な水消火設備を配備しているだけでは全く意味がありません。水が太陽電池パネルに掛かれば、漏電の危険が高まり、火災がかえって拡大する恐れがあります。消火用水の使用は、太陽光発電所の電気系統を完全に遮断した上でなければなりません。

しかし発電事業者は、このような電気的リスクへの認識が欠如しています。消防隊に対して適切な情報提供や指示ができていないばかりか、発電所構内にも、水以外の専用の消火設備や資機材を備えていないのが実情です。

出火を防ぐための監視態勢が不十分であり、早期発見と通報がなされないおそれがあります。消防隊に速やかに連絡し、太陽電池アレイ周辺の電源を自らシャットダウンすることさえ怠っている場合があります。

さらに、消防隊に対して、発電所の構造や電気系統に関する十分な情報提供もなされていません。適切な消火活動がとれず、事態を悪化させかねません。火災後の設備の絶縁状態やアースの確認、適切な廃棄処理も怠られがちです。

このように、太陽光発電所における火災対策は、発電事業者の理解不足と体制の不備から、極めて不十分であり、重大な問題があると指摘せざるを得ません。火災リスクへの真摯な取り組みが求められています。

太陽光発電設備には、水害時に重大な危険が伴うことを指摘せざるをえません。

最大の問題は、浸水した太陽電池モジュールからの感電リスクです。パネルには高電圧の直流電流が流れており、水没すると漏電し、周囲の水域で感電事故が発生する可能性があります。しかし多くの事業者は、この危険性を軽視していると言わざるをえません。

さらに、洪水で太陽電池アレイが流されたり、架台が傾斜して崩壊する恐れもあります。がれき混じりの流水によって、パネルやケーブルが破損し、電気トラブルや漏電火災に至るリスクがあるのです。

加えて、変圧器やパワーコンディショナーなどの電気設備が浸水すれば、内部の絶縁不良や地絡など、深刻な電気的危険が発生します。しかし設備の防水対策が不十分な例が多く、水害に無防備な状態にあります。

一旦トラブルが起きれば、高電圧の直流電源があるために、作業員が感電する危険があり、復旧作業は極めて困難になります。

このように太陽光発電所は浸水の危険性が非常に高く、水害対策が必須です。しかし現状では、その認識が発電事業者に欠如しており、適切な対策がなされていないのが実情であり、極めて深刻な問題があると指摘せざるをえません。

太陽光発電設備には、地震発生時に重大な危険が伴うことを厳しく指摘せざるを得ません。

最大の問題は、太陽電池アレイの落下・転倒による人的被害のリスクです。アレイは高所に大量の重量物が並んでおり、地震の揺れで支持構造物が破損すれば、パネル自体や架台がそのまま落下する恐れがあります。事故時の死傷者発生は避けられません。しかし多くの事業者は、この落下リスクを軽視し、適切な落下防止対策を怠っているのが実情です。

さらに、地震による停電時に、太陽電池アレイは発電を続けるため、高電圧の電流が流れ続けます。配線や接続箱等に被害があれば、感電や漏電火災が発生する危険性があります。ところが、停電対策の認識が発電事業者に欠如しており、絶縁やアース対策が不十分なケースが多々あります。

加えて、変圧器などの電気設備が地震で損壊すれば、絶縁不良や地絡が生じ、重大な電気事故に繋がります。しかしこれらの設備の耐震性が不十分な上、専門的な点検や保守体制が整っていないのが実状です。

発電所周辺で地すべりや液状化が起これば、アレイ基礎の沈下や傾斜が起こり、設備の破損や漏電に繋がるリスクもあります。しかし、こうした自然災害への対策が発電事業者から等閑視されているのが実情です。

このように地震対策は極めて不十分であり、発電事業者の安全意識と危機管理体制の欠如が、重大な人的被害や電気事故に繋がる深刻なリスクを生んでいると言わざるを得ません。厳しい指摘と早急な是正が不可欠です。

このように、経済合理性が低く、火災、水害、地震など日本の自然災害に対する脆弱性が極めて高い太陽光発電は、現状では本格的な実用化に向いていないと言えます。


太陽光パネルの水害時の注意喚起

実験施設レベルであれば別ですが、一般の発電所などで実用的に活用するのは避けるべきでしょう。

初期コストが高止まりしており、発電コストが他の方式に見合わない。さらに自然災害リスクへの対策が全く不十分で、火災、浸水、落下などの重大事故が常に潜在しています。経済性と安全性の双方で、致命的な欠陥があるのが実情です。

このような状況下で無理に実用化を推し進めれば、莫大なコストがかかり、重大事故の危険にさらされかねません。したがって、技術の更なる改善と環境整備を待つべきであり、現時点での一般的な実用化は控えるべきと言えるでしょう。

太陽光発電の経済性と安全性に関する深刻な課題について、思いが至らない人はエネルギー政策やエネルギー技術に関する素人だと言えます。発電コストの妥当性検証、電力システム運用、電気設備の安全基準、自然災害リスク評価、エネルギー政策立案など、様々な専門分野の知見が不可欠ですが、素人にはそうした専門性を欠いています。そのため、太陽光発電をめぐる本質的な問題点を過小評価し、的確な判断ができないのです。

発電コストが他の方式に見合うのか、電力供給の安定化に何が必要か、設備の安全確保にはどのような対策が求められるのか、災害リスクへの対応力は十分かなど、さまざまな観点から専門的な検証が欠かせません。

しかし素人には、そうした高度な課題への理解が欠如しているのが実情です。エネルギーシステムの経済合理性と災害レジリエンスの両立は、きわめて高度な技術的・政策的挑戦であり、その本質を把握できるのはエネルギー分野の専門家だけなのです。

したがって、太陽光発電実用化の阻害要因について、専門知識と経験を持たない素人が的確に判断することは難しく、様々な リスクを看過してしまう危険性が常にあると言わざるを得ません。

大林ミカ氏が議長を務めた、内閣府の再生可能エネルギー規制等の見直しに関するタスクフォースは、実際のところ、エネルギー政策や発電技術の専門性に乏しい素人集団であると評さざるを得ません。

エネルギー問題のド素人大林ミカ氏

経済産業省の審議会など、これまでエネルギー政策の実務に携わってきた有識者や技術者は参加しておらず、一般市民や再エネ推進派が多数を占めています。発電コストの検証、系統運用の技術的課題、設備の安全基準、災害リスク管理などについて、十分な専門知識と経験を持つ人材が不在です。

つまり、このタスクフォースは、本質的な技術的・経済的な観点から見れば、あくまで素人集団にすぎず、太陽光発電をはじめとする再生可能エネルギーの実用化にまつわる重大な課題を、適切に把握し判断できる専門性を欠いているのが実情です。

そのため、タスクフォースが提言する規制緩和案には、経済合理性や災害リスク、電力システムへの影響など、避けて通れない重大な問題点が看過されてしまう可能性が極めて高いと危惧されます。エネルギー政策は、国民生活や産業活動に重大な影響を及ぼし得るだけに、素人的な発想からは適切な政策は導き出せないと言わざるをえません。

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2024年3月28日木曜日

「誤解受け不安にさせたのは当然」中国企業ロゴ問題で辞任の大林ミカ氏、会見主なやりとり―【私の論評】[重大警告]自民党エネルギー政策への中国の影響力浸透の疑惑 - 大林氏中国企業ロゴ問題で国家安全保障上の深刻な懸念

「誤解受け不安にさせたのは当然」中国企業ロゴ問題で辞任の大林ミカ氏、会見主なやりとり

まとめ
  • 問題発覚の端緒は、内閣府TFに提出された資料に中国国営電力会社のロゴマークが入っていたこと。
  • 大林氏は、ロゴマークの存在に気付かなかったことを謝罪し、TF委員を辞任。
  • 大野氏は、財団と国家電網公司との金銭的な関係は存在しないと説明。
  • 本件は、日本のエネルギー政策の透明性や安全保障に関わる問題として注目。財団は疑惑を払拭できるかどうかが焦点。
  • 財団は国家電網公司主導の組織「GEIDCO」に加盟していた。財団は太陽光発電のコスト削減等、日本のエネルギー転換に向けた提案を行っていた。
大野輝之常務理事

問題発覚

2024年3月、内閣府の再生可能エネルギー規制見直しを目指すタスクフォース(TF)に提出された資料に、中国国営電力会社「国家電網公司」のロゴマークが入っていることが発覚した。この問題を受け、資料を提出した公益財団法人「自然エネルギー財団」の大林ミカ事業局長と大野輝之常務理事が27日、記者会見を開き、経緯と説明を行った。

大林氏の説明と謝罪

大林氏は、ロゴマークの存在に気付かなかったことを謝罪し、TF委員を辞任した。大林氏によると、資料は複数の外部研究者から提供されたもので、ロゴマークは資料の隅に小さく表示されていたため、確認が行き届かなかったとのことだ。

大林氏は、「多くの方々に大きな懸念を抱かせる結果となって大変申し訳なく思っております。深く反省しております。」と述べた。

大野氏の説明

大野氏は、財団と国家電網公司との間に金銭的な関係は存在せず、今回の件は単純なミスであったと説明した。大野氏によると、財団は国際的なエネルギー問題に関する研究活動の一環として、国家電網公司を含む様々な機関と情報交換を行っており、今回の資料もその過程で作成されたとだ。

大野氏は、「財団と中国企業・政府の金銭的、資本的、人的関係は一切ございません。今回の件は、他国の影響下にあるとか、国のエネルギー政策をゆがめているとか、そういったことは一切無縁のことです。」と強調した。

影響と今後の見通し

今回の問題は、日本のエネルギー政策の透明性や安全保障に関わる問題として、大きな注目を集めている。斎藤健経済産業相は、財団との関係を調査するとしているほか、財団は太陽光パネルの中国依存問題や国際送電網の必要性などについて、説明責任を果たしていく必要がある。

今後の見通しとしては、財団が疑惑を払拭できるかどうかが焦点となり、調査結果次第では財団の活動に影響が出る可能性もある。

追加情報
  • 大林氏は、河野太郎規制改革担当大臣からTF委員に推薦されていた。
  • 財団は、2016年から国家電網公司が主導する国際的な組織「グローバル・エネルギー・インターコネクション発展協力機構(GEIDCO)」に加盟していた。
  • 財団は、太陽光発電のコスト削減や洋上風力発電の導入促進など、日本のエネルギー転換に向けた様々な提案を行っている。
 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】[重大警告]自民党エネルギー政策への中国の影響力浸透の疑惑 - 大林氏中国企業ロゴ問題で国家安全保障上の深刻な懸念

まとめ
  • 大林氏の中国企業ロゴ問題は、政府の政策決定プロセスへの中国の不当な影響力行使が危惧される重大な国家安全保障上の問題である。
  • メンバー選定時に国家安全保障リスクの綿密な審査が欠けていた。大林氏のような外国の利益を優先するメンバーを選任したことは重大な失態である。
  • エネルギー政策決定において、中国などの他国からの不当な働きかけを完全に排除することは困難であり、これまでそうした観点が欠けていた。
  • 政府は委員選考基準の徹底的見直しと、国家安全保障を最優先するガバナンス体制の確立が急務である。一切の例外を許さず、徹底した対策が不可欠。
  • 河野大臣による調査には利益相反の問題があり、第三者委員会による独立した徹底調査と国会追及、さらには司法の場での真相究明は避けられない課題となるだろう

大林ミカ氏(右)と福島瑞穂氏(左)

大林氏の中国企業ロゴ問題は、極めて深刻な国家安全保障上の懸念があり、政府の対応には重大な責任があります。

大林氏が環境エネルギー政策に関する重要な内閣府タスクフォースのメンバーだったことは由々しき問題です。大林氏は中国企業の意向に沿った動きをしていたとの疑惑があり、政府の政策決定プロセスに対する中国の影響力行使が危惧されます。このようなメンバーを選任したことは、国家安全保障を守る上で看過できない重大な失態です。

メンバー選定には徹底したセキュリティチェックが必要不可欠でした。単に再生可能エネルギーの専門家という観点のみならず、国家安全保障リスクの観点からの綿密な審査が欠けていたことは明白です。政府の諮問委員等に外国の利益を優先するような人物があってはなりません。選任責任者には厳しい責任追及が必要不可欠です。

加えて、エネルギー政策そのものへの中国を初めとする他国からの不当な働きかけのリスクにも目を向ける必要があります。再生可能エネルギー政策については、中国など他国の政治的・経済的な思惑が絡んでくる可能性があり、その影響を完全に排除することは至難の業です。その意味で、これまでの政策決定プロセスには国家安全保障への配慮が大きく欠けていたと言わざるを得ません。

このような重大な事態が起きたことを受け、政府は委員選考基準の徹底的な見直しと、国家安全保障リスクに万全を期する新たなガバナンス体制の確立を急ぐ必要があります。国益を最優先し、外国の不当な影響力を排除するための仕組みを整備しなければなりません。

委員選考におけるセキュリティクリアランス導入なども検討課題でしょう。二度とこのような事態を引き起こさぬよう、政府全体で国家安全保障体制の再構築に全力を尽くす必要があります。国民の命と安全を守ることが最優先されるべきであり、そのためには一切の例外を許容してはならず、徹底した対策が不可欠なのです。

河野大臣

河野大臣は、自然エネルギー財団と中国特定企業のつながりを調査開始するとしていますが、河野大臣は、当事者であり、第三者委員会などが調査ないと、証拠隠滅、都合の良い調査結果への改ざんなどのおそれがあります。

利益相反が発生する可能性が高く、証拠の隠蔽や事実の歪曲が行われかねません。政権を守る立場から、有利な結果に誘導されるリスクも排除できません。

このように重大な国家安全保障上の懸念がある問題については、政府からは完全に独立した第三者委員会による徹底した調査が必須条件です。専門家、有識者、野党等から構成される委員会が、何の制約もなく自由に調査できる環境を整える必要があります。

さらに、この問題は国会においても厳しく追及され、政府の対応が十分か徹底した検証がなされるべきです。国会審議を通じて、独立した第三者調査の実施や、再発防止に向けた抜本的な対策を政府に求めていくことが重要となります。

国家安全保障が最優先されるべき問題だけに、政府内部の調査だけでは到底不十分であり、外部の厳しい目線による徹底した真相究明が不可欠なのです。この問題をきちんと国民に説明する accountability(説明責任)を果たすため、政府による開示と透明性が強く求められます。

最近の再エネ関係の一連の事件をふりかえると、一つの流れがみえてきます。

衆議院15区補欠選挙に出馬を表明した経済産業省の元事務次官で収賄事件で逮捕・起訴された秋元司氏

2022年3月、秋元司氏(元経産次官)は中国の半導体メーカーから現金を受け取った疑いで、東京地検特捜部に賄賂受領の容疑で逮捕されました。

当時の経済産業次官という要職にありながら、中国企業から金銭的利益を受けていたとすれば、日本のエネルギー政策をはじめとする産業政策決定に影響を与えた可能性が指摘されています。

この秋元司氏の逮捕事件は、自民党のエネルギー政策決定プロセスへの中国の不当な影響力浸透の疑惑を象徴する、きわめて重大な事件と位置付けられています。

秋元氏の逮捕を端緒に、自民党内の「親中派」問題がクローズアップされ、エネルギー政策をはじめとする様々な政策決定過程への中国の介入の疑惑が次々と浮上してきた背景があります。

まず、秋元氏の逮捕事件は、自民党のエネルギー政策決定プロセスへの中国の影響力浸透の疑惑を象徴する、重要な出来事だったということを意味しています。

つまり、秋元氏が中国企業から賄賂を受け取っていたとすれば、エネルギー政策の立案過程そのものに中国の思惑や利益が不当に反映されていた可能性が高くなります。秋元氏はエネルギー政策の中枢にいた人物だったため、この事件は自民党内の「親中派」問題の深刻さを物語る、象徴的な出来事と言えるのです。

自民党のエネルギー政策決定システムが中国の影響下にあったのではないかという重大な疑惑を、秋元氏の逮捕が可視化したと捉えることができます。そのため、この事件は自民党内の「親中派」問題の広がりと深刻さを示す、きわめて重要な「象徴」的な事件だと言えるでしょう。

今後、この問題の全容解明に向けて、秋元氏の逮捕事件の背景と真相が徹底的に追及されていくことになります。

続いて三浦前外務審議官(三浦瑠麗氏の夫三浦清志氏)の逮捕では、在職中に中国企業のコンサルタントを務めていた疑惑が浮上し、外務省の重要ポストにいた人物が中国の影響下にあった恐れが出てきました。機密情報漏洩の可能性も指摘されています。

三浦瑠麗、清志夫妻

さらに、大樹生命倫理研究所の家宅捜索は、この団体が中国政府の意向を受けて新疆ウイグル地区の人権侵害実態を隠蔽・歪曲していたとの疑惑があり、中国の人権問題を矮小化する動きにつながっていたものと見られています。

そして今回の自然エネルギー財団の問題では、財団と中国の国営石炭火力発電企業の深いつながりが明るみに出ました。再生可能エネルギー推進を掲げる財団と火力発電企業の関係は不自然であり、中国の石炭利権に加え、エネルギー政策決定への影響力行使の懸念が指摘されています。 

加えて、自民党の最高顧問だった二階氏が中国企業に過度に接近していたことも批判されており、最高レベルでさえ中国寄りの姿勢があったことがうかがえます。


二階氏

このように、自民党内にはさまざまな形で中国の影響力が浸透しており、政策決定の要所にいた人物と中国側との癒着が次々と露呈してきました。政権そのものが中国寄りだった可能性さえ指摘される事態となっているのです。

このため、徹底した調査と真相解明が必須となっています。国会を含めた様々な場で、この問題が厳しく追及されていくでしょう。自民党や政権の正統性にかかわる重大問題だけに、決して曖昧な対応は許されません。第三者委員会の設置など、しっかりとした対策が求められています。

この一連の事件については、第三者委員会による調査のみならず、司法当局による捜査・裁判に委ねられる部分が出てくる可能性が高いと思われます。

すでに、秋元元経産次官と三浦元外務審議官の両氏は、それぞれ賄賂受領とスパイ行為の疑いで逮捕・起訴されています。今後、事件の深掘りが進めば、さらに関係者の刑事責任が問われるケースが出てくるかもしれません。

また、大樹生命倫理研究所への家宅捜索でも、新疆ウイグル地区の人権侵害実態隠蔽の疑いが持たれており、この問題には法的な責任追及の対象となる違法行為があった可能性があります。

さらに、自然エネルギー財団と中国企業の不透明な関係については、エネルギー政策決定への不当な影響力行使があったのかどうか、司法の場で徹底的に検証される必要がある重要な論点です。

つまり、この問題には国家安全保障や機密漏洩、人権侵害隠蔽などの極めて重大な犯罪が絡んでいる可能性があり、そうした場合には司法当局による厳正な捜査と裁判が求められます。

第三者委員会による事実解明と並行して、関係者の法的責任については、徹底した司法プロセスを経る必要があるでしょう。政権や権力の中枢部にかかわる重大事犯である以上、国民への説明責任を果たすためにも、司法の場での真相究明は避けられない課題と言えるでしょう。

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2024年3月27日水曜日

次期戦闘機の第三国輸出解禁が必要な理由 議論が深まるAUKUSのあり方、日本も取り残されるな―【私の論評】日本の選択―武器輸出解禁で防衛力強化、TPPをWTOルールとし国際ルールをリードせよ

次期戦闘機の第三国輸出解禁が必要な理由 議論が深まるAUKUSのあり方、日本も取り残されるな

岡崎研究所

まとめ
  • AUKUSはアメリカ、イギリス、オーストラリアの安全保障枠組みであり、オーストラリアが原子力潜水艦を取得する計画を含む。
  • AUKUSの実現可能性には疑問があり、特にオーストラリアの米国への依存度や将来の政治的姿勢に関する不安がある。
  • AUKUSの影響が地域の安定に及ぼす可能性がある。特に、アジア太平洋地域における軍事的緊張の増大や中国との関係悪化が懸念されている。
  • 日本との関係において、AUKUSがどのような影響を与えるかが焦点となっており、次期戦闘機の第三国輸出解禁の必要性が強調されている。
  • AUKUSに対する議論は様々な側面から展開されており、地域の安全保障における重要性や実現可能性に関する懸念が存在している。

 2024年2月26日の英フィナンシャル・タイムズ紙の記事は、AUKUS(アメリカ、イギリス、オーストラリア間の安全保障枠組み)に対する議論と、それが日本に及ぼす影響に焦点を当てている。

 AUKUSは、オーストラリアがアメリカやイギリスから原子力潜水艦を取得することを含む、地域安全保障の新たなアプローチを提案している。この枠組みは、太平洋地域における中国の台頭に対抗する戦略の一部として位置づけられている。しかし、その実現にはいくつかの懸念がある。

 まず、AUKUSの実現可能性に関する懸念がある。特に、オーストラリアが太平洋地域における米国の主導権を支えるという決断が持続的かどうかについて疑問が投げかけられている。また、AUKUSの政治的な面でも不安があり、将来の米国政権がこの枠組みにどのような姿勢を取るかに関する懸念がある。

 さらに、AUKUSが地域の安定に与える影響にも焦点が当てられている。特に、アジア太平洋地域における軍事的緊張の増大や、中国との関係悪化の可能性に対する懸念がある。このような懸念から、AUKUSが地域の安全保障状況をどのように変化させるかが注目されている。

 さらに、日本との関係においても、AUKUSがどのような影響を与えるかが焦点となっている。特に、日本が次期戦闘機の第三国輸出解禁を求める理由や、その重要性が強調されている。日本がAUKUSに取り残されることを避けるためには、これらの問題に対する適切な対応が求められる。

 総じて、AUKUSに対する議論はさまざまな側面から展開されている。地域の安全保障における重要な枠組みとして期待される一方で、その実現可能性や地域の安定への影響に対する懸念も根強く存在している。日本との関係においても、これらの問題に対する適切な対応が求められていることが明確に示されている。

 この記事は、元記事の要約です。詳細は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】日本の選択―武器輸出解禁で防衛力強化、TPPをWTOルールとし国際ルールをリードせよ

まとめ
  • 一国家だけでは安全保障を完全に確保することが困難な時代となり、同盟国との協力関係が不可欠
  • 価値観を共有する民主主義国家同士が防衛面で手を携えることが、費用対効果と相互信頼の面で合理的
  • 日本が次期戦闘機の輸出を解禁しないと、最新軍事技術から取り残されるリスクがある
  • 輸出解禁で同盟国との武器移転が可能になれば、共同開発によるコスト削減や運用の効率化が期待できる
  • TPPで確立した新ルールをWTOに反映させることで、日本が経済面でも国際ルール作りを主導できる
今日の国際情勢を見れば、一国家だけで安全保障を完全に確保することは極めて困難です。ますます高度化する軍事技術、さらには経済的・財政的制約から、各国は防衛面での同盟関係の重要性を増してきています。

とりわけ価値観を共有する民主主義国家同士が手を携えることが、費用対効果や相互の信頼関係の観点から合理的であると考えられています。このような流れは今後さらに加速していくことが予想されます。

そうした中で、日本が次期主力戦闘機の輸出を解禁しないことには大きなリスクがあります。AUKUSなどの先進国間の防衛協力の枠組みから取り残され、最新の軍事技術情報から遠ざかってしまう恐れがあるのです。

日英伊の共同開発の戦闘機 AI生成画像

高性能な戦闘機の開発には莫大な費用がかかり、一国だけの力では限界があります。同盟国との技術共有なくしては、日本の防衛産業の国際競争力は低下し、いずれは遅れをとってしまうでしょう。

一方で、輸出解禁により同盟国との武器移転が可能になれば、防衛装備品の共同開発が進み、大量生産によるコスト削減や相互運用性の向上など、大きなメリットが生まれます。開発当初から設計の共有や人材交流など、防衛分野での緊密な協力関係が構築できるようになるのです。単なる物資の移転にとどまらず、同盟国間の絆を一層強固なものとすることにつながります。

さらに重要な点は、輸出解禁を機に、日本が国際社会での武器移転ルール作りに積極的に関与できるようになることです。現在、先進国主導で新たな枠組み作りが進められていますが、武器を輸出しない国では発言力に限界があります。

輸出を解禁すれば、日本の価値観や考え方を国際ルールに反映させやすくなり、地域の平和と安定に貢献できるはずです。   

もちろん、武器輸出には慎重な対応が求められます。輸出先の選別や使用用途の制限など、厳格な輸出管理体制を整備する必要があります。しかし、そうした課題をクリアできれば、輸出解禁は日本の防衛産業の活性化や同盟国との信頼関係強化に大きく寄与するでしょう。

AUKUSを中心とした同盟国間の協力関係をより緊密なものとし、新時代の安全保障体制の構築に日本が中心的な役割を果たせるよう、次期戦闘機輸出解禁の重要性は計り知れないものがあると言えます。

日本は米国が離脱したTPPを主導し、自由で公正な経済ルールづくりに尽力してきました。

TPPは関税撤廃などの伝統的な貿易自由化に加え、労働、環境、電子商取引など、21世紀型の新しいルール作りを目指す経済連携協定です。投資家対国家紛争解決制度(ISDS)の見直しなど、従来の枠組みを超えた先進的な内容が盛り込まれています。

拡大TPP参加国

そうした経験と実績を生かし、日本がTPPで構築したルールをWTO(World Trade Organization)の多角的な枠組みに反映させていくことは、極めて有望な選択肢だと言えます。

WTOルールはかつての時代の産物であり、デジタル化の進展やサービス貿易の拡大など、現代の経済実態に必ずしも適合していない面があります。TPPのような21世紀型ルールを導入することで、WTO自体を時代に適ったものへと進化させられるからです。

もちろん、加盟国の利害対立から、WTOでのルール改革は容易ではありません。しかし、日本が主導してTPPで確立した新しいルールを足がかりに、徐々にWTOのルール見直しを働きかけていくことは有力な戦略オプションとなり得ます。

そうすれば、日本は単に同盟国との防衛協力関係を深めるだけでなく、経済面でも国際ルール作りの主導権を握れるようになります。安全保障と経済、両面でグローバルな影響力を高められるはずです。

自由貿易を旗印に、公正なグローバルスタンダードを主導することは、日本が掲げる「自由で開かれたインド太平洋」構想の実現にも大きく寄与するでしょう。武器移転だけでなく、経済連携でも日本が主導的役割を果たすことが、平和で安定した国際秩序の確立につながると考えられます。

日本の三文芝居のような政局 AI生成画像

現在日本は、選択を迫られているといえます。と同時に、これは日本にとって次の飛躍への大きなチャンスでもあります。残念ながら、今の日本は、政治が停滞しており、この選択のチャンスを活かせるのかどうか心許ない状況にあります。

心ある政治家や、官僚は現状の政治の三文芝居のような停滞状況は別にして、将来の日本を形作るための準備を怠りなくすすめていただきたいです。

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2024年3月26日火曜日

【コラム】異例の規模の日銀リーク、真剣な調査を-リーディー&モス―【私の論評】日本の情報漏えい:日銀スキャンダルから浮かび上がる情報セキュリティーの深刻な課題

【コラム】異例の規模の日銀リーク、真剣な調査を-リーディー&モス

まとめ
  • 政策決定の正式発表前の国内メディア報道がルーティン化
  • 情報セキュリティーの甘さを露呈、国会の調査必要

日銀

 日本銀行の金融政策決定会合の内容が、会合開催前から国内メディアに詳細を報じられるなど、情報漏えいの問題が深刻な事態となっている。3月の会合では、具体的な政策変更内容が事前にかなり詳しく報道されたほか、会合の模様までもが伝えられるスキャンダラスな事態となった。このように日銀の機密情報が外部に漏れ出すケースが後を絶たない。

 日銀側は、情報管理については厳格なルールを設けていると説明するが、実際には何らかの経路で機密情報が漏えいしている実態がある。機密漏えいによって、市場でかく乱が起きたり、数十億ドル規模の資金の動きに影響が及ぶ可能性もあり、中央銀行として極めて望ましくない事態である。日銀の情報管理体制の脆弱さを露呈する形となり、その信頼性を揺るがしかねない。

 他の主要中央銀行でも情報漏えいの事例はあり、米連邦準備制度理事会(FRB)でも、過去にFOMC議事要旨を一部に先行公開したり、メンバー自身が不適切な株取引をしたりする問題が発覚している。しかし、日銀の事例はそれを上回る極端なケースであり、他に例を見ない深刻な水準にある。

 このため、日銀は情報セキュリティーの重要性を真剣に認識し、今回の一連の漏えい事案の原因を徹底的に調査することが必要不可欠である。そして再発防止に向け、実効性のある対策を遅滞なく講じなければならない。日銀の信頼性が大きく揺らがれかねないという、極めて重大な問題となっているからである。

 国会でも情報漏えいへの対応が改めて問われており、岸田首相が日銀に回答を求めるべき時となっている。日銀が機密情報の取り扱いにおいて、国際的な水準を満たしていないのであれば、そのことが「ファイブアイズ」からの除外理由になっているとの指摘もある。国家の金融の最高権威機関としての体制を早急に立て直す必要がある。

【私の論評】日本の情報漏えい:日銀スキャンダルから浮かび上がる情報セキュリティーの深刻な課題

まとめ
  • 日本の情報セキュリティーに対する認識の甘さは、日銀スキャンダルを通じて明らかになった。
  • 機密漏えいは先進国でも重大な問題であり、過去に米国のFRBでも類似の事例があった。
  • 日銀の情報漏えいは、金融政策に影響を与える重大な問題である。
  • 日本政府の機密情報の取り扱いにも問題があり、再生可能エネルギー政策などで露呈されている。
  • 日本の情報漏えいは国際社会で信頼を損ない、情報セキュリティーの向上が喫緊の課題である。

日銀植田総裁

日本の情報セキュリティーに対する認識の甘さは、今回の日銀スキャンダルを見ても無残な有様です。機密漏えいへの危機感が大きく欠如していると言わざるを得ません。

先進国では、機密情報の不正な漏えいは到底許されるものではありません。米国でも過去に、連邦準備制度理事会(FRB)の重要文書が一部に先行して漏えいした事例がありました。これは死活問題とみなされ、大騒ぎになりました。ベター・マーケッツのデニス・ケレハーCEOは「FRBの情報管理体制はあまりにも脆弱だ。このようなことが起こり得たことが不可解だ」と痛烈に批判しています。

さらに、パンデミック時に一部のFRB当局者が内部情報を利用して不適切な株取引を行った問題が発覚すると、ローゼングレン・ボストン連銀総裁やカプラン・ダラス連銀総裁は辞任に追い込まれました。クラリダFRB副議長も任期切れ直前に辞任を余儀なくされています。機密漏えいは、重大な責任問題になり得るのです。

一方、今回の日銀の事態は、先進国の常識から見れば背筋が凍るようなスキャンダルです。緊急の金融政策決定の詳細内容が、会合の開始前から国内メディアにリークされていたのですから。これでは日銀の情報管理体制が板挟みの隙間から機密が次々と漏れ出す、無防備な状態であることが分かります。

重大な機密漏えいにもかかわらず、日銀は「報道各社がそれぞれの見方を示したもの」などと、全く無防備な対応しかできていません。まさに機密の取り扱いがずさんな有様です。国の重要機密がこれでは氷山の一角にすぎず、実際にはもっと深刻な事態なのかもしれません。

日銀の機密が無残にも漏えいしていることは、金融政策が国民生活に直結する中央銀行として、重大かつ深刻な問題です。これでは、我々国民の金利負担や年金運用への打撃を防ぐこともできません。日本人一人一人が、機密漏えいの重大性をもっと自覚し、危機感を持つ必要があるでしょう。

内閣府のタスクフォースでの資料の透かしにあった中国国営企業のロゴマーク

さらに、日本政府の機密情報の取り扱いにも、大きな問題があると指摘せざるを得ません。

再生可能エネルギー政策に関する内閣府のタスクフォースで、民間構成員から提出された資料に中国国営企業のロゴマークが入っていたという事態は重大です。さらに、経済産業省と金融庁の会議体でも同様に中国企業のロゴ入り資料が使用されていたことが分かり、政府の情報管理がずさんな実態が露呈しました。

これらは要するに、外国企業の関与が疑わしい資料が、政府の重要な政策検討の場で平然と利用されていた、ということです。政府としての機密保持意識が教科書通りにまったく欠如していたと言えます。

国家の重要政策の検討過程において、中国などの外国勢力に情報を筒抜けにされてはなりません。それは主権国家としての誇りに関わる重大問題であり、機密漏えいへの危機意識の欠如が改めて暴かれた形です。

このように、日銀の情報漏えい問題に加え、再生可能エネルギー政策をめぐるタスクフォースなどでの機密情報の取り扱いの杜撰さが明らかになったことで、日本政府全体の情報管理態勢が極めて脆弱であることが露呈しました。

国家の機密を守り、情報セキュリティーを確保することは、主権国家として最低限の責務です。政府は機密情報の取り扱いルールを徹底し、情報管理の重要性に対する意識改革を緊急に行う必要があります。国民一人一人も、政府の怠慢により国益が損なわれかねないことを強く自覚し、厳しく追及していく姿勢が求められます。

確かに、今回の一連の情報漏えい、機密情報管理の怠慢は、日本国内ではあまり深刻に受け止められていないかもしれません。しかし、海外から見れば、これらは日本の情報セキュリティーに対する甘い姿勢を示す重大な問題であり、厳しく糾弾されるべきです。

日本銀行の金融政策決定内容が事前に漏えいしたスキャンダル、さらには政府の重要会議で外国企業のロゴ入り資料が使用されていたことは、機密保持意識の欠如を示す有り余る証拠です。これでは、日本が高度な機密情報を適切に取り扱う能力があるとは到底言えません。

こうした杜撰な情報管理態勢こそが、日本が国際的な情報共有の枠組み「ファイブアイズ」から除外されている大きな理由なのです。高度な機密情報を漏らしてはならない同盟国から、日本は信用されていないのが実情なのです。

five eyes

国家の機密を守り、情報セキュリティーを確保することは、主権国家として最低限の責務です。それができない日本は、世界から「機密漏えいの心配がある」と遠慮され、重要な情報から疎外されているのが現状なのです。

このように、海外から見れば、日本の情報管理の甘さは看過できない重大問題であり、強く糾弾されるべきことは明らかです。日本が国際社会から一流の主権国家として信頼されるためには、情報セキュリティー対策を抜本的に見直し、機密保持意識を徹底して高める必要があります。そうでなければ、先進国から完全に疎外され、取り返しのつかない事態になりかねません。

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