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2024年4月25日木曜日

中国が優勢、南シナ海でのエネルギー争奪戦-米国には不愉快な実態―【私の論評】中国の南シナ海進出 - エネルギー・ドミナンス確立が狙い

中国が優勢、南シナ海でのエネルギー争奪戦-米国には不愉快な実態

まとめ
  • ベトナム、フィリピンは国内の天然資源開発を計画していたが、中国の南シナ海における一方的な領有権主張と強硬な行動により妨げられている。
  • 中国は法的根拠が不明確な「九段線」「十段線」に基づき、南シナ海のほぼ全域に対する領有権を主張し続けている。
  • その結果、ベトナム、フィリピンはエネルギーの輸入に頼らざるを得なくなり、フィリピンではエネルギー危機が深刻化している。
  • 中国船舶がフィリピン領海で放水砲を使うなど強硬な行為に出ており、米国を含む関係国との緊張が高まっている。
  • 米国はフィリピンを全面支持し、合同軍事演習の規模を拡大。中国との緊張緩和は見込めない状況が続いている。

 ベトナムとフィリピンは、それぞれ国内で発見された大規模な天然ガス田やガス・石油埋蔵地から、エネルギー確保を図る計画を立てていた。しかし、南シナ海における中国の一方的な領有権主張と強硬な行動によって、その計画が大きく妨げられている。

 中国は、法的根拠が不明確な「九段線」の地図に基づき、南シナ海のほぼ全域に対する領有権を主張してきた。2016年にはオランダの仲裁裁判所がこの主張を退けたが、習近平国家主席はその判断を無視し、さらに2023年には「十段線」と呼ばれる新たな領有範囲の地図を発表するなど、自国の主張を強めている。

 こうした中国の一方的な行動により、ベトナムのブルーホエール天然ガス田プロジェクトは遅れ、フィリピンでは独占権があるはずのリード堆周辺での資源開発もできずにいる。結果的に両国とも、液化天然ガス(LNG)など燃料の輸入に頼らざるを得なくなっている。

 特にフィリピンではエネルギー供給が危機的状況に陥りつつある。マランパヤガス田の枯渇が予測されており、先月には猛暑で複数の発電所が停止し、ルソン島で一時的な停電にも見舞われた。有力者は、マランパヤが止まれば経済は崩壊すると警告している。

 一方、中国の船舶はフィリピン領海内で相手船舶に放水砲を使うなど強硬な行為に出ており、緊張が高まっている。米国はフィリピンを全面的に支持する構えで、合同軍事演習の規模も年々大きくなっている。バイデン大統領は岸田首相、マルコス大統領と会談し、中国との緊張関係を論じ、相互防衛条約の発動に言及するなど、東南アジア諸国を支える姿勢を鮮明にした。

【私の論評】中国の南シナ海進出 - エネルギー・ドミナンス確立が狙い

まとめ
  • 中国は南シナ海に埋蔵される豊富なエネルギー資源を確保し、同地域でのエネルギー面での優位(ドミナンス)を獲得しようとしている。
  • そのため中国は「九段線」を根拠に、人工島建設や軍事拠点化、周辺国への妨害行為などで実効支配を強めてきた。
  • 中国が、南シナ海支配権の獲得でエネルギー資源の独占と供給ルート確保を狙っているのは明らかである。
  • 中国の南シナ海進出を事実上許した要因は、米国を始めとする関係国の当初の対応の遅れや連携不足にあった。
  • しかしバイデン政権も南シナ海問題への対応が不十分で、中国のエネルギー獲得・ドミナンス確立を容認する形となっている。今こそ、ホワイトハウスが、米国の力と決意を示す強力で断固たるリーダーシップを発揮すべき時なのだ。
中国の南シナ海における一方的な現状変更の試みには、同海域に存在すると見られる豊富なエネルギー資源を確保し、エネルギー面での優位を獲得しようという狙いがあると考えられます。南シナ海には石油・天然ガスが大規模に埋蔵されていると期待されており、中国のエネルギー安全保障上、極めて重要な戦略的価値を持っています。

そのため中国は、「九段線」に基づく広範な領有権主張を根拠に、この海域における実効支配を着実に強めてきました。環礁への人工島建設と軍事拠点化、周辺国の資源開発事業への妨害行為などを通じて、石油・ガス田開発における主導権を握ろうとしているのです。

中国共産党が主張してきた九段線

エネルギー資源の独占的な活用権を得られれば、アジア有数のエネルギー消費国である中国は、同地域におけるエネルギー面でのドミナンス(支配力)を手にすることができます。また、この地政学的要衝の支配権を獲得することで、中国はエネルギー供給ルートの安全も確保できます。

近年の中国の海洋進出は、資源・エネルギーの獲得はもちろん、それらを安全に運ぶ海上交通路の確保が大きな目的との指摘もあります。このように、南シナ海の実効支配を強化する中国の行動の背景には、同海域のエネルギー資源の確保とそれに基づくエネルギー面でのプレゼンス向上への強い意欲があると考えられます。

中国の南シナ海における一方的な現状変更を事実上許してしまった要因は複雑で、米国の対応だけでなく、関係国全体の対応にも問題があったと指摘されています。

確かに、オバマ政権時に南シナ海問題への対応が手遅れになったとの批判があります。しかし、その後のトランプ政権、バイデン政権と、米国は次第に強硬な姿勢を取るようになりました。合同軍事演習の規模拡大や、フリーダムオブナビゲーション(航行の自由)作戦の実施、マルコス政権への支持表明など、中国に対する牽制を強めています。


他方で、東南アジア諸国連合(ASEAN)が一致した対応を取れなかったことも大きな要因と言えます。ASEANには中国に配慮せざるを得ない国々があり、団結した姿勢が示せませんでした。また、関係国が早期からより強硬に対応すべきだったという意見もあります。

米国のみならず、ASEAN、そして関係国全体の当初の対応の遅れや、足並みの乱れが、現状を生み出した一因と考えられます。米国単独で状況を抑え込むのは難しく、関係国の連携強化が課題と言えるでしょう。

ただし、中国の南シナ海における一方的で過激な動きが過去数年間で一層目立つようになったことは確かです。そしてこの背景には、バイデン政権の対応の遅れや、強硬姿勢の不足があったことは否めません。

バイデン政権が国際社会で力強いリーダーシップを発揮できていないことは広く知れ渡っており、特に中国への対応は極めて不十分でした。南シナ海における中国の攻撃的な行動は、バイデン政権から発せられる弱々しく一貫性を欠いた外交方針の直接的な結果といえます。

バイデン大統領と民主党幹部は、矛盾した複雑な姿勢を示すことで、米国の脆弱なイメージを世界に植え付け、ライバル国や敵対国からの侵害を招いてしまいました。バイデン大統領は当初から、中国が世界の平和と米国の利益を脅かす存在であることを軽視し、中国に対して穏健な対応姿勢をとっていました。トランプ前政権が行ってきた中国への強硬姿勢は大きく後退させられました。
 

特に、バイデン政権は南シナ海に埋蔵される豊富なエネルギー資源をめぐる中国の実効支配強化に対し、何ら有効な対抗策を講じていません。この海域のエネルギー支配権の獲得が中国の最大の狙いであるにもかかわらず、バイデン政権はその重大性を軽視し続けています。中国のエネルギー・ドミナンス獲得を防ぐ具体的な取り組みが全くなされていないのが実情です。

バイデン政権が発足当初に中国共産党政権と示した協調路線は、お互いを理解し協力するという誤った前提に基づくものであり、結果的に習近平政権を追認し、強化することにつながりました。特に南シナ海問題については、バイデン政権は中国の違法な人工島建設や軍事拠点化に何ら反発の姿勢を示さず、米国の力を行使し同盟国を守る決然たる行動もありませんでした。

いまこそホワイトハウスが、エネルギー安全保障にも真剣に取り組み、中国共産党に立ち向かい、米国の力と決意を示す強力で断固たるリーダーシップを発揮すべき時なのです。

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2024年4月24日水曜日

井俣憲治町長によるハラスメント事案について―【私の論評】自治労の影響力低下と保守化の潮流:日本の政治に与える影響と自民党の凋落

井俣憲治町長によるハラスメント事案について

井俣憲治町長
  • 町長によるパワハラ・セクハラの被害を受けた、または目撃したとする町職員によるアンケート調査結果を重く受け止め、事案の全容解明のため、町および町長から独立した第三者委員会を設置し、調査を進める。
  • 10月下旬に職員がアンケートを実施し、11月中旬に結果を公表。町長は職員に説明し、記者会見を開いた。一部議員から不信任決議案が提出されたが否決された。
  • 12月に第三者委員会が発足し、翌4月に調査報告書が提出された。
  • 町議会では、ハラスメント事案検証特別委員会を設置し、町長への給与減額条例案が提出されたが否決された。

主な経緯として、アンケート実施、町長の説明と記者会見、不信任案の提出と否決、第三者委員会の設置と調査報告、議会での特別委員会設置と給与減額条例案の審議が行われた。第三者委員会の調査結果を受け、事案の全容解明と被害者保護に取り組む構えを示している。

調査報告書(PDFファイル:2.2MB)

この記事に関するお問い合わせ先

人事秘書課
電話番号:0561-56-0715
ファックス:0561-38-0001

この記事は、東郷町のサイトに掲載されたハラスメント事案に関する掲示を要約したものです。詳細をご覧になりたい方は、このサイトを御覧ください。

【私の論評】自治労の影響力低下と保守化の潮流:日本の政治に与える影響と自民党の凋落

まとめ
  • 東郷町長と長谷川岳議員のパワハラ問題は、社会の変化を象徴している。
  • 自治労の組織率が低下し、その影響力が減少している。
  • 過去の自治労の影響力の強さは、人事への介入、不適切な労働条件の護持、予算編成への介入、不正の隠蔽、左翼的政策の導入などの弊害を引き起こした。
  • 自治労の影響力低下は、保守的価値観の回帰を示唆している。
  • 自民党の低迷は、保守的な価値観の変化への適切な対応がなされていないことに起因している可能性がある。
長谷川岳氏

東郷町長、長谷川岳議員のパワハラが問題になっています。これらは、決して良いことではありませんし、これを支持するものではなく、改善改革すべきと思うのですが、別の側面からみると世の中が確実に変わってきていることを示しているのではないかと思います。

近年、自治体職員の組合である自治労の組織率が低下し、その影響力が相対的に弱まってきました。

過去の推移を見ると、自治労の組織率は1990年代後半には70%前後と非常に高い水準でしたが、その後徐々に低下してきています。

現在の自治労の組織率は60%前後と推定されます。労働組合全国平均組織率を大きく上回る水準ではあるものの、長期的に見ると確実に低下傾向にあるとみられます。

自治労は高い組織率と政治的影響力を背景に、地方自治体の政策形成にも大きな影響力を及ぼしてきたといえます。

かつては自治体の長やその幹部はその意向を無視できず、組合との協調路線を取る必要がありました。それは、国政に携わる国会議員もそのようなところがありました。そうして、その結果左翼リベラル的な政策が取り入れられることもありました。

しかし、今では組織率の低下を背景に、住民の意識の変化やマスコミによる監視の目が厳しくなり、そうした組合への遠慮は次第に薄れてきています。今回の東郷町長や長谷川岳議員のパワハラ問題が表面化したのは、まさにその現れだと言えます。

従来のように、自治労に絶大な力があれば、もし自治労と良好な関係を保っている自治体の長や、国会議員などのパワハラ的な言動は組合によって封じ込められていた可能性が高かったでしょう。その反対に自治労との関係が悪るければ、もっと以前にかなり厳しく糾弾されていたことでしょう。いずれにしても、ここまでこじれることはなかったと思われます。

悪い方向にでたとはいえ、長谷川岳氏や、井俣憲治町長などの行為や行動は、自治労など全く意に介していなかったようにみえます。

つまり、今回の一連の出来事は。自治体行政における旧来の力学から新しい力学への移行を、象徴的に示しているのだと考えられます。たまたま今回は、悪い面が際立ったといえると思います。

他の例でいうと、安芸高田市の石丸市長が市議から「恫喝」されたとSNSに投稿したことをめぐり一審で市側が敗訴した裁判の控訴審が始まったという事例もあります。安芸高田市は改めて訴えを退けるよう求めています。この背後に、自治労はどのように関与しているでしょうか。

自治労は、全国の自治体職員で構成される労働組合です。市長や市の立場と、組合員である職員の利益を代表する自治労の立場が対立することがあります。

具体的にこの事案では、以下のような自治労の関与が考えられます。
  • 市長を批判した市議が自治労の組合員である可能性があり、自治労が市議を支持している。
  • 自治労が市長の対応を問題視し、組合員に市長への批判を働きかけている。
  • 市側の主張を後押しするため、自治労が控訴審で補助参加している可能性。
しかし、自治労の具体的な関与の有無は分かりません。自治体と労働組合の対立は一般的にあり得るものの、この事案で自治労がどのような関与をしているのははっきりしていません。今後の審理で明らかになるかもしれません。自治労の力が小さくない自治体では、その影響力は無視できない面があります。

自治労が強大な影響力を持ち過ぎていた時代の具体的な弊害について、事例を挙げて説明します。

  • 人事への過度な介入 特定の人事異動や昇進に、組合が強く介入することがありました。組合員の利益を最優先するあまり、能力本位の人事が歪められる恐れがあったのです。例えば、不人気の職場への人事が組合の反対により難しくなったり、無能な組合員の昇進が強行されるケースもありました。
  • 労働条件の護持 組合は労働条件の過度な改善を求める一方、業務の効率化や生産性向上の要請には強く反発することがありました。東京都の夏季冷房問題がその一例です。組合は職員の 健康的配慮から冷房使用を全面的に要求し、省エネを後手に回しました。
  • 予算編成への過剰な介入 自治体の予算編成の際に、組合は職員の人件費増額を最優先事項とすることがよくありました。その結果、住民サービスや公共事業への予算配分が手薄になるケースも出てきました。
  • 不正の隠蔽 先にも述べましたが、職員の不正行為やパワハラなどが起きても、組合の圧力で事実が覆い隠されがちでした。組合は自らを守ることに終始し、適正な処分がなされない事例が多発したのです。
  • 左翼的政策の導入 たとえば自治基本条例は「自治体の憲法」とも言われ住民自治に基づく自治体運営の基本原則を定めた条例とされ、この条例は、各自治体ごとに異なる名称で制定されており、「まちづくり条例」、「まちづくり基本条例」、「行政基本条例」、「市民基本条例」などと呼ばれています。 「市民自治」や「市民参加」を大義名分として制定されていますが、その過程で過激派やカルト団体も「市民」として参加する可能性があります。これにより、過激派の影響力が強まり、健全な地方自治体運営に悪影響を及ぼす可能性があります。これはごく一例に過ぎません。
こうした具体例が示すように、旧来の自治労の力が強すぎると、能力主義が損なわれ、非効率の温存、住民サービスの軽視、不正の隠蔽、左翼的政策の導入など、極めて大きな弊害があったと言えます。

こうした弊害を是正するには、自治労の復活を図るのではなく、内外の第三者による常設の監視体制と、通報しやすい環境作り、加害者処罰と再発防止の法制化など、不祥事を未然に防ぐシステムの構築が何より重要だと考えられます。

自治労など旧来の労働組合の影響力低下は、世界的な傾向であり、これは保守的な価値観への回帰を意味している可能性が高いと考えられます。

先進国を中心に、組合運動の勢力が目減りしている実態があります。この流れは、従来の左翼的な運動勢力の衰退を象徴するものです。

そして同時に、この組合勢力の後退は、より保守的な考え方が社会に浸透しつつあることの表れとも捉えられ、保守的価値観の高まりと無縁ではないようです。

特に先進国では、このことは、移民の推進、ポリティカル・コレクトネス、キャンセルカルチャーなど左翼・リベラルの行き過ぎに反発し、社会の価値観が徐々に右肩上がりの保守化に向かっている可能性を示唆しているのではないでしょうか。

つまり、自治労などの影響力低下は、単なる組合運動の弱体化にとどまらず、リベラル・左翼的価値観からの後退、保守化の潮流という、より広範な価値観の変容を象徴する現象なのかもしれません。世界的な保守化傾向の一端を映し出しているとも言えるでしょう。

自民党の最近の低迷には、そうした世界的な保守化の潮流や価値観の変容を十分に認識できていない面がある可能性があります。
 

自民党は伝統的に保守的な価値観を体現する政党と見なされてきましたが、安倍政権の時は、例外中の例外であり、近年は必ずしも、そうした保守本流の位置を占めておらず、その実態は保守を内包しつつも、リベラル・左派政党といっても良い状態でした。

一方で、世界的な潮流として、リベラル的価値観からの後退、保守化への回帰が起きつつあることは確かです。

自民党は旧来の保守本流としてのアイデンティティを失いつつある一方、新たな保守化の波に乗り遅れているという、二重の問題に直面しているようです。

伝統的な支持層からは過去の延長線上にない、という批判を受け、一方で新たな保守的潮流への対応が遅れているため、両陣営から距離を置かれてしまっているようです。そうした状況が低迷に拍車をかけている可能性は高いと思われます。

自民党が支持率をあげたければ、両陣営との距離を近くするべきです。安倍元首相はそのような方向性を追求していたといえます。だからこそ、長期政権になり得たのです。

これは、今回の東京15区の補選でもうかがい知ることができると思います。飯山陽氏が当選するか善戦すれば、この潮流が高まっていることを示すことになると思います。



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2024年4月23日火曜日

「F-35戦闘機で核使用OKに」それが意味する重大な転換点 日本には“有益”といえる理由―【私の論評】日本の核抑止力強化と地域安全保障への貢献:F-35A戦闘機の核搭載がもたらす可能性

「F-35戦闘機で核使用OKに」それが意味する重大な転換点 日本には“有益”といえる理由

まとめ
  • 2024年3月、F-35AがNATOでB61-12戦術核運用が認証された
  • これでNATO加盟国がF-35AによるB61-12の核攻撃能力を獲得
  • B61-12は出力調整可能で精密誘導される使いやすい核兵器
  • 日本は非核三原則だが実質的にはアメリカの核の傘に守られている
  • 仮に核武装すれば自衛隊F-35AへのB61-12搭載が現実的選択肢となり、核抑止力になり得る
上昇するF-35A

 2024年3月、米国製ステルス戦闘機F-35Aが戦術核弾頭B61-12の運用が認証されたことが報じられた。これによりF-35AはNATO加盟国において、通常兵器と核兵器の両方を搭載できる「複合対応航空機(DCA)」としての役割を担うことになった。

 NATOでは、アメリカから核爆弾を借り受ける「ニュークリア・シェアリング」を行っており、F-35Aを保有または導入予定の米国、オランダ、イタリア、ベルギー、ドイツの各空軍がB61-12の運用能力を順次獲得することになる。従来の運用機種に加えてF-35Aが加わり、将来的にはF-15EとF-35Aの2機種でNATOの核抑止力を支えていく。

 B61-12は出力を0.3~50キロトンまで調整可能で、GPS誘導による精密な投下も可能なため、比較的使いやすい核兵器とされる。一方で広島・長崎の原爆並みの破壊力を持つ。

 日本は非核三原則を掲げつつ、実際にはアメリカの核の傘に守られている。仮に将来的に核武装を決断した場合、現実的な選択肢は「ニュークリア・シェアリング」を通じてB61-12を航空自衛隊のF-35Aに搭載することだろう。

 F-35Aは同盟国で共通の機体なので、自衛隊機をDCA化するのは比較的容易だ。したがって、自衛隊のF-35A増強は、核武装の意思はなくとも、潜在的な核攻撃能力の保持を対外的にアピールし、結果として核抑止力となり得る。

 この記事は、元記事の要約です。詳細は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】日本の核抑止力強化と地域安全保障への貢献:F-35A戦闘機の核搭載がもたらす可能性

まとめ
  • 米国製ステルス戦闘機F-35Aが核兵器B61-12の運用が認証され、核兵器を搭載・運用可能に。
  • これにより、日本の自衛隊F-35Aが通常兵器と核兵器の両方に対応可能な複合対応航空機となり、NATOや米国の核の傘の中核戦力となる可能性がある。
  • 日本は非核三原則を掲げているが、米国の同盟国として「核の傘」の下にあり、有事の際には米国の核兵器による抑止力を受けられる。
  • 日本が将来的に核武装を決断した場合、航空自衛隊のF-35AにB61-12を搭載することが現実的な選択肢となる。
  • 日本が核抑止力を保持することにより、インド太平洋地域の安全保障環境に新たな核の均衡が生まれ、地域の平和と安定に資する可能性がある。

B61-12戦術核爆弾

「米国製ステルス戦闘機F-35Aが戦術核弾頭B61-12の運用が認証された」ということは、簡単に言えば、F-35A戦闘機が核兵器B61-12を搭載して運用(投下)できるようになったということです。

上の記事の"DCA((Dual-Capable Aircraft)化"とは、従来の対地・対空攻撃能力に加えて、核兵器運用能力をF-35Aに持たせることを意味しています。これにより自衛隊のF-35Aが通常・核の"複合対応航空機"となるわけです。  NATOや米国にとって、F-35Aが核の傘の中核を担う戦力となり得ることを意味しています。


日本には過去には、核兵器を搭載して運用(投下)できる航空機は存在していませんでした。

日本は、唯一の戦争被爆国として「非核三原則」(核兵器の保有・製造・持ち込みを行わない)を掲げており、核兵器を搭載・運用できる航空機を保有することは非核三原則に反するためです。

ただし、本文中にも記載がありましたが、日本はアメリカの同盟国であり、実質的には米国の「核の傘」の下に入っています。そのため、有事の際には米国の核兵器による抑止力を受けられる立場にあります。

上の記事では、仮に日本が将来的に核武装を決断した場合、現実的な選択肢は航空自衛隊のF-35Aにアメリカ製の戦術核弾頭B61-12を搭載することだと指摘されています。

日本の航空自衛隊にはF-35Aが導入されています。具体的には、以下のように導入が進められています。

  • 2012年に42機の調達が決定
  • 2017年12月に最初の4機がアメリカから搬入
  • 2019年3月に三沢基地に初期運用能力を発令
  • 2023年3月時点で38機が既に配備済み
  • 2020年代後半までに最終的に147機を導入する予定

このように、航空自衛隊はすでにF-35Aの運用を開始しており、今後さらに導入を加速させる計画になっています。F-35Aは国産の次期主力戦闘機となることが期待されています。

2012年の時点で、日本政府がF-35Aを将来的にB61-12戦術核弾頭の運用が認証される航空機として認識していたとは考えにくいです。F-35計画は1990年代から開始された長期的な開発プロジェクトであり、当初からの目的は主に通常戦闘機としての運用でした。

核兵器運用能力は初期の要求事項にはなかったはずです。また、B61-12戦術核弾頭そのものも、2012年時点では開発中の段階でした。実際に運用が認証されたのは2024年となっています。

さらに、日本は非核三原則を掲げており、F-35Aを核兵器運用機として検討する必要性はそもそもありませんでした。上の記事の元記事本文中でも、F-35AがB61-12運用が認証されたことは「2024年3月」の出来事として報じられています。

したがって、2012年の時点で日本側がF-35Aの核兵器運用能力の付与を予見していたとは考えにくく、通常戦力の現代化が主な調達目的だったと推測されます。核運用能力は後付けで付与されたものと見られます。

日本は、期せずして核を搭載できる航空機を持つことになったのです。

これにより、日本の安全保障体制は飛躍的に強化され、インド太平洋地域における日本のプレゼンスが著しく高まることでしょう。核抑止力の保持により、日本は北朝鮮、中国、ロシアといった潜在的な敵対国家からの脅威に対して確実な抑止力を発揮できるようになります。これにより、日本は同盟国の米国に過度に依存することなく、独自の安全保障政策を推進する余地が生まれます。

インド太平洋地域

加えて、核シェアリングにより、日本が事実上の核保有国となれば、インド太平洋地域の安全保障環境に新たな核の均衡が生まれ、地政学的な緊張緩和につながる可能性があります。

日本が事実上の核保有国となり、地域の核バランス(核抑止力のバランス)が生まれた場合、他の国々のインセンティブ(動機づけ)が変わることになるからです。

具体的には、例えば中露北といった他の核保有国は、日本にも核抑止力があることを認識すれば、これらの国が無秩序に核兵器や通常兵器を増強しても、日本の核抑止力によってある程度抑えられてしまうため、そのようなコストのかかる軍拡競争を起こすインセンティブ(動機)が低下するということです。結果として、インド太平洋地域全体の平和と安定に資することでしょう。

一般的には、ある国が核兵器を保有すれば、他国も対抗して核兵器や通常兵器の増強に走り、地域の軍拡競争が過熱するものと考えられがちです。しかし実は、日本が核抑止力を備えることで、地域の核の均衡が生まれ、かえって各国の無秩序な軍拡を抑制するパラドクシカル(逆説的)な効果が期待できるのです。

なぜなら、核の均衡状態下では、いずれの国も他国の核による確実な報復能力を認識せざるを得ません。ですから、一方的な軍備増強による優位の追求は、かえって自国の安全を脅かしかねません。このジレンマは、各国に過剰な軍拡を自制させ、地域の軍縮と緊張緩和につながる可能性があるからです。

要するに、日本の核武装は地域の軍拡競争を 逆説的に抑制する効果があるということです。現状では、確かに日本は米国の核の傘の下にあり、均衡は保たれているようにもみえますが、現実に中露北が核を含む武力行使をして日本を攻撃した場合、米国が核による報復に踏みきるかどうかは定かではありません。

核シェアリングの議論を主張していた安倍元首相

しかし、日本が自国の意思でこれを実行できるようになれば、新たな核の均衡が生まれることになるのです。

もちろん、核不拡散体制への影響など懸念材料もないわけではありませんが、日本がこれまで掲げてきた平和主義的理念の下で核武装を厳格に管理すれば、同盟国を含む国際社会からの理解と支持が得られると考えられます。むしろ国内の反対勢力のほうがこれに対する大きなさまたげになることでしょう。

核搭載F-35Aの保有は、日本の新たな抑止力の獲得につながり、地域の安全保障と平和に貢献する大きな可能性を秘めています。

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2024年4月20日土曜日

「血を流す場合もある」国民に説得を 岸田首相「グローバル・パートナー」の責任 集団的自衛権のフルスペック行使、憲法改正が必要―【私の論評】憲法改正をすべき決断の時が迫ってきた!日本国民は覚悟をもってこれに臨め

八木秀次「突破する日本」

まとめ
  • 岸田首相は米国訪問後、日米関係を「かつてなく強固な信頼関係に基づくグローバル・パートナー」と位置づけ、安倍元首相の憲法改正の志を引き継ぐ決意を示した。
  • 「グローバル・パートナー」と称したからには、集団的自衛権の制約を外し、同盟国と連携して権威主義国家に立ち向かうため、憲法改正が求められる。
  • 安倍元首相は「血の同盟」と表現し、日米同盟の本質は互いに血を流す覚悟が求められると説明していた。
  • 岸田政権は安倍政権の遺産を継承し、安全保障政策を推進してきた。「グローバル・パートナー」発言はその延長線上にある。
  • しかし、「グローバル・パートナー」として日本に犠牲や負担が求められる可能性があり、政府は国民にその覚悟を真剣に訴える必要がある。
 岸田首相は米国訪問後、日米関係を「かつてなく強固な信頼関係に基づくグローバル・パートナー」と位置づけ、安倍元首相の憲法改正の志を引き継ぐ決意を示した。

 「グローバル・パートナー」と称したからには、集団的自衛権の制約を外し、同盟国と連携して権威主義国家に立ち向かうため、憲法改正が求められる。

 安倍元首相は「血の同盟」と表現し、日米同盟の本質は互いに血を流す覚悟が求められると説明していた。

中国を訪問した安倍首相

 岸田政権は安倍政権の遺産を継承し、安全保障政策を推進してきた。「グローバル・パートナー」発言はその延長線上にある。

 しかし、「グローバル・パートナー」として日本に犠牲や負担が求められる可能性があり、政府は国民にその覚悟を真剣に訴える必要がある。

 岸田首相は米国訪問から帰国後、国会で米国とのグローバル・パートナーシップを強調した。これは安倍元首相が目指した「血の同盟」、つまり米国と共に自由や民主主義、法の支配を守るために必要ならば犠牲をいとわない決意を示したものと解釈された。

 「グローバル・パートナー」と位置づけた以上、日本には集団的自衛権の行使制限を外し、同盟国・同志国と連携して中国・ロシア・北朝鮮などの権威主義国家に対処できるようにすることが求められる。そのためには、憲法改正を含む国内法整備が不可欠となる。

 安倍元首相は過去に「血の同盟」という言葉で、日米同盟の本質を説明していた。米国が攻撃を受ければ米兵が血を流すが、当時の憲法解釈下では自衛隊はそうできず、完全なパートナーと言えないと指摘した。その後、安倍政権で集団的自衛権の行使が一部可能となり、現在では米軍が攻撃された場合、自衛隊員も戦闘に加わり血を流す可能性がある。

 岸田政権は安倍政権の遺産を継承し、国家安全保障戦略の改定、防衛費増額、反撃能力保有など安全保障政策を推進してきた。「グローバル・パートナー」発言はその延長線上にある。日本の抑止力を高め、国際的地位を格段に上げたと評価できる。

 しかし同時に、「グローバル・パートナー」としての日本には、場合によっては自衛隊員や国民に犠牲や負担が強いられる可能性もある。自由社会を守る役割の増大に伴い、そうした覚悟を政府から国民に真剣に訴える必要がある。権威主義国家の脅威に対し、日本は相応の役割を果たさなければならない。

これは、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。
 
【私の論評】憲法改正をすべき決断の時が迫ってきた!日本国民は覚悟をもってこれに臨め

まとめ
  • 岸田首相の「グローバル・パートナー」発言には、日米間の軍事、価値観、地政学、経済など多面的な協力関係が含意されている。
  • 軍事面では日米同盟の強化が期待されるが、安倍元首相の「血の同盟」発言のように、現行憲法下では対等とは言えない。
  • バイデン政権は自由・民主主義の価値観を共有する日本を重要パートナーと位置付け、中国の対抗上、日本の地政学的役割を期待している。
  • 経済面でも、重要技術分野などで日米協力が経済安全保障の観点から求められている。
  • こうした協力関係を実現するには、日本の憲法改正が不可欠であり、トランプ前大統領がこれを支持する可能性もあるが、結局のところは民意であり、政府も国民にも決断の時が迫っている。

米国にとって、岸田首相が米連邦議会の演説で「グローバル・パートナー」と呼んだ日米関係には、軍事、価値観、地政学、経済など、多面的な側面が含まれていると考えるでしょう。

軍事面では、安倍元首相が「血の同盟」と表現したように、同盟国同士として緊密に連携することが期待するでしょう。ただし安倍氏の発言は、当時の日本の憲法解釈では米国と同等の関係とはいえないと批判的に指摘したものです。それでも、岸田首相の「グローバル・パートナー」発言は、日米同盟の軍事的協力関係を再確認したと受け止められたでしょう。

また、バイデン政権は「民主主義対権威主義」の構図を重視しており、自由・民主主義の価値観を共有する日本を重要なパートナーと位置づけています。「グローバル・パートナー」という表現には、こうした価値観の共有関係が込められているとみられます。

さらに、中国の台頭に対抗するため、日米はインド太平洋地域におけるルール作りなどで協力する地政学的な戦略的パートナーとしての機能が期待されています。アジア重視を掲げるバイデン政権にとって、日本はこの地域での軸足となる存在です。

加えて経済面でも、日米は貿易、投資、金融をはじめ幅広い分野で協力関係にあります。特に重要技術分野での連携が経済安全保障の観点から求められており、「グローバル・パートナー」にはそうした経済面での協力も含意されていると考えらます。

このように「グローバル・パートナー」という言葉には、多岐にわたる分野での緊密な協力関係が内包されています。米国は日本が同盟国であり、価値観を共有するパートナーであり、地政学的・経済的に重要な役割を果たすことを期待しているといえます。

これらを実現するためには、特に日本が米国との地政学的パートナーであるためには、日本国憲法の改正が必須です。

米国の保守派からみても、日米関係が最も重要であることは明らかです。米保守派は、第二次世界大戦後、左派勢力によって押しつけられた日本国憲法の平和主義的性質が、日本が世界舞台で対等なパートナーとなる能力を妨げてきたとみているでしょう。

日本は自国の憲法をよく見直し、より積極的で貢献的な同盟国となるために必要な改正を行う時期が来ていると認識しているでしょう。

自民党の麻生副総裁は、来週、アメリカを訪問する方向で調整しています。関係者によりますと、トランプ前大統領との面会を模索しているということで、秋に大統領選挙を控える中、幅広く人脈を構築するねらいがあるものと見られます。

自民党麻生副総裁

これが実現したとして、麻生・トランプ会談では、当然日米の「グローバルパートナー」としての関係を強めることも話題になると考えられると思います。

米国の保守派は、トランプ氏は、日本の憲法改正を支持すると思います。それが、日本の憲法改正を支持する可能性もあると考えているでしょう。

日本の左派は、他の西側諸国の左派と同様に、現状維持を好む傾向があり、特に軍事面での新たな動きに対しては警戒感を持つ傾向があり、進化する安全保障上の課題を認識することに消極的であることが多いです。 彼らは、自国を守り、地域の安定に貢献できる強い日本が日本国民の最大の利益であることを理解していません。 

しかし、トランプ大統領の潜在的な支持と適切なメッセージがあれば、麻生副大統領と自民党は日本国民に説得力のある主張をすることができるかもしれません。 強固な日米同盟の重要性を強調し、民主主義と自由という共通の価値観を強調し、安全で繁栄したインド太平洋地域のビジョンを提示すれば、憲法改正を支持する世論を揺るがす可能性があります。 

私は麻生副大統領とトランプ大統領の会談は確かに日本の憲法改正への足掛かりとなる可能性があると思います。 トランプ大統領の支持と正しい戦略的アプローチがあれば、自民党は日本国民に説得力のある主張をし、反対を克服し、日本を世界でより自信を持って積極的な役割を果たす方向に導くことができるかもしれません。

2021年の憲法改正毎日新聞世論調査では「賛成」48%、「反対」31%です。 憲法改正は全く不可能という状況ではないと考えられます。現在では、「賛成」の比率がもっと高くなっているかもしれません。

もし、そうであり、さらにトランプ氏が大統領に返り咲き、日本の憲法を改正を支持する旨をはっきりさせれば、憲法改正の後押しになるのは間違い有りません。

トランプ氏

ただ、現状では岸田政権の支持率が低く、仮に岸田政権が崩壊して総理大臣が変わったにしても、自民党政権が続く可能性が高いですが、ポスト岸田は、岸田氏と同等か、それ以上のリベラル派である可能性が高いです。そうなると、憲法改正は遠のく可能性があります。

これを防ぐためにも、日本でも与野党に限らず、保守派の台頭が望まれるところです。ただ、最終的には国民の民意が憲法改正の実現を左右する最大の要因になると考えられます。

憲法は国民主権の理念に基づく最高規範であり、改正には国民投票による過半数の賛成が必要不可欠です。保守派の台頭や政権与党、米国政府の後押しは一定の影響力を持ちますが、それだけでは改正を実現するには不十分です。

中国、ロシア、北朝鮮など、日本を取り巻く安全保障環境は厳しさを増しており、それに伴い日本の防衛力強化の必要性が高まっています。現行憲法の縛りのため、自衛隊の活動には一定の制約があることも事実です。

そうした中で、憲法改正に向けた動きが過度に遅れれば、日本の安全が脅かされかねません。時間をかけすぎて機を逸してしまっては本末転倒です。国民的議論を尽くしつつも、スピード感を持って対応すべきです。

仮に結局国民議論が十分に尽くされず、国内が分断したとしても、他国に占領されたり、そこまでいかなくても、他国に蹂躙されるよりはましです。憲法改正によって国民が、分断しても、その後議論を尽くすことはできます。しかし、日本が独立を失ったり、他国に蹂躙されて、従属するようになれば、それはできません。

政府も、国民も、場合によっては自衛隊員や国民に犠牲や負担が強いられるかもしれないことを覚悟したうえで、憲法改正をすべき決断の時が迫ってきたといえます。

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2024年4月17日水曜日

日銀の「円高症候群」過度に恐れる米国の顔色 アベノミクス切り捨て財務省と協調、利上げと負担増が日本を壊す―【私の論評】現時点の円高誘導は、円高シンドロームの再燃、日本経済への破滅的な悪影響もたらす

ニュース裏表

まとめ
  • 「円高シンドローム」とは、長期にわたる過剰な円高ドル安状況を指す言葉である。
  • その発端は1985年のプラザ合意で、米国レーガン政権が日本などに対してドル安誘導を強要したこと。
  • しかし、経済学的には貿易赤字と為替レートは無関係であり、プラザ合意は誤りだった。
  • にもかかわらず、その後も政治的圧力により円高が続き、日本の政策当局(日銀と財務省)も対米従属を優先して円高を誘導した。
  • その結果、バブル崩壊やデフレ長期化など、日本経済に深刻な影響が生じた。現在も財務省と日銀は円安抑制に動いているが、国内景気への悪影響が懸念される。 

ブラザ合意後円高水準が続いている

 「円高シンドローム」とは、長期にわたって円が過剰な高水準で推移し続けた経済状況を指す用語だ。その発端は1985年のプラザ合意にありました。当時の米国レーガン政権は、累積する貿易赤字を解消するため、日本など諸国に対してドル安誘導の協調介入を政治的に強要したのだ。

 しかし、経済学的に見れば貿易赤字と為替レートは無関係であり、プラザ合意は誤った政策判断に基づくものでした。それにもかかわらず、その後も共和党、民主党を通じて、政治的な圧力により円高が続きました。

 日本の政策当局、すなわち日銀と財務省も、国内経済よりも対米従属を優先し、為替介入や金融緩和により円高を誘導し続けた。その結果、バブル経済の発生と崩壊、長期デフレ不況といった深刻な経済的影響を招くこととなった。

 現在、植田日銀体制では再び円安抑制に動き出しており、金融引き締めを通じた円安防止策をとりつつある。しかしこれは国内景気を冷やしかねず、また物価高対策にも影響を及ぼすおそれがある。

 政策当局には、国内経済の実情を冷静に見極め、適切な通貨・金融政策を採用することが求められている。「円高シンドローム」の反省に立ち、健全な経済成長を実現するための施策が重要となっているのである。

 この記事は、元記事の要約です。詳細は、元記事をご覧ください。

【私の論評】現時点の円高誘導は、円高シンドロームの再燃、日本経済への破滅的な悪影響もたらす

まとめ
  • 貿易赤字や黒字は国内需給の均衡状態を反映しているが、為替レートは資金の国際移動で決まるため、両者は基本的に独立している。
  • プラザ合意のような為替レート操作は、本来の経済原理に反するものであり、マッキノン教授らも強く批判している。
  • 1980年代以降の日本の円高傾向は「円高シンドローム」と呼ばれ、日本政府の対応の失敗により長期的な経済歪みを招いた。
  • しかし、安倍政権下の金融緩和政策により、円高が是正されデフレからの脱却が進んだ。
  • 現在では各国政府も日本の政策姿勢を理解しており、強い批判は見られなくなっている。日本は、金融緩和を継続し、国内産業を支援し、消費税減税などをするのが正しい政策てあって、円高誘導は間違いである。
経済学の標準的な理論によれば、国際収支の赤字や黒字は、総需要と総供給の均衡状態を反映しているものです。つまり、自国の国内需要が自国の供給能力を上回れば貿易赤字となり、逆に国内需要が供給を下回れば貿易黒字となります。

一方、為替レートは、国際的な資金の移動によって決まります。資金が流入すれば自国通貨高となり、流出すれば自国通貨安となります。

つまり、貿易赤字というマクロ的な現象と、為替レートというマクロ的な現象は、基本的に独立して決まるものなのです。

例えば、日本の貿易収支の赤字は、日本国内の需給バランスの状況を反映したものですが、一方で円高ドル安は、日米間の資本移動や投資家心理などによって決まっているのです。

よって、政策当局が為替レートを操作することで、容易に貿易収支を改善できるというのは、経済学的に正しくありません。プラザ合意のような為替介入は、本来の経済原理に反するものだったと言えるのです。

上の記事にでてくる「円高シンドローム」という言葉は現在スタンフォード大の名誉教授である、ロナルド・マッキノン氏が最初につかいはじめました。

マッキャノン氏の著書


マッキノン氏は、1980年代半ばからの長期にわたる円高ドル安を「円高シンドローム」と呼称し、その弊害を指摘しています。その中心的な論点は以下の通りです。

マッキノン氏は、プラザ合意以降の急激な円高は、本来の経済調整メカニズムを歪めてしまったと分析しています。通常、貿易収支の赤字国の通貨は自然と下落していくはずですが、日本政府による為替介入で円高が促進されたことで、この健全な調整プロセスが阻害されたのです。

その結果、日本の輸出企業の収益が圧迫され、国際競争力が低下しました。しかし、日本政府は、この円高に対して適切に対応しませんでした。むしろ、財政支出の削減や金融引き締めなどの失敗した政策対応をとったため、かえって財政赤字の増大や超円高、デフレなどの経済的歪みを生み出してしまったと指摘しています。 

つまり、マッキノン氏は、為替レートの人為的な操作が、本来の市場メカニズムを損なっただけでなく、日本政府の政策的な失敗も重なり、長期的な経済の歪みを招いたと警鐘を鳴らしているのです。

この分析は、クルーグマンやスティグリッツ、バーナンキなどのノーベル経済学賞受賞者の見解とも共通するところがあります。彼らも、為替レート操作による経済歪曲の危険性を指摘しており、マッキノン氏の指摘は、そうした国際的な経済学者の問題意識と軌を一にしていると言えるでしょう。

2012年に安倍晋三氏が首相に就任すると、いわゆる「アベノミクス」と呼ばれる経済政策が導入されました。その中核となったのが、日銀による大胆な金融緩和策でした。

この金融緩和政策によって、長年続いた円高傾向が是正され、円安基調に転じていきました。これにより、日本の輸出企業の収益改善や国際競争力の回復が見られるようになったのです。

つまり、安倍政権の登場と、その下で実施された金融緩和政策は、まさに「円高シンドローム」からの脱却につながったと言えるのです。マッキノン氏らが懸念していた経済の歪みは、徐々に解消されつつあったと考えられます。



特に、この頃から実施された金融緩和政策に関しては、他国から批判されていません。米国政府は当初、日本の金融緩和策に対して批判的な姿勢を示していたものの、近年ではデフレ脱却と経済成長を重視する日本の政策姿勢を理解する傾向にあるようです。

一方、中国も円安傾向に対する警戒感は示していたものの、自国の通貨政策を展開していることから、日本の政策に大きな異議を唱えるには至っていません。韓国も、日本の金融緩和による円安が輸出企業に影響すると懸念していたようですが、自国の通貨政策を通じて輸出競争力を高めてきた経緯があり、強硬な批判は行っていないのが現状のようです。

つまり、当初は各国が日本の金融緩和策に対して警戒感を示していたものの、最近では日本の政策姿勢を理解する傾向にあり、大規模な批判は見られなくなってきているということができます。プラザ合意の際のような強い政治的圧力は、現時点では生じていないようですし、これからも生じる可能性は低いです。

それに独立国家であれば自国内の経済のために、独自の金融政策を実施するのは当然の権利であり、これに反対するような国にはその誤りを指摘しつつ、独自の金融政策を実行するのが本来のありかたです。

さらに、プラザ合意なる誤った政策が実施される背景ともなった幼稚な「通貨戦争」のような概念も廃するべきです。ある国が、輸出を有利にするために金融緩和策をいつまでも継続しているとどうなるでしょうか。いずれかなりのインフレに見舞われて、緩和政策を続けられなくなります。そうして、いずれ引き締めに転じることになります。「通貨戦争」は空想の産物に過ぎません。

通貨戦争 AI生成画像

日本が金融緩和政策を実施しているのは、あくまで国内事情のためであり、需給ギャップがマイナスである日本では、未だ緩和策を継続する必要があります。しかし輸出入を行っているために、国内では海外からの影響も受けます。それに対する調整をする必要があります。

その調整策は、円安で有利になる輸出企業(大企業が多い)の法人税収入は増えるので、それを活用するなどして、輸出産業以外の産業(国内向け、輸入産業、中小企業が多い)支援をし、減税などで消費者を支援する政策などが、正しい政策であって、円高誘導などとんでもあません。

現時点での円高誘導は「円高シンドローム」の再来であり、日本経済に大きな悪影響を及ぼすことになります。

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2024年4月16日火曜日

発展途上国は気候変動対応で債務不履行の恐れ=米大学報告―【私の論評】中国の「一帯一路」政策と同様に、先進国の途上国に対する気象変動対策支援も馬鹿げている

 発展途上国は気候変動対応で債務不履行の恐れ=米大学報告

まとめ

  • 発展途上国の対外債務返済額が過去最大の4000億ドル(約54兆円)に達する見通し
  • 約50カ国が気候変動対策費用のため、今後5年以内に債務不履行に陥る恐れ
  • 47カ国がパリ協定目標のための資金調達で、債務返済不能に陥る可能性
  • 19カ国も資金不足で目標達成困難になる見込み
  • 専門家は発展途上国の債務問題を深刻に懸念

グローバル・サウス AI生成画

 ボストン大学グローバル開発政策センターなどが公表した報告書によると、発展途上国の今
年の対外債務返済額が過去最大のボストン大学グローバル開発政策センターなどが公表した報告書によると、発展途上国の今年の対外債務返済額が過去最大の4000億ドル(54兆円)に達すると予想されている。

 さらに、約50カ国は気候変動対応や持続可能な開発に必要な資金を投じるために、今後5年以内に債務不履行(デフォルト)に陥る恐れがあるという。47カ国はパリ協定の2030年目標達成に必要な資金を拠出すると、対外債務が返済不能の状態に陥ると指摘されている。

 また19カ国は返済不能には至らないものの、資金不足で目標達成できなくなる可能性がある。

 ボストン大学の専門家は、発展途上国の債務負担が非常に重く、必要な資金調達をすれば債務不履行に向かうと危惧している。

この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧ください。

【私の論評】中国の「一帯一路」政策と同様に、先進国の途上国に対する気象変動対策支援も馬鹿げている

まとめ
  • 地政学的リスクや、発展途上の事情から、パリ協定の2030年目標は非現実的
  • 西側諸国は地政学的リスクなどを回避するため、エネルギー安全保障を優先べき
  • 発展途上国は、気候変動対策投資困難であり、やはりエネルギー安全保障を優先すべき
  • 先進国による気象変動対策面での途上国への支援は、デフォルトリスクをはらんでいる。エネルギー安全保障面の支援を強化すべき
  • 西側諸国の課題としてエネルギー安全保障確保が喫緊、そうでなければ中露に敗北するリスクがある

パリ協定は2015年に採択


パリ協定は2015年に採択された国際的な気候変動対策の枠組みで、世界各国が自主的に設定した削減目標(NDC)に基づいて温室効果ガス削減に取り組むことを定めています。しかし、近年の情勢変化により、この協定への完全な準拠が困難になってきています。

その主な理由は以下の通りです。
  1. 2030年までの大幅な排出量削減目標設定 日本を含む多くの国が2030年までにCO2排出量を大幅に削減する非現実的な目標を掲げています。しかし、再生可能エネルギーの急速な導入には技術的・経済的課題が多く、短期的には化石燃料への依存を維持せざるを得ない状況です。急激な化石燃料削減は、エネルギー供給の不安定化を招くリスクが高いのが現状です。
  2. 地政学リスクの高まり ロシアのウクライナ侵攻などを受け、地政学リスクが高まっています。化石燃料の安定調達が喫緊の課題となっており、その制限はエネルギー供給の不安定化を招く可能性があります。
  3. 発展途上国の経済発展優先 一方で、発展途上国は経済発展を最優先しており、長期的な環境対策よりも短期的なエネルギー供給の安定性確保を重視する傾向にあります。
このように、エネルギー供給の安定性確保が喫緊の課題となっている中で、パリ協定の目標達成は現実的ではなくなってきています。そのため、協定からの離脱や、その枠組みからの一定の逸脱が正当化される可能性が高まっているのが現状です。具体的には以下のような動きがあります。

例えば、米国ではトランプ政権時代に協定からの離脱が宣言され、その後のバイデン政権でも化石燃料の活用を続ける姿勢が維持されています。EUでも、ロシアからのガス供給削減を受け、2030年排出削減目標の引き上げに慎重な国が見られるなど、柔軟な対応を模索しています。


一方、中国やインド、ブラジルといった発展途上国も、経済成長を最優先し、パリ協定目標の緩和を訴えています。こうした国々にとって、エネルギー確保と経済発展が喫緊の課題であり、長期的な環境対策よりもそちらが重視されています。

日本においても、2030年のCO2削減目標の見直しや、原子力発電の再稼働、水素・アンモニア発電の導入拡大など、現実的なエネルギー政策への転換が検討されつつあります。さらに、将来に向けて、小型原子炉、核融合炉の開発がすすめられています。

このように、主要各国がパリ協定の枠組みから一定の距離を置き、エネルギー安全保障の確保に軸足を移しつつある状況が見受けられます。政治・経済的な現実を反映した現実的な対応への移行が進んでいると言えるでしょう。

発展途上国は自国の経済発展とエネルギー安全保障の確保を最優先せざるを得ず、気候変動対策への投資を増やすことが困難な状況にあります。

一方で、先進国の支援も十分ではありません。COP26での1,000億ドル/年の支援目標は未達成のままです。また、コロナ禍やウクライナ情勢の悪化により、先進国の財政的余力も限られつつあります。

こうした中で、発展途上国が気候変動対策に膨大な資金を振り向けざるを得なくなれば、財政悪化を招き、デフォルトのリスクが高まることが危惧されます。実際に、スリランカやザンビアなどの国でデフォルトが発生しています。

このような事態は国際社会にとって望ましくありません。発展途上国のエネルギー安全保障と経済発展を支援することが重要です。先進国による十分な資金提供や、債務軽減策など、国際的な支援体制の強化が不可欠です。

長期的な視点からエネルギー安全保障と、経済発展を実現するためには、発展途上国のデフォルト リスクを回避することが喫緊の課題だといえます。

中国の「一帯一路政策」は、簡単にいってしまえば、中国国内での大きな利益をもたらすインフラ投資が一巡してめぼしい案件がなくなったため、同じことを海外で展開しようとする試みです。しかし、これにより債務不履行になる国々も存在し、これからもでてきそうです。これは、無謀な試みであり失敗するのが目に見えていますが、その邪な動機自体は理解できます。

一帯一路構想の詳細を記すドイツ語の地図

しかし、パリ協定やSDGs目標達成のために、発展途上国に犠牲を強いるのは、「一帯一路」と同様に馬鹿げています。先進国は、中国の「一帯一路政策」を批判しますが、先進国の気象変動対策は、西側先進国の「一帯一路政策」ともいえる馬鹿げたものだと思います。

西側諸国は自国のエネルギー政策を見直し、発展途上国の経済発展とエネルギーアクセスの確保を支援する施策に重点を置くべきです。そうして、先進国はこれに向けて、発展途上国への財政支援の大幅な拡充も不可欠です。

IEAによると、2050年までに世界のCO2排出量を全廃にするには、新規の石油・ガス開発への投資を即座に停止する必要があります。しかし、この場合、短期的なエネルギー供給の不安定化やエネルギー価格高騰のリスクが高まります。

一方で、中国やロシアなどは化石燃料の積極的な開発と活用を続ける傾向にあります。中国は2030年までのCO2排出量ピーク化目標を掲げつつ、石炭火力発電所の新設を続けています。

ロシアは天然ガスや石油の輸出に大きく依存しており、脱炭素化への意欲は低いです。

このように、西側諸国が気候変動対策に傾倒する一方で、中露などの国々がエネルギー供給の安定性を重視する姿勢が鮮明になっています。

その結果、中長期的にはエネルギー・ドミナンスの点で、西側諸国が中露に劣勢に立たされる可能性が高まっています。特に、地政学的リスクの高まりの中で、安定的なエネルギー確保が困難となる恐れがあります。

したがって、エネルギー安全保障の確保を最優先する現実的な対応への移行が、西側諸国にとって喫緊の課題だと言えます。そうしなければ、エネルギー・ドミナンスの面で中露に敗れてしまう恐れがあります。

そうなれば、発展途上国も衰退し、最悪エネルギーの安定供給を約束する中露に取り込まれることになります。

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2024年4月15日月曜日

岸田首相らG7首脳「前例のない攻撃、明確に非難」イランによるイスラエル攻撃で声明「激化を避けなければならない」―【私の論評】イスラエルの安全保障を支持する日本の姿勢 - G7との協調と核抑止力の重要性

岸田首相らG7首脳「前例のない攻撃、明確に非難」イランによるイスラエル攻撃で声明「激化を避けなければならない」

まとめ
  • G7首脳がイランによるイスラエルへの攻撃を受け、緊急オンライン会議を開催した
  • G7は「最も強い言葉で明確に非難」し、イスラエルへの「全面的な連帯と支援」を表明した
  • G7は、イランが地域の不安定化と激化を招いていると指摘し、これを避ける必要があると強調した
  • 岸田首相も会議に参加した
  • アメリカ政府高官は、この攻撃に事前通告がなく、イランが死傷者を出すつもりだったと述べ、アメリカはイスラエルの防衛を支援すると警告した

G7のイランのイスラエル攻撃に関するリモート会議

G7首脳は、イランによるイスラエルへの攻撃を受け、オンラインでの緊急会合を開催しました。会合には岸田首相も参加し、G7は「最も強い言葉で明確に非難」し、イスラエルへの「全面的な連帯と支援」を表明しました。

G7は、イランが地域の不安定化と激化を招いていると指摘し、これを避ける必要があると強調しました。

アメリカ政府高官は、この攻撃に事前通告はなく、イランは死傷者を出すつもりだったと述べ、アメリカはイスラエルの防衛を支援すると警告しました。

この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧ください。

【私の論評】イスラエルの安全保障を支持する日本の姿勢 - G7との協調と核抑止力の重要性

まとめ
  • イラン大使館周辺へのイスラエルによる攻撃に対し、イランが報復を行った。
  • G7全体(日本含む)がイランの攻撃を「最も強い言葉で明確に非難」し、イスラエルへの「全面的な連帯と支援」を表明した。
  • イランの領土からイスラエルを直接攻撃するのは今回が初めての事態であり、G7が「前例のない攻撃」と非難した。
  • 多くの中東専門家は、今回の事態が大規模な戦争につながることはないと予想している。その理由は、イスラエルが強力な破壊兵器(核兵器)を保有しているため、イランが過度な攻撃をする可能性が低いからである。
  • 日本の左派政党やマスコミはイランを擁護する傾向にあるが、今回日本政府はイランを非難し、イスラエルを支持する姿勢を示した。今後日本は、このような傾向を強めていくべき
攻撃を受けたダマスカスのイラン大使館周辺

シリアの首都ダマスカスにあるイラン大使館周辺がイスラエルによるとみられる攻撃を受けたことを巡り、イランは報復を行うと表明しており、それが実行されました。

イランによるイスラエル攻撃の際、G7全体(日本を含む)が「最も強い言葉で明確に非難」し、イスラエルへの「全面的な連帯と支援」を表明しました。これは、イランによる攻撃が明らかな国際法違反であり、地域の平和と安全保障を脅かす重大な事態だったため、G7が団結して強い姿勢を示したものです。

さらに、イランの領土から直接イスラエルの領土を攻撃するという事態は、今回が初めてです。

過去にもイランがイスラエルを攻撃する事例はありましたが、それらはイランが支援するシリアやレバノンなどの地域からの攻撃でした。

今回のように、イラン領土そのものからイスラエルに直接攻撃を仕掛けるのは、これまでにない新しい事態でした。

G7がこれを「前例のない攻撃」と強く非難したのは、この点を踏まえてのことだと理解できます。日本もさすがに、イランに対して曖昧な態度をとれなかったのでしょう。イラン領土からの直接攻撃は地域の緊張を一段と高めるものであり、G7が強い懸念を示したのは適切な対応だったと言えます。

イランによるイスラエル攻撃

一方、ハマスによるイスラエル攻撃の際は、日本を除くG6がイスラエルへの「全面的な連帯と支援」を表明しました。この背景には、G6諸国がハマスをテロリスト組織と明確に認識しているのに対し、日本の認識が相対的に希薄であったことが考えられます。

日本は、ハマスの本質を十分に理解していなかったため、G6諸国ほど強硬な姿勢を示せなかったと考えられます。テロリスト組織であるハマスに同情的な立場をとることは適切ではなく、同盟国との連携も重要です。今後は、ハマス等のテロリストの実態をより正確に認識し、国際社会との調和した対応を取る必要があるでしょう。

イランがイスラエルの実効支配下にあるゴラン高原に無人攻撃機やミサイルを撃ち込んだことで、第三次世界大戦への懸念が高まっていると報道されています。しかし、多くの中東専門家は今回の事態が大規模な戦争につながることはないと予想しています。その理由は、イスラエルが強力な破壊兵器を保有(イスラエルは認めていないものの核保有されてるとしている)しているため、イランが過度な攻撃をする可能性は低いからです。

さらに、貧困に苦しむガザ地区を支配するハマスとは異なり、イランはその産油施設を破壊されれば取り返しがつかないです。ハマスのイスラエル攻撃は例外ともいえますが、基本的に、侵略されて女性や子どもが虐殺される国は核兵器を持っていない国に限られます。

日本では核兵器は戦争の象徴とみなされていますが、世界的には平和の象徴と考えられています。日本は日米安全保障条約により、米国の核の傘の下にあります。日本が核攻撃されたら米国は報復するとは明記されていませんが、「危険に対処する」と曖昧に記されています。

その背景には、2023年末時点で日本が世界のドル流通量の1/7以上に当たる1.2兆ドルを保有していることがあります。一方、中国の保有額は約9,000億ドルと報告されています。

つまり、日本はドル資産保有においては中国を上回っているのが現状です。

このように、日本はドル資産保有大国の一つであり、世界の通貨システムにおいて重要な役割を果たしていると言えます。


日本が戦争等にまきこまれドルを大量に売却する姿勢をみせれば、米国はそれに対処せざるを得なくなります。つまり、日本のドル保有がアメリカの対日支援を引き出す要因となっているといえます。

もし、これに加え、日本が核兵器を保有すれば、世界における日本の地位も飛躍的に高まるでしょう。一方で、貧困層を支持する政党は非核化を主張しますが、それは日本の平和と繁栄の基盤を脅かすものだと言えるでしょう。

日本の左派・左翼勢力は、それだけではなく、テロリストのハマスを擁護する傾向が強く、日本のマスコミや学問界でもその傾向が強く、それが日本国内に広く流布しているため、ハマスによるイスラエル攻撃の時には、日本政府はそれにひきづられイスラエルへの「全面的な連帯と支援」の表明からは外されると大失態をしてしまいました。

これと同じように、日本の左派政党やマスコミは、イランを支持・擁護する傾向にあります。これは、イランの反米・反西側的な姿勢や、パレスチナ問題でのハマス支持、さらには核兵器に関する立場などに共感を持っているためと考えらます。

それでも、今回は日本は、「最も強い言葉で明確にイランを非難」し、イスラエルへの「全面的な連帯と支援」を表明しました。これは、一歩前進だと思います。

これからも、日本はこのような傾向を強めていくべきです。そうでないと、せっかくかなり高い潜在的能力を持っているにもかかわらず、世界における日本の地位が低下し、衰退への道を歩むことになりかねません。


G7の「CO2ゼロ」は不可能、日本も「エネルギー・ドミナンス」で敵対国に対峙せよ 「トランプ大統領」復活なら米はパリ協定離脱― 【私の論評】エネルギー共生圏 - 現実的な世界秩序の再編成への道

2024年4月14日日曜日

G7の「CO2ゼロ」は不可能、日本も「エネルギー・ドミナンス」で敵対国に対峙せよ 「トランプ大統領」復活なら米はパリ協定離脱― 【私の論評】エネルギー共生圏 - 現実的な世界秩序の再編成への道

 杉山大志 直言!エネルギー基本計画

G7の「CO2ゼロ」は不可能、日本も「エネルギー・ドミナンス」で敵対国に対峙せよ 「トランプ大統領」復活なら米はパリ協定離脱 

まとめ
  • 日本のエネルギー供給の8割は化石燃料に依存しており、その安定的な調達が重要
  • しかし第6次エネルギー基本計画では、無理難題とも言える46%のCO2削減目標が設定され、化石燃料の利用制限につながっている
  • その結果、燃料調達や関連事業への参入が困難になり、供給不足や火力発電所の休廃止といった問題が懸念される
  • 一方で、気候変動の悪影響を示すデータや予測モデルの信頼性には疑問があり、CO2ゼロ目標の実効性も極めて低い
  • したがって、「エネルギー・ドミナンス」戦略に立ち返り、安定供給を確保する政策を検討すべきであり、パリ協定からの離脱も検討の余地がある
阿蘇外輪山の元牧野に建設されたメガソーラー

 日本のエネルギー供給の8割は依然として石油、石炭、天然ガスといった化石燃料に依存している。これらの化石燃料を安定的に調達し活用することは、日本のエネルギー政策の最も重要な柱のはずだ。

 しかし、現行の「第6次エネルギー基本計画」では、2030年までにCO2排出量を2013年比で46%も削減するという非現実的な数値目標が設定され、化石燃料の利用量も極端に低く設定されている。その結果、企業は長期的な燃料調達契約の締結が困難となり、油田やガス田への事業参入も阻害されている。

 こうした事態が進めば、有事の際に法外な価格でしか化石燃料が調達できなくなったり、最悪の場合は全く調達できなくなる可能性がある。また、火力発電所の休廃止も余儀なくされ、定期的に「節電のお願い」が発出されることにもなりかねない。

 一方で、メディアでは気候変動の悪影響が強調されているが、統計データではそのような事態は確認されていない。さらに、気候変動リスクを示すシミュレーションモデルさえ、過去の再現すら十分にできていないと指摘されており、その将来予測を政策決定に活用するのは適切ではない。

 したがって、「2050年にCO2排出ゼロ」という極端な目標を掲げ、日本のエネルギー政策と経済活動を大きく制限することは不適切であると考えられる。そうではなく、安定したエネルギー供給を確保し、経済発展を支えていく「エネルギー・ドミナンス」戦略に立ち返るべきであり、グローバルサウスの支持も得つつ、パリ協定からの離脱も検討する必要がある。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】エネルギー共生圏 - 現実的な世界秩序の再編成への道

まとめ
  • 「エネルギー・ドミナンス」はトランプ政権下の米共和党で使われてきた概念で、安定かつ安価なエネルギー供給を通じた経済発展や民主主義の保護を目指すものです。
  • 第6次エネルギー基本計画は「脱炭素」を重視しつつ、再生可能エネルギー以外のエネルギー源の活用も検討されました。
  • この計画は「S+3E」の視点から、安全性、エネルギーの安定供給、経済効率性、環境適合性を重視しています。しかし、現実には脱炭素、再エネばかりが強調されています。
  • 安倍晋三氏が存命であれば、「エネルギー共生圏(Energy Symbiosis Sphere)」のような新たな概念を提唱し、地球規模でのエネルギー協力体制を構築していた可能性があります。
  • 「エネルギー・ドミナンス」の代わりに「エネルギー共生圏」のような概念を打ち出すことで、より多くの国々の参加を促し、現実的な世界秩序の再編成を目指すべきです。

「エネルギー・ドミナンス」という用語は、米国共和党で使用されてきた概念です。これは豊富で、安定し、安価なエネルギーを供給することを指し、経済発展や防衛力の向上、自由や民主主義などの普遍的価値の保護と発展を可能にするとされています。具体的にこの言葉を最初に使った個人についての情報は見つかりませんでしたが、この概念はドナルド・トランプ大統領の下での米国のエネルギー政策に関連してよく言及されています。

「第6次エネルギー基本計画」は安倍政権下で検討されたものではありますが、安倍総理は、2020年9月16日に辞任しており、閣議決定されたのは、2021年10月の菅政権のときでした。

第6次エネルギー基本計画で目指す総発電量に占める電源別の割合

この基本計画が検討された時期においては、「脱炭素」が世界の趨勢となっており、このエネルギー基本計画は、「脱炭素」にも重点を置き、極端な目標が掲げられている一方、再生可能エネルギー以外のエネルギー源についても詳細に述べられています。

この計画は、本来は、エネルギー政策の基本的な方向性を示すものであり、安全性(Safety)、エネルギーの安定供給(Energy Security)、経済効率性の向上(Economic Efficiency)、環境への適合(Environment)という「S+3E」の視点を重視しています。

具体的には、以下のようなポイントが含まれています。

安全性(Safety):あらゆるエネルギー関連設備の安全性を最優先し、特に原子力に関しては、国民の懸念の解消に全力を挙げることが強調されています。

エネルギーの安定供給(Energy Security):日本のエネルギー自給率が低いため、エネルギー供給の安定性を確保することが重要視されており、レジリエンス(強靭性)を高めることが求められています。

環境への適合(Environment):カーボンニュートラルを目指し、エネルギー分野の脱炭素化に取り組むことが強調されています。これには、再生可能エネルギーの導入拡大や、CO2排出削減技術の開発が含まれます2。

経済効率性(Economic Efficiency):低コストでのエネルギー供給とエネルギーの安定供給、環境負荷の低減を同時に実現することが、日本の経済成長にとって重要であるとされています。

安倍政権が継続されていた場合、あるいは政権が続いていなくても、安倍晋三氏が存命だった場合、経済効率性やエネルギーの安定供給の観点がもっと強調されていた可能性があります。

しかし、菅政権から、岸田政権にかけて、エネルギー政策というと、カーボンニュートラルや再エネ等が大きく注目されるようになりました。そうして、現状では阿蘇山にはメガソーラ発電省が設置され、釧路湿原国立公園内に、6.6haの太陽光発電施設が設置されるという危機的状況になっています。


このままだと、日本はエネルギー政策で失敗して衰退しかねません。だからこそ、エネルギー問題のまともな専門家たちは、危機を感じているのです。

そうして、上の記事の杉山氏の元記事ように
米国とともにアジア太平洋におけるエネルギー・ドミナンスを達成することはできる。それは、ポンペオ氏が指摘しているように、天然ガス、石炭火力、原子力などを国内で最大限活用すること、そして、友好国の資源開発および発電事業に協力することだ。

いま日米が「エネルギー・ドミナンス」にかじを切らなければ、中国に打倒されるだろう。
と警鐘を鳴らしているです。

これは、重要であり、中国やロシアがエネルギー・ドミナンスで優勢になれば、日本を含む西側諸国やその同盟国は安全保証上の脅威にもさらされることを意味しています。

そうして、安倍晋三氏がご存命であれば、この危機にいち早く気づいて、新たな概念を生み出しい、「安全保障のダイヤモンド」のような論文をブロジェクト・シンジケートに投稿していたかもしれません。ちなみに、この論文は、後の「インド太平洋戦略」に結びつき、中国の覇権主義に対抗する上で重要な概念となっています。

エネルギー・ドミナンスの危機に関して、安倍晋三氏がご存命であれば、やはり新たな概念を生み出したかもしれません。

たとえば、「エネルギー共生圏(Energy Symbiosis Sphere)」という概念を生み出していたかもしれません。

これは、意味するところは、以下です。
  • 「共生」の文字から、各国や多様なステークホルダーが互いに協力し合い、共に発展していくエネルギーシステムの構築を表現
  • 「圏」の字は、地球規模での包括的なエネルギー協力体制を示唆しています
  • 化石燃料の利用や、原子力エネルギー等、現実的なエネルギー利用の安定供給を目指すとともに、小型原子炉や核融合炉などの将来のエネルギーの開発等も含めた、エネルギーミックスを構築する
  • 先進国と途上国、エネルギー生産国と消費国が対話を重ね、共生的なエネルギーアーキテクチャを構築することを表す
英語での意味は以下のようなものです。
  • "Energy" - エネルギーという分野を表しています。
  • "Symbiosis" - 共生、相互依存的な関係性を意味します。
  • "Sphere" - 地球規模、あるいは包括的な領域を表す言葉です。圏というと、大東亜共栄圏などを思い起こさせる言葉ですが、Sphereは違います。
つまり、「Energy Symbiosis Sphere」は、各国や様々な利害関係者が協力し合って、現実的なエネルギーシステムを地球規模で構築していくという戦略概念を表しています。

この英語表現も、安倍晋三氏の思想を反映した戦略的なイニシアチブを感じさせる言葉だと思います。

「安全保障のダイヤモンド」は、端的に言ってしまうと、「中国封じ込め政策」なのですが、安倍晋三氏は、そうではなくもっと大きな上位の概念からこの言葉を使っています。これによって、より多くの国々が、この言葉に賛同し参加できるような素地をつくりだし、後にさらに「インド太平洋戦略」という言葉を生み出し、インドや太平洋の平和と安定の重要性も強調しました。これによって、安倍晋三氏は世界の秩序を変えたといえます。

そうして、それが世界だけでなく、日本国内にも大きな影響を及ぼしています。

エネルギー・ドミナンスは日本語訳にすると「エネルギー支配」とも訳すことができ、これではエネルギーに関する覇権争いとも受け取られかねません。これでは、日米のエネルギー・ドミナンスの確立に参加を表明したくてもできない国々が出てくる可能性もあります。

Energy Symbiosis Sphere AI生成画像

しかし、安倍晋三氏が生み出したような「インド太平洋戦略」という中露との対立という概念より、上位の概念は、この地域の平和と安定を目指すものであり、この地域や、他地域の多くの国々の賛同を得ることができ、これに真っ向から反対するのは、一部の権威主義的、全体主義的な国々だけです。

日本国内でも、どなたか有力な方が「エネルギー共生圏(Energy Symbiosis Sphere)」のような言葉を作り出し、安倍晋三氏が、政権発足直前に「ブロジェクト・シンジケート」で公表したように、新たな概念を公表すべきと思います。

これによって、エネルギーを基軸とした、世界秩序の再編成を目指すべきです。

それにしても、それを実現できる人は、なかなか見当たりません。改めて、わたしたちは偉大な人物を亡くしてしまったことが残念でなりません。

このようなことを実現し、それだけでなく、それを目指して行動する人こそ、安倍氏の真の後継者なのかもしれません。

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2024年4月12日金曜日

日米比、初の3カ国首脳会談-中国進出念頭に海上訓練拡充で合意―【私の論評】安倍イズムが育んだ日米比の安全保障協力 - 官僚レベルから首脳レベルまでの歴史的な絆

日米比、初の3カ国首脳会談-中国進出念頭に海上訓練拡充で合意

まとめ
  • 「日本とフィリピンを防衛する米国の決意は揺るぎない」と米大統領
  • 米は国際社会の「中心的役割」継続を、岸田首相が米議会で演説


 日本、アメリカ、フィリピンの3カ国首脳が会談を行い、自衛隊と米比両軍の海上共同訓練の拡充に合意した。

 南シナ海情勢を踏まえ、海洋安全保障が最重要議題となった。バイデン大統領は日本とフィリピンの防衛への決意を表明した。

 3カ国は、南シナ海と東シナ海における中国の行動に深刻な懸念を示し、新たな共同訓練の実施や資源サプライチェーン強化などで協力を強化することで合意した。

 岸田首相は、米議会での演説で、自由と民主主義が脅威に晒されており、特に中国の動向が課題だと指摘。米国の支援と存在が不可欠であると述べた。岸田演説は、選挙後の日米関係の重要性を米議会に訴えるものだった。

 この記事は、元記事の要約です。詳細は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】安倍イズムが育んだ日米比の安全保障協力 - 官僚レベルから首脳レベルまでの歴史的な絆

まとめ
  • 安倍前首相の日米同盟強化への尽力と指導力が、現在の日米同盟の基盤を築いた。
  • 日米協力は官僚レベルでの継続的な取り組みであり、政権交代に影響されないものだった。
  • 「自由で開かれたインド太平洋」構想は安倍前首相の外交の柱で、その延長線上にある日米比の安全保障協力が進展している。
  • 日米比3か国の防衛大臣会談、軍隊間の共同訓練、非伝統的安全保障分野での協力など、緊密な連携が進んでいる。
  • 岸田首相は、安倍イズムの外交・安全保障政策を継承し、国内においても経済政策や自民党内の調整などで安倍路線を踏襲すべきだ

昨日のこのブロクでは、安倍首相の日米同盟強化への献身的な努力とリーダーシップなくしては、現在の日米同盟の堅実な関係基盤と協力体制を築くことは不可能であり。安倍首相の尽力こそが、今日の日米同盟の地位向上に不可欠な要因だったのではないかと掲載しました。

結局のところ、今日の日米首脳会談は、安倍イズムの影響下での日米同盟強化であったと結論ずけました。

その根拠として、日米同盟の強化はすでに両国の官僚級の折衝はから始まっていたことを根拠としてあげました。それは、両国の首脳の政権がこれからも続くか続かないにかかわらず、日米という国家間で継承される合意事項であるともいえます。

今回の日米首脳会談はこれを追認したものに過ぎません。

今回の日米比の首脳会談でも同じことがいえます。日米比の安全保障協力の進展は、安倍前首相の時代から見られる「自由で開かれたインド太平洋」構想の具現化であると言えます。

安倍首相は在任中、日本の外交・安全保障政策の大きな柱として、この構想を掲げ、地域の主要国との連携強化に力を入れてきました。特にフィリピンとの関係強化は重要な課題の一つでした。

こうした安倍首相の方針は、その後の日本政府によっても継承されており、日米比三カ国の安全保障協力はその具体的な成果として表れているといえます。

日米比の3か国による安全保障協力も活発に行われてきました。
  • 2022年以降、日米比三カ国の防衛大臣会談が定期的に開催され、地域情勢への共同対応について議論が行われています。
  • 日米比三カ国の自衛隊、米軍、フィリピン軍による共同訓練の実施が活発化しており、相互運用性の向上が図られています。
  • 災害救援活動や 海洋安全保障等、非伝統的安全保障分野での協力も強化されてきました。
  • 情報共有や海上監視、訓練支援など、各国の軍事当局間での緊密な連携も進んでいます。
  • 日米両国がフィリピンに対する装備品供与や訓練支援など、二国間の取り組みも行っています。
このように、日米比三カ国間での安全保障面での協力は着実に進展してきており、地域の平和と安定に向けた重要な枠組みとなっています。特に、日米比の省庁レベルや軍事当局レベルでの緊密な対話と協調が進展してきたと言えます。

2022年には第1回日米比陸軍種ハイレベル懇談会が日本で開催された

省庁間、軍事当局間での緊密な対話と実務レベルの協力は、この構想の実現に向けた着実な取り組みの一環であると評価できます。

これは、日米比の多くの人々も認めるところであり、今回の日米比の首脳の合意は、安倍イズムの延長線上にあるものとえ、この三者が新しく始めたものではなく、安倍イズムによる「自由で開かれたインド太平洋」構想の継承とみることができます。もっといえば、安倍首相は中国をめぐる世界秩序を変えたのです。

中国への対処ということでは、「自由で開かれたインド太平洋」構想とこの構想に含まれる諸国との提携や、協力の強化の方針は、安倍イズムによってすでに方向づけられたものです。そのため日米比の現在の首脳は、これを自分たちの成果とすることはできません。

特に、大統領選、総裁選が間近に迫っている、バイデン大統領と、岸田首相はそうです。

バイデン、岸田ともに、政権を安定させたいなら、インド太平洋地域以外の外交や国内を安定させる政策を推進することが肝要です。

岸田首相は、昨日も述べたように、大きな問題は国内にあり、有り体にいえば、自民党党内です。これについては、米国はこれに干渉することはできません。ただしLGBT理解増進法案などの例外はありますが、国内の大きな方向性に関しては、もっぱら岸田首相が采配しなければなりません。ここでも岸田首相は、安倍路線を継承するべきなのです。

安倍首相は、地球儀を俯瞰する外交を実行して成果をあげており、この点で、岸田首相が外交で努力したとしても、あまり大きな成果とみなされることはありません。おそらく、岸田首相の独自での外交での成果といえば、ウクライナ電撃訪問くらいかもしれません。

安倍首相地球儀を俯瞰する外交で成果をあげた

やはり岸田首相は、安倍氏の経済状況を改善し雇用と企業収益が拡大する路線を継承し、デフレから完全脱却すべきなのです。それとともに、自民党内のリベラル派に対して一定の歯止めをかけなければなりません。さらに憲法改正もすすめるべきなのです。国内でも安倍イズムを継承することが、自民党政権を安定化させる唯一の道だと認識して、その方向に転換すべきなのです。

これは、岸田政権が崩壊して、次の政権に変わったにしても、あてはまることだと思います。

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