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2018年11月22日木曜日

シュライバー米国防次官補単独会見 米、中国海軍と海警、海上民兵の一体運用による尖閣奪回を警戒―【私の論評】冷戦Ⅱで日本は尖閣から中国を排除しやすくなった(゚д゚)!

シュライバー米国防次官補単独会見 米、中国海軍と海警、海上民兵の一体運用による尖閣奪取を警戒

シュライバー米国防次官補
【ワシントン=黒瀬悦成】シュライバー米国防次官補が21日、産経新聞との単独会見で東シナ海での中国海警局の公船や漁船に乗り込んだ海上民兵に対して厳しく対応していく姿勢を打ち出したのは、これらの勢力が実質的に中国人民解放軍の指揮下にあり、「非軍事組織」を装いつつ中国軍と事実上一体となって尖閣諸島(沖縄県石垣市)の奪取に動くことを強く警戒しているためだ。

 日本の海上保安庁に相当する中国海警局は7月、中央軍事委員会の傘下にある人民武装警察部隊(武警)に編入された。軍の指導機関である軍事委の傘下に入ったことで、沿岸警備とは別に中国海軍と連携した軍事行動をとる恐れがあるとの懸念が強まっている。

 また、米海軍大学校のアンドリュー・エリクソン教授は軍事専門誌で、中国の海上民兵が「人民解放軍の指揮命令系統に組み込まれ、国家主導の作戦で運用されている多数の証拠がある」と指摘。エリクソン氏は、これらの海上民兵をウクライナの分離独立派を支援するロシア軍要員「緑の小人」にちなんで「青い小人」と名付け、米国としてもその実態を白日の下にさらすべきだと訴える。

 さらに、米議会の超党派政策諮問機関「米中経済安全保障調査委員会」が14日に発表した年次報告書によると、中国海軍は今年、原子力潜水艦やフリゲート艦を尖閣諸島の接続水域に初めて侵入させ、軍用機の訓練飛行を頻繁に実施するなど、尖閣をめぐる日本の主権と施政権を否定する行動を繰り返している。

 日中首脳は10月の首脳会談で東シナ海を「平和・協力・友好の海」とすることを確認したが、中国による行動は発言とは正反対といえる。米国防当局者によると、マティス国防長官は10月、シンガポールでの魏鳳和国防相との会談で、この問題に関する米国の懸念を明確に伝えたという。

 北朝鮮問題に関しては、「交渉は外交官に任せる」として国務省主導の非核化協議を支援する立場を打ち出す一方、「北朝鮮との間では幾つかの信頼醸成措置が取られたものの、北朝鮮は通常兵力を全く削減していない」と指摘し、「北朝鮮は引き続き重大な脅威だ」と訴え、米韓同盟に基づく米軍駐留の必要性を強調。在韓米軍の削減をめぐる議論は「現時点で一切行われていない」とした。

 非核化協議を進展させる狙いから中止されている米韓の大規模合同演習を来年春以降に再開するかについては「北朝鮮の交渉態度が誠実かどうか次第だ」と指摘。これに関し国防総省は21日、今後の演習に関し、規模を縮小して実施するなどの選択肢を検討しているとする声明を発表した。◇

 ランドール・シュライバー米国防次官補 西部オレゴン州出身。海軍情報士官として湾岸戦争(1991年)などに参加後、ハーバード大で修士号(公共政策)取得。ブッシュ(子)政権下の2003~05年に国務次官補代理(東アジア・太平洋問題担当)を務めるなどした後、コンサルタント会社「アーミテージ・インターナショナル」をリチャード・アーミテージ元国務副長官らと共同設立した。アジア地域を専門とする政策研究機関「プロジェクト2049研究所」の代表も務めた。18年1月から現職。

【私の論評】冷戦Ⅱで日本は尖閣から中国を排除しやすくなった(゚д゚)!

海上民兵
昨日は海警については掲載したので、本日は海上民兵について掲載します。

海上民兵について、上の記事では詳細については掲載されていません。これは、どのような存在なのか、今一度振り返っておきます。

海上民兵は過去にすでに尖閣諸島付近に姿を現しています。2016年8月5日に尖閣諸島周辺に200~300隻にも上る中国漁船接続水域に現れました。その後、5日間にわたってこの海域にとどまり操業を続ける様子を、警戒にあたった海上保安庁の航空機がしっかりと映像に捉えていました。

「視界の及ぶ限り延々と中国漁船が浮かんでいました。この漁船団とともに最大で15隻もの中国海警局の公船が一体となって、日本の領海への侵入を繰り返していたのです。警戒にあたる巡視船の基本は、マンツーマンディフェンスですが、これほどの数だと、対応しきれません」(海上保安庁幹部)

現場からはさらに驚くべき動きが伝えられました。

「尖閣諸島周辺海域に押しかけた中国漁船に多数の海上民兵が乗船していたというのです。その数は100人を下らない。多くは漁船の船長として、乗組員である一般の漁民らを指揮していたと見られています」(同前)

今回だけでなく、近年、尖閣周辺に入り込む中国漁船に海上民兵が乗船するのは、もはや日常の光景と化しています。

「尖閣周辺の上空で毎日欠かさず警戒にあたる海上自衛隊の哨戒機P─3Cが捉えた中国漁船の写真には、海上民兵と思しき軍服を着た人物が乗り込み、船体には軍の識別番号、甲板には20mm連装機関銃を搭載した様子まで映っていた」(防衛省関係者)

そもそも海上民兵とは、漁民や民間の船会社の船員などのうち、軍事的な訓練を施され、必要に応じて漁船などで軍の支援活動をする者たちをいいます。漁業繁忙期には漁にいそしみ、漁閑期には国防を担うことで日当を政府からもらう、パートタイムの軍人というべきかもしれません。民兵(Min Bing)の略である、MBのワッペンや記章が付いた軍服を着て活動します。

中国民兵の肩章

中国国防法22条には、「人民の武装力は中国人民解放軍および予備部隊、人民武装警察部隊、民兵組織によって構成される」と謳われ、民兵は軍を所掌する中央軍事委員会の指導下にありますが、彼らはフルタイムで軍務に従事するわけではありません。その数は10万人以上とも言われるますが、正確には判明していません。

この海上民兵が米軍や自衛隊関係者の間で大きく注目されています。近年、急激に活動を活発化させているからです。

「2009年に海南島沖の公海上で米海軍の音響測定艦インペッカブルが、中国の海上民兵が乗り込んだトロール漁船などから執拗に妨害を受けるということがありました。

南シナ海で中国が進める人工島の埋め立て作業にも海南島などの海上民兵が動員され、さらに2015年から米軍が始めた『航行の自由』作戦に参加したイージス艦が、海上民兵が乗る武装漁船によって取り囲まれるという事態が二度にわたり起きたことを米太平洋艦隊の司令官が2016年5月に明らかにしています。

海上民兵は単なる半漁半軍の集団ではなく、米中の軍事的緊張の最前線に躍り出る存在となったのです」(同前)

その海上民兵たちの拠点となる漁村は、東シナ海および南シナ海に面した浙江省から福建省、広東省、海南省にかけての海岸線沿いに複数点在しています。日本の公安当局はその実態の把握に躍起となっています。

「浙江省や福建省などでは海軍の教育施設で海軍兵士と一緒に30日ほどの軍事訓練を受けており、その活動は海軍艦船への燃料や弾薬の補給から偵察、修理、医療など幅広く行います。なかには、機雷の設置や対空ミサイルの使用に習熟した民兵もおり、敵国艦船への海上ゲリラ攻撃を仕掛けるよう訓練された部隊もあるようです」(公安関係者)

この他にも中国が西沙諸島や南沙諸島などに作った人工島をあわせて新設した三沙市への移住を海上民兵に対して促すこともあるといいます。

1日あたり35元から80元(約500~1200円)の居住手当が支払われるといいますが、移住先の人工島で漁業などに従事させることで、中国領であるとの既成事実を作り上げようといしているのかもしれません。

以上のようなことから、海上民兵を日本の屯田兵のようなものとみなすことができると思う人もいるかもしれません。しかし、それは全くの間違いです。日本の屯田兵は、当時自他ともに自国領土とされる北海道に展開されていました。

屯田兵は、国境係争地等や他国領土、領海に配置されたことはありません。それは、あくまで軍隊が行っていました。屯田兵はあくまで、自国領地を守るという意味合いで設置されたものであって、中国の海上民兵とは全く異なるものです。

さて、このような海上民兵と闘うためにはどうすれば良いのでしょうか。

中国が尖閣諸島に多数の「漁民」を軽武装で上陸させてくる可能性があります。実際には民兵であるこれら「漁民」は人民解放軍の指揮下にある「漁船」で上陸し、日本側が出動させるヘリコプターに対してフレア・ガン(照明弾や発煙弾を発射する信号銃)を一斉発射して撃退することでしょう。

このような、尖閣攻撃は、中国側が日本のなまぬるい対応を事前に知っているためにその可能性が高くなってきました。

日本側は憲法上の規制などで尖閣に侵入してくる中国の軍事要員に対しても警察がヘリで飛来して、違法入国で逮捕し、刑事犯として扱おうとする対応を明らかにしています。だから中国側の偽装漁民はフレア・ガンでまずそのヘリを追い払うわけです。ヘリがフレア・ガンに弱いことはよく知られています。この場合、米軍の介入も難しくなります。

フレア・ガンを撃つ女性

日本に必要なのは、尖閣諸島を、重要施設が集中している「東京都千代田区」と同じにみなし、そこへの侵略は本格的な軍事作戦で撃退することです。日本側はいまその軍事反撃ができないことを内外に広報しているような状態であり、中国の侵略をかえって誘発する危険を高くしています。

日本は自国の防衛のために現実的かつ本格的な軍事作戦を遂行する意思や能力があることを示さねばならなりません。そのことこそが中国の軍事的な侵略や威嚇への抑止となります。

幸いなことに現在、トランプ大統領の安倍晋三首相への信頼度は高いです。トランプ大統領は、安倍氏をいまの世界で最高水準の指導者とみなし、日本をアメリカにとって第一の同盟国とみています。

現在トランプ政権では、対中国冷戦Ⅱを本気で実行している段階です。トランプ政権下では日本は中国に対して強い措置をとる際に従来のように米国政府にいちいち了解を求める必要はもうなくなりました。

2018年からは、米国はこれまでと異なる対中政策をとりはじめ、その結果、まったく新たな米中関係が始りました。この変化は日本にとっても、プラスが多いです。

もし中国が海上民兵を主体に尖閣上陸しようとした場合、日本が武力も含めて何らかの措置を講じ、海上民兵尖閣から排除した場合、米国は日本を同盟国としてさらに信頼することになるでしょう。

一方、世界の中で、中国、北朝鮮、韓国とごく一部の国を除いて、日本が海上民兵を排除したとしても、ほんどの国がそれを当然とみなし、非難する国はないでしょう。避難するどころか、中国の侵略や干渉に悩まされている国々からは賞賛の声があがることでしょう。

そうして、国内でも中国が武装海上民兵を尖閣に上陸させた場合、それを迅速に排除すれば、政府に対する信頼はますます深まるでしょう。野党は、大反対するかもしれませんが、これはかえって多数の国民から反発を買うことになるでしょう。

その逆に、海上民兵にやすやすと尖閣を奪取された場合、政府の支持率はかなり落ちることになるでしょう。これは、特に最近の政府の韓国に対する厳しい対応に対して、国民やマスコミなどから反対の声が起こらないことからも容易に推察できます。

もし、尖閣がやすやすと海上民兵に奪取された場合、普段野党は親中派・媚中派のようであるにもかかわらず、途端にあたかも反中派になったように、倒閣のために政府を大批判し、マスコミもこれに迎合し、これでもかこれでもかと政府の不手際を批判することになるでしょう。

その挙句の果てに、中国から大目玉を喰らって、意気消沈するなどの喜劇が発生するかもしれません。

このよなことにならないためにも、日本は法改正して、海保と海自が連携行動出来るようにすれば良いのです。当然海保の巡視艇は、中国の海警船並に、兵器を搭載します。敵の海警船と、我が巡視艇同士でも、砲撃戦が出来るようにしておくのが急務です。ことが大きくなったら海自の潜水艦やイージス艦が出て行けば良いのです。

また、予め中国に対して、海上民兵は軍事組織とみなすとはっきりと伝えておくことも重要です。

肝腎なことは、「中国は尖閣だけでなく、沖縄諸島を略奪することを企図している」ことをはっきりと表明していることです。これに対応するには妙案などありません。昨日もこのブログに示したように、迅速に行動することです。

いずれにせよ、トランプ政権になり冷戦Ⅱが始まってからは、日米の関係性からいって、日本は以前よりはるかに尖閣対応がやりやすくなったのは確かです。オバマ政権時代までには考えられないような対応ができるようになりました。

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2018年11月14日水曜日

【瓦解!習近平の夢】「千人計画」は知的財産泥棒? “超ハイレベル人材”で科学的発展目論むも… 米は違反者摘発へ本腰―【私の論評】トランプ政権の“泥棒狩り”は、日本にとっても他人事どころか今そこにある危機(゚д゚)!


千人計画」のロゴ 写真はブログ管理人挿入 以下同じ


入獄計画-。反中国共産党の華人らがこう皮肉るのが、2008年12月から実施されてきた「千人計画」である。海外の企業と大学に勤務する研究者や技術者、知的財産と技術保護担当の中国人幹部を対象者に選び、中国の科学的発展に貢献させる“超ハイレベル人材”のことだ。

 今年6月、米国防総省は米下院軍事委員会の公聴会で、「同プログラムの目的は、米国の知的財産を獲得することにある」と警告した。さらに、マイク・ペンス米副大統領は、ハドソン研究所で10月4日に行った長い演説の中で、「中国の安全保障機関が、最先端の軍事計画を含む米国の技術の大規模な窃盗の黒幕」と言及した。

 米連邦捜査局(FBI)は、企業の重要技術情報を個人メールアドレスに転送し、中国企業に提供した容疑で、米ゼネラル・エレクトリック(GE)の中国人チーフエンジニアを逮捕するなど、次々と「御用」にしている。「千人計画に参加する教員を処罰する」との声明を発表したテキサステック大学が、客員教授に就任予定だった中国人教授の招聘(しょうへい)をキャンセルしたことも公になった。

 中国人研究者の逮捕、解雇が続出するなか、在米学者の間では「FBIは千人計画のリストに基づいて、違反者を摘発している」との話も広がっているという。

 この事態に焦った習近平政権は、「千人計画」の4文字が含まれた情報や名簿をウェブサイトから次々と削除しはじめた。さらに、「千人計画の面接時など、メールを使わず電話とファクスを使用する」「千人計画の文字を伏せるよう」などと、関係者宛てに注意喚起した。

 だが、「千人計画青年項目評審工作小組」の通達を、「国家自然科学基金委員会計画局」が代筆した9月29日付の文書の存在が、台湾の中央通信社(10月5日付)などに暴かれてしまった。

 もはや、「地下計画」と化した千人計画だが、もう一つ、中国では2011年8月から「外専千人計画」も稼働している。米国や日本、ドイツなどから選ばれた超ハイレベル人材のことだ。

写真は在中外国人


 習政権は今後、中国人の超人材の存在を隠蔽しながら、「外専千人計画」に、より力を入れていくのだろうか?

 李克強首相は9月末日、北京の人民大会堂で18年度中国政府友諠賞の外国専門家と、その親族らと面会した際、「外国人専門家と外国人の才能のため、より多くの便宜を提供すべく積極的な措置を取っていく」と語っている。

 だが、「世界一の軍事強国になる」という「中国の夢」に加担することは、すなわち、「日本国民の国家安全保障上の脅威」でしかない。ドナルド・トランプ政権が本腰を入れている“知的財産泥棒狩り”を、われわれは他人事と思っている場合ではない。

 ■河添恵子(かわそえ・けいこ) ノンフィクション作家。1963年、千葉県生まれ。名古屋市立女子短期大学卒業後、86年より北京外国語学院、遼寧師範大学へ留学。著書・共著に『「歴史戦」はオンナの闘い』(PHP研究所)、『トランプが中国の夢を終わらせる』(ワニブックス)、『中国・中国人の品性』(ワック)、『世界はこれほど日本が好き』(祥伝社黄金文庫)など。

【私の論評】トランプ政権の"泥棒狩り”は、日本にとっても他人事どころか今そこにある危機(゚д゚)!

千人計画など実際にどのようにして、リクルートするのか興味のあるところです。そうして、このリクルートは米国のみならず、日本も含む世界中の先進技術を有する国々で実施されているのだろうと思います。

さて、このルクルートに関して、米ジャーナリスト、ギャレット・グラフ(Garrett M.Graff)氏はこのほど、ビジネス誌「WIRED」に"China's 5 Steps for Recruiting Spies"寄稿しました。

ギャレット・グラフ(Garrett M.Graff)氏

グラフ氏は中国工作員のスパイ活動に警戒し、中国情報機関のスパイにされないよう呼び掛けた。同氏は過去20年間、中国のスパイ活動は、広範囲におよび強い破壊力があり、国家の安全にとって最大の脅威だと繰り返して警告してきました。

米司法省は10月30日、中国情報機関・国家安全省の幹部とハッカー10人を訴追しました。司法省は、中国工作員が米航空企業から商業機密を盗もうとし、さまざまな策略を企てたと指摘しました。

9月以降、中国の産業スパイが訴追されたのは今回で3回目。10月上旬に、複数の米航空宇宙企業から企業機密を盗んだとして、ベルギーから身柄を引き渡された中国工作員の徐彦君(Yanjun Xu、音訳)氏を逮捕・訴追した。徐被告は中国江蘇省国家安全庁第6局副処長(次官)で、GEアビエーション社のジェッドエンジン技術者を中国側の商業スパイにスカウトしました。

いっぽう、グラフ氏は過去の事例を分析し、中国情報機関が欧米人をスパイにスカウトする際、5つのステップがあると指摘しています。

ステップ1:ターゲットを定める

正式な接触の前、「スポッター(spotter)」と呼ばれる中国の調査員が、ターゲットについて調査・評価を行います。そして、その結果を情報機関の幹部に提出します。幹部らは、正式なスカウトに値するかを再評価します。スポッターの多くは、シンクタンク、大学、企業幹部であり、スカウトに直接関与していません。

前述の徐延君氏の案件では、元中国人留学生の紀超群氏が徐氏の「スポッター」を務め、ターゲットとなりうる人物を物色していました。

徐延君
紀氏は中国の情報機関に対して、少なくとも中国系研究者8人の情報を提供しました。米政府によると、8人のうち、7人は国防事業の下請け企業の現役社員、または定年退職者だったといいます。

ステップ2:評価

ターゲットになった米技術者をスパイ活動に駆り立てるため、さまざまな手段で動機づけをします。金品の供与、イデオロギーの宣伝、脅迫、またはスパイ生活のスリル感を味わせるなどなど。

中国当局は、中国人をスカウトする場合、脅迫や愛国心の利用などの手段を多用しています。欧米人に対しては、金品の提供が多いです。

米連邦捜査局(FBI)は今年6月、国防情報を中国に渡そうとしたユタ州に住む米国人の男性を逮捕しました。米国防情報局(DIA)の官僚だった男性は定年退職後、多額な債務を抱え生活が困窮していました。2014年以降、中国国家安全省の職員2人が男性に接触してきました。

15年中国を訪れた男性に対して、2人は今後「毎年30万ドル(約3384万円)の顧問料を支払う」と約諾しました。男性は17年まで、米国内で国防関連の会議に参加し、写真を撮影したり情報をメモしたりしました。また、以前の同僚に連絡するなど、人脈構築を試みました。

ステップ3:発展

中国の工作員はターゲットとなった欧米人に、直ちに祖国への反逆を求めることはありません。まず気づかれないように良好な関係づくりに腐心します。米中央情報局(CIA)ブレナン前長官は、「(スパイになった米国人が)気づいた時点ですでに時遅し」とその手口は巧妙だと述べました。

2001年中国に留学し、その後中国上海に移り住んだバージニア州出身の大学生、グレン・シュライバー(Glenn Shriver)氏は04年、諸外国の貿易白書の作成スタッフを募集する新聞広告を見て、応募しました。広告を掲載した中国人が、シュライバー氏に120ドル(約1万3537円)の論文作成費を支給し、同時に2人の男性を紹介した。学生と2人の男性は親しくなるにつれ、男性らは学生に対して、米への帰国、米の国務省またはCIAでの就職を薦めました。

グレン・シュライバー(Glenn Shriver)

中国の情報機関は大学生に採用試験の参加費として、3万ドル(約338万円)を与えました。大学生は2回採用試験を受けたが、2回とも失敗しました。2007年、CIAの秘密プロジェクトの採用試験にも応募しました。中国情報機関はその際、学生に4万ドル(約451万円)を渡しました。

大学生はその後、逮捕された。米諜報当局は大学生をモデルにした啓発ビデオを作成した。海外に留学している米国人学生に対して、中国人工作員からの誘惑に警戒を高めるよう呼び掛けました。

ステップ4:スカウト

ターゲットとなる人に対して、中国情報部員は時にストレートにスパイ行為の強要を切り出します。2017月2月、CIA元幹部のケビン・マロリー(Kevin Mallory)氏がソーシャルメディアのリンクトインで、中国の上海社会科学院の職員と自称する人物からリクエストを受け取りました。

FBIは、中国国家安全省は、中国社会科学院と連携して活動していると指摘しました。社会科学院の職員と名乗る中国の工作員は多く存在するといいます。

マロリー氏はその後、電話を通じてこの上海社会科学院の職員と連絡を取り、17年4月に中国で2回面会しました。そこで、マロリー氏は特別な電話機を受け取り、安全なメッセージ機能を使って中国の「顧客」に連絡する方法を教えられました。マロリー氏は中国の対米政策白書の作成に2回協力しました。

ステップ5:処理

スパイとその指令役(handler)の連絡方法は以前の直接会うことから、現在暗号化された通信機器の利用に変わりました。

FBIは今年1月、中国情報機関の指示を受けて米国内でスパイ行為を繰り返していたとして、CIA元職員の李振成(英語名、Jerry Chun Shing Lee)氏を逮捕・起訴しました。

CIA元職員の李振成(英語名、Jerry Chun Shing Lee)氏

起訴状によると、2010年4月李氏は中国の工作員2人に会いました。工作員は李氏に金品の供与を約束し、その見返りとしてCIAに関する情報の提供を求め、「密かに連絡するために、李氏に複数の電子メールアドレスを提供しました」

李氏のノートパソコンに、CIAのオフィスの住所や1件の機密諜報計画の実施場所などの資料が保存されていました。李氏は、この情報を娘名義のメールアカウントから中国側に送信しました。

グラフ氏によると、FRIが李氏のカバンなどを捜査した際、李氏のシステム手帳から手書きの機密情報を見つけました。米情報機関職員らが会議で言及した諜報計画、計画関係者の電話番号、米側情報部員の実名とCIAの秘密施設などが含まれていました。

以上のような手口で、中国は日本でも同じようなことをしていると考えられます。日本は残念ながらスパイ防止法がないので、スパイ行為そのものではスパイを逮捕できません。スパイ行為に絡んで、何か犯罪をすれば、その犯罪に関して逮捕はできます。

このような状況では、中国のやりたい放題で、日本の技術が盗まれてしまうでしょう。しかし、私達はこれを見過ごすべきではないです。

これに関して、日本が日本の情報を中国に盗まれるというだけて、日本が不利益を被るだけと考える人がいるかもしれません。しかし、それは大きな間違いです。

日本と米国は同盟関係にあります。だから、日本には米国の情報もかなり蓄積しています。これが、中国に盗まれるということもあります。これは、明らかに米国にとって大きな不利益です。

さらに、米国の技術ではなくても、日本の技術が中国に盗まれ、「中国製造2025」に大きく寄与することになれば、これも米国は自国にとって不利益とみなすことでしょう。

このように、日本経由で中国に米国の不利益になる形で、情報が漏れれば、米国は黙っていないでしょう。それこそ、日本に対して制裁を課すということにもなりかねません。

トランプ政権の“知的財産泥棒狩り”は、日本にとっても他人事どころか今そこにある危機なのです。

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2018年11月12日月曜日

米、韓国へ“制裁”秒読み…北の“番犬”文政権の「制裁破り」にトランプ氏激怒―【私の論評】日台は、中国から離れる政策を実施つつ、国内経済浮揚の両方を同時に実行しなければならない(゚д゚)!

米、韓国へ“制裁”秒読み…北の“番犬”文政権の「制裁破り」にトランプ氏激怒

5月には日中韓ビジネス・サミットを開いた安倍晋三首相(中央)と
中国の李克強首相(右)、韓国の文在寅大統領

 米国との貿易戦争に苦しむ中国。いわゆる「元徴用工」をめぐる反日・異常判決を出した韓国は、露骨に北朝鮮寄りの姿勢を見せる。中韓両国と関係のある日本企業も危険な立場となりかねないと警告するのが国際投資アナリストの大原浩氏だ。寄稿で大原氏は、「自由」や「民主主義」とかけ離れている中国や、米国の制裁対象となれば経済の混乱が不可避の韓国との取引を考え直すべきだと訴える。

 トランプ米大統領は、米国が旧ソ連との間で結んだ中距離核戦力(INF)全廃条約を破棄する意向を表明した。これによって、米中貿易戦争と呼ばれていたものが、世界を巻き込む「第二次冷戦」の始まりであることが確定した。

 そもそも、1989年のベルリンの壁崩壊、91年のソ連邦の崩壊の後、世界中のだれもが共産主義の崩壊によって東西冷戦は終了したと思った。鎖国状態の共産主義国家群が「鉄(竹)のカーテン」を開けて自由主義経済圏と交流すれば、いずれ共産主義は消滅し、それらの国々にも「自由」と「民主主義」が広がると思ったのである。

 ところが、その考えは甘かった。中国を典型的例として、共産主義国家の大半(悪の帝国)は、西側の「自由市場」に参加してメリットを最大限に享受したにもかかわらず、国内の専制的支配に変化はなかった。それどころか、経済的に豊かになったことで、独裁政権が国民への締め付けを強化する事態すら招いた。

 こうしたなかで米中貿易戦争が勃発したのは、決してトランプ氏の気まぐれではない。日本企業だけではなく、中国に進出した米国企業も、無理やり先端技術を提供させられたり、当然認可されるべき申請を保留にされたりするなど数々の嫌がらせを受けてきた。

 しかし、被害企業は共産主義中国という巨大な相手とけんかできず、泣き寝入りしてきた。トランプ氏は、それらの企業の「声なき声」を代弁したに過ぎない。

 現在、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領は悪の帝国の一画である北朝鮮の番犬になり下がり、制裁破りともとられかねない言動を繰り返している。トランプ氏は北朝鮮を手なずけようとしているが、「しつけ」をしている最中に、横からエサを放り投げられたら激怒するのも当然だ。韓国の銀行や企業に対して米国が制裁を発動する日も近いのではないだろうか。

 もちろん、そうなれば韓国経済は混乱するし、韓国企業と取引をする日本企業も危険な立場に立たされる。

 さらに大きな問題が「悪の帝国」の本丸である共産主義中国である。中国には相当数の日本企業が進出したり、取引を行ったりしている。しかし、共産主義中国がいまも人権無視の蛮行を続けていることが誰の目にも明らかにされつつある。

 サウジアラビア政府が関与した記者殺害事件では、体を切り刻むなどの残酷な手口で世界中の国々から激しい非難を受け、サウジからファンドに出資を受けているソフトバンクグループは窮地に立たされている。

 しかし、ウイグルでの中国政府の行いは、それとは比較にならないほど大規模で悪辣(あくらつ)である。

 今でこそナチス・ドイツは繰り返し批判されているが、第二次世界大戦が始まるまでは米国などの企業は好意的だった。米国を代表する企業のトップもヒトラーから勲章を受けていた。後に勲章を返還したため事なきを得たが、そうでなければその企業は存在できなかったかもしれない。

1938年、デトロイト駐在のドイツ領事(右)がヘンリー・フォード(中央)に
「ドイツ大鷲十字章」を贈り、ヒトラーの謝辞を伝えた

 これまでマスコミでもてはやされてきた中国だが、日本企業としては、取引を即刻中止するのが正しい「危機管理」であり、「コンプライアンス(法令順守)」ではないだろうか。

 ■大原浩(おおはら・ひろし) 人間経済科学研究所執行パートナーで国際投資アナリスト。仏クレディ・リヨネ銀行などで金融の現場に携わる。夕刊フジで「バフェットの次を行く投資術」(木曜掲載)を連載中。

【私の論評】日台は、中国から離れる政策を実施つつ国内経済浮揚の両方を同時に実行しなければならない(゚д゚)!

日本企業は、日中友好にぬか喜びしているようですが、台湾は政府ぐるみで中国から離れる政策をとりつつあります。本日は、現在の日本とは対照的な、台湾の状況を掲載します。

中国国内はすでに数年前から、経済成長の鈍化、債務急増問題、信用バブル、人民元安など様々な経済問題に直面していました。これらが主因で、現在中国からの資本流出が加速していました。それを阻止するために、中国当局は近年個人や企業に対して流出規制を強化しました。

ペンス副大統領は、中国に対して最後通牒とも受け取れる演説を行い、米国による「対中国冷戦Ⅱ」は中国の体制が抜本的変わるか、体制を変えないなら、経済的にかなり弱体化させ他国への影響をそぎ取るまで続けられることになりました。

そのような中、台湾企業ははここ数年中国から離れる、努力をしています。台湾金融監督当局である金融監督管理委員会の最新統計によると、昨年1~3月期に約9社の台湾企業が中国本土から撤退し、過去最多となりました。この傾向は、米国が対中国貿易戦争を開始してからますます顕著になっています。

多くの台湾企業が中国本土に進出しているのですが、その収益に占める本国送金比率は12%で、帳簿価値の5.4%にとどまります。主因は中国当局の資本流出規制だというのです。

1970後半~80年代にかけて改革開放に転換した中国当局には、資金が必要でした。このため、当局は台湾企業や香港企業を「外資企業」として積極的に誘致しました。「現在の中国経済発展には、台湾企業と香港企業が大きく貢献しました。しかし、いったん中国本土に入った台湾と香港の資本は中国からでることができないようです。

実は台湾などの多くの経営者たちは、中国当局が資金流出制限を強化しているため、資金を台湾や香港に送金ができなくなっていると知っています。台湾企業が大陸中国の本土で、投資等を通じて儲けがあったとしても、その収益をどうしても台湾送金できず、結局大陸中国本土に再投資するしかないようです。

1980~90年代、数多くの台湾企業などの進出で、当時中国の資金および技術の不足が解決されました。当局はその後、さらに欧米諸国との間で「手厚い」貿易協定を結び、中国経済がより大きく拡大しました。この結果、中国当局にとって、リーマンショックまで資金問題は存在しませんでした。

ではなぜ、台湾企業などの資金を中国国内に留まらせたのでしょうか。これは、中国当局の本質に関係があるようです。個人の資産を認めず、他人の財産を奪ってきた中国共産党は、もちろん台湾企業の資本を手に握りたいとの政治的な狙いがあったのでしょう。

中国共産党は政権を奪ってから今現在まで、数々の政治運動を起こし、「暴力」と「恐怖」で国民に対して圧制を敷いてきました。

とはいいながら、長期的に政権を維持していくには暴力だけではダメだと当局は心得ているようです。そのため、中国当局は経済成長を通して、国民に当局は『偉大』だと思い込ませ、中国共産党統治の当地の正当性を強調してきたのです。

そのため、中国当局は長年経済指標をねつ造してきました。この偽装された経済データで作り上げられた虚偽である「世界第2位の経済体(実体はドイツ以下ともされている)」に、多くの海外企業が引き付けられました。

しかし、外資企業が中国本土でビジネス展開を始めると、海外への送金を制限して、人民元を海外の本国通貨に自由に両替させないことで、資金が本国に戻ることを阻止しました。

また、当局は中国企業が外資企業の製品を模倣し、知的財産権を侵害するのを黙認し外資企業の技術を盗んできました。このように、当局が入手した外資企業の資金と技術を用いて、国有大手企業を扶養し大きく育ててきたのです。

現在中国経済は不動産バブル、株価大暴落、元安、企業や政府の債務急増問題など多くの難題に直面しており、ねつ造された「経済の繁栄」はまもなく消えます。最近の米国による対中国「冷戦Ⅱ」は、それを加速することでしょう。そうして、多くの投資家が「中国リスク」を認識し、中国市場から続々と撤退しています。

一部の台湾経営者の中で、中国本土と台湾は密な関係かあることから、中国経済が崩壊すれば、台湾経済も大きな打撃を受けると危惧しています。

中国当局は台湾政府に対して、長年経済に台湾企業を通じて圧力をかけてきました。しかし、台湾国民と政府は今その危機感を強めています。いわゆる台湾政府による「新南向政策」(投資先を中国本土から東南アジアにシフトする)で、台湾政府は中国経済に依存する現状を打破しようとしています。

「新南向政策」を示す台湾のチャート

今すぐにはその政策の効果が目に見えないとしても、中国経済への依存を断ち、中国共産党政権からの指図を受けないために、この政策を堅持していく必要があります。

このように、台湾は中国から離れる政策を政府が音頭をとりつつ、民間企業が協力して行っています。日本も、この台湾の姿勢を見習うべきです。

今年11月24日、台湾では統一地方選挙(「九合一」)が行われます。投票まで100日を切ったとあって、メディアの報道も熱を帯びています。

ただその反面、気になるのが、肝心な台湾の有権者の政治への関心が一向に高まっていないことです。その理由は、有権者の“政治離れ”に歯止めがかからないからです。

中国との関係で政策が対立する台湾では、台湾独立の受け皿となる与党・民主進歩党(民進党)と大陸との統一を掲げる国民党という二大政党の対立の構造が定着しています。

互いに象徴するカラーを定め、民進党の緑に対して国民党が青。有権者の選択はずっと、緑か青かという単純なものでした。

民主進歩党(左)のシンボル・カラーは緑、国民党(右)のそれは青

しかし、ここにきて顕著になりつつあるのが緑にも青にも「ノー」という空気です。いわゆる「無色」勢力の伸長と呼ばれる傾向です。

いったいなぜこんなことになったのでしょうか。

日本では、台湾の選挙といえば、緑か青のどちらが勝ったかで、台湾の人々の対中国観をはかろうとするのですが、対外政策が選挙の中心に来るケースは極めて稀で、実際はそうではないことの方が多いです。

では、人々は何を気にしているのかといえば、当然のこと自分たちの生活の改善です。

その意味で蔡英文総統が誕生した当初には、民進党政権に大きな期待が寄せられました。

だが、結果的に民進党は人々の期待に応えられなかったといってもよいでしょう。

そうして、その理由は、蔡英文政権がマクロ政策を重視していないからです。積極的な金融緩和策、財政出動などで、台湾経済に協力にテコ入れするなどの政策は行わず、もっぱら「新南向政策」ばかりでは、国民の生活は改善されません。

ここは、金融政策で雇用を画期的に改善した日本の安倍政権を見習っていただきたいものです。

ただし、日本の安倍政権も、来年10月から消費税増税を実施する予定です。もし、これを実行してしまえば、せっかくの金融緩和策で改善された雇用等がまた後ずさりすることになります。

日本も台湾も、中国から離れる政策を実施つつ、国内経済を浮揚するという両方を実行しなければならないのです。両政府とも、どちらが欠けても、うまくはいかないでしょう。

日本は、国内経済が良くなりさえすれば日本企業もその対応に追われ、危険な中国ビジネスへの関心は薄れることでしょう。

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2018年11月11日日曜日

【熱戦と日本の針路】エスカレートする米中の軍事的緊張… 安倍政権は中国封じに「財政出動」を― 【私の論評】日本が増税等の緊縮で「ぶったるみドイツ」のようになれば米は日本にも制裁を課す(゚д゚)!



 ドナルド・トランプ米政権は、経済分野でチャイナ(中国)を締め上げているだけではない。軍事的にも、その影響力を封じ込めるために積極的に行動している。

 米海軍のイージス駆逐艦「ディケーター」が9月30日、南シナ海のスプラトリー(中国名・南沙)諸島周辺で「航行の自由作戦」を実行中、中国海軍の蘭州級駆逐艦が41メートルの距離まで異常接近する事件が発生した。米側の発表によると、警告にも関わらず、中国駆逐艦は攻撃的な動きを繰り返したという。

 米空軍は9月下旬、核兵器搭載可能なB52戦略爆撃機を南シナ海に派遣し、中国への圧力を強めた。ジェームズ・マティス米国防長官は、10月中旬に予定していた中国訪問を取りやめている。

 米海軍のイージス駆逐艦「カーティス・ウィルバー」と、イージス巡洋艦「アンティータム」は10月22日、台湾海峡を航行し、米国が台湾の独立を擁護する姿勢を明示した。米国防総省のロブ・マニング報道部長は「2隻の航行は、米国が掲げる『自由で開かれたインド太平洋』構想に基づく。今後も艦船や航空機の航行や飛行を続ける」と明言した。

 米国は8月9日、宇宙軍の創設を発表した。これはロシアではなく、中国の宇宙戦力拡張に対抗するためである。米国がロシアを警戒しながらも、敵対していないことは、米露両国が10月9日、合同で金星探査ロケットの打ち上げを2026年に計画していると発表したことでも分かる。

 トランプ氏が10月20日に発表した中距離核戦力(INF)全廃条約の破棄方針も、ターゲットは中国である。中国はINF条約に署名していないので、まったく制限を受けることなく中距離核ミサイルを拡充してきた。

 中国共産党は国内で、ウイグル人、チベット人への残酷な抑圧体制をますます強化している。在日ウイグル人のトゥール・ムハメット氏によれば、強制収容所に収監されているウイグル人は300万人を超えているという。在日チベット人学者のペマ・ギャルポ拓殖大学教授の推測では、過去10年間に、共産党政権に対して焼身抗議したチベット人の数は1000人を超えている。

 マイク・ペンス米副大統領による10月4日の演説は、こうした中国の人権抑圧体制との全面戦争を宣言したものだ。

 「米中熱戦」の最中に、日本企業が中国経済への協力を進めるのは、いかにも日本の国益に反した行為である。こうした人権抑圧体制に協力して、利益を上げること自体が非倫理的である。

 それを防ぐためにも、安倍晋三政権は消費増税を延期して、積極的な財政出動で国内市場の拡大を図るべきだ。そうすれば、日本企業が「一帯一路」などという、怪しげなビジネスに取り込まれなくても済む。

 国際通貨基金(IMF)は10月10日、日本政府の資産と債務はバランスがとれており、債務過剰ではないと発表した。今や自信をもって、安倍政権は財政出動を行うべきである。 =おわり

 ■藤井厳喜(ふじい・げんき) 国際政治学者。1952年、東京都生まれ。早大政経学部卒業後、米ハーバード大学大学院で政治学博士課程を修了。ハーバード大学国際問題研究所・日米関係プログラム研究員などを経て帰国。テレビやラジオなどで活躍する。著書に『国境ある経済の復活』(徳間書店)、『太平洋戦争の大嘘』(ダイレクト出版)など多数。

【私の論評】日本が増税等の緊縮で「ぶったるみドイツ」のようになれば米は日本にも制裁を課す(゚д゚)!

ブログ冒頭の記事にもあるように、日本は一帯一路に参加するべきではありません。それは今後の対米関係を考えれば当然そういうことになります。それ以外にも理由があります
それは、一帯一路の前途が暗く、失敗の可能性が高いことです。日本は中国の覇権主義的拡張政策から距離を取ったほうが良いです。その理由を以下に述べます
第1に、一帯一路に対し他の地域大国が必ずしも支持を表明していないことです。6月10日に中国の青島で開かれた上海協力機構(SCO)首脳会議で、習近平国家主席は加盟国のリーダーたちから支持表明を獲得して結束を演じようと腐心しました。ところがかねて反対姿勢を崩さなかったインドは支持を表明しませんでした。
ロシアはどうでしょうか。中国が外国元首に初めて与えた「友誼勲章」を胸にSCO会議を後にしたプーチン大統領。その翌日に開催したのが、ユーラシア経済同盟に加わる旧ソ連5カ国の代表による集団安全保障会議だったのが象徴的です。
同盟には旧ソ連圏の権益を守り、中国の進出を防ごうとの共通した狙いがあます。特にプーチンがロシアの裏庭と見なす中央アジアにおいて、一帯一路の伸長と各国への食い込みに神経をとがらせています。
時を同じくして、ロシアは中国のミネラルウオーター企業が極東の水がめ、バイカル湖から飲料水を採取するのを禁じる措置を取りました。ロシア人の流出が進むシベリアに大挙して進出してくる中国系企業は、環境を破壊するだけでなく政治的な脅威と化しつつもあります。
歴史的に中国は「シベリアから樺太までの広大な領土を帝政ロシアに奪われた」と思い込んできました。いつかは「失地回復」しようという野心にロシアは気付いています。
第2に、日本は東シナ海の自国領を守り、中東産石油の安定供給を確保するため、インドやアメリカ、オーストラリアなどを加えた「自由で開かれたインド太平洋戦略」を唱えています。日本が一帯一路に反対するインドと戦略的に組もうとしながら、裏では中国に笑顔を見せれば、国際社会から批判されることになるでしょう。そうした日本の無節操は、民主主義や人権尊重の思想を共有する国との関係を強化しようという、従来の「価値観外交」から逸脱することになります。
第3に、日本は自らの積極的な関与によって、一帯一路の不透明な部分を改善できる、と過信しているところがあります。中国は既に海でも陸でも、一帯一路に巻き込まれた小国を借金漬けにし、中国政府の呪縛から離脱できないようにしてきました。
港湾整備に巨額の融資が投入され、返済のめどが立たなくなったスリランカは仕方なく港湾権益を中国に99年間の契約で譲渡しました。ラオスやタジキスタン、モンゴルなど陸の沿線国も多額の借金を抱え、中国の息が掛かった商人が政治に介入し始めました。
パキスタンでは中国の支援によって、アラビア海と中国西部を陸路で結ぶグワダル港開発が進行。その結果、国際社会が進めるテロ封じ込めにまで支障を来しています。実際、パキスタンはイスラム原理主義勢力タリバンよりも、中国が「分離独立主義者」と敵視する亡命ウイグル人に対する弾圧を強めているほどです。

日本はこうした中国の反人道的行為に加担するのか、良識が問われています。日本は70年代から戦時賠償金の代わりに円借款を超低金利で提供し、中国の近代化に大きく貢献しました。だが日本がいくら真摯に過去の反省を示しても、中国政府が扇動する反日の炎は消えませんでした。機会さえあれば、「打倒小日本(ちんぴら日本をつぶせ)」という官製の反日ナショナリズムが再燃しました。

一帯一路に協力し、日本が供与したハイテク技術が中国軍の空母や武器と化すことになります。将来、日本の政治家や財界が後悔してももう間に合わないのです。

 次に、上の記事では、安倍政権は、日本企業が「一帯一路」などという、怪しげなビジネスに取り込まれないように財政出動をすべきとしていますが、それ以外にも理由はありませす。

それは、このブログにも過去に何度か経済してきたように、日本が「ぶったるみドイツ」のようにならないためにも、財政出動が必要です。

緊縮に緊縮を重ねてきたドイツがどのようになっているか、特の安全保障面でどのようにひどいことになったのかは、このブログでも掲載したことがあります。その記事のリンクを掲載します。


詳細は、この記事をご覧いただくものとして、ドイツの緊縮財政により安全保障に悪影響をおよぼしている状況を記載している部分を以下に引用します。
ドイツ空軍(ルフトヴァッフェ)の主力戦闘機「ユーロ・ファイター」のほぼ全機に“深刻な問題”が発生し、戦闘任務に投入できない事態となっています。現地メディアによれば全128機のうち戦闘行動が可能なのはわずか4機とも。原因は絶望的な予算不足にあり、独メルケル政権は防衛費の増額を約束したが、その有効性は疑問視されるばかりです。 
ドイツは“緊縮予算”を続けており、その煽りを受けてドイツの防衛費不足は切迫しています。空軍だけではなくドイツ陸軍においても244輌あるレオパルト2戦車のうち、戦闘行動可能なのは95輌などといった実態も報告されています。 
こうした状況に追い込まれた原因の一つとして、ドイツを含む欧州連合(EU)には、財政赤字が対GDP比で3%、債務残高が対GDPで60%を超えないこととする「マーストリヒト基準」があり、財政健全化を重視しすぎるとの声が経済専門家の間にはあります。
ドイツの主力戦車「レオパルド2」
昨年10月15日、ドイツ潜水艦U-35がノルウェー沖で潜航しようとしたところ、x字形の潜航舵が岩礁とぶつかり、損傷が甚大で単独帰港できなくなったのです。 
ドイツ国防軍広報官ヨハネス・ドゥムレセ大佐 Capt. Johannes Dumrese はドイツ国内誌でU-35事故で異例の結果が生まれたと語っています。
ドイツ海軍の通常動力型潜水艦212型。ドイツが設計 建造しドイツの優れた造艦技術と
最先端科学の集大成であり、世界で初めて燃料電池を採用したAIP搭載潜水艦である。
紙の上ではドイツ海軍に高性能大気非依存型推進式212A型潜水艦6隻が在籍し、各艦は二週間以上超静粛潜航を継続できることになっています。ところがドイツ海軍には、この事故で作戦投入可能な潜水艦が一隻もなくなってしまったというのです。 
Uボートの大量投入による潜水艦作戦を初めて実用化したのがドイツ海軍で、連合国を二回の大戦で苦しめました。今日のUボート部隊はバルト海の防衛任務が主で規模的にもに小さいです。 
212A型は水素燃料電池で二週間潜航でき、ディーゼル艦の数日間から飛躍的に伸びました。理論上はドイツ潜水艦はステルス短距離制海任務や情報収集に最適な装備で、コストは米原子力潜水艦の四分の一程度です。 
ただし、同型初号艦U-31は2014年から稼働不能のままで修理は2017年12月に完了予定ですかが再配備に公試数か月が必要だとされています。
ドイツ軍が、緊縮財政でこのような様になっているのです。日本の自衛隊はこれほど酷くはないですが、それにしても以前から緊縮で自衛隊員の工夫でなんとかしてきましたが、 来年10 月から緊縮財政の一手法でもある、消費税の10% への増税をしてしまえば、一時税収が増えたにしても、その後は再度デフレに舞い戻り、税収が大幅に減ることが十分予想されます。

ドイツの場合は、中国からは距離的になかり離れています。直接の脅威はロシアですが、そのロシアは現状ではGDPが韓国より若干少ない程度です。韓国のGDPは東京都と同程度です。ロシアというと大国扱いされることがありますが、それはソ連時代の核を継承しているのと、軍事技術が進んでいるからであり、実際には大国ではありません。また、人口も1億4千万人であり、日本より2千万多い程度です。

そのロシアは現状では、NATOと直接対峙する力はないです。だからドイツの軍事力が現状のように緊縮でとんでもないことになったにしても、EUはドイツ以外にも大国があるのでなんとかなります。

しかし、アジアにおける中国はロシアとは違います。中国の国民一人当たりのGDP は日米には及ばないですが、それにしても中国は人口が多く13 億人以上であり、国全体のGDPは世界第2位であり、やはり日本がしっかりと中国に対峙しないと、とんでもないことになります。

日本は、少なくとも日本の領土は日本が守る体制を整え、米国が中国と対峙しているときには、少なくとも米国を支援できる体制を整えなければなりません。

そのような時に、緊縮財政をして、安全保障にかける資金が逼迫すれば、日本も「ぶったるみドイツ」のような状況になりかねません。そうなれば、アジアの安全保障の状況はかなりかわり、中国にとって都合の良い状況になるのはいうまでもありません。

そんな状況をトランプ政権が許容するはずもありません。一帯一路が原因で、日本がこのような状況に陥れば、米国は日本に対しても制裁を課すことになるでしょう。

日中友好などに浮かれて、一帯一路に浮かれて、協力をした企業など、真っ先に米国の制裁対象となるでしょう。一対一路は儲けにならず、米国から制裁を受け、日本企業は半殺しの目にあうかもしれません。

また、消費税増税などの緊縮財政を実行して、それが故に安全保証が疎かになり結果として日本が「ぶったるみドイツ」のようになれば、これも制裁の対象になるでしょう。

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2018年10月20日土曜日

米、中距離核全廃条約から離脱へ=ロシア違反と批判、来週伝達―NYタイムズ―【私の論評】米の条約離脱は、ロシア牽制というより中国牽制の意味合いが強い(゚д゚)!

米、中距離核全廃条約から離脱へ=ロシア違反と批判、来週伝達―NYタイムズ

トランプ米大統領(写真左)とプーチン・ロシア大統領。米紙ニューヨーク・タイムズは
19日、トランプ米政権が冷戦時代に旧ソ連との間で結ばれた中距離核戦力(INF)
全廃条約から離脱する見通しだと報じた

 米紙ニューヨーク・タイムズは19日、トランプ米政権が冷戦時代に旧ソ連との間で結ばれた中距離核戦力(INF)全廃条約から離脱する見通しだと報じた。

 ボルトン大統領補佐官(国家安全保障担当)が来週、ロシアを訪問し、プーチン大統領に米国の方針を伝えるという。

 同紙によれば、トランプ大統領が近く、条約離脱を正式に決定する。同政権が主要な核軍縮条約から脱退するのは初めて。米国の条約離脱が、米ロ両国と中国を巻き込んだ新たな軍拡競争につながる恐れもある。

握手するゴルバチョフ・ソ連書記長(左)とレーガン大統領(右)(ともに当時)

 1987年にレーガン大統領とゴルバチョフ・ソ連書記長(ともに当時)の間で調印されたINF全廃条約は、米国と旧ソ連が保有する射程500~5500キロの地上発射型弾道・巡航ミサイルの全廃を定めた。ただ、米国は近年、ロシアが条約に違反して中距離核戦力の開発を進めていると批判してきた。 

【私の論評】米の条約離脱は、ロシア牽制というより中国牽制の意味合いが強い(゚д゚)!

米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(電子版、2017.11.16)は、米国防省が中距離核戦力(INF)全廃条約(以下、「INF条約」)で禁止されている中距離ミサイルの再開発を検討していると報じました。

冒頭の記事にもあるように、1987年に米ソ間で調印されたINF条約は、両国の中距離(射程500~5500キロ)地上発射型弾道ミサイルと巡航ミサイルの全廃を定めました。

しかし近年、ロシアが条約に違反して中距離核ミサイルの開発を進めているとの疑惑が深まる一方で、米国だけが条約を遵守しているのは不公平だとして米側の不満の声が高まっていました。

米当局者によると、米国は数週間前、ロシアが条約を順守しないようであれば、新たな中距離ミサイルの研究開発を進める意向をロシア側に伝えたといいます。

しかし、問題の所在は、米国とロシアの間にとどまりません。というのも、INF条約は米露(締結時はソ連)間の条約で、中国には適用されないからです。

その中国は、平成29年版「防衛白書」によると、「DF-4」、「DF-21」などの中距離核ミサイルを160基保有しています。

中国のDF-21

他方、米国は、地上発射型弾道・巡航ミサイルの全廃に加えて、バラク・オバマ大統領の「核のない世界」の方針を受け、INF条約の対象外である核搭載海上発射型巡航ミサイル「トマホーク」を2010年の「核態勢見直し(NPR)」で退役させました。

その結果、米国には海中発射型(TLAM-N)と空中発射型(AGM-86B)の巡航ミサイル「トマホーク」がかろうじて残っただけになりました。

そのため、アジア太平洋地域では中国の「アクセス(接近)阻止/エリア(領域)拒否(A2/AD)」戦略によって中距離核ミサイルの寡占状態が出来上がり、米国による同盟国・友好国に対する核の地域抑止(「核の傘」)に大きな綻びが生じているのではないかとの懸念が増大していました。

ロシアの戦略爆撃機T-160「ブラック・ジャック」

ロシアは、国際的地位の確保および米国との核戦力バランスの維持とともに、通常戦力の劣勢を補う意味でも核戦力を重視してきました。

戦略核戦力については、米国に匹敵する規模の大陸間弾道ミサイル(ICBM)、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)および長距離爆撃機(Tu-95「ベア」、Tu-160「ブラックジャック」)を保有し、核戦力部隊の即応態勢を維持しています。

問題の中距離核戦力については、米国とのINF条約に基づき1991年までに廃棄し、翌年に艦艇配備の戦術核も各艦隊から撤去して陸上に保管しましたが、その他の多岐にわたる核戦力を依然として保有しています。

こうしたなか、2014年7月、米国政府は、ロシアがINF条約に違反する地上発射型巡航ミサイル(GLCM)を保有していると結論づけました。

米政府当局者に「SSC-8」と呼ばれる同ミサイルは、2個大隊を保有し、ロシア南東部アストラハン州のカプスチン・ヤルなどに配備されていると指摘されていました。

この件について、米政府は、たびたびロシア政府に対し異議申立てを行ってきた。

しかし、ロシア政府が否定しているため、米国はその対抗措置として、新たな中距離ミサイルの研究開発を進める意向をロシア側に伝え、そのうえで、ロシアが条約を順守すれば、開発を断念すると伝達したのです。

中国H-6(Tu-16)爆撃機

一方、中国は、核戦力および弾道ミサイル戦力について、1950年代半ば頃から独自開発を続けており、抑止力の維持、通常戦力の補完そして国際社会における発言力の確保を企図しているものとみられている。

中国は、ICBM、SLBM、H-6(Tu-16)爆撃機のほか、INF条約に拘束されないため、中距離弾道ミサイル(IRBM / MRBM)を保有し、さらに大量の短距離弾道ミサイル(SRBM)といった各種類・各射程の弾道ミサイルを配備している。

わが国を含むアジア太平洋地域を射程に収める中距離弾道ミサイルについては、発射台つき車両(TEL)に搭載され移動して運用される固体燃料推進方式の「DF-21」や「DF-26」があり、これらのミサイルは、通常・核両方の弾頭を搭載することが可能です。

また、中国はDF-21を基にした命中精度の高い通常弾頭の弾道ミサイルを保有しており、空母などの洋上の艦艇を攻撃するための通常弾頭の対艦弾道ミサイル(ASBM)「DF-21D」を配備しています。

さらに、射程がグアムを収めるDF-26は、DF-21Dを基に開発された「第2世代ASBM」とされており、移動目標を攻撃することもできるとみられています。

これらの中距離弾道ミサイルは、中国周辺地域への他国の軍事力の接近・展開を阻止し、当該地域での軍事活動を拒否する「A2/AD」戦略を成り立たせるための重要な手段です。

米国のINF廃棄と相まって、アジア太平洋地域に中国の核ミサイルの寡占状態を作り上げることができるため、米国による同盟国・友好国に対する核の地域抑止(「核の傘」)に大きな綻びが生じているのではないかとの懸念が増大していました。

中国の中距離弾道ミサイルは日本を各地を狙っている
クリックすると拡大します

このように、中距離核ミサイル、すなわち戦域核ミサイルについては、米国と中国(および北朝鮮)との間に非対称状態を生じています。

米国の核による地域抑止の低下についての懸念は、第1列島線域内の同盟国・友好国のみならず、米国の要人の間でも公然と指摘されるようになっていました。

日本側の意向も、様々なチャネルを通じて米側に伝えられており、米国政府もINF条約の「くびき」について十分認識しているとみられました。

これまで、米国の核戦略は、主としてロシアを対象に策定されてきましたが、21世紀の世界における安全保障の最大の課題は中国であり、今後はロシアのみならず、中国を睨んだ核戦略および核戦力の強化に目を向けなければならないです。

米国政府がINF条約違反と結論づけたロシアによる中距離核ミサイルの開発ならびに中国による大量の中距離核ミサイル保有を考えれば、米国には、同条約の破棄あ踏み切り、懸念される地域核抑止の信憑性と信頼性を回復しようとするでしょぅ。



この際、同条約の無効化に伴い、米国は短距離・中距離核ミサイルの配備について、わが国を含む第1列島線域内の関係国(日本、韓国、台湾、ベトナム)に打診してくる可能性もあります。

打診とは、わが国を含む第1列島線域内の関係諸国に、核を配備すること等の打診ということです。日本としても、どのようにすればわが国の核抑止力を高めることができるか、その在り方について真剣に検討すべき段階に入っています。ただただ、核を忌避したとしても、中国の中距離核弾道弾がなくなることはありません。

日本では、北朝鮮の核ばかりが注目されて、なせが中国の核兵器についてはほとんど問題にもされず、報道もされませんが、現在でも中国の中距離弾道弾は日本の大都市全部に狙いをつけています。

以上のことを考慮すると、今回の米国による中距離核全廃条約から離脱は、対ロシアというよりは、対中国に重きをおいた措置であると考えられます。

いまのままの状況であれば、中国は対中国経済冷戦を挑む米国を牽制するため、日本をはじめとする第1列島線域内の国々に対して、核攻撃の構えをみせ、脅すということも考えられます。今回の措置ははそれを予め防止するという意味があるのです。

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2018年10月13日土曜日

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【田村秀男のお金は知っている】相次ぐ謎の要人拘束は習主席の悪あがき? 米との貿易戦争で窮地に追い込まれた中国

范氷氷(ファン・ビンビン) 写真はブログ管理人挿入 以下同じ

 中国では要人の行方不明、拘束、さらには引退劇が相次いでいる。謎だらけのようだが、拙論は米中貿易戦争で追い込まれた習近平政権の悪あがきだとみる。

 ここ数カ月間で行方をくらましていた多くの要人のうち、何人かの消息が最近判明した。注目度ナンバーワンが、人気女優の范氷氷(ファン・ビンビン)氏(37)で、今月3日、脱税などの罪を認め、追徴金など8億8300万元(約146億円)を支払うことで赦免された。

 中国のネット情報によれば、彼女は北京市内などに保有する約40軒の超豪華マンションを売却して支払いに充当する。「カネで刑務所行きを免れるとは許せない」との批判がネットで渦巻いている。

 中国政府は7日、国際刑事警察機構(ICPO、インターポール)の孟宏偉総裁の身柄を拘束していると発表した。中国の公安省(警察)次官でもある孟氏は、ICPO本部があるフランスのリヨンから中国に向けて9月25日に出発した後、行方不明となっていた(10月8日付の英BBCニュースから)。

孟宏偉氏

 フランス・リヨンに本部のあるICPOのトップを拘束するという異常ぶりに、世界があぜんとしているが、習政権にはそんな国際的反響などに構っていられない事情がある。

 孟氏は隠然とした影響力を持つ江沢民元党総書記・国家主席派に属するといわれる。習氏が追及する党長老たちの巨額資金の対外持ち出しに関与していると疑われたのだろう。

 9月10日頃には、ネット・ビジネスで大規模な流通革命を起こした中国を代表する民営企業、アリババ集団の馬雲(ジャック・マー)氏が来年9月に会長を退任するという衝撃的なニュースが世界を駆け巡った。巨万の富を築いた本人は後継者も指名し、あとは大学教授として後進の育成にあたると言い、もっともらしいが、真に受けてはいけない。馬氏もまた、巨額の金融資産を海外でも築き上げている。

Forbes氏の表紙を飾った馬雲氏
 
 女優の范氏の資産も中国国内の超豪華マンションだけというはずはない。海外に莫大(ばくだい)な資産を配置しているに違いない。

 范氏、馬氏に限らず、中国の大富豪、実力者たちがよく使う資産逃避ルートは必ずといってよいほど、香港経由である。香港こそはICPOによるマネーロンダリング(資金洗浄)の最大の監視ポイントである。孟氏がその職権を利用して、要人たちの資金逃れを手助けしていたと習政権が疑っているかもしれない。このシナリオからすれば、孟氏を拘束する目的はただ一つ、中国からの資金逃避ルートを暴き、遮断することだろう。

 習政権はトランプ米政権による貿易制裁を受け、苦境にさらされている。株価の急落に歯止めがかからないばかりではない。制裁関税に伴う輸出競争力減を補うために人民元安が不可避だが、資本逃避が加速する。それを止める最後の手段は何か。答えは上記の「事件」にあるはずだ。(産経新聞特別記者・田村秀男)

【私の論評】要人拘束でドルを吐き出させるも限界!金融戦争では中国に微塵も勝ち目なし(゚д゚)!

米中貿易戦争悪化に伴い人民元相場が急落しました。その原因はキャピタルフライトであると予想され、これに対応する形で中国当局は国有銀行に通貨防衛のための為替介入をさせました。

「貿易戦争悪化」→「中国の輸出の冷え込み」→「企業業績悪化」→「株価下落→海外投資家の離脱」→「人民元売りドル買い」という負の連鎖が起きているわけです。

また、これに連動する形での国内勢の動きもあるのでしょう。中国政府は2015年の中国株式バブル崩壊以降、外貨規制を強化し、国内からのドルの持ち出しを厳しく規制しました。

個人の両替規制を年間5万元(83万円程度)に制限し、破ったものに対して制裁を課すようにしました。企業に対しても、基本届け出制にして、500万ドル以上の取引に関しては、より厳しい審査を課すことにしました。

これにより、一旦は収まったかに見えた人民元に対する不安が、再び市場を襲っているのです。中国の対外債務は1兆7,106億ドル(2017年末)、それに対して外貨準備高が3兆1106億ドル(2018年5月末)。

外貨準備とは、自国通貨売りなどに備え、外貨が不足したときに使う保険のようなもので、これがなくなると、通貨危機が発生します。そのため、対外債務に合わせた額が必要とされます。中国の場合、表面的な数字だけを見れば、対外債務の2倍近い外貨準備があるので、全く問題がないように見えます。

ところが、実は中国の場合、外貨準備の質がわからず、実際に使える額が全く見えないのです。日本の場合、外貨準備のほぼすべてが米国債で構成され、保有者は政府と日銀であるため、全額を為替介入などに利用することができます。

それに対して、中国の場合、米国債は1,2兆ドル程度しかなく、国有銀行保有分が含まれています。基本的に、外貨準備というのは外貨をいくら持っているかであり、それが借金であろうとも外貨である限り、外貨準備にカウントされます。中国の場合は、国有銀行保有分の多くが海外からの借り入れが原資であると思われ、信用不安の際には一気に失われる可能性があります。

実は、下のグラフご覧いただくと、おわかりになるように、中国の外貨準備の減少は2017年初頭に底を打っています。しかし、外貨準備のトレンドは2014年後半以降は下向きであり、対外負債は増加し続けています。


対外負債は2017年9月時点で外貨準備高の1.6倍、そうして対外負債の一部が外貨準備高に流用されているのです。

つまり、中国という国は外部からの借金なしには(対外負債を増加させなければ)、習近平の目論見どおりに国を回すことができない状況になっていました。

ちなみに、中国の対外債務1兆7106億ドルの内、1兆ドル程度が短期の債務とされており、一気に返さなくてはいけなくなる可能性もあるのです。そして、中国の外貨準備の内、米国債は1兆2000億ドル程度(米国財務省)しかなく、ドルだけで見ればその差額は2000億ドル程度しかないのです。実際には他国資産をドルに換えることができるので、それ以上の規模になるのですが、その中身が全くわからないのです。

そして、最近の通貨防衛の介入も非常にイレギュラーな形で行われました。それは中央銀行ではなく、国有銀行がNDF市場(ドル建てデリバティブ)でドル先物を買い、ほぼ同額を現物市場に流す形で行われたのです。

これは中央銀行が自由に使える外貨準備を持っていないことの傍証であるといえます。そして、これを続ける限り、外貨準備が失われ続け、通貨危機のリスクは上がってゆくことになります。

為替介入でも、自国通貨売り外貨買いの介入(通貨安)であれば、自国通貨は自由に手に入るため、何の問題もないですが、通貨防衛のための介入は、他国の通貨を必要とするため限界があります。

人民元とドルの場合は、上の円を元とみたてて理解してください

さらに、為替介入で自国通貨高をするにしても、自国内で自国通貨を際限なしに多くすれば、インフレになるので、いつまでも続けることはできません。そのため、通貨戦争なる概念は本当は虚構です。いくら自国の通過防衛をしたとしても、それでハイパーインフレにでもなってしまえば、本末転倒です。

そして、中国がこの状況から抜け出すには、基礎的条件の改善(対米貿易の拡大など)や通貨スワップによる他国の通貨保証が必要になるわけですが、現在の米中の状況からすれば非常に厳しいです。

それ以外の方法としては、人民元を完全に自由化し、為替介入をせず、人民元を温存するという方法がありますが、この場合、人民元は暴落し、外貨建て債務を持つ企業などの破綻と輸入品の高騰によるインフレと国内の混乱が待っているでしょう。

しかし、国が破たんするよりはその方が痛みは少ないのでしょう。米中貿易戦争、次のステージは金融戦争であり、これは米国が圧倒的に有利な戦いです。

このような状況ですから、習近平としては現在国内にあるドルは一銭たりとも海外に逃避させたくはないですし、海外に逃避したドルも一銭でも自分たちの手元に呼び返したいのです。

だからこそ、ドルを海外に逃避させた人物やさせそうな人物はすぐにでも身柄を拘束して、ドルを吐き出させて自分たち中共のものにするという悪あがきにでた のです。今後も、要人の身柄拘束は続くでしょう。ただし、それにも限界はあります。

これが、基軸通貨国であれば、金がなくなれば、お金を刷り増せば良いだけの話ですが、中国は、米国のお金ドルを勝手に刷り増すことはできないです。為替介入や、一対一路などの海外でのプロジェクトを実行するためにはドルは必要不可欠です。

それに、国際的な元の信用は、中国が米国債権やドルそのものを大量に抱えていたから、創造されてきたのであって、ドルなし中国の人民元は、このままだと紙切れになるおそれもあります。

この状況では、中国がいくら頑張ったとしても、米国には金融戦争では勝つことはできないことは最初からわかりきっています。巷では貿易戦争で騒いでいますが、貿易戦争自体は米中にとって、あまり悪影響はなく、中国が米国に屈するにはいたらないでしょう。

ただし、金融戦争になれば話が違ってきます。ドルを自分で必要なだけ刷り増すことができるし米国は世界の金融を握っているといっても過言ではありません。米国のほうが圧倒的に有利です。中国は屈する以外に道はありません。

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2018年9月18日火曜日

米、2千億ドル対中制裁を24日発動 中国報復なら「2670億ドル追加」―【私の論評】中国が貿易戦争の終焉を望むなら、知的財産権を尊重し、米軍の北朝鮮武力攻撃を認めるしかない(゚д゚)!


トランプ大統領 写真はブログ管理人挿入 以下同じ

 トランプ米政権は17日、中国による知的財産権侵害を理由に、中国からの2千億ドル(約22兆円)相当の輸入品に追加関税を課す制裁措置の第3弾を24日に発動すると発表した。上乗せする税率は当初10%とし、来年から25%に引き上げる。米国は500億ドル相当の制裁を発動済みだが、制裁の対象規模を5倍に拡大し、中国経済への打撃を狙う。

 トランプ米大統領は声明を発表し、「中国指導部が迅速に不公正な貿易慣行を終わらせるよう求める」と述べた。中国が報復措置を採った場合、ただちに2670億ドル相当の中国製品への新たな制裁を検討するとしている。

 2千億ドル規模の制裁発動で、昨年の中国によるモノの対米輸出額(約5050億ドル)のほぼ半分が追加関税の対象となる。米中の貿易対立は一段と激化し、長期化する公算が高まった。


 米政府は関税の税率を、予定していた25%から当初10%に引き下げる。年末商戦を控えた米景気への影響を和らげることに加え、段階的に来年から25%に引き上げることで、中国に歩み寄りを迫る狙いがあるとみられる。米政権高官は17日、今月下旬に予定する米中協議を念頭に、「大統領が(協議を通じた)解決を望んでいることに変わりはない」と話した。

 一方、7月に公表した約6千品目の関税対象品リストの原案から、約300品目を削除する。腕時計型端末などの消費者向け電機製品や化学材料、ヘルメットなどが外された。原案の公表後、産業界から寄せられた約6千の意見を精査。消費者への影響を考慮し、一部品目を対象から除いた。

 トランプ政権は、米企業に対する技術移転の強要など、中国の不公正な貿易慣行を問題視。米通商法301条に基づき、8月まで2度にわたって計500億ドル相当に25%の関税を上乗せする制裁を発動した。

 発動済みの制裁措置は半導体などのハイテク製品が主な対象だった。今回の2千億ドル相当では、中国の主力輸出品である衣料品や家具などの消費財が多数含まれ、米中双方の経済への影響が懸念されている。

【私の論評】中国が貿易戦争の終焉を望むなら、知的財産権を尊重し、米軍の北朝鮮武力攻撃を認めるしかない(゚д゚)!

トランプ政権はようやく、本格的に習近平中国に鉄槌を下しましたた。中国はこれで、対米輸出の半分、対外貿易黒字全体の約三分の一を失うことになります。中国経済への打撃は甚大であり、中国の今後の政治動向・外交戦略、そして国際情勢に与える影響は計りきれないものになります。今日という日は、後に歴史家が現在史が大きく動いた日として記録に留めることでしょう。

2500億ドル分の中国製品に対する米国の制裁関税が数年間でも続けば、中国経済は、息切れし、国内で不安が拡大し権力闘争の激化することでしょう。そうして、一帯一路は完全終了し、世界の工場の中国から工場が世界の各地に移転しすることになるでしょう。「中国の夢」は破れて世界が変わることでしょう。

米国が日本時間の今朝、2000億ドルの中国製品に対する制裁関税の発動を表明したのに対し、先ほど新華社通信はやっと中国商務省報道官の談話を発表。「深い遺憾」を表明して対抗措置の実行も表明しましたが、措置の中身は言及せずに予定されている米中交渉の中止の発表もありません。完全に腰砕けの印象です。

米中貿易戦争に関して、2つの誤解を払拭しておきます。

まずは、自由貿易を重視する立場から、中国の悪辣なやり方はほとんど指摘せずに、米国が貿易赤字になりがちなことだけ指摘して、トランプは貿易赤字の意味がわかっていないと批判する論者もいます。

これは、中国の回し者か、あるいは無知な人かもしれません。対中貿易赤字大ということは、中国からの対米投資が大きいことを意味します。

対米投資を自由にやりながらアメリカの知的所有権を侵害しているというのがトランプ大統領の論法です。だから貿易赤字は単に話の枕に過ぎず、本質的なことでありません。

本来であれば、米国の貿易赤字の原因を語りつつも、その何倍も中国に悪辣なやり方を批判すべきです。

米国の対中国貿易赤字は年を追うごとに大きくなっている

さらに、貿易戦争で中国の影響は軽微という論者もいますが、現実はどうかといえば、たとえば車の消費は減っています。中国は輸入米車に対して報復関税をかけていますが、これくらいでは大した影響もないとみていたようです。

しかし、そうではなかったことが明らかになりました。9月18日、中国の全国乗用車市場情報連席会が、2018年8月の中国国内乗用車市場統計データを公開しました。

統計データによると、中国2018年8月の乗用車販売台数は、2017年同期と比較して7.4%減少し、173万4188台となりました。

一方2018年1月―8月の乗用車販売台数は、2017年同期比1.3%増の1427万4000台に達しています。

昨年は、米車の中国の売上は絶好調でした。中国が米車に関税を多くかけたくらいでは、中国も自動車を製造していますし、日本やドイツからの輸入もありますが、ほとんど影響がないようにも見えたのですが、現実には車の消費そのものが減少しています。

車でこの状況ですから、他のものでも思ったよりもはるかに大きな影響がでるものもでてくることが懸念されます。

米国の対中貿易戦争は北朝鮮問題ともかなり密接に絡んでいる

さて、話題は変わりますが、米国の対中国貿易戦争は、一見関係ないようにも見える北朝鮮問題ともかなり密接に絡んでいます。中国は北朝鮮問題でアメリカとの協力姿勢を示した一方、トランプ政権が考える北朝鮮への軍事攻撃にはあくまでも大反対です。

北朝鮮が米国の軍事攻撃によって滅ぼされ、そしてそれによって、中国が在韓米軍からの軍事的圧力に直接晒されることは、中国にとっての悪夢だからです。

さて、昨年3月米国のティラーソン国務長官(当時)と中国の王毅が会談しました。このとき中国の王毅外相がティラーソン米国務長官との会談では、「朝鮮半島は危険なレベルに達している」との認識を米国と共有しておきながらも、「平和的解決には外交的手段が必要」と強調して、武力行使にはあくまでも反対する立場を示していました。

しかし中国側のこの姿勢はトランプ政権を苛立たさせました。中国自身が決して、北朝鮮問題の根本的な解決を望んでいないからです。北朝鮮が常に「問題」となっているからこそ、アメリカは問題解決のためにいつも中国に頭を下げてくるのであり、問題が解決されてしまったら、中国のアメリカに対する優位はなくなってしまうからです。

つまり北朝鮮問題の根本的な解決を急ぐトランプ政権に対し、中国はあくまでもそれが「解決されない」方向へと持っていこうとするので、北朝鮮問題をめぐっての米中連携は最初から成り立たなかったのです。

トランプ政権は、とうとう中国を頼りにしての北朝鮮問題の解決は不可能であるどころか、中国こそが北朝鮮問題解決の邪魔であるとわかったようです。だからこそ、トランプ政権は、ティラーソン国防長官を解任して、矛先を北京へと向けているのです。

トランプ大統領が就任直後からしばらくは、公約通りに中国への対抗心を顕にしなかったのは、一重に北朝鮮問題があり、これを解決するには中国が大きな役割を果たしてくれるに違いないと判断していたからです。

中国が、米国の対中国貿易戦争の終焉を望むなら、知的財産権を尊重すだけではなく、米国の北朝鮮武力攻撃を認めるしかないわけです。

知的財産権を尊重するとは、言葉では簡単なことですが、かなり難しいことです。例えば中国がTPPに加入できる程度に、国の制度や慣習などをあらためる必要があり、そうなると、中国は民主化、経済と政治の分離、法治国家化という構造改革を実現しなければなりません。

それは実質的に中国の現体制を崩壊させることを意味します。本当は、そうしたほうが中国人民にとっては良いことなのですが、中共にはできないでしょう。

考えられるのは、小手先の構造改革でごまかすことでしょうが、そのようなことはすぐに露見します。

さらに、米国による北朝鮮の武力攻撃も認めなければなりません。これは、中共には全く無理なことです。

米国の対中国貿易戦争は、経済冷戦にまでエスカレートし、中国が経済的に弱体化し、北朝鮮などの周りの国々に影響力がほとんどなくなるまで継続されることになるでしょう。

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