2021年8月14日土曜日

解散、総裁選、どちらが先か?―【私の論評】コロナと共存できる強靭な社会を築くことを宣言し、財政政策でサプライズを起こせば、菅総理は総裁・衆院選のダブル勝利を獲得できる(゚д゚)!

解散、総裁選、どちらが先か?

東京五輪閉会前後に行われた直近の世論調査において、菅義偉内閣の支持率は軒並み発足以来最低になった。総選挙を控えて自民党内には懸念が広がっていると見られ、総選挙を11月下旬とする案も現実味を帯びる。その場合、自民党総裁選が先になり、菅首相の再選戦略に狂いが生じるだろう。同首相はパラリンピック閉会直後の解散を模索するのではないか。

総選挙の時期:与党内で強まる先送り論


五輪閉会式前後に行われた朝日新聞、読売新聞、NHKの世論調査では、東京オリンピックについて肯定的な見方が過半数を超え、反対意見が多数を占めた大会前とは対照的な結果になった。一方、菅内閣の支持率は軒並み低下、昨年9月の発足以来の最低水準へ落ち込んでいる(図表1)。五輪への共感は政権への支持には結び付かなかったようだ。 

これまで繰り返し報じられてきた通り、衆議院の任期満了は10月21日である。総選挙が間近に迫るなか、世論の厳しい反応を受け、自民党内では危機感が高まっているだろう。内閣支持率が低下している要因は、明らかに新型コロナの感染拡大と考えられる。従って、ワクチン接種の進捗を睨み、総選挙の時期を可能な限り先送るべきとの意見が急速に勢いを増している模様だ。 

ちなみに、公職選挙法第31条1項では、衆議院が任期満了を迎える場合、原則として「その日の前の30日以内」に総選挙を行わなければならない。しかし、同条第3項の規定により、任期満了日まで国会を開いて最終日に解散するならば、11月28日まで総選挙を先送りできる。自民党と連立を組む公明党内にも、11月総選挙論が強まっている模様だ。

菅首相の自民党総裁としての任期は9月末で終わる。11月総選挙の場合、先ず自民党総裁選、続いて総選挙の順番になるだろう。これだと、先に解散・総選挙を実施して自民党の議席減を30程度に食い止め、無投票で総裁選の再選を目指す菅首相のシナリオが狂うのではないか。従って、パラリンピック終了後の9月6日以降、同首相が電撃的な解散を狙う可能性は否定できない。

ただし、それには新型コロナ感染第5波のピークアウトが条件になるだろう。逆に考えれば、感染拡大が続き、今後の世論調査で内閣支持率がさらに低下した場合、自民党内では「菅首相がリーダーだと総選挙を戦えない」として、早期の総裁選を求める声が強まると予想される。

次の転換点:パラリンピック後、政局は一気に流動化へ


菅首相にとっての救いは、1)野党の支持が低迷していること、2)自民党内の有力後継候補が総裁選への対応を明らかにしていないこと…の2点だ(図表2)。もっとも、立憲民主党と共産党が広範に選挙協力した場合、自民党への脅威になり得ることは、7月4日の東京都議会議員選挙で確認された。両党は候補者調整に手間取っており、これも菅首相に早期解散の決断を促す要因と言えそうだ。

 他方、自民党内に目を転じると、次期総裁の有力候補と目される岸田文雄前政調会長、茂木敏充外相などは、今のところ総裁選への態度を明らかにしていない。ただし、夏休み期間が終わった後、世論の流れによっては政局が一気に流動化する可能性がある。9月以降、日本の政治が大きく動き出す展開が予想されるなか、それが経済・市場に与える影響には注意が必要だろう。

 (2021年8月13日) 市川 眞一 ピクテ投信投資顧問株式会社 シニア・フェロー

【私の論評】コロナと共存できる強靭な社会を築くことを宣言し、財政政策でサプライズを起こせば、菅総理は総裁選・衆院選のダブル勝利を獲得できる(゚д゚)!

今秋と見込まれる衆院選をめぐり、上の記事にもあるように、現行法制で最も遅い11月などへの先延ばし論が、与党内で強まっています。報道各社の世論調査で、菅内閣の支持率が軒並み、過去最低となっているためです。

以前このブログでも解説したように、コロナ感染者数と、菅内閣支持率には明確な負の相関関係があります。高橋洋一氏は、実際計算して、相関係数を求め、相関係数は0.8程度としています。これは、相当高い数値であり、負の相関関係にあることは間違いありません。


新型コロナウイルスのワクチン接種を進める時間を稼いで感染状況を落ち着かせることを目指しているようですが、菅義偉首相にとっては自民党総裁選の「無風再選」のシナリオが崩れかねないジレンマも抱えています。

首相は17日の読売テレビ番組で、今後の政権運営について「最優先すべきはコロナ対策だ」と表明。衆院解散に関しては「私の任期も限られる。衆院議員の任期も同じだ。そういう中で視野に入ってくる」と述べるにとどめました。

首相の党総裁任期は9月30日、衆院議員任期は10月21日に満了を迎えます。首相は、9月5日の東京パラリンピック閉幕直後の衆院解散・総選挙で勝利し、総裁選を無投票で乗り切る戦略とみられてきました。この場合、投開票日は10月3、10、17各日の可能性が取りざたされてきました。

しかし、最近の感染者数増加の傾向があり、支持率も下落も下落していることから、首相周辺から「衆院選は遅ければ遅いほどいい」との声が出始めました。公職選挙法の例外規定により、衆院選は最も遅いケースで11月28日投開票があり得ます。政権側は、希望者へのワクチン接種がこのころまでに進展すると計算。反転攻勢の望みを託しています。

麻生太郎副総理兼財務相は7月18日、党所属議員の会合にビデオメッセージを寄せ、「東京五輪が終わって、9月はまだコロナの騒ぎが続いているだろうから、10月選挙になる可能性が極めて高い」と予想。党関係者は衆院選の投開票について、10月下旬以降となる可能性を指摘しました。
 
公明党の山口那津男代表も7月5日のBS日テレ番組で「ワクチン接種が進めば、望ましい選挙の環境になる」と語っていました。

もっとも、衆院選が先延ばしになれば、先行して総裁選を実施する可能性も高まります。現時点で有力な対抗馬は見当たらないですが、自民党内に「菅首相で衆院選は戦えない」との声が広がれば、再選を阻まれる展開も否定でききます。

総裁公選規程は、8月末までの総裁選日程の決定を求めています。党内ではお盆明け以降、秋の政治日程をめぐる調整が本格化する見通しで、首相はワクチン接種の進捗や新規感染者数の推移などをにらみながら、解散時期を最終判断することになりそうです。

総裁選に関しては、不確定要素も多いですが、菅義偉首相は7月17日、読売テレビの番組に出演し、自民党総裁の任期が9月末で満了することに伴う総裁選について問われ、「総裁として出馬するというのは、時期がくれば当然のことだろうと思っている」と述べ、再選に意欲を示しました。

秋までにある総選挙前に内閣改造をするのか問われると、首相は「最優先にすべきはコロナ対策。国民が安心できる生活を感じてもらえることを最優先に取り組んでいきたい」とし、「私の任期も限られている。衆議院全体の任期も同じですが、そういう中で解散総選挙は視野に入ってくる」と述べました。

菅総理が総裁選に勝ち、さらに衆院選に勝つことを確実にするためには、ある程度のサプライズが必要な情勢になってきたと思います。

コロナ対策については、まずは日本以外の先進国、特に英国、米国と同じように、感染者数の減少そのものを目指すのではなく、ワクチンの接種がすすんだこと、治療薬の目処がたったことなどから、多少感染者が増えても、重傷者・死者の数を増やさないようにし、感染者数が多少を増えても、ロックダウンなどをせずに日常を取り戻す政策に転じることです。

要するに、多少感染者数が増えても、重傷者・死者を増やさず、緊急事態宣言や蔓延防止措置などを発しなくてもすむようなコロナワクチンと共生できる、強靭な社会を目指すことを宣言し、実施することです。

これは、以前もこのブログにも述べたように、感染症の分類においては、現在コロナ感染症は2類に分類されているのですが、強靭な社会を目指すためには、これをインフルエンザ並の5類に分類することになります。

2016年には1週間で、全国で200万人以上もの感染者が発生し、インフルエンザは年齢を問わず感染し重症化する可能性もあったため、インフルエンザ脳炎で小学生が死亡するという痛ましい事例も発生しました。ところが、インフルエンザは5類に分類されていたため、風邪などと同じような扱いをすることができ、当時は医療崩壊は起きませんでしたし、緊急事態宣言、蔓延防止措置なども発令されませんでした。

そのため、経済がインフルエンザの蔓延によって、落ち込むことはありませんでした。多くの国民が日常通りの生活を送ることができました。

今後、人類は、コロナ感染症を撲滅することは数十年にわたって不可能ともみられています。もし、今のままコロナの感染者が増えたからといって、すぐに緊急事態宣言、蔓延防止措置などがだされれば、さらに経済が悪化して、自殺者が増えるなどの事態になるのは明らかです。

いくら手厚い保護をしたとしても、社会が毀損してしまえば、それを取り戻すのに長い時間がかかります。それでも、取り戻すことのできないものもでてくると思います。勤勉な日本人の多くは、保証金をもらって長期間休むよりは、仕事を続けていたいと考えていることでしょう。多くの人にとって、仕事はお金だけでなく、自らの存在価値にもつながる重要なことなのです。

コロナワクチンと共生できる、強靭な社会を目指すべき

ですから、いずれは、日本社会をコロナと共存できる強靭な社会に変えていく必要があります。秋になっても、感染者数自体が減る可能性がなければ、菅政権は、はやめにそうした社会を目指すことを宣言すべきです。そうして、今回の緊急事態先見・蔓延防止措置をもって最後の措置とすべきです。これに医師会がどこまでも反対するようであれば、公正取引委員会を動かせるなどの強力な措置もとるべきです。

それと、もう一つは、新たな経済対策です。コロナ対策のための大型補正予算を組むのは、党内ではかなりコンセンサスがとられるようで、どうやら30兆円規模のものとなりそうです。

現状では、補正予算はどうやら組む事自体は、既成事実化されつつあるようですが、これだけだと、インパクトがないです。これによって何をするかが重要です。それこそ、サプライズが必要です。

これには、以前このブログで主張したように、まずは物価目標2%を達成するためには、財政赤字よりも財政出動をし続けることを宣言することです。そうして、さらに、期限付きでも良いので、消費税減税をすることです。さらには、以前一度だけ実施した、給付制限なしの給付金支給を何度か行うことを宣言することです。さらに考えられる限りの有効な措置を実施すべきです。

以上のことを実施すれば、菅総理は、総裁戦で圧倒的な勝利をおさめ、さらに衆院選でも大勝利できる可能性がかなり高まります。

私自身は、菅総理の熱烈なファンというわけではありませんが、コロナ禍で経済が落ち込みそうな現状では、菅政権の弱体化は避けるべきだと思います。弱体化してしまえば、思い切った政策が打てなくなります。仮に菅総理が退任して新たな人が総理になって、新たな政権を運営したとしても、当面弱体化状態は続くことになるでしょう。

ましてや、政権交代ということにでもなれば、過去の民主党政権のように、経済の落ち込みは避けられないでしょう。そうなれば、コロナ禍は経済をかなり弱体化することになります。それを避けるためにも、当面は菅内閣で乗り切るべきだと思っています。

そもそも、コロナ禍や戦争などの大きな国難があるときには、よほど政権が悪く、犯罪などに関わっている事実などが明るみにでも出ない限り、政権交代などすべきではないし、ましてや野党やマスコミなどは、そのようなときに倒閣運動をするべきではなく、与党に協力して、挙党一致で国難にあたるべきです。

私は、野党やマスコミは本当はコロナ感染症など大きな問題ではないと考えているのではないかと思ってしまいます。本当に国難だと思っていれば、倒閣運動に走るなどのことはありえないと思います。マスコミ・野党はコロナを倒閣に利用しているのだと思います。

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2021年8月13日金曜日

日米豪印、中国を牽制 菅首相「台湾有事あれば沖縄守る」 米誌に強調「日本政府にとって非常に重要」 4カ国高官協議で「結束」新たに―【私の論評】卓越した海戦能力を誇る日本の首相だからこそ、菅総理の発言には大きな意味がある(゚д゚)!

日米豪印、中国を牽制 菅首相「台湾有事あれば沖縄守る」 米誌に強調「日本政府にとって非常に重要」 4カ国高官協議で「結束」新たに

海上自衛隊の護衛艦「かが」 クリックすると拡大します

 中国が軍事的覇権拡大を加速するなか、日本と米国、オーストラリア、インドの4カ国による戦略的枠組み「QUAD(クアッド)」の政府高官は12日、オンライン会合を開き、「台湾海峡の平和と安全の重要性」などをめぐって協議した。菅義偉首相は米誌のインタビューで、「台湾有事」は「沖縄有事」に直結することを示唆した。

【画像】尖閣諸島を日本領と記した海外の地図

 菅首相とジョー・バイデン米大統領、スコット・モリソン豪首相、ナレンドラ・モディ印首相は来月下旬、米国でクアッド首脳会談を行い、アジア太平洋地域の安全保障問題などについて議論することで調整している。

 高官会合はこれに先立ち、「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向け、海洋安全保障やテロ対策などで実践的な協力を進める方針で一致。4カ国が設置した新型コロナウイルスのワクチンや、気候変動などに関する作業部会の議論の進捗(しんちょく)も確認した。  台湾海峡問題では、4月の日米首脳声明や6月の先進7カ国(G7)首脳会議の声明では「安定」の重要性を強調していたが、米国務省は今回の協議で「安全」を議論したと説明した。台湾に軍事的圧力を強める中国を意識したとみられる。

 インド国防省は今月2日、日本の海上自衛隊や、米国、オーストラリアの海軍との共同訓練「マラバール」を昨年に続き、今年も実施する方針を発表した。詳細な期日は未定だが、西太平洋で実施するという。 

 こうしたなか、菅首相は12日までに米誌ニューズウィークのインタビューに応じ、米中対立で「台湾有事」が発生した場合、中国や台湾に近い沖縄を「守らなければならない」との考えを示した。同誌が発言の抜粋をホームページに掲載した。

 台湾と沖縄は地理的にも近接しており、「台湾有事」は、地政学的にも軍事戦略的にも「尖閣有事」「沖縄有事」「日本有事」に直結する可能性が高い。

 菅首相は、沖縄を日米同盟によって防衛することは、「日本政府にとって非常に重要な目標だ」と強調し、台湾への軍事圧力を強める中国を牽制(けんせい)した。


【私の論評】卓越した海戦能力を誇る日本の首相だからこそ、菅総理の発言には大きな意味がある(゚д゚)!

上の記事にもあるように、菅義偉首相は12日までに米誌ニューズウィークのインタビューに応じ、米中対立で台湾有事が発生した場合、中国や台湾に近い沖縄を「守らなければならない」との考えを示しました。

首相は米軍基地がある沖縄を日米同盟によって防衛することは「日本政府にとって非常に重要な目標だ」と強調し、台湾への軍事圧力を強める中国を牽制(けんせい)しました。

サイバー攻撃を繰り返しているとされる中国に対しては「国際ルールにのっとり、大国としての責任を果たすことが決定的に重要になっている」と自制を求める一方で、問題解決に向け、日中間の意思疎通を続ける意向を示しました。

半導体などの安定的な確保に向け、中国に依存しないサプライチェーン(供給網)構築を日本企業に促す意向も明らかにしましたが、中国との経済的な関係を絶つことまでは考えていないとも述べました。

この菅総理の発言、軍事的にも十分に裏付けがあります。現状でも中国は日本の卓越した海戦能力に太刀打ちできません。

それは、このブログでも何度か述べましたが、まずは日米ともに、潜水艦探知能力が世界のトップレベルにあり、中国の潜水艦を簡単に探知することができます。しかも、中国の潜水艦は
ステル性が低いという弱点もあります。そうして、日本の通常型潜水艦は、ステルス性がかなり高く、中国はこれを発見できないという弱点があります。

中国の弱点は最近も露わになったばかりです。中国の原子力潜水艦がインド太平洋地域を航海中の英空母「クイーン・エリザベス」を追跡し、発覚するという事態があったのです。

英空母「クィーン・エリザベス」 クリックすると拡大します

8日(現地時間)の英デイリーエクスプレスによると、中国の潜水艦が太平洋を航海しながら英海軍の空母「クイーン・エリザベス」を尾行しました。 

英空母打撃群は南シナ海を離れて太平洋へ向かう間、対潜護衛艦「ケント」「リッチモンド」の状況室で2隻の商(シャン)級潜水艦(093A型、排水量7000トン)を確認しました。対潜水艦ソナーで発見されるまで尾行していたとみられます。

 中国潜水艦などの諜報活動を予想した英海軍は南シナ海を抜けてから6時間も経たないうちにソナー(水中音波探知機)で空母打撃群を追跡する中国潜水艦を発見したといいます。南シナ海は中国が人工島を建設した後、航路領有権を主張しているところです。

 英海軍の関係者は「中国の潜水艦戦力は急速に成長していて、決して過小評価できない。しかし中国は米国と英国が冷戦時代に経験した戦闘経験がない」と伝えました。 続いて「中国は我々の位置を発見する技術を使っている。超強大国の地位を確保するために、そして太平洋全域の貿易と安全保障を支配するという意図を強化しようと潜水艦を配置している。これは国際法に違反する事項」と指摘しました。

 中国は現在66隻の潜水艦を運用しています。これは米海軍や英海軍よりも多いです。中国は潜水艦を太平洋全般にわたる国に軍事力を行使するために使用しています。 中国の尾行は初めてではありません。

米海軍筋は中国の艦船は米国の艦船を尾行するなど、太平洋全域で活動を増やしていると伝えました。2015年に米空母「ロナルド・レーガン」が中国の潜水艦に尾行された事例があり、2009年にも中国の宋(ソン)級潜水艦が5マイル以内で空母「キティホーク」に発見されなかったことがあるとされています。 一方、「クイーン・エリザベス」は現在グアムに到着していて、今月末または来月の初め韓国に寄港する予定です。

確かに06年10月のある日、中国の「宋」級攻撃潜水艦がひそかに米キティホーク級航空母艦から数マイルほどの水面に浮上したとされています。米国人にとってこれは、ソ連が1957年に人工衛星を打ち上げたのと同じくらいの驚きだったようです。

米空母「キティーホーク」

ただ、中共海軍の潜水艦が突然現れたことについては、潜水艦がそこでじっと待っていたとの可能性を排除することはできないとの見方もあります。米国の対潜哨戒能力は当時から世界トップ水準であり、中国の潜水艦が動き回っていれば、発見できたはずとの見方です。

そうして、その後日米ともに中国の潜水艦を何度も探知していること、今回の英空母による中国潜水艦の発見により、キティーホークに発見されなかった中国潜水艦は、水中に潜んでいたとみるのが妥当です。

英国やオーストラリアは、対潜水艦戦(ASW)の装備は米国のものを使用しています。上の記事にもあるとおり、中国はロシアから輸入した技術をベースにしながらも、米国の技術を剽窃して流用してはいるようですが、さすがにすべての技術を剽窃で賄うことはできず、未だかなり低い水準にあるようです。

日本のように、静かな潜水艦なら中国軍の対潜戦(ASW)部隊による探知が難しいです。台湾有事の際には、日本の潜水艦が、台湾海峡の海底付近にひそみ、台湾に向かう中国の兵員輸送艦を探知し、直接攻撃したり、攻撃力の高い米攻撃型原潜に情報を提供して攻撃するということも考えられます。

日本の海上自衛隊の海戦能力は卓越しており、中国海軍は到底及ばない

台湾有事には、日本は台湾付近や、尖閣・沖縄付近の海域に潜水艦隊を出撃させるでしょう。そうして、これらを包囲すれば、中国海軍はこれを発見できないため、近づくことすらできなくなります。

近づけば、日本の潜水艦が中国海軍の艦艇を撃沈することはかなり容易なことです。なにしろ、海自側は中国の艦艇・潜水艦を簡単に発見できるのに対して、中国側は日本の潜水艦を発見することはできないからです。

このような卓越した海戦能力を有する日本の菅総理が「台湾有事」には沖縄を守ると発言したわけです。沖縄の米軍は安全です。さらには、7月には“台湾有事は「存立危機事態」にあたる可能性” があると麻生副総理が発言しています。

これでは、どうあがいても中国が台湾に軍事力で侵攻するのは不可能です。尖閣・沖縄はさらに無理筋です。このような卓越した海戦能力を持つ日本だからこそ、「菅総理」の「台湾有事あれば沖縄守る」は、大きな意味を持つともいえます。

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2021年8月12日木曜日

五輪後の日本とコロナ対策 感染者数が支持率に影響も日常生活の回復急ぐべきだ ―【私の論評】政府はどこかで踏ん切りをつけ、感染者減だけに注力するのではなく、コロナと共存できる強靭な社会を目指せ(゚д゚)!



 東京五輪が閉幕し、24日からはパラリンピックが始まる。新型コロナウイルスは高齢者の感染や死亡が激減している一方で、入院患者の増加で自宅療養が増えている。年内の衆院選に向けて、新型コロナの状況は有権者の関心事になるだろう。

 ところで、厚生労働省が7月30日に発表した簡易生命表によると、2020年の日本人の平均寿命は男性が81・64歳、女性が87・74歳となり、ともに過去最高を更新した。女性は世界1位、男性は世界2位だ。

 過去最高となった要因は、インフルエンザなどで亡くなる人が減少したためだという。もともとインフルエンザによる超過死亡者は1万人程度あったが、それがなくなり、新型コロナによる死者が置き換わった形だ。要するに、新型コロナの影響は小さく、その他の要因が寄与して日本人の平均寿命が伸びた。

 本来は、新型コロナだけではなく、全ての要因による死亡を分析し、その結果で健康政策を判断すべきである。しかし、マスコミ報道は、新型コロナに偏っており、多くの国民も関心を持つ。その結果、新型コロナだけで政権を判断・評価することになってしまう。

 実際、菅義偉政権の支持率は、新型コロナの新規感染者数と大いに関係がある。

 新規感染者数と内閣支持率は、相関係数マイナス0・8程度と高い(逆)相関がある。つまり、新規感染者数を減らすと内閣支持率が高くなり、感染者が増えると支持率が低くなるというわけだ。

 筆者は本コラムで何回も書いたが、本来であれば、健康政策の見地から注目すべきは、新規感染者数ではなく、重症者数、死亡者数だ。しかし、現実の政治では、新規感染者数がポイントにならざるを得ないだろう。

 本稿執筆時点で、人口100万人当たりの新規感染者(7日間移動平均)について日本は80人程度だ。世界でみると、英国が380人程度、フランスが330人程度、米国が260人程度、イタリアが90人程度、ドイツやカナダが20人程度だ。

 これら欧米の例を見ると、ワクチン接種がかなり行き渡った後でも、新規感染者数は増加しうるし、そもそも新型コロナウイルスが根絶されることはほとんど考えられない。このため、この数字がゼロになることはないだろう。

 ただし、ワクチン接種が進めば、多少の変異株でも重症化リスクや死亡リスクはかなり低下するので、深刻な医療崩壊にはつながらないはずだ。欧米のように、ワクチン接種により日常生活を回復していくことが望ましい。

 新規感染者数であおられ、緊急事態宣言や蔓延(まんえん)防止等重点措置などが発令される。その結果、日常生活でも不自由が生じてストレスを人々に与え、政権批判にもつながるというのが最近の流れだ。

 ワクチン接種者には、各種自粛措置の例外を明確にした方が、ワクチン接種促進のためにもいいだろう。

 われわれ有権者も、新型コロナの状況を判断するのに、新規感染者数だけではなく日常生活がどうなるかに注目したい。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】政府は、感染者が増えても、重傷者、死者を増やさず、社会経済活動を制限しないですむ強靭な社会の形成を目指すべき(゚д゚)!

国内感染者数と内閣支持率の関係を示すグラフをサイトで探してみましたが、あったのは、以下だけでした。少し古いですが、NHKのWEBニュースのものです。


このようにグラフにしてみると、確かに感染者数と内閣支持率には負の相関がありそうです。高橋洋一氏は、実際計算して、相関係数を求めていますが、そのようなことをする報道機関はありません。NHKでもこのようなグラフは出してはいるものの、相関係数を出すまでには至っていません。

相関係数など算出するのはかなり簡単なことであり、excelの関数などを用いれば、すぐに算出できます。相関係数は、算出できるなら算出して、高橋氏のように、記事を書く時などに利用すれば、記事に信憑性をもたせられますし、客観的に記事を書くこともできると思います。しかし、そのようなことをするような報道機関にお目にかかったことはありません。

これは、やはり高橋洋一氏が語るように、大手新聞の記者は「ド文系」なのだからでしょうか。

さて、それはさておき、高橋洋一氏が上の記事の最後に「われわれ有権者も、新型コロナの状況を判断するのに、新規感染者数だけではなく日常生活がどうなるかに注目したい」と述べおり、確かに「日常生活を取り戻す」ことが政府の急務であるのは間違いないです。

これに関しては、他の国ではどうなのでしょうか。たとえば、シンガポールではすでにコロナを「はなり風邪」の扱いにしています。それについては、このブログにも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
シンガポールはコロナを「はやり風邪」の扱いに…方針転換の根拠はイスラエルのデータ―【私の論評】なぜ私達は「ゼロコロナ」という考えを捨て、「ウィズコロナ」にシフトしなければならないのか(゚д゚)!
シンガポールはコロナを「はやり風邪」の扱いに…


詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事より一部を引用します。

 シンガポール政府は6月下旬に「感染者数の集計をせずに重症患者の治療に集中する」と宣言、新型コロナウイルスを季節性インフルエンザのように管理する戦略に切り替えた。

 シンガポール政府の方針転換の根拠になったのはイスラエルのデータである。それによれば、ワクチン接種完了者が感染する確率は未接種者の30分の1、重症化は10分の1に過ぎないという。昨年の新型コロナウイルスの致死率は2〜3%だったが、イスラエルのワクチン接種完了者の致死率は0.3%まで低下している。この数字は季節性インフルエンザの致死率(0.1%未満)と大きな差はない。

 新型コロナウイルスはインフルエンザのような「はやり風邪」になりつつあるとの認識が今後定着するようになれば、「社会としてどの程度まで感染の広がりを許容するのか」という判断が次の大きな問題となる。

この傾向は、ご覧いただければおわかりになるようにこの記事にもありますが、イギリスでも同じような傾向です。というより、現状では、特に先進国では日本だけが感染者数に注目して、とにかく感染者数を減らそうとしているようにみえます。

日本ではコロナワクチンの接種は先進国では一番の速さという勢いで、すすんでいますが、まだ全国民の60%が2回以上接種をするまでには及んでいません。60%に達すると集団 免疫が獲得できるとされていますが、40%以上でもかなり感染者数、死者数が抑えられるようになるとされています。

それと、はっきりした事実があります。それは、この先長い期間(数年から数十年)期間にわたって、コロナ感染症を撲滅することはできないということです。コロナワクチンは、感染症予防に有効ですが、絶対というわけではありません。われわれは、否応なくこれから、コロナと共生していくしかないのです。

であれば、感染者数だけに着目して、感染者数を減らすことにだけ注力することは早晩不可能になります。それよりも、重傷者数や死傷者数に着目して、ある程度感染者数が増えたとしても、重傷者や死者数が少なく、社会経済活動に支障がでない強靭な社会を目指すべきです。

そうして、それにはすでに手本があります。それはインフルエンザです。インフルエンザも重症化すれば大変なことになります。特に、インフルエンザは小学生以下の若年層にも深刻なダメージを与えることもあり、実際過去にはインフルエンザ脳炎などで、なくなった若年層も存在します。

これを軽く考える人もいますが、一度対応を間違えば、インフルエンザも決して侮ることのできない、恐ろしい感染症です。そうして、2016年にはこのインフルエンザが蔓延して、1週間で200万人もの感染者が出ました。しかし、それでも医療崩壊は起きませんでした。

なぜ起きなかったかといえば、インフルエンザ感染症は、日本の分類では5類に分類されているためです。5類に分類されていれば、普通「風邪」と同じような扱いができるので、医療崩壊など起きないのです。

これについては、過去に何度かこのブログに掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。

“緊急事態”AI予測で14日に東京で5000人感染 死者数増も止まらず1カ月後に115人死亡も―【私の論評】日本では2016年にはインフルエンザの感染者数が1週間で200万超となったが、医療崩壊も経済の落ち込みもなかった、希望を失うな(゚д゚)!
緊急事態宣言から一夜明け、通勤客で混雑する品川駅=1月8日午前

この記事は1月8日のものです。 この記事を書いたときには、ワクチン接種はほとんどすすんでいませんでしたが、海外から比較すると、感染者数は桁違いに低いにもかかわらず、マスコミは連日コロナ感染症の脅威を煽り煽っていました。五輪も中止が当然という空気が流れていました。

しかし、この頃から私は私達はコロナと共存していくしかないと考え、しかも日本では重傷者、死者数が元々かなり低かったことから、コロナも「インフルエンザ」と同じような扱いにすべきと主張したのです。

その頃は、一部にはありましたが私のような主張はあまりみられなかったですし、とても多くの人に理解していただけるような状況ではありませんでしたが、最近では新型コロナウイルス感染症の感染症法上の扱いが政府内でも議論を呼んでいます。

感染症では感染症を1~5類などに分類しており、入院や就業制限など、それぞれに実施できる措置等を定めています。新型コロナウイルスについてはこれまでSARSや結核など同じ2類相当としてきたが、季節性インフルエンザと同じ5類に引き下げることについて厚生労働省の内部で議論されていることが明らかになりました。

加藤官房長官は10日、「新たな科学的知見なども踏まえながら不断に見直しが行われていることが求められている」と発言しています。

私たちと新型コロナウイルス感染症との付き合いは、先程も述べたように残念ながらそれほど短い期間で終わるものではありません。コロナだけに特化し、他の疾病や事故を無視したり、どこまでも“ゼロコロナ”を目指したりするような政策を続けていては、それ以外のところで命を落とす人が山ほど出てくることになりかねません。

これについては、主に政府の分科会や日本医師会が懸念を示したことで今に至っていますが、医療現場や保健所等としては、“正直もうやっていられなくなった”というのが実態だと思います。

新型コロナウイルスはコロナウイルスの中でもSARSやMERSなど、2類相当するような致死性が非常に高いものではなく、むしろ季節性の通常のコロナウイルスに近い、いわば“新しいタイプの風邪のウイルス”だということがわかってきています。

通常の風邪になるまでにはさらに時間がかかるでしょうが、致死性を鑑みれば5類相当というのが多くの専門家の意見ですし、より早い段階で引き下げが行われるべきでした。


新型コロナウイルスは65歳以上の高齢者が重症化しやすいことがわかっていますが、その多くはワクチン接種を済ませた状況です。一方、医療現場のメインになってきているのが高齢者に比べて重症化リスクはかなり低い30~50代です。

それでも2類相当では原則入院にということになっているため、実際には軽症者がベッドを埋めてしまっているのです。また、開業医の団体であるところの医師会所属の医師の多くがコロナ対応を拒んでいることもあり、一部の医療機関に負担が集中、病床数も医療従事者も限られて重症者が入院できない、非常に困った状況になっています。

だからこそ軽症者は原則的に自宅対応とし、そのために医師会の協力を得て訪問看護ステーションや開業医に診てもらうという政府の方針は極めてまともですし、合理的な判断です。

日本では在宅医療が十分に進んでいるし、厚生労働省も進めてきています。酸素投与や薬剤投与もできます。本来はそういうことをオールジャパン、医療総動員でやらなければいけない状況なのに、2類相当にしている限りはそれは不可能です。


ワクチン接種は進んできていますが、デルタ株への置き換えが進んでいることもまた事実です。デルタ株の感染力は明らかに強く、水ぼうそう程度だとも言われています。感染力が強ければ感染者は増えるので、それだけ医療機関にも負担がかかります。

ただ海外の知見も踏まえれば、やはり重装備をしてコロナで陰圧室はやり過ぎのようですし、感染力が強く入院が必要な水ぼうそうも5類相当です。

5類相当のインフルエンザの場合、普通の風邪よりは辛いし、中には亡くなる方もいます。だから企業も感染者に無理して出社するな、学校も出席停止だ、という付き合い方になっています。

一方で、インフルエンザが広まっているからといって緊急事態宣言を出したり、飲食店を閉めたりすることはありませんでした。また、医療崩壊の心配もありませんでした。2016年のインフルエンザ蔓延のときを覚えている人もいらしゃるかもしれませんが、あの時もそのようなことはありませんでした。

残念ながら、私たちは既存のインフルエンザのように、これから長い間コロナと付き合っていかなければならないし、一時的に人の流れを止めたところで、後からまた広がることになります。それは致し方ないことです。そういう中で、いかに私達が日常を取り戻すのかということが、極めて重要なことです。

このまま経済状態が悪化すれば、失業率が上昇、自殺者数もさらに増加することになりかねません。政府もどこかで踏ん切りをつけて、コロナと共存できる強靭な社会を目指すようにすべきです。感染者を減らすことにだけ注力するのはもうやめるべきです。感染者が多少増えても、重傷者、死者を増やさず、社会経済活動を制限しない方向に舵を切るべきです。

現状ではまだ際立ったマイナスはありませんが、多くの国々がこの方向に転じようとしている現在、日本も例外であり続ければ、マイナス面が多くなることは目に見えています。

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2021年8月11日水曜日

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自民幹部「ワクチン一本足打法では限界」、衆院選にらみ経済対策求める声



 自民党内で、新たな経済対策を求める声が強まっている。新型コロナウイルスの感染拡大で菅内閣の支持率は低迷しており、大規模な財政出動を掲げて局面打開を図る狙いからだ。秋までに迫った次期衆院選をにらみ、党は近く議論を開始し、政府への提言をまとめる方針だ。

 「コロナを克服するための追加経済対策にしっかり取り組んでいく」

 10日朝、東京都板橋区の街頭に立った自民党の下村政調会長は、コロナ禍で打撃を受けた経済を下支えするための追加経済対策を取りまとめ、政府に働きかける考えを強調した。

 政府は2020年度、コロナ対応のため3度にわたって補正予算を編成した。国民1人当たり10万円の一律給付や、観光支援策「Go To トラベル」を盛り込み、補正だけで歳出総額は70兆円を超えた。

 21年度に入ってからは、追加対策が打ち出されておらず、党内からは「もう1、2回、大きなショットを出して国民の生活を支えていく対策が必要だ」(安倍前首相)との声が上がる。

 背景には、衆院選までに政権浮揚の好材料が乏しいという事情がある。東京五輪でのメダルラッシュは内閣支持率の上昇につながらず、読売新聞社が7~9日に実施した全国世論調査では過去最低の35%に落ち込んだ。党幹部は「ワクチン接種拡大の一本足打法では限界がある」と吐露する。

 二階幹事長は、補正予算案について「選挙前に骨格ぐらいは組んで国民に問いかけるのは、与党・自民党の責任だ」とし、衆院選前に大枠を提示すべきだとの考えだ。「30兆円に近い」規模が必要とも語る。

 具体的には、生活困窮世帯への支援策が焦点となりそうだ。下村氏は個人的な考えとし、住民税非課税世帯などへの1人当たり10万円給付を提唱する。

 首相も「常に経済対策は頭の中に入れている」とし、衆院選前の補正予算案の編成指示を視野に入れる。ただ、「先に数字を出せば、野党はさらにそれ以上の金額を言ってくる」(自民中堅)との懸念から、打ち出すタイミングは慎重に見極める考えだ。

【私の論評】菅政権の経済対策においては、物価目標2%を達成するまでは財政出動を優先し続けよ(゚д゚)!

選挙のことなど別にしても、再びある程度の経済対策を打つべきことは、昨日もこのブログで解説したばかりです。昨日の記事のリンクを以下に掲載します。
高市早苗 前総務相 自民党総裁選挙 立候補に意欲―【私の論評】総裁候補になると見られる人で「インフレ率2%を達成するまでは財政出動を優先する」と発言したのは高市氏だけ(゚д゚)!
高市早苗氏

この記事では、高市早苗氏が、総裁選に立候補する旨を公表し、週間文春に総裁選の公約にもなると考えられる政策やその考え方に関して掲載していることを述べました。

その中で、特に経済対策にして「インフレ率2%を達成するまでは財政出動を優先する」としている点に注目しました。

コロナ禍になる前から、物価目標2%はとても達成できる見込みはありませんでしたが、このような状況下では、2%物価目標を達成するために、政府は財政出動を何よりも優先すべきであり、日銀は包括的な金融緩和をするのが当然です。

この目標すら達成できず、しかもコロナ禍に見舞われたわけですから、なおさら、政府は積極財政、日銀は大規模な金融緩和に踏み切るのが当然です。

そのためにも、政府が大量の国債を発行し、日銀がそれを買い取るという方式(政府と日銀の連合軍)で、資金を調達するのは当然のことです。これを大掛かりに実施すれば、経済に悪影響があるのではと懸念する人もいますが、唯一の懸念はインフレだけです。

ただ、日本は未だ2%の物価目標も達成できない有様ですから、デフレ傾向にあり、かなり国債を発行してもインフレになる心配はありません。

だからこそ、高市氏は「インフレ率2%を達成するまでは財政出動を優先する」と名言したのでしょう。

しかし、このことを理解している議員は、安倍氏や高市氏など自民党でも一部の議員のみです。菅総理は、どの程度理解しているかは、わかりませんが、安倍政権の政策を踏襲するという意味では、ある程度は理解しているでしょう。

しかし、多くの議員は冒頭の記事にもあるように、経済対策を選挙対策の一環ぐらいにしか考えていません。

野党議員だとほとんどの人が理解していません。さらに、マスコミはほとんど理解していません。与野党の議員も、マスコミも、ほとんど経済に関して正しい認識ができず、その時々の政争の道具くらいにしか考えていません。

議員ですらこの有様ですから、議員の発言や主張などを切り取って報道するマスコミの報道のみを情報源とする人々は全く経済のことなど理解せず、単なる気分で、政府を批判しているようです。

各種の報道によれば、ようやく菅政権は補正予算の策定を指示するようです。総選挙の日程はいまのところ10月上旬が濃厚です。補正予算はその後になると言われているようですが、経済的な閉塞感の蔓延を防ぐためにも、パラリンピック終了後に臨時国会で補正予算を通すべきでしょう。その上で総選挙が良いです。

世論調査では、自民党支持層でも菅政権への支持率が低下傾向にあります。再び民主党政権誕生前にみられた、ワイドショー的な煽りが加熱していることもあるのでしょう。

あの当時は、「自民党にお灸をすえる」「一度は民主党にやらせよう」という無責任で無思考な流れがありました。今回は、ワイドショーなど報道は、新型コロナの感染拡大やワクチン接種などで、「印象操作報道」を多く繰り広げています。それが政権へのダメージになるからです。

ワクチンに関しては、日本は摂取が世界でも遅れて、菅政権は大失敗したとの印象操作がなされています。現実には、日本はすでに必要なワクチンを確保しているどころか、それを上回り有り余るほどのワクチンを確保ずみですし、1日のワクチン接種回数は世界トップクラスです。以下のグラフは、100人あたりの1日ワクチン接種数の国際比較。


この事実を見る限り、日本はかなりの速度でワクチン接種が進んでいるというか、世界一であることがわかります。

以下のグラフは、コロナワクチンの確保状況を示しています。日本は100%を超えています。


いまだに根強い偏見のひとつは、「日本はワクチンを確保していない。ワクチンが足りないし個別交渉でファイザーからの追加供給に失敗した大失態。ワクチンを確保できないのは菅政権のせい」というものです。確かに国内では、供給のミスマッチがあっても人口を上回るワクチンを確保しています。IMFとWHOによるわかりやすい図です。

いかなる政権も弱体化すればするほど、大胆な政策は打てなくなります。だからこそ、戦争や未曾有の大災害の場合など、政権交代などするべきではないのです。

菅政権も弱体化しつつつあるというのは事実のようです。実際本来菅政権自体は、もともとはGOTOトラベルを継続するつもりでしたし、緊急事態宣言も繰り返すつもりはなかったようですし、五輪ももともとは制限しつつも有観客で実施しようとしていました。しかし、野党・マスコミによる印象操作により、弱体化し大胆な政策は打てなくなり、現在に至っています。菅政権としても、これは不本意てしょう。

民主党政権誕生の時の教訓は、世論というかワイドショー民(ワイドショー的報道に判断を大きく左右される人たち)には、合理的な判断よりも目先の印象が重要になる、そして、その結果は、日本社会や経済にとって最悪なものになるということでした。多くの有権者が自民党に「お灸」を据えるつもりが、民主党政権が誕生してしまい、とんでもないことになってしまいました。

有権者がまた「お灸」を据えるというつもりで、政権交代を許してしまえば、「悪夢の民主党政権時代」の繰り返しなってしまいます。それだけは避けたいところてすが、菅政権も自らそのようなことは避けるべきです。

菅政権は世論の関心を大きく転換するような大胆な経済政策を行うべきです。それしか現在の八方ふさがりの閉塞感を打開することはできないでしょう。

その意味でも、菅政権は高市早苗氏の経済対策を、そのまま実行する必要まではありませんが、参照はすべきでしょう。特に財政政策として「インフレ率2%を達成するまでは財政出動を優先する」というところは外せません、これを外せば、一時的には良くなっても長続きはせず、閉塞感を打開することはできなくなるでしょう。


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2021年8月10日火曜日

高市早苗 前総務相 自民党総裁選挙 立候補に意欲―【私の論評】総裁候補になると見られる人で「インフレ率2%を達成するまでは財政出動を優先する」と発言したのは高市氏だけ(゚д゚)!

高市早苗 前総務相 自民党総裁選挙 立候補に意欲

高市早苗

任期満了に伴う自民党総裁選挙について、高市早苗 前総務大臣は10日発売の月刊誌「文藝春秋」に論文を寄せ、立候補に意欲を示しました。

この中で、高市氏は、去年、菅総理大臣が選出された経緯に触れ「私が1票を投じたのは、安倍内閣の政策を踏襲すると明言したからだが、アベノミクスの2本目の矢である『機動的な財政出動』は適切に実行されなかった。小出しで複雑な支援策に終始している感がある」と指摘しています。


そのうえで、菅総理大臣の自民党総裁としての任期が来月末に迫っていることを踏まえ「力強く安定した内閣を作るためには総裁選挙を実施し、すべての党員から後押ししてもらえる態勢を作ることが肝要だ。社会不安が大きく課題が多い今だからこそ、今回、私自身も総裁選挙に出馬することを決断した」として総裁選挙への立候補に意欲を示しました。

高市氏は、衆議院奈良2区選出の当選8回で60歳。

党内の派閥には所属していませんが、安倍前総理大臣に近いとされ、安倍政権では、党の政務調査会長や総務大臣などを歴任しました。

【私の論評】総裁候補になると見られる人で「インフレ率2%を達成するまでは財政出動を優先する」と発言したのは高市氏だけ(゚д゚)!

高橋早苗氏の「文藝春秋」に寄せた論文のリンクを以下に掲載します。
高市早苗「総裁選に出馬します!」
詳細は、この記事を是非ご覧になってください。

この中で私が最も注目したのは、以下です。
インフレ率2%を達成するまでは、時限的にプライマリーバランス(PB)規律を凍結して、戦略的な投資にかかわる財政出動を優先する。頻発する自然災害や感染症、高齢化に伴う社会保障費の増大など困難な課題を多く抱える現状にあって、政策が軌道に乗るまでは、追加的な国債発行は避けられない。

こう述べると「日本国が破産する」と批判される方がいる。しかし、「日本は、自国通貨建て国債を発行できる(デフォルトの心配がない)幸せな国であること」「名目金利を上回る名目成長率を達成すれば、財政は改善すること」「企業は借金で投資を拡大して成長しているが、国も、成長に繋がる投資や、将来の納税者にも恩恵が及ぶ危機管理投資に必要な国債発行は躊躇するべきではないこと」を、強調しておきたい。

「強い経済」は、結果的に財政再建に資するものであり、全世代の安心感を創出するための社会保障を充実させる上でも不可欠だ。外交力や国防力、科学技術力や文化力の強化にも直結する。

「インフレ目標2%を達成するまでは、インフレ率2%を達成するまでは、時限的にプライマリーバランス(PB)規律を凍結して、戦略的な投資にかかわる財政出動を優先する」ということをはっきりと発言したのは総裁候補とみられる人の中では高市早苗氏だけかもしれません。

総裁選出馬にあたって、高市氏は政権構想「日本経済強靭化計画」の一部を披露しています。う上で引用した部分は、その流れで出てきた内容です。

高市氏は、「私は、国の究極の使命は、『国民の皆様の生命と財産を守り抜くこと』『領土・領海・領空・資源を守り抜くこと』『国家の主権と名誉を守り抜くこと』だと考えている」

そう基本軸を設定したうえで、大胆な「危機管理投資」と「成長投資」が必要だと指摘。

「『危機管理投資』とは、自然災害やサイバー犯罪、安全保障上の脅威など様々なリスクについて、『リスクの最小化』に資する研究開発の強化、人材育成などを行うことだ。(中略)

『成長投資』とは、日本に強みのある技術分野をさらに強化し、新分野も含めて、研究成果の有効活用と国際競争力の強化に向けた戦略的支援を行うことだ」

 さらに、「中国リスク」への対策も盛り込まれています。

「今後、中国共産党が日本社会への浸透と工作を仕掛けてくる可能性もある。(中略)日本国内の企業や大学や研究機関の内部に設置された中国共産党組織が、先進技術や機微技術の流出拠点となる懸念も大きい」としたうえで、法制度整備と体制強化を提案している。

中国対策に関しては、現状の中国の傍若無人な態度や行動をみていれば、当然であり、他の総裁候補も同様のことをいうでしょう。

しかし、どのような形であれ「インフレ率2%を達成するまでは財政出動を優先する」と発言するのは高市氏だけかもしれません。やっと、自民党総裁候補にも、緊縮派とはいえない人が出てきたと思います。安倍元総理も、緊縮派ではありませんでしたが、ここまではっきりとは言っていなかったと思います。

景気が低迷したとき、標準的なマクロ経済学では、積極財政、金融緩和をせよと教えています。

それは特にデフレのときには、これらを実行して、速やかにデフレから脱却せよと教えています。そうしてそれは、古今東西どこでも正しいことが立証されています。これ以外の政策を実施した場合はすべて失敗しています。

マクロ経済の全体像

ところが、安倍政権が成立するまでの日本では、デフレであるにもかかわらず、政府は緊縮財政を行い、日銀は金融引締策ばかりを実行してきました。

そこに安倍政権が登場して、政府は積極財政、日銀は金融緩和に転じました、そうして景気は凄まじい勢いで回復していきました。特に雇用の改善には目覚ましいところがありました。

ところが、財務省は増税キャンペーンを執拗に繰り返し、これにマスコミや多くのエコノミストが加勢し、安倍政権は二度にわたり増税を延期したのですが、とうとう増税せざるを得ない状況になり、2014年4月には消費税を8%に増税し、2019年10月には消費税は10%になりました。

日銀は、安倍政権発足のときには、異次元の包括的金融緩和を実施しましたが、緩和の姿勢を崩してはいませんが、2016年からは、イールドカーブ・コントロールを実施し、抑制的な緩和に転じました。

増税と、抑制的な緩和により、物価目標2%の達成は未だできていないどころか、現状のままでは、とてもおぼつきません。 

これに対しては、積極財政と金融緩和が有効であり、コロナ禍の現状で経済が低迷してい現状では、すみやかに大規模な財政出動と金融緩和を実行して、素早く景気を回復させる必要があります。そのためには、国債を大量に発行すべきです。

金利がマイナス、もしくはゼロに近い国債を大量発行したとしても、政府の負担はそれほどでもありません。マイナスであれば、発行すればするほど政府は儲かることになります。これは、たとえば銀行の貸し出し金利がマイナスになれば、借りれば借りるほど儲かるし、マイナスでなくても金利がゼロに近ければ借りやすいというのと同じであり、小学生にでも理解できると思います。

国債を発行すると将来世代へのつけとなるという非常識な人もいますが、それは完璧に間違いであることをこのブログでは、根拠を示して何度も述べています。

高市氏は、日銀の金融緩和については、はっきりとは述べていませんが、当然これも視野に入っていると思います。日銀法の改正も視野に入れていただきたいものです。

日本では、中央銀行(日本では日銀)の独立性とは、日銀が独自で日本国の金融政策を定めて実行することだと理解されているようですが、世界水準では、中央銀行の独立性とは政府の定めた目標に従い、自由に方法を選択できるというのが中央銀行の独立性であると理解されています。

日銀法を改正して、日本でも世界水準の中央銀行の独立性を確保するとともに、政府が日本国の金融政策の目標を定められるようにすべきです。ただし、そうなっても、マクロ経済がわかっていない人が政治家の多数を占めていれば、同じことです。

やはり、政治家自身がマクロ経済をある程度理解すべきでしょう。とはいえ、政治家自身は、細かなことまで知る必要はないです。このブログにも過去に何度も掲載してきた以下のグラフの意味が本当に理解しているだけで十分です。


このフィリップス曲線、世界中のどこの国でも、だいたい似たような曲線になります。ただし、NAIRUとインフレ目標は、それぞれの国や、時期になどによって若干変わります。

NAIRUとは、インフレ率を上昇させない失業率(non-increasing inflation rate of unemployment)のことです。

現在の日本では、NAIRUは2%の半ば程度であるとみられています。インフレ目標は物価目標と同じで2%です。

このグラフをみて、何のことだかわからない人は、マクロ経済を全く理解できていません。経済のことを知りたいとか、語りたいと思うなら、最初にこのグラフの意味を理解すべきです。そうでないと、無意味な議論しかできませんし、経済に関して知識を積み上げようとしてもできません。安倍元総理や、高市早苗氏はこれを十分理解していることでしょう。

高市氏は、これを理解しているだけではなく、まともな経済対策を打つことを邪魔する財務省の取り扱い方についても、理解していることでしょう。

いずれにしても、日本の総裁候補の中に、緊縮とは無縁の人がでてきたのは喜ばしいことです。高市氏が総裁になれば、日本経済もかなり良くなると思われますが、そうならなくても、総裁選で大善戦して、新総裁に経済対策の面で大きな影響力を行使できるようになっていただきたいものです。

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2021年8月9日月曜日

絵に描いた餅となる米による対中としての露取り込み―【私の論評】現状のロシアはたとえ米国が仲間に引き入れたとしても、大きな荷物になるだけ(゚д゚)!

絵に描いた餅となる米による対中としての露取り込み

岡崎研究所


 バイデン大統領は、中国との競争を米外交の第一優先事項に正しく位置づけている。最初の政策文書では、中国につき「経済、外交、軍事、技術力を組み合わせて安定し開放的な国際システムに挑戦しうる唯一の競合国」と言明し、バイデンも出席した6月のNATO首脳会議の共同声明は初めて「中国の台頭は全ての同盟国にとり安全保障上の意味を持っている」としている。中国は、冷戦時代のソ連と類似した役割を果たす面も出てくる。そうすると、ニクソンが冷戦時代にソ連に対抗すべく共産党の中国を取り込んだこととの類推から、中国からロシアを引きはがすことを試みるべきであるとの意見が出てくる。

 これに対し、マクフォール元駐ロ米大使は、7月21日付けワシントン・ポストに、WPに‘Trying to pry Russia away from China is a fool’s errand’(中国からロシアを切り離そうとするのは愚か者の使い走りである)という辛辣なタイトルの論説を書いて反対している。論説の骨子は次の通りである。

・中国とのバランスをとるためにロシアを米側に引き付ける考えは魅力的に聞こえるが、今はこの考えは機能しないし、もし機能したとしても、ニクソンの時のような便益をもたらさないだろう。

・ニクソン訪中時には、成功のための不可欠な前提条件、すなわち中ソの対立が既にあった。しかし、逆に、今日の中ロの経済、安保、イデオロギーの結びつきは今までなかったように緊密である。プーチンが専制主義的な魂の友である習を捨て、民主主義の指導者バイデンとなれなれしくするだろうか。

・仮に方針変更により中ロ引き離しが成功しても、プーチンのロシアとの接近は、便益が少なく不利益が多い。米国はロシアのエネルギーを必要としていない。一方、プーチンは、アジアで中国を封じ込めるために追加的にロシアの兵士、ミサイル、船舶を配備することはないだろうし、方針変更の見返りにウクライナとジョージアに関連して好ましくない譲歩を求めるだろう。

・最もよくないのは、中国の専制主義者を封じ込めるためにロシアの専制主義者と接近することは、自由世界を統一させるとして、バイデンがこの6か月情熱をもって語ってきたことを掘り崩すことだろう。

・将来、米国は、中国を封じ込め、中国と競争する上で、ロシアとより深いパートナーシップを追求すべきであるが、それは専制的プーチンとではなく、民主ロシアとの間で始められるべきあろう。

 このマクフォールの論説には賛成できる。中国と今後対抗していく上で、ロシアを民主主義国の側につけることを考えるというのは、一見良い考えのように思えるが、全くそうではない。ロシアは腐敗した専制主義の国であり、民主主義国とは言えない。

 バイデンが中国との競争を「専制主義と民主主義の戦い」としていることには議論の余地があるが、そう言っている以上、対中関係を進める都合上、専制的なロシアと組むという選択肢はないはずである。さらに、マクフォールも指摘する通り、ロシアがウクライナとジョージアに対する違法行為を認めるような要求を米ロ接近の見返りとしてすることは十分に考えられる。

 ロシアは多くの核兵器を持っているが、経済的には、IMF統計によればロシアは韓国以下の国内総生産(GDP)しか持っていない。今後の石油価格の動向によるが、脱炭素化が言われる中、経済的にはさらに疲弊していくだろう。プーチンは、ロシアは中国のジュニア・パートナーとして生きるしかないと思っているのではないか。

 ロシアはそろそろ変わる時期に来ているのではないかと思われる。プーチンは2036年まで大統領に留まれるように憲法改正をしたが、そのかなり前に引退することになる可能性があるように思われる。プーチン後の指導者がどうなるかわからないが、西側との関係を重視する人になる可能性は低くないのではないか。その時になって初めて、民主ロシアとのパートナーシップが考慮に値する選択肢になるということだろう。

【私の論評】現状のロシアはたとえ米国が仲間に引き入れたとしても、大きな荷物になるだけ(゚д゚)!

このブログでも何度か述べてきたように、現在のロシアは旧ソ連の軍事技術や核兵器を継承している国であり、その点では侮ることはできませんが、GDPは韓国なみであり、もはやかつてのソ連のような超大国でないのは確かであり、大国とすら呼べない国になっています。

現在のロシアは、米国なしのNATOと戦争したとしても、勝つことはできないでしよう。持ち前の軍事技術を活用して、初戦には勝つこともあるかもしれませんが、その後は経済力に優れるNATOがロシアを圧倒するでしょう。

ロシアはもう大掛かりな戦争はできません。ウクライナなどの先進国以外の国とであれば、勝つみこみもありますが、先進国に勝つことはできないでしょうし、ましてやNATOと現在のロシアとでは、勝負は最初からついています。

そもそも、ロシアは大戦争を開始してしまえば、その経済力からみて、兵站を維持できません。今年の5月にそれを如実に示すような事態が発生しました。

それについてはこのブログでも解説したことがあります。その記事のリンク以下に掲載します。
ロシアが演習でウクライナを「恫喝」した狙い―【私の論評】現状では、EU・日米は、経済安保でロシアを締め上げるという行き方が最も妥当か(゚д゚)!

4月22日、ロシアが2014年に一方的に併合を宣言したウクライナ南部クリミア半島で、
軍用ヘリコプターから軍事演習を視察するショイグ国防相

詳細はこの記事をご覧いただくものとして、一部を引用します。

 ロシア軍がウクライナとの国境地帯に集結し、ウクライナとロシアとの緊張が高まっていた。戦車、軍用機、海軍艦艇とともにロシア軍兵士約10万人が展開し、米国とNATOはこれを厳しく非難していた。

 この展開についてロシア側は、部隊は演習をしているのであり、誰に対する脅威でもない、と言ってきた。4月23日、ロシアのショイグ国防相は、演習は終わったとして部隊に撤収を命じた。ただし、ショイグは、NATOの年次欧州防衛演習(東欧諸国で6月まで行われている演習)で不利な状況が出て来た場合にすぐ対応できるようにロシアの全部隊は即応体制にとどまるべきである、とも述べている。

旧ソ連のまだ衰退する前のソ連であり、GDPが米国に次ぐ世界第二位であった頃のソ連であれば、似たような事態(当時はウクライナはソ連邦に属していた)があれば、半年でも1年でも、他国の国境付近に軍隊を駐留させて、軍事演習をしていたかもしれません。

現在のロシアにはそれはできません。経済力がないので、兵站を維持できないからです。現代の陸軍2万人規模の一個師団であれば、1日で2000トンの水・食糧・その他を消費します。空軍が陸軍の一個師団を火力支援するなら、一日で弾薬も含めて4000トン消費するのです。つまり、セットで6000トン消費するのです。

作戦規模が大きくなれば、5倍や10倍の消費になるのは当たり前です。この消費に耐えるように、各国は常に生産・輸送・備蓄・補給を行います。消費と同時に備蓄も進めるので、生産ができなければ対応困難となります。

このようなことは、現在ロシアには到底できません。軍事演習は実際に他国の軍隊に対して、武力攻撃しないだけであり、後は実戦と同じです。

ロシア海軍ミサイル巡洋艦ヴァリャーグ

上で述べたようにロシアがウクライナ国境にロシア軍約10万人を配置して軍事演習を行うと、1日で1万トンもの水・食糧・その他を消費することになります。これを長く続ければ、どうなるか考えてみてください。

だからこそ、ロシアのショイグ国防相は、演習は終わったとして部隊に撤収を命じたのです。

 現代のロシアが、いまのままで対中のために、米国がロシアを取り込んだとしても、中国にとってロシアはもはや大きな脅威ではないということです。

それに、経済力に劣るロシアを米国が取り込めば、今度は米国がロシアの面倒をみなければならなくなります。米国は、ロシアに対して様々な面で経済や軍事的援助を行わなければならなくなるでしょう。

そもそも、ロシアは中国と長い国境を接しており、中国の人口が14億人、ロシアのそれは1億4千万人に過ぎません。特に中国と国境を接する極東地域の人口密度はかなり低いです。中国と対峙することは、ロシアにとって大きな脅威となることでしょう。

このようなことをロシアが自ら、招くようなことはしないでしょう。ただし、米国の戦略家ルトワック氏は、ウクライナ危機で中国とロシアの接近は氷の微笑だと分析しています。

米国の戦略家 エドワード・ルトワック氏

本質的には、ロシアと中国は同盟関係になることはなく、互いに敵対関係にあるとみるべきです。だからこそ、中国からロシアを引きはがすことを試みるべきという考えもでてくるのです。

しかし、現状のロシアはたとえ米国が仲間に引き入れたとしても、大きな荷物になるだけです。仲間に引き入れるとすれば、今後ロシアが経済成長をするとともに、中国が経済的に疲弊し、中露の経済が拮抗するようになった場合でしょう。

その時は今ではないことは確かです。プーチンがロシアを支配している限りは、その時はきません。ロシアでも、民主化、政治と経済の分離、法治国家化を推進して、中間層が多数排出され、それらが自由に社会・経済活動を行えるような素地ができあがれば、話は変わってきますが、現状では全く無理です。

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2021年8月8日日曜日

五輪後の「対中包囲網」強化へ 米国務長官「中国による人権侵害に『深刻な懸念』」 北京五輪の是非にも注目 日米外相会談―【私の論評】コロナウイルスの「研究所流出説」が明らかになれば、中国は五輪開催どころではなくなる(゚д゚)!

五輪後の「対中包囲網」強化へ 米国務長官「中国による人権侵害に『深刻な懸念』」 北京五輪の是非にも注目 日米外相会談

アントニー・ブリンケン米国務長官

 アントニー・ブリンケン米国務長官が、東京五輪閉会後の「対中包囲網」強化に向けて動き出した。東南アジア諸国連合(ASEAN)地域フォーラム(ARF)閣僚会議で、中国の人権弾圧や軍事的覇権拡大を厳しく批判したうえ、日米外相電話会談で、日米同盟の強化や「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けた連携を再確認したという。

 「中国によるチベット自治区や香港、新疆ウイグル自治区での人権侵害に『深刻な懸念』を表明し、南シナ海での挑発行為の停止も求めた」

 米国務省は6日、日米中韓やASEAN、欧州連合(EU)など計27カ国・機構が同日、オンライン形式で開催したARF閣僚会議で、ブリンケン氏が発言した内容をこう発表した。

 「平和の祭典」である東京五輪が終わると、国際社会では、半年後に迫った「北京冬季五輪」の是非が注目される。

 欧米の議会では、中国当局によるウイグルでの人権弾圧を「ジェノサイド(民族大量虐殺)」と認定する決議が相次いで出ており、「外交的ボイコット」や「開催地変更」を求める意見も続出している。

 ASEAN諸国では、ベトナムが中国に厳しい立場であるのに対し、カンボジアなどは親中姿勢が目立つなど、中国への態度は一枚岩ではない。

 ブリンケン氏の発言は、欧米と東南アジア諸国の状況を踏まえて、「対中包囲網」強化を狙ったものとみられる。

 ARF閣僚会議の途中、茂木敏充外相とブリンケン氏による日米外相電話会談が約30分間行われた。日米同盟の強化や、「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けた連携が再確認された。

 この中で、ブリンケン氏は、日本が「安全で安心な東京五輪・パラリンピックの開催」に取り組んでいるとして「感謝の意」を表明した。

【私の論評】コロナウイルスの「研究所流出説」が明らかになれば、中国は五輪開催どころではなくなる(゚д゚)!

上の記事では、触れられていませんが、「対中包囲」の有力な根拠となるのが、いうまでもなく、コロナです。武漢でコロナ感染の危機を李医師が報告したにもかかわらず、中国共産党はこれを隠蔽しました。

李文亮氏

中国共産党がこれを隠蔽せずに、早い時期に対処していれば、世界はコロナ感染症によるパンデミックには見舞われなかったかもしれません。うまく対処していれば、武漢市内だけの感染ですんだかもしれません。

最悪でも、中国国内の一部の感染で終わったかもしれません。しかし、中国共産党はこれを隠蔽、それがパンデミックのきっかけとなりました。

米ジョンズ・ホプキンス大学の集計によると、新型コロナウイルスの世界の累計感染者数が4日午後(日本時間5日朝)、億人を突破しました。1月下旬に1億人を超えてから半年余りで倍増しました。死者数は約425万人に上ります。

その後各地で変異株がみられていますが、コロナウイルスに限らず、ウイルスそのものが、時とともに変異するものであり、コロナウイルスもその例外ではありません。すべては最初は武漢から伝播したものであることには違いありません。

さらに、最近ではコロナウイルスの「研究所流出説」が有力になりつつあります。これは、昨年は非科学的であるとの批判があり、多くの科学者が口をつぐんでいたのですが、このブログでも掲載したように、「ドラステイック」という素人集団が、「研究所流失説」を否定できない証拠を見出し、これを発表したことがきっかけとなり、各方面で追求が進んでいます。

武漢ウイルス研究所

2日には、米下院外交委員会ナンバー2で共和党のマイケル・マコール議員が報告書を公表した。2019年9月と10月の衛星写真で武漢ウイルス研究所周辺の病院に集まる人が急増している様子や、同年9月12日深夜に研究所のウイルスデータベースが突然削除されたことなどを指摘しており、初症例を「19年12月」とする中国の見解と食い違っています。

この報告書の詳細については、以下のリンクをご覧になってください。
「コロナは武漢研究所から流出」米共和党が衝撃の報告書 ロイター報道 識者「バイデン政権と中国側の“談合”を強く牽制」―【私の論評】Intelligence(諜報活動)はもう、専門家だけの独占領域ではなくなった。変化を起こすチャンスは誰でもある(゚д゚)!
これとは別に、中国の武漢ウイルス研究所が扱っていた膨大なデータを米情報機関が入手、解析を進めているとCNNが報じています。

情報機関は、武漢のウイルス研究所が扱っていたウイルスのサンプルの遺伝子情報を含むデータを入手したとみられます。入手方法や時期は明らかになっていませんが、CNNテレビは、ウイルスの遺伝子情報を解析する機器は通常、外部サーバーとつながっていることが多いことなどから、ハッキングで得た可能性があるとしました。

ウイルスの遺伝情報、特に変異の解析をすれば、かなりのことがわかります。昨年このブログにも掲載したように、遺伝子の変異情報から、各国のコロナ対策の可否までわかる可能性が高いです。「研究所流出」に関しても解析できる可能性が高いです。

武漢ウイルス研究所をめぐっては、世界保健機関(WHO)の調査団が今年になって入ったのですが、まともな成果は得られませんでした。

中国がデータの提供を拒否する中、バイデン政権は5月下旬、新型コロナウイルスについて研究所からの流出説と動物を介した感染説があるとして、追加調査の上で「90日以内」に結果を報告するよう情報機関に指示しました。結果の公表期限が今月24日です。

どのような報告書になるのかはわかりませんが、いずれにしても「研究所流出」を覆すものにはならないでしよう。

トランプ氏は6月5日、東部ノースカロライナ州で開かれた共和党集会で演説し、武漢の研究所流出説が再び真実味を帯びてきていると指摘しました。「中国は彼らがもたらした死と破壊の代償として10兆ドルを、アメリカ、そして世界に対して支払うべきだ」と述べたほか、制裁として中国製品に100%の関税を適用すべきだとの考えを明らかにしました。

トランプ氏

ウイルスの流出は意図的ではなくとも、公表遅れやデータ隠蔽が確認されれば、賠償請求や制裁につながりかねず、五輪ボイコット論もさらに補強されることになるでしょう。米中対立のレベルを超え、『世界vs中国』の構図になってもおかしくないです。

中国は冬季五輪開催どころではなくなるかもしれません。日本では相対的にかなり死者が少なかったため、なかなか想像しにくいことかもしれませんが、死者の多かった国々では、中国に対する恨みつらみは相当なものだと思います。世界中から憤怒のマグマが湧き上がり、中国共産党は、そのマグマをそらすこともできず、まともに浴びることになるかもしれません。

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2021年8月7日土曜日

対中政策として日本はバイデンに脱保護主義求めよ―【私の論評】米国が経済安全保障という観点から、中国に制裁を行うのは同盟国には異論はないが、保護主義に走るのは筋違い(゚д゚)!

対中政策として日本はバイデンに脱保護主義求めよ

岡崎研究所



 7月17日付の英Economist 誌は、「バイデンの新しい中国ドクトリン。その保護主義と、米国か中国かの選択をせまるレトリックは、米国を害し同盟国を遠ざける」との社説を掲載している。

 長い間、米国の楽観主義者たちは、世界経済に中国を歓迎することは、中国を「責任ある利害関係者」にし、中国に民主化をもたらすと考えてきた。しかし、現実は、その期待を裏切った。トランプ政権において、既に米中対立は、貿易や技術を通じて始まっていたが、バイデン政権は、米中対立を、民主主義対独裁主義という政治システムないしイデオロギーの闘争にしている。これを、エコノミスト誌は、「トランプとバイデンはニクソン訪中後の50年で最も劇的な対中外交の転換をもたらしている」と位置付ける。そして、その基本方針を是認しながらも、詳細には幾つか問題があると指摘する。

 エコノミスト誌の社説は、バイデン政権の対中政策に関連して、主として労働組合に配慮するバイデン政権の貿易に関する保護主義を批判したものであり、適切な論を展開している。貿易面で保護主義を実施しながら、米中対立で米国の側に立つように同盟国や新興アジア諸国を説得していくのは難しいのではないかとのこの社説の論旨をバイデン政権はよく考えてみるべきであろう。

 オバマ政権が締結し、アジアにおける貿易の自由化その他に大きな影響を与えるはずであったTPP(環太平洋パートナーシップ) をトランプは拒絶してしまったが、日本が努力して部分的に環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定(CPTPP)として復活させた。今やこれに英国も加入の道を探っている。これには台湾も経済地域として条文上参加できることになっており、それが実現すれば、台湾の国際的地位の向上や経済面での良い効果が見込まれる。米中対立の中で、台湾は米ソ冷戦時代のベルリンに似たような重要性を持っているのであるから、バイデン政権はこの問題をもっと真剣に検討すべきであると思われる。

 バイデン政権の対中政策には中国の国際法を無視した行動を看過すべきではないと考えるので、全体として賛成であるが、エコノミスト誌の社説が言うように詳細なところで効果的ではないところがある。信頼されている同盟国として、日本も、米国には率直な意見を述べていくことが望ましいと思われる。

 中国の台頭は、少子化、高齢化の人口上の問題、水の枯渇や大気の汚染などの環境問題があり、これまでのように順調にいくとは思えない。対外的には習近平は早々と鄧小平の「能ある鷹は爪を隠す」政策を放棄し、国際的に対外強硬路線を打ち出しているが、結局のところ、自ら中国を取り巻く国際環境を悪くしているようである。

【私の論評】米国が経済安全保障という観点から、中国に制裁を行うのは同盟国には異論はないが、保護主義に走るのは筋違い(゚д゚)!

保護主義とは、外国から輸入する商品に関税をかけたり、商品の輸入の量を制限したり、輸入時の手続きや検査を厳しくして、実際に輸入する量を制限したりして(非関税障壁といわれる)、自由な貿易を制限をすることです。 自国の産業・企業の保護や、貿易赤字を解消する目的で行われます。



保護主義のメリットとデメリットを以下にあげます。

〈保護主義のメリット〉

・国内産業の保護・育成
安い外国製品との競争から守られるので、その産業が成長します。また、高い品質の製品を外国から買うだけでは、いつまでも国内産業は技術発展しません。
・雇用の増加
保護された産業が成長すると、人を雇います。働く人が増えれば、税金を収め国も豊かになります。
・貿易赤字の減少
貿易で、輸入額>輸出額だと貿易赤字となります。保護貿易で輸入が減れば、貿易赤字の減少につながります。
〈保護主義のデメリット〉

・他国から非難される
関税を上げると、その商品を多く輸出していた国は儲からなくなるので、非難されます。
・制裁や報復を受ける
保護貿易の理由を説明しても納得してもらえない場合、他国からもお返しで関税アップなどの報復を受けます。
・貿易摩擦の発生
お互いに関税をアップし続け、それがエスカレートしてしまい、他の分野にも悪影響を及ぼしてしまう貿易摩擦・貿易戦争につながる可能性があります。
・外国の良い商品が買えない
国民は、安くて品質の良い海外製品を購入することができません。
・外国へ商品を売りにくくなる
外国からの報復で、海外へ売る時に高い関税をかけられますので、商品を売りにくくなります。
以上からみて明らかなように、発展途上国などの場合は、保護主義にはメリットがあり、さらに保護主義に走っても他国から一定の理解を得やすいといえます。

先進国の場合は、保護主義にはデメリットのほうが多く、さらに保護主義に走れば、他国からの反発をくらいやすいといえます。

米国のように自由主義を標榜する国が、保護主義に走れば、他国、特に先進国からは、反発をくらうのは必至です。

バイデン米大統領は4月28日の施政方針演説で「米国人の雇用を生み、米国でつくられた米国製品を買うのに米国人の税金を使う」と述べ、保護主義的な姿勢を鮮明にしました。中国の通商問題に対処するとしつつも、具体的な政策に踏み込みませんでした。

施政方針演説におけるバイデン大統領

バイデン氏は「『米国雇用計画』の投資は1つの原則が指針となる。バイ・アメリカンだ」と力を込めました。トランプ前大統領が施政方針演説で「米国製品を買い、米国人を雇う原則が指針となる」と語ったのとほぼ同じです。内向きの姿勢は変わらりません。

バイデン氏はインフラ投資で外国製品を使う例外を限定すると強調しました。米国は公正な調達ルールを定めた世界貿易機関(WTO)の政府調達協定に加わるのですが「どんな貿易協定にも違反しない」と正当性を主張しました。

通商政策では対中国を取り上げました。国有企業への補助金や、技術や知的財産権の窃取を挙げて「米国は不公正な貿易慣行に立ち向かう」と語気を強めました。中国に構造問題の是正を迫る方法は明示し

トランプ氏は演説で、関税を使って圧力をかけると表明しました。バイデン政権はこれから具体策を問われることになる。

米政府の年間予算規模は4.7兆ドルに達するが、物品などを購入する政府調達は約6000億ドル程度といわれる。

"バイ・アメリカン"という言葉は、バイデン氏の専売特許ではなく以前からあるものです。そもそも、バイ・アメリカン政策は、政府調達や政府が財政支援するプロジェクトにおいてアメリカ製品の購入を優先するもので、1933年に成立したバイ・アメリカン法(ハーバート・フーバー大統領の任期最終日に署名された)や、バラク・オバマ政権下の2009年に成立した景気対策法におけるバイ・アメリカン条項などを根拠とします。

連邦政府の調達規則では、バイ・アメリカン政策に従う場合、価格ベースで自国製品や自国資材を50%以上にすることを求めていますが、バイデン政権は、この比率を上げて米国製品の調達を増やします。また例外適用についての判断基準も厳格化するといいます。

民主党はもともと労働組合が支持母体であり、時に保護主義的な政策によって雇用維持を図ることがあるので、これはある程度、予想された事態と言ってよいです。バイデン氏自身は自由貿易論者といわれ、本来なら過度な保護主義には走らないはずですが、今回は少し様子が違うようです。バイデン氏は脱炭素シフトを重要な政策に掲げており、国境炭素税の導入まで検討しているからです。

国境炭素税とは、脱炭素を促すため環境規制が緩い国からの輸入品に税金を課すもので、EUが既に導入を表明しています。ところが、この税金は事実上、特定の国を対象とした関税そのものであり、本来ならWTO(世界貿易機関)の協定違反となりかねないものです。

ところが、脱炭素シフトの必要性から、これを例外適用すべきとの議論が盛り上がっています。もしバイデン政権が国境炭素税を導入すれば、トランプ政権が実施した中国に対する高関税の対象や製品が替わるだけで、事実上、保護貿易が継続される可能性が高まってきます。

菅政権は2050年までの温暖化ガス排出量実質ゼロ宣言を行い、日本も脱炭素シフトに舵を切り始めました。

ところが日本の環境規制は欧州などと比較すると甘く、米国が本格的に脱炭素シフトを進めた場合、中国からの輸入品に加え、日本からの輸入品についても高関税が課される可能性が否定できないです。政府調達における外国製品の採用比率も下がってしまえば、まさに日本の輸出産業にとってはダブルパンチです。

日本では、「アメリカ・ファースト」などの言葉尻を捉えて、トランプ前大統領が保護主義的傾向を強めたと見る向きも多いですが、米国の保護主義的傾向は今に始まったことではなく、トランプ政権以前のオバマ政権時代あたりからかなり顕著となっていました。在日米軍や在韓米軍の撤退論もこの頃から本格化しているという現実を考え合わせると、これは長期的な動きであり、今だけの現象とは考えないほうがよいです。

トランプ前大統領が最初に保護主義的政策を打ち出したという認識は間違い

ただし、自由主義を標榜する米国が、保護主義に走れば、先進国、特に同盟国からの反発は免れないでしょう。

現在の戦争は、武力を用いれば、抜き差しならない状況になるのが目に見えており、経済などで行う、経済安全保障で行うのが通例になりつつあります。

米国が経済安全保障という観点から、中国共産党が産業を保護するために、輸出企業に対して補助金を出したり、低賃金や強制労働や、先進国からの技術の剽窃で、コストを低減しているという事実があるので、中国に制裁を行うのは日本を含む同盟国には異論はないでしょう。

しかし、中国だけではなく、同盟国に対しても保護主義的な政策を打ち出せば、同盟にひびが入るのは必至です。これは、米国にとっても、同盟国にとっても得策ではありません。そのことを日本は、バイデン政権に強く訴えるべきです。

ただし、自由貿易を阻害しないための、国際ルールの再徹底はすべきとは思います。たとえば、TPPのルールをWTOのルールに盛り込むなどもその一つの方法だと思います。これは、以前もこのブログに掲載したとことがあります。国際ルールを破り続けてきた中国が制裁を受けるのは、自業自得です。

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2021年8月6日金曜日

感染拡大の原因は五輪ではない 1年以上遅れの法改正議論より医療体制の供給拡大をなぜ言わない ―【私の論評】医師会の医療体制の供給拡大反対は、「加計問題」と本質は同じ(゚д゚)!

感染拡大の原因は五輪ではない 1年以上遅れの法改正議論より医療体制の供給拡大をなぜ言わない 
高橋洋一 日本の解き方

札幌大通り公園の五輪モニュメントの前で記念撮影する女性たち

 東京五輪が開催されているが、東京都をはじめ各地で新型コロナウイルスの感染者が増えている。「五輪の開催で気が緩んだ」「五輪関係者の入国で水際対策が甘かった」などの指摘もあるが、現状の感染拡大と五輪は関係があるのか。

 「気が緩んだ」というのは、客観的に計測しようがないので検証不能だが、「五輪関係者の入国のため」というのは、五輪関係者に明確なクラスター(感染者集団)が発生しておらず、関係はないといえるだろう。

 現在の感染拡大は日本だけでなく、世界でも起きているので、感染力の強い変異株によるものと考えられる。ちなみに、昨年1月からこれまで人口当たり新規感染者数について、日本と先進7カ国(G7)の相関係数(1が最大)をとると、0・35~0・68となっており、日本の新規感染者数は世界とかなりの程度連動している。

 五輪期間といっても、感染傾向は従来通りであり、特に五輪の影響とは思えない。なお、G7では、日本はカナダ、ドイツとともに人口当たり新規感染者数、死亡者数は低位である。

 世界で新規感染者数を増やしているのはデルタ株である。実際、東京の新規感染者も大半はデルタ株となっている。感染力が従来のものに比べて高いのは事実であるが、感染症ウイルスの経験則によれば、感染力の高いものは致死力は反比例するようにそれほど高くない。

 デルタ株の致死率はまだデータではっきりと検証されていないが、従来のワクチンはほとんど同様に効果があることなどを基礎知識として理解しておいたほうがいいだろう。

 そうした中、政府は8月2日から31日まで、埼玉、千葉、神奈川、大阪の4府県に新たに緊急事態宣言を発令した。対象はすでに発令中の東京都と沖縄県を合わせ6都府県に拡大された。さらに、北海道、京都、兵庫、石川、福岡の5道府県は蔓延(まんえん)防止等重点措置を新たに適用した。

 期限を8月31日としたのは、同月末までに全人口のうちワクチンを2回打った人の割合が4~5割に達すると見込まれているためで、現役世代のワクチン接種を見極めたいとしている。

 7月30日の政府分科会において、欧米のロックダウン(都市封鎖)のような強い措置を実施するための法改正も必要との意見が出たという。今後の検討課題だというが、こうした意見は1年以上前に言うべきだった。

 ちなみに、こうした議論は、過去のインフルエンザ等特別措置法の制定時にも議論された。私権は憲法上認められているので、それを制限するには憲法に緊急事態宣言の根拠規定がないとできないということだった。こうした過去の経緯も無視して、再び議論するつもりなのだろうか。

 そんな議論より、医療機関がコロナ患者を受け入れる病床の確保に必要な費用などに充てる「緊急包括支援交付金」約1兆5000億円の予算措置の未消化などを議論すべきではないか。分科会は、医療体制の供給拡大について何も言わずに、社会経済活動を抑制することしか言わないのか。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】医師会の医療体制の供給拡大反対は、「加計問題」と本質は同じ(゚д゚)!

医師会は医療体制の供給拡大に反対です。なぜなら、そのようなことをすれば、既得権益が脅かされるからです。その意味では、本質は数年前に取り沙汰された「加計問題」とその本質は同じです。

ただし、「加計問題」とはいっても、マスコミが報道したり、一部野党による倒閣のための問題指摘などとは全く異なります。

前川喜平・前文科省事務次官(右)の主張と真っ向から対立する証言をした、加戸守行・前愛媛県知事(左)。

学校法人「加計学園」の獣医学部新設問題で、柳瀬唯夫元首相秘書官が学園関係者と首相官邸で計3回会っていたという平成27(西暦2015)年4月前後には、新設に反対する日本獣医師会が閣僚らに猛烈なロビー活動を展開していた時期と重なっています。学園側による柳瀬氏らへの面会要請は、活発化した獣医師会の動きへの対抗策だったとみるのが自然でした。

問題の本質は、獣医学部新設を目指す「愛媛県、今治市、加計学園、内閣府」と、新規参入を阻む「日本獣医師会、文部科学省」による権力闘争です。

何しろ獣医師会の会議録に、関連政治団体「日本獣医師政治連盟」の北村直人委員長が、衆院議員当選同期の石破茂地方創生担当相(当時)に複数回面会し、働きかけていた様子が詳細に記されていたのです。

会議録によると26(2014)年10月3日、国家戦略特区での獣医学部新設を目指していた新潟市について、北村氏は「石破大臣にお会いし」「本件が特区になじまないことを申し上げた」とされていました。27(2015)年6月22日には、北村氏はこう述べていました。 

「蔵内(勇夫獣医師会)会長は麻生(太郎)財務大臣、下村(博文)文部科学大臣へ、担当大臣である石破大臣へは私が折衝を続けている」「(獣医学部新設に)一つ大きな壁を作っていただいている状況である」

その後、27(2015)年6月30日に安倍晋三内閣は獣医学部新設に関わる厳しい4条件、いわゆる「石破4条件」を閣議決定しました。9月10日の獣医師会会議で北村氏は、石破氏が「誰がどのような形でも現実的に参入は困難という文言にした」と述べたと紹介していました。


そうして当時柳瀬氏の「首相に面会を報告しなかった」との証言が疑問視されていましたが、ならば安倍内閣の閣僚で、獣医師会から100万円の政治献金を受けたことがある石破氏は、北村氏との面会をいちいち首相に報告していたのでしょうか。なぜ加計学園よりはるかに大々的な獣医師会による働きかけは、一切問われなかったのでしょうか。

同じく獣医師会から100万円の政治献金を受けた国民民主党の玉木雄一郎共同代表は2018年8月14日の衆院予算委員会で、官僚が首相を守るために仕事をしていると決めつけてこう主張しました。

「優秀な秘書官をはじめとした官僚が、悪知恵をめぐらせているのではないか。本来もっと天下国家のことに使うべき頭を、そんなことに使っている」


野党議員こそ、倒閣ばかりでなく、もっと日本のためになる違う頭の使い方があるのではないかと痛感させられたものです。

今回のコロナ禍に対応するための病床の増床なども似たようなところがあります。結局病床拡大を医師会側が、自分たちへの既得権益の脅威とみなし、政治家、官僚などに対する働きかけがあったものとみるのが、自然でしょう。

結局1年以上たっても、病床の大幅な増床はみられず、その範囲の中で医療体制を考えるといったことがなされ続けているようです。

記者会見する日本医師会の中川俊男会長=昨年12月23日午後、東京都内

公益社団法人日本医師会(にほんいしかい、英: Japan Medical Association、英略称: JMA)は、日本の医師であることを入会の要件とする職能団体です。入会は任意であり、組織率は、2019年12月1日時点で172,763人(有資格者の約5割強)です。

法人の種類としては公益社団法人ですが、開業医らが運営する利益団体としての性格をもちます。世界医師会に加盟し、本部は東京都文京区本駒込2-28-16に所在します(日本医師会館)。略称は日医(にちい)。都道府県医師会、全国に約890存在する郡市区医師会は、いずれも独立した公益法人ですが、日本医師会の下部組織です。本会・日本歯科医師会・日本薬剤師会を合わせて「三師会」と称します。

医師会は、開業医のための団体と考えて良いでしょう。公立病院の勤務医などの利益を代表するものではないといえるでしょう。

この医師会は、開業医の利益を守るため、政治家、官僚などに働きかけを行っているのは間違いないでしょう。今回も結局、他の国にみられるような、バラックのコロナ病棟を建てる、公立病院などで、コロナ病棟を設けるなど、あまり目立った形で、大掛かりになされず、「緊急包括支援交付金」約1兆5000億円の予算措置の未消化などの問題に発展しているのは、こうした経緯があるからでしょう。

そもそも、医師会には既得権益を守るため、従来から医療体制の供給拡大に反対する傾向がありました。

そのため、公正取引委員会は、「医師会の活動に関する独占禁止法上の指針」を定めています。これは、昭和56年に定められ、平成22年に改正しています。

詳細は、以下のサイトをご覧になってください。
医師会の活動に関する独占禁止法上の指針
詳細は、この記事をごらんいただくものとして、以下にその趣旨だけをこの記事から引用します。
 医師会、特に地区医師会の活動については、いわゆる医療機関の適正配置に関する活動等に関し、独占禁止法違反とされた事例もあり、当委員会は、医師会の活動に関してアンケート調査を実施し、その実態の把握に努めたのを機に、今般、医師会の活動と独占禁止法との関係についての考え方を、活動指針として取りまとめた。この活動指針は、医師会の諸活動に対する独占禁止法の適用について当委員会の考え方を参考例を挙げつつ、具体的に明らかにすることにより、同法に抵触することとなる活動を未然に防止しようとするものである。
 なお、医師会の具体的な活動が、独占禁止法に抵触するおそれがあるか否かについては個々の事案ごとに判断を要する場合も多いと考えられるので、かかる場合には、当委員会に設けられた一般相談、あるいは、事前相談制度により個別の相談に応じることとした。
高橋洋一氏は、上の記事の最後で「分科会は、医療体制の供給拡大について何も言わずに、社会経済活動を抑制することしか言わないのか」と述べていますが、まさにそのとおりであると思います。 それどころか、オリンピック中止まで提言するというありさまです。

医療体制の拡大には、触れずに、社会経済活動を抑制することしか言わないことには、問題がありすぎます。感染者数だけが減れば良いという考え方には、賛同できません。インフルエンザでいちいち社会が麻痺したとしたらとんでないことになります。

コロナに関しても、昨年コロナ感染がはじまったばかりのときなら、正体がわからず、とにかく感染者数を低減することに注力することは理解できますし、それは正しかったと思います。あの時点で、コロナは風邪やインフルエンザと同じと、言い切ることには問題があったと思います。

ただし、現在では、コロナ感染症について知見がかなり深まり、何よりもワクチンの接種が進んでいます。現在では、コロナ感染症に対する昨年までの考え方は捨て去り、新たな取組をすべきです。

今後、わたしたちは、コロナウイルスが今後長い間にわたって撲滅することはできないと見るべきです。そうなると、多少感染者が増えたくらいでは、社会・経済が機能しなくなるようでは、強い社会とはいえません。

やはり、感染者が増えたにしても、社会・経済が簡単には機能しなくなることのない強靭な社会を目指すべきです。そのためには、「医療体制の供給拡大」に関しての論議は避けて通れません。

医師会がどこまでも、反対するというなら、公取委が動いても良いのではないかと思います。今後も長きにわたって、コロナに社会・経済が翻弄され続けることがあってはならないです。

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